No.00212 ヤドリギの贈り物 |
|
||||
『ヤドリギの贈り物』 フランス 1880年〜1900年頃 |
ヤドリギと言えば
ヤドリギと言えば、ヨーロッパではクリスマスの時期に下げられるヤドリギの下では、キスを拒むことができないというロマンティックな風習は聞いたことがある方も多いと思います。この風習は19世紀に広まったと言われています。 |
現代にも息づくヤドリギの習慣
現代でもクリスマスの時期にヤドリギを飾る習慣は定着しており、フランスでは街中だけでなく家の中にもヤドリギが飾られる楽しい時期です。 日本はお正月という、日本人にとってとても大切なイベントがあるので、クリスマスが終わるとあっと言う間に正月飾りに取り替えられてしまいます。良いとこ取りしたい、ちょっと欲張りですよね〜♪ でも、楽しい文化は柔軟に受け入れて吸収し、時には融合させてしまう。 神仏も簡単に習合してしまうような、神に対して独特の宗教観を持つ日本人らしい現象でしょうか。昔からこういう柔軟なところは国民性ですかね(笑) ヨーロッパではご存じの通りクリスマスは新年まで続くので、ヤドリギもそのまま飾られた状態で新年を迎えます。室内だけでなく、リースにして扉に飾ったりもします。感覚的に言うと、フランス人にとってのヤドリギは日本人にとっての松のようなものらしいです。 この時期はマルシェにもヤドリギが溢れかえります。 |
クリぼっち | 日本では近年クリスマスに一人で過ごす『クリぼっち』なる言葉も出てきましたが、フランスではクリスマスに予定がないと言えば誰かが誘ってくれるので、一人でクリスマスや新年を迎えるようなことは稀なのだそうです。 受け身気質の人の方が多い日本人らしい現象でしょうかね。欧米の人から見れば、ぼっちが嫌なら自分で企画して友達を誘えば良いのに、誘う友人すらいないのかと言われそうです。 私自身は何度もぼっちは経験していますが、豪華にクリスマスらしいディナーを作って、映画を見ながら一人でゆっくり過ごすのも楽しかったりします。本気で楽しんでいるので、『クリぼっち』なんてディスったりもしません(笑) |
ロマンティックな愛のKISSも、ヤドリギが手助けしてくれます。 新年を祝いにもヤドリギは欠かせません。 ヤドリギという大義名分の元、新年を迎えたらヤドリギの下で大切な人たち一人一人とKISSを交わすのです。 |
ヤドリギモチーフの流行
宿り木 ブローチ&ペンダント フランス 1900年〜1910年頃 天然真珠、ローズカットダイヤモンド、プラチナ&ゴールド SOLD |
ヤドリギをモチーフとしたジュエリーは、ベルエポックのフランスで流行しています。 ベル・エポックはフランス語で「良き時代」を意味し、1871年の敗戦により終結した普仏戦争からの復興を遂げた19世紀末から、苛烈を極めた第一次世界大戦が勃発するまでの期間を指します。 だいたい1880年代から1914年までです。 |
世界最初の百貨店と言われる『ボン・マルシェ百貨店』"Bon marche" ©Arnaud Malon from Paris, France(2 April 2006)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
詳細は『グランルー・ド・パリ』でご説明しましたが、フランスで戦争がなく、他国に遅れをなしていた産業革命が進んで都市の消費文化が栄えるようになった時代です。 |
エミール・ゾラ(1840-1902年) | 百貨店やそこで買い物をする中産階級の女性たちの勢いたるや凄まじいもので、エミール・ゾラによって『ボヌール・デ・ダム百貨店』という小説も出版されるほどでした。 |
『ボヌール・デ・ダム百貨店』の1906年版の挿絵(エミール・ゾラ著 初版は1883年) | 一応は身分違いの恋愛小説ですが、詳細な取材に基づく百貨店の販売戦略や、ご婦人方の買い物依存症、窃盗症への転落を描写した、現代でも評価の高い小説です。 |
ベルエポックの精神を表現したポスター(1894年)ジュール・シェレ | 左のベルエポックの精神を表現したポスターからも伝わってくる通り、この時代の牽引役は女性です。 女性に勢いがある時代は、ロマンティックだったり、そんな中にもパワー溢れるものが生まれやすくなりますよね。 ヤドリギというロマンティックなモチーフが流行したのも、このような時代だったのです。 |
ヤドリギモチーフのジュエリー
アールヌーヴォー 宿り木ブローチ&ペンダント フランス 1890年頃 SOLD |
宿り木 バー・ブローチ フランス 1900年頃 SOLD |
アールヌーヴォー 宿り木ゴールド リング フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
宿り木伝説の指輪 フランス 1900年頃 SOLD |
ヤドリギの実
さて、いくつかヤドリギの作品をご覧いただきましたが、多くの作品でヤドリギの実は白い天然真珠で表現されていることにお気づきになりましたでしょうか。 |
夏のヤドリギ | 日本でもヤドリギを見ることができます。 国内でご覧になったことがある方だと、ヤドリギの実は淡黄色や橙色のイメージがあるかもしれません。 最近では国内でもクリスマスリースに使われるようになってきましたが、日本のヤドリギはセイヨウヤドリギの亜種とされています。 |
熟したセイヨウヤドリギ "Le bacche del vischio" ©1CFIORENZUOLA(23 November 2008, 12:40:08)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
ヨーロッパで一般的に見られるセイヨウヤドリギは、熟すと実がグリーンから真っ白に変化します。 まさに真珠のようですね。 |
ヨーロッパにとっての特別な樹
冬期以外のヤドリギ "Yadorigi at Nabekura Park Tono Iwate pref Japan01bss" ©663highland(24 August 2007)/Adapted/CC BY 2.5 |
他の樹に寄生して生きるヤドリギは、もしかすると良いイメージではない方もいらっしゃるかもしれません。でも、ヨーロッパでは神聖な樹として特別視されています。 実が熟していない時期のヤドリギは、他の緑の中に混ざって目立たない存在です。でも、他の木々が葉を落として枯れたように見える季節、ヤドリギだけは青々とした緑を茂らせ、実をつけます。食べ物の少ない寒さ厳しい真冬の時期、鳥にとっても貴重な食べ物ですね。 日本以上に冬の寒さが厳しいヨーロッパで、母なる大地に根を張っていないにも関わらず一年中青々とした姿を保つヤドリギが神聖視されたのは想像に難くありません。 |
ドルイド(ケルトの司祭) | もともとヤドリギはケルトの司祭、ドルイドに神聖視されていた木でした。 ヤドリギが生えいてる木には神が宿っており、ヤドリギは『不死・活力・肉体の再生』のシンボルとされていました。 |
エンジェル・オーク(ジョンズ島)推定樹齢400-500年 "Angel Oak, Johns Island, South Carolina" ©MadeYourReadThis(25 November 2017, 11:09:02)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
ヨーロッパではオークの樹も特別視されていたことは『ジョールチ』でご紹介しましたが、特にヤドリギが生えたオークは神聖視され、ドルイドの儀式はその下で行われていたそうです。 ヤドリギがたくさん生えている樹があれば、近くでも全く生えていない樹もあったりします。生えている樹には神が宿り、特別な力があると感じるのも何だか分かりますね。 ヤドリギの種は鳥が運ぶので、鳥が好んでとまる樹ということだと思うのですが、生命を育む樹ということで理にかなっているとも言えそうです。 ヤドリギは寄生する樹ではありますが、自分で光合成することも可能な半寄生の植物で、宿主の樹を枯らすようなことはありません。じっくりじっくりと、時間をかけて成長します。だからこそ「困難に打ち勝つ」「忍耐」「克服」という花言葉が与えられているのです。 「ヤドリギの下で友が出会うと幸せになり、敵が出会うと戦いをやめる」「雷除けや、悪い存在から子供を守る魔除けになる」という言い伝えもあり、何かとヨーロッパでは身近で良いイメージの樹なのです。 |
シンプルながらも上質な作り
本作品はスタイリッシュで一見シンプルなデザインながらも、とても上質な作りです。 シンプルな物ほど上質な物が理想ですが、小さいのに良い物というのは昔も本当に数が少ないのです。 こういう物ほどヘリテイジらしく、ぜひオススメしたい作品です。具体的に見て参りましょう♪ |
ヤドリギの実の巧みな表現
ヤドリギの実の表現は、天然真珠とゴールドの2種類が使い分けられています。 天然真珠は小さいながらも白く丸く、照り艶が非常に優れた上質なものが使われています。 さらにゴールドの実には丁寧に彫金が施されています。 完全にマットな質感ではなく、肉眼で華やかなゴールドの輝きもを感じられる絶妙な彫金です。 |
熟した白い実と未熟の青い実が混在するセイヨウヤドリギ "Le bacche del vischio" ©1CFIORENZUOLA(23 November 2008, 12:40:08)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
熟する前の実をゴールドで、熟した後を天然真珠で表現しているのですが、このちょっとした使いわけにも作者の手間のかけ方と抜群のセンスの良さを感じます。 |
左のゴールドをふんだんに使ったアールヌーヴォーの贅沢な作品も、天然真珠とゴールドの実を使い分けています。 ゴールドの実に彫金を施すか否かは表現の違いではありますが、このように艶のある実にすることも可能だったはずです。 |
|
宿り木 アールヌーボー ブローチ&ペンダント フランス 1890年頃 SOLD |
それなのに、もっと小さな作品であるにも関わらず、わざわざ手間と時間をかけてこれだけ丁寧に彫金してあるのは驚くべきことです。 |
枝葉の巧みなゴールドワーク
このペンダントは、19世紀の最高水準の金細工の魅力が存分に楽しんで頂ける作品でもあります。肉眼と違って画像だと平面的になってしまうので、どうしても立体的な造形による迫力はお伝えしにくいのですが、葉っぱの1枚1枚にリアルの葉のような捻りや返しが付いているのがお分かりいただけますでしょうか。 |
カラーゴールドの中でもグリーンを出すのは特に難しいとされており、基本的にはハイジュエリーでしか見ることがありません。 そのグリーンゴールドを使っているのも、特別の一点物として作られた証です。 グリーンゴールドで表現された葉の巧みな造形は、本当に見事です。 |
4枚の葉はそれぞれ違う表情を持ち、そのどれもが生き生きとしています。 |
|
||
実際の大きさを想像いただけると、いかに緻密な仕事が施されているのかが分かると思います。 立体的な造形の葉の表面には、日本の金工に於ける魚子仕上げのような、無数の極小の点を打ってつや消しにしてあります。 この艶消し細工のおかげで、肉眼で見たときに無機質な金属で作ったとは思えない、まるで本物の葉のような質感を感じることができるのです。 |
細い茎にも丁寧にスジが彫金されているだけでなく、何と茎の断面にまで手折ったときにできるような模様が彫られています。 これは肉眼で見ても分からないほど細かい細工です。 何も彫金されていないゴールドとは質感が違うので、何らかの細工がありそうなことまでは感じることができるのですが、拡大して見てとても驚きました。 |
スタイリッシュさを演出するフレーム
これほどの恐ろしく手の込んだヤドリギの作り込みに対して、シンプルでスタイリッシュなフレームとのバランスが、実にセンスの良さを感じるのです。当然作者には19世紀最高水準の彫金技術がありますが、外周のサークルは敢えてゴールド光沢が美しい艶出し仕上げです。背景のストライプも丁寧な作りながらも至ってシンプルです。 |
技術的や予算に可能でも、フレームまで全てマット仕上げにしてしまうと、コテコテ感が出てここまでセンスの良さを感じられない作品になってしまったはずです。 この絶妙なさじ加減をコントロールできるあたりが、昔の優れた職人は優れたデザイナーでもあり、アーティストでもあった証です。 |
細部にまで手抜きが感じられない、徹底したクラフトマンシップを感じられる作りは見ているだけでも心地よいものです。 実際に身に着けて動きが加わると、立体的な造形による陰影の変化やマットゴールドの光沢の変化もあるので、さらに美しく見えます。 |
ペンダントを上にかざして愛のKISSでもしたのでしょうか。 このペンダントをプレゼントして、本物のヤドリギの下で永遠の愛を誓い合ったのでしょうか。 ヤドリギには悪い存在から子供を守る力もあるとされていますから、愛する二人に子供ができたらお守りとして身につけさせたりもしたのかしら・・ アンティークジュエリーって本当に楽しくて幸せな気分になれますね♪ |
裏側も丁寧で美しい作りです。 |
本体とバチカンを連結する輪に、フランスの18ctのホールマーク(イーグルヘッド)が付いています。 |
|
||
撮影に使っているような、作りが良いアンティークのゴールドチェーンをご希望の方には別売でお付け致します。いくつかご用意がございますので、ご希望の方には価格等をお知らせ致します(チェーンのみの販売はしておりません)。現代の18ctゴールドチェーンをご希望の方には実費でお付け致します。高級シルクコードをご希望の方にはサービスでお付け致します。 |