No.00170 モダン・アート |
『モダン・アート』 エドワーディアン ナチュラルパール リング イギリス 1910年頃 天然真珠、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、ローズカット・ダイヤモンド、プラチナ、18ctゴールド サイズ 11号(変更可能) 重量 4,2g SOLD まるでモダンアートのような、実にアーティスティックな造形のリングです。エドワーディアンに作られたとは思えないくらい、遙かに時代を先取りしたデザインですが、優れたエドワーディアンらしい作りに加えて、エドワーディアンを象徴するようなリングでもあるのです・・。 |
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時代の遙か先を行く斬新なデザイン
植物をデフォルメしたような、それともカエルの足のような、もしくは粘菌(※)のような・・。 この斬新なデザインは100年前の指輪とは到底思えない、アールデコよりもっと現代的なもので、100年後の現代アートのデザインを先取りしたような先進性を感じるものです。 |
【神秘的な生命体『粘菌』のつくりだす造形美】
ドイツの生物学者・哲学者 エルンスト・ヘッケル(1834-1919年) | 『自然の芸術的形態』(エルンスト・ヘッケル 1904年) |
このリングがデザインされたエドワーディアンの時代は、ドイツの生物学者・哲学者のエルンスト・ヘッケルが『自然の芸術的形態(邦訳:生物の驚異的な形)』(1904年)によって、生物が作り出す自然界の様々な造形に知的階層の注目が集まっていた時期でした。 |
『自然の芸術的形態』「ホヤ」(エルンスト・ヘッケル 1904年) | 医師であり、後に比較解剖学の教授となったヘッケルは、心理学を生理学の一分野であると見なした最初期の人々の1人でした。 チャールズ・ダーウィンの進化論を広めることにも貢献し、リンネ・メダル(1894年)やダーウィン=ウォレス・メダル(1908年)を受賞するなどもしています。 そんな高名な学者が出版した『自然の芸樹的形態』に掲載された美しい生物画は、今日まで高く評価されています。 |
『自然の芸術的形態』「イソギンチャク」(エルンスト・ヘッケル 1904年) | そんな高名な学者が出版した『自然の芸樹的形態』に掲載された美しい生物画は、今日まで高く評価されています。 現代だと専門性の高い高度な学術と芸術は分離して捉えられることが少なくありませんが、この時代の有名な学者が自然の形態に芸術的な美しさを感じ、書籍まで出版しているというのは興味深いことですね。 |
『自然の芸術的形態』「放散虫」(エルンスト・ヘッケル 1904年) | 『自然の芸樹的形態』は20世紀初頭の芸術・建築・デザインに大きな影響を与え、科学と芸術の橋渡しとなったことでも知られています。 有名・無名問わず、様々な芸術家たちが影響を受けています。 |
『自然の芸術的形態』より(エルンスト・ヘッケル 1904年) | ヘッケルの研究対象は多岐に渡っており、菌類もその1つでした。 |
原生粘菌 | 複雑な造形のものも面白いですが、原生粘菌はそのシンプルな形状に独特の魅力があったりしますね。 |
このリングはモダンアートのようなデザインです。 他には類を見ない、上流階級ならではの特別なデザインをわざわざ施されたこのハイクラスのリングは、このような微視的な世界にインスピレーションを受けて作られたのではないかと感じます。 |
原生粘菌 ©shunkamanitotanka(Marco Bertolini)(2011)/Adapted/CC BY 2.0, wikimedia commonsより | 原生粘菌 ©Liz Popich(Lizzie) at Mushroom Observer(2018)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
何だか似ていますよね。 知的好奇心が旺盛な、知的階層ならば興味を持たないわけがありません♪ それをジュエリーにしてしまうのは、まさに古の上流階級の知的階層らしいと言えます。 |
贅沢なダイヤモンド使い
このリングのメインストーンはもちろんセンターの天然真珠ですが、まずは脇石の少し大きな六個のダイヤモンドを見て参りましょう。 |
拡大すると分かる通り、クリアで煌めきの強い上質なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドが使われています。 |
小さなローズカット・ダイヤモンドに至るまで、クリアで上質な石が使われているからこそ、リング全体に鏤められたダイヤモンドが至るところから魅力的な煌めきを放つのです。 |
贅沢なゴールド使い
プラチナにゴールドバックの典型的なエドワーディアンスタイルで、どこから見ても完璧な素晴らしい作りです。サイドから見ると分かる通り、金を厚く贅沢に使っており、耐久性もさることながら普通のリングに比べて程よい重量感も感じることができます。 |
裏側から見ると、まるで19世紀の高級なゴールドリングに見えるのが面白いところです。それだけ金を贅沢に使った良い作りだということなのです。 コンディションも、今作ったばかりのようにパーフェクトです。 |
エドワーディアンの天然真珠
贅沢なダイヤモンドやゴールドの使い方、そして作りの良さから、このリングが高級な物して作られたことは既にご納得いただけたと思います。 でも、現代人の感覚からすると、それだけ高級なリングなのになぜメインストーンの天然真珠が直径4mm程度のこんなに小さい物なのか、不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。 |
以前からカタログをご覧下さっている方ならご存じの通り、エドワーディアン前後からアールデコにかけては、歴史上最も天然真珠が高く評価され、高価だった時代です。 |
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天然真珠のジュエリーを纏う帝政ロシア最後の皇后アレクサンドラ・フョードロバナ(1899年) |
メインストーンの天然真珠は小さくても色と艶、そして照りまでもが優れた最上級の物です。 養殖真珠でいくらでも大きい珠を見慣れた現代人の感覚で見ると誤ってとらえがちですが、当時この天然真珠は、周りの最上級のダイヤモンドより遙かに価値があったのです。だからこそ、この天然真珠がメインのリングにおいては、色照り優れた素晴らしいダイヤモンドであっても脇石なのです。 |
天然真珠は真円で、なめらかな光を放っています。100年も前の物とは思えない、清らかで美しい色合いです。 さらに、ミルの打ち方はこれ以上はないような完璧なものなのです。 |
現代アートのようなデザインですが、現代にこういう作品を作る場合、もっと大きな養殖真珠が使われてしまうと思います。 大きい方が価値があると消費物に錯覚させ、高い値段で販売しやすくなりますから・・。 ヘリテイジのお客様は、現代ジュエリーは興味が湧かなくて1つも持っていないというお客様も案外多いです。優れた感性と絶対的な感覚を持っていらっしゃる方は、やはり何となくでも感じるのだと思います。 |
当然ながら天然真珠は色や照り艶、形が同じであれば、大きくなるほど価値は指数関数的に上昇します。 この天然真珠は直径4mmくらいあるので、2mm程度の真珠の巻き厚があることになります。アコヤ真珠の場合で1年に0.4mm程度巻くと言われています。 母貝がその寿命の中で、約5年という時を長い年月をかけてこの美しい天然真珠をはぐくんだということですね。小さな真珠も、母なる海からもたらされた命の輝きの結晶なのです。 |
養殖真珠の場合、最終的な大きさはどのサイズの核を入れるかだけです。どのサイズの真珠でも、真珠層の巻きは花珠でもせいぜい0.4mm程度で、大きさの違いによる価値なんて実質上は無きに等しいのです。 大きな核を入れるほど、歩留まりが悪くなるので希少性が上がって値段が上がるというのがメーカーの論理です。 どういうことかと言うと、母貝にとって大きな負担となる切開手術を施し、大きな核を無理矢理入れます。このため、大手術に耐えられずに死んでしまったり、術後の経過が悪くて死んでしまったり、死ななくても苦しくて核を吐き出してしまったり、真珠層を巻くことができなかったり・・。 |
指につけると、期待以上に着け栄えします♪ アンティークのリングは縦長のデザインが多く、指が細く長い西欧人には似合うのですが、そういうリングは日本人には着けこなしが難しかったりします。その観点からも、リングとしてのデザインに優れているだけでなく、着けて見栄えするリングはとても貴重です。 現代アートのようで、でも実際はエドワーディアンでの制作だからこそ存在する希少なリング、綺麗なものはやはり癒されますね〜♪ |