No.00222 ローズカットの閃光 |
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『ローズカットの閃光』 マーキーズシェイプ ローズカット・ダイヤモンド リング フランス? 1870年 オーバル・ローズカット・ダイヤモンド、天然真珠、シャンルベ・エナメル、14〜18ctゴールド ベゼル(前面)の大きさ 1,6cm×0,8cm サイズ 16号(変更可能) 重量 2,8g SOLD |
ダイヤモンドのカット、黒のシャンルベ・エナメル、マーキーズシェイプに施された小さなシードパールのフレーム、特徴的なシャンク。 個性的な要素が詰まっていながらも全体として見事に調和した、当時の明らかにただ者ではない人物が特別にオーダーした、個性的かつハイクラスの、他にはないリングです♪ |
この作品の四大見所
見所1. 主役のダッチローズカット・ダイヤモンド 見所2. シャンルベエナメルを使ったリング 見所3. ファッションとしての黒 見所4. 手間をかけた外周のハーフパール 見所5. 見事なシャンク |
見所1. 主役のダッチローズカット・ダイヤモンド
このリングの主役は中央のローズカットダイヤモンドです。 このリングは至る箇所に極上の作りが施されていますが、それはすべて主役のローズカットダイヤモンドを惹き立てるためのものです。 |
クローズドセッティングですが、クリアで照りの良い上質な石が使われています。 ダイヤモンドはファセットの面数が多い、ダッチローズカットです。 |
ダッチローズカット・ダイヤモンドリング SOLD | ローズカットはダイヤモンド上部にテーブル(平らな部分)がないカットです。 ファセットの数が多いものはダッチローズカットと言います。 左の宝物は、まさにお手本のようなダッチローズカット・ダイヤモンドです。美しいですね〜♪ |
ローズカット・ダイヤモンドと蝋燭の灯り
ルイ14世とマリー・テレーズ・ドートリッシュの婚儀(17世紀)テッセ美術館 |
これは1660年のルイ14世とマリー・テレーズ・ドートリッシュの婚儀を描いた、17世紀のタペストリーです。中央に6本の長〜い蝋燭が見えますね。現代人にとっては『蝋燭』は普段は使わない、パラフィン製の無臭で安価な照明道具です。でも、この時代はそうではありません。 獣脂ロウソクはローマ時代後期に北部ヨーロッパで誕生しました。当時ヨーロッパでは一般的にオリーブ油が照明に使われていましたが、北部ヨーロッパでは気候によりオリーブが栽培できなかったからです。 |
獣脂ロウソク製造人の広告(ロンドン 1726年) |
13世紀になると蝋燭はヨーロッパ各地に広まり、イギリスとフランスでは蝋燭のための手工業ギルドも作られました。ロンドンでは1300年頃に獣脂ロウソク商同業組合が成立し、その後ロウソク製造人組合も成立し、獣脂ロウソクは遅くとも1415年頃には街灯として使われ始めるほど普及しました。 ご想像はつくと思いますが、この獣脂ロウソクは不純物が多いため、燃やすと不快臭や煤が多い代物でした。このため、教会や王宮などでは次第に蜜蝋を利用した蝋燭が使われるようになったのです。 蜜蝋はミツバチの巣を構成する蝋を精製したものです。貴重なミツバチの巣を危険を冒して得ることも大変ですし、精製して蝋燭にするのも大変です。現代でも蜜蝋の蝋燭は高級品ですが、当時はより贅沢な物だったはずです。 |
ベルサイユ宮殿の鏡の間(1678年に増築) "Chateau Versailles Galerie des Glaces" ©Myrabella / Wikimedia Commons(25 May 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
これはルイ14世(在位:1643-1715年)によって建てられたヴェルサイユ宮殿の『鏡の間』です。1678年に増築されたもので、贅の限りを尽くしたと言われるルイ14世らしい社交場です。毎晩使用された蝋燭の数も凄そうです。蝋燭の取り替えや掃除をする使用人を雇うお金なども考えると、一体いくらかかっていたのか想像もつきません。 |
フランス王ルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人(1721-1764年) | 次のルイ15世の時代も蝋燭代は凄かったようです。 ルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人が年間に消費した物品リストの内訳によると、最も莫大な金額だったのが蝋燭代だったそうです。 |
フランス王ルイ16世(1754-1793年) |
ルイ14世、15世の治世でフランスの財政は既にめちゃくちゃで、どんなに優れた人物が王になったとしても建て直しは不可能だったと言われています。 ルイ16世はギロチンで国民に処刑された王様ですが、本人は愛人も作らず錠前や家具作りが趣味と言う、科学大好き理系オタク的な地味すぎる王様でした。 家庭教師に名君の器と称され、農奴制の廃止、プロテスタントやユダヤ人の同化政策、アンシャンレジームの特権を突き崩そうとする佳き王でもありました。最期はこう遺して処刑されました。 |
アンシャンレジームを風刺した絵(1789年) | 『歴史』とは勝者の歴史なので、調べるほどにルイ16世が気の毒に思えたり、いろいろ考えさせられるところはあるのですが、ルイ14、ルイ15世時代、それに続くルイ16世のフランス王侯貴族の贅沢具合は相当なものだったことが伺えます。 |
太陽王ルイ14世(1638-1715年)の晩餐会 | リミットレスの贅沢三昧。 その贅沢にもっともと言って良いくらいお金がかかった蝋燭代。 その明かりに栄える、美しく煌めくことのできるダイヤモンドは最重要アイテムだったのです。 |
極上のローズカット・ダイヤモンド・ジュエリー
『ケルトのダイヤモンド・クロス』 フランス 17世紀 SOLD |
ステップカットに比べてローズカットはファセットの面数が多く、蝋燭の灯りにより美しく煌めくため、ステップカットはローズカットに次第に取って代われました。 アンティークでもかなり古い年代に枯渇したとされるゴルコンダ・ダイヤモンドは白く輝く美しいダイヤモンドだったと言われています。 1725年に新たにブラジルでダイヤモンドの鉱脈が発見される以前に作られたオリジナルのこのペンダントは、インド産と特定できる貴重なダイヤモンドです。 この作品のローズカット・ダイヤモンドはクリーンで非常に厚みもあるので、驚くほど美しく煌めきます。 南アフリカで巨大なダイヤモンド鉱床が発見される以前は美しいダイヤモンドは稀少だったため、ハイジュエリーほど宝石を取り外してリメイクされてしまい、現代まで残っていません。 このペンダントは例外的な作品です。 |
このネックレスが作られた時代は既にインドのダイヤモンド鉱山も枯渇しており、1730年代後半から発展したブラジル鉱山からの供給も十分とは言えない量でした。そんな中で、これだけ全面にダイヤモンドが鏤められたネックレスは、当時の宮廷でも貴婦人の胸元で別格の輝きを放っていたに違いありません。 |
ローズカット・ダイヤモンドのイメージ
現代ジュエリー業者の言い分
トルコフスキー考案のアイデアルカット |
現代の一般的なダイヤモンドには、1919年にマルセル・トルコフスキーが発表したアイデアルカットが施されます。ダイヤモンドに侵入した光がパビリオンで全て反射して戻ってくるよう、数学的に計算されたカットですね。 「偉い先生が計算した数学的に完璧なカットです。完璧ではないアンティークのダイヤモンドは、下部から光が漏れてしまいます。」 そう言われると、何だかそうかもと思ってしまいそうです。 |
規格が統一され、コンピュータ制御で同じ物を大量生産するやり方の現代のダイヤモンド・ジュエリーはもはや芸術作品ではなく工業生産品です。 同じ物を簡単かつ安価で量産できる、無個性な石で作ったジュエリーに芸術的な美しさなんて生まれるわけがありません。 本来、機械が作った大量生産品に『芸術』の名は与えられません。実際、一点ものでも手作りでもないこれらのジュエリーは芸術品ではありません。 |
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【参考】ダイヤモンド・リング(現代) |
【現代】サファイア・リング | 【現代】サファイア・リング |
宝石は稀少性がありさえすれば投機の対象にもなれるため、美しくなくても価格が吊り上がることは市場原理的に有りえます。しかしながら現代ジュエリーはいくらでも手に入る材料を使って、量産して高く売るから変な業界です。アンティークジュエリーは真に価値があるので、市場規模としては小さくてもこれだけの価格が成立します。私の感覚からすれば、本来の価値からすれば一桁安い印象ですが、貧富の差が昔ほど大きくはない現代では桁が上がると私などではとても買えません。 一方で、加熱して作られた色石は新品は変に高いですが、買い取りに出そうといても値段が付かない、無価値なのだそうです。ダイヤモンドも稀少価値が認められるような一定以上のサイズがないと値段がつかず、現代ジュエリーの買い取り価格は地金代程度にしかなりません。 |
現代の量産ジュエリーのモノづくり&ビジネスモデル
【参考】プラチナの結婚指輪(ブルガリ 現代) 226,800円、2018.9現在 【引用】BLGARI / SPIGA WEDDING RING | 一点物のハイクラスのアンティークジュエリーのモノづくりと、現代の量産ジュエリーのビジネスモデルを理解すれば、感覚的ではなく具体的にその価値の違いを理解できます。 |
一方で、現代ジュエリーは消費者側からのオーダーで企画されるのではなく、販売者側が市場にウケしそうな物を企画します。 誰か一人のためではなく、最大公約数をターゲットにしたいので、なるべく無難でたくさんの人が受け入れることができるジュエリーが企画されます。 このあたりは市場を分析して決めます。顧客となる層をターゲティングしたり、市場のトレンドを考慮したり、ペルソナを分析したり、所謂マーケティング技術を使います。 方向性が定まったらデザイナーにデザインを依頼します。 |
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【BOUCHERON PARIS】セルパンボエム シトリン・イヤリング(※シトリンはアメジスト加熱品の可能性が高い) ¥2,006,400-(2021.5現在) 【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME PENDANT EARRINGS, XS AND L MOTIFS |
石や煉瓦で造る建物が崩壊したら大変ですからね〜。建築家は立体視や数学的に優れた能力、それに加えて美的センスもなければできない特別な仕事です。そのような優れた人物がやっていたのがジュエリーデザインでもあったのです。 |
一昔前まではジュエリーに限らず、素材の強度や構造を計算して行う立体物の設計は高度なプロフェッショナルの仕事でした。 それが今ではCADというコンピュータソフトを使って、実現可能な図面を誰でも簡単に引くことができます。 |
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【参考】設計支援ツールCADシステムを使った現代のジュエリー・デザイン |
アールヌーヴォー・プロトタイプ・シルバーリング カボッションカット・サファイヤ、シルバー サイズ:21〜22号 フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
デザインしたら試作品を作ったり、試行錯誤を重ねて完成に向かいます。 古のハイクラスのオーダー品は、そのお金と手間のかけ方が半端ないです。 左のリングは試作品として作られた、アールヌーヴォーのシルバー・リングです。 通常、この時代のシルバーだけで作られるジュエリーは安物です(ハイジュエリーはシルバーにゴールドバック、もしくは金無垢)。 試作品なのでシルバーで作られているのですが、オーダー主が納得できるか、完成品をイメージしやすいように立派なサファイアまで取り付けられているのです! 完成品はよりハイクラスのサファイアを使ってゴールドで作られたはずですが、試作品であっても手彫りの造形は見事なものです。 職人との密な対話、そして手間やお金を惜しまない作業。これがハイクラスのアンティークジュエリー作りなのです。 |
誰のための物なのかよく分からない現代ジュエリーですが、今や試作品を作るのもとっても簡単です。3Dプリンターまで出現しました。CADで設計したデザインを入力して、後は機械にお任せすればただ待っておくだけで模型ができちゃいます♪ |
デザインが確定すれば、ワックスの模型を量産してワックスツリーにセットします。 これは人件費が安い国で手作業している様子です。 |
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【鋳造ジュエリー製造現場】ワックスツリーに型をセットする作業 |
機械を設備投資するには莫大な費用がかかります。 統一規格でたくさん作る場合、設備投資するか人件費を払って従業員に作業をやってもらうかは、どちらがコスト的に有利かの兼ね合いです。 人件費も馬鹿にはなりません。採用するにも経費がかかりますし、作業マニュアルを作成したり人を育てたり、結構コストはかかります。 量産品にとっては作業に上手い下手があるのも困ります。 |
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【鋳造ジュエリー製造現場】石膏を流し込む型にワックスツリーをセットした様子 |
【鋳造ジュエリー製造現場】石膏を焼いてワックスを蒸発させた後、空隙に貴金属を流し込んで鋳造する様子 | ||
まあでも工場の単純作業なんて、だいたいは誰がやっても大丈夫にしてあります。ミスがないよう色々な作業はさせず、担当してもらうのは1つの作業だけです。こうやればすぐに職人が育ちます。気泡が入らないように石膏を流し込むのが上手なだけとか、焼成温度・時間管理が上手なだけとか、転職しやすい汎用性のある技術は育ちませんが・・ |
こうして量産ジュエリーは生産されます。オーダーするには高い教養とセンスが必要ですし、作る人との密な打ち合わせも手間がかかります。出来合いを買えば楽で良いという価値観の人にはピッタリでしょう。日本人は他人が持っている物だと安心という心理が働きやすく、欧米人と違って同じものを買いたがる傾向も強いので、量産品は好まれるのかもしれません。 本来、心の満足が得られればそれが一番なので、買う人が幸せを感じることができるならば全く問題はありません。でも、現代ジュエリーのぼったくり過ぎは異様です。 量産ジュエリーは大量生産することで企画・デザイン費、プロトタイプ作成費、製造のための設備投資、流通コストを消費者に均等に負担してもらうことで安く提供できるはずなのです。 |
BOUCHERON PARIS セルパンボエム トワエモア リング ダイヤモンド16石(計0.66カラット)、18Kホワイトゴールド ¥1,134,000-(2018.11.22調べ) 【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME TOI ET MOI RING S MOTIF |
一方で全世界でプロモーションしてカタログや雑誌に掲載して販売するために、1000個の量産ジュエリーを作ったとしましょう。 1000個は多いと思いますか? でも、ジュエリーも時計も全世界限定生産と謳って限定1000個、2000個なんてザラです。 「限定」と記載がない場合、一体いくつ作っているのだろうと思っちゃいます。 左のリングは100万円以上もする高価なものですが、16石寄せ集めてもダイヤモンドは1カラットありません。 約0.04カラットのメレダイヤの寄せ集めですが、これならばいくらでも材料は調達可能ですね♪ちなみにメレダイヤは、素人でもネットで数百円から購入できるようです。 |
こんなちゃちなものでも、ブランディングすれば高額を支払う人がいるということですが、払ったお金の内訳はジュエリーの価値以上にブランディングにかけた費用や暴利が乗っているはずです。 そうは言っても、ブランドなんてそんなものです。同じものを売ろうとしても、親切に安く設定すると返って売れません。高い値段が付いていると、高い物だと納得してお金を支払うことができるのです。 他人が持っている物だと安心して買いやすい消費者心理はバンドワゴン効果で説明されますし、一定以上の高級品に関しては高額なほど需要が増す効果もヴェヴレン財として経済学では知られています。 |
マーセル・トルコフスキー(1899-1991年) | アイデアル・カットの生みの親、マーセル・トルコフスキーは研磨工場の4代目として生まれた数学者でした。 純粋に綺麗な物を生み出したいという思いと、数学的な面白さから理想のカットを研究したはずなのです。 ほとんどのダイヤモンドのカットに研究成果が適応されるのは名誉なことだとは思いますが、ジュエリーがここまで地に落ちる要因の1つを作ってしまったことは望んでいたことなのでしょうかね・・。 |
とりあえず、現代ジュエリー業界の人たちは自分たちの商売が成り立たないと困るので、アンティークのダイヤモンドより現代の理想的なカットのダイヤモンドの方が輝くと絶対に言います。 実際にはハイクラスのアンティークのダイヤモンドは見たことがないのだと思います。 |
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【参考】ダイヤモンド・ブローチ(現代) |
ヨーロッパの美術館に行っても、手にとって角度を変えながら見ることはできません。 容易にご想像いただける通り、ジュエリーは優秀な人材によって十分に研究がなされている分野でもありませんから、たとえ海外の有名美術館や美術・芸術学校の学芸員の類でも知識はかなりがっかりな感じです。 根拠をもって、アンティークのカットと現代のカットの違いを詳細かつ明確に一般の方に説明するのは無理でしょう。 |
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【参考】ダイヤモンド・ブローチ(現代) |
【参考】ウィッチズハート イギリス 1890年頃 2006年にクリスティーズに出品 【引用】CHRISTIE'S ©Christie's |
『Bewitched』 イギリス 1880年頃 SOLD |
ヨーロッパのアンティークジュエリー専門店でも、学術的な知識をもってやっている人は稀です。長年の経験によりある程度知識がある人は存在しますが、ヘリテイジほどオタク的に研究を進めている店はありません。既にイギリス人ディーラーから、HPを英語対応にしたり英語でも本を書いて頼まれたりしているくらいです(笑) ちなみに日本では勘違いされる方も多いようなのですが、オークション会社はもっとレベルが低いです。オークションは有名作家や有名な家から出てきたような、博付けして値段を吊り上げるブランド商法です。作家名や持ち主の名前で売るので、作品に関する深い知識なんて不要です。 出品者からも落札者からも手数料をとる儲かるビジネス・スタイルですが、専門家を雇ったり育てるような経費はかけません。優れた芸術作品を売るのではなく、儲けることが目的の会社なので当然です。そもそもジュエリー専門ではありません。アンティークジュエリー市場が活況な時代はある程度扱っていましたが、もはやクリスティーズもサザビーズもアンティークジュエリーは終わっているというのが現地ディーラーとの共通認識です。 |
ヘリテイジはたとえ有名メーカーの作品でも、芸術的に魅力が感じられなければ扱いたくないので、ディーラーの能力として仕入れることは可能でも買い付けたりしません。 ファベルジェというだけで芸術的に魅力がなくても、高く売れるから扱うのがオークション会社です。 だから商品説明も情報量が不足していたり、誤った情報と思われる物もあります。 笑っちゃうのが、実は一般人どころか長年やっている日本人のアンティークジュエリー・ディーラーですら、オークション会社を権威ある正解者のように信奉している人が一部にいることです。 |
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ファベルジェによるムーンストーンのブローチ(1899-1908年) 2012年にサザビーズに出品 想定価格:15,000-20,000GBP(180万-250万円程度)【引用】Sotheby's ©Sotheby's |
私は街歩きや骨董市めぐりが結構好きなので、実はサラリーマン時代に他のアンティークジュエリーのお店のHPを見たり、実際に店に行ってみたりしたことがあります。この業界に飛び込む予定は皆無だったので競合調査の意図はなかったのですが、上場企業の独身貴族は一応そこそこの小金持ちなので、ロックオンされたのか熱心に接客してくれて色々聞かせてもらいました(笑) クリスティーズやサザビーズのオークションで買い付けたことを自慢げに教えてくれたり、これと似たものがクリスティーズで230万円だったからこの商品が200万円なのは安いなどとオススメしたりされました。品物の素晴らしさではなくブランドで売ろうとしているのは伝わってきたのですが、そもそも品物もピンと来ない上に価格も高すぎる印象があり、オークション会社がどう優れているのかもよく分からなかったので丁寧にお断りして退出しました。 GENと知り合ってからその話をしたところ、そのお店はロンドンの超高級店で買い付けて来てそれを自慢したりするそうなのです。本物のプロから言わせると、最終顧客(消費者)が対象の店で買い付けるなんてあり得ないことです。それに関税などの諸経費や利益を乗せて販売すると、どえらい価格になります。 そういう超高級店に卸す、ディーラーのためのディーラーから仕入れるからこそ、ヘリテイジでは日本国内でロンドンの高級店よりお求めやすい価格で優れたジュエリーをご提供できるのです。ロンドンのハイストリートなどは、家賃が払えなくてやっていけないお店が続出するほど経費がかかるので、その分のお値段が乗って販売されることになります。 日本でも、手数料をたくさんとられてしまう百貨店に出店していたり、家賃が高いエリアに店舗があるお店は品物の価値に対してかなり高額な値段で販売されています。利益を乗せすぎなのではなく経費がかかりすぎということでしょうけれど、お陰で「アンティークジュエリーって低品質なのに異様に高い、古さだけが価値の代物」だという印象がついて、あまり寄りつかなくなってしまいました。 別格のアンティークジュエリーを扱うGENのルネサンスを発見した時はとても驚きましたし、その特別な仕入れルートを引き継ぐことができるからこそサラリーマンを辞める決断ができたのです。ヨーロッパのお店を1店1店まわって買い付けるなんて、誰でも気軽に海外に渡航できる今時プロのやることではありません。 |
アンティークジュエリー業界の言い分
話がだいぶ脱線してしまいましたが、アンティークのダイヤモンドに話を戻しましょう。 アンティークのダイヤモンドはあまり輝かない。 実は多くのアンティークジュエリー・ディーラーにとっても、こういう認識を広めておいた方が良い理由があります。 |
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【参考】アンティークのルビー&ダイヤモンド・リング |
アンティークジュエリーであっても安物には低品質のダイヤモンドが使われ、カットも適当だったりします。 そういうジュエリーのダイヤモンドはあまり輝きません。 でも、そういうレベルの物しか仕入れられない場合、「アンティークはそういうものです。輝かないダイヤモンドがアンティークらしい魅力であり、古い証拠でもあり、価値なのです。」と主張した方がビジネスとしては販売しやすくなって良いわけです。 |
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【参考】アンティーク?のブローチ |
【参考】以前に委託販売をお断りしたジャンクの問題箇所の拡大 |
能力がないだけならばまだしも、中には悪意のある業者も存在します。これは以前、委託販売を相談されてお断りしたジャンクです。国内の有名な高級店でそこそこの金額で購入されたそうですが、作りが悪い上に汚かったのでよく見てみたところ、目も当てられない状況を目の当たりにしてびっくりしました。 もともと安物として作られた上に、何らかの原因で破損していたものを適当に修理して体裁を整えて販売したようです。ダイヤモンドもあり合わせの物を使ったようで、全然品質が品質も揃っていません。それ以上に気になるのが接着剤でのごまかしですね。 ヨーロッパのディーラーは安物もジャンクもある程度理解しているので、こういう物は安く仕入れることができます。ゴミ同然のアンティークジュエリーを安く仕入れて、古いものなのだから綺麗に輝かなくても当然だと納得させて、高値で消費者に販売する日本人ディーラーも一定数存在するのです。ジャンク・アンティークジュエリーでボロ儲けしようとしているディーラーにとっても、古いダイヤモンドは輝かないと消費者に思い込ませておいた方が得なのです。 |
ローズカットとオールドヨーロピアンカット
『財宝の守り神』 ダイヤモンド ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
オールドヨーロピアンカットが開発されて以降は、上質な石にはオールドヨーロピアンカットが施され、そこまでいかない石がローズカットされるのが通常でした。 このクラスの作品ともなれば、脇石のローズカットですらクリアでクリーンな石が使われますが、あくまでも大きな石はオールドヨーロピアンカットです。 |
ちなみにこれだけ古い年代の場合、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドのリングは滅多に見ることがありません。 |
19世紀後期に南アフリカのダイヤモンドラッシュが起きる以前はダイヤモンドは非常に稀少だったため、新しいデザインにリメイクされて殆ど残っていないのも一因です。 シャンクに古い時代ならではの細工が施されており、長年愛用されたことによる摩耗も見られるなどの総合判断から古い年代のものと特定できますが、専門的な知識がない方がご覧になると、アンティークジュエリーだとは思われないかもしれませんね。 |
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ジョージアン ダッチローズカット・ダイヤモンド リング イギリス 1820年頃 SOLD |
王侯貴族の間で流行していた可能性もありますが、この時代のダイヤモンド・リングとして残っているのはローズカットの方が多い傾向にあるのは、このようなリメイクの歴史も一因だと推測されます。 |
ローズカット・ダイヤモンドの地位
【参考】ジャンクのローズカット・ダイヤモンド リング(おそらくフェイク・アンティーク) |
ローズカットは誰にでも分かりやすいアンティークジュエリーらしさがあったり、低レベルのジュエリーを力のないディーラーが高額で販売しやすかったりします。このため、古くて汚らしいことを重要視するよく分かっていないアンティークジュエリー愛好家や力のないディーラーからも絶大な人気があります。アンティークジュエリーのダイヤモンド=ローズカット・ダイヤモンドだと思い込んでいたり、ローズカットが花形だと思い込んでいる消費者も少なくありません。 |
硬い硬いダイヤモンドを、高度な技術を持つ職人が長い時間をかけて手作業でカットしていた時代と違い、レーザーや電力を使った研磨機で短時間で容易にダイヤモンドをカットできる現代において、ローズカットのような単純なカットをダイヤモンドに施すのは至極容易なことです。 『財宝の守り神』でもご説明しましたが、現代ではダイヤモンドなんて供給コントロールしないと価格を保てないくらい存在します。 だからダッチローズカット・ダイヤモンドなんていくつでも作り放題です。デザインや宝石の種類にネタ切れを起こし、売れなくなったと言われて久しい現代ジュエリーですが、奇をてらった売り方が随所で試みられています。その1つがダッチローズカット・ダイヤモンドをポイントにしたジュエリーです。 |
これは「アンティークらしいミル」がPRポイントのようですが、本物のハイクラスのアンティークジュエリーのミルとは全然レベルが違うことは一目瞭然です。 アンティークジュエリーではダイヤモンドを惹き立てるためにミルを施しますが、これはダイヤモンドよりもゴツいミルの方が目立っていますね(笑) |
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【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンド ネックレス |
【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンドのジュエリー | |
笑えるのが、ただダッチローズカット・ダイヤモンドを使っているだけのものが多いことです。珍しいカットのダイヤモンドだから良いでしょうと販売方法なのでしょう。ショボすぎです。 しかも拡大画像だと大きくて立派なダイヤモンドに見えますが、じつはかなり小さいです。 |
【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンド リング | これではカットの種類なんて関係ないように感じます。 まあ、オシャレなんて自己満足なので、本人が満足ならば良いのでしょう。 私はこれだとみみっちく感じて恥ずかしくなるので、絶対に着けたくありません。何も着けないほうがマシです。 |
アンティークジュエリー=ローズカット・ダイヤモンドではないのです。 こんなものでも「17世紀の王侯貴族の輝きを貴女に・・」と謳っていたりするので、私は腰が砕けそうです。 騙すつもりなのか無知なのか、どちらにしても褒められることではありません。こんなものを販売して楽しいのでしょうか、不思議です。 |
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【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンド リング |
最近ではアンティークの石の価値を見直したと言っているGenですが、Genも私も結局は高度な技術を持つ職人による丹念な細工にこそアンティークジュエリーの真の魅力があると思っています。アンティーク風の現代ジュエリーを見ると、余計にそれを感じます。 古いスタイルのローズカットであるだけでは、ジュエリーに芸術的な人間らしい魅力は宿りません。石留めの爪もミルも、こんなに目立ってどうするのと言うくらい目立っています。ハイクラスのアンティークジュエリーのように100年以上の使用に耐えられるような耐久性もないのに、繊細さもありません。 |
ちなみに統一規格の無個性なダイヤモンドで作られたジュエリーの、感覚的な気持ちの悪さはお話しましたが、これは何もブリリアンカット・ダイヤモンドに限ったことではありません。 |
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【参考】現代のサファイア・リング |
【参考】現代のオールドカット・ダイヤモンド リング | |
左のリングはメインストーンがオールドヨーロピアンカット、脇石がダッチローズカットで作られたクラスターリングです。どちらも古いスタイルのカットですが、単純すぎる上に摩耗感のないシャンクと、異様に目立つ爪留め、通常アンティークではあり得ないデザインから明らかにアンティークジュエリーではありません。 それは置いておくとしても、脇石の8石のダッチローズカットが全て同じ大きさ、均一なカットです。工業生産的に作られた無個性なカットは、古いスタイルのカットとは言え、全く美しいと思えないのではないでしょうか。 ただし手作業による美しい作りや芸術性が感覚的に理解できるかは、ご覧になる方次第です。感覚的に理解できず、古いカットのダイヤモンド=アンティークジュエリーと思い込んでいる方は、これがアンティークジュエリーだと説明されていたら鵜呑みにして購入してしまうかもしれませんね。 GENが石コロを毛嫌いし、作りが大事だと主張していたのはこういう理由もあるのです。 |
【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンド リング | |
ちなみにこれはプラチナセッティングの現代ジュエリーとして、新品で販売済みでした。メインストーンは1カラットオーバーだそうですが、現代の基準に適合しないカットなので、1カラットオーバーのダイヤモンドであっても不要になった時に買い取り価格が付かないだろうなぁなんて考えてしまいます(笑)ある意味、消耗品の贅沢品ですね。 |
ローズカット・ダイヤモンドのカテゴライズ
長々とご説明して参りましたが、ローズカット・ダイヤモンドは以下の通りカテゴライズできます。 <オールドヨーロピアンカットなど、より煌めくカットが開発される以前> <オールドヨーロピアンカットなど、より煌めくカットが開発されて以降> <現代> |
個性あるデザインのために選択したダッチローズカット・ダイヤモンド
この作品のメインストーンがローズカット・ダイヤモンドなのは、カテゴリー3が理由です。 個性的でオシャレなリングをご所望だった方が、特別にダッチローズカットでオーダーして作られた作品です。 この作品はかなり変わったデザインという印象がありませんか? |
このリングのシャンクの外側には工房のマークとみられる菱形の刻印が打たれています。 イギリスではホールマークはシャンクの内側に打つのですが、フランスは外側です。 さらにフランスでは1797年から、メイカーズマークは菱形にすることが義務付けられています。 |
刻印はJとBと読めるのですが、工房は無数に存在し、ほとんどの工房は現代まで残っておらず記録も存在しないので特定はできませんでした。 イーグルヘッドの刻印は確認できなかったのですが、イギリスには見られない個性的でオシャレなデザインは、普仏戦争後の活気に湧くベルエポック時代のフランスで作られた可能性が高いと考えられます。 |
『アートな骨壺』 |
回転式モーニング リング イギリス 1843年 SOLD |
『アートな骨壺』でもご紹介した通り、トップクラスのジュエリーでもダッチローズカットをメインストーンに使うことは稀にあるのです。オーソドックスなオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドなどにはない、面白くて魅力的な輝きが、個性的なものが好きで好奇心旺盛な知的階層の心をとらえるのだと思います。 |
ローズカットは三角形のファセットを作るカットですが、ダイヤモンドの厚みに定義はありません。 |
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ダッチ・ローズカット |
安物のローズカットダイヤモンドはこの通り平べったいので、あまり輝きません。 |
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【参考】ジャンクのリング(おそらくフェイク) |
平べったいですが、カラット数は少なくても面積は稼げて正面からはダイヤモンドが大きく見えるという効果があります。 そんなみみっちい効果、感性のある王侯貴族は絶対に好まないでしょうけれど(笑) |
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【参考】ジャンクのリング(おそらくフェイク) |
カットの技術がまだ未熟だった古い時代の作品は別として、高級アンティークジュエリーしか扱わないヘリテイジのご紹介作品は、いずれの石もクリーンな上に厚みがあってよく輝きます。 厚みのあるローズカットダイヤモンドはミラーボールのようにあらゆる角度から三角形のファセットが煌めいて、とても魅力があります。 |
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このリングのダイヤモンドも、小さいながらもクリーンな上に十分に厚みがあります。 |
だからこそあらゆる角度から、個性的で印象的な輝きを見ることができるのです♪ |
見所2. シャンルベエナメルを使ったリング
ダイヤモンドから放射状に放たれた、後光のような黄金のラインは、シャンルベエナメルで描かれたものです。 |
『モーニングリング』 イギリス 1792年 V&A美術館 【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
左のヴィクトリア&アルバート美術館蔵のリングも、フレームの模様がシャンルベ・エナメルで描かれています。 大英帝国の権威ある美術館蔵の作品にしては、ちょっと単純に見えるでしょうか? でも、実際のサイズをご想像ください。 これはリングなのです。実際にはいかに細かく丹念な細工が施されているのか、サイズを考慮すれば容易にご想像いただけると思います。 |
この作品も、リングの中央の小さな面積に見事にシャンルベ・エナメルで模様が施してあります。 外側に放たれる黄金の光によって、よりダッチローズカットの輝きが強調されるデザインになっていますね。 |
金エナメルで描くのではなく、ゴールドの地金を彫りだしているからこそこれだけ黄金の線が、ブラックエナメルの中で時折印象的に輝くのです。 見事に計算されたデザイン、そして手間を惜しまない作りには感服です。 こういう作品を見ると、時を超えた小さな宝物なのだと、とても愛おしく感じます。 |
見所3. ファッションとしての黒
アンティークジュエリーで黒が使われている。 ただそれだけで「モーニングジュエリーでしょう!」と断定する方もいらっしゃいますが、これはファッションとしての黒が採用された、時代を超越した作品です。 |
メモリアルな年号や、名前なども彫金されていません。 |
思い出の物を詰めるようなスペースもありません。 元からファッションとして作られた作品です。 19世紀はヨーロッパでも黒は『喪』のイメージが強い色でした。 『ファッションとしての黒』が確立したのは、1926年にココ・シャネルがLittle Black Dressを発表して世界に衝撃を与えてからだと言われています。 |
ルネサンス ルビー&エナメル リング フランス 16世紀後期〜17世紀初期 SOLD |
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でも、どの時代も例外的な人物は存在します。 特に漆黒、孤高の黒とも言うべき『黒』という色は、センスのある人にはたまらない魅力があります。 数は少ないですが、喪ではないオシャレのための黒を使ったアンティークジュエリーも存在するのです。 |
ローズカット・ダイヤモンド リング フランス 1820〜1830年頃 SOLD |
このリングも黒エナメルでメアンダー模様が施されています。 ココ・シャネルもフランス人ですし、上のルネサンスのリングも左のリングもフランス製です。 ご紹介のリングもフランス製の可能性が高いのですが、ファッションセンスに富むフランス人は、ひょっとすると黒を好む人も多いのかもしれませんね。 |
ちなみにこのリングも、厚みのあるローズカット・ダイヤモンドが使われています。 |
それでも疑い深い方のために、日本国内でも『例外的な黒』が存在していた歴史をご紹介しましょう。 日本でも黒は喪のイメージがありますよね。 本当の昔は白装束だったようで、日本に喪の黒が入ってきたのは明治30年(1897年)と言われています。西洋の習慣を取り入れようとしたものだそうです。 |
『木蓮』・帯 昭和初期 HERITAGEコレクション |
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これは昭和初期のアンティークの帯で、私が惚れ込んで手に入れたものです。 黒地に渋い色使いの木蓮。 裏地も黒です。 |
『黒薔薇』御召・小紋 昭和初期 HERITAGEコレクション |
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この着物も錦糸は使われているものの、基本的にはモノトーンで表現されたモダンなデザインです。黒地に黒で花を描いているのがすごいです。一見すると現代物にすら見えますが、これは胴裏や八掛がアンティーク独特の色合いなので、すぐにアンティークだと分かります。 |
『四季の草花』・羽織 昭和初期 HERITAGEコレクション |
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羽織も黒いものがあります。描かれた四季の草花もモノトーン調です。完全にモノトーンではなく、この抑えられた色彩が優れたデザインセンスを感じます。 これぞ昭和初期に花開き、芸術性が頂点に達したアンティーク着物の真価なのです。 |
これを見れば、欧米人が日本の芸術・美術に熱中したこともご納得いただけるのではないでしょうか。 アンティーク着物は華やかな色彩のイメージの方も多いと思います。 ご紹介している作品は私好みで集めたものなので、カッコ良い系が多いのですが、実際は確かに女子ウケしそうな可愛い色柄のものが多いです。 これらは例外的な作品です。 でも、やはりこの時代の日本にも、私のようなカッコ良いもの好きが例外的に存在した証なのです。 |
着物 昭和初期 HERITAGEコレクション |
ちなみにこの着物は、モチーフはいかにもな定番柄なのですが、八掛と袖口が黒です。実際に着て動くと、チラリとこの黒い裏地が見えるのです。 裏地を何色にするのかは作家と相談して決めることもありますが、基本的には着物をオーダーする人物が意図してこの色にしたはずです。 この着物はアンティーク着物を知って間もない頃に手に入れたのですが、この裏地の黒は衝撃でした。伝統的に日本人にはオシャレのセンスなんてないというイメージがあったのですが、こんなにセンスがある人たちがいて、こんなに素晴らしい着物を作る職人たちがいたなんてととても感動したものでした。 |
この特別な作品もきっと、このような特殊な感覚を持つ人物がオーダーして制作されたのだと感じます。 そして類は友を呼ぶのか、こういう雰囲気が大好きなヘリテイジの元にはるかヨーロッパから時を超えてやってきました(笑) |
見所4. 手間をかけたハーフパール
段差を付けて一段低くしてベゼルの外側にセットされたシードパールの細工も、通常の作品には見られないレベルの特別なものです。 |
これは小さな天然真珠を半分にカットしたスプリット・パールをセットする細工なのですが、通常よりもかなり手間のかかる留め方をしています。 |
よく見るとハーフパールをセットしたフレームの外側の縁が、真珠の形に合わせて連続する半円形の曲線になっています。 |
このような手間のかかる細工は、左のリングのような少し古い時代の超高級品において、ハーフパールが大きくてセッティングする数が少なくて済む場合にはたまに見ることがあります。 |
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天然真珠&エメラルド クラスター・リング イギリス 1850年頃 SOLD |
しかしながらこれだけ小さくて数が多いハーフパールでこの細工をやろうとすると、相当に手間がかかります。 円ではなくマーキーズ・シェイプでこの細工をやっているのですから、驚きです。 |
マーキーズシェイプの指輪でこのような細工を施すなんて、今まで扱った指輪の中でも記憶にないぐらい珍しい作りです。 それは、この指輪が特別にオーダーされた証でもあるのです。 |
シードパールの裏の作りを見ても、特別の手間を掛けた、極めて丁寧な作りであることが良く分かります。 こういう優れた作品は、決してデザインだけではなく、作りも特別なものなのです。 |
見所5. 見事なシャンク
シャンク(腕)のデザインも独特です。 シードパールに合わせた、ゴールドの面白いデザインでつながっています。 美しい曲線を束ねたような立体的なデザインで、ベゼルもシャンクも個性的ながら、全体でうまくまとまっています。 |
19世紀のハイクラスの指輪ならではの細工も見事なものです。 ベゼルにつながる5本の線は、ミルを打ったラインとすっきりとしたラインが交互になっており、そのコントラストがオシャレな雰囲気を強調しています。 |
5本のラインを束ねた部分も単純ではなく、いくつかの段差や凹凸をつけた形状にしてあり、さらに細かい彫金が施されています。 |
さらに心憎いのは、その束ねたラインをとりまとめる部分のさらに奥に、4つのドットで模様を描いていることがお分かりいただけますでしょうか? ぱっと見は気付かないようなものなので最初は何だろうと思ったのですが、リングの両側の同じ箇所にこの4つのドットがあるので、何らかの意図を持って細工したのは明らかです。 |
4つのドットはサインなのかデザインなのか、もはやはっきりしないレベルですが、立体的な作りと個性的なデザインが見事なこのシャンクは、正面から見たときの格調高い美しさが素晴らしいです。 |
マーキーズシェイプは別名ボートシェイプとも言われ、18世紀に開発されて以降ヨーロッパでは現代までずっと人気が続いているデザインです。 日本人には使いこなすのが難しい場合が多いのですが、このリングは縦長過ぎないデザインなので、かえって指が長く見える効果があって使いやすいと思います。 ダッチローズカット・ダイヤモンドの個性的な輝きのみならず、シャンルベエナメルのゴールドの輝きも美しく、古さを感じさせないブラックのオシャレは、今までオーソドックスな指輪にピンとこなかった方にもぜひオススメです♪ |