No.00262 黄金の雫 |
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『黄金の雫』 スタイリッシュなアクアマリン・ピアス イギリス 1900年頃 アクアマリン、天然真珠、18ctゴールド 長さ2,5cm(本体のみ) 重量 2,4g SOLD |
このピアスは一見シンプルなデザインですが、雫型のゴールドの輝きが余りに印象的で素晴らしいのでよ〜く見てみると、今まで見たことの無い素晴らしい工夫を凝らした特別の作りが施されていました。宝石主体のジュエリーに見えて実はこの黄金の雫がメインという、驚くほどセンスが良く趣向が凝らされた、煌めきが魅力の細工物のピアスです。 |
この宝物の4大ポイント
日本女性に似合いそうな、日本人好みの清楚で小ぶりながらも高級感あふれるピアスです。 1. 着けると実は一番目立つ、格調高いゴールドの雫型の煌めき 2. 色彩以上に煌めきが魅力の美しいアクアマリン 3. 着けたときの美しさにこだわってデザインされた、効果的な揺れ方をする構造 4. ヨーロッパのアンティークジュエリーではなかなか見ることのない、小さいのに作りが良い、持ち主だった人物のセンスの良さを感じるピアス |
1. メインであるゴールドの煌めき
ジュエリーと言えば宝石がつきもので、メインの宝石を惹き立たせるためにデザインや脇石があるイメージですよね。 このピアスも画像で見ると、一番下のアクアマリンがメインのジュエリーに見えると思います。 しかしながら実際に着けてみると、一番目立つのは雫型のゴールドです。 このピアスは構造的に非常によく揺れる作りで、揺れ動くたびにこの黄金の雫が面でキラっと強く煌めくため、一番目立つのです。 |
イメージとしては、左2つは黄金の雫があまり光を反射していない状態です。 一番右が、フラットな面で全反射して強く黄金の光を放っている状態です。 静止画だとインパクトがあまりありませんが、小刻みに揺れながらダイナミックに反射光の強さが変化するので、実際はかなりこのパーツに目がいきます。 |
一見シンプルなパーツに見えるこの黄金の雫ですが、作りを見るとかなり手の込んだ細工が施されており、このパーツが一番お金がかかっていることが分かります。 素材の価値だけで見ると金よりもアクアマリンや天然真珠の方が高かったかもしれませんが、宝石をカットしたり金を加工したりする人件費を考えると、トータルでは黄金の雫のパーツが最もコストがかかっていることは間違いありません。 |
光の反射を計算した複雑な形状デザイン
-裏側のナイフエッジ-
オモテ | ウラ |
黄金の雫の裏側を見ると、フラットな面である正面と異なりナイフエッジのように細く整えられています。ナイフエッジは少し古い年代だとデザイン性の高いブローチに、比較的新しい年代だと美しい宝石が使われたネックレスで見る、ハイクラスのジュエリーでよく使われる技法です。 |
『PURE LOVE』 エドワーディアン ピンクトルマリン ネックレス イギリス 1900年頃 SOLD |
これくらいの時代だと『PURE LOVE』のように揺れる構造のネックレスに於いて、直線部分で使われることが多いです。 |
『可憐な一輪』 ダイヤモンド トレンブラン ブローチ フランス 1880年頃(ホールマーク付き) SOLD |
少し古い年代だと『可憐な一輪』のように、フラワーモチーフで茎の表現に使われることが多いです。 この場合は主に曲線で表現されます。 |
ジョージアンのダイヤモンドのブローチ、『ダイヤモンド・アート』にもナイフエッジの技法が使われています。 ステップカット・ダイヤモンドで表現されたスズランのような形状の花の茎はかなり曲率がありますが、この部分もナイフエッジになっています。 |
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『ダイヤモンド・アート』 ジョージアン ダイヤモンド ブローチ イギリス 1830年頃 SOLD |
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実際の大きさを考えると、曲率の大きい細かな部分をナイフエッジに仕上げることがいかに大変なことかご想像いただけると思います。 ジョージアンのこのクラスの特別なジュエリーだからこそやっていますが、普通は手間的にも技術的にもやれません。 |
ピアスでこのような曲線状のナイフエッジが使われている作品は、44年間で初めて見るものです。 しかも古い年代ではなく1900年頃という、直線で細いナイフエッジが主流の時代において、正面ではなく後ろ側がナイフエッジになっているのですからとても驚きました。 普通だったら表も裏も同じ厚さで仕上げてしまえば楽なのです。 わざわざ裏側にまでこれだけの細工を施すのは、当時の王侯貴族の中でも特に高い美意識を持っていた人物のものであった現れです。 |
髪をアップスタイルにしてピアスを着けた場合、タイミングによっては後ろにいる人物に裏側が見えることもあります。 そんな時、裏側に細工がなくても"当たり前"なので特に印象には残りません。 しかし驚くほど美しい細工がわざわざお金と手間をかけて施されていたら尊敬の念を抱かれると共に、一目置かれることは間違いないでしょう。 |
透かし金具を作る道具一式 | 透かし細工については以前Genが携わっていた米沢箪笥の手作りの透かし金具を例に、技法を『SUKASHI』で詳しくご説明しました。 |
細かい透かしを特別な細いヤスリで磨く作業 | 曲線に合わせて鑢(ヤスリ)をかけたり、細かい部分を作業するのはとても大変なことです。 市販の鑢では不可能なので道具そのものを1から作る必要がある、そういうレベルの世界です。 |
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実際の大きさをご想像いただくとお分かりいただける通り、黄金の雫の内側部分は下はかなり曲率がありますし、上はかなり細いです。 当然このピアスを作るために、専門の細かな鑢が必要だったはずです。 鑢は粗い番手から細かい番手に徐々に上げて滑らかにしていくものなので、鑢1つあれば事足りるわけではなく何本か必要です。 手作りでありながら、ピアスなので全く同じように2つこのパーツを作るという、想像するだけでも大変な手間のかかる作業です。 |
-サイドのわずかに丸みを帯びた形状-
一方で、画像は二次元での表現になってしまうので凹凸構造はどうしてもお伝えしにくいのですが、側面はわずかに曲面に整えられていることがお分かりいただけるでしょうか。 わずかなことなのですが、高度な技術を持つ職人によって丁寧に手仕事で作られた作品ならではの徹底した仕事ぶりです。 |
ナイフエッジや側面の丸みなどがないと、同じ雫型のオープンワークのゴールドでも印象が全く違うことが分かります。 左はただの工業製品の部品にしか見えませんが、一応ゴールド(メッキ)ということでペンダントだそうです。 私は着けたくない・・(笑) |
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【参考】アンティークの金メッキのペンダント(12×21mm) |
下手に安っぽいジュエリーを着けるくらいならば、何も着けない方がまだマシです。 |
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【参考】アンティークの金メッキのペンダント(10×38mm) |
その点で、優れたハイクラスのアンティークジュエリーは着けた人をより魅力的に見せてくれるので、着けていて楽しいのです。 自分自信が満足できるという幸せだけでなく、褒めてもらえたり、時には良い出逢いすらも呼び寄せてくれるものです。 |
表面仕上げを使った金の光のコントロール
-オモテ 面の反射-
黄金の雫のオモテ側はピカピカになり過ぎない程度に磨いて、ハーフマットに仕上げてあります。 |
『シンプル・フレンチ』 マットゴールド ピアス フランス 1900年頃 SOLD |
マット・ゴールドの質感が美しいジュエリーと言えば、『シンプル・フレンチ』のピアスがありました。 『スタイリッシュ・ゴールド』でご説明した通り、フランスのゴールド・ジュエリーはどれも18ctなのでハイジュエリーとして作られたものか安物なのかは金の純度で単純に判断することができず、作りのレベルで判断するしかありません。 |
『グランルー・ド・パリ』でご説明した通り、ベルエポック(良き時代)と呼ばれるこれらのピアスが作られた時代のパリは、教養のない中産階級の若い女性たちが牽引する大量生産・大量消費時代にあわせて安物ジュエリーが大量に出回っていました。 |
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【参考】ベルエポックの安物18Kゴールド・ピアス |
ハイクラスのゴールド・ピアス | |
【参考】安物のゴールド・ピアス | |
これは2つともベルエポックのフランスで作られた、ゴールドがメインのピアスです。 ハイクラスのものとして作られた左の『シンプル・フレンチ』の天然真珠の外周にある六芒星部分のゴールドと、その周りのゴールドで質感が全く異なることにご注目ください。六芒星部分は完璧に艶やかな光沢仕上げにしてあり、凹凸をつけてデザインされた六芒星がキラリと光る設計になっています。一方で周囲にマット仕上げ部分はキラリと強く光ることはありませんが、絶えず格調高い雰囲気の柔らかく暖かな光をたたえています。表面状態をコントロールするだけで、金という単一素材だけでここまで表現し分けることができるなんて驚くべきことです。 右の安物は・・。まあ、敢えて何か言う必要もないでしょう。スペックだけ見ると、どちらも18ctゴールドのフランス製のアンティーク・ピアスになります。安物でもハイジュエリーとあまり変わらないくらいの値段で販売されていることもあり、結局売る側も価値をよく分かっていないし、買う側もよく分かっていない場合が多いというか、ほぼ100%そういう感じです。それでお互い満足ならばOKだと思います。ヘリテイジは残りの稀有な、違いが分かり、価値を理解して下さる方のための高級アンティークジュエリー専門店です。 |
さて、優れたアンティークジュエリーは小さなピアスといえどもゴールドの質感を重要視し、美しく見せるために高度な技術と手間をかけて表面の質感を作り出していました。 ダイヤモンドについては磨き上げるほどに光沢が増してより美しくなりますが、金に関してはピッカピカに磨き上げたものはアンティークのハイジュエリーでは滅多に見ません。 |
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【参考】現代のピカピカの鋳造ジュエリー |
なぜなのかは現代のピカピカのゴールドジュエリーをご覧いただければ分かると思います。 何だか安っぽいのです。同じ素材とは思えないくらい金が安っぽく見えるのです。 現代で日本人にゴールドが好まれなかったのは、現代のゴールドジュエリーがこのようにピカピカで安っぽいものばかり見ているのも一因でしょう。 |
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【参考】現代のピカピカの鋳造ジュエリー |
現代ジュエリーはデザインだけで売ろうとするもので溢れかえっています。 そこに丁寧な手仕事による作りはありません。 いかにコストを抑えて量産するかが一番重要なので、デザインすらも楽に早く作れる制約内での表現です。 |
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【参考】CADで設計して作った現代のピカピカの鋳造シグネット・リング |
1903とありますが、これは現代のコンピュータを使った設計ソフトCADでデザインして作られた鋳造のシグネットリングです。 |
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【参考】CADで設計して作った現代のピカピカの鋳造シグネット・リング |
CADによるジュエリーの設計はこういう感じです。 誰でも簡単に強度も考慮して設計ができるので、様々な業界で使われている便利ソフトです。 |
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【参考】CADを使ったジュエリー設計 |
『美しき魂の化身』 蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
さて、昔の王侯貴族もピカピカ過ぎる金は安っぽいと感じていたのか、ハイジュエリーでは滅多にピカピカなゴールドジュエリーは見ることがありません。 『美しき魂の化身』はその中では例外的で、魂の化身として表現された蝶々をより幻想的に、神秘的に見えるために計算して金をピカピカに磨いて仕上げたようです。 |
このピアスの黄金の雫は安っぽくならぬよう磨き上げ過ぎず、でもきちんと面で反射できるようマットにはし過ぎず、絶妙な加減でゴールドの表面を仕上げてあります。 だからこそ、ユラユラと耳元で揺れる際の黄金の輝きがダイナミックで、印象的な美しさとなるのです。 静止画像だと金の煌めきは表現しようもありませんが、下の画像で金の板が鏤められて様々な角度で面反射しているのをご覧ください。 |
【参考】金の煌めき |
"金色"というのは通常の色とは異なり、特定の色を指すものではありません。この画像を見ると人間は"金"だと認識できますが、それぞれの場所ごとにカラーを抽出して見ると、単品ごとに見ると全く"金"には見えないのです。黄土色をベースとして、全く光りを反射しない黒から全ての光を反射する白まで、濃淡が大きくなればなるほど煌めく金のように人間には見えるのです。 |
上のような画像だと同一平面上で様々な金の濃淡があるので、静止画でも金がかなり煌めいているように見えます。 このピアスの場合は雫の面全体は同じ色にしか輝きませんが、耳元に着けるととても良く揺れ動くので、反射光の金の色の濃淡がダイナミックに変化し、非常に印象的な黄金の輝きを感じることができるのです。 |
もう1つのポイントが、大きな面で光ることです。左の画像も金の輝きには見えると思いますが、1つ1つの反射面が小さいため全体として輝きが優し過ぎる印象です。これだと清楚さや品の良さは出ますが、インパクトが今ひとつです。金が脇役の場合は良いのですが、主役にしたい場合は反射する面積を大きくする必要があるのです。 |
気持ち良いほどにシンプルと言える、フラットな面だけで金のパーツ正面がデザインされている背景には、高度に計算された理由があったのです。 手抜きのシンプルデザインとは全く異なる、驚くべきデザイン設計です。 |
-サイド 曲面の変化する輝き-
黄金の雫のサイドは、僅かに曲面に整えられていることを既にご説明しました。 サイドは正面よりもさらに光沢が出るように表面が仕上げられています。 あくまでも安っぽくはならない程度です。 フラットに仕上げられた、雫の下のアクアマリンのフレームとは輝きが異なることが感じていただけるでしょうか。 |
フラットだと輝きは均一、単純になってしまいます。 |
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【参考】アンティークの金メッキのペンダント(12×21mm) |
僅かに曲面にするだけで、ちょっと角度を変えただけでもこれだけ輝きが変化します! |
意図して作らなければこのような形状にはなりません。 フラットに作って仕上げる方が簡単で楽だからです。 わざわざ手間をかけてこの形状と表面と仕上げにしているのは、この輝きを出せるように計算してデザインしているからです。 単純なフォルムのデザインだけならば普通のデザイナーでもできますが、質感など雰囲気をもコントロールするデザインともなると、かなりの才能がある人物でしかできないことです。 |
-ウラ 手抜きのない磨き仕上げ-
真裏から見ると分かりにくいですが、雫の内側もよく磨いて仕上げられています。 |
内側も映り込みや強い反射光が出るほど光沢があります。 細部まで手を抜かない、徹底した作りです。 |
-360度が美しい作り-
正面から見たときの黄金の雫の印象的なゴールドの輝き。 マットゴールドならではの格調高い雰囲気を醸し出しつつ、華やかに煌めく姿は重厚すぎない軽やかな美しさも演出します。 |
さらにサイドから後ろにかけても、これだけゴールドの輝きが美しくダイナミックに変化します。ゴールドにこれほど魅了されることができるジュエリーなんて滅多に存在しません。ゴールドだけで作られたジュエリーならばまだしも、アクアマリンや天然真珠という宝石が付いたジュエリーであるにも関わらずというのが驚きなのです! |
これは現代の同じオープンワークの雫型ゴールドピアスですが、こんなちゃちな作りのものとは間違っても同じにしてはいけません。 これは材料費も人件費も安いジュエリーです。 |
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【参考】現代の雫型のゴールド・ピアス |
このピアスのメインは黄金の雫であると説明しました。 それは単なる見た目だけではなく、かかった費用についても言えることです。 細工物にかかる費用は材料費よりも、高度な技術を持つ職人の加工にかかる人件費の方が圧倒的に高いです。 『SUKASHI』でも触れましたが、芸術とは古代ギリシャの哲学者が定義した通り「芸術とは熟練した洞察力と直感を用いた美的な成り行きであり、絶対的な美の本質は、見る者をどれくらい感動させられるかにある。」と言えます。 さらに19世紀後期にイギリスのウィリアム・モリスも「人間味のある製品こそ真の美術品」と考え、「全ての芸術の根本と基礎は手芸にある」と述べています。 このピアスは彼らの定義に則れば間違いなく『芸術品』と判断できます。 黄金の雫が放つ黄金の煌めきにハッと驚き、感動させられました。それを実現させたのは当時の職人の最高の手芸です。 |
下に宝石物と細工物の違いをまとめました。 そこでそれぞれを作るためにかかる費用の内訳イメージをグラフで表してあります。 それをご覧いただければ想像しやすいと思います。 余力があれば内容も読んでみてください。 ちなみにヘリテイジが扱うジュエリーは全て細工物のジャンルに入れることができます。 高級な宝石を使っていて"宝石物"に見えるものもありますが、どれも石の超絶技法の細工物であったり、石の魅力を惹き立てるという領域を超えて徹底した細工が施されているものばかりです。 Genはただの石ころジュエリーはくだらない、つまらないと言って扱っていませんでした。そこは私も同じなのでご安心ください(笑) |
2. 極上の煌めきを放つアクアマリン
『海の煌めき』 アーツ&クラフツ アクアマリン ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
アクアマリンのジュエリーと言えば、以前『海の煌めき』をお取り扱いしました。 アンティークジュエリーの世界に入る以前は現代のジュエリーにも宝石にも全く興味がなかったので、アクアマリンのこともよく知りませんでした。 しかしながらこの『海の煌めき』の魅力をカタログでご説明するにあたり、アクアマリンという石が非常によく煌めく石であることを知って衝撃を受けた記憶があります。 |
海の煌めき | |
正直アクアマリンという石は、ただアクアマリンの海のような色をしているだけだと何となく思っていました。それでも十分に魅力があると感じていました。 しかしながらアクアマリンの真の魅力は、その海のような色だけではないのです。上質なカットが施されたアクアマリンは、驚くほどそれぞれのファセットがよく煌めきます。それこそまさに眩しい陽射しの中で見る、アクアマリンの煌めく海そのものなのです。 |
アクアマリンはテーブル面積が小さく、ファセットがたくさんあるカットになっているので絶えず表情を変えながらよく煌めきます。石の表裏ともにファセットが丁寧で綺麗なこのアクアマリンは、明らかに煌めかせることを強く意識してカットされています。 |
上の画像では撮影用テントがグレー背景だったのでアクアマリンの色がいまいち分かりにくいですが、白背景で撮るとこのような感じです。 清涼感のある爽やかな水色のアクアマリンです。 白く光沢のある天然真珠と共に、名脇役として清楚ながらもしっかりと主役の黄金の雫に華を添えています。 |
3. 効果的な揺れ方をするピアスの構造
このピアスはピアス金具と天然真珠の連結箇所、黄金の雫とアクアマリンの連結箇所の2カ所が揺れる構造になっています。 |
連結部分の金具の方向を見ると、黄金の雫は前後に揺れ、アクアマリンは黄金の雫に対して左右に揺れる構造になっていることが分かります。 |
実際に着けたとき、黄金の雫自体は雫が正面を向いたまま前後に揺れることになります。 あまり左右を向きすぎると面の輝きを感じるタイミングが少なくなってしまいますが、雫が正面の向きを保ったまま前後に揺れるので面のの煌めきを頻繁に感じることができるのです。 一方でその下でアクアマリンは左右に揺れてキラキラと煌めきます。 もともと揺れが一番大きくなる一番下に付いている上に、小さな丸のパーツなので本当に細かくよく揺れて煌めきます。 着用者の動きに合わせてそれぞれが前後左右、複雑に揺れが絡み合う様子は驚くほど魅力的です。 |
4. 小さいのに良い作りの珍しいタイプのハイジュエリー
-欧米人のピアスというアイテムの位置づけ-
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このピアスは小さいのに作りの良い、ヨーロッパのアンティークジュエリーの中ではとても珍しいタイプのハイジュエリーです。 |
『Nouvelle-France』 オールドカット・ダイヤモンド ピアス ヨーロッパ? 1920年頃 SOLD |
『Nouvelle-France』でご説明した通り、いくつかあるジュエリーのアイテムの中で欧米人が最も需要視するのはピアスと言っても過言ではありません。 欧米人と日本人で、リングに最もお金をかけることは大体共通しています。身に着けている時に、自分でも見ることができるというのが一因のようです。 しかしピアスには日本人と欧米人では扱いに大きな差があります。 ジュエリー文化が浅い日本の場合、リングを除けばジュエリーのメインはネックレスやペンダントの場合が大半で、ピアスはそのオマケ程度の位置付けです。 |
イギリス王妃アデレード・オブ・サクス=マイニンゲン(1792-1849年)39歳頃 | しかしながら欧米人の場合、顔周りに最も近い位置で使用するピアスは昔からとても重要なアイテムでした。 顔は自分自身を表現する人間にとって最も重要なパーツであり、ピアスは個性表現したり、より惹き立たせるために一番効果的なアイテムだからです。 |
アメリカ女優アン・ハサウェイ(1982年-)2010年、27歳 "Denzel Washington og Anne Hathaway IMG 6550b (cropped)" ©Photo: Harry Wad (11 December 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | アメリカ女優アン・ハサウェイ(1982年-)2007年、24歳 "Anne Hathaway at the 2007 Deauville American Film Festival-01A" ©Mireille Ampihac, Caspian blue(14 October 2009, 16:46)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
欧米人が一番お金をかけるのがピアスです。それ以外は何も付けないで良いくらいというほどの重要アイテムです。 欧米人の場合はアイコンタクトの文化があり、互いに顔を見る時間が多いのもピアス重視の理由かもしれません。一方で日本人は会話の時も完全には目を合わせず少しずらす国民性があり、顔から目線を外した時に目線が行きやすい首元などに位置するネックレスやペンダントをどうしても重要視するのかもしれません。 これはジュエリーに限らず、アクセサリーにも共通する傾向です。 |
-ハイクラスのピアスのデザインの傾向-
大衆用の安物と王侯貴族のためのハイクラスのジュエリーで、それぞれのデザインにどういう傾向があるのかは同じヴィクトリアンのガーネットのピアスで比較すると分かりやすいかもしれません。 |
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【参考】中の中程度のガーネットピアス |
ヴィクトリアンのガーネットピアス | ||
【参考】王侯貴族向けのハイクラスのピアス | ||
いくらでもジュエリーにお金を使うことができる王侯貴族のためのピアスは、明らかに大ぶりのデザインです。 | ||
高級品 | 中の上程度の品 |
【参考】中産階級向けの低クラスのピアス | ||
庶民にとって王侯貴族は憧れのファッションリーダーです。 庶民でも多少お金がある場合は少しでも憧れの存在に近づけるよう、ピアスも大ぶりのデザインが好まれます。 小さいのは庶民が上品だからではなく、単に大ぶりなものを買うほどお金がないからです。 |
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中産階級向けの上 | 中産階級向けの中 |
王侯貴族向けのジュエリーと違ってダイヤモンドなどの高価な宝石は使いたくても使えないので、安くて手に入る細かなガーネットを寄せ集めたものばかりです。 そうは言っても、小ぶりのピアスを好む現代日本女性だと庶民用の安物ピアスの方が、王侯貴族向けのハイクラスのピアスよりもデザイン的には好みかもしれません。 日本のアンティークジュエリー・ディーラーには一般的に"売れ筋"で"儲けやすい"とされるのが、この庶民向けの安物です。所詮安物として作られているので安く仕入れることができますし、たくさんいる庶民向けに大量に作られているので、今でも市場に多く出回っており仕入れも楽です。一般的なアンティークジュエリー・ディーラーならば積極的に仕入れるタイプです。 |
しかしそんなもの作りが良いわけがなく、王侯貴族のためのハイクラスのジュエリーの専門店を標榜するヘリテイジでは、たとえ日本女性にデザイン的に好まれようとも、庶民向けの品物を売るわけにはいかないので扱いません。 |
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【参考】14Kゴールドピアス(アメリカ? 20世紀初期) |
安物は安物なりです。 身に着けると安っぽくなるので絶対に私自身がまず着けたいとは思えず、例え儲かるものであってもそんなものをご紹介してはいけないと思うのです。 私のプライドと良心がそれを絶対に許さないのです。 |
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【参考】ベルエポックの安物18Kゴールド・ピアス |
-小さくて良いものが王侯貴族に好まれた特異な時代-
『アール・クレール』 ハートカット・ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
『アール・クレール』でご説明した通り、ミッド・ヴィクトリアンに王侯貴族も庶民も含めて成金趣味の行き過ぎたゴテゴテしたジュエリーが大流行した反動で、レイト・ヴィクトリアンの王侯貴族はパッと見ただけではその価値が分かりにくい、小さくて良いものをこぞって身に付けました。 |
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『美意識の極み』 天然真珠ピアス イギリス 1870年頃 SOLD |
『シンプル・フレンチ』 マットゴールド ピアス フランス 1900年頃 SOLD |
安物の小ぶりなピアスも引き続き大量に作られているので、この時代でも市場にある大半は安物です。 王侯貴族のためのジュエリーは絶対数が少ないので、ヘリテイジでオススメしたい小ぶりでハイクラスのピアスはなかなか出てこないのですが、少ない割合ながらも確実に存在することは間違いありません。 |
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日本人だと右の『Nouvelle-France』はよほどセンスがあって似合う方だと日常使いもできそうですが、普通はパーティ・シーンなどでないと難しいかもしれません。 |
でも、今回のピアスは普段使いしやすいサイズと雰囲気で、しっかりと高級感もあるのでオススメなのです♪ |
着用イメージ
小ぶりなので、普通のアンティーク・ピアスだと派手過ぎる方でも気軽に楽しんでいただけると思います。 ジュエリーなど小さいものを細密に撮影する機材は良いものを使っていますが、ポートレート撮影用の機材は持っていません。 スマホで腕をプルプルさせながら自撮りしている上に、このピアス自体が相当揺れる構造なのでピントが合う画像が撮れませんでした。 スマホもデジカメも人間の顔に自動でピントを合わせようとするので、これが限界です(笑) 画像はあくまでもサイズ感の参照としていただければ幸いです。 |
スタイリッシュで品の良いピアス自体がヨーロッパのアンティークジュエリーでは珍しいものです。 しかも宝石が付いているにも関わらずゴールドのパーツが主役という、細工物の中でも異質の魅力を放つこのピアスは、細工物がお好きな方にも自信を持ってオススメできる小さな宝物です♪ |