No.00155 海の煌めき |
『海の煌めき』 アーツ&クラフツ アクアマリン ネックレス イギリス 1890年頃 アクアマリン、天然真珠、15ctゴールド ペンダント部分 4cm×1,5cm チェーン 38cm 重量 3,5g SOLD 石、デザイン、細工の三拍子全てがベストなアーツ&クラフツのネックレスです♪ 小さくても最上級のアクアマリンを使っており、それは石の裏の素晴らしいカットを見れば一目瞭然です。スッキリしてモダンな感覚のシンプルで美しいデザインと、見ていて気持ちが良い完璧な作りと仕上げは、この価格帯では滅多にある物ではありません!♪ |
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アクアマリンと言う宝石
アクアマリンは、ラテン語の『海の水(aqua marine)』 が語源となっています。 その名の通り、海の水をそのまま結晶にしたような美しい宝石です。 |
アクアマリン "Beryl-209736" ©Rob Lavinsky, iRocks.com(before March 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ブラジル産ヘリオドール / ゴールデン・ベリル "Heliodor-G-EmpireTheWorldOfGems" ©DonGuennie(G-Empire The World Of Gems)(15:33, 3 April 2015)/Adapted/CC BY-SA 4.0 | グリーンベリル〜エメラルド |
ベリル(緑柱石)の中でも青色の物をアクアマリンと言います。同じベリル系である緑色のエメラルドや黄色のヘリオドールを加熱処理することで、黄色味を除去しアクアマリンの色に変化させることが可能です。 現代ジュエリーでは評価の低いヘリオドールやグリーンベリル等を加熱し、アクアマリンに変成させて高く売ることがあります。また、元々アクアマリンとして産出された場合でも、殆どは淡い青しか呈さないため、加熱処理して色を濃くするのが当たり前になっています。このため、鑑別書には無処理が記されないのだそうです。 ちょっと考えれば分かることですが、所詮鑑別書なんて現代ジュエリーを売りやすくするためのツールに過ぎないのです。とは言えジュエリーには今も昔もフェイクは付き物ですし、皆様には安心して好きな物を選んで頂くためにも、ヘリテイジでは経験豊富な鑑別所で鑑別してますし、必要に応じて鑑別書もお付けしています。この辺りは鑑別技術の限界や、業界の事情を把握した上でうまく使いこなすのがベストだと考えています。 |
アクアマリンの質
アクアマリンの原石 "Aquamarine P1000141" ©Gunnar Ries Amphibol(08. 12. 2006)/Adapted/CC BY-SA 2.5 |
ジュエリー用の石は、色の美しさと透明度の高さの両方が求められます。 実際のアクアマリンの原石は色が薄すぎたり、透明度が低かったりすることが殆どです。ある程度の大きさも備えた、ジュエリー用として使える石は稀少です。だからこそ稀少価値のある宝石となるのです。 同じアクアマリンという名称でも、美しさの欠片もないパワーストーンのアクアマリンと同じに見てはいけません。 |
アクアマリンの魅惑の煌めき
このネックレスに使われているアクアマリンは、上質な石が採れた時代の最上級の石です。前述の通り天然のアクアマリンは色が淡いため、ある程度色彩をはっきりさせようとするとアクアマリンを自体大きくカットする必要があります。 しかし、このアクアマリンは小さくても十分に美しい水色を感じることができるのです。ファセット数の多い石の裏面のカットも素晴らしく、揺れるたびに石がキラキラと煌めく様子は、まるで南国のアクアマリンの海の海面が煌めく様を見ているようです♪ |
黄色味が感じられない、クリアな水色の色彩を持つ上質なアクアマリンの煌めきは、もはや溜息が出るほどの美しさです♪ |
アーツ&クラフツ運動
このネックレスの魅力は石の美しさだけではありません。アーツ&クラフツらしい、随所に非常に凝ったデザインも非常に魅力があります。 アーツ・アンド・クラフツ運動 (美術工芸運動)は1880年代にウィリアム・モリスが主導した19世紀の美術運動で、アールヌーヴォーにも影響を与えたと言われています。ヴィクトリア時代に、産業革命の結果として大量生産の粗悪な物が出回ることになりました。クリエイティブな芸術家だったはずの「職人」がプロレタリアートに成り果ててしまったこの状況を批判し、古い時代の手仕事に立ち返り生活と芸術を統一することを主張したものです。 結局手をかけた仕事は採算が合わず、作られた製品は非常に高額な物となり、限られた富裕層のための物となってしまいました。このため実際に手をかけて作られたのは初期の製品だけで、その後はデザインに偏った粗末な物が多く作られるという結果に終わりました。所詮一般大衆向けに手かけながらも安価な物を作るというのは不可能なことなのです。 |
"モダンデザインの父" ウィリアム・モリス(1834-1896年) | 国同士で経済格差がある場合、安価な労働力を求めて企業が人件費の安い国に工場を作る動きがありますよね。日本でも「発展途上国」で作らせた安価な手作り製品が百円均一で持て囃された過去がありますが、「発展途上国」が発展して豊かになり、人件費が上昇して日本との貧富の差がなくなってくると成り立たないのです。 |
このような経済論的な理由で、現代では作ることが不可能な優れた手仕事による美しいジュエリーですが、ジュエリーの一般大衆化が進行していたアーツ&クラフツの時代も優れた手仕事のジュエリーは既に難しくなって来ていたのも事実です。 しかしながらこのアクアマリンのネックレスは、作りと仕上げが普通のアーツ&クラフツでは滅多に見ることのない高い完成度の素晴らしい作品です!♪ |
独自の変形ナイフエッジによる視覚効果
『海の煌めき』が制作されたヴィクトリアン後期にかけては、『PURE LOVE』のヨーロッパのファッションの歴史でご説明した通り、シフォンやサテンなどの生地の進化などもあって軽やかでエレガントなドレスが作られ、人気が出てきた時代です。 必然的に、軽やかなドレスに合う軽やかなジュエリーが作られるようになりました。その時に重宝されたのがナイフエッジという表現手法です。 |
正面 | 裏 | 横 |
ナイフエッジの視覚イメージ | ナイフエッジでは、金属の板を立てた状態でセットします。後ろ側はある程度の厚みを保った状態で、正面に向けて金属を削って幅を細くします。これにより、ジュエリーを正面から見た際にナイフエッジ部分はまるで線のように見えながらも、100年以上の使用に耐える強度を両立させる技術です。 金属の存在感が極限までなくなるため、まるで石が宙にいているかのような繊細さを演出できます現代ジュエリーのボテっとした金属部分とは大違いですよね。このようにやり方は分かっているものの、手間がかかり過ぎて採算が合わないので現代では見ることがない技術の1つです。 |
正面 | 裏 | 横 |
『海の煌めき』には、いままで見たことがない"変形ナイフエッジ"とでも言うべき技術が施されています。上のアクアマリンと、下のアクアマリン・フラワーを連結しているゴールドのバーにご注目下さい。上の方はゴールドの存在感がありつつ、下に行くほどシュッと細くなっていく美しいフォルムになっていますね。画像は拡大していますが、実物は小さい物なので、全体をこれだけ細く仕上げると100年を超える耐久力は実現できなかったはずです。横から見ると、一見何てことなさそうに見えるゴールドのバーにも計算されたデザインが施されていることがようやく分かるのです。もともと円柱状だったゴールドの棒を、両端だけを下に行くほど細く仕上げているのです。横から見るとこれだけの厚みがあるため、十分な強度があるのです。 |
凝ったデザインと作り
アクアマリンを留めている爪にもご注目ください。単に石を留めるというだけならば、単純な爪で留めてしまえば済む話です。しかしこのネックレスはそれぞれの爪が2重構造になっています。実際はデザインに偏ってしまい雑な作りの物が多かったアーツ&クラフツでは滅多にみることがない手間のかけ方です。この2重の爪留が、ネックレス全体で見たときにハイセンスな印象を与える、デザイン上の重要な役割を担っています。天然真珠の覆輪のミルも丁寧で美しい仕上げですし、使われている天然真珠も照りが優れた上質な物です。 |
アクアマリンの裏を見ると、小さな石であるにも関わらず、驚くほど綺麗なカットが施されています。このアクアマリンが如何に上質な石で、このネックレスが如何にグレードの高いものとして作られたかが分かるのです。 石の底面のファセット数がこれだけ多いからこそ、アクアマリンがより立体感ある魅力的な煌めきを、揺れるたびに放つのです。 中央の15という数字は15ctゴールドの意味です。 |
チェーンも引き輪もすべてオリジナルで、全体のコンディションも良い状態です。 |
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アクアマリンと天然真珠、ゴールドという素材が見事に調和した美しいネックレスです。この素晴らしいデザインは、優れた技術と手間をかけて作られたからこそ実現できたものなのです。このような素晴らしい物を、さりげなくさらりと軽やかな装いで着けこなしたいですね♪ |
現在販売中のアクアマリンのジュエリー