No.00191 黄金馬車を駆る太陽神アポロン |
『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』 |
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このシェルカメオは、過去44年間でトップ3に入る名品です♪素材の貝自体の美しさ、素材を見事に生かしたモチーフと彫りは、シェルでなければ不可能な見事な作品として昇華しています。天空を翔けるアポロンの黄金馬車の神々しい姿は、光にかざして楽しめるシェルカメオにぴったりのモチーフです♪ |
芸術性の高い大作シェルカメオの中でも稀にみる、神々しさ溢れた迫力あるシェルカメオです!♪ |
2つに分類できるシェルカメオ
現代ではすごい色をしたレジン(樹脂)のカメオもあったりしますが、アクセサリーとして気軽に楽しむのが目的なので、そういうレジンカメオは除外するとして、カメオの素材は主にストーンとシェルの2種類に分類されます。 商売なので、当然ながらそれぞれが自分たちの都合の良いように説明します。 昔から言われるのは、「シェルカメオはストーンカメオの代用品だから、ストーンカメオの方が高級。」という主張です。カメオを彫刻するのに適した上質な石は入手が難しく、材料自体がある程度高価と言えるため、平均的な物で比較すると高級品だったのは事実です。 ただ、現代ではカメオに使う石すらも染色・着色が当たり前で、アンティークでは有り得ないようなどぎつい色のカメオがたくさん販売されています。石の天然の色彩や模様を利用するアンティークの時代であれば、面白い色や模様を持つ石は稀少価値が高い高級素材でした。しかしながら現代では屑石でも処理して奇抜な色が出せるため、まず材料そのものに稀少価値がありません。 一方で、シェルカメオは素材として安く見られがちです。石も貝殻も天然素材であり、タダで取って来れることに変わりはありません。取ってくる人や、選別する人の人件費なども、どちらにもかかります。ただ、品質を選ばなければ、貝殻の方がカメオ用の材料を安くたくさん手に入れることができます。故に、現代のシェルカメオやアンティークの量産の安物シェルカメオに関しては素材の価値はPRできません。故に、彫りをPRします。 現代のストーンカメオの殆どは機械彫りが導入されています。他のジュエリー同様、工業製品と言えます(笑)一方で「シェルカメオは材料1つ1つに個性があり、機械では彫れず職人が手作業で彫るから価値がある」と言うのがシェルカメオ販売者の主張です。 |
【参考】シェルカメオ(現代) | 味があると言って喜ぶ人が、こういう物を買うのです。 下手かどうかはどうでも良く、機械ではなく人が彫刻していることに価値を見出すのです。 しかしながら手彫りでも、優れたデザインや彫りの良さがなければ『芸術品』とは言えません。 |
ヴィクトリアン中後期のストーンカメオ
『マット肌の美女』 ストーンカメオ ブローチ&ペンダント フランス? 19世紀後期 SOLD |
産業革命によって台頭してきた中産階級によるジュエリーの需要が高まる以前、ヴィクトリアン初期くらいまでの作品は、作られた数自体が少なく、あまり市場で見ることはありません。 アンティーク市場でよく見るのは、第2次カメオブームにおいてヴィクトリアン後期以降に作られた作品です。 この時代は上質な石は貴重だったため、ストーンカメオは基本的には一定以上の品質で作られており、シェルカメオほどは品質にバラツキがない印象です。 そうは言っても、左のハイクラスのカメオと下の低レベルのストーンカメオでは、パッと見てすぐに分かるくらい違いがあります。 |
【参考】ヴィクトリアン後期の低品質なストーンカメオ |
ヴィクトリアン中後期のシェルカメオ
偏った情報だけを鵜呑みにして頭でっかちになると理解できないのがシェルカメオです。 日本では一昔前のカメオブームで、知識がなくても見た目で分かりやすく、高値を付けて売りやすいという理由で、当時の百貨店や雑誌、ディーラーなどが「シェルカメオはストーンカメオの代用品だから安物」という触れ込みでストーンカメオを高値で販売しました。このため、シェルカメオは全て、ストーンカメオより安物というイメージが一般についてしまったのです。 実際、カメオの本場イタリアでは地中海に面した土地柄、量産するためのカメオに適した貝をたくさん採ることが可能でした。 |
【参考】ヴィクトリアン後期の低品質なシェルカメオ | |
実際、ストーンカメオの代用品として安価に作られたシェルカメオの量産品は見るに堪えない酷いものばかりです。余程酷いものは現代には遺っているとは思えませんから、実際は上のカメオよりさらに酷いものが多かったかもしれません。一方で、ストーンでは不可能な作品を作ることができるのもシェルカメオの特徴です。 |
シェルカメオならではの作品 -巨大カメオ-
『美しき軍神アテナ』 シェルカメオ ブローチ イタリア 19世紀中期 フレームは19世紀後期ぐらいの9ctゴールド 9,3cm×7,5cm 重量 39,1g SOLD |
例えばこのような超巨大な作品は、レリーフ用途ならばストーンでも存在しますが、ブローチとしても楽しめるのはシェルカメオならではです。 9.3cmもあるような巨大なカメオは、ストーンで作ったら重すぎてとても身に付けて楽しむことは不可能です。 |
シェルカメオの製作プロセス(イギリス 1850-1890年) 【引用】V&A Museum / Shell used to show the process of cutting a shell cameo © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
カメオを作るための貝にはいろいろな種類があります。海からタダでいくらでも採れるとは言っても、巨大なカメオを作ることができるような貝ともなると、当然ながら調達は容易ではありません。それこそ鉱山からダイヤモンドの原石を一生懸命に採掘し、その中から磨けば美しくなる極々僅かな数の原石を手に入れるのと同じことです(ダイヤモンドだって、山からタダで採れるという意味では同じですね〜)。 稀少な材料は、腕の良い職人の元に送られるのはごく当然のことです。だからこそ稀少な材料を使った作品は、芸術的にも素晴らしい場合が多いのです。上の『美しき軍神アテナ』も、見た者に思わず畏れを感じさせる、神々しく美しい表情の表現力の素晴らしさも納得ですよね。 |
シェルカメオならではの作品 -貝の特徴を生かしたカメオ-
『夜の女神 Nyx ニュクス』 イタリア 1860年頃 突起状ヘルメット貝 4,5cm×3,2cmz(本体のみ) 厚み2,5cm(本体のみ) SOLD |
このシェルカメオは、貝の突起を生かした感動的に芸術性の高い作品です。 デザイン、貝の生かし方、そして彫りの技術、すべてが群を抜いています。 このような表現はストーンでは到底不可能です。
見るに堪えない量産カメオと、このような驚異的に芸術性の高いカメオの両方が存在するのがシェルカメオなのです。 シェルカメオだから安物など、表面的に見て安易に断定してしまうことがいかに誤りなのかがお分かりいただけまたでしょうか。 |
王族もポートレートカメオに使用したシェルカメオ
皇太子妃アレクサンドラと皇太子アルバート(エドワード7世)のポートレートカメオ (トマソ・サウリニ 1870年)大英博物館【引用】Brirish Museum / cameo © The Trustees of the British Museum/Adapted |
これは有名作家が制作した、プリンス・オブ・ウェールズ時代のエドワード7世夫妻のポートレートカメオです。 アレクサンドラ妃のカメオの一部が欠けていますが、当時のイタリアの有名なシェルカメオ作家トマソ・サウリニに作らせたものです。 最盛期にはイタリアとフランス併せて1,500人ものシェルカメオ作家がいたと言われています。多くは大英帝国の中産階級の莫大な需要を満たすための量産職人でしたが、一部は優れた芸術作品を制作し、王族からのオーダーも受けるようなシェルカメオ作家もいたということです。 ここまで見ると、シェルカメオが必ずしも安物ではなかったことは明らかですね。 |
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プリンス・オブ・ウェールズ時代のエドワード7世夫妻 |
カメオのモチーフ
このシェルカメオのモチーフは、『太陽の馬車(日輪馬車)』とも称される黄金馬車を駆る太陽神アポロンです。ギリシャ神話の神アポロンが毎朝この黄金馬車を駆って天空を移動することで、闇を退け夜が明け、太陽の陽射しが降り注ぐとされています。 |
太陽神が4頭立ての二輪戦車カドリガに乗る姿は、紀元前から見ることができます。4頭の馬を並走させるカドリガは元は戦闘用の馬車でしたが、ギリシャ時代後期には既に戦闘用として使われることはなくなり、高貴な人を運ぶための乗り物という位置づけになっていきました。最終的には神の乗り物とされ、4頭馬車は様々な神を運ぶ姿でレリーフや銅像などで見られるようになります。 |
『カドリガに乗る太陽神ヘリオス』(紀元前300-紀元前280年) トロイのアテナ神殿よりアルテス美術館(ベルリン)に移設 "Architrave with sculpted metope showing sun god Helios in a quadriga; from temple of Athena at Troy, ca 300-280 BCE; Altes Museum, Berlin (25308440197) " ©Richard Mortel from Riyadh, Saudi Arabia/CC BY 2.0 |
これはギリシャ神話の太陽神ヘリオスです。もともとギリシャ神話には太陽神ヘリオスがいましたが、紀元前4世紀頃から光明神アポロンと習合されはじめ、メジャーな神としてはアポロンが残りました。音楽の神でもあるアポロンは、ライア(竪琴)を持つかどうかでもヘリオスと判別することができます。 |
『夜明けの女神オーロラと黄金馬車を駆るアポロン』 (コスタンティノ・セディニ 1741-1811年) |
古代ギリシャで『理想の青年』とされたアポロンは、欧米で芸術作品のモチーフとしても人気が高いです。天馬を操り大空を翔る太陽神は、神々しく迫力あるモチーフとしてピッタリですね。 |
ご覧の通り、太陽神は左手にライアを持っていることからアポロンであることが分かります。 |
稀少で上質な貝を生かしたカメオ
シェルカメオの製作プロセス(イギリス 1850-1890年) 【引用】V&A Museum / Shell used to show the process of cutting a shell cameo © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
カメオに使用される貝は様々あります。地中海で採れるものもあれば、コロニアル貝と総称される、植民地で得られた珍しい貝もあります。これは巻き貝ですね。 |
巨大ムール貝ピナ・ノビリスの殻 "Pinna nobilis shell & byssus" ©John Hill(July 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
二枚貝のムール貝も使うことがあります。 但し、レストランでよく見るあのムール貝ではありません。 地中海にのみ生息する、ピナ・ノビリスという珍しい種類の巨大ムール貝が存在します。 あまり食べたい感じはしませんが、男性の手と比較すると大きさが想像できます。 |
海藻に潜む巨大ムール貝ピナ・ノビリス "Fan mussel (Pinna nobilis" ©Arnaud Abadie(15 March 2019, 16:07:38)/Adapted/CC BY 2.0 |
個体によっては120cmの大きさになります。これならば大作で作れますね。但しこういう特殊な材料は、貝殻といえどもたくさん手に入るわけではありません。数は手に入らない、稀少性の高い良い材料は高価になります。当然、特別なハイクラスのカメオにだけ使用されます。 |
アーティスティックなカメオを彫刻できる厚みを持ち、それに加えて美しい色彩を持つシェルは、稀少価値が高い材料でした。 |
『女神ローマ』 アルミニウム・フレーム シェルカメオ ブローチ イタリア 1870年頃 SOLD |
だからこそ過去にお取り扱いしたシェルカメオを見ても、色や厚みに同じような特徴を持つシェルは全て、特別に作られたハイクラスのシェルカメオだけに使用されていました。 左の作品はフレームがアルミニウムで作られています。 いまでこそ安く手に入れられるアルミニウムですが、当時は最先端の高級素材でした。 そのようなフレームが使われていることからも、いかにこのシェルカメオが高価なものだったかが分かると思います。 |
斜めから見ると、いかに厚みがある立体的な作品かがお分かりいただけると思います。 このようなカメオはとても美しいのですが、滅多に見ることがなく、このようなシェルを調達するのがいかに難しかったかが分かります。 |
この作品は特徴的なコーラルカラーもさることながら、いろいろな角度から見ると、非常に立体的で厚みがある作品であることに驚きます。まずは迫力ある4頭の馬を正面から見てみましょう。 |
厚みのあるシェルを生かした迫力溢れる4頭馬車
これは馬車の正面側から見た画像です。なかなか画像では全てを伝えきれないのですが、この貝が如何に厚みのある美しい貝であるかがお分かり頂けますでしょうか。 |
後ろの黄金馬車側から見た画像です。4頭馬車部分がいかに厚みがあるかがお分かりいただけますでしょうか。 |
黄金馬車を曳く四頭の馬の、躍動感溢れる彫りはこのカメオの最大の見所です! この太陽神の馬車を曳く馬たちは非常に気性が荒く、アポロン以外は御することができないほどの荒馬です。一度アポロンが息子フェイトンに乞われて乗らせたところ、馬が大暴れして制御不能に陥り、天と地が大変なことになったエピソードがあるくらいです。 |
四頭の馬の顔は見つめる向きや表情もそれぞれ違いますが、前足は一斉に力強く思いっきり前に出して、全力で大空を駆け抜けている姿に彫られています!!♪なんと言う見事な彫りだと感動するばかりです♪ さらに奥から2番目、先頭を行く馬の頭にもご注目下さい。 |
実物を見ないと分かりにくいのですが、馬の頭はシェルの土台から独立して立体的に表現してあります。 |
この通り、これは先頭の馬の頭の裏側ですが、完全に土台から離れています。 |
これは真上から見た画像です。右側を見ると、馬の頭部がシェル土台から独立しています。シェルの形にベッタリ添って馬を彫刻したら、正面から見た際にもっとのっぺりした雰囲気になっていたことでしょう。 |
2次元で見たときのデザインによる迫力だけでなく、実際に立体的に作られているからこそこれだけの迫力があるのです。まさにアポロンしか操ることができない神の荒馬です!♪ |
これは真下からの画像です。神々しい厚い雲を従えて翔ける、何とも迫力ある4頭馬車です♪ |
太陽神アポロンの表現
全力疾走で大空を駆け抜ける四頭馬車に乗った、アポロンのマントが優雅に風になびく様子も巧みに表現されています。 |
『アポロン』古代ギリシャ紀元前330-紀元前320年頃の制作のブロンズ像の複製(古代ローマ 紀元前140-紀元前130年頃)バチカン美術館 | |
右のように纏っていた布が、天空を疾走する風でフワッとたなびくわけですね。天馬の荒々しさとの対比が素晴らしいです。 |
竪琴を手にする音楽と詩歌文芸の神アポロンの顔は、それに相応しい神々しさを感じる彫りです。 たった3mmしかない小ささなのに、この立体的な彫りは実に素晴らしいです。 |
上から覗き込むと、足の指まで表現していることが分かります。 細部にまでこだわり、徹底的に芸術作品として作りこまれたカメオであることが伝わってきます。 |
背景には薄雲、そして太陽神アポロンからは神々しい放射状の光が放たれています。まさにアポロン自身から放たれるその光明によって大地を照らす神ですね。 |
黄金馬車の表現
黄金馬車も非常に立体的な造形で、細部まで丁寧に表現してあります。 最上質のシェルならではの美しいグラデーションを活かした作者のセンスの良さと、技量の巧みさには感服するばかりです! |
黄金馬車の後部には男性の顔が彫刻されています。いかにも神の乗り物らしいですね。この顔の表現1つとって見ても、いかに作者の力量が高かったかが伝わってきます。 |
フレームの見事な作りは、シェルカメオの最高水準の作品『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』に相応しい出来映えです。 |
ジョージアンの繊細な金細工に匹敵するようなカンティーユと粒金、それに繊細精緻なミルまで打っているのですから驚くばかりです。 このフレームの作者の超高度な技術と想像を絶するような手間を考えれば、この『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』の美術的希少価値が如何に高いものであるか、そしてこの価格が現代のどんな有名ブランドのジュエリーに比べていかに安いかがお分かり頂けると思います。 |
ペンンダント用の金具も縒り線で作られています。 ピンだけは痛んでいたので、新しく18金で作り直しました。 |
天空の彩雲の中を翔ける、迫力ある黄金馬車。4頭の荒馬を巧みに操り、自身から放たれる光で地上を照らす優雅なアポロンの姿。このような迫力ある一場面を表現するにはある程度の面積が必要で、質感や細かな表現も含めてシェルカメオだからこそ為し得た芸術作品なのです。こういうカメオはどれだけでも飽きずに楽しく見ていられますね〜♪もちろん、パーティなど華やかな席でも自慢して使える素晴らしさです♪ |