No.00157 美しきお守り

瘴気から香りで身を守るためのヴィクトリアンの美しいポマンダー・ペンダント

ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー
『美しきお守り』
ポマンダー ペンダント

イギリス 19世紀後期
トルコ石、9ctゴールド
直径 1,7cm
重量 5g
SOLD

ボール型で透かしのペンダントと言えばポマンダーですね。
エレガントな透かしのデザインと、控えめにあしらわれたトルコ石の涼やかな色の組み合わせがとてもセンスの良いポマンダーです。今でもパチッと気持ち良くきっちり開閉できるので、安心してポマンダーとしてお使い頂けます♪
実物大
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

 

ヨーロッパの香りにまつわるアイテム

ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー

香りのアイテムと言えばヴィネグレットや香水瓶があり、どちらも人気がありますが、透かしが美しいポマンダーも人気があって市場にはなかなか出てこないため、ご紹介できるレベルの物を仕入れるのは難しいのです。

見た目が美しい上に、優雅に香りを愛でることができるジュエリーは、使っていて楽しいですよね♪

世界一高価な栗 ペンダント アンティークジュエリー マロン ヴィネグレット 世界一高価な栗 ペンダント アンティークジュエリー マロン ヴィネグレット 『世界一高価な栗』
ヴィネグレット(気付け薬入れ)
フランス 1830年頃
SOLD

気絶した"か弱いご婦人"をエレガントに介抱するための、モテる貴族の重要アイテムです♪
ジョージアン バラの一輪挿し アンティークジュエリー 香水瓶 ルビー のカメオ エメラルド ブローチ ジョージアン バラの一輪挿し アンティークジュエリー 香水瓶 ルビー のカメオ エメラルド ブローチ 『一輪挿しの薔薇』
香水瓶 ブローチ
イギリス 1820年頃
SOLD

蓋を開けていつでも香水が使えます♪

病気をもたらす『瘴気』

ポマンダーの歴史は伝染病と関係があります。

ポマンダーは、14世紀に特にヨーロッパで猛威をふるったペストから身を守るために生まれました。

ペストを象徴する骸骨が死を振りまく『死の勝利』作者不明

古代から19世紀頃まで、悪い空気「瘴気」を吸い込むことで病気にかかると考えられていました。

瘴気は沼地などの汚れた水から発生すると考えられ、霧状となった物が街にやってきて、それを吸い込むと体調を崩すというものです。呪いや祟りなどとは異なる、物理的な物とみなされてきました。

PD『医師シュナーベル・フォン・ローム』(パウル・フュルスト 1656年)

瘴気は腐った嫌な臭いの空気です。対抗するためには良い香りが有効と考えられました。当時としてはれっきとした科学です。

左はペスト医師の版画で、『医師シュナーベル・フォン・ローム』はドイツ語でローマの嘴の医者という意味です。病に倒れた人を癒してくれる医師は偉大な存在ですが、14世紀流行の中心地だったイタリア北部では住民がほとんど全滅したとも言われる恐ろしい状況下、赴く医師も死と隣り合わせです。

鳥人間のような不気味な出で立ちなので、ペスト医師自体が見たら泣いちゃいそうなくらい怖いですが、これは当時の理論に基づいた防護服なのです。

嘴に見えるのは長いマスクで、悪性の空気に対抗するための「良い香り」のする物が詰められていました。例えばアンバーグリス、バームミント、ショウノウ、クローブ、アヘンチンキ、没薬、バラの花びら、エゴノキなどです。

瘴気から身を守るためのポマンダー

PD『クラリッサ・ストロッツィの肖像』(ティツィアーノ 1542年)

左は世界で最も美しい子供の肖像画の1つとも言われる、クラリッサ・ストロッツィが2歳の時の肖像画です。

ストロッツィ家はメディチ家と熾烈な権力争いを繰り返してきたイタリアのフィレンツェの名門中の名門です。

お金持ちの貴族は幼少期から高価なジュエリーをつけるのですが、クラリッサの腰から下がっているジュエリーにご注目下さい。

クラリッサのポマンダー(1542年)

クラリッサの腰から下がっているのはポマンダーです。

裕福な王侯貴族は、金や銀で作った穴の開いた丸い容器に、良い香りを放つハーブやスパイス、香料などを詰め、それを身に付けることで怖い病気、すなわち瘴気から身を守っていたのです。

病気だけでなく悪魔よけとしてのお守りの意味もあり、美しい装飾が施されています。クラリッサのポマンダーも、さすがルネサンス期の上流階級の物と言える美しさですね。

エリザベス一世 イギリス 女王 ポマンダー『ポマンダーを持つエリザベス女王(1533-1603年)』(1575年頃)作者不明 PD『Jan Gerritsz. van Egmond(?-1523年)』(1518年頃)Jacob Cornelisz van Oostsanen作

身を守るためのアイテムなので子供や女性だけでなく、男性ももちろん身につけていました。十字架を持ってただ神にすがるだけでなく、これが怖い病気への具体的な対策でもあったのです。ポマンダーから放たれる良い香りが、悪い空気へのバリアーとなっていたイメージです。

貴族 ポマンダー 病気 瘴気 お守り ペスト 貴族 ポマンダー 病気 瘴気 お守り ペスト

手に持ったり、女性はガードルから下げるなどして使っていたようです。

貴族の物はさすがに実用としてだけでなく、細工も凝っていて美しいですね。

フルーツ・ポマンダー

フルーツ・ポマンダー "Orange pomander" ©Wendy Piersall(24 September 2009)/Adapted/CC BY 2.0

身を守るための必須アイテム『ポマンダー』ですが、金や銀や宝石で彩られた美しいポマンダーは、当然ながら限られた王侯貴族だけが持てるものでした。

しかしながら瘴気は身分に関係なく襲いかかります。香りで身を守るため、フルーツ・ポマンダーという物も古くから作られてきました。

柑橘系の果物にクローブ(丁字)を刺し、シナモンをふって1ヶ月ほど乾燥させると出来上がりです。良い香りを放つ丸いボールになります。お肉料理やチャイなどの香辛料として古くから利用されているクローブには殺菌、防腐作用があり、クローブを刺しておけばフルーツは腐らないのだそうです。

ヘンリー8世 トマス・ウルジー ジョン・ギルバート 枢機卿 イギリス『イングランド王ヘンリー8世とトマス・ウルジー枢機卿(1475-1530年)』1888年、ジョン・ギルバート作

現代まで伝わるこのフルーツポマンダーの原型を作ったのは、ヘンリー8世の時代の枢機卿トマス・ウルジーです。リンゴをくり抜き、スポンジに染み込ませた香酢を詰めたことが始まりです。

トマス・ウルジー枢機卿は、ヘンリー8世治世の初期に信任を得て内政・外交に辣腕を振るった人物で、貧しい平民対象に無料の法律相談やあらゆる相談陳情に応じたと言われています。

祈りのために貧民窟にも出入りしていた彼にとっては、瘴気から身を守るための香りのアイテムが不可欠だったのです。

現代でもイギリスでは幸運のお守りとしてクリスマスの頃に作られ、新年の飾りに使われています。クローブは抗菌防腐作用が本当に強く、完全に乾いたフルーツポマンダーは何年も香りを楽しむことができるそうです。

19世紀のロンドンを襲った瘴気

現代のテムズ川© Cody Logan / Wikimedia Commons / "River Thames from the London Eye, August 2014" / CC BY-SA 4.0

これは現代のテムズ川です。汚いですね〜。

でも、19世紀のテムズ川はこんなものではなかったのです。まさに瘴気の発生源!!

19世紀に入るまでロンドンでは生活排水は路上に流されていました。ところが人口が増えると街にゴミや生活排水が溢れ衛生状態が悪化したため、19世紀初頭に汚物を直接テムズ川に遺棄する下水道システムが整備されました。街中は綺麗になったものの、当時のロンドンは人口400万人を超える世界一の大都市で、その全ての汚染物質がテムズ川に流し込まれたのです。「どうせ海に流れるから大丈夫!」という思想だったようですが、当然自然の自浄能力を超えています。

PD『無言の追いはぎ』(パンチ 1858年)瘴気に包まれたテムズ川で船を漕ぐ死神

そんなロンドンを何度も襲ったのが瘴気です。具体的にはコレラの流行です。

1831年にイギリスで初めて発生して以来、定期的に都市を荒廃させてきました。1848〜1849年には1万4千人以上が死亡し、1853〜1854年にはさらに1万人が死亡しています。

コレラは水質汚染が原因でした。恐ろしいことに当時の人たちは臭いテムズ川には近づかなくなったものの、引き続きその水を飲んでいたのです。

疫学の祖ジョン・スノウ医師(1813-1858年)

疫学の祖と言われるジョン・スノウ医師が1849年に、コレラは空気感染ではなくテムズ川に原因があると結論づけた論文を発表しました。

しかしながら、病気は"悪い空気"が原因と信じていた当時の人々からは受け入れてもらえず、1858年に失意のうちに他界しました。

その1858年の夏、最高気温が48度にも達する中、ロンドンを最凶の大悪臭が襲ったのです。

ヴィクトリア女王とアルバート王配は毎年恒例のテムズ川クルーズをあまりの臭さで乗船後数分で飛び降りたほどでしたし、国会も停止してしまうなど、政治経済にまで大きな影響が出ました。

この歴史的事件を経てロンドンに上下水道が整備されることになったのです。

 

ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー

現代人の感覚で見ると、透かしの美しい涼やかでエレガントなペンダントという感じですが、このペンダントが作られた当時は病気や悪魔から身を守るための大切なアイテムという意味もあったでしょうね。まだそういう時代だったのです。

デザインもとても美しいものです。単なる身を守るための道具とは思えません。美しいものには魔を除け祓う力があるという考え方が人間の根幹に在り、世界共通の認識として存在するのかもしれませんね。綺麗であればあるほど、魔を打ち破る力が強いのです!♪

ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー
開閉もスムーズできちんと閉まります。
ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー

何も入れずに使っても良いですし、香りがする物を入れて使うのも楽しそうですね。

当時と同じようにアンバーグリスやムスクの破片、ハーブなどを詰めて使うこともできます。

もっと気軽に脱脂綿やスポンジ、無垢の木など、細かい孔がある素材に香水やアロマオイルを染み込ませて入れて使うこともできます。

直接身体に香水を付けるのとは違った楽しみ方が、優雅で楽しいですね♪

 

ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー

ペンダントとしても素敵ですし、ブレスレットやバッグにつけてチャームとして使うのも楽しそうです♪

撮影に使っているような、作りが良いアンティークのゴールドチェーンをご希望の方には別売でお付け致します。いくつかご用意がございますので、ご希望の方には価格等をお知らせ致します(チェーンのみの販売はしておりません)。現代の18ctゴールドチェーンをご希望の方には実費でお付け致します。高級シルクコードをご希望の方にはサービスでお付け致します。

ポマンダー ペンダント アンティークジュエリー ターコイズ ヴィクトリアン お守り

ロングのゴールドチェーンに下げても使いやすいと思います。こちらのシンプルなチェーンは単品でもご購入頂けます。

No.00125
9ct ロング・ゴールドチェーン
イギリス 19世紀後期
重量 10.8g
スイベル式金具を除いた長さ 145cm
SOLD