No.00374 天使の羽根 |
クリップやペンダントとして着用し、ロニエットとして使用できる
使って最高に楽しい優雅な小物です♪
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アーティスティックで優美な羽根!♪
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グリップ性に優れた羽根ハンドルの驚異的な立体造形♪
随所に施された第一級の美しい銀細工!♪
ダイヤモンドを上回るマルカジットの強力で華やかな輝き♪
取手の収納部に施された、深さのある第一級の彫金の高級感!♪
1930年頃のアールデコながら19世紀の最高級品にも勝る銀細工!!
ミルやグレインワークに加え、磨き上げられた爪の見事な輝き♪
奥行感の強調のために徐々に気配を消していく
中心線のグレインワークは目視不可能レベルの神技です!!♪
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『天使の羽根』 |
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「こんなマルカジットの優雅な小物があったなんて!」と驚く、19世紀の最高級のダイヤモンド・ジュエリーをも凌ぐほど作りの良いマルチユース・クリップ式ロニエットです♪このタイプは高級既製品として一定数が作られた可能性が高いですが、当時の高級既製品は職人のハンドメイドなので、担当職人による技術の差がかなり大きいです。さらにマルカジット製品は戦後に作られたものが圧倒的に多く、現代ジュエリーのように爪が妙に目立っていたり、爪を使わず接着剤で固定したものも少なくありません。一般的なダイヤモンド・ジュエリーと比べて稚拙な作りで、爪が不細工なものを除き、100年も経たずマルカジットが脱落している場合が殆どです。今回の宝物のようにコンディションを保っているのは奇跡的であり、制作した職人の第一級の技術の証です。販売見本や制作手本などを目的に、特別な職人がマスター・ピースとして技術の粋を尽くして作った可能性が高いです。リアルな羽根を表現した立体造形、輝きの美しいグレイン系の細工、随所の彫金など細工物としても見どころ満載です。 インダストリアル・デザインが高く評価された時代のドイツ製だからこその、使うための優雅な小物としての動作機構も素晴らしいです。ジュエリーと違い、小物はメカニカル的なチェックも欠かせません。今でもスプリングがきちんと効いており、取手を押すとレンズが飛び出しますし、カチッと収納できます。クリップやペンダントとしてコーディネートし、さりげなくロニエットとして使用できる魅力的な宝物です。マルカジットの煌めきはとても華やかなので、パーティ・シーンでも楽しんでいただけると思います。レンズ・オタクにとっては高性能で評判が高い、ドイツ製の八角形の面取りレンズも心くすぐります。知的な男性が集まる場で披露すると、話がはずむかもしれません。とにかく魅力満載の宝物です!!♪ |
この宝物のポイント
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1. アールデコらしい優美な羽根のロニエット
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羽根のデザインとロニエットという組み合わせが、アールデコらしさ満点の宝物です♪ |
1-1. 知的なレディのイメージで流行したロニエット
ロニエットは元々は実用的な『見るための道具』だったものから、知的な印象を演出するオシャレ小物、そして財力やセンスを象徴するステータス・アイテムとして発展した歴史があります。 |
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特にアールデコの時代に流行し、工夫を凝らした様々なタイプがピンからキリまで作られました。左は、仮縫いのドレスにシワができて困っている女性に、最適なパターンを助言するオシャレで賢い女性です。右は旅行ガイドブック『べデカー』を手に古代ローマの遺跡を巡る知的な女性です。 |
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オシャレに興味のないガリ勉ではなく、知性と美しさを両立させた魅力的な女性を演出する優雅な小物がロニエットだったのです♪ |
1-2. アールデコに流行した軽やかな羽根
1-2-1. 普遍の魅力で上流階級を魅了する羽根
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美しい鳥の羽根は普遍の魅力があり、どの時代も愛されてきました。 そこら辺に落ちている羽根ならばいざ知らず、白鷺やダチョウ、孔雀の美しい羽根は、入手が大変なステータス・アイテムとして王侯貴族を彩ってきました。 |
1-2-2. アールデコを象徴する『ヤング・ブライト・シングス』と羽根
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19世紀後半から乱獲が問題となってくるほどファッション業界に於ける羽根の人気は高まっていましたが、特にアールデコに向けて人気は絶大なものとなりました。 |
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狂騒の時代と称されるアールデコの時代を象徴するのが、『ヤング・ブライト・シングス(眩い若者たち)』と呼ばれた新世代の"イケてる"上流階級たちでした。現代のような薄っぺらいパリピではなく、身近な人たちをたくさん失った過酷な第一次世界大戦とスペイン風邪を経て死を身近に感じ、今を全力で生きる大切さを知った若者たちです。戦争はもちろんですが、スペイン風邪の死者の殆どは65歳未満の若い世代でした。 アメリカの記録では、1918年から1919年までのスペイン風邪による死者数の99%は65歳未満であり、ほぼ半数が20歳から40歳の間でした。1920年の記録でも死者数の92%が65歳未満で、世界的に同様の傾向でした。 |
スペイン風邪の啓蒙ポスター(内務省衛生局 1922年) | |
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【引用】国立保健医療科学院 /「流行性感冒」 内務省衛生局著 (1922.3) | |
今回と異なり、100年前は「後先が短いお年寄りより若者を優先で!」と、政府主導で若者に優先的に予防接種も行ったようです。今と違ってお年寄り自体が少ない時代、尊敬に値するお年寄りの『徳』に身が引き締まる思いです。それにも関わらず、若者が次々と先立っていくのはどれだけ辛い経験だったでしょう。スペイン風邪の若者の致死率の高さはサイトカインストーム(免疫過剰反応)の可能性が挙げられたりしているものの、現代でも原因は分からないとされています。 |
新世代の"イケてる"上流階級ヤング・ブライト・シングス | |
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若いと死を身近に感じにくいものですが、若いから死なないというのは幻想です。いつでも、誰にでも、若くても死は突然に訪ずれ得るということを社会全体が体感しました。明日死んでも後悔せぬよう、人生を全力で謳歌しなければ。その新しいマインドを元に、流行・文化として花開いたのが1920年代からのアールデコでした。 パワフルな若者の時代だったので、煌びやかで激しいダンスも大流行しました。ジャラジャラのロング・ネックレス、キラキラ輝く揺れるダイヤモンド・ピアス、フワフワと魅惑する鳥の羽根・・。 |
ヤング・ブライト・シングスを代表する一人 エリザベス王太后 | |
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クイーン・マザー(エリザベス王太后)も有名なヤング・ブライト・シングスの一人でした。10代の多感な時期に第一次世界大戦とスペイン風邪のパンデミックを経験しています。国民から愛される性格で、近年のロイヤル・ファミリーの中でも屈指の人気を誇り、英国王室の評判を高めることに大きく貢献したと評価されます。 生真面目すぎる人物なんてつまらないわけで、美術品コレクターとして絵画やファベルジェのエッグ、宝石やジュエリー、さらに馬など総額7,000万ポンド相当も所有し、女王エリザベス2世に遺しています。所有馬で500回もレースに勝利しています。お酒を好きなだけ飲むのも、いかにもヤング・ブライト・シングスらしい話です。 |
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健康のため云々助言する人はどこにでもいますが、人生なんて一寸先は闇ですし、体質によっても性格によっても最適な過ごし方は違います。とんでもない大酒飲みながら、クイーン・マザーは101歳の天寿を全うしています。崩御する数ヶ月前まで公務をこなし続けており、100歳を超えていました。 夫の国王ジョージ6世も1952年に56歳で崩御しているのと対照的です。多くの身近な愛する人々が、十分に老いることなく旅立つ姿を目の当たりにしてきました。80代だから疲れた、90代だからもう引退しても十分、などとは言えないほど責任感に満ちた女性だったのかもしれません。明るく朗らか、一見するとその時だけを生きているように振る舞いながら、浮薄さは微塵もありません。たくさんの人の分まで、人生を長く大切に生きたということでしょう。 |
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『狂騒の時代』は狂乱や虚飾など、どこか破滅的なイメージもあります。 その一方で知的なファッション・アイテムとしてロニエットが好まれたり、それらのデザインに芯の強さや、人生の深淵を覗き見るような感覚を感じるのは理由あってのことなのです。 |
1-3. 使う姿が優雅なクリップ式ロニエット
1-3-1. 小物として使って楽しいロニエット
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最近は老眼鏡もオシャレに楽しもうとする方も多く、ブランド品など高価なものだと10万円台は当たり前、20万円を超えるものもあるようです。 但し20万円を超えるものでも、スワロフスキー(ガラス)とメタル、プラスチックなどによるチャチな量産品が普通です。ただのブランド代です。 もちろん気の利いた動作機構などなく、メガネのツルを開いた状態で、ただ紐やチェーンでぶら下げるだけのものが殆どです。 |
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アンティークの世界を知らなければそれで満足できますが、アンティークのロニエットを知ると、現代市場では買いたいものが無くなります。 |
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アールデコの時代にお年寄りは殆どいませんし、流行や文化の主役は若い世代でした。そのような世代はオシャレに貪欲です。まだ老眼にもなっていませんから、ロニエットはあくまでも実用目的ではなくオシャレ・アイテムとして制作されました。現代の"オシャレ老眼鏡"とは始点も発想も異なるのです。 近視の人も少なかったでしょう。老眼鏡と拡大鏡は同じです。ルーペとして使えるので便利ですし、左の女性のように目に重ねれば、瞳が魅惑的に拡大されます。 |
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この状態だとレンズが二重になるので、より拡大が可能です。 アールデコの時代、持ち主も眼に重ね、誰かを魅惑していたでしょうか・・♪ ただの棒と違い、美しい羽根のハンドルを持つ姿はとても優雅です。まさにレディのための、使うための優雅な小物です。 |
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無理やりスマホカメラで撮影したのでピントが完璧には合っていませんが、実物は気持ち良くルーペとしてご使用いただけると思います。 倍率はレンズとの距離次第なので、もっと拡大もできます。 |
1-3-2. 身につけても美しいデザイン
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クリップ式で着用でき、ポケットからゴソゴソと取り出したり、カバンの中を探す必要なく、すぐに使うことができます。 無駄のない一連の動作も、優雅さの演出には大事ですね♪ |
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ジャケットのポケットに着用したイメージです。高級小物として作られており、通常のアンティークジュエリーより着け映えします。アンティークならではの作りによって、美しい立体造形が実現しています。平面的でチャチな現代ジュエリーやアクセサリーしか知らない人には、ただのオシャレなブローチに見えると思います。ロニエットとして使う姿を披露したら、あっと驚かれることでしょう♪ |
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生地の厚みにも依りますが、ある程度クリップで角度を調整して着用することができます。想像以上に雰囲気が変わるものなので、このような調整ができるのは、鋭い美的感覚とこだわりがある方にとっては嬉しいと思います♪ |
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メタルではなくシルバーの上質な作りなので、ドレスにも合わせてもいただけます。 現代の"なんちゃって製品"だと作りも稚拙でマルカジット・ アクセサリーは安っぽく見えますが、これは王侯貴族にダイヤモンドの代替品として使用されていた歴史があるマルカジットのポテンシャルが存分に楽しんでいただけると思います。 パーティだと食事メニューを見るシーンもありますから、わざとらしくなくロニエットの機能も披露できますね♪ |
2. 高級小物としてのシルバーの上質な作り
2-1. ジュエリーと小物でのシルバーの違い
シルバーは高級品か安物か、『見る眼』と知識の両方を備えた限られた人にしか判別が難しい金属と言えます。20世紀に入ってジュエリーの一般市場に白い金属としてプラチナが登場する以前は、ハイジュエリーに使用する白い金属はシルバーに選択肢が限られていました。 |
2-1-1. 最高級ジュエリーに於けるシルバー
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![]() ダイヤモンド リング イギリス 1840年頃 ¥3,700,000-(税込10%) |
19世紀までの最高級ジュエリーでシルバーを使うのは一般的で、特にダイヤモンドはゴールドの色味を反映して黄ばんで見えぬよう、シルバー・セッティングが通常でした。但しシルバーのみで制作する最高級品はよほど古い時代や例外的なものを除いて作られておらず、ゴールドも併用します。左のように正面からは全てシルバーに見えても、裏側はゴールドバックです。 |
2-1-2. 現代宝飾市場でのシルバー
『シルバーアクセ』という言葉に象徴されるように、現代ではシルバーはアクセサリーにカテゴライズされる金属です。2025年7月18日時点で1g当たりの相場は以下になります。 ゴールド:17,626円 どれも少し前と比較すると随分上がったと感じますが、ゴールドとシルバーでは数倍どころの違いではありません。87倍もの価格差があります。ざっくり100倍と言っても良いくらいです。時代や地域によってはゴールドよりシルバーが高いこともありましたし、ここまで大きな差ではなかった時代もあります。この価格差となってくると、現代ではシルバーはアクセサリー扱いとなるのもやむを得ないと言えます。 |
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アンティークジュエリーの優れたモノづくりを4C政策や合成宝石、加工処理、キャスト(鋳造)量産技術などで駆逐した現代ジュエリーですが、楽して儲けようとコストカットし過ぎて(品質低下)、今では自身がアクセサリー市場に駆逐されかかっています。 アクセサリーとジュエリーの違いが分からない現代人は多いですが、実際に現代のアクセサリーとジュエリーは品質的観点からも境界が曖昧です。 |
シルバーにロジウムメッキしたものは、見た目にはプラチナとの区別が分かりませんし変色もしません。合成サファイアなど、稀少価値ゼロ(好きなだけ量産が可能)の石に使用されたりしますが、サファイアであったり大きさであったり、素材にしか興味がない成金嗜好の人には十分だったりします。この人種の人たちが求めるのは凄そうに見えること、但しとにかく安いことです。 |
アクセサリー | ジュエリー | |
![]() 【引用】SWAROVSKI / Atrract Trilogy Round Pierced Earring ©Swarovski |
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安物を手に入れても、買い叩き人を貶めて安く手に入れても、真の心の満足にはつながりません。そのようにして手に入れたものに、真の価値はないことを心の奥底では理解しています。「自分は良いものを身につけている♪」と心の底から信じられるならば、本当は価格など関係ありません。 「自分は安物を着けている。」その深層意識が絶え間ない劣等感を生み出し、喰べても喰べても腹の満たされぬ餓鬼のように、買う時の一瞬の代行的快楽を求めて買い続けます。トータルでは価値ある高級品を1つ手に入れるより遥かに高いお金をかけてでもそれをやるのですから、もはやビョーキです。 |
心を満たしてくれる小さな宝物 | ||
![]() リージェンシー 宝石リング イギリス 1811〜1820年頃 ¥580,000-(税込10%) |
![]() アールヌーヴォー天然真珠ネックレス フランス 1890〜1900年頃 ¥2,200,000-(税込10%) |
![]() ペンダント・ウォッチ フランス(パリ) 1910年頃 ¥15,000,000-(税込10%) |
貶められたものを身につけても、結局は自身の価値も下がり続けるだけです。大切に愛されてきたものは、新たな持ち主の心も満たしてくれます。より良くなりたいならば対象を買い叩くのではなく、少し頑張ってでも背伸びすべきです。私はそうしました。そうすることで背伸びした分を宝物みずからが補完し、より高みに引き上げてくれます。宝物が素晴らしいご縁をつなぎ、自身では想像もしなかった新しい運命を切り拓くことすらあります。 |
![]() ジャパネスク クラバット・ピン フランス 1900〜1910年頃 ¥420,000-(税込10%) |
暗闇を照らし、人生の進むべき道を照らしてくれる、大切で力強いパートナーになり得る存在です。 そのようなものは手に入れた後すぐに興味を失い、新たなものを求めるようなことにはなりません。 むしろ一緒にいる時間が長くなるほど、ご自身の成長に合わせて新しい魅力に気づけるようになったり、より強く愛着を持てるようになるものです。 本当に良いものは、たくさん持つ必要はないのです。少数だからこそ、より大切にします。買い叩いた安物のように、雑に扱おうという気持ちは湧きません。 |
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これが、本当に良いものを手に入れるべき理由です。 心を満たし、人として生きる中で真の幸せを感じるために、時を超えて小さな宝物は存在します。 |
2-1-3. 庶民の高級ジュエリーとしてのシルバー
アンティークジュエリーにはシルバー・ジュエリーも存在しますが、例外を除き、上流階級ではなく庶民の高級品です。特に違いが分かりやすいのは、皇帝ナポレオン3世の廃位と共和政への移行によって、いち早く大衆の時代を迎えたベルエポックのフランスです。 |
【参考】ベルエポックのシルバー・ジュエリー | |||
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【参考】ベルエポックのゴールド・ジュエリー | |||
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上流階級のための個性豊かな一点もののオーダー・ジュエリーと異なり、大衆向けの量産品はデザインが似たり寄ったりです。ただ、同じようなものでもシルバー製とゴールド製が作られています。シルバーは買えない女性に対し、ゴールドを買える女性がマウンティングしていた構図が存在します。 当時、ジュエリーを買えるフランスの庶民は売春婦でした。売春婦は日本人が持つイメージとは異なり、日陰者ではなく、特に高級売春婦となればフランスの社交界を彩る構成員の一部でもありました。漁色家で有名な皇帝ナポレオン3世の宮廷や私邸にもお呼ばれするような存在でした。 |
【参考】大衆向けアールヌーヴォー・ペンダント | |
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工場労働者など、通常の働き口だと女性は食べていくだけで精一杯の時代でした。ジュエリーを買い、着飾ることができる一般人は売春婦ということになるわけで、そこには女性同士の熾烈な競争があります。 「おほほ!ゴールドよ!良いでしょ!あら〜、あなたシルバーしか買えないのぉ〜?♪」 Genも私もこのようなアンティークジュエリーはお取り扱いしません。理由はお察しいただけるでしょう。Genも私も知識がない頃から感覚でこのようなものは選んでいませんが、背景が分かれば頭でも納得です。基本的に、ジュエリーでのシルバーは庶民用の高級品でしかないのです。分かる人には作りとデザインで判断できます。 |
2-1-4. 数少ない高級小物としての贅沢なシルバー
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王侯貴族が使用する、最高級の『優雅な小物』に使用されてきたのがシルバーでした。ゴールドで制作する場合もありますが、分量が多いとゴールドでは重過ぎます。シルバーの密度10.5g/cm3に対し、ゴールドは19.3g/cm3と倍近くあり、日常で使う道具としては不便です。 |
![]() デンドライトアゲート プレート イギリス 19世紀後期 ¥387,000-(税込10%) |
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ピクチャー・ストーンの自然の石の模様を、絵画のように楽しむためのこの作品もシルバーです。ゴールド製だと雰囲気が台無しだったことでしょう。 額縁はヘソナイト・ガーネットを贅沢に使用し、その石留と共に、透かしと粒金の装飾が見事です。ジュエリーに勝るとも劣らぬ作りは、まさに王侯貴族の最高級小物です。 |
![]() S.モーダン社フクロウのホイッスル イギリス(ロンドン) 1903年 SOLD |
![]() シルバー・カードケース イギリス(チェスター) 1903年 SOLD |
安物のチャチな作りとは真逆で、最高級小物として作られた銀製品は作りもデザインも美しく、眺めているだけで心が癒されます。当時の王侯貴族が楽しく使っていた様子が目に浮かび、その心の豊かさに共感して嬉しい気持ちになるのかもしれません。 |
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ロニエットはゴールド製や宝石を使用したものもありますが、このシルバーのロニエットは高級小物らしい強い魅力があります。 |
S. モーダン社の高級既製品 | |
![]() イギリス 1890年頃 SOLD |
![]() イギリス(ロンドン) 1893年 SOLD |
先ほどS. モーダン社のフクロウのホイッスルをご紹介しましたが、同メーカーからフクロウのシャープペンシルやブックマーカーも販売されています。フクロウは多くの人の心を掴む、普遍のモチーフです。高級既製品にとしてデザインしやすいです。 |
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羽根もそのような普遍のモチーフなので、高級既製品として作られた小物と推測します。 |
2-2. 立体的で優美な羽根の表現
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この宝物はアンティークジュエリーのカテゴリーとしては最晩期と言える、1930年代に作られたものです。 ギリギリ100年経っていませんが、現代の高級ジュエリーと比べてここまでと思うほど作りが違います。 |
2-2-1. ダイナミックな立体造形
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この宝物を見て特に感動するのが、ダイナミックで美しい立体造形です。また、現代のような量産のためのキャスト(鋳造)では実現できない、シャープさが際立つ1つ1つのフレームもご注目ください!♪ |
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アンティークのハイジュエリーに勝るとも劣らぬ見事な作りです。クリップとして着用できるので、小物と言うよりジュエリーの想定で作ったと言って良いレベルです。安物のジュエリーなど比較にもなりません!! |
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全体が立体的な作りです。羽根のデザインの優美さが惹き立ちます♪ |
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ロニエットのハンドルとして、握りやすさも考慮した設計です。このような使うための優雅な小物の設計は、美しさだけで十分な単なるジュエリーとは異なる難しさがあります。折りたたみ式という複雑な構造に加え、使用する上での耐久性も計算しなければなりません。それでいて美しいというのは、相当に腕の良いデザイナーの証です。 |
![]() 【引用】BOUCHERON / プリュム ドゥ パオン ペンダントイヤリング ラージ ©BOUCHERON |
これは現代の1,700万円代のピアス兼ペンダントです。360度回転させた動画も掲載してありましたが、作りが平面的ですし、工業的に量産されたダイヤモンドも同じ形ばかりで個性がないため、角度を変えても私には美しいと感じられませんでした。 |
![]() 【引用】BOUCHERON / プリュム ドゥ パオン モルガナイト ペンダントイヤリング ©BOUCHERON |
より小ぶりに羽根をデザインしたピアス兼ペンダントです。1千万円超の高額品ですが、かなり平面的な作りです。アクセサリーと違うのは素材だけで、作りとデザインがアクセサリー同等でしかないため、よく出来たアクセサリーともはや見た目に違いがありません。現代で多くの人がジュエリーに魅力を感じず、アクセサリーで十分と思うようになるのは自然なことです。論理的なことは知らずとも、人の感覚は平面的な作りをチャチに感じるものです。 |
2-2-2. ハンドメイドならではの精緻なフレーム
アンティークのハンドメイド | 現代の量産キャスト(鋳造) |
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![]() 【引用】BOUCHERON / プリュム ドゥ パオン モルガナイト ペンダントイヤリング ©BOUCHERON |
フレームのフチをご覧いただくと、シャープさがまるで違うことがお解りいただけると思います。キャスト(鋳造)は量産する場合にコストカットできるメリットがありますが、型離れの観点から、細かな凹凸の再現には向きません。また金属を叩いて鍛える鍛造と異なり、溶かして固めるだけの鋳造は金属そのものの強度も低く、耐久性を持たせるために量を多く使う必要があります。ヌルッとしてボテっとした作りは、製造技法とコストの制約によるやむを得ないものです。1千万円以上で売るならばもう少しどうにかできないのかと思いますが、モノづくり企業の研究開発に携わった身としては、現実として1千万円程度ではコスト的に無理だろうとも思います。 |
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優れたアンティークの作りの凄さには、本当に驚かされます。高さのみならず曲率もダイナミックで、それでいてフレームのフチはキリリと完璧にシャープです。シルバー製にも関わらず、並のハイジュエリーなど凌駕するほど作りが良いです。高級既製品とは推測しますが、その中でも見本や手本用に制作された、特別なマスター・ピースの可能性が高いです。 |
2-3. アンティークならではの美しい彫金
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この宝物は全体に彫金が施されており、美意識が行き届いています。このような細部までの気遣いの有無が、使う時の高揚感に大きく影響します。 |
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レンズとハンドルの連結部にあるレバーを押すと、収納されていたレンズが飛び出す仕組みです。 表裏に違いがない、見事な彫金が施されています!♪ |
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作りが稚拙な安物だと粗が目立って拡大に耐えられませんが、これはお見せして自慢したくなるほど抜群に作りが良いです!♪肉眼では気づかないレベルですが、小さなレバーにまでスパイラルが彫金されており、気が利いています。レンズのフレームもストライプの彫金が美しいです。100年近くの時を経てシルバーが黒ずむことで、凹凸部の陰影が際立っているのも魅力です。プラチナやホワイトゴールドも良いですが、シルバーならではの魅力が楽しめるロニエットです♪ |
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かなり深く彫ることで、印象的な陰影を実現しています。これだけシャープな彫金は、第一級の職人しか実現不可能なレベルです。丹念な磨き仕上げも完成度が高く、細工物として見ても非常に魅力があります!♪ |
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左右のレンズの連結部も正面と上下にスパイラルが彫金されています。深い彫りなので、格調の高さや高級感を感じます。 |
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平面でなく絶妙な曲率を持つ面への彫金なので、センスと技術を兼ね備えた職人でなければ美しく彫れません。本当にさりげない、とても良いものです♪ |
3. 光り輝く羽根を表現する上質なマルカジット
3-1. マルカジットの魅力
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この宝物は、HERITAGEとしては初めてのご紹介するマルカジット・ジュエリーです。 |
3-1-1. マルカジットの化学組成
硫化鉄(FeS2)の同質異像 | |
![]() "MarcassiteII" ©Didier Descouens(6 July 2009)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
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語源は白鉄鋼(Marcasite)ですが、鉱物学的には黄鉄鋼(Pyrite)です。鉄と硫黄から成り、化学組成はどちらもFeS2です。結晶構造が異なるため、別種の鉱物として分類されます(同質異像)。白鉄鋼は不安定な鉱物なので、装飾品に使用されているのは黄鉄鋼の方です。鉱脈で発見される際、ゴールドとよく間違われたほど強い反射があります。 |
3-1-2. マルカジットの装飾品への利用
![]() ギロッシュ・エナメル&マルカジット ピアス イギリス 19世紀後期 SOLD |
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だから治安の悪かった古い時代、王侯貴族からは旅先で使用するトラベル・ジュエリーなどに、ダイヤモンドの代替品として用いられました。 そのようなジュエリーを必要とする貴族は人数が少ないですから、このような宝物は本当に珍しい存在です。 裏側の美しいバラの彫金が、貴族の美意識の高さを物語っていますね。 |
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ダイヤモンド光沢は金剛光沢とも呼ばれ、表面状態が良ければ宝石の中でも屈指の反射率を誇ります。それは金属に準じるレベルです。 ジュエリーに使用されるマルカジットは金属光沢を持つ鉱物です。理想的な表面状態であれば全てを反射し、鏡のように振る舞うことができます。 透明感はない一方で、ダイヤモンドの"輝き"を再現したい場合は代替品としてとても有効です。 |
このためアールデコの安物ジュエリーにも多用され、コスチューム・ジュエリーと呼ばれるヴィンテージ・アクセサリーでは定番と言えるほどメジャーな鉱物となりました。市場で目にする殆どはそのような安物で、作りとデザインも安物相当です。 |
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小物でも稚拙な安物が数多く作られており、だからこそ作りの良い高級品として、HERITAGEでご紹介できる機会は滅多にありません。 デザインと作りは表裏一体で、高級品か否かは作りで判断できます。 ダイヤモンドというだけで価値が高いと判断する知識偏向型の人が多いのと同様、マルカジットの高級品を見分けられる人は恐らくごく少数派です。あまりにも安物として作られたものが多く、現代でも安い量産アクセサリーに使用されるからです。 |
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これはGenが13年前にご紹介したマルカジットの高級ブローチです。こんなマルカジット・ジュエリーがあったのかと驚くレベルの、作りの良さです♪ |
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高級品として作られたからこそ裏側の作りも良いわけで、耐久性を考えて1枚1枚の葉っぱを裏側で連結し、しっかりと固定しているのも印象的です。アンティークケースも高級ジュエリー相当のものがあしらわれています。このような良いものは、煌びやかな高価格のジュエリーにも、勝るとも劣らぬほど心を満たしてくれるのです。 |
3-1-3. マルカジットの結晶としての魅力
黄鉄鋼はこれまでに60以上の結晶形態が見つかっているほど、様々な結晶形があります。幾何学的な形状は、見ているだけでも知的好奇心を刺激します。 |
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様々な幾何学的ポテンシャルを内包する鉱物と想うと、カットされたマルカジットにも"宝石"に負けない魅力を感じることができます。実際、反射光はダイヤモンドの金剛光沢よりさらに強烈な、金属光沢です。ダイヤモンドには出せない強烈なキラキラは、他の宝石と比較して優劣をつけるべきものではなく、1つの宝石としての魅力的な個性です。宝石、半貴石などの分類分けは所詮、人間側の都合に過ぎないことを改めて感じさせてくれる石です。 |
3-1-4. マルカジットの名称
日本のアンティークジュエリー業界のパイオニアはGenです。誰も知らない時代にその価値を見出し、国内に教えてくれる人、便利な書籍などない時代から今を築きました。後続の人たちはGenから学んだり、こっそり知識を拝借する状況でした。いま普及している『マルカジット』という言葉は、そんなパイオニアGenを証明する1つでもあります。 |
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Genがこの仕事を始めたばかりの50年近く前、ロンドンで初めてマルカジットを買ったのですが、それを売っていたディーラーがオーストリア出身で、「これはマルカジットという石を使った物だよ。」と教えてくれたそうです。 英語ではマーカサイト(Marcasite)と発音しますが、彼女の英語がドイツ語のなまりがあったのでマルカジットになっちゃったそうで、それが日本中に広まったそうです(笑) ちなみに言語ごとに揺れがあります。 現代は便利な世の中で、ドイツ語だと確かにマルカジットと聞こえることが確認できます。 |
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フランス語だと「マーカシト」という感じです。マーカサイトが正しいと思い込んでいる方の記載も存在しますが、葉っぱのブローチも今回の宝物もドイツ製なので、マルカジットの発音で何ら問題ありません。 |
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さらに言えばこの時代のドイツの工業デザインと、科学・工業技術は世界でも屈指のレベルと見做されていました。特にレンズ系は現代でも評価はダントツです。 サラリーマン時代は研究所勤務で、高額だと億超えの観察装置も使用していました。マニアックな話ですが、光学レンズはもちろん、SEMやTEMなどの電子顕微鏡もドイツ製が研究者や技術者に圧倒的に支持されています。知人の工学系オタクやカメラオタクも、ドイツ製の支持者ばかりです(笑) ドイツは鉱物の高度なカット技術も有名です。メカニカルな構造と、精度の高いレンズが必要なロニエット、そして美しいカットのマルカジットということで、分かる人にとってこれほど価値あるものはありません!♪ |
3-2. サイズ・グラデーションの表情豊かなカット
現代のマルカジット・アクセサリーは、アンティークのハイジュエリーが分かる方には全く響かないと思います。作りと、それに付随するデザインに魅力がないからです。現代アクセサリーと、アンティークの安物はレベル的にはあまり違いがありません。ハンドメイドの場合、現代の方が道具が発達している一方で、職人の技術は昔の方が上という感じです。 |
3-2-1. サイズを絶妙に変化させる重要性
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ヴィンテージ・ジュエリーよりは古い時代のマルカジット・ブローチです。透かし細工やミル打ちなどは、現代よりは丁寧に作ってあります。ただ、いまいち魅力的に感じないと思います。作り自体も平面的ですが、マルカジットが全て同じ大きさなのも一因です。 |
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これも同じことが言えます。 |
アンティークの高級品 | 現代の高級量産ジュエリー |
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![]() ¥7,920,000-(税込)2023.2.2→¥9,900,000-(税込)2025.7.21現在 【引用】BOUCHERON / プリュム ドゥ パオン ペンダント ラージ ©BOUCHERON |
マルカジットに限らず、ダイヤモンドも同じことです。宝石の絶妙なサイズ・グラデーションと、立体デザインの組み合わせあってこそ表情が生まれ、生き生きとした美しさとして感じることができるのです。同じ顔のクローン人間が集まっていたら気味悪く感じるのと同じで、同じサイズ、同じ形のものを寄せ集めたものを、人の感性は美しいと感じません。 それにしても右のネックレスはヨーロッパのインフレと円安もあってか、以前より200万円近くも値上がりしていて驚きます。アンティークジュエリーはさらにブレグジットに伴う増税や投機マネーの流入で値上がりが激しいですが、輸入品は新品でもかなり値段が上がっているようです。頑張れば買える間に買わなければ手に入りません。「いつか。」という発想する人はいつまで経っても買えない理由です。枯渇も進行する一方ですから、そのうち日本人は手が出せなくなると感じます・・。 |
3-2-2. グレインワークの重要性
右の羽根ジュエリーは多少は気を遣って、ダイヤモンドをサイズ・グラデーションにしています。4C規格のせいでカットのフォルムが均一で『相似形』の寄せ集めなので、やはり無個性すぎる居心地の悪さはあります。顔が同じクローン人間で、顔や身体の大きさだけ変えても個性があるとは言えず、気味が悪いのと同じです。平面的なフォルムも美しくない理由の1つですが、全面に散りばめたダイヤモンドはラグジュアリーと言えるでしょうか。 |
アンティークのハンドメイド | 現代の量産キャスト(鋳造) |
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![]() 【引用】BOUCHERON / プリュム ドゥ パオン モルガナイト ペンダントイヤリング ©BOUCHERON |
アンティークのハイジュエリーの場合、フレームの細い箇所には極小ダイヤモンドをセットし、さらに狭い場所はグレインワークで埋め尽くします。流れるような美しさ、そして余韻が生まれます。高度な技術を持つ職人のハンドメイドだからこそできることで、右のような量産のキャスト(鋳造)ジュエリーはそれが不可能です。 |
ミルグレインの比較 | |
職人の手仕事(鏨を打ち、鑢で磨き仕上げ)![]() |
キャスト(鋳造)![]() |
本来はダイヤモンドの輝きよりさらに小さく、繊細な微粒子の輝きを出すためにグレイン系の細工が施されます。それを理解せぬまま、「ただブツブツがありさえすれば良い。」と勘違いした現代ジュエリーは多々あります。型離れという観点から、アンティークのハイジュエリーのような繊細なミルは具現化が不可能です。 |
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ブツブツ恐怖症の人にはひたすら恐怖しかないビジュアルです(笑) |
![]() ¥7,920,000-(税込)2023.2.2→¥9,900,000-(税込)2025.7.21現在 【引用】BOUCHERON / プリュム ドゥ パオン ペンダント ラージ ©BOUCHERON |
そのようなブツブツを避けたのがこのデザインというわけです。 物は言いよう、「ダイヤモンドで埋め尽くされていて贅沢!」とPRするのが商売人です。 メレダイヤは末端価格でも、1粒が数百円で手に入ります。量産ジュエリーを作る場合、品質にも寄りますが卸価格だと数十円台で手に入るかもしれません。 高度な技術を持つ職人の人件費より、適当にダイヤモンドで埋め尽くす方が遥かに安くつきます。 職人の細工を軽んじ、ダイヤモンドという材料にのみ価値を見出すのは、まともにコスト計算もできない証です。 宣伝文句を鵜呑みしても、残念ながら真に良いものは手に入りません。 |
3-2-3. 地味ながら技術の良し悪しが如実に現れるグレインワーク
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グレインワークは地味ながらも、高度な技術を必要とする細工です。 左は他店ならば高級品として販売するアンティークジュエリーです。 |
【参考】HERITAGEでは扱わないレベルのエドワーディアン・ブローチ |
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グレインワークもミルグレインも鑽(タガネ)で打って、鑢(ヤスリ)で丹念に磨いて形を整えます。技術が稚拙だったり、仕上げが甘いとこのようなグチャっとした汚い仕上がりになります。 |
アンティークの最高級ジュエリー | |
![]() アールデコ ジャポニズム ペンダント イギリス 1920年頃 SOLD |
![]() エドワーディアン ブラックオパール ペンダント イギリス 1905〜1915年頃 ¥10,000,000-(税込10%) |
気の利いたデザインのアンティークジュエリーには、意識してグレインワークが配されています。動きの感じられないものは、つまらない場合が多いものです。グレインワークによって流れるような美しさが生み出され、余韻となっていつまでも美しく印象に残ります。 |
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そのような最高級のジュエリーにしかできないレベルの美しい細工が、この宝物には施されています。 フレームの隙間を埋める距離の長いグレインワークはもちろん、羽根の中央部は両サイドのミルグレインと同じレベルの細かさで、3列状でミルのラインを作っています。驚異の細工です!! |
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この細工は羽根の根本まで単調に続くのではなく、半分付近から徐々に表現をなだらかにしています。 |
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これは羽根の立体造形と連動しています。クッと奥まった部分はより奥まって見え、手前となる部分はまるでピントが合ったようにグレインワークが見えることで、手前に見えるような視覚効果を計算した作りなのです。実にアーティスティックな表現で、芸術ここに極まれりです。単なる使う道具を超えています!!♪ |
3-2-4. 過去最高クラスのシルバーのグレインワーク
距離の長いシルバーのグレインワークは高度な技術が必要ですが、美しいデザインを実現する要でもあるため、19世紀の最高級ジュエリーでその第一級の作りを見ることができます。 |
![]() 約2ctダイヤモンドのブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
![]() イギリス 1870-1880年頃 SOLD |
左は約2ctのダイヤモンド、上はトレンブランということで、社交界での正装用の特に高価なジュエリーであることは誰も異存はないと思います。 左の宝物も、粒立ったシルバーのグレインが美しい輝きを放っています。 |
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これはゴージャスさを追求するトレンブランが多い中、可憐さを強調するような極めて美意識の高い逸品でした。根元のグレインワークは密集しておらず、特別に小さな粒が独立してデザインされており、バランスの良さが際立ちます♪ |
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華やかなこのトレンブランは、随所に長距離のシルバーのグレインワークを見ることができます。贅沢ですね〜♪ このように、グレインワークの大きさや粗密でも雰囲気は変わります。これらが19世紀後半の第一級のグレインワークです。 |
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今回の宝物は1930年頃に作られたものですが、信じ難いの数のグレインワークをデザインしています。 |
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相当な忍耐力を必要とする細工です。羽根の中心のグレインワークのラインはプツッと途切れることなく、余韻を残しながら気配を消失させています。肉眼では見えないレベルの神技です! ルーペで見なければ!しかしもう1つ別にルーペを用意せねば!!(笑) |
3-3. 脱落のない高度な石留
3-3-1. 完璧なものは奇跡的なマルカジット・ジュエリー
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このような小物を買い付ける際は、確認ポイントがいくつもあって気が抜けません。 動作機構が重要な小物の場合、開閉に違和感がないかも重要です。修理可能ならば良いですが、不可能なレベルで破損していた場合、価値はゼロです。 |
さらにこの宝物はマルカジット・ジュエリーなので、Genがかなり警戒していました。私にとっては初めて買い付けたマルカジットの宝物ですが、マルカジットは石が脱落している場合が多く、気づかずに何度も酷い目にあった経験があるそうです。 安物として作られている場合、ハンドメイドであっても職人の技術が稚拙でしっかり留まっておらず、100年も絶たずに石が脱落しているそうです。たとえ1箇所修理しても、そのような稚拙なものは全体の作りが悪いため、またすぐに別の箇所が脱落します。 |
![]() "MarcasiteBroosh" ©jo-h/Adapted/CC BY 2.0 |
これは英語版wikipediaに掲載されていたマルカジット・ジュエリーの代表例です。一応アールデコで、今回の宝物と同じ頃に作られたと推測します。 実物は小さいですし、通常のネット・ショップでも拡大画像は殆ど掲載しないため、気づかない人が多いと思います。 |
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スッキリしない透かし細工など、全体的にグチャっとした細工も気になりますが、マルカジットが何ヶ所も紛失していることにお気づきいただけるでしょうか? |
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この画像だと左上が1箇所、右下は3箇所マルカジットが紛失しています。 |
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この部分も何ヶ所も紛失しています。もはや修理という感じではなく、価値のないジャンク品です。これはwikipediaに掲載する"資料"ですが、このようなジャンク品でもそれなりの価格で当たり前に販売されているのがマルカジット・ジュエリーです。修理して販売するという発想などなく、苦情を言っても昔のものだから当たり前と言われるのが外国のスタンダードです。たとえ修理しても、高度な技術を必要とする爪留はまず発想しません。よく見たら接着剤ベッタリだったというのは、ダイヤモンド・ジュエリーでも普通です。 |
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日本人のディーラーですら、このようなジャンクを高値で平気で売る人種が存在します。 |
![]() "MarcasiteBroosh" ©jo-h/Adapted/CC BY 2.0 |
肉眼では意識しないと気づかない人の方が多いかもしれません。それなりに拡大しても、静止画では気づけない人も多いと思います。 ただ、マルカジットはダイヤモンドのような煌めきを魅力とするため、着用して動くシーンでは案外目立ちます。もちろん、眼が良い人にもすぐにバレます。 |
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落ちていない場合もありますが、爪が異様に目立っていたりします。落ちていないから良いというものでもありません。美しくなければ意味がありません。これでは爪ばかりが目立つ現代ジュエリーと変わりません。 後年になると爪を使わず、接着剤で押し込めて留めるだけのものも出てきます。それら酷いものの経験を経て、パイオニアGenは「戦前と戦後で作りが違う。戦前までのものしか骨董的価値があると言えない。」と結論を得ました。その積み重ねた苦労のお陰で、私は失敗を避けながら仕事ができます。 |
3-3-2. 堅牢な爪留
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1箇所も落ちていないというのは本当に奇跡的です。石のグラつきがあったら、脱落する前に締め直しておく必要があるため、実体顕微鏡を覗きながら爪楊枝で1粒1粒つっついて確認しました。 |
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目立たぬ小さな爪であるにも関わらず、全てがグラつきなくしっかり固定されていました。しかも爪も丁寧に磨いて粒金状に整えられており、爪自身もグレインワークやミルグレインと同調して輝きます。安物どころ普通レベルの高級品でもあり得ず、この時代ではプラチナの最高級品でしか見ない細工なので仰天です!! |
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かなり曲率あるフレームなので、そこへ確実に固定すること自体が高度な技術を必要とします。さらに羽根はハンドル部分なので、ロニエットと使用する際に何度も握ります。それでいて100年近くもコンディションを保つこと自体が奇跡です!! |
3-3-3. 高級既製品の小物という魅力
現代のティファニーは創業者一族とは別の存在であり、美しさや芸術などに興味などない多国籍持株会社が、創業者一族の威光を袈裟に経営しているだけの企業です。デビアス、ブルガリ、ショーメ、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、セリーヌ、ジバンシー、フェンディなど全て同じ会社が母体ですから、それぞれに経営者の強い個性など出るわけもなく、競争によって切磋琢磨が生まれることもありません。正直、どこで何を買っても『同じようなもの』です。 |
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TIFFANY&CO.の創業者チャールズ・ルイス・ティファニーは1837年、高級な文房具や装飾品などを扱う店としてNYのブロード・ウェイで会社を始めました。 想像すれば分かりますが、男性主導の時代です。紳士のための、紳士に認められるクオリティの高級ステータス・アイテムを扱うお店です。 女性に媚を売りながら女性用ジュエリーを主力製品として売るようなことはしていません。芸術家として多才だった息子もグラスアートや絵画など、小物や装飾芸術で活躍し名声を得ています。 |
![]() イギリス 1890年頃 SOLD |
創業者チャールズが活躍した時代のロンドンの高級小物メーカーとして、S. モーダン社はとても有名です。 創業者サンプソン・モーダン(1790年頃〜1843年)は銀細工師です。キャリア初期は発明家/鍵屋のジョセフ・ブラマの弟子として働き、万年筆のインク・タンクの構造で特許も取得しています。 先述した通り、小物は美しさより第一にメカニカルな構造が重要です。女性は「見た目が良ければ機能は適当でもOK。」と思う人も少なくありませんが、高級小物を買い求めるクラスの紳士は『気持ちの良い使い心地』を第一に求めますし、そのためならば高価になっても文句を言わず理解できる人々です。 S.モーダン社は世界で初めてシャープペンシルの特許を取得したメーカーであり、長年、英国紳士に支持されてきたトップメーカーでした。創業者の発明家としての才能が分かります。 |
要求が高く、口がうるさい顧客揃いでしょうから制作は大変だったと想像しますが、外からの適切な要望は、技術や製品の質を高めるのに極めて有効です。英国紳士が知恵の面でも、金銭的な面でもパトロンとして機能し、優れた文具メーカーとして成長したのでしょう。 1843年に創業者サンプソンが亡くなると、息子のサンプソンJr.とアウグストゥス・モーダンが跡を継ぎました。 |
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それから約100年後、第二次世界大戦のロンドン爆撃で工場が破壊されるまで、S. モーダン社は銀製品や真鍮製の小物の制作を続けました。創業者の息子たちが継いだのは1843年なので、その後の代まで継承していたのでしょう。この後は大衆の時代に突入し、優雅な小物を品質を保って作り続けることは難しかったでしょうから、名を穢す前に終わったのは結果的には悪くなかったかもしれません。 |
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技術の高さだけでなく、作風の違いも存在します。 受注生産の場合、腕の良い職人というだけでなく、好みの作風の職人にオーダーするのも重要でした。 |
ロシア皇室御用達ファベルジェ商会の作品 | ||
エリック・コリン作 | マイケル・パーキン作 | アウグスト・フレデリック・ホールミング作 |
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![]() デンドライト・アゲート ブローチ ロシア 1900〜1910年頃 SOLD |
ファベルジェ商会の場合、代表のピーター・カール・ファベルジェ本人は制作しません。最大で2,000人もの職人を抱え、1882年から1917年までの間に15万から20万もの作品を制作しています。名前が分かるのは、ほんの一握りのトップクラスの職人だけです。職人ごとに作風も技術的な得意分野も異なるのは、並べれば明らかです。 |
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ロシア皇室を始め、各国の名だたる王侯貴族のオーダー品はそのような工房長クラスの職人が担当してでしょう。ファベルジェ商会の製品には大したことないものも少なくない、と言うより、グッとくるものの方が少ないです。大半は、無名の職人が制作した雑多な製品だからです。現代ではそのようなものまで、『ファベルジェの製品』というだけで質に見合わぬブランド価格が付いています。いかにモノを見る目がない人が少なく、頭デッカチで判断する人が多いかを表しています。 |
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これは普遍性のあるシルバーの小物ということで、高級既製品として複数作られた可能性が高いと思います。ただ、これを作った職人の腕は別格です。100万円台をつけたくなるほど、ジュエリーとしての作りは完成度が高いです。同じデザインで他の職人が作ったとしてもこの美しさには至らないはずですし、100年を超える耐久性はなく、マルカジットは脱落しているでしょう。 |
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![]() "Pyrite from Ampliacion a Victoria Mine, Navajun, La Rioja, Spain 2" ©JJ Harrison(https://www.jjharrison.com.au/)Adapted/CC BY-SA34.0 |
高級既製品だった場合でも、マスターピースが必要です。何人かの職人で制作する場合は、お手本が必要です。受注生産の場合、顧客に見せる見本が必要です。品質の高さとコンディションなどを考慮すると、これはそのような、かなり特殊な目的のために特別に作られた可能性が高いです。 |
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マルカジットは金属光沢なので、その煌めきの強さはダイヤモンド以上です。透明感と合わさったダイヤモンドとはまた別の、強い魅力があります。静止画ではお伝えしきれませんが、実物がキラキラと繊細に輝く様子は水に濡れて水滴が輝く鳥の羽根、あるいは光の粒子を帯びた神々しい天使の羽根のようでもあります・・♪ |
裏側
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裏側も高級感のある綺麗な作りです。レバーを押すと、収納されていたレンズが飛び出します。スプリングは今もしっかり効いています。 |
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レンズは透明度には影響しない程度の若干の傷がありますが、使用する上では気にならないと思います。100年近くの使用を考えれば、かなりコンディションは良いです。八角形で面取りカットされたドイツ製の良いレンズです。レンズの度数を変えたりしたい場合は、かかりつけのメガネ専門店にご相談くださいませ。 |
着用イメージ
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ある程度の厚みがある生地であれば、羽根の角度を調整して固定できます。パーティーなど華やかなシーンでは、ネックレスやチェーンと組み合わせても楽しそうです♪ |
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ロニエットの取手がある側に、サオール社のメーカーズ・マークとシルバー835を示す刻印があります。空間があるので紐などを通し、ペンダントとしてもお使いいただけます。 |
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クリップと異なり着用時にレンズも見えるので、また一味違った雰囲気がお楽しみいただけます。撮影に使用している高級シルクコードをご希望の場合はサービス致します。 |