No.00242 美意識の極み |
『美意識の極み』 |
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間違いなく多くの方にとって使いやすいデザインのピアスですが、このピアスは徒者ではありません。 通常、天然真珠は穴を開けて専用の真珠セメントで固定する場合が多いのですが、これはハーフパールにして爪留めしてあります。1つの真珠を半分に割って使っているからこそ、天然真珠のピアスであるにも関わらず色・照り艶が全て揃っています。実は驚異の細工で作られた特別なピアスです。 |
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現代日本女性の好みのピアス
小ぶりで清楚、このようなシンプルなピアスは「待ってました!」という方も多いと思います。 |
オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド ピアス イギリス 1920年頃 SOLD |
シンプルで付けやすいピアスは、一般的に現代の日本女性に最も好まれるデザインです。 すぐに売れてしまい、ご要望も多いので、喜んでいただけるようなるべくたくさんご紹介したいのですが、高級アンティークジュエリー専門店としてはそれができないのにはきちんと理由があります。 |
欧米人と日本人の好みの違い
『Nouvelle-France』 オールドカット・ダイヤモンド ピアス ヨーロッパ? 1920年頃 SOLD |
詳しくは『Nouvelle-France』でご紹介した通り、もともと欧米人は大ぶりなピアスを好む傾向があります。 |
お金をかけられる富裕層や、スポンサーが提供したりレンタルしてくれるセレブなどの特殊な立場の人でなければ、ジュエリーで大ぶりなものは身につけることができません。ジュエリーで大ぶりなものを身につけられるのは特殊な人たちです。 でも、カジュアルなアクセサリーでも欧米人は大ぶりなピアスを好む傾向にあります。ピアス&イヤリングは顔に一番近い場所に付けるジュエリーなので、自分らしい美しさや個性を表現するアイテムとして欧米人には最も重要視されています。だからお金をかけてでも自分らしいものが欲しいと気合いが入る場所なのです。 プラスチックのアクセサリーならまだしも、現代の鋳造ジュエリーは上質なアンティークジュエリーと比べて使う金属の分量も多くならざるを得ないので耳は大丈夫なのか不思議なくらいですが、高価なジュエリーを身につけられる女性の場合、基本的に小ぶりで目立たないものはあまり好まないのです。 |
アンティーク・ピアスの高級品と低級〜中級品のデザインの違い
『ハニー&シナモン』 オレンジ・ガーネット&ダイヤモンド リング イギリス 1900年頃 SOLD |
『ハニー&シナモン』でご説明した通り、ヴィクトリアン中期から後期にかけてガーネットジュエリーが大流行しました。 |
『レッド・インパクト』 ジョージアン マーキーズ・シェイプ リング イギリス 1820年頃 SOLD |
ヴィクトリアン初期くらいまでは、ジュエリーはごく限られた王侯貴族だけのためのものでした。 ヴィクトリアン中期以降になると、産業革命によって台頭してきた中産階級によるジュエリー需要が大きく伸び、中産階級向けの安物ジュエリーも数多く作られるようになったのです。 このため、ヴィクトリアン中期以降はそれまでの王侯貴族のための上質なジュエリーだけでなく、中産階級向けの低レベルのジュエリーが玉石混淆で存在する時代となりました。 アンティークジュエリーだから、イコール作りが良くて価値があるとは限らないのはこのせいです。 |
【参考】ヴィクトリアンのガーネットピアス | ||
高級品 | 中の上程度の品 | 中産階級向け |
この玉石混淆の時代の同系統のジュエリーを見ると、高級品と低級品の違いが分かりやすいかもしれません。GENも私もヴィクトリアン中期あたりからの成金的なコテコテしたデザインは嫌いなので扱わないのですが、嫌いな系統ながらもどれが高級で低級なのかはご説明できます。 日本でもバブル期にかけてアンティークジュエリーが流行し、成金的な趣味嗜好が合ったせいか上のようなGEN曰く「イカの足、タコの足」ジュエリーが流行りました。現代では作れない細工と主張するディーラーもいるそうですが、「ダサくて需要がないので作らない」の間違いだと思います。特に作れないほど難しい細工ではありません。 ただしイカタコ系で高級品となると、足にダイヤモンドがあしらわれています。ガーネットも小粒なものは安価でたくさん手に入りますが、大きくなるととたんに手に入らなくなるので、大きなカボションガーネットが使われているものは高級品と言えます。 |
ヴィクトリア女王のフリンジ・ダイヤモンド・ブローチ(R&S ガラード 1856年) 【引用】Royal Collection Trust / Queen Victoria's Diamond Fringe Broosh 1856 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 |
ちなみにヴィクトリア女王のイカタコ・ジュエリーはこのブローチです。 さすがにすべてが上質なダイヤモンドで、作りも違うので高級感はありますね。 これはリメイク済みで、最初はもっとどっさりフリンジが付いていたそうです。 詳細はまたの機会にお話しようと思います。 |
【参考】中の上程度のピアス | 中の上程度の場合、足にダイヤモンドなどはありませんが、大きなガーネットが贅沢に使われています。 わざわざカボション・ガーネットのキャンバスにハエもデザインされています。 『美しき魂の化身』でもご説明した通り、謙虚さを象徴するとされたハエはこの時代の人気モチーフでした。 日本人にはどう考えても受け入れられないデザインですが、蝶と言えなくないデザインの場合、日本人には蝶だと主張して売る店もあるとロンドンのディーラーが言っていました。私は騙されません!(笑) |
【参考】中産階級向けの上のピアス | 中産階級向けのガーネット・ピアスでも、ある程度上質なものとして作られている場合は大きめのガーネットが使われていたり、ガーネットの大きさにグラデーションが付けられているなど、ある程度手間と技術をかけられた作りをしています。 |
【参考】中産階級向けの中のピアス | |
中産階級の中の中級品ともなると、小さなガーネットをたくさん寄せ集めて大きそうに見せる程度のデザインになってきます。それでも現代ジュエリーよりは作りは良いです。中産階級向けでももっと下のクラスになると、宝石や貴金属は使わないジュエリーとなります。ジュエリーというよりはアクセサリーの範疇になる感じです。 |
ちなみにこの中産階級の中の中級品でも、現代ジュエリーよりはまだマシかもしれません。 現代の同じ系統のジュエリーだと、宝石よりも爪の方が目立っていて、販売者側はこれがジュエリーとして成立していると思っているのか理解不能です。 |
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【参考】現代のガーネットリング |
【参考】ヴィクトリアンのガーネット・ピアス | ||
中の上程度の品 | 中産階級向けの上 | 中産階級向けの中 |
ガーネットピアスからも分かる通り、欧米人はピアスに大ぶりなものを好む系統があるため、お金をかけられる人たちは基本的に大ぶりなピアスをオーダーしたり購入します。現代日本人が好むような小ぶりのものは、基本的にはお金がない人のための安物として、やむを得ず小さく作られている場合が殆どなのです。 |
小ぶりで上質なピアスの稀少性
『シンプル・フレンチ』 マットゴールド ピアス フランス 1900年頃 SOLD |
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【参考】 天然真珠&14Kゴールド ピアス アメリカ? 20世紀初期 |
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左はヘリテイジで以前ご紹介したピアス、右はヘリテイジは扱わないクラスのピアスです。小さな天然真珠とゴールドを使った同系統のシンプルなピアスですが、作りの良さの違いは分かりますでしょうか? 『シンプル・フレンチ』は18ctゴールドですが、金位だけで判断してはいけません。フランスの場合、ゴールドジュエリーは安物も高級品も18ctゴールドで作られているので金位だけでは判断できないのです。やはり上質なものか否かが現れるのは作りの良さです。 まずゴールド表面の質感にご注目ください。『シンプル・フレンチ』はマット、右のピアスは単純に磨いただけの表面です。一見大きな違いには見えないかもしれませんが、マット仕上げは手間も技術もかかりますし、何よりも高級感が出ます。ピカピカに磨き上げて美しく見えるようにデザインされたジュエリーももちろん存在しますが、右のピアスの場合はチャチさが強調されています。 小さな天然真珠の留め方にもレベルの違いがよく現れています。右は爪が目立つ留め方です。 |
『シンプル・フレンチ』は買い付けの時に、肉眼では接着剤で留めているのかと思ったほどです。 |
19世紀末頃から、台頭してきた中産階級による需要によってアメリカやフランスではたくさんの庶民向けの安物が数多く作られました。 アンティークジュエリー市場で多く売られているのはだいたいこの安物です。 |
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【参考】ベルエポック・天然真珠&ダイヤモンドピアス |
ベルエポックの精神を表現したポスター(1894年)ジュール・シェレ | ベルエポックの中産階級需要によって作られるのは以下のようなジュエリーです。 ・お金はないけれどジュエリーは着けたい ・教養やセンスがないのでどのようなものがオシャレなのかよく分からない ジュエリー市場の主役は中産階級に移っていくため、ベルエポック以降はこのようなジュエリーが激増します。 |
古いものだったとしても、現代でも作れるレベルのジュエリーに何ら価値はありません。 はっきり言って新品を買った方がマシです。 |
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【参考】ヴィンテージのフランス製18ctゴールド&養殖真珠ピアス |
ヘリテイジでこのクラスのものを扱わないもう1つの理由が、本物かどうか確実な判断ができないからです。 現代でも作ることが可能なレベルの作りなので、この系統はフェイクジュエリーがたくさん多いのです。 現代人の好みに合わせてウケの良いデザインで作られるので、ともすると本物のアンティークジュエリーより人気があって高く売れたりする美味しいビジネスになっています。 レベルの低いジュエリーを買う場合は現代ジュエリーの方が「安くて安心」なのです。 |
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【参考】1880年頃のフランス製18ctゴールドピアス? |
小ぶりで良いものは本当に例外的な存在なのです。 |
天然真珠ピアスの中でも例外的な存在
天然真珠 フリンジ・ピアス イギリス 20世紀初頭 SOLD |
フリンジピアスも極小天然真珠だと清楚で美しいですね。 極小天然真珠もアンティークジュエリーならではで、これだけ小さな真珠であっても危険な海に潜って母貝を採ってくる大変さは大きな天然真珠と変わりありません。 だからこそ1つ1つ手間をかけて穴を開け、美しく組み上げるわけです。 |
これらを見ても分かる通り、大きく垂れ下がらない、シンプルで小ぶりなハイ・ジュエリーは普通は存在しないのです。 |
高度な技術を使ったシンプルなジュエリー
シンプルなものほど、アンティークジュエリーらしい仕事は必須です。 |
バロック天然真珠ピアス イギリス 19世紀後期 SOLD |
例えばこれは今までで唯一、垂れ下がらないタイプの天然真珠のピアスでした。 バロック型とは言え、最大10mmあるとても貴重な天然真珠です。 現代ジュエリーならば間違いなく天然真珠の価値だけで売ろうとするので、デザインも作りも単純なジュエリーに仕立てられてしまうことでしょう。 |
高度な技術を持つ職人がプライドを持って作る、アンティークのハイジュエリーはそんな恥ずかしいことは絶対にやりません。 このピアスの場合は貴重な天然真珠に穴を貫通させて、トップにローズカット・ダイヤモンドをセットしてあります。 |
大きくて貴重な天然真珠の中心でキラリときらめく極小ローズカット・ダイヤモンド。 このような細部までの気遣いと手間のかけ方がアンティークジュエリーならではの楽しさです♪ |
シンプルながらも異例の特別な作り
-天然真珠の証-
このピアスに使われているのは間違いなく天然真珠です。 |
このピアスに関しては、天然真珠であることが誰でも容易に判断できます。上の画像で真珠をご覧いただくと、ハーフパールになっていることが分かりますでしょうか。 |
これを裏側から見ると、真珠層の内部がまる分かりです。スプリット・ハーフパールをオープンセッティングにした作りなのです! |
養殖真珠と天然真珠の断面の違い |
偶然体内に入った微少異物などがきっかけで形成される天然真珠は、少しずつ異物を真珠層で覆いながら成長するため、丸い天然真珠の場合は同心円状に成長跡が見られます。一方で技術が確立した後の養殖真珠は、一般的には淡水産の二枚貝であるドブ貝を削って玉にしたものを核にしています。 |
ドブ貝B型(タガイ)三重県いなべ市 "Tagai050824" ©KOH(2005-08-24)/Adapted/CC BY 3.0 | 中国のテクノロジーに倣い、養殖真珠開発初期は鉛やガラスの核などもトライされましたが、結局は生体である母貝との相性が良かった貝殻を削った核に落ち着きました。 怪我をしたわけでもないのに無理矢理切開されて、大きな異物を体内に入れられるのですから拒絶反応は出ますよね。 |
ドブ貝A型(ヌマガイ) "Numagai050804" ©KOH(2005-08-04)/Adapted/CC BY 3.0 |
主に使用されているのはアメリカの淡水産の二枚貝です。『淡水産の二枚貝』だなんて言い方が変ですよね。 「貴女にお奨めしているのはドブガイに真珠層を薄くメッキして見栄えをそれっぽくしたドブガイの貝殻アクセサリーです。」なんて言ったら消費者のテンションはだだ下がりです。名前が悪すぎるので、ほとんどの養殖真珠関連の業者はドブガイの名前は敢えて出さないのです。でも、みんなドブガイの貝殻に高価なお金を払い、それを喜んで着けているのが現状です。 さて、ご覧の通り二枚貝なので成長線が層状に入っています。これを削って球体の核を作ったら、核の断面に横縞ができることはご想像いただけると思います。しかも無理やりメッキしただけの状態なので、半分に割ると真珠層は容易に剥がれてしまいます。天然真珠のようにハーフパールにしようとしても、養殖真珠では無理なのです(完全に半分にせず、手前で削るのを止めたり、半円状の核を使ってハーフパール状のものを作ることは可能)。 |
現代の養殖真珠は高級品でも安い物でも殆どは貝殻であり、五十歩百歩で価値はありません。全てが真珠層と言える、この天然真珠のピアスはいかに尊い存在なのか・・。 |
天然真珠をカットする超高度な技術
『エレガント・サーベル』 王室御用達EDWARD&SONS社製 天然真珠クロークピン(ジャボットピン) イギリス 1880年頃 SOLD |
以前、GENがいつも修理を頼んでいる職人にハーフパールは作ることができるか尋ねたことがあります。 ハーフパールはスプリットパールとも言い、その名の通りアンティークの時代は割って制作していました。 天然真珠の稀少性を考えれば当然のことですね。 |
『古代の女神』 マーキーズシェイプ プチ・ストーンカメオ ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
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それにしても1粒で2つ使えるようになるとは言え、貴重な天然真珠を狙ったとおりにうまく割るなんて驚くべき技術です。 天然真珠にもそれぞれに個性がありますから、時には失敗することもあったと思います。 『古代の女神』は特別にオーダーされたハイクラスのジュエリーなので、失敗しないかなり腕の良い職人が加工したはずですが、これほど小さな天然真珠をカットするのは驚くべき技術です。 ただ、大きな天然真珠に比べれば割る時のプレッシャーもそこまでは高くないでしょうし、ある程度は材料の稀少性的にも許容範囲内だと思います。 |
『キューピッドのお礼参り』 リバースインタリオ+金箔工芸 イタリア 1600年代後期(後期ルネサンス) ※フレームは1700年代後期 SOLD |
サイズは核の大きさ次第の現代の養殖真珠と異なり、天然真珠は大きくなるほど稀少で価値も上がります。 2つに割って使えればめでたいですが、割る場合は2つになるどころか、完全に駄目にしてしまい1つも使えないリスクも伴います。 だからこそ、ある程度大きさがある天然真珠でスプリット加工されたものはアンティークジュエリーでも滅多に見ることがありません。 上の『キューピッドのお礼参り』に使われたロッククリスタルのリバースインタリオと金箔工芸の作品は、ルネサンス時代の超貴重な作品です。 |
だからこそその価値を理解していた1700年代後期の持ち主が特別にオーダーし、これだけ大きさのあるスプリットパールを使ってフレームを誂えたのです。 オープンセッティングなので、やはりこの真珠も核がない断面が見えますね。 18世紀後期と言えば『忘れな草』でもご説明した通り、芸術が繊細美を極め、神技的な加工技術が最も評価され、技術レベルが最大限に高まった時代です。 だからこそとも言える、このスプリット・ハーフパールのフレームなのです。 |
『永久の天然真珠』 ジョージアン 天然真珠&ガーネット ペンダント&ブローチ イギリス 19世紀初期 SOLD |
これまでの43年間で一番大きなオープンセッティングのハーフパールの作品はこの『永久の天然真珠』です。 これは2018年にヘリテイジをオープンして、3番目にご紹介したとても思い出深い作品です。 GENも43年間でこのような大きなハーフパールを使った作品は他に見たことがないという非常に珍しいもので、それがオープン当初にご紹介できたことが私の自慢です♪ すぐに価値を理解して下さるお客様がいらっしゃってとても嬉しかったのですが、それは私が自慢することではなくGENのこれまでの実績のおかげであって、とてもありがたいことです。 |
この『永久の天然真珠』のハーフパールは直径が最大のもので約8mm、小さいものでも約6mmもありました。 裏側がロケットになっており、金の使い方からしても、ジュエリーが王侯貴族のためだけのものだったジョージアンにおける最高級の作りになっています。 間違いなく特別にオーダーされたものですが、8mmクラスの単品でも照り艶美しい天然真珠を割って使うなんて仰天です。 今では想像できないほどの莫大な富を一部の王侯貴族が保有し、お金の心配が要らなかった時代だからできた作品と言えるでしょう。 |
一方でこのピアスは1870年頃の作品です。1770-1800年頃の異例の時代や、細工技術が高かったジョージアンならいざ知らず、この時代に4.5mmほどもある天然真珠を完璧に2つに分割した作品があったなんて驚きです。当時の神技を持つ職人によるものと思われますが、リスクも大きいので職人が自ら好んでこの加工をすることはあり得ません。当時の美意識が高く、お金も持っていた人物による特別オーダーでしかあり得ないのです。 |
驚くほどの高い美意識
バロック天然真珠ピアス イギリス 19世紀後期 SOLD |
前述した通り、天然真珠を使ったジュエリーの場合、1つだけを生かせば良い他のアイテムと異なり、ピアスは2つ類似のものを揃える必要があります。 天然の素材でサイズ、形、色、照り艶が全く同じものを揃えるのは不可能です。 |
本当は、まともな作り方をしていれば養殖真珠でもそれは不可能です。大きさのそろった球体の核を使うことで、サイズと形はある程度揃えることが可能ですが、色や照り艶はまた別です。 養殖真珠から個性をなくすため、まず脱色(漂白)されることは最早常識です。漂白した後はさらに染色します。一連の処理は『調色』という言葉で表現されています。 現代の業者が言う「ピンク色を帯びた美しい照り艶の本真珠」というのは、ピンク色に染めた養殖真珠です。ピンクは女性ウケが良かろうという、業界の安易かつ女性をなめたような発想がちょっと嫌だなと感じます。 ここまでやってしまうので、養殖真珠で品質を揃えるのは楽勝です。もはや工業製品と言えるレベルなのです。 もちろん一部には、昔ながらの製法を守る真面目な業者もいます。その方の苦境を聞いたことが、Genが『知られざる天然真珠の魅力』のページを作るきっかけとなりました。工業製品のような均一なクオリティを持つ養殖真珠の方が価値があると洗脳された市場では、消費者に真心を込めて作った品質の良い養殖真珠の価値を正しく理解してもらえず、苦しい状況とのことでした。 |
天然真珠&ダイヤモンド ピアス イギリス 1880年頃 SOLD |
アールデコ 天然真珠イヤリング スウェーデン 1920年頃 SOLD |
天然真珠を使いながら、これらのピアスはよくここまでクオリティを揃えたものだと思います。工業製品並に完全に一致しているとは言えませんが、それぞれの耳に着けていれば全く同じに見えるでしょう。 |
しかしながらこのピアスをオーダーした人物は完璧に揃っていないと満足できないほど美意識が高い人物だったと推測します。 |
天然の素材を使いながらも完全に色、照り艶まで揃えられる方法が1つだけあります。1つの球形の真珠を割って使う方法です。普通はリスクを追ってそこまでしませんし、類似の天然真珠を見つければ良いはずなので、よほど美意識が高い人物だったのでしょうね。その高すぎる要求に応えることができた職人も素晴らしいです。 |
石留めの妙
ハーフパールを留めた爪も、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドを留めている爪も、ハンドメイドならではのしっかりした美しい爪です。現代の量産ジュエリーのボテっとした安っぽい作りとは全く印象が違います。 |
1860年代はそれまでの主要なダイヤモンド産地だったブラジル鉱山が枯渇し、ヨーロッパのダイヤモンド産業が廃業や縮小など危機に瀕していた時代でした。1870年頃から南アフリカでダイヤモンドラッシュが始まったものの、このピアスが作られた時代はまだ供給量が十分ではなく、カットも職人の勘と手間のかかる手作業頼みの時代でした。そんな中で、特別なハーフカットの天然真珠に相応しい、煌めきの美しい厚みのある見事なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドがふんだんに使われています。 |
さすが裏側の作りも美しいの一言です。 |
ピアスの金具は当時のオリジナルで、フックをストッパーに固定する方式なので落とす不安がなく安心です。 |
一見オーソドックスなデザインなので他にも存在しそうに感じますが、作りを見ると唯一無二の宝物と判断できます。 |
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オーソドックスなデザインのものほど、長く愛せる上質で良いものをお勧めしたい。オーソドックスなデザインはご要望は多いものの、唯一無二の特徴や上質さがなければヘリテイジは扱わないのですが、まさかこんなに素晴らしい宝物をご紹介できるなんて思っていませんでした。これをオーダーした、当時の王侯貴族の女性の美意識の高さにも感服です! |