No.00255 ターコイズ・ブルー |
|
『ターコイズ・ブルー』 ターコイズ&パール ブレスレット フランス 1880年頃 天然真珠、トルコ石、18ctゴールド 長さ17,7cm 重量8,6g SOLD 高度な技術を持った職人のハンドメイドによる、ハイクラスのアンティーク・ジュエリーならではのスムーズで着け心地の良いブレスレットです。高級感あふれる黄金の輝きの合間から見える、小さなトルコ石の鮮やかなターコイズ・ブルーがとても印象的で、デザイン的にも非常にセンスの良さを感じる作品です。 |
||
こういう気の利いたデザインのジュエリーは大好きです♪ポイントは3つです。 1. いかにもベルエポックのフランスらしいゴールドのデザイン |
1. ベルエポックのフランスらしいゴールドのデザイン
このような編み方のゴールドのパーツを見ると、いかにもベルエポックのフランスらしいと感じます。 |
同じようなタイプで、このようなスーパーロング・ゴールドチェーンもありました。 但しこのようなゴールドの線を編んだようなデザインがベルエポックらしいとは言っても、あまりたくさんはご紹介していません。 それには理由があります。 |
|
ゴールド スーパー ロングチェーン フランス 1890年頃 18ctゴールド SOLD |
ベルエポックのフランス・ジュエリー
『可憐な一輪』などでもご紹介している通り、フランスは1870年に勃発した普仏戦争で皇帝ナポレオン三世が捕虜となったため共和政府が樹立し、1871年には正式に皇帝が廃位され第三共和政へと移行しました。 |
||
1870年に投稿したナポレオン三世とビスマルクの会見を描いた絵 |
ベルエポックの精神を表現したポスター(1894年)ジュール・シェレ | 男系長子しか爵位を継承できず貴族の数が限られ、莫大な富と権力を集中して持つことのできたイギリス貴族と違い、有象無象存在するフランス貴族は、貧乏人に毛が生えた程度の名ばかり貴族も少なくありませんでした。 戦争の敗北によってその貴族の称号すらもなくなり、1870年代以降のフランス経済を牽引するのは庶民が中心となりました。 その中でも特に活発な消費意欲で経済を牽引したのが、中産階級の若い女性たちでした。 |
ボヌール・デ・ダム百貨店(初版は1883年) | "安い"を意味する安さが売りのボン・マルシェ百貨店などに殺到したフランスのご婦人たちは、買物中毒が問題化したり、消費行動が研究対象や小説の題材となるほどの旺盛な消費活動ぶりでした。 |
ボン・マルシェ百貨店(1887年) |
ルーブル百貨店(1877年) | 当時パリにはいくつも百貨店がありました。 ボン・マルシェ百貨店もルーブル百貨店も超巨大ですが、それにこれだけの数のご婦人方が殺到するなんて想像を絶します。 |
世界最初の百貨店と言われる『ボン・マルシェ百貨店』 "Bon marche" ©Arnaud Malon from Paris, France(2 April 2006)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
元々教養も見る目もなくモノの良さをが分からないご婦人方にとっては、安いことが一番の価値です。 安物しか買えない人たちが対象でも、数をさばけば儲かります。 そういうわけでベルエポックのフランスでは国内消費用に、大量生産の安物がたくさん作られているのです。 |
【参考】ベルエポックの安物18Kゴールド・ピアス | このピアスもそうです。 ろくな仕上げがされていないので、ゴールドの光り方が安っぽいです。 |
【参考】ベルエポックの安物ゴールド・ピアス | それでもフランスのゴールドジュエリーなので、18Kで作られています。 『スタイリッシュ・ゴールド』でご説明した通り、フランスのゴールドジュエリーは金の純度で安物・高級品を判断することができないのです。 |
【参考】ベルエポックの安物ゴールド・ピアスのホールマーク | こんな安物でも、きちんとホースヘッドと工房の刻印があります。 当時の女性も工房のマークを見て、ブランド物だと喜んで購入していたのでしょうかね。 現代の日本人でも、ホースヘッドがあるというだけで大喜びして買う人がいそうです。 |
思考停止ツール(笑) | 実際に一般のアンティークジュエリー市場ではホールマークがあるというだけで喜ぶ人も多いので、低級品かどうか関係なく扱う店も少なくありません。 でも、ヘリテイジは教養のない人から儲けるために作られた安物は絶対に扱いません。 ベルエポック・ジュエリーの大半はそういう低級品なので、必然的に取り扱いする数が少ないのです。 |
輸出用に作られた高級品
フランスのジュエリーなので、このブレスレットにもホールマークがあります。 打たれているのはクラスプの金具部分です。 |
【参考】フランスのホールマーク | 『スタイリッシュ・ゴールド』でご説明した通り、ホールマークは100年後の人たちがアンティークジュエリーの価値を判断するためのものではありません。 建前上は消費者保護のためと言われていますが、実際のところは適切に税金を徴収するためのものなので、同じ素材や金位であっても輸出用か輸入用かでもホールマークの種類が異なっていたりします。 |
このブレスレットはフランスで輸出用に作られた18ctゴールド製品であることを示すマーキュリーが刻印されています。 |
ベルエポックの時代に沸くフランスの中産階級の女性向けに国内消費用として作られたのではなく、輸出用の高級フランス・ジュエリーとして作られたということで、このブレスレットの高価な作りにも納得です。 |
金の色も良いですし、ゴールドをふんだんに感じるデザインは実に高級感があります。 |
1つ1つ丸みあるデザインのパーツは程よく磨かれているため、それぞれ表面が光ってゴールドジュエリーならではの黄金の輝きによる美しさが感じられます。 |
裏側も隙のない美しさです。それだけではなく、高級品として高度な技術を使って丁寧に作られているため、とてもしなやかに動きます。ブレスレットは細い手首にしなやかに沿い、着用者の動きに合わせてスムーズに形を変えられないと違和感を感じてしまいます。 |
デザイン上のポイントになっているトルコ石や天然真珠のパーツを起点として、連結したパーツが動く構造になっています。アンティークでも作りが良くないとスムーズに可動せず、カチカチしたり違和感ある動きになったりするのですが、この上質なブレスレットはとても気持ちよくスムーズに手首に沿います。 |
360度すべてが同じ構造で作られているからこその美しさと、違和感のないスムーズな動きなのです。 |
2. ターコイズをうまく配置した印象的な色使い
このブレスレットにはペルシャ産トルコ石が6石、天然真珠のハーフパールが7石の2種類、計13石の宝石が取り付けられています。今回の主役は何といっても鮮やかなターコイズ・ブルーが印象的なトルコ石です。 |
-戦後のトルコ石とアンティークのトルコ石の違い-
メキシコ産トルコ石 | |
【参考】処理前 | 【参考】スタビライズ処理して磨いた状態 |
『旅のお守り』でトルコ石については詳細をご説明していますが、アンティークジュエリーに使われている上質なペルシャ産トルコ石と違い、現代で市場に出回っているアメリカ産やメキシコ産のトルコ石は非常に質が悪いです。酷いものはチョーク並にスカスカなので、そのままではとてもジュエリーに加工できません。そこで開発されたのが樹脂を使ったスタビライズド処理です。 1950年代にアリゾナのColbaugh処理施設で開発された技術で、トルコ石の空隙に高圧でエポキシ樹脂やポリスチレンなどのプラスチック、水ガラスなどを注入して色を良くし、耐久性を高めます。 アメリカ産のトルコ石の大部分は現在この方法で処理されており、アメリカではスタビライズド処理されたトルコ石はナチュラル(天然石)として扱われます。 |
【参考】現代の「トルコ石」のリング | |
所謂エンハンスド処理の一種とみなされており、天然の石を使って素材のポテンシャルを引き出しただけだという論理です。このため1950年代以降のトルコ石ジュエリーは全く信用できませんが、戦前のアンティークジュエリーであれば、石が取り替えられたりしていない限りは安心して天然のトルコ石を楽しむことができます。 |
【参考】現代の「トルコ石」アクセサリー(ジュエリー?) | 但し残念なのが、スタビライズド処理されたトルコ石や完全に樹脂だけで作られたオモチャが大量に安価で出回った結果、現代では"トルコ石=安物の宝石"というイメージになってしまったことです。 |
ペルジャンターコイズのパリュールを着けたフランス皇妃ジョゼフィーヌ(1812年) |
本来、上質なペルシャ産トルコ石はとても高価な宝石でした。『アルテミスの月光』でご説明した通りティアラは着用者の富と権力、そして美しさを象徴するアイテムです。皇族、王族クラスのティアラのメインストーンに選ばれるほど評価の高い宝石でした。 |
イギリスのマーガレット王女(スノードン伯爵夫人)(1930-2002年) "Princess Margaret" ©David S. Paton(Unknown date)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | トルコ石に安物イメージが付いたのは1950年代以降で、割と最近のことなのです。 エリザベス女王の妹で、そのとびきりの美しさで元祖ファッションリーダーだったマーガレット王女も、ペルジャンターコイズのパリュールを若い頃からよくコーディネートしていました。 代々伝わるジュエリーを所有し、本来のジュエリーの価値を理解している王侯貴族にとっては、現代でもペルジャンターコイズは価値ある宝石なのです。 |
-トルコ石を効果的に使うジュエリー-
【参考】現代の「トルコ石」のリング | 現代ジュエリーはろくにデザインしていないものも少なくありません。 特別にオーダーされたハイクラスのアンティークジュエリーであれば、唯一無二の天然の素材を使うので、使う素材に合わせてただ1つの作品のためだけにデザインが考案されます。 |
現代ジュエリーなんてどんなに高級とされるブランドのものであっても、アンティークの本物の高級ジュエリーから見れば量産のちゃちな作りと素材の安物です。1つ1つジュエリーをデザインするなんてあり得ませんし、使う宝石の特性によって、その宝石が一番惹き立つデザインを考えようなんてこともありません。 量産ジュエリーなんて量産しやすくてなんぼです。なるべくコストを抑え、歩留まり良く生産できるデザイン。工業製品を作るための工業製品デザイナーが専門として存在するのはこのためです。最高の芸術作品を1点だけ作る芸術家とは対極です。 |
【参考】BOUCHERON PARIS セルパンボエム トワエモア リング(笑) | ||
ダイヤモンド16石、18KWG ¥1,134,000-(2018.11調べ)【引用】BOUSHERON / SEPRENT BOHEME TOI ET MOI RING S MOTIFS |
トルコ石2石、18KYG ¥518,400-(2019.7調べ)【引用】BOUSHERON / SEPRENT BOHEME TWO-STONE RING S MOTIFS |
シトリン2石、18KYG ¥660,000-(2021.5調べ)【引用】BOUSHERON / SEPRENT BOHEME TWO-STONE RING S MOTIFS |
フランスの高級ジュエリーを標榜するメーカーでも、石に合わせて石がより美しく惹き立つデザインをしようなんて発想は微塵も感じられません。ただ素材を変えるだけ。しかもその素材にもろくに価値がない。そして作りからも明らかな通り、型を使って鋳造で大量生産されているのでどれも同じ形状です。これが現代ジュエリーの実情です(失笑) |
ジョージアン ターコイズ ブローチ&ペンダント イギリス 1800年〜1820年頃 トルコ石、天然真珠、エメラルド、18ctゴールド SOLD |
ハイクラスのアンティークジュエリーが楽しいのは、1つ1つ価値ある宝石に合わせ、どれだけ作る手間がかかろうとも最高に宝石が美しく見えるデザインが施されていることです。 |
ペルジャンターコイズ カンティーユ ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
トルコ石のこの独特の色合いによる存在感は、他の宝石にはない強い魅力があります。 ダイヤモンドやルビー、サファイア、エメラルドなどの4大宝石のように煌めきはせず、透明感もありません。 |
『A Lily of the Valley』 鈴蘭のブローチ ヨーロッパ 1880年頃 SOLD |
でも、この独特の色がとても強い存在感を放つのです。 |
ラティスワーク ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
『旅のお守り』ターコイズ・ボール・ブレスレット イギリス 1880年頃 SOLD |
トルコ石をふんだんに使った思いっきりターコイズカラーを感じる『トルコ石ジュエリー』も好きなのですが、それとは別に私が大好きなのが上の2つのような、小さなトルコ石をセンス良くデザインに使ったジュエリーです。 鮮やかなターコイズカラーは存在感が大きいので、小さくてもデザイン上で効果的な働きをするのです。小さいと普通はダイヤモンドのように時折鋭い閃光を放つなどしないと、付いていることに気づかないくらい目立たなそうなのですが、色だけで強い魅力を放つことができるトルコ石は宝石の中でも別格の存在なのです。 |
このブレスレットも、パッと見て6つのトルコ石に目がいくのではないでしょうか。天然真珠の部分まですべてこのトルコ石だと、ちょっとデザイン的にくどくなっていたのではないかと思います。 |
アオアシカツオドリ "Blue-footed Booby(Sula nebouxii)-one leg raised" ©Pate(27 May 2007, 09:11:09)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
なぜかは分からないけれどとにかく目立つ色、それがターコイズ・ブルーなのです。 ちなみにこれは本物の鳥で、鮮やかなターコイズブルーの足が印象的なアオアシカツオドリです。 求愛行動の時に雄が足を交互に持ち上げて雌の周りをダンスするそうです。だから足が目立つ色なのでしょうか。 人間の目にも、この足の色は印象的です。 ターコイズブルーというのは本当に不思議な色です。 |
このブレスレットには、6石だけのこのターコイズ。ブルーの分量がベスト・バランスなのです。 |
小さな宝石ですが13石いずれもとても丁寧に留められており、さすが高級な輸出品として作られたジュエリーだと思います。 |
宝石を留めたフレームには1つ1つにミルが打たれ、頭の部分を磨いて滑らかな半球状にしてあります。 |
肉眼で見ると、この細かなミルが繊細な輝きを放ちます。ブレスレット本体の丸みを帯びた豪華な黄金の輝きとコントラストになっていて、さらに高級感が出る大きな役割を果たしています。一見気づかないようなささやかな仕事なのですが、全体の雰囲気には間違いなく大きな効果を発揮しています。 |
このような細やかな気配りの細工を見ると、やはり高級品は違うなと改めて実感します。 |
3. 360度すべてデザインされたブレスレット
手首に着用するブレスレットは360度が人目に触れます。身に着けて動いているうちに回転することもあるので、できれば360度すべて同じデザインだとありがたかったりします。 |
【参考】BOUCHERON PARIS セルパンボエム ブレスレット スモール ターコイズ、18KYG ¥224,640-(2019.7調べ) 【引用】BOUSHERON / SEPRENT BOHEME BRACELET XS MOTIFS |
1つしか手に入らない稀少な宝石や、一投入魂で制作された芸術カメオならばブレスレットに正面があって然るべきですが、いくらでも手に入る石ころを使いながら"正面"が存在するブレスレットはただのケチな作りです。 ブレスレット全体で見ると石ころの付いた部分は重いので、手首に着けると石ころ部分が下になり見えなくなってしまいます。 実用を全く考慮していない商品です。身に着けた女性を美しく見せてくれるのがジュエリーのはずなのに、こんなもの高級ジュエリーではありません。ただの"メーカーが儲けるための道具"です。だから、とにかくコストカットが極められた作りなのです。 |
360度のデザインを可能としているのが、この特別にデザインされた着脱部分の金具です。作るのも大変だと思いますが、よくデザインされていますよね。 |
着けた後に、どうやって外すか方向が分からなくなることがあるかもしれません。外した状態の金具をご覧いただくと分かる通り、とっかかりの金具を押しながら左側に引くとスポッと抜けます。 |
金を十分に使ったしっかりした作りなので、今でもパチッと気持ちよく金具が収まります。 |
着用イメージをご覧いただくと、小さなトルコ石の鮮やかな色がピリリと効いており、とてもオシャレな雰囲気になっていることがお分かりいただけると思います。 日本人女性のブレスレットのサイズは16-18cmが標準サイズと言われており、このブレスレットは17.7cmなので、ほとんどの方に問題なくご着用いただけると思います。 私はどちらかと言えば細身ですが、抜けてしまうほど緩くもありませんでした。 |
Blue-footed Booby(Sula nebouxii)-displaying" ©Pate(27 May 2007, 06:40:10)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |