No.00154 魔法のクリスタル |
のぞき込むと不思議な世界に入り込んでしまった気分になってしまう、不思議な魅力に満ちたフォブシールです!♪ |
『魔法のクリスタル』 マイクロ彫刻画と同じ時代に作られた、驚異的な彫りのインタリオです。透明な石の性質と相まって、見事なアールクレール(透明な芸術)を具現化しています!♪ |
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のぞいてごらん、クリスタルの中の不思議な世界を・・・
透明度の高いクリスタルなので、上からのぞき込むと底面に彫り込まれた紋章が美しく浮かび上がります。クリスタルのカットされた面と相まって、まるでそれぞれ次元の異なる世界でものぞいているようです。 |
魔法の水晶 〜過去・現在・未来を見せる不思議な石〜
クリスタルをのぞきこむと言えばアレですよね。そう、水晶玉占いです。 ミステリアスな雰囲気から日本でも知名度が高い占い方法ですが、ヨーロッパでも古くから水晶玉占いが行われていました。 小さくカットしたクリスタルがジュエリーに使われることはよくありますが、大きくて透明度の高いクリスタルは昔から貴重だったため、特別な力があると考えられてきました。せっかくなのでその歴史にも触れておきましょう。 |
<ヨーロッパの水晶玉占いの歴史>
起源
ドルイド | ベリル(緑柱石) "Berillo" ©Gia.cossa(22 August 2007)/Adapted/CC BY-SA 2.5 |
水晶玉占いは歴史が古く、ケルトの司祭ドルイドがベリルのクリスタルボールを使って未来を予言していたのが起源だと言われています。 |
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵に見る水晶玉
『サルヴァトール・ムンディ』(レオナルド・ダ・ヴィンチ作 1500年頃) | この『サルヴァトール・ムンディ』は、2017年にクリスティーズのオークションで美術品の落札価格として史上最高額となったことで有名なので、ご存じの方も多いかもしれませんね。 Salvator Mundiは世界の救世主という意味で、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた青いローブをまとったイエス・キリストの肖像画です。1500年頃にフランスのルイ12世のために描いたものと考えられています。左手をご覧いただくと、水晶玉を持っていることが分かりますね。 後にイギリスのチャールズ1世の手に渡ったものの、1763年以降行方不明となっていました。1958年にオークションに出品されたものの、複製とされてわずか45ポンドで落札されました。2005年に美術商が1万ドル足らずで入手した後、修復の結果ダ・ヴィンチの真筆と証明され、2013年にサザビーズのオークションでスイス人美術商が8000万ドル(約90億円)で落札しました。それをロシア人富豪に1億2750万ドル(約140億円)で売ったものだから、後に詐欺だとスイス人美術商は訴えられてしまったそうです。もう笑っちゃうしかない世界ですね。 |
最新では2017年にクリスティーズのオークションにかけられ、手数料含めて4億5031万2500ドル(当時のレートで約508億円)で落札となりました。素晴らしい芸術作品と言えど、有名になりすぎるともはや投機の対象と成り果てる例ですね。ミュージアムピースクラスも扱うアンティークジュエリー・ディーラーとしては、色々と考えてしまう話です。この業界でも類似の話は聞くのですが、作品を理解も愛してもいない人に手渡すのはどうしても冒涜と感じてしまうのです。投機対象を求めている人は世の中に絶えず存在するので、私のように冒涜を感じない人が需要に応じてやってくれれば良いのです。 |
エリザベス1世と水晶玉占い
エリザベス1世(1533-1603年) | ジョン・ディー(1527年-1608または1609年) | 実は水晶玉占いが大好きだったのがエリザベス1世で、宮廷学者・宮廷占星術師だったジョン・ディーを寵愛していました。 今でこそ胡散臭く見える『占い師』の類ですが、ケンブリッジ大学で修士号を取得し、ルーヴァン大学留学後はパリ大学の講師も務め、伯爵家の家庭教師も務めた経験もある秀才です。 |
ジョン・ディーが使用していた水晶玉(1527-1608年) " John Dee's crystal, used for clairvoyance and for curing dis Wellcome L0057562 " ©Sience Museum Group, in the United Kingdom(09:31, 17 October 2014)/Adapted/CC BY- 4.0 | 『大天使ウリエル』セントジョンズ教会のモザイク(イギリス) | 1580年頃からジョン・ディーは水晶玉観照による心霊研究と大天使ウリエルとの交感を実施していました。 水晶玉の中に現れるのは天使であるとされ、「エノク語」という独自の言語が用いられたそうです。 |
スコットランド王/イングランド王 ジェームズ6世/ジェームズ1世(1566-1625年) | 1603年にエリザベス1世が崩御した後に即位したジェームズ1世は、大の魔術嫌いだったためディーは引退を余儀なくされ、5年後に貧困の内に死去しました。 ジェームズ1世はもともとスコットランド王で一国を治めていましたし、イングランド王も兼ねることになった時すでに37歳でしたしね。占いにはまりやすい女性と、あまり興味がない場合が多い男性。今も昔も人間の性質は変わらないといった感じでしょうか(もちろん性差別的意見ではなく、あくまでも傾向です)。 |
ヴィクトリア時代における水晶玉占い
『水晶玉』(トーマス・ケニントン 1890年) | 『カード占い』(エドワード・ビソン 1889年) |
時代が下って、ヴィクトリア時代は科学技術の発展が著しかった時代ですが、同時にスピリチュアリズムも流行しています。水晶玉占いをはじめ、カード占いなど未来を占う類の占いが女性の間で娯楽的にも大いに流行しました。ヴィクトリア時代後期は死者との交信も流行しました。イギリス人は根っからの賭事と幽霊好きですしね。とは言っても、経済が豊かになってくるとオカルトが流行るのは高度経済成長後の日本も同じでしたが・・。 |
ジョン・ディーが使用していた水晶玉(1527-1608年) " John Dee's crystal, used for clairvoyance and for curing dis Wellcome L0057562 " ©Sience Museum Group, in the United Kingdom(09:31, 17 October 2014)/Adapted/CC BY- 4.0 |
水晶玉には、見たい問いに合わせてビジョンが現れます。 ビジョンが出現する直前に、水晶玉の内部の霧が吹き飛んで鮮明な像が現れれるのだそうです。 映画『ハリー・ポッター』にもそういうシーンがありましたね。 |
過去にもたくさんのフォブシールをご紹介して来ましたが、こういうシンプルな石だけの物はご覧になったことがないと思います。 いつもご覧頂いているフォブシールは本体が金属で、インタリオが施されたストーンが底面にセットされているタイプが多いと思います。 |
使用されているのは淡い色味のスモーキークォーツで、驚くほど透明感の高いクリスタルがうっすらと渋い茶色がかっています。 無色ではなくこの色味があるお陰で、とても知性的な印象を醸し出しています。 |
さっそくインタリオの彫りの凄さもご覧いただきましょう。 まず、紋章自体も実に美しいグッドデザインなのがラッキーですね♪ |
こちらは粘土に押した物ですが、実際のところ彫りが細かすぎて形状が追従し切れていません。 直接インタリオをご覧いただく方が分かりやすいので、さっそく見て行きましょう。 |
このライオンの体長はたった5mmしかありません。さらに背景の升目は何と0,3mm(1mmの三分の一ほど)しかない驚異的に細密な彫りなのです!!! |
どうしてもカッコイイライオンや十字架などに目が行きがちですが、このインタリオが如何に高度な技術を駆使して彫られているかは、実はライオン以外の所で感じる事ができます。 |
底面に彫られたスーパー細密なインタリオは裏側、つまり上からのぞき込めば見ればスーパー細密なカメオに見えるのです!♪ |
【参考】透明なロッククリスタルを使ったフォブシール 2作品
ご覧いただいた他の2つのフォブシールも、透明な石の特徴を生かした美しい作品でしたが、あくまでもゴールドのフレームとの調和が前提にあり、フレームと併せて全体で芸術作品として完成されています。 『魔法のクリスタル』は、それとは全く異なる思想で制作されてことは一目瞭然ですね。意図的にノーフレームにしたことは明らかですが、この発想の転換は凄いです。 達人のオシャレは引き算だと言いますが、ここまで潔く不要な物を削ぎ落として表現した美はそうある物ではありません。彫りが稚拙だったり石の透明度が低ければ、ただの低レベルなフォブシールの1つになっていたことでしょう。 |
時代を超越した美 〜アールクレール〜
『狐狩り』 エセックス・クリスタル ブローチ イギリス 1850〜1860年頃 SOLD |
『キューピットとヴィーナス』 ロッククリスタル・リバースインタリオ ネックレス イギリス 1920年代 SOLD |
水晶の透明性を使った沈め彫りの芸術と言えば、エセックスクリスタルとリバースインタリオがあります。 『キューピッドとヴィーナス』でもご説明した通り、『狐狩り』に見られるようなエセックスクリスタルは、ドーム型で厚みのある水晶に深くインタリオを彫り、それに彩色した言わば立体細密画と言える物です。まるで水晶の中に立体物が入っているような不思議さ魅力です。19世紀中期から後期に人気がありました。 一方で『キューピッドとヴィーナス』に見られるようなリバースインタリオは、板状のロッククリスタルに裏から浅くインタリオを彫った、透明感がある繊細で美しい芸術です。1920年代に登場します。 |
現代ほど石が枯渇していなかった時代においても、いかにこれだけの透明度と大きさがあるスモーキークォーツが貴重だったかは想像に難くありません。18世紀において、フォブシールの着用シーンは時計へ下げる用途とシャトレーンに下げる用途があります(シャトレーンはこちらをご参照下さい)。シャトレーンに下げる場合は印章代わりに、他の物と一緒にジャラジャラ下げるのですが、18世紀はまだ時計は超超高級品で極限られた人しか持つことができませんでした。時計1つで豪邸が一軒買えたと言われている時代で、今の貨幣価値に換算すれば3億円はくだらないということです。その時計に下げるために、相応しいフォブシールが極少数作られたということです。 |
『紳士と淑女』1778年 | 『ダブル・ウォッチのジェントルマン』1781年 |
当時の貴族は、これ見よがしに時計を見える位置にぶら下げて自慢するような、成金的なセンスのない自慢の仕方はしません。時計はポケットに入れて、フォブシールだけを人から見える位置に下げるのです。シャトレーンにジャラジャラぶら下げて、他の物とガチャガチャ当たって壊れる心配がないから、安心してこういうノーフレームのフォブシールを使うことができたというわけですね。とは言いつつ、当時時計はステータスの象徴だったので、1つだけでなく複数コレクションできることがさらなるステータスの高みだったようです。1770年代には時計を両側のポケットに入れるファッションが流行ったようです。左側の絵の紳士はこれ見よがしに時計2つをちらつかせて淑女を口説いている感じですね〜。完全に実用性ではなく自慢が目的です(笑)さすがにこの流行はあまり長くは続かなかったそうです。 こういう笑っちゃう成金ファッションはさておき、当時は外から見えるフォブシールのグレードによってポケットの中の時計のグレードも推し量れてしまうので、フォブシールは非常に重要なアイテムだったのです。このことを理解すると、『魔法のクリスタル』の最上級の作りもですね。 |
天然水晶について
石英の結晶(ブラジル産)18×15×13cm " Quartz Brésil " ©Didier Descouens(2010)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
天然の上質な水晶は2cm以上の大きさになると極端に少なくなります。大地の奥底で長い年月をかけて少しずつ結晶が成長していくのです。しかも大きな結晶が入手できたとしても、透明度が高く価値があのは先端の方だけなのです。高さが2,5cmあり、しかも美しいスモーキーカラーを呈する『魔法のクリスタル』の石がいかに貴重な材料だったかお解りいただけるのではないでしょうか。 科学技術が進化した現代では、溶錬水晶玉という無色透明な玉を作ることも可能です。名前の通り天然水晶を砕いて高温で溶かし、型に入れて固めただけなので結晶構造は持たずガラス質です。面白い技術ではありますが、ちょっと味気無いでしょうか。天然の水晶玉を使った占いでは内包物の景色を見て占うそうで、良い内包物、いまいちな内包物などがあるようです。少ないに超したことはありませんが、内包物こそが天然の証でもあり、それらの個性こそが魅力の1つでもあるのです。 |
という訳で、『魔法のクリスタル』も通常だとクリアすぎて内包物が殆ど見えないのですが、多角度から光を強めに当てて内包物を光らせると、左のような画像を得ることができます。 不思議なクリスタルは、のぞきこむだけで過去・現在・未来の世界を見ることができてしまいそうな感覚に陥ってしまいます。当時の持ち主とも意識をつなげられてしまいそうな気分です。 |
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クリアな素材で作られたフォブシールは、清涼感もあって夏のジュエリーとしても使い勝手が良さそうですね♪天然水晶独特の肌に触れた時の冷やっとする感触も心地の良いものだと思います。寒い季節は洋服の上からも楽しめます。透ける素材だからこそ、洋服の色柄との組み合わせを考えるのが楽しそうですね♪ 撮影に使っているような、作りが良いアンティークのゴールドチェーンをご希望の方には別売でお付け致します。いくつかご用意がございますので、ご希望の方には価格等をお知らせ致します(チェーンのみの販売はしておりません)。現代の18ctゴールドチェーンをご希望の方には実費でお付け致します。高級シルクコードをご希望の方にはサービスでお付け致します。 |