No.00099 勿忘草をくわえる鳩

ヴィクトリアンに流行した忘れな草をくわえる鳩のゴールド・ブローチ

 

忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー 実物大
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります
『勿忘草をくわえる鳩』
鳩 ゴールド ブローチ

イギリス 1830年〜1840年頃
ルビー、トルコ石、2カラー・ハイキャラットゴールド(15〜18ct)
5,1cm×3,9cm 重量7,9g
SOLD

躍動感あふれる素晴らしい造形と、2カラーゴールドと繊細な彫金による黄金の鳩は、ジョージアン末期からヴィクトリア時代初期ならではの出来映えです!!♪

 

忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー

このブローチのモチーフは勿忘草を加える鳩です。ワスレナグサの英名は、Forget-me-notです。戦地に赴く兵士が「私を忘れないで」というメッセージを込めて、こういうモチーフのジュエリーを愛する人に贈っていたと言われています。
ちなみに英語で「私を忘れないで」は「don’t forget me」ですが、英語の花名が「forget me not」というあまり慣れない語順になっています。それは、このフレーズが中世(5世紀〜15世紀)の古い英語からきているためです。

【引用】Brirish Museum © British Museum/Adapted
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みなさん???と思われたでしょうか?4羽の同じモチーフを並べてみました。戦争下のイギリスでは定番だったので、勿忘草をくわえる鳩のモチーフ自体はたまに見かけることがあります。4羽並べた内の上の2羽は作りが悪く、鳩の顔が気持ち悪いし、いかにも飛べなそうな不格好なボディですね。これらはヘリテイジでは扱わないレベルなので、ヘリテイジの宝物を見慣れている方は驚かれたかもしれません。こういうものは置いておくとして、下の2羽は類似性にまた???と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

右側の鳩は、以前ルネサンスで販売した銀のブローチです。左の金のブローチとそっくりですが、羽のトルコ石の有無、ピンの向き、彫金の細部など、よく見ると違いがあります。僕は以前にも全く同じデザインの指輪で、金と銀の両方で作られた物も扱ったことがありますが、人気があったモチーフは、同じ工房で金と銀で作られた物があるということなのです!1848年のゴールドラッシュ以前は金が極端に高価だったため、右の鳩のように優れたシルバージュエリーが存在します。ヴィクトリ時代後期の、大衆向きに作られた低価格の粗末な作りのシルバージュエリーとは全く別物で、金のジュエリーに近い丁寧な細工で作られているのです!!

ご覧の通り金銀どちらも優れた細工技術を持つ工房ですが、金細工と銀細工の違いで最も重要なポイントは、美しいマット仕上げの違いです。これについては金の鳩の拡大画像を見て頂きながらお話致します。

忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー
頭部拡大 ゴールドのマット仕上げ

金と銀では輝き具合が全く違います。銀は元々渋さを感じる輝きで、経時変化を楽しむ金属でもあります。一方、金はそのままだと眩しいほどの輝きがあるので、特にマット仕上げが美しさの最重要な技術なのです!!!

この黄金の鳩の輝きは一目見た時、今まで見たことがないようなしっとりとした美しい輝きだったので感激し、これほどの美しい輝きの理由は何だろうとよ〜く見てみたら・・・・。

特に美しく輝いているのはフラットな部分ではなく、鳩の胴体や頭部など、丸みを帯びた立体的な部分であることに気がつきました!立体的な造形の中で、マット仕上げされた羽毛1つ1つの輝きが、見る角度によって変化するからこそ美しいと感じるのです!!!

左は鳩の羽毛部分の拡大画像です。羽1枚1枚が、画像右側にあるような深い溝をいくつも彫って表現されています。この線ですら、実物は目を凝らさないとよく見えません。

金表面のマット仕上げは、日本の金工に於ける魚子仕上げと同じように、無数の極小の点をタガネの打ってあるのですが、この鳩の表面は鋭利な道具で作ったようには見えません。この工房独自の技術、もしかしたら普通の魚子仕上げとは違うパターンの点の打ち方をしているのではないかとも考えています!!この表面仕上げのおかげで、この鳩独特のねっとりとして柔らかそうな輝きが生まれているのだと思います。

グリーンゴールド 尻尾は美しいグリーンゴールドが使われています。グリーンゴールドは合金の配合が難しいらしく、アンティークジュエリーでも可なりの高級なジュエリーでなければ、見ることのない物です!♪
忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー
頭部拡大

鳩の表情までもが表現されているように感じるのは、如何にこれを作った職人の腕と感性が素晴らしいかの証しなのです!!♪

忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー
忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー ふと気がついたのですが、今まで扱って来た19世紀の動物のブローチの中では、鳥モチーフの作品の中に特に優れた物が多かったような気がするのです。

それは何故なのだろうと、時空を超えて想いをはせてみました。いつの時代も、大空を自由に飛べる鳥に人間は憧れを感じます。空を飛ぶ鳥の躍動感に溢れる姿は、ジュエリーを作る人たちにとって、飛べない動物以上に造作意欲が出て来るような気がするのです!!♪

分かりやすい宝石のジュエリーではなく、アンティークの中でも金細工を好む方に、鳥モチーフが好きな方が多いのも何となく納得出来ることですね!
忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー
尾と羽の一部、そして植物の部分が美しいグリーンゴールドなのも、19世紀初期から中期にかけての優れた金細工ならではの魅力なのです!!♪
裏

胴体部分は裏まで表と同じレベルの彫金が施されています。

元々ロケットが付いていたようですが、今は無くなっています。

ピンはオリジナルで、独特の湾曲した形状の物が付けられています。

忘れな草をくわえる鳩 ゴールドブローチ アンティークジュエリー

金がまだ高価だった時代のものならではの軽い作りなので、ブローチとしても使いやすいと思います。本物の鳥は空を飛ぶために骨が中空構造になっており、実際の見た目より軽いです。この鳩も勿忘草をくわえて、今にも愛らしい恋人の元へ飛び立ちそうです♪♪