No.00123 循環する世界

ぐるぐる・・。

永遠に繰り返す循環を表現したような、実に不思議な形のブローチです。

循環の環の内側からは、植物の発芽が表現されています。ダイヤモンドとゴールドで表現された若葉と、柔らかく暖かな光を放つ天然真珠が印象的です。

私はこのブローチの造形を見て、このようなことをイメージしました。
いつの時代も、どんな場所でも、地球上には生命の営みがあります。1粒の小さな種から植物は発芽し、豊かな大地と太陽からの恵みを得て大きく育つ。やがて美しい花を咲かせ、実を成し、次の世代への種を残したら枯れゆく。枯れた体は分解されて大地へと戻り、再び次の世代のための養分となる・・。植物は擬人表現と見ることもできます。全てはつながっている・・。循環。現代よりも「死」と言うものが身近だった昔の時代。今よりも感性が高く、生きる死ぬこと次世代につなぐこと、循環の概念をより身近に感じて生きている人が多かったのではないかと感じます。大自然の中のちっぽけな自分。無限にも感じる人間の営みの中の、たった一瞬だけを生きるちっぽけな自分。こういう感覚は、どの人間のDNAにも刻み込まれているような気がします。だからこそ、こういう造形を見て「循環」をイメージしますし、素直にこの造形が「美しい」と感じるのだと思います。

身近な自然にデザインを求めた、本来のアーツ＆クラフツらしいデザインで、大流行して陳腐化する前の初期アーツ＆クラフツならではの宝物です。

これ以上の哲学や宗教っぽい話はそれぞれ方のご想像にお任せするとして(笑)、このブローチは作りも実に見事なのです！♪

循環する輪の部分は非常に立体的な構造になっており、180度のひねりを表現した上下の部分は一部重なっています。この部分は特にあらゆる作業がしにくいのですが、きちんと地模様を彫ったギロッシュ・エナメルになっています。このような形状のギロッシュエナメルの場合、もちろんエンジンターンでの作業はできません。高度な技術を持った作者の、深さのある手彫り模様は何と美しいことでしょう！♪
高度な技術を持っている上に、手間を惜しむことなど考えもしない作者の情熱を感じます。このブローチは、お金儲けだけを考えていたのでは絶対に作れない作品なのです！！

ダイヤモンドを使った19世紀のジュエリーの殆どは、高級なものであってもダイヤモンドの色味を邪魔せぬようシルバーにゴールドバックなのですが、このブローチは全てゴールドでセッティングしています。若葉にセッティングされたダイヤモンドの裏側は、可能な限り窓を開けた作りなので、ダイヤモンドのクリアな色は邪魔されることなく、むしろ金の色とのコントラストが新鮮な美しささえ感じます♪

3つの白く美しい球形の天然真珠の使い方も見事です！！

若葉の両側には2つの真珠を左右非対称に配置し、サイズも全く違うものを使っています。それらが循環の輪の内部から飛び出したように見えるよう、フレームの上に重ねて配置しているのが、やはり作者のセンスの良さですね。白い天然真珠と、艶やかなブルーのギロッシュエナメルの、美しい色のコントラストが実に印象的です！！♪

ブローチ下部に下げられた真珠も、ダイヤモンドがセットされた葉のパーツとともに美しく揺れて、小さいながらもとても存在感があります♪♪

返しと曲線が付いた古い時代のピンが、オリジナルで残っています。
ジョージアンの『永久の天然真珠』でもご説明しましたが、この形状のピンはストッパー付きの金具が普及する以前の古い年代に作られたブローチ・ピンの証しなのです。服に刺しやすく、かつ抜けにくいようにするための形状です。

ブローチピンは繰り返しの使用で金具が緩んでくるので、後で取り替えられたものも少なくありません。このピン自体も、職人の手で丁寧に作られた価値あるものなのです！♪

アンティークの時代に於いても、高度な技術を持つ職人にお金をかけて作らせた、優れた作りのジュエリーはそう多くはありません。その中で、さらにデザインにまで強い魅力を感じることができるものは、滅多にあるものではないのです。

単純な「可愛い」「綺麗」だけにとどまらない、深遠なる知性、広大なる宇宙の広がりまで感じることができる魅力溢れるブローチだと思います♪そんな全てが、コンパクトにこのブローチに詰まっているのが楽しいですね♪♪