No.00347 古代ギリシャへ想いを馳せて |
スタイリッシュなフレームが一線を画すカメオ・ジュエリー
雰囲気を見事に表現したアーティスティックな彫刻!♪
髪の毛の緻密な彫りまで素晴らしい!!♪
『古代ギリシャへ想いを馳せて』 ナショナリズムによって、ヨーロッパ美術の原点とされる古代ギリシャに意識が集まっていた時代。コリント式の装飾を従来の様式ではなく、当時最先端のモダンスタイルで大胆にデザインした唯一無二のフレームが優美なストーンカメオです。 |
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ピンク系のアゲート下地層は半透明で、豊かに表情を変えます。石の色に合わせて調合した特別なピンクゴールドの色彩も、美しく調和しています。19世紀ならではの、細部まで行き届いた神技も存分に堪能できます♪ カメオ・ジュエリーはヨーロッパらしいクラシカルなデザインがほぼ100%の中で、時代を先取りしたモダンスタイルでデザインされたこの宝物は極めて異彩を放っています。現代のファッションにも取り入れやすい、センスの良い宝物です♪ |
この宝物のポイント
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1. カメオ・ジュエリーの位置付け
この宝物はデイ・ジュエリーとしてオーダーされた、上流階級のための最高級ストーン・カメオのペンダント&ブローチです。 |
1-1. TPOごとに必要とされる各種ジュエリー
1-1-1. 日本人には馴染みが薄いジュエリー文化
紫式部(生没年不詳:生誕970-978年、1019年までは存命) | 現代の日本人女性は、ジュエリーついてあまり知らない場合が多いです。多少詳しいつもりでも、その知識は戦後、大衆向けにビジネスするために作られた宝飾業界にとって都合の良い情報に過ぎない場合が多いです(だから都合に応じてコロコロ変化するのも特徴です)。 日本はジュエリー文化が発展して来なかった、世界的に見ると稀有な国です。 着物が十分に華やかだったからとも言われます。 |
正装用のジュエリーを着用した1900年代頃の上流階級 | |
日本の上流階級 | ヨーロッパの上流階級 |
公爵夫人 大山捨松(1860−1919年)1919年以前 | ノルウェー王妃モード(1869-1938年)1906年、37歳頃(英国王エドワード7世の三女) |
日本人がジュエリーを身につけるようになったのは開国後、洋装が入ってきてからです。但し、戦前は華族(日本の近代貴族)や政財界などの余程の家の人に限定されます。 欧米の上流階級文化をいち早く身につけたのは、日本初の女子留学生として、アメリカで良家の子女のため大学で教養やマナーを学んだ公爵夫人・大山捨松と言えます。 |
愛国婦人会台湾本部(1937/昭和12年) |
既製服が一般的になっていくのは、朝鮮戦争の特需をきっかけに高度経済成長が始まってからの1960年代以降です。軍服が洋装なのと、歴史で目にする大半が貴族や上級国民的な人たちであるために、戦前も洋装が一般的だったかのように錯覚しがちですが、昔は和装が普通でした。 |
靖国神社臨時大祭で参拝する大日本国防婦人会(1938/昭和13年) |
割烹着で分かりにくいですが、戦時中の国防婦人会の装いは着物に草履(雨草履)です。士族ですら、普通は和装だったようです。 |
Genの明治生まれの祖母ウメ(今は無き米沢の実家にて) | Genのおばあちゃんは推定1900年頃の明治生まれで、戦前は士族でした。 でも、Genはおばあちゃんの洋装姿は見たことがないそうです。 おばあちゃん世代は着物のイメージがある方も、結構いらっしゃるかもしれません。 |
全国初 歩行者天国始まる(銀座通り 1970年、昭和45年8月2日) 【引用】東京都WEB写真館 ©東京都 | 日本の庶民が、洋装を既製服として取り入れ始めたのは1960年代以降と言えます。 さらにジュエリーにまで手を出せるようになるのは、衣食住が満ち足りて贅沢品に意識が向くようになった1970年代以降です。 日本人庶民の莫大な需要をターゲットにして、ティファニーが1972年、カルティエも1974年に日本初のブティックをオープンしています。 何も知らない"まっさらの日本人"のジュエリーに対する意識を作り上げて行ったのが、この時期でした。 |
『Diamonds Are a Girl's Best Friend(ダイヤモンドは女の子のベストフレンド)』を 歌唱するマリリン・モンロー(紳士は金髪がお好き 1953年) |
上流階級のために作られたアンティーク着物のデザインにも反映されている通り、戦前の日本人はアメリカではなく、文化先進国ヨーロッパへの憧れや意識が強かったようです。 しかしながら戦後は、アメリカのコンテンツの影響力が絶大でした。オードリー・ヘップバーンの『ティファニーで朝食を』然り、マリリン・モンローの『紳士は金髪がお好き』然り。白人スターが高級ジュエリーを絶賛プロモーションする映画を観て憧れを抱き、日本人庶民はこぞってジュエリーを買いまくりました。 知識がないため、業界が勧めるまま買ってくれます。まさに"チョロい上顧客"だったことでしょう。物凄い数の"小金持ちの庶民"、大量生産の陳腐で割高なジュエリーを売りまくるボロ儲けシステムでした。 作りや材料が陳腐だったとしても、知識もない一般人は選ぶ眼がありません。ダイヤモンドがさも良いものであるかのように謳っていれば、ダイヤモンドをアピールするだけで簡単に大金を出してくれます。 そうは言っても、いくつもは買えません。だから「一点豪華主義」や「愛用」と言う名目の元、いつでも同じジュエリーしか付けない使い回しや、ヘビーローテーションによる酷使も推奨しました。これは庶民の時代の慣習であって、しかも業界が儲けるためのものに過ぎません。 |
1-1-2. 厳密なTPOがあったヨーロッパの上流階級
現代は無数の庶民のそれぞれが、数少ないジュエリーを使う感じです。だから、毎回同じようなコーディネートになりがちなのはしょうがないです。 しかしながら莫大な富と権力が王侯貴族に集中していたアンティークの時代は、極めて少ない人数の上流階級がいくつものジュエリーを所有し、TPOごとに使い分けていました。日常用のジュエリーも存在しましたが、特別な時のために1度ぐらいしか使わないようなものもありました。 |
喪用 | 仕事用 | 結婚式用 |
『BLACK & GOLD』 ピケ クロス・ペンダント イギリス 1870〜1880年頃 SOLD |
『アンズリー家の伯爵紋章』 レッドジャスパー フォブシール イギリス 19世紀初期 ¥1,230,000-(税込10%) |
『愛と平和』 サンテスプリ ペンダント フランス 1840年頃 ¥693,000-(税込10%) |
日本美術の社交用 | 狩猟用 | コンサバトリー用 |
『英国貴族の憧れ』 天然真珠&トルコ石 リング バーミンガム 1876〜1877年 SOLD |
『紳士の黒い忠犬』 エセックスクリスタル ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
『南国の風』 ジャルデネッティ・リング フランス 1800〜1820年頃 SOLD |
1つ1つがとんでもなくお金がかかるものですから、一代で全てを揃えるのは難しいです。それ故に上流階級のためのハイジュエリーは、世代を超えて長く使えるよう耐久性を持たせますし、財産性を持つ材料と作りになってます。代々続く家ほど、いくつものハイジュエリーを所有できるシステムです。ニワカ成金の新規参入が難しいのは、教養に加えてこのような背景もあるからです。 また、一通り揃えてからでなくては手を出せませんから、マニアックなものほど群を抜いたお金持ちの特別オーダー品であると言えます。そのようなものは別格のお金や技術、美意識が込められているものです♪ |
1-2. 上流階級の重要なデイ・ジュエリー
1-2-1. デイ用とナイト用のジュエリー
ビークマン卿夫人におねだりして高価なティアラを着けるローレライ役のマリリン・モンロー (紳士は金髪がお好き 1953年) |
社交界ではデイ・ジュエリーとナイト・ジュエリーの厳格な区別もあります。 戦後のジュエリー業界は、ダイヤモンド市場の支配者によって牛耳られたと言っても過言ではありません。それ故にダイヤモンドばかりがプロモーションされ、鵜呑みにした一般人に「ダイヤモンド=高級ジュエリー」というイメージがついてしまいました。 現代のダイヤモンドに、余程特別な石を除いて稀少価値はありません。また、デザインや作りなどの芸術性や技術的要素も、まるで無視した評価が一般的になってしまいました。 素材やブランドでしか判断しない"単純な評価"は、美的感覚や広い教養を持たない層には便利です。しかしながら、美的感覚や教養を高度なレベルで競っていた社交界にとっては、そんな単純な評価は面白くありませんし、あり得ないことです。 マーケティング史上最も成功したキャッチコピーの1つとされる、「A Diamond is Forever(ダイヤモンドは永遠)」が生み出されたのも1947年です。分かっている人から見ると、ダイヤモンドだけを特別視して大喜びするのは「業界に踊らされている恥ずかしい人」でしかないのです。 |
『ミラー・ダイヤモンド』 アーリー・ヴィクトリアン オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド リング イギリス 1840年頃 ¥3,700,000-(税込10%) |
もちろんダイヤモンド自体を否定する話ではありません。 時代ごとに稀少価値は全く異なっており、その時の価値によって全く扱いが違います。 それが反映されるのが、デザインや作りです。 本来、ジュエリーとはとても知的なものなのです。それでいて美しく、心で楽しむものでもあります。とても奥深い世界です。 |
正装用のジュエリー | |
夜(ナイト) | 昼(デイ) |
『勝利の女神』 ガーランドスタイル ネックレス イギリス or フランス 1920年頃 ¥6,500,000-(税込10%) |
『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』 シェルカメオ ブローチ&ペンダント ヨーロッパ 19世紀後期 ¥1,330,000-(税込10%) |
さて、古の社交界ではナイト・ジュエリー、デイ・ジュエリーのそれぞれに厳格なルールがあり、その中でセンスや教養を競っていました。ダイヤモンドなどの煌びやかな宝石を主体とするナイト・ジュエリーに対して、デイ・ジュエリーは芸術性の高さや貞淑で清楚な美しさが重要でした。 それぞれのルールの中で、最高級品から安物までが存在します。ナイト用の最高級品と、デイ用の最高級品を見比べて、ダイヤモンドがついてるからナイト・ジュエリーの方が高級という評価はおかしいことなのです。でも、現代ジュエリー業界が勝手に作ったおかしな評価基準を鵜呑みにする人が多いお陰で、デイ・ジュエリーの最高級品が本来の価値からするとかなり割安で手に入るのは、価値が理解できる人にとってはラッキーと言えるかもしれませんね。 |
『Day & Night』 マルチユース ブレスレット フランス 1820年頃 SOLD |
デイ&ナイトの違いがはっきりと分かるのが、このマルチユース・ブレスレットです。 Genも自慢の、ジョージアンの特別な宝物です♪ ナイト用は、ローズカット・ダイヤモンドが煌めく華やかな作りです。 一方でデイ用は、超絶技巧の金細工による芸術性の高い作りです。 好みや何となくの気分によって選ぶのではなく、TPOのルール内で好みやセンスを最大限に発揮させていたのが、知られざる古の社交界なのです。 |
【参考】現代カルティエのブローチ ホワイトゴールド、ダイヤモンド ¥3,628,800-(税込) 【引用】Cartier HP / PLUIE DE CARTIER BROOCH |
ちなみに、現代の貴族に期待してはいけません。 イギリスは表面的には貴族が戦前から現代まで脈々と続いているように見えますが、実は中身がごっそり変わっています。 現代のイギリス貴族は、実は新興成金で構成されています。 このため、現代の成金趣味のジュエリーしか持っていない人が多いですし、戦後はTPOもどんどん緩くなっており、参考にしたいと思えるような気品や美しさは期待できません。 感覚がある方ならば、違和感くらいはお感じなっていたかもしれません。きちんと理由があるのです。 まともにジュエリーをオーダーできる王侯貴族はもういないからこそ、現代ジュエリーにはもう全く期待できないのです。 |
1-2-2. 様々なデイ・ジュエリー
デイ・ジュエリーは彫り物系やミニアチュール、モザイク、金細工を駆使した芸術性の高いものであったり、天然真珠のような清楚な美しさを放つものがメインです。見た目に分かりやすい"派手な宝石"を使わない一方、高度な技術や教養、センスが詰め込まれる傾向があり、ナイト・ジュエリーよりもHERITAGE好みのアーティスティックな宝物が多い印象です♪♪ |
『ハッピー・エンジェル』 ストーンカメオ ブローチ フランス? 1870〜1880年代 ¥1,200,000-(税込10%) |
『真珠の花』 エトルスカン・スタイル ブローチ イギリス 1870〜1880年頃 SOLD |
『Royal Memories』 スコティッシュアゲート イギリス 1868年頃 ¥250,000-(税込10%) |
『春の花々』 ウェッジウッド社 ジャスパーウェア パリュール イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
『ガーデン・パンジー』 エセックス・クリスタル イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
『静寂の葉』 プリカジュール・エナメル オーストリア or フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
『平和のしるし』 ローマンモザイク デミパリュール イタリア 1860年頃 ¥2,030,000-(税込10%) |
『教会のある風景』 カーブドアイボリー・ブローチ ドイツ 1840〜1850年頃 SOLD |
ジュエリーと言うより芸術的な要素が強い作品も多く、そのような小さな宝物は見ているだけで心を豊かにしてくれます♪ 現代の美術業界も、金儲けしか目がない人たちによっておかしくなっています。数百億円という、異常な値段が付く絵画も存在します。そのようなものは、投資目的の成金しか買いません(笑) 『絵画』も原材料費は知れています。キャンバスと絵の具代くらいです。それなのに億単位の値段が付くことを納得する一方で、このようなアンティークの小さな美術品を「高価な宝石を使っていないのに高い。」と言う人がいれば、業界によって洗脳された"何も分かっていない人"と判断できます。 |
1-2-3. 古の知的階層に人気があったカメオ・ジュエリー
デイ・ジュエリーの中でも、長く定番人気を誇ったのがカメオでした。 見て分かりやすいですし、知的な雰囲気も魅力です。少し古い時代を描いた欧米映画でも、女性がカメオ・ジュエリーを着用した姿をよく見かけます。 大流行する時代もありましたが、廃れることなく定番化しているのは普遍の魅力がある証でもあります。 |
フランス皇帝ナポレオン夫妻の皇冠&ティアラ | |
フランス皇帝ナポレオンの帝冠(1804年) ©David Liuzzo | フランス皇后ジョゼフィーヌのティアラ(1805年頃) 現在はスウェーデン王室が所有 【引用】TATLER / ROYALS ©Pascal Le Segretain / WireImage via Gettty Images © Condé Nast Britain 2023 |
知的なものを好んだフランス皇帝ナポレオン夫妻は、帝冠の主役にカメオを選んでいます。右のティアラは1805年頃に、皇帝ナポレオンが妻ジョゼフィーヌに贈ったパリュールの一部です。 フランスのイメージが強いナポレオンですが、出自はイタリアの古い血統貴族でした。「私はローマ帝国を設立した種族だ。」と自慢し、息子に『ローマ王』と名付けるほど古代ローマ帝国を特別視していました。侵略戦争と化したナポレオン戦争も、ローマ帝国復活を目論んだものでした。 もともとヨーロッパの王侯貴族は古代ローマへの憧れが強く、古代ギリシャや古代ローマは必須の教養でした。ナポレオンはさらに、古代ローマへの憧れが人一倍強かったこそカメオを特別視した背景もあるわけですね。 |
カメオ・ティアラの着用姿 | |
ホラント王妃オルタンス・ド・ボアルネ(1783-1837年)1812〜1814年頃 | スウェーデン王妃ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(1807-1876年)1837年、30歳頃 |
左は、皇后ジョゼフィーヌの長女オルタンスが着用した姿です。 カメオ・ティアラは皇后ジョゼフィーヌの長男ウジェーヌに引き継がれました。右は、その長女ジョゼフィーヌが着用した姿です。スウェーデン王室に嫁ぎ、カメオ・ティアラは現在スウェーデン王室の所有となっています。 |
雰囲気が異なるスウェーデン王室のティアラ | |
スウェーデン王女イングリッド(1910-2000年)1930年代、後のデンマーク王妃 | スウェーデン王妃シルヴィア(1943年-) 【引用】marie claire / The 23 Biggest Royal Tiaras In The World © 2023 Are Media PTY LTD |
スウェーデン王室は右のようなティアラも所有していますが、「大きければ大きいほど正義!ドヤ!!」という方向性のジュエリーはやはり知的に見えませんし、いまいち高級感もありませんね。成金的な必死さが伝わってくるせいかもしれません。 |
雰囲気が異なるスウェーデン王室のティアラ | |
スウェーデン王女イングリッド(1910-2000年)1930年代 | スウェーデン王妃シルヴィア(1943年-) 【引用】Levante / El mayor desfile de tiaras reales © Editorial Prensa Valenciana, S.A |
シルヴィア王妃は、この巨大ティアラがお気に入りなのかもしれません。成金が社交界を牛耳っている、現代らしい雰囲気です。王族はファッションリーダーとして機能します。王妃のこの姿を見て、成金もこぞって巨大さを追うジュエリーを身につけるわけです。そして、ドヤり合いながら大きさで優劣がつくのが現代です(失笑) 戦前は王族のこのような姿を見て、上流階級の女性たちが気品や知性を身につけようと、切磋琢磨しながら身につけていたのがカメオ・ジュエリーとも言えるでしょう。 |
2. モダンなデザインの極上のフレーム
ストーン・カメオ | シェル・カメオ |
イギリス 1890〜1900年頃 | 『ゼウス&ヘラ』 シェルカメオ ブローチ&ペンダント イギリス 1860年頃 ¥885,000-(税込10%) |
カメオの素材はストーンとシェルがあります。 優劣はない一方で、表現できる幅や方向が異なっています。同じ『カメオ』というジャンルですが、それぞれ全く異なる魅力があります。このため、今回はストーンカメオに限定して見ていきましょう。 |
2-1. 時代や持ち主の特徴が最も反映されるフレーム
2-1-1. ジョージアンのカメオ
19世紀初期のジョージアンのカメオは極めて稀少なため、シェルカメオも比較に並べました。 産業革命によって台頭した中産階級、すなわち新興成金が幅をきかせ始めたヴィクトリアン中後期は、ハリボテ的に巨大化したジュエリーが大流行しました。カメオも例外ではありません。 しかしながら、限られた上流階級のみがジュエリーを身につけていた時代は、単純な大きさではなく芸術性の高さや込められた教養の深さこそが重要でした。このため、ジョージアンのカメオは小さくて上質な宝物が多いです。絵画の額縁に相当するカメオのフレームは、主役を引き立たせるためにシンプルかつ上質なものが好まれたようです。 |
ストーン・カメオ | シェル・カメオ | ||
『ジョージ4世』 ジロメッティ作 1825〜1850年頃 【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
『キューピッドと鷲』 ストーンカメオ ブローチ フランス? 19世紀初期 SOLD |
『ペルガモンの鳩』 シェルカメオ ブローチ イタリア? 1820〜1830年頃 SOLD |
シェルカメオ ブローチ イタリア or イギリス 1830〜1840年頃 SOLD |
成金的なモノの見方しかできないと、「デザインがシンプル=安物」と考えることもあるようです。しかしながら、左のカメオは19世紀の第一級のカメオ作家ジュゼッペ・ジロメッティに、英国王ジョージ4世がオーダーした作品です。ジョージ4世と言えば、英国王室の財政を破産寸前にまで追い込んだ放蕩王です。 但し、センスの良さも抜群で、ジョージ4世がファッションリーダーだった時代はフランスすらイギリスの最先端スタイルを取り入れたほどでした。そんなジョージ4世が我慢してケチることはあり得ず、このシンプルなフレームこそ理想の美の形だったわけです。 |
2-1-2. ヴィクトリアン以降のカメオ・フレームのポイント
ヴィクトリアン中後期以降に流行したカメオの場合は、価値の見定めに注意が必要です。市場には成金嗜好の庶民向けの安物と、教養や美意識が込められた上流階級のための高級品が混在するからです。上流階級は圧倒的に少数ですから、当然ながらアンティークジュエリー市場の殆どは当時の庶民向けに作られた安物です。 |
【参考】安物のシェルカメオ(19世紀後期) | |
この2点は、庶民にとっては頑張って買う高級品だったと思いますが、上流階級のためのアンティークジュエリー専門店のHERITAGEの基準では安物です。シェルカメオの彫りの稚拙さからも、お分かりいただけると思います。 フレームはシンプル・イズ・ベストではなく、コストカットのための手抜き故の簡素なデザインと言えます。知性や上質さは微塵も感じられません。その一方で、高そうに見せたいがために、ゴールドの面積を大きく見せようとする成金的な浅ましさが伝わってきます。ハリボテ的な作りな上に、カメオの大きさに対してバランスが変です。私だったら、恥ずかしくて絶対に着けたくありません。 |
【参考】中級品のサインドピースのカメオ(19世紀後期) | ストーンカメオの場合は彫りにくさもあって、シェルカメオほど酷い安物はありません。 これは一応『中級品』ですが、Genは『安物』として嫌がるレベルのストーン・カメオです。私も気持ちは分からなくないです。HERITAGEの宝物とは、比較すらしたくないです(笑) つまらないデザインと、才能の感じられない単純な彫りが特徴です。フレームにはお金をかけたくなかったが故の、単純なデザインと言えます。 ジョージアンと異なり、ヴィクトリアン中後期以降の高級カメオはフレームにも意匠を凝らしている場合が多いです。 |
2-1-3. ヴィクトリアン以降の高級カメオのフレームの方向性
ヴィクトリアン中後期以降の高級カメオのフレーム・デザインには、2つの方向性があります。 |
フレームは名脇役 | 全体で1つの作品 | ||
『マット肌の美女』 フランス? 19世紀後期 SOLD |
ブローチ&ペンダント イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
『バッカンテ』 ストーンカメオ ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
『ハッピー・エンジェル』 ストーンカメオ ブローチ フランス? 1870〜1880年代 ¥1,200,000-(税込10%) |
主役のカメオを惹き立てるための名脇役としてデザインされる場合と、フレームも含めて全体として1つの作品としてデザインされている場合です。 後者の場合、例えば『バッカンテ』は葡萄酒の神様バッカスの巫女なので、栽培用の葡萄棚がフレームにデザインされています。ヨーロッパの王侯貴族の場合、ワインではなく畑ごと手に入れるということもありましたから、そのような人物がオーダーした宝物かもしれませんね。 『ハッピー・エンジェル』では、エンジェルの羽根の質感を表現したゴールドの彫金に、当時注目の宝石だったフェザーパールがあしらわれています。 |
この宝物は後者です。 カメオのモチーフに合わせて、フレームも特別にデザインされています。 当時の上流階級の間の流行や、教養を知らないければ、ただの「美しいカメオ」としか認識できないかもしれません。 もちろんそれでも良いのですが、知るとより深く宝物の世界を楽しむことができます。せっかくなので、詳細を見て参りましょう♪ |
2-2. 当時最先端のモダンスタイル
2-2-1. デザインに革新が起きた19世紀後半のヨーロッパ
日本が開国した影響により、19世紀後半はヨーロッパのデザインが大きな変化を遂げました。 |
1876-1877年のイギリス製クラスターリング | |
特に政治外交の背景から、イギリスでは日本美術の影響がいち早く起こり、アングロジャパニーズ・スタイルという形で進化していきました。素材が白いプラチナではなくゴールドなので分かりにくいですが、1870年代には既にアールデコのようなデザインも創り出されています。 |
今回の宝物も従来のオーソドックスなヨーロッパ・デザインとは一線を画す、当時の最先端のデザインでフレームが作られています。 |
【参考】19世紀中期の成金ジュエリー | |
19世紀中期、ミッド・ヴィクトリアンのイギリスと、ナポレオン3世時代のフランスでは、どちらも成金趣味のボテッとしてゴチャゴチャしたジュエリーが大流行しました。ジョージアン・ジュエリーよりは数があるのですが、Genも私も好みではないため、この時代のアンティークジュエリーは滅多にご紹介することがありません。 |
このカメオのフレームは、これまでに見たことがないような軽やかでスタイリッシュな雰囲気も持っています。 これは当時の王侯貴族の中でも、知性と傑出したセンスを併せ持つ一部の人たちが日本美術の様式を取り入れ始め、その影響が最先端のハイジュエリーに現れ始めた頃のカメオ・ジュエリーと言えます。 |
2-2-2. 珍しいモダンスタイルのカメオ・フレーム
19世紀中期 | 1880年頃 | 1890〜1900年頃 |
左の19世紀中期のカメオは、いかにもヨーロッパ風のデザインです。重厚で荘厳な雰囲気です。右に行くほど年代が降ります。日本美術の影響で、透かし細工などの『空間の美』が意識してデザインされるようになっていきます。 元々、ヨーロッパは隙間なく埋め尽くすのがラグジュアリーであり、『美の理想』という概念でした。日本人の感覚だと、場合によっては装飾過多でゴチャゴチャして見えるほどです。Genも私もそのようなものは苦手で買い付けしておらず、バランス的に美しいと思えるものだけしかご紹介していません。それでも左の『アフロディーテ』は、十分に重厚感が感じられると思います。 日本独特と言える、武家文化で発展したシンプル・イズ・ベストの概念を取り込むことで、最終的にはアールデコに行きつき、無国籍の『インターナショナル・デザイン』として現代のモダンデザインに落ち着きます。 |
2-2-2-1. デザインが変化する過渡期の透かし細工
ストーンカメオ ブローチ&ペンダント フランス 1880年頃 SOLD |
唐草模様 透かし彫り ブローチ フランス(?) 1880年頃 SOLD |
急激に意識を変えるのは困難です。 最初は唐草模様の透かし彫りなど、感覚的に受け入れやすいものを取り入れていきました。透かし細工によって軽やかさは出てきましたが、全体的にはまだ装飾が華やかな印象です。 |
ジョージアンの繊細な彫金細工とはまた異なる、この時代ならではの魅力がありますね♪♪ |
2-2-2-2. モダンスタイル・デザイン
『MODERN STYLE』 ダイヤモンド ゴールド ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
『Samurai Art』 アクアマリン ネックレス イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
『STYLISH PINK』 ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
モダンスタイルの場合、無駄なものが削ぎ落とされつつ、必要な部分には徹底的にこだわって技術と手間をかけた贅沢さが魅力です。こだわり所が一般の人には分かりにくい分、価値が分かる当時の特別な上流階級を強く魅了しました。現代でもアンティークジュエリーの中では、玄人向けと言えるかもしれません。 |
『草花のメロディ』 イギリス 1900年頃 SOLD |
『WILDLIFES』 天然真珠 ゴールド ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
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ゴールドを使いこなした19世紀のハイジュエリーは、高度な技術を持つ職人ならではの優れた金細工が魅力の1つです。そのような中で、モダンスタイルの場合は高度な技術が駆使されつつもデザインが主役という位置付けであるため、誰が見ても分かりやすく手間のかかった金細工はミルグレインだけであったり、必要最小限である場合が殆どです。 あからさまに手間のかかった金細工は、下手をすれば野暮ったさにつながります。武家美術ならではの"冴え渡る美しさ"、スタイリッシュさを出そうとすると、そのような金細工は組み合わせづらいのです。 だから美しい彫金と組み合わせたモダンスタイル・ジュエリーは滅多になく、これまでにご紹介したのは『WILDLIFES』だけです。今回の宝物のフレーム・デザインは、類似のものを見たことがないほど珍しいものなのです。 |
2-2-2-3. 時代ごとのデザイン
この宝物は、当時最先端だった『モダンスタイル』ならではのスタイリッシュな雰囲気がある中に、超絶技巧の金細工が、ヨーロッパらしい格調高くエレガントな雰囲気を放ちます。 唯一無二の、強い魅力を放つ宝物です♪ |
2-3. 古代ギリシャのコリント式の装飾デザイン
この宝物は、様式自体は日本美術を取り入れたモダンスタイル系ですが、モチーフは古代ギリシャなのが何とも魅力があります!♪ もともと古代ギリシャの芸術全般は、ヨーロッパの上流階級にとって憧れかつ必須の教養でした。 カメオの女性に関しては後でご説明しますが、古代ギリシャの"特定の女神や人物"ではないと思います。 |
2-3-1. 持ち主の傑出した美的センスを示す葉と果実の装飾
この宝物のフレーム・デザインが興味深いのは、お花が一切なく、全て葉や果実で構成されている点です。 古今東西を問わず、玄人向けの知的で上質なものを好む女性ほど、花よりも葉や枝などを好む傾向にあります。 もちろんGenも私も、葉っぱや枝モチーフは特に好きです♪♪ |
西洋の美意識 | 日本の美意識 |
花瓶に活けた花とフルーツの静物画(ピーテル・ファエス 1770-1814年) | 夜のシダ 紗 小紋(大正〜昭和初期) HERITAGE COLLECTION |
咲き誇るド派手な花々を「これでもか!」と詰め込み、満開かつ完璧な形で表現するのがヨーロッパ・ラグジュアリーであり『理想の美』です。 一方、そのようなピークの状態は「後は滅びるだけの、想像の余地のないつまらぬもの。」と見なしてきたのが日本人でした。単純な見た目ではなく、想像力も使って情景で理想の美を楽しめるものが日本人や、そのような美意識を持つ人たちにとっての見ていて飽きることのない『至高の芸術』なのです。 だから暗闇の葉っぱを描いたり、時には虫に喰われた葉など表現することすらあります。 |
葉がモチーフのHERITAGE 自慢の宝物 | |||
『シダ』 ダイヤモンド ブローチ フランス 1880年頃 SOLD |
『静寂の葉』 オーストリア or フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
『楓』 フランス 1900年頃 SOLD |
『清流』 イギリス 1920年頃 SOLD |
最高の技術と素材を駆使できる職人に加えて、最高の美意識と教養を持つ上流階級のオーダー品という条件が揃ったものに限定してご紹介するHERITAGEでは、葉っぱモチーフのジュエリーが多いのは必然なのかもしれません。お花モチーフももちろん魅力はありますが、"葉や果実"の組み合わせと言うのは何とも奥深く、価値が理解できる人の心を強く捕らえて離しません!♪ |
2-3-2. コリント式のアカンサスと渦巻き模様
日本人には全て"西洋のもの"に見えるので分かりにくいですが、欧米人が見れば、フレーム装飾は古代ギリシャがモチーフであると分かります。 当時、ヨーロッパではガーランドスタイルも流行していました。 |
ガーランドスタイルの宝物 | |||
19世紀末 | 過渡期 | エドワーディアン | アールデコ初期 |
『いっぱいの花手綱』 ゴールド ネックレス フランス 1900年頃 SOLD |
『ゴールド・オーガンジー』 イギリス 1900年頃 ¥1,000,000-(税込10%) |
『永遠の愛』 フランス? 1910年頃 ¥1,220,000-(税込10%) |
『勝利の女神』 イギリス or フランス 1920年頃 ¥6,500,000-(税込10%) |
モチーフは色々あります。花手綱(ガーランド)、月桂樹、リボン、トロフィーなどは全て古代ギリシャ・ローマの遺跡・遺物などから発想を得たものです。定番化するほど高い人気があったと言え、長期に渡ってハイジュエリーのデザインの中で見る事ができます。 |
アテナイのアクロポリス ハドリアヌス帝の図書館の北側 (ローマ皇帝ハドリアヌス時代 132年) |
これは古代ローマ、ハドリアヌス帝時代に作られた建築物です。ハドリアヌス帝は美しいものや芸術をこよなく愛し、古代ギリシャ好きで有名でした。この時代に最大領土を獲得しており、古代ローマ帝国の最盛期とも言えます。ヨーロッパの王侯貴族にとって、ハドリアヌス帝が遺した様々な建築物や美術品は特別なものでした。 古代ギリシヤ好きだっただけあって、デザインも当時のローマ人にとってギリシャ美術様式が強いデザインだったと言えるでしょう。古代ギリシャ建築様式の1つである『コリント式』で建築されており、特に柱のデザインが特徴的です。 |
アメリカ国会議事堂の外観デザイン(1854年) | 古代ギリシャ美術はヨーロッパ美術の原点とされます。歴史ある由緒正しい伝統デザインとして、欧米人から誇りを以って愛されてきました。 知的で格調高い重厚感もあり、定番的に人気があります。アメリカ国会議事堂のデザインにも取り入れられています。 溝が彫られた細身の柱に、アカンサスの葉が装飾的にデザインされています。同、古代ギリシャのイオニア式で見るような、渦巻きデザインを組み合わせたものも多々あります。 『コリント式』の名称は古代ギリシャのポリス、コリントスに由来しますが、一般にはアテナイで発達したと考えられています。 |
国会議事堂は公共の建築物ですが、古い時代の王侯貴族はそのようなクラスの建築物を個人でオーダーする人たちでした。 建築物はジュエリー同様、持ち主のステータスや美的センスを如実に反映する、王侯貴族にとって重要なものでした。現代ではイメージしにくいかもしれませんが、時代によっては時計やマイクロ・カーブドアイボリーは城が1つ買えるほど高価なものでしたし、天然真珠のネックレスがNYの一等地のビルと取引されたことも知られています。 大きさが正反対なのが面白いですが、建築物も教養やセンス、美意識を詰め込む対象でした。建売や同じような個性のない家が多い現代ではイメージしにくいですが、古いお城は当時の流行のスタイルや最先端の技法などはあっても、1つとして同じものがないことからもご想像いただけると思います。改装する場合もありましたし、ゼロから造り上げることもあります。 |
英国王ジョージ4世の別荘ロイヤル・パビリオン |
建築家ヘンリー・ホランドにオーダーして改装されたロイヤル・パビリオン(1788年頃) |
大改装(1815-1822年)後のロイヤル・パビリオン "Brighton - Royal Pavilion Panorama" ©flamenc(13 April 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
教養を身につけた上流階級であっても、誰でも才能があるわけではありません。お気に入りの建築家に丸投げすることもありますし、才能がある人物は事細かにオーダーします。 |
英国王ジョージ4世によるロイヤルパビリオンのシノワズリーの宴会室(1826年) |
外装のみならず、内装も重要です。これをセンス良くこなすためには、相当な教養とセンスが必要です。現代も建築家は男性が多く、当時もどちらかと言えば男性が得意として好んで建築物をオーダーしていたようです。 しかしながら、フランスのポンパドゥール夫人やマリー・アントワネット王妃のように、建築分野でも才能を発揮して様々なオーダーができる女性も稀に存在しました。 |
優美な曲線でデフォルメされたアカンサスの葉 | ||
モリスのデザイン(1875年) | モリスのデザイン(1876年) | |
コリント式の柱にデザインされているアカンサスの葉は、アーツ&クラフツ運動の提唱者ウィリアム・モリスのデザインでも有名です。植物の優美な曲線は、後のアールヌーヴォーへとつながっていきました。定番化し、現代でも人気があるデザインですね。 |
この宝物のフレームにも随所にバランス良く、優美な曲線を描くアカンサスの葉がデザインされています。 ただ、アカンサスだけではない所に、持ち主の類い稀なセンスと徹底した美意識が現れています。 |
2-3-3. 豊穣の葡萄
やはり日本人には少し分かりにくいかもしれませんが、このフレームには葡萄がデザインされています。 しかも果実、葉と蔓の全ての要素があります♪ |
『REGARD』 ジョージアン REGARD ロケット・ペンダント イギリス 1820年頃 SOLD |
葡萄はヨーロッパに於いて、日本以上に縁起物として高い人気がありました。 元々ツルが伸びる植物自体が生命力の象徴とされていますが、たくさんの実をつける葡萄は「豊穣」「多産」「生命力」の縁起物とされました。 子孫繁栄に加え、縁結びや夫婦円満の縁起物でもありました。 葡萄モチーフは定番として長い間作られており、ハイジュエリーは特に表現の幅も広く、それぞれに個性があって本当に面白いです♪ |
『山海の恵み』 天然真珠の葡萄ペンダント イギリス 1920年頃 SOLD |
収穫した葡萄のペンダント&ブローチ フランス 1910年頃 SOLD |
養殖真珠に駆逐される以前、アンティークの時代は『天然真珠』が至高の宝石でした。まさに王侯貴族の宝石です。だから、葡萄の実も天然真珠で表現されることが多いようです。 |
『バッカンテ』 ストーンカメオ ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
『豊穣のストライプ』 2カラーゴールド ロケットペンダント フランス 1880年頃 SOLD |
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左の『バッカンテ』では、葡萄棚に絡まる蔓の様子も表現されています。4方に配置した天然真珠は、明らかに葡萄の実を表しています。 右の『豊穣のストライプ』では、未成熟の果実はイエローゴールドで小さく表現し、熟した果実は上質なハーフパールで表しています。 どちらも葡萄そのものの形を示した"あからさまな表現"ではなく、教養と知性がある人見ればすぐにそれ分かる『象徴的な表現』がセンスを感じますよね。当時は象徴主義も流行していましたから、社交界では余計にこのような表現は好まれたかもしれません。 19世紀後半は産業革命によって台頭した中産階級、すなわち成金がジュエリーを買い漁り始めた時期です。お金があるだけで、教養のない成金は見た目に分かりやすいものしか選ぶことができませんでした。成金との差別化のために、余計にこのような知性が込められた宝物が好まれたのでしょう。アンティークのハイジュリーは、この奥深さが魅力です♪♪ |
特に一番上の葉は、明らかにアカンサスとは異なります。 その形状から葡萄の葉であり、随所にナイフエッジで表現した曲線は蔓であると想像できます。コリント式の柱の渦巻きに、上手く合わせてありますね。調和していて、全く違和感がありません。 そして、散りばめられた照り艶の良い天然真珠も、葡萄の果実であることが分かります。 色やサイズ、照り艶などの質感を8粒で揃えること自体も大変なことであり、この宝物が特別な高級品として作られたことを物語っています。 |
ロスチャイルドの邸宅の地下のワインセラー |
コリント式の柱と言えば、まさに古代ギリシャです。そして、葡萄もまた古代ギリシャらしいモチーフと言えます。葡萄酒の神『ディオニュソス(バッカス)』も、ヨーロッパでは定番人気がありました。 カメオなので当時は日中に着用したはずですが、デイタイムのワイン・パーティなどでコーディネートしたこともあったかもしれませんね♪ |
2-4. 随所に神技が光る金細工
2-4-1. 高い美意識を反映した優美なピンク・ゴールド
『ゴールド』というだけで喜ぶ成金思考の人だと、とにかくゴールドはイエローを是とする場合もあるようです。美意識のカケラもなく、ただ金位だけを気にする人はいますね。アンティークジュエリーではなく、インゴットでも買って眺めていれば良いです(笑) |
『大切な想い人』 |
ゴールドは不思議な金属で、割金によって色を大きく変化させることができます。 ゴールドの表現の幅は驚くほど広く、カラー・ゴールドと彫金を組み合わせることで、絵画に勝るとも劣らぬほどの表現が可能です。輝けるという点で、絵画より上と言って良いかもしれませんね。 デメリットと言えば、ゴールドはその稀少さ故に大きな作品が作れない事くらいでしょうか。 |
このカメオの石は、ピンク・オレンジ系の美しい色彩を持つアゲートが使用されています。 |
オレンジ・ピンク系のストーンカメオの宝物 | |||
『バッカンテ』 ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
『マット肌の美女』 ブローチ&ペンダント 19世紀後期 SOLD |
『ハッピー・エンジェル』 ストーンカメオ ブローチ フランス? 1870〜1880年代 ¥1,200,000-(税込10%) |
イギリス 1890〜1900年頃 |
同系統の色味を持つストーン・カメオでも、フレームに色彩によってかなり雰囲気が変わります。イエロー・ゴールドを使用する場合でも、落ち着いた色味なのか、鮮やかな色味なのかで随分と印象が変わります。 19世紀後期のハイジュエリーのゴールドは、イエロー・ゴールド主体が多いです。このため、カメオのフレームも大体はイエロー・ゴールドが選択されたようです。 今回の宝物のようにピンクゴールドを使用したアンティークの高級カメオは見たことがなく、明らかに意図して選んでいます。美意識の高い人物が、特別にオーダーしたことは間違いありません!! |
優れた金細工フレームの高級カメオ | |
『マット肌の美女』 ブローチ&ペンダント 19世紀後期 SOLD |
イギリス 1890〜1900年頃 |
『マット肌の美女』の場合、主役となる絵画を額縁で引き締めるのと同じように、はっきりと境界が分かるイエロー・ゴールドのシンプルで上質なフレームでカメオを惹き立てています。 今回の宝物の場合、色馴染みの良いピンクゴールドを使い、カメオだけでなく全体として"1つの美しいデザイン#と感じられる形に仕上がっています。もし同じデザインをイエロー・ゴールドで作っていたら、一体感がなくそれぞれが主張し、まとまりに欠ける作品となっていたでしょう。 |
【参考】ヴィクトリアン中期の安物のデミ・パリュール | これは成金向けに作られた安物です。庶民にとっては高級品です。 ネックレスに注目すると、ペンダントに下がった房だけゴールドの色味が違うことが分かります。 違和感がありますよね。主役のはずのカメオより目が行ってしまいます。 これは既製品を使った事が原因です。成金庶民は安いけれど高そうに見えることを是とします。現代と同じです。 |
この安物の持ち主には、フルオーダーしてまでゴールドの色味を合わせる美意識は無かった証です。それよりも既製品を使う事で安く抑えられる方が、持ち主にとっては嬉しいことだったのでしょう。 そのような浅ましい心と強い自己顕示欲が伝わってくるからこそ、Genも私もこのような安物は決して選ばないのです。 |
特別オーダーのチェーンを使った宝物 | |
『ルンペルシュティルツヒェン』 ゴールド・アート ブローチ イギリス 1870年頃 SOLD |
『ゴールド・オーガンジー』 ペリドット&ホワイト・エナメル ペンダント イギリス 1900年頃 ¥1,000,000-(税込10%) |
これらも全ての色味が揃っていますが、チェーンは特別オーダー品です。チェーンの場合、大体チェーン専門の職人がいます。通常のネックレスに使用するチェーンより、遥かに小さな輪っかを連結して作っています。ブローチやペンダント全体の雰囲気に合わせて、サイズや形状を細かく指定して作られたチェーンなのです。 このような宝物はフルオーダーで作られますから、ゴールドの割金の配合もきちんと指定し、色味はきっちりと揃えます。HERITAGEでは最高級ジュエリーのみをお取り扱いするので当たり前のように感じられるかもしれませんが、実はとてもお金や手間がかかることを密かにやっているのです。 |
『ステータス』 ゴールド ウォッチチェーン イギリス 19世紀後期 SOLD |
この男性用の上等のウォッチチェーンも、しっかりとゴールドの色が揃っています。規格が揃っている現代の量産品と異なり、美意識とお金が伴わないとこのような美しい宝物にはならないのです。 |
優しいピンク色を帯びたアゲートのカメオに、ピンクゴールドはピッタリです。 宝物全体の、女性らしく優しい雰囲気は、このピンクゴールドの絶妙な調合あってこそです!♪ |
2-4-2. 見事な彫金
『アフロディーテ』 ストーンカメオ ブローチ フランス 19世紀中期 SOLD |
19世紀中期のこのカメオは、Genも「ジョージアンに勝るとも劣らない素晴らしいフレームです。」と表現するほどの、見事な金細工が施されています。 キンキラキンの質感だと成金っぽくなってしまいますが、魚子打ちのような細工で表面を仕上げてあり、マットゴールドならではの魅力を放っています。 奥ゆかしさと、格調高いラグジュアリー感があります。 |
Genも言うように、無数の点を鑽(タガネ)で打って艶消しにする細工は、高度な技術と圧倒的な手間を要します。だから余程高級なカメオのフレームでないと、見ることは出来ません。19世紀初期のジョージアンまでは、金の稀少価値が格段に高かったこともあり、優れた金細工は珍しくありません。 しかしながら19世紀中期のゴールドラッシュ以降は、手間と技術が必要な美しい金細工は、余程こだわりを持って作られた高級品でしか見られなくなっていきます。 |
随所に配置した葉っぱの質感は、魚子打ちのマットゴールド加工で表現しています。 |
19世紀後期に、エトラスカン・スタイル以外でこれだけ金細工にこだわったジュエリーは珍しいです。スッキリとしたデザインなので見落としてしまいそうですが、目を見張るほど技術と手間がかけられています! |
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葉っぱの優美な造形も見事です!!♪ 大きさからご想像いただける通り、驚くほど細かい鑽(タガネ)と鑢(ヤスリ)を使った神技の細工です! 通常のハイジュエリーでは、このような葉の形は立体的に造形します。この宝物はモダンスタイルの様式であるため、フラットな造形が特徴です。 |
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フラットな面で立体感を出すのは難しいことですが、葉脈や葉のギザギザなど、巧みな彫金によって立体感を演出しています。 随所にデザインされた打ち出しの丸い窪みも、丹念に磨き上げられており、粒金と同じくらい輝きます。技術と手間をかけた細工の証です♪ |
2-4-3. モダンスタイルならではの面反射デザイン
この宝物のフレームの装飾は、全てフラットな面でデザインされています。全てマットゴールドにしているわけではなく、随所に鏡面仕上げのフラットなパーツを配置しているのが特徴です。 |
一番上の葡萄の葉の両側のパーツ、画面下側の両サイドにある渦巻きの中央にあるパーツなどが該当します。 |
普通、このような装飾は粒金を使います。この宝物自体にも粒金を使った装飾が施されており、意図してフラットなパーツを使っていることが分かります。 |
『Future Design』 モダンスタイル 天然真珠&ダイヤモンド ピアス イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
その効果は、ある一瞬だけ面の反射による強烈な輝きを放つことです。 これはモダンスタイルのセンスの良いジュエリーに共通する特徴でもあります。 |
『EAGLE EYE』 ゴールデン・イーグル クラバットピン フランス 1890年頃 ¥1,500,000-(税込10%) |
磨き上げたフラットな面は、絶えず繊細で上品な輝きを放つ彫金細工とも異なる輝きを放ちます。 |
【参考】庶民向けの安物の10Kクラバットピン | 【参考】ミッド・ヴィクトリアンの典型的な成金ジュエリー |
全面がただの磨き上げただけの面だと、一気にチープになります。主張が強すぎて下品な成金感が強く漂う一方、知性や上品さはまるで感じられません。 |
『ゴールド・オーガンジー』 ペリドット&ホワイト・エナメル ネックレス イギリス 1900年頃 ¥1,000,000-(税込10%) |
同じ素材であっても技術や手間、真心の有無だけでこうも変わるものかと思うほど、高級感や美しさが違います。 |
フラット・デザインは小さな面積で、センス良く配置するからこその魅力です。 この画像だと、右側中央の2つの円が光沢を放っています。左側の、コリント式の柱の渦巻き部分の円盤もそうですね。 粒金だと、球体のごく一部が絶えず輝きます。 両方の細工があるので、違いが分かりやすいと思います。敢えてフラットな円をデザインしたセンスの良さに、脱帽です!!♪ |
『バッカスのワイン樽』 リージェンシー ゴールドスライダー・ペンダント イギリス 摂政王太子時代(1811年〜1820年) SOLD |
実は同じ発想の宝物が過去に1つだけあって、ジョージアンの『バッカスのワイン樽』です。 この宝物も、葡萄をデザインしているのも興味深いですね。 立体的な黄金の葡萄の果実は、驚異的な神技の粒金細工によるものです。並の職人では到底不可能で、高度な金細工技術のあったジョージアンの中でも、特別なものだからこそです!!♪ 粒金を施すことも技術的には可能なのに、なぜ上下のカンティーユの装飾にフラットな円パーツが使用されているのかと言えば、ある一瞬に強く輝くためなのです。 |
1つの時代に、そうは居ない、傑出したセンスと美的感覚を持つ人物。 そのような人物がオーダーした宝物は、時代を超越した魅力を持っています。 |
2-4-4. 手間をかけたナイフエッジ
優れた宝物ほど、とんでもなく凄いことをさりげなく、当たり前のようにやっているものです。この宝物のナイフエッジもその1つです。 100年以上の使用に耐える強度を持たせつつ、正面から見た時には『細い線』のようにスッキリとした美しさを感じさせる技法です。 叩いて鍛えた鍛造の金属を、丹念にヤスリで磨いて鋭角三角形に整えるナイフエッジは高度な技術と大変な手間がかかりますが、とても美しいです。 |
優れた宝物ほど、とんでもなく凄いことをさりげなく、当たり前のようにやっているものです。この宝物のナイフエッジもその1つです。 100年以上の使用に耐える強度を持たせつつ、正面から見た時には『細い線』のようにスッキリとした美しさを感じさせる技法です。叩いて鍛えた鍛造の金属を丹念に手作業でヤスリで磨いて鋭角三角形に整えることで、ここまでの細さと耐久性が両立できます。 |
【参考】ダイヤモンド ブローチ(ブシュロン 1930年代) | 高度な技術を持つ職人による『優れたジュエリー制作の歴史』は、王侯貴族の時代の終焉と共に終わりました。 成金はデザインの良し悪しが判断できません。高級ブランドの威光と、ダイヤモンドさえ付いていればいくらでもお金を出します。 |
【参考】ダイヤモンド ブローチ(1940年代) | 美意識の高い王侯貴族ならば、鋳造のボテッとした作りは嫌がって許さないはずです。 しかしながら、成金はダイヤモンド以外は目に入りません。 デザインとして優美に見えなくても、「高そうなダイヤモンドさえ付いていて、ドヤれそう!」と思えるものならば良いのです!(笑) これもボテッとして全く躍動感がないですね。 |
アンティークの1点物の最高級品 | 【参考】成金用の量産品 |
ブシュロン 1940年代 | |
顧客層がそのような考え方しかしないのであれば、金儲けに徹したい製造メーカーは、製造コストが遥かに安上がりな鋳造の量産を選ぶに決まっています。結局、モノづくりを良くするか悪くするくは、選ぶ側の顧客次第です。 並べて比較すれば、『線』の繊細さの違いは一目瞭然ですね。 右側のブローチは安っぽくチャチで、オモチャやアクセサリーにしか見えません。しかし成金の場合は、「プラチナがたっぷりと使ってあって贅沢!!」と喜ぶようです(笑) |
意識して見ないと気づきにくいですが、この宝物はかなりたくさんの箇所にナイフエッジが施してあります。しかも直線のみならず、様々な曲率の曲線をナイフエッジにしています。 |
上部、下部、フレームのあらゆる箇所にナイフエッジが施されています。 第一級の職人だからこその、高度な技術に基づく見事なナイフエッジは、この宝物のデザイン上のキーと言えるほど重要なものなのです!!♪ |
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それにしても、ブローチとしては類を見ないほど極細のナイフエッジです!! ペンダントやピアスと異なり、着脱の際にどうしても力が加わるため、ブローチでは通常はここまで細くしません。 |
例えば『キラキラ・クロス』の場合、"1本の直線"でブローチの土台を構成しているため、この1本に十分な強度を持たせなければなりません。 |
複数の線で構成されているこの宝物の場合、加えられた力は分散します。 また、直線より曲線の方が強度が出せます。 作られてから130年ほど経過していても、歪みがなくコンディションを保っているのは、歴代の持ち主が適切な使い方をしてきたことに加えて、しっかりと構造計算して作られているからでもあります。 |
横から見ると、ゴールドに十分な厚みを持たせて強度を出していることが分かります。 ナイフエッジは視覚効果を狙った、本当に面白い技法ですね!♪ |
2-4-5. センス抜群の黄金の粒の装飾
古代ギリシャならではの格調高い雰囲気を出すために、この宝物には様々なデザイン的な工夫があります。 荘厳な輝きを放つ、『黄金の粒』の規則的な配置も効果的に効いています。 グレインワークや粒金が該当します。 |
非対称・ランダム -自然な雰囲気- |
対称・等間隔 -格調高い雰囲気- |
『秋の景色』 赤銅高肉彫り象嵌 日本 19世紀後期(フレームはイギリス?) SOLD |
『勝利の女神』 ガーランドスタイル ダイヤモンド ネックレス イギリス or フランス 1920年頃 ¥6,500,000-(税込10%) |
対称性を崩したり、ランダムな配置による表現は、人間に自然や心地よさを感じさせます。日本美術で多く見られる表現で、イギリス式庭園もこの思想を元に設計されます。 対称性が高く、規則正しい配置による表現は、人工的で緊張感を感じさせます。それが、荘厳さや格調高い雰囲気を感じる要因です。フランス式庭園は、まさにこの思想で設計されます。 |
2-4-5-1. 神技の粒金
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フレーム下部に、透かしデザインとして粒金が蝋付されています。 さりげなさ過ぎて、意識して見ないと気づかないほどです。 |
一般人には簡単そうに見えますが、片側だけでなく両側を等間隔で正確に蝋付すると言うのは、職人から見れば信じがたいほどの神技です!! 高温を加えて、全ての箇所を一気に蝋付する必要があります。しかも、簡単に取れてしまうようではハイジュエリーとして成立しません。130年ほどた経った今でも、粒金を蝋付しただけのこの構造でしっかりとコンディションを保っているのは、見事としか言いようがありません!! このような神技を「ドヤ!ドヤ!」と主張せず、さりげなくやっているのがアンティークのハイジュエリーの好きなところです♪♪ |
『天女の舞』 オパール 扇ブローチ イギリス 1900〜1910年頃 SOLD |
粒金透かし細工は、アンティークのハイジュエリーでも滅多に見ることがありません。 『天女の舞』も、一見シンプルなデザインに見える最高級品でした。細工に於ける主役級の要素として、この細工が用いられています。 それほど、「見る人が見れば凄いもの!」と分かる、神技の細工なのです。 |
打ち出しによる丸い溝と、粒金の大きさは意識して揃えています。 凹みの輝き、凸の輝き、それぞれが異なる黄金の表情を魅せてくれます。 さらにフラットな円盤も下部に配置されており、黄金装飾の輝きだけでも実に表情豊かです!♪ |
2-4-5-2. 大きめの粒金を配置する効果
この宝物では、フレームの両サイド中央付近にも3粒ずつ、大きめの粒金が等間隔で配置してあります。 大したことないように見えますが、あるかないかで大きく雰囲気が変わります。 |
外周全体に粒金を装飾した荘厳な宝物 | |
『驚異の細工:美し過ぎるピエトラドュラ』 ピエトラドュラ(フローレンス・モザイク)バングル イタリア 1860年頃 SOLD |
『春の花々』 ウェッジウッド社 ジャスパーウェア・パリュール イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
等間隔かつ脱落せぬよう正確に蝋付するには、高度な技術が必要です。この細工自体が最高級品の証となりますし、この細工ならではの格調高い雰囲気は定番として好まれました。このため、このように少し大きめの粒金を外周全体にデザインした宝物は、一定数存在します。 |
外周全体に粒金を装飾した荘厳な宝物 | |
金細工の耳飾り(古代エトルリア 紀元前530〜480年)大英博物館 | 『春の花々』 ウェッジウッド社 ジャスパーウェア・パリュール イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
古代エトルリアでも見られる装飾です。外周には隙間が殆どないほど、粒金が付けられています。 金細工が主役のデザインならば良いですが、脇役となるべきフレーム装飾でここまでギッシリ付いていると、ゴチャゴチャした雰囲気になってしまいます。デザインや作り出したい雰囲気によって、程よい大きさや間隔を設計するには重要です。 |
粒金のサイズや間隔などによって変わる雰囲気 | ||
繊細な芸術作品 -粒金細工が主役級- |
格調高い雰囲気 -粒金細工は名脇役- |
成金的なチープ感 -主役も量産コイン- |
『古代の太陽』 エトラスカンスタイル ブローチ イタリア 1850〜1870年代 SOLD |
ウェッジウッド社『春の花々』 ジャスパーウェア・パリュール イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
ペンダント&ブローチ(カステラーニ 1870-1880年頃)ボストン美術館 【引用】Museum of Fine Arts Boston ©Museum of Fine Arts Boston/Adapted |
粒金は小さいほど繊細な雰囲気になります。『春の花々』くらいの大きさだと程よい存在感があり、名脇役として格調高い雰囲気を演出してくれます。 大きければ大きいほど高そうに見えるかと言うと、そうでないのが面白いところです。右のペンダント&ブローチからもお分かりいただける通り、返って安っぽくなります。 粒金が大きくなるほど蝋付する数は減りますし、作業も細かなものより楽で、高度な技術を必要としません。腕の良い職人を雇う必要がなく、時間や手間もかからなくなるのでコストカットにはなります。 |
金儲け主義が強過ぎて滅びたカステラー二の量産ジュエリー | ||
ゴールド・ペンダント&ブローチ(カステラーニ 1870-1880年頃)ボストン美術館 【引用】Museum of Fine Arts Boston ©Museum of Fine Arts Boston/Adapted | ゴールド・ペンダント(カステラーニ 1870-1880年頃)ボストン美術館 【引用】Museum of Fine Arts Boston ©Museum of Fine Arts Boston/Adapted | ゴールド・ピアス(カステラーニ 1870-1880年頃)ボストン美術館 【引用】Museum of Fine Arts Boston ©Museum of Fine Arts Boston/Adapted |
一応はカステラーニ・ブランドなので、最初は本質的な価値が分からぬ成金が大金を出してくれたのでしょう。味をしめて、さらに手間を省く方向に走ったようです。右の2つは、さらに粒金が巨大化しています。もはや『粒』とは表現できないサイズですね。 最終的に、ブランドが潰れるのも無理はありません。 |
自身の美意識に基づいてオーダーされた 王侯貴族のジュエリー |
ブランドでしか判断できない 成金用のブランド・ジュエリー |
【参考】エトラスカン・スタイル ゴールド・ブレスレット(ロバート・フィリップス 1870年頃) | |
同じくらいの時代に、このような両極端な高級ジュエリーが存在したのが興味深いですよね。美意識の高い王侯貴族と、ただブランドの威光さえあれば満足する成金の、両方が存在した時代を如実に反映しています。結局、王侯貴族と共に美しいジュエリーは淘汰され、現代では成金好みの安っぽいジュエリーが残るのみです・・。 |
『エトルリアの知性』 |
この宝物は髪の毛より細い撚り線細工が見事でしたが、実は随所に配された粒金に関しても神技を駆使しています。 粒金は単なる惹き立て役ではなく、重要なデザイン構成要素の1つとしてうまく馴染んでいます。センスの良い配置ですよね♪ |
ウェッジウッド社『春の花々』 ジャスパーウェア・パリュール イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
『真珠の花』 エトルスカン・スタイル ブローチ イギリス 1870〜1880年頃 SOLD |
粒金はデザイン次第で、雰囲気が面白いほど変わります。規則正しく等間隔に配置すると、格調高い雰囲気を醸し出す脇役となります。『春の花々』からお分かりいただける通り、主役の美しい花々の美しさに没頭できます。 左の『真珠の花』の場合、一見すると外周を全て等間隔で粒金装飾しているように見えます。しかしながら、両サイドにループ状のデザインを施しています。ちょっとしたことですが、絶大な効果があります。全てが規則正しく完全に配置されていたら、動きがなくつまらない印象になっていたことでしょう。この工夫によって、さりげなく抜群のセンスを感じさせてくれます。 |
全周にデザインするのではなく、両サイドに僅か3粒ずつ粒金を施しています。 規則的に配置した粒金ならではの"格調高い雰囲気"は醸し出しつつ、全体としてのスタイリッシュでモダンな雰囲気は壊さない、絶妙なバランスです。 この装飾がなかったら、もっと簡素で高級カメオ・ジュエリーとしては物足りない雰囲気になっていたかもしれません。 |
2-4-5-3. 神技のグレインワーク
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コリント式デザインの天井装飾を彷彿とさせる、梁のような直線には緻密なグレインワークが施してあります。まるで機械がやったかのような、正確な仕事です!! ハーフパールのシンプルな覆輪との対比が、これまた素晴らしいです♪ |
『ゴールド・オーガンジー』 |
ミルグレインの繊細な輝きは、とても上品な高級感を感じさせます。 このため、プラチナでもゴールドでも覆輪やフレーム端部に好んで施されてきました。アンティークのハイジュエリーでは、施されていない方が珍しいと言えます。 |
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それにしても驚異的なグレインワークです。ランダムな表現と異なり、大きさの揃った規則正しい配列の場合、ちょっとした粗でも目立ちます。 これだけの細工ができるからこそ、覆輪がシンプルなのは意図したものと確信できます。 |
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もはや撮影機器の限界レベルの神技です!!! ここまで拡大すると、フレームには極細のフチが彫ってあることが分かります。その極細の溝に、緻密なグレインワークを彫り込んでいるのです。一体どのような道具を使って成し得たのか、驚嘆しきりです! |
3. 最高級品ならではの美しいカメオ
3-1. 雰囲気ある半透明の美しいストーン
スコットランドの瑪瑙 "Scotland007" ©峠武宏(29 April 2014, 14:52:52)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 天然の石は、均質ではありません。 カメオに最適な、均質な部分だけをカットして使います。 捨てる部分の方が多く、石の見極めも重要です。素材自体がいかに贅沢なのものか、ご想像いただけると思います。 |
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カメオを彫刻するのに都合の良い、はっきりとした白い層と、土台となる美しい層を持つ天然石。 天然の石の模様を生かす作品もありますが、完璧さを求める意識が高かったヨーロッパに於いては、均質な石を好む人が多かったようです。石を手に入れるだけでも大変です! |
このカメオのストーンは、以下の構成の3層アゲートです。 白 / ピンク系の半透明 / オレンジの半透明 半透明層だからこそ、背景や光によって表情がダイナミックに変化します♪ |
かなり厚みがある石ですが、背景の色が透けるほど透明度が高いからこそ、このように背景色によって色味が違って見えます。 美的感覚のない成金嗜好の人たちは、変化のないはっきりとしたものを好みます。一方で美的感覚のある人は、見るたびに豊かに表情を変える、変化に富むものをこよなく愛します。 |
光にかざすと、また違った表情を見せてくれます。右の方が、強めにライトを当てています。ブローチ・ピンが透けていることがお分かりいただけると思います。 |
選び抜いた、理想のアゲートを使った宝物なのです!♪ 本当に美しい色彩と透明感です。惹き立てるために、わざわざフレームをピンクゴールドで作ったのも頷けますね♪♪ |
3-2. 美しい女性の表現
3-2-1. モチーフ
信仰する女神 | 個人的なポートレート |
『ディアナ』 古代ローマ ガーネット インタリオ・リング 古代ローマ 1〜2世紀 SOLD |
『愛しきひと』 ジョージアン ミニアチュール・ポートレート リング イギリス 18世紀後期 SOLD |
人物がモチーフの場合、誰でも知っている有名な神・人物の場合と、個人的なポートレートの場合があります。 |
3-2-2. 最高に贅沢なポートレート・ジュエリー
アーティストによる制作 | 写真 |
『湖の畔で』 ミニアチュール(細密画)ブローチ イギリス 1780年頃 SOLD |
『OPEN THE DOORS』 マルチロケット ペンダント イギリス 1862年頃 SOLD |
写真がなかった時代は、大切な人を思い出すのに記憶が頼りでした。財力のある上流階級ならば、ミニアチュールやカメオなどのポートレートをアーティストに依頼することができました。 1840年代になると、ようやくヨーロッパで写真技術が普及し始めました。初期は1枚およそ10万円もする高価なものだったそうです。それでもアーティストに作品をオーダーするより遥かに安く、アーティストの腕の良し悪しによる品質の差もありません。写真は一気に普及し、ヴィクトリアン以降は写真が入るロケット・ジュエリーが多く制作されました。贅沢なポートレート・ジュエリーは、ジョージアンまでが殆どです。 |
スペイン女王イザベル2世(1830-1904年)1843年、13歳頃 | 腕の悪い職人だと、本人に見えなかったり、ちょっと変になったりします。 これはスペイン女王の肖像画ですが、当時のスペインは有力な国ではありませんでした。 オーダーした画家もイマイチだったのか、顔のサイズと身体のバランスに違和感があります。 写実ではなく、実物より上手に盛れるくらいでなければ一流のポートレート作家とは言えません! |
王族のポートレート・ジュエリー | ||
フランス王ルイ16世の織物のタペストリー(ゴブラン工房 1774年頃) "Gobelin Manufactory - Portrait of Louis XVI (1745-93) - Walters 8227 " ©Walters Art Museum/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 『英国王ジョージ4世』 ジロメッティ 1825〜1850年 【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London |
『ヴィクトリア女王』 ミニアチュール・エナメル ブローチ イギリス 1876年頃 SOLD |
上質なポートレート・ジュエリー自体が王族など、高位の貴族クラスでなければ持てないものです。3次元の立体彫刻であるカメオの場合、よりハードルは高いです。 |
王太子妃アレクサンドラと王太子アルバート(エドワード7世)のポートレートカメオ (トマソ・サウリニ 1870年)大英博物館【引用】Brirish Museum / cameo © The Trustees of the British Museum/Adapted |
なぜかアレクサンドラ妃のシェルカメオは割れていますが、このように王族クラスだと、写真が存在する時代でもポートレート・カメオをオーダーすることがあったようです。 庶民にはまず無理な選択ですし、成金がファースト・ジュエリーとして選ぶようなものでもありません。 |
この宝物は高位の貴族がオーダーした、とんでもなく贅沢なジュエリーと言えるのです。 |
3-2-3. 貴族らしい知的で優雅な仮装
19世紀の女性のポートレートだとしたら、なぜ古代ギリシャ風なのかと思う方もいらっしゃるでしょう。 現代でも仮装パーティやコスプレを楽しむ方がいます。 もともと、昔からヨーロッパ社交界で楽しまれてきた文化です。 ところで現代でもパーティで、ドレスコードにテーマが設定されることがあります。 色であったり、ハロウィンだったらオバケだったり、主催者の趣味嗜好によって様々です。 |
プランタジネット舞踏会のヴィクトリア女王とアルバート王配(1842年) | ヨーロッパ社交界では、昔の人たちの仮装をすることもありました。 日本人が見ると、どれもドレス姿も同じヨーロッパの王様やお姫様のようにしか見えないかもしれませんが、ファッションは時代ごとに流行がありました。 これはプランタジネット朝の装いです。1154年から1399年頃、中世イングランド王国にあった王朝です。 中世を再現した、上流階級らしい知的な仮装舞踏会というわけです。 結婚して2年ほど、23歳頃の若いヴィクトリア女王夫妻の姿です。 |
ヴィクトリア女王のダイヤモンド・ジュビリーを祝う大仮装舞踏会の参加者(デヴォンシャー・ハウス 1897年) 左:後にノルウェー王ホーコン7世となるデンマークのカール王子、中:その妻であり英国王エドワード7世の娘モード王女、右:その姉のヴィクトリア王女 |
そんなヴィクトリア女王の即位60周年を祝うダイヤモンド・ジュビリーでも、大仮装舞踏会が催されました。 各国の王族を含めた数百人の上流階級たちの姿は、まるで歴史の肖像画に生命が宿ったかのような煌びやかさで、夢のような舞踏会だったそうです。 写真集が発売されたため、こうして当時を想像することができます。 |
クレオパトラに扮する同時代の上流階級と舞台女優 | |
イギリスの上流階級 | 舞台女優(フランスの大衆のスター) |
アーサー・パゲット夫人(1897年) | サラ・ベルナール(1899年) |
どちらもクレオパトラの扮装です。上流階級と女優(大衆のスター)の違いが分かりやすいです。上流階級はたった1回の舞踏会のために、フルオーダーで極上のジュエリーや衣装、小物などをオーダーメイドしたりします。予算を気にする必要がないほど財力がある人たちの集まりなので、勝負どころは必然的にセンスの良さや教養の深さという、『人間力』の部分になります。 庶民は女優と言えども、予算を気にしなければなりません。現代人も普通は右のような、なんとなくクレオパトラっぽく見えて、派手で目立てば良いという方向になりがちだと思います。1、2度しか使わないとなれば、どうしても材料や作りはチャチになります。舞台衣装は強力な照明の元、遠くから見るには良いですが、近くで見るとケバケバしくて安っぽいというのはよくあることですね。 |
テオドラに扮する同時代の上流階級と舞台女優 | ||
本人 | イギリスの上流階級 | 舞台女優 |
東ローマ帝国テオドラ皇后(在位:527-548年) | ランドルフ・チャーチル夫人:チャーチル元首相の母(1897年) | サラ・ベルナール(1900年) |
歴史に関する興味は古今東西、多岐に渡りました。これは東ローマ帝国の皇帝ユスティアヌス1世の妻テオドラの扮装です。演劇もクレオパトラやテオドラなど、歴史的な演目も様々あったようですね。 |
ネプチューン(ポセイドン)に扮するジェノヴァ提督アンドレア・ドリア(アンジェロ・ブロンズィーノ 1530-1540年代) | 歴史上の誰かになりきって、その存在に想いを馳せるのは知的に面白いことです。 ルネサンス時代も芸術や知的なものに強い関心を持つ上流階級が、このように古代の神ネプチューンに扮して楽しむようなことはあったようです。 扮するだけでなく、その姿を絵画作品にしていることが興味深いですね。 気軽にデジタル画像を取得する現代と違い、一流の画家にオーダーする絵画は金銭的にもハードルが高いことです。 |
英国貴族 サンダーランド伯爵ロバート・スペンサー(1641-1702年) | |
グランドツアー中の古代ローマ・ファッション | 通常状態の装い |
グランドツアー中に古代ローマの衣装で身を包み、絵画を描かせたイギリス貴族も存在します。知人が倉敷で着物や浴衣のレンタル業をやっており、お客様は和服姿で美観地区の散策を楽しまれるそうです。外国人からも人気が高く、海外メディアも含めてちょくちょく取材されているようです。 そのような感覚で、当時イギリス貴族たちも古代のファッションに身を包み、知的なローマ旅行を楽しんでいたのかもしれませんね。 |
3-2-4. 傑出したセンスと教養を示すジュエリー
王太子妃アレクサンドラと王太子アルバート(エドワード7世)のポートレートカメオ
(トマソ・サウリニ 1870年)大英博物館 【引用】Brirish Museum / cameo © The Trustees of the British Museum/Adapted |
金儲け主義の現代アート業界によって、現代は絵画におかしな投機価格が付いていますが、本来は絵画よりジュエリーの方が高度な技術を必要とし、価格も当然より高価でした。 そのようなハードルもあって、肖像画と比べてポートレートジュエリーは制作数が少なく、デザインも無難なものが殆どです。 |
君主のポートレート・ジュエリー | ||
フランス王ルイ16世の織物のタペストリー(ゴブラン工房 1774年頃) "Gobelin Manufactory - Portrait of Louis XVI (1745-93) - Walters 8227 " ©Walters Art Museum/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 『英国王ジョージ4世』 ジロメッティ 1825〜1850年 【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London |
『ヴィクトリア女王』 ミニアチュール・エナメル ブローチ イギリス 1876年頃 SOLD |
実際より少し盛って表現する程度で、写実の要素が強いです。古い時代は、"写真の代わり"としての要素が強かったことが理由でしょう。 そのような中で、英国王ジョージ4世は古代ギリシャ・ローマの装いでデザインされています。ジョージ4世は王室財政を破綻寸前まで追い込むほどお金を使いまくった一方で、芸術文化や都市の発展には大いに寄与しました。イギリス1のジェントルマンとも言われ、稀代のセンスや教養は社交界で誰もが知るところでした。特に摂政王太子として国を司っていた時代はリージェンシーと呼ばれ、リージェンシー・スタイルの家具や調度品はフランス人が輸入するほど高い評価を得ていました。 |
古代ギリシャ風でオーダーされたポートレート・カメオ。しかも、当時最先端だったモダンスタイルにアレンジしたバージョンだなんて、存在すること自体が驚きです!! 相当な財力と、傑出した美意識とセンスを兼ね備えた女性だったことは間違いありません。 普通のポートレートジュエリーの場合、どれだけ有名人であって、しかも上手にできていたとしても、全く面白みがないので扱いたいと思えません。 |
この宝物は『芸術作品』と呼ぶに相応しい域に達した、奇跡的なポートレート・ジュエリーと言えます! |
3-2-5. 傑出したセンスと教養を示すジュエリー
フレームも見事ですが、さすがにストーンカメオの出来も第一級の職人の作品と確信できるものです。 女性らしい美しい顔立ち、豊かな髪。ドレープが見事に表現された古代ギリシャの装い。 |
厚みがある立体的な彫刻なので、実物だとより印象的です。光の当たり方によっても、大きく変化します。 |
どの角度から見て、整った美しいバランスです。 立体造形を作るのは本当に難しいことで、正面から見ると良くても、別の角度からだと変というのはよくあることです。 絵画と彫刻の両方で高い評価を得る万能の天才、ミケランジェロが2次元の絵画を軽視し、自身を彫刻家とみなしていたのは、要求される才能がまるで違うからです。 |
【参考】中級のストーンカメオ | 最高級品 |
左のストーンカメオは、通常のアンティークジュエリー店だと高級品として紹介されるレベルです。HERITAGEでは扱えない品質です。もっと酷いものはたくさんあるので、私は一応中級品と書きますが、Genはそれすら嫌がるレベルです。見るに耐えないそうです。気持ちは分かります(笑) 私たちは最高級品しかお取り扱いしません。並べてみれば、一目瞭然だと思います。左の安物は一見すると細かい彫りっぽく見えても、立体造形が全く美しくありません。扁平で躍動感がなく、死体のようです。 |
何だかんだ言っても、人物カメオで最も重要なのは人物の美しさですよね。 とても美人です♪♪ 知的で優しそうな雰囲気も、よく表現されています。 |
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シワやヒゲなどの特徴がない、若い女性は上手く立体感を表現するのがとても難しいです。 強調して変になることもなく、絶妙な立体バランスにより、見事に女性の人となりを表現しています。 |
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透かして見ると、絶妙な厚みバランスや、驚くほどの緻密さが分かりやすいです。 古代ギリシャ風の衣服のドレープも見事なものです。 |
白いので陰影がつきにくく、通常のライトでは分かりにくいですが、こうして見ると髪の毛まで驚異的な彫りであることが分かります。 豊かで艶やかな髪です。 一体どんな道具で彫ったのか、圧巻の出来です!!♪ |
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3-3. 最高級品を証明する見事な表面光沢
最も大きな9つのラフカットされたカリナン |
地味な作業ですが、磨き仕上げは重要です。米沢箪笥の透かし金具でも、『磨き』が最も手間のかかる大変な作業とのことです。 ダイヤモンドの手作業でのカットも、作業時間の大半は『磨き』にかけます。石によっては、1日14時間労働で数ヶ月もかけて磨き上げていました。ダイヤモンドが高価だった原因は稀少価値だけでなく、作業にかかる技術料や人件費もあるわけです。 |
【参考】磨き仕上げがおろそかな安物ストーンカメオ | 昔ながらの京茶釜の職人さんによると、銅のボディの最後の磨き仕上げは灰を手につけ、満足できるまでひたすら磨き続けるそうです。3週間くらいはかかるそうです。 『満足』できるレベルは人それぞれです。違いが分からない人にとっては、ひたすら磨いても値段が高くなるだけなので省きたがります。 左のストーンカメオは酷すぎますが、手間をかけていないものがいかに汚いかが分かりますね。 |
HERITAGEでは最高級品しかお取り扱いしないので、どれも磨き上げは素晴らしいですが、この宝物は特に凄いです。 表面が滑らかすぎて、撮影時の映り込みに苦労するほどです! このような苦労ならば、喜んで乗り越えますけどね。 |
見事なまでの石の光沢は、通常の高級品レベルでは満足しない、持ち主の特別な美意識と職人の高度な技術を反映したものです。 そして持ち主はそのようなオーダーができる、莫大な財力を持つ高貴な人物だった証でもあるのです。 |
裏側
裏側も、スッキリとした美しい作りです。 ブローチ・ピンの収納金具も、手間をかけた上質なものです。 ペンダント用のバチカンは、目立たないシンプルなデザインです。ブローチとして使用する際は、裏側に綺麗に収納されます。 |
着用イメージ
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HERITAGEでご紹介するジュエリーとしては、比較的大きさがありますが、透かしを駆使したスタイリッシュなデザインということもあって、威圧感がありません。 |
ペンダントとして使用する場合も、バチカンが殆ど見えないスッキリしたデザインです。ストーンカメオなので、ある程度の重さがあります。ペンダントとしてご使用される場合は金具への負担を考慮して、チェーンではなくリボンやシルクコードをお勧めします。撮影に使用しているより太いリボンでも通ります。このようなクラシカルなコーディネートもオシャレです♪ |
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シルクコードをご希望の場合はサービス致します。 |
単品でも存在感があります。悪目立ちはせず、現代のコーディネートにも品良くエレガントに馴染みます♪ 天然真珠を使ったペンダント&ブローチなので、天然真珠のネックレスと組み合わせて華やかなコーディネートも楽しめそうです。ピンクゴールド系のゴールドチェーンをお持ちでしたら、それと組み合わせてもオシャレですね。ブローチとして使えるので、コーディネートの幅が広い宝物です♪♪ |