No.00328 PERFECTION |
奇跡の完璧なエメラルド!!♪ |
『PERFECTION』 目に見えるインクリュージョンが存在しない、奇跡の完璧なエメラルドを使ったリングです!♪ |
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通常エメラルドはインクリュージョンが多く、鑑定は肉眼で行う上に、内包物ではなく色彩の美しさでグレードを判断するような宝石です。この宝物にはアンティークのハイジュエリーでもこれまでの46年間で見たことのない、完璧なエメラルドが使われており、それに相応しいデザインと作りが施された最高級のリングとなっています。 エメラルドはインクリュージョンがないからこその、ネオンカラーを感じる極上の色彩や強い煌めきが見事です。脇石の厚みがあるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドも最上質のクリアな石で、生き生きとした輝きに魅了されます。 金細工を駆使したデザイン性の高さも見事なもので、同じ最高級リングでも、大きな宝石に頼ったリングとは一線を画す、オシャレさが際立つ最高級エメラルド・リングとなっています。大きくなくても奇跡の質を備えたエメラルドだからこそ成立するリングであり、他には絶対にない宝物です!!♪ |
この宝物のポイント
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1. 小ぶりのエメラルドの最高級リング
大きなエメラルドではありませんが、石の質、デザイン、作りの良さが全て揃った最高級のリングです♪ |
この大きさでこれほど高級なエメラルド・リングとして作られたリングはアンティークジュエリーでしかあり得ませんし、アンティークジュエリーの中でも異例と言えます。 |
1-1. アンティークのエメラルドリング
天然石には共通して言えることですが、石は大きくなるほど稀少性が増します。 色が悪かったり、インクリュージョンが多いなどして外観が美しくなければ宝石と認められず、たとえダイヤモンドであっても、どんなに大きくても価値はありません。 宝石品質の石で見た場合、同じ質であれば大きければ大きいほど稀少価値が高くなります。 |
『エメラルドの深淵』 珠玉のコロンビア産エメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】安物のエメラルド&ダイヤモンド リング アメリカ 1890年頃 12Kゴールドの作り |
『宝石』と言えば稀少価値のある天然石が当たり前のアンティークジュエリーの場合、大きなエメラルドほど高い評価を得ます。そして、そういうエメラルドは相応しい扱いを受けます。最上質の脇石、トップクラスの職人による作りとデザインでジュエリーに仕立てられます。 小さくて質もあまり良くなければ相応の脇石と共に、つまらないデザインと稚拙な作りの安物となります。 |
小ぶりながらこれだけ上質な脇石を使い、抜群のデザインと技術で作られたエメラルドリングは、アンティークジュエリーでもそうそう見るものではありません! |
1-2. 宝石の大きさが意味をなさなくなった現代
王妃の外出着 | 王妃の普段着 |
イギリス王妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844−1925年)1908年頃、64歳頃 | イギリス王妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844−1925年)1904年、60歳頃 【引用】Britanica / Alexandra ©2021 Encyclopædia Britannica, Inc. |
宝石は大きい方が価値が高い。 クリスタル・ガラスやキュービックジルコニアなどのイミテーション、合成石、あるいは加熱処理や放射線照射、樹脂やガラスの充填、化学薬品や染料を使った脱色や着色など様々な人工処理が行われた石が普及する以前の話です。 |
戴冠式の英国王妃の正装 | だから普段は控えめな服装にセンスの良い上品なジュエリーを合わせる大英帝国の王妃でも、特別な式典で全世界の万人に向けて権威を示す際はゴージャスな宝石が付いたジュエリーを着用します。 普段からハイジュエリーを着用したりオーダーに慣れている上流階級の人たちであれば、どのようなものだとお金がかかっているのかは見れば想像できますが、一般庶民はよく分かりません。 それでも、とりあえず巨大な宝石がついていれば高そうに見えます。 庶民にも分かりやすいよう、上流階級の目線で見れば多少は悪趣味であっても、敢えてこのようなド派手なコーディネートをしたりするわけです。 普段このような装いはあり得ませんが、一般庶民がその姿を目にできるのは特別なタイミングでのみです。 |
イギリス王妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844−1925年)1902年頃、58歳頃 "1902 alexandra coronationhr" ©Franzy89(9 August 1902)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
庶民でも想像力のある方、頭脳明晰な方であれば普段もこのような格好をしているわけではないことは分かるのですが、見たものをそのまま受け止めるだけの大多数の庶民は女王様やお姫様たちがいつでも派手なドレスを着て、宝石がジャラジャラ付いたゴージャスなジュエリーを着けていると勘違いするのです。 本場イギリスであれば王侯貴族が庶民に紛れてお買い物したりすることもあり、庶民でも割と王侯貴族の普段の姿を知っていたりするのですが、アメリカ人や日本人はそういう機会がないため、派手な宝石が付いていないと上流階級のためのハイジュエリーではないと多くの人は思い込むようです。 |
【参考】現代の安物ジュエリー |
【参考】現代の成金ジュエリー | ||
このような背景や、遠目では宝石の質は判別しにくいこともあってか、特に現代の庶民はとにかく大きな宝石が付いたジュエリーが高級と思い込むのです。成金、あるいは成金嗜好の庶民は巨大な宝石を欲しがります。一方で成金っぽいジュエリーははしたない、小さい宝石のジュエリーの方が清楚ということで小粒のジュエリーを好む人もいます。結局どちらも大きさだけを気にしています。石だけ気にしてデザインや作りに気が回らない人が、一般的には本当に多いです。 実際に現代も石が大きいほど高値で販売されていますが、実は大きいほど実際に価値があるとは言えない状況です。核の大きさが違うだけで、真珠層の厚さには変わりがない養殖真珠は言うまでもありません。あれはメッキしただけの貝殻の核で、貝殻の珠は価値あるものではありませんから、貝殻の珠が大きいからと価値が何倍も上がるわけはないのです。 |
ブルー・サファイアを含む様々な合成コランダム "SynthKorVerneuil" ©U.Name.Me(29 November 2018)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
鉱物系の宝石については合成技術が発明され、量産技術が確立し、さらなる研究開発によって製造コストも抑えられるようになってからは大きさに付加価値はなくなりました。大きさが2倍になれば値段が2倍になるのは当然ですが、天然の宝石であれば稀少性は2倍どころではなく、その稀少価値は指数関数的に増していきます。 合成技術が確立されたからと言って、必ずしもタダのような価格でたくさんで回るわけではありません。製造コストが高くつく場合は合成石でも高価なものとなります。時には合成する方が天然石以上に高くつく場合だってあります。そういう場合はビジネスとして成立しないので、合成技術が確立されていても一般市場に出回ることはありません。 合成石が一般市場に出始めたのはルビーが1907年、サファイアが1910年、エメラルドが1940年初頭となります。各社が参入し、ブラッシュアップされ、現代では安価に大量生産されています。通常のテクノロジー製品と何ら変わりないのですが、『宝石』という冠を称するだけで一定数の消費者が桁違いのお金を出してくれるので、旨味のあるビジネスとして成り立っているわけです。 |
CVD法により合成し、宝石カットを施した無色透明のダイヤモンド(サイズ不明) "Apollo synthetic diamond" ©Steve Jurvetson(27 May 2006)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
ダイヤモンドの場合は埋蔵量が莫大で、わざわざ合成する意味がないというのがこれまでの状況でした。合成技術時代は存在していたのですが、鉱山や流通を独占し、ダイヤモンド業界を牛耳り市場を統制していた勢力が合成石の普及を阻止していた背景があります。 ここに影響を与えたのが台頭著しい中国です。2021年時点での世界人口は78億7,500万人、中国人は14億1,178万人で、世界の17.9%が中国人です。5人に1人弱が中国人です。日本人の10倍以上の人口を誇ります。市場は10倍以上ですし、日本なら1,000に1人クラスの秀才が中国にはその10倍の人数います。 そのたくさんの優秀な頭脳が合成ダイヤモンドの研究開発に投じられ、国外から邪魔を受けても内需でなんとかできる状況にあるのが中国です。日本人も数は決して少なくありませんが、強大な外圧に耐えられるほどではありませんでした。 中国の動向を無視できなくなったデビアスは、ついに2018年5月29日に合成ダイヤモンドを『Lightbox』というブランドで発売すると発表しました。色もコントロールできるので、カラーダイヤモンドも好きに作れます。 2021年の現時点で、日本でも『ラボグロウンダイヤモンド』という名前で合成ダイヤモンドのジュエリーが出回っています。それっぽく思わせたい意図が見え見えのネーミングで、思わず失笑してしまいました。ファクトリー(工場)だと印象が良くないんですかね。ラボ(研究所)経験がある、おそらく大多数の理系の人たちにとっては夢がまるでないどころかテンションが下がるネーミングです。私は理系出身なので周りも理系が多い環境にありましたが、理系の人からはジュエリーや宝石全般が馬鹿にする目で見られる傾向を感じています。現代宝飾業界のやり方を見れば無理もありません。アンティークジュエリーは全く別物なので一緒くたに見ないで欲しいのですが、いやはや・・。 |
単結晶の合成サファイア 約20cm、30kg | まあそういうわけで、宝石はジュエリーとして使用するサイズとしては、多少大きくても稀少価値があるものではなくなってしまったのです。 無色透明のサファイア(アルミナ)の場合は、『サファイアガラス』などの名称で時計の風防にも使われているほどです。 硬度を生かして、iPhoneのカメラレンズの保護などにも使用されているそうです。 |
研究所にいたサラリーマン時代に他社品解析の一環でスマホを解体して破壊分析したことがありますが、研磨機で削って断面出しする際、内部基盤に使用されていたアルミナが硬くてなかなか削れなかった記憶があります。 モース硬度10のダイヤモンド粒子を使って削るのですが、モース硬度9(アルミナ、サファイアなどのコランダム)は相当硬いです!(笑) |
合成エメラルド・ リング(現代) 【引用】odolly / エメラルドリング(オーバル/2.29/メレダイヤ4石/ツイスト/K18ホワイトゴールド/5月誕生石) ©京セラジュエリー通販ショップodolly-オードリー |
現代市場には、大きな宝石が付いたジュエリーが当たり前のように出回っています。 小さい宝石でもジュエリーは作れますが、大きいほうが高そうに見えるので、割りに合わない高い値段を付けて儲けやすいからです。 本当は割高なのですが、天然石との違いをよく分かっていない消費者は「こんなに大きいのにお安いわ!!♪」と喜んで買ってしまうのです。 |
【参考】ギルソンの合成エメラルド・リング(ヴィンテージ) |
合成エメラルドは天然の最高品質のエメラルドと同等の品質があります。 |
エメラルド・リング(カルティエ 現代)価格はお問合せくださいとのこと【引用】Cartier / SOLITARIO 1895 ©CARTIER |
これが合成石なのか、オイルや樹脂を真空で含浸させた処理石なのか、きちんとした天然石なのかは分かりませんが、現代ジュエリーは最高品質の宝石を使ったジュエリーでも作りやデザインはチャチで、アクセサリーとの違いがありません。 |
【参考】京セラの合成エメラルド・リング(中古) | エメラルド・リング(ティファニー 現代)¥1,617,000-(2020.5現在)合成や処理については記載なし 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Ring ©T&CO |
右のエメラルドも天然なのか合成なのか分かりませんが、現代では同じくらいの大きさのエメラルドジュエリーを見せても、どちらが高そうに見えるのかと言われれば天然と合成で違いがなくなってしまったのです。 |
現代のエメラルド | |
含浸処理石 | クリスタルガラス |
【参考】エメラルド・リング | グリーン&ホワイト・クリスタルのロジウムメッキ・シルバー・リング(スワロフスキー 現代) 【引用】SWAROVSKI / Attract Cocktail Ring Green, Rhodium plated ©Swarovski |
合成石やよく出来たイミテーションに見慣れた現代では、むしろ天然石の方が安っぽく感じてしまうかもしれません。現代市場では、ジュエリーのライバルは合成石やイミテーションを使ったアクセサリーです。 天然石というだけで喜ぶ層に向けて、天然石ということだけを謳った低の悪い宝石ジュエリーを販売したり、あまり価値のない小さな天然石のジュエリーを販売したり、今では一体どういうものが価値ある宝石やジュエリーなのかよく分からない状況となっています。 |
1-3. 現代の小ぶりのエメラルドリングとの違い
1-3-1. アンティークのハイクラスのリングの思想
コロンビア産エメラルド リング イギリス? 1880〜1900年頃 SOLD |
コロネット エメラルド リング フランス 19世紀中期 SOLD |
あまりにも大きな石だと、リングにする場合はデザインに大きな制約がかかります。 あまり大きくなくても質が良い高級な石の場合、デザイン性の高いハイクラスのリングに仕立てられたりするのがアンティークジュエリーの魅力です♪ 優れたデザインと作りの良さは相関関係にあります。高い技術がなければジュエリーとしての耐久性を確保しながら、凝ったデザインを具現化するのは不可能だからです。第一級の職人に制作を依頼すれば、技術料や加工費、脇石などのプラスアルファの材料に相応のお金がかかってきます。小さな宝石がメインのリングだったとしても、デザインや細工が素晴らしければ、トータルとしては大きな宝石を使ったジュエリーに勝るとも劣らぬほど高価なリングにもなり得るのです。 |
『ロイヤル・コロネット』 宝冠型リング イギリス 1880年頃 SOLD |
単なるメインストーンの大きさだけではなく、脇石まで含めた宝石そのものの質やカットの良し悪し、デザイン、作りの良さなど、ジュエリーとしての総合的な魅力でその価値を判断するのが古の上流階級でした。 |
1-3-2. 戦前と戦後の変化のポイント
先のような考え方ができるのは、アンティークの時代でも極めて限られた上流階級の人たちだけです。成金を含めた庶民は昔も今も、このような総合的な評価ができる人は皆無に近いです。 王侯貴族が世界を主導する時代が終焉を迎えた戦後は、経済を牽引するのは無数に存在する庶民たちでした。大英帝国は二度の世界大戦、日本も第二次世界大戦によって、君主を中心とする貴族階級が国民を導く時代は終わったのです。 |
日本の上流階級 | ヨーロッパの上流階級 |
公爵夫人 大山捨松(1860−1919年)1880年代? | イギリス王太子妃アレクサンドラ・オブ・デンマークとその家族(1880年) 【出典】Royal Collection Trust / The Prince and Princess of Wales with their shildren, 1880 [in Portraits of Royal Children Vol.26 1880] / © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 / Adapted |
戦前の日本で、HERITAGEがご紹介するような王侯貴族のためのハイジュエリーをリアルタイムで身につけていたのは日本貴族(華族)です。上流階級のファッションリーダーとなるのは君主でした。 少し古い時代は、ファッションに関してはフランスが世界の中心とも言えましたが、1789年に起こったフランス革命によってせっかく年月をかけて醸成された宮廷文化は途絶えてしまい、以降は世界の中心となっていった大英帝国の君主夫妻が主に世界の上流階級のファッションリーダーの役目を果たすようになりました。 上流階級の女性が集まるアメリカの大学でトップクラスの成績を修め、帰国後は鹿鳴館の花として外国の要人とも見事な社交を魅せた公爵夫人の大山捨松もイギリスのアレクサンドラ王太子妃を始め、ヨーロッパの上流階級のファッションを参考に洋服やジュエリー、小物などを選んでいます。 |
日本の上流階級 | ヨーロッパの上流階級 |
公爵夫人 大山捨松(1860−1919年)1919年以前 | ノルウェー王妃モード(1869-1938年)1906年、37歳頃(英国王エドワード7世の三女) |
日本に貴族が存在した1947年までは、日本人で高価なジュエリーを身に着けるのは貴族や特別な富裕層のみでした。そして参考にするのもヨーロッパの王侯貴族でした。 しかしながらアメリカの半植民地と化した戦後の日本では、アメリカの成金セレブを参考に庶民がジュエリーを買い漁るようになったのです。 日本人は庶民に至るまで一定以上の教養を持ち、美意識の高さも誇っていましたが、日本貴族はその比ではありませんでした。故に初めて見たり聞いたりするものにも柔軟に適応し、本場顔負けの教養や着こなしができたのです。大多数の普通の庶民は、そこまで揺るぎない感覚や美意識は持っていません。 |
マッケイ・エメラルド&ダイヤモンド・ネックレス(カルティエ・フレール 1931年) "Cartier 3526707735 f4583fda9a" ©thisisbossi(12 May 2009)/Adapted/CC BY-SA 2.0 | アメリカは歴史が浅い上に、自由と平等を謳う民主主義の元、れっきとした貴族階級は存在してきませんでした。 成り上がりセレブは庶民レベルの教養と美意識しか持たない、ただの成金庶民です。 全体で調和した心地よい美しさという概念には気が回りません。 ジュエリーにはステータス・アイテムとして、とにかく巨大な宝石が付いていることを望みました。 ハイジュエリーをオーダーする経験を重ねていれば、どのような細工やデザインにどれだけお金がかかるのか見積もる能力が身に付きます。 |
ビスマルク・サファイア・ネックレス(カルティエ・フレール 1935年) | しかしながら成り上がりセレブはそういう経験がありません。 だから見て分かりやすい宝石だけにお金をかけるのです。そこだけにお金をかけ、デザインや細工にお金をかけないのはみみっちいことで、いかにも貧乏人の発想という印象です。故に王侯貴族からは、『nouveau riche(ヌーヴォー・リーシュ)』と嘲笑の対象となるのです。 20世紀になるとヨーロッパの王侯貴族が増々力を失い、ハイジュエリー市場ではアメリカの新興成金が重要顧客となっていきました。 20世紀中期以降は、台頭した新興成金たちが宝石の大きさ(値段)だけで価値を競う、滑稽でつまらない世界となってしまったのです。 |
『影透』 アールデコ 天然真珠 リング イギリス 1920年頃 SOLD |
宝石やデザイン、細工も、値段は大きな指標の1つとなります。しかしそれだけではありません。 デザインや細工の良さには、持ち主の教養や美意識の高さ、センスの良さが如実に反映されます。それが最大の価値とも言えます。上流階級のハイジュエリーの価値は単なる値段だけではないのです。 何しろイメージとしては、社交界は皆がビリオネア(資産10億ドル、約1,100億円以上)という世界です。10億円のジュエリーなど自慢しても、「それが何か?」という感じです。価格では勝負のポイントになり得ず、お金に代えることが出来ない、持ち主個人の能力が最大の勝負ポイントとなるわけです。 |
日本の貴族院と明治天皇(1890 / 明治23年) |
高度経済成長によってジュエリーが買えるようになった、購入経験ゼロの日本の庶民も日本貴族を参考にできれば良かったのですが、それはできませんでした。 戦後、アメリカの半植民地となった日本は戦前・戦中を徹底して否定する庶民教育が施されました。戦前・戦中まで日本という国を主導していたのは主に貴族階級であり、そこが否定されたのです。 |
ワシントン軍縮会議の全権大使(1921年11月3日) 幣原喜重郎 男爵、加藤友三郎 子爵、徳川家達 公爵 |
現代は一様に年齢で区切って義務教育が施され、それが当たり前の世の中となっていますが、昔はとても自由でした。 『ゲゲゲの鬼太郎』などで有名な水木しげる氏(1922/大正11-2015/平成27年)も、勉強ができる方ではないとのことで両親が小学校への入学を1年遅らせたそうですし、マイペース過ぎて2時間目くらいから登校するという学校生活を送っていたようです。戦後も一定期間は学校に行っていない子供が一定数、存在しました。短期間で各地を転々とするなどの親の仕事の関係であったり、理由は様々です。 勉強に注力しない庶民がいる一方で、上流階級の子女は今のような就学年齢など関係なく徹底して然るべき教育が施されました。国民に責任のある立場として国家を守り、正しい方向に発展させていくには相当な知識や教養が必要だからです。この当たりはヨーロッパ貴族と変わりありません。 |
新政府の米国留学女学生(1871年) 永井繁子、上田悌子、吉益亮子、津田梅子、山川捨松 |
1871年に日本初の女子留学生がアメリカに派遣されましたが、津田梅子はまだ6歳でした。それ以前から手習いや踊りを学んでおり、女子留学生たる資質ありと周囲から判断されたからこそ応募し、選抜されているのです。 |
1889年の『憲法発布式』(和田英作 1936年) | 日本の上流階級は徹底した教育を施された、今で言うチート的な能力を持つ様々な人たちで構成されていたからこそ、開国後に列強が強い危機感を抱くほどの驚異的な発展を遂げることができたのです。 同じ『日本人』というカテゴリーであっても、自分と同じとは思わない方が良さそうな人たちです。 戦後はこのような人たちが手本を見せ、庶民を教え導くことが許されない世界となりました。 |
1-3-3. 現代ジュエリーの思想
「戦前・戦中の日本は全て悪だ!」 戦後の日本はこのような思想の元で発展しました。高度経済成長によって庶民がジュエリーを買えるようになった時、参考にするのがアメリカの成金セレブでした。 今でもこの洗脳は根強く、石ころの大きさだけで判断する日本人はかなり多いです。デザインや作りはまるで気にしないため、成金的な大きな宝石のジュエリーだけでなく、小さな宝石のジュエリーですらまともにデザインされていません。 |
1-3-4. 現代の小さなエメラルドの一般的なリング
【参考】エメラルド・リング(現代) |
これくらい小さいエメラルドだと、単独の1石だけで存在感を出すのは難しいです。しかしながら現代ジュエリーはそういうものが多いです。エメラルドが付いているというだけで満足し、大金を出す消費者がジュエリー購買層には多いからです。 鋳造のボテッとしたシャンクの作りは置いておくとしても、エメラルドをセッティングしたゴールドのフレームのガタガタ具合は気になります。上質な作りであればシンプルイズベストを目指したと言い訳することも不可能ではありませんが、これはただの手抜き、もしくは技術の低い職人がセッティングした安物です。 |
【参考】シングルストーンのエメラルド・リング(現代)
どこで買っても同じとしか思えない、つまらないデザインのリングばかりです。自分らしいオシャレをするためにジュエリーを身に着けると思うのですが、これだと個性が感じられず、オシャレには見えません。愛の証やパワーストーン的な意味があって着けることもあるかもしれませんが、そうだとしても、もっと個性やオシャレさもあって欲しいです。 |
【参考】ダイヤモンド取巻きのエメラルド・リング(現代)
ダイヤモンドと組み合わせるにしても、もっと大きいエメラルドや他のカラーストーンで見たようなデザインでは全く面白くありません。ただ小さいだけだと、同じデザインで作られた大きな宝石のリングに明らかに見劣りします。 |
【参考】ダイヤモンドと組み合わせたエメラルド・リング(現代)
ダイヤモンドを組み合わせた他のデザインでも、どれも似たりよったりです。魅力的なデザインを生み出すには、才能あるデザイナーに仕事を依頼するコストがかかります。また、デザインが複雑になるほど製作に技術や時間がかかります。これも職人に支払う対価として、コストとなります。 結局デザインは使いまわしになりますし、簡単に作ることができる楽なデザインが採用されることとなります。現代は業界全体が堕落しているため、どうしてもデザインが似るのです。 ジュエリーの主要購買層が石コロだけしか気にしないため、ただ石が着いているだけで、ゴールドやプラチナなどの金属部分には彫金などの細工が全く施されないのも特徴的です。やってもコストがかかるだけで、その分高くなると売れ行きが悪くなるからです。結局は業界自身の堕落と言うより、購買者側の堕落なのです。 |
極めて上質な脇石を使い、高いデザイン性を誇る、最高級の小ぶりのエメラルドのリングは、まさにアンティークのハイジュエリーにしか存在しない特別な宝物なのです!♪ |
2. 小さくても透明度の高い異例のエメラルド
このエメラルドは完璧です。現代の処理石やガラスのイミテーションに見慣れていると、ハイクラスのエメラルドならば当然ではと思われるかもしれませんが、これはかなり異例です! |
2-1. 通常のエメラルドリング
2-1-1. エメラルドのインクリュージョン
エメラルドはインクリュージョン(内包物)が多いことで有名な石です。宝石の中で一番インクリュージョンが多いとも言われています。 質の鑑定もダイヤモンドのように10倍ルーペを使うことはなく、肉眼でインクリュージョンの多い少ないを判断します。それほどインクリュージョンが多いからこそ、シダーウッドオイルで表面を湿らせて欠陥を目立たなくさせる処理が古来から存在したのです。 |
【参考】含浸処理したエメラルド・リング(ヴィンテージ〜中古) | 現代のエメラルドはほぼ100%、『オイル含浸処理』が行われているとされています。 但し『オイル含浸処理』という名称でも古来からの処理とは全く異なるもので、真空ポンプを使って減圧・加熱した環境下で奥深くまで浸透させます。 液体だと流れ出るため、クラックが微細で上質なエメラルドを除き、流れ出ることのない樹脂で埋めます。 |
色付きの樹脂やオイルを使うことで、より鮮やかな色に見せることも行われています。それでも内部に存在する空隙は埋めることができないため、処理済みの石であっても案外汚かったりします。 |
【参考】ギルソンの合成エメラルド・リング(ヴィンテージ) |
また、エメラルドは特有の緑色を呈する原因として微量のクロムを含みますが、このクロムが結晶の成長を乱すという性質上、工場の安定した環境で合成した石でも案外クラックがあったりするのです。 1982年に『レニックス』として販売された合成エメラルドは天然エメラルドの低級品並みに大量のインクリュージョンを含んでおり、商品価値はないと言えるような代物でした。 |
【参考】チャザムの合成エメラルド・リング(1950年代) | 天然の最上級クラスの品質があるとされたチャザムの合成エメラルドは成長に1年近い年月をかけ、しかもその中で宝石としてカットできるのは結晶の10%程度だったそうです。 設備を整えた環境下での合成石であっても、エメラルドは結晶学的に完全無欠の完璧な結晶にはならないのです。 |
2-1-2. アンティークの上質なエメラルド
ブローチやピン
カボション・エメラルド ブローチ フランス 18世紀 SOLD |
コロンビア産エメラルド ブローチ フランス 19世紀中期 SOLD |
『レセップスのクラバット・ピン』 フランス 1880年頃 SOLD |
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エメラルドは昔から美しい色彩があれば高級品とされ、ハイジュエリー用の宝石として使用されてきました。インクリュージョンが多すぎたり、汚い色の内包物があると全体として美しい色には見えませんから、当然ながらどんなインクリュージョンでもOKというわけではありません。 とかく完璧な状態を追い求められがちな宝石ですが、良いインクリュージョンだと石に浮かび上がる天然の景色に唯一無二の芸術性や、一種の心地よさが感じられるものですね。 |
リング
コロンビア産エメラルド リング イギリス? 1880〜1900年頃 SOLD |
アールデコ エメラルド・リング フランス 1920〜1930年頃 SOLD |
ブローチなどに使われるような、ある程度大きさのあるエメラルドの場合、無欠のエメラルドは不可能です。リングの場合もでも、大きさのあるエメラルドだと無欠というわけにはいきません。 |
『エメラルドの深淵』 珠玉のエメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
これだけの大きさがあって、後ろ側のシャンクが透けて見えるほど透明度の高いエメラルドは例外中の例外です。 だからこそ最上質の脇石、特別なデザインが揃った最高級のエメラルドリングとして作られているのです。 肉眼ではインクリュージョンがほぼ感じられない、奇跡のエメラルドです。 |
2-1-3. 完璧に近いエメラルド
コロンビア産エメラルド 5ストーン リング イギリス or ヨーロッパ 1870年頃 SOLD |
『エメラルド・グリーン』 アールヌーヴォー ブローチ&ペンダント フランス 1905〜1910年頃 SOLD |
ハイジュエリーに特化してお取り扱いしてきたこれまでの46年間で、"完璧に近い"エメラルドはいくつかありました。インクリュージョンが極めて少なく、部分的には完璧と言えるエメラルドです。 |
『The Beginning』 |
肉眼でインクリュージョンが見えなければOKなのですが、『The Beginning』なんかはこれだけ拡大してもこれほどまでに美しいです。 完璧なエメラルドは存在しないと言う情報の元に私がこれを見ると、ついつい妄想してしまうのです。ちょっと右上辺りを切り落せば、完璧なエメラルドってできてしまうじゃないと・・。 |
ただ、普通はそれが実行されることはありません。それで価値が高くなるのであれば別ですが、宝石の価値は質と大きさの兼ね合いです。インクリュージョンが当たり前で、インクリュージョンよりも色が重視されるエメラルドでは、価値に大きく影響しない部分をカットしたことでサイズが小さくなるのは、石の価値で見てマイナスでしかないのです。 |
2-1-4. ハイジュエリーの小さなエメラルド
エドワーディアン エメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1905〜1915年頃 SOLD |
故に、小さなサイズのエメラルドであれば、理論的には私が妄想したようなことを実行して完璧なエメラルドを実現は可能です。 しかしながら実行されることはありません。 |
コロネット エメラルド リング フランス 19世紀中期 SOLD |
アールデコ エメラルド リング フランス 1930年頃 SOLD |
誰だって完璧なエメラルドは欲しいですが、天然の宝石は現代人が想像する以上に稀少性が高いものです。だからこそ美しさは担保しつつ、なるべく無駄の出ないカットを施すものなのです。 |
だからこそ、この宝物の完璧なエメラルドを見て驚きました!!! |
2-2. 透明度の高さ故の美しい煌めき
小ぶりですが、このエメラルドは肉眼はもちろん拡大してもインクリュージョンが感じられないくらい完璧です。それほど欠陥がなく、透明度が高いエメラルドだからこその、この石にしか無い特別な特徴があります。 |
2-2-1. エメラルドカットの特徴
この宝物のエメラルドには、オーソドックスなエメラルドカットが施されています。 |
ステップカット・ダイヤモンド | エメラルドカット・エメラルド |
アールデコ ステップカット・ダイヤモンド リング アメリカ 1930年代 SOLD |
アールデコ エメラルド リング フランス 1930年頃 SOLD |
エメラルドカットはステップカットの一種ですが、さらに4隅がカットされているのが特徴です。 インクリュージョンを多く含み、クラックなども発生しやすいエメラルドは非常に扱いが難しい石で、エメラルドを安全にセットできるようになったら職人として一人前と言われるほど割れやすい石です。角は特に割れやすいため、カットしておくのが定番となったのです。 エメラルドカットには、もう1つ特徴があります。 |
低品質のダイヤモンドの内包物の目立ち方 | |
ブリリアンカット | エメラルドカット |
ブリリアンカット系のカットは、ファセットが煌めきやすいことが特徴です。一方でエメラルドカットのようにステップカット系のカットは、煌めきよりも石の色彩を強く感じる特徴があります。ダイヤモンドのような無色透明の石の場合、透明感を楽しみやすいカットでもあります。 ブリリアンカットだと、内包物がたくさんあっても煌めきの中に紛れるため、品質の悪さが目立ちにくいのがお分かりいただけると思います。現代のダイヤモンドのカットは、ブリリアンカットが主流である理由の1つでもあります(笑) エメラルドカットだと内包物が少なくても、とても目立ちます。それほど内部の様子がよく見えるのです。 |
コロンビア産エメラルド ブローチ |
内包物が多く、表面をオイルで湿らせる処理が古代から存在するほど、ミクロレベルでは表面が平滑ではないエメラルドは、そもそも煌めきが期待できない宝石です。 色彩を楽しむことに特化するならば、このエメラルドカットは理にかなったカットと言えます。 |
2-2-2. 驚くほど煌めくエメラルド
通常のエメラルドはハイジュエリーにセットされたものでもそんなに煌めきませんし、煌めきは期待していません。 しかしながらこの特別なエメラルドは、思わず眼を見張るほど魅力的に煌めきます。 |
こんなに強く煌めくエメラルドは見たことがありません!! 脇石のダイヤモンドも、最高級のエメラルドリングに相応しい厚みのある最上質の石で、強く煌めきます。でも、それほどの石を両脇に従えても、主役が霞んでしまう心配が全くないくらい印象的な煌めきを放ちます。 |
このエメラルドは極めて透明度が高いため、奥のファセットからの光の反射も強く返ってくることが特徴の1つです。表面反射と異なり、下部ファセットから戻ってくる光はエメラルド内部を通り、複雑に反射したりして返ってくるため、予想もしない魅力的な輝きとなるのです♪ |
ステップカットならではの、平行世界を感じるような特徴的な輝きに強く惹き込まれます♪ |
長方形のファセットが特徴的なエメラルドカットには、ブリリアンカットにはないスタイリッシュな美しさがあります。キラキラと煌くブリリアン系のカットと異なり、ステップ系のカットは段差が切り替わる感じの煌めき方をします。実に面白く魅力的です!♪ |
2-2-3. 強く煌めくことができる理由
エメラルドとは思えないほどのこの強烈な煌めきは、この石が特別だからこそのものです。 煌めきには2つの要素が効いてきます。どれだけ光を反射できるかが煌めきの強さとなりますが、1つ目の要素が屈折率、2つ目は表面の平滑性です。 |
2-2-3-1. 屈折率
物質からの光の反射は『光沢』と言う言葉で表現され、非金属である宝石などに対しては『金剛光沢(ダイヤモンド光沢)』や『瑠璃光沢(ガラス光沢)』などを聞いたことがある方もいらっしゃると思います。 ダイヤモンドは強烈な金剛光沢を放つことができる数少ない宝石だからこそ、数ある宝石の中でも長年人々を強く魅了してきた歴史があります。不透明な金属と違って光を透過する透明性がありながらも、光を全反射する金属並に強い光を放ちます。 |
『愛の誓い』 ダブルハート リング(エンゲージメント・リング) イギリス 1870年頃 SOLD |
金剛光沢を放つ鉱物は、1.9を超える高い屈折率を有します。 ガーネットやコランダムも高い屈折率は有しますが、それでもそれぞれ1.73〜1.89、1.76〜1.77で亜金剛光沢に留まるレベルです。 |
『幻惑の宝石』 知られざる美しい宝石:ジルコン(風信子鉱) イギリス 1880年頃 SOLD |
ダイヤモンド以外に金剛光沢を持つ宝石はジルコン(風信子鉱)くらいです。 シトリンより格上とされるトパーズよりさらに格上の宝石とされますが、アンティークのハイジュエリーでも滅多に見ることはありません。 これは見せた宝石研究所の所長がビックリし、滅多にお目にかかれないトップクオリティのジルコンに大喜びしていた宝物です。 |
ジルコンは複屈折が特徴で、ダイヤモンドにはないその珍しい性質にどうしても目が行きますが、表面のファセットにご注目いただくと極めて強く光を反射していることにお気づきいただけると思います。強烈に真っ白な反射です。 |
『アメジストの楽園』 |
そこまでの屈折率を持たない宝石の場合はガラス光沢と呼ばれます。 『アメジストの楽園』の左のアメジストのテーブルのファセットをご覧いただくと一部の光を反射し、一部は透けて見えることがお分かりいただけると思います。 |
2-2-3-2. 表面の平滑性
ゴールドのハイジュエリー | ||
光沢仕上げ | マットゴールド | |
『美しき魂の化身』 蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
『シンプル・フレンチ』 マットゴールド ピアス フランス 1900年頃 SOLD |
『黄金の花畑を舞う蝶』 色とりどりの宝石と黄金のブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
同じ素材であっても、光の反射率は表面形状によって変わります。表面が平滑であればあるほど、光の反射率は高くなります。それを利用すると、同じゴールドでも驚くほど印象が変化します。 |
ロッククリスタルを使ったハイジュエリー | |
ファセットカット | フロステッド・クリスタル |
『クリスタル・オーブ』 ロッククリスタル ペンダント フランス 19世紀後期 SOLD |
『水仙』 フロステッド・クリスタル ブローチ オーストリア 1940年頃 SOLD |
これは宝石にも言えることです。丹念に磨いて仕上げることで、それぞれの物質が持つ屈折率上の限界値まで光を反射できるようになります。表面形状を荒らすと光が散乱され、マットな質感となります。 |
【参考】安物 or リプロダクションのダイヤモンド・ジュエリー(ミッド・ヴィクトリアン) | この表面の磨き仕上げは、おそらくは皆様がご想像なさっている以上に重要です。 たとえダイヤモンドであっても、磨き仕上げが十分でなければポテンシャルが引き出されることはありません。 古いダイヤモンドは輝きが弱いと言う人もいますが、それは安物しか見たことがないからです。 アンティークジュエリー市場に出回る殆どは、産業革命によって台頭してきた中産階級のためにヴィクトリアン中期以降に作られた安物です。 |
私たちがお取り扱いするような特別クラスのハイジュエリーは、普通のお店では見ることはありません。私たちの基準では『安物』と判断するものが、他のお店で『高級品』として紹介されているのもよくあることです。このため、アンティークジュエリーに対して私たちが頭が痛くなるような勘違いをする人が少なからず存在するのです。 |
『ダイヤモンド・アート』 ジョージアン ダイヤモンド ブローチ イギリス 1830年頃 SOLD |
19世紀初期のジョージアンの本物のハイジュエリーは元々作られた数が少ない上に、ヴィクトリアンの時代にリメイクされて生き残っている割合が少ないため、滅多に見ることはありません。 でも、ヴィクトリアンよりさらに古い時代のダイヤモンドでも、磨き仕上げさえ良ければ驚くほど強く輝きます。 |
2-2-3-3. エメラルドならではの事情
屈折率は石そのものの固有の性質なので、人間がどうこうするできる部分ではありません。しかしながら平滑性はどれだけ仕上げられるかであり、技術と根気によって極限まで追い求めることが可能です。 人間で言えば『屈折率』は才能、『平滑性』は努力に相当すると言えるでしょう。どちらか片方だけではダメで、天才が努力してこそ人々が憧れるような素晴らしい存在へと昇華することができます。 |
コロンビア産エメラルドの原石 | ただエメラルドには他の宝石とは異なる、エメラルドならではの事情があります。 エメラルドの屈折率はコランダム(1.76-1.78)やトパーズ(1.61-1.62)などには及ばないものの、ロッククリスタル(1.53-1.55)よりは高く1.56-1.60あります。 同じ表面仕上ならば、理論上はロッククリスタルより反射率は高いのですが、実際はそうはなりません。 |
オイル含浸処理前と後 【引用】GIA / 宝石の処理について © 2002 - 2021年 Gemological Insitute of America Inc. GIA |
インクリュージョンが避けられないエメラルドの場合、基本的にはどんなに気をつけて磨いた表面にも必ずクラックが存在します。だから傷が気になるものはオイルで湿らせて表面を滑らかにし、美しく見えるようにしていました。ただ、あくまでも白っちゃけて見えることを防ぎ、エメラルドの色を良く見せる効果だけです。 |
最高品質の石 | 低品質の石 |
『エメラルドの深淵』 珠玉のコロンビア産エメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】含浸処理したエメラルド・リング(ヴィンテージ〜中古) |
エメラルドそのものの表面凹凸は粗いままですから、たとえ真空ポンプを使ってガッツリと含浸処理したエメラルドであっても、表面反射の性能が無欠のエメラルドほど上がることはありません。 自分たちが売りたいものを良く言うのは至極当然の話で、現代の宝飾業界はオイル処理は認められた処理であり、インクリュージョンは多くて当たり前だから気にすべきでないと言います。その主張に頼って判断するのか、自身の価値観で判断するのかはその人次第です。他人の価値観、特に商売ベースの価値観に頼って判断するのは違和感があります。ご自身の感覚で見ていただいて、アンティークの最高級ジュエリーに使われているような、最高品質の宝石の魅力に気づいていただけると嬉しいなと思っています。 |
2-2-3-4. 特別なエメラルドを完璧に磨き上げた作品
このエメラルドは、アンティークのハイジュエリーでも類を見ないほど上質な石です。内部にインクリュージョンは見えず、当然ながら表面にもクラックは視認できません。 |
それ故に、完璧に磨き上げられた表面のファセットも底面のファセットも、強く光を反射します。 |
時にはエメラルドとは思えないくらい、白く強い輝きすらも放ちます。ダイヤモンドにも負けないくらいの強い輝きは、この完璧なエメラルドならではの美しさと言えるのです。 |
3. 煌めきの美しい名脇役のダイヤモンド
通常のエメラルドだと輝きが強くないため、小さいエメラルドに上質すぎるダイヤモンドをセットすると、主役が霞みかねません。しかしながら、このエメラルドはそんな心配は無用です。 |
脇石はオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドで、極めてクリーンで厚みがあります。カットも良いため、オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドならではのダイナミックなシンチレーションが非常に印象的です。 |
時折、虹色のファイアも浮かび上がります。 現代のブリリアンカットは、下部の細かいファセットからのチラチラとした弱い輝きか、広いテーブルからの白っちゃけた輝きしか放つことができず、工業製品のように生気のない輝きしかありません。 古いダイヤモンドならではの生き生きとした輝きには、惹き込まれる魅力があります!♪ |
よく見るとこのダイヤモンドのカットはラフで、カットが近代化される以前の、手作業による古いカットであることが分かります。 |
ダイヤモンドのカットが近代化されて以降は、あらゆるダイヤモンドを有効活用できるようになりました。 しかしながら、ダイヤモンドソウが発明される1900年より前の時代は劈開性を利用しないとカットが出来ず、今で言う『ソーヤブル原石』しか宝石として使うことができませんでした。 |
古い時代のダイヤモンドのカット工場(回転盤に石を押し付ける人と、回転盤を回す人の2人がかりで作業する) | 1891年に電動の研磨機、続いて1900年にダイヤモンド・ソウが発明されると、ダイヤモンドはそれより遥かに安く・早く・楽にカットできるようになりました。 整った形状のダイヤモンドを量産できるようになり、21世紀に入るとダイヤモンド・ジュエリーが一気に市場を席巻しました。 |
『幸せのメロディ』 ダイヤモンド ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
ただ、そういう整ったカットのダイヤモンドだけが最高かと言われると、案外そうでもないのがジュエリーの面白いところです。 『幸せのメロディ』に贅沢に散りばめられたダイヤモンドは、カットが近代化される以前のラフさが感じられるカットです。 全体として心地よい美しさを感じられるよう、1粒1粒の個性を見極めて職人がセットしています。 これらのダイヤモンドを、現代のブリリアンカットに置き換えたものを想像してみて下さい。 現代のブリリアンカット・ダイヤモンド大きさが違うだけの相似形で、対称性も高く、美しさよりも工業製品としてのスペックが追い求められた工業製品同然の存在です。同じデザインだったとしても、無個性のダイヤモンドを使うともの凄く味気ない感じになりませんか? |
南アフリカのダイヤモンドラッシュによって素材としてのダイヤモンドの価値自体が低下し、カットの近代化によってカットのコストも下がると、ルースもかなり安く手に入るようになりました。 この宝物はそれ以前の、ダイヤモンドが非常に高価だった時代に作られたものです。その時代に於いて、これだけクリーンで素晴らしいオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドが使われていることからも、いかにこのリングが高級品として作られたのかが分かります。 |
また、それだけメインストーンとしてセットされたこのエメラルドが、特別な評価を得ていた証でもあるのです。 |
4. ゴールドを駆使した高いデザイン性
この宝物は、大きくない石を使った最高級リングとして作られているからこその、ゴールドを駆使したデザイン性の高さも大きな魅力です♪ |
4-1. エメラルドを彩る装飾
まず、エメラルドの上下の優美な曲線による装飾がオシャレです。 |
ステップカット系のエメラルドカットはスタイリッシュな印象があり、特にこの石は横長で寒色系なのでクールな雰囲気を持ちますが、温かみのあるゴールドの優美な曲線デザインと組み合わさることでエレガントさや格調高い雰囲気が出ています。 |
この曲線の上下に、さらに彫金を施した装飾があるのもポイントです。 |
小さな装飾ですが、あるのとないので高級感が全く変わってきます。なくても高級感はありますが、あるとその高級感が何倍増しにもなるのです! それにしても硬いゴールドで造形しているとは思えないほど、柔らかそうで優美な曲線です。鋳造ではなく、叩いて鍛えた鍛造の作りだからこそのデザインです。鍛えた金属は変形しにくいだけでなく、摩耗にも耐久性が増します。 代々受け継ぎ、数世代に渡って使われることを想定して作られたアンティークのハイジュエリーであれば、作られてから160年ほど経過した今でもコンディションを保っていることが可能です。優れた職人による高度な手仕事と、歴代の持ち主の適切な使い方のお陰です。 この宝物のようなデザイン性の高いリングを現代ジュエリーで手に入れることは絶対に不可能ですが、アンティークのハイクラスのジュエリーであれば、これだけオシャレなリングを手に入れることもできるのです♪ |
4-2. センスの良い粒金デザイン
この宝物はエメラルドからダイヤモンド、そこから奥へとつながっていく粒金のようなデザインもオシャレです。 |
4-2-1. センスの良い配置
脇石のダイヤモンドからリングの裏側に向けて、サイズがグラデーションになるよう配置されています。 |
サイドまで粒金のような装飾があるため、正面から見える部分は全てデザインがあります♪♪ |
【参考】エメラルド・リング(現代) | 石ころの価値に頼るだけで、デザインへの意識が殆どない現代ジュエリーだと、まずあり得ないことです。 |
指にはめて使うリングの場合、斜めから見られるシーンも多いです。 もちろんそういう時にもこの宝物は粒金の装飾が目に飛び込んできますし、磨き上げられた黄金が放つ輝きは高級感があります。 |
石コロ好きは尤もらしい石さえ付いていれば満足しますが、明らかに石にしか意識が行っておらず、ショルダーやシャンクがあまりにもないがしろにされたリングだと、申し訳ないですが私には貧相にしか見えません。 こういうジュエリーはリングそのものはもちろん、着用者自身が人として貧相に見えてしまいかねません。身に着けるものは着用者の内面や人となりを表すものです。こういうジュエリーは、美意識の貧相さを如実に感じてしまいます。何も着けない方がマシです。 |
アンティークのハイジュエリーでもショルダーやシャンクのデザインは様々です。こういうものに唯一無二の『正解』はありません。それぞれの好みや、表現したい方向性に依ります。 主役となるベゼルのあしらいとしてデザインされる場合もありますが、このリングの場合はトータルで完成するようデザインされています。 どの角度から見ても美意識の高さとセンスの良さ、高級感を感じます♪ |
4-2-2. 特別製の扁平な形状
注目すべきは粒金の形状です。球体ではなく、少し扁平な形状であることにお気づきいただけますでしょうか。 |
『アメジストの楽園』 ヘキサゴンカット・アメジスト ゴールド・ブレスレット イギリス 1880〜1890年頃 SOLD |
高級感や格調高い雰囲気をプラスできるゴールドの粒金は、様々なハイジュエリーで好んで使用されてきました。 そのどれもが球形でした。 |
扁平な粒金は、この宝物のために明らかに意図して特別に作られたものです。 |
これで思い出すのが天然真珠のハイクラスのリングです。 貝殻を球形に削った核を入れて作る養殖真珠と異なり、無核あるいは砂粒のような核をきっかけに成長してできる天然真珠はその形状も様々です。 ジュエリーに使用する際は、デザインや目的に合わせてどの形状の天然真珠を選ぶか検討されます。 リングの場合、正面から見ると真円でも、横から見ると少し扁平なボタンパールが選ばれたりします。 |
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『Toi et Moi』 エドワーディアン トワエモア リング フランスもしくはイギリス 1910年頃 SOLD |
【参考】現代の球形の養殖真珠のリング | |
なぜならばリングの場合、デザインに依っては、ポコっと球形の真珠が嵌め込まれているとヘンテコになるからです。また、飛び出ていると、ぶつけて破損するリスクも高まります。ペンダントやブローチと違い、リングは使用中にうっかりぶつけてしまいやすいアイテムです。 いくらでも安く量産できる養殖真珠ならば、壊してもいくらでも換えがききますが、天然真珠は同じものをまた得ようとしても不可能に近いです。それ故に、宝石の形状に至るまで、デザインにもできる限りの配慮がなされるのです。 |
作者や持ち主は、ショルダーからシャンクにかけての粒金がポコっと出ていてはダメだと考えたわけです。極端に印象が変わるわけではありませんが、この僅かな違いも許せないほど、徹底してこだわるほど美意識が高かった人たちなのです。素晴らしい!!♪ このリングのためだけに作られた特別形状の粒金だなんて、本当に溜息が出るほど贅沢な話です♪ |
特別製の粒金の表面は丹念に磨き上げられており、その黄金の輝きは見事です。小さな粒金から大きな粒金へのグラデーション、そこから最上質のオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドにかけての強烈な輝きが見る者を魅了します♪ |
実際は小さなリングのサイズなので、肉眼で見ると、輝いているものがダイヤモンドなのか粒金なのかよく分からなかったりします。それほど眩く光り輝きます。 | ||
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もしかするとダイヤモンドではなく、もう1段大きな粒金を配置することも検討したかもしれません。 粒金細工が面白いのは、小さいと格調高い雰囲気や高級感が出るのに、大きすぎると成金っぽさが出て安っぽく見えるようになることです。 粒金の良いとこ取りをし、ダイヤモンドと組み合わせることでさらにその魅力を相乗的に高めた、極めてセンスの良いリングなのです!♪ |
4-3. 高級感をプラスするシャンクデザイン
アンティークのハイジュエリーであっても、サイズ調整も考えてシャンクはシンプルなデザインで作られることも多々あります。しかしながら持ち主は完璧なエメラルド同様、デザインにも完璧さを求めたようで、裏側までデザインがあります。複雑な彫金などではないので、サイズ変更は可能です。 |
エメラルドの上下に配置された、ゴールドの優美な曲線とコラボレーションするデザインとなっています。シャンクは2本のゴールドの輪を上下に配した構造で、手前は上下に空間を作り、そこにサイズグラデーションの粒金を配列しています。 |
シャンクの後ろ側は2本の輪を鑞付けして、完璧にくっつけて閉じています。こんな独創的な作りのリングは、46年間でこれまでに見たことがありません!! |
『Sweet Emerald』 |
以前、シャンクの外観が類似したリングをご紹介したことがあります。おそらくコンテスト・ジュエリーとして作られた、とびきりの宝物です。 シャンク全体に溝が彫ってあります。彫金なので、リングの内側はフラットです。 |
しかしながら、この宝物の場合は2本のゴールドを鑞付けでくっつけた作りなので、内側も溝のようになっているのです。 |
繊細さが光る彫金とは違い、この作りはゴールドの高級感がより強く感じられます。小さな宝石を使ったハイクラスのリングはごく稀に存在しますが、それでもここまで徹底してデザインと作りにこだわって作られたものは記憶にないほどです。 うっかり見落としてしまいそうなくらいですが、気づくとそのこだわりぶりに恐れ入ってしまいます。 |
まさに時を超えて語りかけてくる小さな宝物です♪ |
裏側
これだけ拡大しても、スッキリとしていて綺麗です。当時の第一級の職人技が伝わってくる、とても良い作りです。 | ||
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着用イメージ
大きくないとは言ってもある程度のサイズがあり、ネオンカラーも感じるほど素晴らしい色彩を持つ極上のエメラルドなので、指につけると思いのほか存在感があります。エメラルド、ダイヤモンド共によく煌めくので、手元で眺めているだけでもとても楽しい宝物だと思います♪ |