No.00353 Full Bloom |
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デザイン・宝石・神技の細工が三拍子そろったリングです♪♪ |
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| 花芯のシングルカット・ダイヤモンドの極上の照りと輝き♪ |
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| さりげない石留と優美なショルダーの造形はまさに神技!♪ |
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『Full Bloom』 |
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明るく鮮やかな色彩のルビー・フラワーが印象的なリングです。天然ルビーで極上の6石を揃えるのは大変なことで、それだけでも最高級品としての価値を物語っています。脇役となるダイヤモンドの選択も見事で、花芯のシングルカットのダイヤモンドは、高級品の中でもよほど美意識が高い人のために作られたものでしか見ないカットです。通常のオールドヨーロピアンカットより、透明感や強い煌めきを感じやすいです。ルビーの間にセットされた極小ローズカット・ダイヤモンドも、満開のルビー・フラワーに一層の華やかさを添えています♪ |
この宝物のポイント
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1. 明るい色彩の極上のルビー・フラワー
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美しいルビーのお花が印象的なリングです。 鮮やかな色彩に加えて大きさがあるので、指元でもお花が存在感を放ちます♪ いかにも人気が高そうなデザインですが、アンティークのハイジュエリーでも滅多にないのは理由があります。 |
1-1. 明るい色彩の濃いピンク色のルビー
1-1-1. 宝物のルビーの特徴
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合成石や加熱ルビーが市場の大半を占める現代ですが、このルビーは非加熱の天然ルビーの中でも特に上質です。鑑別はロンドンのディーラーがイギリスで済ませているので必要なかったのですが、色彩についての意見を聞きたかったので宝石研究所の所長に伺ってみました。 |
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かなりインクリュージョンが少ないのと、ビルマ(ミャンマー)系の明るい色彩が特徴とのことでした。ちなみに産地は限定できません。特徴的なインクリュージョンによって稀に特定できることもありますが、現代の新品が産地を特定できるのは、その産地で採れた石で製造しているからです。同じ産地でも品質には大きな差があり、産地よりも品質自体の方が重要です。但し、産地ごとの傾向などを知るのは面白いです。 |
1-1-2. 無限の色彩があるルビー
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色彩を生成できるソフトの画面です。 色の濃さ、明るさ、色味など、調整できる要素が各種存在し、少し数字を変えるだけで色の印象は変化します。 同じピンク系でも赤みが強いか紫を帯びているのか、暗い色味なのか様々です。 |
ルビーの色彩でよく聞くのが、『ピジョン・ブラッド』と『ビーフ・ブラッド』です。ビルマ(ミャンマー)系の明るい色彩が特徴とのことでした。ビルマ産の上質なルビーをピジョン・ブラッドと呼ぶ一方で、タイ産は透明度が低く鉄分を多く含む傾向があり、それが黒ずんだ色となるためビーフ・ブラッドと呼びます。 ちなみに宝物の産地は特定できません。特徴的なインクリュージョンによって稀に特定できることもありますが、現代の新品が産地を特定できるのは、その産地で採れた石で製造しているからです。同じ産地でも品質には大きな差があり、産地よりも品質自体の方が重要です。但し、産地ごとの傾向などを知るのは面白いです。 ちなみにどれが高級でそうでないかは、業界や業者がその時に売りたいものによってコロコロ変わるので全く信用できず、鵜呑みにすべきではありません。自分が感覚的に綺麗だと思えるものを選ぶのが、唯一の正解です。 |
| 【参考】安物のアンティークのルビー・リング | |
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適材適所なので、このようなルビーでも生かし方によっては魅力的に見えるかもしれません。しかし、宝石そのものの価値として見る場合、黒ずんだ暗い色彩は魅力的に見えないものです。 |
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透明度が高く、黒ずみがない明るい色彩なので、「ビルマ系の美しい色彩♪」とコメントされたわけですね。 |
1-1-3. 濃いピンク色のルビーの魅力
| コランダムの様々な色彩 | ||
| サファイア | ルビー | |
| ピンク | 赤系の濃いピンク | 深い赤 |
ジョージアン ピンク・サファイア リングイギリス 19世紀初期 SOLD |
『LOVE』ルビー リング イギリス 1880〜1900年頃 SOLD |
ルビー&ダイヤモンド リングイギリス 1880年頃 SOLD |
ルビーが属するコランダム系の石は、無い色は無いと言われるほどカラーバリエーションがあります。コランダムの中でも、ピンク色が濃い石だけをルビーと呼びます。他はサファイアと呼びます。色彩が限定されるルビーは、サファイアより稀少価値が高かった理由です。 |
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ブルー・サファイアを含む様々な合成コランダム"SynthKorVerneuil" ©U.Name.Me(29 November 2018)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
コランダム系の宝石は20世紀初頭に合成技術が確立され、今では好きな色で、好きな量を合成できます。 こうなってくると合成宝石の宝石としての稀少価値など皆無で、現代ジュエリー業界が「売れなくなった。」と言うのは当然の話です。大半の人は愚か者ではありません。これでも買う人がいるから、まだ存続しているようですが・・。 |
| 【参考】合成サファイア | ||
合成サファイア 約20cm、30kg |
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技術的には30kgサイズのサファイア・リングも作ることができます。 現代だと、合成サファイアの多くはジュエリーではなく工業用途です。硬度があるため、無色透明の合成サファイアだとサファイア・ガラスとして時計の風防や、スマートフォンのカメラレンズの保護などにも使用されていています。身近ですね。 |
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ベルヌーイ法の概略図 |
合成ルビーの量産技術が確立され、ジュエリーの一般市場に出回るようになったのは1907年です。 19世紀後半から20世紀にかけては科学の時代でした。科学の功績でイギリス貴族の爵位を授かる人たちも存在したほどです。 最先端技術は社交界でもホットな話題であり、その創造物は誰よりも早く手に入れたい憧れの的でもありました。 昔は錬金術が科学に相当し、賢者の石によって無尽蔵の黄金を得るという夢に、多くの優れた頭脳が挑みました。 |
ベルヌーイ法で合成された小さなルビーのブール |
20世紀初頭に実現したのが、人の手で美しい宝石を作り出す夢でした。人類が、神の領域に到達した心地だったかもしれません。最先端の合成ルビーは人類の叡智の象徴として、当時の社交界の注目の的となりました。 |
シンセティック・ルビー ダイヤモンド リングイギリス? 1910年頃 SOLD |
現代では稀少価値がありませんが、出始めの最初期だけはシンセティック・ルビーは憧れの的でした。 だから、この最初期のシンセティック・ルビーのリングは当時の最高級の作りで、王侯貴族のステータス・ジュエリーとして制作されているのです。 低品質の天然ルビーより、確実に格上の作りです。それは脇石のダイヤモンドの贅沢さを見ても明らかです。現代の合成ルビーではまずあり得ないことです。 |
【参考】合成コランダム(現代) |
さて。人工的に作れるのであれば、一番高く売れる『理想の色』で作るのは当然ですよね。 |
| 同時代の高級ルビー・リング | ||
| 初期の合成ルビー | 非加熱の天然ルビー | |
イギリス? 1910年頃SOLD |
![]() バーミンガム 1916年 SOLD |
今回の宝物バーミンガム 1907年 |
初期の合成ルビーを見ると、基本的には今回の宝物と同じような色彩です。深い赤ではなく、濃いピンク色です。色を自由にできることを考慮すると、このような色彩こそ当時の理想だったと判断できます。他の高級品を見ても確実です。 |
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| 各年代の高級ルビー・ジュエリー | ||
『愛の花』ルビー クラスターリング チェスター 1838年 SOLD |
『愛の誓い』ルビー&サファイア リング イギリス 1870年頃 SOLD |
『グランルー・ド・パリ』ベルエポック ルビーリング フランス 1910年頃 SOLD |
トレンブラン ブローチ&髪飾りイギリス 1880年頃 SOLD |
アールヌーヴォー リングフランス 1890-1900年頃 SOLD |
『永遠の愛』ダイヤモンド ペンダント&ブローチ フランス? 1910年頃 ¥1,220,000-(税込10%) |
黒ずんでいない、明るくて濃いピンク色が好まれていたのは明らかです。実は私も大好きな色です。小学1年生の頃、絵の具で再現しようと努力した記憶があります。赤に白を混ぜますが、すぐ混ぜすぎて理想より薄くなります。憧れの色でした。 |
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枢機卿の宝石 "Cardinal Gems" ©Mario Sarto, Robert M. Lavinsky, Humanfeather, JJ Harrison, GeeJo(11 April 2010, 21:36)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ピジョン・ブラッドやビーフ・ブラッドの名称を聞くと、血のような赤い色の方が良いのかと混乱します。 高級なルビーのアンティーク・ジュエリーをいくつも見てきた経験からすると、ただの現代ジュエリー業界の謳い文句すぎなかったと分かります(笑) 鉱物学が進んでいない時代は、赤い石としてルビーとガーネット、スピネルは混同されることがしばしばありました。 |
| 赤い宝石の宝物 | ||
| ルビー | レッド・スピネル | ガーネット |
ルビー ダイヤモンド リングイギリス 1880年頃 SOLD |
エメラルド&レッドスピネル ブローチ兼ペンダントアメリカ 1890年頃 SOLD |
ガーネット インタリオリング古代ローマ 200年頃 SOLD |
実際、見た目では区別しにくいものは存在します。実は、"赤い宝石”を鉱物の分類学的に厳密に区別するようになったのは、比較的新しい時代になってからです。昔は赤系の宝石は全て『ルビー』、もしくは『バラス・ルビー』と呼ばれていました。 |
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| レッド・スピネルだった"エドワード黒太子のルビー" | |
エドワード黒太子(1330-1376年) |
大英帝国王冠(1919年頃画) |
大英帝国王冠の正面にセットされた『黒太子のルビー』が有名ですが、ルビーではなく140カラットの巨大なレッド・スピネルだったそうです。このレッド・スピネルはイギリスの王冠に使われる中でも最も古い宝石の1つで、14世紀半ばにエドワード黒太子が入手したものです。 ルビーとサファイアが同じ組成の石(コランダム系)であり、スピネルが別の組成の石だと分かったのは1783年でした。かなり最近ですよね。私たちのようなディーラーは責任があるので鉱物学を含めて真面目にやるべきですが、ジュエリーを楽しみたい一般の方は頭デッカチで見る必要はなく、昔の王侯貴族のように感性で選んでいただければ良いと思っています。感覚的に美しいと感じられるか、好きと思えるかが大事です。興味がある方は、さらに好きなだけ鉱物学の知識も広げていただければ良いのです。 |
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| 赤い宝石の宝物 | |
| レッド・スピネル | ガーネット |
![]() レッド・スピネル&天然真珠 ペンダント&ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
『愛のメロディ』ジョージアン 竪琴 ブローチ イギリス 1826年 SOLD |
レッド・スピネルはアンティークのハイジュエリーでも珍しいですが、赤い宝石としてガーネットは定番です。安物に使われる低品質のガーネットは小さい上に、黒ずんで透明感もなかったりします。しかし、上質なガーネットは美しいです。古の王侯貴族は、このような赤い宝石を知っています。 |
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それならばルビーには、ルビーならではの濃いピンクの明るい色彩が好まれたことも、自然な流れと言えますよね。まさに理想の色彩のルビーで作られた、とっておきの宝物なのです!♪ |
1-2. 内含物が少ないルビーが放つ蛍光の魅力
1-2-1. 紫外線で赤色の蛍光を放つルビー
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ルビーならではの、特別な色の秘密を理解するために、少しだけ科学的なお話をさせてください。 私たちは、可視光線で色を認識しています。 |
可視光線 |
『エメラルドの深淵』珠玉のエメラルド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
『芸術には自由を』セセッション ブローチ ウィーン 1900年頃 SOLD |
『美しき魂の化身』蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
太陽光や蛍光灯、LEDなどの白色光には様々な波長の光が含まれています。様々な色が混ざり合って、白く見えます。この白い光が物体に当たり、一部は吸収され、一部は反射します。私たちが見ているのは、反射して目に飛び込んできた光です。物体が何色を吸収するかは、物体を構成する成分に依ります。 緑色に見えるのは、緑色以外の色は吸収し、緑色は反射しているからです。青色に見えるのは、青色だけ反射しているからです。あくまでも反射光であり、自ら発光しているわけではありません。だから、必ず当てた光より暗いです。 |
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蛍光灯の合成ルビー(3mm)"Artificial ruby hemisphere under a normal light" ©D.328(2 July 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
緑レーザー(単色光)で赤く発光する合成ルビー"Artificial ruby hemisphere under a monochromatic light" ©D.328(2 July 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ルビーも通常光ではそうですが、紫外線によって赤色の光を放つ性質があります。反射光ではありません。含有するCr(クロム)が波長エネルギーによって励起し、基底状態に戻る際に放つ蛍光です。つまり自ら放つ発光です。 この例では緑色の単色光を当てていますが、ルビー中のCrを励起状態にできれば赤く発光します。これは太陽光に含まれる紫外線などでも可能です。 |
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| 撮影用ライト | 太陽光 |
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太陽光で見るとルビーがハッとするほど綺麗だったので、リングケースにセットしてスマホカメラで撮影してみました。太陽光の入らないスタジオの中で、通常の撮影用ライトで撮った画像とは大違いですね。 このリングのルビーは透明度が高いため、黒背景だと少し暗く見えます。太陽光の元では驚くほど鮮やかに見えるのですが、これは赤色を発光しているからです。赤色に変化したのではなく、赤色を発光しているからこそ明るく見えます。 |
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| もともと赤い色だったのものが赤く発光するより、濃いピンク色が赤く発光する方が鮮やかさが増して見えますし、印象の変化が大きいです。だから、ルビーはこのような濃いピンク色の色彩が最も好まれたのだと思います♪ | |
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上の『ロシアン・アヴァンギャルド』はルビー1石、サファイア2石の絶妙なバランスでした。 発光できる上質なルビーはパワフルです。ルビー2石にサファイア1石だったなら、なんとなくバランス悪く感じたでしょう。当時の王侯貴族は、このような性質も熟知していたと改めて感じます。宝石も奥が深くて面白いですね♪ |
1-2-2. 美しいルビーは奇跡の存在
1-2-2-1. 品質に大きなムラがある天然石
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天然の美しい宝石は稀少です。だから高い価値が見出されてきました。莫大な労力と人件費をかけて鉱山から得られた原石でも、全てが価値を得るわけではありません。得られた大半の原石は美しくなく、宝石としては認められません。ダイヤモンドならば宝石、ルビーならば宝石というわけではないのです。"頑張ったで賞"は、ビジネスではもらえません(笑) |
天然パープル・ルビー(2.7cm) "Rubis, calcite 14" ©Parent Gery(21 March 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
これは2.7cmのルビー結晶です。天然ルビーは産地がアジアに偏っている上に、宝石品質の美しい石が採れる産地は極めて限定されます。さらに3カラットを超える大きな石は産出量も少ないため、全ての宝石の中で最も貴重とされた時代もあったほどです。 たとえ品質の良い原石だったとしても、結晶全体が使えるわけではありません。天然だからこそ、1つの塊でも品質にムラが生じているのが分かりますね。部分的に黒いもの見えます。 |
天然ルビー(2.0cm) |
これは2.0cmのルビー結晶です。こちらも所々に黒いものがあります。難しくなり過ぎない程度に、結晶学的にルビーの秘密をご説明しておきましょう。 |
1-2-2-2. 不純物が鍵となる『宝石』
| 純粋なコランダム | |
コランダムの結晶系 |
合成サファイア(無色透明なアルミナ) |
ルビーやサファイアはコランダム(鋼玉)で、酸化アルミニウム(Al2O3)の結晶から成る鉱物です。純粋なコランダムは無色透明です。いわゆる「インクリュージョンがない」状態ですが、色石としての魅力はありません。 不純物としてAl3+(3価のアルミニウム)が他の原子に置き換わることで、色彩に変化が生じます。Al3+がFe3+(3価の鉄)に置き換わると青色となり、青色のサファイアとなります。Al3+がCr3+(3価のクロム)に置き換わると赤色となり、ピンクサファイアやルビーとなります。 酸化クロムはいくつか種類がありますが、最も安定なのは3価の酸化クロム(III)で、結晶系はコランダムと同じです。このため、左図のAl3+(黒玉)は全てCr3+に置き換えることができます。 |
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コランダム(鋼玉) |
これもコランダムです。 宝石品質のルビーが産出される地域は限られると言うのは、このような品質の石しか出てこない産地もあると言うことです。 |
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美しい宝石というのは、まさに奇跡の存在です。 だからこそ、手間をかける価値が見出されたわけです。アンティークの時代の美しいジュエリーは、人々のそのような心の証なのです。 |
| 撮影用ライト | 太陽光 |
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ちなみにビルマ(ミャンマー)産の方がタイ産より一般的に高く評価されるのは、鉄よりクロムの割合が高く、黒ずんでいないためとされます。タイ産は多くの場合、鉄とクロムが同じくらいの割合で含まれるそうです。 クロムの割合が多く鉄が少ないと、通常でも明るい色彩に見えますが、紫外線が当たった際に赤く光る原因はクロム原子です。だから、明るい色彩のルビーほど、より強く蛍光を発する能力を秘めていると言うことです。各条件が揃うことで、ルビーならではの最高の美しさを見ることができますが、そのような条件が揃うのは奇跡的なことなのです。 |
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1-3. 天然ルビーでは難しい大きなお花デザイン
1-3-1. 天然ルビーならではのデザイン的な制約
お金に糸目を付けない人のための高級ジュエリーにとって制約となるのが、宝石による制約です。天然石の場合、手に入るものが限定されます。それがデザインへの制約にもなります。 |
| 同時代の高級ルビー・リング | ||
| 初期の合成ルビー | 非加熱の天然ルビー | |
イギリス? 1910年頃SOLD |
![]() バーミンガム 1916年 SOLD |
![]() チェスター 1838年 SOLD |
人類の夢を叶えた合成ルビーがステータスの象徴となった時代、どのようなデザインでも可能となったはずです。そこでどのようなデザインが選ばれたかと言うと、大きさのあるルビーを強調するデザインです。 上質で大きさのある天然ルビーは、どれだけ財力があっても手に入れること自体が困難でした。主役は合成ルビーであり、脇石やデザインがルビーより目立ってはいけませんし、ルビーの大きさと存在感こそが主役であるべきでした。だから最初期の合成ルビーのリングはシンプルなデザインと、上質な作りが特徴です。 |
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1-3-2. 品質が揃った複数の石を集める困難さ
1-3-2-1. 小さなルビーをポイントとして複数使用したリング
イギリス 1830年頃SOLD |
イギリス 1860年頃SOLD |
イギリス 1860年頃SOLD |
大きな石が滅多にないとされる天然ルビーですが、小さくても強い存在感を放つルビーならではの性質は、デザインのポイントとして活躍します。小さなルビーをセンスよくあしらった宝物は、様々な年代のハイジュエリーでみかけます。 色味や雰囲気をそれなりに合わせ込んでおく必要はありますが、これらのように小さなルビーを離れて配置する場合、お金さえあればある程度はなんとかなったでしょう。 |
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1-3-2-2. 小さなルビーを複数使用するデザイン
天然真珠&ルビー クラスター・リングイギリス 1860年頃 SOLD |
![]() ルビー&ダイヤモンド リング イギリス 19世紀後期 SOLD |
上質なルビーを使用したリングは数が少なく、左は11年前、右も7年前にご紹介した宝物です。それだけルビーが稀少である証です。質が悪い石で妥協するなら別ですが、美意識の高い上流階級であれば、限りなく均質の美しいルビーを使用します。特にこのように、並べて配置するデザインの場合は石の色味が少し違うだけでも目立ちます。天然石の場合、たとえ小さな石であっても、上質で質の揃った石を集めるのは大変なのです。 |
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1-3-2-3. サイズのあるルビーを複数使用するデザイン
ベルエポック ルビー・リングフランス 1910年頃 SOLD |
宝石は大き過ぎるとリングには向きませんし、そこまでではなくても1粒を主役にデザインすることになります。 あまり大きいとデザインできる余地が殆どなくなってしまうため、宝石主体のジュエリーになります。デザイン性を考えると、リングの場合は大き過ぎず小さ過ぎずの程よい大きさというものが存在します。 |
ルビー 一文字リングイギリス 1870年頃 SOLD |
『心の焔(ほむら)』ルビー 一文字リング イギリス 19世紀後期 SOLD |
![]() 花びらルビー・リング フランス 1910年頃 SOLD |
程よい大きさがあり、しかも上質で質の揃った天然ルビーを揃えるのは至難です。ただそれだけで、高い価値があります。1石だけ上質な天然ルビーを手に入れるより、入手難易度は高いかもしれません。質にこだわらなければあるのですが、そういうものは作りが悪く、評価が低かったことが如実に分かります。価値が分かる以上、心の底からお勧めができないので買い付けません。 大きさのある上質な天然ルビーを複数リングに使用する場合、一文字リングでデザインすることが多い印象です。貴重だからこそ、定番で使いやすいデザインが好まれたのでしょう。たまたま13年前に今回同様、お花デザインのルビー・リングをお取り扱いしていましたが、大きめルビーが複数使用されたデザイン性の高いリングは、10年に1度見つかるかどうかの貴重な存在なのです。石の入手が困難だからと言えます。 |
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1-3-3. 贅沢なカットから伝わってくるラグジュアリー
1-3-3-1. ハイジュエリーの宝石のカットの方向性
『MIRACLE』ライトニングリッジ産ブラック・オパール ペンダント イギリス 1905-1915年 ¥10,000,000-(税込10%) |
宝石のカットは大体決まっています。 特に貴重すぎる石の場合、美しさを優先した上で、極力無駄が出ないカットを施します。 |
1-3-3-2. 贅沢な宝石のカットによるアーティスティックな作品
『アルプスの溶けない氷』アルプス産ロッククリスタル 回転式3面フォブシール イギリス 18世紀後半 ¥1,400,000-(税込10%) |
『鷹の眼×虎の眼』ホークスアイ コンパス(方位磁石) ペンダント フランス? 1890〜1900年頃 SOLD |
しかしながらごく稀に、非常に贅沢なカットを施したアーティスティックな宝物に出逢います。2度と手に入らないほどまでには稀少ではなく、それでも普通は極力無駄の出ないカットを施すような貴重な石を、贅沢にカットして作った作品です。石そのものがメインではなく、表現したい理想像のために石を大胆にカットしてしまう、超贅沢で美意識の高い美術品と言えます。 |
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『黄金の花畑を舞う蝶』色とりどりの宝石と黄金のブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
『美しき魂の化身』蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
石が稀少になるほど、そのような大胆なカットを施すことは少なくなります。低品質の石ならば安いですし、もし失敗しても替えがききます。しかし、そんなことをしても王侯貴族としての美意識の高さや財力の証明にはなりません。だから、このような宝物に使われている石は感心するほど上質で美しいです。 普通は無駄の出るカットしない石を大胆にカットするからこそ贅沢であり、しかもそれで高いデザイン性を実現できるからこそ、芸術的にも価値が高い作品になるのです。 |
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アールヌーヴォー リングフランス 1890-1900年頃 SOLD |
『雫の芸術』ブリオレットカット・ダイヤモンド&天然真珠 ブローチ フランス 1920年頃 SOLD |
上質なルビーやダイヤモンドを使った、大胆なカットの宝物が滅多にないのは当然と言えば当然ですが、それでも美意識の高い王侯貴族ならばもう少しトライしそうなものです。なぜトライしていなかったのかと言えば、ルビーやダイヤモンドの場合は特に硬度が高く、多く削る必要がある形状のカットは、技術的に困難だったからです。だから、ルビーやダイヤモンドなどの硬い宝石で、面白いカットの宝物が出てくるのは、カット技術が近代化されて以降です。だから余計に数が少ないのです。 |
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1-3-3-3. 個性を感じる花びらのカット
| フレームで花びらの形をデザインした宝物 | ||
『ライラック』ローズカット・ダヤモンド ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
『マーガレット』天然真珠 ピアス イギリス 1880年頃 SOLD |
エドワーディアン オニキス リングイギリス 1901-1910年頃 SOLD |
お花には様々な種類があります。花びらの形も枚数も多種多様です。複雑な形状にしたい場合は宝石そのものではなく、フレームで表現する金属細工が有利です。職人の腕次第です。 |
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| 宝石の花びらのフラワー・リング | ||
天然真珠 クラスター・リングイギリス 1880-1900年頃 SOLD |
『ペルピニャン・フラワー』ペルピニャンガーネット リング フランス 19世紀初期 SOLD |
『FORGET ME NOT』忘れな草 トルコ石 リング イギリス 1880年頃 SOLD |
花びらを宝石で表現する場合、丸い場合が殆どです。ありのままの原石を使う天然真珠はもちろんですが、カットできる宝石でも丸です。質の揃った石が複数必要な場合、丸くて小さいほど準備しやすいからです。それでも色やカット、花芯との大きさのバランス、花びらの枚数などで印象を変えることができます。 |
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| 丸以外の宝石の花びらの宝物 | ||
イースターエッグ・ロケットオーストリア 1890-1900年頃 SOLD |
今回の宝物イギリス 1907年 |
![]() 花びらルビー・リング フランス 1910年頃 SOLD |
| 丸い花びらはデフォルメされた可愛らしい印象ですが、少し縦長になるだけで本物のお花に近い雰囲気が出てきます。花びらの形や枚数、密度や花芯とのバランスで驚くほど雰囲気が変わります。 | ||
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ファセットに注目すると、似た形状に見えても全く異なることが分かります。今回の宝物は正面に平らなファセットを作っていますが、右の宝物はそうではありません。 |
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花びらの正面は平らな面ではなく、山の形状となるようカットされています。煌めきよりも、ルビーの色彩そのものをより強く感じるためのカットです。 |
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今回の宝物のルビーは、煌めきも重視したカットです。ダイヤモンド光沢ほどではありませんが、ルビーは強い煌めきを放つ宝石でもあります。オーダー主は、華やかな雰囲気を出したかったのでしょう。それでこのカットにしたのです。現代の量産ジュエリーは画一的なカットばかりですが、アンティークのスペシャル・オーダー品の場合、宝石のカットすらもオーダー範囲に入ります。贅沢なことですし、オーダーする側も相応の知識や経験値が必要なので大変です。だからこそ美しいのです。 |
2. センス抜群のダイヤモンドの使い方
2-1. 美意識を感じるローズカットの配置
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この宝物はルビー6石に加えて、ダイヤモンドは7石セットされた、豪華なリングです。大きくて目立つ石に目が行きますが、6石の極小ローズカット・ダイヤモンドは全体の雰囲気をより華やかにするための重要ポイントとなっています。 |
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ローズカット・ダイヤモンドはルビーの花びらの間にセットされています。 実際のサイズをご想像いただくと、極小のダイヤモンドであることがお分かりいただけると思います。 手間と技術とお金をかけて意味がないことはしません。随所から放たれる、極小ローズカット・ダイヤモンドならではの閃光がとても美しいです。 そして、オーダー主はその美しさにお金をかける価値があると認識していた証です。 |
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現代ジュエリーでは見られないのが、極小ローズカット・ダイヤモンドをセンス良く使ったジュエリーです。極小ダイヤモンドとされるメレダイヤも、カットは通常の量産ブリリアンカットです。機械を使って技術的には可能になったものの、美しさへの配慮は皆無です。 |
| 極小ダイヤモンドを使った高級ピアス | |
| ローズカットを使ったアンティーク | ブリリアンカットを使った現代ブランド |
『新時代の花』モダンスタイル ダイヤモンド ピアス イギリス 1910年頃 SOLD |
ダイヤモンド・ピアス(ティファニー 2023年)¥2,365,000-(2023.2) →¥2,585,000-(2023.11) 【引用】TIFFANY & CO / ティファニー ハードウェア リンク ピアス©T&CO |
大きさがあればブリリアンカットでもそれなりに輝きますが、そのまま小さくすると、ファセットの面積が小さすぎることもあって、まともに輝きを感じられなくなります。そもそもメレダイヤは余った品質の良くない石を使用するのが通常です。しかも磨き仕上げも甘いので、まともに輝きません。ただダイヤモンドを使ってさえいれば喜ぶ人向けの商材なのです。 美意識が高い人は、それでは満足しません。だから王侯貴族のために作られたアンティークのハイジュエリーは、極小ローズカット・ダイヤモンドを好むのです。オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドより遥かに小さな石で、存在感のある印象的な閃光を放つことができるのが極小ローズカット・ダイヤモンドです。 |
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| 極小ローズカットで魅力を増した一文字リング | ||
![]() オレンジ・ガーネット リング イギリス 1900年頃 SOLD |
コロンビア産エメラルド リングヨーロッパ 1870年頃 SOLD |
ペルジャン ターコイズ リングイギリス 1870年頃 SOLD |
オパール 一文字リングイギリス 1880年頃 SOLD |
一文字 天然真珠 リングイギリス 1880年頃 SOLD |
ルビー 一文字リングイギリス 1870年頃 SOLD |
それぞれ異なる宝石です。先にご説明した通り、どの種類の宝石だから価値が高い低いという短絡的な判断は誤りで、種類以上に質(=稀少価値)が重要です。私たちが選んでご紹介するのは、各宝石の中でも特に上質で美しい石を使った最高級品です。 必ずしも最高級品に極小ローズカット・ダイヤモンドがセットされているわけではありませんが、これらは全て極小ローズカット・ダイヤモンドが傍にセットされています。持ち主の美意識の高さと共に、当時の王侯貴族が極小ローズカット・ダイヤモンドならではの魅力を高く評価していた証です。パッと見ただけでは普通は気づかぬほど小さいですが、輝くと本当に存在感があるのです!♪♪ |
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大きな花びらを宝石で表現したリング自体が珍しいですが、それだけで満足することなく、極小ローズカット・ダイヤモンドも駆使しているのが素晴らしいです!♪ |
2-2. 瑞々しい透明感と照りのシングルカット
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花芯のダイヤモンドのみ、オールドヨーロピアンカットです。但し通常のオールドヨーロピアンカットではなく、ファセットの構成を簡素化したシングルカットです。ダイヤモンド自体の質も最高なだけあって、あまりに綺麗さに「本当に100年以上も経ったリングなの?」と感じる方もいらっしゃると思います。でも、これもアンティークジュエリーならではの美しさです。 |
2-2-1. ダイヤモンドの大きさとカットの関係性
【参考】ブリリアンカットの鋳造ダイヤモンド・リング(現代) |
現代宝飾業界の4Cプロモーションによってブリリアンカットのみが殊更に神格化され、その他の少しでも規格に合わないダイヤモンドは無価値であると、一般人は洗脳されました。 その結果、楽だという理由で業界は何も考えずにブリリアンカットばかりを売るようになりました。 大きさがある時はそれなりに見えるのですが、小さい石まで全てブリリアンカットにするのはセンスがなさ過ぎます。 |
【参考】メレダイヤのティファニー・ジュエリー(現代) |
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![]() 【引用】TIFFANY & CO / ティファニーソレスト リング ©T&CO |
![]() 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Cushion-cut Yellow Diamond Halo Engagement Ring in Platinum ©T&CO |
ブリリアンカットの面数は57です。極小の石まで57つものファセット(面)をカットすると、こうなるに決まっています。ここまで面積が小さすぎると、面反射としての強い輝きは感じられません。もはや悪い見本でしかありません(笑)現代 |
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こうなることが分かっているから、アンティークのハイジュエリーで小さなダイヤモンドを使いたい場合、ローズカットではなくオールドヨーロピアンカットを選ぶ際はシングルカットにするのです。 |
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2-2-2. シングルカットは特別な美意識と特注品の証
『エメラルド・リボン』天然真珠 ネックレス イギリス 1920年頃 SOLD |
シングルカットはハイジュエリーでも殆ど目にすることはありません。最高級品として作られた中でも、特に美意識の高い宝物のみに見つけることができます。 「かなり小さいからローズカットかな?でも輝きはオールドヨーロピアンカット系だなぁ。」と思いつつ、よく観察してみてシングルカットだったということが殆どです。 |
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最高級品なだけあって、小さくても最高品質のダイヤモンドが使用されます。通常の高級品のダイヤモンド以上にインクリュージョンが少なく、どの石も透明度が高いです。オールドヨーロピアンカットを簡略化したシングルカットは、ファセットの数が少ない分だけ、1つ1つのファセットの面積が石の大きさの割に広いです。このため、煌めきが大きく華やかです。目を惹くので案外、気づきやすいです♪ |
『MIRACLE』ライトニングリッジ産ブラックオパール ペンダント イギリス 1905〜1915年頃 ¥10,000,000-(税込10%) |
この宝物は特別なブラックオパールに目が行きますが、シングルカット・ダイヤモンドもこれまでで一番凄いと言える宝物です。 |
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覆輪留めされた石も小さいですが、フレームにセットされた極小ダイヤモンドまで全てローズカットではなく、シングルカットのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドです。信じがたいカット技術であり、奇跡のブラックオパールの価値に見合う脇石と細工とも言えます。 |
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顕微鏡でないとはっきり見えないほどの小ささですが、極上のダイヤモンドのシングルカットだと、透明感と共に煌めきとファイアが本当に美しいです。現代のブリリアンカットのメレダイヤは、これを見ると存在価値を見出せなくなります。 |
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| 『Sweet Emerald』 オレンジピールカット・エメラルド リング フランス 1920年頃 SOLD |
コンテスト・ジュエリーの可能性が高い、この宝物も脇石にシングルカット・ダイヤモンドを多用しています。主役のオレンジピールカット・エメラルドを邪魔しない、透明度の高い美しさが印象に残っています。 ショルダーにまでセットされており、本当に贅沢です。シングルカットはアンティークジュエリーの中でも知られざる名脇役ですね!♪ |
2-2-3. 透明感・煌めき・ファイアが揃った上質なシングルカット
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この宝物の花芯のダイヤモンドも、さすが透明度が高いです。だからアンティークであるにも関わらず、モダンな印象を感じます。シングルカットの宝物は滅多にないので、HERITAGEのカタログをよくご覧の方でも、見慣れない美しさだと思います♪ |
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【参考】厚みのない扁平なカットのダイヤモンド・リング(現代) |
シングルカット・ダイヤモンドは、クラウンにしっかり厚みがあります。だから透明感と共に、ダイナミックなシンチレーションを放つことができます。 現代ジュエリーは「ブリリアンカットを進化させたカット」と称し、さらに薄くカットしたダイヤモンドまで存在します。 進化させたのは美しさではなくコスト部分です。正面からは同じ大きさに見え、薄くした分だけ安くなるカラクリです。クラウンからの反射がより少なくなりますが、錯覚であっても大きく見えて安いことを重視する人には良いのかもしれません。 |
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厚みがない方が綺麗だったならば、お金を気にする必要のない古の王侯貴族のハイジュエリーのダイヤモンドは薄くカットされていたはずです。現代ジュエリーは何を追い求めているのでしょうね。ラグジュアリーでも、美しさでもないのは明らかです(笑) |
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通常のオールドヨーロピアンカットとは異なる魅力があります。鮮やかなルビーが華やかだからこそ、惹き立て役として見劣りしない脇石が選ばれています♪ |
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ダイヤモンド光沢を特に強く感じる石です。磨き仕上げを特に念入りにしているからこそ、通常より反射率が高く照りが強いですし、透明度も高いのです。最高級品は、普通は気づかないような細部まで美意識が行き届いています!!♪ |
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どのファセットも強く煌めきますし、ファイアも出やすいです。ルビーの色彩を惹き立てる名脇役です♪♪ |
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ルビーの花びらは、満開を表現したフォルムでセットされています。花芯のシングルカット・ダイヤモンドは、そこから一段高い配置です。これにより華やかなルビーに負けることなく、しっかりと花芯のダイヤモンドも存在感を放つことができます。 |
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厚みのあるダイヤモンドを、高さを出してセットしているので、斜めから見ても煌めきに意識が行きます。ダイヤモンド底面からの反射は、この角度からは見えません。現代ジュエリー業界は上部クラウンの輝きを無視しますが、本当はとても重要なのです!!! |
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ルビーの花びらと、シングルカット・ダイヤモンドの花芯が同じ高さだったり埋め込まれた配置だったら、印象は全く違ったでしょう。 |
3. 細部まで徹底した美意識の高い作り
3-1. 花びらの形状に沿う複雑なフレーム
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ルビーや極小ローズカット・ダイヤモンドは外周が覆輪留めで、それぞれの石の形状に沿ってフレームが作られています。これも特別な宝物にしか見られない作りです。 |
3-1-1. 特殊形状のフレーム
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![]() ストーンカメオ リングイギリス 1880年頃 SOLD |
| 『古代の女神』 マーキーズシェイプ プチ・ストーンカメオ ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
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現代ジュエリーに使用される量産宝石と異なり、アンティークジュエリーの宝石は1つ1つサイズや形状に多少なりとも個性があります。その個性を見極めて綺麗にセットするのは、職人による手作業だからできることです。どのような留め方をするかは、いくつか選択肢があります。フレームにセットする場合、右のようなシンプルなフレームに対して爪で留める方が楽です。左のように、宝石1つ1つに合わせてフレームを精密に削って覆輪を作るのは相当な技術と手間を要します。だから本当に数が少ないです。 |
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この宝物の名誉のためにご紹介しておきますが、この宝物もGenが選ぶだけあって只者ではありません。この宝物に関しては簡素化ではなく、見えないサイドに彫金を施したくてこの形状にしています。最高級品はこだわる部分や方向性も、持ち主や職人の個性によってそれぞれ異なるのが面白いです♪ |
| エドワーディアン前後の女性用の超高級時計 | ||
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単なるジュエリーとは別格と言える、社交用レディース・ウォッチもフレーム形状は注目です。通常はシンプルな円形です。内蔵ムーヴメントによる制約があるため、本体フレーム形状以外で個性を出します。 |
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『ダイヤモンド・ダスト』ペンダント・ウォッチ フランス(パリ) 1910年頃 ¥15,000,000-(税込10%) |
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しかし、Genがダントツで過去最高と言うこの宝物は、本体フレームが複雑な花びら型でした。 通常の最高級品でも見ることのできないこだわりぶりなので、オーダー品ではなくコンテスト出展のために、作者ができる全てを注ぎ込んだコンテスト・ジュエリーだろうという意見で一致しました。 |
| 花びらのフレーム形状の違い | |
宝石の花びら形状に沿うフレーム![]() |
円形フレーム![]() |
今回の宝物は、宝石の花びらの形に沿ったフレームです。だから、ベゼルがお花そのものと言う印象が強く出ます。右のように、円の中にお花を表現するデザインだと、デフォルメした幾何学的な印象が強くなります。好みによるとも言えますが、右の宝物は今回の宝物より少しだけ後に作られ、出始めたばかりの画期的な新素材プラチナも強調したかったと推測します。 それにしても今回の宝物は、随分大変なことにチャレンジしたものだと感心します。19世紀ならまだしも、20世紀に入ってもこれだけの細工ができる職人がいたことが嬉しくなります。ゴールドがプラチナにとって代わられるギリギリ前だったからこそ作ることができた、ラッキーな宝物です♪ |
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3-1-2. 高度な技術が必要な特殊形状のフレーム
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HERITAGE基準を満たす高級品の場合、作りが良すぎて、どのように石が留まっているのか分かりにくいです。 極限まで爪の存在感を消すことで、宝石の美しさに没入できることを目指しているので、当然と言えば当然ですが、ありがたみや作者の腕前の凄さが分かりにくかったりします(笑) |
| 【参考】ハーフパールのセッティング | ||
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コンディションが悪いジャンク品は、リバースエンジニアリングに役立ちます。この参考品はそもそもの作りが悪いため、何ヶ所もハーフパールが脱落しています。接着剤で修理されていますが、ハーフパールを紛失した箇所はそのままで販売しているようです。 脱落箇所は、石留の状況が分かりやすいです。セットする宝石の形状に合わせて、フレームの形を整えます。削り出したフレームの穴に宝石をセットした後、爪で固定します。削り出しには精密な作業が必要で、隙間が多いと宝石は簡単に脱落します。そうならぬよう爪を大きくすればするほど、爪が目立って見た目は悪くなります。 |
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【参考】ハーフパールの隙間が目立つ稚拙な作りのジャンク品 |
個性がある天然の宝石に合わせてフレームを精密に削り出し、セットするのにいかに高度な技術を要するかは、安物を見ればよく分かります。HERITAGEでご紹介する最高級品のように、綺麗にセットされているのが当たり前ではないのです。 |
【参考】接着剤で修理された稚拙な作りのジャンク品 |
今回の宝物は、このジャンク品と同じタイプの留め方です。外周を覆輪型のフレームとして整え、隙間に宝石を滑り込ませてセットし、花芯側は何ヶ所か目立たない爪で留める方法です。ただ、このジャンク品は作りが悪過ぎて、ハーフパールが脱落した後、まともに修理できなかったようです。 |
![]() 【参考】接着剤で修理された稚拙な作りのジャンク品 |
ハーフパールも、中央のダイヤモンドらしき石も、全くフレーム形状がフィットしていません。ちょっと酷すぎるので、これはオリジナルのハーフパールではないと推測します。紛失し、辻褄を合わせたのでしょう。オリジナルはもう少しフィットしていたと想像しますが、フィットが甘いと100年以上の使用に耐えられず、何らかのタイミングで石が脱落します。良いものを作るのは、本当に大変なのです。 |
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ルビーもローズカット・ダイヤモンドも外周は覆輪に収めて、花芯側は数点を爪留めしています。覆輪も爪も限界まで存在感を消した作りなので、きちんと留まっているのか不思議に感じるほどです。長年の使用によって、作りが良いものでも爪が緩んでいることもあります。だから買い付けした宝物は石のぐらつきがないか、実態顕微鏡で見ながら爪楊枝でつついてチェックするのですが、どの石もガッチリと固定されていました。全体的に摩耗も少ないため、歴代の持ち主も大切に使っていたのでしょう。 もし爪に緩みがあった場合、締め直すことができます。宝石を紛失してからでは遅いので、ルネサンスやHERITAGEでご紹介した宝物がぐらつくようになりましたら、どうぞお気軽にご相談くださいませ。 |
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それにしても、気持ち良いほどピッタリと宝石が収まっています。 |
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立体的な形状の宝石が、黄金に優しく包まれ埋まっている感じです。覆輪には縦筋の彫金が施され、綺麗に磨き上げられています。黄金の光沢が、宝石の美しさをさらに惹き立てています♪♪ |
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絶対に落としてはならない、稀少価値の高いルビーをしっかりと守りつつ、その美しさを最大限に楽しめるようにした作りです。機械では作れません!この美しさは、人間だけが作り出せるのです。 |
3-1-3. 限界まで存在感を消したゴールドのフチ
『麗しのマデイラ』エドワーディアン マデイラ・シトリン ペンダント イギリス 1910年頃 SOLD |
アンティークジュエリーの場合、色石はゴールドでセットするのが一般的です。色彩をより美しく魅せる効果があるからです。 全体をゴールドで制作することもあれば、本体はプラチナやシルバーなどの白い金属にし、色石を留める金属だけゴールドにする場合もあります。 コストカットのための手抜きばかりを追求する現代ジュエリーでは、見ることのない気遣いです。 |
| ゴールドを使ったルビーのセッティング | |
全てゴールド![]() |
ルビーの覆輪のみゴールド![]() |
右の宝物は、ルビーのセッティングのみゴールドを使っています。ベゼル本体はプラチナなので、ルビーが花びら1枚1枚として際立っています。今回の宝物は全体をゴールドで制作しています。 |
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花びら1枚1枚ではなくお花全体として調和させるために、ゴールドの存在感を限界まで消しています。ルビーとルビーの間にご注目いただくと、ゴールドが紙より細く整えられています。 |
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この驚異的な細工は、ナイフエッジになっています。ナイフエッジはアンティークのハイジュエリーではよく見る手法ですが、これは装飾目的の単純なナイフエッジではありません。6石を綺麗に固定した上で、全ての箇所を最大限に薄く整えるという職人芸です。薄く伸びるゴールドの性質があってこそですが、まさに神技です!! |
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3-2. ベゼルに高さを出した立体的な作り
3-2-1. お花を印象的にするための立体構造
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ベゼルは本体に直接くっついておらず、わざわざ持ち上げて高さを出しています。 立体デザインに気を遣う、いかにも高級品らしい配慮です。 |
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リングは他のアイテムよりも使用時に力がかかりやすいため、耐久性もよく考えて構造デザインされています。ゴールドを十分に使い、堅牢さを出しています。 |
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なぜ技術と手間をかけてまでそうしているかと言えば、肉眼で見た際、主役となるルビー・フラワーが一段手前にあることで、より印象的に感じられるからです。ちょっとしたことですが、この違いが美意識の高い人にとっては非常に重要なのです。 |
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ベゼル全体のお花、中心に向かって高くなるルビー、さらに一段高く配置した花芯のシングルカット・ダイヤモンド。正面からは気づきにくい、立体デザインの妙です!♪ |
3-2-2. シャープな印象のショルダーの秘密
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ショルダーは、V字の渦巻き模様でデザインされています。正面からは渦巻きとベゼルがくっついているように見えますが、そうではないのがポイントです。 しかも渦巻きは、ベゼル下部の少しだけ内側に入っています。 |
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この視覚効果は大きいです。お花が浮き上がって印象的に見えます。また、くっついていないからこそ、通常なら接合部となる箇所まで、渦巻きをシャープに整えることができます。スッキリとした印象の秘密です。まるで無駄がない、見事な構造デザインです♪ |
3-3. 凝ったデザインの上等なショルダー
3-3-1. スッキリした透かしのデザイン
| V字の上質なショルダー | |
| イギリス 1870年頃 | イギリス 1907年 |
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『アンティークジュエリー』と一括りに見るのは勿体無くて、この宝物のように、作られた年代が30年ほど違えば、デザインも方向性もガラリと変わることが分かります。時代の移り変わりを感じられて、楽しいです♪ 左は、ミッド・ヴィクトリアンからレイト・ヴィクトリアンに移り変わる時期のものです。同じV字のショルダーですが、優美な装飾が目を惹きます。リングとして指につけた際、ショルダーは脇から見えるので、この部分のデザインに力を入れたハイジュエリーは多いです。 日本美術の影響で、イギリスでは他国に先駆けてシンプル・イズ・ベストのデザインが発展しました。それがアールデコや、無国籍のインターナショナル・デザインにつながっていきます。それが次第に簡素化され、必要なもので削ぎ落とされた、現代のチープで簡素なデザインへと劣化していきます。 |
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今回の宝物はV字の距離が長く、シャープな印象です。それでいて両側のスパイラル・デザインが、ヨーロピアン・ラグジュアリーならではの余裕のある贅沢感を感じさせます。また、V字の奥には上下に斜め3本線が彫金されており、さらなる高級感を醸し出しています。スッキリし過ぎない、一手間をかけた上等な細工は、高級感を出すために重要なのです。 |
| V字の上質なショルダー | |
| イギリス 1870年頃 | イギリス 1907年 |
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今回の宝物の方が、V字の透かしの距離が長いです。正面からは頼りなく見えますが、横から見ると十分に厚みがあります。ゴールドをたっぷり使うことで耐久性を出しています。但し、厚みが増すほど透かし細工は磨く手間が増えます。単純な2倍3倍ではなく、乗数的に手間が増えます。その分だけ高級感は増します。 |
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透かし部分は、切り立った形状でシャープに整えられています。外側にかけては滑らかなフォルムに磨き上げられています。透かし細工のV字から、V字の彫金までのフォルムと彫金デザインの連続が見事です。技術と共に、美的センスも必要とされる職人芸です!♪ |
3-3-2. 深さのある上質な彫金
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渦巻きとV字型の彫金は、深い彫りで表現されています。彫った後、丹念に磨き上げることで、滑らかで流れるような美しいフォルムになっています。 |
| 優美な彫金のリング | |
| 立体造形の深い彫金 | 模様を表現した浅い彫金 |
『ミラー・ダイヤモンド』アーリー・ヴィクトリアン ダイヤモンド リング イギリス 1840年頃 ¥3,700,000-(税込10%) |
『ヴィクトリアン・デコ』アングロジャパニーズ・スタイル クラスターリング バーミンガム 1876-1877年 SOLD |
深い彫りの彫金と、浅い彫りの彫金では技術も雰囲気も別物です。深い彫りの場合、単なる模様ではなく立体造形であり、カメオや立体彫刻に近いです。手間と技術が必要ですが、模様系の彫金とは異なる重厚な高級感があり、古い時代の良いものに見ることができます。 |
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20世紀のアンティークジュエリーで、これほど彫金に凝ったリングは極めて珍しいです。プラチナの時代になると彫金の技術自体が一気に失われていきますし、シンプル・イズ・ベストが主流となった時代に、彫金の豪華な装飾は好まれなかったこともあるでしょう。その点でこの彫金はくどさがなく、デザイン的にも良いさじ加減です。 |
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深い彫りの彫金は、立体視できる能力が必用です。どの角度から見ても美しく在る必要があるからです。V字の3本線に関しても、どの角度、どの間隔、どの深さに仕上げるかで印象がガラリと変わってしまいます。渦巻きも、少し奥側にくるまった表現になっています。 |
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横から見ると、渦巻きも単純な形状ではないことが分かります。V字の彫金も、いざ自分でやってみたらと思うと、作者のセンスに脱帽です。 |
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現代の量産の鋳造には不可能な、キリッとした美しい仕上がりです。職人による高度な手仕事の素晴らしさを実感できる、アンティークジュエリーの魅力が詰まった宝物です♪ |
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実際の大きさをご想像いただくと、いかに高度な技術なのかがお分かりいただけると思います。ベゼルのお花が華やかなので、ショルダーは単純なデザインでも成立はしますが、この部分にこれだけの美意識を行き届かせられるのが素晴らしいです!♪ |
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このショルダーの美しさを見てしまうと、単純なショルダーでは満足できなかったオーダー主の気持ちが分かりますね。細部に至るまで行き届いた、魅力あふれるルビー・リングです♪♪ |
裏側
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美しさの限界を追いつつ、耐久性も両立させた上質な作りです。 |
着用イメージ
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大きさがある上に、ルビーならではの色彩もあって、指元でお花の印象を強く感じられます。透かしのシャンク・デザインも効果的です♪ ルビー6石、ダイヤモンド7石、どの石も煌めきが強く、動くごとに表情がダイナミックに変化します。 着用者が手元で眺められるのが、リングの魅力の1つです。この宝物はいつまでも見ていられる、幸せな美しさがあります。まさに心豊かにしてくれる宝物です♪ |


透明度が高く、明るくて鮮やかな色彩の極上ルビー♪







ジョージアン ピンク・サファイア リング
『LOVE』
ルビー&ダイヤモンド リング
ブルー・サファイアを含む様々な合成コランダム
合成サファイア 約20cm、30kg

ベルヌーイ法の概略図
ベルヌーイ法で合成された小さなルビーのブール
シンセティック・ルビー ダイヤモンド リング
【参考】合成コランダム(現代)
イギリス? 1910年頃
『愛の花』
『愛の誓い』
『グランルー・ド・パリ』
トレンブラン ブローチ&髪飾り
アールヌーヴォー リング
『永遠の愛』
枢機卿の宝石
ルビー ダイヤモンド リング
エメラルド&レッドスピネル ブローチ兼ペンダント
ガーネット インタリオリング
エドワード黒太子(1330-1376年)
大英帝国王冠(1919年頃画)
『愛のメロディ』
可視光線
『エメラルドの深淵』
『芸術には自由を』
『美しき魂の化身』
蛍光灯の合成ルビー(3mm)
緑レーザー(単色光)で赤く発光する合成ルビー



天然パープル・ルビー(2.7cm)
天然ルビー(2.0cm)
コランダムの結晶系


イギリス 1830年頃
イギリス 1860年頃
イギリス 1860年頃
天然真珠&ルビー クラスター・リング
ベルエポック ルビー・リング
ルビー 一文字リング
『心の焔(ほむら)』
『MIRACLE』
『アルプスの溶けない氷』
『鷹の眼×虎の眼』
『黄金の花畑を舞う蝶』
『雫の芸術』
『ライラック』
『マーガレット』
エドワーディアン オニキス リング
天然真珠 クラスター・リング
『ペルピニャン・フラワー』
『FORGET ME NOT』
イースターエッグ・ロケット

『新時代の花』
ダイヤモンド・ピアス(ティファニー 2023年)
コロンビア産エメラルド リング
ペルジャン ターコイズ リング
オパール 一文字リング
一文字 天然真珠 リング
【参考】ブリリアンカットの鋳造ダイヤモンド・リング(現代)

『エメラルド・リボン』
『MIRACLE』



【参考】厚みのない扁平なカットのダイヤモンド・リング(現代)








ストーンカメオ リング






『ダイヤモンド・ダスト』



【参考】ハーフパールの隙間が目立つ稚拙な作りのジャンク品
【参考】接着剤で修理された稚拙な作りのジャンク品

『麗しのマデイラ』





『ミラー・ダイヤモンド』
『ヴィクトリアン・デコ』