ロスチャイルドのお城(5) 〜古代ローマ皇帝とルネサンス・ミステリー〜

ワデズドンマナー ロスチャイルド ローマ皇帝 ハプスブルク家 ルネサンスの謎 ミステリー Aldobrandini Tazze パンフレット ワデズドンマナー ロスチャイルド ローマ皇帝 ハプスブルク家 ルネサンスの謎 ミステリー Aldobrandini Tazze パンフレット

イギリス人ディーラーがワデズドンマナーに連れてきてくれたのは、実はもう1つ理由があります。それが邸宅内で開催中だった企画展『シルバーの皇帝たち:ルネサンスの謎』です。

"ルネサンス期の最も類い稀、且つ謎に包まれた宝物"の1つと言われる『Aldobrandini Tazze』が展示物です。

ローマ皇帝12人の360度立体的な全身像と、その治世における歴史を描いたプレートから成る、ルネサンス期に制作された謎の大作です。

 正確には、終身独裁官ジュリアス・シーザー、帝政ローマ初代皇帝アウグストゥスから11代皇帝ドミティアヌスまでの12人です。誰が何のために作らせたのか記録は残っていません。最新の研究では、神聖ローマ帝国の支配的な一族、つまりハプスブルグ家のために16世紀末のオランダで制作された物と考えられています。偉大な宝物でありながらも、数世紀の間に世の中からは忘れられた存在となっていました。
 再び脚光を浴びるようになったのは、1826年にあるロンドンのディーラーの店で「発見」されたことがきっかけでした。その後全てが集められ、当時の19世紀の趣味に合わせて12のTazze全てにシルバーギルトが施されました。このため現在は黒ずんではいないものの、薄いゴールドを反映したやや黄色味がかった色しています。"物"にも辿ってきた歴史を感じますね。この加工の時が、12のTazzeが揃って一堂に会した最後でした。その後は異なるオーナーへと売却され、ヨーロッパやアメリカに分散してしまいます。

 12のTazzeの内、約半数を所有したのがロスチャイルド家です。自慢のためのお城であるこのワデズドンマナーに、建物が完成した当初からTazzeコレクションを展示していました。それが今回、何と150年以上ぶりに各地の私的コレクションのオーナー、公的コレクションのオーナーの協力を得て、全てがこのお城に集まったのです。何とラッキーなタイミング♪

 ルネサンス期の美術品は本当に稀少なので、極めて優れた美術品の場合、日本で見ることはほぼ不可能です。ヘリテイジでもルネサンス期の名品『キューピッドのお礼参り』が1点だけありますが、この時代のジュエリーは作られた数が圧倒的に少ないこと、後期ルネサンスであっても300年以上は経過していること、文化財レベルだと特殊な個人蔵ないし美術館所蔵となって、一般市場にはほぼ出てこないことなどの要因があって通常は見ることができないのです。市場に出ている物がゼロと言うわけではありませんが、この分野はフェイクも多く出回っており、そもそも本物だったとしてもデザインや作りに魅力を感じない物は私にとっては扱っても意味がないのです。古ければ何でも良いという価値観の人たちのことは勿論否定しませんし、それぞれの価値観で生きれば良いのです。倉敷のあるお店では、"縄文土器の破片"が3万円で売ってありました。サラリーマンだった私は買う人いるのかなぁと不思議に思いましたが、どうなんでしょうね。古代のロマンは魅力的ですが、詳しい説明がない上にただのお土産物屋さんだったので怪しさしか感じませんでした。本物だったとしてもただの破片は要らないです(笑)古い地層が露出している所に行けば数万年前の石は簡単に手に入るし、化石発掘体験に参加すれば太古の植物や虫などの化石も手に入りますからね。
 それはさておき、アンティークジュエリーディーラーにとって『ルネサンス』は特別な時代です。宝石の価値しか見ないタイプのディーラーには興味がない時代ですが、手仕事の細工・芸術的価値を最重要視する私たちにとってルネサンスは『アンティークジュエリーの原点』と言うべき時代です。


 プレートに表現された48のシーンは、五賢帝時代の歴史家・政治家ガイウス・スエトニウスによって2世紀頃に書かれた『皇帝伝』が元になっています。ただし忠実な再現と言うよりは、暗い史実は無視して意図的に明るい内容となるよう加工されています。Tazze誕生の背景を想像すると楽しくてしょうがありません。紀元前1世紀〜1世紀頃までの記録をまとめた2世紀頃の歴史書が脈々と受け継がれ、16世紀の人々に歴史的解釈がなされ新たな芸術作品に昇華する。何と壮大な時間的スケールなのでしょう♪♪実は掲載中の『太陽の使い』も時空を超えて完成された芸術作品です。宜しければご覧くださいませ。

このような歴史的誕生背景も興味深いのですが、細工はさらに驚愕でした!!

老眼でなくても、肉眼では分からないほどの細かさでした。超高画質撮影して、拡大した動画も放映されていました。分かりやすくて良かったです。360度立体的な作りを全てのアングルから見れるよう展示あったり、案内係の美人のお姉さんが展示物の見方を丁寧に説明してくれるなど、クオリティの高い美術館でした。以前勤めていた会社がルーブル美術館と提携していて、私自身も美術館・博物館関係の仕事に少し関わったり、第一線の人から裏話を聞いたりした経験はあるのですが、ここは想像以上でした。

アンティークジュエリー ルネサンス 片桐元一

少しだけルネサンス期の美術工芸の桁違いの素晴らしさに触れていただけましたでしょうか?

もう少しだけお話しましょう。この時代に細工の技術が高まったのはきちんと理由があります。この時代はダイヤモンドのカット技術がまだ未熟で、上質な石の数量も不足していました。このため高価な宝石に頼らない、金細工やエナメルが主役の芸術性が高いジュエリーが作られました。このためジュエリー=芸術作品と見なされ、ジュエリーの地位も高かったのです。ただの「アクセサリー」とは絶対的に異なるのです。だからこそ宮廷画家がジュエリーをデザインした例があったり、著名な建築家も最初の勉強としてまずジュエリー制作をしていたと言われているのです。立体デザインができる頭脳、美しいデザインを構想するセンスを合わせ持った天才たちがこの分野で活躍する時代だったからこそ、素晴らしい作品が生み出されていったのです。この特殊な時代に芸術の域にまで高められたジュエリーが、西洋のアンティークジュエリーの原点となっているということなのです。

GENの前の会社名は『ルネサンス』でしたが、そういう意味が1つあるのです。そして実はもう1つRenaissanceという会社名には意味があって、フランス語で「復活」「再生」を意味する言葉たからです。自称フェニックスのGENは、意図せず3回もアンティークジュエリーの店を駄目にしています。詳細は割愛しますが、ルネサンスを立ち上げる時も復活・再生しなければならない状況に陥りました。新しい店名が必要だったのですが、状況を知った上で『ルネサンス』という店名を授けてくれたのが、実は今回のイギリス人ディーラーでした。お母様がフランス系なのでフランス語にも精通している、とても頼もしい存在です。実は『ヘリテイジ』の名付け親でもあるんですよ〜♪

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ロスチャイルドのお城はお土産ショップも充実しています。せっかくなので、パッケージデザインが綺麗だった鳥の石けんを買ってみました。イギリス製のシアバターソープと言うのも気になります。これで製造国が別の国だとテンションが下がりますね。日本の観光地で販売されている安っぽい和風のお土産品も、どこの国で作られているか分かったものじゃないですし・・(--;)
ロスチャイルドのお城シリーズ、いかがでしたか?アンティークジュエリーを愛して下さる皆様が渡英される際は、ぜひ行ってみてほしいお勧めの場所です。季節はもちろん『The SEASON』の5、6月で♪

 

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