No.00334 鷹の眼×虎の眼 |
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『鷹の眼×虎の眼』 46年間で初めて見る、ホークスアイという黒い石を使ったコンパス・ペンダントです!♪ |
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ホークスアイの黒地に時折浮かび上がる、上質なタイガーズアイのようなゴールデンカラーも美しく、見ているだけで楽しい宝物です。科学の時代、イギリス貴族が船舶用コンパスの改良で特許を取得し、上流階級にコンパスが流行した時代ならではの、知的でロマンあふれる最高級コンパス・ペンダントです。 メンズ・ジュエリーとして作られたからこその上質な作りも魅力です。女性でも違和感なくお使いいただける、小ぶりで上品なサイズです。方位を知るために、使って楽しめるのも良いですね♪♪ |
この宝物のポイント
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1. ロマンと知性を感じるメンズ・ジュエリー
現代と違い、便利なGPSやスマートフォンもない時代。 太陽や月、星の位置を利用して方角を知ることができない、悪天候に見舞われた不安な時でも、地磁気を利用して方位を指し示してくれるコンパスは、大いなる冒険の旅での強い味方です。 ロマンと知性を感じるコンパスのジュエリー!♪ 19世紀後期から20世紀初頭にかけて流行しているのですが、これには理由があります。 |
1-1. イギリス貴族とコンパスの発明
1-1-1. 初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン
初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン(1824-1907年) | HERITAGEで何度かご紹介しております、初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソンが関係しています。 貴族になるには2種類の方法があります。 最も多いのが、父親から爵位を継ぐこと。 もう1つが、何らかの国家レベルの功績を上げて叙爵することです。 『初代』と言うのは、本人が並々ならぬ功績を上げたことを意味します。 |
イギリス王チャールズ1世の肖像画 | |
イギリス王チャールズ1世(1600-1649年) | イギリス王チャールズ1世(1600-1649年) |
国にとって存亡に関わったり、途方もない豊かさをもたらしたりするような"国家レベルの功績"と言うのは時代によって内容が異なります。古い時代は武功が重要でした。だからこそ、とにかく強い者が重視され、武功によって騎士や貴族などの爵位が与えられてきました。 |
初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン像 | 世界に先駆けて産業革命を経験し、中産階級が力を付けた19世紀のイギリスで国家レベルの功績を上げたのは『科学』でした。 大学教授の家庭に生まれたウィリアム・トムソンは、優れた科学の功績によって男爵となりました。 |
頭脳明晰なトムソン家 | |
父ジェームズ・トムソン(1786-1849年) | 兄ジェームズ・トムソン(1822-1892年) |
優れた才能が遺伝するとは限りませんが、ウィリアム・トムソンはめちゃくちゃ頭が良い家系だったようです。 父ジェームズはスコットランド系アイルランド人の農家の生まれでしたが、教師として働く傍ら独学(!)でグラスゴー大学に入学し、ベルファスト大学の教授になりました。 トムソンは兄ジェームズと共に、その父から家庭で教育を受けました。幼い頃から神童ぶりを発揮していたトムソンは、兄と共に僅か10歳でグラスゴー大学への入学を許可されました。 兄ジェームズは1839年、17歳で極めて優秀な成績でグラスゴー大学を卒業し、工学者・物理学者として活躍しています。現代の日本だと大学に入学すらしていない年齢で、凄いですね。 |
グラスゴー大学教授となったウィリアム・トムソン(1824-1907年)22歳 | ただ、弟ウィリアム・トムソンはさらに驚異的です。 1841年からはケンブリッジ大学で学び、4年後に次席で卒業しています。 1846年には22歳の若さでグラスゴー大学の教授になりました。 神童が大人になって凡人化する話はよく聞きますが、ウィリアム・トムソンは80代まで活躍し続けたため、その実績も無数に存在します。 |
1-1-2. 【ナイトの叙爵】大西洋横断電信ケーブル敷設成功
1858年の海底ケーブル |
無数に存在するウィリアム・トムソンの功績の中で、特に大きな功績の1つが1866年に成功した大西洋横断電信ケーブルの敷設でした。 科学的な話はマニアック過ぎるので割愛しますが、これが成功するとどう良いのかと言うと、モールス信号を使って一瞬で通信できるようになるのです。 手紙や伝令を使った場合と比較すると、情報の伝達スピードは桁違いです。それこそ戦争や金融など、国家の存亡や莫大な富の取引などの場面では、とんでもなく有利になります。 |
海底ケーブル敷設に使用された英国軍艦アガメムノン |
大西洋横断ケーブルの敷設は1857年から行われました。何度も失敗し、1866年の5回目のトライでようやく成功しています。 ケーブルが切れてしまったり、絶縁不良で通信ができなくなったりと、幾多の困難に見舞われました。その中には科学者ウィリアム・トムソンが予め指摘していたものもあったのですが、主任技師らから「学者の作り話」と否定され、予想通りの失敗に終わったケースもありました。 主任技師は解雇され、ウィリアム・トムソンが後任となりました。ウィリアム・トムソンはあらゆる事態を想定し、綿密な研究や実験を重ね、さらにはより正確な水深を測定する機械(ケミカルチューブ)も発明して生かすなど、その傑出した頭脳を駆使して敷設成功に導きました。 個人レベルで無線通信が当たり前となった現代では、これがどう素晴らしいことなのか想像しにくいかもしれません。どのように利用されたのか、少しご紹介しておきましょう。 |
1-1-3. 電信ケーブルによる実績
大西洋横断電信ケーブルを使った通信(1858年) | |
ヴィクトリア女王(1819-1901年)40歳頃、1859年 | 第15代アメリカ合衆国大統領ジェームズ・ブキャナン(1791-1868年)任期:1857-1861年 |
実はたった2ヶ月で壊れて使えなくなっていますが、1858年の3回目の敷設で1度イギリスとアメリカ大陸がつながっています。 当時39歳だったヴィクトリア女王からアメリカのジェームズ・ブキャナン大統領に98語の祝電が送られました。このメッセージは16時間半かかって届いたそうです。有線ですからね。それでも画期的なことでした。 |
インド大反乱(セポイの乱)(1857-1859年) |
この時期、イギリスはインド大反乱を抑えるためにカナダから軍隊を派遣する計画がありました。しかしながら戦況が変化したことで、その必要がなくなりました。そのことを電信ケーブルでカナダに伝えることで、軍隊の輸送費5万ポンドを節約することができました。 このように、電信ケーブルは国家レベルで大きな影響を及ぼせる存在となったのです。 電信ケーブルの本格的な運用が始まると、ロンドンとニューヨークの株式取引所の通信にも活用されるようになりました。 1858年、ヴィクトリア女王からブキャナン大統領宛に、初回に16時間半もかかっていた電信ですが、実は内容の確認のために直後に同じメッセージを送り返した電信は67分で受信しています。これは受信の方式が違ったためです。 |
グラスゴー大学教授となったウィリアム・トムソン(1824-1907年)22歳 | 後者はウィリアム・トムソンが大西洋横断電信ケーブルの受信のために発明した、ミラーガルバノメーター(鏡検流計)を使用したため、高速通信が可能だったのです。 この時はトムソンに大きな権限が与えられていなかったため、この受信機が正式採用されていなかったのです。 その後、トムソンは主任技師となって1866年にケーブル敷設を成功させ、1867年にミラーガルバノメーターの欠点を改良したサイフォンレコーダーも発明しました。 次々と発明して突き進んで行きますね〜。天才すぎます! |
高速通信も可能となり、ロンドンとニューヨークの株式取引所では、取引時間中に交わされる電報は1時間あたり25,000語に達したそうです。 |
1-1-4. 世界をつなげイギリスの優位性を作った海底ケーブル
1901年の海底ケーブル |
陸上と違い、海底に電信ケーブルを敷設するのは困難なことです。1866年の大西洋横断電信ケーブルの敷設成功によって技術を確立したイギリスは、1870年にロンドンからインド、1902年に太平洋を横断する電信ケーブルを敷設し、当時の大英帝国の植民地を結ぶ巨大ケーブル網(All Red Line)を完成させました。これにより、イギリスは情報伝達面に於いて圧倒的な力を得ました。 他国も続いたのですが、イギリス企業に買収されたり、増設したケーブルは途中でイギリスのケーブルを経由しなければならず、通信内容がイギリスに筒抜けという状況となり、しばらくは大英帝国の優位が続きました。 |
ウィリアム・トムソン(1824-1907年) | 42歳だったウィリアム・トムソンは大西洋横断電信ケーブル敷設成功の功績で、ヴィクトリア女王からナイトに叙せられました。 その後、海底ケーブルによるグローバル・ネットワークを築くための計画や建設に関する2つのコンサルティング会社の共同経営者にもなり、莫大な富を得ました。 |
1-1-5. 天才トムソン卿の海洋への興味
海底ケーブル敷設船として使用された当時世界最大の蒸気船 『グレート・イースタン』(1866年7月) |
海底ケーブルの敷設では英国軍艦アガメムノンや、当時圧倒的な世界最大を誇った蒸気船グレート・イースタンが使用されました。 突然大金持ちになっても、お金の良い使い方が分からない方が普通でしょう。成金的な振る舞いでバカにされる人がいる一方で、必要以上にお金を使わずに『ケチな暴君』と揶揄される人もいたりします。まあ、普通の人にはそこまでの富を得ること自体が困難ですが・・(笑) ウィリアム・トムソンは海洋全般に興味を持ちました。海底ケーブルの成功によって得た莫大な富で、広大な領地などに加えて126トンのヨットも購入しています。 |
『グレート・イースタン』(チャールズ・パーソンズ 1858年) |
広〜い海。 海洋で使用されていた磁気コンパスには、誤差や故障がつきまといました。陸上と違い、波による一定しない揺れが存在します。19世紀になってからは、船体に木材ではなく鉄などの金属を使う船が普及し始め、その金属が磁石に影響するようになったのも問題でした。このような、船舶用コンパス独特の技術的困難に、ウィリアム・トムソンはその明晰な頭脳で挑みました。 |
1-1-6. 天才ウィリアム・トムソンによる改良コンパスの発明
コンパス・システムでも特許を取得したウィリアム・トムソン | |
初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン像 | 背後にあるのがビナクル |
ここでも科学的な話はマニアックなので割愛しますが、自差修正装置ビナクルの改良により、コンパス性能の大幅な改善に成功しました。 |
ケルヴィン卿の海軍コンパス "Sir Lord Kelvin Mariner's Compass with Sun Dial" ©Yoram Shoval(30 December 2016)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
1880年代にウィリアム・トムソンは新しいコンパス・システムで特許を取得し、イギリス海軍に採用されました。その後も少しずつ改良が重ねられ、全世界で利用されました。 |
グラスゴー大学の自然哲教授としてのケルヴィン男爵を祝うクライド川クルーズ(1896年) "Jubilee of Baron Kelvin. Photograph by Maclure, Macdonald & Wellcome V0028635 (cropped) " ©Wellcome Collection gallery(2018-03-30)/Adapted/CC BY 4.0 |
これらの功績によってウィリアム・トムソンは1890年には王立協会会長に就任し、1892年には初代ケルヴィン男爵に叙せられました。1896年にロイヤル・ヴィクトリア勲章を授与、1902年にメリット勲位を授与、1904年にグラスゴー大学総長に就任しています。 外国からも様々な勲章を授けられており、1873年にブラジルの帝国薔薇勲章、フランスのレジオンドヌール勲章は1881年にコマンドゥール(司令官)、1889年にグラントフィシエ(大将校)を授与、1884年にプロシア騎士団プール・ル・メリット勲章、1890年にレオポルド勲章を授与しています。1901年には日本の勲一等瑞宝章(※旭日章と記載された公式文書も存在)も授かっています。 業績多数、授かった栄誉も多すぎて、何をどう褒めたら良いのか分からなくなるほどですね。 |
スウェーデン統治下のノルウェーの科学者・探検家・国際政治家でノーベル平和賞も受賞した フリチョフ・ナンセン夫妻を自宅でもてなすケルヴィン男爵夫妻(1897年) |
そういうわけで、現代の殆どの日本人にとっては"知らないオジサン"ですが、当時は誰もが知っているような世界的有名人だったのです。 優れた業績を生み出し続ける超天才。自分の能力によって大富豪となり、男爵の地位も得て、有名大学や王立協会のトップを務めるほどの才能もあり、外国からも評価されまくるイギリス紳士。まさに、当時の男性たちの憧れの存在だったのです。 |
1-2. 19世紀後期から20世紀初頭に流行したコンパス
フリーメイソンの地球儀&コンパス内蔵 ペンダント イギリス? 19世紀後期 SOLD |
『黄金の羅針盤』 コンパス ペンダント バーミンガム 1897年 SOLD |
2カラー・ゴールド コンパス・ペンダント フランス 1910年頃 SOLD |
オシャレなコンパス・ペンダントは、19世紀後期から20世紀初頭にかけて流行しました。 |
ジェームズ・クックが使用したのと同タイプとされるコンパス(18世紀) "Compass, marine (AM 1932.215-1) ©Auckland Museum/Adapted/CC BY 4.0 |
コンパス自体は古くからあるテクノロジーです。コンパスの改良によって航海術が著しく発達したことで、大航海時代が始まりました。 故に、19世紀後期の人々にとってコンパス自体は決して目新しいものではなかったはずです。 |
それなのになぜこの頃にコンパスのペンダントが流行したのかと言えば、当時の男性の憧れの存在、ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソンの関連アイテムだったからなのです。 ケルヴィン男爵のようにヨットを所有し、コンパス・ペンダントでオシャレをしてロマン溢れる船旅に出たイギリス紳士もいたでしょうか・・。 |
4,500tクラスのクルーズ専用船『プリッツェリン・ヴィクトリア・ルイーズ』 (ハパック社 1900年建造・就航) |
蒸気船が発達し、優雅なクルーズ船や豪華客船による船旅にも注目が集まった時代。 コンパス・ペンダントはロマンに溢れ、財力のみならず知性をも象徴する、最高にカッコ良いメンズ・ジュエリーだったのです!♪ |
2. 珍しいホークスアイのジュエリー
2-1. ホークスアイとは?
このコンパスはホークスアイという石で作られています。 46年間で初めてご紹介する、アンティークジュエリーの中でも珍しい石です。 和名は鷹目石で、青虎目石と呼ばれることもあります。 虎目石、タイガーズアイならば聞いたことがある方も多いと思います。 |
タイガーズアイ 蜂ブローチ フランス? 1880年頃 SOLD |
実際、タイガーズアイのハイジュエリーはこれまでにもいくつかご紹介してきました。 |
タイガーズアイ(虎目石) | ホークスアイ(鷹目石) |
"Falkenauge - Hawks eye" ©Ra'ike(30 November 2007)/Adapted/CC BY 3.0 | |
タイガーズアイは、天然繊維クロシドライトに石英が染み込んで硬化した鉱物です。クロシドライトは鉄を含有しており、鉄の酸化度合いによって色が変わります。 鉄の錆びた色が黄金から茶褐色の色として現れ、タイガーズアイと呼ばれる石になります。 鉄分が殆ど酸化せず、本来の灰青色を保ったままの石がホークスアイと呼ばれます。 酸化度が異なるだけの石というわけですね。故に、ホークスアイもタイガーズアイ同様、シャトヤンシー効果(変彩効果)と呼ばれる、独特の光の筋が浮かび上がります。 |
レッドタイガーズアイ | この他、人工的に熱処理して赤色にしたレッドタイガーズアイ(赤虎目石)や、タイガーズアイを熱処理して塩酸に浸し、淡黄色にしたキャッツアイ(猫目石)そっくりにしたブリーチ・タイガーズアイ(抜き虎)なども存在します。 ブリーチしたものをさらに染料で着色したダイド・タイガーズアイ(染め虎)など、いかにも現代のパワーストーンや宝石市場にありがちな人工処理石もたくさんあります。 気を衒ったものが好きな人は「珍しい!」と飛びつきそうですが、ちょっとそういうのはパワーもなさそうで私は嫌です(笑) |
ホークスアイの持つ、鉄由来の天然の漆黒の色味は何とも知的で魅力があります。 |
オモテ | ウラ | ||
この宝物は両面が同じ作りで、裏表はありません。便宜的にオモテ・ウラとしています。斜めに入ったクロシドライト(天然繊維)の方向で、それぞれ別の面であることがお分かりいただけると思います。 光の当たり方によって、驚くほど豊かに表情が変化します。手元で眺めているだけでも楽しい宝物です♪ |
2-2. センスを感じるホークスアイとコンパスの組合せ
2-2-1. アンティークジュエリーとして珍しい石
このコンパスを買い付ける際、イギリス人ディーラーはタイガーズアイのコンパスと言っていました。 シャトヤンシー効果があって、アンティークジュエリーに使われている石と言えば、キャッツアイかタイガーズアイくらいしかありません。 キャッツアイでなければタイガーズアイだろうという感じで、「タイガーズアイのコンパス」と言ったのだろうと思います。 |
本場イギリスで何十年も仕事をしているイギリス人ディーラーにとってすら、大変珍しい石が使われていると言えるのです。 |
2-2-2. タイガーズアイのジュエリー
タイガーズアイ バタフライ ブローチ イギリス 1870〜1880年頃 SOLD |
19世紀後期は、タイガーズアイを使ったハイジュエリーもいくつか存在します。 |
タイガーズアイ 蜂ブローチ フランス? 1880年頃 SOLD |
ハイジュエリーの場合、タイガーズアイを使ったものは、石の特徴を生かしたデザインで作られているのが楽しいです♪ |
タイガーズアイ 蜂ブローチ フランス 19世紀後期 SOLD |
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ちょうど象徴主義(シンボリズム)を反映した昆虫モチーフのジュエリーが流行しており、人気のあった蝶や蜂などの表現にタイガーズアイが使用されています。 この蜂も相当な高級品として作られており、石のアーティスティックな使い方はもちろんのこと、圧巻の立体造形や精緻な作りが見事です。 |
2-2-3. 意図して使用されたホークスアイ
【参考】安物のタイガーズアイ・コンパス | |
同年代に作られたとみられる、タイガーズアイの安物のコンパス・ペンダントも存在します。安物と高級品の違いについての詳細は、後ほどご説明いたします。タイガーズアイだから安物、ホークスアイだから高級というわけではありません。 |
タイガーズアイを使った高級なコンパスも作ることは可能だったはずですが、これは意図してホークスアイが選ばれています。 ここからは想像するしかない部分ですが、方角を教えてくれるコンパスと、大空から俯瞰的に地平を観察する鷹の目(ホークスアイ)を掛けて、虎の目(タイガーズアイ)ではなくホークスアイを選んだのではないかと思います。 |
虎視眈々。 昔からコンパスは存在しました。ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソンの発明は、誤差が少なくより精度が高くなったことが特徴でした。 より正確に方角が分かる、鷹の目のようなコンパス。 |
世界初の本格的な有人飛行を行った飛行機 『ライトフライヤー号』(ライト兄弟 1903年12月17日) |
時代はちょうど飛行機の開発に注目が集まっていた時期です。大空を自由に飛ぶ鳥たちへの憧れ。 |
ブレリオXI クラバットピン フランス 1909年 SOLD |
大空から見る景色は一体どんなだろう・・。 |
隠しロケット付き ペンダント フランス 1906年 SOLD |
飛行家アルベルト・サントス・デュモン(1873-1932年) | |
そのような憧れは、当時の上流階級の男性が使っていたメンズ・ジュエリーにも現れています。 |
ホークスアイは、まさに時代を反映した、ハイクラスのメンズ・ジュエリーらしいチョイスだと感じます。 これを見て気づいた当時の男性たちは、「うわぁ〜、頭が良い!センス良いなぁ!」と思ったことでしょう。 男性の場合、こういうのは同性に褒められる方が嬉しいからこそ、異性よりも同性を意識した知的で上質な部分にお金をかけている場合が多いのです。 メンズジュエリーの面白さの1つです♪♪ |
3. 高級品らしい作り
ホークスアイやタイガーズアイは半貴石です。 実際のところ貴石と半貴石の定義ははっきりしておらず、これらに明確な区別はないのですが、ホークスアイのような石は、稀少価値の高い石とは異なる使い方ができるのが魅力です。 |
【参考】安物のタイガーズアイのジュエリー | |
ホークスアイのジュエリーは滅多にないのでタイガーズアイを参考にしますが、安物の方向性はいつの時代も同じです。石さえ付いていれば、石が大きくさえあれば良いのです。デザインにも、石の品質にも意識が行きません。安物は概して石頼りのつまらないデザイン、つまらない作りです。 どの時代でも共通しているため、こういうジュエリーは中古なのかヴィンテージなのか、それともアンティークなのかも分かりません。アンティークだったとしても、つまらない安物なのでHERITAGEではお取り扱いしません。 |
高級品の半貴石の使い方の2つの方向性 | |
石の模様を生かすデザイン | 面白いカットを施す |
タイガーズアイ 蜂ブローチ フランス 19世紀後期 SOLD |
タイガーズアイ・カメオ ピン イタリア 19世紀 SOLD |
石そのものが特別高価ではない場合、上流階級のためのハイジュエリーに使用する時は2つの方向性があります。もちろんどんな石でも良いわけではなく、半貴石であっても質の良い石を使うことは大前提です。 1つは蜂ブローチのように、石の模様や質感を生かしてデザインすることです。石には個性があり、模様や質感は唯一無二です。それ故に、デザインに合う"理想の石"を探し出すのは思いのほか難しいです。ダイヤモンドより高価な半貴石はいくらでも存在します。半貴石と呼ばれる石でも、この手間の部分に案外お金がかかっていたりするものなのです。 もう1つは、贅沢にカットすることです。稀少性が高く、高価な石の場合、無駄が多く出るカットは現実的ではありません。多少のカットを施すことはあっても、そのものを芸術作品として楽しむような芸術性の高いカットはやりません。 |
3-1. 特別なカットの石
この宝物は、カットの面白さがポイントの1つとして作られています。 |
直線が1つもないエレガントなフォルムが、ヨーロッパの古き良き時代の上流階級らしさを感じさせます。 上下で異なるデザインなのも魅力です。 |
コンパスを内蔵しているのである程度の厚みがありますが、表裏共に面取りされているため、持った時に実際よりも薄く感じます。持った感触も良いです。 |
無骨になり過ぎないためのデザイン上の配慮ですが、複雑な形状への正確な面取り加工からは、作者の高度な技術も伝わってきます♪ |
オモテ | ウラ |
両面、全く同じに面取りカットされています。当時はメンズジュエリーとして、ウォッチチェーンに下げて使ったりしたと考えられます。どちらの面が見えても良いデザインですが、手間もお金もかかる贅沢な作りとも言えます。持ち主の高い美意識の現れでもあります♪ |
3-2. スケルトンの表裏がない作り
このコンパスは表裏のどちらも使えるだけでなく、スケルトンになっていることも大きな特徴です。 |
『黄金の羅針盤』 コンパス ペンダント バーミンガム 1897年 SOLD |
以前ご紹介したコンパスもスケルトンのデザインがありましたが、これは特別に作られた高級既製品だからこそです。 |
【参考】安物のタイガーズアイ・コンパス | |
スケルトンではないから安物とは言えませんが、安物はわざわざ手間や技術を必要とするスケルトンで作ることはありません。 |
当然、表裏のない作りもなっていません。石をくり抜いてコンパスを嵌め込んだだけの、簡単な作りです。石のカット自体も単純で、デザイン的な面白さもありません。 |
スケルトンの作りはGenも大好きな『アールクレール』、透明な芸術とも共通する魅力があります。 美しさとオシャレさを感じさせてくれます。 |
ただ、石を使ってスケルトンの作りにするのは大変だったはずです。先の安物のように、くり抜いて嵌め込むのと違い、石の厚みを精密にカットする必要があるからです。石で作る場合、潰して再加工できる金属と違って失敗が許されません。より高度な技術が必要とされます。お金には糸目をつけず、相当なこだわりを持って作られたことは間違いありません。 |
スケルトンの作りだと、着用する衣服の色によって雰囲気が変わるのも楽しいですね♪ ところで今回の宝物は東西南北の表示がEOSNとなっています。『黄金の羅針盤』のEWSNとは異なることにお気づきの方もいらっしゃるでしょうか。 |
2カラー・ゴールド コンパス・ペンダント フランス 1910年頃 SOLD |
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『黄金の羅針盤』は英語表記ですが、今回の宝物はフランス語表記になります。 上流階級の共通語はフランス語でした。故に、イギリス貴族のオーダー品でもカッコつけてフランス語で作ることはしばしばありました。現代のイギリスでも、フランス語を話せるとモテるそうです。Genの知り合いのイギリス人がそう言っていました(笑) この宝物がフランス製なのか、敢えてフランス語表記で作らせたものなのかは分かりません。ホークスアイの渋い色合いはイギリス人好みのようにも感じますが、謎は謎のまま、想像の余地があることもアンティークジュエリーの楽しさだと思っています♪ |
3-3. 模様の美しい上質な石
安物は、質の良い石は使いません。同じ種類の鉱物であっても、上質な石ほど稀少性が増し、その価値は指数関数的に跳ね上がります。これはダイヤモンドやルビーなどの宝石でも同じです。研磨目的で使われる工業用ダイヤモンドや、エメリーボード(爪磨き)などに使用されるルビーはタダみたいなものです。 |
【参考】安物のタイガーズアイ・コンパス | |
模様や質感を特徴とする鉱物の場合、感覚的に美しい、あるいは面白いと思えるものが"上質"と言えます。また、欠陥がないものほど上質です。でも、面白さと欠陥のなさを備えた石を天然石で見つけるのは大変です。たくさんの石の中で、そのような特徴を持つものは非常に稀です。だからたとえ半貴石であっても、上質なものは稀少価値が高いのです。 故に、安物はろくに選びもしていないような、汚い石しか使われません。ただ、石が使われてさえいれば満足するような顧客が対象なので、それで成立します。美意識が高い人は、これでは満足しません。 |
【参考】ホークスアイの現代の装飾品 | |
アクセサリー | ジュエリー |
ホークスアイ アルテミシア・リング(ショーメ) £133,000-(約2,086万円、2022.2.18現在) 【引用】CHAUMET PARIS/ARTEMISIA RING HAWK'S EYE ©CHAUMET |
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ホークスアイも品質はピンキリです。パワーストーンやアクセサリーとして使用されるものもあれば、ハイジュエリーに使用される品質のものまであります。模様の入り方に関しては好みがありますから、値段が安いから安物という見方は適切ではなく、感覚で選べば良いと思います。そうは言っても、たくさんの人が美しいと思うような、傾向的なものはあると思いますが・・。 ホークスアイのジュエリー自体が稀ですが、ショーメの2千万円を超える価格にはビックリしました。それだけの高級品に使用され得る石ということなのでしょう。タイガーズアイより稀少で評価が高いのかもしれません。妙に青みが強くて、染めていないかちょっと気になりますが・・。高級ブランドだから、高価だから、天然の上質な石を使っているとは限らないのが現代ジュエリーなんですよね。 |
タイガーズアイ(虎目石) | ホークスアイ(鷹目石) |
"Falkenauge - Hawks eye" ©Ra'ike(30 November 2007)/Adapted/CC BY 3.0 | |
ホークスアイは酸化度が増すと、青みがかった鉄の黒い色から、タイガーズアイのようなゴールデンカラーに変化していきます。天然のホークスアイは中間色があったり、一部にゴールデンカラーが存在することもあります。 |
この宝物のホークスアイはとても魅力があります。 コンパスの本体として使われているため、石にはある程度大きさがあります。 まず、この大きさでクラックなど欠陥のない石を探し出すことが大変だったと考えられます。 両面ともに欠陥のない石が使われています。 |
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通常は黒に近い印象ですが、光の当たり方や見る角度によって、タイガーズアイのようなゴールデンカラーが浮かび上がります。不思議な印象すら受ける石です。その部分に光の筋が浮かび上がる姿はとても面白くて、まさに他の石にはない魅力を持つ石です♪ |
複雑な形状に面取りしたカットの面白さとも相まって、その美しい姿は見ていて飽きません。鷹の目と虎の目、両方を兼ね備えた宝物です!♪ |
天然の鉱石繊維が詰まった石だけあって、シャトヤンシー効果が出ている部分以外の輝き方も独特です。 |
←等倍 |
肉眼でこのようなレインボーカラーの輝きを認識することはありませんが、間違いなく"印象"には影響します。綺麗ですね〜♪稚拙な作りの安物だと、拡大すれば粗が目立つだけですが、良いものは素晴らしさがより実感できます♪♪ |
3-4. 抜群のコンデイション
最高級品 | 安物 |
安物は安物なりの扱いしか受けないものです。アンティーク市場の大半は、無数に存在した大衆向けの安物です。一般のお店で販売されているのはそのような物です。それ故に、アンティークジュエリーは作りが稚拙で小汚いと思い込んでいる人も少なくなく、HERITAGEの高級品を見て驚かれるのです。 高級品を使うような人は他にもたくさん持っているため、特別なものを除いてヘビーローテーションはしません。また、その価値が分かっているからこそ、使い方も丁寧です。だから、まるで新品のようなコンディションを保っている場合も多いのです。 今回の宝物はさすがに新品のようなコンディションとは言いませんが、安物と比べればいかにコンディションが保たれているのかがお分かりいただけるでしょう。 |
石の場合、ファセット・カットされたエッジがどうしても消耗しやすいです。このようなダメージを愛用された証だと喜ぶ人もいますが、私には愛用された証と言うよりも、大切にされなかった証のように感じられます。こういいうものは実用品ではなくオシャレアイテムなのですから、もう少し使い方に気を遣うべきなのに、これでは物も可哀想です。 |
タイガーズアイのモース硬度は6.5-7とされており、ホークスアイも同程度だと思います。ダイヤモンドやサファイアより摩耗しやすいはずですが、作られてから120年は経っていながら、これだけのコンディションを保っているのは凄いことです。歴代の持ち主がその価値を十分に理解し、大切にしてきた証でしょう。 |
ヘビーローテーションされると、金具同士が接する部分に摩耗が生じます。 |
この宝物は本体に取り付けられた丸カンにも、バチカンにも驚くほど消耗が見られません。果たしてどれくらい使っていたのやら、やはり実用品ではなくステータス・アイテムとして大切に使っていたのでしょう。 |
裏側
オモテ | ウラ |
正確にはウラもオモテもありません。どちらの面も、隙のない美しい作りです。使う時は、石の模様や輝き方の好きな面を選べば良いでしょう♪ |
着用イメージ
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撮影に使用しているゴールド・チェーンは参考商品です。このようなロープ状のチェーンとも相性が良いです。 |
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ご希望の場合は、高級シルクコードをサービス致します。 |
スケルトンの構造なので、石でできていても重くありません。 メンズ・ジュエリーなので男性は間違いなくカッコよくお使いいただけますが、女性が着けても違和感のない、小ぶりで上品なサイズです。 小さくて良いもの。分かりにくいけれど、知性とセンスが詰まったこだわりの宝物。 |
大空から広大な景色を見渡す鷹の眼と、眼光鋭い虎の眼を兼ね備えた、特別なホークスアイの宝物。 進むべき方向が分からない不安定な時代。あるいは、誰しもが経験する人生の分岐点。120年以上の時を超えてなお美しさを保つホークスアイ・コンパスは、人生の旅路を歩む上で進むべき方向を指し示してくれる、心強いパートナーとして使うのも良いかもしれませんね。 |