No.00134 ロイヤル・クラウン |
『ロイヤル・クラウン』 イギリス 1910年頃 このブローチの並々ならぬ雰囲気に気づかれたでしょうか? |
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ただの贈り物とは思えない、実に美しく豪華なブローチです。思わず「さすがイギリス王室!」と言ってしまいそうなジュエリーですし、贈られた人物や功績も特別だったはずなのです。 |
<イギリス王室のジュエリー>
ヴィクトリア女王の下賜ジュエリー
王室御用達 Collingwood Ltd.によるジュエリー
Collingwoodはヴィクトリア女王のオーダーでティアラも制作しているくらい、由緒あるジュエラーです。 左はジョージ5世とメアリー妃の結婚写真です。メアリーはドイツのヴュルテンベルク王家傍系の出身で、イギリス国王ジョージ3世の曾孫にあたります。これだけ聞くと、いかにも良家の御令嬢という感じですが、実際は少女時代は派手好きな両親が作った借金が原因で物価が高かったイギリスには住めず、ヨーロッパ諸国を転々とする生活を送っていました。ヴィクトリア女王の父ケント公エドワードも借金まみれでロンドンに住めず、諸国を転々としていたそうです。こんな話ばっかりです(笑)ただ、この経験でメアリーは各国の文化・芸術に触れることができたため、芸術に深い造詣を持つようになりました。 |
クラレンス公アルバート(1864-1892年) | 1885年にヴィクトリア女王の配慮でイギリスに帰国したメアリーは、ヴィクトリア女王から大変気に入られ、エドワード7世(当時は王太子)の長男で、将来国王となるはずのクラレンス公アルバートと婚約させました。しかしながらその約6週間後、クラレンス公は28歳という若さで急逝してしまいました。切り裂きジャック事件の犯人と噂されたり、ゲイだと噂されたり、最後は肺炎で急逝するというなかなか薄幸な人物です。 ヴィクトリア女王は、強靱な性格であるメアリーは国王の妻として絶対に必要と考えていたため、結局クラレンス公の弟で、次の王位継承権を持っていたヨーク公ジョージ(後のジョージ5世)と結婚させたのでした。 |
※ネックレスは重ね付け | ||
1893年に制作のCollingwoodのフリンジ・ティアラ&ネックレスのスケッチ | ティアラとして着用 | |
ジョージ5世とメアリー妃の結婚にあたり、ヴィクトリア女王がお気に入りのメアリーのためにCollingwoodに制作させたのが上のティアラです。ティアラとしても、ネックレスとしても使用できるものでした。頭にも首の形状にも美しく沿うことができるこの特別なジュエリーは、さぞかし素晴らしい作りたったに違いありません。 |
同じく1893年に、ジョージ5世が花嫁メアリーへのウェディング・ギフトとしてCollingwoodに作らせたのが左のエイグレットです。上のフリンジ・ティアラの土台を使って着用できる物でした。現在は所在不明です。エイグレットについては下記もご参照下さい。 それにしても、メアリーを見るジョージ5世の顔はとっても嬉しそうですね♪ |
エイグレットを着用いたマリー・アントワネット | ダイヤモンド トレンブラン エイグレット |
Collingwood フリンジ・ティアラのその後
E. Wolff & Co for Garrardsにより作り替えられたメアリー王妃のフリンジ・ティアラ | ヴィクトリア女王から贈られた特別なティアラでしたが、1919年にダイヤモンドを再利用して作り替えられてしまいました。 ジュエリー好きのメアリー王妃には、よくあることだったようです。 メアリーのフリンジ・ティアラは代々引き継がれ、現在はエリザベス女王が所有しています。 花嫁が身につけるサムシング・フォーの1つとして、王族の結婚式でも花嫁の頭を飾ってきました。 国王ジョージ6世のエリザベス妃、エリザベス女王、アン王女も結婚式で着用しています。 |
メアリー王妃のフリンジ・ティアラを着用したエリザベス女王(ニュージーランド 2011年) "Queen Elizabeth II of New Zealand" ©Julian Calder for Governor-General of New Zealand(2011)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
ちなみにティアラは既婚女性のみが着けることができる礼装です。 イギリス王室ではいくつかティアラを保有していますが、午後6時以降の決められた行事では着用必須がイギリス王室のルールなので、今でも着用姿を見ることができます。 リメイクされてしまうことからもお分かりいただける通り、貴重な宝石はお金を出したからと言って絶対に手に入れられるものではなく、王族クラスのティアラもいくつも作ることはできません。 このため、ティアラは王室の中で貸し借りされます。ティアラにも歴史あり、誰がどのティアラを付けるか話題になるのもこのためです。 |
このティアラが作り替えされた1919年はエドワーディアンからアールデコへの過渡期で、アールデコらしいシャープなデザインとなっています。当時の最先端ではあったのでしょうけれど、Collingwoodのクラシカルなデザインも現代人の感覚からすると魅力的に思えるので、残念な気もしました。 壊れるだけでなく、こういうリメイクされるということもあるため、アンティークジュエリーがオリジナルで残っていることは本当に少ないのです。貴重な宝石を使ったものは、古いデザインが嫌われてリメイクされ、ゴールドは金価格の高騰などのタイミングでつぶされてしまうのです・・。 |
立体的な王冠に、流れるようなリボンの造形は、非常にエレガントで格式高い雰囲気です♪ |
この王冠の大きさは1cm程度なのですから、いかに細かい細工か解りますね!! 王冠の内部の赤いベルベットは、鮮やかで美しいギロッシュエナメルで表現してあります。 王冠の下の部分には、カボッション・カットのエメラルドとルビーが交互にあしらわれています。ファセットを輝かせるのではなく、あえてカボッション・カット曲面にすることで、格式高い雰囲気をさらに高めています。こういう一見細かいことが、全体の雰囲気までも変え得るのです。上下のミル打ちも整った美しいミルです♪。 ダイヤモンドは小さい石ですが、きれいな物を選んで丁寧に留めています♪それぞれのダイヤモンドのフレームの形状も、小さいものと思えないほど整っており、思わず感動してしまいます♪ |
同じ"王室からの贈り物"のジュエリーでも、ヴィクトリアン・ジュエリーとは違う、エドワーディアンらしいセンスの良さと、エレガントで洗練された雰囲気になのが良いですね。リボンの部分の小さいローズカット・ダイヤモンドも丁寧に留めてあります。このリボンの部分の両側の縁にはミルは打ってありません。リボンをシュッとした印象にしたかったからなのです。ミルの技術が高いことは、王冠の下の部分に施されたミルで証明済みなので、あえてこの部分はミルを打たないデザインにしたということなのです。優れたアンティークジュエリーは、一見気付かない人も多いのではと思える部分にまで、当然のようにプライドを持って、デザインや加工が施されているものなのです!♪ |
裏側は、プラチナが高かったエドワーディアンを象徴するゴールドバックの作りです。 ダイヤモンドの裏側の窓の開け方も、シャープで美しいです。 ブローチピンも、ストッパー付きの良い金具が使われています。 |
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【参考】Collingwoodに作らせた一般庶民への褒賞品ジュエリー
【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted | イギリス王室の褒賞品ブローチ |
Winifred Dolan (1867-1958) | 上のブローチは、1895年にバルモラル城でLiberty Hallという劇が御前上演された際、ヴィクトリア女王が女優Winifred Dolanに贈った物です。 ロイヤル・ヴィクトリア勲章のデザインになっています。王冠と、VIRというアルファベットの重ね文字です。VIRはVitoria(ヴィクトリア)、 Regina(女王)、Imperatrix(女帝)で、イギリス女王かつインド皇帝であるヴィクトリアからの贈り物であることを意味します。 一般庶民に贈った物なので、ミニアチュール・ブローチや、クラウン・ブローチと比較すると見劣り感は否めません。 |
細部に渡るデザインや細工、宝石の使い方などから、相応の身分の人物に贈られた物と推測できます。 |
今では作れない、高級なオリジナルの革ケース付です。 蓋の裏には、社名と王室御用達の旨が書いてあります。 BY APPOINTMENT |
淡いターコイズブルーの革に、明るいクリーム色のベルベットの色合いは、このブローチに相応しい爽やかさと気品を醸し出しています。 ブローチを贈られた人物のイニシャルと思われる、B.M.S.というアルファベットが金で箔押ししてあります。高級ケースをオーダーして作られていることからも、特別な贈り物であったことが伺えます。 王室御用達らしい仕事で作られたハイクオリティなブローチに加えて、オリジナルケースまで付いているのは、とてもラッキーなことですね♪ |
エドワード7世(在位1901-1910年) | ジョージ5世(在位1910-1936年) |
明らか贈り主が解るヴィクトリア女王の物とは異なる、オシャレなジュエリーとしても使いやすいセンスと作りを兼ね備えたクラウンのブローチ。 誰がどのイギリス王から、どういう功績で贈られた物なのでしょう。謎のまま楽しむのも一興、探索して楽しむのも一興。この年代の物だと、ある程度の労力を費やせば分かるかもしれません。アンティークジュエリーならではの楽しみとして、次の持ち主の楽しみは奪うことなく、私からの探索はこれくらいにとどめておきましょう・・。 |