No.00178 エメラルド・グリーン

アールヌーボー ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー  トライアングルカット エメラルド 天然真珠

『エメラルド・グリーン』
アールヌーヴォー ブローチ&ペンダント

フランス 1905〜1910年頃
トライアングル・カット エメラルド、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、ローズカットダイヤモンド、天然真珠、プラチナ&ゴールド
3,5cm×3,7cm
SOLD

見たことのないクリアで美しい色彩のエメラルドを、エメラルドとしては異例かつ超難度のトライアングルカットにした特別な作品です。アールヌーヴォーの作品にも関わらずトライアングルカットを取り入れるという、時代を20年近くも先取りしたデザイン感覚の素晴らしさ、そして特別な石に相応しい素晴らしい作りは、見る者に深い感銘を与えてくれるのです♪

アールヌーボー ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー  トライアングルカット エメラルド 天然真珠
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります
トライアングルカット・エメラルド ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

アールヌーヴォーならではの優美な曲線と植物のデザインですが、ダイヤモンドのセッティングがプラチナにゴールドバックなので、アールヌーヴォーでも後期の作品だと分かります。

<例外的な石の使い方>

アールヌーヴォーのトライアングルカット・エメラルド

アールヌーボー ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

この作品の一番の見所は、トライアングルカットのエメラルドが使われていることです。

優美な曲線がデザイン状の主役であるアールヌーヴォーのジュエリーでは、トライアングルカットの石をデザインに取り入れることは普通はあり得ないことで、43年間でこれ以外では見たことがないくらい例外的なものです。

アールデコのトライアングルカット

トライアングルカット サファイア アールデコ リング アンティークジュエリー ルネサンス トライアングルカット サファイア アールデコ リング アンティークジュエリー ルネサンス カボションカット
アールデコ トライアングル・サファイア リング
イギリス 1920年頃
SOLD
アールデコ カボッション・サファイア リング
イギリス又はヨーロッパ 1920年頃
SOLD
トライアングルカットの石を積極的に使うようになるのは、アールデコ後期の1930年代です。『至高のレースワーク』でもご説明した通り、1929年のBlack Thursday、所謂ウォール街大暴落に端を発して始まった世界恐慌もあって、HERITAGEで扱うことができるレベルのアンティークジュエリーは極端に少なくなります。上の2つは1920年代、アールデコ初期のハイクラスのリングです。いずれもトライアングルカット・サファイアが脇石として使われ、デザイン上の大きなポイントとなっています。ハイクラスのジュエリーならではの最先端のデザインと高度な技術で作られています。

1910年代のトライアングルカット

トライアングルカット サファイア シノワズリー ブローチ アンティークジュエリー ルネサンス リバースインタリオ

左はアールデコより少し古い、1910年代における時代の最先端の感性と技術を詰め込み、お金をかけて作られた贅沢な作品です。

リバースインタリオもシノワズリーも通常はアールデコ期の1920年代が全盛ですが、このブローチは裏側にゴールドが使われた1910年代の作品です。1907年に合成が成功したばかりの、当時とても価値が高かったシンセティックサファイアや、同じく天然真珠が史上最も価値が高かった時代において天然真珠が贅沢に使用されています。ブローチピンも当時の最新のストッパーが付いています。そういうあらゆる最先端を集めた作品に、トライアングルカットが使用されています。

シノワズリー リバースインタリオ ブローチ
ヨーロッパ 1910年頃 
SOLD

エメラルドの特徴

エメラルド 原石

アールデコ期前後のジュエリー3作品に使用されていたトライアングルカットの宝石は、全てサファイアでした。

ルビーはサファイアより稀少なため、無駄が多いカットは基本的に避けられます。また、暖色系のルビーよりは寒色系のサファイアの方が、シャープな印象の三角形のカットとして好まれた可能性があります。

それではエメラルドでトライアングルカットを殆ど見ないのはなぜでしょうか。

エメラルドの原石
【参考】海外某所のグレーディング
実はエメラルドはインクリュージョン(内包物)が多いことで有名な石で、宝石の中で一番インクリュージョンが多いとも言われています。中央宝石研究所(CGL)によると、現代の基準においてもエメラルドの場合は、その緑色の深さが十分であれば内包物の存在で評価を落とすというよりもその色調により高い評価が与えられている宝石なのだそうです。
エメラルドのインクリュージョンの種類 GIA資料

エメラルドは産地によってインクリュージョンが異なります。インクリュージョンは産地を明らかにするための重要な情報とされており、特に高品質なものほどインクリュージョンから産地を特定できる確率が高いのだそうです。石のブランド的評価だけが重要な石マニアではないので、正直その辺りはどうでも良いのですが、これが古い時代からオイルを使った処理が存在した理由でもあります。

【参考】エメラルドがメインストーンの高級リング

エメラルドがメインストーンの高そうな指輪をいくつか並べてみましたが、完全無欠の石は1つとして無く、それぞれに個性あるインクリュージョンが存在します。これらがオイル含浸されたものかどうかは分かりません。古くから存在し、今でも一番使われているのがシダーウッドオイルという天然のオイルを使う方法です。そうは言っても、オイル含浸によるエンハンスメントが本格化するのは戦後です。良質な石が採れなくなってきたにも関わらず、増加する一般大衆の需要により需給バランスが崩れたため、屑石を処理して無理矢理もっともらしい見た目にしてから販売するようになったのです。

エメラルドのオイル含浸処理

エメラルドはカットすると研磨した表面から液体のインクリュージョンが流出することで、内部に空気が入り込んでしまい、透明感がなくなります。 隙間を埋めることを目的にオイルを含浸させるのですが、あまりにも屑石を使っている場合、消費者が購入した後にオイルが抜け、まさかそんな処理があるとは知らない消費者から「エメラルドの色が自然に薄くなってしまった。」というクレームもあったようです。
オイル含浸前 オイル含浸後

1980年代には簡単には流れでない、エポキシ樹脂を使って含浸する方法が急速に普及しました。

エンジニアの方ならピンと来たと思いますが、右のボトルは硬化剤です。2種類の液体を反応させることで固めるタイプですね。実際の現場では複雑な調合を行って、よりエメラルドに屈折率が近く(=内包物が目立たなくする)、流れ出にくい物を使用したりもしているそうです。

今ではUV硬化型接着剤も開発されていますし、樹脂自体を着色することで、より含浸する石をより鮮やかに仕上げる技術も存在します。

『オプティコン』オイル含浸用エポキシ樹脂

左は山梨県産業技術センターの論文「Analisis of the State of Filling of the Emerald by Spectroscopy」からの抜粋です。

ラマン分光法を使ってエメラルドの状態状態を解析する研究です。1600cm-1付近の特徴的なピークが判別に有効だそうです。結局ジュエリーという存在が何なのかを立ち返って考えると、樹脂の開発と言い、こういう研究と言い、私にはどうしても本末転倒な物に思えてしまいます。

山梨県産業技術センターの論文より

現代では含浸処理が当たり前過ぎて、処理された石でも「天然」とすることが認められています。

「基準」なんて物は、市場を支配したい人達の都合の良いように定められ、都合が悪くなればいくらでも言い訳を付けて簡単に変更されてしまうようなくだらないものなのです。

シダーウッドとオイル
【参考】天然と認められた含浸処理済みのエメラルドの宝石鑑別書

ご参考までに、天然エメラルドと認められた石の鑑別書を掲載します。鉱物種名:天然ベリル、宝石名:エメラルドと掲載された直下に、読めないような小さな文字で「透明度の改善を目的とした無色透明物の含浸が行われています」との記載があるのが見えますでしょうか。「基準」に沿っているので間違いでも何でもありませんが、性善説で業界を信じ切っている消費者がこの鑑別書を見れば、大半の人が「一切処理されていない石」、つまり「加熱処理もオイル処理もされていない石」と誤認してしまうのではないのでしょうか。性善説で考える人は信じがたいと思いますが、知れば知るほど現代ジュエリーで優れた物を買うことは不可能ということが分かります。でも、自分で知識を得たり自分の感性(物差し)で判断するのが面倒な、一部の思考停止した消費者にとっては「基準」の存在は楽で都合が良いため、どうしてもこういう構図はなくなりません。

まあそれはさておき、私は鑑別された石があまりにも汚らしくて驚きました。こんな小汚い石にすら、含浸処理してあるのですね。しかも「無色透明物」としか記載されていないので、鑑別書を見ても使われたのがオイルなのか樹脂なのかすら分かりません。

含浸処理されていても「天然」と表記されてしまうので、消費者としても選びようがないですよね。

一見綺麗に見えるのに極端に安いエメラルドは、極端にオイル処理されている可能性があるので避けるようにしましょうとのことです。

しかも現代物はほぼ全て処理品なので、エメラルドは超音波洗浄しては駄目だそうです。オイルは紫外線で劣化したり、空気中の酸素でも酸化して劣化するので、100年も経ったら相当汚く劣化していると予測しています。

ちなみに既にエメラルドジュエリーをお持ちでも、お手持ちのサラダオイルなどにボチャっと浸けたりしても駄目です。

シダーウッドオイルと含浸処理前後のエメラルド

クラックと言っても大変細い隙間です。大気圧下でオイルに浸すだけではオイルは浸透しません。左のような真空引きできる専用の装置を使用します。減圧下で少し加熱し、オイルの粘性を低下させて浸透させます。何と科学的(笑)!!

サラリーマン時代にこういうターボポンプを使った真空装置を使い、2液硬化型のエポキシ樹脂で研究対象を充填し、固めてから断面研磨装置で断面作製して分析していた。このため、エメラルドの工業製品ぶりを知ってちょっと笑ってしまいました。装置やスペクトルを見ただけで何のなのかすぐに分かるのは、業界内で世界トップだった大企業の研究者だった、サラリーマン時代の経験に依るものです。意外にも昔の経験が役立っています(笑)

マイクロクラックを埋めるための充填装置

ちなみにもうお気づきだと思いますが、この含浸処理はパーフェクトなものではありません。あくまでも表面の隙間を埋める方法なので、内部のインクリュージョンにはアプローチできないのです。

だから「インクリュージョンがあっても価値にあまり影響しない」と言うのでしょう。将来、内部インクリュージョンの解決法が開発されたら、グレーディングの基準が変わると予想しています。古い石は無価値だから新しい物を買いなさいと・・(笑)

エメラルドのルース 左:含浸前、右:含浸後
クレオパトラ 古代エジプト 石灰石碑 ルーブル美術館

宝石業界の言い分としては、オイル処理は古代エジプトの時代から文章にも記載が見られるような伝統的な手法だからとのことです。

小川で綺麗な石を水の中から拾って、乾燥すると思ったほど綺麗ではなくてがっかりした記憶がある方もいらっしゃるかもしれません。表面が粗く傷だらけの石でも、湿らすと光沢ある美しい石に見えますが、古代のオイル処理はそれと同じ程度の物だったと推測しています。今回調査した範囲内では資料が集めきれなかったのですが、水だとすぐに乾燥してしまうので、油で表面を湿らせてエメラルドの傷を目立たなくしたのが真相だと思います。

言葉や表現だけ見るとあやうくごまかされてしまいそうですが、古来からの手法は真空装置や樹脂まで用いるようなやり方とは全くレベルが違います。ちなみに油を用いた場合、経時劣化や油の流出により、油を再注入する必要があるそうです。現代は普通にそういうサービスが提供されています。それくらい現代宝石は酷いのです。現代宝石は使い捨ての消耗品同様なので、100年後にどうなっていようと関係ない作りなのですが、すでに100年どころか10年ももたないレベルに来ているのかもしれません。

クレオパトラを描いた石灰石碑(紀元前51年)ルーブル美術館蔵

エメラルドのカット

これまでのご説明から、エメラルドのカットは容易ではないことが簡単にご想像いただけると思います。

インクリュージョンやクラックが多いということは、カットの途中で割れる危険性が高いということです。樹脂含浸して割れにくくした現代の価値のない加工品は別ですが、通常はエメラルドカットや左のような、なるべく割れたりしにくいカットが施されます。

アールヌーボー ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

このブローチのエメラルドは、ほぼ直角二等辺三角形にカットされています。鋭角は45度に仕上げてあります。それをさらに面取りしてあるのですから、大変驚異的です!

トライアングルカットの石を積極的に使うようになった1930年代を20年以上も先取りしたデザイン、そしてそれを横幅7mm近くもあるエメラルドで実現させた驚きの作品が、このアールヌーヴォーのブローチなのです。

アールヌーボー ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

明るく濃く鮮やかな緑色をしたエメラルドは、ぱっと見ただけで現代の基準で見ても上質で美しい石だと分かります。透明度の高いクリアな色合いとインクリュージョンの少なさはエメラルドとは思えないほどです。だからこそこの特別なカットを施すことができたのでしょう。

わずかにインクリュージョンが見えますが、100年以上に渡る使用でも問題ないことから、そこを起点にした破損などは心配する必要はないと思います。

養殖真珠もそうですが、不自然な処理は時間の経過と共に化けの皮が剥がれてきます。このエメラルドは100年以上経っても美しい色彩です。まあ、含浸が必要な亀裂が多い石だったらトライアングルカット自体が不可能だったでしょうね。

トライアングルカット・エメラルド ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

下げられたパーツには、3つのローズカット・ダイヤモンドがセットされています。上下のローズカット・ダイヤモンドは超極小サイズで、これほど小さな石をよく留められたものだと感服するばかりです。

何も付けないか、プラチナを削り出す手段もあったと思いますが、この部分がローズカット・ダイヤモンドだからこそ、パーツが揺れるたびにキラリと光ることで魅力が増しています。

プラチナにゴールドバックの繊細精緻なミルも、当時のハイクラスのジュエリーとして作られた証です。

トライアングルカット・エメラルド ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

美しい色をしたゴールドの優美な曲線は、それぞれの箇所で幅に変化が付けられています。

表面もフラットではなく、ヤスリで中央部を高くしてキリッとした完成度の高い仕上げにしてあります。

裏を見ると分かりやすいのですが、このブローチは金の厚みが十分にある贅沢な作りです。曲線が美しいブローチなので、柔らかい金線をニョロニョロっと編んで形作っているようにも見えますが、実際は厚い板から削りだしているということです。

これは使う金の量として贅沢なだけでなく、わざわざ削り出すという大変手間をかけた贅沢な作品であることに他なりません。

【参考】安物の中でもまだマシな方のアールヌーヴォーのブローチ(ピンは後で取り替えられた物)

アールヌーヴォーは大流行しただけあって、見るに堪えない安物も多く作られました。この参考のブローチは綺麗にカットされたガーネットや天然真珠が丁寧に留められてはいるのでまだマシな方ではあるのですが、それでもご紹介のブローチと比較するとその出来に雲泥の差があります。正面から見た時のスッキリしないゴールドの造形を見るだけでも明らかですが、裏側をご覧いただければ素人の方でも一目瞭然だと思います。

金が薄っぺらい上に裏側が凹んでいることがお分かりいただけると思いますが、これは裏側からの打ち出しで手早く作られているため、このような造形になっているのです。打ち出しで手早くおおまかな形状を作った後、グリフィンの顔やヌーヴォーの曲線も、手抜き作品に見合う適当な仕上げが施されているということです。ゴールドの量も形を作る際の手間と時間も節約できますが、ヤスリで丹念に仕上げた物と比べるとのっぺりしており、出来の悪さは明らかです。もちろん裏側が凹んでいるもの全てがそのような安い作りであるわけでもありません。厚い金の板を打ち出して大まかな形を作った後、丁寧にヤスリで仕上げて、裏側にまで彫金を施したようなハイクラスのアールヌーヴォー作品も存在します。頭でっかちの知識だけだと判断できないのが、アンティークジュエリーの面白さでもありますね〜♪

トライアングルカット・エメラルド ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー

2本の植物の茎と、下の曲線の立体交差も削り出しで作られています。一見して美しいと感じるこの気が利いたデザインの構想力に加えて、それを具現化できる高度な技量を持っていたのがこのブローチの作者なのです。

 

裏

裏の作りと仕上げの良さは群を抜く丁寧なもので、小さな石に至るまで裏の窓の開け方も完璧です。ブローチのピンがネジで外せるのもハイジュエリーとして作られた証で、この作品が如何に優れたアンティークジュエリーと言える物かを示しています。

ブローチのピンと受けはネジで外せますので、ペンダントとしても収まり良く使うことができます。ペンダントとして使う場合は専用のチェーンを、ブローチ上部左右の金具に引っ掛けて使います。ブローチに専用チェーンは付いておりませんが、別途費用にて制作することもできます。ご希望の場合は別途お見積もりをお出し致します。

 

アールヌーボー ブローチ&ペンダント アンティークジュエリー 稀代のクリアで美しい色を持つ特別なエメラルドが手に入り、時代を20年近くも先取りする特別優秀なデザイナーが危険を冒してまでトライアングルカットに挑戦し、成功したからこそ存在する特別な作品です。

アールヌーヴォー・ジュエリーは世の中に数多くありますが、これは他には存在し得ない珠玉の逸品なのです♪


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