No.00205 旅のお守り |
美しい空の色をした大自然からの恵み、ターコイズはこの広い世界の青空に通じる旅のお守り・・ |
『旅のお守り』 |
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アンティーク・ジュエリーに使われている高級な宝石ペルシャ(イラン)産のトルコ石は、現代の『トルコ石』には絶対にない魅力があります。 |
トルコ石と人間との関わり
他の宝石にはない独特の美しい色と質感を持つトルコ石は、人類との関わり合いが最も長い宝石の1つです。 |
ツタンカーメンの黄金マスク(紀元前1324年頃)カイロ博物館蔵 "CairoEgMuseumTaaMaskMostlyPhotographed" ©Roland Unger(1 January 2016)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | おそらくは古代エジプト第一王朝(紀元前3100年頃?-紀元前2890年頃?)以前にも既に知られていたとされ、ツタンカーメンの黄金マスクにも装飾の1つとして用いられています。 黄金のマスクにはトルコ石、ラピスラズリ、コーネリアン、着色ガラスが象嵌されています。 |
トルコ石の原石標本(スミソニアン博物館蔵) "Turquoise Cerillos Smithsonian" ©Tim Evanson from Washington, D.C., United States of America(17 May 2012, 15:26)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
パステルカラーの明るく鮮やかな青色を持つトルコ石は、古来より多く大文明から珍重されてきました。古代エジプトの他、アステカ、ペルシャ、メソポタミア、インダス渓谷、さらには少なくとも殷王朝以来の古代中国の統治者を飾ってきました。 |
モチェ文化の耳飾り(100-700年頃)ラルコ博物館 "Moche earrings" ©Bernard Gagnon(22 November 2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
同じ色合いの石を使っていても、デザインや細工次第で随分と印象が変わるのが美術工芸品の面白さでもありますが、どの時代、どの地域の人の心も捕らえて放さない魅力がトルコ石にはありますね。 |
貴重な宝石トルコ石
ターコイズカラーのファイアンス焼きの陶器を麻紐で編んだネックレス(古代エジプト 紀元前1981-紀元前1975年頃)メトロポリタン美術館 ©The Metropolitan Museum of Art./Adapted. | 魅力がありながらも、稀少で手に入らないのが天然石です。 量が取れなければどれだけ富と権力があっても入手不可能です。王侯貴族レベルだからと言って、欲しい物が必ず手に入れられるわけではありません。 ということで、トルコ石の模造品の歴史も古く、古代エジプトの頃から既に模造品が作られていました。 左のようなファイアンス焼きと呼ばれる陶器だったり、着色ガラスやエナメルでも作られています。 |
トルコ石 カンティーユ ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
トルコ石はかなり古い時代から採掘されていたため、このブローチが制作された時代も上質なトルコ石は相当貴重で高価なものでした。 だからこそ、このような見事な細工のカンティーユの作品にも、美しいメインストーンとして使われているのです。 |
現代のトルコ石のイメージ
【参考】トルコ石風のネックレス(現代) | エンシェントジュエリーやアンティークジュエリーでは、間違いなく王侯貴族クラスのジュエリーに使われる稀少で高価な宝石としてトルコ石は扱われていました。 でも、現代では意識していなくても、「何だかありふれた安物の石」というイメージがありませんか? 実際、ジュエリーどころかアクセサリー用の石として、安っぽい"トルコ石"が大量に出回っています。 |
古代からさんざん採掘しているので、鉱山は枯れて採れなくなる方向にしかならないはずなのに、おかしいと思いませんか?世界中の中産階級の需要を満たすことができるクラスの新たな鉱山の話なんて聞いたことありませんよね。 |
天然のトルコ石
トルコ石の小石 | 実際、天然のトルコ石は現代でも貴重なのでかなり高価です。 |
ズニ族McCRAY作 ペンダント | ところで、普通の現代ジュエリーは感覚的にピンとくるものがなくて一切買ったことがないのですが、実はインディアンジュエリーは持っています。 私が初めて買ったジュエリーが、このズニ族のMcCRAY氏が制作したチャンネルインレイの技法で作られたペンダントです。 シルバーで仕切りを作り、そこに細かくカットした石を嵌め込んで図柄を完成させる技法です。1890年頃からズニ族が発展させてきた技法で、忍耐強いと言われるズニ族ならではの精密な細工が魅力です。 この細工に感動したのと、石の面白さ、インディアンジュエリー自体への魅力を感じて手に入れました。 |
『驚異の細工:美し過ぎるピエトラドュラ』 イタリア 1860年頃 ホワイトマーブル(大理石)、アゲート、トルコ石他天然石、ルビー、天然真珠、18ctゴールド SOLD |
その後、ルネサンスで初めて手に入れたアンティークジュエリーがこのピエトラデュラ(フローレンスモザイク)でした。 なぜかどちらも宝石主体のジュエリーではない上に、ローマンモザイクでもなく、象嵌タイプのモザイクですね。 このクラスのピエトラデュラは、ヨーロッパの美術館でも見たことがないハイエンドの作品で、過去43年間で市場でも他に見たことがありません。 私がルネサンスに初めて遊びに行ったタイミングで入荷していたのは奇跡であり、運命の出逢いでした。 |
ズニ族McCRAY作 ペンダント | 初めて手に入れたジュエリーは、石自体にも興味が湧いて色々と調べたものです。 日本人の杉健一教授によって比較的新しく発見された紫色のスギライトを始め、ラピスラズリ、オニキス、コーネリアンなど様々な石がありますが、この時に調べて一番驚いたのがターコイズでした。 市場にはあれだけターコイズが溢れていますが、天然のターコイズは10〜15%に過ぎないというのです。 |
トルコ石の質とモース硬度
【参考】メキシコ産トルコ石 | インディアン・ジュエリーに使われているトルコ石はメキシコ産やアメリカ産ですが、ペルシャ産と比べて質が良くありません。 トルコ石は表面に無数の穴が空いた柔らかい石で、中にはチョーク状トルコ石と言われるようなチョーク並に脆い物まで存在します。 |
1950年代から存在するスタビライズド処理
トルコ石は元々そのような石なので、古代からワックスや油を塗って色を良くする処理技術は存在しました。長年の使用により酸化したり剥げていくので、もちろん永久的なものではありません。 現代ではスタビライズドと言われる樹脂を浸透させる半永久的な方法が、当然のように行われています。空隙に高圧でエポキシ樹脂やポリスチレンなどのプラスチック、水ガラスなどを注入して色を良くし、耐久性を高める方法です。 |
現代の低品質のトルコ石の処理 | |
【参考】処理前 | 【参考】スタビライズ処理して磨いた状態 |
エポキシ結合技術は、1950年代にアリゾナのコルボー(Colbaugh)処理施設で初めて開発されました。アメリカ産の大部分は現在この方法で処理されており、アメリカではスタビライズド処理されたトルコ石はナチュラル(天然石)として扱われます。所謂エンハンスド処理の一種とみなされており、天然の石を使って素材のポテンシャルを引き出しただけなのだからOKという理論です。 |
マンモスの牙を使ったインディアンジュエリー(マイク・ウィズリー作 1974年頃) | そんなGenに不思議なご縁をもたらしてくれたのがオランダ系アメリカ人で、日本文化にも精通する親友ハイネケンでした。名前からもお察しいただける通り、あの有名一族系の人物です。 そんなハイネケンがGenが何かやりたがっているのを見て、これを売って元手にしたら良いよと渡してくれたのがこのマイク・ウィズリーが制作したいくつかのインディアンジュエリーだったのです。 これまた日本ではインディアンジュエリーは知られていなかった時代です。 マンモスの牙を使った素材の面白さなどに加えて、独特のデザインセンスで作られたウィズリーの作品はすぐに全て売れました。 |
インディアンジュエリー(マイク・ウィズリー作 1974年頃) | マイク・ウィズリーは純粋なインディアンではなく、北欧系ヨーロッパ人との混血だったため、デザインセンスも独特の優れたものがあったようです。 この元手のおかげでGenはアンティークジュエリーを買い付けすることができました。 |
インディアン・ジュエリー作家マイク・ウィズリー(1974年頃) | この時に、Genはこの頃から既に処理されたトルコ石がたくさん出回っている酷い状況を聞いていたそうです。 インディアンジュエリーでは、トルコ石は『成長する石』として愛されてきました。 トルコ石は全ての石ではありませんが、紫外線や経年変化で色が変わる性質があります。 ネイティブアメリカンは、祖父や親から受け継いだトルコ石に起こる変化を『成長』ととらえました。石を受け継いだ若いインディアンと共に石も成長するのです。 樹脂処理された石には変化は起きません。 |
ナバホ族のトルコ石のリング | ちなみに私もナバホ族のトルコ石のリングを持っています。 年上の知人女性から譲り受けたもので、「気に入ってはいるものの年齢的に合わないから、サイズが合うならぜひ使って欲しい。」といだただいたものです。ピッタリのシンデレラ・サイズでした。 アンティークジュエリーに出逢う前にいただいたものですが、まさか同系統のジュエリーをGenも持っているとは不思議なご縁ですね。なぜか2人ともインディアン・ジュエリーにも縁があるようです。 そういうわけで、2人ともトルコ石には並々ならぬ情熱があるのです(笑) |
【参考】スタビライズ処理して磨いたメキシコ産トルコ石 | 他の宝石同様、もはやはっきりとした処理石の実態は掴むことができません。 樹脂浸透させたトルコ石はプラスチックのように加工しやすいらしいのですが、せっかく成長するトルコ石が成長しなくなるなんて、殺されてしまった石のようにも思えてしまいます。 |
氾濫するその他のトルコ石の模造品
価値観によっては、天然石を使っているのだからスタビライズド処理された石もギリギリOKという方もいらっしゃるかもしれません。でも、そういうレベルの処理に終わらないのが現代ジュエリーです。 透明な樹脂を浸透させるだけでも色艶が良くなりますが、浸透させる樹脂を着色してより鮮やかな色にするスタビライズド処理も存在します。トルコ石を粉砕し、再び樹脂で練り固めた物も"トルコ石"になります。原料は"天然のトルコ石"です。練り固めるための樹脂に色を付けておけば、色鮮やかな"トルコ石"にもなります。 |
ハウライトを着色したトルコ石の模造品 "Howlitte - turkenite" ©Didier Descouens(14 February 2011)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
全く別の石を着色した物も存在します。ハウライトなどの白い石が使われる場合が多いです。トルコ石ではありませんが、一応原材料は天然の石ですね。 |
【参考】トルコ石風の着色ハウライト・イヤリング(現代) | これもハウライトをターコイズ・ブルーに染めたものです。 ハウライトも天然石ならではの模様があるため、着色すれば、いかにもスパイダーウェブが入った人気の高いトルコ石のようになります。 |
染料が移ったハウライトのパーツ(右) |
ハウライトを漂白してからターコイズブルーの染料で染めるのですが、左右のイヤリングを比較すると、右側の白いハウライトのパーツは染料が移って中途半端に染まっていますね。 |
ズニ族McCRAY作 ペンダント | 私が持っているペンダントのモザイクの一番下のトルコ石にもスパイダーウェブが入っていますが、美しいスパイダーウェブが入ったトルコ石は、アメリカでは一番評価されており高価です。 天然石、パワーストーン屋にゴロゴロ転がって安値で販売されている石が本物のスパイダーウェブ入りのトルコ石であるわけがありません。 |
【参考】樹脂&木製ビーズのネックレス(現代) |
もはや天然の石ですらない、ターコイズブルーの樹脂もトルコ石風アクセサリーでたくさん使用されています。それらしい模様を出すのも簡単ですし、どんな色でも形でも自由自在です。 これだけ様々な模造トルコ石の技法が存在し、世の中に溢れかえっているからこそ、トルコ石には美しくない安物のイメージが付いているのです。トルコ石好きの私としては憐れでなりません。 |
昔は高級な宝石だったトルコ石
トルコ石のパリュールを着けたフランス皇后ジョゼフィーヌ(1812年) |
ペルジャンターコイズはフランス皇妃のパリュールにも使用されるほど、高く評価されていた宝石です。均一で美しい色を持つペルジャンターコイズは、まさに皇族女性に相応しいものです。ダイヤモンドのように華やかに煌めくことはなくても、この色だけで存在感は十分にあるのです。 |
イギリスのマーガレット王女(スノードン伯爵夫人)(1930-2002年) "Princess Margaret" ©David S. Paton(Unknown date)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | エリザベス女王の妹で、そのとびきりの美しさで元祖ファッションリーダーでもあったマーガレット王女も、ペルジャンターコイズのパリュールを若い頃から愛用していました。 正装の際はティアラからネックレス、ピアス、ブローチまでフル装備しますが、TPOに合わせて単独でコーディネートすることもあります。 代々伝わるジュエリーを所有し、本来のジュエリーの価値を理解している王侯貴族にとっては、現代でもペルジャンターコイズは価値ある宝石なのです。 |
ペルジャンターコイズ リング フランス 1880年頃 SOLD |
ペルシャ産のトルコ石が枯渇していなかった時代は、このような均一な色の石が正当に評価されていました。 |
【参考】現代の「トルコ石」のリング | |
アメリカやメキシコ産でも、スパイダー(マトリクス)の入っていない青一色のトルコ石も存在しないわけではありませんが、今では安くて大粒の物はほぼ100%練り物か別の石のようです。パーツとして使うビーズ類はほぼ100%樹脂加工されているそうです。 |
着色による鮮やかな石を見慣れた現代人には、人工処理された石の方が美しく感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。 1950年代からの無色の樹脂による処理ですら、色鮮やかさは増します。 トルコ石は専門家であっても見分けるのが難しい場合があり、破壊分析したり、専門の装置がないと判断できないこともあるようです。 いずれにせよ、上質な物を手に入れようと思うと、トルコ石もアンティークジュエリーを選ぶのが正解という結論に至ります。 |
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【参考】現代の「トルコ石」のリング |
ブレスレットのトルコ石
このブレスレットの大きなボールには5個、小さなボールには4個づつのトルコ石が付いています。アンティークジュエリーらしい、360度どこから見ても美しい作りです。 |
ボール型のパーツは、どこから見てもブルーかグリーンのトルコ石が見えます。 |
空色のターコイズブルーからグリーンに変わった石もありますが、これこそおかしな処理が施されてない天然のペルジャンターコイズの証でもありますし、百年以上もの時を経たアンティークジュエリーの魅力とも言えるのです。 |
ラティスワーク ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
以前、同様に小さなペルジャンターコイズを複数使ったブローチを扱ったことがあります。 この作品もトルコ石が一部変色しているのですが、この自然が生み出した色のグラデーションが、まるで計算されたデザインのようになっており、全てが同じ色だった頃よりも美しいのではないかと感じたことを思い出します。 |
好みに依るとは思いますが、石が全て同じ色だったら今のこのブレスレットと比べて、デザイン的にはちょっと面白みに欠ける雰囲気になってしまうと思うのです。 |
ボールはとても小さいものですが、拡大してみると細かな模様が彫金されているのが分かります。 肉眼で見た時のゴールドの繊細な輝きはこの彫金のおかげなのですが、どのようにして作られたのかは分かりません。 見たことのない、珍しくて個性的な細工です。 |
ペルジャンターコイズはとても小さいにも関わらず、どの石も丁寧に綺麗に留められています。 良いものとして作られたことが端々から伝わってきます。 |
全部で六個ものゴールドのボールが付いた、贅沢でセンスの良いブレスレットです。 |
地域によって好まれる色は様々で、現代のアメリカではスパイダーウェブが入ったものが高く評価されていますが、チベットやモンゴルだと緑の色調のものが好まれてきたそうです。 翡翠よりさらに深い緑へと成長したトルコ石も、見ていてとても魅力があります。 |
このブレスレットの石を見ていると、トルコ石が成長する石であることがよく分かって楽しいです♪ |
このブレスレットが作られた1880年頃は、ちょうど船旅による世界一周旅行にも行けるようになってきた頃です。 ヨーロッパでは強盗に狙われぬよう、長期旅行で豪華すぎるジュエリーを持ち歩くことはありません。 小さいながらもとても作りの良いものなので、普段はハイクラスの豪華なジュエリーを着けていた人物が、旅のお供に、お守りのような感じで着けたりしたのかなとも思います。 |
Life is a journey. 旅行のお守りとしてというより、人生の長い旅路のお守りとして、1つ普段使いしやすいトルコ石ジュエリーを持つのもとてもオススメです。 良いジュエリーは良い出会いを運び、人生をより豊かな方向へ導くお守りとして確かに力を発揮してくれるのです。 |
その他のペルジャンターコイズのジュエリー