No.00271 Shining White |
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『Shining White』 エドワーディアン ダイヤモンド ネックレス イギリス又はオーストリア 1910年頃 オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド(メインのダイヤモンドは0.5ct+)、ローズカット・ダイヤモンド、プラチナ&ゴールド(18ct) チェーン 38cm 重量 3,9g SOLD 白い金属プラチナと白い宝石ダイヤモンド、それぞれを駆使して様々な輝きを表現した、白の輝きが美しいネックレスです。エドワーディアンからアールデコにかけてのトランジション・ジュエリーならではの繊細でエレガントさ、そしてパワフルなエネルギーを感じるデザインも見事な、センス抜群の宝物です。 |
この宝物のポイント -様々な白の輝き-
この宝物のポイントは、ダイヤモンドの白い輝きを最高に生かすことのできる画期的な新素材プラチナが使われ始めたばかりの、エドワーディアンならではの様々な"白の輝き"が用いられた表現です。 1. プラチナの白い輝き 2. ダイヤモンドの白い輝き 3. トランジション・ジュエリーとしての魅力 |
1. プラチナの白い輝き
1-1. 画期的な新素材プラチナ
このネックレスはプラチナの特徴が見事に生かされた、白い輝きが美しい宝物です。プラチナが本格的に一般ジュエリー市場に出始めるのは、技術的・産出量的な問題がクリアされた1905年頃からです。 |
『財宝の守り神』 ダイヤモンド ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
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通常はシルバーでセッティングされます。 ただしシルバーは使っているうちに黒ずむ性質があり、高級な衣服を汚さぬようハイクラスのダイヤモンドジュエリーは、オモテはシルバーでも裏側はゴールドバックになっています。 |
『古のモダン・クロス』 ステップカット・ダイヤモンド クロス フランス 18世紀初期 SOLD |
時の経過と共に、自然にいぶし銀のようになったアンティークジュエリーのシルバーはとてもカッコ良いのですが、いぶし銀の雰囲気が似合うデザインばかりとは限りません。 |
『エレガント・ブルー』 エドワーディアン サファイア ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
シルバーの暖かみのある白い輝きとは異なる、硬質な白い輝き。 そして永遠に白く輝き続けることができるプラチナは、エレガントなデザインにピッタリです。 さらに、柔らかくて粘りけのあるプラチナはダイヤモンドのセッティングも得意です。 |
【参考】現代のプラチナジュエリー | 高度な職人による手仕事の技術が失われた現代では、プラチナの性質が全然生かせておらず、ダイヤモンドより爪の方が目立っていたりします。 しかしながらプラチナは本来、シルバーでは不可能な小さな爪でダイヤモンドを留めることができます。 |
極限まで存在感を消すことができる、プラチナによるセッティングはダイヤモンドにピッタリでした。 『財宝の守り神』でご説明した通り、エドワーディアンの時代は南アフリカのダイヤモンドラッシュによって上質なダイヤモンドが潤沢に手に入り、また、ダイヤモンドのカットの技術革新によって加工も飛躍的にやりやすくなった時代でした。 これにより、エドワーディアンはエレガントなデザインの、プラチナを使ったダイヤモンドジュエリーが多く生み出されることになったのです。 |
1-2. 極上のミルグレインによる繊細な輝き
『清流』 アールデコ ジャポニズム ペンダント イギリス 1920年頃 SOLD |
プラチナの性質を生かすという意味では、強靱で柔らかく粘りけのある性質を利用した、プラチナ独特の美しい透かし細工やラティスワークもあります。 |
しかしながら、このネックレスは徹底して輝きにこだわったデザインと作りがとても面白いです。 輝きのバリエーションの1つがミルグレインです。 ミルグレインはタガネを均一な間隔で細かく打ち、さらに1つ1つの頭をヤスリで整えて半球状に仕上げて完成させる細工です。高い技術に加えて、集中力と忍耐力を要する大変な作業です。 |
プラチナに打たれているこのミルは、エドワーディアンならではの最高水準の繊細精緻な美しいミルです。とは言ってもヘリテイジはハイクラスのジュエリーしか扱っておらず、いつもご覧いただくのは美しいミルばかりです。このミルがどれだけ凄いものなのか、ちょっとイメージしにくいでしょうか。 |
左はヘリテイジでは扱わないレベルのエドワーディアンのブローチです。 一見、デザイン的には悪くなく、真珠やダイヤモンドも使われているのでどう駄目か分からない方も多いかもしれません。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないレベルのエドワーディアン・ブローチ |
【参考】ヘリテイジでは扱わないレベルのエドワーディアン・ブローチ |
拡大するとはっきりとミルグレインの汚さが分かります。潰れたようにグチャっとして気持ち悪いです。リングの場合は100年以上の使用の中で、ミルがすり減って薄くなっている場合もありますが、ブローチはそのようなことはありません。元からこの程度の仕事で作られたものです。タガネは浅くしか打ち込まれておらず、磨き仕上げもろくにやっていないので汚く見えるのです。 |
ご紹介の宝物 | |
【参考】ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ | |
見比べてみればその違いは明らかです。ヘリテイジが扱う最高級品と、通常の店舗が扱う中級品とでは作りが全く異なります。そこらへんの普通レベルのディーラーだと、見てもこの違いが分からないので優れたハイクラスのジュエリーを集めることはできません。 |
ご紹介の宝物 | |
【参考】ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ | |
ヘリテイジはGenも私も、実物を見て瞬間的にこの違いをはっきり認識できるからこそ良いものが集まるのです。アンティークジュエリーのパイオニアであり、天才でもあるGenはこの違いを誰からも教わることなく自分で気づき、その知られざる素晴らしさをより多くの方に知ってもらいたくて、まだ高解像度のカメラやパソコンが非常に高価だった時代から頑張って設備投資し、わざわざ手間と時間をかけてカタログのページを作っていたのです。 |
ご紹介の宝物 | |
【参考】ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ | |
普通のディーラーは世の中の大半の人たちがそうであるように、細工の違いを認識できません、だからこそパッと見てデザインが良いか、高そうに見える石が付いているか、売れ筋アイテムかどうかで買い付けるか判断します。Genと私はほぼ完璧に判断基準が一致しており、明確な判断基準があるので選ぶ際も迷いがないのですが、長年やりとりをしているディーラーですら私たちがどういう基準で選んでいるのかイマイチ分からないようです。 |
ご紹介の宝物 | ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ |
ディーラーの買い付けは数をこなさないといけないですし、現場判断なのでルーペでじっくり見たり、撮影して確かめてみるなどの行為はできません。でも、素晴らしいミルグレインは輝きが違います。静止画像だと分かりにくいですが、実物は繊細な輝きが見事だからこそ、すぐにその仕事ぶりが素晴らしいものであると判断できるのです。 ちなみにこの道44年のGen曰く、右はよくある、一般的には高級品として販売されているクラスだそうです。 |
『神秘の光』 大珠天然真珠リング イギリス 1920年頃 SOLD |
『Sweet Emerald』 オレンジピールカット・エメラルド リング フランス 1920年頃 SOLD |
この2つはどちらも唯一無二の特別な宝石を使った、それぞれ1920年代のトップクラスの最高級リングです。もう二度と手に入らない特別な宝石に合わせてどちらも最高のデザインと細工が施されています。『Sweet Emerald』は通常の前期アールデコのハイジュエリー同様、繊細なミルが施されていますが、『神秘の光』はミルがありません。通常のアンティークジュエリーとは雰囲気が違って見えるのはそのせいです。 |
後期アールデコ ステップカット・ダイヤモンド リング ヨーロッパ 1930年頃 SOLD |
ミルがない、シンプルなデザインが醸し出すスタイリッシュな雰囲気は、ミルが当たり前だった時代に於いては目新しく斬新で面白いものでした。 だからこそハイジュエリーとして作られたものでも、デザイン的に意図してミルがないものもいくつか制作されています。 |
しかしながらミルがないジュエリーも多々作られるようになったアールデコ後期、宝飾メーカーは気づきました。 細工に手をかけていなくても、どうやらダイヤモンドさえ付いていれば、どんなに高値を付けてもみんな喜んで買っていくのです。 |
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【参考】ダイヤモンド ブローチ(ブシュロン 1930年代) |
『SUKASHI』 アーリー・アールデコ ダイヤモンド リング オーストリア 1910年代 SOLD |
『SUKASHI』でご紹介した通り、第一次世界大戦を契機に世界は大きく変わりました。 ヨーロッパの王侯貴族が世界を主導した旧世界から、アメリカや新興の富裕層などの新しい勢力が世界を主導する新しい世界へと時代が移ったのです。 |
大きなダイヤモンドが付いているか? 成金が選ぶ基準はそれだけです。 宝飾メーカーは儲かってナンボです。どんなに手間や時間をかけても、コストがかかるだけで高値を付けて売ることができない細工なんてやる意味がありません。 古の王侯貴族が愛し、私たちが宝物だと感じることができる優れたアンティークジュエリーは、作っても採算が合わない時代となってしまいました。 |
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【参考】ダイヤモンド ブローチ(ブシュロン 1940年代) |
「技術を守るためにも優れたジュエリーは作るべき。理解してくれる誰かがきっと買ってくれるはず。」と言う人もいそうですが、それは無責任な発言です。 価値を理解できる人が、採算が合う金額を支払うことができるほど財力を持てる時代ではなくなったのです。 職人にも生活があります。お金を稼がなくては生きていくこともままなりません。 買い続けてくれるパトロンのような存在がいたり、理解して購入してくれる顧客が多数いるなどしなければ、優れたジュエリーを作る仕事は成立しません。 |
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【参考】ヴィンテージのダイヤモンド・リング |
こうして1940年代以降は、古から続いた王侯貴族による素晴らしいジュエリー文化は完全に終わってしまったのです。 新興富裕層が主導する新しいジュエリー文化は、儲かれば良いだけの虚飾の世界です。虚栄心が高い人が現代ジュエリーを喜んで買い、楽して儲かりたい人が群がる。消費者が欲しいものとメーカーが提供するものが一致し、これはこれで成立しているので決して悪いことではないと思います。 でも、現代に於いて"本物の宝物"と言えるジュエリーが欲しい人は、新品でオーダーすることは不可能で、優れたアンティークジュエリーから好みのものを探すしかありません。ちょっと残念ですね。 |
でも、古の王侯貴族が愛したハイクラスのアンティークジュエリーは、宝石の価値や細工から推測できる職人の人件費などを換算すると、オーダーしたらとても庶民に払えるような金額ではありません。 私もちょっと前まではサラリーマンでしたが、アンティークジュエリーはどんなに優れたものであっても、頑張ればサラリーマンでも買えなくない値段で流通しています。 ある意味ありがたい、むしろラッキーな時代と言えるのかもしれません。 時代が違えばこんなに素晴らしい宝物を手に入れることなんて、とてもできなかったことでしょうから・・。 |
これだけのミルを、ペンダント全体に一切の乱れなく施すなんて、思わずため息が出る素晴らしい仕事ぶりです。 |
現代ジュエリーでもミルグレインがあるものも存在しますが、鋳造で作るためサイズを小さくすることができず、目視で視認できるくらい大きさのあるミルです。 繊細な輝きを放つアンティークのハイジュエリーのミルとは異なり、放たれるのは無骨な印象だけです。 |
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【参考】現代ジュエリーのミルグレイン |
こんな鋳造ミルグレインであっても、型にうまく溶融金属が回り込まず空気を噛んでしまっていたり、型から外す時に型離れが悪かったり、歩留まりが悪くコスト的に良くないため、好んで作られることはありません。 |
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【参考】現代ジュエリーの鋳造ミルグレイン |
大半の現代ジュエリーがこのようにツルンツルンなのは、鋳造で安く大量生産しやすいからです。 美しいものを作ろうとするのではなく、現代ジュエリーはいかに安く作って儲けるかという視点だけで作られているのです。 |
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【参考】現代の鋳造ジュエリー |
【参考】フェイク・エドワーディアン・リング | |
これはフェイク専門店で販売されていた偽物のエドワーディアン・リングです。そもそも100年以上経っていて、デッドストック品でもないのに摩耗などの使用感が全くないこともおかしいのですが、全体的に作りも変です。今回はミルに注目しますが、これはミルワークが施されていません。 鋳造にしろ、ハンドメイドにしろ、ミルワークは手間がかかります。つまり生産コストが高くなるわけです。だからフェイクメーカーはやりたがらないのです。このリングは既にSOLDでした。プラチナにゴールドバック、アンティークのカットのダイヤモンド。知識だけの頭でっかちで選ぶような人は、このようなエドワーディアンのごく一部の特徴だけで騙されて購入してしまうのでしょう。 私はこれを見て全く美しいと思えないのですが、本物の美しいエドワーディアンジュエリーだと思って高値を出す人もいるということです。アンティークジュエリーの真の魅力を分かっているとは言えず、こんなものを買う人にアンティークジュエリーが好きだとは決して言ってほしくないのですが、フェイク業界が成立しているのも何だか切ない話です。 |
ご紹介の宝物 | 【参考】ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ |
本物のアンティークジュエリーであれば何でも良いというわけでもありません。アンティークジュエリーの中でも真に優れたハイクラスのジュエリーにだけ施される、素晴らしい細工が魅せる美しさ。技術も手間もかかる高価な細工、ミルグレイン。トップクラスのミルグレインが魅せる、心洗われる繊細で美しい輝きも、アンティークのハイジュエリーだけの魅力なのです。 |
1-3. グレインワークの存在感ある輝き
ハイクラスのダイヤモンドジュエリーには、土台の金属を削り出して粒金状にしたグレインワークを見ることができます。このネックレスでも、中央のダイヤモンドから比翼のように伸びたパーツにセットされたローズカット・ダイヤモンドの両側に見ることができます。本当の粒金のように完璧に丸く磨き上げられており、作者の高度な技術と徹底した丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。 |
ダイヤモンドをセットしたそれぞれの爪も、グレインワーク同様に完璧に丸く磨き上げられています。それらが輝きを放つことで、ネックレス全体の華やかさと高級感も増しています。 |
細長いパーツも、ローズカット・ダイヤモンドの上にグレインワークが施されています。 実に美しいグレインワークです。 |
この長いパーツは、上にいくほど少しずつ細くなっていきます。 細すぎてダイヤモンドはセットできない領域に、グレインワークが施されています。 ローズカット・ダイヤモンドが少しずつ小さくなり、その延長にはグレインワーク。さらにその先にはミルグレインが平行するダブルミルの領域。 上に行くに従って輝きはとぎれることなく、より繊細さを増していきます。 このパーツだけ見ても、ダイヤモンドとプラチナワークの組み合わせを使って輝きが入念にデザインされており、仕事ぶりの凄さにも驚かされます。 |
先ほどミルグレインの比較のためにご紹介したブローチも、左の画像の中央左側にある通り、一応グレインワークが施されています。 ミルグレイン同様、グレインワークもグチャっとしていますね。 ダイヤモンドの爪も丸く磨いて整えるようなことはなされておらず、グチャとしています。 これでは輝きは出ません。 |
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【参考】ミドルクラスのジュエリーのグレインワーク |
これを見ると、グレインワークが実際に土台から削りだして作られることが分かりますね。 適当にしか作られていないので、1つ1つのグレインが独立していません。 中途半端にくっついているのでグチャっと見えるのです。 |
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【参考】ミドルクラスのジュエリーのグレインワーク |
ご紹介の宝物 | 【参考】ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ |
丸く独立して存在するグレインワークがいかに驚くべき細工なのか、駄目なものと比較するとよくお分かりいただけたのではないでしょうか。 |
ご紹介の宝物 | 【参考】ミドルクラスのエドワーディアン・ブローチ |
一見してデザイン的にはそこまで違いがあるように感じられなくても、実物を見ると細工が優れたものとそうでないものとでは、圧倒的な華やかさの違いに現れてきます。それはミルグレインやグレインワークなどの名脇役たちが、ダイヤモンドとは異なる繊細な輝きで多くの花を添えてくれるからなのです。 基本的に、一人で舞台が成立することはありません。名脇役がいてこそ主役が惹き立つのです。ダイヤモンドのことしか考えられない教養も美的センスもない人たちと違い、古の王侯貴族たちはこの名脇役たちの価値をきちんと理解し、どんなにお金がかかろうとも絶対に必要なものと分かっていたからこそ、このような人たちのためのジュエリーにはお金と技術と手間をかけて優れた細工が施されているのです。 価値が分かっていないと、相当お金がかかる部分なので真っ先にコストカットで削ぎ落とされる部分です(; ;) |
1-4. フラットなプラチナのインパクトある面の輝き
この宝物はデザインも作りも非常に素晴らしいですが、一番下に下がった大きめのダイヤモンドが見せ場の1つであることは間違いありません。 |
このメインのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドのフレームには美しいミルグレインが施されていますが、さらにその外周に、フラットなプラチナの輪があしらわれています。 このダイヤモンドは0.5ct+の大きさがあり、小型のペンダントではあまり見ることのない大きなダイヤモンドです。 パッと見て大きいなという印象があります。 |
全体的にはエレガントな雰囲気のデザインの中で、フラットなプラチナ面にしてあるのはこのメインのダイヤモンドの外周部だけです。 シンプルなことのように見えますが、このパーツ1つで驚くほど雰囲気も見る人に与えるインパクトの大きさも変わります。 |
どれが好きかは、品質やデザインの優劣ではなく好みの領域です。面白いことに、同じエレガントな形状デザインでもフラットなプラチナの面があるだけで、アールデコの時代を予感させるパワフルでスタイリッシュな雰囲気がプラスされます。 |
『Transition』 |
このスタイリッシュなバー・ブローチ『Transition』はアールデコではなく、レイト・ヴィクトリアンからエドワーディアンにかけてのトランジション・ジュエリーです。 まさにプラチナが一般ジュエリー市場に出始めた最初期の頃の作品ですが、既にミルグレインの繊細な輝きと、フラットな面が放つプラチナの力強い輝きを使い分けるデザインとなっています。トランジションジュエリーはデザイン的に傑出したものが多いのですが、この作品は作りも別格に優れていたのでさすがだなと感じます。 |
『ストライプ』 |
このフラットなプラチナ面を駆使したデザインは、通常はエドワーディアンからアーリー・アールデコにかけてのトランジション・ジュエリーで見られる表現です。 『ストライプ』では、ダイヤモンドのフレームは全てミルが打たれていますが、天然真珠とダイヤモンドで表現されたストライプを囲む四角形のフレームはプラチナのフラットな面になっています。 |
『Quadrangle』-四角形- |
『Quadrangle』では画像一番右、菱形の二重線の外側がフラットな面に整えられています。また、このパーツの左側に付いたナイフエッジもフラットな面になっています。 これらが全てミルグレインが施された繊細な輝きのパーツだと、ちょっと良い子ちゃん過ぎてインパクトには欠けていたはずです。 |
硬質な輝きを放つことができる、プラチナならではの力強い面の輝き。 シンプルなことではありますが、このペンダントが美しく見えるために非常に重要な役割を果たしているのです。 |
2. ダイヤモンドの白い輝き
2-1. 迫力あるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド
この宝物は"輝き"のデザインが最高に素晴らしいので、プラチナの使い方だけでなくダイヤモンドの使い方、そしてダイヤモンドの輝きを最大限に生かすための構造デザインも見事です。 ダイヤモンドはダイナミックな煌めきが魅力のオールドヨーロピアンカット・ダイアモンドと、透明感と繊細な輝きが魅力のローズカット・ダイヤモンドをうまく使い分けています。 オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドが使われているのは、大きい順に5つ目までの石です。 |
円形の覆輪でセットされたダイヤモンドのうち、チェーンに連結された一番小さなダイヤモンド以外がオールドヨーロピアンカットです。どれも上質な石で、クリアで強い煌めきが印象的です。静止画ではあるものの、こうして見るとオールドヨーロピアンカットとローズカットでは煌めき方が違うことを感じていただけるのでないでしょうか。大きなものから小さなものまで全て完璧なブリリアンカットにしてしまう現代ジュエリーでは実現することができない美しさです。 |
大きさが多少変えてあっても、カットが全く同じで、どれも個性のない輝きしかしないダイヤモンドだと全く魅力が感じられません。 数学的に完璧に計算された現代のブリリアンカットと、オールドヨーロピアンカットの輝きの違いについては『財宝の守り神』でも詳しくご説明しました。 |
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【参考】現代のブリリアンカット・ダイヤモンドだけのジュエリー |
現代のブリリアンカットは無数の底面のファセットから、分散された均一な輝きしか放つことができないため1つ1つの輝きが弱く、全体としてはチラチラとした弱い輝きしか放つことができません。ワサワサ、モソモソとした輝きにしか感じられない原因です。 しかも工業製品のように、機械を使った左右対称すぎるカットであるが故に、人間がカットした時のような心地よい揺らぎを感じることができないのです。ジュエリーは本来アートであるべきなのに、工業製品的に作るから違和感しか感じられないものができあがるのです。 |
"モダンデザインの父" ウィリアム・モリス(1834-1896年) | 19世紀にアーツ&クラフツ運動を提唱したウィリアム・モリスも言っているように、芸術は人間の優れた手仕事からしか生み出されません。 「人間味のある製品こそ真の美術品」であり、「全ての芸術の根本と基礎は手芸にある」のです。 |
手作業でカットされた揺らぎある輝きを放つオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドはただそれだけでも存在感がありますが、それをさらに惹き立たせるために、それぞれが周りよりも一段高い位置にセットされています。 |
さらに、一番下のメインのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの輝きをより強調するために、Aの部分と一番下のダイヤモンドが連結した部分の2カ所が可動になっています。 |
2カ所とも、もちろん左右に揺れることができますが、さらに面白いのが前後にもかなり揺れることです。 |
特に一番下のオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドは前後左右に自由自在に動きます。ダイヤモンドの大きな魅力は、その輝きにあります。輝きは動いている時にしか感じることができません。 |
チェーンに下げられたペンダントが、それぞれの可動ポイントを支点にして複雑に揺れ動くことで、全体でダイヤモンドが複雑な輝きを放ちます。 一番下は最も揺れます。 その効果は想像する以上に大きく、この大きなオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの実物は驚くほど魅惑的な輝きを放ちます。 |
さらに、他のオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド同様、この一番大きなダイヤモンドも一段高い位置にセットされています。フラットなプラチナが時折放つ面の輝きもインパクトがありますが、あくまでの一番の魅せ場であるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの煌めきが最大に強調されるように設計されているのです。優れた名脇役を従えたオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの美しさは言葉では表しきれません!♪ |
一番下以外のオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドは全てサイズが小さめです。 一番下のダイヤモンドにつながる細長いパーツは、他には類を見ないほど極限まで細く作ってあります。 全ては、一番下のダイヤモンドの美しさを最も印象的に感じてもらうために設計されているのです。 |
2-2. センスの良いローズカット・ダイヤモンドのセッティング
チェーンが連結された部分は、左右ともに2つの円が連なった構造になっています。円の中にはダイヤモンドがセットされていますが、小さな円にはローズカット、大きな円にはオールドヨーロピアンカットと、それぞれ輝きの異なるダイヤモンドになっています。覆輪留めするダイヤモンドは、オールドヨーロピアンカットであるのが通常です。普通ならば小さなダイヤモンドもオールドヨーロピアンカットにしてしまいそうなものですが、わざわざカットの違うダイヤモンドを連ならせることでそれぞれの煌めきを楽しめるようにする、作者の細やかな気遣いに驚きます。 |
さらに、ローズカットダイヤモンドが連なってセットされた中央のパーツは、少しだけ手前に凸になるようにカーブが付けられています。 |
普通の人では気づくかどうか分からないくらいのごく僅かな曲率ですが、これがペンダント全体に立体感を与え、セットされたローズカットダイヤモンドの角度に変化を与えることでダイヤモンドの輝き自体もより美しく見せる効果があります。 |
平面で作る方が遙かに楽なので、価値が分からない人のために作られるジュエリーでは絶対にあり得ない構造です。 この僅かに曲率を持たせた立体的な構造、そして優雅に揺れることのできる構造は、まさに鋭い美的感覚を持つ人のために作られたハイクラスのアンティークジュエリーの証です。 |
3. トランジション・ジュエリーとしての魅力
3-1. 時代が特定できるゴールドバック
このようにスタイリッシュな雰囲気を持つジュエリーは、デザイン自体はエドワーディアンとアールデコ前期でそこまで違いがなかったりします。 |
でも、プラチナにゴールドバックという特徴があるからこそエドワーディアンというごく短い年代が特定できるのも、アンティークジュエリーとしての面白さの1つです。 |
『The Beginning』 エドワーディアン ダイヤモンド&エメラルド リング イギリス 1910年頃 SOLD |
『The Beginning』で詳しくご説明した通り、エドワーディアンの時代はプラチナが一般ジュエリー市場に出始めで非常に高価でした。 それに加えて帝国主義が渦巻く世界情勢下、プラチナは戦略的に最も重要な物資だったため、どんなに莫大な財力を持つお金持ちでもオールプラチナのジュエリーは持ちにくい状況にあったのです。 |
金よりプラチナの方がはるかに高価だったとは言え、わざわざそれぞれの金属を叩いて鍛えてから貼り合わせ、そこからジュエリーを作っていくなんて相当な手間と人件費がかかります。 黄色のゴールドは肌に乗せると馴染みます。 薄いプラチナの面がより強調されて浮き上がって見えるので、ゴールドバックのエドワーディアン・ジュエリーは、オールプラチナのアールデコにはない繊細かつ大胆な魅力を感じることもできます。 |
3-2. エレガントさと躍動感の両方を感じるデザイン
優れた作りも魅力ですが、トランジション・ジュエリーとしてのこの宝物の最大の魅力はやはりデザインです。 プラチナとダイヤモンドを駆使した"多様な白い輝き"という、輝きのデザインも優れていますが、フォルム面で見てもデザイン的に非常に優れています。 |
この優美な曲線は、王侯貴族がまだ力を持っていた時代のエドワーディアンらしいエレガントさがを感じます。 |
一方で、細長いパーツからつながる大きなダイヤモンドにかけてのデザインは、新しい時代を予感させるパワフルなエネルギーに満ちあふれています。 |
まさにトランジション・ジュエリーの魅力が詰まった、ハイクラスのダイヤモンド・ジュエリーです。 |
クラスプ&チェーン
クラスプもチェーンもすべてオリジナルで、全体のコンディションもとても良い状態です。 |
ハンドメイドのボックス型クラスプには、セーフティーも付いています。 |
裏側
裏のゴールドの部分を見れば、いかに繊細優美な、エドワーディアンならではのデザインであるかが良く分かります。 これだけ繊細な作りでも100年以上の使用に耐える耐久力があるのが、現代の手間をかけない鋳造ジュエリーとの大きな違です。 それはワックスや金型を使った鋳造ではなく、金とプラチナを叩いて鍛えながら丈夫な金属にするという完璧なハンドメイドで作られているからです。 |
型に溶解した金属を流し込んで量産する鋳造のジュエリーは、金属が鍛えられておらず、弱いので細くすることができません。 |
だからどうしても現代ジュエリーは無骨な印象のジュエリーしかないのです。 |
カルティエ(税込 ¥3,628,800-、2019.2現在) 【引用】Cartier HP / PLUIE DE CARTIER BROOCH |
ブシュロン(税込¥9,306,000-、2021.5現在 【引用】BOUCHERON HP / WOLF BROOCH |
ハリーウィンストン(0.5ct以上で1,026,000円〜) 【引用】HARRY WINSTON / ©Harry Winston, Inc. |
これは、どんなに高級ジュエリーと言われているメーカーの高額商品でも同じです。ブランド名があるだけで、作りは全てハイクラスのアンティークジュエリーには遠く及ばない安物です。どんなに高価な現代ジュエリーよりも、ハイクラスのアンティークジュエリーは上の存在なのです。 |
現代ジュエリーを見慣れた人だと、正面から見ると耐久性に不安を感じるくらい繊細な作りに見えます。 でも、金属自体が鍛えて強いですし、横から見るとお分かりいただける通りしっかり厚みもあります。 |
あくまでも正面から見たときに繊細に見えるだけで、十分に耐久性を持たせた計算された作りなのです。 ハンドメイドで手間をかけて作った、アンティークの超高級品だからこそです。 ダイヤモンドの裏の窓の開け方も、アンティークジュエリーの中でも特にハイクラスのものらしい綺麗さで、良い作りです。 |
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ダイヤモンドだけのエレガントなデザインなので、コーディネートしやすいのも良いですね。ダイヤモンドの輝きが程よく花を添えてくれるので、地味すぎず派手すぎず、様々なシーンで楽しんでいただけると思います。 |