No.00152 教会のある風景

教会モチーフのドイツの珍しいカーブドアイボリーのアンティーク・ブローチ

レアな教会のカーブド・アイボリー
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

『教会のある風景』
カーブドアイボリー ブローチ

ドイツ 1840年〜1850年頃
アイボリー、メタル
7cm×5,5cm
重量 20,9g
SOLD

建物モチーフ自体が非常に珍しいのですが、それだけではなく、歴史と細工の魅力が溢れるカーブドアイボリーの傑作です!♪

カーブドアイボリー 建物 アンティーク
小高い丘の上に佇む、美しい教会がある風景です。あらゆる角度から見て建物の奥行が手に取るように分かる、立体的な素晴らしい造形の作品です。
カーブドアイボリー 建物 アンティーク

この通り、教会の上空から見たらこうであろう造形が見事に再現されていて、芸術作品としても見ていて飽きることがありません。でも、もちろんこれだけのクオリティーのアンティークジュエリーですから、単に美しい物というだけではありません。この作品から読み解ける情報を紐解いて参りましょう♪

<教会のモチーフについて>

ドイツのカーブドアイボリーのモチーフ

カーブドアイボリー 鹿 アンティークジュエリー 着色 黒い森 ドイツ シュバルツヴァルト 廃墟『廃墟の鹿』
ペインティング カーブドアイボリー ブローチ
ドイツ 19世紀中期
¥275,000-(税込10%)

ドイツのカーブドアイボリーのモチーフは『廃墟の鹿』のように、鹿を始めとして馬、犬、鳩など動物意外は殆ど見ることがありません。

今回のような建物のモチーフは極めて珍しく、今まで見たことがありません。

カーブドアイボリー 建物 アンティーク パッと見てお城なのか教会なのか迷ったのですが、よく見ると十字架が2つ見えるので教会であることが分かります。

ドイツにおけるキリスト教の歴史と教会

宗教改革 ルター ゴールド リング アンティークジュエリー『マルティン・ルター』
開閉レンズ付き ゴールド リング
ドイツ? 1817年
SOLD
ヴィッテンベルクの城教会の扉に95か条の論題を貼り出すマルティン・ルター(1517年10月31日)

『マルティン・ルター』でお話した通り、ドイツでは1517年に宗教改革がありました。これをきっかけに、キリスト教は主にカトリックとプロテスタントに分かれています。

ドイツで最も古い教会の1つで中世に再建された『ボンの大聖堂』(13世紀)
"Bonner Münster 2010-07-07" ©Hans Weingartz(7 July 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 DE

日本人だとキリスト教は馴染みがない方も少なくなく、カトリックとプロテスタントも、名称は聞いたことがあるけど結局何が違うかよく分からない方も多いと思います。

実はカトリックにおいて、『教会』は非常に重要な意味を持ちます。

カトリック信者にとっては教会は神へと通じる唯一の手段であり、教会は単なる建物ではなく神の組織そのものなのです。バチカンの教皇(ローマ法王)を頂点とし、「教会」そのものをとても重要視する組織立った宗派です。

教会の儀式を通じて自分は救われるのだという意識があるため、教会に通うのはとても大切なことです。

ルターによるドイツ語訳の旧約聖書(1534年)

一方でプロテスタントにとっては「聖書」が大事で、聖書さえあればどこでも神に通じることができるというのが教義です。故に教会は単なる集会の場に過ぎません。

元々聖書はラテン語で書かれており、限られた人間しか読むことができずその内容は教会の秘儀とされてきました。それをドイツ語に翻訳し、グーテンベルクの活版印刷技術を活用して誰でも読むことができるようにしたのがルターなのです。

個々人がそれぞれ聖書を通して神に通じることができるため、組織意識は低いです。

カーブドアイボリー 建物 アンティーク

ドイツにおける宗教的背景が分かると、このカーブドアイボリーの持ち主は敬虔なカトリック信者だったと推測できます。

この教会のモチーフが持ち主にとっていかに大事な物だったか、容易に想像できます。神に通ずることができる唯一の手段「教会」と、いつでも共にあることができるのです。

「教会にいる時だけでなく、いつでも神とともに在りたい・・。」
特別にオーダーして作られたからこそ、この非常に珍しい教会モチーフのカーブドアイボリーが存在するのです。

作品のもう1つの特徴

カーブドアイボリー 建物 アンティーク カーブドアイボリー 建物 アンティーク
側面

ブローチを真上から見ると分かりやすいのですが、全体が凸になっています。通常より3倍くらい厚みがあるアイボリーの板材を使って、この立体的な作品を削り出しているということです。
材料コストだけでなく、技術的にも非常に高度な技が必要となるため、これまでに見たのは他に1点だけです。

同じ技法によるもう1つの作品

黒い森の鹿 カーブドアイボリー ドイツ アンティークジュエリー シュバルツヴァルト

ルネサンスからのお客様は、この作品に見覚えがある方も多いと思います。ハイクラスのアンティークジュエリーしか扱わないGENが、その中でも特別な宝物だけを集めて掲載していた「ルネサンスのミュージアムページ」の扉画像に採用していたのが、このジャーマン・カーブドアイボリーの鹿モチーフの最高傑作『光を求めて』なのです。

カーブドアイボリー 鹿 アンティーク カーブドアイボリー 鹿 アンティーク 裏
カーブドアイボリー 鹿 アンティーク 側面
これはルネサンスで10数年前に扱った特別な作品です。角度を変えた画像を比較してお解り頂ける通り、『教会のある風景』と同じような凸形状になっています。フラットな薄板からでは不可能なレベルの奥行きを出すために、象牙の厚い板から彫り出しているのです。
カーブドアイボリー 鹿 アンティーク カーブドアイボリー 建物 アンティーク

ヘリテイジではGENの赤坂時代まで含めて41年間アンティークジュエリーを専門にしており、カーブドアイボリーに強いヨーロッパのディーラーと長い付き合いがあるため、貴重なカーブドアイボリーと雖も長い年月の間にそこそこの数を扱っています。

『光を求めて』と『教会のある風景』のフレームにご注目下さい。デザイン上の細かな違いはありますが、作行きが 非常に近い印象があります。デザイン、彫りの出来映えなど、かなりの類似が見られます。これまでに扱った他の作品と見比べてみてもこのように類似した物は存在しませんでした。これに加えて材料の使い方の同一性もあることから、これらの作品は同じ作者によって制作された可能性が十分にあります。厚い板から彫り出すのは並大抵の職人では不可能で、この作者特有の特別な技術だったと考えられます。『光を求めて』は一生忘れられない傑作だったので、同じ作行きを持つこの『教会のある風景』に出逢った時は本当に感激でした。

 

カーブドアイボリー 建物 アンティーク
本当に素晴らしい立体感で、格調高い教会の雰囲気を見事に表現しています。神と通じるための場所に相応しい、何と荘厳な雰囲気ではありませんか!♪

 

カーブドアイボリー 建物 アンティーク
カーブドアイボリー 建物 アンティーク
カーブドアイボリー 建物 アンティーク
カーブドアイボリー 建物 アンティーク
ゴシック様式 尖塔 教会 カーブドアイボリー 建物 アンティーク

ゴシック様式の尖塔の様子が実に素晴らしく再現されています。

そして右の尖塔と後ろ木の枝の透かしには、ほんの僅かな隙間しかありません!
こういう彫りが如何に難しいことか想像されてみて下さい。

このカーブドアイボリーの作者は、やはり徒者ではないということです。

小さな十字架も横から見るときちんと厚みがあり、使用の際にも指などが当たらない位置に作られているので、180年近く立っていてもそのまま残っているのでしょう。

カーブドアイボリー 建物 アンティーク

葡萄のモチーフ

カーブドアイボリー 建物 アンティーク カーブドアイボリー 建物 アンティーク

フレーム下部には撓わに葡萄が実っています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 最後の晩餐
『最後の晩餐』 レオナルド・ダ・ヴィンチ作(1490年代)

葡萄と言えば、言わずと知れたイエス・キリストの象徴ですね。キリストが死の前日の最後の晩餐で葡萄酒を"キリストの血"、パンを"キリストの肉体"として祝福し弟子たちに与えました。人類の罪の赦しのため、贖いの犠牲として十字架につけられるキリストの身体、流される血であるとしたのです。

ブドウ ステンドグラス ワイン イエスキリスト 教会 ブドウ ステンドグラス ワイン イエスキリスト 教会

【参考】キリストのシンボルとして葡萄が描かれた教会のステンドグラス

パンと葡萄酒は現代でも「聖体」と呼ばれ、キリスト教儀式の中で主への深い感謝の気持ちと共に飲食されます。海外のステンドグラスでも、葡萄をモチーフにしたステンドグラスを見ることができます。中央のステンドグラスの小麦もパンの原料ですよね。
『教会のある風景』は熱心なカトリック信者のオーダーだったからこそ、モチーフも細部まで拘ったということなのでしょう。

フレームの細部へのこだわり

カーブドアイボリー 建物 アンティーク カーブドアイボリー 建物 アンティーク

高価なダイヤモンドジュエリーのフレームの彫金のように、連続する小さな突起を彫った表現もドイツのカーブドアイボリーでは初めて見るものです。

カーブドアイボリー 建物 アンティーク カーブドアイボリー 建物 アンティーク
教会の左右のリボンのような帯には、何と表裏で異なる彫りを施しています。表側は連続する凸状の横線、裏側は縦の直線を3本彫刻しています。驚くほど技術的にも細部まで凝った作りです。

裏面

カーブドアイボリー 建物 アンティーク 裏

上は過去に販売済のカーブドアイボリー裏面です。通常は優れた作品であってもフラットなのです。左の『教会のある風景』のように立体感を出した彫りは材料に無駄が出ますし、技術的にも非常に難しく、極めて希少価値のあるカーブドアイボリーと言えます。

 

カーブドアイボリー 建物 アンティーク

【世界遺産】ドイツのケルン大聖堂(1900年頃)

ドイツに類似の教会がないか探してみたところ、ゴシック様式の建築物としては世界最大

のケルン大聖堂が角度によって非常に似ていることが分かりました。現存の大聖堂は3代目です。初代が完成したのは4世紀で、最も古い聖堂として知られていました。

【世界遺産】ドイツのケルン大聖堂 "Kölner Dom und Hohenzollernbrücke Abenddämmerung (9706 7 8) " ©Raimond Spekking / CC BY-SA 4.0 (via Wikimedia Commons)/Adapted

ケルン大聖堂は遠くから眺めても綺麗な建物と言うことで有名です。ドイツは見所がある教会も多く、教会を巡る旅を楽しむ方も多いようです。『教会のある風景』をつけて、当時の持ち主の祈りの心に思いを寄せながら巡る旅というのも楽しそうです♪