No.00026 プティ・バッグ |
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『プティ・バッグ』 両面バッグ型 プチ ロケットペンダント イギリス 19世紀後期 エナメル、15ctゴールド、面取ガラス、髪の毛(除去可能) 1,4cm×1,5cm (バッグの本体のみ) 重量 2,4g SOLD ジュエリーの大衆化が進んだ19世紀後期にあって、安物ジュエリーとは一線を画す、アンティークジュエリーならではの魅力が詰まったペンダントです。360度立体的な作り、両面の色違いのエナメル、ロケット内部にまで施されたエレガントな彫金、そして美しい面取りガラスとヘア・ワーク。ここまでアンティークジュエリーらしい様々な魅力が詰まったジュエリーは、滅多にあるものではありません。ヘリテイジ好みの「分かりにくいけどとても良いもの」です♪ |
2色のエナメル使い
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両面同じデザインと細工で、エナメルの色だけが異なっています。 |
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水色だと可愛らしい感じ、紺色だと大人らしい感じです。 どちらも美しい彫金が施されており、とてもエレガントな雰囲気の魅力があります。 |
ロケットの構造
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バッグの底面が蝶番になっています。 通常は見えない底面まで、丁寧な彫金が施されています♪ |
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バッグの持ち手はとても丁寧な縒り線で作られています。 機械で縒ったかのように乱れのない縒り方です。一見大したことないようにも見えますが、想像して頂ければお解りいただける通り、柔らかい紐ではなくゴールドを縒っているので、均一に歪みなく縒るだけでもとても難しい技術なのです。 |
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縒り先細工の持ち手は水色エナメル側、紺色エナメル側それぞれに取り付けられており、それぞれを引っ張ると簡単に開けることができます。 閉めるのも、押さえればカチッと気持ち良く閉まります。 |
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髪の毛が入っていることに驚かれた方もいらっしゃるでしょうか。情報量が全く足りていない稚拙な雑誌や書籍の影響か、日本では髪の毛が入ったアンティークジュエリーは全てイコールモーニングジュエリーと勘違いされている方も少なくありません。しかしながらこの愛らしくエレガントなプティ・バッグは、ラブジュエリーもしくは普段使い用のジュエリーと推測されます。 |
ヨーロッパ人とロケットと『愛』
唯一の愛する人との愛
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さて、ここからは恋人もしくは夫婦の愛にフォーカスして見ていくことにしましょう。 物理的な"モノ"を媒介させて、愛する人といつでも共にいる感覚を得るための手段はいくつか選択肢があります。比較的古い時代からあった手段は、以下になります。
1.ポートレート・ミニアチュール 2.ポートレート・カメオ 3.髪の毛 |
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1.ポートレート・ミニアチュール 左は摂政皇太子時代の著名なイギリス人肖像画家、リチャード・コズウェイによるジョージ4世のミニアチュールです。1780-1782年頃に制作されたものなので、ジョージ4世が18〜20歳頃になりますね。 手描きなので相当お金がかかります。 上手な画家な画家に依頼しないと、美しくなく描かれてしまったら困ります。でも、トップ・ペインターに依頼するともなれば、当然ながら莫大な費用がかかります。 |
![]() ジュセッペ・ジロメッティ作 1825-1850年頃 6.2cm×4.6cm V&A美術館 【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
2.ポートレート・カメオ 左は19世紀のカメオ彫刻家として最も評価されている人物の1人、ジュゼッペ・ジロメッティによるジョージ4世のカメオです。イタリアで1825-1850年頃に制作された物ですが、ジロメッティ自身は1814年頃に滞在していた記録が残っていることから、ジョージ4世が52歳頃の様子と推測されます。 ご想像通り、クオリティの高い物を得ようとすればミニアチュール以上にお金がかかります。余程の財力がある人物でなければ無理でしょう。
※ジュゼッペ・ジロメッティによるミュージアムピースのカメオ『ユリウス・カエサル』も販売中です |
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表 | 裏 |
『愛の証』 |
3.髪の毛 肖像画と違い、愛する人の一部そのものを肌身離さず持ち歩くことができます。愛と贅沢に生きたと言われるジョージ4世が亡くなった後、遺品から膨大な種類と量の髪の毛が出てきたそうです。 恋人の目だけを描くラバーズ・アイもしくはアイ・ジュエリーと言われるジュエリーもジョージ4世が流行させているのですが、目のミニアチュールの裏側に髪の毛をセットしたりもしたようです。 |
各手段のメリットとデメリット
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ここでの対象はお金の心配など不要の王侯貴族なので、お金がかかる云々は敢えて抜きにしましょう(羨ましい!)。
ミニアチュールやカメオの場合、出来不出来はあっても誰が描こうが問題ありません。描かれるのが愛する人の姿であれば問題ありません。 一方で髪の毛の場合、愛する人そのものの髪の毛でなければなりません。知らない人の髪の毛を肌身離さず持っていても全く意味がありません。 現代でこそDNA鑑定で髪の毛から個人を特定することもできますが、当時は色艶くらいでしか判断できません。 職人にお任せしてごまかされても、判断のしようがないのです。 |
良家の若い女性の手習いとしてのヘアワーク
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良家に生まれた子供たちは小さいうちから、社交界デビューに備えて教育を受けます。 結婚前に備えるべき社交的なお付き合いのために必要な文化的な教養(文学、芸術、音楽、歴史その他)やマナー、プロトコール、社交術など盛りだくさんです。 |
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その教育の1つとなったのがヘアワークでした。 良家の女性自身がジュエリー用の髪の毛を編むのです。これならば、編まれるのは確実に愛する人や自身の髪の毛なので安心ですね。 超高度な技術を要する場合は専門の職人に編ませた可能性もありますが、左の絵にも見られる通り、ヘアワークは貴族の若い女性の教育における重要な要素の1つだったのです。 |
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髪の毛を糸に紡ぐための糸車(サルディーニャ国王御用達Pietro Piffeti 1740-1750年)V&A美術館 | |
これは糸車の女性の絵と共に、ヴィクトリア&アルバート美術館に展示されていた糸車です。国王御用達メーカーによるものだけあって、鼈甲へのマザーオブパールの象嵌細工も驚くほど豪華絢爛です。道具にこれほどまでにお金をかけられるなんて、並の貴族では有り得ません。それほどまでの家柄の女性が、ヘア・ワークに関しては自ら手を動かしていた証拠でもあるのです。 |
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こちらも同じ展示フロアにあった糸車です。 日本の蒔絵細工が施されています。遠い異国の、雰囲気溢れる見事な細工の芸術作品が、知識や財力を持つ高貴な人たちに愛されるのは東西同じですね。一見地味ですが、遙か海の彼方からの輸入品ともなればかなりの高級品だったに違いありません。 |
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御髪をとかした櫛に、わずかに絡まる美しい髪の毛・・。 |
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少しずつ大切に集めた髪の毛を、美しく編み上げるのです。 編み方のセンスや技術が、それぞれの女性の腕の見せ所です。 |
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髪の毛を美しく編むことができるということは、センスが良く、しかも繊細で器用な手を持つ証になります。 いずれデビューする社交界でもてるために、技術を磨くことはとても重要なことだったのです。 |
![]() 【引用】nippon.com/ Donald Keene: A life in Japanese Literture |
日本文化とフランス文化に精通したドナルド・キーン氏曰く、平安貴族の美意識の高さはルイ王朝のヴェルサイユ宮廷を連想させるそうです。 |
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ほとんど宗教と言えるほど美意識が高かったとまで称される古の日本の貴族、平安貴族は深い仲になるまでは互いに顔を見ることはありませんでした。 女性は高い教養や知性、感性とセンスの良さがないと美しいと評価されませんでした。 |
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美しいヘア・ワークを見てその女性のエレガントさを高く評価するのは、美しい筆跡を見てその女性を美しいと判断する平安貴族と、感覚的には似たものなのかもしれませんね。 |
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自分や相手の一部、言わば分身である大切な髪の毛が、こんな風にグシャグシャポイっと入れてあったら、どんなに外見が美しくても100年の恋が冷めてしまうかもしれません(笑) 子供や自分をこんな風に扱われたら困っちゃいます。なんて、なぜ私は今、男性側目線なのでしょうか(笑) |
写真技術の普及とロケット
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世界で初めて写真画像を作るのに成功したのは、フランス人発明家のニエプスです。 |
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ニエプスが世界初と言われる写真エッチングを制作したのは1822年のことです。 当時のローマ教皇ピウス7世の肖像を写したものとされていますが、その原版は自身で複製を作ろうしたときに破壊してしまったそうです。 |
![]() 1825年頃に版画を撮影したものとされる |
原版が現存する世界最古の写真は、この『馬を引く男』です。2002年にサザビーズに出品された際は、44万3000ドルで落札されました。5000万円くらいでしょうか。高いですね〜(笑)こういう物は投機の対象なので、高くもないのかもしれませんが。 |
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この頃、産業革命により台頭してきた中産階級により、肖像画の需要が非常に高まっていました。従来の手描きの肖像画では到底需要は賄えません。 こういう時代背景も後押しし、技術改良が重ねられ、僅か数十年で一気に写真技術が発達することになります。 |
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1839年9月にフランス学士院で、ダゲールによりダゲレオタイプの写真技術が発表されました。 世界初の実用的写真撮影法であり、中産階級の肖像画需要に応えるために1840年代のヨーロッパに熱狂的に広まりました。 とは言え、ダゲレオタイプは美しい画像は撮れたものの、スタジオで1枚写真を撮るのに現在の貨幣価値で1000ドルほど、つまり10万円ちょっとかかることもあったようです。かなりの高級品ですね。 |
![]() マルチ ロケット ペンダント イギリス 1862年 SOLD |
写真の普及と時代を同じくして、アンティークジュエリーでも写真を入れるタイプのロケットが出てくるようになります。 手描きのポートレートよりは安く済むとは言っても、写真技術が普及し始めたばかりの頃はまだまだ高級品なので、写真用のロケットも高級な作りの物が多いです。 |
写真発明後の時代のヘア・ジュエリー
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愛する人をいつでも身近に感じる手段として、19世紀中期以降は新たに「写真」が加わりましたが、それでも髪の毛はまた別格のアイテムでした。愛する人そのものの一部ですから、当然なのかもしれません。 この他、中産階級に人気があったヴィクトリア女王の影響も大きなものでした。 1855年にヴィクトリア女王がヴェルサイユ宮殿を訪問した際は、フランスのウジェニー皇后と髪の毛で編んだブレスレットを交換しています。 1861年に王配アルバートが亡くなった後は、アルバートの髪の毛を使ったジュエリーを身につけていました。 |
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The Art of Hair WORK(マーク・キャンベル著 初版1875年) | ||
特に中産階級にとって、ヴィクトリア女王は憧れのファッションリーダーでした。良家のご令嬢の手習いだったヘア・ワークですが、1875年にマーク・キャンベルによってヘア・ワークの指南書が出され、一気に大衆にも広まりました。女性がヘア・ワークの技術を身につけることで、女性の雇用創出の効果もあったほどのインパクトがあったそうです。 |
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The Art of Hair WORK。 2色の髪の毛は愛し合う2人のものでしょう。一緒にいられない時でも、愛する人の一部を身に着けていたい・・。ラブジュエリーの材料として、髪の毛はとても人気がありました。 稀少価値の高い宝石や貴金属を使ったジュエリーは買うことのできない庶民にとって、愛さえあれば比較的気軽に手にできるのも、ヘアジュエリーに人気が出た原因かもしれません。 |
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【参考】ピンチベックのブローチ | 【参考】メタルのブローチ |
庶民の女性も、貴族のご令嬢に憧れて同じようにしたいと思うのは当然です。ヴィクトリアン後期は、先ほどのような「アート」の域にまで高められた職人芸の作品もあれば、明らかに大衆向けの安物のジュエリーも存在します。メッキやピンチベックですらないメタルなどの安い素材、そして安っぽいデザインと作りの悪さから、明らかにそういうジュエリーはぱっと見で判断することが可能です。 当時の愛し合っていた男女にとっては間違いなくかけがえのない大切な宝物であり、素晴らしい思い出も全く否定するつもりはありません。でも、人類にとって残すべきヘリテイジ(文化・芸術的な遺産)であるかと言えば、そうではないと私は思っています。現代の消耗品のジュエリーと同じですが、こういう類の物は持つ人の心を豊かにすることができるならばそれで十分なのです。 |
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ご紹介の作品は、見るからに高級な物として作られています。 センスの良さ、エレガントな彫金と2色のエナメルワーク、細部にこだわった作りの良さは、一般大衆向けの安物ジュエリーとは明らかに異なります。 |
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身につけた時には見えない内側にまで、美しい彫金が施されています。淡い色の髪の毛はとても綺麗に編まれており、面取りガラスも見事です。 愛する人の大切な一部を入れるものなのですから、美意識の高い人たちにとってはここまでするのは当たり前のことなのです。 |
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お客様から聞いたお話ですが、日本人ディーラーの中には「あたし髪の毛は気持ち悪いから全部取っちゃう!」と、全て除去してから販売する方もいるそうです。 日本人にはヨーロッパ人のような過去の文化がなく、感覚的に髪の毛は気持ち悪いと感じる人が大多数なので、髪の毛が入っているだけで売れないということも少なくありません。でも、中にはこのような背景を理解し、そのままの形で欲しいと仰って下さる方も意外と存在するのです。 当該お客様もそういうタイプの方なので、「お客さんが購入する時に除去して欲しいと要望するならば問題ないけど、ディーラーが自分で気持ち悪いという理由で除去するなんて」と憤慨していらっしゃいました。
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このロケットも、ご要望があれば髪の毛を取り除くことは可能ですが、彫金やエナメルの作りだけでなく、美しい編み方をされた髪の毛自体も、教養ある貴族が作らせた高級品の証拠となるのです。 アンティークジュエリーの世界に限ったことではありませんが、無知でも店を始められるし、販売できるのも事実です。でも、無知なディーラーは文化の破壊につながるので勘弁して欲しいものです。まあ、そういう店ではこういう高級品は販売していないと思いますが・・(※高級品ではないけど値段だけは高級、というのはよくあります)。 |
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少なくとも20世紀中期くらいまでは、良家の女性はフィニッシングスクールでヘア・ワークを学んでいたそうです。 だからこそ19世紀後期であっても、このようなエレガントな貴族向けのヘアワーク・ジュエリーが当然ながら存在するのです。 |
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こういうことをなぜ私が知っているかと言うと、実はGENと長年仕事をしている仲良しのイギリス人ディーラーのお母様が、実際にフィニッシングスクールでヘアワークを学んでいたからです。 フランス系のお母様は教養もマナーも身につけらっしゃるので、各国の王大使級の人たちが来た際は、美術館を案内したりもしていたそうです。 ヘリテイジでは一般大衆向けの安物アンティークジュエリーではなく、王侯貴族のためのハイクラスのアンティークジュエリーだけを扱っています。こういうコネクションがあるからこそ、品揃えも知識も確保できるわけです。ちょっとロンドンやパリに行って、そこらへんの骨董市でちゃちゃっと王侯貴族級のハイジュエリーを仕入れてくるなんてことは、大昔ならあったのかもしれませんが今は夢物語なのです。 |
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作りが良いアンティークのゴールドチェーンをご希望の方には、別売でお付け致します。いくつかご用意がございますので、ご希望の方には価格等をお知らせ致します(チェーンのみの販売はしておりません)。 現代の18ctゴールドチェーンをご希望の方には実費でお付け致します。 高級シルクコードをご希望の方にはサービスでお付け致します。 |
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水色エナメルの面を使うのか、紺色エナメルの面を使うのか、服装や気分によって変えることができるのも楽しいですね。 表裏がないジュエリーなので、ブレスレットに下げるなど、チャームとして使うのも楽しそうです♪ |