No.00260 アール・クレール |
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『アール・クレール』 |
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この宝物の4つのポイント
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1. レイト・ヴィクトリアンらしい軽やかな雰囲気 2. 貴重なロッククリスタルをハート型にカット 3. 透明なロケットになっている 4. 当時の流行の最先端であるウラル産デマントイドガーネットがデザイン上で効果的に使用されている |
ポイント1. レイト・ヴィクトリアンらしい軽やかな雰囲気
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このペンダントが制作されたのはレイト・ヴィクトリアンです。 ヴィクトリアンと聞くと、偉大なる大英帝国の女王ヴィクトリアだけをイメージする方が多いと思います。 しかしながら『エレガント・サーベル』でもご説明した通り、ヴィクトリア女王は1861年に最愛の夫アルバートを亡くして以降、長く引き籠もり生活となりました。 長い喪が明けて以降も、華やかな装いになることは二度とありませんでした。 アンティークの時代は王族がファッションリーダーですが、レイト・ヴィクトリアンはヴィクトリア女王ではなくアレクサンドラ王太子妃をファッションリーダーとしてジュエリー・デザインも変化していきました。 |
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ヴィクトリア女王とアレクサンドラ王太子妃は、顔立ちや体型、性格など全てが全く異なる女性でした。どちらが優れていて劣っているという話でもありませんが、デンマーク王室時代のアレクサンドラ妃は美貌の王女として評判が高く、結婚年齢になるとヨーロッパ各国の王室から縁談が舞い込んだほどの美しさでした。 体型に関してはヴィクトリア女王は不摂生な生活はしていないにも関わらず太りやすい体質だった一方で、アレクサンドラ妃は現代人の基準で見ても細身のかなりスタイルの良い女性でした。右の写真では当時まだ流行中だったクリノリン(※参考)を使ったドレス姿なのでちょっと分かりにくいでしょうか。 ヴィクトリア女王も9人子供を産んでいますが、アレクサンドラ妃も6人を何と全て年子で生んでいるので、右のアレクサンドラは身籠もっている最中かもしれません。 |
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クリノリンは下半身にボリュームを出すことでウエストを細く見せるためのスタイルでした。ミッド・ヴィクトリアン以降のファッションの変遷については『Pure Love』でご説明していますが、その後に流行したドレスの後ろ側にボリュームを出すバッスル・スタイルも同じようにウエストを相対的に細く見せる効果を狙ったものです。 ウエストを細く見せるためのデザインはヴィクトリア女王には必要不可欠なものですが、アレクサンドラ妃はどう考えてもそのようなスタイルは必要ありません。むしろせっかくのスタイルの良さが分かりにくくなってマイナスです。それにしてもこのスタイルの良さは遺伝なのでしょうか。腕に抱かれた愛らしいモード王女も、こんなに美しい王妃へと成長するとは・・。 |
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そんな最強の美女遺伝子を持つアレクサンドラ妃に合わせて、徐々にレイト・ヴィクトリアンの時代はエドワーディアンの時代に向かって洗練されたデザインに変化していったのです。アレクサンドラ妃が老いると共にデザインも合わせて変わっていきそうなものですが、50代でも30代にしか見えないほど若さを保っていたそうで、レイト・ヴィクトリアンからエドワーディアンにかけては高貴さ優雅さ、洗練されたイメージのファッションが主流となっています。 |
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その洗練されたファッションに合わせて、ジュエリーも軽やかで洗練された雰囲気の作品が作られるようになっていったのです。 洗練されているとは言っても、アールデコのようにスタイリッシュで新しい時代を連想させる系統ではなく、このペンダントのようなレイト・ヴィクトリアンのハイジュエリーに優雅さや高貴さも感じられるのは、まだヨーロッパの王侯貴族が世界を主導する時代だったからとも言えます。 |
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『SUKASHI』で詳しくご説明した通り、1914-1918年までの第一次世界大戦によって世界は大きく変貌を遂げます。 それまでのヨーロッパの王侯貴族が世界を主導する時代から、新しい勢力が主導する時代へ世界は一変しました。 現代社会は、明らかな絶対的身分の差はありません。それは良いこととも言えます。でも、優れたアンティークジュエリーは新たに生み出すことは不可能な環境となってしまいました。 |
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軽やかで気品に満ちあふれたこのペンダントのような宝物は、王侯貴族が力を持っていた時代からの貴重な贈り物なのです。 |
2. 貴重なロッククリスタルをハート型にカット
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このペンダントはメインの宝石として、美しいハート型にカットされたロッククリスタル(天然水晶)が使われているのも面白いです。 |
-ロッククリスタルとその他の水晶もどき-
本来、このペンダントに使われているような大きさのロッククリスタルはとても貴重な宝石です。大地の奥底で、長い年月をかけて少しずつ結晶が成長してできる天然水晶ロッククリスタルは、2cm以上の大きさになると極端に少なくなるからです。 |
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大きなクリスタルと聞くと、人間より遙かに大きな結晶がひしめくクリスタルの洞窟を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。クリスタルとは言ってもこれは水晶ではなく、石膏の水和結晶である透明石膏(セレナイト:CaSO4·2H2O)の巨大結晶です。 洞窟内は気温58℃、湿度90-100%という、適切な装備がない人間は10分しか滞在できないとされる過酷な環境です。そんな超特殊な環境だからここまで結晶が育ったということでしょう。ロッククリスタルではないのはちょっと残念です。 本来貴重なはずのロッククリスタルですが、現代では高価な宝石というイメージを持っている方は殆どいらっしゃらないと思います。天然真珠やトルコ石などと同様、本物の貴重な宝石とは言えないモノが、さも本物の宝石であるかのような顔をいて安値で出回っているからです。 |
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ロッククリスタルは天然水晶であり、二酸化ケイ素(SiO2)が結晶してできた宝石です。 日本語では石英と呼ばれていますが、古い時代は玻璃(はり)と呼ばれて珍重されてきました。 |
一方で人工的に作られる『石英ガラス』と呼ばれるものがあります。 石英ガラスにも大別して2種類あり、四塩化ケイ素SiCl4等の液体材料から化学的に合成して作る合成石英は不純物が少ないです。ほぼ100%の二酸化ケイ素から成るガラス質で、結晶ではありません。半導体や高精細な半導体を製造する際のフォトマスクなどに使われます。大企業にいた頃は私も結構扱っていました。 化学合成ではなく、粉末にした天然水晶を高温で溶解して作る溶融石英ガラスというものも存在します。 宝石品質ではない水晶に関しては、現代でも豊富に採掘することができます。そのような水晶には10〜100ppm程度の比較的多くの金属不純物が含まれており、合成石英ガラスより性能が劣りますが、材料も製造も安く、コストメリットから様々な製品に使用されています。 溶融石英ガラスは光学用、理化学用、半導体光学用、液晶用など幅広く使用されています。照明や光ファイバーなどにも使われており、かなり身近な材料となっています。いくらでも使えるほど安い材料ということです。 さらに現代ではソーダガラスに酸化鉛などを添加して作る、透明度クリスタルガラスを使った製品が溢れかえっています。 『クリスタル』という言葉は結晶を表し、ガラスは非晶質なので科学的に矛盾したネーミングであるとwikipediaでもつっこまれていますが、同wikipediaで指摘されている通りマーケティング上、戦略的にクリスタルガラスというネーミングが使用されています。 |
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これは初めてのロンドン買付の時、勉強にと現地のディーラーさんに連れて行ってもらった、ロスチャイルドの邸宅"ワデズドンマナー"で撮影した17世紀のロッククリスタルのゴブレットです。 クリスタルグラスがなかった時代は、高い透明感と硬質感を美しい宝石や食器、オブジェなどはロッククリスタルで作る以外にありませんでした。 ゴブレットが作れるような大きなロッククリスタルは存在自体が驚くべきもので、並の貴族では持つことは到底不可能です。19世紀当時、ロスチャイルド家はヴィクトリア女王をも遙かに凌ぐ財力があったことは有名ですね。 素晴らしいフォルムに加え、エングレーヴィングによる優美な彫刻模様、宝石やエナメルをあしらった作りからも、ロッククリスタルがいかに高価なものとして認識されていたかが伝わってきます。 とは言え、現代日本人にはその価値がまだちょっと伝わりにくいかもしれません。 |
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これは近くにあった、ガーネットと翡翠を使ったパイナップルのオブジェです。 『パイナップル』で詳細をご説明した通り、古い時代は貴重な南国フルーツ"パイナップル"は王族クラスの富と権力の象徴でした。 デザートが特に重要視されたルイ14世時代のヴェルサイユ宮殿での饗宴でも、パイナップルは最も貴重で費用のかさむ贅沢なフルーツとして、王の富と権力を示すべく提供されていました。 元々はこのオブジェも、そんなヴェルサイユ宮殿での饗宴でテーブルを飾っていたのかもしれませんね。 『ハニー&シナモン』でご説明した通り通常ガーネットには高級なイメージはありませんが、大きな石はとても貴重でハイジュエリーのメインストーンに使われるほど高価です。 それがこんなにゴロゴロと、ちょっと悪趣味ではないかと思えるくらい使われています。葉も翡翠でできており、このパイナップルのオブジェは材料だけ見ても恐ろしく高価なものです。 |
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これも隣にあった縞瑪瑙のピッチャーですが、ルビーやエナメルで彩られた贅沢なものです。 ハイクラスのジュエリー以上に、飛び抜けて高価なものだったことでしょう。 現代ジュエリーの価値基準で判断する人には永遠に分かり得ない世界ですが、人間の手仕事こそが芸術を生み出せるのあり、4大宝石だから真に価値があるというわけではないのです。 |
![]() デンドライトアゲート プレート(壁掛) イギリス 19世紀後期 ¥387,000-(税込10%) |
![]() モスアゲート ナイフセット イギリス(シェフィールド) 1889年 SOLD |
それにしてもアンティークの時代の小物や道具は豪華すぎて驚きます。アンティークの時代のヨーロッパと違い、貧富の差が少ない現代人にとってはジュエリーにお金をかけることはできても、こうした飾りや使う道具にお金をかけるのはとても難しいことです。アンティークの時代であってもこれだけのクラスをオーダーして作らせるのは並の貴族では難しいことで、だからこそ富と権力、そして知性と教養の象徴にもなったということでしょう。 『大自然のアート』に関してはこのような面白い模様の大きなデンドライトアゲート手に入れること自体が難しいことですし、フレームにはたくさんのヘソナイトガーネットがセットされています。安物のジュエリーなど比較にならない、ハイジュエリーと同様の豪華な作りは古の王侯貴族ならではの贅沢品と言えます。 |
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それにしても、お金をかけて作られた贅沢な宝物にも関わらず、このゴブレットはアールクレール(透明な芸術)ならではの品格と清涼感を備えた美しさが際立っています。 ロッククリスタルだからこその高貴な佇まいです。 |
現代はスワロフスキーだけでなく、バカラなどもクリスタルグラスのアクセサリーを販売しています。これらはいくつでも量産が可能な工業製品同然の安っぽい代物なのですが、ブランドの高級なイメージと、貴重な天然石であるロッククリスタルとの違いが分からない消費者によって、全く別物にも関わらずロッククリスタルに安物イメージが付いてしまています。 高級ブランドは過去の遺産で食いつないでいる状況ですが、あまりにも質を落としすぎた結果、消費者が付いてこなくなっています。バカラもビジネス的には成り立たなくなり、中国の投資会社フォーチュン・ファウンテン・キャピタル(FFC)に買収されてその傘下となっています。 溶錬水晶もクリスタルグラスも人工的に作られる材料なので、技術が改良された現代では不純物もかなり精製することが可能です。天然素材は不純物が少ないほど一般的には価値が高く評価されますが、天然素材ならではの個性ある景色もとても面白いものですし、天然の証明でもあるのです。人工物に囲まれている現代人にとっては違和感があるほどまでに無色透明なものが是という意識が刷り込まれてしまった結果、個性ある天然素材をありのまま楽しめる人が少なくなったのは残念なことです。 |
-貴重なロッククリスタルを贅沢にカット-
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ご覧の通り、天然の水晶は不純物を含みます。原石自体は小さくなくても、ジュエリーに使うことができる宝石品質のロッククリスタルは不純物が少ない先端の限られた部分からしか採ることができません。 |
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この大きさのハート型ペンダントを作るために、一体どれくらい大きな原石を使用したんだろうと驚きます。 | |
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ハート型のカットは無駄が多く出ます。 せっかくの貴重かつ高価な材料の多くの部分を除去する、非常に贅沢なカットです。 だからオーダーに慣れている王侯貴族であれば、石がハート型にカットされているのを見ただけでも相当にお金をかけて作られたものであることが分かります。 |
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形を容易に変えることのできる金属でハート型を作るのとは全く異なります。 金属の場合、余った材料は溶かして再び使うことができるので無駄はでません。 また、万が一途中で失敗しても、潰して1から作り直すことも可能です。 しかし石の加工では、一度でも失敗すればすべてが終わりです。貴重な材料がすべて台無しとなってしまいます。 |
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また、ハートを描いたことがある方ならばご想像しやすいと思いますが、パッと見て感覚的に「美しい。」と感じられるハートを形作るのは案外とても難しいです。 二次元ですらそうですから、立体物で美しいハート型を作るのはかなり難しいです。 石の場合、ちょっと削り過ぎて予想よりバランスが崩れてしまったからと言って、金属のように肉盛りして再度削り直すということもできません。 それにも関わらず、このロッククリスタルは厚みがあるとても綺麗なハート型にカットされています。 これほどまでに美しいハートカットの石は、滅多に見ることがありません。 |
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これだけ厚みのあるロッククリスタルを綺麗なハート型にカットするのはとても難しいからこそ、滅多に存在しないのです。 |
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このロッククリスタルは厚みのある立体的なハートカットです。 だからこそ無色透明な石のペンダントといえども、単純に透明感を楽しむだけでなく、光の当たる角度によって変化する光沢や映り込みなどを楽しむことができるのです。 |
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雰囲気が伝わりやすいよう、ロケットの中に青いガラスビーズを入れて撮影しています。
光の感じがダイナミックに変化し、たくさんの表情を持つペンダントなので身に着けた時に印象的で、着け映えするのが魅力です。 |
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3. 透明なロケットになっている
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このペンダントはロケットまで透明なのもポイントです。 |
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ロケットでありながらも、ハート部分が完全に透明だからこそ清涼感ある美しさが惹き立ちます。写真や布などを入れて完全に不透明にして使うのではなく、ロッククリスタルならではの透明感を楽しむためのものだと思います。 |
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ロケットの蓋は、すべてゴールドで作ってしまえば簡単です。 しかしながらわざわざロッククリスタルをハート型にカットし、端はなだらかに面取りをしてハート型のゴールド・フレームにセットしています。 かなりの手間をかけた作りです。 |
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さりげない所にまで贅沢にお金をかけた作りが、さすが王侯貴族のハイジュエリーだと感じます。 |
-レイト・ヴィクトリアンのハイジュエリーの特徴-
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レイト・ヴィクトリアンのファッションの流行は、スタイルが良く気品に満ち溢れたファッションリーダー、アレクサンドラ皇太子妃に合わせて洗練されていきました。 でも、洗練されていった原因はそれだけではありません。 |
アレクサンドラ王太子妃(1844-1925年) |
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『エトルリアに想いを馳せて』でも詳しく説明した通り、ミッド・ヴィクトリアンのジュエリーは成金の極みのようなジュエリーが大流行しました。 |
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【参考】ヴィクトリアン中期のデミ・パリュール | 【参考】ヴィクトリアン中期のピアス |
この時代のジュエリーはとにかく大きくて派手で目立ち、高そうに見えることが至上命題でした。いわゆる成金的なジュエリーです。どれだけ作りが良くてもデザイン的に受け付けられず、ヘリテイジでは買付たいと思える物がほとんど出てこないのがこの時代です。 |
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【参考】ミッド・ヴィクトリアンの中級品 | ||
産業革命によって台頭してきた中産階級がこぞってジュエリーを買うようになったこの時代は、王侯貴族のためのハイジュエリーだけでなく小金持ちのためのミドルクラス以下のジュエリーも多く作られています。どのランクのジュエリーも、とにかく派手で目立っていかにも高そうに見えるものが作られています。 |
![]() 【引用】ABC News / Royal opals worn by Queen Victoria sent to Adelaide for SA Museum exhibition (24 September 2015, 5:57) |
教養も財力もあるはずの王侯貴族のジュエリーですら、成金趣味の極みみたいなものばかりです。 極端なデザインがあまりにも大流行すると、陳腐化して飽きられて見向きもされなくなるのは世の常です。 流行遅れとなったちょっと後の時代になると、あんなダサいもの恥ずかしくて絶対に着けたくないと言われるほど嫌われるものですよね。 |
![]() マーキーズシェイプ プチ・ストーンカメオ ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
ミッド・ヴィクトリアンの悪趣味すぎる成金ジュエリーの大流行の反動で、ヴィクトリアン後期になると王侯貴族はこぞって小さくて良いものを好んで着けるようになりました。 小さくて目立たないながらも、教養ある上流階級の人が見ればお金と技術がかけられた良いものであると分かるジュエリーです。 |
ヴィクトリアン後期も教養のない中産階級の身分の人たちはどういう物が真に良いものなのか分かりませんから、引き続き成金的なジュエリーを好んで身に着けていました。 派手でいかにも「私、高そうでしょ!」と主張するようなジュエリーを自慢げに身に着けていたら、それこそ中産階級と同レベルの教養とセンスしか持ち得ないのを自ら示しているようなもので、王侯貴族でそれをやったら赤っ恥です。 安物ジュエリーはシルバーだけだったり、メタルでできていますが、一応ハンドメイドなので現代ジュエリーよりはマシかもしれません。 |
![]() バンデッドアゲート ブローチ イギリス 1860年頃 SOLD |
上質な石にはそれに相応しい素材で優れた作りが施され、王侯貴族のためのハイジュエリーとなるものなのです。 |
-アールクレール-
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アールクレール。 完璧なる透明な芸術。 ロッククリスタルを使ったジュエリーには、シラーが放たれるムーンストーンだったり、色が付いている透明な宝石の分かりやすさとは全く異なる、清々しいまでに孤高の美しさがあります。 |
『アールクレール(透明な芸術)』 ロッククリスタル ロケットペンダント イギリス 1870年頃 SOLD |
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それが分かっていて意識して作られているからこそ、このロケット・ペンダントも裏側の蓋までわざわざロッククリスタルで作られているのです。布を入れるとこのようなアレンジも可能です。透明だからこそ、アレンジは無限大とも言えますね。透明感を楽しむのも良いですが、たまには気分を変えられるのもこのタイプの宝物の魅力です。 |
![]() イギリス 1880年頃 SOLD |
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ロッククリスタルのロケット・ペンダントは市場でも滅多に見ることはありませんが、元々その良さが分かりにくく、よほど美的感性に優れた人しか作っていないせいか、センスも作りも良いものばかりという印象です。 |
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透明なロケットには小さな押し花などを入れても素敵だと思います。 小さなビーズもある程度厚みがあるのですが入りました。 Genが押し花かビーズを入れてみたいと言うので、小学生時代に遊びに使っていたビーズを引っ張り出しました。 Genの方が私よりもロマンチックなものが得意そうです(笑) |
4.デマントイドガーネットのセンスの良い使い方
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メインのハート型ロッククリスタルのフレームには、デマントイドガーネットとダイヤモンドが交互にセットされています。あえてこれだけ小さなデマントイドガーネットを使用していることに、抜群のセンスの良さを感じます。 |
-デマントイドガーネットの歴史概要-
![]() "Rmslogo" ©Mikaxa(13:36, 22 November 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
デマントイドガーネットは『Demantoid Flower』で詳細をご説明した通り、1864年にサンクトペテルブルク鉱物学会(現:ロシア鉱物学会)で新種の鉱物として報告され、1868年にはパリ、ニューヨーク、サンクトペテルブルグなどの高級宝石店のショーウインドウを飾り、世界中の宝石愛好家に衝撃を与えました。 |
![]() "Demantoid bobrowa mineralogisches museum bonn" ©Elke Wetzig(Elya)(15 March 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
デマントイド・ガーネットは5mmを超えるような大きな石は非常に稀です。 1ctを超えるような石は滅多にありません。 |
![]() イギリス 1880年頃 SOLD |
それでもあまりにも美しいその輝きによってオランダ語で「ダイヤモンドのような」を意味するデマントイドと名付けられた独特のネオンカラーと、ダイヤモンド以上の分散度を持ち強いファイアを放つこの石は強い存在感と魅力を放ちます。 |
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1898年のパリでの展示会後、デマントイド・ガーネットの価格は頂点に達しました。 それによって産出量も増加し、1913年には104kgが産出されました。 デマントイドガーネットを全面に打ち出したこのようなブローチもこの時代に制作されています。 |
デマントイド・ガーネット ブローチ ロシア 1900年頃 SOLD |
![]() デマントイドガーネット ブローチ ロシア 1910年頃 SOLD |
独特の色と輝きを持つ石は、大きくなくとも強い存在感を放ち、石がメインのジュエリーの主役として全く違和感がありません。 |
-デマントイドガーネットにしかない魅力-
![]() 【引用】THE WALTERS ART MUSEUM / Iris Corsage Ornament ©The Walters Art Museum /Adapted. |
でも、注目したいのが脇石としてのデマントイドガーネットです。 左は1900年のパリ万博(アールヌーヴォーの祭典)にて、ティファニーの展示品の主役として出展されたモンタナサファイアの実物大のアイリスです。 高さ24.1cmの大作です。 葉がデマントイドガーネットで表現されています。 |
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ティファニーの大いなる繁栄に貢献した偉大なる鉱物学者であり宝石学者のクンツ博士が、デマントイドガーネットに魅了されてロシアまでわざわざ足を運んだのは有名な話です。 |
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世界中の注目を集め、過去最大の4800万人を動員した1900年のパリ万博は、"芸術的かつラグジュアリー"と評される当時の世界のビッグ・スリーのジュエラーが一堂に会した最初で最後の万博でした。 ・ロシアの天才プロデューサーのファベルジェ しかしながら『MODERN STYLE』で詳細をご説明した通り、ティファニー創業者の息子でありアメリカのアールヌーヴォーの第一人者と言われるルイス・カムフォート・ティファニーが得意としたのはステンドグラス・アートです。 |
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ルイス・カムフォート・ティファニーが制作した連作『四季』が、実際にこのパリ万博で最高賞であるグランプリを受賞しています。 |
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『天空のオルゴールメリー』でご説明した通り、ジュエリー部門の真のデザイナーはジョージ・パウルディング・ファーナムです。 19世紀における傑出したデザイナーと評されるファーナムは1885年にティファニー入社後すぐに巧みで革新的なアーティストとしてその地位を確立し、1889年のパリ万博に出展するためのジュエリー部門の責任者として活躍しています。 |
![]() 【引用】Alchetron / Paulding Farnham ©Alchetron/Adapted. |
この1889年のパリ万博で、ティファニーは前例のない1社で6つもの金賞を受賞しました。 特に大きなインパクトを与えたのが、ファーナムがデザインしたこの金賞受賞の等身大の蘭のブローチです。 ファーナムはこの快挙によってティファニー成功の立役者、かつ天才的なジュエリーデザイナーとして知られるようになりました。 |
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その天才がデザインし、待望の万博グランプリを受賞したのがアイリスです。クンツ博士を魅了したデマントイドガーネットは、小さな葉の表現に使用されています。主役はアメリカの宝石『モンタナサファイア』のアヤメですが、その脇役として実に良い仕事をしています。 超拡大しても、葉先のデマントイドガーネットはとても小さいのに、見事に石留されています。これだけ小さなものでもデザイン上必要としたからセットされているわけですし、アメリカでもこれくらい凄いものが作れるんだぞという職人のプライドもひしひしと感じる傑作です。 |
![]() 【引用】THE WALTERS ART MUSEUM / Iris Corsage Ornament ©The Walters Art Museum /Adapted. |
鮮やかなネオンカラーで独特の存在感を放つデマントイドガーネットだからこそ成立する作品です。 同じグリーン系のカラーでも、エメラルドやペリドットなどではこの大きさでは存在感を発揮することができず、パンチ不足でモンタナサファイアの惹き立て役にはなれなかったと思います。 |
![]() ティファニー 1900-1901年頃 プリマヴェラ・ギャラリー 【引用】Alchetron / Paulding Farnham ©Alchetron/Adapted. |
モンタナサファイアでは、デマントイドガーネットが意識して脇役として使われていることが分かるのがもう1つの出品作品であるピンクトルマリンのアヤメです。 こちらも12.7cmほどの大品です。 お花の作品はどうしても花の方に目がいきますが、こちらは明らかにデマントイドガーネットで作られた葉が主役です。 1898年のパリでの展示会後、価格が頂点に達したと言われるデマントイド・ガーネットに相応しい扱いであり、とてもアーティスティックです。 ファーナムが天才デザイナーと評されていたのも納得です。 |
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同時代のもう1人天才、ファベルジェもデマントイド・ガーネットを好んで使っていたと言われています。 アーティストとしての才能あるジュエラーは宝石自体の価値で評価されることを良しとしません。 ファベルジェも当然そうで、ロシアで皇帝御用達だからこそいくらでも石は手に入るはずなのに、左の『春の花々』では主役の花の雌しべとしてとても小さなデマントイドガーネットが使われています。 デマントイドガーネットは最高の名脇役にもなれる宝石なのです。 |
-デマントイドガーネットの効果的な使い方-
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主役だけでなく、最高の名脇役となれるのがデマントイドガーネットならではの魅力です。 この作品のデマントイドガーネットも、主役のハートカット・ロッククリスタルを邪魔することなく、より惹き立てるためのデザインになっています。 これより大きいとデマントイドガーネットの方が目立ってしまい、せっかくの素晴らしいハートカット・ロッククリスタルが台無しです。 |
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さらにフレームの石全てがデマントイドガーネットではないこともポイントです。 小さくてもデマントイドガーネットは絶大な存在感を放つので、全部がデマントイドガーネットだとデマントイドガーネットがメインのジュエリーになってしまいます。 あくまでも主役はハートカット・ロッククリスタルなのです。 |
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デマントイドガーネットと同列で、交互に使うのに最高の宝石がダイヤモンドです。 「ダイヤモンドのような」と名付けられる通り、ダイヤモンドのような強い輝きを放つデマントイドガーネットの同格のパートナーとして、ダイヤモンドは最適です。 |
![]() イギリス? 1880年頃 SOLD |
![]() デマントイド・ガーネット&ダイヤモンド バーブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
このバーブローチでも意図的に同じ大きさの石が使われていますが、全ての石から主役と言えるような強い魅力が放たれています。 |
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控えめながらもきちんと存在感も放つ、小さなデマントイドガーネットとダイヤモンドの組み合わせが、このペンダントに最高のバランスをもたらしています。 フレームの石の繊細な輝きによって、ロッククリスタルによる透明な芸術の繊細さな美しさがより際立つのです。 非常に計算されたデザインです。 |
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デマントイドガーネットは小さいながらも色と照りの良い上質な石が使用されています。デマントイドガーネットの明るいネオンカラーは透明なロッククリスタルやダイヤモンドの清楚なイメージを邪魔せず、鮮やかで暖かなグリーンカラーがハートというモチーフをより慈愛に満ちたものへと印象を深くしています。 |
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1つポイントなのが、これだけ小さな石でも鮮やかな発色であることです。 石が大きく厚みが増すほど、石自体の色が濃くなくても全体で濃く発色できるようになります。 これだけ小さくてこのように鮮やかに発色できるのは、石自体がかなり上質でなければ不可能です。 小さい石の場合、大きな石をカットした後の破片を使う場合もありますが、そういう石の場合は端のあまり良くない部分となるので発色や照りが美しくなることはあり得ません。 その点で、小さいながらも明らかに上質な石が使われてることが分かるのです。 |
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ダイヤモンドについては、ローズカットであることもポイントです。オールドヨーロピアンカットだと輝きが強すぎて全体のイメージが崩れてしまいます。透明感と控えめで繊細な輝きが魅力のローズカット・ダイヤモンドこそ、このペンダントに相応しいのです。 |
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当時の流行の最先端の石であったロシア産のデマントイドガーネットを使っていることからも、間違いなく王侯貴族のために作られたハイクラスのジュエリーであると言えます。 レイトヴィクトリアンらしい、控えめながらも上質なデザインと作りが日本人女性によく似合うジュエリーだと思います。 |
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同じ時代に作られた同じガーネット族のジュエリーでも、大衆向けはこんな品のない成金的なもので溢れています。 |
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アンティークジュエリーでも数少ない優れたものと、大半のそうではないものがあります。 王侯貴族のためのハイジュエリーと大衆向けのジュエリーは明確に違うのです。 |
裏側
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裏側も綺麗な作りです。 ロケットもしっかり閉まりますので、実際に様々なものを入れて楽しんでいただけます。 |
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拡大画像なので迫力あるペンダントに見えますが、実物は軽やかで清楚な着けやすい大きさです。 |
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撮影に使っているような、作りが良いアンティークのゴールドチェーンをご希望の方には別売でお付け致します。いくつかご用意がございますので、ご希望の方には価格等をお知らせ致します(チェーンのみの販売はしておりません)。現代の18ctゴールドチェーンをご希望の方には実費でお付け致します。高級シルクコード又はリボンをご希望の方にはサービスでお付け致します。 |
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リボンはベルベットの他、ストレッチのきいたオーガンジーリボンもご用意があります。このようなベージュのシースルーだと肌の上では存在感がなくなり、ペンダントだけが目立つ見た目になるので今回の軽やかなペンダントにオススメです。この画像は別の宝物を使った参考画像です。 |
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清涼感たっぷりのロッククリスタルのハートは夏の暑い季節にはもちろんピッタリですが、それ以外の季節でも中に入れるものや下にあわせる洋服の布地の色で表情を変えることができるので、季節を通して楽しんでいただけると思います。 コーディネートの幅は無限大、とっても楽しい宝物です♪ |