No.00254 Transition |
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『Transition』 |
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人類による汚染のない、まるで絶海の孤島の清らかな海のような清涼感溢れる水色のアクアマリンのバー・ブローチです。美しさと大きさを両立した、今までで最も美しいアクアマリンに相応しい作りはヴィクトリアンからエドワーディアンへと時代が移り変わる過渡期ならではのものです。画期的な新素材プラチナ、そして技術が失われる前の最後の最高の金細工による極上の作りは、時代が大きく変わる過渡期のその一瞬だからこそ生み出された奇跡の芸術です。 |
この宝物の3大ポイント
正面から見るとアールデコ後期?とさえ感じるほど時代を先取りした、シンプルかつスタイリッシュなデザインのバー・ブローチですが、この宝物には時代がダイナミックに移り変わる過渡期にしか生み出されることのない素晴らしい魅力があります。この宝物を理解するために抑えておくべきポイントは以下の5つのポイントです。 1.バー・ブローチという横長のスタイル |
1. スタイリッシュな横長のバー・ブローチ
現代では使いこなせる人が少ないせいか、ブローチ自体が一般的にはあまり人気が高くなく、どうやって使ったら良いのか分からない方が多そうなバーブローチですが、19世紀後期からアールデコまでの時代にはとても人気があったスタイルです。 |
-ヴィクトリア時代におけるブローチの人気-
『黄金の花畑を舞う蝶』 色とりどりの宝石と黄金のブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
また、1つの作品を制作するために相当な手間と時間もかかるため、いくら王侯貴族といえども気軽にいくつもオーダーすることは難しかったのです。 「財力にモノを言わせて作ってもらえば良いのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。 しかしながら、そうもいかないのです。 |
人を雇い、ブランド名だけ語って中身は別の人がやる。こういうことは結構少なくありません。仕事が殺到すると、もっと儲けたいという欲は誰にでも出てき得るものです。 欲に負け、最初は儲かっても質の低下に気づいた上質な顧客が離れていき、結局はブランド名でしか判断しない質の悪い客ばかりしか来なくなります。そういう連中は"質"なんて分からないので、とにかく値引きを要求します。質のよい仕事をしてもらっても理解できないので、"上質"ではなく"安さ"を提供してもらうことにのみ価値を感じるからです。 一度信用を無くした、質を望む上質な顧客の信用を再び得ることは容易なことではありません。結局目の前の客の要望に応えるしかなく、価格を下げます。ただし同じ質のものを同じ価格で提供するのは、当たり前ですが不可能です。だから見えないところでこっそりと、さらに質を低下させます。最終的には飽きられ、またはレベルの低い客ですら見向きもしないレベルに劣化し、事業継続が不可能となり職人と共に技術も消えていくのです。 |
-19世紀後期における横長スタイルのブローチの流行-
ヴィクトリア女王の喪服(1894年)メトロポリタン美術館 | ヴィクトリア女王は152cm程度の身長ながら結婚前の10代で既に体重56kg、1880年代には76kgまで増加するほど太りやすい体質でした。 加齢による身長減少で145cm以下になったものの、最大で体重は125kgあったとも言われています。 |
イギリスの風刺雑誌 The Comic Almanack による、巨大なクリノリンのパロディー(1850年) | ||
詳細は『PURE LOVE』でご説明していますが、そんなヴィクトリア女王が若い女性たちにとってファッションリーダーだったミッド・ヴィクトリアンにおいてはウエストを細く見せるためにクリノリンを使ったファッションが流行しています。 右上は極端な風刺にも見えますが、巨大化したクリノリンによって引っかかりによる転倒、暖炉などの火がスカートに引火することによる火傷など、事故も多発しています。一説には年間3,000人がクリノリンによる事故で死亡し、2万人が事故に遭ったと言われており、実際にかなりボリュームあるドレスだったと推測できます。 |
そんなわけで、この時代はボリュームあるドレスに負けないジュエリーが必要となり、ミッド・ヴィクトリアン独特のゴテゴテした成金趣味のジュエリーが大流行したのです。 |
ヴィクトリアンも中期になると産業革命によって台頭してきた中産階級の需要によって、ジュエリーの大衆化も始まっているので、派手なだけの安物も目立ち始めます。 高級品、低級品に共通して言えるのが、とにかくボテっとして派手に見えることです。 |
左:ノルウェー王太子ホーコン7世、中央:イギリス王太子妃アレクサンドラ、右:ノルウェー王太子妃モード(1896年) | しかしながら『エレガント・サーベル』でご説明した通り、1861年にアルバート王配が崩御して以降ヴィクトリア女王は喪に服して引き籠もりました。 これによってヴィクトリアン後期はファッションリーダーがヴィクトリア女王夫妻から皇太子バーティ(エドワード7世)夫妻へと移っていきます。 皇太子妃アレクサンドラは6人の子供を産んでいるはずですが、左の写真の通り、52歳にしてこれだけの細いウエストを保つほどスタイルが良いです。 |
ノルウェー王妃モード(1869-1938年) | ヴィクトリアン後期にファッションリーダーとして最も注目を集めそうな年代のロイヤルファミリーと言えば、エドワード7世とアレクサンドラの子供たち世代が相当します。 不摂生な生活をしたわけでもないのに太ると嘆いていたヴィクトリア女王の遺伝子はどこへ行ったのやら、エドワード7世の末娘モードもこのスタイルの良さです。 |
『真珠の花』 エトルスカン・スタイル ブローチ イギリス 1870〜1880年頃 SOLD |
その一例がこのような横長のスタイルのブローチです。 横長になっただけでも、ミッド・ヴィクトリアンのジュエリーには見ることがなかった洗練された雰囲気がどことなく漂ってきます。 |
『ケルトの聖火』 ケルティック・スタイル アーツ&クラフツ ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
エトラスカン・スタイルのブローチだけでなく、ケルティック・スタイルの作品など、様々なジャンルで横長スタイルのブローチが制作されています。 |
『Demantoid Flower』 デマントイド・ガーネット&ダイヤモンド バーブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
ここまで洗練されると、エドワーディアンやアールデコの時代の足音も聞こえてきますね。 |
バー・ブローチを着用したヴィクトリア時代の女性 | ちなみにヴィクトリア時代はバー・ブローチをどのように使っていたのかというと、首の詰まった服の襟元に水平に着けていたようです。 |
バー・ブローチを着用したヴィクトリア時代の女性 | |
やはり横長というスタイルは共通しながらも、モチーフは様々だったようです。流行とは言っても、同じブランドや同じモチーフ、同じデザインのような個性がないジュエリーではなくそれぞれに個性があり、それぞれにとっての宝物で最大限オシャレを楽しんでいることが伝わってきますね。 |
バー・ブローチを着用したヴィクトリア時代の女性 | |
それぞれの個性で重ね付けを楽しんだりもしていたようです。現代では私自身もそうでしたが、見るに堪えない安っぽく無個性な現代ジュエリーのせいで、ジュエリー自体に興味を持つ人も少なくなっているようです。そのせいでジュエリーを必要としない洋服が主流となっています。優れたジュエリーが作られていた時代は洋服だけではファッションは完成せず、ジュエリーと組み合わせて初めて完成するものだったと想像します。センスに自信がない人には大変な時代ですが、センスに自信がある人にとってはとても楽しい時代だったに違いありません。 |
-アールデコにおけるバー・ブローチの流行-
アールデコ ピンクスピネル&パパラチア バーブローチ ヨーロッパ 1930年頃 SOLD |
宝石を生かすスタイルの作品が多いのは、画期的な新素材プラチナがジュエリーの一般市場に普及した影響が大きいです。 南アフリカのダイヤモンドラッシュ(※参考)によって1870年代以降は上質なダイヤモンドがたくさんヨーロッパにもたらされました。 |
女性がコルセットから解放されたアールデコの時代ともなると、19世紀とはファッションもかなり変化しています。 アールデコの時代にバー・ブローチがどのようなファッションでコーディネートしていたかは分かりませんでしたが、現代の女性と変わらないファッションで楽しんでいたのかもしれません。 ジャケットの襟に付けてもカッコ良いです。 |
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アールデコの女性(1920年代) |
ストールに付けたり、ドレープのある服のポイントに付けても合いそうです。狂騒の時代と言われる、若くエネルギーに溢れる女性たちが人生を謳歌したこの時代の女性たちも、それぞれ個性溢れるファッションを楽しんでいることが伝わってきます。どんな時代のどんなファッションでも、センスさえあればバー・ブローチは楽しいアイテムだったに違いありません。 実はGenもスタイリッシュなバー・ブローチは一番好きなアイテムらしく、これまでもバー・ブローチが入荷するたびに「これをカッコ良い女性にスタイリッシュに使いこなして欲しい。」、「こういうものを選べる人は間違いなくセンスが良い。」、「バー・ブローチを使いこなせる女性が好き。」なんて言うくらいの熱の入れようでした(笑) |
2.ゴールドからプラチナへと主流が移る過渡期の作品
ヴィクトリアン後期とアールデコのバー・ブローチの特徴をご説明しましたが、このアクアマリンのバー・ブローチはエドワーディアンの作品です。高級ジュエリーのメインの素材がゴールドからプラチナに移る過渡期とも言えるエドワーディアンは、パッと見た時にデザイン的には感覚的にアールデコに近くても、この時代ならではの特徴があったりします。 |
-プラチナとゴールドを一緒に使う面白さ-
-プラチナ細工×金細工 コラボレーションの魅力-
ゴールド バー・ブローチ フランス 1910年頃 天然真珠、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、ローズカットダイヤモンド、18ctゴールド、プラチナ SOLD |
正面から見るとオールプラチナのジュエリーに見えるようなデザインのジュエリーだけでなく、一部だけにプラチナがデザインされた作品もあります。 高級素材プラチナが強調されるデザインなので、当時の人たちにとっては一目でかなりお金のかかった贅沢なものだと分かったはずです。同時代に史上最も評価が高かった天然真珠(※参考)が4つも使われていることからも、このバー・ブローチが高級品として特別に作られたことが分かります。 |
そのような素材の観点からの面白さもあるのですが、それ以上に面白いのが細工物としての魅力です。 プラチナが一般的になり、宝石ジュエリーが主流となると金細工のジュエリーは時代遅れのスタイルとして制作されなくなり、優れた技術は儚くも失われてしまいます。 |
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エドワーディアンでは19世紀の優れた金細工技術がまだ残っており、この作品にも高級品にしか見られない素晴らしいマット仕上げと、見事な透かしの金細工が施されています。そこにプラチナならではのダイヤモンドのセッティングやミルワークが加わって、実に面白いのです。 |
カリブレカット・サファイア バー・ブローチ |
カリブレカットという特殊な石留のサファイアもその1つですが、それ以外に正面からは見えないブローチのサイドにご注目ください。 |
こんなに細い部分に丁寧に彫金が施されています! |
繊細な彫金細工は拡大すると繊細なイメージが伝わらないのであまり拡大したくない気もしますが、厚さ僅か2mmしかない細いバー・ブローチにこれだけの彫金を施すなんて驚異的な技です。しかも正面ではなく見えないサイドの部分なのに、これこそ美意識が高く、尚且つ細工物の価値を理解できる人だけのためのハイクラスのジュエリーだと嬉しくなります。 |
ゴールドとプラチナのフレームのそれぞれ緻密で素晴らしいミルワークを見ても、このバー・ブローチがいかに高級なものとして作られたかが伝わってきます。 |
-傑出した作品が生み出されやすい『過渡期』-
ヴィクトリアン後期 | エドワーディアン | アールデコ |
ジュエリーはファッションの流行が反映されるため、デザインにも時代ごとに特徴があります。ヴィクトリアンは多様性に富む時代だったので『RAMS HEAD』だけでヴィクトリアン後期を表せるわけではありませんが、優れた金細工を生かしたクラシックな雰囲気が代表的な特徴の1つです。 『エレガント・ブルー』は、まさにエドワーディアンらしさを体現した作品です。洗練された雰囲気、曲線の美しさがありながらもアール・ヌーヴォーの退廃的な雰囲気とは異なる、躍動感も感じる勢いのあるデザイン。そして最後の王侯貴族の時代を感じる、洗練された雰囲気と気品。 アールデコは王侯貴族ではなく新しい層が世の中を牽引する勢いある、新しい時代らしい勢いを感じるスタイリッシュで未来的な直線デザインが特徴です。 それぞれがそれぞれの時代らしさを反映した作品です。でも、時代がすべてがスイッチのように切り替わるわけではありません。時代区分の定義は後生の人たちによる後付けに過ぎません。 |
-ヴィクトリアンからエドワーディアンへの過渡期のジュエリー-
ヴィクトリアン〜エドワーディアンの過渡期のジュエリー | |
エドワーディアンからアールデコに移り変わる過渡期のジュエリーには、作りはエドワーディアンながらデザインにアールデコの特徴として現れていましたが、ヴィクトリアンからエドワーディアンに移り変わる過渡期のジュエリーの特徴の1つが優れた金細工とプラチナ細工のコラボレーションです。 |
今回のアクアマリンのバー・ブローチはまさにその過渡期の作品なのです。 |
-プラチナ細工の魅力-
正面から見ると、ゴールドバックが特徴の通常のエドワーディアン・ジュエリー同様プラチナジュエリーに見えます。バー・ブローチの両側は敢えてミルなどの装飾を一切施さず、シンプルなデザインにしてあるからこそプラチナの硬質な白い輝きが強調され、当時の最高級素材プラチナが目立つようになっています。ちなみにアクアマリンのフレームがゴールドなのは、当時カラーストーンにはゴールドを使うのが慣習だったからです。 |
シンプルなデザインの両サイドとは打って変わって、アクアマリンの両脇のプラチナ・ワークは実に丁寧な細工が施されています。透かしのデザインやミル・ワーク、ローズカット・ダイヤモンドの丁寧な石留がプラチナならではの美しさを感じます。 |
エドワーディアンはプラチナにゴールドバックの作りが特徴で、バーブローチの両サイドは通常のプラチナにゴールドバックの作りなのですが、実はこのバー・ブローチのアクアマリン両脇部分はオール・プラチナの作りになっています。 |
普通のゴールドバックのエドワーディアン・ジュエリーよりも、この部分はプラチナが厚いのです。 |
裏側から見ると、この部分だけはゴールドバックではなく薄いプラチナの板だけでできていることが分かります。通常はあり得ない作りなのです。 |
この作品はアクアマリンもかなり良い石が使われているのですが、脇石のローズカットダイヤモンドもクリアでカットも美しい上質な石が使われています。ゴールドバックにするとどうしても金の色を反映し、ダイヤモンドが黄ばんで見えることがあります。それを嫌い、わざわざクリアなダイヤモンドが完璧に白く見えるよう、超高額なプラチナを贅沢に板の厚さで使ってダイヤモンドをセッティングしたのです。 |
『シャンパーニュ』 雫型オパール ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
詳細は『目眩ましのダイヤモンド』でご説明していますが、同じ思想が見られるのが同じくエドワーディアンに制作されたこの『シャンパーニュ』です。 |
このバー・ブローチのローズカットダイヤモンドも裏側にゴールドがないので、クリアな白い輝きが見事です。メインであるアクアマリンの美しさを邪魔せぬよう、敢えて迫力ある煌めきが魅力であるオールドヨーロピアン・カットは使わず、透明感と繊細な輝きが魅力のローズカット・ダイヤモンドを名脇役として使用しているのです。 |
プラチナの薄い板だからこそ、すかし細工の中央部分を少しだけ持ち上げてアクアマリンのフレームに取り付けてあります。 2次元で表現する画像ではその魅力は伝わりにくいのですが、実物を見るとこのちょっとした立体感が全体の雰囲気に高級感を与えているのです。 |
プラチナに打たれたミルの美しさも、エドワーディアンからアールデコの最高水準と断言出来る見事さです。 手間が2倍かかるため特別な高級品にしか見られない、ミルが二重になったダブル・ミルも施されています。 |
両サイドのシンプルな部分と、中央のプラチナ板を使った見事な細工部分を直接連結してしまうのではなく、さらにプラチナを使って段差を付けたデザインにしてあるのが贅沢ですね。現代のプラチナのイメージからすると何てことないプラスアルファなのですが、当時のプラチナ価格の常識から考えると仰天するような贅沢デザインなのです。この部分1つとってみても、それほどの高級品として作られた証です。 |
-金細工の魅力-
画期的な新素材プラチナの魅力を最大限に表現したのが正面部分でした。これは身に着けたときに見る人たちを感嘆させたことでしょう。一方で優れた美意識を持つ持ち主の自己満足、或いはチラリと見えた時に気づくような鋭い洞察力と高い美意識を持つ人をも感嘆させるために施されたのが、このサイドの見事な金細工です。 |
この部分に彫金が施されている作品自体が相当珍しいのですが、そのクオリティも群を抜いた見事なものです。 |
先ほどご紹介したカリブレカット・サファイアのバー・ブローチも、彫金が施されたかなりの高級品でした。拡大するとあまり繊細には見えなくなってしまいますが、細工好きのGENに「これは僕がつけたいくらい好きです♪」と言わしめるほどの極上細工の作品なのです。 |
まだ市場が枯渇傾向になく、良いものが豊富に出ていた時期でもこれほどの宝物はありませんでした。しかもサイドに彫金があるバー・ブローチ自体がいつぶりだろうというくらい久しぶりなのだそうです。 市場が枯渇した結果ロンドンのハイストリートからは昔からあった高級アンティークジュエリー専門店がすべて撤退し、アンティークジュエリーの店を標榜しながらもヴィンテージや中古を売る店ばかりとなったこの時代において、これほど見事なバー・ブローチをヘリテイジでご紹介できるなんて思わず嬉しくてニヤニヤしてしまいます。悪運が強い自信は昔からあったのですが、宝物運も相当強そうです(笑) |
これだけ繊細な彫金も、やはり大きく拡大すると肉眼で見た時に感じる繊細美が今一つ感じられません。でも、実物をご覧になって頂ければ予想以上の繊細な美しさに驚き、感動していただけると確信しています。 |
浅い彫りではなく深さのある彫りなので、浮き上がる黄金の彫金模様がとても格調高い雰囲気を醸し出します。こんな細い箇所にこれだけの彫金を施すなんて、驚くべき職人芸です。 |
-他の時代のアクアマリンのバー・ブローチとの比較-
『夢叶う青いバラとアクアマリン』 アクアマリン ゴールド ブローチ ヨーロッパ 1880年頃 SOLD |
『夢叶う青いバラとアクアマリン』はヴィクトリアンの素晴らしいアクアマリンのバー・ブローチです。 金を贅沢に使い、黄金で作ったとは思えない見事な造形のバラの花束はまさにヴィクトリアンならではの芸術作品です。エドワーディアンのバー・ブローチと比較しても甲乙付け難く、選ぶにしてもどちらのデザインが好みかというレベルだと思います。 同じアクアマリンのバー・ブローチでも、雰囲気はやはり全然違いますね。 |
同じエドワーディアンでも、これは15ctゴールドの簡素な作りのバー・ブローチです。 こういうレベルの細工であれば現代でも作ることは容易です。 ダメージの心配がない新品で買う方がマシです。 |
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【参考】エドワーディアンのアクアマリンのバー・ブローチ |
【参考】エドワーディアンのアクアマリンのバー・ブローチ |
ヘリテイジはハイクラス以上のアンティークジュエリーだけを厳選してご紹介していますが、エドワーディアンの時代といえども市場にある大半は、このような簡素な作りの安物なのです。安物はたくさん作られているので、ある意味これが普通の『アンティークジュエリー』です。 とは言えアンティークジュエリーの本当の魅力は、現代では作ることが不可能な、高い技術を持つ職人の技術と手間をかけた細工です。それこそ1つの芸術作品と言えるレベルの細工です。だからどんなに古い本物のアンティークジュエリーであっても、それがないジュエリーには魅力を感じられないのでヘリテイジでは扱いません。 |
これもそこら辺で安いパーツを買ってきて、はんだや接着剤でくっつければ私でも作れます。 |
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【参考】アールデコのアクアマリンのバー・ブローチ |
【参考】ヴィンテージ〜中古のアクアマリンのバー・ブローチ | |
優れたアンティークジュエリーは数が限られており、だいたいは少し古くてもこのようなどれも似たり寄ったりの簡素なものだらけです。でも石ころが付いていれば幸せという人にはこれで十分なのです。価値が分からない細工が施されて高くなるより、簡素な作りでお安い方がそういう人たちには魅力があるのです。 |
そうは言っても、古の時代の王侯貴族でも真に細工の価値を理解できる人たちは少数派だったからこそ、これだけの細工のジュエリーは滅多に存在しないのです。最高のプラチナワークと最高のゴールドワークの見事なコラボレーション。これぞヴィクトリアンからエドワーディアンに時代が移り変わる過渡期ならではの、時代が生み出した奇跡の芸術作品なのです。分かる人にだけは、堪らない魅力がありますよね。 |
3. 大きくて美しいブルーの極上のアクアマリン
先ほど簡素な作りの安物アクアマリン・バー・ブローチをいくつか並べてみましたが、安物にはそれなりの小さくて色が汚く、インクリュージョンも多く、カットも悪くて煌めきが良くない石しか使われていないことに気づいていただけたでしょうか。それに比べて見事な作りのこのバー・ブローチは、アクアマリンも見事です。 『海の煌めき』でご説明した通り、天然で美しいアクアマリンは非常に貴重です。同じベリル(緑柱石)系のヘリオドールやグリーンベリル等を加熱し、アクアマリンに変成させて高く販売することも宝石業界では普通です。加熱すると黄ばみが抜け、700度くらいで綺麗な青になります。加熱しすぎると濁ります。 |
アクアマリンの原石 "Beryl-209736" ©Rob Lavinsky, iRocks.com(before March 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
元々アクアマリン自体、天然で産出されても殆どは淡い青しか呈しません。 また、黄ばみがあることも少なくありません。 このためアクアマリンも加熱処理し、黄ばみを除去しつつ青の色を濃くするのが当たり前になっています。 |
加熱して当然という状況なので、鑑別書には"無処理"が記されないようになっています。業界の都合によって鑑別書の基準なんて簡単に変わるのです。鑑別書はさも消費者を守るためにあるが如く言われていますが、結局は業界を守るためにあるのです。鑑別書に記されることがないため、結局市場の何割が加熱処理されているのかすら誰にも把握できない状況です。 700℃くらいで加熱すると、かなりブルーを強く感じることはできますが、不自然な印象は否めません。人工的な違和感があるのです。それでも現代ジュエリーでこのような青が通常のアクアマリンの色と思い込まされているため、人によってはアンティークジュエリーの自然なアクアマリン・ブルーは綺麗ではないと感じる人もいるかもしれません。 |
このアクアマリンは、かつて見たことがないほど純粋で美しいブルーを呈しています。 |
石を覗き見ると、まるで澄み切ったアクアマリンの海の中を見ているようです。 |
そしてカットの加減なのかこの石特有の性質なのか、光の加減によってファイアがよく出る石でもあります。 アンティークの上質なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドではファイアは時折見ることがありますが、ブルーのアクアマリンでこれほどファイアを感じるのは初めてです。 |
現代の人工処理された死んだようなアクアマリンでは感じることができない、自然な美しさがあります。こういう石であれば、大自然のエネルギーのようなものもそこはかとなく感じます。これこそ天然の石ならではの魅力です。 |
このアクアマリンの魅力はそれだけにとどまりません。眩しい太陽の下で見る、アクアマリンの海のような煌めき。波の動きに合わせて海面がキラキラと眩しく煌めくような美しさがこのアクアマリンにはあります。 |
アクアマリンはその独特のブルーが魅力ですが、『海の煌めき』もそうだったように石の質とカットによっては非常によく煌めくのです。 |
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『海の煌めき』 アーツ&クラフツ アクアマリン ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
どこかにぶつけたり摩耗したりしやすいリングの場合、どうしても100年以上の使用によって多少なりとも宝石は表面にダメージがある場合が殆どです。 でもこれはブローチなので、4大宝石ほどモース硬度が高くないアクアマリンでも、摩耗のないベストコンディションで現代も存在できるのです。 だからこそ、これだけ美しく煌めきを放つことができるのです♪ |
素晴らしいですね。 一切の汚染がない、絶海の孤島の清らかな海を思わせる清涼感溢れる水色は、これぞアクアマリンと感動します。 |
GENもこれだけの美しさと大きさを両立したアクアマリンは初めてだと感動していました。これだけのアクアマリンだからこそ、エドワーディアン最高のプラチナワークとゴールドワークによる極上細工で作るバー・ブローチに相応しい宝石だったと言えるのです。 |
こういう宝物は見ているだけでも楽しくてしょうがありません♪ |
ブローチの金具
ブローチの金具は安全ピンのような珍しい物で、これは当時の最先端の金具として作られたのかも知れません。 |
スタイリッシュなバー・ブローチはもちろんジャケットとの相性バッチリです。 |
ワンピースのアクセントとして使ったり、シンプルなニットとの相性も良さそうです。もちろんショールなどの小物と使ってもオシャレです。 バー・ブローチと言ってもシンプル過ぎず、存在感あるアクアマリンが良いアクセントになっているので、今までバー・ブローチに苦手意識があった方でも楽しく使っていただきやすいと思います♪ |