No.00210 黄金に輝く十字架 |
『黄金に輝く十字架』 |
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キーンとした独特の硬質感と、まるで黄金のような抜群の照りと輝きに思わず目を奪われる、美しいクロス・・ これはトパーズという石を使って作られたクロスですが、みなさんはトパーズについてどれくらいご存じでしょうか。 |
『社交界の花』 シトリン ブローチ&ペンダント イギリス 1870年頃 SOLD |
『社交界の花』で、天然シトリンがいかに手に入らない高価な宝石かご説明しましたが、実はそれ以上に希少性が高く価値が高いとされるのがトパーズです。 左のシトリンのペンダント&ブローチ『社交界の花』をご覧ください。天然真珠や天然マベパールをふんだんに使った、作りも素晴らしい超高級ジュエリーです。 『社交界の花』は、シトリンが当時いかに高級な宝石だったの証でもあるのですが、それ以上に評価されているトパーズとはどういう宝石なのか気になりませんか? 当然アンティークジュエリーでもシトリン以上に出会える機会が少ないのですが、今回はヘリテイジ初のトパーズの宝物のご紹介に合わせて、トパーズについても詳しくご説明いたします。 |
現代のトパーズのイメージ
【参考】現代のブルートパーズ・リング | 【参考】現代のピンクトパーズ・リング |
石ころマニアでもなければあまり詳しくは知らないものですし、そもそも私も現代ジュエリー自体が興味ない分野だったので現代石ころについても詳しくなかったのですが、アンティークジュエリーの真の価値を現代人の感覚で正確に理解するためには、現代ジュエリーについても詳しく理解する必要があるので調べてみました。気持ち悪い話ばかりで、楽しいことなんて1つも無いんですけどね。現代ジュエリーには夢が持てないという絶望だけを味わいます・・。 |
様々な色のトパーズ(処理の有無は不明) "Large Topaz Gemstones" ©Michelle Jo(9 Sptember 2010)/Adapted/CC BY 3.0 |
さて、トパーズも無色から黄色、金色、橙、褐色、ピンク、紫、赤など、多様な色を持つ石なのですが、現代ジュエリーでよく聞くのはブルートパーズとピンクトパーズだと思います。 |
宝石に対して鉱物として興味を持つごく一部の石ころマニアと違って、大半の方は石の種類が何なのかは割とどうでも良くて、どちらかと言えば綺麗な色さえあれば良いのではないでしょうか。綺麗な色の石を美しくカットし、優れた細工技術で、好みに合うセンスの良いデザインのジュエリーに仕上げられていれば石が何なのかなんて何でも良いと思います。Genが石だけの価値で判断するのは意味がないと申しているのはそういうことです。 歴史や業界の裏側を知れば一目瞭然ですが、結局どういう石が貴重な石と定義されて高値で売られるのかは、業界の都合によって決まってしまうのですよね。その業界が売りたい無価値物をさも価値あると錯覚させるために、お金をかけて様々なイメージ戦略やプロモーション技術が使われるわけですが、トパーズもそれが分かりやすい石の1つです。 |
ブルートパーズという石
ブルートパーズはもしかすると若い方だとあまり聞いたことすらないかもしれませんが、一定年齢以上の方だと、新星のごとく高価な宝石として市場に出てきた鮮やかなブルーの石という記憶がある方もいらっしゃるかもしれません。 |
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【参考】現代のスイスブルー・トパーズ・リング |
天然にはほぼ存在しない、最上級のアクアマリンのようなトパーズが市場に現れたのは1970年代初めのことです。 最上級のアクアマリンと言っても『海の煌めき』でもご説明した通り、現代はアクアマリンも大半は加熱処理石なので、この表現が適切なのかは不明ですが(笑) |
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【参考】現代のスカイブルー・トパーズ・リング |
無色のトパーズ・ルース | 実はトパーズには無色のものがあり、たくさん採れます。 しかしながら透明な鉱物は他にもたくさんありますから、敢えて採掘する必要のない屑同然の石でした。 その屑石を美しくするための量産技術が確立したのが1970年代初頭です。 |
以前から鉱物に放射線をあてると色が変わることは知られていました。高エネルギーを浴びることで鉱物の結晶構造の一部が壊れたり、新しい電子が取り込まれることで結晶内のエネルギーバランスが変化したりします。それらが結晶の可視光領域の、光の吸収に変化を与えた場合に色の変化が起こります。 一言で放射線と言っても、電子線やアルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、陽子線、中性子線など様々あり、さらに加熱処理と組み合わせ含めて様々なレシピが研究開発されています。レシピによってブルーを濃くしたり薄めだったり、色合いをコントロールすることが可能となりました。ロンドンブルー・トパーズ、スイスブルー・トパーズ、スカイブルー・トパーズなど様々あります。科学の力は素晴らしい!!♪(笑) でも、洗濯機を開発して洗濯が楽になり人生の時間をより有効に使えるなどのような技術なら歓迎ですが、ゴミを法外な値段で売るための詐欺的な金儲けのための技術開発は個人的にはNGです。 |
現在ではスーパーブルー・トパーズという名称の、レシピ不明のブルートパーズも出てきていますが、大別するとスカイブルー・トパーズ、スイスブルー・トパーズ、ロンドンブルー・トパーズの3種類です。 どんよりとした曇り空が多いロンドンの空のような色ということで、美しいと思えないどんよりとしたブルーですが、これが一番高価なのだそうです。 原材料は全て同じなので、当然希少性というわけではないですよね。歩留まりが悪いのでしょうか。 |
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【参考】現代のロンドンブルー・トパーズ・ペンダント |
一番安価なスカイブルートパーズは電子線を照射して作ります。高エネルギーの電子線をあてると結晶がかなり熱くなります。このため水で冷却しながら処理するのですが、それでもクラックが発生したり、砕け散ることすらあります。石コロさんたちも大変ですね。 |
ロンドンブルーとスイスブルーは中性子線照射で作るのですが、色の濃さの違いはあてる量の違いだけです。 電子線ほど熱くならないので、大きな結晶であっても体積膨張による歪みでクラックが入るということはほぼありません。 歩留まりはスカイブルーが一番悪いのに、なぜスカイブルーが一番安いのでしょうか。 濃い色の方がイメージ的に高価なのでしょうか。 |
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【参考】現代のスカイブルー・トパーズ・リング |
一言で放射線と言っても各種あって、スカイブルーは電子線、スイスブルーとロンドンブルーは中性子線という違いがあり、実はこれが価格差の理由になっているのです。 |
日本人にとって過去に最悪の経験もあり、ご存じの方も多いかと思いますが、放射線を浴びると放射線同位元素が発生して放射能を帯びることがあります。 トパーズも結晶内の不純物が放射線同位元素に変わり、放射能を帯びます。 電子線によるスカイブルー・トパーズはあまり長くない期間、数日程度で安全な水準まで放射能が下がりますが、中性子をあてるスイスブルー、ロンドンブルー・トパーズは安全な基準に下がるまでに数年かかることもあります。 |
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【参考】現代のスイスブルー・トパーズ・ペンダント |
照射トパーズの安全性はアメリカ原子力委員会の厳しい基準で規制されているものの、過去にはブラジルやその他の国から基準値以上の放射能を持つトパーズが出荷されて問題になったこともあります。 現代では年間5億カラット(100トン)を超えるブルートパーズが市場に供給されており、その中にはチェックすらされていない出所不明の異常に安い物もあります。 日進月歩、業界も技術も世界規模で進化していますから、全容を把握するのはもはやプロでも不可能な状況です。 毒々しい不自然なブルーだけでなく、いろいろな意味での気味の悪さ満点の宝石、それがブルートパーズの正体です。 |
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【参考】現代のロンドンブルー・トパーズ・ペンダント |
スイスブルー・トパーズのルース(処理済) | 笑っちゃうのが価格の話です。 出始めの頃は数も少なく、それまでに見たこともないような印象的な色だったので、カラット当たり数十ドルという相当の値段が付いていたそうです。 それが供給を急激に増加させすぎたせいで価格が下がり、現在ではカラット当たり1ドルもしないものから、どんなに高くても10ドル程度で手に入るようになりました。 |
無色のトパーズのルース | 需給次第で価格は数十分の一まで低下する、これが経済の論理です。同じものなのに(笑) まあ、原材料はそれこそ腐るほどありますからね。 |
セシル・ローズ(1853-1902年)1900年、47歳頃 | 『財宝の守り神』でご紹介した通り、南アフリカのダイヤモンド・ラッシュでは初期の段階でこの経済理論に気付いた人物が早々に対処したからこそ、ダイヤモンドの価格を守ることができました。 デビアスの創業者セシル・ローズ、目の付け所がすごいですよね。 次々とダイヤモンド鉱山を買収しました。 |
アーネスト・オッペンハイマー(1880-1957年) | その後、世界のダイヤモンドの流通を掌握するための現代まで通ずるシステムを確立したアーネスト・オッペンハイマーも凄いです。 |
技術革新には成功したものの、流通を失敗したブルートパーズは安い石に成り果てました。 スイスブルー・トパーズにはダイヤモンドもプラチナも相応しくないそうで、左のリングに使われている白い石はホワイト・トパーズで、メタルはシルバーにロジウムメッキだそうです。 こういう石のせいでトパーズという石自体が安物に見えるという迷惑な話です。 一人の天才がいるかいないのかで、ここまで長年にって世界経済の一側面に影響が出るというのも面白い例ではありますね。 |
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【参考】現代のスカイブルートパーズ・シルバー・リング |
ちなみにそれぞれの色のトパーズに大層な名前が付いていますが、これは鉱物学的な厳密な名称ではありません。具体的にどういう色なのか、マスターストーンや波長領域などによる定義も存在しません。 もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、イメージの良い名前を付けると売れ行きが格段に向上するからです。ネイルカラーやアイシャドウなど、メイクアップ・アイテムにもイメージが湧き、テンションが上がるような名前が付けられていることが多いですよね。 経済学の法則によると、こういうプロモーションは大衆女性ほど効果があります。屑石を処理しただけの、稀少価値がないブルートパーズは大衆向けの宝石として売り出す予定だったため、宝飾業界がターゲット層にウケの良さそうな名前を付けたのです。今では一般的な名称としてすっかり定着しています。 |
ナミビアのエロンゴ山のブルートパーズ "Topaz-k-182a" ©Rob Lavinsky, iRpcks.com(before March 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
天然のブルートパーズはとても少なく、あっても左のようなライトブルーです。 ジュエリーサイズにカットするとほとんど色が見えなくなってしまうため、基本的にジュエリーで使うことはなく、ジュエリー市場で天然のブルートパーズを見ることはありません。 |
上のような淡い色のブルートパーズを使うと、この程度の色すらも出ないことは容易に想像できますよね。 |
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【参考】現代のスカイブルー・トパーズ・リング |
実は私は天然のブルートパーズを使ったネックレスを持っています。 アンティークジュエリーを知る数年前、ハンドメイドのアクセサリーを販売する方から手に入れました。 |
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天然のブルートパーズ |
天然ブルートパーズのネックレス | ちょっと珍しい天然石だけでなく、千年以上も前の銀化したローマンガラスも独自の入手ルートを持つ方でした。 トパーズネックレスはブルー以外にピンクやイエローなど、色違いでいくつかあり、その方とはデザインの好みが似ているせいか、どれも素敵で迷っていました。 こういう貴重な石の場合はブルーだけを仕入れるのは無理で、一括で様々な色のルースで買うから仕入れることができるのだそうです。 その方も石は重要視しておらず、あくまでも優れたデザインと手作りの良さにプライドを持ってやっている方なので、まとめて仕入れたということもあって、同じデザインのものはトパーズの色が違っても同じ価格でした。 その頃はまだ私はトパーズについて知識がなかったのですが、迷っているならブルートパーズが本来は一番貴重で高価だから、ブルーがオススメとのことでたまたま天然のブルートパーズを持つことになったのです。 |
天然ブルートパーズのネックレス |
ネックスタンドには重ねづけしていますが、実は同じ長さの単品販売のネックレスでした。こういう感じで2つ組み合わせて使いたいと言ったら、わざわざ長い延長チェーンを準備して、重ねづけも単品使いもできるようにしてくれました。 このネックレスの脇石は1石1石、シルクコードでノットを作って留めてあります。こういうハンドメイドの良さも好きなのですが、要望を喜んで聞いてもらえるのも楽しいんですよね。デザイナーの方も自分が思っていなかったアイデアをもらえると楽しくてやり甲斐があるようなのです。 ジュエリーでもこのようなハンドメイドの良さと、優れたデザインを持つ物をオーダーできれば良いのですが、現代ではもう無理ですね。デザイナー兼職人さんと楽しく信頼関係を築きながら美しい物を作れた古い時代の貴族や職人達は楽しかったに違いないと感じるのです・・ |
フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793) | マリー・アントワネットだって、当時のジュエリーデザイナーと一緒に秘密のメッセージを伝えるアクロスティックジュエリーを編み出したそうですしね。 きっとファッションリーダーらしい優れた感性でいろいろなアイデアを出して相談しながら、デザイナーと共に楽しく美しいジュエリーを作り出していったのでしょう。 |
天然ブルートパーズ | 天然の石のインクリュージョンも含めて魅力だと思うのですが、こういう石は現代ジュエリーでは好まれず使われないのでしょうね。 コロンとした結構厚みがある石です。そうでないと色が出ないからです。その分、インクリュージョンも多めに見えます。 天然の石であること以上に、不自然な手を施してでも完璧なものに仕上がっていることが求められる、それが現代の一般的な消費者の要望なのかもしれません。 |
ピンクトパーズという石
もはやここまで読んで下さった方は、現代のこの毒々しい色合いのピンクトパーズには何も期待していないことでしょう。 |
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【参考】現代のピンク・トパーズ・リング |
まあそんな小難しいことはさておき、横から見れば石自体が美しいピンク色なのは一目瞭然ですね。 |
『華』 ジョージアン ピンクトパーズ ネックレス イギリス 1820年頃 ピンクトパーズ、18ctゴールド SOLD |
この作品もジョージアンの美しいピンクトパーズを使った、オリジナルケース付きの宝物です。 他の年代ではほとんど見ることがないピンクトパーズが、この時代のイギリスのハイ・ジュエリーでいくつか見ることができるのには理由があります。 1820年頃にイギリスにおいて、至上もっとも金価格が高騰した理由がフランス革命戦争にありました。 フランスとイギリスは戦争状態にあったため、商船を使う必要があるセイロンやビルマからのルビーやサファイアは入手が困難な状況でした。 |
笑ってはいけません(笑) これは現在、天然のピンクトパーズとして販売されているネックレスです。 色は調整しても、天然のトパーズには間違いないから天然のピンクトパーズと言って売っているようです。 海外市場の物なので日本人ウケしなさそうな毒々しいピンクですが、日本市場向けだともっと淡い色が付けられるのだと推測されます。 |
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【現代】ピンクトパーズ&シルバー・ネックレス |
こんなにウジャウジャ見せつけられるとありがたみゼロですが、1つを立派なケースに入れて、高級そうな店構えで高級なブランド名でもつければ結構な金額で売れるのかもしれませんね。 中身は変わらないのに(笑) |
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【現代】ピンクトパーズ・リング |
ジョージアンの天然ピンクトパーズ | 天然のトパーズの色はピンク、サーモンピンク、シェリー(褐色オレンジ)、紫などは不純物によるクロムによって色が形成されていることが分かっています。 |
様々な色のトパーズ(処理の有無は不明) "Large Topaz Gemstones" ©Michelle Jo(9 Sptember 2010)/Adapted/CC BY 3.0 |
トパーズは放射線照射や加熱、光の作用でピンク〜褐色〜無色、緑〜青〜無色に変えることができます。 しかしながら色が定着するとは限りません。このような着色法の場合、放射能が半減期を経て徐々に失われていくことによって色は変化していきます。 |
そこで事件が起きました(笑) 1980年頃はトパーズはシェリーやサーモンカラーが最も高く評価されていました。 ブラジルのオウロ・プレトの黄色のトパーズが加熱処理で安定したピンク色に変わることは良く知られていますが、1980年代初頭にコバルト60のガンマ線照射によってシェリーやサーモンカラーに変えられたトパーズが高値で販売され、その後短い期間で退色し、ブラジルの宝石の信用が大失墜して価格が暴落したのです(大爆笑) せっかく次はブルートパーズの二の舞にならぬよう、供給調整して暴利を貪ろうと目論んでいたでしょうに(笑) |
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【参考】現代のピンクトパーズ・リング |
この頃の話の真相の詳細を知らず、それでもボンヤリと聞いたことがある方だと、ピンクトパーズが変色しないか聞いてこられる場合もあるのですが、クロムで色を呈している天然トパーズであれば、原理的に退色なんてしません。 200年も経過したこの天然トパーズが答えです。 |
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ジョージアンの天然ピンクトパーズ |
ピンクトパーズは色が濃くないですし、この時代はダイヤモンドもまだオープンセッティングは少ない時代です。 それにも関わらずこのブレスレットの大きなピンクトパーズはオープンセッティングになっており、これはかなり珍しいことです。 |
200年近く経っても変わらぬ美しさ、そしてオープンセッティングでもこれだけ鮮やかな美しい色合い、これが上質なピンクトパーズの実力です。 そして貴重で高価な宝石だったからこそ施される、この手の込んだ神技的な細工と手間のかけ方。 脇石が上質なエメラルドと天然真珠です。 |
現代のトパーズは、いくらでも採れるはずの激安メレダイヤすら使ってもらえません(笑) 現代ジュエリーは今は厚化粧でごまかしている状況ですが、今後、時の経過が真の価値を明らかにしてくれることでしょう。 |
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【参考】現代のピンクトパーズ&ホワイトトパーズ シルバー・リング |
とは言え、購入した本人が100年後まで生きていることはありませんから適当な年数持てば良いのです。 それが現代の大量生産の消耗品ジュエリーに要求され、満たしている耐久レベルです。 そんな物でも買う人がいるから市場が成立するのですが、買う側も所詮ジュエリーは消耗品だから値段は安くていかにも高そうに見えるのが理想ということなのかのしれません。 こうしてジュエリーは今後もより質が劣化していくのでしょう。 それにしても作りが悪くて石が簡単に落っこちたりするだけでなく、もはや石そのものも劣化し得るというのは笑っちゃいますね。 |
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【参考】現代のピンクトパーズ&シルバー・リング |
ちなみにピンクトパーズやシェリー、サーモンカラーのトパーズについては、現代では安定した熱処理が行われているので退色の心配はないそうです。 天然のトパーズを使っているので、平気で天然ピンクトパーズなどと謳われて販売されています。 非加熱と記載されていても放射線処理の疑念もぬぐえず、高ければ安心というわけでもない恐ろしい世界です。 私は買わないですし、興味がないのでどうでも良いですが・・ |
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【参考】現代のピンクトパーズ・リング |
現代トパーズのおまけ情報
カット前のスイスブルー・トパーズ | 今でもトパーズはブルーがメジャーです。それには理由があります。 放射線照射で色を出す場合、青が最も安定しているからです。 他の色にしても、最終的には多くの場合、熱や光の作用で青い色になって落ち着きます。トパーズは強い陽射しにあてないようにしましょうと言うのはこれが理由です。 |
販売価格が安くても、原価率を低くして同じ規格を大量生産し、たくさん売れば儲かりますからね。 左のリングもパッと見はちょっと高価な物に見えますよね。 「ロンドンブルーはブルートパーズでも一番高価なんですよ、本物ですよ、ハートシェイプなんですよ、天然石ですよ、保証書ついてますよ。」 ちなみにメタルは14Kホワイトゴールドで、ダイヤモンドのように見える白い石はすべて無色のトパーズです。 こんな屑石にはメレダイヤすら惜しいそうです(笑) |
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【参考】現代のロンドンブルー・トパーズ・リング |
上のリングを御大層なケースに入れ、左のようないかにも尤もらしい保証書でも付ければ、高値で買う人はいるでしょう。 保証書があれば価値あるものだと盲信する人が多いから、こういうやり方が宝飾業界でまかり通っているのです。 |
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【参考】上のリングの保証書 | |
この保証書では本物のロンドンブルー・トパーズの14Kゴールドのリングだと保証してあります。 箇条書きの3つめの項目に、「天然石は採掘して得られたものです(エンハンスメントもしくはトリートメントが施されている場合もあります)。 こんな紙っぺらは安物に対してでも、いくらでも発行できます。価値がある物という保証には全くなり得ません。権威の名前を記載し、もっともらしいデザインと書式で書けば信頼できるように見えますが、これが一つのブランド戦略でありプロモーション技術の1つです。 価値あるものと思い込んで買う消費者に対して、販売者側はこんなので思考停止になって喜んで買うなんてと笑っているように感じます。きっとこういうことをやるような頭の良い人たちは、自身が詐欺的行為をやるからこそ猜疑心の塊で、自分たちが何か買う場合は保証書や契約書の類は相当読み込んで十分に理解してから行動に移すはずです。 もちろん保証書をないがしろにするつもりは全くありません。ヘリテイジでは全ての作品に保証書を発行していますし、必要と判断した場合は宝石の鑑別書も別途お付けしています。要は鑑別書とは何なのか、どこまで鑑別が可能なのか、どういうルールで書かれているのか中身をきちんと理解しての適切な使いようです。 |
【参考】現代のレインボー・トパーズ・リング | 【参考】現代のレインボー・トパーズ・リング |
最近では『レインボー・トパーズ』と言う、意味不明なトパーズまで出回っています。シルバーセッティングの、まるでオモチャのようなアクセサリーです。これを見たGenが「気持ち悪い!じんましんが出るぅ〜。見たくない〜!」と騒いでいました(笑) この謎の物体は、エンハンスメントではなくトリートメントが行われたトパーズです。何のことかと言うと、宝石が本来持っていたポテンシャルを自然界の代わりに人工的に引き出してあげると言う、加熱処理などがエンハンスメントと呼ばれます。一方で、自然界ではまず起こりえない処理をするのがトリートメントです。 レインボー・トパーズは天然の無色のトパーズから作ります。無色のトパーズに薄い金属酸化膜をコーティングし、虹色の輝きを出します。酸化膜の厚さによって見た目はコントロールできますが、薄膜が剥げてきたらみすぼらしくなりそうですね。でも、天然の石を使っているので天然石として販売されます。こういう売り方をするので、消費者はますます混乱します。 本来貴重なはずのカラー・トパーズになぜこれほどまで安いイメージが定着しているのか、もうお分かりいただけたと思います。 ちなみに海外ではトリートメントとエンハンスメントを区別していない国がほとんどで、wikipediaによると2004年以降は日本もそれに倣い、現在では区別せずどちらもトリートメントと呼んでいるそうです。ますます宝飾業界は怪しげな方向に進化しそうです。人間の歴史では、時代と共に進化ではなく劣化することも多々あるのです。 |
トパーズの本来の美しさとは?
「天然のトパーズは貴重だから手に入れましょう!アンティークジュリーならば天然で間違いないですから!」なんて、私的にはあまり意味があると思えない理由でこの作品をおすすめするつもりは毛頭ありません。 トパーズには他の宝石にはない石としての魅力があり、それを神の技とも思える驚くべき細工で最大限に引き出しているからこそ、この作品にはとてつもない魅力があります。 ここからはトパーズという石の本来の魅力について見て参りましょう。 |
強い照りと輝き
静止画像ではお伝えしきれないのですが、このトパーズは黄金色に輝く、今まで見たことのない光沢感(照り)のある最高に美しい石です。クロスということもあって、神々しささえ感じます。 |
このゴールデントパーズのために、周到に計算されたファセット(面)の多いカットが施されています。少し角度を変えるたびに、各ファセットが至る所から強い煌めきを放ちます。 |
石の裏側も素晴らしいカットが施されており、まるで黄金のようなまばゆい光を放ちます。 |
トパーズ・カンティーユ・ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
なかなか見る機会がないトパーズのアンティークジュエリーですが、以前シェリーカラーのトパーズを扱ったことがあります。 これもジョージアンに作られたもので、オープンセッティングされた最高級のトパーズです。2つはライトの当て方や角度を変えた画像ですが、驚くほど照りが良いことがお分かりいただけるでしょうか。 色や透明感などは似ていても、この照りの強さこそがシトリンとは似て非なるものなのです。 |
【参考】現代のインペリアル・ゴールデン・トパーズのルース | ||
色が天然かどうかは置いておくとして、現代のトパーズのルースを見てみると、やはりかなり照りが良いことがお分かりいただけると思います。 |
Si系では最高の屈折率を持つ効果
トパーズはAl2SiO4(F,OH)2という化学式を持つ鉱物で、分類的にはケイ酸塩鉱物になります。 ケイ酸塩系の鉱物にはSiO2の水晶があり、シトリンやスモーキークォーツもこれにあたりますが、トパーズはこのケイ酸塩系の鉱物の中では最も高い屈折率を持っています。 |
屈折率が高いほど輝きが強くなります。 ダイヤモンドやサファイア、ルビーには劣りますが、水晶系の宝石よりもトパーズの方が輝きが強いのはこのためです。 |
スモーキークォーツ(煙水晶)・ケルティック・クロス イギリス 1870年頃 SOLD |
左はハイレベルのスモーキークォーツ(煙水晶)による類似のクロスです。 稀少なスモーキークォーツの中でも、渋く深い色合いが魅力の作品ですが、石の輝きと照りという観点だと、トパーズには全く及ばないことがお分かりいただけるでしょうか。 |
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ダイヤモンドやコランダム系のルビー、サファイア、スピネルはトパーズより屈折率は高いですが、透明度が高くてこれだけの大きさがある石が得られることは考えにくいです。 それを考慮すると、このトパーズのクロスこそ強い輝きと大きさを両立した、最高峰の宝石クロスと断言できます。 |
硬い宝石であることの効果
このクロスは100年以上経っているにも関わらず、カットが他のアンティークジュエリー以上にシャキッとして見えませんか? |
相当拡大しても、かなりエッジがシャープです。 これはトパーズが硬度が高い宝石であることが原因です。 |
ダイヤモンドやルビー、サファイアが硬いことはご存じの方が多いと思います。 シトリンなどのロッククリスタル系の宝石のモース硬度は7ですが、トパーズはモース硬度8で水晶よりも硬いのです。ちなみにガラスは5です。ガラスは宝石としてのロッククリスタルの代用にはなりません。 ダイヤモンドは極端に硬いですが、トパーズは水晶以上に硬い宝石なので、傷つきにくいという利点があります。それ以上にメリットなのが、カットする時のエッジのシャープさです。 |
手作業によるダイヤモンドのカット(現代) | |
サラリーマン時代に半導体などの分析で、似たような断面研磨装置もよく使っていました。宝石のカット(研磨)も同じ原理です。研磨盤に押し当て、徐々に表面を削って整えていくのですが、綺麗に完全な面で削れるわけではありません。 |
柔らかいほど端部がダレてエッジが緩い仕上がりになります。研磨ダレと言います。 樹脂のような柔らかいものを削る場合は顕著でしたが、鉱物に関しても同じことが言えます。 |
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材料の硬さによる研磨ダレのイメージ |
肉眼では分からない程度のわずかなエッジの違いかもしれませんが、こういう細かい部分の仕上がり具合が全体の印象や、エッジの輝きに大きく影響するのは間違いありません。 |
トパーズ・クロス | スモーキークォーツ・クロス |
相当拡大した画像なので、肉眼でこれだけの違いを認識することは難しいと思いますが、トパーズはエッジがシャープで、クォーツのエッジは少しダレてゆるっとした印象なのがお分かりいただけますでしょうか。人によっては認識できないかもしれないほどの僅かな違いですが、印象が大きく変わるのが面白いところです。 |
それぞれのエッジが、クォーツの方が少しだけなだらかです。 |
こうして比較すると、エッジのシャープさや表面のなめらかさ、照りの強さが違うことが分かりやすいと思います。あくまでもカットする職人の腕の違いではなく、トパーズとクォーツという石の性質の違いに依るものです。これだけの大きさと色を持つスモーキークォーツは当時でも最高級の石だったはずですから、間違いなく当時最高の職人がカットしているはずです。 |
屈折率が高く輝きが強いだけでなく、エッジをシャープに整えることができるトパーズはこのようなカットも見栄えするため、現代でもこのタイプのカットのルースを見かけます。 |
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【参考】現代のインペリアルトパーズのルース |
時代を超越したデザインの魅力
さて、トパーズと言う石自体の魅力についてはもうお分かりいただけたと思いますが、このクロスが特別なのはそれだけではありません。 他のアンティークジュエリーのクロスには類を見ない、時代を超越したシンプルモダンな作品と言う魅力があります。 |
ロッククリスタル・クロス イギリス 1880年頃 SOLD |
スモーキークォーツ(煙水晶)・クロス イギリス 1870年頃 SOLD |
過去にも透明な石の魅力あふれる美しいクロスを扱ったことがあります。どちらも当時、相当なお金と技術をかけて作られたハイ・ジュエリーです。それぞれデザインについて注目してみましょう。 |
このクロスはケルティックスタイルの十字架です。背景のサークルには天然真珠が並べられています。スモーキークォーツの石留の爪はとても装飾的な形状です。バチカンにも粒金のような細工が並んでおり、スモーキークォーツという渋い色の石を使いながらも全体的にはとても装飾的で華やかな印象のクロスです。 |
ゴールデントパーズ・クロス | ロッククリスタル・クロス イギリス 1880年頃 SOLD |
スモーキークォーツ(煙水晶)・クロス イギリス 1870年頃 SOLD |
並べてみるとトパーズのクロスだけ極端に装飾がなく、そのためアンティークらしいクラシックな雰囲気が微塵もなく、いつの時代でも最先端の風を感じるような時代を超越したクロスであることが分かります。 装飾があるといかにも細工が大変そうで、それがアンティークジュエリーらしさであったり魅力であったりもします。 |
作りがシンプル過ぎて、現代でも作ることができるようなつまらないものは、例えそれが間違いなくアンティークジュエリーであっても扱ったりはしません。 この作品が偉大なのは、これだけシンプルでありながらアンティークでなければ絶対に不可能な細工が施してあることです。 しかもその細工はハイクラスのアンティークジュエリーでも見ることがないような超絶技巧なのです!! |
大型のトパーズによるクロス
このクロスは比較的大型で、しかも全体がトパーズでできているというのは驚異的なことです。5つのトパーズのルースを組んでクロスにしてあります。色だけでなく、照り艶も揃っているお陰で遠目からは一体化した1つの石のようにも見えるのですが、これは1つの原石から材料を採らないと不可能なことです。現代宝石と違って染色したり脱色して色を揃えるということはできませんからね。 |
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金属のフレームで作る場合はいくらでも大きくできますが、石だけでこれだけの大きさを作ろうと思うと、相当大きくて上質なトパーズ原石が必要となります。 |
トパーズ原石(全体:3.7×2.8×2.5cm) "Topaz-k312b" ©Rob Lavinsky, iRocks.com(before March 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
このトパーズ原石はとても立派で大きそうに見えますが、実際は全体で3.7×2.8×2.5cmしかありません。 結晶の部分だけだともっと少ない量しか採れませんし、小さい割に満遍なくインクリュージョンがあります。 トパーズのクロスは石の部分だけで全長4.6cmあります。 5石を組み上げてできていますが、一番長い石は2.5cmありますし、それぞれに厚みもあります。 こんな小さな原石では作るのは不可能です。 |
しかも驚くほどクリアで、これだけ拡大しても、どの部分もインクリュージョンが本当に少ない石なのです。 |
現代でも照りが強いインペリアルトパーズは、処理石であるブルートパーズはおろか、通常のトパーズよりも高級な宝石として販売されています。「昼は、水を湛えたように煌めき、夜は、夜景のように瞬く・・。」と表現されるほど、照りに優れた魅力的な宝石です。しかしながらその殆どは小さな石、あるいは多少の大きさがあっても質の悪い石です。 |
【参考】インペリアルトパーズ 2.35ct | 【参考】インペリアルトパーズ 8.5ct | |
なるべく大きい石を使ったジュエリーを探してみたのですが、せいぜいこの程度でした。クロスを作るには1つの大きな原石が必要ですが、そのような大きくてしかもジュエリーレベルの綺麗な石が入手できたことがまず驚異的なことなのです。 |
二度と手に入らない原石の使い方
当時世界最大のダイヤモンド原石カリナン 530.2ct(1908年) | 二度と手に入らない、大きさと美しさを兼ね備えた特別な原石が手に入った場合、それをどうカットし、どう使うのかは最大の悩みどころです。 なるべく巨大にするのか、美しさを最優先するのか、やり直しがきかないからこそ世界最高の職人チームを呼ぶのです。 イギリス国王エドワード7世が66歳の誕生日に献上された、当時世界最大のダイヤもモンド原石カリナンは、アムステルダムのアッシャー兄弟に任されました。 |
宝石として仕上げられた9粒のカリナン |
3人がかりで1日14時間、8ヶ月にも渡る大変な作業によって9粒のルースに仕上げられました。巨大な1粒ではなく、それぞれ美しい9粒ずつとなったのです。まだヨーロッパの王侯貴族が力を落としながらも力を保持し、美意識が行き届いていた時代ならではと言えるでしょう。 ヨーロッパの王侯貴族が力を無くし、世界を主導するのが新興勢力へと移り変わった第二次世界大戦後はとにかく巨大さを目指します。美しいことよりも大きいことを優先します。まさに成金です(笑) 1986年、南アフリカのプレミア鉱山で2つの特別なダイヤモンドが発見されました。『ザ・ゴールデン・ジュビリー』と『センティナリー』です。どちらも小綺麗さは担保しながらも、大きさを求めたカットが施されたのでオブジェのような扱いになっているようです。その甲斐あって、『ザ・ゴールデン・ジュビリー』が世界最大となっています。 それでもそれぞれ、原石とカット後のカラット数を比較するとこのようになっています。なるべく大きく取ろうとしても、案外無駄が出るものですね。 |
ミュンヘン鉱物博物館のコ・イ・ヌールのレプリカ | |
ムガルカット(186.0カラット) "Koh-i-Noor old version copy" ©Chris 73 / Wikimedia Commons(09:49, 21 October 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ブリリアンカット(105.6カラット) "Koh-i-Noor new version copy" ©Chris 73 / Wikimedia Commons(09:49, 21 October 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
左は1851年にロンドン万博の目玉の1つとして展示された、当時世界最大級のダイヤモンド、ムガルカットのコ・イ・ヌールのレプリカです。ヴィクトリア女王が輝きのなさにがっかりした様子を見て、アルバート王配が莫大なお金をかけてアムステルダムから呼び寄せた世界最高のカット職人にリカットさせました。既に完成形だったはずのルースですらカットしちゃうなんて、凄い美意識の高さですよね。 |
コ・イ・ヌール、英国王室蔵(ロンドン塔に展示) | 大きいことだけに価値を感じる価値観の人たちならば、小さくなるのにリカットしてしまうなんてあり得ないことでしょう。 でも、大きくても美しくなければ意味がありません。 これが、こういう人たちの美意識なのです。 なかなかこの時代でもそういう美意識を持てる人は多くはなかったと思います。現代ではもはや絶滅危惧種のような人種だと思いますが・・ |
このクロスを作れるようなトパーズ原石であれば、相当大きくて高価な貴重な石だったはずです。 それを大きな1つの石として使うのではなく、このような使い方をするなんて普通の感覚では考えられません! これこそが現代では絶対に不可能な、最高に贅沢な宝石のジュエリーと言える作品です!! |
1つの大きなルースでカットする方が、カットする職人にとっても遙かに簡単だったことでしょう。 それを限られた原石から最大限の大きさで、5つパーツ取りするということがいかに神技的な技術なのか、想像を絶する作業です。 |
誰にも価値を分かってもらえないマニアックなものを作ったものだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 でも、当時の王侯貴族はこれを見れば一目瞭然でそのすごさは分かったと思います。 現代の一般人はジュエリーをフルオーダーして世界トップレベルの職人にハンドメイドで作ってもらうような機会はありませんが、当時の王侯貴族にとってはこれがジュエリーを手に入れるための普通のプロセスです。 |
フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793年) | オーダーしたり、職人と打ち合わせするには相応の知識も必要なので、そういう経験がある王侯貴族たちならば一目でこのトパーズクロスがいかに凄いものなのか分かるのです。 まあ、王侯貴族でもセンスがなくて職人に丸投げするような人たちも結構いたかもしれませんが、そういう人たちは教養やセンスがないということでモテなかったんじゃないかと思います(笑) |
絶妙な石の留め方の特別な構造のフレーム
このトパーズクロスは正面から見るとまるで1つの石だけでできているようにも見えます。 不思議な感覚に包まれる、この作品ならではの魅力です。 極限まで存在感を消したフレームと、石の見事なセッティングがそれを実現させているのですが、これがいかに難しいことはご想像できますでしょうか。 |
アンティークジュエリーの中には、一体どうやって石を留めているんだろうと思ってしまう不思議な留め方をしている作品があるものです。 |
クロス中央の正方形のトパーズは、肉眼ではほとんど分からないような四隅の小さな爪で留めてあります。 石のカットとフレーム作成、石留めの技術の全てが揃わないと出来ないことで、アンティークジュエリーの中でも特別オーダーされた超一級品でなければ見ることはできないレベルです。 |
この画像で、如何にこの石をカットした職人が高度な技術と卓越したセンスを持っていたか分かると思います。 |
石留め部分のフレームや爪の存在感があまりにもなさすぎて、きちんと留まっているのか思わず不安な気持ちが湧いてくるほどですが、140年ほどは愛用されていることを考えれば、見た目は繊細ながらも十分にしっかりと固定されているということでしょう。 |
動かして各ファセットが煌めく様子を見ないと分かりにくいと思いますが、上下左右の石の先端部分も単純なカットではなく、どこから見ても美しい輝きが感じられるよう計算された、見事なカットが施されています。 |
トパーズの厚みもまた、完璧に計算されているんだなと感心します。石の厚みがちょっと厚すぎても薄すぎても、ファセットが光を反射するための最適な角度にならず、劇的に照りや煌めきの美しさを感じられなくなってしまいます。出来たものを論評するのは誰でもできる簡単なことですが、ゼロから作り出すことがいかに難しいことか考えると、まさに神懸り的な作品だと感じます。 |
トパーズが、超巨大で美しい原石でゴロゴロ採れるような石であれば、5つの石を組み上げるような面倒なことはせず、クロスの状態で原石からカットする手もあったのかもしれません。 でも、トパーズは貴重な石です。だからこそ、原石を最大限有効に活用するために、五つの石にカットしてクロスの形にセットしてあるのです。 |
正面からは金のフレームはほとんど視認できませんが、裏側から見ると百数十年の使用に耐えてびくともしない、十分な耐久性も納得できる十分な構造のフレームであることが分かります。 石の正面側は、小さな爪と僅かに倒したフレームの縁で石留めされていましたが、裏側は多少の厚みをもつ金のフレームの僅かばかりの厚みで石を均一に留めているということです。職人の勘だけを頼りに、よくここまでの精密な仕事ができるものだと感心するばかりですが、それは人間だからこそできたことなのかもしれません。 現代の大量生産の工場の現場なんて、人の感覚は入る余地はないように思われる方も多いかもしれません。でも、実はそこには職人による感覚値が未だに必須で、神技的な職人がいなくなると作れない製品も実はたくさんあるのです。「この人がいなくなると生産できない」という事態は工場にとっても大問題なので、職人の勘を数値化して誰でもできるようにする研究開発はどの製造大手でも取り組まれている課題ですが、なかなかうまくいった話は耳にしません。 同じように機械の数値を設定しても、温度や湿度が少し変わっただけでも出来上がりが変わってしまうのは生産現場では常識です。経験と勘で、機械の条件を設定し直して最適化する必要があります。未だ、人間の感覚より勝るものは機械にはないのです。 |
さて、表側から各石を見ると、フラットな面の高さが揃っていて実に美しいです。 |
裏から見ても5石すべて同じ厚みに見えますが、実は全部厚みが違います。 |
斜め横から見ると、それぞれの石の厚みが異なることが分かると思います。4,5mm〜5,5mmと、かなり厚みに違いがあります。これらの厚さの違いは1つの原石から5つのパーツをとるのがどれだけ困難なことなのかの現れでもあるのですが、表面からは完全にフラットに見えるように石を留めることがどれだけ困難な作業だったか、想像を絶します。 おそらく完成するまでに何回も試作を繰り返し、試行錯誤の上にようやく完成させることが出来たのではないかと想像します。何しろ43年間アンティークジュエリーを扱っているGenも、こういうフレームの作りは見たことがないと仰天、感動していました。 |
石の裏のカットが素晴らしいので、表面から見た時にエッジが美しく輝いているのです。 |
ファセットもたくさん作られているのですが、実はこの裏側のファセットこそこのゴールデントパーズ・クロスの黄金の煌めきの肝です。 |
本当は実物を一緒に見て、動かして煌めく様子をご覧いただきながらご説明したいのですが、この画像でその凄さを一部はお伝えできると思います。 黄金の輝きの肝は、トパーズ底面からの内部反射の光です。 表面のファセットからの全反射光だと、当てた光と同じく白い光になります。 内部反射の光の場合、トパーズのシャンパンカラーを反映して私たちの目に飛び込んでくるため、まさに黄金の輝きに見えるのです。 左のクロスでは、下側の石の中央付近の縦の強い光がそうです。 このクロスの縦のラインが、黄金の閃光を放つ瞬間のいかに神々しいことか・・ |
見る角度がわずかに変わっただけでも、エッジもキラキラとダイナミックに強く光り輝きます。 これこそがトパーズの特性を最も生かすことに成功した作品です。 これが正解だと言わんばかりのデザインですが、シンプルなカットだけに、神技的高度な技術がなければ実現し得ない作品です。 |
人が身に着けて動きが加わった時の輝きようは絶大で、とても付け映えする作品です。同じようなものが欲しいと思った王侯貴族がいないわけはないのですが、原石を得ること、神技的な技術が要求されること、これらの観点からまず同じような物を作るのは無理なのです。ありそうで他には絶対にない作品と断言できる所以です。 |
その他の完璧主義の細工がなせる魅力
クロスの端に付いている、粒金のような装飾も良く考えられた美しい形だと思います。 なかったら、駄目ではありませんがちょっとシンプルすぎるデザインになってしまいますよね。 このクロスを作った職人は、ちょっとしたことでも絶対におろそかにしない完璧主義者の天才職人、いや、職人の域を超えた神の技術を持つアーティストなのだと思います。 |
厚みのある石を使う場合、通常の感覚ならば後ろ側は石が飛び出さないよう、フレームの奥行きを長くして完全に覆ってしまうと思うのです。でも、そうすると軽やかな印象が失せて、フレームが厚いゴテゴテとしたゴツい印象になってしまいます。そのことまでも計算しつくして作られた特別な作品なのです。 |
この特別なクロスの黄金の輝きを楽しむためには首元で短めに使うよりも、長めのチェーンで胸元あたりの揺れやすい位置に下げた方が良いと思います。 ちょうどその長さで使えるアンティークのハンドメイドチェーンがあったので撮影に使ってみました。 15ctゴールドのイギリス製ですが、ゴールドの色味もまるで合わせたかのようにピッタリです。 必要な場合は別売でお付けできますので、気軽にご相談ください。チェーンのみの販売は行っておりません。 ご希望の場合はシルクコードや細身のベルベットの紐などはサービスでお付けします。いくつか色や太さのご用意があるので、気軽にご相談ください。 |
トパーズは本当にアンティークジュエリーでも作られた数が少なく、ロンドンでもその良さがあまり認識されていない『知られざる良いもの』という状態です。 この作品を紹介してくれた、Genと同じくらい長年ロンドンでアンティークジュエリーをやっているイギリス人ディーラーもそう言っていました。 ご存じの通りGenは知識も経験もある大御所なので、意見を聞きたいと尋ねられることも多々あるのですが、買い付けではGenも私もこのトパーズクロスに飛びついていたので、価値を分かってくれるのかと喜んでいました。 そのディーラーにもこのページを見せようと思っています。 |
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天然真珠についても、ロンドンのディーラーでもきちんと理解している人はいないし僕もそうだと謙遜したことを言っていて、ヘリテイジのページで勉強したいと仰ってくれました。英語サイトはないのか聞かれましたが、ないと言ったら「うーん、google翻訳で読めるかな・・」と言われました。私の日本語はうまく英語に翻訳されるのでしょうか。便利な世の中になったものですね♪ |