No.00190 PLATINUM |
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『PLATINUM』 プラチナの可能性をここまで引き出したのかと驚く、ありそうで絶対にない、圧倒的に細い曲線を使ったデザインが見事なペンダントです。 |
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極限まで繊細な曲線の造形美
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このペンダントの最大の魅力は、可能な限り細い線を使って表現した他にはない曲線美です。 |
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表から見たときの繊細な細さと、ジュエリーとしての十分な強度を得るために裏側は金属の土台にある程度の厚みを持たせるナイフエッジの技術は使われているものの、このような形状でこれだけ細いものは見たことがありません。 |
![]() エドワーディアン サファイア ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
例えば左は、洗練されたエドワーディアンのお手本のようだとも言える優れた作品です。 現代では不可能な華奢な見た目ながらも、ジュエリーとしては100年以上の使用に十分耐えられる強度を持つ作りです。 デザイン的に視覚効果をうまく使いながら華奢な雰囲気を出していますが、一番細い部分も『PLATINUM』ほど細くはありません。 |
![]() ダイヤモンド&カリブレカットエメラルド ペンダント イギリス 1910〜1920年頃 SOLD |
左は1枚のプラチナの板から切り出して作られた、当時としてもハイエンドの作品です。 この作品だと一番細い箇所は『PLATINUM』と同じかそれ以上に細いくらいですが、ハニカム構造など、全体として耐久性を担保できるデザインになっているので、ジュエリーとしての使用には問題ありません。
※ハニカム構造:蜂の巣のように正六角柱を敷き詰めた構造 |
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およそ100年に渡る使用に耐えて今ここに存在できているのですから、丁寧に扱えば使用上の問題はないことは時の経過が証明していますが、なぜこの造形美が実現できたのか、大変興味深く感じました。 何でもかんでもはコストも時間も手間もかかるのでやらないのですが、ピンと来て、ある仮説を思いついたので元素分析してみました!♪ |
蛍光X線による金属分析結果
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Pt: 96.08 wt%
純度961のプラチナで、割金に使用されているのは銅ということが解りました。 |
日本人のプラチナ好きはとても有名です。 そうは言っても、元々ジュエリー文化がなかった世界的に見ても例外的な民族である上、現代はファッションも多様化し、ひと昔と比べて普段からジュエリーを楽しむ人は少なくなりました。アンティークジュエリーに興味を持ち、今このカタログを見てくださっているみなさんは別格の存在として、一般的な方がジュエリーを選ぶ機会は結婚に際しての指輪選びくらいでしょうか。 |
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結婚指輪や婚約指輪は基本的には男性が買わされるイメージですが(笑)、それまでジュエリーなんてまともに見たこともない人にセンスの良い極上の選択をさせるのはちょっと無理がありますよね。 お店で相談して、とりあえず高くて無難なデザインを選んでおけば合格点はもらえるだろうという選択は至極当然の流れでしょう。 |
2016年のゼクシィ結婚トレンド調査によると、婚約指輪の素材にプラチナを選んだカップルは実に86%にのぼるそうです。 どうやってジュエリーを選べば良いのか分からない大半の日本人は、まず婚約指輪の選び方をネットで調べる人が多いと思います。どのHPにも「日本人は上品な色を好む」とか、「日本人にはプラチナの方が肌うつりが良い」とか、「プラチナの方が高級素材」だからという情報がまるでコピペ(コピー&ペースト)でもしたかのように溢れています。 一時は確かにゴールドより価格が上昇したプラチナで、そういうときだけメディアが騒ぎ立てますが、今は相場は半減していることは『至高のレースワーク』でもご紹介した通りです。 プラチナの美しい輝きはもちろん否定しませんが、ちょっと86%がプラチナを選ぶ状況は異様に感じます。エスニックジョークの1つ、沈没船ジョークを思い出してしまいました。 【沈没船ジョーク】 アメリカ人に対して・・・「飛び込めばヒーローになれますよ」 ロシア人に対して・・・「海にウォッカのビンが流れていますよ」 イタリア人に対して・・・「海で美女が泳いでいますよ」 フランス人に対して・・・「決して海には飛び込まないで下さい」 イギリス人に対して・・・「紳士はこういう時に海に飛び込むものです」 ドイツ人に対して・・・「規則ですので海に飛び込んでください」 中国人に対して・・・「おいしい食材(魚)が泳いでますよ」 日本人に対して・・・「みなさんはもう飛び込みましたよ」 韓国人に対して・・・「日本人はもう飛び込みましたよ」
婚約指輪や結婚指輪を選ぶ際も、「プラチナを選ぶ方が多いですよ」「みなさんはプラチナを選ばれていますよ」などと言われて、あまり自分の頭で考えることなく半ば義務的にプラチナの指輪を買っているんじゃないかと感じました。私も買い物に行くと「みなさん○○が人気で選ばれるようですよ」と、店員さんから聞いてもいない売れ筋助言を受けることがあります。もともと大衆向け人気商品はあまり興味がない上、国民性を利用して売りつけようとされている何だか馬鹿にされている気分になり、テンションが下がって買わずにお店を出てしまいます。カテゴリー的には私はフランス人でしょうか。でも、沈没船のシチュエーションだとどちらかと言えばロシア人やイタリア人に共感します。あ、泳いでいるのは美女ではなくイケメン希望です(笑) |
プラチナの純度と割金
プラチナもゴールド同様、そのままでは柔らかすぎるため、ジュエリーに加工する場合は割金をします。 割金の素材はパラジウムやルテニウムなどが一般的です。 |
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割金の素材や純度は用途に合わせてコントロールします。 パラジウムはプラチナと全ての組成で混ざることが可能で、合金にしてもあまり硬くならないので鋳造(キャスト)や細工用に多く用いられます。 |
【参考】ジュエリー用の樹脂の型 |
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ルテニウムはプラチナを硬くすることができるため、主に鋳造に使われます。 鋳造とは、ワックスやプラスチックで作った模型で型を作り、ジュエリーの形を形成する手法です。 |
【参考】ワックスツリー製造工程 |
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量産するためにツリー状にしたワックスの型を金型に入れ、石膏を流し入れて高温で焼成します。 石膏が固まりワックスは蒸発して空洞となり、ジュエリーの型ができあがります。 |
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【参考】樹脂を石膏の中で蒸発させて型を作り、鋳金を流し込んでジュエリーを制作する工程 | ||
できた型に、溶かした金属を流し入れて固めるだけで簡単にジュエリーができあがります。子供時代に体験した工作みたいでちょっと面白そうです!♪ |
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【参考】ダイヤモンドをセットした青い樹脂の型と出来上がった量産リング |
何と、石もこんな感じで簡単にセッティングできるようです。サラリーマン時代に工場でいろいろなモノづくりの生産現場を見てきましたが、ジュエリーもこうやって量産できるんですね。消耗品ならば量産品はありがたい存在ですが、ジュエリーには芸術性と人の心を求めたい私にとってはちょっとこれはノーサンキューです(笑) サラリーマンをやっていた頃、テレビショッピングで販売されるジュエリーを見ながら、なぜテレビで売ることができるだけの数、ジュエリーを準備できるのか不思議に思っていました。当時は興味がなかったので調べもしませんでしたが、鋳造技術を理解すると納得です。 さて、プラチナの純度ですが、日本では職人が細工がしやすくなるという理由や、硬くなって変形や摩耗に強くなるからという理由で、純度900のプラチナが多く使われています。一方で欧米では純度950の方が好まれると言われていますが、量産の現代ジュエリーはどのメーカーも五十歩百歩で大したものはありません。 安く作って、高く売りやすい宣伝文句がつけられれば何でも良いので、芸術的な素晴らしさを極めるためだけの工夫なんてものはそこには存在しません。 プラチナに銅を添加すると、硬さが増して見た目も美しくなると言われていますが、現代ジュエリーでは通常聞きません。銅を多めに混ぜると切削性と加工性が高くなるため、プラチナ850はチェーンとして加工されますが、ご紹介のジュエリーはプラチナ950よりもさらに純度が高い961です。 |
プラチナを硬くする方法
みなさんは『ハードプラチナ』という名称を聞いたことはありますか? ハードプラチナに定義はなく、各メーカー何らかの工夫をして硬くしたプラチナをハードプラチナと呼んでいます。最近ではハードプラチナよりさらに硬い『ウルトラハードプラチナ』という、凄そうな商品名のプラチナがパイロット社から販売されています。 パイロット社はこのウルトラハードプラチナで特許を取得していますが、これは実は鍛造の技術を使っています。プラチナを硬くする方法は割金だけではありません。純度999のピュアプラチナでも、何度もローラーで圧延することで金属密度を高め、耐荷重も耐摩耗性も2倍程度高めることが可能なのです。 原理的には昔ながらの鍛造と同じことなので、結局鍛造でモノづくりすれば、100年以上の使用にも耐えられるようなジュエリーは作ることができるはずです。 しかしながら、単純なデザインならばある程度の手間で済んでも、アンティークのハイジュエリーのように複雑なデザインでは作ることができません。技術はもちろんのこと、手間や時間、忍耐力などの観点から、現代の人件費ではコスト的にも無理なのです。それでもある程度の手間や技術はかかるため、すべてにクラフトマンシップが込められているそうです。 このような理由によって、鍛造による現代ジュエリーのPRポイントは美しさなどの芸術性ではなく、技術というつまらないものになってしまいがちなのです。人の手と心が籠もったジュエリーということで、デザイン的にはつまらくても高い価格で買ってくれる層がごく一部はいるのでしょうけれど、基本的にはビジネスとして成立しないので、簡単な手仕事であっても廃れていく一方なのです。 この技術がすごいから買ってとか、一生懸命心を込めて作ったから買ってと言われても、美しくもなく心惹かれないものに一生懸命働いて稼いだお金を捧げるのは無理なのです。販売する側がもっと努力すべきです。くだらないものを作って押し売りすれば、買う側が余計に離れていくのは当然です。現代ジュエリーが売れなくなったと言われて久しいですが、消費者が賢くなったのと、売る側が売れないからと余計にコストカットして酷いものを売るようになった結果だと感じます。 |
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鋳造のメリットは、デザイン設計の自由度だと言われています。 以前は、素材の強度や構造を計算して3次元に起こしていなければならなかったので、設計とは非常に難しいプロフェッショナルな作業でした。 今ではCADというコンピュータソフトを使って、誰でも簡単に実現可能な図面を引くことができます。 ただし鋳造では金属強度が弱いですから、自由にデザインできる範囲は強度が保てる範囲内です。 |
プラチナの歴史
Platina del Pinto 1735年にピント川で見つかったプラチナ塊ですが、当時の技術では"煮ても焼いても食えない"どうしようもない『ゴミ』として廃棄されました。 |
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金は1064℃で溶融可能なことに対し、プラチナの融点は1768℃もあります。 左はいかにも西洋人らしい、凸レンズを使ったプラチナ溶融の試みです。 長くなるので今回は割愛しますが、様々な技術革新や新鉱山の発見を経て、プラチナがジュエリーの一般市場に出てきたのは1905年頃からでした。 |
画期的な素材に対する姿勢
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投機にしか興味がない人にとって、価値があるのは素材だけです。 そういう人種にとっては芸術性は関係なく、それにコストがかかるならばむしろ無駄で、高い素材で作られてさえいれば良いのです。 だから、ただの輪っかでしかないプラチナ・リングが結婚指輪として成立してしまったりするのです。 |
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骨董市めぐりは好きだったので、たまにアンティークジュエリーやヴィンテージジュエリーを見る機会はあったのですが、「ダイヤモンドだから価値がある」「エドワーディアンだから買っておくべき」「金だから良いもの」「シルバーの優れたジュエリー」などと適当なことを言う店主が本当に多かったのです。 当時は『エドワーディアン』という言葉自体知らなかったのでそれは論外ですが、工業用ダイヤモンドみたいな安っぽいジュエリーをダイヤモンドだからという理由で買ったら私にとっては恥です。左の物よりもっと汚らしいジュエリーでした。 |
その汚らしいジュエリーが35万円もして驚いたのですが、「現代のような技術がない昔の時代のジュエリーは汚らしいものだし、古いジュエリー自体貴重なものだから貴重価格なのかな」と、手は出さないながらも納得していました。そんな私だったからこそ、Genのルネサンスを知った時は衝撃でした。 |
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この作品が作られた時代は、まだプラチナはとても貴重な素材でした。 どうやって扱えば良いのか、統一基準もなく技術も確立していない時代です。 でも、その貴重で無限の可能性を持つプラチナを使って、どういう芸術作品が実現でき得るのか考えただけで、当時の作者はワクワクしたはずです。 |
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その答えが、プラチナを使いこなさないと実現できない、驚異の細さと美しい曲線を使ったこの作品なのです。 プラチナを使っているからこの作品に価値があるのではありません。 プラチナのポテンシャルを最大限まで引き出さないと実現できない、この圧倒的な造形美を実現させたからこそ価値があるのです!! |
プラチナの性質を最大限生かした曲線美
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純度999のピュアプラチナは、実はプラチナと言って通常思い描くような白い色はしていません。黒っぽい色をしているため、鍛造で硬くできてもやはり色を白くするために割金が必要なのです。 プラチナ961という高純度プラチナを鍛造して作ったからこそ、この美しく極細の曲線と、100年以上の使用に耐えうる耐久性を両立することができたわけですが、それでもこれほどの高純度プラチナにさらに繊細なミルが施されているのも驚異的です。 ダイヤモンドの覆輪にはミルがありません。それによりシャープな印象になっており、曲線部分に施された繊細なミルとのコラボレーションによって、よりセンスの良い雰囲気になっているのも作者による計算尽くでしょう。 「こんなに細い曲線にもミルが打てるのだから、技術がなくてダイヤモンドの覆輪にミルを打てなかったわけではないのは明らかでしょう」と、作者が誇らしげに言っているように見えます♪ |
デザインとしてのダイヤモンド
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この作品が特別にオーダーされたジュエリーだと考えられるのは、使われているダイヤモンドの美しい煌めきからも分かります。さまざまなサイズのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドがデザイン上に美しく配置されていますが、普通のダイヤモンドに比べて正に白く輝くという感じです。一番下のダイヤモンドはペアシェイプカットなのも、オーダージュエリーならではなのです。 ダイヤモンドの価値だけで売ろうとするつまらないジュエリーはダイヤモンドばかりが目立つものです。この作品はデザインが見事で、ダイヤモンドは全体を美しく見せるためのデザインの一部に過ぎないので気づきにくいのですが、実は思いの外たくさんの数の大きめのダイヤモンドが使ってあるのです。 |
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ペアシェイプカットは無駄が多く出る、とても贅沢なカットです。 |
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一番下のペアシェイプダイヤモンドだけでなく、上の大きなダイヤモンドから下がったパーツも揺れる構造になっています。ダイヤモンドの魅力はやはり印象的な煌めきなので、揺れることでよりたくさん煌めくよう設計されているのは嬉しいですね♪ |
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一部に金が使われていますが、元はブローチ兼用で使うための金具があったからです。 現在はペンダント専用となっています。 このプラチナのフレームは高純度のプラチナが使われているため、ブローチとして使う時に弱い部分に力がかかると変形するリスクが予想されます。それを防ぐためにペンダント専用にされたのかもしれません。 この作品は耐久性を多少犠牲にしてでも実現させたデザインが魅力のジュエリーですが、約100年近くの使用でもコンディションを保っているのですから、丁寧に使えば問題ないはずです。 |
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肌の上にのせて使うのはもちろん美しいですが、現代ジュエリーでは不可能な、極限まで細いプラチナワークの美しさが引き立つよう、少し濃い色の洋服の上にのせるコーディネートもオススメです♪(画像のニットは紺色です) 古臭さを微塵も感じない、現代ジュエリーのような雰囲気がありながらも、現代ではコストや耐久力の観点から作ることができない作品です。 ぜひ、この美しくかつ貴重なジュエリーで、この作品だからこそ引き立つコーディネートを楽しんでいただきたいです♪ |