No.00277 Rainbow World |
小さな石の中に七色の光が封じ込められた、魔法の石・・。 |
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『Rainbow World』 ダイヤモンドを使うものが大半のネグリジェネックレスに於いて、当時最先端の宝石だったオーストラリア産オパールとウラル産デマントイドガーネットを使った、過去最高に美しいネグリジェネックレスです。 夢のように美しい虹色の遊色を示す最高級のオパールと、鮮やかなネオングリーンの煌めき美しいデマントイドガーネットは、揺れるごとにそれぞれが魅力的な変化を魅せてくれます。揺れることが最大の特徴であるネグリジェネックレスにとって、まさに最高の組み合わせです。 ヴィクトリア女王とアルバート・エドワード皇太子の王室御用達と箔押しされた魅力あるオリジナエルケース付きで、宝石のクラスや最上級の作りからも、王族が使っていたクラスのジュエリーと言って良い、唯一無二の素晴らしい宝物です。 控えめで清楚な雰囲気を好む日本人にも日常のコーディネートに合わせやすい、最高に贅沢なネックレスです。 |
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この宝物のポイント
1. ネグリジェネックレスをしまう素晴らしいオリジナルケース 2. 最高級のオパール 3. センスの良いデザイン 4. オパール好きのヴィクトリア女王が積極的にプロモーションしていた時代だからこその特別な宝物 |
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1. 素晴らしいオリジナル革ケース
1-1. 流線型の美しい形状
ハイクラスのアンティークジュエリーには、それに合わせて素晴らしいケースがわざわざ手作りされます。アンティークジュエリーは作られてから最低でも100年くらいは経過しており、持ち主が変遷する中でケースは失われてしまっている場合が大半です。オリジナルケース付きのものは滅多にないので、残っている場合はとてもラッキーなのですが、この宝物は素晴らしいケース付きでヘリテイジにやってきました。何と、形がハート型なんです!これはケースを開ける前も、開ける瞬間もめちゃくちゃ楽しいですね♪ |
1-2. ネグリジェネックレスとは?
ハート型のオリジナルケースを開けると、夢のように美しいネグリジェネックレスが出てきます。 ネグリジェネックレスは1900年前後に流行した、左右で長さの異なる飾りが下がったネックレスです。 ネグリジェと聞くとワンピースの寝間着が思い浮かびますが、ここで言うネグリジェとは普段着や略装を意味します。 この時代の上流階級の女性が、普段着に合わせて着けるジュエリーとして作られたのがネグリジェネックレスです。 だからボリュームある派手なドレスに負けないような大きくてド派手なデザインではなく、現代でも普段使いしやすいエレガントなデザインなのです。 |
1-3. TPOを重視した上流階級のファッション
現代でも欧米の上流階級は1日に何度も、TPOに合わせて洋服やジュエリーを変えるというお話を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうか。 |
プレゼンするスティーブ・ジョブズ(1955-2011年)2005年、49歳 "Stevejobs Macworld2005" ©mylerdude(11 January 2005)/Adapted/CC BY 2.0 | 天才スティーブ・ジョブズがラフな出で立ちで魅力的に新作をプレゼンする、強烈なインパクトは世界を魅了しました。 サラリーマンは真夏でも長袖ジャケットが当たり前だった日本人には特に、ビジネスの重要なプレゼンでのこの姿は衝撃的でした。 ジョブズは比類なき能力の高さに加えて外見のカッコ良さもあり、シリコンバレーだけでなく日本でも真似る人が続出しました。ちょっと前の話ですね。今では定番化すらしています。 日本人にとってビジネスのプレゼンの場は、非常に重要な場所です。 欧米人にとっても重要な場であることは同じです。 頭の良い人物ほどファッションの重要性を理解しています。ある意味、話す内容以上に重要な最重要事項がファッションです。 見た目の印象で、相手は意識せずとも対応や抱く感情が変わります。話す内容が同じでも、見た目が違うだけで捉え方が変わってしまうのです。 |
だから彼らは戦略的に意図してこのような格好をしています。お堅い場所でラフなファッションをすることがカッコ良いという理由でやっているわけではありません。カッコ良く見えますし、カッコ良く見せようとしてやっているのは間違いありませんが、それはビジネスの観点からこの方が有利とみなしたからです。 |
第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプとフェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ(2019年) |
だからTPOに合わせてファッションはきちんと変えます。自己中心的な、時と場合にそぐわない格好は"自分を持っていてカッコ良い"どころか、教養がなく不躾で無礼な人物とみなされます。 でも、日本では彼らのプレゼンでの姿だけを切り取って、フォーマルな場所でもラフな格好で行くのがイケてると勘違いした人が結構いたようです。時を同じくして高級レストランなどで、男性のハーフパンツやサンダルなど過度にカジュアルな装いでの入店をご遠慮願う掲示が増えました。 欧米では特に上流階級や知識階級はTPOを徹底しているため、普段どんなにカジュアルな人でも正装すべき場ではきちんと正装します。これは決して男性に限ったことではありません。 女性もTPOによってはロングドレスが正式となる時があります。長年、着物で暮らしてきて、ドレスで正装する文化がなかった日本人は、今でもドレスならば何でも同じと認識されている方が少なくありません。 「若いから」、「脚が綺麗だから」という理由でガラ・ディナーに膝丈どころか、ミニ丈ドレスで参加した知人がいました。高級なジュエリーやドレスは持てないながら、もっと上の世代がボリュームゾーンと予想されるパーティで自慢のスタイルによる差別化を図ったようです。しかしながら、場慣れしてTPOを理解している他の女性たちは皆ロングのイブニングドレスを着用しており、かなり浮いていました。 どれだけ綺麗だったり高価だったとしても、ドレスコードに合わないものはダメなのです。直接指摘されずとも、教養のない方がいらっしゃるわと遠巻きにされてしまいます。。 社交界のような教養を持つ人たちの集まりでは、教養がないことはすぐにバレますし相手にされません。フランスなんかだと直接的にエスプリの効いた嫌味を言ってもらえるかもしれませんが、基本的には相手にされず無視という感じでしょう。厳しい現実ですが、ただ上流階級の集まりに参加しただけで仲間入りしようとしても無理なのです。 欧米人ならば現代の10代や20歳そこそこの女性でも、TPOに合わせて必要な際はロングドレスを着ます。どれだけ魅力的な脚を持っていてもです。王侯貴族が歴史と文化を作って着たヨーロッパでは、晩餐会や舞踏会、演奏会や演劇など細かな行事による服装の区別が厳格にあったことに依ります。王侯貴族の時代は女性は10代で社交界デビューし、10代の間が勝負と言っても過言ではありませんでした。社交界では教養がないと相手にされませんし、教養が身につかないうちは家の恥になるので親もデビューさせません。日本は童顔の可愛らしい系や、ちょっとおバカな女性の方が一般的にはモテる傾向にありますが、欧米の女性たちが10代でも大人っぽさを身に付けたがるのは、そのような王侯貴族の文化が現代でも根付き、影響しているからなのです。 |
ダイヤモンド・ジュビリーを祝うデヴォンシャー・ハウスでの大仮装舞踏会の参加者(1897年) | |
さて、そのヨーロッパの王侯貴族と言えば、華やかなドレスと煌びやかなジュエリーのイメージが強いと思います。上はヴィクトリア女王の即位60年となるダイヤモンド・ジュビリーを祝い、ピカデリーにあるデヴォンシャー公爵のタウンハウスで催された有名な大仮装舞踏会の参加者たちです。 バーティ&アレクサンドラ皇太子夫妻を始め、数百人の上流階級のゲストたちが歴史的な肖像画に生命が宿ったかのような衣装を身に纏った、とても煌びやかな舞踏会だったそうです。左は後にノルウェー王ホーコン7世となるデンマークのカール王子、そしてその妻でありイギリス国王エドワード7世の娘モード王女と、姉のヴィクトリア王女です。 右はクレオパトラに扮したアーサー・パゲット夫人です。現代の仮装だと普通は一夜限りのものにお金はかけられないので、安い素材による安っぽさはやむを得ませんが、財力も教養も持つ人々の本気のお遊びは本当にゴージャズですね〜。王侯貴族が時代が異なる王侯貴族に扮するだけなので、威厳負けすることなく皆さま似合っていらっしゃいます!♪ |
『黄金の羅針盤』 コンパス(方位磁石) ペンダント イギリス(バーミンガム) 1897年 SOLD |
こんな遊び心満載のゴージャスなパーティだなんて、華やかでお祝いムード満点!! 祝賀気分に乗じて『黄金の羅針盤』のような贅沢なペンダントが作られるのも分かる気がします。 1897年のイギリスは、そのような活気に満ち溢れていた時代だったのでしょうね。 |
ジョージ王子の結婚式に出席するために正装したアレクサンドラ王太子妃と3人の娘たち(1893年) | アレクサンドラ王太子妃と3人の娘たち |
このように、何らかの行事があって正装する場合はドレスもジュエリーも非常に華やかです。でも、この時代の王侯貴族が毎日ドレスを着て生活していたわけではありません。日常の生活では、正装に比べるとかなり地味です。服装はもちろん、それに合わせてジュエリーも変わります。教養や美的センスを持つだけでなく、大金持ちでもあるのでTPOが異なる場で同じジュエリーを使い回しなんてしません。現代の庶民(私)には羨ましい話です(笑) |
『Purity』 サファイア&ダイヤモンド 18ct リング イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】 安物のガーネット・リング ガーネット 9ct スネーク・リング イギリス 1880年頃 |
ヘリテイジでは、そのような王侯貴族たちのために作られたハイクラスのアンティークジュエリーだけしか扱っていません。現在、アンティークジュエリー市場で一般的に販売されているのはそのような王侯貴族のためのジュエリーではなく、19世紀中期以降に台頭してきた大衆向けの安物もしくはミドルクラスのジュエリーです。 |
庶民は王侯貴族のようにTPOに合わせて様々な種類のジュエリーを持つことはできません。1つしか持たないジュエリーをヘビーローテーションするしかない感じなので、当然ながらかなり痛みも激しいのです。それでも総じて現代ジュエリーよりは作りがマシなので、100年以上の使用でも石は落ちずに無事だったりするのですが・・。 |
『Geometric Art』 ゴールド ロケット・ペンダント イギリス 1840年頃 SOLD |
『Geometric Art』なんかは180年ほども経っているのに、まるで今作られたばかりかのように美しいコンディションを保っています。 アンティークジュエリーは古いから汚くて当然と思っている方も少なくなく、初めてアトリエに来た方は本当にアンティークなのか疑う方もいらっしゃるくらいです。 他店などで汚らしいものを見た方ほど驚かれるようですが、それはヘビーローテーションされた庶民向けの安物なのか、たまにしか使わず、知識のある召使いによって適切な保管管理がなされていた王侯貴族のためのハイジュエリーなのかの違いなのです。 偽物かどうかではなく、ハイジュエリーかどうかの違いであって、どちらも本物のアンティークジュエリーであることには変わりありません。 知識なく中古やヴィンテージを"アンティーク"と称して販売してある場合もありますが・・。 |
普段着のエドワード7世の娘ヴィクトリア王女とモード王女 | |
これは10代の頃とみられるエドワード7世の娘たち、ヴィクトリア王女とモード王女です。地味な服装ではありますが、普段着でも目立ちはしないもののジュエリーは身に着けています。 |
普段着のエドワード7世の妻アレクサンドラ妃 【引用】Britanica / Alexandra ©2021 Encyclopædia Britannica, Inc. | |
王女様たちは少女だから小ぶりなジュエリーというわけではなく、母アレクサンドラ妃も普段着にはシンプルなものを品良く身に着けています。これが19世紀後期の王侯貴族の普段の姿ということですね。ヨーロッパの王族も毎日ドレスを着て祝宴をやっているわけではないのです。 |
アレクサンドラ妃 | 『Bewitched』 ウィッチズハート ペンダント&ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
このコーディネートでは、ウィッチズハートのブローチを着けているようです。ハートは若い女の子のイメージもあるのですが、これくらい大人の女性でも着けていたのですね。愛情溢れるアレクサンドラ妃にイメージぴったりですし、大人っぽい女性が着けた方がベタな感じにならずオシャレに見えるようです。 |
【参考】ヴィクトリアン中期の中級品 | ところで、庶民用のジュエリーは成金的なデザインが殆どです。 その理由の1つが、王侯貴族のようにやたらめったら買うことができないからです。 1つしか買えないのだったら、派手で高そうに見えるものを選びたがるのは至極当然の流れです。 憧れの華やかな王侯貴族のように煌びやかなジュエリーを身に着けたい・・。 当時の庶民も現代と同様に、王侯貴族と言えば華やかな場での煌びやかなドレス姿を想像します。 |
『アルテミスの月光』 ブルー・ムーンストーン ネックレス&ティアラ イギリス 1910年頃 SOLD |
『伝説の真夜中の炎』 ジョージアン サイベリアン・アメジスト ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
正式な場では、王侯貴族は富と権力を示す必要があります。そのために最も有効なのが庶民でも分かりやすい、誰が見ても高そうに見える大きな宝石が付いたジュエリーを着用することです。古の王侯貴族は教養に加えて十分な財力も持ち合わせているので、石に価値に頼るだけの石物ジュエリーではなく、稀少価値の高い素晴らしい宝石に見合う優れた細工が施されています。 |
【参考】中産階級用の成金的で派手な中級品 | ||
それに憧れて、庶民は派手なデザインに走ってしまうのです。ただ、王侯貴族のように稀少で高価な、本当に価値ある宝石は手に入りません。そこで採用されるのが、稀少価値のない小さくて質の悪い石を寄せ集めて、一見大きな石に見せるという、至極みみっちい手法です。だからどうしても庶民向けのジュエリーは、変に成金っぽく見えてしまうのです。でも、財力の関係上1つしか持つことが叶わないのであれば、見栄えする大きなものを求めたいという女心を否定はできません。 |
『アクアマリン・クイーン』 D&J.WELLBY L.TD社(英国王室御用達) アクアマリン ネックレス&イヤリング イギリス 1920年頃 SOLD |
そんなことを全く考えなくて良い、羨ましい人々が古の王侯貴族の女性たちです。 このクラスのジュエリーをいくつも持てる人物が、日常ジュエリーに手を抜くわけがありません。 |
『湖の畔で』 ミニアチュール(細密画)ブローチ イギリス 1780年頃 SOLD |
富と権力を誇示する必要のない、同じく王侯貴族階級の親しい家族や友人たちとだけにしか会うことのない日常で身に付けるジュエリー。 それは真に自分が愛せる小さな宝物だったり・・。 |
『アール・クレール』 ハートカット・ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
あるいは同じ階級の人たちから一目おかれるような、分かりにくいけれど抜群のセンスの良さを感じられるものだったり・・・。 |
『Geometric Art』 ゴールド ロケット・ペンダント イギリス 1840年頃 SOLD |
最先端のテクノロジーが使われていたり・・・。 |
『乙姫の宝物』 ホワイト・コーラル&ターコイズ ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
ホットな話題の、流行の最先端の素材が使われていたり・・・。 |
『魔除けの瞳』 古代ローマの魔除けのアゲートリング 古代ローマ 2〜3世紀 SOLD |
知識ある人だったら驚きの、教養とロマンあふれるものだったり・・・。 |
『蝶と幼虫』 回転式カメオ リング(ペンダントとしても着用可) イギリス 1870年頃 SOLD |
さらには教養に加えて、貴族らしい遊び心まであふれる宝物だったり・・・。 |
【参考】ヘリテイジでは扱わないレベルの彫りのインタリオ |
紋章モチーフや、豪華な宝石のジュエリーならば、貴族の持ち物だったことは誰にでも分かります。 知識も見る目もないけれど、「とにかく王侯貴族のジュエリーを持ちたい!」という成金的な人物は、権威やブランドのお墨付き、もしくはあからさまに高そうな宝石や紋章などがないと安心してアンティークジュエリーを買えません。 そんなのは現代のブランドジュエリー全く変わらず、アンティークジュエリー好きな教養高い人物を名乗る資格なんて無きに等しいです。自分の物差しとなる美的感覚を持たない、他人の物差しでしか測れない、ある意味、才能のないかわいそうな人たちです。 |
『アンズリー家の伯爵紋章』 ジョージアン レッドジャスパー フォブシール イギリス 19世紀初期 ¥1,230,000-(税込10%) |
同じ貴族の紋章シールでも、先ほどのヘリテイジでは扱わないクラスとこの伯爵紋章では、彫りの美しさが全く異なります。 この宝物も「貴族の紋章が付いているから安心して買う。」というのではなく、フォブシールとしてのフォルム全体の芸術性の高さや美しさ、彫りの素晴らしさに惚れ込んでお求めいただかなくてはヘリテイジとしては意味がありません。 |
『薔薇』 ピエトラドュラ(フローレンス・モザイク) ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
成金的な人たちは、紋章がなかったり高価な宝石は使われていない、『薔薇』などのような宝物の価値は分かりません。 高い美的感覚を持つ王侯貴族たちが真に愛したジュエリーはこのような芸術作品なのですが、成金たちは見ても全く理解できず、なぜこれらが王侯貴族の持ち物だったと言えるのかと疑問を持つようです。 これが、アンティークジュエリーがご縁でつながっていく所以です。 王侯貴族のための優れたジュエリーは、現代の同じような感性を持つ人の元に旅立ち、大切にされます。 |
庶民がドレスを着た王侯貴族に憧れて着けていた成金ジュエリーは、同じく自己顕示欲の高いながらも美的センスの無い、現代の成金の元に旅立ち愛用されます。 |
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【参考】安物のアールヌーヴォー・ブローチ |
『幻のネックレス』 ダイヤモンド ネックレス フランス 1750年頃 SOLD |
日本で初めてアンティークジュエリーの仕事を始め、最も長い経験を誇るGenの仕入れルートは超特別なものです。 それを引き継いだヘリテイジでは、王侯貴族が富と権力を示すために使っていた特別ゴージャスなジュエリーや有名作家のジュエリーも、もちろん買い付けることができます。 |
アクアマリン・パリュールを着用した女王エリザベス2世(1926-2022年)2006年、80歳 "Elizabeth II Soouthern Cross" ©Agência Brasil - EBC, cropped by Limongi(23 February 2017)/Adapted/CC BY 3.0 BR |
でも、普段着けるシーンがないようなジュエリーをご紹介しても意味がありません。 このような上流階級の正装用のジュエリーを実用的に使うシーンがあるのは、現代でもヨーロッパの王侯貴族だけです。 ご要望があればお探しできますが、日本でこのクラスのジュエリーを着ける機会がある方は殆どいらっしゃらないでしょう。 |
『黄金の花畑を舞う蝶』 色とりどりの宝石と黄金のブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
あまりにも素晴らしいこれらの宝物は、身に着けなくても、手元で眺めているだけで幸せな気持ちにすらさせてくれます。 これほど贅沢なことはありません。 |
そしてこの美しいネグリジェネックレスも、王侯貴族が普段の装いに合わせるために莫大なお金と手間をかけて作られた、エレガントで品の良い小さな宝物です♪ |
1-4. チェーンをしまうための面白い構造
このオリジナルケースは、チェーンをしまう構造も特殊です。 ケース上方の蓋を開けると、チェーンをしまう空間が出てきます。 |
『幻のエドワーディアン』 2カラー天然真珠 ネグリジェネックレス イギリス 1909年 SOLD |
通常はこのオリジナルケースのように、チェーンを裏側に収納する構造です。 これはオールプラチナで作られ、しかも箔押しされた年号によってエドワーディアンであることが分かる、ネックレスもケースも歴史的に見ても貴重な宝物です。 |
その点で、わざわざ特殊な構造で作られたこのオリジナルケースからも、今回のネグリジェネックレスが只者では無いことがご想像いただけると思います。 |
1-5. 王室御用達を示す箔押し
このオリジナルケースには上蓋に"TO THE QUEEN & PRINCE OF WALES"と言う、王室御用達を示す箔押しがあります。 女王とプリンス・オブ・ウェールズ、つまりヴィクトリア女王とアルバート・エドワード皇太子(後のエドワード7世)に納めていた、REID&SONSというジュエリーの販売店です。 |
ニューカッスル・アポン・タインのREID&SONSの位置 ©google map | 1778年にイングランド北東部のニューカッスル・アポン・タインで、クリスチャン・カー・リード(1756-1834年)によって創立されました。 |
世界初の万国博覧会、1851年のロンドン万博、そして1862年のロンドン万博にも出展しています。 |
現在のREID&SONS "Reid & Sons Newcastle" ©Jack1956(20 December 2019)/Adapted/CC BY-SA 4.0 | 現代でも高級宝飾店として様々なブランドのジュエリーに加え、各メーカーの時計なども扱っています。 ただ、扱うのは現代物なので残念ながら酷いものです。 |
でも、この宝物は王侯貴族たちがまだ力を持ち、限られた上流階級たちのために素晴らしいアンティークジュエリーが作られていた時代。 そんな時代に、ヴィクトリア女王やセンス抜群の皇太子バーティ(エドワード7世の愛称)御用達に指定されるほど、優れたジュエリーを厳選して扱う高級店がプライドを持って取り扱った宝物の1つが、この素晴らしいオパールのネグリジェ・ネックレスなのです。 |
2. 最高級のオパール
2-1. 類を見ない濃厚な遊色
最近は私の影響で、アンティークジュエリーだからこそ見ることのできる、ダイヤモンドの真の魅力にもはまっているGenですが、元々一番好きな宝石がオパールです。 万華鏡のように変化するオパール独特の遊色はまるで神秘なる宇宙のようで、石よりも細工物の方が圧倒的に好きなGenでも魅了されてしまうそうです。 |
だからこそオパールには並々ならぬ情熱を燃やしており、これまでにも質には一切妥協することなく様々な上質のオパールを扱ってきました。 しかしながら、「これほど遊色が見事なホワイトオパールは見たことがない!もしかしたらブラックオパール??」と興奮しながら騒いでいました。 |
オパールは光の加減によって、見事なダイナミックさで遊色が変化します。ホワイトオパールは赤が最も出にくく価値が高いとされています。石が豊富に採れていた時代だからこそ手に入ったと言える、王族クラスに相応しい最高級の石なので、赤い色も含めて全ての色が現れます。 |
【参考】現代のオパールジュエリー | 19世紀中期に発見され、1870年頃から宝石品質のプレシャスオパールが発見され始めたオーストリアのオパールですが、現代も枯渇はしていないものの、さすがに現代では昔のような上質な石は殆ど採れなくなっています。 |
【参考】現代のオパールジュエリー | |
昔なら使わなかったような、魅力の乏しい石でも普通に高級ジュエリーとして使われている様な状況です。 |
貼り合わせなどのない天然のオパールならば、少しでも遊色があれば"石自体に価値ある宝石"と謳う業者もいます。 |
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【参考】現代のオパールジュエリー |
【参考】 トリプレット・オパール リング(現代) | |
一方で天然の石を使っているから問題はなく、遊色がしっかり出てくるから価値があるし美しいと謳って販売される貼り合わせオパールも存在します。 アセンブルド・オパールと呼ばれ、裏打ちして2層にしたり、さらに表面に透明な層を貼り付ける3層のタイプがあります。裏打ちは遊色を強く見せる効果、表面にプラスチックやガラスを貼り合わせるのは石に厚みがあるように見せる効果があります。接着剤で貼り合わせるので、すぐに劣化が始まります。接着剤が剥離して隙間ができた箇所から、水などが浸入することで内側から曇り、最終的には完全に剥がれます。樹脂やガラスはモース硬度が低いため、ジュエリーとして使用すると、すぐに表面が摩耗して曇ったような外観になります。 これはきちんとトリプレット・オパールとして安価で販売されていた、良心的な現代のオパール・リングです。普通は貼り合わせが分からないよう、サイドのあからさまな部分はもっと隠れるようにセッティングするはずですが、これは分かりやすいですね。実際はリングサイズの小さな石なので、画像で見るほど目立ちません。 |
【参考】アセンブルド・オパールの裏打ちされた裏側(現代) |
アセンブルド・オパールかソリッドかは裏側を確認すれば分かります。アセンブルド・オパールが使われている場合、裏側からオパールを見ることはできません。これはアセンブルドを前提として販売している安物なので、オープンセッティングで裏打ちがむき出しになっています。極度に安物なので、オパール以外の石にも使う鋳造の金型を使いまわしているためと推測します。 |
【参考】クローズドセッティングのヴィンテージの18Kオパール・リング(1950年代) | ||
普通はこのようにクローズドセッティングにして、裏打ちが見えないようにします。オパール・ジュエリーを選ぶ上で、アセンブルドかソリッドなのかはとても重要ですが、現代ジュエリーは高い割合でアセンブルド・オパールです。ネットで販売されているオパールの現代ジュエリーは、裏側の画像が掲載されていないことが殆どです。アセンブルドについての言及はありません。残念ですが、現代ジュエリーは性善説で買い物すると酷い目に遭います。一般的な日本人にありがちな度を過ぎた性善説のせいで、日本人は"良いカモ"と見なされ、平気で価値のないジュエリーが高級品として出回っているのです。性善説は自力で勉強するという"学び"や"責任"の放棄にもつながるので、必ずしも良いものではありません。 |
『神秘なる宇宙』 オパール リング イギリス 1880年〜1900年頃 SOLD |
現代ではこのような状況にあるため、ソリッドのオパールのジュエリーというだけでも余程の屑石でなければ価値があります。だから現代でソリッドの場合は、そのことをきちんと記載してあります。ない場合はアセンブルと見なすべきです。 アンティークジュエリーでは当たり前のようにオープンセッティングです。石に十分な厚みがあり、遊色の密度が濃ければ裏打ちなどなくとも十分に美しいのです。 |
もちろんこのネグリジェネックレスのオパールもオープンセッティングで、十分な厚みがある石です。 |
オープンセッティングでも、最高級の石であればこれだけの遊色が出るのです。でも、ここまでの遊色はアンティークのハイジュエリーでも稀に見る素晴らしさです。 |
『ブラックオパールの海』 アール・デコ ブラック・オパール リング イギリス 1920〜1930年頃 SOLD |
石だけ見ると、本当にブラックオパールではないかと思ったのですが、ブラックオパールが初めて採掘されたのは1903年のオーストラリアで、19世紀にはまだ存在していません。 |
このネックレスに使用されているのは稀に見る最上級のホワイトオパールであり、最上級のオパールはまるでブラックオパールのような濃い遊色を呈することもできるということです。 |
2-2. 11石のオパール全てが美しい特別なネグリジェネックレス
このネグリジェネックレスは11石のオパールと、8石のでマントイドガーネットで構成されたとても珍しいタイプです。 上はクラスターになっています。 |
『永久の天然真珠』 ジョージアン 天然真珠 ペンダント&ブローチ イギリス 19世紀初期 SOLD |
中央の1石とそれを取り巻く複数の石で構成されるクラスター・デザインは、アンティークでも時代を超えた定番の1つです。 |
『ペルピニャン・フラワー』 ペルピニャンガーネット リング フランス 19世紀初期 SOLD |
天然真珠 クラスター・リング イギリス 1860年頃 SOLD |
全て同じ石のクラスターは数は多くありませんが、いくつかの種類が存在します。 宝石そのものの魅力を楽しみやすいのがこちらのタイプで、石の組み合わせによるデザインなどの雰囲気を楽しみたい場合は前者です。 これは好みと言えそうですね。 |
そんな中で、オパールのクラスターだけは別格です。 それぞれの石が唯一無二の遊色を示し、同じ石でも光の加減によってダイナミックに表情を変化させるオパールは、2つの石を組み合わせたクラスター以上にデザインや雰囲気の魅力を感じることができるのです。 |
『シャンパーニュ』 雫型オパール&シャンパンカラー・ダイヤモンド ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
宝石オパールは一石でも様々な表情を魅せてくれる、唯一無二の魅惑の宝石です。 だからアンティークのハイクラスのジュエリーでも、ただ1つだけ、極上の石を使うのが通常です。 |
『神秘なる宇宙』 オパール リング イギリス 1880〜1900年頃 SOLD |
『万華鏡』 オパール リング イギリス 1880年頃 SOLD |
リングの場合はデザイン的な制約が大きく、高級品の場合は1つの原石からできるだけ大きくカットした石が使用されるのが通常です。 |
これは小さなオパールを2つ使ったトワエモア・リングです。 作りが雑で、脇石のダイヤモンドも質が良くないミドルクラスのジュエリーです。 アンティークでもオパールの遊色が全く美しくありません。 低級の石はどれだけ数が多くても、1つだけ上質な石が使われたジュエリーには、美しさも価値も敵うことはありません。 |
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【参考】安物のオパールのトワエモア・リング |
『虹色のアート』 オパール バーブローチ イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
それにしてもオパールの遊色は個性に富みます。それぞれのジュエリーの石を見比べてみても、1つとして同じものはありません。 単純に綺麗というだけでなく、何となく感覚的に呼び合う、運命を感じるような石が見つけられるのも、オパールという石が熱烈に支持される理由の1つかもしれませんね。 |
このバー・ブローチもそうですが、オパールはできる限り厚みが出るカットが施されます。 |
その方が石のより深い部分から光が出てくるので、奥から湧き上がる様な遊色が感じられますし、より複雑な変化が生まれます。だから素晴らしい遊色を放つ貴重な原石が得られたら、なるべく大きくカットするのです。 |
先にご紹介した通り、オパールは同じ遊色を放つことはありません。 原石ごとにその個性は大きく異なります。 だからジュエリーに複数のオパールを使う場合、異なる原石から似た石を使って合わせこむことも可能ですが、厳密に同じにはなりません。 ここまで違うと、誰が見てもチグハグな印象を持たれるでしょうか。 でも、質屋など現代のジュエリー業界ならば、「天然の証ですよ。」と上手にPRするのかもしれません(笑) もしくは本当に美的感覚が無い人ならば、「こんなにたくさん石が使ってあるわ。」と石の量だけにフォーカスして大喜びしたりするかもしれません。 |
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【参考】ヴィンテージのオパール・ブローチ |
【参考】現代の合成オパール・リング | 【参考】合成オパール・ピアス |
現代では合成オパールすら開発されています。日本の京セラがクレサンベール・ブランドとして量産し、販売しています。二度と手に入らない宝石ではなく、いくらでも合成して得られる"稀少価値ゼロ"の材料なので、無駄の多いカットも自由自在です。 工業製品で均質に作るので、同じものを量産することが可能ですし、色だって着色剤の種類を変えるだけで自由自在です。 |
【参考】合成オパール・ピアス | 【参考】合成オパール・ピアス |
天然の宝石しか使うことができなかったアンティークジュエリーの時代は、ピアスでも左右同じ印象の石を揃えるのはとても大変なことでした。"不自然なまでに同じであること"に慣れ、当たり前になってしまった現代ではジュエリーに使われている石が全て同じ見た目であることが当然と勘違いしがちです。 |
オパール ネグリジェ・ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
オパールの場合、遊色や色調など全体の雰囲気を完璧に揃えたければ、1つの原石から切り出す必要があります。 当時の上流階級の中でもごく限られた人々は、わずかな違いでも感じ取る能力を持ち、わずかな違いでも許せない美意識を持っていました。 しかし大きなルースが得られる原石から、小さな複数のルースを取るのは非常に贅沢なことです。 |
オパール ネックレス イギリス 1920年頃 SOLD |
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だから余程こだわって作られた、王侯貴族のための最高級品にしか見ることはありません。 それを裏付けるかのように、左のオパール・ネックレスもクラスプが360度にオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドをセットした俵型です。 多少、美意識が高いくらいでは、クラスプにまでこれほどお金をかけて細工させることはあり得ません。 |
それにしても、2つにしてもこれだけ大きさがあるなんて凄いですね。 |
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オパール ネックレス イギリス 19世紀後期 SOLD |
より贅沢に、細かくカットして作られたのがこのネックレスです。細かいオパールをたくさん使わないと不可能な、愛らしいお花のデザインです。 クラスプまでオパールが使われた贅沢なジュエリーです。 |
←↑等倍 |
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ちなみに等倍で比較すると、このようになります。同じオパールという石を使っても、デザイン次第で全く雰囲気が変わりますし、石も遊色の出方が全く異なりますね。 |
このネグリジェネックレスのオパールは、様々な角度や強さのライトを当てても同じような遊色を示します。 それぞれの石がどれだけ美しくても、どれか1石が毛色の異なる遊色を放っていたら、全体の雰囲気が調和せず違和感となっていたことでしょう。 これはそうならぬよう、わざわざ1つの原石から全ての石を切り出した結果なのです。 |
これは、貴重ではない石や美しくない石でやっても意味がありません。 美しい上に大きさのある、超貴重な石を細かくカットしてしまうからこそ意味があるのです。 価値を理解できていたとしても、並みの財力の貴族では不可能です。 だからこそ、ハイクラス専門で扱うヘリテイジでもこのタイプのジュエリーは滅多にないのです。 |
単純に「大きな石が付いたジュエリーだけが高級ジュエリーである。」と思い込む無知で短絡思考の成金(庶民)には、この宝物を見ても真の価値は絶対に理解できないでしょう。 でも、これをオーダーするような人物と同類の人たちであれば、一目見るだけで、ビックリするような最高級ジュエリーであることが分かるのです。 大きな1つのルースを得ようとするのではなく、1つ1つの石がたとえ小さくなっても美しいオパールの芸術を誕生させたい・・。 成金には絶対に無理な発想で作られたこの宝物は、驚くほど高価な大きな石のジュエリーもたくさん持っている、特別な身分の人物だったからこそオーダーできたものです。 |
庶民も含め、万人に対して富と権力を誇示する必要のある公式な場ではなく、周りに同じクラスの人たちしかいない日常用の王侯貴族のジュエリーとして、まさにピッタリの宝物ではありませんか♪ |
正面から見ただけでは分かりにくいですが、横から見るとオパールには全ての石に十分厚みを持たせてあり、身分の高い人らしい気品ある贅沢さです。 |
2-3. 9石のクラスターが魅せる大宇宙のような世界
9石のオパール・クラスターが魅せる世界は本当に美しいです。隣接しているからこそ、同じ原石から取った"同じ石"で作ることが重要です。すべて同じクラスの石が並んでいるからこそ、1つ1つの石に魅惑の遊色を見ることができます。1つ大きなオパールがあっただけでは感じることのできない、無限に広がる神秘的な大宇宙の世界です。集合体ならではの美・・・。それが刻々と表情を変化させます。 |
似ているようで、どれもそれぞれ表情が異なります。クラスターだからこその、表情豊かなオパールの遊色の魅力を少しは感じていただけましたでしょうか。Genも大感激しながら、嬉々として撮影しておりました♪ |
すべての石が美しいこと。 石の質が均一に揃っていること。 密集したクラスターであること。 この3条件が揃っていないと、この万華鏡のような世界は表現不可能です。 この条件を満たすことは非常に困難であり、アンティークの特別にトップクラスのジュエリーだからこそ実現できたものです。 |
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【参考】ヴィンテージのオパール・ジュエリー |
2-4. 見事な石留めによるクラスター
このネグリジェネックレスのオパール・クラスターは、夢のように美しい万華鏡の世界にこれほどまで没頭できるのでしょうか。
目の前にいるGenが突如として、「謎が解けた〜!♪」と素っ頓狂な声をあげました(笑) 没頭できる理由が、最高のオパールの遊色効果を活かすために、フレームの構造も特別に設計されていることに気づいたからです♪ このネグリジェネックレスはオパールの夢のように美しい遊色に没頭できるよう、ゴールドのフレームを出来るだけ目立たないように作ってあります。 一体どうやって石を留めてあるのか不思議になるくらい、存在感のない特別なフレームと石留は19世紀後期のスーパーハイグレードのジュエリーならではのデザインであり、特別に工夫された細工が施されています。 |
『黄金に輝く十字架』 ゴールデントパーズ クロス ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
特別な石で作るトップクラスのジュエリーのために、明らかに意図して、最高の職人が頭を悩ませ、至高の技術で施されたものです。 同じタイプのジュエリーとして、1つの黄金に輝く美しいトパーズの原石をカットして作った『黄金に輝く十字架』がありました。 トパーズならではの照りが素晴らしいこの宝物も、石の美しさだけに没頭できるよう極限までフレームと爪の存在感が消されていました。 超絶技法だからこその、究極の石留は見事なものでした。 |
このクラスターのセッティングは、スポっと取れてしまわないのか不思議になってしまうほど爪が見えません。 この状態で130年ほどは経っています。 もちろん接着剤などではありません。 |
作りが悪かったり、問題のある使い方をしたりすると、アンティークジュエリーでも石が落ちることはあります。 その場合は腕の悪い職人、もしくは最悪の場合はケチったディーラー自らの手によって接着剤で修理されることがあります。 これはクローズド・セッティングだからこその留め方ですが、酷いものですね。そのうち必ず再び石が落ちます。 ただ、買う側は気づかずに買ってしまうと思います。 ネットでここまで解像度の高い拡大画像を掲載する店はルネサンスやヘリテイジ以外にありませんし、実物を見ながら買う場合でも実際は小さいものなので気づけないのです。 ロンドンの低レベルの職人は接着剤好きで有名です。 ヘリテイジでお求めいただいた宝物以外も委託販売を受けていた時は、時折このようなジャンクの持ち込みがありました。 |
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【参考】ジャンク品:ヴィクトリアン クラスターリング拡大 |
【参考】以前に委託販売をお断りしたジャンクの問題箇所 |
接着剤ジュエリーを持ってこられても100%お断りせざるを得ませんし、他店はあまりにもヘリテイジとは選ぶ基準が違いすぎ、扱っても良いと思えるクラスのものがなく、ヘリテイジを立ち上げて早々に委託販売を止めてしまいました。 そもそも買った店に引き取ってもらうか委託販売をお願いするべきですが、そういう問題のある品物でも平気で扱う店は委託販売はしません。責任を取ったりしたくないからです。アンティークジュエリーが『後世の遺すべき本当に価値あるもの』と考えているならば、身近には託せる人がいないお客様のために、何かしらそれを実現させるための取り組みをするべきです。そういう取り組みを一切せずに販売している店は無責任で、アンティークジュエリーは金儲けの手段としか思っておらず、そういうディーラーにとっては売ってお終いのただの消耗品なのです。 |
さて、そのような低レベル品と異なり、このオパールの石留には、王室御用達の店が扱うに相応しい見事な技術が使われています。オモテとウラを見比べて見ると、裏側はゴールドにかなりの厚みを持たせたナイフエッジのような構造になっていることが分かります。 |
ゴールドのフレームをナイフエッジのような形状で彫り出し、オパールをセットして縁を僅かに倒して留めているのです。中央の石は外周すべてからピッタリと押さえられていますし、周りのそれぞれの石も実は様々な角度からしっかりと押さえられているから130年ほど経っても落ちていないのです。こうやって理論的には理解できるものの、それを実現するなんて驚異的な神技です! |
石を留めるだけでなく、美しさにもしっかりと気遣いが見られます。それぞれのフレームの縁は大きなギザギザになっています。 |
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この爪の細工が正面から見たときに、まるでミルグレーションのように美しく輝いて、より一層と高級感が出るのです 完璧に磨いて仕上げてあるので、素晴らしい黄金の輝きを感じることができます。 |
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『社交界の花』 シトリン ブローチ&ペンダント イギリス 1870年頃 シトリン、天然マベパール、シードパール、15ctゴールド 4,7cm×2,6cm(本体のみ) 重量 12,5g SOLD |
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ゴールドの素晴らしいミルと言えば、『社交界の花』が非常に印象的でした。1つ1つのハーフパールに合わせて形作られたフレームに施されたミルは非常に細かく精密なもので、ご覧の通りこれだけ拡大してもまだ細かいです。だから実物を見ると、その黄金の輝きには繊細さが強く感じられます。 |
今回の宝物の細工はかなりハイクラスのジュエリーでも見ることがないものです。この宝物のために特別に考案して施された極上の細工は、いかにスーパーハイクラスのジュエリーとして特別に作られたものなのかを物語っています。サイドから見ても、下まで続くそれぞれの溝が、とても格調高い雰囲気を放っています。 |
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正面から見比べると、ミルグレインのサイズが違うだけで、これだけ印象が変わることが分かります。 ネグリジェネックレスのために考案されたミルのような細工は、明るくエネルギッシュな印象も感じられます。 通常の粒金では不可能なサイズの粒金細工にも見えて面白いです♪ |
裏側はこれだけゴールドに厚みがあるので、耐久性もバッチリです。 特に身分の高い王侯貴族のために作られた、スーパーハイクラスの宝石を使ったジュエリーは、石だけの価値ということはあり得ないのです。 一見立派そうに見えても、きちんとした細工が施されていなければ、その宝石は安物です。 とても簡単なことです。 |
自然界からの恵みである、美しい天然の石。 それを最高に生かす、穢れなき魂を持った神技の職人による心のこもった細工。 それこそが、アンティークのトップクラスのジュエリーの真の魅力であり、それがなければ面白味なんて存在し得ないのです。 |
2-5. フリンジ部分のオパールの独特のセッティング
このネグリジェネックレスは、クラスターに下がった2つのオパールのセッティングも特殊です。 左の画像では、下がったオパールが実は2石とも裏返しになっていますが、一見裏とは気づかないほど完璧な美しさです。 |
オモテ | ウラ |
オープンセッティングされた石が、裏側までも美しい遊色が放つ見事なオパールであることに加え、裏側のフレームの縁はアコーディオンのように規則正しく折りたたまれて石を包んでいます。 |
精緻に深く折りたたんだスッキリとした溝だからこそ生まれる格調高い黄金の輝きが、一見裏とは思えないほどの特別な美しさと高級感を醸し出しているのです。 |
こういう見えない部分に驚異的な技術と手間とお金をかけているのが、スーパーハイクラス・ジュエリーの証です! このゴールドのフレームにはしっかりとした厚みがあります。 |
クラスター同様に、石は外周のフレームの縁を僅かに倒して留めてます。 ゴールドに厚みがあるからこそしっかりと貴重な石を留めることができ、耐久性も確保されています。 このフレームにも大きめのミルのような細工が施されており、正面から見たときには極力気配を消してオパールの美しさを惹き立てながらも、磨かれたゴールドの頭が美しく輝きを放ってエッセンスとなっています。 |
この素晴らしいフリンジをより美しく魅せるために、全体の構造にも緻密な設計デザインが認められます。 |
クラスターの裏側に、クラスターのフレームよりも一回り小さいゴールドの輪が、少しだけ浮かせて蝋付けされています。これは少しぐらい斜めから見ても、この輪が見えないようにしつつ、主役の1つであるクラスターに高さを出して立体感を演出するためです。 |
クラスターのフレームと、裏のゴールドの輪の間にペンダントのチェーンとフリンジの金具が取り付けられています。フリンジがクラスターの奥から出てくる、立体的な構造です。 |
立体的な構造はハイクラスのジュエリーの証ですが、スーパーハイクラスのジュエリーは揺れる構造も素晴らしいです。 この細部にまでとことん気を遣った作りによってフリンジも美しく揺れ動き、極上のオパールならではの夢のような遊色がより惹き立っています。 |
3. センスの良いデザイン
3-1. デマントイド・ガーネットの効果的な使い方
このネグリジェネックレスは10石の小さいながらも上質なデマントイドガーネットが使われています。 デマントイドガーネットはロシアでウラル山脈の開発が始まって、19世紀中期に新種の鉱物として確認された宝石です。 |
ロシアの帝国鉱物学学会のロゴ "Rmslogo" ©Mikaxa(13:36, 22 November 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
1864年にサンクトペテルブルク鉱物学会(現:ロシア鉱物学会)で新種の鉱物として報告されたデマントイドガーネットは、1868年にはパリ、ニューヨーク、サンクトペテルブルグなどの高級宝石店のショーウインドウを飾り、世界中の宝石愛好家に衝撃を与えました。 |
ピーター・カール・ファベルジェ(1846-1920年) | ジョージ・パウルディング・ファーナム(1859-1927年)41歳頃 |
しかし、アーティスティックな才能を持つジュエラーたちにとっては、石の大きさなど必要ありません。むしろ石の価値で評価されて、芸術性の高さや細工技術の高さには注目してもらえなくなるので邪魔なくらいです。 |
『春の花々』(ファベルジェ作 1899年)ファベルジェ美術館 | 【引用】THE WALTERS ART MUSEUM / Iris Corsage Ornament ©The Walters Art Museum /Adapted. | 【引用】Alchetron / Paulding Farnham ©Alchetron/Adapted. |
ファーナムがデザインしたアイリス(ティファニー 1900年)パリ万博でグランプリ受賞 | ||
上質なデマントイドガーネットは小さくても特別な存在感を放ちます。その特徴を理解し、最大限に活かした作品を天才ジュエラーたちは制作しています。ファベルジェのエッグは皇帝に喜んでもらうため、ファーナムがデザインしたアイリスは、アメリカを下に見ていたヨーロッパの上流階級に自分たちの実力を分かってもらうために作られたものです。芸術や真の高級ジュエリーを理解する本物の上流階級は、単純な石ころジュエリーではなくアーティスティックな作品を最も愛することの現れです。 |
『Demantoid Flower』 デマントイド・ガーネット&ダイヤモンド バーブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
特別な魅力を放つデマントイドガーネットは、石だけでも十分に魅力があります。 デマントイドガーネット自体が貴重で非常に高価な宝石だったため、石を存分に活かした優れたジュエリーもアンティークの時代にはたくさん作られています。 |
しかしながら、小さくてもデザイン上、なくてはならない重要な要素となれるのがデマントイドガーネットならではの特徴です。 代わりがきかない、特別な存在感を放つことができるのがデマントイドガーネットです。 |
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ジュリアーノ・スタイル・エナメル&デマントイド・ガーネット ネックレス イギリス 1880年頃 SOLD |
『アール・クレール』 ハートカット・ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
主役にも、名脇役にもなれる素晴らしい宝石。 ファベルジェのエッグも、ファーナムのアイリスも、上のエナメルのネックレスも左の『アール・クレール』も、ぜひ想像なさってみてください。 同じ緑の石であるペリドットやエメラルドを使っても全く異なる雰囲気になってしまい、ここまでの魅力を放つことはできなかったはずです。 |
オパール、デマントイドガーネット、共に19世紀後期の最先端の魅力ある宝石でした。その2つの宝石の特徴を見事に活かしたデザインでこのネグリジェネックレスは作られているのです。 |
3-2. クラスターの中でのデマントイドガーネットの見事な存在感
3-3. エレガントなフリンジのデザイン
フリンジの一番下にあるオパールの上にも、それぞれ小さなデマントイドガーネットがセットされています。 揺れて煌めくネオンカラーのデマントイドガーネットのアイキャッチ効果は抜群です!♪ 石留も正面からだと通常のミルのようにも見えますが、オパール同様に特殊な細工になっています。
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サイドから見るとお分かりいただける通り、フレームをの縁を倒して留めてあり、サイドは溝が彫られ、頭は美しく輝くよう磨き上げられています。 |
オパールだけでなく、デマントイドガーネットもすべてオープンセッティングなので、光を取り込んでよく煌めきます。 また、フリンジに下がったデマントイドガーネットの上にある、両側に渦を巻いたデザインもエレガントでとても美しいです。 この複雑な渦巻き状でナイフエッジになっており、さりげない部分ですが高い技術を感じさせます。 |
ここが太かったら野暮ったくなってしまいますが、ナイフエッジによるスッキリとした線のデザインだからこそ、良いあしらいになっています。 それぞれのオパール&デマントイドガーネットのパーツは、左右に伸びたこのゴールドの腕の中央部分でチェーンに連結しています。 身に着けてジュエリーに動きが加わると、宝石が輝くだけでなく、ゴールドの腕が左右斜めに揺れて、複雑な動的魅力を放つのです。 さすがはスーパーハイクラスのジュエリーと言える、動的設計デザインです。 |
3-4. 放たれる唯一無二の魅力
1900年前後に流行したネグリジェネックレスは、石やデザインが異なる様々なものが作られています。 現代の日本人にとって使いやすいデザインが多く、定番デザインのジュエリーとも言えるのですが、実はヘリテイジでネグリジェネックレスをご紹介するのは今回が初めてです。 この宝物は唯一無二の魅力を放つ特別なネグリジェネックレスと言えるのですが、それを感じていただくためにもルネサンスで扱った美しいネグリジェネックレスをいくつかご紹介しましょう。 |
これは恣意的に集めたものではなく、Genが数年前にルネサンスのHPで作っていたネグリジェネックレスの特集ページに掲載されていた宝物です。色石を使ったものは非常に少なく、基本的にはダイヤモンドが主体です。 何故ならば、複雑に揺れる構造を最大の特徴とするネグリジェネックレスは、角度が変わるごとに大きく変化する宝石を惹き立てるジュエリーだからです。色石は色を楽しむものなので、揺れる必要性は大きくありません。一方で、職人の手で芸術的にカットされたアンティークのダイヤモンドは、少し角度が変化するだけで複雑な煌めきを放ちます。 |
ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移 【出典】2017年の鉱山資源局の資料) |
1869年以降の南アフリカのダイヤモンドラッシュによって、上質なダイヤモンドがかつてないほどたくさん手に入るようになりました。それまでの数十倍の規模のダイヤモンドが、枯渇することなく毎年得られるようになったのです。 |
『可憐な一輪』 ダイヤモンド トレンブラン ブローチ フランス 1880年頃 SOLD |
それまでのダイヤモンドは稀少な材料として大事に大事に使わざるを得ませんでした。 しかしながら豊富に得られるようになり、使用量の制約がなくなっていったことで、ダイヤモンドの本来のポテンシャルを活かした様々なジュエリーが作れるようになりました。 その1つが揺れる構造を持つトレンブランです。 |
以前にはないほどたくさん手に入るようになったとは言え、ある程度の大きさがあるダイヤモンドはまだまだ貴重でした。 しかしお金を出せば手に入れることはできる。 それもあって、美しく揺れてデザイン的にもエレガントなネグリジェネックレスが、ダイヤモンドで多く作られたのです。 |
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ダイヤモンド ネグリジェ・ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
ムーンストーン&デマントイドガーネット ネグリジェ・ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
その点で、このムーンストーンとデマントイドガーネットのネグリジェネックレスは珍しいです。 デマントイド(Demantoid)・ガーネットは、"ダイヤモンド(オランダ語でDemant)に似た"ガーネットという意味で名前が付けられたほど、煌めきの強い宝石でもあります。 だからネグリジェネックレスは、デマントイドガーネットの魅力を活かすのに向いているのです。 |
最高の遊色を持つオパールと、インパクトある鮮やかなネオン・グリーンと煌めきを放つ最上質のデマントイドガーネットという、相性抜群かつ当時最先端の宝石2種を組み合わせた宝物。しかも作りは通常のハイクラスのジュエリーと比べても目をみはる極上品。見ていて心洗われる、素晴らしい宝物です。 |
4. オパール好きのヴィクトリア女王のプロモーション
これまでの44年間でいくつものネグリジェネックレスを扱っていますが、この宝物は別格です。 それはここまででご説明して参りました通りです。 では、なぜこのような素晴らしいオパールのネグリジェネックレスが作られることになったのか・・。 それは歴史をみていくと、ある程度想像できます。 |
実はオパールはヴィクトリア女王の夫、アルバート王配が好きな石でした。 このため、夫が大好きなヴィクトリア女王は自らも好んで、頻繁にオパールのジュエリーを身に着けていました。 |
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オパールのティアラを着けたヴィクトリア女王(1819-1901年) |
ハンガリー産オパール(1570-1630年頃) 【引用】MUSEUM OF LONDON © museumoflondon-prints |
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アルバートは1861年に亡くなっており、オーストラリアからプレシャスオパールの鉱山が発見され始めたのは1870年頃からなので、アルバートがいた時代はハンガリー産のオパールだったと推測します。 植民地オーストラリアのオパールほど美しい遊色は出ないのですが、それでも刻々と変化する遊色は教養ある知的な人物を惹きつける強い魅力があります。 |
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【参考】ハンガリー産オパールのペンダント(16世紀)ハンガリー国立美術館 |
ヴィクトリア女王の結婚式(1840年) |
ヴィクトリア女王はイギリス人とドイツ人のハーフだったため、血を濃くするためにイギリス人との結婚が望まれていたのですが、イケメンで深い教養を持つドイツ貴族、アルバートに惚れ込んで結婚します。このためイギリス国民からはあまり歓迎されず、議会からもドイツ人に乗っ取られるのではと警戒されていたようです。 |
メルバーン子爵ウィリアム・ラム(1779-1848年)65歳頃 | しかしながらヴィクトリア女王即位時の首相で、女王の寵愛を受けたメルバーン子爵は、早くからアルバートの非凡な才能を見抜いていました。 ヴィクトリア女王に対し、「アルバート公は実に頭の切れるお方です。どうかアルバート公の仰ることをよくお聞きなさいますように。」と進言しています。 |
アルバート王配(1819-1861年) | アルバート王配は男性にありがちな野心を持つことも、浮気なども一切することなく、ヴィクトリア女王一筋で妻のためだけに懸命に仕事もこなしました。 最終的にはイギリス議会にとってなくてはならない存在となり、42歳という若さで亡くならなければ、イギリスは王政がもっと長く存続していただろうと言われているほどです。 それほど有能な人物でした。 |
オリジナルのオリエンタル・サークレット・ティアラを着けたヴィクトリア女王 | イギリス貴族は現代でもチート的な能力を持つことで有名ですが、アルバート王配も政治の能力が優れているだけではありませんでした。 優れた美的感覚も持っていたため、ヴィクトリア女王のためにジュエリーもデザインしていました。 これはアルバートがデザインした、オパールを使ったオリエンタル・サークレット・ティアラを着けたヴィクトリア女王です。 このように、アルバート王配のように教養ある知的階級の王侯貴族が特に魅了されるが、オパールという遊色を持つ不思議な石でした。 それと同時に、ヴィクトリア女王にとっては愛の証でもあったのです。 |
一般的にはヴィクトリア女王は植民地オーストラリアで新発見されたオパールを売りたいがために、王侯貴族の女性たちにオパールのジュエリーを贈ってプロモーションしていたと言われています。 しかし、オーストラリア産のプレシャス・オパール発見以前から"愛"のジュエリーとして、オパールのジュエリーを贈っています。 左は皇太子バーティ(後のエドワード7世)が結婚する際、皇太子妃となるアレクサンドラ妃に女王がウェディング・ギフトとして贈ったオパールのパリュールです。 |
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ヴィクトリア女王からアレクサンドラ妃へのウェディング・ギフト(1863年) |
長女ヴィクトリア 17歳(1858年)ドイツ皇后・プロイセン王妃 | 5人の王女の結婚式にも、ヴィクトリア女王がウェディング・ギフトとしてオパールのジュエリーを贈ったことが有名です。 長女ヴィクトリアが結婚したのは1858年なので、オーストラリア産オパールのプロモーションとは時期が違います。 誰か一人が想像で適当なことを書き、それがコピペされてネット上で一気に広がり、真実として誤認される。 賢い人が集まってくる業界の場合は、情報は複数の人たちから多面的に精査され、誤情報は淘汰されるものですが、ジュエリー業界は残念ながらそういう業界ではありません。 ネット上は特に、アンティークジュエリーや宝石に限らず、裏付けなく適当なことを想像で言う人も少なくないので鵜呑みにしてはいけません。 |
今は亡き永遠の愛する人、アルバート王配が愛した宝石。 見たこともない最上級のオパールが、自分の植民地から見つかった喜びといったら凄かったでしょうね。女王にとってはアルバートがくれた贈り物と感じたかもしれません。愛や幸せのおすそわけというだけでなく、女王にとってはアルバートのためにもオーストラリア産のオパールを皆に認めてもらわなければと頑張るのは至極納得できることです。 |
流行を作るのはファッションリーダーである国のトップです。王族が流行を作り、周りの貴族たちがそれに倣い、最終的には庶民にその流行スタイルが降りてくる。 まず、上流階級にオパールを浸透させなければなりません。ウェディングギフトなどでドカーンと宣伝する打ち上げ花火的なやり方もありますが、上流階級に浸透という観点で最も有効なのが、王侯貴族階級の中でも特に身分の高い女性たちに日常で着けてもらうことです。 |
ファイフ公爵夫人ルイーズと娘たち(ヴィクトリア女王の孫とひ孫) | 左はエドワード7世とアレクサンドラ王妃の娘、ルイーズ王女とその娘、アレクサンドラ王女とモード王女です。 ややこしい(笑) ヴィクトリア女王の孫とひ孫にあたる王族です。 普段の装いでも全員ジュエリーは着けていますが、小ぶりなものです。 古写真ではジュエリーの細部や色については分かりませんが、小ぶりでも上質な、品のあるジュエリーを着けていたであろうことが伝わってきます。 ネックレスは洋服の上に着けていますね。 |
ヴィクトリア女王とアルバート・エドワード皇太子(エドワード7世)の御用達の宝飾店が扱ったこのネグリジェネックレス。 当時最先端の宝石、しかもその中でもとびきりの最高級の石を使った、ハイジュエリーの中でも稀に見る極上の作りが施されたこの宝物。 王室ジュエリーでも、富と権力を誇示するためのティアラや派手な宝石が付いたジュエリーについてはマニアが存在したり、オークションで高値が付いたりで有名になったり伝来が分かるものも多いのです。 でも、日常で使っていたとみられる優れたジュエリーは、王族が使っていたものであっても100年以上の時の中で、『知られざる良いもの』と化しているものが実は多くありそうな気配です。 佇まいからも、この宝物がヴィクトリア女王から高貴な女性に贈られた可能性は十分にあると思います。 しかしそれは大切なことではありません。 |
最高級のオーストラリア産オパールに浮かび上がる七色の遊色・・。 それはまさに、アボリジニの伝説のように、大空に架かる虹を石の中に閉じ込めてしまったかのようです。 |
ジュエリーについて中途半端に詳しい方だと、オパールは乾燥やヒビが気になるかもしれません。 買ってすぐに乾燥でヒビが入ると言う大事件が1960年代のメキシコ産オパールで発生し、一定以上の年代の方はオパール全体に対して良くない印象をお持ちだったりします。 この事件に関しては以前詳しく書きましたので、気になる方はそちらをご参照ください。 |
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【参考】乾燥でヒビ割れした低品質なオパール・ペンダント |
このオパールに、乾燥でヒビが入ったりしないか? 作られてから130年ほど時が経ってもヒビなんてありませんし、これだけの遊色を湛えています。 それが答えです。 ちなみにわざとではありませんが、ロンドンからこの宝物を日本に連れてきた後、1年ほどヘリテイジの金庫に寝かせてしまいました。 他の宝物をご紹介するのに忙しく、順番が回ってこなかったからなのですが、関東の冬の乾燥でも全く問題ないということです。 まあ、もともとオーストラリアの砂漠で数年間にわたって天日干しされ、耐えた石だけがジュエリーに加工されるのですから、関東の乾燥なんて余裕でしょう。 |
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オパールもデマントイドガーネットも、明るい場所だけでなく暗い場所でも魅力ある色と輝きを放つことができる宝石です。 |