No.00284 キラキラ・クロス |
『キラキラ・クロス』 天然真珠 バーブローチ イギリス 1880年頃 天然真珠(最大6mm)、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、ローズカット・ダイヤモンド、ゴールド&シルバー 1,2cm×4,1cm 重量4,9g SOLD |
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小型のバーブローチとしては異例と言える、リングのメインストーンサイズの大粒で美しい天然真珠が2粒もセットされた宝物です。オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドのカットも特別にオーダーされた例外的なジュエリーで、天然真珠を留めた爪先に極小ローズカット・ダイヤモンドをセットした44年間で初めて見る細工など、随所に見られる特別な作りからも当時のトップクラスの職人が製作した最高級の特別オーダー品と言えます。 |
この宝物のポイント
1. 超贅沢なダイヤモンドのクロス 2. 極上の天然真珠のクロス 3. モチーフを最高に生かすナイフエッジのバーブローチ |
1. 超贅沢なダイヤモンドのクロス
1-1. 異例の厚みを持つダイヤモンド
この宝物は最大6mmもの大きさがある美しい天然真珠が2粒使われており、アンティークジュエリーや天然真珠について多少知識があれば、この2粒を見ただけでかなりの高級品として作られたことが分かります。分かる人にとっては至極分かりやすい高級品です。 しかしながら大変面白いことに、この宝物はただのハイジュエリーではありません。いくつかポイントがあるのですが、まずセンターのクロスが只者ではありません。 |
あらゆる角度にて、通常のハイジュエリーに使われているオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド以上に魅力的に輝くのです。 気のせいではありません!!(笑) |
こうして斜めの角度から見ると理由が分かります。アンティークのハイジュエリーに使われる、厚みのあるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドを見慣れていても仰天するほどクラウンに厚みがあるのです。見たこともない厚みです!! |
この年代としてはかなりクリーンな石である上に、類を見ないないほどクラウンに厚みがあるため、これまでに見たこともないほど魅力的なシンチレーションを放つのです。 |
1-2. クラウンの厚みの違いによる煌めきの違い
この厚みのあるカットは意図されて行われています。 なぜならば厚みのあるカットはコスト的に高くつくからです。 |
実はダイヤモンドは様々な結晶の種類を持ちます。自然界に存在するメインの結晶構造としては6面体、8面体、12面体があります。ただし天然石なので完璧な結晶構造を持つことは稀で、6面体と8面体の組み合わせであったりと様々です。 結晶構造の方向に従って劈開性を持ちますが、この結晶構造が見極められないとカットすることはできません。どのタイプの結晶構造なのか、どのタイプが組み合わさっているのか、石目を見極めるには長年の経験を持つ熟練の職人の勘と技術が必要です。 |
カリナンに第一刀を振り下ろすジョセフ・アッシャー(1908年) | 原石の状態のカリナン 3,106.75カラット |
ダイヤモンドの原石・・。この状態で渡されても、素人には石目なんてさっぱり分からないです(笑) 当時の世界最高のカット職人の一人であるアッシャーも、イギリス国王エドワード7世のオーダーによる巨大原石カリナンのカットは最初失敗していますが・・。割れたのは金属の刃の方だったという、さすが自然界で最も硬い物質と言われるだけあります。ダイヤモンドおそるべし! |
ダイヤモンド・ソウ(1903年頃) | 1900年にアメリカでのベルギー移民によって、電動のダイヤモンド・ソウが発明されてからは劈開の方向を無視したカットも可能となりました。 しかしながらそれ以前は、明確な結晶構造を持たないダイヤモンドはカットすることすら不可能でした。 そうは言っても、一番多いのは八面体型をベースにした結晶です。 |
ダイヤモンドの原石 | 人類にとってダイヤモンドは、宝石よりも工業用として重要な鉱物資源です。 しかしながらごく一部の特別美しい石だけは、今も昔も変わらずジュエリーに使用されます。 |
完璧な八面体結晶での産出は極めて稀ですが、最も多いとされる八面体ベースの原石はまず劈開を利用して、八面体に整えてからカットされることになります。ここからは八面体ベースでルースを取る場合を見ていきましょう。 |
1-2-1. 現代と古い時代のカットの思想の違い
例外はありますが、あまり古くない時代のハイクラスのアンティークジュエリーに使われているのはオールドヨーロピアンカットです。 現代のラウンド・ブリリアンカットの原型になっているカットです。 |
マーセル・トルコフスキー(1899-1991年) | 19世紀後期から研磨工場を営むトルコフスキー家の4代目として生まれ、数学者としてロンドン大学の博士論文のためにダイヤモンドのカットを研究していたマーセル・トルコフスキーが1919年に画期的なカットを発明しました。 ダイヤモンドの中に侵入した光が底面で漏れず、全て戻ってくるようプロポーションを計算した、数学的なカットです。 "ダイヤモンドの最高に美しい輝き"がどのようなものかは議論されておらず、あくまでも簡易的に「底面から全ての光が全反射して戻ってくること」が美しい輝きと仮定して計算されたプロポーションです。 |
数学的には面白いだけで、本当にこのカットが人間の眼で見て、誰にとっても感覚的に一番美しいと感じられるとは誰も言っていないことに要注意です(笑) |
トルコフスキーのアイデアルカット(考案 1919年) |
ただし、数値的に細かくカットを指定したのは非常に画期的なことでした。 それまで当たり前のようにアンティークのハイジュエリーに使われていたオールドヨーロピアンカットは、具体的な定義がありません。ファセットの数や形になんとなく決まりはあるものの、厚みや角度などに明確な数値は指定されていないのです。 |
現代の鋳造の量産ダイヤモンド・リング |
量産の工業製品と成り果てた現代ジュエリーの場合、ダイヤモンドのルースは統一規格で全く同じ形で作ることが望ましいです。1つ1つのダイヤモンドに個性があると機械での対応は難しく、技術を持つ人間に作業してもらわなければならなくなるからです。それでは製造コストがかなり高くついてしまいます。 |
そのために、多少無駄になる部分があったとしても統一規格でカットしてしまった方が遥かに安いです。 劈開を利用していた時代はそれぞれのダイヤモンドの個性に合わせてカットする以外にありませんでしたが、電動のダイヤモンド・ソウを使えばある程度自由な形にカットできますし、現代ではレーザーでさらに楽に早くカットすることが可能です。 |
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レーザーによる最適なカットを計算するソフト |
ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移【出典】2017年の鉱山資源局の資料 |
現代では最早ダイヤモンドは希少な宝石ではありません。オレンジ色で示したブラジル鉱山が世界のダイヤモンドの主要供給地だった時代は、年10万カラット程度しか採れませんでした。しかしながらブルーで示した南アフリカからの産出量でお分かりいただける通り、1869年以降のダイヤモンドラッシュによって膨大な量のダイヤモンドが得られるようになりました。南アフリカは現代でも採れ続けており、主要産出地の1つです。 さらに21世紀半ば以降は世界各地で相次いでダイヤモンド鉱山が発見されており、世界全体で見ると現代では7,120万カラットの規模で毎年ダイヤモンドが産出されています。稀少価値を単純計算すると、ダイヤモンドラッシュ以前に比べてダイヤモンドの価値は712分の1になってしまいました。 だからいくらカットで無駄が出ても平気なわけです。ダイヤモンドは貴重な材料ではなく、原価の安い材料となりました。 そういうわけで選んだり、加工の際に頭を悩ませたり高い技術が必要とならない、規格に沿った無個性なダイヤモンドで溢れかえることになりました。現代のモノづくりはとにかく"早く!安く!簡単に!”です。使う道具ならばそれでも良いと思いますが、芸術性が大事と思われるジュエリーにまでそれを適応するなんてちょっと意味不明です。一番の問題は作り手ではなく、宣伝文句を鵜呑みにして受け入れ礼賛している思考停止の消費者ですけどね。今、マニアック過ぎるこのヘリテイジのカタログをご覧になっている皆様は違います(笑) |
『忘れな草』 ブルー・ギロッシュエナメル ペンダント フランス? 18世紀後期(1780〜1800年頃) SOLD |
だから古い時代はダイヤモンドは限られた王侯貴族のためだけのものであり、ハイジュエリーのための貴重で美しい宝石として使われてきたのです。 |
現代では残念ながら庶民用の宝石ですね。 未だにダイヤモンドが高価な宝石であると勘違いしている無知な成金庶民のために、現代のジュエリー市場にはダイヤモンド・ジュエリーが溢れかえっています。 安い製造コストで高〜く売れるからです。 |
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【参考】エンハンスメント処理された安物ダイヤモンド(現代) |
1-2-2. カットごとのコストの違い
古い時代に於いてダイヤモンドが非常に高価な宝石だったのは、カットにかかる膨大な人件費や技術料が乗ってくることも一因でした。 それだけ見ると「テクノロジーの勝利なので、現代のカットでも良いのではないか。」と思えるかもしれません。 しかしながらそのような加工コストを除外し、ダイヤモンドの稀少価値をも除外し、同じ条件で材料コストだけで比較してもやっぱり現代のカットは貧乏っちいです。 |
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ダイヤモンドの切削加工場(1710年頃) |
ルネサンスのHPでGenも言及していますが、現代のダイヤモンドのカットはトルコフスキー・カットよりさらに劣化しています。 よりクラウンが薄くなり、ダイヤモンド全体に厚みがなくなっています。 ダイヤモンドの輝きの魅力は、以下の3種類の煌めきの複合に依ります。 1.ファセット表面からの反射(シンチレーション) 2.内部に侵入した光が底面で反射して跳ね返ってくる輝き 3.内部での反射を繰り返してディスパージョンを起こすことによる虹色のファイア |
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【参考】薄っぺらいカットのダイヤモンド(現代) |
オールドヨーロピアンカットは底面の角度が最適化されていないため、2の底面からの反射光はブリリアンカットに比べると弱い場合が多いです。 その代わり、底面から光が抜けることによる透明感が楽しめます。 それだけでなくクラウンにしっかり厚みがあり、クラウンのファセットの面積が広いので表面反射であるシンチレーションや、複雑に内部反射することで起こるファイアも出やすくなります。 |
【参考】ブリリアンカット・ダイヤモンドの魅力のない輝き | 一方で、2の底面反射だけを異常に重要視するブリリアンカットは底面を覗き込みやすくするためにテーブルの面積が広く設計されています。 その分、クラウンのファセットの面積が狭いので1の表面反射によるシンチレーションは出にくい構造です。 底面のファセットのワサワサした反射以外は、テーブルが反射した際の白っちゃけた輝きになるのです。 |
それが現代では「トルコフスキーのアイデアルカットに改良を加えて、より進化した形」になりました。 下部のパビリオンの厚み自体は殆ど変化がありませんが、クラウンは薄く、テーブルの面積は広くなっています。 「うす!!ぺらっぺらww」と、私は見ただけで吹き出したこの安っぽいリングですが、成金は聞いただけで大喜びするハリーウィンストンの1ctオーバーのダイヤモンド・リングです(笑) いかにもハリーウィンストンっぽいリングと言えます。 |
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【参考】1ctオーバーのダイヤモンド・リング(ハリー・ウィンストン 現代) |
ダイヤモンドがここまで劣化する以前、トルコフスキーによって開発されたカットは、実は当初から現実的ではないと指摘されていました。 ダイヤモンドの原石は貴重なので、1つの結晶からできる限り多くの大きなルースを取ろうとします。しかしながら最も標準的なダイヤモンドの結晶型である八面体結晶から取り出そうとすると、非常に大きな無駄が出てしまいます。無駄が大きい分、コスト的には高くつき高価なものとなってしまいます。 それでもそうしなければ美しくならないのであればしょうがないではないかと思うのですが、安さを求める消費者に合わせて美しさより安さが優先されました。 安いこと。それでいて中身は価格に見合わないほど高い価値があること。消費者が矛盾したことを強く要求すれば、メーカー側はあからさまには分からぬよう質を落とすのはジュエリー業界に限らずどの分野でも同じことです。まあでも、主婦相手の製品である場合が多いですかね。食品パッケージの変更によるステルス値上げなどは有名です。 モノづくりに携わった経験がないと、それを作るためにどれだけのコストがかかるのか想像することが難しいですし、想像するという発想すら湧かなかったりします。 モノづくりならずとも、せめてコスト意識がある働き方をしたことがあれば想像もできそうなものですが、そうでなければ"安く!それでいて品質は価格に見合わぬほど高く!"を要求することがはしたないことと認識できないのは無理からぬことです。悪気なんて微塵もありません。 悪意のない無茶な要求。そのまま聞いてしまえばメーカーは赤字ビジネスとなり、ほどなく事業の存続は不可能となります。どうすればお互いに良いと思える状況なのか。それが、バレないように品質を落とすことです。食品も中身が減っているだけでなく、材料も代替品を使ったりすることで以前に比べてかなり劣化が進みました。 悪くなっているのはジュエリーだけではなく、世の中の殆ど全ての製品なのです。但しインターネットが発達した結果、主婦であっても情報弱者でない人も増えました。働く女性も増えました。 主婦が働く夫を家で支えた高度経済期にジュエリーの劣化が一気に進みました。"無知でお金に余裕がある主婦"がたくさんいた時代です。今は現代ジュエリー業界も「モノが売れない」と不況のようですが、賢い女性が増えたのですから当然です。 |
【参考】現代のダイヤモンド・リング | 今でも情報弱者の主婦は存在しますが、その数は多くはありませんし、インターネットを見て自分で情報を集めることのできない世代は高齢化が進んで近い将来、ジュエリーの購買層とはならなくなります。 そうしたら価値のない、美しくもないジュエリーは本当に売れなくなるでしょう。 |
その時、真面目なモノづくりに立ち帰る日が来るでしょうかね。楽してボロ儲けすることに慣れ、技術も失ったジュエリー業界が自力で復活する可能性は低いと予測します。 いずれにしてもモノづくりが劣化するのは消費者が原因であり、無意識に自分で自分の首を締めた結果です。 価値あるものには適正な対価を払う。これができればモノづくりが劣化していくことはありませんし、きちんと価値があればその分のお金を払うのは当たり前という意識の人が増えれば、頑張ってより良いモノづくりをしようとするメーカーや人も増えるでしょう。 それにしても、昔はこっそりできていたステルス値上げも、今ではSNSの普及によって随分やりづらくなったようです(笑) |
ダイヤモンドの様々なラウンド・ブリリアンカットのプロポーション 【引用】『From Wikipedia, the free encyclopedia』Diammond cut 13 May 2021, at 23:51 UTC |
さて、ダイヤモンドはコストのかかるトルコフスキー型を改善するために様々な研究が行われました。綺麗に見えるかではなく、いかに歩留まりを改善するかが重要ポイントです。その結果、新しく開発されたカットは総じてクラウンの高さは低くなり、テーブルの面積は広げられる結果となりました。以下にイメージを示します。 |
より進化した現代のカットは、上から見た時に一番大きなダイヤモンドは他のカットと同じ径の大きさで取ることができます。加えて、2つ目のダイヤモンドはより大きな見た目で取ることができるのです。 美的感覚の無い成金は、美しさではなく大きさで判断します。そういう人は3次元的なモノの見方もできないので、高さや厚みは気にせず正面から見た時の面積だけで判断します。同じカラット数で比較する場合、現代のカットが最も面積は広くなります。 |
面積が広くて一見大きく見える。 それでいて薄いので、カラット数の割には安い。 まさに無知で美的感覚もない成金にとっては理想のダイヤモンドです。 |
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【参考】薄っぺらいカットのダイヤモンド(現代) |
クラウンのファセットの面積がより狭くなるので、シンチレーションはより少なくなります。 また、テーブルの面積が増える分、テーブルが反射する際の白っちゃけた光の印象も強くなります。 |
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【参考】ブリリアンカット・ダイヤモンドの単調な輝き |
ダイヤモンド本来のポテンシャルを引き出すカットではないため、到底美しいと思える輝きは出てこないのですが、美的感覚のない成金にとっては美しいかどうかは全く重要ではないので問題ありません トルコフスキー以降、何を以って"ダイヤモンドの最も美しい"と判断するのかきちんと定義しなかったことが一番の原因ですね。 美的感覚がないのにジュエリーは好きという人は概してお勉強だけは熱心なので、明確に"美しい輝き"を定義しておけばそれに厳密に沿って判断したのででしょうけれど・・。 結局美しいと感じるかどうかは個人差があり、定義できるものではありません。 |
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マーセル・トルコフスキー(1899-1991年) |
莫大な財力を持っていた、古の王侯貴族はコストなんて気にする必要がありません。高くても良いから、とにかく美しいものをと所望します。王侯貴族たちも職人たちも頭が良く、技術もありましたから、現代のようなカットの方が美しければ多少加工が難しかったとしても現代のような薄っぺらいカットにしたはずです。 |
しかしながらクラウンにしっかり厚みがある方が美しいのです。 だから材料コスト的には非常に割高になるカットであっても、厚みがあるカットを施していたのです。 自身の美的感覚で判断していた、古の王侯貴族ならではのカットがオールドヨーロピアンカットと言えるでしょう。 現代のダイヤモンドはケチ臭さと自己顕示欲がプンプンする貧乏人向け成金カット、トルコフスキーカットは数学者らしい学術的にだけは面白いカット。 そしてダイヤモンド本来の美しい煌めきを放つ、真に王侯貴族のための贅沢なカットがオールドヨーロピアンカットと言えるでしょう。 |
1-2-3. 異例の厚みを持つオールドヨーロピアンカット
それでもこの宝物のオールドヨーロピアンカットの厚みは極端です。 |
八面体結晶にかなり近い状態で使っているなあという印象を持つほどです。 |
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原石ダイヤモンド・リング(古代ローマ 3世紀後半-4世紀初期)メトロポリタン美術館 【引用】The Metropolitan Museum of Art / Octahedral Diamond Ring ©The Metropolitan Museum of Art. |
現代ジュエリーはどんなに小さなダイヤモンドでもラウンドブリリアンカットが施されます。 大小全て全く同じカットで作られるダイヤモンドジュエリーが当たり前のように市場に溢れています。 この相似形のダイヤモンドの集合体が、見る者に奇妙な違和感を感じさせる原因です。 |
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【参考】現代のダイヤモンド・ブレスレット |
0.1ct以下の極小ダイヤモンドはメレダイヤと言われるのですが、原石からルースをカットする際に発生する、削り落とされた破片を利用して作られます。 このためメレダイヤはクズ石とも呼ばれたりするのですが、寄せ集めて総カラット数を増やしてPRすることで、無知な成金に対して高く売ることができるため、スーパーハイブランドなどでも重用されています。 カットは小さくてもラウンドブリリアンカットです。 |
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【参考】ハイブランドのメレダイヤのジュエリー |
しかしながらアンティークジュエリーの時代はオールドヨーロピアンカットのルースを取った余りの、小さな破片はローズカットに加工されていました。 ローズカットダイヤモンドは底が平らです。 上の図をご覧になるとご想像いただける通り、八面体結晶からオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドを取った後の破片を再利用するには最も無駄が出ない、合理的なカットと言えますね。 |
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ダッチローズカット |
『財宝の守り神』 約2ctのダイヤモンド ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
個性ある小さなローズカット・ダイヤモンドはセットするのに手間もかかるため、優れたジュエリーが作られなくなる戦後は姿を消してしまいました。 しかしながら脇石として主役を惹き立てる名脇役となれるのが小さなローズカット・ダイヤモンドです。 しかも約2ctという異例の上質で大きなメインストーンのオールドヨーロピアンカットを惹き立てるために、『財宝の守り神』のようなトップクラスのジュエリーでは脇石のローズカット・ダイヤモンドであろうとも超上質な石が使われます。 |
上質なダイヤモンドの原石は古い時代ほど貴重です。 欲しくても現代ほどたくさんの量は手に入らなかったからです。 高さのあるオールドヨーロピアンカットは贅沢ですが、取れるものならばローズカット・ダイヤモンドも大きめに取りたいと考えるのは当然のことです。 あまりオールドヨーロピアンカットのクラウンを高く取りすぎると、ローズカットダイヤモンドは小さくしか取れません。 だからオールドヨーロピアンカットのクラウンの高さと、ローズカットダイヤモンドの大きさは兼ね合いとなります。 |
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八面体結晶からのダイヤモンド・ルースの取り出しイメージ |
ある程度クラウンに厚みがあれば、十分にオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドは美しく輝くことができます。しかしながらそれに飽き足らず、ローズカット・ダイヤモンドの分を犠牲にしてまでクラウンに厚みを持たせてカットしたのがこの宝物に使われているオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドなのです。 |
通常の贅沢に慣れている王侯貴族のためのジュエリーでもここまではやりません。 クリーンで上質な原石を使っての贅沢すぎるカット。 このようなカットは特別にオーダーしたのでなければ有りえません。 カットから特注し、他の人たちならば絶対にやらないようなコストのかけ方をして作られたのがこの宝物なのです。 |
確かにその甲斐あって、このオールドヨーロピアンカットのダイヤモンド・クロスは見たこともない、夢のように美しい煌めきを見せてくれます♪♪ |
1-3. センス抜群のフレームのデザイン
特別なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドをセットしたフレームも、特別な石に相応しい特殊な形状でデザインされています。 |
フレームの形状はカテゴリー的には四角形と言えますが、内側に弧を描くような形状になっています。 |
キラキラのイメージと言えばこの形状です。 今回のフレームはまさにこの形をしています。 |
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キラキラしたイメージ |
通常のオールドヨーロピアンカット以上に魅惑の煌めきを放つようカットしたダイヤモンドに合わせて、余計にキラキラした印象を与えることができるキラキラ・シェイプのフレーム・デザインで作ったに違いありません!本当に作者やオーダー主の抜群のセンスの良さを感じます。キラキラキラっ!! |
『Quadrangle』-四角形- エドワーディアン 天然真珠 ネックレス オーストリア? 1910年頃 SOLD |
同じオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドと天然真珠を使った、四角形がポイントのジュエリーでも、四角形のデザイン次第で全く印象が異なります。 エドワーディアンからアールデコにかけての過渡期に作られた『Quadrangle』では四角形は直線で表現されており、アールデコらしいスタリッシュでモダンな印象を感じます。 |
この四角のフレームの独特の曲線がクラシックさを感じさせてくれると同時に、高い技術と手間を惜しまないアンティークジュエリーの良さも感じさせてくれます。 |
『ストライプ』 エドワーディアン 天然真珠&ダイヤモンド ペンダント イギリス 1910年頃 SOLD |
単純な正方形と比べて、形状に捻りを加えた四角形はデザインするのも実際に作るのも遥かに難易度が上がります。 例えば『ストライプ』は先ほどご紹介した『Quadrangle』と同じ、アールデコにかけての過渡期のエドワーディアン・ジュエリーですが、四角形の角に丸みがデザインされています。 丸い天然真珠とオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドで構成されるストライプにに誂えた、とてもセンスの良いフレーム・デザインです。 フレームの角が完全に角ばっていたら今の女性らしい印象が消え失せて、ちょっと武骨な印象になっていたことでしょう。 しかしながら角が丸みを帯びすぎるとアールデコらしいスタイリッシュな印象が薄れ、野暮ったい印象になっていたはずです。 どれくらい丸みを持たせるか、これも作者のデザイン・センス次第です。 |
キラキラ!! 人間が見て、感覚的に一番キラキラ感を感じることができる絶妙な曲率でフレームはデザインされています。 |
ダイヤモンドの色味を黄色いゴールドが邪魔せぬよう、フレームはシルバーにゴールドバックの作りになっています。かなり高級なものとして作られているため、シルバーにもゴールドにもかなり厚みがあります。 |
それをダイヤモンドの裏側の窓に到るまで、キラキラの形状で美しく造形してあります。十分にお金がかけられ、高度な技術を持つ職人が丁寧に手作りしたハイジュエリーならではの見事な作りです。 |
ダイヤモンドを留める爪は非常に小さく、極限まで存在感が消されています。しかしながらそれぞれ4箇所で丁寧に留められているため、140年ほど経った今でもダイヤモンドが落ちることはなくビクともしません。 |
また、よく見るとダイヤモンドが四角のフレームに合わせて少し四角形なのがお分かりいただけるでしょうか。 |
ダイヤモンドのカットは熟練の技術、そして特殊な道具や設備が必要です。 だからジュエリーを制作する工房とは別に、カット専門の工房がダイヤモンドのカットを行います。 カット専門の工房が購入したダイヤモンド原石を最高の形にカットし、それをジュエリー制作業者が既製品の形で購入してジュエリーを作るのが通常です。 |
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アムステルダムのダイヤモンドカットの加工場(19世紀) |
それにしてもこれだけ隙間なくフレームにフィットさせたスクエア型のダイヤモンドは見事です。 |
『The Beginning』 エドワーディアン プレ・プリンセスカット・ダイヤモンド&エメラルド リング イギリス 1910年頃 SOLD |
四角形のダイヤモンドと言えば、現代のプリンセスカットの原型とも言える『The Beginning』のプレ・プリンセスカットが見事でした。 これはダイヤモンドのカットが近代化され、電動の研磨機もダイヤモンド・ソウも使えた時代だからこそ可能となった完璧なカットと言えます。 |
同じスクエア系のカットでもテーブルが広く、煌めきに加えてダイヤモンドの透明感を楽しめた『The Beginning』の石と異なり、クラウンに高さがあるので、煌めきのイメージが強いです。 カットが近代化される前なのに、よくここまで美しくカットしたものだと嬉しくなります。 |
もちろんクリーンで非常に上質なダイヤモンドなので透明感も感じられますが、やはり魅力は煌めきです。 |
厚みがあるからこそファイアも出やすいです。 このシンチレーションとファイアの出方は、このカットならではと言えます。 |
厚み、四角形状共に特別なオーダーでカットされた、煌めきの強いダイヤモンド。それに合わせた、キラキラ・デザインのフレーム。特別なオーダーができる抜群にセンスの優れたオーダー主と、それに見事に応えることができる高度な技術を持つカット職人とジュエリー職人。その奇跡的なコラボレーションにより生み出された美しい宝物です。 |
2. 極上の天然真珠のクロス
2-1. 大きくて照り艶の揃った美しい天然真珠
前項では特別なダイヤモンドについて熱くご説明しましたが、この宝物を買い付ける時、一番最初にこれがかなりの高級品として作られたことを判断したポイントは2つの美しい天然真珠です。 |
2-1-1. 養殖真珠に起因する真珠の安いイメージ
御木本幸吉(1858-1954年) | 現代ジュエリー市場で"真珠"として出回っているのは質の悪い養殖真珠です。本物の真珠ではありません。どれだけ高額なものでも真珠層をメッキしただけで、中身は貝殻を削った珠です。 本物の天然真珠と同じように無核で養殖をすれば、天然真珠に劣らぬ価値ある宝石が実現できたと言えたでしょう。御木本自体、最初はそれを目指しました。 故にまずアコヤガイの養殖を始めました。しかしながらどれだけの数のアコヤガイを養殖してもただ貝が育つだけで、宝石として価値がある天然真珠は全然入っていません。 |
天然真珠の場合も、数十人のダイバーが一週間で35,000個の貝を採取し、その中から出てきた天然真珠は僅か21粒しかなかったという記録があります。 その21粒の天然真珠のうち、商品価値があったものは僅か3粒だったそうです。 |
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天然真珠を採取した後の廃棄された真珠貝の貝殻(1914年頃) |
アコヤガイ | 特別美味しいわけでもない、ただのアコヤガイがいくら養殖できても儲かるわけはありません。 天然真珠と同様、偶然に真珠が育まれるのを待つという方式だと、一生懸命に養殖しても35,000個の貝から3粒しか採れないという計算になります。 当時の日本人の人件費が安く、為替レート的にも有利だったとしてもさすがに採算割れです。 この取り組みは結局経費倒れに終わりました。 |
しかしながら100年ほど経った今、養殖真珠の品質は地に落ちました。 初期は数年間養殖し、十分に厚い真珠層を巻かせていた養殖真珠ですが、今では早いと3ヶ月程度で海から出してしまいます。真珠と言うより核そのものではないかと言いたくなるほど、中身が酷いことになっています。でも、表面からは見えません(厳密に言えば、天然真珠のような内側から滲み出るような美しい干渉光は感じられません)。 あまりにも質が悪いのでヨーロッパ市場では養殖真珠が売れなくなっているそうですが、さすがにここまで酷いと日本人でもある程度の人は感覚的に察知します。 ある程度の年代の方だと、養殖真珠がここまで劣化する前のものもご存知なのと、日本の皇室を利用したミキモトのプロモーション戦略も身近に晒されていたため、未だに養殖真珠は美しい高級宝石というイメージがあるかもしれません。 |
しかしながらある程度若い世代だとミキモトなどの業界によるプロモーションもあまり身近にさらされたことがありません。 イメージ戦略による洗脳がない、素の状態で現代の養殖真珠のジュエリーを見た時、感覚的に本当に美しいと思える人がどれくらいいるでしょうか。 はっきり言って、一定年齢以下の世代は真珠自体に興味がありません。全く魅力が感じられないからです。購入するとしても、冠婚葬祭用として強要されるので渋々買うくらいだと思います。 |
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【参考】養殖真珠セット |
でも、冠婚葬祭用にしか使わないような、特に好みでもないジュエリーに大金を出すのは嫌ですよね。 そういうわけで、ある程度のクオリティがある模造真珠で十分という人も多いのではないでしょうか。 |
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【参考】模造真珠のネックレス |
そういうわけで、地に落ちた"現代の真珠に対するイメージ"でこの宝物を見ると高級品かどうかピンとこないかもしれません。 でも、これはアンティークジュエリーです。 天然真珠とアンティークジュエリーについて正しい知識を持ってこの宝物を見ると、一目で相当な高級品だと分かります。 |
2-1-2. 大きな天然真珠
天然真珠は約6mmもある大きな珠です。 国内で花珠真珠を鑑別する機関は2つあってそれぞれで基準が異なるのですが、ゆるい方(笑)は真珠層の巻き厚を0.25mm以上としています。根拠が超意味不明ですが、官製ハガキの厚さが基準だそうです(※現在の官製ハガキの厚さは0.23mm)。何となくの適当感が半端ないですね(笑) 宝飾業界なんて頭脳明晰な人は基本的には行かない世界なので、まあこんなものでしょう。もちろん私も頭脳明晰ではありません(笑) |
高級な養殖真珠とされる花珠でさえ巻き厚0.25mmの真珠層しかありません。この宝物の天然真珠は最大6mmあるので、巻き厚は3mmあります。花珠と比べて12倍もの真珠層の厚みがあるということです。養殖真珠のネックレスを買おうとする時、6mmだと小さい印象と言われてしまいます。 しかしながら実際のところ、養殖真珠の大きさはどのサイズの核を入れるのかで決まります。 大きいからと言ってメッキ厚(真珠層の厚み)に違いはなく、貝殻の珠が大きさによってそこまで値段に違いがあるとは思えないのですが、大きいと高いと思い込み、素直に高額なお金を出してくれる無知な消費者が多いので大きなものを売りたいのです。 まあ、挿入する核が大きいと母貝が苦しんで吐き出したり、大きな外科手術に耐えられず死んでしまう貝も増えて、歩留まりが悪くなるそうなのでその分が値段に乗って高いと言えなくはないですが・・。 だからと言って、死ぬ貝が多いから核が大きな養殖真珠の方が価値があるとは思えません。ちなみに総量で見ると、挿核した母貝の半分は真珠を作ることなく死んでしまうそうです。 |
【参考】貝殻ビースのネックレス | 【参考】養殖真珠のネックレス&ピアス |
現代の養殖真珠は結局こういうことなのですが、貝殻のネックレスがジュエリーだなんて原始人ですかとツッコミたくなります。アクセサリーならばカジュアルなオシャレとしてあっても良いと思うのですが、ウン万円、ウン十万円、モノによっては数千万円も付けるのはやり過ぎだと思います。まあ、ブランドや業界の宣伝文句を思考停止で鵜呑みにする消費者が悪いのですが。ちょっと調べたり考えたりすれば分かることなのですから・・。 |
そういう無知な人は6mmの天然真珠を見ても大きいと思わなかったりしますが、この宝物が作られた当時の王侯貴族たちが見れば、とても高価な天然真珠であることは私同様、一目で分かります。 |
2-1-3. 同等の質を持つ2粒の上質な天然真珠
これだけの大きさがある天然真珠を、対称デザインで2粒使うというのはハイジュエリーでもかなり異例です。 |
ダイヤモンドならばカットによってある程度大きさを揃えることができるので、対称デザインはお金さえあればそこまで困難なことではありません。しかしながら偶然に得られたものを使うしかない天然真珠で、同じ様なものを2つ揃えるというのは現代人には想像もできないくらい難しいことです。 同じサイズの核を使い、人間が飼育環境を入念の管理して作る養殖真珠ですら、サイズが不揃いだったり色がバラバラだったりします。人間1人1人が個性が異なるのと同様に、真珠貝も1匹ごとに個性があります。だから照りや艶もそれぞれです。 |
『マーメイドの宝物』 アールヌーヴォー 天然真珠リング フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
『マーメイドの宝物』のように金属光沢並みに強い照り艶を放つ天然真珠もあれば、『Quadrangle』のようにシルキーマットな柔らかい質感の真珠もあります。 『山海の恵み』のように、まるで瑞々しい果実のように透明感と艶を持つ天然真珠すらも存在します。 どれもそれぞれに個性があって美しく、どのような輝きが最高級の真珠の輝きかは定義すること自体がナンセンスであることがよく分かりますね。 だから古の王侯貴族が自身の美的感覚で"美"を判断していたアンティークの時代は、"美"の共通定義が不要だったのでしょう。 |
『Quadrangle』-四角形- エドワーディアン 天然真珠 ネックレス オーストリア? 1910年頃 SOLD |
『山海の恵み』 葡萄 ペンダント イギリス 1920年頃 SOLD |
その、ハイクラスのリングのメインストーンとして十分に通用する天然真珠が、色や照り艶、そして形まで揃えて2粒使われているというのは非常に驚くべきことです。 |
さすがにダイヤモンドのカットから特別オーダーする最高級品だけはあると感じるのですが、それにしても非常に贅沢なブローチです!! |
2-2. 特殊な爪を使った異例のセッティング
特別なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドと天然真珠を使ってあることから、この宝物が相当なこだわりを持ち、莫大なお金をかけて作られたものであることはもうご納得いただけたと思います。現代ジュエリーの場合、高価な宝石を使うジュエリーでは石ころの価値だけに頼ったつまらないデザインと作りである場合が大半です。 しかしながら特別な宝石を使ったアンティークのハイジュエリーの場合、デザインや作りも抜群に良い場合が多いです。もちろんこの宝物もそうです。それぞれの天然真珠の上下左右にダイヤモンドがセットされていることにお気づきいただけますでしょうか。 |
天然真珠はアンティークジュエリーでは一般的な方法である、裏側から穴を開けて真珠専用のセメントで留めてあるようなのですが、この宝物はそれだけではありません。 |
上下左右の爪でも留めているのです。 ここまで気を遣った留め方をするのは、この天然真珠が非常に高価な宝石だった証でもあります。 |
天然真珠は台座にスッポリと綺麗に納まっており、四方の爪も見事にフィットした作りになっています。 天然の宝石である真珠の個性ある形状にピッタリと合わせてフレームを作るのは相当に高い技術が必要であり、当時のトップクラスの職人が作ったと想像できます。 |
さらに爪の先端1つ1つに多面カットされたローズカット・ダイヤモンドがセットされています。斜めから見て、このような細工になっていることに気づいた時には本当にビックリしました! |
『ハニー&シナモン』 オレンジ・ガーネット&ダイヤモンド リング イギリス 1900年頃 SOLD |
メインの宝石を留めるための爪の先端に小さなローズカット・ダイヤモンドを留める技法は、リングではこれまでにもいくつか見たことがあります。 かなり高度な技術が必要なので、余程高価な宝石を使ったハイクラスのジュエリーでしか見たことがない技法で、過去44年間でもあまり数はありません。 |
ルビー 5ストーンリング イギリス 1870年頃 SOLD |
オパール 一文字リング イギリス 1880年頃 SOLD |
天然真珠 一文字リング イギリス 1880年頃 SOLD |
そんなに素晴らしいのだったら何故他のリングにも施されていないのかというと、あまりにも高度な技術が必要で、この細工ができる職人が当時も殆どいなかったからに他なりません。 |
そのような特殊な技法なので、リング以外で天然真珠をこのような極小ダイヤモンドがセットされた爪で留めた宝物は44年間で初めてです。存在したこと自体に驚きです。 実際の大きさを考えると、いかに驚異的なことをやっているのかがご想像いただけると思います。 |
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これだけ小さいにも関わらず、極小ローズカット・ダイヤモンドはクリアで厚みのある石が多面カットされており、存在感のあるキラッとした鋭い閃光を放ちます。ローズカット・ダイヤモンドも質はピンキリで、特に脇石に使われるような小さな石は、安物の場合はオマケ程度であまり輝かなかったりしますが、この宝物は細部まで非常に気を遣っています。 |
また、これだけ小さいにも関わらず、極小ローズカット・ダイヤモンドをセットしたフレームはわざわざ花びら型にしてあります。 この気を遣った留め方も、この宝物が只者ではないことを示しています。 |
3. モチーフを最高に生かすナイフエッジのバーブローチ
3-1. スリー・クロスのデザイン
天然真珠を留める爪の先端に施された花びら型のセッティングは、実はダイヤモンド・クロスのセンターのローズカット・ダイヤモンドと同じです。 |
当時のトップクラスの技術を持つ職人だからこそできた見事な造形には、本当に感動を覚えます! |
少し分かりにくいのですが、天然真珠の上下左右にローズカット・ダイヤモンドをセットすることで両側もクロスのデザインになっており、スリー・クロス・モチーフのバーブローチになっています。 |
これは立てて撮影した画像で、センターのクロスのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの透明感を感じていただけると思います。底面から光が抜けない構造にしてしまった現代のブリリアンカット・ダイヤモンドでは感じることのできない魅力の1つです。センターのクロスはこのような透明なダイヤモンドの清らかな美しさと共に、厚みのあるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドならではの力強いシンチレーションやファイアによって、一種の神々しさをも感じることができます。 |
一方、上質なベルベットのような深く柔らかい光を放つ清らかな天然真珠と、そこから後光が射しているかのようなローズカット・ダイヤモンドの鋭い閃光が組み合わさったクロスも、格調の高さと神々しさを感じる実に美しいものです。 |
2種類のクロスは一見全く異なる方向性の雰囲気を持っているように見えますが、どちらのクロスにも花びら型のフレームにセットされた極小ローズカット・ダイヤモンドが名脇役として華を添えているため、スリー・クロスが全体で違和感なく調和しているのです。ただ好きなものを適当に寄せ集めても調和はしません。高度に計算されたデザインだからこその、心地よい調和と言えます。 |
3-2. 細身のバーブローチ
素晴らしいスリー・クロス・モチーフを最高に生かすために採用されたのがナイフエッジのバーブローチというスタイルでした。 |
『虹色のアート』 オパール バーブローチ イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
バーブローチはGenも大好きなアイテムだったので、以前からたまにご紹介しているのですが、スタイリッシュな形状故に流行したのはヴィクトリアン後期以降からでした。 |
ヴィクトリア女王の喪服(1894年)メトロポリタン美術館 | 1861年にアルバート王配が亡くなると、ヴィクトリア女王は喪に服して長年引きこもり生活となりましたが、それ以前までは女王がファッションリーダーでした。 ヴィクトリア女王は152cm程度の身長ながら結婚前の10代で既に体重は56kgあり、当時の首相に相談するほど肥満体質を気にしていたそうです。 1880年代には76kgまで増加し、加齢による身長減少によって145cm以下まで縮んだものの、体重は最大125kgまで増えたとも言われています。 |
ミッドヴィクトリアンに大流行した成金的なジュエリー | |||
このためミッドヴィクトリアンにはふくよなかヴィクトリア女王に合わせてボリュームのあるファッションが流行し、そのファッションに負けない成金的で派手なジュエリーが大流行しました。バブル期だったり、今でも成金趣味の人には好まれそうですが、Genも私も感覚的に嫌いなデザインなので扱っていません(笑) |
イギリス王太子妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925年)1876年、32歳頃 | イギリス王太子妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925)1884年、40歳頃 |
ヴィクトリア女王夫妻に代わりファッションリーダーとなった皇太子妃夫妻はどちらも洗練されたオシャレができる人物でした。後にイギリス国王エドワード7世となるバーティは現代でもダンディと言えばこの人と言われるほど、メンズファッションの世界では憧れの対象として有名です。一方で美貌で知られるアレクサンドラ妃も世界が注目のファッションリーダーでした。見れば納得ですね。 ジュエリーも1870年代だとミッドヴィクトリアンを若干引きずった感じですが、時代が後になるにつれて洗練され、エドワーディアンの時代に移っていきます。 |
そんな中で、ヴィクトリアン後期のブローチにも関わらず、これだけ細いラインのブローチは異色の存在と言えます。 |
3-3. 効果的なナイフエッジの使い方
『Demantoid Flower』 デマントイド・ガーネット&ダイヤモンド バーブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
実は同じ年代くらいに作られた、同じタイプのナイフエッジを使ったバーブローチを過去に1点だけお取り扱いしたことがあります。 ナイフエッジを本体としたバーブローチは43年間で初めてとGenも驚いていたほど珍しいものです。 |
なぜ『Demantoid Flower』がナイフエッジのバーブローチだったかと言うと、当時最先端のロシアの宝石デマントイドガーネットを生かすためです。ダイヤモンドに勝るとも劣らない強い煌めきとファイアの魅力を強調するため、ダイヤモンドと同格でデマントイドを配置している面白さがあります。 |
ナイフエッジの視覚イメージ | 鋭角三角形に削り出して整えるナイフエッジは正面から見た時に、その部分が細い線のようにしか見えない視覚効果があります。 |
だから実際にこのようなバーブローチ身に着けるとナイフエッジ部分は極限まで存在感が消失し、デマントイドやダイヤモンドのパーツだけが浮き上がって見えるのです。 |
それと同じ思想で作られたのが今回の宝物です。 超特別なスリー・クロスだけを浮き上がって見せることで、より強い存在感を演出するためのナイフエッジの本体なのです。 |
実に精確に作られた、鋭角二等辺三角形の素晴らしいナイフエッジです。 |
細い直線タイプのナイフエッジは、通常はネックレスなどでしか見られません。 ブローチは着脱の際に本体に力がかかります。 耐久性の観点から、細い直線のナイフエッジは通常は力のかからない部分に使う技法なのです。 |
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『PURE LOVE』 エドワーディアン ピンクトルマリン ネックレス イギリス 1900年頃 SOLD |
それをブローチで実現するために、バーブローチのナイフエッジにはかなり高さがあります。 |
裏もこれだけゴールドに厚みがあります。 |
高価なゴールドを惜しむことなく十分に使ったとても贅沢な作りだからこそ、一見繊細に見えるバーブローチであっても、ブローチとして140年の使用に耐える耐久性があるのです。 これぞヴィクトリアン後期のトップクラスの職人が作った最高級品です♪ |
裏側
裏側の作りもしっかりした美しい作りです。ブローチのピンもオリジナルで、衣服から抜けにくいよう返しを付けた丁寧な作りです。 |
キラキラ、キラキラ。 |