No.00314 麗しのマデイラ

エドワーディアンのマデイラ・シトリンのエキゾチックな最高級ペンダント

シトリン(黄水晶)は、ジョージアンの王侯貴族が最も華やかな場で使うパリュールなどに使われるように、稀少価値の高い宝石です。その中でも特に美しく、稀少性の高い石がマデイラ・シトリンです。現代では加熱石が普及した結果、本物の宝石の稀少価値が分かりにくくなっていますが、アンティークでも滅多に見ることがないのがマデイラ・シトリンを使ったハイジュエリーです。

 

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります
『麗しのマデイラ』
エドワーディアン マデイラ・シトリン ペンダント

イギリス 1910年頃
マデイラ・シトリン、ローズカット・ダイヤモンド、プラチナ&ゴールド
3,7cm×1,6cm
重量 4,6g(本体のみ)
アンティーク プラチナチェーン 42cm
SOLD

その豊かな風味で古の上流階級を魅了した、マデイラ・ワインのような美しい色彩と照り艶を持つマデイラ・シトリンの最高級ペンダントです。大きさと質を備えた最高級のマデイラ・シトリンに相応しい、エドワーディアンの最高のデザインと細工が施されており、南国のエキゾチックな雰囲気と優美さ、華やかさを備えた唯一無二のジュエリーとなっています。深い色彩は黒背景でも、暗い場所でも鮮やかさを失うことなく、最高のカットによってどんなシーンでも美しく光り輝き、見る者を魅了します。

 

この宝物のポイント

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
  1. 魅力あふれる色彩を持つマデイラ・シトリン
    1. 稀少な宝石『シトリン』
    2. マデイラの名を与えられた極上色のシトリン
  2. 極上のマデイラ・シトリンならではの優れたデザイン
    1. 想像力を掻き立てるエキゾチックな色彩
    2. メインストーンを惹き立てる貴族らしい優美なデザイン
    3. センスの良いダイヤモンド使い
  3. エドワーディアンのトップクラスの作り
    1. 完璧なグレイン系の彫金細工
    2. 強く輝く磨き上げられたプラチナ・フレーム
    3. 宝石に光を取り込む丁寧なセッティング

 

1. 魅力あふれる色彩を持つマデイラ・シトリン

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

この宝石は極上の色彩を持つ、大きなマデイラ・シトリンです。マデイラ・シトリンは極めて稀少な宝石であるため、ご紹介できる機会が滅多にありません。依託販売で戻ってきたものを除けば10年以上ぶりです。マデイラ・シトリンは、アンティークの時代の王侯貴族を魅了する強い魅力を持っていました。

1-1. 希少な宝石『シトリン』

1-1-1. 現代のシトリンのイメージ

BOUCHERON PARIS シトリンのセルパンボエムシリーズ(一部)
ロングネックレス
¥7,062,000-(2021.5現在)
【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME LONG NECKLACE, 16 MOTIFS
イヤリング ラージ
¥1,393,200-(2018.11現在)
【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME SLLEPERS, L MOTIF
トワエモア リング
¥660,000-(2021.5現在)
【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME TWO-STONE RING, S MOTIF

現代ジュエリー市場に、シトリンは大量に溢れています。それこそ全世界の顧客に向けて、大量生産した同じ品質のものを販売できるほどです。

ジュエリー アクセサリー パワーストーン
イヤリング(¥2,006,400-)
【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME PENDANT EARRINGS, XS AND L MOTIFS
【参考】シルバー・ペンダント 【参考】ルース

安っぽいアクセサリー市場にすら数限りなく溢れかえっています。それだけでなく、パワーストーン市場にすらシトリンは当たり前に出回っています。このような状況であるため、現代人にはシトリンが稀少価値の高い宝石というイメージがありません。なぜこのような状況になっているのでしょうか。

1-1-2. 現代市場の詐欺的な状況

石英の結晶(ブラジル産)"Quartz Bresil" ©Didier Descouens(23 January 2010)/Adapted/CC BY-SA 4.0

シトリンは水晶の一種です。

天然水晶(ロッククリスタル)は、二酸化ケイ素(SiO2)が結晶してできた宝石です

アメジスト
(紫水晶)
シトリン
(黄水晶)
ローズクォーツ
(紅水晶)
スモーキークォーツ(煙水晶) グリーンクォーツ
(緑水晶)
©Didier Descouens(2009)/Adapted/CC BY-SA 4.0 ©Robert M. Lavinsky(2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0

インクリュージョンの違いによって様々な色を呈し、それぞれ名称が付けられています。このロッククリスタル系の石の中でも特に稀少性が高く、品質が良いものは王侯貴族の特別なハイジュエリーに使われてきた歴史があるのがシトリン(黄水晶)です。

天然シトリン 非加熱 黄水晶 ジョージアン フランス イヤリング アンティーク・ジュエリー ネックレスシトリン ネックレス&イヤクリップ
イギリスorフランス 19世紀初期 
SOLD

ジョージアンの時代の王侯貴族の、最も華やかなシーンで使用されるジュエリーにメインストーンとして選ばれるほど、シトリンは超高級宝石だったのです。

1点物の最高級品
(ジョージアンの王侯貴族用)
量産の現代ブランド品
(たくさんいる庶民用)
天然シトリン 非加熱 黄水晶 ジョージアン フランス イヤリング アンティーク・ジュエリー ネックレスシトリン ネックレス&イヤクリップ
イギリスorフランス 19世紀初期 
SOLD
ロングネックレス
ブシュロン・パリ 現代
¥7,062,000-(2021.5現在)
【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME LONG NECKLACE, 16 MOTIFS
イヤリング
ブシュロン・パリ 現代
¥2,006,400-(2021.5現在)
【引用】BOUCHERON / SERPENT BOHEME PENDANT EARRINGS, XS AND L MOTIFS

ごく限られた王侯貴族が、その富と権力を象徴するための宝石として使われていたシトリンが、今では庶民でも買うことのできるありふれたものとなっています。ダイヤモンドのように、巨大鉱床が発見されて稀少性がなくなってしまったからでしょうか。実はそうではありません。

鉱床が新しく発見されたという事実はありますが、現代市場にシトリンが溢れかえる理由はそれではありません。

実は現代のシトリンの大半は、天然シトリンではありません。特定の温度で加熱すると、アメジストの紫色を黄色に変化させることができます。

スモーキークォーツ(煙水晶)"Smoky-quartz-TUCQTZ09-03-arkenstone-irocks" ©Rob Lavinsky(1 January 2010)/Adapted/CC BY 3.0

また、水晶は合成技術が確立しているのでシトリンそのものを合成することもあれば、スモーキークォーツも加熱処理してシトリンとして販売するケースも度々あるそうです。

無色透明なロッククリスタルに放射線コバルト69を照射し、黄変させてシトリンにする手法もあります。

【参考】天然のシトリンとして販売されているピアス&ペンダントのセット(現代)

正確な割合は誰にも分かりませんが、業者の感覚では最低でも95%以上はこのような加熱アメジストを主としたフェイク・シトリンだと言われています。

天然のアメジストを使っているから、天然石と称しても嘘ではないというやり方で販売していることもしばしばあります。
"天然の定義"を擦り合わせておかないと、「勝手に勘違いなさっただけ。」と言われてお仕舞いです。まさに詐欺的です(笑)

【参考】高級ブランドのシトリン・リング(現代)

まあでも、買う方が悪いです。

購買者側の質が落ちたからアンティークジュエリーのようなジュエリー制作ができなくなってしまいましたし、今でも質が年々悪くなっています。

「高級ブランドや、それなりの値段のものは大丈夫では?」と言う人もいますが、尋ねるとその根拠を示す人はいません。皆さん、想像で主張されるだけでした。

【参考】高級ブランドのシトリン・リング(現代)

主張するなら確認して来てくれれば嬉しいのですが、主張する人に限ってそういう努力はしたがらない方が100%です。

天然のままで美しい石であれば、それだけでも稀少で高い価値があります。

他と差別化する、極めて重要なポイントとなります。商品スペックの表示に書かないなんて、とても考えられません。

【参考】高級ブランドのシトリン・リング(現代)

デザインや細工がメインのジュエリーならばまだしも、ろくにデザインも細工も無く"石の価値だけ"のジュエリーであるにも関わらず、ただ「シトリン」と説明されるだけです。

アメジストを加熱した石なのか、合成石ではなく天然石なのか、何の言及もありません。

価値ある石であればPRすべきですし、高級ブランドに限ってしないなんてことは考えられません。

故に、私はクロだと推定しています。どの高級ブランドでも同じです。

この程度の思考すらしない人が、こういうものに平気で一千万円ほどのお金を出し、市場が成立しているわけです。

まあ、本当に高級ジュエリーが欲しいと言うよりは高級ブランド店でチヤホヤされたいだけで、モノを買う分、ホストクラブなどに行くより罪悪感が少ないという心理かもしれません。

ちやほやされるイメージ

よほどの人を除き、タダでチヤホヤしてもらえることはあり得ません。そして、チヤホヤ上手のプロにチヤホヤしてもらうのはお金がかかります。

高級ブランドジュエリーはモノ自体は原価が安く、ろくに価値がありませんが、店構えやプロモーションなどによるブランド・イメージの維持や、チヤホヤ要員の人件費に経費がかかるので、全体として見れば適正価格と言えます。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

どこで何を買うのかは、お金を何に使いたいか次第です。

良いものが欲しい、出したお金はモノの価値であって欲しいと思えばHERITAGEのように人を雇わず、店やHPにも経費をかけない店を選ぶべきです。

ちやほやされて気持ち良くなる"体験重視型"の方は、高級ブランド店に行くのが正解です。

現代のジュエリー業界も着物業界もやり方は同じだと思うのですが、サラリーマン時代に現代の着物屋に行った時、チヤホヤ&ヨイショが凄かったことを記憶しています。

店員さんがゾロゾロやってきて、その人件費のかけ方に驚いたのと、あからさまなヨイショに私はテンションが下がったのですが、人によっては褒めてもらって嬉しいようです。

人を笑顔にし、幸せを販売しているとも言えるので、ダメな商売だとは思いません。ある意味、素晴らしいことです。

もし、買う側は出したお金の内訳がモノ代金ではなくチヤホヤ代だと認識できておらず、モノにそれだけの価値があると信じ込んでいる場合は目も当てられませんが・・。

1000万円以上もする"シトリン"のネックレスも、何カラットという重量の説明があるだけで、合成か加熱石か天然石かは説明されずに販売されているような状況です。そういう物を買う成金嗜好の人たちはカラット数しか気にしないのでこうなるのでしょうけれど、大きくても質が悪ければ価値はないんですけどね。

1-1-3. 現代市場で見られる通常の天然シトリン

【参考】ブラジル産の天然シトリン

これはブラジル産の天然シトリンです。アンティークの最高級の天然シトリンや、現代の加熱シトリンの濃い色に慣れていると、「本当にシトリン?」と感じられるかもしれません。

でも、大半はこのような感じです。

色が薄すぎたり、スモーキー・クォーツと言うべきではと感じる色彩だったりです。

非加熱の天然シトリンではあっても、美しさやありがたさは感じにくいです。

故にジュエリー&アクセサリー業界も、パワーストーン業界も加熱アメジストを率先して取り扱うのです。

パワーストーン業界でも主張は分かれています。「加熱された石でも、元々の石が持っていたポテンシャルを引き出すお手伝いをしただけで、"天然(由来)の石"であることには変わりないから問題ない。」と主張する業者もいれば、「加熱された石に本当に力があるとは言えない。」、「天然のままの石にこそ力がある。」と主張する業者もいます。

業者の言う『力』が一体何なのか私には分かりかねますが、それぞれが売って儲けたいものに合わせて主張しているようです。

【参考】天然アメジストのビーズ 【参考】アメジストを加熱した「シトリン」ビーズ

まあでも、一般消費者なんてそもそも「天然石に対する各種処理は常識」ということすら知りません。「 一部はやっているのかもしれないけれど、殆どは天然のものでしょう?」くらいに思っている人が殆どです。

故に、単純に見た目が綺麗っぽいかどうかだけで選ぶケースが大半です。アメジストを加熱したシトリンはやや赤みがかった、見栄えする鮮やかな黄色に変化します。こちらの方が天然シトリンよりウケが良いため、市場に出回る95%以上はフェイク・シトリンとなるのです。

パワーストーンと違って、見た目が重要視されるジュエリーやアクセサリー市場では非加熱シトリンはほぼ見ることはありません。それはこのような理由に拠るのです。

市場に溢れ返り過ぎてシトリンが稀少宝石だと感じられなくなっていますが、正しく理解すると、今でもやはり天然のままで美しい色を持つ非加熱のシトリンは、極めて稀少価値の高い特別な宝石であることが分かるのです。

1-2. マデイラの名を与えられた極上色のシトリン

石英の結晶(ブラジル産) "Quartz Bresil" ©Didier Descouens(23 January 2010)/Adapted/CC BY-SA 4.0

天然水晶の成長は非常にゆっくりなもので、早くても100年かかって1mm程度しか成長しません。故に2cm以上の大きさになると、極端に少なくなります。

黄水晶であるシトリンにも同じことが言えます。ただでさえ水晶類の中でも稀少性の高いシトリンで、ジュエリーとして使用できる大きさと質を兼ね備えたものを手に入れるのはとても大変なことです。2cmの結晶が得られたとしても、その全てが使用できるわけでもありません。

シトリン ブローチ アンティークジュエリー レモンイエロー イギリス『春陽のシトリン』
シトリン ブローチ
イギリス 1870年頃
SOLD

故に、シトリンの価値を決めるのは大きさと質です。

質は色、インクリュージョン、カット、照りの良さや輝きなどの複合となります。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー シトリン ブローチ&ペンダント アンティーク・ジュエリー シトリン ブローチ アンティーク・ジュエリー トルコ石 アクアマリン ピンクトパーズ

これらはいずれもハイジュエリーとして作られたもので、シトリンもかなり大きさがあります。

色に関しては好みと言えますが、大半の天然シトリンが薄い色しか持っていないため、濃く鮮やかな色ほど稀少性が上がるので値段は高くなります。

シトリン ブローチ アンティークジュエリー
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

1-2-1. シトリンの名の由来

シトロン "Lipari-Citrons (3)" ©Ji-Elle(23 May 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0

シトリン(citrine)の名は、ラテン語で『黄色』を意味するcitrinaに由来します。

Citrinaは柑橘類シトロン(citron)の名の元にもなっています。

シトロン シトリン・ムシクイ(Citrine warbler)

『シトリン』は色の名称であもり、レモン・イエローやグリーンがかった黄色、茶色みを帯びた黄色、オレンジに近い色まで、広い幅の黄色をカバーします。

シトロンの断面 "Zitronatszitrone" ©Richard Huber(27 February 2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 【参考】非加熱のブラジル産シトリン

黄色味を帯びた天然の水晶の中でも、美しいと感じることのできる綺麗なイエロー系の色彩を持つ石は極めて貴重です。

ジョージアンの非加熱シトリンのクロス・ネックレスシトリン 3way ネックレス&ペンダント
フランス 1830年頃
SOLD
だからこそ、そのような特別な石が『シトリン』と呼ばれ、華やかなジュエリーとして王侯貴族に愛されてきたのです。

1-2-2. 特別濃い色彩を持つ超貴重なシトリン

ジョージアンの非加熱シトリンのゴージャスなネックレス
ジョージアンの非加熱シトリンのゴージャスなピアスシトリン デミ・パリュール(ネックレス&ピアス)
フランス 19世紀初期
SOLD

シトリンをメインにしたハイジュエリーは、19世紀初期の王侯貴族の華やかな場で使うために作られたものが多いイメージがあります。

【参考】安物のアザミのシルバー・ネックレス(1910年頃)

一方で、20世紀に入ると決して高級品とは言えない、シルバー・アクセサリーにもシトリンをメインにしたものがたくさん見られるようになります。これには理由があります。

キュリー兄弟と両親後ろ左:ポール・ジャック・キュリー(1855-1941年)、後ろ右:弟のピエール・キュリー(1859-1906年)、手前は両親

1880年にフランスの物理学者ポール・ジャック・キュリーとピエール・キュリー兄弟によって、水晶の圧電効果が発見されました。

その結果、水晶振動子などへの使用を目的とした良質の水晶に対する産業需要が激増し、大規模採掘が行われるようになりました。

【参考】安物のアザミのシルバー・ブローチ 【参考】安物のシトリンのシルバー・ブローチ

それに伴い、同じ水晶系のアメジストやシトリンなども副産物として一定数が得られるようになり、安物にも使えるようになったのです。但し、同じ『シトリン』の名を持つ宝石でも、ジョージアンのジュエリーに使われているものとは全く質が異なることは一目でお分かりいただけるでしょう。

【参考】安物のアメジスト&シトリンのシルバー・ブローチ

成金と同様に、石の種類しか気にしない庶民向けの安物に、上質な石が使われることはまずありません。

故に安物ジュエリーやアクセサリーに使用されているシトリンは小さかったり、色があまり良くないなど、稀少価値のないものになります。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

以前よりも多くシトリンが供給されるようになった結果、20世紀に入ると王侯貴族にとって、ただ"上質なシトリン"というだけでは満足できなくなりました。

そんな時、教養と美意識の高い王侯貴族を魅了したのが、それまでに見たことがないような濃く鮮やかな、美しい色彩を持つ特別なシトリンでした。

マデイラシトリン アールデコ ブローチ アンティーク
アールデコ マデイラ・シトリン ブローチ
フランス 1920年頃
SOLD
この特別なシトリンは『マデイラ・シトリン』として別格視され、ごく少数の限られた上流階級にしか知られざる魅惑の宝石として、超特別なジュエリーに使用されたのです。
マデイラシトリン エドワーディアン ペンダント アンティークエドワーディアン マデイラ・シトリン ネックレス
イギリス 1910年頃
SOLD

マデイラ・シトリンを使ったエドワーディアンからアールデコにかけての特別なジュエリーは極めて少なく、これまでの45年間で今回が3点目です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

ジョージアンの時代とは桁違いの量のシトリンが採掘され、その中から石を選ぶことができたからこそ、これだけの美しい色彩を持つ大きなシトリンが幸運にも手に入ったのでしょう。

透明度が高く、大きさがあるノーマルなシトリンですら稀少価値が高いのですが、マデイラ・シトリンはまさにシトリンの頂点と言える別格の存在です。

1-2-3. マデイラの名を与えられたシトリン

リキュールやスピリッツと赤ちゃんトイプードルの小元太お酒と小元太Jr.
Waka&小元太Jr.のフォト日記『Bar HERITAGE』

お酒が好きな方ならば、マデイラ・シトリンの名称の由来がマデイラ・ワインであることはすぐに気づかれたかもしれません。

日本では、一般的には少しマニアックなお酒でしょうか。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー 照りの良さ、コックリとした深い色彩を持つこの宝石は、長い年月によって深みを増した上等のお酒を彷彿とさせます。
ロンドンのスーパーマーケット、ウェイトローズで購入したメロンとフランス産ブランデーWakaのフォト日記『ロンドンのスーパーマーケット(2) お酒とメロン』

ブランデーや紹興酒など、類似のお酒はたくさんあります。

それなのに、なぜマデイラ・ワインの名が選ばれたのでしょうか。

1-2-3-1. マデイラ・ワインとは
マデイラ・ワイン "Sercial Maderia" ©Agne27(2 December 2013)/Adapted/CC BY-SA 3.0

マデイラ・ワインはポルトガル領のマデイラ島で生産されるワインです。

ワインと名が付いていますが、左のボトルの19.5%というアルコール度数の記載からもご想像いただける通り、普通のワインではありません。

アルコールを添加した酒精強化ワインの1種で、シェリーやポートワインと並んで世界3大酒精強化ワインの1つとされています。

古典的搾汁方法 "Must" ©Nicubunu(20 October 2012, 15:58:44)/Adapted/CC BY-SA 3.0

今では本当の意味で、自然からの恵みをありがたく楽しむワインは少なくなってしまいました。

農薬や化学肥料の普及、効率化や大量生産が優先された結果、伝統的な方法で発酵させるのではなく、葡萄に酵母菌を添加して発酵させたり、砂糖やアルコール・香料を加えて作ることも少なくないようです。

しかしながら本来、ワインは葡萄の皮に住み着く天然の菌が、絞った後の葡萄ジュースの中で糖分を食べ、アルコールに転化するというアルコール発酵で作られます。

セイヨンの貴腐ワイン用の貴腐果(フランス・ソーテルヌ地方)

ならばメチャクチャ甘い、糖分タップリの果汁を使えばものすご〜くアルコール度数の高いワインができるかと言えば、そうではありません(笑)

発酵が進むにつれ、自ら作り出したアルコールによって酵母は活動が阻害されるため、自然発酵で到達できるアルコール度数には限界があるのです。

一升瓶とシルバーのトイプードル小元太小元太と純米酒(2007年12月)
Genと小元太のフォト日記『どっちも好き♪』より

自然発酵で到達できるアルコール度数が最も高いのは日本酒と言われていますが、それでも22%前後が限界と言われています。

そもそも、そこまで発酵させると糖分が殆どアルコールに変わって、醸造酒特有の甘みやうまみが消えてしまうので、奇を衒らったような物や事故的な物を除き、20%まで発酵を進めることはまずありません。

マデイラ・ワイン "Sercial Maderia"©y kawahara(11 June 2007, 04:29:06)/Adapted/CC BY 2.0

一般的なワインのアルコール度数は10〜13%程度という所でしょうか。

マデイラ・ワインは発酵の途中で蒸留酒を添加し、酵母を死滅させると共にアルコール度数を17%前後に調整します。

添加する蒸留酒は葡萄から作られた中性スピリッツで、通常のワインを何度も蒸留してアルコールを濃縮し、度数95%以上に高めたものです。

そこまでいくと、もはやエタノールと水の混合物に過ぎず、ほぼ無味無臭で無色の液体と言えます。

それなのに、マデイラ・ワインは赤ワインや白ワインを薄めたものとも異なる色をしています。

どういうことでしょうか。

1-2-3-2. 大航海とマデイラ産ワイン
マデイラ諸島の位置 "EU-Portugal with Madeira circled" ©NuclearVacuum(6 June 2013, 11:12:10)/Adapted/CC BY-SA 3.0

ポルトガル領マデイラ諸島は、緯度としてはモロッコのカサブランカと同じ位置にあります。最初に発見したのはフェニキア人とされ、古代ローマ時代からその存在は知られていましたが、ポルトガルによって植民が始まったのは、1419年にポルトガル船が漂着した翌年からです。

マデイラ島 "Canical" ©Froth82(4 August 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0

島なので漁業はもちろん盛んですが、15世紀以来、葡萄栽培が盛んで、マデイラ・ワインはマデイラ諸島最大の輸出品目になっています。

マデイラ島 "Madeira 19 2014" ©Bengt Nyman(13 January 2014, 14:59:07)/Adapted/CC BY 2.0

マデイラ島で葡萄の栽培に向いているのは、南部の標高330mから750mほどの場所です。南国のリゾート・アイランドと聞くと、一般には山の無いなだらかな地形を想像します。しかしながらマデイラ島の写真をいくつか見てみると、日本でよく見るような、山と海が近い海岸線になっています。

マデイラ島 " Ve?erní Funchal z p?ístavního mola " ©Zarco at Czech Wikipedia(May 2007)Adapted/CC BY-SA 3.0

住める平地がないので、傾斜の急な坂に住居が連なっている感じです。これは住むのはかなり大変そうです。葡萄も、その多くは山の斜面で栽培されています。

他の植物と共に栽培されるマデイラ島の葡萄 "Vinice Madeira Santana" ©Karel Vizner, GEUM(30 July 2008)Adapted/CC BY-SA 3.0

入植初期は小作人に貸し与える形で畑が作られたため、一般に畑の面積は狭く、機械化も進んでおらず、21世紀に入った現代でも人力に頼ることが多いそうです。山国日本と似ていますね。日本の段々畑も大規模化と機械化が難しく、人力に頼らざるを得ない作業は非常に重労働だと聞きます。

大航海時代の主な航路 "Age of Discovery explorations in English" ©Universalis(26 September 2014, 10:50:09)Adapted/CC BY-SA 4.0

そんな、大変な労力をかけて栽培された、美味しい葡萄で作ったマデイラ産ワインは世界を旅しました。ご覧の通り、海路が主だった時代、マデイラ諸島は重要な位置にあり、15世紀以降ヨーロッパとアメリカ大陸や喜望峰周り航路の中継基地として栄えました。この頃から、ワインが主要輸出品だったのです。

1-2-3-3. 偶然生まれたマデイラ・ワイン
交易のため積荷を下ろすポルトガル人(16-17世紀頃)

こうして世界各国で飲まれるようになったマデイラ産ワインでしたが、17世紀にインドの前哨基地への補給品として船積みされていたワインが、手違いで降ろし忘れるということがありました。

マデイラ・ワイン "Sercial Maderia" ©Agne27(2 December 2013)/Adapted/CC BY-SA 3.0

通常ならば「あ〜あ、やっちゃった〜。」ということで終わりですが、帰港後に飲んでみると、格段に風味が良くなっていたのです。

その風味の魅力は、なんとか再現しようと様々な試みがトライされたほどでした。

1-2-3-4. 人々を虜にした魅惑の高級ワイン
ポルトガルの帆船(狩野内膳 16-17世紀)

行って戻ってきて風味が良くなったということで、「高温多湿で絶え間なく揺れる船倉に保管するのと同じ環境を再現することがポイントである。」と考えられ、安直ですが最初の試みとしては帆船の船倉にバラスト代わりに詰め込まれ、目的地で買い手が見つからなければ生産者に戻されるという手法が取られました。

ポルトガルのキャラック船(狩野内膳 16-17世紀)

戻ってきたマデイラ産ワインは「世界を巡ったワイン」として、ポルトガルで高額で取引されました。高額の理由はその魅惑の風味もさることながら、かかってくる莫大なコストにありました。行って戻ってくるだけとは言っても、保管費用はタダではありません。そこら辺の倉庫でもお金はかかります。この時代の世界を周る船の貴重なスペースを占有するには、なおのことお金がかかります。

太陽光で加熱されるマデイラ・ワイン樽 "Madeira Winery" ©Martin Herbst(2004)Adapted/CC BY-SA 2.0 DE

当然の流れとして、マデイラ島内での再現が試行されました。機械的に船の揺れを再現する装置まで作られましたが、結局は温度こそが肝と判明しました。加熱と冷却を繰り返すプロセスが確立され、現代まで続いています。酒精強化が始まったのは18世紀中頃です。貯蔵効率や保存性を高めるため、品質安定のため、シェリーやポートワインの真似したなど諸説ありますが、その理由についてはよく分かっていません。

各年代のマデイラ・ワイン "Blandys Winery - Funchal, Madeira" ©Richard Gray(26 May 2009, 09:29:21)Adapted/CC BY 2.0

ただ、この酒精強化のお陰でマデイラ・ワインは超長期の熟成にも耐えられるようになったようです。時には20年から100年もの歳月をかけて低温加熱で熟成されます。仕込んでも仕上がるのは次世代か、さらに後の世代になってしまいますね。食いしん坊や飲んべえの食やお酒への情熱は並々ならぬものがあり、これくらい手間や時間をかけるのは当然あるでしょうね♪

各年代のマデイラ・ワイン "Vino D Oliveiras" ©Karel Vizner, Geum(30 July 2008)Adapted/CC BY-SA 3.0

生まれ年のヴィンテージ・ワインを戴くなんてこともありますが、1903年生まれ、今117歳くらいの方だと、そんな古いワインは手に入らないとお困りになるかもしれません。でも、マデイラ・ワインなら余裕です。170歳くらいの方でも大丈夫です!

特に古いものはコレクターズ・アイテムと化しており、恐ろしく高額なのと、値段分の美味しさがあるとも思えないのでただの投機の対象と化していますが、最も古いもので1780年までのヴィンテージの存在が知られています。空のボトルに関しては1715年のものが市場に存在するそうです。

1-2-3-5. 歴史にも大きな影響を与えたマデイラ・ワイン

マデイラ・ワイン・メーカーのペレイラ・ドリヴェイラの店内 "Funchal D Oliveiras inside 2016 2" ©Karelj(30 August 2016)Adapted/CC BY-SA 4.0

手間や時間を必要とするが故に、高級なワインとなったマデイラ・ワインでしたが、このワインにしかない極上の風味はたくさんの上流階級や富裕層を虜にしてきました。当然の結果として、歴史の中で重要な役割も果たしています。最も有名なのはアメリカの独立に於いてです。

ジョン・ハンコック(1736-1793年)

この人物をご存知でしょうか。

日本ではマイナーですが、アメリカでは知らない人はいないくらい有名人です。

アメリカの政治家ジョン・ハンコックで、アメリカ独立宣言に最初に署名した人物です。

1776年のアメリカ独立宣言のコピー(1823年) ジョン・ハンコックの署名

ハンコックの署名は、スタイリッシュな署名としてとても有名です。

確かに洒落たサインですね〜♪

トマス・ハンコック(1703-1764年)1730年、27歳頃
"Thomas Hancock prtrait" ©Cullen328(Jim Heaphy)(7 July 2011, 15:59:59)/Adapted/CC BY-SA 3.0
リディア・ヘンクマン・ハンコック(1766年)

そんな政治家として有名なハンコックですが、父親はハンコックが8歳の頃に亡くなったため、父方の叔父トマス・ハンコックとリディア・ヘンクマン・ハンコックに育てられました。

この叔父が只者ではなく、アメリカの13植民地全体を対象にした貿易ビジネスで儲けた、ニューイングランドで最も裕福な男性の1人でした。各種イギリス製品を輸入し、ラム酒、鯨油、魚などを輸出するハンコック家として知られていました。

ハンコックの邸宅の眺め(1768年)

叔父夫妻はハンコックの邸宅と呼ばれる屋敷に、数名の使用人や奴隷と共に住んでいました。しかしながら夫婦には子供がいなかったため、後継として教育するため、ハンコックは名門ボストン・ラテン学校に進学させました。

ボストン・ラテン学校(1635年設立)

ボストン・ラテン学校はご存知ない方が多いと思いますが、アメリカでは最初の公立高校であり、現存する最古の学校でもあります。

今でもボストンの特権階級の子弟を教育する拠り所で、2007年にはアメリカの高校のトップ20にも入っています。

ボストン・ラテン学校で学ぶ学生たち(1844-1881年)

卒業生の中からハーバード大学の学長4人、マサチューセッツ州知事4人、アメリカ独立宣言の署名者5人を輩出しています。

ベンジャミン・フランクリンも中退ですが、ボストン・ラテン学校で学んでいます。

ジョン・ハンコック(1736-1793年)1765年頃、29歳頃

ハンコックは卒業するとハーバード大学に進み、17歳で経営学の学位を取得し、その後は叔父の元で働き始めました。

国内有数の大企業のトップともなると、特殊な能力やコネクションが必要となってきます。

最終的には後継となるべく、入社後は叔父のビジネスについて多くを学びました。政治家や顧客、サプライヤーとの強力な関係を築いたり、その一環として、裕福な貴族としての役割を果たしたりもしました。

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裕福な貴族としての役割というのは教養やマナー、プロトコルのみならず、ファッションにも及びます。

苦手な男性も少なからずいたでしょうけれど、ハンコックは高価な服でオシャレするのは大好きで、本人もとても楽しんでいたそうです。

ファッションは自己の全てをPRするツールですからね。

『4 FACES』
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イギリス 1830年〜1840年頃
¥255,000-(税込10%)
イングランドのアングルシー伯爵やアイルランドのマントノリス伯爵を歴任したアンズリー家由来の伯爵家の紋章シール アングルシー伯爵のインタリオ

服装や持ち物を見れば、自ずとその人物の財力や教養の方面、広さや深さ、美意識の高さが分かります。

昔は特に上流階級と政治、ビジネスの世界が密接だったため、社交の場における貴族的な振る舞いやファッションは重要だったわけです。

『アンズリー家の伯爵紋章』
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イギリス 19世紀初期
¥1,230,000-(税込10%)
スプルーアンス級駆逐艦 ジョン・ハンコックの船尾(就役:1979年、退役:2000年)

特に美意識が高く、センスも持ち合わせていたからこその、ハンコックのこの有名な署名だったということですね。

1776年のアメリカ独立宣言のコピー(1823年)

当時の超優秀・超有名な人物たちの署名が列挙する中、ハンコックのスタイリッシュな署名は一際目立っています。

現代の日本では"オシャレ"を重要視しないどころか、下に見る庶民男性は少なくありませんが、同じくらい優秀な人物が揃う中で差別化を図るには、オシャレなことは間違いなく有効な手段です。

"印象"は潜在意識に強く働くため、意識化で想像する以上に大事です。それを理解しているせいか、センスがあるか否かは人それぞれですが、欧米は政治家も見た目に物凄く気を遣いますよね。

ジョン・ハンコック(1736-1793年)

さて、この超優秀なハンコックは6年間叔父の元で修行した後、23歳となる1760年にイギリスに渡り、1764年まで現地で造船業の顧客や納入業者との関係を構築しました。

17歳でハーバード大で経営学を修め、20代前半にして大企業の重要な役割を任せられ、期待に十分応えるという・・。

現代の日本だと例外を除き、大学を出た時点でもう22歳です。たとえ平均寿命が伸びても、有効に使える時間が伸びたとは必ずしも言えない現状がここにありますね。もたもたしていると、あっと言う間に人生の使える時間は無くなってしまいます。

ハンコックの邸宅(1860年頃)
"The Hancock Mansion, Beacon Street" ©BPL(31 August 2009)/Adapted/CC BY 2.0

最短ルートで努力してきたハンコックがイギリスから戻った直後、叔父トマスが亡くなりました。

ハンコックは27歳にして大企業と邸宅等、全ての事業と遺産を引き継ぐこととなり、ニューイングランドで最も裕福で有力な人物の1人となりました。

1775年にイングランドで発行されたジョン・ハンコックの肖像画(39歳頃)

ボストンの都市行政委員とマサチューセッツ議会議員もしつつ、貿易ビジネスも行っていたハンコックですが、当時まだアメリカはイギリスの植民地でした。

そのため、イギリスに巻き上げられるヤクザ的な上納金(税金)がかなり大変な状況にありました。

ボストンに寄港した英国海軍(1768年)

イギリスが手を替え品を替え、様々な方法で税金を巻き上げようとするため、まともな海運事業が難しくなってきました。そのため密貿易も始めたのですが、1768年にハンコックが所有するスループ船がイギリスに取り押さえられるというリバティ事件が起こりました。

伝統的な籐編みボトルに入ったマデイラ・ワイン
"Portuguese Madeira wine in a wicker cast" ©Jerry "Woody"(24 March 2009, 19:47:55)/Adapted/CC BY-SA 2.0

その中で問題となったのが、船の収容力の4分の1に相当する3,150ガロンのマデイラ・ワインでした。750mlのボトルで換算すると、1,600本に相当します。

ハンコックはその分の関税を支払いましたが、当局は「支払い逃れのために、夜のうちに一部荷下ろししたのでは?」と難癖を付けました。

証拠はなかったものの、一ヶ月後にリバティー号が不当に押収され、それまでのイギリスからの課税に鬱憤を溜め込んでいたボストンの人々は怒り、暴動が起きました。

これが1776年のアメリカの独立につながっていくのです。

1-2-3-6. 上流階級の高級酒マデイラ・ワイン
『アメリカ独立宣言(1776年7月4日)』(ジョン・トランブル 1819年)

独立までの詳細は割愛しますが、ハンコックが最初に署名したアメリカ合衆国独立宣言にて乾杯の際、選ばれたお酒がマデイラ・ワインでした。合衆国憲法の洗礼にもマデイラ・ワインが使われています。

アレクサンダー・ハミルトン、ベンジャミン・フランクリン、ジョン・アダムス、ジョージ・ワシントンといった、アメリカの建国の父として有名な錚々たる著名人たちもマデイラ・ワインを好み、特にトーマス・ジェファーソンのお気に入りがマデイラ・ワインだったから選ばれたそうです。

これは現代の日本の政治家や、庶民が「ビールで乾杯!」をしているイメージで見てはいけません。

第3代アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソン(1743-1826年)

当時、政治の中枢にいたのは上流階級です。

アメリカに王侯貴族の身分は存在しませんが、大統領クラスともなれば中身的には王侯貴族相当と捉えるのが妥当です。

アメリカ独立宣言の主要な執筆者であるジェファーソンも大金持ちで、豊かな教養と才能を持つ人物でした。

【世界遺産】モンティチェロ(1825年)

ジェファーソンは農園主と測量士をしていたウェールズ系の父ピーター・ジェファーソンと、裕福なイギリス系ジェントリの孫娘だったジェーン・ランドルフの息子としてバージニア植民地に生まれました。

14歳の頃に父が亡くなり遺産を受け継いだのですが、その領地は約5,000エーカー(20平方km)、奴隷も数十人に及びました。

ジェファーソンは傑出した建築家としても有名で、新パッラーディオ様式をアメリカにもたらし影響を与えたことでも知られています。1768年、25歳の頃から受け継いだ土地に、主にジェファーソン独自のデザインによる邸宅モンティチェロの建設を始め、今では世界遺産となっています。

【世界遺産】モンティチェロ "NIK 0223" ©Jamespiedad(27 Sptember 2013, 00:34:05)/Adapted/CC BY-SA 3.0

ジェファーソンはまさに博学です。9歳の頃からラテン語、古代ギリシャ語、フランス語を学び、その後も古典教育や歴史、数学、形而上学、哲学など様々学んでいます。ヴァイオリンも嗜みました。全ての分野および家風に貪欲な好奇心を示し、1日に15時間勉強することも多かったそうです。本当に好奇心旺盛な人物ですね。

第3代アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソン(1743-1826年)

発明家として、小さな実用品も多く発明しています。

黎明期だった考古学にも興味を抱いており、発掘技術の開発で果たした成果によって『考古学の父』と呼ばれることもあります。

鳥にも興味を抱いており、『ヴァージニア覚書』の中には出身州で見つけた鳥のリストも掲載しています。

本人の中では一貫した整合性があるはずですが、周りから見たら訳が分からなく見えたかもしれませんね(笑)

アルボワの14世紀から続くワイン蔵アルボワの14世紀から続くワイン蔵(フランス 2019年)

このような勤勉な人物だと食には興味がなさそうに見えるかもしれませんが、ジェファーソンはかなりのグルメで、ワインの熱烈な愛好者であり収集家でもあったそうです。

1784年から1789年にフランスに滞在した際は、フランスやその他ヨーロッパ各地のワイン生産地を巡り、アメリカにワインを送ったそうです。実はこの画像は、ヘリテイジのお客様がお撮りになった、フランスのアルボワにあるワイン蔵です。

アルボワの葡萄畑 "Arbois vineyard tour Canoz" ©Damien Bolley(30 October 2005)/Adapted/CC BY 2.0

アルボワはブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏にあるワインの生産地で、その歴史は古く古代ローマから生産されています。

大量生産品のワインであれば取り寄せも可能ですが、日本酒や焼酎もそうであるように、現地でしか手に入らない美味しいワインは一般には知られざる形で存在します。

手間のかかる、真心を込めた美味しいものは少量生産しかできません。

アルボワの川沿いのビストロにて白ワインアルボワのビストロ(フランス 2019年)

何より新鮮の空気の中、同じ土地の食べ物と共に戴くお酒は最高に美味しいですからね。

これは近くのビストロでのオシャレな1枚です。お指に着けていらっしゃるのはアンティークではなく、マルシェでプレゼントされたリングだそうです。

日本人だからフランス人に絶対に馬鹿にされるということはなく、むしろ美しい立ち居振る舞いをする人には思わず何かプレゼントしたくなるのは、人類共通のことでしょう。

トラベルジュエリーとして、旅の想い出として、見た目のみならず立ち居振る舞いの美しい女性の証として、とても素敵ですよね♪

アルボワの14世紀から続くワイン蔵アルボワの14世紀から続くワイン蔵(フランス 2019年)

蔵を訪れ、生産者から直接お話を聞いて来られたそうです。手塩にかけて造ったワインがどういう人の元に行くのか分かりますし、自身で説明もできるので、生産者にとっても良いことなんですよね。

実は、その超特別なワインの開封をGenと共にご一緒させて頂きました!

長期熟成に耐えるよう、コルクに加えて封蝋で完璧に口が閉ざされており、ナイフで開けるのに驚くほど難儀しました(笑)

そのワインならではの華やかで心地よい風味を楽しむと共に、遥かなる土地に住む作り手の想いも一緒に教えていただいて、私にとっても貴重な経験となりました。

アルボワのボンタンのシャトーとサン・ジュスト教会
"Château Bontemps et église Saint-Just d'Arbois" ©Damouns(Damien Boiley)(August 25, 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0

この方のような楽しみ方が、古の王侯貴族らしい、一番楽しくて優雅な贅沢と言えます。どこどこの高級店で、ブランドの〜円もするお高いワインを飲んだ、買ったという自慢の仕方をする人はいかにも成金的で、真に良いものを知らないことがバレバレだったりします。

現地まで行くような方は、知識も感覚も間違いなく優れています。まさにこういう方とは会話していて楽しいですし、ありがたいことにとっても勉強になります。

モンティチェロの菜園の一部 "'AMonticello veggie garden" Moofpocket(13 October 2005)/Adapted/CC BY 2.5

誰かを行かせるのではなく、取り寄せるでもなく、わざわざ現地に赴いたジェファーソンも、間違いなく違いや楽しみ方が分かる風流人ですね。それだけに飽き足らず、モンティチェロに広大な葡萄園を造ったほどです。残念ながら、植えた葡萄の大半となるヨーロッパのワイン用の葡萄『ヴィティ・ヴィニフェラ』がアメリカ生まれの病気に耐えられず、死に絶えてしまったそうですが・・。

マデイラ・ワイン "Sercial Maderia"©y kawahara(11 June 2007, 04:29:06)/Adapted/CC BY 2.0

それだけのワイン好きの上流階級が、記念すべき独立宣言の祝杯に選んだのがマデイラ・ワインなのです。

いかに美味しく、高級で格調の高さも持ち合わせたお酒として、マデイラ・シトリンが上流階級に愛されていたのかが伝わってきますね。

ナポレオン・ボナパルト(1769-1821年)

今回はアメリカの上流階級の話をメインにしましたが、実はフランスのナポレオンもヴィンテージのマデイラワインを贈られたことがあります。

1815年にナポレオンがセントヘレナ島に流刑にされる際、補給のために立ち寄ったマデイラ島でイギリス領事に1792年のヴィンテージを贈られました。

かつてはフランス皇帝として絶大な富と権力を誇り、しかももう二度とヨーロッパの地に戻ってくることはない人物です。

そんな人物に対して、敬意の証と心の癒しとして贈るに相応しいとされた高級酒でもあったのです。

5年後の1820年に、ナポレオンは流刑地で息を引き取りました。

1-2-3-7. お酒の格
赤い象がデザインされたエキゾチックなロンドン・ドライ・ジンヒースロー空港で購入したロンドン・ドライ・ジン
フォト日記『ヒースロー空港でも飲んべえ』より

お酒が弱い人の割合が高い日本では、あまりお酒に関して"格"のようなものが存在しません。

でも、欧米にはあります。

私が好きなジンは、労働者のお酒として有名ですね。

爽やかなジュニパーベリーの香りや、メーカーごとに調合される香辛料のスパイシーな風味のハーモニーが何とも言えない魅力を放ちます。

赤い象がデザインされたエキゾチックなロンドン・ドライ・ジンエキゾチックなジンのボトル ロンドン・ドライ・ジンのスパイスロードスパイスロード

「こだわって作ったものは高価になるのでは?現代でも労働者の安酒イメージなの?」とイギリス人に聞いてみましたが、やはり今でも労働者の酒というイメージなのだそうです。仮に同じ量で同じ価格だったとしても、アルコール度数はワインの3倍くらいあるので、酔っ払いたいだけの人にとっては割安感があるでしょうね(笑)

でも、そんな割安感は関係なく、独特の風味を持つジンには強い魅力があります。おそらく、イギリスのウィンストン・チャーチルもその香りに魅了された1人です。

チャーチルが生まれた祖父マールバラ公爵の居城ブレナム宮殿 "Blenheim Palace, Woodstock, Oxon. - geograph.org.uk - 801177" ©Francois Thomas / Blenheim Palace, Woodstock, Oxon.(15 April 2008)/Adapted/CC BY-SA 2.0 ガーター騎士団の正装姿のウィンストン・チャーチル(中央)と子のランドルフ(左)、孫のウィンストン(右)(1950年代)

第63代英国首相も務めたチャーチルは超名門貴族家出身で、騎士勲章最高位のガーター勲章も授与されている超エリート上流階級です。チャーチルは酒豪なことでも有名で、カクテルの王様とも呼ばれるマティーニも好んで飲んでいたそうです。

ベルモット、マティーニ、ジン

マティーニの標準的なレシピはドライ・ジン3〜4に対して、ドライ・ベルモットを1にして、ステアします。ジンの割合が多いとより辛口になり、ドライ・マティーニと呼ばれます。

チャーチルも特に辛口のエクストラ・ドライ・マティーニを好んだそうで、ベルモットを口に含んだ執事に息を吐きかけさせて"ベルモットの香りがするジン"にして飲んだ、或いは執事に「ベルモット」と言わせてジンだけを飲んだとか、ベルモットのボトルを横目で眺めながら(正視すると「甘すぎる」とのこと)ジンだけを飲んだなどの逸話があります。

即席の観測台で周辺を見回すチャーチル(英領東アフリカ 1907年)

昔この逸話を知った際は、「なぜそんな回りくどいことをするのだろう?ジン単独で飲めば良いだけでは?」と思ったのですが、ジンがイギリスで労働者のお酒であり、チャーチルはれっきとした上流階級の人間であることを理解すると、意図が伝わってきます。

ある意味、洒落た飲み方ですね。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

兎にも角にも、欧米ではこのようにお酒にも格が存在するわけで、故にこの極上色のシトリンを表す言葉として、他のどのお酒でもなく、上流階級の高級酒マデイラ・ワインが選ばれたわけです。

2. 極上のマデイラ・シトリンならではの優れたデザイン

2-1. 想像力を掻き立てるエキゾチックな色彩

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

石自体が極めて稀少なため、マデイラ・シトリンを使ったアンティークのハイジュエリーは本当に数が少ないですが、そのいずれもが、作りのみならずデザインも非常に優れていました。

マデイラシトリン エドワーディアン ペンダント アンティークエドワーディアン マデイラ・シトリン ネックレス
イギリス 1910年頃
SOLD
マデイラシトリン アールデコ ブローチ アンティークアールデコ マデイラ・シトリン ブローチ
フランス 1920年頃
SOLD
そのデザインに共通するのが、どことなくエキゾチックな雰囲気です。
マデイラ島 "Madeira 5 2014" ©Bengt Nyman(20 January 2014, 13:59:38)/Adapted/CC BY 2.0

マデイラ諸島は北緯32度22分20秒から北緯33度7分50秒に位置し、日本だと熊本県阿蘇市、長崎の五島列島、佐賀県鹿島市、大分県竹田市、愛媛県南宇和郡、高知県四万十市などが北緯33度にあります。しかしながら海流などの関係で年間平均気温が20℃前後と暖かく、これは鹿児島市の年間平均気温18℃前後よりも暖かいです。

マデイラ島のビーチ "Madeira Beach(163610932)" ©Don Amaro from Madeira Islands, Prtugal(9 June 2006, 06:43)/Adapted/CC BY 2.0

温暖な気候と青い海、輝く太陽と年中咲き乱れるカラフルな花やフルーツによって南国情緒に溢れており、「大西洋の真珠」とも呼ばれています。

マデイラ島のフンシャル市場 "Market funchal hg" ©Hannes Grobe(22 April 2006)/Adapted/CC BY-SA 2.5

観光産業が最も主要な産業となっており、ヨーロッパ各地から観光客が集まる、ヨーロッパ屈指のリゾート・アイランドとなっています。特に温暖な気候を求めて、イギリスやドイツなどのヨーロッパ北部からの観光客に人気が高いです。

マデイラ島のフンシャル湾(1936年)

現代では庶民でも気軽に訪れる南国リゾートとなっていますが、より古い時代ほど、上流階級が集まるリゾートとして機能していました。

クインタ・ヴィギアからの眺め(1880年頃)現:州政府長官の宮殿

故に、島の随所で歴史や文化レベルの高さを感じさせるものを見ることができます。

マデイラ島のフンシャル市広場にあるバロック建築
" The Igreja do Colégio interior (Barocco ), Funchal’s City Square. Funchal, Portugal, Autonomous Region of Madeira, Southwestern Europe " ©Mstyslav Chernov(4 May 2011, 21:50:41)/Adapted/CC BY-SA 3.0
エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

この宝物が作られたエドワーディアンからアールデコの時代にかけては、それまで夜間は邸宅内に引きこもっていた上流階級の女性が、邸宅の外へ出て社交を楽しむスタイルに変化していました。

マデイラ島のホテル・エリア "Madeira 6 2014" ©Bengt Nyman(20 January 2014, 14:34:28)/Adapted/CC BY 2.0

セザール・リッツなどの活躍によって高級リゾート・ホテル自体の内容やそこでのイベント全体も格段に進化し、上流階級の人々は最先端の煌びやかで華やかな、新しいスタイルの社交を楽しみました。

マデイラ島の港 "Madeira 17 2014" ©Bengt Nyman(13 January 2014, 08:56:16)/Adapted/CC BY 2.0

まさに豪華客船も上流階級の間でホットだった時代です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

このような新しい社交の場で着けたり、そのようなリゾートの話題を話したりする際に着けるのに、南国のエキゾチックな雰囲気のジュエリーはまさにピッタリなのです。

それは、この独特の色彩を持つ宝石があるからこそ成立するデザインです。

シトリン ブローチ&ペンダント アンティーク・ジュエリー『社交界の花』
シトリン ブローチ&ペンダント
イギリス 1870年頃
SOLD

『社交界の花』に使われたシトリンも極めて色の濃い上質な石だったため、ギリギリ『マデイラ・シトリン』と言えるかGenと共に迷ったのですが、これまでのマデイラ・シトリンの宝物と比べて少し色の濃さが足りないと判断し、シトリンとしてご紹介しました。

色の良さに加えて、大きさと透明度を兼ね備えた極上石なのは間違いなく、作りも宝石の質に見合う見事なもので、確実にハイクラスのジュエリーとして作られたものと言えます。

マデイラ・シトリンとはまた別の、強い魅力を持つシトリン・ジュエリーです。

透明度の高い上質な茶水晶のヴィクトリアンのブローチ茶水晶 ブローチ
イギリス 19世紀後期
SOLD

一方で、アッシュ系の色が一般的な茶水晶(煙水晶、スモーキー・クォーツ)に於いて、この石も人によってはマデイラ・シトリンと呼ぶ色を持っています。

実際、アメジストの加熱石ではありますがこの色のシトリンを「マデイラ・シトリン」として販売する現代の業者は幾つも存在します。

欧米ではマデイラの名があった方がウケが良い証でもあります。

茶水晶 ブローチ アンティークジュエリー

色彩に関しては厳密な定義がないので語ること自体は自由ですが、私たちはこれは「唯一無二の色彩を持つ綺麗で珍しい茶水晶」とし、鮮やかで明るい色彩を持つマデイラ・シトリンとは区別します。

どちらが優れているなど議論する類のものとは思えませんし、名前が変わるだけで評価を変えるような人は、本質で判断しているとは言えません。

石ころ好きは「マデイラ・シトリン」だから高級と判断する思考パターンが通常ですが、そういう頭デッカチでおブランド主義な、本質が分かっていない人には次の持ち主にはなって欲しくないのです。

エドワーディアン アールデコ
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そういうわけで、厳密にフィルタリングしてマデイラ・シトリンのジュエリーをご紹介してきた結果、45年間で出てきた3点ともがエキゾチックなデザインで作られていたのです。

2-2. メインストーンを惹き立てる貴族らしい優美なデザイン

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

エキゾチックなデザインだと申し上げましたが、今回の宝物についてはパッと見た感じだと個性が強くなく、定番の使いやすいデザインにも見えると思います。

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マデイラシトリンの3つの宝物は、いずれも特別大きな原石を使って作られています。

孔雀の羽根のペンダントは1粒ずつは小さいですが、完璧に色を揃えるために、大きな1つの原石をカットして作ったとみられます。

←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

大きさも備えているからこそ、マデイラシトリンとしてさらに稀少価値が高い石となり、また大きくなければできないデザインが確実に存在します。

孔雀の羽根のペンダントは分割して優美さと華やかさを持つデザインに、右のアールデコのブローチはより大型のデザインにして、アールデコらしいパワフルさも備えたエレガントな雰囲気に設計しています。今回のマデイラ・シトリンは照り艶にも優れ、特に総合的な石の価値が高く、それに相応しいデザインが施されています。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

エドワーディアンとアールデコは、第一次世界大戦によって欧米社会が劇的に変化する境目の時代です。

大戦によってヨーロッパは疲弊し、上流階級が大きく力を落としました。一方で新興勢力となるアメリカが大きく力を伸ばし、政治・経済・文化に於ける世界の主導者が、旧来のヨーロッパの上流階級からアメリカの新興勢力へと移行することになりました。

プラチナを使うデザインは同じでも、エドワーディアンはよりヨーロッパの上流階級らしい優美さやエレガントさが感じられるものの割合が多いです。

アールデコになると、いかにも新興成金が好みそうなド派手なジュエリーの割合が増え、後期になるとそのようなものが支配的になっていきます。

【参考】現代のシトリン・ペンダント

アールデコの時代も終わり、第二次世界大戦後の時代は完全に上質なジュエリーの制作は終わっています。アールデコの時代はデザインは良くない物でも、高級品であればそれなりに大きなダイヤモンドくらいは付いているものでした。しかしながら、戦後は時代が降るごとにデザインも材料も作りも劣化する一方です。今では無価値な石を「ダイヤモンドが付いているから高い。」と納得させて高値で売るためだけの、ろくに価値のない小さなダイヤモンドを数だけはたくさん使っただけのもので溢れています。デザインなんて無いも同然です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

このマデイラ・シトリンのペンダントは、いかにもヨーロッパの王侯貴族らしいデザインと言えます。

これだけ大きくて上質なマデイラ・シトリンだと、成金の場合は大きなダイヤモンドで飾りたてて、より派手により全体を高そうに見せたがります。

このペンダントの主役は極上のマデイラ・シトリンです。

主役に目が行く控えめな雰囲気でありながらも、とても複雑な造形で外周がデザインされています。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

マデイラ・シトリンの左右は、エキゾチックな南国の草花を彷彿とさせる優美なデザインです。

上下はマデイラ・シトリンを優しく包み込む入れ物のようなデザインになっています。

全体から優美さ優しさを感じる理由は、葉や上下のフレームの形状が単純な曲線ではなく、捻りを加えた動きのある曲線で造形されているからです。

単純な曲線だったら、動きの感じられない単調なデザインになっていたことでしょう。ここまでの優美さも感じられなかったはずです。

ただし理論上はそうであっても、実際に作るのは容易ではなく、高度な技術を持つ職人によるハンドメイドだからこそと言えます。

2-3. センスの良いダイヤモンド使い

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

この最高級のマデイラ・シトリンのペンダントは、ダイヤモンドの使い方も特徴的です。

1つもオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドが使われておらず、使用されているのは全てローズカット・ダイヤモンドです。

ダイヤモンド・ラッシュ以前の王侯貴族のハイジュエリー
ローズカット・ダイヤモンドのフルーツバスケットのジャルディネッティ・リングジャルディネッティ ローズカット・ダイヤモンド リング
フランス? 18世紀後期
SOLD
アーリー・ヴィクトリアンのオールド・ヨーロピアンカット・ダイヤモンドの最高級リング『ミラー・ダイヤモンド』
アーリー・ヴィクトリアン オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド リング
イギリス 1840年頃
¥3,700,000-(税込10%)

南アフリカのダイヤモンド・ラッシュ以前は、ダイヤモンドは極めて稀少価値の高い宝石でした。上質であれば、大きいほど価値が高く、ハイジュエリーにはダッチローズカットやオールドヨーロピアンカットの石が当たり前のように使われてきました。

ダイヤモンド・ラッシュ後の王侯貴族のハイジュエリー
マイクロ・モザイク・ダイヤモンドのアーツ&クラフツのダイヤモンド・ピアス マイクロ・モザイク・ダイヤモンドのアーツ&クラフツのダイヤモンド・ピアス クローズド・パヴェ・セッティングの小鳥とバスケットのアンティーク・ブローチ『Tweet Basket』
小鳥たちとバスケットのブローチ
イギリス 1880年頃
¥2,500,000-(税込10%)
『妖精のささやき』
ダイヤモンド・ピアス
イギリス 1880年頃
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しかしながら南アフリカでダイヤモンド・ラッシュが発生すると、ダイヤモンドは以前のような稀少価値は持たなくなりました。王侯貴族にとって、そこそこの大きさのダイヤモンドが使われているというだけでは高級品の証とはならなくなったのです。そうして誕生したのが、石の価値だけに頼るのではない、ダイヤモンドを使った細工物のハイジュエリーでした。それらはより小ささを競うような、ミクロのダイヤモンドが使われていたり、繊細な煌めきを放つための小さなローズカット・ダイヤモンドが使われていたりします。

【参考】ダイヤモンド ブローチ(ブシュロン 1940年代)

一方で、新興成金を含めた庶民に関してはそのような経緯など知るべくもなく、大きなダイヤモンドさえたくさん付いていれば高級品という固定観念の元でジュエリーを判断します。

【参考】1930年代の一般的な高級ダイヤモンド・ブローチ
アールデコ クリスタル&ダイヤモンド ブローチ

故に、庶民(成金)向けに作られたハイジュエリーの場合は、たとえアンティークの時代のものでも宝石頼りのチャチなデザイン、チャチな作りのものが殆どなのです。

大体のアンティークジュエリー店で高級品として販売されるのは、この手の庶民用の成金ジュエリーです。確かにハイジュエリーとして作られたものには違いありませんが、自己顕示欲丸出しで野暮ったく、知性も感じられないのでヘリテイジでは扱わないのです。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

今回の宝物のダイヤモンドの選び方は、上流階級のためのハイジュエリーの中でも特に徹底しています。

通常であれば、この花芯のような一番大きな部分くらいはオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドが使われているものです。

華やかさを演出するために花芯にオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、花びらや葉に控えめなローズカット・ダイヤモンドをセットするのが一般的なハイジュエリーです。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

しかしながら花びらから放たれる白い輝きは、ダイヤモンドではなく磨き上げられたプラチナからのものです。

莫大な財力を持っていても、敢えてギラギラ輝かせることはせず、それでいて分かる人には分かる極上の作りとこだわりのデザイン・・。

徹底してこだわり抜いたデザインは、押さえ込んでも隠しきれない持ち主の別格のセンスの良さと知性、そして財力をむしろ強く感じさせます。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

気品と格調高い優美さ・・。
これこそ王侯貴族のための最高級のジュエリーです。

最高の宝石には、最高のデザインと作りが施されるのがアンティークジュエリーの魅力です♪♪

 

こっくりとした上等なマデイラ・ワインのような色と照り艶、輝きを放つ最高級のマデイラ・シトリン。

それを最高に惹き立てる、繊細な輝きのローズカット・ダイヤモンド。ギラギラと輝いて、悪目立ちする脇役はいません。見る者を虜にし、南国のエキゾチックな世界に誘ってくれるジュエリーとして完成しています♪

3. エドワーディアンのトップクラスの作り

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

宝石頼りの成金ジュエリーだと、エドワーディアンの時代の高価なものとして作られているものでも費用の内訳は材料費に偏っており、作りは意外と手抜きなこともあります。そういう細部まで行き届かないものは、所詮その程度の人が着けるつまらぬジュエリーです。

しかしながら王侯貴族のために作られた最高級のジュエリーは、どれだけ余計に費用がかかろうとも、細部まで完璧に美意識を行き届かせるものです。

それが細かい部分や、通常は見えない箇所に至るまでの作りの良さに現れます。

3-1. 完璧なグレイン系の彫金細工

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

細かい部分の細工として、ベンチマークの1つとなるのがミルグレインです。

店頭販売が前提のものと異なり、特別オーダーで作られる最高級品の場合はブランド名どころか金位の刻印すらない場合が多く、ブランドや作家名頼りで価値を判断する人にはどれが最高級品なのか、高級品止まりなのか、中級品なのか作品を見ただけでは判断が付かないと思います。

天然真珠でアザミを表現したエドワーディアンのシッスル勲章のミニチュア・ブローチ
『スコットランドの騎士』
エドワーディアン ミニチュア勲章(替章) ブローチ
イギリス 1910年頃
SOLD

ある程度分かりやすいお墨付きがあるエドワーディアンの最高級ジュエリーと言えば、シッスル勲章のミニチュアとして制作されたこのブローチでしょうか。

その性質上、英国王室御用達メーカーのトップクラスの技術を持つ職人が制作したと推定できる宝物です。

エドワーディアンの最高水準のミルグレイン
天然真珠でアザミを表現したエドワーディアンのシッスル勲章のミニチュア・ブローチ
←↑等倍

とても小さいブローチですが、ミルグレイン、グレインワーク、磨き上げられた爪留の完璧な細工が特徴的で、この宝物が只者ではないことを如実に物語っていました。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
←↑等倍

今回のマデイラシトリンの宝物も、この道45年のGenが「ミル打ちと石の留め方は、エドワーディアンでもこれ以上の細工は無いと思われる最高水準!」とお墨付きを与えるほどの素晴らしい出来です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

プラチナのフレームも、マデイラシトリンを留めたゴールドのフレームも、驚異的なレベルで完璧に揃ったミルグレインが施されています。

ミルの頭は綺麗な半球状で、大きさも形も驚くほど揃っています。

これは規則正しく鑽(タガネ)を打った後、鑢(ヤスリ)で根気良く丁寧に仕上げたものですが、その正確さと良い、集中力を切らさない精神力と忍耐力と言い、とても人間業だとは思えない驚異的な技術です。

極小のローズカット・ダイヤモンドを留めた爪も、見事な粒状に磨き上げられてピカピカです!

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

どの部分も完璧で美しい細工です。
第一級の職人は手抜きの仕事などとは無縁なのです。

拡大画像なので、この感動が伝わりにくいかもしれませんが、実物の大きさを考えると本当に凄いことです。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

バチカン(チェーンに下げるための金具)も素晴らしいです。

バチカンにまで行き届いたデザインと細工は高級品の証ですが、驚くほどの手間をかけてグレインワークで隙間を完璧に埋めています。

これまでにも素晴らしいグレインワークをいくつも見てきましたが、これほど密集させた状態で、ここまで完璧に仕上げたものは45年間でも見た記憶がありません!

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

完璧に磨き上げられた1つ1つの粒から放たれる、繊細で強い輝きが高級感を放つこととなり、全体で美しく調和しています。

色彩美しいマデイラ・シトリンの影に完璧に隠れてしまうのではなく、名脇役としての役割を見事に果たしています。

3-2. 強く輝く磨き上げられたプラチナ・フレーム

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

ここまでご説明してきた細工だけでもハイジュエリーとしては十分素晴らしいのですが、その中でも別格と言えるトップクラスのジュエリーだからこそ、まだご説明が必要なポイントがあります。

それが、磨き上げられたプラチナのフレームです。

このペンダントのプラチナ・フレームの、どこにダイヤモンドがセットされているのか、この画像だけで正確に把握するのは難しいです。

花びらの内側や、マデイラ・シトリンの下部の装飾にも隙間なくダイヤモンドがセットされているように見えます。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

しかしながら、この4つのフレームにセットされたローズカット・ダイヤモンドはそれぞれ2、1、1、2粒です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

花びらの内側にもダイヤモンドはセットされていません。

その代わり、フレームの内側はどの部分も完璧なまでにピカピカに磨き上げられているのです。

白い金属の中でも、暖かみを感じるシルバーと異なり、プラチナの輝きは硬質です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

このプラチナを完璧に磨き上げることによって、表面からダイヤモンドと見分けが付かぬほどの強い輝きが放たれるようになるのです。

この宝物をよく見たとき、その華やかな輝きからは想像できないほどダイヤモンドの数が少ないことに驚きます。

しかしながら、プラチナが画期的な新素材としてジュエリーの一般市場に出回り始めたばかりの、エドワーディアンの最高級ジュエリーであることを考えれば、むしろ非常に納得がいくのです。

3-3. 宝石に光を取り込む丁寧なセッティング

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

エドワーディアンならではの、プラチナにゴールドバックの美しい作りです。この角度からご覧になるとお分かりいただける通り、ゴールドのフレームによってかなり正面が持ち上げられた構造です。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

マデイラ・シトリンには厚みがあり、強度のあるゴールドのフレームで貴重な石をしっかりと保護しています。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

マデイラシトリンは裏側のカットも素晴らしいです。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

石がきちんと保護される構造だったからこそ、ペンダントとして100年以上の使用にも耐え、マデイラ・シトリンのファセットは今でも美しく光り輝きます。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

サイドから十分に光が入る構造になっているからこそ、様々な角度から石の内部に取り込まれた光が複雑に反射し、大きさのあるこの特別なマデイラ・シトリンの表情をより豊かなものにしています。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

この美しい色彩に、複雑な光の反射が重なることで、この石にしか表現できない美が完成されています。

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

何だかんだ言っても、この宝物の主役はこの特別なマデイラ・シトリンです。だからこそ、高さを持たせて光を取り込む設計は最高級ジュエリーとして最早当然と言えますが、このゴールドの構造フレームが正面のデザインとつながっていることには改めて感心します。正面から裏側のフレームまで、一連の流れのように美しく連続してデザインされています。これこそが、美意識の高い王侯貴族のための最高級ジュエリーですね。思わずため息が出てしまいます・・♪

裏側

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

裏側も極めて綺麗な作りです。

極小ローズカット・ダイヤモンドの裏側も、丁寧に窓が開けられています。

小さくても美しく輝くのは、このような高度な技術の賜物です♪

バチカンの裏側も単純な作りではなく、二重線でエレガントなデザインになっています。このような、ちょっとした心遣いも嬉しいですね♪

着用イメージ

エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー
←↑実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります
エドワーディアン マデイシトリン ペンダント アンティーク・ジュエリー

大きさがあり、色もしっかりしているので、着用した際にも存在感があります。

極上の鮮やかな色彩を持っているからこそ、たとえ黒が背景でもしっかりとマデイラ・シトリン独特の美しい色彩をお楽しみいただけます。

直接お肌の上でも、どんなお召し物の上からでも映える、お勧めの宝物です♪

このペンダントに相応しい、しっかりしたアンティークのプラチナ・チェーンがセットなのも魅力です♪