No.00129 音楽を奏でるキューピッドとヴィーナス |
美しい色のシェルは磨きも完璧!!
繊細精緻なカンティーユと粒金細工はジョージアンのシェルカメオの証!!♪
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『楽器を奏でるキューピットとヴィーナス』 イギリス 1830年頃 |
飴色の美しいシェルに彫刻された、音楽を奏でる楽しげな愛の親子。そして繊細で軽やかな金細工のフレーム。名画に相応しい額縁で彩られたシェルカメオは、まさに完成され1つの"身に付けられる芸術作品"なのです!♪ |
シェルカメオは名前の通り、貝殻を彫刻して創る芸術品です。材料は海からいくらでもタダで簡単に調達できる安価なイメージですが、実は想像するほど簡単なものではありません。 海から採取した貝殻は1年ほどかけて、天日干ししながら乾燥させなければなりません。乾燥後、割ってみて状態の良い部分だけを使います。良いシェルカメオの材料を得るには、想像以上に手間も時間もかかるのです。 |
このシェルカメオは、アンティークのカメオでもなかなか見ることがない素晴らしいシェルを使っています。 手に持つと、裏側の指が透けて見えるほど透明感があります。左画像の通り、後ろに白背景がある状態でも、ブローチのピンが少し透けて見えているのが解りますでしょうか。 見事な美しい艶が、このシェルカメオの大きな特徴でもあります。ある程度硬さがあって凹凸がない表面を、艶が出るまで磨くことはそんなに難しいことではありません。表面を磨く場合、まず粗い番手で表面を磨いて整え、徐々に磨く番手を細かくしていくことで、表面を滑らかにし艶を出していきます。 |
彫刻のない均一な表面ならば一気に磨けて簡単ですが、カメオのように凸状の彫刻がある場合、彫刻部分は避けて磨く必要があります。特に細かな隙間は、相当困難な作業となります。これだけでもカメオの磨きがいかに大変か解るものです。 さらにシェルカメオの場合、ストーンカメオよりも遙かに難しい作業となります。シェルは薄く割れやすいこと、シェル特有の凹凸で表面が平らでないことがその理由です。 |
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従って、アンティークのシェルカメオでも、ハイレベルと低レベルの物では磨きに相当な違いが出ます。このカメオのように、小さいのに驚くほど美しい艶がある物から、全く魅力を感じないような物まであるのです。現代の作家物のシェルカメオの場合、そもそもデザインだけが勝負でなので、磨きの重要性に対する意識なんて全くありません(勝負所のデザイン自体も、いかにも少女漫画のような、センスが良くない女子ウケしそうなものばかりで芸術とはほど遠いですが・・。つまらないことに、現代カメオはそういう物が好きな方たち向けなのです。)。だからパッと見て、感性がある人だと現代のシェルカメオには魅力を感じないのです。 |
シェルカメオはストーンカメオより光の透過性が高いので、バックライトを当てると美しい影絵が引き立ちますね!♪もちろんバックライトではなくとも、手に持って光にかざせば、この美しい芸術を楽しむことができます。キューピッドの生誕には諸説ありますが、こういう構図の場合は、愛と美の女神ヴィーナスと愛の神キューピッドです。キューピッドはヴィーナスの子供なので、このカメオは母と子が楽しく音楽を奏でている、愛に溢れる美しいモチーフの作品なのです♪ |
第一次カメオブーム
カメオは18世紀後期から脚光を浴び始めていたのですが、古代ローマ帝国崇拝者だったナポレオン・ボナパルトがイタリア遠征の際(1796-1797年、1799-1800年)、たくさんの優れた古代ローマのカメオやインタリオをパリに持ち帰ったことで、第一次カメオブームが起きました。 ブームの中心がフランスの貴族階級だったため、この時代に作られたカメオには優れたものが多くみられることが特徴です。 |
歴史上最大の第二次カメオブーム
息子 | 母 |
フランス皇帝ナポレオン3世(1808-1873年) | オルタンス王妃(1783-1837年) |
その後、ナポレオンの失脚などを経て、1848年にナポレオンの甥ナポレオン三世が大統領に就任し、1852年にフランス皇帝に即位するとフランスでは歴史上最大のカメオブームが発生しました。 ナポレオン三世は、ナポレオンの弟ルイ・ボナパルトと、ナポレオンの最初の妻ジョセフィーヌの連れ子オルタンスの三男として生まれました。夫婦は折り合いが悪く最終的に離婚していますが、ナポレオン三世は熱狂的なナポレオン崇拝者だったオルタンスに引き取られ、その影響を強く受けました。故にナポレオン時代同様、ナポレオン三世治世下でカメオブームが発生したのです。 |
近代ツーリズムの祖トーマス・クック(1808-1892年) "Thomas.Cook" ©Unknown author(before 1892)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | イギリス人実業家トーマス・クックにより発明された"団体旅行" ©Thomas Cook |
その頃のイギリスは大英帝国の最盛期で、経済的繁栄により、豊かな中産階級層が多く存在しました。イギリス人実業家トーマス・クックにより、1841年に570名という規模の世界初の団体旅行が開催され、1851年のロンドン万博では16万人もの団体ツアー客を送り込むなどして成功を収めると、中産階級をターゲットとした団体旅行が大ブームとなります。そんな中、海外団体旅行でイタリア旅行も大人気になり、旅行者がカメオやモザイクをお土産に買って帰ったこともあり、イギリスでもカメオがブームとなったのです。 市場に出回っているアンティークのシェルカメオのほとんどは、19世紀中期から後期のカメオブームの頃に作られた物です。安価な土産物や、中産階級向けとして大量生産されたカメオは当然レベルも低く、フレームも9金か金メッキないしそれ以下の祖末な作りの物が多いのです。それは、19世紀中期のカメオブームが如何に大きなブームだったかの証のようなものでもあります。高価なストーンカメオは買えないような人たちにもカメオを売って儲けようと、質の悪いシェルカメオがとにかく量だけは作られたのです。シェルは質さえ選ばなければいくらでも材料が安価で手に入りますし、稚拙な物なら楽に早く彫れるので大衆用ジュエリーには適していたのです。 |
『美しき軍神アテナ』 シェルカメオ イタリア 19世紀中期 SOLD |
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この時代はイギリスでもフランスでも、成金趣味的な”ぱっと見て高そうに見えるもの”が好まれました。ドレスの生地も厚手だったため、とにかく巨大で目立つものが求められ、品質関係なく"とにかく大きければ良い"と言うシェルカメオも作られています。 過去に販売した『美しき軍神アテナ』のような、巨大なのに彫りもデザインセンスも優れたシェルカメオは例外中の例外と言えます。 |
ご覧いただければお解りいただける通り、19世紀初期(ジョージアン)のこの『音楽を奏でるキューピッドとヴィーナス』は、大きいことが取り柄のような19世紀中期以降のシェルカメオとは一線を画します。小ぶりで彫りも磨きも、シェルの材質もハイレベルです!!! 粗末なカメオには9金やメッキ、もしくはそれ以下の、粗末なカメオに相応しい粗末なフレームが取り付けられます。そして、優れたカメオには当然、それに相応しいフレームが取り付けられるのです。 |
このシェルカメオは素晴らしい金細工のフレームが付けられています。 |
裏から見ると、粒金を一つ一つ蝋付けしているのが分かります。薄い金の板を渦巻き状に盛り上げた、カンティーユの構造も分かります。金の板の縁には、細かく均等に乱れなくミルが打ってあります。これはミルタガネという道具を使ってギザギザを一つ一つ打って作るのですが、非常に手間のかかる作業です。それを、表だけでなく通常は見えない裏がにまで施してあるのが、ジュエリーがまだ一部の上流階級の人たちのためだけのものであったジョージアンらしい仕事なのです。 |
古代ローマの優れたカメオにインスピレーションを受けて作られたことが想像できる、古代風のバチカンのデザインも素晴らしいです。粒金ではなく彫金された、真球ではないパーツを蝋付けで連結した独特のデザインも珍しいです。 古い時代の神々のモチーフに、雰囲気がよく合っています。 |
このカメオのフレームは、カンティーユだけでなく粒金が多く施されているのも特徴です。大きさを変えてグラデーションにした多数の粒金は、19世紀初期(ジョージアン)のハイクラスのジュエリーの中でも高水準の物で、特にカメオでは滅多に見ない極めて珍しいフレームです!!♪ 200年の時を経ても粒金がほとんど落ちていないのは、如何に蝋付けの技術が優れていたかの証なのです!! これらの金細工は、高度な技術を持った職人が相当な時間を掛けないと出来ないので、19世紀中期以降は作られなくなり、当然技術も失われてしまいました。 |
ブローチとして使う際は、ペンダント用のバチカンを倒して表から見えないようにできます。 |
撮影に使っているような、作りが良いアンティークのゴールドチェーンをご希望の方には別売でお付け致します。いくつかご用意がございますので、ご希望の方には価格等をお知らせ致します(チェーンのみの販売はしておりません)。現代の18ctゴールドチェーンをご希望の方には実費でお付け致します。高級シルクコードをご希望の方にはサービスでお付け致します。 |