No.00231 古代の女神

オレンジのストーンカメオが美しいマーキーズ・シェイプのプチ・ペンダント

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

『古代の女神』
マーキーズシェイプ プチ・ストーンカメオ ペンダント

イギリス 1880年頃
アゲート、シードパール、15ctゴールド
2,2cm×1,3cm(本体のみ)
重量 2g
ゴールドチェーン(モダン)43cm
SOLD

一目見て極上と分かる、明るく鮮やかなオレンジ色のアゲートを使った見事なプチ・ストーンカメオのペンダントです。とても小さなものなのに、古代の女神がまとう美しい布のドレープと透け感を見事に表現した彫りの技術には驚くばかりです。見事な芸術作品に相応しいハープパールのフレームも手の込んだ素晴らしいもので、アンティークジュエリーでもなかなか出てこない、極上の細工による「小さくて良いもの」です。

高い芸術性でありながら日本女性が普段使いしやすいアンティークジュエリーは珍しいので、1つだけでも何か極上のアンティークジュエリーが欲しいと思ってらっしゃる方にもオススメです♪

 

ストーンカメオとシェルカメオ

ヴィクトリアンの中級品のカメオ(アンティークジュエリー) ヴィクトリアンのシェルカメオのアンティーク・ブローチ(アンティークジュエリー)
【参考】中級のストーンカメオ・ブローチ 【参考】低級のシェルカメオ・ブローチ

アンティークジュエリーのカメオの主な素材はストーンとシェルの2種類で、それぞれに特徴があります。一時期日本でアンティーク・カメオブームが起きて目利きできないディーラーによって大衆用の安物がヨーロッパから数多くもたらされました。知識がないディーラーや販売員でも尤もらしい謳い文句が必要で、そこで「ストーンカメオの方がシェルカメオより高級」という単純化された情報が日本に広まり、スタンダードになってしまいました。「ブランド品だから高級」、「百貨店で売ってあるから高級」などの、思考停止のブランド信仰となんら変わりありません。

シェルカメオの場合、シェルの天然の模様(個性)を生かして最高の芸術作品を作ろうとすれば材料を手に入れるだけでも相当大変なのですが、シェルであれば何でも良いという考え方ならばストーンと比べて安く材料は手に入ります。それに比べてストーンは一定以上の材料費はかかります。

シェルカメオは酷いレベルの安物と、芸術を極めた最高クラスの作品とが混在し、その差が激しいのはそのような理由によります。ストーンはタダのような値段で材料を得ることができないからこそ、ストーンカメオはシェルカメオほど酷いレベルのものは作られませんでした。

ジロメッティ作のユリウス・カエサルのストーンカメオジュゼッペ・ジロメッティ作『ユリウス・カエサル』
ストーンカメオ ブローチ&ペンダント
イタリア 1820年頃
SOLD
「黄金馬車を駆る太陽神アポロン」を描いたシェルカメオの傑作(アンティークジュエリー)にバックライトをあてた所『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』
シェルカメオ ブローチ&ペンダント
シェルカメオ:イタリア 19世紀後期
フレーム:イギリス? 19世紀後期
¥1,330,000-(税込10%)

この2つのカメオは、それぞれストーンカメオとシェルカメオの傑作です。こういう作品を知らないとストーンとシェルで表現できるポテンシャルの限界値は見えてきませんので、真にストーンカメオとシェルカメオの違いは理解できません。

それぞれ天然の素材を使うので1つとして同じものがありませんが、ストーンとシェルの質感は全く異なることが1つあります。シェルは柔らかいので彫りで細かい表現ができること、軽いので大型のジュエリー用途の作品でも作ることができる特徴があります。一方でストーンはシェルに比べて材料が緻密なので、磨き方によってピカピカにしたりマットにしたり、質感を表現し分けることが可能です。

それぞれ表現できるものが違うため、本来は纏めてひとくくりにして優劣を付けるなど不可能なことなのです。1つ1つ職人の手によって心を込めて作られた作品には見所がそれぞれにあり、そういう宝物しか扱わない私のカタログ作成は永遠に楽になることはないでしょう(笑)まあ、適当に作られ安物に関しては見所なんて微塵もないので、安物が欲しい方はどこか安物専門店で、ストーンかシェルかで判断しても良いのかもしれません。

珍しい小さなストーンカメオのペンダント

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

さて、このカメオの材料はストーンです。

とても珍しい、小さなストーンカメオのペンダントです。

ブローチ&ペンダント ブローチ ペンダント
天然真珠のフレームが美しい女神のストーンカメオ・ブローチ&ペンダント 19世紀のイタリアの有名カメオ作家ジュゼッペ・ジロメッティによるユリウス・カエサルのストーンカメオのペンダント&ブローチ 貴婦人の横顔を描いたアンティークのストーンカメオのブローチ&ペンダント マット肌の美女が素晴らしいアンティークのストーンカメオ・ペンダント&ブローチ キューピッドとゼウスの使い鷲を表現したジョージアンのスケルトンのストーンカメオ・ブローチ マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小の比率が分かります。

ヘリテイジでお取り扱いしたストーンカメオをいくつか並べてみました。

ジョージアンのスケルトンのカメオ『キューピッドと鷲』も小さなカメオという印象だったのですが、それよりさらに小さく薄く軽いストーンカメオなのです。大きくて着け栄えする作品と違って、小さな作品は作るのに技術的難易度は遙かに高いにも関わらず見た目には高そうに見えにくいので、成金のような人物には魅力的に見えず、成金はこういう作品を高いお金をかけて作ることはありません。

GENがルネサンスのミュージアム・ページで「時を超えて語りかける小さな芸術」と宝物を表現しているのですが、小さくて良いものは真に感性の優れた古い時代の王侯貴族がその価値を理解していたからこそ生まれることができたのです。そのような作品は、きちんと価値を理解して大切にしてくれる次の持ち主を必ず呼びます。脈々とご縁がつながり、歴代の持ち主に大切にされて宝物は時空を超えてやってきたのです。

ある程度大きさがあって見栄えするものと違い、小さくて良いものは本当に作られた数自体も少ないので、この小さな宝物をロンドンで見つけた時は感動でした♪

リングサイズの小さなストーンカメオ

マーキーズ・シェイプのグリーン・アゲートのストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)ストーンカメオ リング
イギリス  1880年頃
SOLD

マーキーズ・シェイプのグリーン・アゲートのストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント 古代ローマ人を表現したアンティークの珍しい石のストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)
←↑等倍

今まででお取り扱いした小さなストーンカメオだと、リングはいくつか小さな作品がありました。

左のリングは今回の作品に類似した印象ですが、実はこういうストーンカメオはとても珍しいのです。

ストーンカメオのアンティークリング ストーンカメオのアンティークリング ストーンカメオのアンティークリング
ストーンカメオのアンティークリング ストーンカメオのアンティークリング
【参考】低レベルのストーンカメオ・リング

リングに使われるストーンカメオのモチーフでよく見かけるのは、人物の横顔の胸像です。同じようなものばかりでつまらないですが、中〜低級品とはそんなものです。流行をリードしたり独自路線を突き進むのが高級品らしいやり方だとすれば、中〜低級品はデザインを考える労力は惜しんでただ流行を真似したり、みんなが持っているものを持っていれば安心的な思想でしか作られません。

デザインだけでなく加工賃も惜しまれますから、彫りも適当です。彫った後の仕上げ加工も惜しまれた右上のカメオは、ストーン下地がザラザラです。磨いて仕上げないと、こんな汚い感じになってしまうことがよく分かりますね。

古代ローマ人を表現したアンティークの珍しい石のストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)『笑門来福』 〜幸せを呼ぶ指輪〜
ストーンカメオ リング
イギリス 19世紀中期
SOLD

リングサイズの小さなストーン・カメオを彫るのはとても難しいことですが、『ストーン・カメオ』のポテンシャル的には、これくらいは表現できたはずなのです。

『笑門来福』は石の質、彫りによる全体の形状、仕上げの磨きのすべてが揃った、まさに王侯貴族がオーダーした高級品です。

ストーンカメオだけでなく、フレームやシャンクの作りも明らかに上の安物とは違います。

低レベルのストーンカメオには低レベルのフレームがあしらわれて、そういうレベルの方に愛用されるし、高級品は相応のお金をかけられる高貴な身分の人のために、相応しい技術と労力をかけて作られるものなのです。

ヴィクトリアンのエンジェルのストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)

リングにセットできるストーンのサイズには限界があるため、その小さな石に全身をカメオで表現するのはとても難しいことなのです。

だから余計に胸像が多いのです。

左も、そこそこ頑張って作ったリングだろうとは思います。

拡大すると粗が目立ちますが、プックリ感や幼児性が魅力の1つでもあるエンジェルはこの程度でも良いのかもしれません。

ヘリテイジではこのレベルは扱いませんが・・・。

【参考】低レベルのストーンカメオ・リング
ストーンカメオのアンティークリング グリーンのストーンカメオのアンティークリング グリーンのストーンカメオのアンティークリング
【参考】低レベルのストーンカメオ・リング
大人はもっと難しいです。これらのリングは、それでもある程度頑張ったとは言えるでしょう。ヨーロッパの芸術の原点は古代ギリシャと古代ローマにあると言われており、ある意味、古代ギリシャや古代ローマの神話は普遍のモチーフと言えます。19世紀には古代をモチーフにしたリバイバル・ジュエリーも流行しているので、このようなモチーフのジュエリーもいくつか作られたということでしょう。
マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

指輪とペンダントを比べるなんてどうなのと疑問を持たれると困るので、私の手との比較画像で小ささをご証明いたします(笑)

本当に小さいペンダントなのです。

ペンダントをのせた私の左手の人差し指は7号サイズなので、決して大きな手にのせて小さく見せているわけではありません。

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダントご紹介のペンダント グリーンのストーンカメオのアンティークリング
【参考】中レベルのリング

古代ギリシャや古代ローマと言えば、美しいドレープの布をまとった服装が印象的です。上のストーンカメオは、どちらもその美しさを表現しようとしたものですが、小さな石でそれを表現するのはとても難しいことです。右のストーンカメオも小ささを考慮するとまあまあの出来と言えます。拡大するから粗が目立つだけで、指に着けてしまえば違和感はないのかもしれません。その点で、ご紹介のペンダントは驚異の出来映えなのです。

驚異の彫りと表現力の小さなストーンカメオ

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

小さなカメオなのに、細部まで驚くほど緻密に仕上げてあります。

これほど小さいと女神の顔はのっぺらぼうでもおかしくないのに、鼻筋やうっすらと表情も見えます。

身体もしっかりと立体的に表現されています。

杯と右手は独立して表現されています。作者が手を抜いた場合、この部分はつながっていたことでしょう。

左手は、布地を持つ様子がはっきりと表現されています。

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

薄い布が透ける様子や身体に沿う様子が、繊細な彫りと石の白い部分を削る厚さの微妙なコントロールによって実に見事に表現されています。

イシス・ペルセポネ像(古代ローマ 180-190年頃)イラクリオンの考古学博物館
"AMI - Isis-Persephone" ©Wolfgang Sauber(4 April 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0

左はギリシャのクレタ島北部のイラクリオンにある考古学博物館が所蔵するイシス・ペルセポネ像です。

イシスは古代エジプトの女神、ペルセポネは古代ギリシャの女神で、この女神も古代ローマ時代に習合した形跡がみられます。

古代ローマ神話ではプロセルピナと呼ばれて春をもたらす女神となっているためか、使われている大理石も淡いピンク色を帯びているのが美しい像です。

彫刻技術も全身が素晴らしいですが、印象的なのはやはり硬い石による柔らかな布地のドレープと透け方の表現ですね。

PDペルセポネの帰還(フレデリック・レイトン 1891年)リーズ美術館

イシス・ペルセポネ像のような素晴らしい古代の作品を見たら、19世紀のヨーロッパの人たちも古代ギリシャ・ローマの神々=美しい布地と思ったことでしょう。

左は初代レイトン男爵フレデリック・レイトンが1891年に描いた『ペルセポネの帰還』です。

初代レイトン男爵はイギリスの画家・彫刻家で、作品のモチーフは歴史や聖書、古典的題材がほとんどです。

この絵も女神たちの布地の表現が見事ですね。

PDフレイミング・ジューン(フレデリック・レイトン 1895年)ポンセ美術館

これもレイトン男爵の作品です。布地のドレープと透ける表現、モデルを使って実際に見ながら描いたのでしょうけれど、ここまでの表現は特殊な才能を持つ人物だけができるものなんだろうなと感じます。レイトン男爵は画家であるだけでなく彫刻家でもあったので、立体物を理解して新たな芸術作品として再構築できる頭脳と技術を持っていたのでしょう。1900年のパリ万博では、出展されたレイトン男爵の絵画はイギリス展示の象徴と評価されたほど、当時としても評価が高かったようです。

PDフレデリック・レイトン(1830-1896年)1880年の自画像、ウフィツィ美術館

ちなみにこのレイトン男爵家はイギリスの貴族の最短期間記録を持っています。

元々は輸出入専門業を営む一家に生まれたのですが、芸術分野での活躍が高く評価されて1878年に最下級勲爵士位を授けられました。

フランスからも評価が高く、同年に最高勲章レジオン・ドヌール勲章オフィシエを受章したり、その後もローマ賞(フランス国家の奨学金付留学制度)を受賞し、フランス学士院会員となるなど海外からの評価も高かったようです。

1896年1月24日についにイギリス王室から『ストレットンのレイトン男爵』の爵位が授けられたのですが、翌25日に狭心症の発作で急死し、レイトンが生涯独身だったためわずか1日で男爵家は断絶してしまったのだそうです。

世の中、一寸先は闇ですね〜。

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

イギリス貴族のそんな記録話はさておき、このストーン・カメオは少なくともイギリスにおいて17世紀頃から続く古代美術への関心と理解が深まり、新たな芸術が生み出され、楽しまれていた環境で作り出された作品なのです。

作者も布地の表現の重要性を理解していたからこそ、小さな小さなキャンバスに才能のすべてを注ぎ込んで、この美しい女神を表現したのでしょう。

「黄金馬車を駆る太陽神アポロン」を描いたアンティークのシェルカメオの傑作(アンティークジュエリー)にバックライトをあてた所 「黄金馬車を駆る太陽神アポロン」を描いたアンティークのシェルカメオの傑作(アンティークジュエリー)にバックライトをあてた所
『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』シェルカメオ・ブローチ&ペンダント  ¥1,330,000-(税込10%)
貴婦人を描いたストーンカメオのアンティークジュエリー ストーンカメオのアンティークジュエリーのバックライト画像

ストーンカメオは厚みがあったり、石自体に光の透過性が少ない場合が多いので、バックライトを当ててもシェルカメオほどダイナミックな変化は見られない場合がほとんどです。

『マット肌の美女』
ストーンカメオ ブローチ&ペンダント
フランス? 19世紀後期
SOLD
マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント ストーンカメオ ペンダント アンティーク バックライト

この作品は全体が薄いこと、2層の石の厚みを巧みにコントロールして下地の石の透け感でドレープを表現していることもあって、バックライトを当てるとまるでシェルカメオのように美しく変化します。

太陽光にかざせば、お手元で同じように楽しんでいただけます。

布地の驚異的な表現力を、より感じていただけると思います。

手間のかかったハーフパールの美しいフレーム

【参考】低レベルのストーンカメオ・リング
素晴らしい絵画には相応の額縁が必要です。額縁は絵画をより惹き立てるためのものですから、額縁だけ立派なものを施されることはまずありません。バランスが取れていないと違和感が出てしまいます。これらの低レベルのストーンカメオも相応のつまらないシャンクが施されていますが、バランスが取れているので違和感はありません。
マーキーズ・シェイプのグリーン・アゲートのストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)ストーンカメオ リング
イギリス  1880年頃
SOLD

やはり素晴らしい絵画(ストーンカメオ)には、相応しい天然真珠の贅沢なフレームが似合います。

ハーフパールは大きいほど数が少なくて済みます。

加工の手間や、色や照り艶、サイズを全て揃える労力を考えると大きいもので済ませた方が結局は安上がりなのですが、この作品にはあえて小さなハーフパールが使われています。

大きい方が価値があるとだけしか考えられない人には絶対に理解できないことでしょう。

このような作品を見てどういう評価をし発言するのか、分かる人は見ていますし、判断を下されるわけです。成金はどれだけ(実際には価値がないものに)お金を使っても、絶対に本物の上流階級からは相手にされません。

アンティークリングのハーフパールの爪留め

この作品のハーフパールのフレームの特徴としては、わざわざ爪を独特の形に潰して整え、お花のような形に仕上げる手間をかけていることです。

肉眼で見ると気づかない人もいるくらい細かいことですが、手のかけ方がやはり安物とは桁違いです。

ブラック・シャンルベ・エナメルが美しいマーキーズシェイプのローズカット・ダイヤモンド・リング(フランス・アンティークジュエリー)『ローズカットの閃光』
マーキーズシェイプ ローズカット・ダイヤモンド リング
フランス? 1870年
SOLD

『ローズカットの閃光』も、ハーフパールのフレームの手間のかけ方が凄かった作品の1つです。

パッと見ると、先ほどのリングの方がハーフパールが小さくて数が多いので大変そうに見えますが、一言でハーフパールのフレームと言っても、よく見ると同じ作りではないのです。

 

マーキーズ・シェイプのグリーン・アゲートのストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー) ブラック・シャンルベ・エナメルが美しいマーキーズシェイプのローズカット・ダイヤモンド・リング(フランス・アンティークジュエリー)

ハーフパールをセットしている台座部分にご注目ください。左のリングはシンプルな台座にハープパールを爪で留める作りですが、右のリングは1つ1つのパールの合わせて台座を曲線的な立体形状で作っているのです。

フランスのアンティークリングのシャンク

これだけ丁寧に台座を作ることがいかに手間のかかる作業かは想像に難くありません。

多少数が増えても、シンプルに爪で留めるだけの方がまだ楽です。

ブラック・シャンルベ・エナメルが美しいマーキーズシェイプのローズカット・ダイヤモンド・リング(フランス・アンティークジュエリー)

高度な技術を持った職人が丁寧に作ったからこそ、これだけ拡大した画像でもハーフパールを留めた爪が認識できないくらい目立たないのです。

接着剤で修理されたアンティークの天然真珠クラスター・リング

普通は手間がかかりすぎるので、フレームを真珠の形に整えるような細工はメインの宝石のため、しかも数個で済むような場合にしかやりません。

【参考】ジャンクの天然真珠クラスターリング
ジャンクのヴィクトリアンの天然真珠クラスター・リング(接着剤の修理)

まあそれでも元々低レベルの作りだったり、無理なサイズ変更など関わった職人のレベルが低いと、ハーフパールは落っこちてしまいます。

これだけ拡大すると誰が見ても接着剤によるヤバイ修理は明らかですが、肉眼だと買ってしまう無邪気な消費者はいるでしょうね。

ヨーロッパのジュエリー修復職人は特に接着剤が好きなので、信頼できる付き合いの長いディーラーからであっても、かなり注意して買い付けています。

【参考】ジャンクの天然真珠クラスターリング拡大
マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント マーキーズ・シェイプのグリーン・アゲートのストーンカメオ・リング(アンティークジュエリー)
さて、今回のペンダントのハーフパールのフレームはどうなっているのかと言うと、ハーフパールごとの形状に合わせた手間のかかる方法で作られています。右のリングはハーフパールが24個ですが、左のペンダントは28個で数がより多いのです。一見シンプルなのに驚異的な手間のかけ方です。
裏

裏から見ると、天然のストーンやハーフパールの形状に合わせて、職人の手で丁寧に土台が作られたことが分かります。

わざわざストーンカメオをオープンセッティングにしてあるのは、光にかざして見たときの美しさを分かっており、それを楽しんでもらいたかったからに違いありません。

アンティークリングの裏

先ほどのグリーンアゲートのストーンカメオリングはこのようにクローズドセッティングになっており、光にかざして見ることはできないのです。

独特のストーンの留め方

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

ところで中央のストーンカメオについては、どのようにして留まっているのか不思議に見えませんか?

宝石の場合は上から爪で押さえて留められるのが普通ですが、上に爪はかかっていません。

「音楽を奏でるキューピッドとヴィーナス」を描いたカンティーユのフレームが美しいジョージアンのシェルカメオ・ブローチ(アンティーク・ジュエリー)『楽器を奏でるキューピットとヴィーナス』
ジョージアン シェルカメオ ブローチ&ペンダント
イギリス 1830年頃
SOLD
「音楽を奏でるキューピッドとヴィーナス」を描いたカンティーユのフレームが美しいジョージアンのシェルカメオ・ブローチ(アンティーク・ジュエリー)
←↑等倍
シェルカメオの場合は軽いので、上から爪をかける留め方で耐久性には大丈夫なので、この方法が一般的です。
【参考】安物のストーンカメオ・リング

これはヴィクトリアンのストーンカメオリングとして販売されていたもので、石の上に爪がかかっています。リングサイズのストーンカメオならば、これくらいゴツい爪ならば留めても問題ないのかもしれませんが、このような留め方のストーンカメオは見たことがありませんし、作りも変なのでフェイクかもしれません。

どちらにしても目立つこの爪はダサいです。現代ジュエリーとして安く販売されていたとしても欲しい方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。

【参考】1千万円以上の高級リング(現代) 【参考】サファイアリング(現代)

現代ジュエリーは爪が主張し過ぎて全く石が引き立たず、むしろ爪が宝石の美しさを邪魔しているようにしか見えません。左のリングはアンティークジュエリーから取り外したと推測されるアンティークの石(非加熱のカシミールサファイア)を使っていますが、現代ジュエリーの作りなので美しくありません。1千万円を超える値段が付いており、超高級ジュエリーの部類に入ると思うのですが、現代では高級品を作るに相応しいとされる「優秀な職人」ですらこの程度の技術しかないということでしょう。

昔の美意識のある超お金持ち、王侯貴族から見ればこれらはどん引きの安物です。今の貨幣価値で換算すれば、それこそ彼らにとっては1千万円のジュエリーなんて安い方で、それこそ数千万から億単位でオーダーしていたはずです。そういう美意識の高い人たちにとっては爪はいかに存在感を消しつつ、貴重な宝石はしっかり留められる耐久性があるかはとても重要なことでした。

19世紀のイタリアの有名カメオ作家ジュゼッペ・ジロメッティによるガイウス・ユリウス・カエサルのストーンカメオのペンダント&ブローチ アンティークのストーンカメオ・ペンダント&ブローチの裏

『ユリウス・カエサル』
ジュゼッペ・ジロメッティ作
ストーンカメオ ブローチ&ペンダント

イタリア 1820年頃
SOLD

重たいストーンカメオを美観を損ねず、かつ安全に留めるためのアンティークの方法は主に2つあります。

1つ目が、このようにフレームで上から押さえることです。下の土台とサンドイッチ状態にして、上下から押さえればスポッと抜け落ちる心配はありません。

石の形に正確に合わせて、脱落の心配がない精巧なフレームを作るのは大変そうですが、昔のもっと難しいことをやっていた職人にとってはさほど難しいことではなかったでしょう。

貴婦人を描いたストーンカメオのアンティークジュエリー アンティークのストーンカメオ・ペンダント&ブローチの裏

もう1つの方法はちょっと大変そうなやり方です。

真正面から見ると一瞬爪をかけて留めているようにも見えますが、そうではありません。

『マット肌の美女』
ストーンカメオ ブローチ&ペンダント
フランス? 19世紀後期
SOLD
マット肌の美女が素晴らしいアンティークのストーンカメオ・ペンダント&ブローチ

このストーンカメオのルースは、側面が切り立った直角ではなく少し傾斜が付けられた形状になっています。真横から見ると台形に見える形状です。爪を斜めに倒したような形状にすることで、前面にスポッと抜けないように抑えがきいた状態になっています。裏側にスポッと抜けないのは、爪の内側の見えない部分をが石が後ろに抜けない形状に整えてあるからです。

横から見ると、ストーンの真上に爪がかかっているわけではないことがお分かりいただけると思います。重たいストーンをこの絶妙な傾斜で固定するために、爪の1つ1つが少し厚くてしっかりしているのでおす。

アンティークのストーンカメオ・ペンダント&ブローチの爪留め よく留まっているなと驚くばかりですが、石が持ち上がることでストーンカメオだけが一番正面に見えるので、作品としてはストーンカメオが惹き立って美しいのです。
マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント 裏
どうやらこの小さなペンダントも、その難しい方のやり方で留めているのです。ストーンカメオ自体が小さくて軽いので、『マット肌の美女』ほどゴツい爪は必要ありませんが、ストーン側面の斜めの形に沿うように小さな爪で抑えられているのが分かります。
マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント

そのおかげでペンダントとして正面から見た際、一番手前に来るのが爪ではなく主役のストーンカメオだけとなり、一際その描かれた古の女神が美しく浮かび上がるのです。

小さくてもストーンカメオは仕上げもまるで手抜きがありません。

白い部分のマットな質感とは対比するかのごとく、下地のオレンジ色の層は表面が磨き上げられてピカピカです。

一目見て美しいと感じる明るく鮮やかなオレンジ色も、ストーンカメオではありそうでない色です。

普通は少し暗かったり渋い色味が出ているものなのですが、ここまで純粋に明るい色彩しか感じない石は初めてで、初見で思わず春の女神のようだと感じました。

石も特別、彫りも特別。
小さくても特別な芸術作品として作られたストーンカメオだったからこそ、相応しいこれだけ手間をかけた極上のフレームがあしらわれたということなのです。

 

マーキーズ・シェイプ プチ ストーンカメオ ペンダント
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

時を超えて語りかける小さな宝物・・。

GENはよく言っていました。「小さくて良いものを見つけるのは本当に難しい。」
昔の王侯貴族でも真にセンスがある人は本当に少なくて、作られた数自体少ない。それほどまでに、価値が分かること自体が難しいことだから普通のディーラーは見つけられないから出てこない(視界に入っても認識できないし、選ばない)。

確かに初のロンドンでこのペンダントを見つけたときは、絶対に良いものだとはすぐに感覚的に分かったからこそ買い付けてきたのですが、真の良さを理解できたのはこうしてカタログ作成に着手してからでした。どれだけ勉強しても、買い付けする現場で画像を撮影して拡大したり実体顕微鏡で見たり、資料と照らし合わせて云々かんぬんなんてことは不可能です。

ロンドンでは、GENが「見ると目が腐る」という酷いアンティークジュエリーもたくさん見ることができました。普段は長年の付き合いがあるディーラーにしか見せてもらわないので、一定以上のレベルのものしか見ることはないのですが、実際にロンドンに行ってみるとこんなにゴミレベルだらけなのか仰天しました。高そうに見せようとしてるだけの大きなハリボテ系ジュエリーもたくさんありましたが、小さいものは基本的にはそれすらできなかった人向けの安物で、アンティークであっても昔の熟練の職人の技術はありません。現代でも作れるレベルの、つまらないものばかりです。

欧米人と違って日本女性は小ぶりなジュエリーが好きな方が多いので、着けやすい小さなものはいくらでもご紹介したいのですが、手を抜いた適当な作りの安物は例えデザインが良くても絶対にご紹介したくないのです。今後も全力で探しはしますが、なかなか出てこない極上の小さな宝物なので、こういうものを狙っていた方にはぜひオススメです♪