No.00275 Tweet Basket |
ピクニック・バスケットに留まる、何とも仲の良さそうな小鳥たち。 いかにも素晴らしい公園の街、ロンドンらしいアンティーク・ジュエリーではありませんか?これを紐解いていくと、古のイギリス貴族たちの日常も見えてくるのです・・。 |
『Tweet Basket』 この時代にしか見ることのない、極小ローズカットダイヤモンドをびっしりとセットした超難度の石留が施された小鳥たち、そして金の糸を立体的に編んだ黄金のバスケットの輝きは心奪われる美しさです。 数々の超難度の細工技術に加え、リボンや植物など、要素を多く使いながらも、絶妙の感覚で配置された立体デザイン・センスも素晴らしく、いつまでも見ていたくなる普遍の芸術作品でもあります。 |
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この宝物のポイント
1. 上流階級らしいピクニックのモチーフ 2. 高級感あふれる美しい黄金のバスケット 3. "鳥"を使って表現された群を抜く高級感 |
1. 上流階級らしいピクニックのモチーフ
リボンが結ばれたバスケットに、仲の良さそうな可愛らしい小鳥たち。 "気がつくと、ピクニックのバスケットで小鳥たちがたわむれていた"という雰囲気の、何とも愛らしくピースフルなこのモチーフは、とても当時の上流階級らしいモチーフです。 |
1-1. ピクニックの源流 -王侯貴族の狩猟-
青空のハムステッド・ヒースでピクニックをする人々(2018年5月) | これはフォト日記でもご紹介している通り、初めての買い付けでロンドンへ渡航した際に立ち寄ったハムステッド・ヒースです。 ロンドンはとにかく緑地が広く多く、緑地面積はロンドン市街地の38.4%を占めるそうです。 約4割が緑地という恵まれた環境で、イギリス人たちはその恩恵を存分に楽しんでいます。 少しでも陽が差すと日光浴を始めますし、平日でも自由きままにピクニックをする姿が至るところで見られます。 |
ハムステッド・ヒースでピクニックをする庶民(私)の足 | このように現代では庶民にまで定着したピクニックですが、その源流は古くからヨーロッパで王侯貴族に楽しまれてきた狩猟と、ヴィクトリア時代のガーデン・パーティだと言われています。 |
『紳士の黒い忠犬』 エセックスクリスタル ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
ヨーロッパの狩猟は『紳士の黒い忠犬』で詳しくご説明した通り、古い時代から王侯貴族の趣味や社交として親しまれてきたスポーツです。 |
大正時代のマタギ装束(日本 1917年)【出典】新庄デジタルアーカイブ | 貴族が楽しむための狩猟と、猟師による生活のための狩猟とは全く異なります。 猟師が生活の糧を得るために山に入る場合、食事はオマケのようなものです。 栄養が補給できれば良く、できれば短時間で効率的に食事をとりたいという思想で食事を行います。 |
『森の中の狩り』(パオロ・ウッチェロ 1475年頃) |
しかしながら王侯貴族の狩りの場合、あくまでも遊びです。お供の者もたくさん連れて、面倒なことはせず、何不自由することもなく、楽しい部分だけをやるのです。 |
狩猟の合間に食事を楽しむ貴族と従者(15世紀) フォア伯爵ガストン三世の狩猟書のフランス語版 |
このような場合、休息をとる際の食事も楽しみの1つです。気持ちの良い自然の中で食べる食事は、室内でとる食事とは違った美味しさと楽しさがあります。これは今も昔も変わらないということなのでしょう。少なくとも中世の頃から、狩りの合間に優雅な食事を楽しむ"ピクニック"が行われていました。 |
狩りの合間のピクニック(フランソワ・ルモワーヌ 1723年) | 左も狩りの合間にピクニックを楽しむ様子です。 ほとんどの地域で長く肉食の文化がなかった日本人の感覚では、"狩り=猟師が生活の糧にするもの"であり、"男性のみで行うもの"というイメージが強いと思います。 しかしながらヨーロッパの王侯貴族が行う狩猟は"社交"なので、女性も参加したりします。 |
ロシア皇帝アンナ(1693-1740年) | 参加した女性すべてが男性たち同様に狩りを楽しんだかは分かりませんが、ロシア皇帝アンナなどは狩猟やギャンブルを趣味としていたそうで、中には男性顔負けでハンティングを楽しむ女性もいたかもしれませんね。 ちなみにアンナは、イギリスで財務大臣なども務めたル・ディスペンサー男爵フランシス・ダッシュウッドが口説こうとしたことのあるロシアの女帝ですね。 |
『狩りの休憩』(シャルル=アンドレ・ヴァン・ロー 1737年)ルーブル美術館 "Charles André van Loo, fermata durante la caccia, 1737, 01 ©Sailko(16 June 2016)/Adapted/CC BY 3.0 |
普通のレディはついて行ってもゴルフのように、「ナイスショット〜!♪」なんて黄色い声援をおくるのが一番の役目だったかもしれませんね。いずれにしても、それぞれが思い思いに楽しんでいたことでしょう。でも、そのメインイベントがピクニックだったのかもしれません。『Halte de chasse (Halt During the Hunt)』という題名のこの絵画なんかは、ピクニックが狩猟で行われるものだったという知識がなければ、ただのピクニックを描いたものと思ってしまいそうなくらい楽しそうです。 |
1-2. 上流階級の心をとらえたピクニックの魅力
第4代チェスターフィールド伯爵フィリップ・スタンホープ(1694-1773年) | 気持ちのよい屋外で優雅な食事を楽しむという行為は、次第に狩猟から切り離されて行われるようにもなっていきました。 『Picnic(ピクニック)』という言葉が英語で初めて登場したのは、1748年のチェスターフィールド伯爵の手紙です。 フランス語の『pique-nique』が外来語として英語に導入された瞬間です。 この手紙ではカードゲームや飲酒、おしゃべりなどを楽しむことと関連づけて『ピクニック』という言葉が使用されていました。 |
『ホッキングバレーでのピクニック』(デヴィッド・ブロデリック・ウォルカット 1854-1855年) |
ピクニックの楽しさはご想像いただけると思います。屋外で優雅な食事と共に様々な楽しみ方ができるピクニックは、やがて上流階級にとって不可欠の楽しい社交の1つになりました。18世紀、19世紀のピクニックは大事な社交行事として、特別な食事や飲み物などを数日かけて入念に準備することもあったそうです。上のピクニックの絵画も、食事もそこそこに男女が恋愛を楽しむ様子が描かれていますね。 |
『ピクニック』(トマス・コール 1846年)ブルックリン美術館 |
19世紀初頭には、ロンドンで上流階級のグループによって『ピクニック協会』も設立されています。1850年代に創設者が亡くなると協会自体の活動は衰えてしまいましたが、上流階級の心をとらえた『ピクニック』は定着しました。 |
1-3. ヴィクトリア時代のガーデン・パーティ
1868年のバッキンガム宮殿でのガーデン・パーティ | 屋外で緑に囲まれての上流階級の社交は、やがてガーデン・パーティにもつながってきました。 ロンドンは王立公園だけでも8つあります。 |
その他、元々は上流階級が私的利用するために作られた広い庭がたくさんあり、それが公園として開放されたりしています。日本人のように田舎などへ遠出する必要もなく、ロンドンの中心地でピクニックもガーデンパーティもし放題です。うらやましい・・!! |
青空のハイドパーク(2018年5月) |
これは初めてロンドンに渡航した際に立ち寄ったハイドパークです。ロンドン最大の王立公園です。フォト日記でもご紹介していますが、活気あるロンドンの中心地に広がる緑地の広さと緑の多さには本当に驚きました。これならばたくさんの人々がピクニックも訪れても大丈夫ですし、大規模なガーデンパーティも開催可能です。実は古い時代はここでは狩猟も行われていました。 |
1-4. 王侯貴族の狩猟場だったロンドンの広大な公園
英国王室の狩猟場だった王立公園ハイドパーク(手前)とケンジントンガーデン "Aerial view of Hyde Park" ©Ben Leto, BaldBoris(6 August 2011, 14:58)/Adapted/CC BY 2.0 | 実はハイドパークは狩猟のために造られました。 ロンドンの8つの王立公園自体が元々は王室の狩猟場だったもので、現在は一般公開されているというのが実際のところです。 平地ではありますが、木々に加えて大きな池もあります。 ハイドパークはヘンリー8世が1536年にウェストミンスター寺院から土地を奪い、狩猟場にしたのが始まりです。 |
中世のハンティング・パーク(15世紀) | イギリス王室一のインテリと言われるイングランド王ヘンリー8世が、鷹狩りも楽しんでいたことを『真実の支持者』でもご紹介しましたが、ハイドパークの場合は鹿を囲って鹿狩り用の公園にしました。 中世から近世にかけて、イングランドでは鹿狩り用の鹿公園を作って狩りを楽しむ貴族文化がありました。 膨大な土地と財力も持つイギリスの王侯貴族ならではの娯楽と言えますが、やることが半端ないですね。 |
『大鹿』 イギリス 1870年 SOLD |
イギリスの王侯貴族たちは本当に狩猟が大好きです。 ターゲットは時代によって変遷します。 15世紀後期には狩られすぎてオオカミが絶滅してしまい、次のターゲットはオオカミの減少・絶滅によって個体数を増やした鹿でした。 特に牡鹿は『狩りの王様』と呼ばれ、角の分岐が10以上ある牡鹿は狩りの対象として最高とされたそうです。 |
『狐狩り』 イギリス 1850〜1860年頃 SOLD |
鹿は絶滅こそしませんでしたが、16世紀にはかなり数が減り、次のターゲットは狐に移っていきました。 |
イングランド王ヘンリー8世(在位1509-1547年)46歳頃 | 15世紀に増えて16世紀にはかなり数が減った・・。 「イングランドの鹿さんが減ったのはあなたのせいですかっ!」と、頭の中でついツッコミたくなる感じです(笑) |
ジェームズ1世(イングランド王:在位1603-1625年、スコットランド王:在位1567-1625年) | ハイドパーク(鹿公園)は完全に王室のプライベートなものでしたが、ヘンリー8世の娘エリザベス1世の次のイングランド王、ジェームズ1世の時代に条件付きで限られた上流階級にのみ使用が許されるようになっています。 公園なんて聞くと現代では一般庶民を含め、誰にでも解放されているイメージですが、古い時代のヨーロッパでは広大な土地は王侯貴族のためのものだったのです。 |
エリザベス女王の戴冠式(1953年) "Coronation of Queen Elizabeth II Couronnement de la Reine Elizabeth II " ©BiblioArchives / LibraryArchives from Canada(2 June 1953)/Adapted/CC BY 2.0 | ちなみにイギリスは、王だけでなく貴族もすごいです。 ヨーロッパ貴族の中でも制度的にゆるい大陸貴族とは異なり、イギリス貴族は一人ひとりが小国の君主と言える存在でした。 1953年のエリザベス女王の戴冠式にコロネットを着用で列席したイギリス貴族、デヴォン伯爵チャールズ・クリストファー・コートニーも鹿公園を併設したカントリーハウスを所有していました。 |
デヴォン伯爵のパウダーハム城 "Powderham Castle, 2009" ©raymond cocks(13 April 2009, 10:26)/Adapted/CC BY 2.0 |
パウダーハム城の鹿公園 "Deer park, Powderham Castle - geograph.org.uk - 1416619 " ©Roger Cornfoot(24 July 2009)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
代々続くデヴォン伯爵が住むカントリーハウスがパウダーハム城です。 庭に狩猟して遊ぶための鹿公園があるなんて、普通クラスのお金持ちとはスケールが違いますね。 |
王侯貴族にとって社交や趣味としての狩猟はとても身近なものでした。重装備で山には入るのではなく、すぐに行ける場所で気軽に楽しむ感覚で行うものだったのです。従者付きで行くので泥だらけになるなんてことはなく、社交の場として当然ながらオシャレは必須でした。これは広大な公園で行う狩猟、ピクニック、ガーデン・パーティに共通して言えることです。 |
1-5. ありそうでない"小鳥たちとバスケット"の組み合わせ
ピクニックと言えばバスケットですね。 この宝物は、バスケットでたわむれる小鳥たちのモチーフです。 |
これまでにいくつかバスケット・モチーフの宝物をご紹介してきましたが、意外とありそうでないのが鳥との組み合わせです。 |
通常はお花と組み合わせたデザインです。 摘んだ美しい花々であふれるバスケットは清楚で可憐な印象があり、女性らしさ満点ですよね。 |
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『白い花のバスケット』 フラワーバスケット型 ペンダント&ブローチ イギリス 1910年頃 SOLD |
収穫した葡萄のペンダント&ブローチ フランス 1910年頃 SOLD |
例外的なのはこのペンダント&ブローチで、収穫した葡萄が入っています。 運ぶための棒も再現されており、シャトーを持っているか、かなりのワイン好きの上流階級がオーダーしたものと考えられます。 |
このように定番ではないモチーフの宝物は、よほどこだわりある美意識の高い人物が特別に作らせた場合が多く、ヘリテイジが扱うハイジュエリーの中でも特に高級な作りであることも特徴です。 この宝物も、きっと並の王侯貴族ではなく、当時でも特別なセンスを持っていた人物がオーダーしたのでしょう。 |
2. 高級感あふれる美しい黄金のバスケット
2-1. 手編みによる360度の立体的な作り
この宝物のバスケットはまるで植物を編んで作られた本物のバスケットのように、金線を編んで丁寧に作られています。 |
内部も美しい作りです。腕の悪い職人が作る場合は見えない部分でごまかしの痕跡があったりもするのですが、ハイクラスのジュエリーは見えない部分も完璧なのが当たり前です。 |
底の部分なんて、適当に作っても着用してしまえば見えないのですが、丁寧に編まれて仕上げられた美しい作りです。この作りを見て嬉しさを感じるのは持ち主です。持ち主だけは、着用していない時には自分だけの宝物として作品を隅々まで鑑賞することができます。高い美意識を持つオーダー主を満足させるためだけに、これだけの技術と手間がかけられるのです。 |
360度の立体的な作り、そして美しくバスケットを編むことは高度な技術と手間を必要とします。 |
"金線を編む"こと自体は古い時代から行われており、画期的アイデアではありません。 人気がありそうなものなのに滅多に見ることがないのは、難しすぎて作ることのできる職人がごく僅かだからです。 |
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フラワーバスケット シール&ペンダント イギリス 1820〜1830年頃 SOLD |
アメジストと9ctゴールドの花籠ブローチ | |
しなやかな籐などの植物と違い、硬い金属の線を編むこと自体が非常に難しい技術です。下手な職人が無理矢理に作ると、これだけスカスカな編み方のバスケットであっても線が歪みまくっています。いくら一生懸命作ったハンドメイドであっても、こんな壊れたオモチャみたいなものを着けて出歩くのは、大人の女性としてはちょっと恥ずかしい感じです。 |
【参考】ヴィンテージのフラワーバスケット・ブローチ | |
このヴィンテージのブローチは先ほどの9ctブローチよりは編み方はマシですが、裏側は完全に手抜きです。18ctゴールドとルビー&サファイアで作られており、そこそこのクラスのジュエリーとして作られています。でも、ヴィンテージ以降のジュエリーはそこそこの物でもこの程度なのです。 見えない部分にまで手間をかけても意味がないから、このような作りなのです。その分、消費者にはお安く提供できるので、むしろ良いことなのです。そういう、教養もなく美意識の低い顧客がこういうものを買っていくのです。王侯貴族のような教養や美意識がなくても、庶民が財を持ち、高級品を買って身に着けることができる新しい世界。格差の小さな世界とは何か。一見良いことだけに見えますが、ジュエリーなど芸術性の高さを要するモノづくり的には、かなり残念な側面もあるのです。 |
手編みによる360度の美しい黄金のバスケットは、アンティークのハイジュエリーならではの細工なのです。 |
2-2. アーティスティックな凝ったデザイン
金線を編むこと自体は画期的なアイデアではないため、オーダーさえあればアンティークの時代の高い技術を持つ職人は作ることはできます。 だからこそデザインとしての生かし方には、作者やオーダー主のセンスがよく現れます。 |
【参考】オードドックスなフラワー・バスケットのブローチ(20世紀初期) | |
これは高級品として作られた、きちんとした作りのアンティークジュエリーですが、ヘリテイジでは扱わないタイプです。オーソドックス過ぎてアーティスティックな面白さが感じられず、つまらないからです。こういうものが好みの方もいらっしゃるとは思いますが、せっかく高度な技術を持つ職人が手間をかけてハンドメイドするジュエリーなのですから、芸術性が感じられないと意味がありません。高度な技術を持つ職人がハンドメイドするものでも、規格通りに正確に作ることが是とされる機械の部品などとは違うのです。 |
そして、バスケットもただ者ではありません。 |
←↑等倍 | 正面から見ると、これだけ拡大してもバスケットは非常に精緻に編まれています。 |
←↑等倍 | 一方で、裏側はバスケットが少し傷んでいる様子をわざわざ表現しているのです。 実際の大きさを想像していただければ分かる通り、ブローチの裏側のこの部分だけがピンポイントでこのように壊れることはありません。編み方も他の部分に寄せて編まれた部分がいくつかあり、作りからして明らかに意図して表現されたものです。 |
正面は痛んでいる部分があると、ブローチを着けている時に見た人が変に思う可能性があるので完璧な作りにしてあります。一方で、裏側は持ち主だけが鑑賞して楽しめる秘密の部分です。愛用すれば痛みだって当然出てくる、ピクニック・バスケット。そんな細かな部分まで表現するなんて、なんてアーティスティックな表現でしょう。それを理解できるオーダー主のために、わざわざ特別に追加で手間をかけて作られたこの表現。きっと完成した作品を見てオーダー主は感激し、喜び、着けて楽しむだけでなく、"プライベートな芸術作品"として見て楽しんだりもしたことでしょう♪ |
この角度から見るとお分かりいただける通り、バスケットはしっかりとした太さの金の糸でしっかりと編まれています。細く繊細な金の糸で編むバスケットは、たわむことができそうなしなやかな質感が魅力です。それこそお花をたくさん入れるバスケットに相応しいと言えるでしょう。一方で、このバスケットはとても丈夫そうです。 |
実際、凹凸のあるしっかりとした構造になっており、重たいワインボトルや食べ物をたっぷり詰め込んでも大丈夫そうなバスケットです。実物は、この凹凸に沿ってゴールドが美しい輝きを放ちます。 |
平面的な作りと違い、様々な角度でダイナミックにゴールドの輝きが変化する様子はとても高級感があります。 |
2-3. 見事な造形の小さなリボン
このブローチは、バスケットの手提げ部分に取り付けられたリボンもデザイン、作り共に素晴らしいです。 |
Genも私も作りだけでなく、デザインもめちゃくちゃ重要視します。本当に良いものは、作りだけでなくデザインも傑出した魅力を放つものです。良いジュエリーは驚くほど計算してデザインが考えられており、それによってそれぞれが唯一無二の魅力を放つのです。フラワーバスケットのジュエリーは、取っ手に飾り付けられるリボンもとても重要な要素です、 |
【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスのフラワー・バスケット・ブローチ | ||
リボンがあるのとないのとではまるで印象が違いますし、ただの取っ手だとデザインのバリエーションもどうしても幅が狭くなりがちです。 |
複雑な形状のリボンをデザインすること、そしてそれを作ることはとても大変なことです。 お金と技術、手間も非常にかかることなので、普通はやりません。 ですが、全体の印象をガラリと変えてしまうとても重要な要素なのです。 このブローチもリボンがない場合を想像すると、何だかとても簡素で平凡な印象になってしまいますよね。 |
さらにリボンには立体感も重要です。 左は一応高級なものとして作られたフラワーバスケットのジュエリーですが、ヘリテイジでは扱わないレベルです。 特に立体デザイン的にセンスがないため、悪い作りではないのですがのっぺりとした印象です。 一応、リボンにも立体デザインは施されているのですが、作者にあまりセンスがなかったために、今ひとつ立体感が感じられないのです。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスのフラワーバスケット・ジュエリー(1915年頃) |
このブローチのリボンも、かなり立体的な造形で作られています。 |
デザインする能力だけでなく、実際に作り上げるという職人としての優れた才能もあったからこそ実現した細工です。間違いなく当時のトップクラスの職人が特別なオーダーに応えた制作したものです。 |
"リボン"という可愛らしい系のデザインは下手すると安っぽさにつながってしまうのですが、小さなリボンながら立体感ある見事な作りこそが、見る物に強く高級感を感じさせてくれるのです。 |
3. "鳥"を使って表現された群を抜く高級感
3-1. 普遍の定番モチーフ"鳥"
『バード&フラワー』 スリーカラー・ゴールド ペンダント イギリス 1830年頃 SOLD |
鳥は人類にとって、ジュエリーの普遍のモチーフです。 |
『太陽の使い』 インタリオ:ササン朝ペルシャ 7世紀頃 シャンク:フランス 1830年頃 ¥1,880,000-(税込10%) |
『小鳥たちの囀り』 エセックス・クリスタル イヤリング イギリス 1860年頃 SOLD |
『籠の小鳥』 ダイヤモンド プチペンダント フランス 1930年頃 SOLD |
古い時代から、あらゆる地域で愛されてきたのが鳥のモチーフです。多種多様なジュエリーへと昇華しており、デザイン上の生かし方も様々です。 |
3-2. 19世紀後期に流行したダイヤモンドの鳥ジュエリー
スリーバード ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
イギリスでは19世紀後期から20世紀初頭にかけて、ダイヤモンドを使った鳥のジュエリーが流行し、数多く作られています。 |
『財宝の守り神』 ダイヤモンド ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
"ダイヤモンド=高級品"というイメージだけで見ると、ダイヤモンドが使われているアンティーク・ジュエリーはどれも高級品として作られた王侯貴族のためのジュエリーと思ってしまわれるかもしれません。 しかしながら市場におけるダイヤモンドの価値は時代によって変化します。 19世紀後期は特殊な年代です。 1860年初頭にそれまでの世界の主要なダイヤモンド産出地だったブラジル鉱山が枯渇して稀少価値が最高に高まったものの、1869年頃から始まった南アフリカのダイヤモンド・ラッシュによって流通量が激増し始めると、価値が低下し始めたという複雑な時代です。 |
エドワーディアン 天然真珠 7連ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
さらに時代が下るとダイヤモンドの稀少価値がなくなった結果、史上最高に天然真珠が評価される時代が到来します。 無価値同然の養殖真珠の普及によって、"天然真珠という本物の価値ある真珠"が忘れ去られた存在となった現代に於いては想像し難いですが、ダイヤモンドよりも天然真珠が高価な宝石だたった時代です。 |
それよりも前の、このブローチが制作された1880年頃というのは、ダイヤモンドも天然真珠も評価されていた絶妙な時代です。 |
ダイヤモンドがたくさん使えるようになった結果、それまでは王侯貴族向けのハイジュエリーにしか使えなかったダイヤモンドが、産業革命によって台頭してきた中産階級のための、そこそこのクラスのジュエリーにも使えるようになったのです。 庶民である成金にとって、憧れのダイヤモンド・ジュエリー。 だからこの時代は、安物とまでは言いませんが庶民向けのヘリテイジでは扱わないクラスの中途半端なダイヤモンド・ジュエリーが多く作られているのです。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスの鳥ジュエリー(19世紀後期) |
"ダイヤモンド=高級品"という固定観念があると、ダイヤモンドが使われているアンティーク・ジュエリーは全て、王侯貴族のためのハイ・ジュエリーと思われるかもしれません。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスの鳥ジュエリー(19世紀後期) |
しかしながら、こんなありきたりのダイヤモンド・ジュエリーは、ヨーロッパのアンティーク・ジュエリー市場にゴロゴロと溢れかえっています。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスの鳥ジュエリー(19世紀後期) |
揃いもそろってありふれたデザインです。 人と同じ、つまらないデザインと言えます。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスの鳥のダイヤモンド・ジュエリー |
「人と同じものを着けていれば安心。」という、美的センスや教養のない中産階級の発想は昔も今も同じです。 ちょっと変わった者を付けてオリジナリティを出そうとする人もいたでしょうけれど、センスが伴わないと「ただ変わっているだけのイケてないモノ」になってしまいます。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスの鳥ジュエリー(19世紀後期) |
『アール・クレール』 ハートカット・ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
『アール・クレール』でご説明した通り、中産階級が台頭してきたミッド・ヴィクトリアンは王侯貴族も庶民の成金たちの間でも、成金趣味的なジュエリーが共通して流行しました。 しかしながらレイト・ヴィクトリアンになってくると、王侯貴族の間で好まれるジュエリーは明らかに庶民たちとは異なるものになっていきます。 |
芸術も非常に重要な教養の1つである王侯貴族にとって、ジュエリーも芸術性の高さが重要です。 |
ありふれたデザインや、石ころだけに頼るジュエリーなんて喜んで自慢げに身に着けていたら、それこそ"恥"です。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスの鳥ジュエリー(19世紀後期) |
『二羽の小鳥』 |
芸術を教養の1つとする王侯貴族のダイヤモンド・ジュエリーは、ダイヤモンドの価値だけに頼ることはあり得ません。莫大な財力も持たないと手に入らない宝石を使うことももちろんありますが、作りの良さは必須です。 そして、あからさまに高そうな目立つ宝石を使っていなくても王侯貴族のためのジュエリーだったと判断できる基準は、芸術性の高さと作りの良さがあるかどうかです。もちろんこの場合は、目立つ宝石でなくとも脇石にまで上質な石が使われています。 |
『ダイヤモンドのオーム』 イギリス 19世紀後期 SOLD |
【参考】安物の鳥ブローチ(19世紀後期) |
ちょっと人とは違った鳥を表現しようとしても、美的センスがある本物の王侯貴族のためのハイジュエリー(左)と、お金だけはかけたけれど首が変な角度に曲がって生きているように見えない、一体何の鳥か分からない成金向けの庶民の代物(右)とではこれだけ表現力が違います。 |
スリーバード ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
王侯貴族のために作られた優れた鳥のジュエリーには、ストーリーが感じられるような優れた表現力があります。 そして、そのような芸術性の高い作品は当然ながら滅多にあるものではないのです。 |
芸術性なんて微塵もないつまらないジュエリーと、芸術性の高い真に価値あるジュエリーでは、その美しさも存在感も全く異なります。 優れた芸術作品でも、すべての人々を魅了することはできません。 でも、美的感覚を持つ人ならば、一目見ればその明らかな存在感に心ときめき、心を奪われるに違いありません。 それは、優れた美的感覚を持っていた古の王侯貴族と、ごく少数ながら存在する、現代の優れた美的感覚を持つ人々に共通することなのです。 優れたアンティークジュエリーは時代を超えて、限られた特別な人たちだけが共通して楽しむことのできる宝物です。 |
3-3. 実際の一場面を切り取ったかのような躍動感ある小鳥たち
この宝物にも、ストーリーが感じられます。先に留まっていた2羽の小鳥。そして後からやってきた3羽目の小鳥。一番右の3羽目の小鳥は今、羽ばたいてきたかのように翼を広げ、真ん中の小鳥は3羽目の小鳥に「来たんだね♪」とでも言うような目線を送っています。 |
ピクニック・バスケット(1900年頃) "Mark Twain House and Museum" ©Cliff from I now live in Arlington, VA(Outside Washington DC), USA(3 July 2007, 12:45)/Adapted/CC BY 2.0 |
このように、ピクニックに特化した本格的な仕様のバスケットも存在します。 |
『ピクニック』の一部(トマス・コール 1846年)ブルックリン美術館 |
でも、簡単なバスケットに食べ物を詰め込むだけで気軽に楽しめるのも、ピクニックの良さです。緑に囲まれた屋外は心地よく、「食べる前にちょっと散策しましょう♪」なんてこともあったでしょう。 |
お散歩から戻ってきたら、食べ物の美味しい匂いにつられてバスケットに寄ってきたら可愛らしい小鳥たちが・・♪ そんな光景にも見えます。 |
スリーバード ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
もしかしてこの小鳥さんたちだったりして?♪ 「あ、あそこに何か美味しいものがありそう!みんなで行ってみようよ。」 「え、本当?」 「わーい、行ってみよう♪」 |
「早くおいでよ〜。」 パタパタパタ・・ 一番左の小鳥さんは、人間が戻ってこないか見張っているのでしょうか。 |
ピクニックに来た女性はお散歩から戻ってきたらビックリ、小鳥たちが仲良さそうにバスケットに留まっています。 きっとすごく可愛らしくて、強く印象に残ったのでしょう。 そんな愛らしい光景を職人に伝えて、ブローチにしてもらったのではと感じます。 |
舌切り雀『はさみと雀』(葛飾北斎 1760-1849年) | お米を煮詰めて作った洗濯のりを雀さんが全部食べてしまったからと、舌をハサミで切ってしまった恐ろしい日本のお婆さんのお話(舌切り雀)もあります。 |
でも、このブローチの持ち主の女性は、小鳥さんたちが全部食べてしまったとしても、ニッコリと微笑みながら「美味しかった?足りなかったかしら?」と言ってくれそうな慈愛の心を持っていそうです♪♪ |
古い時代のファッションリーダーは王族です。 1861年にアルバート王配が亡くなってからはヴィクトリア女王が長い喪に服し、二度と華美なファッションをしなくなってしまいました。このため、このブローチが制作された時代のイギリスの女性のファッションリーダーは皇太子妃アレクサンドラでした。 格調高い雰囲気と、群を抜いた美貌が当時から評判でしたが、美人過ぎて近づきにくそうな見た目とは裏腹に、とても愛にあふれ、明るく陽気だったそうです。天性の明るさは誰からも好かれ、上流階級のみならず国民からもとても人気がありました。 |
馬に乗った王太子妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925年)1886-1888年、41-44歳頃 |
一見おしとやかで大人しそうな雰囲気ですが、ヨーロッパの王族ともなればただ美しく大人しいだけではありません。 特にアレクサンドラはアクティブな女性だったようで、ダンスやアイススケートなども含めてアクティブ系の社交もとても楽しんでいました。 乗馬に関してはエキスパートとも言える腕前で、ハンティングも楽しんでいました。 |
ウィンザー城での女王夫妻と長女ヴィッキー(1840-1843年)ロイヤル・コレクション |
ヴィクトリア女王は狩猟が嫌いで、「女性が行くものではない。」とやめるように言っていたそうですが、アレクサンドラ妃は言うことを聞かなかったそうです。 日本だと帰りを待つだけの、おしとやかで女性らしいヴィクトリア女王タイプの方がモテるでしょうか。私はカッコいいアレクサンドラ妃の方が好みです。私は男性ではありませんが・・(笑) そんなアレクサンドラ妃ですが、非常に動物が好きなことでも有名でした。犬もたくさん飼っており、散歩では10匹以上も連れていました。犬はアレクサンドラ妃の命令に非常に従順だったそうですが、愛情と躾をうまく与えていたのでしょうね。夜になると夜食のサンドウィッチを部屋の外に運ばせて、こっそりとベッドの中で犬たちに食べさせたりしていたそうです。 |
王太子妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925年) | 真の意味で自然を愛し、動物にも向き合い、愛情を持って接することができる美しいイギリス貴族の女性。 |
きっと、そのような感性豊かで愛情あふれるイギリス貴族の女性が、この愛らしい鳥たちの宝物をオーダーしたに違いありません。 |
3-4. 独特のダイヤモンドのセッティング
このブローチは、小鳥たちのボディへのダイヤモンドのセッティングも独特です。 |
シルバーで立体的に造形された小鳥のボディに、小さなローズカット・ダイヤモンドがびっしりと敷き詰められています。この独特のセッティングはこの時代にしか見ることがない、特殊な留め方です。 |
プラチナが使われる以前の通常のハイクラスのダイヤモンド・ブローチは、このように完全な立体的ではなく、シルバーにゴールドバックで作られています。 古い時代を除いて、裏からも光を取り込んでダイヤモンドが美しく見えるよう、ダイヤモンドの裏側は窓を開けてオープンセッティングにします。 左のオームは特に高級なので、裏の窓の開け方の作りも極上です。 |
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『ダイヤモンドのオウム』 イギリス 19世紀後期 SOLD |
スリーバード ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
この小鳥たちも、今回と同じ留め方でダイヤモンドがセッティングされています。 立体的なボディに留めているので、オープンではなくクローズドセッティングです。 |
クローズドセッティングとはいえども、使われているダイヤモンド自体が上質なので、立体的に配置されたダイヤモンドの様々な角度のファセット(面)から無数の輝きが放たれます。 |
どうやって留めているのか不思議になるほど目立たない爪で留めてあるからこそ、ダイヤモンドの輝きが邪魔されることなく、小鳥たちの美しさを存分に楽しむことができます。現代ジュエリーの場合、ダイヤモンドが落ちてしまったという話はよく聞きます。買った本人が使って数年も経たないうちに落ちてしまうのです。しかしこの小鳥たちのダイヤモンドは、作られてから140年ほど経った今でも落ちていません。神技的なセッティング技術です。 |
使われているのはすべてローズカット・ダイヤモンドです。 ダイナミックな輝きを放つオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドと違い、繊細な輝きが魅力のローズカット・ダイヤモンドだからこそ、ダイヤモンドの輝きは主張しすぎることがありません。 金の糸を編んだゴールドのバスケット黄金の輝きと、ちょうど良いバランスで輝くため、ブローチ全体として見たときに、とても調和のとれた高級感があります。 |
あらゆる角度から放たれる繊細で鋭い輝きには、本当に魅了されてしまいます。 |
直感的に"美しい"と感じられるように小鳥たちをシルバーで造形するだけでも難しいのに、その複雑な造形に、140年ほどの使用にも耐えるよう、小さなローズカット・ダイヤモンドをセットするなんてすごい技術です。 |
『二羽の小鳥』 |
あまりにも難しいため、滅多に出てこないのだと推測します。作行などから総合判断すると、この留め方が施された作品は全て同じ作者によるものかもしれません。 |
『Shining White』 エドワーディアン ダイヤモンド ネックレス イギリス or オーストリア 1910年頃 SOLD |
20世紀に入ってプラチナが一般ジュエリー市場に出てくると、シルバーを使ったダイヤモンド・ジュエリー自体が姿を消します。 |
1880年頃に才能ある職人によって発明された、高度な技術に基づく特別なダイヤモンドのセッティング方法。 この時代にしか見られないという、切なさと儚さをも感じるこのセッティング方法は、きちんと定義された名前がありません。 従ってヘリテイジで『クローズド・パヴェ・セッティング』と命名いたしました。 |
【参考】パヴェのエタニティ・リング(現代) |
現代ジュエリーについて少し詳しい方だと、『パヴェ・リング』をご存じだと思います。これもパヴェ・リングですが、まるでタイヤですね。ダイヤのタイヤ(笑)すみません。 『パヴェ』はメレダイヤを敷き詰めるデザインを指します。パヴェはフランス語で『舗装された道』、『石畳』を意味し、メレダイヤを敷き詰めた形状が石畳のように見えることから名付けられています。 |
こんな単純な形状にセッティングするのに高い技術は必要ありません。 |
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【参考】14Kホワイトゴールドのパヴェ・リング(現代) |
【参考】パヴェ・リング(現代) |
曲面だと多少は難易度が増しますが、規格が定まった大きさが同じサイズのダイヤモンドしか使わないですし、所詮は対称的な形のリングに留めるだけなので難しくはありません。 |
美しくない窓の開け方ですが、現代ジュエリーのパヴェは、基本的にブリリアンカットのメレ・ダイヤモンドでオープンセッティングです。 |
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【参考】パヴェ・リング(現代) |
この小鳥たちに使われているローズカット・ダイヤモンドは、現代のように決められた規格で機械でカットしているもの違い、それぞれがカット職人によるハンドカットです。1つとして同じ大きさではなく、形状も様々、個性に富んでいます。それを小鳥のボディという複雑な形状に合わせて落ちないようにセットするのですから、もはや神技というべきレベルです。 |
ローズカット・ダイヤモンドがセットされた、ぷっくりとした愛らしいボディは何とも言えない愛らしさと高級感をたたえています。 現代の全く美しいと思えない、技術的難しさもないパヴェと同じ呼び方をしては、古の素晴らしい職人に申し訳が立ちません。 意味の分かりやすさとの兼ね合いも考えて、クローズド・パヴェ・セッティングという名称にしました。 |
さすがに当時トップクラスの職人が作っただけあって、小鳥の翼の羽先に削り出されたシルバーのグレインワークも見事です。 そして、羽先に行くに従ってローズカット・ダイヤモンドは小さくなっていくサイズ・グラデーションとなっています。 一番小さなダイヤモンドはビックリするほどの小ささです。 セッティングできたというだけでも驚異的ですが、140年ほど経った今でも落ちずに固定されているのは驚くべきことです。 昔は本当にすごい職人がいたものですね。 現代にはもちろん存在しえませんが、アンティークジュエリーの時代でもトップクラスの職人だったことは間違いありません。 |
3-5. シルバーの彫金による素晴らしい表現力
シルバーの小鳥には十分な厚みがあり、上部や側面にまで彫金を施してあります。 立体的な見事な造形で、細部にまで隙が全く感じられません。 |
後ろ側も、素晴らしい彫金によって小鳥たちの生き生きとした生命の息吹と、羽毛の柔らかそうな質感が上手く表現されています。 |
普通のハイジュエリーでは、シルバーの彫金細工にこだわったものはほとんど見ることがありません。 |
『Winter Flower』 ダイヤモンド リング オーストリア 1880年頃 SOLD |
19世紀のヨーロッパでは、シルバーよりもゴールドの方が高価な金属でした。 シルバーが使用されるのは、基本的にはダイヤモンド・ジュエリーの時だけです。 ダイヤモンドの色味を邪魔しないためです。 |
『OPEN THE DOORS』 マルチロケット ペンダント イギリス 1862年頃 SOLD |
手彫りで美しい彫金を施すハイ・ジュエリーの材料はゴールドです。 |
シルバー カードケース(名刺入れ) イギリス(バーミンガム) 1881年 メーカー:HILLIARD AND THOMASON SOLD |
シルバーでハイクラスの彫金が見られるのは、王侯貴族が社交や仕事用に使っていたカードケースです。 施される模様などにはそれぞれ個性がありますが、シルバーカードケースはサイズや形状に制約があり、大体形は決まっています。平面に施される優雅なパターンからは、芸術性と言うよりは、上流階級のオフィシャルな用途の小物ならではの高級感とエレガントさを感じます。 |
この小鳥たちは、立体的なボディに彫金が施されています。彫金の深さは尾羽や羽毛などで、それぞれ使い分けられています。尾羽はスパッと深く彫られ、羽毛を表現した彫金は浅く繊細さが感じられる彫りです。 |
この表現の使い分けがあるからこそ、命を持つ生き物ならではの躍動感を小鳥たちから感じることができるのです。後ろにもダイヤモンドが付いていたら良かったのにと思うような人は、この宝物に施されたアーティスティックで素晴らしい彫金の魅力が分からない人です。 |
一番左の、羽ばたいた小鳥の翼をご覧ください。2つの翼はそれぞれが左端の方にかけて、まるで本物の翼のように、羽根が積み重なっている様子が彫金で表現されています。見えない裏側とは思えない、驚くべき気の遣いようと芸術性の高さです。こんな作品があるとは、大感動です! |
思わずなでたくなってしまう丸くて愛らしい頭も、シルバーの素晴らしい造形に加えて、絶妙な彫金が施された柔らかそうな質感の賜物です。 |
あらゆる角度から美しい。こういう宝物はいつまでも眺めていたい、心癒される楽しい小さな手元の芸術作品ですね♪♪ |
3-6. 可愛らしい系なのに抜群の高級感
Gen曰く、可愛い系のモチーフは普通は安っぽいものが多くて、そういうものは嫌いとのことです。 そして、この宝物は可愛らしい系なのにとても良い作りで、高級感もある非常に珍しいものとも語っていました。 |
それはここまでで述べてきた通りの、デザインや作りに対する徹底的なこだわりに因ります。細かな部分まで徹底しています。バスケットからはルビーの実と、植物の葉があふれ出しています。 |
実は小鳥たちの瞳と同じく、カボションカットされた鮮やかなルビーです。 ガーネットの場合はカボションカットされる場合も多いのですが、煌めきが出やすいルビーはファセットカットされる場合が多く、意味がないとカボションカットは施されません。 これは見たらすぐに分かりますね。撓わな実の瑞々しさを表現するためです。 |
実がバスケットからあふれ出てしなやかに垂れ下がる造形も、見事な表現力ですね。手前にある、それぞれの葉の沿い方も見事です。 | ||
←↑等倍 | 葉はダイアモンドがセットされているフレームはシルバーですが、茎の部分はゴールドです。 正面からはほぼ見えない部分なのですが、ここまで徹底しています。本当に見ていて楽しいです♪ |
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バスケットにリボン、3羽の小鳥たち、たわわな実に2つの葉っぱ。たくさんの要素でこの宝物は成り立っており、それらはきちんと立体的に配置されています。ブローチで360度立体的に作られた作品はとても少なく、さらにこれだけたくさんの要素を使い、気を遣って立体的に作られたものは見たことがありません。この角度からだと、小鳥たちがバスケットのフチに留まっている様子も分かりますね。足に施された彫金もリアルです。 |
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小鳥たちの仲の良さそうな様子。それも、小鳥たち1羽1羽の造形、そして3羽の配置が絶妙なバランスだからこそ表現できた神技なのです。 |
ここまで来るともはや絶対に狙ってやっているとしか思えませんが、このブローチは自立できます。 撮影も台にそのまま立てて行っています。 使わない時はこのように立てて、あらゆる角度から鑑賞して楽しむこともできるのです。 |
自然と生き物を愛する、優しく感性豊かな女性のために作られた小さな宝物。時を超えてヘリテイジにやってきたこの小さな宝物は、素晴らしい芸術作品として、後の時代の私たちまでも楽しませてくれるのです。 |
アンティークのケース
オリジナル・ケースではありませんが、何とも魅力的な形状デザインのアンティークのフィッティング・ケース付きです。とても状態も良く、最上級のアンティーク・ジュエリーに相応しいケースです。持ち主となった歴代の人物の誰かが、この宝物に相応しいケースを準備したのでしょう。 |
ワインレッドのベルベットは小鳥たちの瞳のルビーの色とも相性が良く、高級感たっぷりです。 使うために開ける瞬間までも楽しい宝物です♪ |