No.00290 ハッピー・エンジェル |
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『ハッピー・エンジェル』 ストーンカメオ&フェザーパール ブローチ フランス? 1870〜1880年代 アゲート、天然真珠(ミシシッピ・パール&シードパール)、14〜18ctゴールド 3cm×3,8cm 重量 10,8g ¥1,200,000-(税込10%) |
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一般的に教養ある王侯貴族のためのハイジュエリーはキューピッドでデザインされる中、エンジェル・モチーフでトップクラスの作りが施された非常に珍しいブローチです。 2つのカメオを使ったブローチは珍しいですが、単に奇をてらっているのではなく、小さなカメオなのに彫刻も抜群で、透明感があって色の良い石の質も極上です。エンジェルのモチーフに合わせたフェザー・パールや、彫金による黄金の羽根という組み合わせもトータルで面白く、作り、デザイン、宝石の全てが優れた、特別オーダーによる素晴らしい宝物です。 |
この宝物のポイント
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1. 異例のデザインのストーンカメオ・ジュエリー 2. エンジェルの優れたストーンカメオ |
3. 特徴的なフレーム |
1. 異例のデザインのストーンカメオ・ジュエリー
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この宝物は、通常のストーンカメオを使ったジュエリーとは異なる特徴を持つ、非常に魅力的なブローチです。 |
1-1. 通常のストーンカメオ・ジュエリー
ブローチ&ペンダント | ブローチ | ペンダント | |||||
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ヘリテイジではこれまでにジョージアンの古いもの、ジュゼッペ・ジロメッティのような有名作家のもの、あっと驚く極小のものなど、様々な優れたストーンカメオをご紹介してきました。 |
![]() イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
作品全体で見た時、ストーンカメオを使ったジュエリーに共通して言えるのが「ストーンカメオが主役」ということです。 |
![]() フランス 1880年頃 SOLD |
だから基本的に、1つのジュエリーに使用するカメオは1作品のみです。 優れた絵画に合わせて、相応しい優れた額縁を誂えるのと同様、カメオに合わせてフレームがデザインされます。 だからどんなにお金をかけて作られた、華やかなデザインのフレームであっても、あくまでも名脇役に過ぎず主役はカメオです。 |
![]() ストーンカメオ ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
このカメオもフレームがゴージャスですが、葡萄酒の神様バッカスの巫女バッカンテにちなむ葡萄がモチーフのデザインになっており、やはり主役はストーンカメオと言えます。 |
1-2. トータルの芸術性を計算した作品
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このブローチはストーンカメオが2点使われていることがまず珍しいです。さらにストーンカメオ以外の部分の造形もデザイン的に非常に面白く、素晴らしいものです。こんなデザインのストーンカメオのジュエリーは見たことがないと言える、トータルでアーティスティックな魅力を感じるブローチです。 |
2. エンジェルの優れたストーンカメオ
2-1. 優れた彫刻
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天然真珠とゴールドの造形部分も素晴らしいですが、まずはストーンカメオについて見ていきましょう。 |
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モチーフは楽しそうにシンバルを鳴らす、プックリとした愛らしいエンジェルたちです。エンジェルは、実はヘリテイジでは滅多にお取り扱いしないモチーフです。 |
2-1-1. キューピッドとエンジェルの違い
![]() ジョージアン スケルトンのストーンカメオ フランス? 19世紀初期 SOLD |
![]() ジョージアン シェルカメオ ブローチ&ペンダント イギリス 1830年頃 SOLD |
少し判別が難しいのは弓や矢を持たない場合です。母親であるヴィーナス(アフロディーテ)、ゼウスが化けた姿の鷲、もしくはゼウスの使い鳥の鷲と共に表現されているなどの場合はキューピッドです。 |
![]() 多層ニコロのインタリオ 古代ギリシャ 紀元前3世紀 SOLD |
このあたりはギリシャ神話や古代美術などの教養がないと判別できません。 美術品を理解するために、美的感覚が優れていることは絶対条件ですが、教養もないと真に理解することは不可能なのです。 ヨーロッパでは美術・芸術の地位が高く、王侯貴族たちはその教養を非常に重要視していました。 |
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だからこそこぞって蒐集したり、知識を蓄えたり、グランドツアーなどで実物を見に行ったり、パトロンになって芸術家や研究者たちの活動を全面バックアップしたりしていたのです。 |
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ギリシャ神話に少し詳しい方ならば太陽神アポロンとダフネのお話でも、キューピッドの矢が重要な役割を果たしたことはご存知だと思います。キューピッドの愛を司る矢に関してだけならば、現代日本でも殆どの人が知っているくらい有名ですから、おそらく当時も王侯貴族のみならず庶民もある程度は知っていたと想像します。 |
![]() リバースインタリオ ペンダント イギリス 1920年代 SOLD |
教養があり、なおかつセンスの良い王侯貴族たちはキューピッドそのものを単純にジュエリーのモチーフにすることは滅多にありません。 好むのは、教養がないと理解できないモチーフや構図のものです。 |
![]() ジョージアン ゴールド ブローチ イギリス 1834年頃 SOLD |
![]() ウイング ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
もしくはキューピッドを象徴する弓や矢、翼をモチーフにしてキューピッドを暗示するデザインが、王侯貴族の好みです。 このようなキューピッド・ジュエリーは、王侯貴族のためのアンティークのハイジュエリーでもある程度作られています。 |
![]() シルバー ガーネット ブローチ フランス 19世紀中期 SOLD |
一方で神の使いであるエンジェルがモチーフの、上流階級のためのハイジュエリーは滅多にありません。 |
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カワイイは正義です(笑) 問答無用で正義です(笑) 可愛らしいものは見ているだけで思わず笑顔になりますし、癒されますよね♪ |
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特に女性は母性本能もあるせいか、赤ちゃんや小さな子供は無条件に可愛らしいと感じますし、大好きです。 |
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それもあり、特にヴィクトリアン中期から後期にかけて、エンジェル・モチーフの装飾やジュエリーなどがヨーロッパでは数多く作られました。世界初の実用写真撮影法を発明したフランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールのアトリエの写真にも、エンジェルの置物が見えますね。 |
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この大流行というのが曲者です。 ヴィクトリアン中期頃から、産業革命によって台頭して来た中産階級のジュエリー需要が増大し、庶民のための安物ジュエリーが量産されるようになりました。 教養がない庶民の女性たちがどのようなモチーフを特に好むかと言えば、ただ"カワイイというだけ"で選ばれるエンジェルのモチーフです。 『守護天使』という意味でも、女子の大好きモチーフと言えますね。 |
【参考】安物のエンジェルのシェルカメオ(19世紀後期) |
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ルネサンスもヘリテイジも高級アンティークジュエリー専門店で、アンティークジュエリーであっても安物は扱いません。 庶民用に量産された安物が大半であるが故に、市場にエンジェルのアンティークジュエリーはたくさん存在はしているのですが、ヘリテイジ基準には殆どが合わないため、エンジェル・ジュエリーのご紹介は極端に少ないのです。 |
【参考】安物のエンジェルのペンダント(19世紀後期) |
2-1-2. ストーンカメオによる作品
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この宝物に使われているのはシェルカメオではなく、ストーンカメオであることもポイントです。 |
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![]() シェルカメオ ブローチ&ペンダント イタリア 19世紀後期(フレームはイギリス?) ¥1,330,000-(税込10%) |
【参考】安物のシェルカメオ(19世紀後期) | |
以前カメオについては詳細をご説明しましたが、シェルカメオの場合は極端な安物と高級品とに二分されます。特別な厚みや大きさがあったり、面白い色や模様を持った貴重な貝殻を使い、第一級の職人によって彫刻された『黄金馬車を駈る太陽神アポロン』のような芸術性の高いシェルカメオは制作数が少なく、市場でもあまり見ることはありません。 |
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一方で庶民用のカメオはいくらでも手に入る品質の良くない貝殻で量産されています。 貝の質が良くなく、彫りも雑な安物のシェルカメオは庶民用に大量に作られています。 |
【参考】安物のシェルカメオ(19世紀後期) |
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【参考】安物の類似モチーフのシェルカメオ(19世紀後期) | |
当然ながらエンジェルの安物シェルカメオも量産されています。安物はデザイン費も惜しまれるので、使い古しのオーソドックスな定番デザインで作られます。何を選べば良いか分からない、教養や美意識のない庶民は皆と同じものを好むというのも同じようなものが作られる理由の1つではあります。 安物はシェルカメオ用の貝殻の中でも安いものを使うため、素材自体に全く魅力がありません。彫りも稚拙で、現代でも作れるような低いレベルです。 |
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現代のシェルカメオは高度経済成長期からバブル期にかけて、ジュエリーの購買意欲が高い専業主婦向けにオジサンたちが企画したものです。 だから「女性はこういうのが好きでしょう」と女性をバカにしたような、少女趣味の幼稚なデザインで作られます。 |
【参考】シェルカメオ(現代) |
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これは一応ヴィクトリアンのものとされていますが、少女趣味なデザインと稚拙な彫りの特徴から、ヴィンテージ以降か現代のリプロダクションかもしれません。 安物のアンティークジュエリーは、現代の中級品と同じレベルと言えます。 つまらない構図、のっぺりとした生気のない表現力、緻密さや滑らかさを感じさせない稚拙な彫り、磨き仕上げの手を抜いた艶のない表面。 こういうものは芸術とは呼べず、見ていても心は癒されません。 高そうにも見えないので、ジュエリーとしてもどうなんでしょうね。 |
【参考】安物 or リプロダクションのエンジェルのシェルカメオ(19世紀後期?) |
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ところでエンジェルを含め、人間や神など"顔"のあるモチーフは顔立ちや表情が大事なのですが、安物エンジェルは概して顔が可愛くありません。 |
【参考】安物のエンジェルのシェルカメオ(19世紀後期) |
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【参考】安物のエンジェルのアンティークジュエリー | ||
誰も下手に描こうなんて思うはずはないのですが、特に子供の顔や身体は可愛らしく表現するのが難しいのです。子供に見えなかったり、顔が怖かったり、指の表現が稚拙だったり、あり得ない体つきだったり・・。 |
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【参考】安物の類似のエンジェルのシェルカメオ(19世紀後期) | |
この安物エンジェル・シェルカメオは技術が低い職人による作品で、彫りが稚拙なので翼や布のドレープも美しくなく軽やかさや繊細さが全く感じられませんが、そもそもデザインが下手すぎます。指の表現が適当ですし、体つきもこんな人間はいないと思えるような違和感のあるものです。 |
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ストーンカメオの場合は材料自体が高価です。 また、ストーンはシェルに比べると硬くて彫りにくく、一定以上の技術を要するため、シェルカメオほど極端な安物は殆どありません。 |
![]() ストーンカメオ ペンダント&ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
しかしながらストーンカメオが全て優れているわけではなく、優れた作品であるか否かは個別にきちんとデザインや彫りを見ていく必要はあります。 但し、世の中に一般的に出回っている一般的なシェルカメオは安物の低級品です。 ストーンカメオである時点で、一定以上のお金をかけて作られたものと見て良いでしょう。 |
2-1-3. 優れた表現力
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ストーンは重たいので、シェルカメオのように極端に大きなサイズのストーンカメオのジュエリーはありません。 |
ストーンカメオのブローチやペンダント | |||
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それでも今回の宝物は石を2つ使っているため、それぞれの石はストーンカメオとしてはかなり小さいです。ストーンカメオは小さくなるほどに彫刻の難易度が上がり、狭いキャンバスではモチーフを表現するのも難しくなります。 |
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しかしながらこのカメオは小さいながらも、非常に表現力が優れています。 |
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19世紀後期の低レベルのエンジェル・ストーンカメオ | |
モチーフは定番で、シンバルを鳴らすエンジェルです。右も小さなストーンカメオですが、ストーンカメオとしては安物なので表現力が全く異なります。宝物のエンジェルは柔らかな髪、翼の羽の質感までしっかりと表現しています。まとったドレープの布も、透け感があって美しいです。打ち鳴らすシンバルを持つ指もしっかりと1本1本が表現されています。 右のダメな作品は、そもそも指はなかったことにされています。ちょっと手を抜きすぎではないでしょうか(笑) |
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【参考】低レベルのストーンカメオ(19世紀後期) | ||
職人ならば誰でも高度な技術を持ち、優れた作品を作れるわけではありません。Genが米沢箪笥の企画・製造・卸をやっていた頃も、神技の職人がいると同時に、死んだ魚のような腐った目の職人もいたそうです。 そういう職人は概してごまかしや手抜きをするそうで、そこにばかり全力を注ぐそうです。その話を思い出しました。こういう低レベルのアンティークジュエリーはやる気のなさや、時には悪意が感じられて気持ちが良くありません。だから私たちは扱わないのです。 |
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優れた作品は表現力が豊かです。今回のエンジェルたちからはシンバルを打ち鳴らす、楽しそうな様子が伝わってきます。同じ構図であっても、シンバルを鳴らす手の角度や重なり具合、スキップする両足やつま先の角度、エンジェルの動きに応じてしなやかに広がるドレープの角度や透け感、その全てが複雑に絡み合い、躍動感や楽しさを感じる作品になるか否かが分かれます。 |
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また、幼児独特の体型も見事に表現されています。 |
![]() ボヘミアン・イングレイヴィング・グラスの花瓶 チェコ 1930年代初期 ¥713,000-(税込10%) |
![]() アゲート インタリオ 古代ギリシャ(ヘレニズム) 紀元前 SOLD |
理想の肉体美を持つ大人であれば、筋肉をしっかりと表現できれば"美しい"と感じられる作品に仕上げることができます。 顔立ちもはっきりした端正な顔に描けば、美しいと思える理想の顔になるものです。 大人の男性や女性の"理想の顔"や"理想の体型"というものは、時代や人種を問わず案外共通性があるものです。 |
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しかしながら赤ちゃんや幼児に共通する"理想の顔"や"理想の体型"があるかというと、いまいち想像できません。 しかも顔立ちや体型がはっきりとした大人と違い、幼児は顔立ちも体つきもはっきりしていないものです。 |
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これらは海外で、「中世の醜い赤子の絵画」と題され、なぜ中世の絵画に描かれている赤ちゃんは気味が悪いのかと議論されていた作品です。うーん、複雑ですが否定はしにくいです。美しいか否かだけでなく、可愛い、可愛くないも人種を問わず共通する感覚があるのかなと思っちゃいます。 まず、赤ちゃんたちは頭部と身体の大きさの比率に違和感があります。生まれてくる時から頭が発達している人間は、赤ちゃんや幼児の時もある程度頭部に大きさがあります。だから体長に占める頭部の割合が大きいのですが、中世の絵画は大人に近い比率で、ただ全体を縮小しただけなので違和感があるのです。 |
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幼児の髪はまだ細いため、柔らかく密度も多くありません。 この絵は太い髪がフサフサと生えているので変です。 顔立ちもヨーロッパ人種といえども全てのパーツがはっきりしすぎており、ただの"小型化したオジサン"なので不気味なのです。 |
荘厳の聖母(ジョット・ディ・ボンドーネ作 1306-1310年) |
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ルネサンスになると、肉体表現の芸術が花開きます。 赤ちゃんも顔立ち、体型ともによく観察して描かれており、見て直感的に可愛らしいと思える作品になっています。 |
カーネーションの聖母(ラファエロ・サンティ作 1506-1507年) |
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赤ちゃんだけでなく、幼児も独特のプックリとした体型や手足、あどけない顔立ちがきちんと表現されていると、本当に可愛らしいです。 |
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ハイクラスのエンジェルのストーンカメオが滅多に存在しない中で、このエンジェルたちは非常によくエンジェルらしい特徴を捉えて表現されています。 |
2-1-4. 優れた彫刻
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このカメオは彫りも優れています。 石が非常に上質で、エンジェルを彫刻した層は"純白"で一切の他の色味を帯びていません。 透明感はなく、非常に白の密度が濃いマットな質感です。 |
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それ故に明るい場所では色味を帯びたカメオよりも光を散乱し、凹凸感が飛んでしまうため、肉眼ではカメオの彫りがはっきり見えません。エンジェルが纏った布のドレープや透け感などのように、彫り残す石の厚みによって表現する箇所は、下地層のサーモンピンクが透けた色の濃淡で彫刻技術の高さを感じることができます。しかしながら、顔や指などの完全に白い部分は白飛びして彫りが分かりにくいです。 |
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しかしながら片側からだけ照明を当て、これくらい斜めの角度から見ると、かなり巧みな彫刻技術でエンジェル全体が表現されていることが分かります。奥側のエンジェルを見るとおなかには綺麗な縦筋があり、跳ね上げた右足の太ももにはしっかりとした大腿筋が彫刻されています。 |
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手前のエンジェルの彫刻も非常に優れており、立体的です。 左足の付け根もはっきり分かりますし、両足ともにふくらはぎやカカト、土踏まずや1本1本の指まで驚くほど巧みに表現されています。 翼は付け根にしっかりと厚みがあり、かなり立体的です。 |
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最初に見た時は、まさかここまで巧みな彫刻を施されたハイクラスのストーンカメオとは思いもしませんでした。「顔や指くらいはきちんと彫ってあるのかなあ?」と疑問があったくらいなのですが、小さなカメオで、しかもエンジェルという一般的には稚拙な彫りの安物が大半を占めるモチーフで、これほどまでにハイレベルの彫刻が施されていることにビックリです!!感動しました!!♪ |
![]() エセックス・クリスタル ブローチ イギリス 1860年頃 SOLD |
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『幻想のガニュメデス』 インタリオ ルース フランス 18世紀後期 SOLD |
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ロッククリスタルなどの透明な石に彫刻したり、複雑な模様のある石に彫刻したり・・。 アンティークのハイジュエリーの中でも、高そうな石が付いている"いかにもな高級品"よりは、芸術的に真に優れていると感じる宝物を私たちは特に高く評価し、優先してお取り扱いしてきました。その中では、一体どうやって彫刻していったんだろうと思える作品と時折めぐり会います。 |
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肉眼で見ながら彫りを確認することができない、このような宝物は、頭の中で立体視して理解し、それをさらに自身の手技でアウトプットできる、神技の職人だけが創ることのできる宝物なのです。 |
2-2. アーティスティックな石の使い方
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このカメオに使われているストーンは、ストーンカメオ用の中でも最高級の特別な石が使われています。 |
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この画像では、左右のストーンの石が違って見えます。暗い場所で右からだけ光を当てて撮影しています。画像だと伝わりにくいのですが、実はこのストーンの下地層は半透明になっています。 |
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裏側はオレンジ色で、そこから徐々にグラデーションでややピンクみを帯びたサーモンピンク色になっています。その上は厚い半透明の層がになっています。 |
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だから光の当たり具合によって、エンジェルの背景となるストーン下地が違った色合いに見えるのです。 |
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この背景の石の透明感によって、エンジェルが実際に天界に浮き、舞っているように見えます。 |
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2体のエンジェルが天界で楽しそうにシンバルを打ち鳴らす姿を表現するために、これ以上ピッタリな石はありません。宙に浮いたようなエンジェルの姿は実にアーティスティックで、単に可愛らしいだけでなく神々しさや幸福感すらも感じさせてくれます。 |
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石は全ての層の色に、一切のくすみが感じられません。クリアで明るい色彩は、無垢で無邪気なエンジェルのイメージにピッタリです。作者のアーティスティックな才能と彫刻の技術、一切の妥協を感じさせない作行きからは当時トップクラスのカメオ作家であったことが伝わってきます。 |
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何らかの意図があって、高い教養と美意識と財力を持つ王侯貴族が第一級の職人にオーダーしたからこそ、彫刻も石も最上級のアーティスティックなエンジェル・ジュエリーが生み出されたのです。 |
3. 特徴的なフレーム
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肉眼ではカメオの彫りが分かりにくい作品ですが、この宝物が高級品で、カメオの彫りも良いであろうことは、フレームの作りを見れば瞬時に分かります。 迷いなく買い付けた理由です。 |
3-1. 主役級のデザイン
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今回のカメオは、フレームも主役級と言えるほど凝ったものです。今までにも素晴らしい細工が施されていたり、天然真珠などの非常に高価な宝石が使われているなど、かなりのお金がかけられたフレームはありましたが、デザインはあくまでも主役のカメオを惹き立てるためのものでした。 その点でフレームの作りや素材にこだわり、デザインも凝った今回の宝物はかなり特殊なカメオジュエリーと言えます。 |
3-2. 絶妙にアシメトリーな躍動感あるデザイン
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このフレームのデザインには、作者の傑出したセンスを感じます。一見すると左右完全に対称なデザインに見えるのですが、実はセンターに左右対称ではない部分があります。 |
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対称性と言えば、フランスではとにかく何でも左右対称に作る傾向があります。 建物のみならず、街を歩けば並木に至るまで徹底して対称です。 |
フランス | イギリス |
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その傾向は、芸術性の高いハイジュエリーに於いても明らかに存在します。しかしながらアールヌーヴォー頃から、フランスの作品の一部にもアシメトリーな表現が出てきます。 |
フランスのアールヌーヴォー | ||
アシメトリー | シンメトリー | |
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相変わらずシンメトリーの作品の方が多いのですが、イギリスのアーツ&クラフツや、日本が開国したことで日本美術の影響が出始めたこともあり、芸術性の高い作品では左右非対称の表現も取り入れられるようになってきました。 |
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この宝物はその作行からフランスで作られたと考えられるのですが、アールヌーヴォー頃から取り入れられ始めた、左右非対称の表現の走りの作品と推測します。 |
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アシメトリーのデザインはこの部分だけです。 でも、それがとても個性的で面白いのです♪ 大きなミシシッピ・パールが2つ使われており、意図的に類似した形状の真珠が選ばれ、上下で対称のデザインになっていますが、天然の真珠だからこそ完全には対称でないのが面白いです。 また、上のミシシッピ・パールを下から囲むようにデザインされたゴールドのフレームは、対称ではなく反時計回りに回転しているような捻りのあるデザインになっています。 |
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完璧に対称だと動きが感じられない重厚な雰囲気になっていたはずが、これらのちょっとした工夫によって対称性が崩された結果、一気に全体の雰囲気に躍動感が生まれたのです。 |
3-3. 極上のミシシッピ・パール
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このカメオ・ブローチのもう1つの見所と言える、アシメトリー部分の重要な要素として使われているミシシッピ・パールは、通常のミシシッピ・パールと比べてかなり照りの強い上質な真珠が使われています。 |
![]() "Reverie TN 08 former MS river S" ©Thomas R Machnitzki(3 July 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
アメリカのミシシッピ川では19世紀中期頃にパールラッシュが起こり、大小の様々な形状の淡水真珠が数多く採れています。 |
![]() トランスルーセント・エナメル ペンダント フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
![]() ドイツ 1900年頃 SOLD |
特に細長い独特の形状は海水産の天然真珠には殆ど見られないもので、フェザーパールと呼ばれて様々なジュエリーに使用されました。自然界が偶然に生み出した、独特の面白い形状を持つミシシッピ・パールは、デザインを重要視するアールヌーヴォーと相性が良かったとも言えます。 |
![]() アールヌーヴォー ブローチ フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
![]() アールヌーヴォー ブローチ アメリカ 1900年頃 SOLD |
![]() ダブルピン ブローチ イギリス 1900年頃 SOLD |
特に上質なミシシッピ・パールは様々なインスピレーションをもたらし、その幾つかはアーティスティックな才能を持つ職人によって、独特の形状を生かした独創的な芸術作品へと昇華しています。これらはジュエリーのためのミシシッピ・パール(脇役)ではなく、ミシシッピ・パール(主役)のために制作されたジュエリーと言えます。 |
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この独創的なミシシッピ・パールの使い方は、カメオとどちらが主役なんだろうと思ってしまうくらい面白くて存在感があります。 明らかに"ただの脇役"ではありません。 |
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ミシシッピ・パールは100匹の母貝から1粒が採れたそうです。 |
【参考】ミシシッピ・パール |
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ミシシッピ・パールを生み出す真珠貝は淡水の二枚貝で、真珠は貝の蝶番の部分で育まれます。このため、フェザー形状になる傾向があったようです。 ある程度サイズを持つ球状の真珠は1万匹の母貝から1粒くらいの割合で採れましたが。しかし、海水産の天然真珠の代替品にするよりは、形状を生かしたアーティスティックなジュエリーに向いていたようです。 |
【参考】カワシンジュガイ |
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そうは言っても、当然ながら全てがそのようなハイジュエリーに使用されていたわけではありません。 品質の良くないミシシッピ・パールは、やはり当時の安物ジュエリーに使われています。 デザイン的に全く魅力がありませんし、アンティークであってもこのレベルの細工であれば現代の職人でも作ることができるので、あえてアンティークを買う意味はありません(笑) |
【参考】安物のエドワーディアンのミシシッピ・パールのペンダント |
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アーティスティックなハイクラスのジュエリーからつまらない安物まで、一世を風靡したミシシッピ・パールですが、今では他の宝石同様、アンティークのような上質な真珠はほぼ入手不可能になっています。 |
【参考】安物のヴィンテージのミシシッピ・パールのピアス |
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【参考】貝ボタン | |
1884年にJF・ベップレというドイツ人が、ミシシッピ川の真珠貝でボタンを作って輸出するという新しい産業を始めました。 その地は1890年までには世界の貝ボタン産業の中心地として知られるようになり、2,500人の労働者がボタン関連の仕事に従事していました。 |
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【参考】貝ボタンを制作する職人 |
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【参考】車のガスタンクをヘルメットにしたミシシッピ川の真珠ダイバー(1938年) |
1910年代に入るとシャツのボタンの需要が増大し、ミシシッピ川の真珠はそれこそ絶滅させるような勢いで乱獲されました。1940年頃にプラスチック製のボタンが量産されるようになると母貝を乱獲することはなくなりますが、時すでに遅し、激減した母貝の数が1910年代以前の水準まで回復することはありませんでした。もはや以前のように上質な真珠が豊富に採れることはなくなったのです。 |
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しかもミシシッピ川は環境汚染がすさまじく、20世紀以降、主要な公害を殆ど経験してきたとも言われています。特に農業によって川に流出した栄養素や化学物質の汚染は顕著で、川の水が流れ込むメキシコ湾のデッドゾーンの原因になっています。デッドゾーンとは、富栄養化による低酸素化によって殆どの生命体が住めなくなった領域です。そこまでいかずとも、もはや母貝がアンティークの時代のように、穏やかな環境で真珠を育むことは不可能なのです。 |
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今でも細々と採れてはいるものの、良質な真珠を十分に得ることはできませんし、海水産の養殖真珠同様、化学薬品で脱色することもあるそうです。 |
【参考】天然のミシシッピ・パール |
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いずれにせよ、ジュエリーの細工技術がアンティークの時代とは全く異なるので、今良質な真珠が採れても意味がありません。 これは現代のハンドメイドのジュエリーで、チェーンも手作りされていますが、ジュエリーも本当に地に落ちたものですね。 昔の高度な技術を持つ職人の場合、顕微鏡で見ないと手作りなのか機械で作ったのか判断できないほどチェーンも精密に作ります。 現代作家は「一生懸命作った」だなんて、そのような昔の職人を前にしたら言えるのでしょうかね。 |
【参考】ミシシッピ・パールのネックレス(現代) |
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今では中国が淡水産の養殖真珠の殆どを作っていますが、アメリカや日本でも僅かに淡水真珠が養殖されています。 これもミシシッピ養殖真珠だそうですが、不自然に白すぎるのと、歪な上に小さすぎて真珠自体に魅力が感じられません。 ヴィンテージなので爪留めの技術も低く、目立つ上に美しくありません。 |
ヴィンテージの養殖ミシシッピ・パールのピアス |
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【参考】アンティークのミシシッピ・パールのパーツ |
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アンティークのミシシッピ・パールは現代より上質なので、このような状態で販売されているものもあります。 |
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【参考】ミシシッピ・パールのパーツ | |
上質な天然のミシシッピ・パールは貴重なので、このようなアンティークジュエリーから取って販売していると思うのですが、貴重なジュエリーは破壊しないで欲しいものです。 現代ではろくなジュエリーが作れず、宝石だけあっても無意味です。 パーツを使って、石だけが価値の単純なペンダントやピアスでも作るんですかね・・。 |
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【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスのミシシッピ・パール&トルコ石のネックレス(イギリス 1900年頃) |
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大きさがあり、白くて照りも良く、しかも面白い形のミシシッピ・パールはアンティークの時代も稀少でした。 この上質な2粒のミシシッピ・パールは、真珠産業が最盛期の、沢山の真珠の中から上質の真珠を選べる時代ならではの宝石です。 現代では天然のミシシッピ・パールというだけで『天然真珠』として高く評価され、小さなものでも高値で販売されています。 しかしながらアンティークの時代はこのクラスでないと、希少価値の高い美しいミシシッピ・パールではありません。 |
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そして、面白い形状の稀少で高価なミシシッピのフェザー・パールを2粒手に入れる幸運を得たからこそ、それを最大限に生かすためのアーティスティックなジュエリーがデザインされたのです。 |
![]() アールヌーヴォー ブローチ フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
![]() アールヌーヴォー ブローチ アメリカ 1900年頃 SOLD |
![]() ダブルピン ブローチ イギリス 1900年頃 SOLD |
このようなミシシッピ・パールが主役のアーティスティックなジュエリーは、母貝が偶然に作り出す素晴らしい真珠が手に入らないと制作することはできません。だからこのような宝物は数が作られておらず、とても貴重です。この3つはGenがソング・オブ・ロシアという名前のお店でお取り扱いしたもので、今のようにアンティークジュエリーが市場で枯渇しておらず、優れたアンティークジュエリーが豊富に手に入った時代だったからこそ手に入った宝物だったようです。もう15〜20年ほど前のことです。 |
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久しぶりに手に入った、ミシシッピ・パールを使ったアーティスティックな宝物はダブル・カメオ使いの変わり種で、真珠は主役のカメオに劣らない魅力があるのです♪ |
3-4. 極上のシードパール
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カメオの彫りと石の質、優れたデザイン、上質なミシシッピ・パールから、この宝物が非常にお金をかけて作られたハイジュエリーであることはご理解いただけたと思います。でも、それだけではありません。美意識の高い王侯貴族のためのアンティークのハイジュエリーは、全てにとことんこだわるので、シードパールもかなり上質なものが使われています。 |
3-4-1.シードパールの宝石としての位置づけ
![]() 天然真珠 バーブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
19世紀後期から20世紀初頭にかけて、天然真珠の評価が史上最も高い時代を迎えました。 その結果、ジュエリーの主役になれる大きさの天然真珠を得るために、より多くの真珠ダイバーたちが海に潜り、たくさんの母貝を採ってきました。 |
![]() スズラン ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
一様に大きな同じサイズの核を入れて作る養殖真珠と異なり、天然真珠は大きさも形も様々です。 大きな天然真珠ほど数は少なく、母貝をたくさん採れば一定数のシードパールも副次的に得ることができます。 これだけを聞くとシードパールはオマケのように感じますが、実際はそうではありません。 |
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天然真珠は王侯貴族の富と権力の象徴に相応しい、あらゆる宝石の中でナンバーワンの宝石です。 危険な海に潜って母貝を採るので、それだけでも困難を極めます。 しかしながら母貝を採ってきたからと言って、必ず上質な天然真珠が得られるわけではありません。 数十人のダイバーが一週間で35,000個の貝を採取し、天然真珠が出てきたのが21個で、そのうち商品価値があったものは僅か3個だったという記録があるほど稀少な宝石です。 |
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![]() ジョージアンの3連ネックレス(天然真珠:約2mm〜3mm、約811粒) イギリス 1830年頃 SOLD |
だからこそ小さな天然真珠でも色が美しく、優れた照り艶があれば、王侯貴族のハイジュエリーのために長年大切に使用されてきた歴史があるのです。 |
3-4-1.ジュエリーのTPO
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現代ではTPOをわきまえてジュエリーを楽しめる人が殆どいなくなってしまいました。 現代ジュエリーに魅力的なものは存在しないため、美的感覚が特に鋭い人はそもそも何もつけないほうがマシと判断します。 ヘリテイジのお客様でも、ジュエリーを買うのはアンティークジュエリーが初めてで、現代ジュエリーは買ったことがないという方も少なくありません。 |
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【参考】南洋養殖真珠14mm珠14Kリング |
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【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンド ペンダント | |
日本人女性の現代ジュエリーの好みは、両極端な傾向があります。1つは、着けているかどうか分からないようなものを好む層です。こういうものは「清楚」、「控えめ」、「上品」など、日本人女性の心をくすぐる宣伝文句でPRされていたりしますが、むしろお金は出したくない(出せない)けれど、どうしても"ダイヤモンド"などの"宝石"は身に着けたいというある種の成金的な心がチラリと見えてきます。 |
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【参考】現代のダッチローズカット・ダイヤモンド リング | |
高そうに見えない上に、そもそも何を着けているのかすら分かりません。見た目がオモチャな上に小さすぎるので、「ガラス?ルービックキューブ?」なんて思っちゃいます。こんなものは着けたりせずに、真に上品で清楚と周囲に思ってもらえる美しい立ち居振る舞いに気をつけた方が遥かに良いです。 |
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一方で、あからさまに「高そうでしょ!!」と主張してくるような、大きな石と派手なデザインを好む層が存在します。 それをカジュアルに使うのが素敵だったりするそうです(笑) 希少価値の高い本物の宝石を使ったジュエリーだったならば、絶対にカジュアルなシーンで使用するわけはありませんし、ぞんざいな扱い方もしません。 |
【参考】養殖の淡水真珠のブレスレット(現代) |
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元々ジュエリー文化が無かった日本は、伝統的にTPO自体も存在していません。 冠婚葬祭には真珠のジュエリーは必須という、現代に於いて存在するTPOはミキモトを始めたとした業界団体が皇室を利用したプロモーションの結果です。 グローバル・スタンダードではなく、あくまでもドメスティックなものであり、海外では通用しません。 真珠を着けなければならない根拠も、取って付けたような意味のないものです。 業界が儲けるためだけのものなのですから当然です。 |
【参考】養殖真珠セット |
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結婚式に出席するために正装したアレクサンドラ皇太子妃と3人の娘たち(1893年) | 日常のアレクサンドラ皇太子妃と3人の娘たち |
欧米では現代でも服装などのTPOが、ある程度残っています。アンティークの王侯貴族であれば、完璧にTPOに合わせてファッションを変え、ジュエリーもそれに相応しいものを身に着けていました。 |
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![]() 【引用】Britanica / Alexandra ©2021 Encyclopædia Britannica, Inc. |
豪華な宝石のジュエリーを持っていても、日常のジュエリーは王族といえども華美にならない、上品で知性を感じるものです。大人の女性であってもです。左のアレクサンドラ妃の娘、ヴィクトリア王女はシードパールのホースシュー・ブローチが首元に見えますね。 |
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『ターコイズ・ブルー』 |
シードパールはこのように、王侯貴族の日常用のハイジュエリーに相応しい宝石だったと言えるのです。 もちろん上質なものに限ります。 |
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ジュエリーのTPOは他にもあって、デイ用とナイト用の素材にも区別があります。 天然真珠やカメオはデイ用、ダイヤモンドなどの輝きが強いものはナイト用です。 |
![]() ウェッジウッド社 ジャスパーウェア パリュール イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
王侯貴族の社交は夜だけではありません。 「キラキラして素敵だから」、「お気に入りだから」と言って、日中にダイヤモンドのパリュールを着けて出かけたらヒンシュクを買ってしまいます。 まあ、当時の王侯貴族はハイクラスのジュエリーをいくつも持てたからこそできたことですけれどね。 |
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【参考】中産階級用の成金的で派手な中級品 | ||
日本と違ってヨーロッパでは古い時代、一握りの上流階級と庶民たちの間では絶対的な財力や知識、権力の差がありました。江戸時代の日本は侍より商人の方がお金持ちだったり、借金がかさんで商売を始める武士がいたりしましたし、庶民が寺子屋で自主的に知識を得たりしていたので、日本人にはこのあたりの格差が想像しにくいです。 庶民は頑張っても、せいぜい1アイテムにつき1つずつくらいのジュエリーしか買えません。だから余計に、どうしても1点で高そうに見える、着け映えするジュエリーを選んでしまうのです。 |
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【参考】コンディションの悪い中産階級用の中級品 | |
しかも1点しか持たないのでヘビーローテーションします。元々作りもハイジュエリーほど良くないため、職人の手作りであっても100年以上の使用には耐えられず、石が落ちて接着剤などで酷い修理が施されていたり、磨耗が激しかったりするわけです。これでも庶民用のジュエリーとしては、ある程度は高級品だったはずです。それほどまでにヨーロッパでは庶民と上流階級の間に開きがありました。 |
3-4-3.ランクが存在するシードパールの質
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この宝物はデイ用に作られた、間違いなく王侯貴族のためのハイクラスのブローチですが、ハイクラスのジュエリーの中でも特に高級なものとして作られていることが、シードパールの質からも分かります。 |
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『生命の躍動』 ルビー&シードパール ブローチ イギリス 1900年頃 SOLD |
以前はシードパールの質については、ハイジュエリーであれば全部上質でどれも同じようなものだろうと思い、あまり気にしていませんでした。 しかしながら『生命の躍動』のシードパールは他のシードパールとあまりにも光沢が違いすぎて、さすがに私も見てすぐに気づきました。 |
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光沢は画像では分かりにくくなってしまうため、実物をご覧になった方以外は分からないかもしれません。 でも、これは今まで見た中でダントツ美しい照り艶がありました。 |
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意識が変わると、いろいろと違いに敏感にきづくようになるもので、この宝物のシードパールもヘリテイジ基準に合う他のハイジュエリーと比べても、明らかに素晴らしい照り艶があることに気づきました。 |
ジャンク・アンティークジュエリー | |
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【参考】ジョージアンのシトリン・リング? | 【参考】ヴィクトリアンのピンクサファイア・リング? |
ヘリテイジでご紹介しているのは全て王侯貴族のためのハイクラスの宝物なので、汚いシードパール・ジュエリーをご覧いただくことは通常はありません。でも、この通り安物ジュエリーには安物シードパールが使われます。天然の真珠は、得られた全てが美しいなんてことはあり得ないのです。 それにしても上のシードパールは汚すぎるので、どちらも壊れて修復されている可能性が高いです。左は接着剤を使ったことによる変色、右は爪やフレームのサイズと石のサイズが合っていないので石の取り替えです。ピンクサファイアというだけで珍しい印象があり、石コロだけで買う人に高値で売ろうと言う魂胆かもしれません。石が取り替えられているので、そもそも天然かどうか怪しいものです(笑) |
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『生命の躍動』も、最上質のシードパールに相応しい優れた作りのフレームに美しい爪留が施されていましたが、さすがこの宝物のフレームもかなり素晴らしい作りです。 |
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シードパールをセットするゴールドのフレームは深く彫り込まれており、そこに立体的なシードーパールをセットしているので非常に奥行きが感じられます。サイズ・グラデーションになった天然真珠のさらに奥には高度な技術でグレインワークが施してありますし、シードパールを留めた爪もグレインワークも、それぞれが頭をしっかりと磨き上げられているので黄金の美しい輝きがさらに高級感を醸し出しています。 |
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このクラスの宝物は仕事ぶりが徹底しています。フレームの溝も磨き上げられてピッカピカなので、フレームのカーブに沿って放たれる黄金光沢がこれまた高級感たっぷりです。天国のエンジェルちゃんたちと相まって、格調の高さと明るいエネルギーで満ち満ちています♪これぞ、見ているだけでハッピーな気分になれる宝物♪♪ |
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シードパールをセットしたフレームはこの角度から見るとお解りいただける通り、それぞれが緩やかに立体的にカーブしています。正面から見えなくても、立体的なデザインは肉眼で見たときに感じる雰囲気に確実に影響します。 |
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立体構造はデザインを設計するのも、実際にジュエリーとして作り上げるのも高度な技術を必要とするため、優れた立体デザインはハイジュエリーの特徴でもあり、証とも言えます。ゴールドをたっぷりと使った贅沢な素材使いからも、この宝物がかなり高級なものとして作られたことが伝わってきますね。 |
3-5. フェザーのような美しい彫金
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この宝物は見所が満載です。 奥行きのあるこの宝物の最奥にあるのが、上側のミシシッピ・パールの両脇にあるゴールドのパーツです。 |
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このゴールドのパーツは今まで見たことのない彫金が施されています。 均一なマットゴールドではなく、ただの斜線などの彫金でもありません。 よくよく見ると、なんとエンジェルの翼の柔らかそうな羽根を表現しているのです! |
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こんなに美しい黄金の羽根は衝撃的で、思わず心洗われるような神々しさがあります。 実際の大きさを想像すると、もはや神技の領域と言えます。 |
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『黄金の羽根ペン』 イギリス 1830年頃 長さ19cm(本体のみ) SOLD |
黄金の羽根と言えば、ジョージアン貴族の素晴らしい羽根ペンがありました。 彫金で表現された羽毛の1つ1つが驚くべきものでした。 |
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両面が彫金されており、ダイヤモンドがセットされたオモテより、彫金についてはウラの方が解りやすいです。中途半端な職人だと均一に斜線を彫金しそうですが、強弱などのゆらぎを付けて彫金してあるため人工的な違和感がなく、まるで本物の鳥の羽根のように感じます。アーティスティックな才能と高度な彫金技術を持つトップクラスの職人ならではの表現で、さすがジョージアン貴族の宝物と言えます。 |
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まさかヴィクトリアン後期、しかも彫金が主役ではない作品でこのクラスの素晴らしい彫金が施された美しい羽根を見ることがあるとは思いもしませんでした。 |
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カメオの両脇にさりげなくデザインされた小さな羽根にも、きちんと美しい彫金が丁寧に施されています。 |
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エンジェルが楽しそうにシンバルを鳴らしながら天界で舞う姿に、ハラリと舞い降りてくる羽根。エンジェルのストーンカメオと新発見の宝石フェザー・パール、そして彫金による黄金の羽根という、計算しつくされた見事なコラボレーション!!♪ 極上のエンジェル・ジュエリーであり、こんなにヘブンリーでハッピーな可愛らしい宝物は他には絶対にないでしょう♪ |
裏側
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裏側も隙がない、美しく完璧な作りです。 ブローチピンにはストッパーが付いています。 さらに衣服から抜けにくくするために、ブローチのピンは意図的に変形させてあります。まっすぐにされたい場合は、修正も可能です。 |
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着けて楽しい、見ていても楽しい。心を豊かにしてくれる小さな宝物♪ デザインの魅力と共に、アンティークならではの宝石の魅力と細工の魅力が詰まった贅沢な宝物です♪♪ |