No.00144 この世で最も贅沢な虫籠

アンティークジュエリー 虫かご コオロギ入れ カーブドアイボリー 18th

リーン、リーン・・・

心洗われる美しいものは皆さんお好きですよね。日本人は、世界一繊細で豊かな美意識を持っています。古代ギリシャのアリストテレスの時代から分類されている通り、人間には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感を使って色々なものを感じることができます。視覚的なものに偏りがちな現代社会ですが、日本には古来より虫の音を楽しむ文化があり、その美しい音色に季節を感じ、心癒された経験がある方も多いと思います。ご紹介するのは、その虫の音を聞くために作られた、何とも雅で美しい象牙の小箱です。

 

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←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比率が分かります

『この世で最も贅沢な虫籠』
カーブドアイボリー 虫籠

フランス 1770〜1780年頃
象牙
高さ6,8cm 円筒の直径2,7cm
¥280,000-(税込8%)

これこそ人の技、それとも神の技・・
ヨーロッパで歴史上最も職人による美術工芸が評価され、人の手で作られたとは到底思えないマイクロ彫刻画などの超細密な芸術作品が生み出された、まさに特別な時代に作られたカーブドアイボリーの虫籠です。通常ヨーロッパには虫の音を愛でる文化はないため、この作品は例外中の例外的存在であり、まさにミュージアム・ピースと言える作品です!♪

日本における虫の音を楽しむ文化

万葉集

日本人にとって、虫の音を聞いて秋を感じるのは当たり前のように感覚的に馴染んでいる文化ですが、実はこの「虫の音を愛でる文化」はアジアの一部、具体的には中国と日本に限定されます。

その歴史は古く、少なくとも万葉集には「こおろぎ」を詠んだ歌が7首残されています。ここで言う「こおろぎ」は、鳴く虫の総称です。

「影草の生いたる野外やどの夕影に なく蟋蟀(こおろぎ)は聞けど飽かぬも」
少なくとも奈良時代からの文化ということですね。

現存する日本最古の和歌集:万葉集(759年以後)
平安時代 源氏物語 鈴虫の巻

平安時代になると、鳴く虫を籠に入れ声を楽しむ風流が貴族階級に流行しました。清少納言の『枕草子』には、「4種の鳴く虫が好ましい虫」として登場します。また、紫式部の『源氏物語』の「鈴虫の巻」には松虫を捕ってきて庭に放したり、鈴虫の声に興じながら酒宴を催したりする様子が書かれています。

京都 嵯峨野

貴族が京都の嵯峨野や鳥辺野で遊び、松虫や鈴虫を捕らえて籠に入れて宮中に献上する「虫選び」や、捕らえた虫を庭に放して声を楽しむ「野放ち」や、野に出て鳴き声を聞く「虫聞き」なども盛んに行われました。雅な遊びですね。

平安時代の貴族の日本人の美意識は驚くほど高く、女性も高い教養と知性感性がないと美しいと評価されませんから、結構大変だったかもしれません。でも、美しくあること自体が、心地よいものでもありますからね。皆が切磋琢磨して教養を磨き、高めあう。美しい時代です♪

今に残る嵯峨野の原野
江戸時代 虫の音

時代が下り、江戸時代になると庶民の間でも「鳴く虫文化」が流行し、江戸中期には「虫売り」という新しい商売も出てきました。虫の飼育技術が高度に発達し、越冬中の虫の卵を温めて、早期出荷する技術まで開発されています。初物が好き、誰より早く手に入れたい江戸っ子には高値で売れたようです。

日本の農産物もビニールハウスなど様々な技術を駆使して、旬以外でも夏野菜、冬野菜が手に入りますね。何でも研究熱心な日本人らしい話です。

当然ながら虫籠も、素朴な竹細工から、大名家で用いる蒔絵を施した超豪華なものまで、独自の発達を遂げていったようです。

虫籠 竹細工 蒔絵 日本

「虫売り」は明治になっても隆盛を極め、19世紀末には販売される虫の種類が12種類にもなったそうです。昭和になってもそれは続き、虫を売る露店や行商人の姿が夏の風物詩となっていました。やがて戦争が始まり、戦災で一度虫問屋が全滅してしまいますが、焦土からいち早く復活したのが虫売りでした。戦後、野生の虫を捕ってきて、銀座などの盛り場で売るようになったのだそうです。衣食住にも窮迫した状況下、なお鳴く虫に心を寄せる日本人の風流な心。こういう所をみて、外国人は日本の素晴らしさに感動し褒め称えるのです。

しかしながら高度経済成長を境に、ペットショップの主役も鳴く虫からカブトムシやクワガタムシなどに置き換わってしまい、家庭で鈴虫などを飼育する文化もすっかり寂れてしまいました。子供たちの遊びも家庭用ゲーム機の登場などで、野外から屋内に変貌してしまい、今や殆ど虫取りをした記憶がない人が親世代です。現代でも夏になると鳴く虫を売るお店があり、左のような、伝統的な竹細工と漆塗りの虫籠も細々と作られています。時代の流れとは言え、やはり寂しさはありますね・・

中国における虫の音を楽しむ文化

中国 虫籠 アンティーク 骨董

ルーツが同じか否かははっきりしませんが、中国にも古くから虫を聞く文化があります。少なくとも唐の時代(8〜9世紀)から、宮廷の女性たちが鳴く虫を飼って声を楽しんでいたそうです。

左は吊り下げ型の虫籠で、小窓から虫を出し入れできるようになっています。

中国 虫売り 行商

今ではすっかり衰退してしまっている日本と異なり、現代でも人気が高く、小さな籠に入れて売り歩く行商人の姿を各地で見ることができます。

中国では小型の鳴く虫を小さい虫籠に入れ、ポケットに入れて持ち歩き、歩きながら虫の声を楽しむ習慣まであるそうです。これは日本にもない習慣です。

骨董 カーブドアイボリー 虫籠 骨董 カーブドアイボリー 虫籠

日本では竹籠に入れるのが主でしたが、中国では瓢箪や木製の密閉容器が用いられることが多いようです。

中には贅を尽くした虫籠も存在し、陶器や木彫、カーブド・アイボリーまで様々あります。

骨董 カーブドアイボリー 虫籠 骨董 カーブドアイボリー 虫籠

ご紹介している虫籠がなぜ存在するのか不思議なのです。
虫の声を愛でる中国人が、アイボリーの虫籠に虫を入れてヨーロッパに行き、声を楽しむ様子を見てフランス人が作ったのか・・。

それとも中国に来たフランス人が、現地でその様子を見て、国に帰ってから作らせたのか・・。

 

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日本人や中国人は、虫の鳴く音を「声」と知覚するのですが、欧米人にとってあの音は元来ノイズにしか聞こえないそうなのです。

だから、普通に考えると虫の声を楽しむための虫籠は、ヨーロッパでは存在し得ないのです。

しかしながらモチーフや作風などから、どう考えてもこの作品は18世紀後期にフランスで作られたものなのです。

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これこそ人の技、それとも神の技?
驚異のカービングです!!

このような象牙の超細密彫りは、こういう作品が絵画よりも高く評価された"特別の時代"だったから作ることが出来たのです!

この時代、マイクロカーブド・アイボリーはお城と同じ価値があったと言われています。まさに王族しか持ち得ない宝物だったのです。

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この象牙の虫籠は立体物なだけに、平面的なカーブドアイボリーのブローチなどよりも数段難しい彫りなのです!

作り方としては、まず象牙を円筒形のブロックに彫り、そこに浮き彫りで子供や模様を彫り、くり抜いて中を空洞にしてから透かしを彫っているのです!!

一カ所失敗してしまったら全てが台無しです。どれだけの精神力と時間と技術が要ることでしょう?とても人間技とは思えません。どれだけ大変な作業か、想像してみて下さい。高い技術を持つ職人が、十分に時間をかけて作ることができた時代だったからこそ生まれた芸術なのです。

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虫の音を聞くための穴も、美しい模様で彫られています。ここにそっと耳を当てると、中から美しい虫の声が聞こえてくるのです。なんと雅で愉しいことでしょう!♪

 

そう、この虫籠は、鳴き声を楽しむ時にだけコオロギを中に入れて、手に持ち耳元にあてて聞くための虫籠なのです。コオロギは狭い所に閉じ込めるとよく鳴くのだそうです。

象牙細密彫り 虫籠 アンティーク
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密やかな鳴き声を楽しむ為の、贅沢極まりない虫籠・・。どんなお姫様が使っていたのでしょうね。

今年はこの贅沢な虫籠で、最高の虫の音色を楽しんでみませんか・・?


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