ワイヤー

リージェンシーの葡萄とワイン樽がモチーフのゴールド・スライダー・ペンダント

 金属を細長い針金にしたもので、カンティーユや撚り線、チェーンなど応用範囲が広く、見る機会が最も多い細工技術です。

金属板を細長くカットしただけのものと、さらに延性を生かしたワイヤー・ドローイングで作るものがあり、左は両方の技法が見られます。

 

【金属板を細長くカット】

古代ローマ バンデッドアゲート リング

 鍛造の金属板を細くカットして細線にしたワイヤーです。叩いて鍛えているため強度が高く、硬くて摩耗にも強いです。

左は古代ローマの2〜3世紀頃のリングで、全て当時のオリジナルという美術館級の作品です。古代のゴールドは純度が高く、約22〜24ctあります。

ゴールドの板を細くカットしてワイヤーにして作った古代ローマのリング
ゴールドの板を細くカットしてワイヤーにして作った古代ローマのリング

シャンクはゴールドの芯材に、ゴールド・ワイヤーを巻きつけて蝋付したものを2つ重ねています。拡大すると、人の手でカットされたものと解ります。他では見たことのない珍しい作りで、実際の大きさで想像すると信じ難い神技です。

 

【ワイヤー・ドローイング】

ワイヤーを細くする原理
"Wiredrawing" ©Eyrian (talk I contribs)(05:32, 26 January 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0

 細長くカットした鍛造の金属板を孔に通し、目的の太さまで徐々に細くしていく技法です。

一度で極端に細くすることはできません。無理のないサイズで何段階も経て細くします。均一な力と方向、適切なスピードで引く必要があります。同じゴールドであっても割金や金属の結晶状態、作業時の気温や気圧など、微妙な条件の違いによって性質は大きく変化します。それらを見極めて作業する必要があり、細さを極めるほどに、職人の勘と高度な技術が必要な神技となっていきます。

 

 

【ワイヤーの応用例】

ステュアート朝のロッククリスタルの撚り線ペンダント

これは1600年代に制作された小さなペンダントです(本体:2.1×1.8cm)。

髪の毛で編んだ布の上に、撚り線で作った装飾的なイニシャルをセットしています。比較すると、髪の毛より細いゴールド・ワイヤーを使用していることが解ります。

細さを極めた信じ難い細工は、随一の延性を持つゴールドだからこそ実現できたものです。

 

 

金線を編んだフラワーバスケット収穫された葡萄が詰め込まれた、シャトーを持つ貴族のためのフランスのアンティーク・ブローチ

これは太さの異なるゴールド・ワイヤーを駆使したアーティスティックな宝物です。収穫した葡萄でたわんだ黄金のバスケットは柔らかそうですが、18ctなので実際は硬いです。アイデアと造形力は圧巻です。

 

 

イタリア考古学風ジュエリー 古代エジプトのアメン神の化身「雄羊」を表現したエトラスカンスタイルのラムズヘッドのアンティークのゴールド・プチ・ペンダント 鳥モチーフ ブローチ スリーカラー・ゴールド アンティークジュエリー←チェーン&撚り線  ↑金線を編んだ黄金の巣

 実用的なチェーン、名脇役となる撚り線、アイデアを生かした主役級のアーティスティックな表現まで、ワイヤーの応用範囲は想像以上に幅広いです。アンティークジュエリーで最も広く使用される技法の1つと言える、縁の下の力持ちなのです。

 

 

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