No.00289 妖精のささやき

マイクロ・ダイヤモンドによる初期アーツ&クラフツの妖精のダイヤモンド・ピアス


妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

『妖精のささやき』
ダイヤモンド・ピアス

イギリス 1880年頃
オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、ローズカット・ダイヤモンド、シルバー&ゴールド
2cm×1,3cm
重量4,6g
SOLD

これぞ44年間で初めて見る、神技の職人によるダイヤモンドの細工物ジュエリーです♪
これまで見たことのある極小ダイヤモンドよりさらに小さい、マイクロダイヤモンドを駆使したモザイクの繊細かつ密度の高い輝きには思わず心を奪われます。また、フレームに合わせてダイヤモンドをセットするのではなく、ダイヤモンドの形状に合わせてフレームを造形するという細工もこれまでに見たことのない超難度の細工です。

独創的な複数の技法を駆使して作られたピアスは、春の芽吹きのようなデザインです。冬の間、死んだ枯れ木のようになっていまった木の枝に春の妖精がささやき、命の循環が再始動して生き生きとした新しい芽が芽吹く・・。

マイクロダイヤモンドのモザイクでキラキラと輝く新芽。特殊なフレームによる力強い両側の成長した葉。二度と見ることはないであろう、超難度の特殊な技法で作られたピアスは、まるで妖精のような幻の存在にも感じます。

唯一無二の素晴らしい宝物で、見ているだけでも心癒されますがすが、耳にフィットする使いやすいデザインのピアスなのもグッドです♪

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

 

この宝物のポイント

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

1. 傑出した植物モチーフのデザイン
 1-1. 初期のアーツ&クラフツ
 1-2. 通常の植物デザインとの違い
 1-3. 他のアーツ&クラフツとの違い

2. 見事なダイヤモンド・アート
 2-1. ダイヤモンドを個性的に生かしたジュエリー
 2-2. アンティークならではのマイクロ・ジェム
 2-3. 初めて見るマイクロダイヤモンドの細工
 2-4. 上質なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド

3. 見事なフレーム
 3-1. ダイヤモンドにフィットする見事な作り
 3-2. 躍動感を表現する素晴らしい立体造形

4. 細工物のピアスという特異性

 

1. 傑出した植物モチーフのデザイン

1-1. 初期のアーツ&クラフツ

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー これは"本来のアーツ&クラフツ"と言えるような、アーツ&クラフツ初期の素晴らしい宝物です。

1-1-1. アーツ&クラフツの大流行による陳腐化

"モダンデザインの父" ウィリアム・モリス(1834-1896年)

アーツ&クラフツ運動はイギリスのウィリアム・モリスの提唱によって、1880年頃から始まったデザイン運動(美術工芸運動)です。

アーツ&クラフツは『作り』と『デザイン』の双方に特徴があります。

モリス商会の壁紙を職人が手作業で印刷する様子(メロトン・アビー1890年)

作りに関しては中世の手仕事に帰り、ギルドの精神を実現させ、高度な技術を持つ職人による"芸術性が高い"モノづくりを目指しました。

そこには「"芸術"は優れた手仕事によってのみ生み出される」という、モリスの思想がありました。

モリスのデザイン(1875年)

デザインに関しては本来人間の周りに身近に存在していた、"自然界に存在するそのままの美"にモチーフやデザインを求めました。

『いちご泥棒』(ウィリアム・モリス 1883年)

アーツ&クラフツ運動は大流行しました。

現代ではモリスのデザインが定番化しているほど、広く流行しました。

大流行すると、提唱者の初期の偉大な思想は抜け落ち、都合の良い部分だけが切り取られて陳腐化していくのが世の常です。

【参考】安物のアーツ&クラフツのムーンストーン・リング(1900年頃)

アーツ&クラフツはジュエリーのデザインにも取り入れられ大流行していますが、流行の中期以降はどんどん陳腐化しています。

流行の終わり頃になると提唱者ウィリアム・モリスが目指した本来のモノづくりとはかけ離れた、ただ植物デザインというだけの稚拙で雑な作りの安物だらけになります。

【参考】安物のアーツ&クラフツのムーンストーン&アメジストのシルバー・ネックレス(1900年頃) 進化系ガーランドスタイルの美しいアクアマリン・ペンダント『ヴェルサイユの幻』
エドワーディアン アクアマリン ペンダント
イギリス or ヨーロッパ 1910年代
SOLD

流行すると大量生産されます。この時代の安物ジュエリーはまだハンドメイドではありますが、早く安く作るために激しく手抜きされています。デザイン頼りで、そこには高度な技術を持つ職人による魂のこもった仕事の気配は微塵も存在しません。左の安物アーツ&クラフツと、右の1910年代の最高級品の葉っぱを比べれば、細工のレベルと、伝わってくる職人の心意気の強さの違いは明らかです。

【参考】安物のアーツ&クラフツのシルバー・ジュエリー(1900年頃)

なぜか安物はデザインも似た物ばっかりなのですが、美的センスや教養がなく自分の感覚で選ぶことができない中産階級の人たちは、他人と同じなら安心ということだったかもしれませんね。そこは現代の一般的な日本人と変わらないのかもしれません。

【参考】安物のアーツ&クラフツのムーンストーン・シルバー・ブレスレット(1900年頃)

安物はどれも似たり寄ったりなので、素人でも一目でアーツ&クラフツのジュエリーだと分かります。

安物アーツ&クラフツはかなりの数が作られており、現代でも一定数が残っているため、コレクターがいて一種のブランド化しており、市場では結構な高値が付いています。

親鳥から蛇が卵を奪う野生を表現したイギリスのアーツ&クラフツのゴールドペンダント『WILDLIFES』
アーツ&クラフツ×モダンスタイル ゴールド・ペンダント
イギリス 1900年頃
SOLD

無名の職人によって特別に作られた1点もののジュエリーは、どんなに素晴らしくてもブランド化はせず、本来の価値からすれば驚くほど安く手に入れることができます。

【参考】安物のアーツ&クラフツのムーンストーンのシルバー・ジュエリー(1900年頃)

一方で量産の安物ジュエリーは一定数存在すること、素人でも一見してそれと分かることによってブランド化し、本来の価値よりもはるかに高い値段で取引されます。

買うのは当時と同じ、モノの価値が分からない現代の大衆というわけで、安物も高級品もそれぞれに相応しい人の元へと旅立つのが興味深いです。

アーツ&クラフツのダイヤモンド・フラワー・ブローチ アンティークジュエリー『フラワー・ステッキ』
ダイヤモンド フラワー ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

特にハイジュエリーはその傾向が顕著です。センスがない人は、ブランドや権威に頼ってしか買うことができません。

アンティークのハイジュエリーを買えるのは美的感覚を持ち、自身の絶対的な感覚でそれが価値あるものと認識できる人だけです。

アンティークのハイジュエリーは間違いなく次の持ち主を密かに選んでいます。すごいですね〜(笑)

1-1-2. 初期が優れた宝物の生まれどき

【参考】安物のアーツ&クラフツのマベパール・シルバー・ブローチ(1900年頃)

何でも、流行の後期は陳腐化したくだらない安物だらけになります。

この程度ならば現代でも作れます。アンティークを中古として買うより、現代の新品を買った方がコンディションが良くて安心できるのでマシというレベルです。

アーツ&クラフツのブルーギロッシュエナメル・ダイヤモンド・ブローチ『可憐な花』
ブルーギロッシュエナメル ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

しかしながら流行の最初期は、後に大きな流行となる原動力に値する優れた作品がいくつも作り出されているものです。

初期の作品が優れていなければ大きな流行にはなっていませんから、当然と言えば当然です。

ダイヤモンド フラワー ブローチ アンティークジュエリー『フラワー・ステッキ』
ダイヤモンド フラワー ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

流行の最初期は、上流階級や知識階級によって生み出されたりもたらされた新しい情報・文化は、庶民まで落ちてきていません。

だからこそ、特にジュエリーの場合は上流階級のために作られたものとなりますし、おかしな解釈がなされる前なので、発案者の思想を正しく理解して投影した、本来の作品となっているものです。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー さらにその中で試行錯誤、チャレンジングな取り組みが行われ、傑出した作品が生まれやすい環境にあるのも流行の最初期です。

1-1-3. モリスの作品に見るデザインの変化

ウィリアム・モリス(1834-1896年)

デザインは変化します。

人間が生きていられる時間は有限です。

才能ある人物ほど、どんなに大ヒットしてもそこに胡座をかくことなく絶えず進化しようと試みます。

アーツ&クラフツの提唱者であり、最もその真髄を理解していたと言えるモリスのデザインの変化について少し見てみましょう。

モリスのデザインの変化
トレリス(1862年) (1872年) アカンサス(1875年)
いずれも自然界にモチーフを求め、植物をデザインに使っていることは共通しています。初期はあまり強くは様式化されておらず、自然界そのものを表現している傾向にあります。それが次第に曲線などを使って様式化していきます。
(1876年) いちご泥棒(1883年)
時代が降るごとに様式化が強くなっていきます。アーツ&クラフツ運動が本格的に始まったのが1880年頃とされており、様式化が進む前よりもこれくらいの年代の作品の方が、一般的にはモリスのアーツ&クラフツのイメージが強いかもしれません。
ウィリアム・モリスのカーペットウィリアム・モリスのカーペット(1889年)

さらにモリスが亡くなる7年前、55歳頃の作品はここまで様式化が進んでいます。

フランスのアールヌーヴォーはイギリスのアーツ&クラフツの流れを受けているとされていますが、この年代の作品を見るとかなり納得しやすいと思います。

1-1-4. 次第に様式化が強くなるアーツ&クラフツ

モリスのデザイン
ウィリアム・モリスによる壁紙デザイン『トレリス』
初期(1862年) 中期(1875年) 後期(1889年)
同じ人物の作品でも、初期と後期ではかなり違って見えますね。初期は自然界そのものに少しだけ様式を加えたデザイン、それが次第に様式化が強くなって自然界らしい雰囲気は消えていき、自然界として存在するのはモチーフとしての素材としてだけ。
ブルーギロッシュエナメル ダイヤモンド ブローチ
ダイヤモンド フラワー ブローチ アンティークジュエリー
アーツ&クラフツ初期のハイジュエリー 【参考】後期の安物

それはアーツ&クラフツのジュエリーにも同じことが言えます。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 一目見て植物そのもののモチーフだと分かる、様式化され過ぎないこの宝物も、やはりアーツ&クラフツ初期のジュエリーです。

1-2. 通常の植物デザインとの違い

ヘレニズムの木の葉を彫ったストライプのアゲートのインタリオ・リング『木の葉』
アゲート インタリオ リング
古代ギリシャ(ヘレニズム) 紀元前2〜紀元前3世紀頃
SOLD

人間にとって植物は普遍のモチーフです。

だからこそどんな時代にも植物モチーフのデザインは存在します。

しかしながらアーツ&クラフツ初期の植物デザインは、他の時代とは異なる特徴を持っています。

1-2-1. 18世紀初期

18世紀初期のローズカット・ダイヤモンドのジュエリー古のダイヤモンド・ジュエリー
フランス or イギリス 1700-1750年頃
SOLD
フランス王ルイ15世の公娼ポンパドゥール夫人フランス国王ルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人(1721-1764年)

植物デザインとは言っても、女性用ジュエリーのモチーフは殆どの場合、葉っぱではなくお花がメインです。この宝物は現存数が特に少ない、18世紀初期の貴重なダイヤモンド・ジュエリーです。フラワーモチーフで、咲き乱れる様々なお花と、様式化された左右対象のデザインが特徴です。時代としてはポンパドゥール夫人が生きていた、フランスの宮廷文化が花開いた頃のジュエリーで、華やかかつ豪華な印象のデザインです。

1-2-2. 18世紀後期

忘れな草がモチーフの18世紀のギロッシュ・エナメルとダイヤモンドのペンダント『忘れな草』
ギロッシュエナメル ペンダント
フランス? 18世紀後期
¥1,400,000-(税込10%)
18世紀のスイベル・リングスイベル(回転式)・リング
フランス 1780年頃
SOLD
マイクロパールのジョージアンのペンダントマイクロパール ペンダント
イギリス 1800年頃
SOLD
18世紀後期あたりに制作された女性のための植物モチーフ・ジュエリーも満開のお花がメインで、理想とする完璧な姿にデフォルメされたデザインになっています。その分、王侯貴族のジュエリーらしい華やかさも感じられます。

1-2-3. 19世紀初期

インド産ゴルコンダ・ダイヤモンドのクッションシェイプ・ダイヤモンドが見事なジャルディネッティのアンティーク・ブローチジャルディネッティ ダイヤモンド・ブローチ
フランスorイギリス 1780年〜1820年頃
SOLD

咲き乱れる南国の草花や果実を表現したジャルディネッティは、社交の場で使う王侯貴族のための最も華やかなジュエリーの1つです。

大きくて上質な最高級のダイヤモンドで表現された満開の花々は非常にゴージャスで、完全に左右対称のデザインではありませんが、左右対称の印象かつ様式化されたデザインが王侯貴族らしい格調の高さも感じさせます。

ピンクトパーズのジョージアンのフラワー・ブローチピンク・トパーズ フラワー・ブローチ
イギリス 1800年頃
SOLD
ペルシャ産トルコ石のジョージアンのフラワー・ブローチトルコ石 フラワー・ブローチ
イギリス 1800-1820年頃
SOLD
カーブド・アイボリーのジョージアンのフラワー・ブローチアイボリー フラワー・ブローチ
イギリス 1820年頃
SOLD

一方でジャルディネッティ以外の植物モチーフのジュエリーを見ると、様式化せずそのままの姿を表現している場合でも、どれも満開のお花がメインのデザインです。蕾はあっても添え物です。

エメラルドカットやダッチローズカット・ダイヤモンドが見事なジョージアンのアンティーク・ブローチ『ダイヤモンド・アート』
ジョージアン ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1830年頃
SOLD
ジョージアンのローズカット・ダイヤモンドのトレンブラン・ブローチローズカット・ダイヤモンド トレンブラン ブローチ
イギリス 1820年頃
SOLD

お花のジュエリーでは、人々が思う"最高の状態のお花"が表現されます。

植物モチーフのジュエリーをデザインする時、植物にとって重要かつ一番華やかと言えるお花をまず想像します。さらにお花は「満開が最高の状態」と捉えるものですが、これは人類共通の普遍の感覚と言えるでしょう。

コンクシェルのジョージアンのフラワー・ブローチコンクシェル フラワー・ブローチ
イギリス 1820年頃
SOLD

だから植物モチーフのジュエリーの大半は、満開のお花が中心になったデザインなのです。

1-2-4. アーツ&クラフツ以前のヴィクトリアン

イギリス フランス イタリア
ハート形ピケのロケット・ペンダント『クラシック・ハート』
ピケ ロケット・ペンダント
イギリス 1870年頃
SOLD
フォーカラー・ゴールドのフラワー・ロケット・ペンダントフォーカラー・ゴールド ロケット・ペンダント
フランス 1860年頃
SOLD
ピエトラドュラの絵画のようなバラのブローチ

『薔薇』
ピエトラドュラ ブローチ
イタリア 1860年頃
SOLD

ヴィクトリアンに入ってからも、満開の花をメインにしてデザインするのはどの国も共通しています。

1-2-5. アーツ&クラフツ運動が始まった頃のイギリス以外の国

アクアマリンと黄金のバラの美しいブローチ『夢叶う青いバラとアクアマリン』
アクアマリン ゴールド ブローチ
ヨーロッパ 1880年頃
SOLD
ゴールドギルトのイタリア製フラワー・ブレスレットゴールド・ギルト ブレスレット
イタリア? 19世紀後期
SOLD
フランスのラブバードのブローチラブ・バード ブローチ
フランス 1880年頃
SOLD

Genも私も傑出して優れている、ハイジュエリーの中でも特別な宝物ばかりを厳選して扱っているので、これまでにお取り扱いした中から探すとなかなか普通と言えるデザインが出てきません(汗)

カリブレカット・ルビー&天然真珠を使った、金線を編んだフラワーバスケットが見事なフランスのアンティーク・ペンダント&ブローチフラワーバスケット ペンダント&ブローチ
フランス 19世紀後期
SOLD
フランスの花籠モチーフのアンティーク・ゴールド・ネックレスフラワーバスケット ブローチ
フランス 1880年頃
SOLD

それでもいくつか見ていくと、全ての宝物にそれぞれ魅力ある特徴があるとは言え、お花に関してはどれもやはり満開時をメインにデザインしてあることが分かります。

1-2-6. アーツ&クラフツ運動が始まった頃のイギリス

ブルーギロッシュエナメル ダイヤモンド ブローチ
ダイヤモンド フラワー ブローチ アンティークジュエリー

アーツ&クラフツ運動が始まった頃のイギリスでの植物の表現の仕方にはいくつかの特徴があります。

1つはありのままの自然らしい姿を描くことです。

様式化するのが当然だったヨーロッパ美術に於いては新しい特徴と言えます。

アーツ&クラフツ初期のハイジュエリー
噴水と鳩を描いたマイクロパールのブローチ『噴水と二羽の鳥』
マイクロパール ブローチ
イギリス 1800年頃
SOLD
ピクニック・バスケットに留まった仲の良さそうな小鳥たちの最高級のジュエリー『Tweet Basket』
小鳥たちとバスケットのブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

この時期は鳥モチーフでも以前にはなかった特徴が見られます。左の1800年頃の鳥たちは噴水に留まっています。現代は憩いの場にある印象の噴水ですが、特に古い時代は富と権力、技術力の象徴として王侯貴族の力を誇示するためのモチーフでもありました。現代人から見ると鳥と噴水のモチーフはほのぼのして見えるだけかもしれませんが、当時は格調の高さも大いに感じたはずです。

一方で、ピクニック・バスケットで戯れる小鳥たちと、バスケットから溢れる植物の実や葉っぱはいかにも自然らしい風景です。

花かごに入った鳥 ブローチ アンティーク・ジュエリー 花かごに入った鳥 ブローチ アンティーク・ジュエリー

360度、完全に立体的に黄金を編んで作ったピクニック・バスケットの裏側には、使っている内にバスケットが少し痛み、修復を施した様子まで再現されています。持ち主の自然が好きでピクニックが大好きな性格、小鳥たちを優しく見守る優しい心、バスケットが痛んでも修復して使う物を大切に心が伝わってくる、自己顕示欲の激しい成金主義の心とは正反対の宝物です。

特に修復痕を再現するのはそれまでの完璧主義のヨーロッパ・ジュエリーでは考えられなかったことで、アーツ&クラフツらしい新しい表現と言えます。

親鳥から蛇が卵を奪う野生を表現したイギリスのアーツ&クラフツのゴールドペンダント『WILDLIFES』
アーツ&クラフツ×モダンスタイル ゴールド・ペンダント
イギリス 1900年頃
SOLD

親鳥から卵を奪うという、自然界では当たり前のように行われているであろう生き物の自然な営みをありのまま表現したジュエリーも、それまでには考えられなかったものです。

以前ならば人間が理想とする、親鳥とヒナの愛情あふれる光景だけがモチーフとして選ばれていたはずです。

循環する世界を表現したダイヤモンド・ジュエリー『循環する世界』
アーツ&クラフツ ブルー・ギロッシュエナメル ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

芽吹きのように、それまでの植物モチーフではフォーカスされなかったような対象がメインでデザインされた作品が出てくるのもこの頃です。

花ではなく、葉っぱがメインのモチーフとしてフォーカスされ始めるのもこの頃からです。

1-2-7. アーツ&クラフツの影響を受けたフランスのアールヌーヴォー

アールヌーヴォー・ジャポニズムの葉っぱモチーフのプリカジュール・エナメル『静寂の葉』
プリカジュールエナメル ペンダント
オーストリア又はフランス 1890〜1900年頃
SOLD
銀杏のアールヌーヴォー・ブローチ『銀杏』
アールヌーヴォー ブローチ
フランス 1900〜1910年頃
SOLD
トライアングルカット・エメラルドの芽吹きを表現したアールヌーヴォー・ブローチ『エメラルド・グリーン』
アールヌーヴォー ブローチ&ペンダント
フランス 1905〜1910年頃
SOLD

このアーツ&クラフツによって新たに生まれたデザイン性向が各地に伝わり、アールヌーヴォーでもお花がない葉っぱだけのデザインであったり、芽吹きを表現したデザインが生み出されるようになったのです。

ホーンの透かし細工による植物モチーフのアールヌーヴォー・ネックレスアールヌーヴォー ホーン ネックレス
フランス 1890〜1900年頃
SOLD

"アールヌーヴォー"はベルギーの優れた建築家アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデの作品を表す言葉として最初に使われたのが始まりで、フランス語で"新しい芸術"を意味します。

しかしながらヴェルデの作品という域を超えて、フランスを中心としたこの年代の美術様式全体がアールヌーヴォーと呼ばれるようになったのは、イギリスのアーツ&クラフツによって新たに生み出された表現方法がそれまでのヨーロッパには存在せず、目新しかったのも一因でしょう。

楓のオパールセント・エナメルのアールヌーヴォー・ペンダントアールヌーヴォー オパールセント・エナメル ペンダント
フランス 1900年頃
SOLD

可能性を秘めた新たな表現手法は当時の優れた才能を持つ芸術家兼職人たちにこぞって受け入れられ、教養や財力、確かな美的センスを持つ上流階級のための優れたアールヌーヴォー・ジュエリーも一定数が作られました。

アーツ&クラフツ アールヌーヴォー
初期の高級品 後期の安物 初期の高級品 後期の安物

しかしながら初期は上流階級を満足させるチャレンジングで面白い高級品が作られていても、その流行が庶民にまで降りてくると安物が量産され陳腐化するのが流れです。アーツ&クラフツ同様、アールヌーヴォーも最終的には粗造乱造品が溢れかえって陳腐化し、誰も見向きもしないものとなりました。

その安物を安く買い漁ってボロ儲けしている現代のアンティークディーらもたくさんいるのですが、私たちはプライドがあって徹底的に厳選して高級品だけをお取り扱いしています。高級品は作られた数も少なく、買付も安くないので大変ですが、高級品を扱えること自体が楽しくてやっています♪

1-2-8. アーツ&クラフツの後の時代

ジャポニズム ペンダント アンティークジュエリー アールデコ『清流』
アールデコ・ジャポニズム ペンダント
イギリス 1920年頃
SOLD
メアンダー模様のアールデコ・ペンダント&ブローチアールデコ メアンダー ペンダント&ブローチ
フランス 1920〜1930年頃
SOLD

優れたものは流行後に定番化します。

満開の花を使わない表現による植物モチーフはアーツ&クラフツの時代以降、ヨーロッパ美術の世界でも定番化しました。

メアンダー模様とガーランドスタイルのブローチ&ペンダントメアンダー&ガーランドスタイル ブローチ&ペンダント
フランス 1910年頃
SOLD
メアンダー模様とガーランドスタイルのアールデコ・ペンダント初期アールデコ ペンダント
ヨーロッパ 1920年頃
SOLD

もちろん一般的なお花の表現手法は昔から定番かつ普遍なので、アーツ&クラフツの後の時代でも、植物モチーフの中では一番多く作られていることには変わりありません。

ガーランドスタイルの月桂樹の天然真珠&ダイヤモンド・ブローチガーランドスタイル 天然真珠&ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1905-1914年頃
SOLD

しかしながら以前であれば絶対どこかしらに満開のお花を配置しているであろうこのブローチに、明らかなお花の表現が1つもないのはアーツ&クラフツをきっかけにヨーロッパ人の美術に関する意識が変化したからに他なりません。

1-3. 他のアーツ&クラフツとの違い

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

アーツ&クラフツ自体がモダンデザインにつながっていくエポックメイキングな美術運動だったので、アーツ&クラフツのハイジュエリーはデザイン的にも優れたものが多いです。その中でもこの宝物は傑出した特徴を持っています。

1-3-1.植物モチーフ

ダイヤモンド フラワー ブローチ アンティークジュエリー ブルーギロッシュエナメル ダイヤモンド ブローチ

陳腐化した後のアーツ&クラフツは様式化が激しくなりますが、初期の植物モチーフの優れた作品に関しては、様式化は最小限に留め、ありのままの自然な姿で表現する手法が1つあります。

1-3-2.動物モチーフ

親鳥から蛇が卵を奪う野生を表現したイギリスのアーツ&クラフツのゴールドペンダント ピクニック・バスケットに留まった仲の良さそうな小鳥たちの最高級のジュエリー
動物モチーフに関しても同様で、まるで人間のエゴを一切排除することを目的としたような、自然界の通常の営みをありのまま表現したようなデザインになっています。

1-3-3.その他のチャレンジングな表現のアーツ&クラフツ

アーツ&クラフツのブルーギロッシュエナメル・ダイヤモンド・ブローチ『可憐な花』
ブルーギロッシュエナメル ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

植物モチーフについて、まるで野に咲く花をありのままの姿で表現したかのような表現手法は画期的ではありましたが、捉えているのは満開の花だったりします。

しかしながらアーツ&クラフツ初期はチャレンジングな取り組みによって、この範疇に入らない新たな魅力ある作品も生まれています。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー『妖精のささやき』
ダイヤモンド ピアス
イギリス 1880年頃
発芽の芽吹きを表現したアーツ&クラフツのジュエリー『循環する世界』
ギロッシュエナメル ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD
植物モチーフのアーツ&クラフツのダイヤモンド・ブローチ『幸せのメロディ』
ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD
これらはどれも植物モチーフですが、以前では考えられなかった表現がなされています。左は植物の新芽です。中央は発芽した芽吹きの芽です。右はまるでアールヌーヴォーの時代を先取りしたかのような、植物モチーフを取り入れながらも曲線を使って様式化された非常に優美で華やかなデザインになっています。
黄金の花畑を舞う宝石の蝶々のブローチ『黄金の花畑を舞う蝶』
色とりどりの宝石と黄金のブローチ
イギリス 1840年頃
SOLD
2カラーゴールドと天然真珠のストライプ・デザインのロケット・ペンダント『豊穣のストライプ』
2カラーゴールド ロケットペンダント
フランス 1880年頃
SOLD

ジュエリーには、富と権力を象徴するような華やかさや豪華さを求められるのが通常です。だからこそ満開のお花やたわわに実った果実などが、いつの時代もジュエリーの定番モチーフとして選ばれてきました。

新芽 芽吹き
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 発芽の芽吹きを表現したダイヤモンド・ジュエリー

華やかさとは正反対の、新芽や芽吹きをジュエリーのデザインとして採用したのは非常に画期的なことです。この2つの宝物以外には見たことがなく、アーツ&クラフツの中でも傑出した作品と言えます。

満開のお花やたわわに実った果実が放つゴージャスさはありませんが、この小さな芽が大きく育って花が咲き、果実が実ります。強い生命力とフレッシュさを感じる、とても魅力的なモチーフだと思います。

2. 見事なダイヤモンド・アート

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

画期的でしかも魅力的なデザインを持ったアンティークのハイジュエリーは、例外なく作りも抜群に優れています。特にこの宝物は作りが上質であるだけでなく、44年間で初めて見る独特の技法も使って作られた特別なダイヤモンド・ジュエリーです。

2-1. ダイヤモンドを個性的に生かしたジュエリー

2-1-1. 表現の幅が狭い宝石ジュエリー

1.5ctのゴージャスなダイヤモンドのリング1.5ct+のダイヤモンド リング
イギリス 1870-1880年頃
SOLD

ルネサンスの頃からHPをご覧いただいている方ならばご存知の通り、Genはあまりダイヤモンド・ジュエリーを好んで扱ってはきませんでした。

ダイヤモンドを始め、宝石は表現の幅が狭く、アンティークならではの優れた細工をこよなく愛するGen的には面白みを感じられないものが多いからです。

扱うとすれば余程宝石自体に価値があり、その上で、それに見合う作りとデザインがしっかりとなされているハイクラスのジュエリーだけです。

2-1-2. 表現の幅が広いゴールド

巣の卵を守る親鳥を表現したスリーカラー・ゴールドとプラチナと天然真珠のコンテスト・ジュエリー

『情愛の鳥』
卵形天然真珠 ブローチ
イギリス 1870年頃
SOLD

細工物をこよなく愛するGenが大好きなのはゴールドを使ったハイジュエリーです。もちろん私も大好きです♪

ゴールドの表現の幅は非常に広く、同じ素材で作ったと感じられないほどゴールドジュエリーは多種多様です。

ヨーロッパの「王の富と権力の象徴」だったパイナップル・モチーフのジョージアンのシトリンを使ったアンティーク・フォブシール『パイナップル』
スリーカラー・ゴールド フォブシール
イギリス  1820年頃
SOLD
商標登録されたイギリスのゴールドのマルチ・ロケット・ペンダント『OPEN THE DOORS』
マルチロケット ペンダント
イギリス  1862年頃
SOLD
エンジンターンを使ったゴールドのロケット・ペンダント アンティーク『Geometric Art』
ゴールド ロケット・ペンダント
イギリス 1840年頃
SOLD
粒金被覆が素晴らしい古代の太陽のようなFASORIのエトラスカンスタイル・ブローチ 音楽を奏でるキューピッドとヴィーナスを彫ったジョージアンのシェルカメオとカンティーユのフレーム マットゴールドのフレンチ・ピアス アンティークジュエリー
『古代の太陽』
エトラスカン・スタイル ブローチ
イタリア 1850〜1870年代(FASORI)
SOLD
『楽器を奏でるキューピットとヴィーナス』
シェルカメオ ブローチ&ペンダント
イギリス 1830年頃
SOLD
『シンプル・フレンチ』
マットゴールド ピアス
フランス 1900年頃
SOLD
透かし細工が美しいターコイズのポマンダー・ペンダント『美しきお守り』
ポマンダー ペンダント
イギリス 19世紀後期
SOLD
カリブレカット・ルビー&天然真珠を使った、金線を編んだフラワーバスケットが見事なフランスのアンティーク・ペンダント&ブローチフラワーバスケット ペンダント&ブローチ
フランス 19世紀後期
SOLD
ゴールド・メッシュのアンティークのコインパース『贅沢な小銭入れ』
ゴールド コインパース
アメリカ? 1900年頃
SOLD

ゴールドの技法は非常に多いです。カラーゴールド、手彫りやエンジンターンによる様々な彫金、粒金や粒金被覆、撚り線、カンティーユ、マットゴールドに艶出し加工、透かし細工、金線を編んだりチェーンやメッシュにする技法など、その他まだまだあります。

ゴールドの素晴らしいアンティーク・ウォッチチェーン

『ステータス』
ゴールド ウォッチチェーン
イギリス 19世紀後期
SOLD

作る技術や手間を考えるとよくやったものだと驚くばかりですが、ゴールドは無限の表現力を秘めた素晴らしい素材であり、昔の職人たちはその豊かな才能を使って実にアーティスティックで素晴らしい宝物を生み出してきたのです。

2-1-3. ダイヤモンドによる表現の幅

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

融かして集めたり作り直したりできるゴールドと違って、硬い鉱物であるダイヤモンドは表現の幅を増やすのが困難な素材です。

ダイヤモンド原石を使ったアンティーク・ジュエリー『ダイヤモンドの原石』
クラバットピン(タイピン)&タイタック
イギリス 1880年頃
SOLD

需要を上回る供給も可能となった現代と異なり、古い時代ほど手に入るダイヤモンドの原石は限られていました。

自然界から手に入れる天然石なので数に加えて大きさや質も限られています。

約2カラットのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド ブローチ アンティーク・ジュエリー『財宝の守り神』
約2ctのダイヤモンド ブローチ
フランス 1870年頃
SOLD

だからこそ上質で大きなダイヤモンドほど稀少価値が高く、最高級のジュエリーに使用されます。

当然ながら原石をカットする際は、美しさとの兼ね合いを最大限に考慮しつつも、なるべく無駄を出さず大きなルースになるようカットされます。

大きくて貴重な原石ほどそうです。

このため、どうしてもダイヤモンドで表現できる幅は狭くなります。

2-1-4. ダイヤモンドを使った個性的な表現

ダイヤモンドの原石

表現の幅がゴールドと比べてはるかに狭いとは言え、アンティークの時代はさすがにいろいろと試行錯誤されています。

ハイクラスのジュエリーではチャレンジングな試みの結果、いくつかの面白い表現手法が生み出されています。

ファセット形状や透明感の制御 煌めきを増幅させる動作機構
カットの妙 トレンブラン 揺れる構造
ジョージアン ダイヤモンド ブローチ アンティーク・ジュエリーイギリス 1830年頃 エイグレット型トレンブランのブローチ&髪飾りフランス 1880年頃
エドワーディアンの0.5ctダイヤモンドの美しいネックレスイギリス又はオーストリア 1910年頃
石留めによる表面被覆

これらはいずれもダイヤモンドの特徴を生かした面白い技法です。

現代ジュエリーだと通り一辺倒の表現しかありませんが、職人の高度な技術を使えばダイヤモンドでもそこそこ表現の幅は出せます。

そうは言っても、アンティークのハイジュエリーの中でも作られた数はかなり少ないです。

クローズド・パヴェ・セッティング
ガマの穂に留まる二羽の小鳥たちの芸術的なダイヤモンド・ブローチイギリス 1870年頃
2-1-4-1.カットの妙
ジョージアンの様々なカットが施されたダイヤモンドのブローチ『ダイヤモンド・アート』
ジョージアン ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1830年頃
SOLD

ダイヤモンドはカットによってルースそのものの形状だけでなく、ファセットの形も異なります。つまり面反射してダイヤモンドが煌めく際の形状がカットによって異なるということです。

ファセットの角度や面数、厚みなどによって輝きやすさ、ファイアの出やすさ、透明感なども異なってくるので、同じ大きさのダイヤモンドでもカットによってかなり印象が変わってきます。

エメラルドカットやダッチローズカット・ダイヤモンドが見事なジョージアンのアンティーク・ブローチ

この宝物は様々なカットのダイヤモンドを使ったブローチです。花束というオーソドックスなモチーフながら、1つ1つが異なる表情を魅せる個性あるダイヤモンドをうまく組み合わせており、全体として魅力の強いジュエリーになっています。ダイヤモンドという素材だけでここまで表現できるのかと、見る者を感動させてくれる宝物でした。ただしこのジョージアンのブローチは例外的な作品です。

ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移【引用】2017年の鉱山資源局の資料

1869年以降に南アフリカでダイヤモンドラッシュが起こる以前は、ダイヤモンドの産出量は非常に少なく、本当の意味で限られた王侯貴族のためだけの稀少価値の高い宝石でした。

だからこそ、限られた原石からなるべく多く宝石が取れるカットを施すのが当然でした。変わった形にしたくても、無駄が多く出るようなカットはできない事情があったわけです。

さらにダイヤモンドが自然界における最も硬い素材であったがために、加工技術の面からも課題がありました。 劈開性を利用してカットするしかなかった時代は、ダイヤモンド原石の結晶を見極めて劈開のポイントを判断し、カットする熟練の技術が必要でした。

さらに2人1組で手作業で少しずつ磨いてダイヤモンドの形を整えていく作業は、高度な技術に加え、恐ろしいまでの手間と時間がかかる作業でした。

だから劈開性を無視した特殊なカットはできなかったのです。

ダイヤモンドの切削加工場(1710年頃)
プリンセスカット・ダイヤモンドと四角形のエメラルドのアールデコ・リング『The Beginning』
プリンセスカット・ダイヤモンド&エメラルド リング
イギリス 1910年頃
SOLD

カットを駆使してアーティスティックなダイヤモンド・ジュエリーが花開いたのは1900年代に入ってからです。

南アフリカのダイヤモンドラッシュをきっかけにダイヤモンドのカットの近代化が進み、1900年にダイヤモンドソウが発明され、劈開性を無視したカットが可能となったことが要因です。

ブリオレットカット・ダイヤモンドと天然真珠がきらびやかなアールデコのブローチ『雫の芸術』
ブリオレットカット・ダイヤモンド&天然真珠 ブローチ
フランス 1920年頃
SOLD
ペアシェイプカット・ダイヤモンドとエメラルドのフランス製アールデコ・リング『大都会』
ペアシェイプカット・ダイヤモンド&エメラルド リング
フランス 1920-1930年頃
SOLD
マーキーズカット・ダイヤモンドのアールデコのバーブローチ

マーキーズカット・ダイヤモンド バーブローチ
ヨーロッパ 1930年頃
SOLD

プレ・プリンセスカット、ブリオレットカット、ペアシェイプカット、マーキーズカットなど、劈開性を使ってカットするしかなかった時代では到底不可能だった、新たな魅力あるカットが考案され、普通では物足りない特別な人たちのためのハイジュエリーのために施されました。

アンティークのブリオレットカット・ダイヤモンドと天然真珠ブリオレットカット アンティークのマーキーズカット・ダイヤモンド

マーキーズカット

ダイヤモンドの原石からこのルースを取り出そうとすると相当無駄が出たはずです。技術とコストの両方の観点から、双方の課題がクリアされる20世紀にならないと殆ど見ることがないのがカットを駆使したダイヤモンド・ジュエリーです。

2-1-4-2.煌めきを増幅させるトレンブラン
エイグレット型トレンブランのブローチ&髪飾り エイグレットがモチーフのトレンブランのダイヤモンド・ブローチ
エイイグレット型トレンブラン ブローチ&髪飾り
フランス 1880年頃
SOLD

金属のバネ性を利用し、着用者の動きに合わせて揺れることでダイヤモンドの煌めきをより複雑かつ魅力的にしたジュエリーがトレンブランです。

美しく揺れることと、耐久性を両立させるためには非常に高度な技術が必要で、アンティークでも特に高級品として作られたジュエリーにしか見ることはありません。

花に舞う蝶がモチーフのジョージアンのトレンブラン花と蝶のトレンブラン ブローチ
フランス 1820年頃
SOLD
南アフリカからダイヤモンドが豊富に供給され始めた1870〜1880年代頃に流行しており、市場に出回る殆どはその年代のものですが、19世紀初期のジョージアンにも流行しています。
ヴィクトリアンのフラワーモチーフのトレンブランダイヤモンド トレンブラン ブローチ
イギリス 1870-1880年頃
SOLD
ヴィクトリアンのフラワーモチーフのトレンブランダイヤモンド トレンブラン ブローチ
フランスorヨーロッパ 1870-1880年頃
SOLD

普遍の魅力を持つこと、魅力が誰にでも分かりやすいということもあり、高い技術が必要な高額品でありながらもある程度の数が作られています。

ダイヤモンド トレンブラン ブローチ アンティーク・ジュエリー

高度な技術を持つ職人の手作りでしか作ることができないため、現代ではもちろん、美しい見た目で魅力的な揺れ方をするトレンブランを作ることはできません。

『可憐な一輪』
ダイヤモンド トレンブラン ブローチ
フランス 1880年頃
SOLD
2-1-4-3.煌めきを増幅させる揺れる構造
エドワーディアン ダイヤモンド ネックレス アンティーク・ジュエリー『Shining White』
ダイヤモンド ネックレス
イギリス or オーストリア 1910年頃
SOLD
エドワーディアンのハイジュエリーの可動部

トレンブランの他に、可動部を作って揺れる構造にすることで、着用者の動きに合わせて煌めきを増幅させる手法もあります。

現代ジュエリーと異なり、高度な技術を持つ職人による1点物のハンドメイドならではの複雑かつ精密な動作機構による揺れは素晴らしいものです。

18世紀ロココ時代のフランスのダイヤモンド・ネックレス

『幻のネックレス』
ダイヤモンド ネックレス
フランス 1750年頃
SOLD

手法としてはオーソドックスなので、古い時代から揺れる構造は存在します。

約2カラットのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド ブローチ アンティーク・ジュエリー『財宝の守り神』
ダイヤモンド ブローチ
フランス 1870年頃
SOLD

高級になればなるほどより複雑な動作機構を持ち、複雑かつ魅力的な揺れ方をします。

モンタナサファイアのブルーと天然真珠の白が美しいアールデコのネックレス『天空のオルゴールメリー』
アールデコ 天然真珠&サファイア ネックレス
イギリス 1920年頃
¥1,230,000-(税込10%)

揺れるジュエリーが特に花開いたのは、南アフリカによってダイヤモンドが豊富に供給されるようになってダイヤモンドをふんだんに使ったジュエリーが多く作られるようになり、かつプラチナがジュエリーの一般市場に出始めた20世紀以降です。

アンティークジュエリーならではの揺れるための可動部の構造 モンタナサファイアのブルーと天然真珠の白が美しいアールデコのネックレス
モンタナサファイアのブルーと天然真珠の白が美しいアールデコのネックレス

このように高度な技術と手間をかけて複雑な可動部を正確に作ることで、着用者の動きに合わせて美しく揺れることができます。

しなやかにフィットするアンティークジュエリー

左右のみならず前後にも揺れることができる、驚くべき構造です。

現代ジュエリーのように、パッと見たときのデザインしか気にしない美意識の低すぎるジュエリーとは全くことなるものです。

揺れる構造は動いた状態でないと魅力が分かりにくく、しかも分かりにくいのに高度な技術と手間を必要とするため、かなりコストが高く付き高額なジュエリーになります。

現代のようにパッと見た時のデザインでしか判断できない人が増えた結果、1940年代には高級品として作られたジュエリーでも、すでにこの部分は激しく手抜きされるようになります。

左のブローチも可動部は下部の1箇所のみという、残念な状況です。

【参考】ダイヤモンド ブローチ(1940年代)
←↑現代のダイヤモンドジュエリー
現代ジュエリーは揺れ方が滑らかではなく、可動部も丸見えで目立ち、まるで子供のオモチャです。

この現代のカルティエのダイヤモンド・ブローチは、デザイン的にはせめて一番下くらいは揺れるように作ってあるだろうと思ったのですが、拡大してよく見たら揺れない構造のようでした。

大小2つのダイヤモンドを使って雫型に見せている部分がかなりあり、ただでさえ材料費的にケチくさいのに、細工にも全くお金をかけておらず、かなり安っぽいです。

ダイヤモンドのカットに趣向を凝らしたジュエリーやトレンブランに比べると、複雑に揺れる構造はアンティークのハイジュエリーでは比較的よく見る手法なのですが、現代ジュエリーではそれすらもやらないし、できないのです。

現代カルティエの鋳造のブローチ
ホワイトゴールド、ダイヤモンド
¥3,628,800-(税込)2019.2現在
【引用】Cartier HP / PLUIE DE CARTIER BROOCH
2-1-5.クローズド・パヴェ・セッティング
枝に留まる3羽の小鳥たちが愛らしい初期アーツ&クラフツのダイヤモンド・ブローチスリーバード ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

極小のローズカット・ダイヤモンドを敷き詰める、独特の石留めによって全体から細かい閃光を放つクローズド・パヴェ・セッティングという手法もあります。

オームのダイヤモンド・ブローチ『オウム』
ダイヤモンド ブローチ
イギリス 19世紀後期
SOLD

ダイヤモンドを敷き詰める類似の細工はありますが、フレームの有無、ダイヤモンドの大きさ、オープンセッティングか否か、整列しているのかモザイク状かなどの複数の点で明確に違いがあります。

1ctルビーの蝶々のトレンブラン オームのダイヤモンド・ブローチ

これらは同時代に作られた、いずれも最高級のジュエリーです。

フレーム・セッティングのローズカット・ダイヤモンドと比較すると、小鳥たちのクローズド・パヴェ・セッティングのダイヤモンドは一回り以上小さいです。

花かごに入った鳥 ブローチ アンティーク・ジュエリー ←↑等倍
高級なダイヤモンド・ジュエリーの裏側 シルバーの彫金が見事な小鳥たちのジュエリー
通常、この時代は高級品はローズカット・ダイヤモンドもオープンセッティングなのですが、クローズド・パヴェ・セッティングの場合はシルバーで作った立体的な造形にダイヤモンドをセットしているのでクローズドセッティングになります。
花かごに入った鳥 ブローチ アンティーク・ジュエリー 1ctルビーの蝶々のトレンブラン『蝶々』
トレンブラン ブローチ&髪飾り
イギリス 1880年頃
SOLD

作者がなぜクローズド・パヴェ・セッティングという特殊な石留めを使っているのかというと、曲率の大きな立体造形をキラキラに輝かせたかったからです。フレームにもう少し大きなローズカット・ダイヤモンドをオープンセッティングする方法だと、平面かあまり曲率のきつくない部分でないと難しいのです。

スワロフスキーなどを敷き詰めた装飾が一時期、一部の日本人の間でも人気になりました。接着剤で貼り付けるだけなので、気合いと根性さえあれば誰でもできる装飾です。スマートフォンに施すデコ電だと、表面はフラットなので特に技術も必要ありません。

タダに等しいような材料なので使い捨てですし、落ちても平気です。1ヶ月以内にチェンジしてしまうネイルアートにすら、気軽に使うことができます。

ただ、ヘリテイジでお取り扱いしているアンティークのハイジュエリーをご存知の方だと、それらの装飾に高級感を感じたことはないと思います。

所詮はアクリルやクリスタルガラスなので輝きが弱いですし、クローズド・パヴェ・セッティングのダイヤモンドより遥かに大きなサイズのストーンを使うため、繊細さな美しさがなく成金的で安っぽく見えるのです。

美しいクローズド・パヴェ・セッティングの小鳥たちのブローチ
『二羽の小鳥』
ブローチ
イギリス 1870年頃
SOLD

小さなダイヤモンドをモザイク状に綺麗に敷き詰めて爪で固定し、150年ほどジュエリーとして使い続けられても脱落していないだなんて驚異的なことです。

小さくて曲率のきつい複雑な造形にセッティングするだけでも超難度の技なのに、これだけの耐久性があるだなんてアンティークの時代でも考えにくいことです。

仲の良さそうな小鳥たちのダイヤモンド・ジュエリー 花かごに入った鳥 ブローチ アンティーク・ジュエリー
ラインストーンのデコレーションからも想像できる通り、クローズド・パヴェ・セッティングが施された表面全体がキラキラと輝く様子は非常に美しく、間違いなく当時の王侯貴族たちの心を強くとらえたはずです。しかしながらこの作者のものと思われる作品以外で、この細工を見ることがないのは超絶技巧の神技すぎて、他にできる職人がいなかったからだと推測します。
ガマの穂に留まる二羽の小鳥たちの芸術的なダイヤモンド・ブローチ

どんなに高額なものになろうと、素晴らしいもののためには古の王侯貴族であればいくらでも出します。

でも、そもそも"難しすぎて技術的に作ることが不可能"となると、諦めざるを得なかったのでしょう。

2-1-6.新発見の新たな技法で作られたジュエリー

ファセット形状や透明感の制御 煌めきを増幅させる動作機構 石留めによる表面被覆
カットの妙 トレンブラン 揺れる構造 クローズド・パヴェ ???
エメラルドカットやダッチローズカット・ダイヤモンドが見事なジョージアンのアンティーク・ブローチ エイグレットがモチーフのトレンブランのダイヤモンド・ブローチ アールデコ・ジュエリーのしなやかに揺れる構造 花かごに入った鳥 ブローチ アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

ダイヤモンドの大きさだけを気にし、美しさはないがしろにされている現代ジュエリーと異なり、探してみるとアンティークのハイジュエリーでは意外と様々な種類の細工があるものです。しかしながらそれぞれの魅力とは別に、技術的難易度によって作られた数には違いがあります。今回、44年間で初めて見る新発見の技法が確認されました!!

2-2. アンティークならではのマイクロ・ジェム

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

このピアスには信じられないほど小さなダイヤモンドが使われています。小さなピアスをこれだけ拡大しても、中央の新芽部分のフレームにセットされたダイヤモンドは極小です。

マイクロダイヤモンド・モザイクのピアス

肉眼では見えないほどの小ささです。

まさかこんなに小さなダイヤモンドを使ったジュエリーがあるとは予想だにしておらず、初めて見て、この細工に気づいたときは「!!!、?????」という感じでした(笑)

小さくてもキラッキラッと閃光を放つので、極小ダイヤモンドがセットされていることに気づきました。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

まさに1mmにも満たないミクロの細工のジュエリーです。

2-2-1. アンティークならではの細かさを追求する芸術品

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

極小の細工が魅力の小さな宝物。

それは宝石の価値だけで判断する人が大半の現代ジュエリーでは想像もできない、芸術作品を己の美意識で理解し、こよなく愛した古の王侯貴族たちならではの宝物です。

【参考】現代の成金ジュエリー

石ころの大きさだけに重点を置く現代ジュエリーに芸術的な要素は全くありません。芸術が教養の1つであった古の王侯貴族たちから見れば、こういうジュエリーは『nouveau riche(ヌーヴォー・リーシュ、成金)』と侮蔑する対象でしかありません。こんなものを着けていたら、美意識が高い人や優れた教養と知性を持つ人たちからは避けられてしまいます。良いご縁をつないでくれるどころか、それらを逃す悪運アイテムです!!(笑)

『シレヌスの顔のついたネックレス』(エトルリア 紀元前6-紀元前5世紀)国立博物館(ナポリ)
【引用】ジュウリーアート(グイド=グレゴリエッティ著、菱田 安彦 監修、庫田 永子 訳 1975年発行)講談社 ©GUIDO GREGORIETTI, Y.HISHIDA, N.KURATA p.54

アンティークには、どう考えても"小さければ小さいほど素晴らしい"という思想で作られているとしか思えない、小ささを極めた作品が存在します。それは既に紀元前、古代の時代から存在しました。

【引用】ジュウリーアート(グイド=グレゴリエッティ著、菱田 安彦 監修、庫田 永子 訳 1975年発行)講談社 ©GUIDO GREGORIETTI, Y.HISHIDA, N.KURATA p.27

感覚的に私が一番好きなのが、この手の小ささを極めた人間技とは思えない技術で作られた宝物です。初めてGenのお店ルネサンスに訪れ、2つのミクロの芸術を見たのがアンティークジュエリーの世界に入るきっかけとなりました。1つがこの古代エトルリアのゴールドのネックレスです。Genが見せてくれた古い書籍に載っていました。

白大理石を使った珍しいミュージアムピースのイタリアのフローレンスモザイク(ピエトラドュラ)のアンティーク・バングルピエトラドュラ バングル
イタリア 1860年頃
SOLD

もう1つがピエトラドュラのバングルです。

一円玉にも満たない大きさの白大理石に、天然の色とりどりの色石を象嵌して作られた作品です。

古代エトルリアのネックレスは既に美術館蔵なので入手不可能でしたが、このバングルはルネサンスで販売中だったので迷わず買いました(笑)

とにかくこういう細工物は私の琴線に触れるのです。

アンティークジュエリーの中でも別格の作品だったからこそですが、アンティークジュエリーを初めて見た私にとっては初めての感覚であり、それは大いなる喜びでした。

サクランボの種を彫刻したペンダント サクランボの種にエンジェルを彫刻したペンダント

小さければ小さいほど良い。

あり余るほどの財力を持つ者同士、石ころの大きさというカネさえ出せば誰でも手に入るようなくだらないことではなく、自身の美意識の高さや教養の深さでお互いに張り合っていた時代ならではの、様々な種類のミクロの芸術作品がアンティークジュエリーには存在します。

『チェリー・アート』
サクランボの種のペンダント
ドイツ 18世紀後期
SOLD

2-2-2. アンティークならではのミクロの芸術

マイクロカーブドアイボリー 撚り線 粒金被覆
18世紀のハーガー作マイクロカーブドアイボリー「廃墟と旅人」『廃墟と旅人』
C.ハーガー作 1770〜1800年頃
SOLD
17世紀のスチュアート朝のロッククリスタル・ペンダントステュアート朝のペンダント
イギリス 17世紀
SOLD
エトラスカンスタイル ブローチ アンティーク・ジュエリー『古代の太陽』
イタリア 1850〜1870年代
SOLD
ローマンモザイク ミニアチュール マイクロパール
キリストの精霊である鳩を描いたローマンモザイクのデミパリュール『平和のしるし』
イタリア 1860年頃
¥2,030,000-(税込10%)
湖畔の貴族の男女を描いたミニアチュール・ブローチ『湖の畔で』
イギリス 1780年頃
SOLD
1792年に作られたマイクロパールの「羊と柳」のモーニングジュエリー『柳と羊』
イギリス 1792年
SOLD

城が1つ買えるほど高価だったという王族クラスのジュエリー『マイクロカーブドアイボリー』や髪の毛より細い金線を撚った『撚り線』、粉のような大きさの粒金を敷き詰めてマット感とゴールドならではの黄金の輝きによる高級感を出す『粒金被覆』、細かい色ガラスを敷き詰めて絵を描いた『ローマンモザイク』、ジュエリー・サイズの小さなキャンバスに細密な絵を描いた『ミニアチュール』、驚くほど小さな天然真珠で絵を描いた『マイクロパール』など、アンティークのハイジュエリーでは小ささを極めた様々な技法の芸術作品を見ることができます。

ハーガー マイクロカーブドアイボリー マイクロ彫刻画 廃墟と旅人 天然真珠ネックレス アンティークジュエリー 17世紀のスチュアート朝のロッククリスタル・ペンダント エトラスカンスタイル ブローチ アンティーク・ジュエリー キリストの精霊である鳩を描いたローマンモザイクのデミパリュール ミニアチュール(細密画)
ブローチ アンティーク・ジュエリー マイクロパール 極小天然真珠 モーニングジュエリー 柳と羊 ミニアチュール アンティークジュエリー
象牙 ゴールド ゴールド ガラス ペイント 天然真珠

素材に注目してみると、宝石を使った『ミクロの細工物』は天然真珠以外に存在しないことが分かります。ジュエリーとしてはメジャーな存在と言える、ダイヤモンドや他の色石などを使ったミクロの細工物は今までなかったのです。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

今回、初めてマイクロ・ダイヤモンドを使った驚きの宝物が出てきました!

2-3. 初めて見るダイヤモンドのマイクロ・モザイク

2-3-1. 天然真珠の場合

天然真珠とゴールドの耳飾り(古代ローマ 1世紀) メトロポリタン美術館

カットなどの加工をしなくても、そのままの状態で美しい天然真珠は人類との関わり合いが古く、古代の時代から富と権力の象徴として王侯貴族から愛されてきました。

【引用】『宝石学GEMS 宝石の起源・特性・鑑別』ROBERT WEBSTER, F.G.A. 著、砂川一郎 監訳(1980年) ©全国宝石学協会、p.449
【参考】天然真珠を採取するダイバーたち

富と権力の象徴たりえたのは単純に美しいというだけでなく、稀少価値が非常に高かったからです。天然真珠が入っているかどうか分からない真珠貝を、危険な海に素潜りして命懸けでダイバーたちが採ってきます。真珠貝の生息域である深度9〜27mの範囲で潜るそうです。建物の高さにすると9mで3階建て、27mだと9階建てに相当します。凄いですね。

天然真珠は数十人のダイバーが一週間で35,000個の貝を採取し、天然真珠が出てきたのが21個、そのうち商品価値があったものは僅か3個だったという記録があるほど稀少な宝石です。

天然真珠を採取した後の廃棄された真珠貝の貝殻(1914年頃)
マイクロパール シードパール ノーマルサイズ 特大サイズ
マイクロパール 極小天然真珠 モーニングジュエリー 柳と羊 ミニアチュール アンティークジュエリー『柳と羊』
イギリス 1792年
SOLD
スズランのエナメルのブローチ アンティークジュエリー

『Lily of the valley』
イギリス 1880年頃
SOLD

エドワーディアンのシルキーマットな天然真珠のスタイリッシュなネックレス『Quadrangle』
オーストリア? 1910年頃
SOLD
大きな天然真珠のアーティスティックなペンダント『真珠のアート』
ヨーロッパ 1890-1900年頃
天然真珠:25×10mm
SOLD

それだけ入手困難な宝石だったからこそ大きなサイズはもちろん、どうやって集めたのかと驚き呆れ果てるようなサイズのものまで集め、それを使ったジュエリーまで作られているわけです。

マイクロパール 極小天然真珠 モーニングジュエリー 柳と羊 ミニアチュール アンティークジュエリー『柳と羊』
マイクロパール リング
イギリス 1792年
SOLD

一体どうやってこれほど極小の天然真珠を正確に固定し、230年近く経っても脱落せぬよう固定しているのか分かりません。

特徴としては、マイクロパールは得られた天然真珠をそのままの形で使用します。

ゴールドのように融かし集めて大きくすることはできませんからね。

マイクロパールのジョージアンのペンダント

天然真珠自体が非常に稀少価値のある宝石であり、その中の極小の真珠を有効利用してこのような芸術的な作品を作ろうという発想が生まれるのは自然な流れでしょう。

マイクロパール ペンダント
イギリス 1800年頃
SOLD
アンティークジュエリー ルネサンス マイクロパール 極小天然真珠 ブローチ フラワーバスケットマイクロパールブローチ
イギリス 1830-1840年頃
SOLD

大変過ぎる作業なので、思いついたとしても実際にやったこと自体が驚くべきことではありますが、芸術を生み出すために高度な技術だけでなく膨大な手間を惜しまなかった時代であったことを考えれば、マイクロパールの作品がいくつか存在するのは納得です。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー『噴水と二羽の鳥』
マイクロパール ブローチ
イギリス 1800年頃
SOLD
アンティークジュエリー ルネサンス マイクロパール 極小天然真珠 ブローチ フラワーバスケットマイクロパールブローチ
イギリス 1910年頃
SOLD

もちろん作られた数は本当に少なくて、44年間でも数点しかマイクロパールの宝物は扱ってはいません。

2-3-2. マイクロダイヤモンドによるモザイク

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

一般的には大きくカットするのが当たり前だったダイヤモンドに於いて、あえて極小にカットしてそれをメインにしたジュエリーを作ろうという発想は、驚くべき独創性があります。

ピクニック・バスケットに留まった仲の良さそうな小鳥たちの最高級のジュエリー『Tweet Basket』
小鳥たちとバスケットのブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

方向性としてはクローズド・パヴェ・セッティングと類似しており、ダイヤモンドを敷き詰めることで、全体がキラキラと輝くように設計されています。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

このピアスでは、新芽を造形したフレームの中にモザイクのようにびっしりとマイクロダイヤモンドがセットされています。

マイクロパール同様、実体顕微鏡で見ても一体どうやって留まっているのかが分からない驚異の石留めでセッティングされています。

新芽の下の茎の部分までビッシリとマイクロダイヤモンドがセットされています。

140年ほど経った今でもマイクロダイヤモンドは1つも落ちておらず、驚きとしか言いようがありません!

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

マイクロダイヤモンドは目には見えないほどの小ささにも関わらず、上質な石を綺麗にカットしてあります。まさかこれほど小さな石にこれほど綺麗なカットができるとは思わなかったので、実体顕微鏡で見たときは仰天しました。石留めのみならず、カットに関しても一体どうやったのか謎です。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

綺麗なカットだからこそ、新芽の部分はキラキラとローズカット・ダイヤモンドならではの繊細な輝きを放つことができます。新芽らしい、瑞々しさを感じるフレッシュな輝きは感動的です。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

それにしてもよくこれだけ綺麗に、異なる大きさのダイヤモンドを使ってビッシリと敷き詰めたものだと感心します。この作品か、同じ作者が作ったもの以外にはこんな細工のジュエリーはないと思います。当然ながら細工の名称も存在しないので、ヘリテイジでこの小さなダイヤモンドを『マイクロダイヤモンド』、この細工を『マイクロダイヤモンド・モザイク』と名付けることにしました。レアすぎて二度と出てこない言葉かもしれません(笑)

マイクロダイヤモンドのピアス

マイクロダイヤモンド・モザイクはファセットが様々な角度を向いているため、室内の弱い自然光でもキラキラと美しく輝きます。

マイクロダイヤモンドのピアス

それだけでなく、極小のダイヤモンドながらファイアを放つこともできます。

太陽光だとそれが顕著です。

マイクロ・ダイヤモンドの輝き

現代ジュエリーのメレダイヤ(極小ブリリアンカット・ダイヤモンド)は一般的に質が悪い石を使うので輝きが弱く、ただ付いているだけという感じなのですが、この宝物はマイクロダイヤモンドこそメインストーンなので、上質な石が使われた当然の結果です。

2-3-3. 徹底したマイクロダイヤモンド使い

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
この宝物は『マイクロダイヤモンド』を作品テーマとして作られているため、よく見ると新芽の部分以外にも徹底してマクロダイヤモンドが使われています。
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

新芽の両脇にある葉っぱの先端と根元部分には、新芽部分に使われているのと同じくらい極小のダイヤモンドがセットされています。また、画像一番右の部分にある菱形のフレームにもマイクロダイヤモンドがセットされています。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

この画像では右側にある、菱形フレームの内側にはマイクロダイヤモンドが2石セットされています。

さらにその菱形フレームの左側には、これまた特に小さなマイクロダイヤモンドが2石連なってセットされています。

マイクロダイヤモンドのピアス

実際の大きさを想像すると、到底人間技とは思えない神の技による細工が施されていることがお分かりいただけると思います。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

こうして左右のピアスを見ると、マイクロダイヤモンド・モザイクに配置した石の大きさもカットも、意図的にきちんと揃えて作られていることが分かります。また、菱形フレームにセットしたダイヤモンドの数も左右で同じです。小さなダイヤモンドであれば何でも良いという思想で適当に作ったのではなく、極小であっても全てのダイヤモンドに明確な役割を持たせ、高度にデザインを設計して作られたのは明らかです。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

それにしても1つ作るだけでも尋常ではないのに、ピアスなので左右対称で2つ作っているのです。

その並々ならぬ精神力は、神技を持つ職人だけが持てるものと言えるでしょう。

圧巻です!

2-4. 上質なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド

マイクロダイヤモンドのピアス

このピアスにはマイクロダイヤモンドとは対照的に、サイズ感のあるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドがたくさん使われています。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

このオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドも非常にクリーンで上質な石が使われています。ファイアが非常に出やすいため、色が付いているように見える画像もありますが、実際は非常にクリアな石です。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

ファイアが出やすいのは、クラウンに厚みがある贅沢なカットのダイヤモンドだからです。現代のブリリアンカットはコストダウンしか考えていません。クラウンに厚みのない平たいカットを施してしまうので、ダイヤモンドが本来持っている輝きやファイアなどの魅力が弱いのです。ケチって美しくなるわけがないのです。

アンティークのダイヤモンドのファイア アンティークのダイヤモンドのファイア 明るい太陽光の元だと、様々な色が出てきます。
アンティークのダイヤモンドのファイア

ここまでくると光りすぎ、ファイア出すぎ(笑)という感じですが、外で眩しい太陽光の元で着けて楽しむということはあまりないでしょう。

通常の室内光だと、美しく上品に程よく煌めいてくれます♪

それにしてもダイヤモンドは本来、これだけポテンシャルを持っているということですね。

現代ジュエリーはせっかくのダイヤモンドのポテンシャルを、なぜ誰1人として生かそうとしないのでしょうね。

総カラット数なんて全く意味がありません。

1つの石で上質かつ大きなカラット数があれば稀少価値も上がりますが、屑石をいくら掻き集めても掛け算ではなく単純な足し算にしかならないので、価値は高くなりようがありません。

感覚的にこういうジュエリーの魅力がさっぱり分からないので、私はアンティークジュエリーに出逢う前から現代ジュエリーは1つも持っていません・・。

【参考】3.65ctのダイヤモンド・ピアス(現代)
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

ジュエリーの真の美しさと価値を決定付けるのは石ころの価値ではなく、芸術性なのです。

それはアーティスティックな才能と神技を併せ持つ、ごく一部の職人だけが創り出せるものです。

3. 見事なフレーム

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

デザイン、マイクロダイヤモンド・ワーク共に傑出した特徴を持つ本作ですが、もう1つ唯一無二と言える大きな特徴があります。それが見たことのないフレームの技術です。

3-1. ダイヤモンドにフィットする見事な作り

3-1-1. 複雑な形状の葉

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

何も考えていないとスルーしてしまいそうですが、新芽の両側にある葉っぱの表現が驚きなのです。

ダイヤモンド1石1石に沿った曲線形のニョロニョロとした形状になっています。

44年間で初めて見る驚異的なあり得ない細工です!!

ピアス中央のマイクロダイヤモンド・モザイクで表現されたものが新芽とを示するために、両側に成長した葉っぱを表現するのは理解できることですが、敢えてこの難易度の高い形状にトライした所に、作者のアーティスト兼職人としてのセンスとプライドが光ります。

3-1-2. 葉が脇役のダイヤモンドのハイジュエリー

ピクニック・バスケットに留まった仲の良さそうな小鳥たちの最高級のジュエリー『Tweet Basket』
小鳥たちとバスケットのブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD
エドワーディアンのカリブレカット・ルビーが美しいリボン&月桂樹のダイヤモンド・ペンダント&ブローチ アンティークジュエリー『永遠の愛』
エドワーディアン ダイヤモンド ペンダント&ブローチ
フランス? 1910年頃
¥1,220,000-(税込10%)

もっと単純な形状の葉っぱはいくらでも種類があります。

最高級ジュエリーであっても、葉っぱが主役でない場合は悪目立ちせぬよう、ダイヤモンドを1石だけセットしたシンプルな形状で表現されるのが通常です。

3-1-3. 葉が主役のダイヤモンドのハイジュエリー

発芽を表現した天然真珠とダイヤモンドのアーツ&クラフツ・ジュエリー『循環する世界』
アーツ&クラフツ ブルー・ギロッシュエナメル ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

葉が主役のハイジュエリーの場合は葉の形状デザインに趣向が凝らしてあり、それぞれの形がこだわりをもって作られているものです。

『循環する世界』も中央の発芽したばかりの葉と、下に下がった葉や外周を飾る、成長した葉ではデザインが異なります。

発芽を表現した天然真珠とダイヤモンドのアーツ&クラフツ・ジュエリー

外周の葉は両サイド共に一番下の葉はフレームの形状を駆使して躍動感ある強い生命力を感じるデザインになっています。

その上も2枚の重なり合う葉の表現が見事です。

シダのダイヤモンド・ブローチシダ ブローチ
フランス 1880年頃
SOLD

葉っぱがモチーフのジュエリーは特に高級でデザインセンスも作りも優れた宝物が多いです。

このシダのブローチもその1つです。

複雑な葉の形状はフレームで表現し、フレームの中の隙間をダイヤモンドやグレインワークで埋めるというやり方です。

ハイジュエリーでは比較的よく見かける技法です。

シダのトレンブランのブローチ&髪飾り

シダ トレンブラン ブローチ&髪飾り
フランス 1870年頃
SOLD

これはかなり変わっていて、シルバーの葉を1枚1枚彫金して、その中央にダイヤモンドをセットしています。ダイヤモンド・ジュエリーというよりは、優れた彫金が見せ場でダイヤモンドが惹き立て役のジュエリーと言えます。

これくらいの高級品になると、細工に関してもオリジナリティ溢れる魅力的な宝物の割合が多くなってきますね。

ブシュロンの楓のトレンブランBOUCHERON カエデ マルチユース トレンブラン
フランス 1880年頃
SOLD

これもカエデの葉の造形が見事なブシュロン社製のトレンブランでした。

ブシュロンの楓のトレンブラン ヴィクトリアンのフラワーモチーフのトレンブランダイヤモンド トレンブラン ブローチ
フランスorヨーロッパ 1870-1880年頃
SOLD

葉脈の形に透かしを入れて独立されたフレームに、その隙間を埋めるようにダイヤモンドがセットされています。最高級のジュエリーでしか見ることのない高難度の細工ではありますが、同時代の最高級品では比較的使われる技法です。当然ながら良い時代のブシュロン製なので作りの良さは間違いありませんが、細工の点で新規性や画期性はなく、どちらかと言えば優等生タイプのハイジュエリーと言えます。

シダのトレンブランのダイヤモンド・ブローチ&髪飾り

シダ トレンブラン ブローチ&髪飾り
フランス 1870年頃
SOLD

これも豪華で素晴らしい、トレンブランのシダです。

フレーム1つ毎に1石のダイヤモンドがセットされた、間のかけた作りです。それぞれの葉の先端の尖った形状はシルバーのフレームの造形で表現されています。

3-1-4. フレームの造形が頼りの葉の表現

ダイヤモンドのシダの葉 ダイヤモンドの楓 ダイヤモンドのシダの葉
ダイヤモンドのシダの葉 葉の造形のバリエーション

ハイジュエリーで見られる葉の造形方法にはいくつかのバリエーションがあります。

しかしながら共通して言えるのが、金属のフレームの形状に頼った造形であることです。

3-1-5. ダイヤモンドの形状に合わせたフレームの造形

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

そんな中で、この宝物の新芽の両脇の葉はダイヤモンドの形状ありきで、ダイヤモンドの形状に合わせてフレームを造形しているのです。フレームを葉の形に造形し、その隙間を埋める従来の方法とは真逆の発想で生み出されたのが、この独特のにニョロニョロした形の葉っぱなのです。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
3つの連なった大きめのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドにフィットさせて造形したフレームは驚異的です。さらにそれだけではなく、オールドヨーロピアンカットの両側にセットされた、それぞれのマイクロダイヤモンドの形にも完璧にフィットさせているのです。ありえない細工です。
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
ちなみにマイクロダイヤモンド同様、このオールドヨーロピアンカットもどのように留めているのかはっきり分かりません。画像右端のダイヤモンドは覆輪留めと考えられます。しかしながらニョロニョロ葉のダイヤモンドは爪が見えません。
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 裏側は完璧に綺麗な窓が開けられているので、接着剤で固定したということもありません。
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

おそらくは覆輪留めのようにフレームのフチを僅かに倒し、周りから包むようにして完璧に固定しているのでしょう。

このような複雑な形状でそのような留め方を採用し、しかも140年ほどの使用にも耐える耐久性を持たせるだなんて、高度な技術を持つ職人であっても普通はできることではありません。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

メインのマイクロダイヤモンド・モザイクはある意味すぐにその凄さが分かるので、見てたちどころに圧倒されます。

でも、一見脇役に過ぎない両脇の葉っぱにこれほどまでに超難度の技法を駆使するなんて尋常ではありません。

マイクロダイヤモンド・モザイク、ダイヤモンドのためのフレーム技法、どちらも44年間で見たことのない独創的で画期的な技法であり、しかも神技を持つ職人でなければ不可能な細工です。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

この作者の作品以外に、これらの技法が使われたジュエリーは存在しないと感じます。いえ、トライしてみてあまりにも高度な技術と集中力、手間がかかり過ぎることが分かり、やりきったという達成感もあって二度と作られなかったという可能性すらあります。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

こういう作者の魂のこもった作品からは、何となく色々なものを感じることができます。

この道44年のGenも、このピアス以外にこの細工のジュエリーはたぶん存在しないと感じると言っていました。私もこの宝物には何となくそのような感覚があります・・。

3-2. 躍動感を表現する素晴らしい立体造形

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

このピアスは"真正面"というものが定義しづらく、どの角度で撮影するのか考えるのが大変でした。その理由は驚くほど緻密にデザインされた立体造形にあります。鋳造で作る現代ジュエリーは手抜きかつ、強度が出ないため平面で金属をたくさん使うボテっとした作りで製造されます。このピアスは新芽のフレームが、両側の葉っぱよりも手前に伸びた作りになっています。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

下の茎の方から上にある新芽にかけて、クッと倒したような作りです。実はさらに横方向に捻りを加えてあり、正面から見ると立体感と共に生命の躍動感を感じられるデザインになっているのです。そこにマイクロダイヤモンド・モザイクを施しているのです。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
両サイドの葉と比較して、中央の新芽のフレームは一段以上、倒して高い位置にあります。また、画像右のピアスだと分かりやすいのですが、倒すだけでなく画像手前の方向に少し捻りが加えてあるので、マイクロダイヤモンド・モザイクの面が僅かにこの角度からでも見えます。
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

また、これは真上からの画像ですが、両側の葉は新芽の裏の正面からは見えない箇所でU字型の金具で連結して補強してあることが分かります。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

このような細かな気遣いがアンティークのハイクラスのジュエリーらしさであり、一見繊細な見た目ながら、140年ほど経ってもビクともしない耐久力が出せる理由です。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

下部の複雑な曲線デザインとその組み合わせも見事なものです。

冬の間に枯れて死んでしまったかのような木の枝に、春の妖精が舞い降り、命の循環が再始動し生き生きと新しい芽が芽吹く・・。

その起点を表現しているような、躍動感あるデザインです♪

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
これはかなり拡大しているのですが、複雑なデザインにも関わらず一切の隙のない完璧な造形に驚かされます。小さなピアスにこれほどまでに完璧な細工を施せるなんて感動です。
妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー
完璧なまでの美しさです。それにしてもこの細工をピアスでやったのが驚異的です。神技によるの細工物のピアスは、世の中に殆ど存在しません。あまりにも作り手を消耗させる超絶技巧の細工は、並々ならぬ精神力を持つトップクラスの職人であっても、終始、集中力を保ってやり続けられるものではないからです。

4. 細工物のピアスという特異性

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

普通は1つの作品を作り上げたら集中力がきれてしまいます。

これだけの作品ならば当然です。

精霊の鳩の美しいローマンモザイク・ピアス

『平和のしるし』
ローマンモザイク デミパリュール
イタリア 1860年頃
¥2,030,000-(税込10%)

細工物のピアスと言えばローマンモザイクのピアスがあります。作るのは間違いなく大変ですが、ローマンモザイクは当時技術が確立しており、職人も何人もいました。

一定以上の技術と忍耐力さえあれば、ある意味ルーチンワーク的に作業ができます。また、彼らはそれを仕事にしていたので、相応の報酬を対価に左右対称でピアスを作ることはできたはずです。

青のシャンルベ・エナメルのフランスのアンティーク・ピアス『古からの贈り物』
シャンルベ・エナメル&カンティーユ&粒金のデミ・パリュール
フランス 19世紀初期
SOLD

超絶技巧の細工物のピアスとしては、シャンルベエナメルとカンティーユ、粒金による宝物がありました。

ジョージアンのオリジナルの革ケースに入った極上の細工物の宝物でした。

ピアスは一見左右で同じように見えますが、実はシャンルベエナメルのデザインが左右で異なります。

オーダーしたジョージアン貴族の好みなのか、職人の好みなのか・・。

いずれにしても、1つ作り上げてもまた別のデザインにトライできるので、アーティスティックな才能を持つ職人としては作るのも楽しかったと想像します。

シャンルベ・エナメルとカンティーユ&粒金のフランス・アンティークのデミ・パリュール 敬虔なキリスト教徒貴族のローマンモザイクのデミパリュール

注目すべきポイントは、どちらも特別なオーダーで制作されたデミパリュールであるということです。左はクロスの上にハートがあしらわれた『聖心』がモチーフのジュエリーです。右は精霊の鳩やスタウログラム、アルファオメガなどでイエス・キリストを表現したジュエリーです。どちらも敬虔な貴族が信頼する、才能ある職人にオーダーして作られたと推測できます。

可愛らしいコマドリ・モチーフのエセックス・クリスタルのイヤリング アンティークジュエリー『小鳥たちの囀り』
エセックス・クリスタル イヤリング
イギリス 1860年頃
SOLD
コマドリのエセックスクリスタルのブローチ『コマドリ』
エセックス・クリスタル ブローチ
イギリス 1860年頃
SOLD

オーダーかどうかはっきりしない細工物のイヤリングとしては、『小鳥たちの囀り』があります。同じ作者による類似の作品も存在するので、この作者には同じようなものをもう一度作ることができる才能があったということです。ただしこの作者のピアスは44年間でこの1点のみです。しかも左右対象のデザインではなく、全く異なる小鳥が描かれています。

同じものを作るなんて、アーティスティックな才能に溢れる作者はテンションが上がりません。トライしても後に作ったものはどうしても魂のこもらない、クオリティの落ちた作品になっていたでしょう。職人としての技術が高ければ、同じようなデザインと作りで完成させることは可能ですが、魂が込められるかは別です。だから左右で異なるデザインで作ったのでしょう。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

超絶技巧の細工物のピアス自体が稀有な存在であり、その中でもおそらく二度と見ることのない、傑出した神技の細工で作られているのがこの宝物です。左右対称で同じものを完璧に作り上げる精神の持続力、ダイヤモンドの細工物を作るというアイデア、唯一無二の誰も真似できない細工を2つも閃き、実現させる神技・・。

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー 妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

一体どんな職人が作って、どんな女性が着けていたのか。なぜピアスにしたのか・・。

これぞ見ているだけで心癒される、44年間で初めての"ダイヤモンドの細工物ジュエリー"です。

裏側

妖精のダイヤモンド・ピアス アンティーク・ジュエリー

ダイヤモンドの裏の窓は、これ以上はないほど美しいと44年間アンティークのハイジュエリーを見てきたGenも認めるほど素晴らしいものです。シルバーにゴールドバックで、裏からの光を取り込むためにダイヤモンドの裏側は可能な限り広く開けてあります。ハイエンドの"ダイヤモンドの細工物"に相応しい出来栄えです♪

着用イメージ

妖精のダイヤモンド・ピアスの着用イメージ 妖精のダイヤモンド・ピアスの着用イメージ

耳にぴったりフィットする、日常使いしやすいデザインです。

私は恐ろしくて耳たぶのど真ん中にピアス穴を開けていますが(笑)、穴が端にある方だと着用時の印象が変わりそうです。

また、左右どちらを着けるのか、着ける角度によっても印象が変わるので、お好みや気分でいろいろと楽しんでいただきたいです♪