No.00288 小さなたくさんの宝物 |
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『小さなたくさんの宝物』 |
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この宝物のポイント
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1. 珍しいジョージアンの天然真珠ネックレス
1-1. 普遍のNo.1の宝石"天然真珠"
天然真珠のネックレスとしては、これまでにご紹介してきた中で最も古い年代のネックレスです。アンティークジュエリーの歴史の中で、天然真珠は非常に長い年月、常に王侯貴族の富と権力の象徴として君臨してきました。 |
『循環する世界』 ブルー ギロッシュエナメル ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
天然真珠は加工しなくても、そのままで非常に美しい宝石です。 実はこれは天然真珠の大きな特徴と言えます。 ダイヤモンドはカットして磨き上げなければ、煌めきと透明感が美しい魅力ある宝石にはなりません。 ゴールドも加工しなければただの金属塊に過ぎず、美しくありません。 |
古代エジプトのファラオ クレオパトラ7世(紀元前69-紀元前30年) | 加工しなくても美しい。 しかも稀少性が高い。 だからこそ非常に古い時代から、天然真珠は富と権力の象徴として、長きにわたって王侯貴族から愛されてきたのです。 エジプトのファラオ、クレオパトラも天然真珠にまつわるエピソードが残っています。 左の天然真珠の耳飾りは、小国1つが購入できるほど価値があったそうです。 その他、ある古代ローマの将軍も、天然真珠1粒で1回の戦費を賄ったという話も残っています。 |
『黄金の花畑を舞う蝶』 色とりどりの宝石と黄金のブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
金銀財宝と言われる通り、ゴールドも高価なイメージがありますが、王侯貴族のためだけの本当に稀少で高価な金属だったのは、1948年頃からのカリフォルニアのゴールドラッシュが起きる前までです。 |
ベルエポックの時代には経済を牽引する若い中産階級の女性たちのために、安物のゴールドジュエリーがたくさん作られています。 ゴールドの希少価値が著しく低下した19世紀後期以降は、もはやゴールドは王侯貴族の富と権力の象徴ではありません。 |
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【参考】ベルエポックの安物18Kゴールド・ピアス |
『ゴールドラッシュ(ディガーズ)ブローチ』 アメリカ 1880年頃 SOLD |
採掘すればするほど市場における稀少性が低下し、価格が下落していく。 ゴールドの採掘は利益なき業態となってしまいました。 |
ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移 【出典】鉱山資源局の資料(2017) |
これを踏まえて、南アフリカのダイヤモンドラッシュでは業界によって生産調整がなされ、ある程度価格は維持されました。だから庶民用の安物ジュエリーにもダイヤモンドが使われるようになるのは戦後のヴィンテージくらいからです。 |
『キラキラ・クロス』 天然真珠 バーブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
それでも南アフリカのダイヤモンドラッシュによって、王侯貴族にとって富と権力を示すための最高級の宝石としての地位は、天然真珠が圧倒的ナンバーワンとなっていきました。 |
ロシア大公妃アレクサンドラ・ゲオルギエヴナ(1870-1891年)1890年頃 | このため、特に19世紀後期から20世紀初頭にかけて特に天然真珠の地位が高くなり、王侯貴族の富と権力の象徴として天然真珠を主役にした様々なジュエリーが作られました。 |
イギリス王太子妃時代のアレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925年) |
その中でも最も多いのが天然真珠のネックレスかもしれません。このようにたくさん重ね付けしたりしていたので、長さも色々あるようです。 |
天然真珠 ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
このため、この時代に作られた、日本人好みのシンプルな天然真珠ネックレスは時折ご紹介することができます。 |
イギリス王妃アレクサンドラと娘ヴィクトリア王女 | だから天然真珠が王侯貴族に持て囃されたのはこの時代だけというイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。 しかしながら天然真珠は他の時代でも例外的な時期を除き、いつでもどの国でも、王侯貴族の富と権力の象徴として特別に愛されてきました。 それは今でいうPR写真と同じ、王侯貴族たちの肖像画を見れば分かります。 |
ルネサンス | イギリス18世紀中期 | 革命前フランス |
イングランド女王エリザベス1世 (1533-1603年) | 王妃シャーロット・オブ・メクレンバーグ=ストレリッツ(1744-1818年)1768年頃 | 王妃マリー・アントワネット(1755-1793年)1790年頃 |
革命後フランス | フランス19世紀初期 | イギリス19世紀初期 |
皇后ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(1763-1814年) | 王太子妃マリー・テレーズ・シャルロット・ド・フランス(1778-1851年)1817年 | 王妃アデレード・オブ・サクス=マイニンゲン(1792-1849年)1836年頃 |
フランス19世紀中期 | イギリス19世紀中期 | 19世紀後期より前の時代でも、女王や王妃クラスの女性は全て天然真珠のネックレスを着用した肖像画が残っています。 まさに普遍のナンバーワン宝石が天然真珠だったのです。 |
皇后ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(1763-1814年) | ヴィクトリア女王(1819-1901年) |
1-2. リメイクで失われるジョージアン・ジュエリー
母ヴィクトリアと5歳頃のヴィクトリア女王(1824-1825年頃) | 普遍の最高級宝石、天然真珠のネックレスはこの通りジョージアンの時代にもある程度の数は作られていたはずです。 それなのに、アンティークジュエリー市場でジョージアンの天然真珠ネックレスが出てこないのは何故なのでしょうか。 |
1-2-1. いくらでも手に入る宝石
現代の宝石の殆どが無価値であることは、GenがルネサンスHPでも詳しくご紹介して参りました。 特にカラーストーンはどれだけ高い金額で買ったものだったとしても、質屋などで買い取ってもらえないこともあるほど酷い状況です。 |
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【参考】サファイア リング(現代) |
【参考】サファイアのシルク・インクリュージョン | 加熱サファイアについては、以前詳細をご説明しました。天然のままで美しいサファイアは既に枯渇状況にあり、1970年代以降は高温の加熱処理が一般的になっています。 アンティークの時代には見向きもされなかった屑石を使った処理で、色が良くなるメリットはあります。 ただ、非加熱の天然サファイアだからこその持つ、内部のシルク・インクリュージョンは熱による内部拡散で消失してしまいます。 |
インクリュージョンが多すぎる汚い石がクリアで綺麗にはなりますが、あまりにも透明すぎる石は人工的で違和感があります。 それはまるで死んだ石のようにしか感じられません。 現代宝石業界はあまりも酷すぎて、実態が誰にも正確には把握できない状況です。 専門家によると、感覚的にはほぼ100%に近い割合と考えられているそうです。 |
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【参考】サファイアリング(現代) |
何も記載がないものは加熱石、もしくは合成石と考えて良いでしょう。天然サファイアとだけ書いてあるものも怪しいです。加熱はしている可能性があります。 「加熱石であっても、もともと天然から採れた石だから天然サファイアと書いても嘘ではない。非加熱とは書いていないから詐欺ではない。」というのが現代宝石業界のスタンスであり、性善説で見るとバカを見ます。 「高いからきちんとしたものであるはず。」という考え方は以ての外で、良いカモとしか思われません。最悪です。 |
『エレガント・ブルー』 エドワーディアン サファイア・ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
1910年に合成サファイアの技術が確立するので、エドワーディアン以降のジュエリーは合成か天然か鑑別しなければ分かりません。 ヘリテイジが宝石鑑別所の力を借りるのはそのためです。 |
カリブレカット・サファイア ブローチ ヨーロッパ 1910〜1920年頃 SOLD |
これは合成サファイアのジュエリーです。 この時代は"科学"が"力"でした。 科学の功績でイギリスでは貴族になった人物たちもいたほどです。 初期の合成サファイアは人間が作り出した素晴らしい夢の宝石であり、当時はハイジュエリーに使われることもありました。 ハイジュエリーか否かでは判断できず、鑑別所を頼るしかないのです。 |
現代では量産技術も飛躍的に進歩しています。 色もいくらでもコントロールできます。 サファイアと同じ、ルビーやパパラチアもいくらで合成し放題ということです。 |
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【参考】現代の様々な色の合成サファイア(同じコランダムのルビーを含む) |
【参考】合成のスター・サファイア(現代) |
スターサファイアだって合成し放題です。珍しいと思い込んでそれなりの値段で買う人もいるようですが、残念ながらいくらでも作れるものに希少価値などありません。 |
だからこれだけの大きさがあるサファイアでも、価値の低い合成サファイアということで、シルバーでセッティングされていたりするのです。 |
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【参考】合成サファイア・シルバー・リング(現代) |
『ロシアン・アヴァンギャルド』 ルビー&サファイア リング ロシア 1910年頃 SOLD |
自然界からの偶然の恵みである宝石は、お金や権力があるからと言って必ず手に入るわけではありません。 欲しいと思っても入手が非常に困難な希少なものだからこそ価値が高く、"宝の石"となるのです。 |
欲しいと思えばいくらでも合成して手に入れることができるものに価値などありません。 |
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【参考】合成サファイア(現代) |
天然のサファイアは加熱で改質できる屑石自体も枯渇してきているそうで、加熱サファイアですら今後価格が上がる可能性があると煽っている業者も散見します(笑) 加熱石はまるで死んだ石のようで全く魅力を感じないので、私は要らないです。他の宝石も同様の状況です。 |
あこや養殖真珠 "Akoya peari" ©MASAYUKI KATO(17 February 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
さて、なんで真珠の話だったはずなのに他の宝石の話が出てきたのかというと、現代の養殖真珠はいくらでも作ることができるという点で同じだからです。 |
『神秘の光』 大珠天然真珠リング イギリス 1920年頃 SOLD |
宝石がなぜ宝の石と言われ、高い価値があり財産性があったかと言うと、人々を魅了する強い魅力を持ち、またたとえお金持ちや権力者であっても、どんなに欲しいと切望しても確実に手に入るものではなかったという、限りない稀少性があったからです。 |
現代はアンティークジュエリーが作られた時代とは全く状況が異なります。 ダイヤモンドは予想を遥かに超える埋蔵量故に、その気になれば需要を超える供給量をいくらでも採掘可能。 大きな珠は大きな核を使えば短時間で作ることができます。 |
ドブ貝B型(タガイ)三重県いなべ市 "Tagai050824" ©KOH(2005-08-24)/Adapted/CC BY 3.0 | 養殖真珠の核の原料にはいくつか種類がありますが、最も一般的なのはドブ貝という二枚貝の貝殻です。 ドブ貝から大きな採れる上質で大きな核は限られているとは言え、所詮生き物がいくらでも作り出せる貝殻です。 大きいからと言って、宝石レベルの稀少価値があるわけがありません。 |
養殖真珠は、母貝の身体に大きな負担となる大手術を施し、無理やり作らせます。外科手術で挿入する核が大きくなるほど母貝の死亡率は上がりますし、苦しくて核を吐き出したり、うまく真珠層を巻けない確率も上がります。核を入れれば必ず養殖真珠ができるわけではないのです。生き物なのです。半分くらいは耐えられずに死んでしまうそうです。 養殖真珠業界の論理に依ると、歩留まりが悪いので大きな珠は稀少で価値があるそうです。でも、それならば母数を大きくすれば良いだけです。たくさんの母貝を使えば、欲しい数だけ大きな養殖真珠を作ることができます。アンティークの宝石のように、いくらお金を出しても手に入らないというレベルの稀少性なんて微塵もありません。 低コストでいくらでも作ることができますから、業界は新しく作って高い利益を乗せて売った方が儲かります。業界にとっては売ったら終わりの消耗品です。 質が悪い養殖真珠はすぐに劣化しますし、ジュエリーとしても作りが悪いので簡単に壊れます。長く愛用してもらうつもりは毛頭ありません。メンテナンスして長く使うような価値はなく、消費者側もそれが当たり前のように思っている酷い状況です。質屋に持って行っても価値がないので買取拒否か、驚くほど低い査定価格になるのは当然です。 ダメになったら簡単に捨てられるもの・・。これはジュエリーの本来の姿ではありません。 |
1-2-2. 本当の宝石の扱われ方
『万華鏡』 オパール リング イギリス 1880年頃 SOLD |
古の王侯貴族は莫大な財力がありますから、売ってさえあればどんなに高くても欲しければ買えます。 非常に貴重で、欲しくても同じものは手に入らないからリメイクされるのです。 それほど"宝石"とは本来貴重なものなのです。 |
現代ではいくらでも量産可能な、美しくもない無機質かつ無価値の石ころが"宝石"として蔓延し、それらを多用した成金的なケバケバしいジュエリーが"高級ジュエリー"として崇め奉られています。業者の宣伝文句をろくに考えもせず鵜呑みにする一般消費者の存在と相まって、現代ジュエリー市場が成立しているのです。 実際のところ、現代ジュエリーはジュエリーと呼べる代物ではありません。 |
1-2-3. 英国王室でも代々当たり前のリメイク
オリジナルのオリエンタル・サークレット・ティアラを着けたヴィクトリア女王(1853年頃) | 莫大な富と権力を持つ大英帝国の王室であっても、ジュエリーに関してはリメイクも当たり前です。 毎回、当たり前のように古いものを処分し新品をオーダーする感覚は、消耗品を作って消費することを繰り返す、現代の大量生産・大量消費社会になってからの常識です。 左のオリエンタル・サークレット・ティアラは、アルバート王配が主導した第1回ロンドン万博(1851年)でインスピレーションを受け、愛する妻ヴィクトリア女王のためにデザインしたものです。宝石は、夫妻が大好きだったオパールがあしらわれました。 |
オリエンタル・サークレット・ティアラ(1853年、20世紀にリメイク後) 【出典】Royal Collection Trust / The oriental tiara © Her Majesty Queen Elizabeth II 2021 |
ヴィクトリア女王が亡くなった後、アレクサンドラ王妃の好みでオパールからルビーに取り替えられました。箪笥の肥やしになるよりは良いかもしれませんが、ヴィクトリア女王夫妻の想いを考えると少し切ないですね。 それでも君主クラスは相当な数を所有しており、想い出の部分に関しては他のもので代替できる意向だったのでしょう。現代の一般人の感覚で想像しても、さすがに全てをそのまま残すというわけにはいきません。このクラスのジュエリーとなると、いかに英国王室といえども同じものを宝石違いでオーダーするなんてことは困難です。 王族のジュエリーであってもリメイクが当たり前でした。一体どれだけの割合が現代まで残れたのか、古いオリジナルのジュエリーの稀少性は計り知れません。 |
1-2-4. 天然真珠の再利用
リメイクには2種類あります。簡単なのは、先のオリエンタル・サークレット・ティアラのように好みの宝石に取り替えたり、装飾を追加したり除去したりする方法です。 最も多いのは宝石を取って、時代に合わせて新たにデザインする方法です。宝石が稀少であり、新しいジュエリーのためにもう1つ同じものを買うということが出来ないからこそです。量産が可能な合成宝石や模造宝石に溢れた現代ジュエリーの感覚だと分かりにくいですが、これこそ宝石が、稀少価値としての財産性を持つと見なされていた所以です。 |
ラヴァーズ・ノット・ティアラを着用したイギリスのメアリー王妃(1867-1953年) | 対象となる宝石としておそらく最も多いのが、アンティークジュエリーの時代には宝石のトップに君臨していた天然真珠です。 左のラヴァーズ・ノット・ティアラは1913年にメアリー王妃がガラードにオーダーして作らせました。 天然真珠が史上最も高く評価された時代だったので、一緒に合わせた天然真珠のネックレスも豪華です。 |
このようなティアラが欲しいと思っても、この時に全ての天然真珠が手に入ったわけはありません。メアリー王妃が一族で代々所有していた天然真珠をかき集めて実現したそうです。代々続く由緒正しい家柄だからこそ持てるティアラであって、まさに富と権力の象徴と言えます。天然真珠は形が歪だったり、形だけでなく色も不揃いだったりしますが、大英帝国の王族クラスであってもそこまで揃えるのは不可能です。天然真珠なのですから。 完璧主義な人はイミテーションがオススメです。このティアラは人気があるのでイミテーションがたくさん販売されていますが、どれも天然真珠の歪な形までは再現しておらず完璧な形状で作ってあります。もちろん色も均一で、しかも安いので完璧主義者にはピッタリです(笑) |
リメイクされたラヴァーズ・ノット・ティアラ | |
オリジナル |
上部の天然真珠を取り外し後 |
ちなみにラヴァーズ・ノット・ティアラはダイアナ王太子妃が愛用したことでも有名ですが、左のオリジナルをご覧になって違和感を感じた方は正解です。実はこのティアラはリメイクされました。 メアリー王妃はジュエリーが大好きで、しょっちゅうリメイクしていたことも有名です。リメイクで上部の天然真珠は取り外され、内4つがペンダントとして天然真珠ネックレスに下げられています。宝石の稀少性を理解していないと、ティアラはオリジナルのゴージャスなままペンダントも新調すれば良かったのではと発想しますが、このクラスは大英帝国王妃でも簡単に手に入りません。だからリメイクするのです。それほど稀少なのです。 |
イングランド女王エリザベス1世 (1533-1603年) | 特に天然真珠が好きだったと言われるエリザベス女王はジュエリーや小物のみならず、ドレスにまで無数に取り付けられた天然真珠がゴージャスです。 |
さすがに全てのドレス、それぞれに天然真珠を使うのは無理なので、行幸の時も天然真珠を付け替えるためのお針子さんが同行していたそうです。 |
イングランド女王エリザベス1世 (1533-1603年) | |
また、一部にはイミテーション・パールが使われていたとも言われています。 |
イングランド女王エリザベス1世 (1533-1603年)62歳頃 | イングランド王チャールズ2世の戴冠式(1661年) |
現在の聖エドワード王冠はイングランド王チャールズ2世の戴冠式のために1661年に制作された王冠と、イングランド王エリザベス1世が所有していた天然真珠からその多くが構成されています。 |
イギリス国王ジョージ4世(1762-1830年) | ジョージ4世の戴冠式(1821年) |
イギリス至上最も豪華だったと言われる1821年のジョージ4世の戴冠式のために作られた、ダイヤモンド・ダイアデムも王室だからこその豪華な天然真珠コレクションが使用されています。 |
ダイアモンド・ダイアデム(ランデル&ブリッジ社 1820年) 【引用】Royal Collection Trust / The Diamond Diadem 1820 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 |
天然真珠は二重の環になっています。 1902年に若干作りかえられていますが、オリジナルは上部86粒、下部94粒セットされていました。 1粒でも主役級の天然真珠がこれだけの数準備できるだなんて凄いことです。 |
ダイアモンド・ダイアデム(ランデル&ブリッジ社 1820年) 【引用】Royal Collection Trust / The Diamond Diadem 1820 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 |
天然真珠はどれも真円ではなくかなり歪な珠も混じってはいますが、これだけの大きさで、色や照り艶が揃っています。 天然真珠はアンティークジュエリーに於いては最高の宝石です。 天然真珠に対して造詣が深かった古の王侯貴族たちが、どのようなポイントを重要視していたのかが伝わってきますね。 |
天然のものなので厳密には色や照り艶は揃いきれていませんが、それは重要ではありません。着用者を見た時に美しい、荘厳だと感じさせることができることこそが重要なのです。 ちなみにダイヤモンドに関しては英国王室に当時十分なコレクションや財力がなかったようで、その一部はダイアデムを作らせた宝石商ランデル&ブリッジ社からのレンタルでした。 |
心が洗われるような見事な作りです。ダイアデムも凄そうですね!♪ |
ダイアモンド・ダイアデムは国王ジョージ4世以降も、王妃や女王に着用されました。 但しこういう権威の象徴は、使用するのは特別な式典などのタイミングのみです。 |
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アレクサンドラ王妃(1844-1925年)1905年 |
1837年までは使わない時には宝石は取り外され、使う時だけランデル&ブリッジから借りてその分の賃料を支払っていました。 それ以降は取り外したり借りたという形跡はなく、しかしながら買い取った証拠もないそうです。 |
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ヴィクトリア女王(在位:1837-1901年)1859年 |
ガーター騎士団の正装姿の摂政王太子ジョージ4世(1762-1830年)1816年 | これは、ジョージ4世の豊富な宝石コレクションの中から貴重な古い宝石を慎重に選んで、物々交換した可能性が考えられるそうです。 後の国王エドワード7世もフランスでジュエリーを買い漁って『宝石王子』と呼ばれたりもしていますが、ジョージ4世の散財はその比ではなかったようですからね。 こちらは『放蕩王』、『快楽王』などとも呼ばれ、借金も物凄かったそうです。 |
ジョージ5世の妻メアリー王妃(1867-1953年)1911年頃 | 富と権力を持つ国王ですら手に入れることは容易ではない宝の石。 それが真の意味で『宝石』だったのです。 そして真の宝石のみが財産性を持ち、代々大切に所有されるに値するのです。 本物の宝石には普遍の美しさと価値があります。 |
ダイアモンド・ダイアデム(ランデル&ブリッジ社 1820年) 【引用】Royal Collection Trust / The Diamond Diadem 1820 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 |
養殖真珠業界は自分たちの利益のためだけに、消費者に「真珠は劣化する。長年の使用によって変色して当たり前。」というイメージを植え付けています。 でも、養殖真珠は本物の真珠ではありません。 本物の真珠である天然真珠は、約200年経過していても照り艶も美しいままです。 ダイアデムが作られたのは1820年ですが、王室に代々伝わっている天然真珠をかき集めて作ったと考えると、もっと古い年代の真珠もたくさん混ざっていると考える方が正しいでしょう。 |
天然真珠とゴールドの耳飾り(古代ローマ 1世紀) メトロポリタン美術館 | 本物の真珠は1700年以上経過しても、よほどおかしな扱い方さえしなけれな照りや艶は失われません。 色も美しいままです。 |
宝石なのに劣化するというのは、本来とてもおかしな話です。養殖真珠が本物の真珠ではなく、宝石ではない証明でもあります。 「真珠は経年劣化します。」というのは業界が養殖真珠を宝石ではないことを自らPRするに等しい発言なのですが、ジュエリー文化がなかったために宝石についても知識のない日本人の大半は、鵜呑みにして騙されるようです。 オシャレしたい純粋な心の日本人をバカにして騙すのは日本人自身。悲しいことです・・。 |
養殖真珠と天然真珠の断面の違い |
現在技術が確立されている養殖真珠は内部が真珠層ではなく、大半が価値がないに等しい貝殻です。その成り立ちだけでなく、品質的に見ても天然真珠は全く異なります。 |
真珠の外観の比較 | ||
天然真珠 | 初期の養殖真珠 | 現代の花珠養殖真珠 |
初期の養殖真珠は真珠層の巻きが十分に厚く、当時はX線による鑑別技術もなく、破壊分析する以外は区別する方法がなかったため天然真珠と変わらないと裁判で判決されました。これが事を分かりにくくしています。現代ではX線で鑑別できますし、養殖真珠も昔のように5年もかけては育てておらず、短いと3ヶ月で出荷してしまう質の悪いものです。1年かけたものが『越しモノ』と呼ばれ、高級品扱いされるような状況です。 |
御木本幸吉(1858-1954年) |
最初は天然真珠と全く同じものを作るため、ただアコヤ貝をそのまま養殖するだけという方法が試されました。 それで核を挿入するという方法が採用されたのです。 核を使った、偽物まがいの真珠の養殖が最初から目標だったわけではないのです。 |
『美意識の極み』 天然真珠ピアス イギリス 1870年頃 SOLD |
天然真珠は全てが真珠層です。 どういうきっかけで母貝の中で真珠が作られ始めるのか、はっきりとは分かっていません。 手に入れたくても簡単には手に入りません。 |
いつでも作れるからと、養殖真珠は質を落としてまで多く作りすぎました。お金が欲しいからと輪転機を回しまくったのと同じような状況です。 輪転機を回しまくればインフレが起きてお金の価値が低下します。養殖真珠も市場に溢れた結果、宝石としての真珠のイメージは地に落ちてしまいました。価値がないのは養殖真珠だけなのですが、天然真珠も養殖真珠も同じものと思い込む人が多すぎて、天然真珠まで高級宝石ではないイメージの状況にあります。まるで当たり事故です(失笑) |
ジョージ4世の妹メアリー王女(1776-1857年) "Cuii pec pd0024 large" ©Historyfan98(2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
天然真珠は間違いなく古い時代も最高級の宝石として君臨し、時代ごとに様々な天然真珠のジュエリーが作られてきました。 |
『永久の天然真珠』 ジョージアン 天然真珠&ガーネット ペンダント&ブローチ イギリス 19世紀初期 SOLD |
これだけ評価の高い天然真珠であるにも関わらず、ジョージアンの天然真珠のジュエリーは滅多に出てきません。 ただでさえ現存数が少ないジョージアン・ジュエリーに於いて、ジョージアンの天然真珠ジュエリーはダイヤモンド・ジュエリーよりも圧倒的に数が少ないです。 |
それはなぜかと言えば、ダイヤモンド以上に稀少だった天然真珠は優先的にリメイクの対象になってしまったからに他なりません。 |
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フランス? 1820年頃 ゴールド ブレスレット SOLD |
時代を超越するデザインを持つ、王侯貴族のためのハイジュエリーの中でも傑出して魅力を放つジュエリーだけが現代まで生き残っています。アンティークの優れたハイジュエリーは当時の様々なことを教えてくれます。天然真珠が最高級の宝石として使われていたこと。歴史の積み重ねで埋もれてしまった真実すらも、こうして身を以て示してくれるのです。 |
2. ジョージアンでも愛された天然真珠ネックレス
2-1. 富と権力と美しさの象徴
イギリス王妃シャーロット・オブ・メクレンバーグ=ストレリッツ(1744-1818年)1768年頃 | フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793年) |
天然真珠のジュエリーは様々な種類があり、ジョージアンには髪飾りとしても流行していたようです。上は同時代のイギリスとフランスの王妃です。ちなみにこの2人はどちらも神聖ローマ帝国出身で、他国の王家に嫁いだ者同士です。音楽や芸術への情熱が非常に共通しており、会ったことはないものの熱心に手紙をやりとりして、とても仲が良かったそうです。 |
イギリス王妃アデレード・オブ・サクス=マイニンゲン(1792-1849年)1836年頃 | ヴィクトリア女王の母(1786-1861年)1835年頃 |
これはその後の時代のイギリス王妃と、ヴィクトリア女王の母です。やはり様々ある天然真珠のジュエリーの中でも、ネックレスはいつの時代も定番というイメージがあります。そして、大きな珠のネックレスほど富と権力の象徴という印象です。 |
2-2. 若い王侯貴族の女性のための小粒の天然真珠のネックレス
しかしながら同じジョージアンの天然真珠ネックレスでも、今回の宝物は3連で小粒の天然真珠のみが使われています。どういうものだったのでしょうか。 |
アミーリア王女(1783-1810年) | イギリス国王ジョージ4世(1762-1830年)18-20歳頃 |
左の女性はイギリス国王ジョージ4世と王妃シャーロットの第15子(!)で末っ子のアミーリア王女です。21歳も離れているので一緒に遊ぶことはなかったでしょうけれど、少し顔立ちが似ている気がします。 |
アミーリア王女(1783-1810年) |
あどけなさの残る王女の首元には、今回のような極小天然真珠の3連ネックレスらしきものが確認できます。極小天然真珠のネックレスは絵画での表現が難しく分かりにくいですが、その可能性が高いと推測します。 |
2-2-1. 年齢や属性などによるジュエリーの使い分け
ジュエリーを着けた2歳のクラリッサ・ストロッツィ(1542年) |
そしてジュエリーには幼児用、若い人用、成人用、既婚者用などの使い分けがあります。 わきまえたコーディネートになっていないと教養がなく、マナーがなっていない人ということになります。 |
『アルテミスの月光』 |
2wayジュエリーの『アルテミスの月光』も既婚者はネックレスとティアラ両方で使えますが、未婚女性はティアラとしては自分の結婚式でしか使ってはいけません。 ティアラは既婚女性のジュエリーです。未婚女性はネックレスとして楽しみましょう。ネックレスとして着けるとかなり素敵ですよ〜♪ |
アミーリア王女と姉たち(ソフィア王女、メアリー王女)(1785年) | さて、アミーリア王女には何人か姉がいます。 ジョージアンの王侯貴族の女性のジュエリーの参考として、少し見ていきましょう。 |
2-2-2. ジョージアンの王侯貴族の女性のジュエリーからの考察
ジョージ3世の第12子ソフィア王女 | |
ソフィア王女(1777-1848年)1797年、20歳頃 | 先ほどのアミーリア王女の姉、ソフィア王女です。 20歳の若い頃の肖像画で、アミーリア王女と同じく小粒の天然真珠の3連ネックレスらしきジュエリーが首元に描かれています。 両手首にもネックレスと同じような、小粒の天然真珠の3連になったブレスレットのようなジュエリーが認められます。 |
ソフィア王女(1777-1848年)1821年、44歳頃 | ソフィア王女(1777-1848年)1825年頃、48歳頃 |
これは40代の肖像画です。イギリスではフランス革命が遠因となった金価格の爆騰によって、1820〜1832年頃の期間に限りゴールドのロングチェーンが富と権力の象徴となりました。例に漏れずソフィア王女も肖像画で身に着けているのはゴールドのロングチェーンです。王族ですが、ソフィア王女が大珠の天然真珠ネックレスを着用した肖像画は見つかりませんでした。 |
ジョージ3世の第15子アミーリア王女 | |
アミーリア王女(1783-1810年) | アミーリア王女(1783-1810年)1797年、14歳頃 |
アミーリア王女の姿はこの2枚です。左はミニアチュール(細密画)からとったもの、右は通常の油絵で、作者が異なるので少し顔立ちが違って見えますが、服装とポーズが完全に同じなので同じ14歳頃に制作されたものでしょう。アミーリア王女は27歳で亡くなっており、成人後の肖像画は見つかりませんでした。 |
考察1.若い女性のジュエリー? |
天然真珠ネックレスは清楚で女性らしい印象が魅力です。大粒の天然真珠も清楚な雰囲気がありますが、小粒の天然真珠のネックレスはより可憐で清楚な美しさがあります。 |
ソフィア王女(1777-1848年)1797年、20歳頃 | アミーリア王女(1783-1810年)1797年、14歳頃 |
まさに若い女性にピッタリです。そういうわけで、若い女性のためのジュエリーだったのかなという仮説を立てました。でも、もう少し検証してみましょう。 |
ジョージ3世の第4子シャーロット王女 | |
シャーロット王女(1766-1828年)1897年、31歳頃 | ヴュルテンベルク王妃シャーロット(1766-1828年) |
これはジョージ3世の長女シャーロット王女です。先ほどの2人の王女と同じ1897年に描かれた左の肖像画を見ると、小粒の天然真珠ネックレスを着用しています。年齢を計算すると31歳頃で、通常の女性の社交界デビューが16〜20歳頃と考えると当時としては若いとは言えない気がします。しかしこの時、まだシャーロット王女はギリギリ結婚していません。結婚してヴュルテンベルク王妃となった右の肖像画ではネックレスはしていませんが、既婚者のジュエリーであるティアラを着用しています。 |
考察2.未婚女性のジュエリー? |
30代でも、未婚であれば小粒の天然真珠ネックレスを着用していたことが分かりました。未婚女性のジュエリーだった可能性が考えられます。もう少し検証してみましょう。 |
ジョージ3世の第11子メアリー王女 | |
グロスター=エディンバラ公爵夫人メアリー王女(1776-1857年)40歳以上 "Cuii pec pd0024 large" ©Historyfan98(2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | メアリー王女は6歳の少女時代の肖像画を除き、未婚時代の肖像画が見つかりませんでした。 これは公爵夫人になってからの肖像画で、大珠の天然真珠ネックレスを着用しています。 |
ジョージ3世の妻シャーロット王妃 | |
シャーロット王妃(1744-1818年)1761年、17歳 | 神聖ローマ帝国から17歳の時に英国王室に嫁いできたシャーロット王妃の一番若い頃の肖像画が、この戴冠式の時のものです。 1761年9月8日に挙式し、9月22日に戴冠式を行なっています。 17歳の若さですが、既婚の王妃らしく天然真珠はドレスの飾り、ブレスレット全てが大珠です。 |
シャーロット王妃(1744-1818年)1761年、17歳頃 | こちらも17歳頃の肖像画ですが、全ての天然真珠が大珠です。 |
シャーロット王妃(1744-1818年)1767年、23歳頃 | シャーロット王妃(1744-1818年)1768年、24歳頃 |
シャーロット王妃が小粒の天然真珠のジュエリーを着用した肖像画は1枚もありません。 |
ジョージアンの王族女性の天然真珠ネックレス | |||||
未婚 | |||||
アミーリア王女 | ソフィア王女 | シャーロット王女 | |||
14歳頃 | 20歳頃 | 31歳頃 |
既婚 | 英国王室の女性であれば、お金には糸目を付けず自身に相応しいジュエリーをオーダーできたはずです。 大粒は手に入らないから小粒な天然真珠を使っていたということは考えられません。 王族女性たちのジュエリーを検証すると、小粒の天然真珠ネックレスは未婚女性のジュエリーだった可能性が高そうです。 |
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メアリー王女 "Cuii pec pd0024 large" ©Historyfan98(2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
シャーロット王妃 | |
40歳以上 | 24歳頃 |
2-2-3. 未婚と既婚を区別する重要性
現代社会だと「未婚女性と既婚女性を区別するなんて女性差別!!」という声も聞こえてきそうですが、古の社交界ではとても重要なことでした。 |
『アンズリー家の伯爵紋章』 ジョージアン レッドジャスパー フォブシール イギリス 19世紀初期 ¥1,230,000-(税込10%) |
貴族のことをあまり知らない現代の日本人は、ヨーロッパ貴族はどの国も同じと想像する人が多いですが、ヨーロッパでは英国貴族は別格扱いです。 年長男子だけしか爵位も財産も継ぐことが許されず、しかも継げるのは先代が亡くなった後です。 だから兄弟全員が爵位を継ぐことによってネズミ算式に貴族が増え、財産は分散していく大陸貴族と異なり、イギリス貴族は数が極端に少なく大金持ちなのです。 その代わり後継がいないと貴族の家は断絶です。 養子も非嫡出子も女子も認めないという厳密な制度故に、イギリス貴族は断絶してしまった家も多いです。 『アンズリー家の伯爵紋章』の持ち主だったアンズリー家も断絶した伯爵家の1つです。 |
『紳士と淑女』 シルク&レースの扇 フランス 1870年頃 ¥ 387,000-(税込10%) |
優秀な後継を産み育てることはイギリス貴族にとって非常に重要なことでした。 わざわざグランドツアーでイギリス貴族の師弟たちが芸術の本場イタリアのみならず、フランスに寄って社交のマナーや女性の扱いを一生懸命に学んできたのも、イギリスに戻ってから社交の場で相応しい結婚相手を手に入れるためです。 |
立ち居振る舞いのみならず、意中の相手の気をひくために教養を磨き、美的感覚を研ぎ澄まし、自己PRとして非常に有力なアイテムとなるジュエリー文化も社交や恋愛を中心として発展していったのです。 |
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『湖の畔で』 ミニアチュール(細密画)ブローチ イギリス 1780年頃 SOLD |
『清廉の心を表すゴールド・ティアラ』 英国王室御用達Goldsmith&Silversmiths社 イギリス 1910年頃 SOLD |
結婚してもらえる可能性があるのは未婚女性だけです。 一生懸命にアタックしたのが既婚女性だったら悲しすぎます。 そういうわけで古の未婚の王侯貴族たちにとって、死ぬ気でお相手を探さなければならない社交の場で一目で既婚者か未婚者か判別できることは非常に大切だったのです。 |
そういうわけで、ティアラは「もうパートナーがいます。相手は探していません。」ということを示すために、既婚女性が目立つ頭部に着ける華やかなジュエリーとして発達しました。 |
シャーロット王女(1766-1828年)1897年、31歳頃 | シャーロット王妃(1744-1818年)1767年、23歳頃 |
実年齢が若いかどうかよりも、お相手探しをしている王侯貴族にとっては優秀で健康、そして未婚かどうかが重要です。そういうわけで、既婚を示すティアラのように、既婚を示す大珠天然真珠ネックレスと未婚を示す小粒の天然真珠ネックレスという区別があっても全く違和感なく納得できるのです。 |
アミーリア王女 | ソフィア王女 | シャーロット王女 | |||
14歳頃 | 20歳頃 | 31歳頃 | |||
未婚の王女様たちの中でもシャーロットは既に年内の結婚が決まっており、妹たちよりもだいぶ年もいっているので、連だけは1つだけ多い4連の小粒の天然真珠ネックレスだったのかもしれません。 |
きっと、このネックレスは若い王侯貴族の未婚女性のために作られたものだったのでしょう。 |
3. 驚くほど手間がかけられた宝物
3-1. 質の揃った上質な天然真珠
市場では19世紀後期に作られた同じような小粒の天然真珠の3連ネックレスもたまにみかけることがありますが、全体的に色が悪い上に揃っていない安物であることが殆どです。しかしながらこの宝物の天然真珠は白く美しく、照り艶も良く、質の揃ったかなり高級なジュエリーです。 養殖真珠は挿入する貝殻の核の大きさによってサイズが決まり、その大部分は貝殻なので大きさによる価値の違いは殆どありません。 |
『永久の天然真珠』 ジョージアン 天然真珠&ガーネット ペンダント&ブローチ イギリス 19世紀初期 SOLD |
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しかしながら内部まで全て真珠層でできている天然真珠は大きなほど稀少となり、価格も格段に高くなっていきます。 |
『神秘の光』 大珠天然真珠リング イギリス 1920年頃 SOLD |
だから大きい珠を使ったジュエリーほど高価となります。 |
アミーリア王女(1783-1810年) | メアリー王女(1776-1857年) "Cuii pec pd0024 large" ©Historyfan98(2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
しかしながらネックレスに関しては大珠だから高価、小粒だからあまり高くないという単純なことにはなりません。アミーリア王女のネックレスからも分かる通り、王族クラスが着ける小粒の天然真珠のネックレスは3連以上になっています。 |
この宝物の天然真珠は大体が米粒型で、およそ2〜3mm程度の大きさです。5cmあたり30粒の天然真珠が使われています。 |
3連のネックレスはそれぞれ約43.5cm、45.0cm、46.7cmあるので、概算すると約811粒の天然真珠が使われていることになります。 分かりやすく、1粒あたり1cmの珠で45cmの1連ネックレスを作る場合を考えてみましょう。45粒しか要りません。養殖真珠のネックレスは作るのも早くて簡単なのです。1粒あたりの大きさが大きければ大きいほど、必要な珠数も少なくなるので作業も楽です。でも高く売りやすいので、大きいものを勧めたくてしょうがないのです(笑) |
天然真珠は数十人のダイバーが一週間で35,000個の貝を採取し、天然真珠が出てきたのが21個で、そのうち商品価値があったものは僅か3個だったという記録があるほど稀少な宝石です。 |
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天然真珠を採取した後の廃棄された真珠貝の貝殻(1914年頃) |
採取した天然真珠貝の競売 【引用】『宝石学GEMS 宝石の起源・特性・鑑別』ROBERT WEBSTER, F.G.A. 著、砂川一郎 監訳(1980年) ©全国宝石学協会、p.450 |
今回のような米粒サイズの天然真珠であればもう少しは確率良く採れるはずですが、それでも母貝が偶然に作り出す自然からの恵みであることには代わりなく、入手できる確率は非常に低かったでしょう。 海水産の養殖真珠で入れる核は1粒のみ、しかも入れる場所も決まっています。できた養殖真珠を取り出す時もどの場所にあるか分かっていますし、大きさも分かっていて1粒だけなので楽な作業です。 |
マイクロパール ペンダント イギリス 1800年頃 SOLD |
マイクロパールブローチ イギリス 1830-1840年頃 SOLD |
マイクロパールブローチ イギリス 1910年頃 SOLD |
しかしながら天然真珠の場合は、あるかどうかも分からない母貝の中からしらみつぶしに探し、どうやって生身の貝から見つけ出したのか不思議に思えるほど極小の天然真珠さえも漏らすことなく回収するのです。 |
『柳と羊』 フランス 1792年 マイクロパール・ミニアチュール リング SOLD |
そしてそれらは宝石主体のジュエリーではなく、現代では到底不可能な、驚くほどの手間と高い技術をかけた細工物ジュエリーとして完成されます。 |
ジョージアン 天然真珠ネックレス 天然真珠:約2mm〜3mm、約811粒 イギリス 1830年頃 |
エドワーディアン 天然真珠ネックレス 天然真珠:直径6.6mm〜2.5mm、137粒 イギリス 1910年頃 |
ジュエリーには宝石主体のジュエリーと細工が主体のジュエリーがありますが、大珠の天然真珠ネックレスが宝石主体のジュエリーだとすれば、小粒の天然真珠ネックレスは完全に細工物ジュエリーです。宝石主体のジュエリーは宝石の価値が、ジュエリーの価格に占める割合が高いです。一方で細工物ジュエリーは加工するための職人の人件費や技術料の方が圧倒的に高くつきます。 |
この質の揃った小粒天然真珠のネックレスを作ることがいかに大変なことか、具体的に考えてみると想像を絶することばかりです。 養殖真珠は外観が均一なので、真珠の質は均一であることが当たり前と思わされています。しかしながら養殖真珠は過酸化水素で漂白してしまうのが当たり前です。ただしそれだけだと白っちゃけて、死んだような見た目になってしまいます。そういうわけで、さらに染色をします。この漂白&染色を『調色』という言葉で表現してお茶を濁しているのが養殖真珠業界です。 |
あこや養殖真珠 "Akoya pearl" ©MASAYUKI KATO(17 February 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ヘリテイジのマニアックなHPをご覧になるような方は違いますが、日本人は欧米人と比較すると極端に権威に弱い傾向があるため、鑑別書があるとそれだけで本物の高級品に感じてしまう人も多いようです。『本真珠』という記載によって模造真珠ではないということだけに満足し、なんだかよく分からない『処理:調色』という部分は無意識に無視してしまうようなのです。これも「鑑別書があるのだから良いものに違いない。」という確証バイアスの一種でしょう。 一般的に日本人女性はほんのりとしたピンク色を好むそうですが、色水のような染料にドブ漬けして着色する姿を一度でもご覧になると、もう養殖真珠のジュエリーなんて買えないと思います。 ところでなぜ現代の養殖真珠業者のほとんどが漂白・染色をするのかというと、それをやらないと色が揃わないからです。それぞれが個性を持つ、生きた母貝に作らせるからこそ真珠層の色も多様です。 |
御木本の成功の後、続々と他業者も養殖真珠産業に参入しました。 一部のモラルの低い業者によって日本の養殖真珠のイメージが崩されることがないよう、1952(昭和27)年に成立した真珠養殖事業法で質の悪い製品を排除し、日本は制度面からも品質と信頼を保ってきました。 |
養殖真珠の品質を保つための輸出検査 【引用】衆議院HP | しかしながら1998(平成10)年の規制緩和によってこの法律は撤廃され、養殖真珠の輸出前検査が無くなったので養殖真珠の質は悪化の一途を辿っています。 |
欧米と違って日本人はサービスはタダと思う人が多く、サービス残業も当たり前と思っている人には想像しにくいようですが、モノづくりのコストに於いて、人件費は大きな割合を占めます。作業員が1つ1つ色味を見極めて選別をするには莫大なコストがかかります。 商業的に見ると、人件費に高いコストをかけるよりも薬品で一気に漂白して色を揃えてしまう方が圧倒的に安くつくので良いのです。完璧に色を揃えることができる上に安上がりなので消費者も大喜び、経営者的にやらない手はありません。 誰か消費者の一部でもこんな不自然なものはおかしいとでも言い出せば状況は違ったかもしれませんが、ジュエリー文化がなく天然真珠の本物の美しいジュエリーを見たことすらなかった日本人はこれが価値あるものだと受け入れてしまいました。 誰も買わなければ元の作り方に戻したはずですが、誰も気づかない上にコストダウンによって儲かるということであれば、養殖真珠業者が増長するのは当然です。 養殖真珠は採るだけでも大変です。採った真珠の中から、色と形、照り艶などの質感を人が選別して揃えていくのは想像を絶する手間がかかります。 |
およそ45cmの3連の小粒天然真珠ネックレス。1cm珠で1連であれば45粒の選別で済むところを、およそ811粒というおびただしい数、人の手で揃えてあるのです。このネックレスは現代では絶対に作ることはできない、アンティークのハイジュエリーならではの宝物なのです。 |
アンティークであっても、ハイクラスのものでなければ色は揃えきれません。 でも、左のようなネックレスであっても口の上手なディーラーなら『価値ある天然真珠』とか、『マルチカラーの美しい高級な天然真珠ネックレス』と言って販売するでしょう。 物は言いようではありますが、決してハイジュエリーとして作られたものではありません。 |
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【参考】中級の天然真珠ネックレス(色ムラ) |
3-2. 小粒だからこその大変さ
約811粒の上質で揃った小粒の天然真珠を選別するだけでも大変ですが、穴を開けるのもまた大変手間のかかる作業です。小さいからこそ、ど真ん中に正確に穴を開けることも難しくなり、集中力を要する作業となります。 |
養殖真珠のように全て同じ形状、同じ大きさであれば、何も考えずにひたすらルーチンワーク的に作業すれば良いでしょう。でも、1つとして同じものはない天然真珠の場合、どこにどういう角度で穴を開けたら一番良いのか、職人の美的感覚や高度な勘に頼って作業する必要があります。 |
小粒とは言っても、1粒1粒が養殖真珠とは比較にならない価値があります。採る大変さもありますし、真珠層の巻き厚だって養殖真珠の何倍もあります。それぞれの珠は長径が2〜3mmあります。つまり1.0〜1.5mmの巻き厚があります。 養殖真珠は0.25mm以上の巻き厚があれば最高品質と言われる『花珠』に認定されます。昔から業界ではハガキを限界の厚さとしており、その官製ハガキの厚さが0.25mm(※)だからなのだそうです。(※現在の官製ハガキの厚さは0.23mm)。 養殖真珠した中で上位約5%、最高級と言われる花珠でたったの0.25mmとい薄さです。花珠以外の真珠だとどれだけ薄いのでしょうね(笑) 養殖真珠は0.25mmほどの真珠層しか無いことに対して、今回の宝物は1.0〜1.5mmの巻き厚があります。すなわち4〜6倍も厚く真珠層が巻かれているということです。 |
ジョージアン 天然真珠ネックレス 天然真珠:約2mm〜3mm、約811粒 イギリス 1830年頃 |
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【参考】養殖真珠のネックレス |
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面白くてつい計算しちゃいます。天然真珠を採取する難しさは今回考慮せず、単純に真珠層の巻き厚で比較して、今回の天然真珠は1粒当たり5倍の価値があるとしましょう。10mm珠の養殖真珠1粒がY円だとします。今回の天然真珠は巻き厚が約5倍で、5倍の価値があるので1粒当たり5Y円です。 45cmの1連の養殖真珠ネックレスを10mm珠で作る場合、必要な珠の数は45粒なので45Y円です。 今回の45cmの3連の天然真珠ネックレスは約811粒あるので、811×5Y=4055Y円です。 つまり、ネックレスに使われている真珠の価値だけで単純計算しても、今回の宝物は花珠真珠ネックレスの90倍も価値があります。花珠真珠のネックレスが10万円だとしたら、今回のような天然真珠ネックレスは最低でも900万円はします。採取のリスクや手間、穴を開ける手間、糸を使って組む手間を考えるとそんな程度では済みません。 養殖真珠にまともな価値はありません。穴開けに失敗しても痛くもかゆくもありません。失敗せぬよう丁寧に開けるよりも、多少失敗しても良いから早く穴を開けて生産コストを下げる方が重要です。 安価でいくつでも作り出すことができるのですから当然です。ちょっとくらい失敗しても、目立たぬよう組んで特別提供品として販売してしまえば良いのです。誰も気づきやしませんし、万が一気付かれても業者は「特別提供の安い商品だからしょうがないでしょ!多少難あり、使うには問題ありませんと断ってから売ったでしょ!」と言い張れば良いのです。 |
しかしながら人工的に作り出すことはできず、欲しいからと言って手に入るわけではない本当に価値ある天然真珠という宝石は、穴開けに失敗など許されません。小さば天然真珠であっても、糸を通すための最小限の大きさの穴は開けなくてはなりません。小粒の真珠は大珠の真珠よりも、真珠の大きさからすると大きな穴を開けなくてはならず、穴を開ける際に割れてしまうリスクは高いのです。大珠は大珠なりの難しさがありますが、小粒でも小粒なりの難しさがあるのです。 |
自分の大切な宝石を加工の際に割ったからと言って、職人の手を切り落としてしまったみみっちい王様がいました。そこまではやらずとも、貴重な宝石である天然真珠の穴開けには非常に神経を使ったはずです。高度な技術を持つ熟練の職人によって、およそ811粒という膨大な数の天然真珠1つ1つに丁寧に穴が開けられ、この宝物が作られたのです。 |
3-3. ジョージアンならではの上質なクラスプ
この天然真珠3連ネックレスはジョージアンならではの上質なクラスプもポイントです。天然真珠のクラスプは、制作年代を推測する重要なポイントにもなります。 |
絹糸などで組んで作る天然真珠ネックレスは、定期的に糸替えをする必要があります。 ジョージアンにもある程度の数、天然真珠ネックレスは作られているはずですが、それがほとんど現存しないのは糸替えのタイミングでクラスプも取り替えられてしまったケースが殆どだからです。 |
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母ヴィクトリアと5歳頃のヴィクトリア女王(1824-1825年頃) |
『エメラルド・リボン』 天然真珠 ネックレス イギリス 1920年頃 SOLD |
クラスプは正面からは見えませんが、持ち主のセンスや財力、当時の文化などを語ってくれる貴重なパーツです。 |
この宝物のクラスプは照り艶が美しく、白くて丸い特に上質なハーフパールが使われています。 |
しかもジョージアンらしい、手の込んだ留め方です。小さな爪だけで留めるのではなく、フレームの縁を倒して全体でしっかりと固定しています。また、薄い縁の耐久力をカバーしつつデザイン性も高めるために、爪のように見える突起状の構造がゴールドで削り出してあります。いかにもジョージアンらしい丁寧な作りです。 |
髪の毛をカバーしているロッククリスタルはフラットな板状ではなく、厚みがあって緩やかな半球状にカットされてあります。表面がよく磨かれており、とても美しいです。一見しただけでは分かりにくい所にこれだけの手間をかけてあるのが、まさにジョージアンの宝物と感じます。 |
ヘアコンパートメントには美しく編まれた艶やかな髪の毛が入っています。ジョージアンの美しいヘアジュエリーは、限られた王侯貴族だけの素敵なジュエリーです。 |
糸車と若い女性(フランス Juste Chevillet&Johann Casper Heilmann作 1762年) | 裁縫やヘアワークなどの手習いは、貴族の若い女性の教育における重要な要素の1つでした。 職人さんに頼むと他人の髪の毛を使われる可能性もあるということと、器用さをPRするということもあって、髪の毛は王侯貴族の女性本人が編んでいたそうです。 |
←↑【参考】ヴィクトリアンの中産階級の安物ジュエリー | |
ヴィクトリアン中期以降は王侯貴族に憧れた中産階級による安物のヘアジュエリーも出てきますが、さすがにジュエリーの作りもヘアワークの美しさも全く違いますね。 |
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ジョージアン貴族のハイジュエリー |
イギリス国王ジョージ4世(1762-1830年) | |
愛と贅沢に生きたジョージ4世は、亡くなった後の遺品から膨大な種類と量の髪の毛が出てきたそうです。 髪の毛は練習用に自分のものを編むこともあれば、恋人や家族など愛する人の髪の毛だけで編んだり、愛する人と自身の髪を組み合わせて編むこともあったそうです。 若々しい艶やかな髪の毛には、どんな美しいストーリーがあったのでしょうね。 |
いずれにしても、小さな三連の真珠ネックレスのために作られた特別のクラスプは、当時の天然真珠が如何に貴重で高価な宝石だったかの証なのです。 |
シャネルに憧れる日本人も少なくありませんが、本物の宝石ではなく模造品を使うコスチュームジュエリーは所詮この程度のデザインと作りです。 もともとジュエリーを買うお金がない女性たちのために、「オシャレ心を満足させるために、パッと見て高そうに見えれば良いじゃない。高価な宝石や貴金属は使っていないし、作りもこだわれないけれど、中産階級でも買える安い値段よ。」という思想で提案されたものなので当然です。 たまに「シャネルって素敵よね。」と同意を求めらることがありましたが、私はそういう時、頭の中でかなり困っています(笑) |
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【参考】模造真珠ネックレス(シャネル ヴィンテージ) |
通常、高級品は金位の高いゴールドを使うものではありますが、イギリス人は美しさに加えて、機能性とのバランスも入念に計算してゴールドを使いこなします。24Kは柔らかすぎるので、金無垢はジュエリーに向かないことはご存知の方も多いと思います。クラスプはバネッけが必要で、かつ磨耗しやすいパーツです。だから機能性と耐久性を出すために、このクラスプは9ctくらいのゴールドが使われています。 |
磨耗が激しいアンティークの15ctゴールドチェーン | これは19世紀初期のジョージアンより遥かに新しい、1900年頃の15ctゴールドチェーンです。 18ctより15ctゴールドは耐久性があるはずですが、それでも消耗しやすいパーツは100年以上の使用で磨耗してしまいます。 |
このクラスプが今でもパチッと気持ちよく使えるのは、ジョージアンの優れた職人が長く使用するために、きちんとゴールドを使いこなしたお陰です。"長く"というのは、代々一族で使ってもらうことを想定しています。壊れたら新しく買い換えれば良いという、消耗品感覚の現代ジュエリーとは全くモノづくりの思想が異なるのです。代々使えて、価値があるジュエリーだからこそ財産性があったのです。それでも、よくこのネックレスはオリジナルの状態で残っていたなと思います。 |
ヴィクトリア時代の天然真珠 ネックレス 英国王室御用達 W.G.Diclanson&Sons社 イギリス 1850年頃 SOLD |
取り替えられるのはクラスプだけではありません。 天然真珠は本当に貴重で、いつの時代も十分には足りていない状態だったので、シードパールすらもいつだってリメイクの可能性にさらされていました。 |
欲しいと思ってもいきなりこれだけの数、色や照り艶の揃った上質な天然真珠が手に入るわけはありません。 おそらくはこの美しいピアスも、古いジュエリーから天然真珠を集めて作られたはずなのです。 |
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天然真珠 フリンジ・ピアス イギリス 20世紀初頭 SOLD |
天然真珠のソートワール&ペンダント イギリス or フランス 1920年頃 SOLD |
手に入る数が限られた貴重な宝石を使って、時代ごとに流行デザインのジュエリーに作り変えられるのが普通です。 |
それにしても、リメイクの場合は真珠に穴を開ける手間は省けたとしても、よくこの数を絹糸で編み上げたものだと関心します。職人の高度な技術と手間がかかっていてこそ、見る者の心を打つ、価値ある美しいジュエリーになるのでしょうね。 |
3-4. 糸替え
最後にいつ糸替えを行ったのか分からなかったため、安心してお使いいただくためにクリーニングと糸替え済みです。 |
アンティークの天然真珠を何度も扱っている職人さんによる専門のクリーニングなので、200年近くの使用の間に付着した皮脂などの汚れを取り除き、天然真珠ならではの美しい状態に仕上げてくれました。だからアンティークの古い天然真珠とは思えないくらい照り艶も蘇っているのです♪ |
通常の養殖真珠であれば45粒程に糸を通せば済む作業ですが、1連あたり270粒ほどもある天然真珠をこうして糸替えして下さった職人さんには本当に頭が下がります。 現代にも、稀有ではありますがこういう方がいらして下さるのは本当にありがたいことです。 |
真珠が小さいのでオールノットはできず、真珠のネックレス専用のテグスで糸替えするしかないと、職人さんに預ける時に言われました。 しかしながら戻ってきてビックリ。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、それぞれ連に3箇所ずつテグスでノットを作ってあったのです。いかに小さくてもこの天然真珠に価値があるのか、職人さんが真に理解している証であり、しかも何も言わずにやってくれたサービスなのです。PRしてこられない謙虚な方なので、気づかなければ私はスルーしていました。 昔の本当に優れたジュエリーの職人さんもこんな感じだったかもしれませんね。こういう気が利いた細工に気がついた時の、オーダー主の喜びは今の私と多分同じくらい大きかったはずです!♪ |
代々大切にされ、現代の職人さんの真心もこもった素晴らしいジョージアンの天然真珠ネックレス。 ぜひ安心して長く楽しんでいただければと思います。 |
未婚の若いジョージアン貴族の女性のために作られた清楚で可憐な美しさを持つ3連の天然真珠ネックレス。 日本人女性はヨーロッパ人と比べて童顔ですし、相当高価なジュエリーとして作られたものなので、大人の女性でも美しく着けこなしていただけると思います♪ |