No.00368 深い尊敬の白バラ |
『石の絵画』と呼ぶに相応しい小さな芸術!♪
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今回の宝物![]() |
←等倍↓![]() |
ハイクラスのピエトラデュラとしては小ぶりながら圧巻の表現力です♪ |
石とは思えぬ繊細な色彩表現と複雑な造形!!
白バラの陰影と花脈までの驚異的な再現はまさに神技です!♪
普通の高級品の白バラ | 今回の神技の宝物 | ||
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異次元の作品!!
まるで本物の白バラのようなピエトラデュラです!♪
特別に仕立てられた上等なフレームは高い価値の証♪
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『深い尊敬の白バラ』 ピエトラデュラ ブローチ&ペンダント(ロケット付) ピエトラデュラ:イタリア 1860年頃 フレーム:イギリス? 1900年頃 アゲート、トルコ石、大理石、オニキス、ゴールド、シルバー、風防ガラス(ブローチピンはメタル) ※額装は参考イメージです サイズ:3.6×3.0cm ロケット外径:3.1×2.5×0.4cm 重量:17.4g SOLD |
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繊細な色彩表現が見事な最高級ピエトラデュラです。細かく複雑なのに隙間を感じない象嵌技術の高さはもちろん、陰影や濃淡、植物の筋目などがかつて見たことがないほど巧みな技で再現しています。天然石で表現したとは思えない、絵の具を使った絵画のような傑作です。 |
この宝物のポイント
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1. ピエトラデュラという細工の魅力
1-1. 古代建築の贅沢な装飾技法が元となった細工
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『石の絵画』とも称されるピエトラデュラは、アンティークジュエリーの技法の1つです。 着用できる上に、手元で眺めて楽しむことができる贅沢な美術品の1つでもありますが、実は元となるものは巨大でした。 ピエトラデュラの原型は古代ローマの床や壁面の装飾に見られる石の切り嵌め細工です。『オプス・セクティレ』と呼ばれ、古代ローマや中世ローマで流行しました。 |
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1-1-1. ローマ皇帝ハドリアヌスの別荘のオプス・セクティレ
上流階級と芸術文化は切っても切り離せません。芸術好きな君主の時代は、芸術文化が花開きます。君主がパトロンとなり、芸術家たちが才能を存分に発揮できるからです。生活に困窮し、コストカットを第一に考えながらの創作活動では真に優れた芸術は生み出しようもありません。 |
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古代ローマが最大領土を持ち、『パクス・ロマーナ』として最盛期を迎えた時代の五賢帝の一人、ハドリアヌス帝は芸術をこよなく愛しました。 当時の世界人口が2億人前後とされる中で、ローマ帝国は最大で7,000万人の人口を抱えました。東洋の中国と二分し、世界の3分の1を手中にしていたと言えます。 |
![]() "Maquette 2 VA" ©Guilhem06 at French Wikipedia(16 June 2006)/Adapted/CC BY 1.0 |
それほどの権力者が、自身の教養と好みを詰め込んで造ったのがティボリの麓の広大な別荘、ヴィラ・アドリアーナです。芸術をこよなく愛する皇帝でした。晩年はここを公邸として帝国を統治したほど好いており、敷地面積1平方km以上にも及び、あのポンペイの街以上の広さを誇ります。敷地の建物数は30を超え、随所にハドリアヌス帝の芸術好きが反映されています。 |
![]() "Villa Adriana Opus Sectile Piccole Terme" ©AlMare(September 2000)/Adapted/CC BY-SA 2.5 |
そのヴィラ・アドリアーナの床を装飾するのがオプス・セクティレです。大理石の天然の模様が面白いですね。巨大な大理石を正確にカットする技術は見事です。ハドリアヌス帝はギリシャ芸術を特に好みました。古代ギリシャは芸術や学術、古代ローマは土木建築技術の高さで知られますが、まさにそれが融合しています。 |
1-1-2. 中世ローマでも流行し発展したオプス・セクティレ
オプス・セクティレは中世のローマや近隣でも人気を博し、教会の装飾などに広く使用されました。床、壁、説教壇、司教の玉座などが石の装飾で彩られました。荘厳さの演出に、石の芸術はもってこいです。 |
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これはイタリアのテラチーナ大聖堂の床の装飾です。大理石だけでなくガラスモザイクと組み合わせた象嵌細工で、ローマの有名な職人コスマティの名を取って『コスマティ』と呼ばれています。12世紀と13世紀に特に流行しました。 |
1-1-3. ルネサンスでのピエトラデュラへの発展
これはヴェネツィア貴族コンタリー二家の邸宅として、1428年から1430年にかけて建設されたカ・ドーロ(正式名称パラッツォ・サンタ・ソフィア)です。 |
![]() "Ca' d'Oro facciata" ©Didier Descouens(10 May 2011)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
カナル・グランデに面する建築の中で最も美しく、最も古い邸宅の1つとされます。コンタリーニ家はヴェネツィア元首を8人も輩出した名門で、代々のヴェネツィア元首の生家だったとも言える豪邸です。 |
カ・ドーロのコスマティの内装(1428-1430年) | |
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内装も想像を絶するお金のかけ方です。広大な面積を装飾するための材料費、技術や手間などの工賃などを考えると、まさに国家元首の家系に相応しいと言えるでしょう。 |
![]() "Ca' d'Oro, cortile 02" ©I, Sailko(21 April 2012, 10:32:16)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
石やガラスを正確にカットする必要があるため、美しさを求めるならば一流の職人集団(親方)に依頼しなくてはなりません。石の芸術はラグジュアリーの象徴として、さらなる美しさが追求されました。 |
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そのような切磋琢磨の中で生み出されたのが、切り嵌めではなく象嵌細工のピエトラデュラでした。嵌め込むパーツと、嵌め込まれるパーツの両方の正確性の高さが必要です。複雑な模様になるほど、難易度は驚異的に跳ね上がります。芸術が極まったルネサンスだからこそ発想と実現ができた技法と言えるでしょう。 |
1-2. 世界中の王侯貴族を魅了した石の芸術
合成宝石で満足するスペック重視の現代の成金と違い、『芸術』を愛する古の王侯貴族は、天然石が描き出す自然の美しい景色をこよなく愛しました。『ピエトラデュラ』はイタリア語で「硬い石」を意味します。人の手で、天然の石を生かして創る『石の芸術』は文化や人種も超越し、世界の王侯貴族を魅了しました。 |
1-2-1. タージ・マハル(1632年着工)
ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、1631年に産褥病で死去した愛妃ムムターズ・マハルのために造ったタージ・マハルにもピエトラデュラの装飾があります。 |
![]() "Taj Mahal, Agra, India edit3" ©Yann, King of Hearts, Jbarta(22 October 2011, 1:51)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
白が印象的な建築ですよね。皇帝シャー・ジャハーンは自身の廟を、対をなすように黒大理石で造ろうとしましたが、残念ながら実現はしませんでした。 |
1-2-2. ローマ教皇クレメンス8世
ヨーロッパは世俗の権力と宗教の権力が一体化しており、ローマ教皇も教皇国家の君主として、さらにカトリック国家の君主に君主権を認めるカトリックのトップとして絶大な権力と財力を持っていました。皇帝や王より上の立場と見ることができ、元々平民ではなく高位貴族の出身者が就く立場だったため、教養を持つ学芸のパトロンとしても大きく貢献しました。 |
ローマ教皇クレメンス8世(1536-1605年)の肖像 | |
絵画 サイズ:65×52cm |
ピエトラデュラ サイズ:97×68cm |
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ピエトラデュラで多種多様な作品が生み出されました。テーブルの天板が特に人気がありましたが、他にも床や壁面装飾、ドアやキャビネットの装飾パネル、各種容器、庭園の装飾、噴水、ベンチなど様々な場所で見ることができます。 特に評価されたのは肖像画で、有名なのはローマ教皇クレメンス8世のピエトラデュラです。97×68cmの大作です。重量もかなりありそうですね。左の65×52cmの絵画より大きな作品です。 |
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既存の絵画、特に肖像画をピエトラデュラで再現するのが人気だったそうです。小さなジュエリーとは異なり、多くの人に見てもらうことを想定した大きな作品ですが、65歳頃の教皇の顔のしわ、顔の影、ヒゲや眉まで石やマザーオブパールで表現されています。作者のジャコポ・リゴッツィはデザイナーとして高く評価されていますが、これはまさに天才しかできないデザインですね。 |
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古代ギリシャはヨーロッパ美術の原点とされます。その古代より、芸術はヨーロッパの上流階級から最も尊ばれてきました。古代ギリシャの哲学者は言います。 どれだけ他の才能があっても、芸術を創造する才能、理解できる才能には及ばないという意識がヨーロッパ貴族にはありました。これは人間の根元からくるもののようにすら感じます。 |
面白い石の模様を生かしたアーティスティックな宝物 | ||
![]() ジャスパー・インタリオ 古代ローマ 2世紀 ¥2,800,000-(税込10%) |
![]() リュミエール・アゲート カンティーユ ペンダント&ブローチ フランス or イギリス 1820年頃 ¥880,000-(税込10%) |
![]() ストーンカメオ・ブローチ フランス? 19世紀初期 SOLD |
洞察力、直感、感動。これらはスペック的なもので測れるものではありません。個人に依存するから難しいですし、心からの理解には豊かな教養や経験も必須です。だから上流階級は必死で磨き上げてきました。 鉱物の種類で盲目的に価値を判断するようになったのは、庶民の時代となった現代の話です。芸術を最も愛する古の王侯貴族たちだからこそ、天然の石の模様を生かしたアーティスティックな美術品を好みました。インタリオにリュミエール・ジュエリー、カメオなど、面白い石を使ったジュエリーも様々な種類があります。 |
![]() "Botteghe granducali fiorentine, tavoli con ripiani intarsiati a pietre dure, orfeo tra gli animali e fiabe di esopo 04 cervo, orso " ©Sailko/Adapted/CC BY 3.0 |
眺めるだけで楽しいピエトラデュラは、ヨーロッパ上流階級の中で、19世紀まで定番の人気を博しました。しかしながら20世紀になると、王侯貴族の時代の終焉と共に衰退してしまいました。このような芸術に囲まれて日々を楽しんだ王侯貴族は、どのような心の持ち主たちだったでしょう。成金は、このような石の芸術には価値を見出さないようです。 |
1-3. 小さな宝物にした贅沢さ
1-3-1. 建築物をジュエリーにしたジュエリー
ピエトラデュラは、元は建築物や調度品など大型装飾品の技法だったことがお分かりいただけたと思います。それを小さな小さな宝物にしたのが、アンティークジュエリーのピエトラデュラです。 |
ローマンモザイク | ピエトラデュラ | ステンドグラス |
![]() ローマンモザイク ブローチ イタリア 1850年頃 SOLD |
![]() イタリア 1860年頃 |
![]() プリカジュール・エナメル メダイ フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
実はこのような発想のジュエリーの技法はいくつか存在します。ローマンモザイクもそうですし、ステンドグラスを小さなジュエリーで再現するためのプリカジュール・エナメルもそうです。 |
1-3-2. ヨーロッパ上流階級の『建築』の教養
1-3-2-1. イギリスのアルバート王配
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ヨーロッパの王侯貴族はあらゆる教養が必須でした。建築に関する教養もその1つです。 ヴィクトリア女王が惚れ込んだアルバート王配は、当時の首相であるメルバーン子爵ウィリアム・ラムもその非凡な才能を高く評価していました。 ドイツ出身な上に縁の下の力持ちに徹したため、ヴィクトリア女王の影に隠れた存在ですが、その才能の凄さを随所で発揮しています。 |
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ヴィクトリア女王も大好きだったスコットランドの別荘バルモラル城は、アルバート王配の好みが詰まっています。1852年の秋にアルバート王配が32,000ポンドで所有権を獲得し、ロイヤルファミリーで使用するために翌年から新しい城が建設されました。設計は建築家ウィリアム・スミスに依頼しましたが、タレット(小塔)や窓など細部に強いこだわりのあったアルバート王配はスミスの設計に修正を加えるなどし、大いに好みを反映させた城となりました。建築関連の教養もなければできないことです。 |
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アルバート王配がヴィクトリア女王のためにデザインしたサファイアのティアラ(1842年) V&A美術館 【引用】V&A museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
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そんなアルバート王配は、ヴィクトリア女王のためにジュエリーもいくつもデザインしています。このティアラもその1つで、23歳の時にデザインしたものです。可動する作りでサイズを変えることができ、ティアラだけでなく小さなコロネット(冠)としてコーディネートすることもできます。 立体デザインや動的なデザインなどは、建築とも共通します。万能の天才を何人も輩出したルネサンス期は、建築家が最初の勉強としてジュエリー制作をしていたとされます。実際、ジュエリーと共に大型の調度品などもデザインしていた実例があります。これらを考慮すると、建築物からジュエリーのデザインや技法を発想するのは違和感がない流れです。 |
![]() スコティッシュアゲート クラウン ブローチ イギリス 1868年頃(レジスターマーク有) SOLD |
教養が広く、視点が高くて視野も広いからこそ、スコットランド政策としてスコティッシュ・アゲートを流行させたことも納得です。 この宝物に英国君主の王冠がデザインされている通り、王室主導でプロモーションされました。 ヴィクトリア女王は自分の好みと言うより、アルバート王配が好きなものが好きというタイプの女性でした。だからスコティッシュ・アゲートに関しても、アルバート王配好みと言えるでしょう。 スコットランドは面白い模様の石を産出しました。知的なものを好んだとされる、アルバート王配らしいジュエリーです。 |
1-3-2-2. フランス王妃マリー・アントワネット
ヨーロッパの上流階級は男性だけでなく、女性も建築関連に教養があることが理想でした。政治や外交は男性が担当し、学芸などの文化面の新興は女性が主に担当する役割分担があったからです。 |
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フランス王妃マリー・アントワネットは宝石で秘密のメッセージを伝えるアクロスティック・ジュエリーも、ジュエリー・デザイナーのジャン・バティスト・メレリオ(1765-1850年)と共に発明したされます。 一般的な関心もあってこのようなファッション関連やゴシップ、処刑など特定の側面のみ注目されがちですが、庭園の造営や内装など建築関連にも精通していました。 |
![]() "Vue aérienne du domaine de Versailles par ToucanWings - Creative Commons By Sa 3.0 - 037 " ©ToucanWings(19 August 2013, 19:25:10)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
城は1つも新築しなかったことで知られますが、自分の心地の良い『理想の場所』を実現するため、プチ・トリアノン宮殿をフランス王に即位した夫ルイ16世に要求し手に入れました。元々はポンパドゥール夫人に建設された離宮でしたが、その一角に様々な家畜を飼い、農場、製粉所、漁業、酪農場、見張り塔なども備えた1つの『理想の農村集落』へと仕立てました。『王妃の村里(ル・アモー・ドゥ・ラ・レーヌ)』と呼ばれます。 |
![]() "Pano - Hameau de la Reine vu depuis la tour de Marlborough" ©Trizek(17 June 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
太陽王ルイ14世によるフランス式庭園のヴェルサイユ宮殿は元々、臣民を威圧し、精神的に従わせることを目的に設計されました。マリー・アントワネットは威圧的で心が落ち着かないヴェルサイユ宮殿を好まず、当時最先端だったイギリス式庭園をベースに、自然な美しさを感じる景色を専門家と共に設計しました。 |
![]() "Pano - Maison de la Reine" ©Trizek(17 June 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ルイ14世は理想とするヴェルサイユ宮殿の具現化のため、頻繁に現場に赴いて細事に渡るまで指図し、気に入らない箇所があれば何度でもやり直しを命じました。新作ドレスのためにも週2回、数時間も仕立屋ローズ・ベルタンと綿密に打ち合わせしていたマリー・アントワネットですから、王妃の村里全体にも情熱を注ぎ、好みを行き渡らせています。外観のみならず内装にも及ぶので、相当な知識を持っていたことは間違いありません。 |
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そんなマリー・アントワネットを象徴するのが、マリー・アントワネット様式(ルイ16世様式)です。 古代ローマや古代ギリシャ美術にインスピレーションを受けたスタイルです。 |
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イタリアでヘルクラネウム(1738年)、続いてポンペイ遺跡(1748年)が発見され、古代遺物の発掘が相次ぎ、実物の古代美術が注目された時期でした。 それらにインスピレーションを受け、最先端のスタイルとして新たに生み出された様式です。 |
![]() (古代ローマ 2世紀)ポンペイ遺跡 |
古代美術に関しても当時の最先端に関しても、内装も含めた建築関連の広い知識と深い理解があるからこそ、古代の叡智を取り入れ、新たなる優れた様式が生み出せるのです。 |
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つまり王侯貴族の中でも傑出した才能を持つ人物は、ジュエリーと建築の両方の教養を持っているため、建築技法を反映させた新しいスタイルのジュエリーを発想して生み出せるということです。教養と知識なしに、このような宝物は生み出せません。だから必死に努力するのです。 |
1-3-3. 古代ローマ建築からの発想という強い魅力
ヴィラ・アドリアーナの内装(2世紀初頭) | |
オプス・セクティレ | ローマンモザイク |
![]() "Villa Adriana Opus Sectile Piccole Terme" ©AlMare/Adapted/CC BY-SA 2.5 |
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ヴィラ・アドリアーナには、オプス・セクティレとローマンモザイクの両方があります。左は床面装飾で、右はダイニングルーム用の壁面装飾です。大帝国を統治したハドリアヌス帝は、贅沢に両方を楽しんでいたわけですね。 |
ヴィラ・アドリアーナの内装(2世紀初頭) | |
ピエトラデュラ | ローマンモザイク |
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![]() イタリア 1850年頃 SOLD |
その両方が後年のヨーロッパで、このような小さな宝物として新しく生み出されているのが楽しいです♪ 大勢で共有して眺める床や壁面の装飾と違い、小さな宝物は個人が手元で楽しむためのプライベート色の強い芸術です。極めて贅沢な存在です。ヨーロッパの王侯貴族にとって、ご先祖様でもある古代ローマには特別な響きがあります。古代ローマに通ずる美術品ということで、芸術好きな人にとって一際たまらない魅力があるのがこれらの技法なのです。 |
2. 白バラの陰影が見事な圧巻のピエトラデュラ
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このピエトラデュラを初めて見た時、白バラの陰影の美しさに驚きました。 本当に石で作っているのかと疑ってしまうほど、絵の具で描いたかのようなリアルさです。 『石の絵画』とも称されるピエトラデュラですが、ここまで良いものは本当に少ないです。 |
2-1. 品質がピンキリのピエトラデュラ
ピエトラデュラ、ローマンモザイク、スコティッシュアゲートは高価な宝石を使わない分、庶民向けの安物もたくさん作られました。宝石物のジュエリーならば宝石の質で判断できますが、このような細工物は芸術性と作りで判断することになります。 ローマンモザイク然り、流行は高位貴族から地方の上流階級、中産階級へと時間をかけて降りてきます。だから初期は優れたものが生み出され、後年になるほど安っぽく陳腐化していく傾向があります。ローマンモザイクは素材がガラスですが、ピエトラデュラ同様、天然の石をカットしてデザインするスコティッシュアゲートもピエトラデュラと同じような劣化を辿ります。 |
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『スコットランドの秋』 スコティッシュ リーフ ブローチ イギリス(スコットランド) 1860年代 SOLD |
初期は1つ1つの石が丁寧に選別され、高度な技術でカットされていることが分かります。 どの石を見ても模様に魅力がありますし、複雑な形にカットされた石も、隙間なく綺麗に収まっています。 |
![]() イギリス 1860年頃 SOLD |
これは10年以上前にGenがご紹介した、スコットランドのケアンゴルムス産のシトリンも使用した最高級スコティッシュ・アゲートです。 ピエトラデュラのような象嵌で作られており、「僕はこんな珍しいスコティッシュは今まで見たことがありません!」と感激していた宝物です。 複雑で精密な石のカット、そしてフチは面取りも施されています。 |
王侯貴族の最高級品 | 【参考】庶民向けの安物のスコティッシュアゲート | |
![]() イギリス 1860年頃 SOLD |
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後年のスコティッシュアゲートは庶民の膨大な需要に材料も生産も追いつかず、外国の石を使ったり、石のカットはドイツのイダー=オーバシュタイン、組み立てはバーミンガムに外注するような始末でした。日本で和小物を買ったら中国製だった、みたいなものです(笑) 流れ作業で工業生産的に作られているため、石は効率良くカットできる単純なフォルムです。模様も1つ1つ丹念に選んだりしないため、まとまりや美しさはありません。1900年頃になると、ただ天然石が使ってあるだけで、彫金細工もなかったりします。 |
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ピエトラデュラも同じ視点で判断できます。 石の模様や色彩へのこだわり、カットの複雑さと精密さで品質が分かります。 |
2-2. 天然石を駆使した素晴らしい色彩表現
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いくつかの花々を組み合わせていますが、主役は白バラです。天然石を使った白バラの表現は特に圧巻です!! |
2-2-1. 石で陰影を表現する重要性
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19世紀のピエトラデュラはお花のモチーフが定番です。 フィレンツェやナポリ、ローマなどのイタリアの工房で数多く作られており、中級品でも葉っぱは陰影を綺麗に表現したものも多いです。 上級品とそうでないものの差として最も分かりやすく現れるのが、主役のお花の表現です。 |
2-2-2. 陰影が乏しく生気が感じられない低級品
現代と違い、アンティークジュエリーは安物でも職人が手仕事で作るので、それなりの手間がかかっています。職人の技能に強く依存するため、石を選ぶセンスや、カットの複雑さと正確性などに違いがあります。 |
【参考】安物のピエトラデュラ | |
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『石の絵画』と称されるピエトラデュラですが、安物は石の選び方もセンスが感じられず、ベタ塗りのような画一的な色彩の場合も多いです。単純すぎる色彩表現はまるで子供の塗り絵のようで、心を揺り動かす感動的な美しさは皆無です。ピエトラデュラはモザイクだけでなく、パーツそのものの色彩グラデーションとの組み合わせで表現するので、石の表情は必須なのです。 |
2-2-3. 人を強く魅了する白いバラ
Genは白い花が大好きです。ベルビー赤坂にお店があった1980年代、センスの良い若夫婦のお花屋さんに頼んで、いっぱいの白いお花を飾っていたそうです。 |
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これはそんなGenが撮った、冬の夕暮れのパレロワイヤルの白ばらの景色です。21年前、56歳頃のGenの心の景色が伝わってきます。カラフルな色彩も美しいですが、白には人をハッとさせる孤高の美しさがありますね。 |
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これは61歳頃のGenが、「今まで見てきたバラの中で一番綺麗かな?」と言う白バラです。市ヶ谷のアトリエのご近所さんのお庭で毎年咲きます。塀に囲まれた高い位置のお庭で育てていらっしゃるので、見上げるバラです。遠景までビルだらけの都会ですが、ここは美しい空と白バラだけの景色が楽しめます。 |
深い尊敬の白バラ | |
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そんなGenを理解し、白バラを贈ってくださる常連のお客様がいらっしゃいます。選び方や贈り方が古の上流階級そのもので、その類い稀なるセンスにGenも驚くと共に、美しさと真心に大感激していました。 ご自身で様々なテーマを考えられる方で、Genに対しての深い尊敬を込めた『白バラ』をテーマにして下さったそうです。両方とも同じ方が、同じ白バラをテーマに選んだものです。表現の幅の広さに私も感激しました。豊かな感性、豊かな心、そして類い稀なるセンスを持ち合わせた方は、毎回異なる感動を与えることができるのだと実感しました。『社交界の花』とは、こういう女性だったのだろうと想いを馳せます。 |
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手塩にかけて育てられた一輪の白バラは本当に見事で、たった一輪でいっぱいの花束に勝る魅力がありました。 育てた方の真心も、贈って下さった方の真心も、贈ってもらったGenの大感激の心も強く伝わってきます。 白バラは普遍かつ特殊な存在です!♪ |
2-2-4. 難易度の高い白いバラの表現
普遍の魅力を持つ白バラはピエトラデュラのモチーフとしても人気が高く、様々な表現を見ることができます。 |
【参考】HERITAGEは扱わないクラスのピエトラデュラ | |
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しかし、白バラはのっぺりとした印象のものが多いです。左はHERITAGE基準は満たさないものの、一般的には高級品に分類されるクラスです。マーガレットの花芯や葉っぱはグラデーションになった石が使用されているのに、白バラはただの均一な白い石で表現されています。花びらがモザイクの境目として視認できるので、かろうじて白バラと認識できますが、白の表現が単調です。 |
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実は『白』は芸術の観点で、最も表現が難しい色です。写真を撮る時も白飛びしやすく、そうでなくとものっぺりとした印象になりがちです。そんな時、影が効果的だったりします。ライトを当てる角度でも印象が変わります。 |
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白い花の場合、光の透け感も重要です。ただ、これを絵の具や色鉛筆で再現しようとした場合、多くの人はどう表現したら良いか途方に暮れると思います。 |
アーティスティックな宝物 | 【参考】普通の高級品 |
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今回の宝物は白バラの陰影が驚異的です。この表現だからこそ、まるで絵の具で描いた絵画のようにも見えますし、正気を宿した生き生きとしたお花らしさを感じるのです。 |
2-2-5. 白バラの花びらの驚異的な再現
探してみると、過去48年間で思いの外ピエトラデュラのお取り扱いの数は少ないです。Genも私も"普通の高級品"では不満足で、特別な輝きを放つ、心にグッとくる宝物しか選ばないからです。 |
![]() ピエトラデュラ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
![]() イタリア 1870年頃 アゲート |
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![]() ←等倍↑ |
Genのお眼鏡にかなったピエトラデュラを見ると、バラのモチーフはあるものの白バラではなく色彩があります。 表現方法を見てみましょう。 |
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このピエトラデュラも、僅かなグラデーションや色彩の違いで奥行や陰影を表現しています。石の模様の角度にも、よく注意が払われていることが分かります。 |
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色がある方が、僅かな違いは表現しやすいです。この白バラは確実に神懸かっています。表面は平らですが、花びららしい筋目があり、しかも花びらの外側は白い色彩が濃く、内側は影のような陰影となっています。このような石が存在すること自体が謎に感じます。 |
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これはHERITAGEでは扱わないクラスのバラの表現です。普通な感じしかしないものの、一応は高級品なので石はしっかり選ばれています。 直線方向に石の筋目があり、筋目を考えながら花びらの形にカット&セットしていています。 |
ピエトラデュラによる白バラの表現 | ||
下の方の高級品 | 普通の高級品 | 神技の宝物 |
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中級品 | 市場全体で見れば、上の中央の白バラで十分な表現がなされていると言えます。牡丹のようにも見えますが、花びらの枚数も多いです。 今回の神技の宝物はとにかく別格です。石に浮かび上がる花脈のような筋目と言い、陰影や奥行を感じる白の絶妙な濃淡と言い、全てが完璧です。 |
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『不完全の美』を理想の美とする日本人は、咲く前や終わった後の花にも美を見出します。これもGenがご近所で見た景色です。雨上がりの朽ちた白バラです。水に濡れて花びらの一部が透明化し、筋目のような花脈が浮かび上がっています。お風呂でバラ風呂を楽しんだ後も、こんな感じになりますね♪ |
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お花の陰影のみならず、花脈までも再現したようです。自由がきく絵の具でなら理解できますが、天然石でそれが可能だなんて想像もしませんでした!花びらの複雑な形状に沿って、都合よく陰影がグラデーションになっているのは不思議です。 |
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そんな天然石もあるのかもしれませんが、これは通常のピエトラデュラとは違う工夫があるかもしれません。通常は均一な厚さでカットして松脂で嵌め込みますが、白バラだけは裏側で石の厚みを調整している可能性があります。石を薄くすることで、白の濃さを弱めて透明感を出し、背景の黒が透けることで陰影を表現できます。ただ、それをするには嵌め込まれる側のオニキスも、形を追従させる必要があります。 都合の良い天然石が存在し、それを上手く生かしたのかもしれませんし、石の厚みで白の陰影を調整した可能性もあります。いずれにしても、センスの精密さを要する神技の細工です!! |
アーティスティックな宝物 | 【参考】普通の高級品 |
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肉眼で見た時も、白バラの陰影表現が凄すぎて訳が分からないと感動しましたが、超拡大するともっと訳が分からなくなると共に大感激しました。敢えてスズランはハッキリとした白で表現し、主役の白バラを際立たせたのでしょう。精緻な細工ということだけでなく、芸術性の高さから見ても空前絶後のピエトラデュラです!!♪ |
2-3. 難易度が高い複雑な形状の象嵌
サイズにも依ますが、時代が降って質が低下するほど、石のフォルムも単純化していきます。ピエトラデュラは、正確に同じ形状でカメオとインタリオを彫刻するのに似ています。石の色彩や模様は選ばずに済ませることができますが、基材フレームと嵌め込みパーツの精密なカットは逃げることができません。 |
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理想を実現するために技術を駆使し、必要によっては新技術を新たに開発する、アーティスティックな最高級品の制作とは方向性が逆です。 低い技術でも、それなりに見えるものが作れるという観点でデザインします。デザインは後回しです。 「これなら作れる。」程度の、子供の工作のような単純なデザインです。 |
【参考】安物のピエトラデュラ | |
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単純なパーツで表現できるパンジーは、安物にも重用されました。美しいグラデーションを再現した高級品のパンジーもありますが、単色の石で表現したこのパンジーはあからさまにのっぺりしています。バラに関しても安物は花びらの枚数を少なくしたり、花びらの形状が単純化される方向が見られます。 |
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あまりデフォルメし過ぎると、何の花だか分からなくなったりします。 ただ"ピエトラデュラ"であるということと、安さだけを理由に買う人向けです。 別に悪いことではありません。価値観の問題ですし、違いが分からない人には本当に分からないのです。 |
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ちなみに技量に合わないデザインにチャレンジすると、こんなことになります。 でも、こんなものでも100年以上も残っているんですよね。そして、現代でもそれなりの値段で買う人がいます。 分かっていなくても自分は分かっていると思っている人は多いですし、分かっていなくても芸術作品やジュエリーに憧れを抱く人は多いからこそです。 |
アーティスティックな宝物 | 【参考】普通の高級品 |
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さて、右はHERITAGEでは扱わないクラスですが、高級品なのできちんとした職人が作っています。だから花びらや葉っぱの複雑な形状にもきちんと挑んでいますが、心を動かす何かは感じない、ただ上手なだけの"秀才"の作品です。 一見すると似たような複雑なフォルムでも、今回の宝物は僅かな角度や配置、組み合わせなど、ちょっとした部分の総合によって驚くほど深い奥行を表現しています。類い稀なセンスが必要で、ここが天才と秀才の大きな境目となります。限られた人しか到達できない領域です。近そうで無限に遠い、凡人には絶対に到達し得ない場所です。 |
![]() ピエトラデュラ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
![]() イタリア 1870年頃 アゲート |
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![]() ←等倍↑ |
まず、今回のピエトラデュラは小さめなことをご留意ください。 大きいほど複雑にデザインしやすいですが、小さいと細工の難易度は跳ね上がります。 |
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バラの葉っぱはギザギザが多い上に溝が深く、しかも1つ1つのギザギザに豊かな表情があります。非常に個性があり、こんなに巧みに表現され分けたものは見たことがありません! |
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フクシアは下向きに咲く美しい花であることから「貴婦人のイヤリング」とも呼ばれ、「センスが良い」、「上品な趣味」、「慎ましい愛」、「信じる愛」などの花言葉があります。 アンティークジュエリーでもたまに見かけるモチーフですが、ピエトラデュラでの表現は難易度が高く、初めて見ました。 天然石のグラデーションの色彩がとても美しいですが、目を見張るのはやはり、アーティスティックで巧みなカットの表現です。 葉っぱも1つ1つに表情があります。秀才の作品とは比較にならない感動があります!♪ |
【参考】現代の宝石研磨機 | |
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動力は現代と当時で異なりますが、石を回転盤に石を押し付けて削っていくのが通常です。この作業は、私も研究所時代に経験があります。均一に当てて固定するのが難しいですし、忍耐力も必要な、技術の要る作業です。大きいものは素手で固定できますが、小さい場合は右のように固めるなどして治具を利用します。 |
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ピエトラデュラのパーツは、形が単純な部分は回転系の研磨機を利用できます。しかし、凸ではなく凹状の溝部分は棒状の細い鑢(ヤスリ)で丹念に磨いて削る必要があります。手動同士でも、回転盤を使う方が遥かに早くて楽です。葉っぱや花びらの複雑なパーツは、相当な手間をかけていることは間違いありません。また、嵌め込まれる側のオニキスはそもそも回転系の研磨機は使えません。 |
![]() ピエトラデュラ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
![]() イタリア 1870年頃 アゲート |
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![]() ←等倍↑ |
細かく複雑になるほど、技術と手間は指数関数的に跳ね上がります。 今回の宝物は最高級品の中でも異才を放つ、特別な作品と言えるのです。 |
3. センスの良いリメイク・フレーム
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この宝物はフレームも特別です。このようなフレーム・デザインのピエトラデュラは他に見たことがありません。 |
![]() ピエトラドュラ ブローチ イタリア 1870年頃 アゲート |
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高級品の場合、年代的や国柄、撚り線などの金細工を駆使したオーソドックスなヨーロッパ・デザインが通常です。 |
今回の宝物のフレームは1900年頃に出てくるような、新しい時代を感じるスタイリッシュなデザインです。ピエトラデュラそのものの作りは1860年頃なので、フレームは好みに合わせてリメイクされたものと推測できます。 |
3-1. 流行で変化するフレームのデザイン
私たちがアンティークジュエリーの年代を推定できるのは、作りや素材などと共に、時代ごとに流行のデザインがあるからです。安物の場合は高位貴族から流行が降りてくる時間差があるのと、現代でも作れるような細工だったりするので正確な推定はできませんが、時代の最先端を反映する上位貴族のためのハイジュエリーに限り、判断が可能です。 |
フレーム・デザインの傾向 | ||
![]() ストーンカメオ・ブローチ フランス? 19世紀初期 SOLD |
![]() ネオ・ルネサンス ボルダーオパール・カメオ ブローチ イギリス or ドイツ 1860年頃 SOLD |
![]() シトリン・カメオ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
たとえばストーン・カメオのフレームは、19世紀初期のジョージアンだと上質なシンプルという傾向がありました。装飾があったとしても控えめで、主役のカメオを上回る存在感はありません。上品さや清楚さが好まれた時代です。 時代が降り、パクス・ブリタニカとなるミッド・ヴィクトリアンはパワフルなデザインが好まれました。女王が君主だった時代、君主が控えめでは国益が守れません。女性にも格調の高さや威厳、パワフルさが必要で、それがフレームのデザインにも反映されています。 |
19世紀後期のハイクラスのストーン・カメオ | ||
![]() ブローチ&ペンダント フランス? 19世紀後期 SOLD |
![]() ブローチ&ペンダント イギリス 19世紀後期 SOLD |
![]() ブローチ&ペンダント イギリス 1890〜1900年頃 SOLD |
1861年にアルバート王配が崩御し、ヴィクトリア女王が喪に服して引き篭もるようになると、女性のファッションリーダーは王太子妃アレクサンドラに移っていきました。妃として夫を支える立場となるため、再び清楚で気品ある雰囲気が好まれるようになりました。右のフレームは装飾性が高いですが、一般的なミッドヴィクトリアン・ジュエリーに見られるような主張の激しさや成金感はなく、透かしや古代ギリシャのアカンサス模様などを配した、知的で上品な雰囲気にデザインされています。 このように脇役となるフレームのデザインにも持ち主の好みだけでなく、時代ごとの流行と傾向があります。並々ならぬこだわりを持つ人は、右の宝物のようにフレームにまで主役に勝るとも劣らぬ情熱を込め、総合芸術として昇華させます。額縁であるフレームはただの脇役や付属品的になりがちですが、最高クラスの美意識を持てる人は、間違いなくフレームも徹底してこだわります!♪ |
3-2. リメイクは『価値』の証
3-2-1. オリジナルのフレーム
1860年頃のイタリアでは、古代エトルリアの発掘品に触発されて研究開発された高度な金細工が知的階層の上流階級に流行していました。 |
1860年頃のイタリアのデザイン | |
![]() カステラーニ ゴールド&珊瑚ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
![]() ピエトラデュラ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
イタリアのトスカーナにかつて存在した古代エトルリアの金細工技術は史上最も高度だったとされ、19世紀はもちろん現代でも完全な再現は不可能です。ナショナリズムの背景もあり、イタリア人のプライドにかけて再現したものでした。 エトルリア人はどこかに消え去ったとされますが、古代ローマを建国したのがエトルリア人とも言われます。少なくとも王政ローマの7人の王のうち3人はエトルリア系であることが分かっており、エトルリアの高度な文化や技術は古代ローマに受け継がれています。だから、古代ローマのオプス・セクティレを原型とするピエトラデュラのフレームとして、これほど相応しい細工はないのです。 |
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高級品として作られたピエトラデュラには、撚り線や粒金など古代に通ずる金細工でデザインされるのが一般的でした。 |
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この宝物も、おそらくそのようなフレームが付いていたはずです。しかし、流行はやがて時代遅れとなっていきます。 ピエトラデュラの制作は1860年頃ですが、フレームは1900年頃とみられます。40年も経てば、デザインも古くなります。 時代に合わせるため、あるいは持ち主の好みという理由でリメイクされたのでしょう。 |
3-2-2. リメイクは当たり前の王侯貴族のジュエリー
【稀少性】メアリー王妃のラヴァーズ・ノット・ティアラ
アンティークの時代、王侯貴族がジュエリーをリメイクするのは普通のことでした。宝石に稀少価値があったからです。合成石や処理石が当たり前の現代では、いくらでも新品を買うことができます。量産品を新しく買う方が、リメイクするより遥かに安いです。しかし、いくら財力と権力があっても、稀少性の高い天然宝石は好きなだけ手に入れることはできませんでした。だからリメイクが必要でした。 |
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英国王ジョージ5世妃メアリー・オブ・テックはジュエリーが大好きで、しょっちゅうリメイクしていたことでも有名です。 王室の宝石リストを制作させたり、貴族の家を尋ねた際は家宝を褒めちぎり無理やり献上させていました。「良く言っても強盗の一歩手前のような方。」と悪評が立つほどで、大事なものはメアリー妃には知られないようにすることも貴族にとって重要だったそうです。 イギリスに亡命したロマノフ家の人々もメアリー妃に見つからぬよう必死に隠しましたが、結局取り上げられたというエピソードが残っています。 相当な人物ですね。モノそのものより、振る舞いによる人物としての評価を最も大事とする社交界に於いて、まさに新時代を象徴する王妃です(笑) |
リメイクされたラヴァーズ・ノット・ティアラ | |
1913年作のオリジナル![]() |
上部の天然真珠を取り外し後![]() |
そのような人物がかき集めて作らせたのがラヴァーズ・ノット・ティアラです。これだけ大型の天然真珠なので、いかに英国王室といえども集めるのに大変苦労したそうです。その後、ティアラはリメイクされています。このクラスの天然真珠は、英国王室でも新しく買い増すことは簡単にできません。市場に存在しなければ、どれだけお金があっても買うことはできません。だからリメイクするのです。 |
【好み】ヴィクトリア女王のオリエンタル・サークレット・ティアラ
アルバート王配が、自身が主導した第1回ロンドン万博(1851年)で東洋美術にインスピレーションを受け、愛する妻ヴィクトリア女王のためにデザインしオリエンタル・サークレット・ティアラもリメイクされています。 |
【参考】現代の宝石研磨機 | |
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![]() 【出典】Royal Collection Trust / The oriental tiara © Her Majesty Queen Elizabeth II 2021 |
もともと宝石は、ヴィクトリア女王夫妻が大好きだったオパールがあしらわれました。しかし、ティアラを継承したアレクサンドラ妃はオパールが好みではなく、ルビーに取り替えました。かなり雰囲気は変わっていそうですね。オパールには東洋のイメージがありませんが、ルビーなら東洋の宝石です。 オリエンタルな全体のデザイン自体は気に入っていたからこその、お金と手間をかけてのリメイクと言えます。宝石を回収されて後は用なしとされるリメイクがある一方で、オリジナルの良い部分を生かして自分好みにするリメイクもあります。 |
3-2-3. 滅多にない宝石以外でのリメイク・ジュエリー
![]() アールデコ ダイヤモンド クロス・ペンダント ポーランド(ワルシャワ) 1930年頃 ¥750,000-(税込10%) |
宝石の場合、リメイクに使うことは多いです。稀少だからというのが理由の1つです。 それ以外に、ルースの場合は、全体のデザインを決めてしまうほど強い個性がないことです。時代ごとの流行や、持ち主の好みに合わせて新しく自由にデザインできます。 |
![]() ストーンカメオ ペンダント カメオ:イギリス 19世紀初期 フレーム:イギリス 1900年頃 SOLD |
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これは19世紀初期の小さなストーンカメオで、フレームは1900年頃のものです。面白い石の生かし方はもちろん、軍神アテナの彫りも見事です。絶世の美女とされる女神アテナのシルキーマットな肌と、兜の磨き上げられた光沢との対比も素晴らしい傑作です。 |
オリジナルはブローチとして作られたと推測します。当時このようなフレームのデザインはあり得ず、1900年頃にペンダントとしてリメイクされたとみられます。小さなペンダントに相応しい、閃光を放つ小さなローズカット・ダイヤモンドの透かしのフレームがピッタリです。 |
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相当なお金もかかりますから、リメイクしてでも使いたいと思わなければ、リメイクされることはあり得ません。 芸術作品として「同じものは作れない。」、それどころか「これより素晴らしいものは作れない!」と確信できるほど強い魅力がなければ、このようなアート系の作品はリメイクされることがありません。 上質なリメイクは、芸術作品として高い価値を見出された証です。稀少価値が分かりやすい宝石と違い、芸術はそこまでの魅力と価値を備えることが難しいです。だからこそ、このようなリメイク作品は滅多にありません。 |
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オリジナルの持ち主と共に、リメイクした1900年頃の持ち主も芸術作品としての価値を明確に理解し、心から愛した証です。 それが納得できる、芸術作品としての心を揺り動かす無二の美しさを備えています。 |
3-3. 上等な銀細工の高級感あるモダンなフレーム
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フレームはシルバーとゴールドで制作されています。他には見ない、モダンなデザインです。 19世紀までのオーソドックスなヨーロピアン・デザインから脱却した、当時最先端のデザインです。いかにも流行の最先端を行く、上流階級らしい趣向です。 小物の場合は高級品でもシルバーが一般的ですが、ジュエリーではダイヤモンドのセッティング以外で使用される機会は少ないため、優れた銀細工の魅力を堪能できるジュエリーは少数派です。 |
3-3-1. オニキスにぴったりのブラック・シルバー
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アンティークジュエリーのシルバーは経年で黒ずむものと、そうでないものがあります。 ゴールドを色味が変わらない程度に薄くメッキして硫化や塩化などの化学反応を防いだり、割金の配合で意図的に黒ずまなくするものもあります。 美しい銀細工の工芸品に囲まれて優雅に暮らす王侯貴族がいた時代、上流階級はシルバーも目的や好みに応じて使いこなしていました。 |
全く磨かなくても変色しないシルバー製品がある一方、この宝物は良い感じに黒く落ち着いています。日本には侘び寂びを愛する文化があります。『寂び』とは、時間の流れによる変化から生じる趣ある美しさを言います。ヨーロッパ貴族にも同様の意識があり、『パティナの美』と呼ばれました。シルバーの黒化もその1つです。 |
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日本人もそうであるように、ヨーロッパでも誰でもこの美を理解しているわけではありません。分かっていない誰かの手を通ると、磨き上げられて不自然にピカピカになった状態で市場に出てくることもあります。『パティナの美』は価値の1つなので、分かっているディーラーは磨かずに紹介しますし、ピカピカになった状態のものは愚痴を言いつつガッカリしながら見せてくれたりします。 |
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作りたてはピカピカのシルバーの状態です。経年変化を計算しながらデザインします。作られてから120年以上もの時が経ち、完成しています。 職人はこの理想の姿を想像しながら制作し、持ち主も慈しみながら成長を楽しんだはずです。徐々にオニキスの漆黒に馴染んでいく様子は、愛おしかったに違いありません♪ |
最初からこの状態で作ることはできません。化学的な黒化処理はありますが、単純な黒ずみだけの話ではありません。時間が経過したからこその、総合的な古い味わいこそが全体に趣を添えているのです。これこそがまさに『お金では買えない価値』であり、アンティークの証でもあるです。 |
3-3-2. 厚みのあるシルバーへの彫金
ダイヤモンドのセッティング以外でシルバーが使用されるジュエリーは、強いこだわりを持って作られた特別な高級品と、ゴールドを買うお金がない層を対象とした安物に大別できます。 |
スコティッシュアゲート | ||
最高級品 | 中級品 | |
![]() スコティッシュアゲート クラウン ブローチ イギリス 1868年頃 SOLD |
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スコットランド産の面白い天然石を使用するスコティッシュアゲートは、最高級品でもシルバーが基本です。使用する石の質だけでなく、シルバーの作りで品質が判断できます。 中級品はシルバーの分量が薄くペラペラで、フォルムも扁平です。ちなみに右は磨きすぎですね。黒ずんだシルバーの方が石の黒い模様に馴染むでしょうに、返って安っぽく見えます・・。 |
王冠&コロネット部分の拡大 | ||
最高級品 | 中級品 | |
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王侯貴族のために作られる最高級品は、ゴールドを買うお金がないわけではないのでシルバーを存分に使用できます。ゴールドを買うお金がない層にとって、シルバーですら気軽なものではありません。なるべく安く抑えるため、どうしても分量は少なめにされます。厚みがない分、彫金もペラペラかつ平面的で安っぽく感じます。そもそも高級品は任されることのない、技術が不十分な職人が作るので作りも稚拙です。 |
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高級品はたっぷりとシルバーを使用し、立体デザインにも余念がありません。 厚みや立体的なデザインが、格調の高さと高級感に直結します。 |
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透かしデザインを駆使したこのフレームは、シルバー部分に細線が彫金されています。 絶妙な深さがあることで筋目が際立ち、繊細な美しさがあります。 |
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厚みを持たせ、サイドにも同様の彫金が施されています。シルバーが黒化することで、凹凸が際立っています。手などに触れない溝は、より黒く見えます。シルバーの経年変化があってこその美です!♪ |
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四隅の精緻な作りも見事です。正確なストライプの彫金も相まって、格調高い美しさが抜群です♪ |
3-3-3. 裏側の彫金で分かる美意識の高さ
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感激したのは、裏側まで同等の彫金が施されていることです。古い時代だと、裏側までしっかり彫金されているものもたまに見かけますが、1900年頃になるとそこまで美意識を込めたものは滅多に見なくなります。 |
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僅か1.5mmほどの幅の中に、4本もの溝を精緻に彫っています。見えない裏側までの美しい彫金は、使う人のためだけの贅沢です。心の満足を楽しめる人の特注品です♪ |
高度な銀細工を駆使したハイジュエリー | ||
![]() カボション・ガーネット ブローチ フランス 19世紀中期 SOLD |
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Genが例外的な存在と認めるこの高級シルバー・ブローチも、たっぷりと使ったシルバーと立体造形が特徴で、裏側までしっかりと彫金でデザインされています。 |
![]() 小鳥たちとバスケットのブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
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これは360度の作りになっていて、正面からは見えない部分のシルバーの彫金も見どころの宝物でした。小鳥たちは、シルバーをたっぷりと使ったリアルな造形です。 |
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真後ろのみならず斜めの角度など、あらゆる角度から見て堪能できる宝物です。自立する作りで、まさに『芸術』として眺めて楽しむことを想定して作られています。 |
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裏側までの彫金やデザイン性の高いブローチピンの収納、つまみ付きのロケットのフレームなど、見えない部分までのこだわりは、芸術を心から理解して愛する人ならではです。そこまでの宝物はアンティークのハイジュエリーでも滅多にないからこそ、出逢えた奇跡を光栄に感じますし、とっても嬉しいです!♪ |
3-3-4. 細部までの徹底したこだわり
ブローチだけでなくペンダントとしてもお使いいただけます。ボリュームあるドレスが流行したミッドヴィクトリアンは、張りのある厚めの生地が流行し、ブローチが重宝されました。19世紀後期から20世紀初期にかけてはオーガンジーなどの透け感ある柔らかな生地が流行したため、ペンダントの需要が高まりました。フレームのリメイクは、それに合わせる意図もあったのでしょう。 |
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サイズが合わないものを無理に通さないでいただきたいですが、バネっけがあるので通常のチェーンやシルクコードは通ります。もし破損された場合も専門の職人がお修理できますので、神経質になり過ぎることなく楽しんでいただきたいです。 |
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ロケット本体もシルバー製で、黒化して良い雰囲気になっています。4mmほど厚みがありますが、ガラスに厚みがあるのでお写真や思い出の布、押し花など薄いものが適しています。アンティークジュエリーのロケットは小さいものが多いですが、このロケットは外径30×23mmの大きさがあり、現代人にも使いやすいと思います。 |
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ロケットの入れ替えは職人さんに依頼した方が良い場合もありますが、フレームにつまみがあって簡単に取り外せるので、そこまで器用な方でなくても扱っていただきやすいと思います。隙間なくピッタリ収まるロケットは、上質な作りの証です。 |
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正面からは被せるようにセットした、透かしのゴールドも立体感があります。フラットにデザインされており、面としてゴールドが強く輝く瞬間が印象的です。 |
![]() ピエトラデュラ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
![]() イタリア 1870年頃 アゲート |
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![]() ←等倍↑ |
高級なピエトラデュラは大きめのものが多く、着用すると存在感と知的な美しさが際立ちますが、多くの日本人女性にとっては、使いこなすのが難しい感じることもあるようです。 |
今回はペンダントとブローチの両方で使え、しかもピエトラデュラとしては小ぶりなので、品良くコーディネートしていただきやすいと思います。スタイリッシュなリメイク・フレームによって、現代の装いにも合わせやすくなっています。シルバーだけでなく、十分な存在感を放つゴールドも使用されているので、高級感もしっかりあるのが魅力的ですね。 高級ピエトラデュラは宝石を使用しないゴールドだけのフレームが一般的なので、ゴールド目当てにフレームを取り外されることもあるようです。フレームがないルースの状態で、直接ブローチ金具などを接着して販売するタチの悪いディーラーも存在します。フレームにセットされていないアンティークのピエトラデュラはあり得ません。おカネ目当てに、簡単に文化を破壊してしまう人が世の中には存在します。 |
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手の込んだリメイク・フレームは、ピエトラデュラの作者に深い敬意があってこそです。 もしいま上質なルースを手に入れても、現代だとシンプルなフレームは作れても、これほど凝った上質なフレームは作れません。 ピエトラデュラの作者のみならず、その後に受け継いできた持ち主たちにも共感し敬意を払うことができる、とても貴重な宝物です。 |
裏側
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スッキリとした作りの良い裏側です。 内部のタグは後の年代のものです。歴史を重ねてきた、古いものらしさを感じることができます。 |
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メタルのピンは先端が僅かに欠けていますが、ニット以外でも針は通るのでこのままお使いいただけると思います。削って鋭くすることは可能です。また、若干グラつきがありますが使用には問題ない程度です。気になる場合はご調整できます。 ご希望の場合はゴールドのピンにお取替が可能です。いずれも別途費用がかかります。お気軽にご相談くださいませ。 |
着用イメージ
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シルクコードで下げても様になります。17.4gの重量があるので、コードやリボンで下げる際は硬めに結んで下さい。シルクコードをご希望の場合はサービス致します。 |
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撮影に使用しているアンティークのゴールド・チェーンは参考商品です。重量があるので、チェーンをご使用の場合はしっかりしたものをお勧め致します。 |
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シルバー・チェーンも合います。撮影に使用しているシルバー・チェーンは参考商品です。 |
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ジャケットでしっかりした印象にしても素敵です。ハイネックのニットでカジュアルにもできますが、ホルターネックのワンピースやドレスの中央に着用しても映えます。パーティーなどで煌びやかなアクセサリーを着用する人が多い中、このような芸術性の高いジュエリーを目立つ位置につけると一目置かれると思います。 ゴールドやシルバーのロングチェーンと組み合わせて、より華やかなコーディネートもできます。ブローチは着用位置が自由なのが魅力です。楽しめる幅が広い宝物です♪♪ |
額装イメージ
身につけない時は、芸術作品としても楽しんでいただきたい宝物です。ジュエリーケースに納めた状態で飾ることもできますが、額装すると映えます。下記は参考イメージです。31.4×27.2cmの大きめの額装ですが、もっとコンパクトで良さそうです。 |
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HERITAGEではご縁に恵まれ、講師として指導もされているプロの先生に額装をお願いしています。必要な際は取り外してお使いいただけるようにできますので、お気軽にご相談くださいませ(額装のオーダーはHERIRAGEでお求めいただいた宝物に限ります)。 額装デザインはこちらもご参照ください。想定価格は2014年当時、別の先生に依頼した場合のものです。ヨーロッパ輸入の額縁を含め材料費が以前より値上がりしていること、現在のオーダーでは安全のために風防ガラスを使用してもらっていること、消費税も上がっておりますのでもう少し高くなることをご了承くださいませ。風防はガラス以外に、軽くて割れにくいUVカットのアクリルガラスもお選びいただけます。 |