No.00209 愛を届ける翼 |
アンティークジュエリーのパイオニア、この道43年のGENも気に入りすぎて思わずイメージビジュアル作成に熱がこもった、ウイング・ブローチの傑作です♪ |
『愛を届ける翼』 |
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王侯貴族の恋愛のために発明されたもの
『紳士と淑女』 扇 フランス 1870年頃 ¥ 387,000-(税込10%) |
王侯貴族の社交では、恋愛は超重要なものでした。 淑女が紳士に様々なメッセージを送るために扇言葉が編み出されましたし、それを美しく伝えるための優雅な扇も王侯貴族のために制作されました。 |
一方でジュエリーに意味を込めて、愛の証として贈ることもあります。 相手に愛を示すために編み出された様々な様式が各時代に存在します。 実はこのブローチも、ただの美しい翼ではなく愛の証として制作された作品なのです。 |
<美しいジュエリーによる様々な愛の証>
秘密のメッセージを伝える 〜アクロスティック・ジュエリー〜
フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793) | 宝石の頭文字で秘密のメッセージを伝えるアクロスティック・ジュエリーは、ご存じの方も多いでしょうか。 当時のファッションリーダーだったマリー・アントワネットが、ジュエリー・デザイナーのジャン=バティスト・メレリオ(1765-1850)と共に編み出したと言われています。 最初に制作されたは、フランス語で「大好き」を伝える"J'adore"(大好き)のリングでした。 |
『REGARD』-豊穣の葡萄- ジョージアン REGARD ロケット・ペンダント イギリス 1820年頃 SOLD |
『REGARD』-富のパイナップル- ジョージアン REGARD ロケット・ペンダント イギリス 1820年頃 SOLD |
アクロスティック・ジュエリーはイギリスでもジョージアン時代に人気を博し、ヴィクトリアン時代に大流行しています。秘密のメッセージは2人にしか分からない個人的で解釈不能な場合も多々ありますが、代表的な言葉としては『REGARD(敬愛)』や『ADORE(敬愛)』が存在します。 上のジョージアンのロケットペンダントはどちらもハート型のREGARDですが、決まった型の範囲内でそれぞれに個性を出していることが分かると思います。右はモチーフとしてパイナップルが使われており、この時代らしいですよね。 これは委託販売だったのですが、GENがパイナップルと言ったら、持ってきたお客様がこれはアザミだと主張されていました。当時の文化を知り、理解できていないとアンティークジュエリーの真の価値は理解できないんですよね。昔の日本人にとってはバナナも高級フルーツでしたが、今では安いフルーツというイメージになっています。パイナップルも現代日本では驚くほど買えるので、現代の常識や感覚だけで考えると「パイナップルなんかじゃないっ!」と言ってしまうでしょうね。 理解してもらえないと相応しい愛され方を持ち主にしてもらえないので、私は今後もありったけカタログに説明を書きます(笑) |
愛の錠前 〜パドルロック〜
イギリス国王ジョージ4世(18-20歳頃) | イングランド1のジェントルマンと言われるほど魅力と教養に溢れ、たくさんの女性との恋愛でも有名なジョージ4世の時代に編み出されたのがパドルロックです。 南京錠技術の発達とタイミングが合ったことで、当時の優れた金細工職人の技術で作られたのが、錠前の形をしたパドルロック・ジュエリーです。 錠前でロックする強い愛を示しています。 |
愛しています、忘れないで 〜勿忘草をくわえる鳩〜
『FORGET ME NOT』 忘れな草 トルコ石 リング イギリス 1880年頃 SOLD |
ヴィクトリアンには可憐で青い勿忘草をペルジャンターコイズで表現したジュエリーも流行しています。 勿忘草自体、「愛しています、ずっと私を忘れないで下さい」という愛の証のジュエリーで、左のようなリングを始めとして様々なジュエリーにモチーフとして使われています。 その勿忘草をくわえた鳩のブローチも、典型的な愛を伝えるジュエリーです。 |
『勿忘草をくわえる鳩』 鳩 ゴールド ブローチ イギリス 1830〜1840年頃 SOLD |
『勿忘草をくわえる鳩』 鳩 シルバー ブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
【参考】HERITAGEでは扱わないレベルのブローチ | 鳥と花のモチーフと聞くと、その組み合わせだけで何を作っても魅力的なものになることが約束されたように感じられるかもしれません。 しかしながら実際に見てみると、生き物をジュエリーで表現することがいかに難しいかが分かります。 左の鳩は飛びそうに見えません。 |
【参考】大英博物館蔵のブローチ 【引用】Brirish Museum © The Trustees of the British Museum/Adapted |
【参考】大英博物館蔵のブローチ 【引用】Brirish Museum © The Trustees of the British Museum/Adapted |
これらは大英博物館の所蔵品ですが、HERITAGEでは扱わないレベルです。左はまずコンディションに問題があります。右は造形に違和感があり、鳩らしい愛らしさが感じられません。いかにヘリテイジが厳選した上質な物を扱っているかがお分かりいただけますでしょうか。 日本人の名家の知り合いにも、「保管の問題や継ぐ人がいないという理由で美術館に寄贈したいけれど、数も多いし展示物としては見応えがない、美術館には向かない細かいものをどうしようか困っている」と話す人がいたりします。 美術館はやたらめったら寄贈されても困るんですよね。受け取っても展示されず倉庫に封印されます。 特にジュエリーに関しては今でも使って楽しめるので、ヘリテイジが扱っている品物の方が美術館より優れていることが多々あるのです。特に19世紀以降のジュエリーはそうです。 古い時代、特にルネサンス期の優れたエナメルなどは、一般人が見ることのできるのは美術館くらいなので、見に行く価値があります。 |
あなたの虜です 〜ウィッチズハート〜
『Bewitched』 イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】ウィッチズハート イギリス 1890年頃 2006年にクリスティーズに出品 【引用】CHRISTIE'S ©Christie's |
2つの魂を1つに 〜Toi et Moi〜
『Toi et Moi』 エドワーディアン(ベルエポック)トワエモア リング フランスもしくはイギリス 1910年頃 SOLD |
Toi et Moi あなたと私を表現する同じ大きさの宝石をクロスオーバーさせたリングです。 |
<象徴主義の時代を反映したラブ・ジュエリー>
ウイング・ブローチ
この翼を模したスタイルのジュエリーは1880年頃に流行しています。 |
天然真珠&ダイヤモンド ウイング ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
ピンクトルマリン&天然真珠 ウイング ブローチ フランス 1880年頃 SOLD |
左はハートをかたどった非常に凝った作りですし、右はピンクトルマリンという如何にも愛を示す美しいピンク色の石を使っています。 |
Genが以前に制作したイメージビジュアルに答えは載っていますが、これはキューピッドの翼です。言われれば納得できますが、ちょっと分かりにくいですよね。西洋美術史に詳しい方ならばご存じだと思いますが、ウイングブローチが作られた時代はちょうど象徴主義が流行った時代です。 |
象徴主義
ギュスターヴ・モロー(1826-1898年) | 象徴主義とは、1870年頃に起こった特定の文学運動および芸術運動などを総称する名称ですが、絵画においてはこの時代、印象派と平行して象徴主義派が存在しました。 人間の内面や夢、神秘性などを象徴的に表現しようとするのが象徴主義派で、その先駆者であり代表的な画家がギュスターヴ・モローです。 |
『オイディプスとスフィンクス』(ギュスターヴ・モロー 1864年) | 『出現』(ギュスターヴ・モロー 1876年) |
モローの作品は何となくでも見たことがある方は多いと思います。左の絵については、モローはスフィンクスを若い女の姿で表現し、伝統的な物語を「男」と「女」の葛藤として描き出したほ表されています。 右はモローの最高傑作であり、傑作中の傑作と賞される『出現』です。モローが50歳の時に制作し、1876年にサロンに出品して賛否両論を巻き起こした、聖書の一場面を描いた作品です。 サロメがヘロデ王の前で踊り、その褒美として洗礼者ヨハネの首を求めたとされる場面ですが、斬首された聖ヨハネの首をサロメの目の前に出現させるという、非常に象徴的かつ幻想的な表現がなされています。 |
『墓堀りの死』(カルロス・シュヴァーベ 1866-1926年) | Wikipediaの象徴主義の項目で出てくるのは、カルロス・シュヴァーベによるこの『墓堀りの死』です。 毎日を精一杯に仕事をして生きる中、訪れる突然の死。 それは悲しみでもなく、嫌なものでもなく・・。 『死』への畏れ、畏敬の念のようなものが象徴的かつ美しく表現されており、強い感銘を受ける作品です。 |
キューピッドが愛の矢を射に来たことを告げるウイング
同時代の象徴主義派の表現手法が分かれば、このウイングが意味する所も一目瞭然ですよね。 |
キューピッドが空を舞い、あなたに愛の矢を射るためにやってきたのです。 大好きです。 |
どうか愛の矢に撃たれて、あなたも僕のことを好きになってください。 同時代に、キューピッドの矢の方を模したラブ・ジュエリーも存在します。様々な愛の表現が存在するのです♪ |
<愛を示すための贅沢にお金をかけた作り>
素材使い
メインストーンに使われた天然真珠は白く美しく、少しピンク色の輝きを放つ照りの良い上質なものが使われています。 同じコランダムでもサファイア以上に貴重で高価な石がルビーですが、愛の情熱を示すためにピンク色のルビーがこれまた贅沢に使われています。ルビーは色が濃い石とやや薄い色の石がありますが、合成や現代の人工処理石とは違う、天然のままで美しい貴重なルビーの証と言えるのです。 撮影のためにライトを強く当てているので色の違いが目立つかもしれませんが、実際には気にならない程度のものです。 |
天然真珠は横から見ると扁平のボタンパールなのが分かります。 これも天然真珠らしい、天然真珠ならではの形です。 球形の天然真珠の方が高価だからケチったのではと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは意図してのボタンパールです。 |
『プレシャス・パール』 エドワーディアン 天然真珠 ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
天然真珠のネックレスに使い場合は、当然ながらどの角度から見ても円に見える球体の方が美しいです。 |
【参考】現代の球形の養殖真珠のリング | |
しかしながら例えば指輪のように、セットすると高さが出るジュエリーの場合は球体だとデザイン的にヘンテコな印象になってしまいます。さらに実際に着用している際、どこかにぶつけて破損してしまうリスクも高まります。 |
『Toi et Moi』 エドワーディアン(ベルエポック)トワエモア リング フランスもしくはイギリス 1910年頃 SOLD |
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高さがあまり出ない方が良いものには、明らかにお金をかけて作られた貴族のオーダー品であっても意図してボタンパールが使われています。 |
脱色、染色して一見全て同じに見えるよう、基本的には全て調色処理してしまう養殖真珠に見慣れ、その工業製品的な価値観に洗脳されていると想像しにくいかもしれません。 本来、真珠の美しさに必要なのは形だけではありません。 色、照り、艶、質感、このどれもが美しさにとって重要なのです。球体だけどこれらの要素1つでも駄目だと綺麗には見えません。 |
愛を示すために最大限の真心と、できる限りの財を投じて作るこのウイングのブローチに相応しい真珠が、この白く美しい最高のボタンパールということなのです。 |
まるで本物の翼のような立体的な形状
この作品はウイングブローチとしては素材だけでなく、作りも過去最高と言える素晴らしい作りです。羽ばたいて舞い降りてきたかのような、全体的に緩やかに内側に湾曲した形をしています。 |
さらに、羽の一番上の部分を厚くして、まるで本物の羽のように立体感を出してあるのが素晴らしいです。 |
『聖ミカエルとドラゴン』(ラファエロ・サンティ 1504-1505年) | 左は長年美術界のお手本とされてきた画家、ラファエロによる聖ミカエルです。 翼と言えば確かにこういう立体的な形状ですが、これを金属で立体的に美しく表現するのは想像以上に難しいことです。 |
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宝石をセッティングする台座への気遣い
アールデコより前の時代では、例外はあるものの基本的にはダイヤモンドには白い金属、カラーストーンはゴールドでセッティングする暗黙の了解のようなものがあります。 このウイングのブローチを見てみると、ダイヤモンドのフレームは白く、ルビーはゴールドカラーなのが分かりますでしょうか。 |
硫化して黒ずむ性質があるシルバーは衣服を汚すことがあるため、シルバーを使ったジュエリーでも高級品はゴールドバックの作りになっています。もちろんこのブローチも後ろ側は全面がゴールドです。 |
どうなっているかと言うと、ルビーの部分は全てゴールド、ダイヤモンドの部分はシルバーに薄いゴールドバックの作りにして、それらを綺麗に蝋付けしてあるということなのです。美しさを実現するための手間を惜しまない、驚くべき手の込んだ作りです。 |
宝石のセッティング
ケチったジュエリーならば、カラーストーンは覆輪や爪留の部分だけをゴールドにするのですが、このルビーはフレームも、オープンセッティングになった裏の窓もゴールドなので、ゴールドの色味を反映してより鮮やかなピンク色に煌めいています。 一方で、ダイヤモンドの部分は底部の薄い部分を除いて銀で出来ているので、ゴールドの黄色い色味を反映せずクリアな色で上質なダイヤモンドらしく美しく煌めきます。 ゴールドフレームの濃く鮮やかなピンク色のルビーと、シルバーフレームのクリアなダイヤモンドがコントラストとなってお互いが惹き立て合い、印象的に美しいのです。 |
ダイヤモンドは驚くべきことに、翼の肩の部分に使われた3石ずつの小さなローズカット・ダイヤモンドを除いて、全てオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドです。 この時代はまだ電動の研磨機やダイヤモンド・ソウは発明されておらず、ダイヤモンドのカットは手作業による手間と時間がかかる大変なものでしたから、余程の高級品でなければこれほどまでにたくさんの高級なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドは使いません。 いずれもオープンセッティングなっており、さらに羽1枚1枚をイメージした縁取りがされており、それぞれの羽に低差もあるため、より一層どのダイヤモンドも美しく輝くように感じられるのです。 |
オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドは小さくても厚みがありますし、カットも奇麗です。 |
天然真珠を頂くルビーの台座のゴールドのフレームも実に見事です。 |
オープセッティングの窓の開け方も非常に丁寧で、完璧な仕上げがしてあります。ブローチのピンもすべてオリジナルなので、優美な曲線のピンが付いています。 |
インスピレーションが湧く着けて楽しいブローチ♪
清楚なホワイト1色の中にルビーの色を際立たせて印象的に♪ | 曇り空もしくは夜空の中に強く羽ばたく、愛らしく美しい翼♪ |
ハイネックの首元に舞い降りた愛の守護天使♪ | こういう立体的でモチーフが分かりやすいブローチは、コーディネート次第で表情をがらりと変えるので、使ってとっても楽しいジュエリーです。 ジャケットの襟やコートの胸元、ストールなどだけでなく、様々な普段のお洋服にも楽しめると思います。 どういう角度、どういう位置に付けるのかでも印象が変化しますし、他のネックレスやブローチとも組み合わせやすいサイズです♪ |