No.00189 ハニー&シナモン |
スウィートでスパイシーなカラーのこの宝石・・。みなさんは何の宝石だと思われましたか? |
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『ハニー&シナモン』 あのデマントイドガーネットよりも市場では見る機会がない、珍しい極上のオレンジガーネットを使ったリングです。 |
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宝石としてのガーネットのイメージ
アルマンディンガーネットの原石 "Almandin" ©Didier Descouens(9 January 2011)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
ガーネットは古い時代から人類に愛されてきた宝石です。 古代エジプトの埋葬品にもガーネットを使ったネックレスなどがあります。 |
『黄金の輝きの中に浮かび上がるディオニュソスの杖』 ガーネット インタリオリング 古代ローマ 200年頃 SOLD |
古代ローマでも、高貴な身分の人のために作られた高級インタリオの素材として、上質なガーネットが使われていたりします。 古代ローマ滅亡後のヨーロッパの暗黒の時代を経て、16世紀にハプスブルク家統治下の中央ヨーロッパでボヘミアンガーネットの鉱床が発見されると、ガーネットが再度注目されるようになります。 |
神聖ローマ帝国皇帝、オーストリア大公、ボヘミア王、ハンガリー王レオポルト1世(1640-1705年) | 1687年に神聖ローマ皇帝レオポルト1世のために作られた、ハプスブルク家の紋章である双頭の鷲をモチーフにしたレガリアの中央には416カラットの大きなガーネットがセットされました。 皇帝の証であるレガリアのメインストーンに選ばれることからもご想像いただける通り、ボヘミアで産出されるガーネットはハプスブルク家に多大な富をもたらしました。 |
【参考】ヴィクトリアンのガーネットピアス | さらに19世紀、ボヘミアの地で巨大な鉱脈が発見されました。 産業革命によって一般大衆にまでジュエリーの需要が拡大した世界最大の英国市場を獲得できたことにより、ボヘミアでガーネットが一大産業化します。 最盛期は採掘工400人、研磨職人3,300人、貴金属職人500人、宝石商3,500人もいたそうです。 |
【参考】ヴィクトリアンの大衆向けガーネットジュエリー | ||
ヴィクトリア時代には相当な量のボヘミアンガーネットがイギリスに供給されました。王侯貴族のようにルビーは買えなくても、ガーネットならば買うことができる・・。 ヴィクトリアン後期に経済活動を牽引した、産業革命で潤った一般大衆は、王侯貴族と違って知的教養などを身につける教育は受けていませんし、優れた芸術作品を見て育ったわけでもありませんからセンスは期待できません。現代の成金と同じで、とにかく高そうに見えるのが重要です。だから上のような小さい石をただセンスなく寄せ集めて、一見豪華そうに見えるようにしたジュエリーが量産されたのです。 ヘリテイジもルネサンスも基本的には王侯貴族向けのハイジュエリー専門なので、こういう大衆向けのガーネットジュエリーは必然的に扱わないのですが、デパートのアンティークフェアに行かれるとこういう物が多いのは、ディーラーにとっては安く多く仕入れられるのが理由の1つです。ついでに言うと、高そうに見えるので高いものを扱っているように見えるというメリットがデパートにもありますし、高そうに見えるため、現代の成金向けに高値で売れるメリットもあるのです。 |
【参考】ヴィクトリアンのガーネットピアス(イギリスの某高級店で約100万円で販売) | ||
大衆の需要に応えられるだけのガーネットが供給できても、やはり大きくて色の美しい上質なものはとても稀少です。そのような石を使ったハイジュエリーも存在するので、ガーネットイコール全て安物と判断するのも誤りです。そうは言っても、ヘリテイジではハイジュエリーだからと言って何でも扱うわけでもありません。GENも「イカの足、タコの足」と嫌がるこういうデザインは私にとってもダサいですし、現代のファッションにも合わないので扱いません。ヴィクトリアンジュエリーはたまにこういう物を見るのですが、よほど流行ったのでしょうね。 |
ホルバネイスク・ペンダント イギリス 1860年〜1870年頃 カボッションガーネット、クリソライト、ギロッシュ・エナメル、18ctゴールド SOLD |
過去に扱った、ネオルネサンス・ジュエリーのホルバネイスク・ペンダントにも大きく美しいガーネットが使われていました。 ヴィクトリアンに作られたジュエリーでも、昔の優れた様式にインスピレーションを受けて制作された作品は、成金向けのつまらない物とは同じ「アンティークジュエリー」という範疇には入れたくない別格の存在です。 もちろん身につけていた人の種類、知識や教養、財力も全く異なるのです。 |
19世紀後期にピークを迎えたボヘミアンガーネットですが、現在では既に枯渇しています。 ボヘミアンガーネットに代わる重要産業として、今ではボヘミアンガラスがガーネット以上に大きな産業として育っています。 ちなみにボヘミアの土産物店で現在売られているボヘミアンガーネットのジュエリーは、別の地で採掘されたガーネットが使われているのだそうです。抜き打ちで店を検査したところ、15店舗中本物のガーネットを使用していたのは2店舗だけで、他は色ガラスだったという情報もありました。観光客相手だと責任を取らされるリスクが少ないせいか、特に海外はやりたい放題の店が多いようです。 |
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【参考】ヴィンテージのガーネットリング |
そもそもヴィンテージ以降のジュエリーは特にろくなものがありませんが、特殊な物を除いて、現代ではガーネットは安い石のイメージになっていると思います。 アンティークジュエリーでは先ほどご説明した背景から、安物の場合とハイジュエリーの場合があるので、思い込みは排除して見る必要があります。 |
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【参考】現代のガーネットリング |
非常に高価な宝石に対してのみ施されるようなハイクラスの作り
この指輪の作りを見てみると、とても高価な作りなのです。 安物のガーネットでは絶対に有り得ません。 ご覧の通り彫金もハイレベルですし、ゴールドもかなり厚みがある贅沢な作りです。 |
イギリスのアンティークジュエリーは15ctも多いのですが、このリングは刻印が示す通り18ctゴールドです。 |
さらに3石のガーネットを留める爪に、ダイヤモンドがセットされているのが分かるでしょうか。 | ||
これは当時でもかなり難しい技術で、アンティークでもよほどのジュエリーでしか見ることができません。 |
爪留めにダイヤモンドを使った同様のリング
1. 世界で最も美しいコロンビア産の極上エメラルド
コロンビア産エメラルド 5ストーン リング イギリス又はヨーロッパ 1870年頃 エメラルド(コロンビア産)、ローズカットダイヤモンド、18ctゴールド SOLD |
これは極上のコロンビア産エメラルドを使ったリングです。エメラルドの爪留めにダイヤモンドがセットされており、18ctゴールドの彫金も最上質の石に相応しい素晴らしいものです。 |
2. 天然でこれほどまでに美しい非加熱の極上ルビー
ルビー 5ストーンリング イギリス 1870年頃 ルビー、ローズカットダイヤモンド、18ctゴールド SOLD |
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鮮やかな極上の天然ルビーを使ったリングです。ルビーの爪留めにダイヤモンドがセットされており、18ctゴールドの彫金もやはりハイレベルです。 |
3 天然真珠が非常に高価だった時代の大きなハーフパール
一文字 天然真珠 リング イギリス 1880年頃 天然真珠、ローズカットダイヤモンド、18ctゴールド SOLD |
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天然真珠が非常に高価だった時代において、大きくて白く美しいハープパールを贅沢に使ったリングです。高価な天然真珠に相応しい作りです。 |
4. ヴィクトリア女王もプロモーションしたオパール
オパール 一文字リング イギリス 1880年頃 オパール、ローズカット・ダイヤモンド、18ctゴールド SOLD |
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1870年頃に植民地オーストラリアで上質なオパールが採れる大鉱脈が発見され、ヴィクトリア女王も積極的にプロモーションした上質なオパールに相応しい作りです。 |
宝石鑑別の結果
この指輪をオーダーした人物が特別ガーネットが好きだったとしても、特別大きいわけでもないただのガーネットにこれだけの細工を施すなんて考えられません。買い付け時には、ガーネットにしては明るく透明な色合いで、作りの良さだけでなく石自体も美しいと思って選んだのですが、見ればみるほど不思議になってきました。 ガーネットは宝石の中では天然のままで美しい石として有名で、他の石と間違えることもないので普段は鑑別所に出さないのですが、正体を探るべくプロに鑑別してもらいました。 |
その結果、ガーネットはオレンジガーネットであることが分かりました。アンティークジュエリーでもなかなか出会うことのない、とても珍しいガーネットです。特別なガーネットだったからこそ、当時の貴族も高価で特別な相応しいセッティングをオーダーしたのです。これで納得です!♪私が納得するために取得したこの鑑別書は、もちろん納品時にお付け致します(笑) |
オレンジガーネットは蜂蜜のような糖蜜状の組織が内包物として存在するのが特徴で、この指輪も強くライトを当ててこれだけ拡大するとインクリュージョンが認識できますが、通常光で肉眼で見た場合はほぼ内包物は見えません。オレンジガーネットの中でも赤みが強い石はシナモンとも呼ばれ、透明感が高いほど良いとされています。 |
まあでもそんな基準など関係なく、透明感のあるスパイシーなシナモンのような色合いと、甘い蜂蜜のようなトロリとした照りと質感は、宝石の詳しい知識などなくても感覚的にこのガーネットが美しく極上のものだと分かります。 |
19世紀の最高級の指輪にだけ見られる、超高度な技術が要求される極小ローズカット・ダイヤモンドでメインストーンを留める技術がわざわざ施されていますが、このダイヤモンドが高価な証というだけでなく、ガーネットの脇から時折キラリキラリと鋭い輝きを放って、とても美しいのです♪ |
一般的によく見るガーネットはパイロープもしくはアルマンディンガーネットで、どちらも黒く沈んだ色をしています。 オレンジガーネットはゴールドと色味の相性も良く、こんなガーネットもあるんだと感動しました♪ |
ベゼル(正面)の左右と、上下にも美しい彫金を施してあるのも19世紀のハイクラスの指輪の証です。 全体的に、18ctゴールドも厚みのある贅沢な作りです。 |
全体のコンディションもとても良い状態です。ジュエリーを多く持たない中産階級はヘビーローテーションするので、大衆向けに作られたジュエリーはコンディションが悪い場合が多いですが、この特別なガーネットの指輪は、ジュエリーをたくさん持ち、扱い方も分かっている上流階級の女性がたまに使っただけということでしょう。羨ましいです♪ |
イエロー系の色味を持つオレンジガーネットは、黄色人種の日本人にも肌写りが良いと思います♪ 半ばブランド化していて、誰にでも一目で分かりやすい緑色のデマントイドガーネットなどより余程希少な石なので、珍しい石がお好きな方にもオススメです♪ |