No.00252 アルテミスの月光 |
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『アルテミスの月光』 イギリス 1910年頃 |
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古代ギリシャではムーンストーンは月の光が結晶となったものと言われていましたが、まさに青白い月の光のような幻想的なシラーが出るブルー・ムーンストーンのティアラです。大きくて最上級のムーンストーンを5つも使った宝石自体の凄さはもちろん、作りも王族クラスのジュエリーにしか見ないレベルのトップレベルです。 それに加えて、ティアラでは一般的に殆ど存在が知られていない2wayタイプで、なんと魅力あるネックレスとしてもお使いいただけます。ティアラと言うと日本では結婚式以外に使えるタイミングが思いつかない方が殆どだと思いますが、このティアラは普段はネックレスとして楽しめるという、使うジュエリーという観点からも魅力ある宝物です。 |
このティアラの魅力を理解する上でのポイント
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このティアラの魅力を理解するには、以下のポイントを押さえておく必要があります。 1.ティアラとはどういうアイテムなのか 2.古代ギリシャを象徴する格調高いメアンダー模様を使ったデザイン 3.メアンダー模様のアンティークジュエリー 4.今では手に入らない極上のムーンストーン 5.トップクラスのティアラならではの2wayデザイン |
ポイント1 ティアラとはどういうアイテムなのか
1-1.王侯貴族のステータスの象徴
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ティアラは王侯貴族のステータスの象徴として着用されてきました。 19世紀は上流階級の社交の場において、頭に何らかの飾りを着けずに出席するということはあり得ませんでした。 |
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アルバート王配がデザインしたオリエンタル・サークレット・ティアラを着けたヴィクトリア女王 |
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コーネリアン・ティアラ着用のフランス皇后ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(1763-1814年) | ホラント王妃オルタンス・ド・ボアルネ(1783-1837年) |
ヨーロッパの上流階級はつながりがあるので、基本的にはそれはヨーロッパで共通する文化でした。右上のオルタンスが着用しているのは、現代でもスウェーデン王室に伝わり、使用されることがあるカメオ・ティアラです。1809年に皇帝ナポレオンが皇后ジョゼフィーヌのために作ったものですが、この時はジョゼフィーヌの連れ子であるオルタンスが母から借りて着用しています。 |
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そのオルタンスと、ナポレオンの弟でホラント王ルイ・ボナパルトとの間にできたナポレオン三世の妻、ウジェニー皇后も当然ティアラを着用しています。 |
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フランス皇后ウジェニー・ド・モンティジョ(1826-1920年) 27歳頃 |
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ナポレオン三世はフランス第二帝政の皇帝ですね。 皇后ウジェニーはスペイン貴族出身で、父はボナパルト主義者でした。 |
フランス皇帝ナポレオン三世(1808-1873年) |
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しかしながらナポレオン三世は1870年に勃発した普仏戦争で捕虜となってしまいました。 |
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1870年に投降したナポレオン三世とビスマルクの会見 |
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夫妻には長男で皇太子のナポレオン・ウジェーヌ・ルイ・ボナパルト(ナポレオン4世)がいました。 当時まだ14歳でしたが、ナポレオン三世が戦死してくれればフランス皇帝の名誉は守られ、ナポレオン4世が正当に次のフランス皇帝となれると目論んだウジェニー皇后は、ナポレオン三世に厳しい戦況の中で先頭をきって突撃することを望んだそうです。 しかしながら結局ナポレオン三世は降伏してしまいました。 降伏翌日にパリにその情報が届くと皇后ウジェニーは摂政となり、皇太子ナポレオン4世に名目上政務を取り仕切らせることを目論みました。 |
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フランス皇太子ナポレオン4世(1856-1879年) 22歳頃 |
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しかしながら降伏の情報が広まると共和政を求める運動がパリ中に広がり、パリ市民を煽動した人物らによって翌日には共和政の臨時政府が樹立しました。 ウジェニー皇后のいるテュイルリー宮殿の庭園にも「スペイン女を倒せ」と叫ぶ民衆が乱入してきたため、皇后と皇太子はイギリスに亡命せざるを得なくなってしまいました。 オーストリア出身のマリー・アントワネットもオーストリア女と陰口を叩かれ、革命の際は「オーストリア女を出せ!」と言われたりしたそうで、フランスの国民性なのかパリジェンヌ独特の気質があるのでしょうかね。 結局翌1871年にはナポレオン三世が正式に廃位を宣言し、フランスは第三共和制へと移行しました。 |
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フランス皇后ウジェニー・ド・モンティジョ(1826-1920年) 1870年、44歳頃 |
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再び共和政となったフランスにおいて、ティアラは王政や帝政を連想させるものとして公的な場では着用されなくなりました。 一方でそれまでのティアラに取って代わったのがエイグレットでした。 |
ダイヤモンド トレンブラン エイグレット フランス? 1880年頃 SOLD |
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エイグレット型ダイヤモンド トレンブラン・ブローチ&髪飾り |
エイグレットが考案された18世紀以来、初めて上流階級の公式な場所で使うハイ・ファッションとしての地位を確立したのです。 |
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このため1870年代以降、エイグレットのジュエリーが見られるようになるのです。 そしてエイグレットを着用したのはフランス人女性だけではありませんでした。 |
マルチユース ダイヤモンド ブローチ イギリス? 1880年頃 SOLD |
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ポルトガル王妃メアリー・ドルレアン(1865-1951年) | マリー・アントワネットに扮したワーウィック伯爵夫人フランシス・エベリン(1861-1938年) |
新たなファッションの流行として、王族や伯爵夫人など貴族階級の中でも特に身分が高い女性たちも、こぞってエイグレットを楽しみました。右のフランシス・エベリンも、エドワード7世の愛人として知られているイギリス貴族の女性です。彼女たちはフランス人ではないのでティアラも併用していますね。 |
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フランスのジュエリー業界は、フランス人からのオーダーは無くなったものの、海外からのオーダーは相変わらずあるのでティアラを作り続けています。 キャサリン妃が結婚式で着用したティアラも、イギリス王エドワード7世が「王の宝石商、宝石商の王」として王室御用達だったフランスのカルティエが1936年に作ったものです。 |
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2011年にキャサリン妃が結婚式で着用したはハロー・ティアラ(カルティエ 1936年) |
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時代が下り、現代ではカルティエも他のジュエリーメーカー同様、見るに耐えないジュエリーしか使っていません。 それでも過去の栄光で今でも食べていけるのは、ブランドでしか判断できない人たちが需要を主導している証なのでしょうね。 そうは言っても実際本当に自力だけで食べていけているかというとそうでもなくて、1993年には南アフリカの実業家ヨハン・ルパートが設立したリシュモンとい会社の傘下に入っています。 リシュモンの全面子会社には名の知れた有名高級ブランドがゴロゴロ存在し、ピアジェやヴァンクリーフ&アーペル、モンブラン、ダンヒル、クロエなどもあります。 こんな状況下、採算を気にせず独自色ある優れた芸術作品を上市することなんて不可能です。 調べれば簡単に分かることなのですが、未だに"生まれたてのヒヨコちゃん(※参考)"状態の日本人も少なくないようです。 |
現代カルティエのブローチ(サイズ不明) ホワイトゴールド、ダイヤモンド ¥3,628,800-(税込)2019.2現在 |
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それはさておき、王侯貴族が存在するヨーロッパの国ではティアラはそのステータスの象徴として、結婚式以外のフォーマルな場で着用されます。 |
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ケンブリッジ・ラヴァーズノット・ティアラを着用したダイアナ妃(1961-1997年) |
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日本の一般人がヨーロッパの本当の社交の場に出席することは普通はないので、ティアラを着用した姿を見ることができるのは、メディアで報道される王族クラスだと思います。 でも、名門貴族階級ともなれば代々伝わる立派なティアラを保有しており、ダイアナ妃も結婚式ではスペンサー家に伝わるティアラを着用したことで有名ですね。 ティアラを見るだけでもどれくらいの家柄なのか想像できてしまう、王侯貴族にとって大切なステータス・アイテムなのです。 それこそ家宝クラスとして作られるものなのです。 |
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スペンサー家に伝わるティアラを結婚式で着用したダイアナ妃(1961-1997年)20歳 |
1-2.既婚女性の象徴であるティアラ
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2011年にキャサリン妃が英国王室入りして注目されるようになる以前は、ティアラと言えばダイアナ妃が多く注目を集めていました。 19歳で婚約、20歳になった月に結婚したダイアナ妃は日本人から見ても若々しいです。 しかも日本の皇室は成年皇族は正装でティアラを着用することになっているので、ヨーロッパでは女王や王妃、お姫様であればティアラを着用するものと勘違いされている方もいらっしゃると思います。 |
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ケンブリッジ・ラヴァーズノット・ティアラを着用したダイアナ妃(1961-1997年) |
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本来、ティアラは既婚女性だけが着けることのできるジュエリーです。 女性が人生で初めてティアラを着けることができるタイミングが結婚式なのです。 ちなみに左のマーガレット王女はエリザベス二世の妹です。 結婚して王室入りしたのではなく、生粋の王族なので気品が違いますね。 しかも並の女優以上に美人という、王族がファッションリーダーになるというのも納得です。 |
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1870年代に作られたポルチモア・ティアラを結婚式で着用したマーガレット王女(1930-2002年)29歳 |
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さて、ティアラが既婚者のアイテムであるのはきちんと理由があります。 ティアラは「私にはパートナーがいて、結婚相手は探していません。」ということを象徴するためのアイテムだからです。 手元の結婚指輪だと分かりにくいですが、ティアラだとすぐに社交の場で口説いて良いのか否かが判断できますね。 社交が超重要だった古い時代の王侯貴族らしい、実にもっともな理由です。 |
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別アレンジのポルチモア・ティアラのマーガレット王女(1930-2002年) |
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このようにれっきとした理由があり、マナーだからこそヨーロッパでは未婚時はティアラは着用しません。 メーガン妃もそのルールに則りましたよね。 日本で成年皇族がティアラを着用してしまうのは意味不明で、見ていてこちらが恥ずかしくなります。 皇族のティアラの制作には数千万円オーダーのカネが動きます。 皇族が駄目なのではなく、カネにむらがりたい人たちが暗躍してるものと推測しています。 そういう人たちにとっては日本の恥なんてどうでも良くて、カネが手に入れば良いのでしょう。 そういう行いに私が口出しする権利はありませんが、敢えて願いを言うならばもう少し目に見えない所で目立たない形でやってほしいです。恥ずかしいから・・。 |
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ロータス・ティアラを着用したマーガレット王女(1930-2002年) |
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ということで、ティアラはパートナーがいる既婚女性のステータスの象徴です。 左の肖像画では、結婚して2年ほどのヴィクトリア女王が後頭部にティアラを着用しています。 |
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イギリス女王ヴィクトリア(1819-1901年)23歳頃 |
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アルバート王配が妻のためにデザインしたサファイア・コロネットティアラ(1842年)V&A美術館 | |
このサファイア・ティアラは高い教養と多才さを併せ持つアルバート王配が、愛するヴィクトリア女王のためにデザインしたものです。夫が愛する妻に贈るティアラ。最高の贈り物ですよね。 |
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オリエンタル・サークレット・ティアラ(1853年) |
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オリエンタル・サークレット・ティアラも、アレキサンドラ王妃の時代にルビーに宝石が取り替えられていますが、オパールを使ってアルバート王配がヴィクトリア女王のためにデザインしたものです。 女王はまたちょっと違いますが、ティアラを見れば夫の財力や教養、家柄など、着用した女性の背景も少なからず推測できたでしょうね。 夫にとってもティアラは美しい妻の"悪い虫"除けになったでしょうか。 ティアラは単に「お姫様カワイイ〜」というようなファッション感覚の軽いアイテムではなく、重要な意味のある大切なアイテムだったのです。 お金と手間をかけて、最高のものが作られるのは当然なわけです。 |
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オリジナルのオリエンタル・サークレット・ティアラを着けたヴィクトリア女王 |
2.古代ギリシャを象徴するメアンダー模様のデザイン
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このティアラはトップクラスのアンティークジュエリーでも見ることのない最高クラスのムーンストーンに目がいきますが、注目すべきはメアンダー模様を使った至極センスの良いデザインです。 |
2-1 メアンダー模様とは
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ギリシャ雷文とも呼ばれるメアンダー模様については『ETERNITY』で詳しくご紹介しました。 メアンダー模様は古代ギリシャ以前、紀元前5500年〜紀元前2750年頃にバルカン地方のドナウ川流域で栄えたククテニ文化・ディミニ文化で始まった装飾模様と考えられている、非常に古い模様です。 それが古代ギリシャで花開き、多様な装飾模様として確立されました。 それが現代まで伝わる、古代ギリシャの格調高いメアンダー模様です。 |
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『ETERNITY』 メアンダー模様ダイヤモンド・ネックレス イギリス 1920年代 SOLD |
古代ギリシャの宝物 | ||
アルカイック期 | クラシック期 | ヘレニズム期 |
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『王者の指輪』 ゴールド・リング 紀元前6世紀 SOLD |
『英雄ヘラクレス』 エレクトラム・リング 紀元前5世紀 ¥5,900,000-(税込10%) |
『霧の中の戦士』 インタリオ 紀元前2世紀(シャンク:19世紀) SOLD |
古代ギリシャについては『英雄ヘラクレス』で詳しく時代区分についてご説明しました。アルカイック期、クラシック期、ヘレニズム期、それぞれの時代区分ごとに芸術作品にも特徴がありますが、古代ギリシャの紀元前1000年から200年間は十分な資料が残っておらず、研究が進んでいない『暗黒時代』とされています。 |
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アルカイック期より前の紀元前900-紀元前700年頃の時代はジオメトリック(幾何学)期とされています。 左は貴重なジオメトリック期の入れ物ですが、その名の通りシンプルな幾何学模様で彩られている作風が興味深いですね。 その主役となるのがメアンダー模様です。 こんな時代から存在しているなんて面白いです。 |
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入れ物(古代ギリシャ 紀元前8世紀中期)メトロポリタン美術館 |
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これは『英雄ヘラクレス』と同じ時代に作られた絵皿です。 永遠なる川の流れ、つまり繁栄を表しているとも言われる、ずっと続くパターンがメアンダー模様の特徴です。 |
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『レスリングの練習場』(古代ギリシャ 紀元前440年〜435年頃)ルーブル美術館 |
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1910年に日本で生まれたラーメンの器に描かれる、連続しない閉じた模様とは明らかに異なります。 これは"中国&高級"をイメージさせるために、殷の時代の雷文を取り入れたものです。 |
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一般的なラーメンの器 |
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メアンダー模様を見て「ラーメン模様」と言っても通じるのは日本だけです。 この発言によってヨーロッパ美術に関する教養がないこともバレますし、数学的に見て明らかに異なる模様を混同しており、図形認識能力が劣っていることも分かる人にはバレます(笑) |
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『優雅な羽の小箱』 ゴールド ロケット・ペンダント イギリス 1820年頃 SOLD |
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それはさておき、ヨーロッパ人にとってはメアンダー模様と言えば古代ギリシャとすぐに分かるくらい、格式あるオーソドックスな模様なのです。 一般人でも"古代ギリシャの鍵"、Ancient Greek Keyと言えばすぐにこのメアンダー模様であることが分かります。 |
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古代ギリシャ遺跡のメアンダー模様 |
2-2 ヨーロッパ美術や文化の原点である古代ギリシャ芸術
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きちんと理解したい場合はじっくり『英雄ヘラクレス』のページをご覧いただきたいのですが、ヨーロッパの芸術や文化は古代ギリシャが原点と言われています。アンティークジュエリーの世界を知らない頃は、「科学技術や人の思考は進化するものであり、昔よりも現代の方があらゆる面で優れている。」と思っていました。しかしながら実際には身体能力、頭脳などの人類の能力は紀元前、古代の時代にピークを迎えており、そこで生まれた芸術・文化は素晴らしく、現代人がそこから学ぶことは本当に多いのです。 |
2-3 古代ギリシャ芸術への造形の深さが教養と身分の高さを表す
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教養がない人は、古代人は無知な野蛮人と思い込んで下に見る傾向があります。 しかしながら欧米でも教養のある上流階級ほど優れた古代世界について深い造形があり、話す内容などにもそれが現れてきます。 ヨーロッパでは皆あからさまに表には出さないものの、明確に階級の差が存在します。 どういう内容を話すのかで教養が得られない身分の者、住む世界が違う者ということがすぐにバレますが、それを指摘してくれることはありません。 指摘するなんて下品ですし、時間の無駄でもありますしね。 静かに去るか、表面上で当たり障りない応対をされるだけです。 |
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ギャグ漫画『ギャートルズ』(園山俊二 1965-1975年) |
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例えば民主主義が始まったのも古代ギリシャでした。 |
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『世界最初のデモクラシー』 インタリオ:古代ギリシャ 紀元前2-紀元前1世紀 シャンク:19世紀 SOLD |
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『英雄ヘラクレス』でご説明した通り、紀元前5世紀のアテナイの黄金時代を築き上げた政治家ペリクレスの人の心をとらえる格調高い演説は、現代でも欧米の政治家から手本にされています。 |
アテナイの最盛期を築き上げた政治家ペリクレス(紀元前495?-紀元前429年) |
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芸術面で、特に古代ギリシャは重要な地位にあります。 ヨーロッパの王侯貴族にとって、芸術分野における高い教養は必須でした。 だからこそ17〜18世紀にかけて、イギリス貴族は信じられないような莫大なお金を使って子弟をグランドツアーに送り出し、イタリアで優れたルネサンス芸術と古代の芸術文化を肌で学ばせたのです。 |
グランドツアーでイタリアの遺跡を訪れた王侯貴族の子弟と家庭教師 |
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実物を見たことのない者は馬鹿にされていたのだそうです。 古代美術とその時代の王侯貴族の関連性は、『ディアナ』の通史に詳細を書いてあるので興味ある方はぜひご参照ください。 |
『ディアナ』 古代ローマ オールオリジナル・インタリオ・リング 古代ローマ 1世紀〜2世紀 SOLD |
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古代ローマの大理石像は、古代ギリシャのコピーが本当に多いです。 古代ギリシャはあらゆる面でクリエイティブが得意な人たちだったように感じます。 古代ローマの神も古代ギリシャの神と習合しており、神々にまつわるエピソードも元は古代ギリシャの神々のものだったりします。 |
リュシッポス作と見られる紀元前4世紀のヘルメスのブロンズ像を大理石で再現(古代ローマ 紀元前2世紀)アテネ国立考古学博物館 |
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古代ローマ神話に習合する対象となる神が存在しなかった場合、新たに取り入れて信仰の対象になることもありました。 それが古代ギリシャオリジナルの神、ヘラクレスです。 |
刺客の蛇を掴む幼いヘラクレス(古代ローマ 2世紀)カピトリーノ美術館 |
時代ごとのヘラクレスの棍棒 | ||
古代ギリシャ | 古代ローマ | |
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『ヘラクレスの棍棒』 古代ギリシャ 紀元前2世紀 SOLD |
『ヘラクレスの棍棒』 古代ローマ 1-2世紀 某大手オークション出品物 |
『ヘラクレスの棍棒』 古代ローマ 1-2世紀 某大手オークション出品物 |
ヘラクレスのカッコ良さついては『英雄ヘラクレス』で詳しくご説明しました。力だけでなく優れた知性、不条理なことにも恨みを言うことなく立ち向かう品格と勇気。古代ローマ人もこの古代ギリシャ神話の英雄に魅了され、信仰の対象となり、大理石像にとどまらずヘラクレスにまつわる古代ローマのジュエリーもいくつか遺っていたりするのです。 |
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面白すぎる18世紀の有力なイギリス貴族、ル・ディスペンサー男爵フランシス・ダッシュウッドについては『4 FACES』で詳しくご説明していますが、彼がグランドツアー経験者を集めてディレッタンティ協会という芸術関連の協会を始めました。 |
ル・ディスペンサー男爵フランシス・ダッシュウッド(1708-1781年) |
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ディレッタンティ協会は王侯貴族や学者、芸術家の集まりです。 大陸貴族とは比較にならないほど莫大な富を持つイギリスの王侯貴族が、その圧倒的な財力で優れた古代美術を蒐集し、パトロンとなって学者たちの研究活動を支援し、さらに当代の芸術家たちの新たなクリエーションをバックアップする目的を持つ協会です。 |
ディレッタンティ協会(1734円設立) |
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ポートランドの壺(古代ローマ 5-25年頃)大英博物館蔵 | ポートランドの壺の再現(ウェッジウッド 1790年)V&A美術館蔵 |
『春の花々』で詳細はご説明していますが、イギリスには上流階級によるそのような支援があったからこそ、優れた古代美術を元に新しい芸術が多く生み出されました。ウェッジウッドのジャスパーウェアによるポートランドの壺の再現も、古代ローマのオリジナルのポートランドの壺を気前よく貸し出してくれた公爵夫人が存在したからこそ可能となったものです。 |
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そしてこうして才能ある創業者ジョサイア・ウェッジウッドが開発した技術を元に、19世紀の新たな芸術作品としてこの『春の花々』というジャスパーウェアの技術を使った最高傑作が世に生み出されたというわけです。 |
『春の花々』 ジャスパーウェア パリュール イギリス 1860年〜1870年頃 SOLD |
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現代でもそうですが、ヨーロッパの本物の上流階級は現代の中流階級の日本人では想像できないくらいのスパルタ教育を受けて育ちます。 イギリスのエドワード7世もその教育は虐待と言ってよいほどだったと言われていますし、『Winter Flower』でご紹介したオーストリア帝国の国父とされる皇帝フランツ・ヨーゼフ1世もその教育はよく過労死しなかったと思えるレベルです。 親は莫大なお金をかけ、子供は莫大な時間をかけて、遊ぶ暇なんてないほどの教育を受けるわけです。 現代の日本人が過労に陥る様子を見ても、それのどこが大変なんだと素で言われそうなくらい、本当にヨーロッパ貴族はヤバいです。とても勝てる気がしません。 |
オーストリア皇帝&ハンガリー国王フランツ・ヨーゼフ1世(1830-1916年) |
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『ガイウス・ユリウス・カエサル』 大理石彫刻 古代ローマ 紀元前44-30年 バチカン美術館所蔵 |
ジュゼッペ・ジロメッティ作『ユリウス・カエサル』 ストーンカメオ ブローチ&ペンダント イタリア 1820年頃 SOLD |
そういうわけで芸術作品を見たらすぐにその背景や、どう凄いのか読み解いて鋭い返しができないと社交界ではついていけません。ジロメッティによるこのカメオを見たらすぐに「それってもしかしてユリウス・カエサルじゃない?バチカン美術館で古代ローマの大理石像を見たよ。どうしたの?」くらい言えなくてはなりません。そこで持ち主が「あのジロメッティに特注して作ってもらったんだ。」と言って、さらに古代美術や(当時の)現代美術への取り組みに対する会話などがはずんでいくというわけです。 これが社交です。最低このクラスは会話ができないと「面白くない」「教養がない」として排除されます。 |
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ギリシャ悲劇を元にした芸術作品も多いですよね。 演劇も元となっているギリシャ神話の内容を把握していないと、観ているだけでは理解できなかったりします。 もちろん文学作品にもたびたび出てきます。 |
『ギリシャ悲劇の男性の仮面』 古代ローマ 2世紀 SOLD |
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ギリシャ神話は絵画などの題材にも好まれますが、具体的に知っておかないとクリムトの『ダナエ』もただの美女の絵だと思ってしまいますね。 |
『ダナエ』(グスタフ・クリムト作 1907-1908年) |
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夜空の星座も、古代ギリシャ神話が元となった星座が多いです。 占星術占いは、現代でも結構人気だったりします。 |
『獅子座』 古代ローマ 2世紀 シャンクはヴィンテージ ¥2,800,000-(税込10%) |
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ソクラテス(紀元前469-紀元前399年) | プラトン(紀元前427-紀元前347年) | アリストテレス(紀元前384-紀元前322年) |
古代ギリシャは現代にまで通じる優れた哲学者をたくさん輩出しています。ヨーロッパ最大の哲学者の一人にして『万学の祖』と言われるアリストテレスは、ヘレニズム時代をもたらしたアレキサンダー大王の家庭教師としても有名ですね。 |
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そのアレキサンダー大王が亡くなった後にエジプトのファラオとなったマケドニア貴族のプトレマイオス1世は、首都アレキサンドリアに当時世界最大の図書館を建設しています。 このアレクサンドリア図書館は古代ヘレニズム世界における学堂、学術研究所ムセイオンの付属機関でした。 王の私財で万邦から英哲俊士が集められ、アレクサンドリアでは文献学を中心に天文学、物理学など学芸が大いに隆盛しました。 |
古代エジプトファラオのプトレマイオス1世(紀元前367-紀元前282年) |
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『ディアナ』でご紹介した通り、古代世界の学問の中心地として栄えたこのアレクサンドリアとアテナイの『知』が一度ペルシャ、イスラム世界に移動し、ルネサンス期に再びヨーロッパ世界に逆輸入されています。 古代ギリシャは芸術面のみならず、あらゆる世界の学術的な礎ともなっているのです。 |
アレクサンドリア図書館の内部(想像図) |
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古代ギリシャの哲学者は統治者、すなわち王侯貴族に教えを授けるような人物たちでした。 万学に精通していますが、現代日本でイメージされるような、ただお勉強ができるだけの"お勉強馬鹿"ではありません。 「芸術とは熟練した洞察力と直感を用いた美的な成り行きであり、絶対的な美の本質は見る者をどれくらい感動させられるかにある。」という、芸術の本質を的確に定義したのも彼らですね。 現代日本では芸術と学術は相反するように捉えられがちですが、本来はそうではないのです。 だからこそ算術、幾何学、天文学等にまで精通した哲学者が『芸術』を定義できるわけです。 |
プラトン時代のアカデミアを描いたモザイク(古代ローマ 1世紀) |
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アカデミアに通じるアテネの古代の道 |
紀元前387年に哲学者プラトンがアテナイに設立した学園アカデミアでは、特に幾何学が重要視されました。幾何学は感覚ではなく、思惟によって知ることを訓練するために必須不可欠のものと位置づけられ、学園入口の門には「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」との額が掲げられていたほどそうです。 |
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幾何学を重要視していた古代ギリシャらしく、『ETERNITY』でもご紹介した通り古代ギリシャのメアンダー模様には様々なバリエーションがあります。 |
メアンダー模様のバリエーション |
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これらが分かっている教養あるヨーロッパの上流階級の人々にとって、メアンダー模様はただ古代ギリシャの幾何学模様というだけでなく、万学を理解するために必要な高尚たる学問、『古代ギリシャの哲学』を象徴する格調高い模様でもあったわけです。 |
ローズカット・ダイヤモンド リング フランス 1820〜1830年頃 SOLD |
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どんなに才能があっても、お金をかけないと得られない教養は身に付けられませんし、このようなお金のかかったジュエリーを持つことも叶いません。 メアンダー模様をセンス良く使ったハイ・ジュエリーによって、自身の教養と身分の高さを、同じクラスの相手にだけ伝えることができてしまうのです! |
初期アールデコ ペンダント ヨーロッパ 1920年頃 SOLD |
3. メアンダー模様のアンティークジュエリー
3-1. ヨーロッパの王侯貴族に伝わるメアンダー・ティアラ
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メアンダー模様はご説明した通り、ヨーロッパの上流階級にとって特別な意味を持つ模様なので、そのステータスを示すティアラのモチーフにも実は結構使われています。 |
スペンサー伯爵家 ハニーサックル・ティアラ
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1つ目がダイアナ妃の実家スペンサー家に代々伝わるもう1つの古いティアラ、ハニーサックル・ティアラです。 |
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スペンサー ハニーサックル・ティアラ(19世紀中期?) |
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ハニーサックル・ティアラを着用したスペンサー伯爵夫人シャーロット(1885年) | |
このハニーサックル・ティアラはスペンサー伯爵夫人シャーロットが1858年に結婚する際にウェディング・ギフトとして贈られたものと考えられています。何度かリメイクされているため、今のハニーサックル・ティアラとはデザインが一部異なっていますが、華やかなスイカズラの花モチーフと格調高いメアンダー模様がいかにも美しく教養ある上流階級の女性らしいですね。 |
ヴィクトリア女王のサンレイ・フリンジ・メアンダー・ティアラ
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これはサンレイ・フリンジ・メアンダー・ティアラを着用したビクトリア女王の五女、ベアトリス王女です。 |
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サンレイ・フリンジ・メアンダー・ティアラを着用したビクトリア女王の五女ベアトリス王女(1911年) |
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残念ながらヴィクトリア女王が着用した画像はありませんが、サンレイ(太陽光線)だなんていかにも『太陽の沈まぬ帝国』を達成し、その大英帝国に君臨する世界の王たるヴィクトリア女王らしいティアラですね。 |
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『太陽の沈まぬ帝国』 バンデッドアゲート ブローチ イギリス 1860年頃 ¥387,000-(税込10%) |
アンドレアス王妃のメアンダー・ティアラ
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左はギリシャ王子アンドレアスの妃となったヴィクトリア女王の曾孫アリス・オブ・バッテンバーグです。 このティアラの由来ははっきり分かっていませんが、1914年以降のいくつかの写真で見ることができます。 メアンダー模様の中心部分には月桂樹モチーフがあしらわれており、明らかに古代ギリシャをイメージしたものですね。 |
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メアンダー・ティアラを着用したヴィクトリア女王の曽孫アリス・オブ・バッテンバーグ(1914年頃) |
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アリス・オブ・バッテンバーグの長男は、エリザベス女王の夫フィリップ王配です。 このため1947年にアリスからエリザベス女王にメアンダー・ティアラが贈られました。 その後、エリザベス女王の長女アン王女に贈られ、2011年の結婚式で長女ザラが着用しています。 ザラはイギリスを代表する総合馬術の選手で、ヨーロッパの総合馬術選手権で個人優勝を果たした経験がある他、ロンドンオリンピックでは馬術競技で銀メダルも獲得しています。 カッコ良いですね〜。 |
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アンドリュー王女のメアンダー・ティアラを着用したエリザベス女王の孫ザラ |
ルーマニア王室のメアンダー・ティアラ
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左はメアンダー・ココシュニックを着用したヴィクトリア女王の孫ヴィクトリア・メリタです。 ココシュニックはロシアの伝統的な頭飾りで、二番目の夫ロシア大公キリル・ウラジーミロヴィチから贈られたものです。 しかしながら1917年のロシア革命により、ヴィクトリア・メリタはこのココシュニックを手放さざるを得ませんでした。 |
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メアンダー・ココシュニクを着用したヴィクトリア女王の孫ヴィクトリア・メリタ(1913年) |
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その引受先がヴィクトリア・メリタの姉でルーマニア王妃のマリア・・ア・ロムニエイでした。 以降、このココシュニックはルーマニア王室に伝わるティアラとして歴代の王室女性に愛用されているのです。 |
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ルーマニア王太皇エレナ・ア・ロムニエイ |
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ルーマニアは1947年に共和制が宣言されて、現在のルーマニア王室の家長マルガレータは国王ではなく『ルーマニア王冠の守護者』と『陛下』の敬称が用いられており、共和政府も公認の存在です。 それにしても同じメアンダー・ティアラでも、ココシュニニックとして着けるのか、アールデコ様式なのか、現代のスタイルなのかで全く雰囲気が異なりますね。 こうしなければならないなんてルールや思い込みは、ジュエリーにはナンセンスなのだと感じました。 |
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ルーマニア王冠の守護者(ルーマニア女王)マルガレータ・ア・ロムニエイ |
プロイセン王室のメアンダー・ココシュニック
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プロイセン王室のメアンダー・ココシュニック(コッホ社 1905年) |
プロイセン・メアンダー・ココシュニックはドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の長男で、ドイツ帝国最後の皇太子ヴィルヘルム・フォン・プロイセンが結婚する際に新婦ツェツィーリエのために作られたティアラです。 |
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ティアラを制作したのは、1879年に設立されたドイツのコッホ社です。 左のペンダント&ブローチを制作したのもコッホ社で、この宝物のページにも記載している通り、デンマーク、ドイツ、スペインなどヨーロッパ各国の王室のティアラを制作しています。 |
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ヨーロッパ王室御用達コッホ社 ダイヤモンド ペンダント&ブローチ ドイツ 1910年頃 SOLD |
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プロイセンのメアンダー・ココシュニックは過去にお取り扱いしたコッホ社のペンダント&ブローチとほぼ同じ年代に作られているので、ココシュニックの作りはペンダント&ブローチのページをご覧になればご想像いただけると思います。 それにしてもこのココシュニックは上下にメアンダー模様があしらわれているのですね。 ゆくゆくは皇后となる女性が初めてティアラを着用する、結婚式用のティアラのデザインにメアンダー模様が選ばれたことは注目に値します。 |
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プロイセン王女ゾフィー(1978年-) |
スペイン王室のメアンダー・ティアラ
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マリチャラル・メアンダー・ティアラを着用したスペイン王女エレナ | プロイセン・ティアラを着用したスペイン王妃レティシア |
スペイン王室は少なくともメアンダー・デザインのティアラを2つ所有しています。マリチャラル・メアンダー・ティアラとプロイセン・ティアラです。 |
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マリチャラル・メアンダー・ティアラを着用したスペイン王女エレナ |
マリチャラル・メアンダー・ティアラは元々エレナの結婚相手ハイメ・デ・マリチャラルの一族、リパルダ伯爵家に伝わるティアラでした。結婚の際に新郎の両親からウェディング・ギフトとして贈られたものですが、2010年に離婚した後も彼女はこのティアラを愛用しているそうです。良いんでしょうか・・、箪笥の肥やしになるよりは王女が愛用してくれた方が良いということでしょうかね、一応大活躍しています(笑) |
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もう1つのプロイセン・ティアラはドイツ皇帝ヴィルヘルム二世が、末子にして一人娘のヴィクトリア・ルイーゼの1913年の結婚式のウェディング・ギフトとして作らせたものです。 このティアラもやはり王室御用達コッホ社によるものです。 結婚式は1914年から始まる第一次世界大戦を前に、各国の王侯貴族が最後に一堂に会した非常に煌びやかなものだったそうです。 |
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プロイセン・ティアラを着用したドイツ帝国皇女ヴィクトリア・ルイーゼ |
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そのヴィクトリア・ルイーゼの娘フリデリキがギリシャ王妃となり、ティアラはギリシャ王室に移りました。 さらにフリデリキ王妃の娘ソフィアがスペインの前国王ファン・カルロス1世の元に嫁いだため、プロイセン・ティアラは現在スペインにあるのです。 |
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プロイセン・ティアラを着用したスペイン王妃レティシア |
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現スペイン国王の妻レティシア王妃は美人でオシャレな女性として、結構メディアでも取り上げられているのでご存じの方も多いでしょうか。 |
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スペイン王妃レティシア |
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レティシア王妃は美しいだけでなく、オーディオ・ビジュアル・ジャーナリスト学院で修士号を取り、海外特派員として活躍したり、30歳以下の優れたジャーナリストに贈られるLarra賞の受賞歴もある、知性とガッツも併せ持つ才媛です。 |
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スペイン国王と再婚する前のスペイン王妃レティシア |
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格調高く全ヨーロッパの叡智をも感じさせるメアンダー模様のティアラは、このような知性ある女性をより惹き立ててくれると感じます。 |
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プロイセン・ティアラを着用したスペイン王妃レティシア |
ベルギー帝国ティアラ
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アールデコらしいベルギー帝国ティアラは、1926年にアストリッド・ド・スエードがスウェーデン王室からベルギー王室に嫁ぐ際に贈られたものです。 メアンダー模様の上にニョキッと生えた巨大ダイヤモンドがけったいなデザインですよね。 一応きちんとした意味があって、ベルギーの各地方を表しているのだそうです。 でも、こういう奇抜なデザインはその時は良くても、ちょっと時代が進むと流行遅れになっちゃいそうですよね。 ということで、2、3年後にリメイクされたそうです。 |
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ベルギー王妃アストリッド(1905-1935年) |
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ベルギー帝国ティアラを着用したベルギー王妃マティルド | |
ベルギーの地方を表す巨大ダイヤモンドにはアーチがかけられ、上下取り外し可能となりました。現在のベルギーのマティルド王妃も、『マーメイドの宝物』でご紹介した通り名門貴族出身で、フランス語とオランダ語、英語、イタリア語を操り、言語聴覚士の資格も持つ才媛です。 |
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品格と知性ある女性に、メアンダー模様がよく似合っていますね。 メアンダー・モチーフのアンティーク・ティアラはまだまだありますが、キリがないのでこの辺にしておきましょう。 |
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ベルギー王妃マティルド |
3-2. ハイクラスのジュエリーに好んで用いられるメアンダー模様
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もうお分かりいただけたと思いますが、メアンダー模様はヨーロッパの王室クラスから好まれた、非常に権威を象徴する模様でもあります。 HERITAGEではハイクラス以上のアンティークジュエリーだけを厳選して扱っていますが、その中でも特にメアンダー模様は第一級と言える作品にだけ見ることができる模様なのです。 |
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『戦う牧神と山羊』 ローマンモザイク・ブローチ イタリア 19世紀初期 SOLD |
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ブランドや石ころの大きさだけでしか判断できない人にとってはその違いは分かりにくいかもしれません。 でも、作りで判断する私たちにとっては一目瞭然で良いものなのです。 よくやったものだと思える繊細な手仕事、細部や裏側に至るまでの徹底した完璧な仕事ぶり・・。 |
初期アールデコ 天然真珠 リング イギリス 1920年頃 SOLD |
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それは教養のないものを静かに、でも確実にふるいわけする、教養高いヨーロッパの真の上流階級のようでもあります。 |
初期アールデコ ダイヤモンド ペンダント&ブローチ フランス 1920〜1930年頃 SOLD |
3-3. メアンダー模様のティアラが象徴するもの
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今では女性の冠となっているティアラですが、元々は古代においてオリエントからギリシアに入って来たのが始まりと言われています。 古代ギリシャの神々も、各々を象徴する植物の冠を着けています。 |
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古代ギリシャのテトラドラクマ貨(紀元前297-紀元前272年) |
例えば『ジョールチ』でもご紹介した通り、古代ギリシャの最高神ゼウスは聖木オークです。古代ギリシャでは最初に創造された木はオークとされており、1つのドングリから迫力ある巨木に育ち、豊かな実りをもたらします。大きく育つので雷がよく落ちるという、雷を操るゼウスにピッタリの樹ですね。 |
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『バッカス』 シェルカメオ ブローチ イタリア 19世紀初期 SOLD |
月桂樹の冠を着けてライアを奏でるアポロン |
葡萄酒の神様ディオニュソス(古代ローマではバッカス)は葡萄の葉、アポロンは永遠の愛の証である月桂樹です。なぜアポロンの永遠の愛の証が月桂樹なのかは『永遠の愛』をご参照ください。 |
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フランス皇后ウジェニーのメアンダー・ティアラ(バプスト社 1856-1867年) | |
このように着用者を象徴するものなので、余程センスがある人でない限りいかにも高そうな、見栄えする成金的なものが少なくありません。フランスのナポレオン三世の妻ウジェニー皇后も1856年にバプスト社にダイヤモンドのメアンダー・ティアラを作らせています。それが左上のものですが、派手な感じですね。1864年に左下のようにリメイクされ、1867年に再び右のようにリメイクされています。 |
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カルティエのティアラ(1909年) |
これは運送会社を経営するヒュー・モンタギュー・アラン卿が、妻マルグリットのためにメアンダー模様でデザインしてカルティエに作らせたティアラです。メアンダー模様を使ったティアラに共通して言えるのは、ダイヤモンドを主役としておりとにかく派手な見栄えであることです。このティアラも一応は天然真珠も使ってありますが、いかにもなダイヤモンドジュエリーですよね。 |
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ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世の公式ディナーで着用されたとされるエメラルド・ティアラ |
このティアラも大きくて上質なエメラルドが使ってはありますが、ダイヤモンドもド派手です。せっかく良いエメラルドが使われているのに、エメラルドが主役にしたいのかダイヤモンドを主役にしたいのかさっぱり分かりません。「とりあえず私高そうでしょ?!!すごいでしょ!!!」と言っているようにしか見えません。 そこまでセンスや教養が高くない人にとっては、ティアラの目的自体が高そうだったり凄そうだったりに見えれば良いので、どうしてもこうなりがちのようなのです。 |
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そんな中で、このムーンストーン・ティアラは存在したことが驚きとしかいえないティアラなのです。幻想的な雰囲気が魅力であるムーンストーンは、成金好みの派手さはありません。普通、権威を象徴するためのティアラにムーンストーンを主役にした作品はあり得ないのです。そこにきて、格調の高さをさらに格上げする実にさりげないメアンダー模様と、キラッと上品に輝くローズカット・ダイヤモンドのセンスの良い使い方。 |
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ティアラは王侯貴族だけの特別なジュエリーなので、間違いなくヨーロッパの王侯貴族の女性が使っていたものですが、一体どのような貴婦人が使っていたのか不思議でなりません。日本人女性のような繊細な美的感覚を持ち、幽玄の美を心から理解できるヨーロッパの女性・・。極度にセンスが良く、教養と自信に溢れる高潔な女性だったに違いありません。 |
4 今では手に入らない極上のムーンストーン
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成金ティアラとは対極にありますが、分かる人には一目瞭然、このティアラは相当なお金をかけて作られています。 |
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現代において『ムーンストーン』と呼ばれている石は、実は本物のムーンストーンではないことは『FULL MOON』で詳しくご説明しました。 |
『FULL MOON』 ムーンストーン ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
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現代ではそれっぽいシラーが出る、安くて汚い石ころがムーンストーンとして販売されまくっており、ムーンストーンはあまり高価ではない石という誤解が生じています。 |
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レインボー・ムーンストーン(上質なホワイト・ラブラドライト) |
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レインボー・ムーンストーン(中〜低品質なホワイト・ラブラドライト) | |
とりあえずブルー・シラーが出ればムーンストーンだろうという、消費者の何となくの思い込みがそれを助長しているようにも思えます。アンティークの本物のムーンストーンをいくつも見ていれば分かるのですが、本物のムーンストーンには外観上3つの種類に分けることができます。 |
シラーの出ないムーンストーン
白色系のシラーが出るムーンストーン
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ムーンストーン ネグリジェ・ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
このムーンストーンはホワイト系のシラーが出る石です。 脇石にはデマントイド・ガーネットが使われており、ゴールドを使った丁寧な作りからも良いものとして作られたことが分かります。 |
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実はアンティークジュエリーを扱う私たちにとって、ムーンストーンという石自体にはあまり高級なイメージはありません。 あくまでも『ムーンストーンという種類の石』に関してです。 ムーンストーンは19世紀後期のアーツ&クラフツやアールヌーヴォーで大流行しました。 |
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【参考】アーツ&クラフツのシルバージュエリー |
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【参考】アーツ&クラフツのシルバージュエリー |
この時代に作られた粗造乱造の安物によく使われた石がムーンストーンでもあるからです。安物はシルバーだけで作られた粗末な作りと、ありふれたデザインが特徴です。 |
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【参考】アーツ&クラフツのシルバージュエリー | |
シルバーはゴールドと比べて格段に安い素材ですし、流行したということは量産しなければなりませんから手抜きによって作りは雑になります。1つ1つデザインを変えて作るわけにもいきませんし、デザインをオーダーできるような教養の高い人物がオーダーするものではないからこそ、どれも似たり寄ったりのありがちなデザインとなるのです。 |
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プラチナがジュエリー市場に出てくる以前は、ハイクラスのジュエリーでもダイヤモンドの色味を邪魔しないようにシルバーにゴールドバックの作りをする場合はありますが、すべてがシルバーで作られたジュエリーは余程の例外を除いては安物なので、ヘリテイジでは扱いません。 |
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【参考】アーツ&クラフツのシルバージュエリー |
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一応アンティークの時代なので、手間をかけて作られているしっかりしたシルバージュエリーもゼロではありません。 でも、ハイジュエリーが裏側にわざわざより高価な金を貼り合わせてゴールドバックにするのは意味があります。 黒ずんだシルバーが衣服を汚さないためです。 オールシルバーのジュエリーはすなわち汚しても良い衣服しか持たない、もしくはゴールドを使ったジュエリーは高価すぎて買えない中産階級のための安物ジュエリーでしかないということなのです。 |
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【参考】アーツ&クラフツのシルバージュエリー |
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アメリカのアールヌーヴォーの第一人者ルイス・カムフォート・ティファニー率いるティファニー社でもムーンストーンを使ったジュエリーが数多く作られています。 |
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【参考】ムーンストーン・ブローチ(ティファニー 1910年頃)落札価格約236万円(2017年現在) |
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さすがに作りや材料自体は悪くなさそうなのですが、『天空のオルゴールメリー』でご紹介した通りあまりにも似たようなデザインばかりを作りすぎて、すぐに飽きられて流行遅れになってしまったようです。 |
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【参考】ムーンストーン・ネックレス(ティファニー 1910年頃)メトロポリタン美術館蔵 |
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こういうものは、お金はあるけれど自分好みのデザインをオーダーできる教養を持たない新興成金の富裕層のためのハイ・ジュエリーです。 高い教養を持つ真の上流階級向けのジュエリーではないのでヘリテイジでは扱いません。 |
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【参考】ムーンストーン・ネックレス(ティファニー 1910年頃)オークション予想価格$40,000-60,000(2015年現在) |
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こんなものは成金を相手にするオークション会社やブランド名だけで売る能力不足のディーラーに任せておけば良いと思っています。 成金用に作られたジュエリーには成金が喜んで飛びつくということなのか、こんなブレスレットがなんと約660万円もします。 |
【参考】ムーンストーン・ブレスレット(ティファニー 1920年代)約660万円(2019年現在) |
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扱うディーラーも買う客も、『ティファニー』というブランド名だけで嬉しいのでしょう。 それはそれで満足して幸せならば全く問題なく、むしろ良いことだと思います。 |
【参考】ムーンストーン・ブローチ(ティファニー 1915年頃)落札価格約242万円(2011年現在) |
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ヘリテイジは成金ジュエリーとは一線を画す、真の教養ある王侯貴族のために作られたハイクラスのジュエリーが欲しい方のためにジュエリーをご紹介する専門店です。 44年間という日本で圧倒的に一番長い経験の中で、ホワイト系シラーのムーンストーンを使ったデザイン、作り、素材の三拍子が揃ったハイジュエリーもいくつかお取り扱いしています。 |
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19世紀末のあふれる粗造乱造の安物ムーンストーン・ジュエリーと違って数は多くありませんが、このようにハイジュエリーとして作られたムーンストーン・ジュエリーも少ないながら存在するのです。単に石として高級かどうかではなく、ムーンストーンの醸し出す雰囲気が好きかどうか、どういうデザインのジュエリーが欲しいのかという、自分の美的感性できちんと判断できる人物だからこそ持てたジュエリーです。 |
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ブルー・シラーが出る最高級のブルー・ムーンストーン
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それでも今も昔もブルー・シラーが出るムーンストーンの独特の雰囲気は魅力があり、その稀少性もあって極上の石は特別視されてきました。 透明度が高くブルー・シラーが出る極上のムーンストーンは、今では枯渇して入手困難な石です。 市場に出回ることはほぼないため、マニアは特殊なルートで手に入れるのだそうです。 石ころマニアから本物のムーンストーンだと言って自慢げにルースを見せられたことがありますが、『FULL MOON』の1粒より小さいくらいのただの石ころで、才能のない私にはそれの何が良いのかよく分かりませんでした。 |
『FULL MOON』 ムーンストーン ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
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『FULL MOON』のブルー・ムーンストーン | インクリュージョンの多いブルー・ムーンストーン | 上質なホワイトラブラドライト |
『FULL MOON』の上質なアンティークのブルー・ムーンストーンは透明度が高いのに、石の中のどこからともなくフワッとブルーのシラーが出てきてとても幻想的です。インクリュージョンが多い石とは異なる上品さがありますし、ホワイトラブラドライトの賑やかさとは異なる奥ゆかしさも感じます。 |
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『FULL MOON』と同じ時代でも、シルバーだけで作られたあまり高価ではないムーンストーンのジュエリーも存在します。しかしながらこのネックレスは石を惹き立てるためのシンプルなデザインながらも、ゴールドのハンドメイド・チェーンを使った作りです。このことからも、この石が当時高く評価されていたことが分かります。 |
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そんな中で見たこともない大きさ、非常に高い透明度、そして美しいブルーシラーを持つ最高級のブルー・ムーンストーンを使ったティアラには驚かされます。さすがにこれだけ極上の石ともなるとムーンストーンの中でも別格で、王族クラスがオーダーしたものだと推測します。 |
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これほど大きくて美しいムーンストーンは今まで見た事がありません。 今ではムーンストーン自体がルースでも入手不可能な極めて希少価値の高い石ですし、アンティークジュエリーでもこのクラスの大きなムーンストーンはミュージアム・ピース・クラスのジュエリーでなければ存在しないと思います。 |
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古代ギリシャでは、青く幻想的な光を放つムーンストーンは「月の光がクリスタル化した石」、「月光が閉じ込められた石」と考えられていました。 |
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ブルー・ムーンストーンの神秘的な青い光を見ていると、本当にそんな気さえしてきます。 |
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セレネ(古代ローマ 2世紀) | |
古代ギリシャでムーンストーンは、美の女神アフロディーテと月の女神セレネの名を合わせて『アフロセレン』と呼ばれたりもしていたそうです。 セレネは後に古代ローマの女神ルナと習合しました。 古代ギリシャの女神アルテミスや死の女神ヘカテと同一視されるようにもなりました。 |
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アフロディーテ(古代ローマ 2世紀)紀元前4世紀の古代ギリシャ作品の複製(wikipediaより) |
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アルテミスは狩猟と貞節、そして月の女神でもあります。 後に古代ローマのディアナと習合しますが、ディアナ独自の神話はなく殆どがアルテミスの神話と言われています。 アルテミスは古代ギリシャ人が先住民族の信仰を取り入れたと考えられている非常に古い神で、古代ローマになってからもインタリオのモチーフに多く取り入れられるほど信仰者が多い女神でした。 特に女性を守る女神とされています。 |
ヴェルサイユのディアナ(古代ローマ 1-2世紀)紀元前325年頃の古代ギリシャのブロンズ像を複製、ルーブル美術館蔵 |
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それらの観点から、このティアラを着用した人物はまるで古代ギリシャの女神アルテミスのように、高潔で神々しい特別な美しさを放っていただろうと想像します。 |
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ムーンストーンの上下、そしてメアンダー模様の中央部分にはローズカット・ダイヤモンドがセットされています。小さくても非常にクリアで、カットも素晴らしいダイヤモンドです。高級なダイヤモンドと言えばこの時代はオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドで、ダイヤモンドが主役の場合はそれで良いのですが、このティアラにセットすると煌めきが華やかすぎて全体の雰囲気を壊してしまいます。 |
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このクラスのティアラにローズカット・ダイヤモンドがセットしてあること自体まずあり得ないのですが、裏側を見ると丁寧な作りでオープン・セッティングになっていることが解ります。 敢えて控えめでクラシカルな輝きのローズカット・ダイヤモンドをオープン・セッティングすることで、透明感を出しつつムーンストーンを惹き立てているのです。 |
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月光のような雰囲気ある青白い光を放つムーンストーン。そしてそれを惹き立てるように周囲で輝くローズカット・ダイヤモンド。その輝きはまるで夜空に輝く繊細な星々のようです。よくぞデザインしたと驚く、圧巻のセンスの良さです。 |
5 トップクラスのティアラならではの2wayデザイン
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このティアラは特に作りが良いです。 |
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これは裏側です。プラチナにゴールドバックの作りはエドワーディアンならではですが、裏側のゴールドの仕上げが完璧すぎて裏側とは思えないくらい美しいのです。これだけ完成度の高い作りと仕上げは、普通はハイクラスのジュエリーでもあり得ないことです。まさに王族クラスの相当に身分が高い人物によって特別オーダーされた、トップクラスのティアラです。 |
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正面から見た時はゴールドとプラチナの両方が見えます。黄金の輝きと白い輝きがコントラストになっており、ジュエリー市場に出始めでゴールドの何倍も高価だった画期的新素材、プラチナを使ったメアンダー模様がより印象的となっています。ムーンストーンの間にデザインされた、このメアンダー模様のフォルムの美しさにはうっとりしてしまいます。 |
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細工はさらにうっとりする素晴らしさです。耐久性も持たせつつも綺麗なメアンダー模様を表現するための、プラチナ細工の巧みな使い分けが凄いのです! プラチナにゴールドバックのメアンダー模様は、それぞれたたいて鍛えたゴールドとプラチナの板を蝋付けで貼り合わせた板から作ります。この板を糸鋸で挽き、ヤスリで丁寧に仕上げてこの形を作ります。メアンダー模様となる部分は太めに仕上げ、模様とはならなくても形を維持するために強度上必要な箇所は、線のような細さで削り残してあります。そうして作ったメアンダー模様のパーツを、ゴールドで作った極細のナイフエッジのパーツで本体フレームにそれぞれセットしています。 メアンダー模様を削り出し、磨いて仕上げる根気と集中力の要る作業において、少しでもミスをすればそれまでの努力が台無しになります。作者の恐ろしいまでの集中力の高さを感じます。 |
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メアンダー模様部分は溝が彫ってあり、二重になったフレームにはそれぞれに細かく繊細なミルが打たれています。 スッキリ美しく見えるのは彫金の技術が高ければこそで、現代のどんなブランドも敵わない優雅さを醸し出しています。 |
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『ETERNITY』 メアンダー模様ダイヤモンド・ネックレス イギリス 1920年代 SOLD |
ダブルのミルによる、繊細な輝きの美しさは間違いないものです。でも、ペンダント・サイズですら滅多に見ない細工なのです。 『ETERNITY』もダブル・ミル、シングル・ミル、ミルなしの部分を使い分けた見事なデザインの一級品です。この分量でも普通はダブル・ミルの細工はやりません。 |
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それが6つ分のメアンダー模様のパーツに施されているのですから驚きです。ムーンストーンがあまりにも見事なので、一見このティアラは石モノに見えるかもしれません。でも、神技的な細工が施された細工物でもあるのです。王族クラスのトップクラスのアンティークの作品ともなれば、石も細工も見事なのは当然と言えば当然のことです。 |
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上下のメアンダー模様は、ローズカットダイヤモンドを並べて連結してあります。 オープンセッティングのローズカット・ダイヤモンドは小さいにも関わらず、全体の繊細な印象を損なわないよう最小限の細いフレームと小さな爪で留めてあります。 だからこそローズカット・ダイヤモンドの魅力である透明感がより感じられるのです。 そもそも上質でクリアなダイヤモンドを使っていなければ、この美しさは出ません。 |
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ムーンストーン独特の幻想的な青白い光は見る角度によって変化するので、この画像は捉えたその一瞬です。 石をセットしたプラチナのフレームにも細かく丁寧にミルが打ってあります。 ギザギザを付けた後、綺麗にヤスリで形を整えて仕上げされています。 一切の手抜きが見られない手間をかけた仕上げの美しさこそ、ハイグレードなジュエリーの証です。 |
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ムーンストーンもメアンダー模様のパーツ同様、まるで宙に浮いたようなセッティングになっています。上下左右をプラチナにゴールドバックの極細のナイフエッジで連結させてあります。この空間使いも実に見事です。 |
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"間の取り方"のセンスの良さは、実は日本人が得意とする所です。私たち日本人にとっては、普段から日本での日常生活の中で美意識に刷り込まれているものなので、空間美の美しさを見ても新たな発見としての感動はないかもしれません。当たり前のように感じるからです。 |
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でも、普通のヨーロッパの人ではあり得ないことです。アールヌーヴォーでジャポニズムが持て囃され、日本美術とヨーロッパ美術が融合する動きが出てきたことによって(※参考)徐々に空間の美はヨーロッパ人の意識にも出てきましたが、具体的に意識され始めたのはアールデコ以降の時代になってからです。 エドワーディアンの時代において空間美を見事に表現した作者、そしてこのティアラをオーダーした人物は、普通のヨーロッパ人にはない特別な美的感覚を持っていたということです。 ムーンストーンの幻想的な美しさも、日本人が一番好むものです。日本人のような繊細美、そして幽玄の美を理解できる、特別な人物がエドワーディアンの時代に稀有ながらも存在したということなのです。 |
5-1. 2wayタイプのティアラ
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そんなデザイン、作りともに完璧と言えるこのティアラに意味のないものは一切ありません。そこで気にになるのがティアラの両サイドに付いたチェーン状のパーツです。通常の日本人は本物のティアラをいくつも見る機会はないので、「そんなものじゃないの?」とスルーするかもしれません。でも、このようなティアラのパーツは普通ではないのです。 |
一般的なティアラの形状のバリエーション
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例えば有名なティアラの1つ、ケンジントン・ラヴァーズノット・ティアラはこのような形状です。 |
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ケンジントン・ラヴァーズノット・ティアラ(ガラード 1914年) |
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ジョージ4世が戴冠式に合わせてオーダーしたステート・ダイアデムは、元々男性の王冠として作られたものなので360度デザインされた閉じた輪の形状になっています。 |
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ジョージ4世ステート・ダイアデム(1821年)を着用したイギリス女王エリザベス2世 |
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櫛状になっていて、髪に挿して固定するタイプもあります。 |
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ホラント王妃オルタンスのオパールのパリュール(19世紀初期)スイスのアレネンベルグ城の美術館 |
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このティアラもよく見るタイプです。 どうやって着用しているのかというと、後ろ側をゴムで調整して固定します。 |
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オリエンタル・サークレット・ティアラ(1853年)を着けたエリザベス女王 |
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オリエンタル・サークレット・ティアラ(1853年) |
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基本的に貴金属とたくさんの宝石で作られるティアラは重たいので、頭に設置する金具には少しでも圧を分散するため、布をぐるぐる巻きにしてから着用します。 このティアラも後ろはゴムで調整します。 |
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ゴムで固定するスタイルは、比較的新しいティアラでも使用されています。 使い勝手が良いのかもしれません。 |
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イギリス女王エリザベス2世がオーダーしたアクアマリン・ティアラ(ガラード 1957年) |
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ヘアバンド・タイプもあります。 着脱は簡単そうですが、何しろこれだけ貴金属や宝石の分量があるので重たいはずです。 きちんと固定しておかないと、ちょっと頭部を前傾させただけで落っこちて来そうですね。 |
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こういうヘアバンド・タイプもあります。 |
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ベルエポックのダイヤモンド・ティアラ(20世紀初期)某ロンドンの高級店で約596万円 |
これはムーンストーン・ティアラと近い年代に作られたティアラです。両脇に伸びた腕の先端に、ゴムや紐を通すためのものと思われる穴があります。 |
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ガーランド・スタイル・ティアラ(アメリカ 1900年頃)某ロンドンの高級店で約593万円 |
このティアラも両サイドに同様の穴がついた腕が着いています。 |
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ムーンストーン・ティアラのチェーンの先端にもやはり穴が設置されています。 ただ、ティアラ本体に着いた腕がフレキシブルなのか固定なのかという大きな違いがあります。 |
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チェーン状のパーツを作って着けるのは、さらにお金と手間がかかることです。 なぜわざわざ特別に手間をかけてこのような構造にしたのでしょうか。 |
2way以上のマルチユースのティアラ
-メアリー妃のウェディング・ティアラ-
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ヘリテイジのHPを以前からご覧いただいている方だと、『ロイヤル・クラウン』の中で触れたメアリー妃のフリンジ・ティアラを思い出した方もいらっしゃるでしょうか。 ヴィクトリア女王が将来イギリス国王となる孫ジョージ5世の妻メアリー妃のために、王室御用達コーリンウッドにオーダーしたティアラです。 これはネックレスとしても使えるティアラです。 |
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ヴィクトリア女王がウェディング・ギフトとしてメアリー妃のためにオーダーしたフリンジ・ティアラ&ネックレス(コーリンウッド 1893年) |
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同様にジョージ5世もメアリー妃のために、ウェディング・ギフトとしてコーリンウッドにエイグレットをオーダーしています。 ヴィクトリア女王がオーダーしたフリンジ・ティアラの土台を使って着用できる物でした。 |
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メアリー妃と後のイギリス国王ジョージ5世(1893年) |
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ティアラ | ネックレス(重ねづけ) | エイグレット |
エイグレットは土台を利用するだけなので3wayと言えるかは微妙ですが、少なくともティアラとネックレス、両方の使い方が楽しめるジュエリーになっています。英国王室御用達メーカーともなると、お金さえ出してもらえるならばこれだけの作品を作ることができる実力があったわけです。 |
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1919年にリメイク後のフリンジ・ティアラ | メアリー王妃 | エリザベス女王 |
細工好きとしてはどういう構造なのか気になるところですが、ジュエリーもリメイクも大好きなメアリー妃によって、このフリンジ・ティアラも26年後の1919年にダイヤモンドを再利用してリメイクされています。アールデコへと移る時代において、19世紀のクラシカルなデザインは時代遅れとして倦厭されたのでしょうけれど、さらに100年経った今となってはとても残念な話です。 |
-ベルギー帝国ティアラ-
ベルギー王室のベルギー帝国ティアラ | ||
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オリジナル(1926年) | リメイク後(1920年代後期) | |
先にご紹介したベルギー帝国ティアラも、制作された2、3年後にリメイクされたことはお話しました。上を取り外し、下のメアンダー模様だけのティアラとして着用できることはご紹介しましたが、実はさらに秘密があります。ちょっとBeforeとAfterの作りを見比べてみましょう。 |
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メアンダー模様部分を見ると、上のBeforeは模様の中に隙間がなく、すべて固定された感じの作りに見えます。一方で、下のリメイク後は模様の所々に隙間があいており、ある程度フレキシブルに可動できそうな構造になっています。 |
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このブレスレットは平らにした時には分からないようにして、全体にスリットが入れてあります。 平らな状態の上の画像では、拡大しているにも関わらずスリットは分かりません。 もちろん実物を見ても分かりません。 下がスリットを開かせた状態です。 |
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ブレスレットを平らに置いた状態 | ||
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ブレスレットとして使うために曲率を持たせ状態 |
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だからこそ普段保管する時は金属の平板のような形状にも関わらず、ブレスレットとして着用する際は腕にしなやかに沿う、美しく着け心地も良いジュエリーとなるのです。 このブレスレットはエメラルドも見事ですが、石の価値だけではなく、作りについても最高峰の細工が施されるまさに王族クラスのジュエリーの一例です。 |
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ベルギー帝国ティアラを活用するベルギー国王レオポルド三世の妻リリアン王女 |
ベルギー帝国ティアラはフレキシブルに可動する構造へと作り替えるこよにより、ネックレス、ブレスレット、二種類のティアラ、大きなダイヤモンドの取り外しなど、マルチユースが可能となっています。左はブレスレットとして使用しており、右の画像では大きなダイヤモンドだけをほかのネックレスに付けて活用しているようです。古い写真なので、ちょっと分かりにくいですね。 |
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現在のベルギー国王フィリップの母、パオラ王妃がチョーカーとしてベルギー帝国ティアラを着けているのがこの画像です。 王妃の細い首元にチョーカーは綺麗に寄り添っています。 |
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ベルギー王妃パオラ・ルッフォ・ディ・カラブリア(1937年-) |
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ティアラとして着用した時との曲率の違いを考えると、結構な可動域がありそうですね。 何しろブレスレットとしても使えますから・・。 |
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ベルギー王妃マティルド・デュデケム・ダコ(1973年-) |
-ネックレスとして使える2wayティアラ-
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このティアラの両脇に着いた腕がなぜチェーン状なのか? その答えはこのティアラもネックレス(チョーカー)として使える機能をもたせるためです。 |
5-2 ネックレスとして使えるムーンストーン・ティアラ
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見ているだけでも心癒される宝物ですが、ティアラとしてしか使えないとなかなか保有することは難しいですよね。でもネックレスとして使うことができるならば、活用の幅は一気に広がります!♪ |
-ドレスシーン-
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もちろんこのクラスのジュエリーともなれば、ドレスにピッタリです。こんな美しいネックレスは見たことがないと誰もが思うような、別格の存在感と上品さを醸し出します。ムーンストーンは明るい場所では、透明度の高い石を、厚みを持たせてカボション・カットしたムーンストーンならではの透明な美しさが惹き立ちます。薄暗い場所では幻想的なブルー・シラーを感じやすいです。月光にまつわる宝石を使っているので、やはり夜に使うとより楽しそうです♪ |
-ジャケットとのコーディネート-
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ジャケットで少しカジュアル・ダウンするとこのような雰囲気になります。 ハイセンスなオフィス・カジュアルとしても十分使いやすいと思います。 GENはもう少し首が太い方が似合うのではないかと言っていましたが、私でも違和感なく使えます。 チェーン先端の輪に細いオーガンジーのリボンを通して着用しており、長さは調整可能です。 サイズは大体の方に問題ないと思います。 |
-カジュアルなコーディネート-
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このようにハイネックの上からでも着用可能です。 素肌にのせた時よりも断然、格調高いメアンダー模様が際立つのでスタイリッシュな雰囲気です。 この付け方もオススメです。 |
5-3. ティアラとしての使い方
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ティアラはどうやって着用したら良いのかというと、特にルールはありません。 左のレティシア王妃のように、アップスタイルで着用するのが最もクラシックでオーソドックスなイメージはありますね。 |
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プロイセン・ティアラを着用したスペイン王妃レティシア |
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ハーフアップ | ダウン・スタイル | |
でも、同じティアラを同じ人物が着けていても、髪型次第でこれだけ印象を変えることができます。さすがセンスの良さで定評ある王妃ですね。結婚式などでお使いいただく場合は、スタイリストや美容師の方と打ち合わせして好みに合わせてお着けいただければと思います。 |
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サイズ感をご参照ください。 頭にちょこんと乗る大きさなので、決して派手にはなりません。 普通ではあり得ない、極度に上品で、且つセンスの良さを感じるティアラです。 |
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ご紹介の通り、ティアラは結婚と共に国をまたいで移動することすらある宝物です。上流階級の異なる一族同士が1つになる結婚式というタイミングで主役となる花嫁のために作られる、まさに家宝として制作されるティアラ。 だからこそド派手なものがほぼ100%と言える中で、奥ゆかしさあるデザインながらも、古代ギリシャを原点として脈々と伝わるヨーロッパの文化と歴史を背負う威厳を感じる荘厳なティアラ。 ヘリテイジでまず初めに扱うティアラがこの宝物だったことを嬉しく思いつつ、ネックレスとしても使えるので、お求めになった方には目の保養として見ているだけでなくぜひ楽しくお使いいただきたいです♪ |