No.00184 ジョールチ |
欧米で別格の人気を誇るロシアン・アンティークジュエリーは、その人気の高さと価格の高さからなかなかご紹介できる機会がないのですが、これぞロシアンジュエリーと言える優れた特徴と魅力を備えたドングリのピンが手に入りました!!♪ |
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『ジョールチ』(ロシア語でドングリ) |
ドングリのモチーフ
ドングリはその可愛らしい姿から、現代のアクセサリーとしても人気の定番モチーフですね。ヨーロッパでも昔から定番人気のモチーフです。 ドングリを結実させる木は、日本にも様々な種類が存在します。子供の頃にドングリを拾って遊んだ記憶のある方も多いでしょうか。たわわに実をつける生命力あふれるドングリの木からは、毎年たくさんのドングリを拾うことができますね。 |
エンジェル・オーク(ジョンズ島)推定樹齢400〜500年 "Angel Oak, Johns Island, South Carolina" ©MadeYourReadThis(25 November 2017, 11:09:02)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
Great oaks from little acorns grow. |
ドングリモチーフのジュエリー
『赤いドングリ』 カボッションカット・ガーネット ピアス イギリス 1870年頃 SOLD |
どんぐりロケットペンダント ローズカット・ダイヤモンド、14Kゴールド オーストリア(ウィーン) 1900〜1920年 SOLD |
驚異の細工『ドングリのプチ・パウダーボックス』 |
これまでにもいくつかドングリモチーフの宝物を扱ってきました。 表現方法も作られた国も様々です。 |
天然真珠を使ったドングリの表現
このクラバットピンは、天然真珠を使ったドングリが見所です。この表現方法自体は極めて珍しい物というわけではなく、各国・各年代でいくつか作られることがあったようです。 |
他のピンのドングリと比べて、このロシアのドングリがいかに別格の物かがお分かりいただけると思います。 本物のような色と形状の天然真珠を使い、葉っぱまで見事な造形を表現した笠の作りは、まるで本物のドングリのようです。 過去最高のドングリモチーフのピンです♪ |
イギリス国王、インド皇帝エドワード7世(1841-1910年) | クラバットピンは作られた当時は男性のためのジュエリーでした。 ダンディと言えばこの人、エドワード7世(バーティ)もネクタイに着けた写真が残っています。 女性と比べて男性はジュエリーの種類が多くありません。ピンは数少ない、男性の自慢のしどころです。 だからこそお金をかけて、立体的に緻密に作られた作りの良い物が比較的多いのです。 |
<ロシアにおけるドングリ>
ロシアの気候
マザーオブパールのロニエット『Celebration』では国土の一部が北極圏に入るスウェーデンのお話をしましたが、ロシアはさらに過酷な地です。 |
シベリアのツンドラ "Tundra in Siberia" ©Dr. Andreas Hugentobler(5 August 2000)/Adapted/CC BY 2.0 de |
ロシアは国土の一部にツンドラを有します。『ツンドラ』とはサーミ語・ウラル地方の言語で『木がない土地』を意味します。樹木の成長には適さない気候のため森林が存在せず、永久凍土が広がっていることが多い地域です。 |
タイガの分布(緑色の地域) "Taiga ecoregion" ©Mark Baldwin-Smith(2 February 2012)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ツンドラは殆ど人が住めるような地域ではありません。ロシアに広がるのが広大なタイガ、針葉樹林が広がる地域です。 |
冬のタイガ(ロシア) |
北方の過酷で深い森は、迷い込むと思わず畏怖の念が湧き上がってきそうですね。 |
ロシアの成り立ち
ロシアの起源は9世紀に成立したノブゴロド公国とキエフ公国です。 それ以前は狩猟で暮らすスラヴ人は住んでいたものの、国家と呼べるものはなく未開の地という状態でした。 |
ノヴゴロド公リューリク(830-879年頃) | 9世紀半ば頃から都市としてのまとまりが出来はじめますが、この地にロシアとして初めての国家が成立するのは862年です。 スウェーデンからやってきたヴァイキング(ヴァリャーグ)の首長リューリクがスラヴ人を征服し、ノブゴロドのちを征服しました。 リューリクの死後、政治の中心が南に移り、キエフ公国として発展します。
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スラブ神話と北欧神話
ヴァイキングに征服される以前、スラヴの人々はスラヴ神話の神々を信仰していました。スラヴ民族は文字を持たなかったため、伝承された神話を民族独自で記録した資料は存在しません。スラヴ神話が存在したことを記す資料として、9世紀から12世紀にかけて行われたキリスト教への改宗弾圧の際、キリスト教の立場から記された断片的な異教信仰を示す内容の記述が残るのみです。 |
ヴォーロスを打ち負かすペルーン(クロアチア 8世紀) "Perun i Veles" ©Perunova straza(12 March 2012)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
東スラヴ各地にペルーン神殿が存在していたようです。キエフの丘の聖所が有名で、そこには頭部が銀箔、髭は金箔で彩られ老神として表現されたペルーン像があったと言われています。 ペルーンの神木はオークの木です。 雷神、農耕神、そして斧、オークの神木、斧・・。ピンと来た方もいらっしゃると思います。北欧神話のトールと共通していますね。 |
『ハンマーを持つトール神』アルトゥーナのルーン石碑(スウェーデン 11世紀) "Altunastenen U 1161(Raa-nr Altuna 42-1)Tors fiskafange 0646" ©Gunnar Creutz(23 April 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 9世紀にやってきたスウェーデンのヴァイキングと共に、この地に北欧神話がもたらされたことは想像に難くありません。 類似した神が習合して現代に至るのか、個々で同じような神が存在していたのかは知る術もありませんが、この地で神話が影響し合ったのは間違いないでしょう。 |
【参考】テトラドラクマ貨のゼウス(古代ギリシャ 紀元前297-紀元前272年) | 古代ギリシャでは最初に創造された木はオークとされています。 ギリシャ神話の最高神であり、雷を操るゼウスの神木もオークの木です。 古代ギリシャのテトラドラクマ貨に描かれたゼウスも、頭にオークツリーの冠をつけています。 |
ローマ神話の主神ユーピテル(ジュピター)(100年頃) "Giove, I sec dc, con parti simulanti il bronzo moderne 02" ©sailko(31 August 2011, 11:21:25)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
実は1202年に書かれた『言語母論』において、ペルーンは『ユーピテル(ジュピター)』という名前で訳されています。 様々な共通点などから、19世紀以降、研究者はペルーンをギリシャのゼウスや北欧神話のトールと同様の神とみなすことが多いのです。 |
イギリスの歴史作家で、主に北欧・中国の文化・歴史や神話百科を執筆しているアーサー・コットレルは、『ビジュアル版世界の神話百科 - ギリシア・ローマ/ケルト/北欧』の中で、やはりペルーンへのトールの影響について言及しています。 ヴァイキングがスラヴの地を攻略して支配したことにより、トール信仰がペルーンなどスラヴの雷神信仰に影響を与え、ペルーンがトールと似た性質を備えるようになったとコットレルも考えているようです。 どの地、どの年代においても神の習合はよくあることですね。境界線で明確に線引きしようとし過ぎると、物事が全く理解できなくなってしまいそうです。あやふやだからこそ、何だか難しかったりもしますね。 |
キリスト教の導入
キエフ大公ウラジーミル1世(955?-1015年) "Ukrine-Ivano-Frankivsk-Cathedral of Holy Resurrectin-5" ©Alex Zelenko(11 August 2006)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
さて、北欧神話もスラヴ神話も多神教で、862年のヴァイキングによる征服後も始めのうちは多神教でした。 しかしながら988年、ウラジーミル1世により東ローマ帝国からキリスト教が導入されました。 唯一の神を絶対者として崇めるキリスト教の考え方が、キエフの王座にあって全ロシアを統治する支配者にとって必要になったためと考えられています。 ローマに本拠地を置くカトリック教会の信仰でありません。ギリシャ人を通じて受容したため、いわゆる東方教会に属するギリシャ正教の一派です。 |
11-12世紀の考古学的発見に基づいたスラヴの斧のバリエーション | キリスト教の導入によってスラブ神話や北欧神話の神々は排斥されることになります。 しかしながら日本にも古代からの神話は現代まで何らかの形で伝わっている通り、ロシアでもペルーンは現代でもとても人気があります。 |
現代でもペルーンの斧をモチーフにしたアクセサリーはとても人気がありますし、タトゥーのモチーフとしてもロシアで人気のようです。 ロシア人のルーツを大切にしようという考えから、7/20の『ペルーンの日』には各地でお祭りを開催する動きもあるようです。 |
貴族に加護を与える神
ヴォーロスを打ち負かすペルーン(クロアチア 8世紀) "Perun i Veles" ©Perunova straza(12 March 2012)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ペルーンはスラヴ神話の最高神として、長い髭をたくわえた強力無比の神として描かれます。権力のイメージとも深く関係しており、スラブの王侯貴族やドルジーナ(親衛隊)からの畏怖の対象でもありました。 ペルーンのような天空の神とは対照的に、水、森、土壌、地底の世界を支配するヴォーロスという神も存在します。長い髭を生やしたかなり野性的な外見から、牧神パンとも比べられる家畜の神です。牛などの家畜を守り、動物や植物を助けると考えられていたため、スラヴの人々からは愛される存在でした。 ペルーンが貴族に加護を与える神であったとすれば、ヴォーロスは庶民、狩人、農民と結びつく平民の神なのです。 |
農奴制があり、想像もつかないほど貴族と平民の貧富の差があったロシアにおいて、このピンは間違いなく貴族の特別なオーダーで作られたものです。 女性向けだとデフォルメして可愛らしくした方が、一般的にはウケが良さそうですが、男性が作らせたものなので贅沢かつリアルに作られており、まさに美しい、カッコ良いという言葉がピッタリです。 様々な個性を持つ貴重な天然真珠の中から、ドングリらしい色と形、そしてクラバットピンに適した大きさのものをわざわざ選んで使ったのです。 その発想力と拘り具合は、想像するだけでも嬉しくなりますね。 |
天然真珠のスズラン(ファベルジェ) 【引用】『THE ART OFFaberge』John Booth著, THE WELLFLEET PRESS, p114 |
カルセドニーのクランベリー(ファベルジェ) 【引用】『THE ART OFFaberge』John Booth著, THE WELLFLEET PRESS, p122 |
スズランとクランベリーのオブジェはロシアのファベルジェにより制作されたものです。天然の素材の持ち味を見事に生かして、まるで本物のような造形を表現していますよね。厳寒の地ロシアでは、彩り豊かな花は貴重な存在でした。贅の限りをつくした当時の皇帝は、わざわざヨーロッパから車両を花で埋め尽くした花列車を毎週走らせて楽しんでいたそうです。花が現代の日本人からは想像がつかないくらい、身近には手に入らない美しく憧れてやまない物だったということでしょう。それ故に、このような素晴らしい作品が生み出されたのだと感じます。 |
このドングリのピンも、天然真珠の特徴を生かし、オークツリーの葉っぱに至るまで巧みに表現されています。 この作品がいかにもロシアらしいと感じる所以です。 ロシアで身近にあったオークの木をよく観察し、特徴をとらえて見事に表現したということでしょう。 |
美しく配されたローズカットの煌めきも美しいです。 1つ1つ立体的な傘の局面にセットされているので。様々な角度からそれぞれ煌めきを放つのです。 |
葉っぱと枝にセットされたダイヤモンドはオープンセッティングです。丁寧で美しい窓の開け方は、さすが貴族の男性がお金をかけて作られたハイクラスのジュエリーです。 |
ピンの部分にホールマークがあります。 56という数字はロシアの金の純度を表すもので、約14金に相当します。 |
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上の画像で付けているのは金めっきの現代のハットピン用のピンキャッチです。こちらはご希望の場合はサービスでお付けします。 18Kの現代の通常のピンキャッチは針が太くてこのままでは使用することができません。ご希望の場合は針先を若干削って、18Kのピンキャッチが合うサイズに調整することも可能です。18Kのピンキャッチは時価となります。ご希望の場合はご相談ください。 |
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天然真珠としてはかなり大きさがあるため、実際にジュエリーとして身に着けた際にも存在感がバッチリあります。 見た目もパッと見てすぐにドングリだと分かるので、会話のきっかけにもなりそうですね。 ヨーロッパとは違う独特の魅力を放つロシアのジュエリーは、欧米でも別格の扱いで人気があります。ロンドンのアンティークジュエリーの本棚でも一番数が多かったのはファベルジェの本だったとGENも言っていました。 そんな貴重なロシアの天然真珠のジュエリーだと言えば、国内だけでなく欧米人にも羨ましがられそうです♪ |
北欧ではドングリの実を一粒持っていると、病魔から身を守り若さを保ち、長生きすることができるという言い伝えがあります。 このドングリはそういう単に幸運のジュエリーとして作られた可能性も否定はできません。 でも、このドングリを作らせた貴族は、偉大な貴族の神ペルーンの加護を受けるため、ペルーンの象徴として作らせたのではないかと感じます。 これだけ特別に作られたジュエリーなのですから・・ |
その他のロシアのジュエリーと小物
『ロシアン・ラグジュアリー』 ロシアン クロワゾネ・エナメル スモールボウル ロシア 19世紀後期 クロワゾネ・エナメル(有線七宝)、シルバー、シルバーギルト、ゴールド 直径5cm 高さ1,8cm 重量50,4g SOLD 驚くほど細工に手をかけるロシアの作品の中でも、別格の手のかけ方と技術が施された特別なロシアンエナメルのスモールボウルです。 |