No.00300 シンプルイズベスト |
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『シンプルイズベスト』 |
ありそうでない、大きさのあるカラーストーンをメインにしたスタイリッシュなネグリジェネックレスです。エドワーディアンのジュエリーでありながら、アールデコを先取りしたようなシンプルなデザインを可能にした、高度な技術に基づく長尺の細いナイフエッジは圧巻です。ペリドットの爪の留め方も二股の爪を使ったセンスの良いデザインで、ポイントにあしらわれたオールドヨーロピアンカットの配置も見事です。 ペリドットは19世紀後期から20世紀初期にかけて流行した宝石ですが、クラシックなデザインのジュエリーが多く、現代の感覚で使いやすいペリドットのハイジュエリーはとても珍しいです。夜会のエメラルドと呼ばれるほど、暗い場所でも鮮やかな色彩と美しい光を放つ、黄緑色の宝石ペリドットは日本人に肌にも合いやすく、濃い色味は苦手な方にもオススメのカラーストーン・ジュエリーです。 |
この宝物のポイント
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1. 魅力あふれる宝石ペリドット
1-1. 色だけではない不思議な魅力
【参考】ピンクトパーズ・リング(現代) | 価値のないものに手間のかかるデザインや作りはしません。 尤もらしく見える範囲内で、いかにコストダウンするかしか考えていないので、安く量産できる簡単なデザインや材料が安く済むことだけに全力が注がれています。 |
【参考】合成サファイア・シルバー・リング(現代) | 【参考】ピンクトパーズ&シルバー・リング(現代) |
だから、稀少価値の高い天然の無処理の上質な石だったら絶対にあり得ない、シルバージュエリーすらも存在するのです。銀の価値が高かった時代ならばシルバー単独のジュエリーもあり得ますが、プラチナが使える今となっては基本的にシルバーはアクセサリーの範疇になるはずなんですけどね・・。 |
【参考】カルティエのダイヤモンド・ブローチ(現代) 【引用】Cartier/ PLUIE DE CARTIER BROOCH ©CARTIER |
【参考】京セラの合成エメラルド・リング(現代) 【引用】odolly / エメラルドリング(ハーフエタニティ/10石合計1.10カラット/プラチナ/5月誕生石) ©京セラジュエリー通販ショップodolly-オードリー | 【参考】ブシュロンのシトリン・リング(現代) 【引用】BOUCHERON / serpent bohème two-stone ring, s motifs ©BOUCHERON |
現代の宝石ジュエリーの問題は合成や処理石ということだけでなく、デザインも作りもヘボすぎることです。 本当に価値あるジュエリーだったらこんなヘボいデザインも作りもあり得ません。アンティークのハイジュエリーで、これ程までに手抜きのデザインと作りの鋳造の量産品は見たことがありません。 |
上質な天然エメラルド | 現代の合成エメラルド |
アールデコ エメラルド・リング フランス 1920〜1930年頃 SOLD |
京セラの合成エメラルド・ リング(現代) 【引用】odolly / エメラルドリング(オーバル/2.29/メレダイヤ4石/ツイスト/K18ホワイトゴールド/5月誕生石) ©京セラジュエリー通販ショップodolly-オードリー |
右のエメラルドが本当に価値ある石だったならば、左のアールデコのリングのように特別なデザインと作りが施されているべきなのです。見た目だけは完全無欠のエメラルドに見えますが、これだと私には正直、色ガラスとの違いが分かりません。もう、ガラスの代用品であるアクリルでも良いんじゃないかと思ってしまいます。 |
現代の緑の石のリング | |
エメラルド | クリスタルガラス |
【参考】合成や処理については不明 | グリーン&ホワイト・クリスタルのロジウムメッキ・シルバー・リング(スワロフスキー 現代) 【引用】SWAROVSKI / Attract Cocktail Ring Green, Rhodium plated ©Swarovski |
実際、私はこれを見た時に違いが見出せるか全く自信がありません。どちらも興味の湧かない、成金的なくだらないオモチャと即時判断して、よく見ることはないと思います。 |
エメラルド | ジルコニア |
ティファニーのエメラルド・リング(¥1,617,000-)2020.5現在、合成や処理については記載なし 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Ring ©T&CO |
スワロフスキー社製グリーン&ホワイト・ジルコニアのシルバーリング($89.00→$28.20)2021.5現在【引用】Shop Hewelry.com on eBay / Crystaluxe May Ring with Green Swarovski Crystals in Stering Silver ©J JEWELRY.COM |
100万円以上するハイブランドのリングでも五十歩百歩という印象しかありません。現代ジュエリーはジュエリーと呼べる代物ではありません。デザインもチャチ、作りもチャチな安物は、高級ブランドでどんなに高値が付いていたとしても『ジュエリー』と呼ばれる資格はありません。 |
【参考】クリスタルガラスのシルバーアクセサリー | |
グリーン&ホワイト・クリスタルのロジウムメッキ・シルバー・リング(スワロフスキー 現代) 【引用】SWAROVSKI / Attract Cocktail Ring Green, Rhodium plated ©Swarovski |
普通に後期アールデコっぽいデザインのガラスのシルバーアクセサリーも販売されていたりします。 アールデコ・ジュエリーは無駄を削ぎ落としたスタイリッシュなデザインが魅力でしたが、後期になると、多くが量産のための手抜きのためのデザインへと変遷していきました。 さすがに当時のハイジュエリーはここまで作りはショボくありませんが、これ以降、職人の高度な技術がないと作れない複雑なデザインや精緻な作りのジュエリーは作れなくなっていきました。 |
アンティークの コンテストジュエリー |
現代の高級ブランドジュエリー | 現代のアクセサリー |
『Sweet Emerald』 オレンジピールカット・エメラルド リング フランス 1920年頃 SOLD |
エメラルド&ダイヤモンド・プラチナリング(ティファニー 現代)【引用】CHRISTIE'S / TIFFANY & CO. EMERALD AND DIAMOND RING ©Christie's | グリーン&ホワイト・ジルコニアのシルバーリング(スワロフスキー 現代)【引用】SWAROVSKI ©Swarovski |
後出しジャンケンができるのですから、現代の高級ブランドは昔よりも優れたもの、美しいものを作ろうとする姿勢くらいあっても良いものです。でも、競争相手はアクセサリー業界のようです。本当に価値あるものは材料費も加工費(技術料・人件費)もかなりかかり、儲からないのでやりたくないのです。でも、アクセサリーと比較して、見た目に違いが分からないジュエリーを誰が好んで大金をはたいて買うでしょう。 現代ジュエリーは不況で売れないと業界内でよく聞きます。気をてらったデザインや、よく分からない石にそれっぽい名前を付けるなどして消費喚起を目論む動きも昔から見られますが、価値がないものを高く売って、楽して儲けようとする姿勢だけは変わりません。 |
現代ジュエリー | 現代アクセサリー |
【参考】ティファニー社製タンザナイト・ピアス($12,500、約150万5円)2020.6.18現在 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Paper Flowers TM / Diamond and Tanzanite Open Drop Earrings ©T&CO |
【参考】スワロフスキー社製ブルー・ロジウムめっき・ピアス(¥47,960→¥23,980)2021.5.11現在 ※$129(約1万5千円)で販売する店も有 【引用】SWAROVSKI / Palace Chandelier Pierced Earrings ©Swarovski |
20世紀には王侯貴族の世界が終焉を迎え、芸術文化の進化は止まった(後退?)に等しい状態ですが、科学技術は進歩しました。現代宝石は合成技術や処理技術の進化によって、不自然なまでに完璧に見える宝石を量産することも可能となりました。一方で模造宝石の技術も進化し、今では本物の宝石同様どころか、本物を凌ぐスペックの材料も作り出すことが可能となりました。 それをプラチナやゴールド、シルバーなど、金属素材に違いはあっても、どちらも量産のために鋳造で作ります。職人がハンドメイドで作るアンティークのハイジュエリーは特殊な場合を除き、叩いて鍛えた鍛造の金属で作ります。鋳造は量産には向いていますが、強度がでないためジュエリーとしての耐久性を持たせるために鍛造よりも金属を多く使う必要があります。 |
アンティークのハイジュエリー | 現代のハイブランドジュエリー |
『エメラルドの深淵』 珠玉のエメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】ティファニーのエメラルド・リング(¥1,617,000-)2020.5現在、合成や処理については記載なし 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Ring ©T&CO |
故にアンティークのハイジュエリーと比べて、現代ジュエリーやアクセサリーは石留めの爪も含めて、ボテっとしたすっきりしないデザインで作られるのです。右の現代のハイブランドのリングはエメラルドを留める爪がかなり目立ちますし、脇石はみみっちい小さなダイヤモンドしか使われていません。メレダイヤの数だけは多いですが、ダイヤモンドの価格は大きさに比例ではなく、指数関数的に上がっていくので同じ空間を埋めるにしても小さい方が安上がりだからです。 アンティークの本物の価値あるジュエリーである左のリングは、一瞬きちんと留まっているのか不思議に感じるほど、エメラルドを留めた爪に存在感がありません。でも、鍛造で鍛えた強固な爪は小さいながらもパワフルで、それで10箇所留めているので140年ほど経過した今でも石はしっかりと固定されたままなのです。 美的感覚がない人はデザインや作りでは判断できないため、「現代ジュエリーの方が金やプラチナがたくさん使ってあるから高級♪」と、何の疑いもなく単純に思い込むようです。そういう人たちには、現代のジュエリーと現代アクセサリーの違いも分かりません。 |
現代ジュエリー | 現代アクセサリー |
【参考】京セラの合成オパールと真鍮に14Kメッキのピアス | 【参考】ガラスと金メッキのピアス |
使っている素材が宝石か否か、貴金属か否かがジュエリーとアクセサリーの分かれ目になります。しかしながら現代は『宝石』と称される量産素材を、メッキにセッティングしたグレーゾーン的な代物をジュエリーと称して高値で販売してあるから消費者が混乱するのです。 |
【参考】現代の装飾品 | ||
天然エメラルド×10K | 合成エメラルド×14K | クリスタルガラス× シルバーにロジウムメッキ |
$499.99- | $219- | £22- |
現代は異なる素材で作られた、同じようなデザインの装飾品で溢れています。 左は天然エメラルドですが、本当に価値ある宝石を10Kでセッティングするはずはありません。相当品質の悪い石をかなり強く処理した結果、10Kセッティングで約6万円という値付けになっているのでしょう。天然だから価値があるわけではないのですが、質の違いも分からない、天然エメラルドというだけで喜んで買う人がいるので存在する代物です。中央の合成エメラルドの方が金位が高いという・・。 でも、全部同じ外観ならば、右のガラスの方が同じように綺麗そうに見えて、圧倒的に安く買えるのですからこの中では一番良い選択肢に思えます。現代ジュエリーには稀少価値に伴う財産性は存在しません。本物のジュエリーを買えない庶民のためにコスチュームジュエリーを提案したココ・シャネルが言った通り、財産性はないけれどただオシャレを楽しむだけならばアクセサリーで十分なのです。 いずれもアンティークのハイジュエリのように100年以上ももつような、数世代に渡る耐久性はありません。現代ジュエリーもアクセサリーも結局は『消耗品』ということならば、あえて高いジュエリーを買う必要はありません。現代ジュエリーが売れないのは当たり前です。 |
『アール・クレール』 ハートカット・ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
『幻惑の宝石』 知られざる美しい宝石:ジルコン(風信子鉱) ブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
デマントイドガーネットも、この宝石にしか出せない魅力が詰まった石です。小さくても人目を惹くインパクトあるネオングリーン、高い屈折率や分散度に基づく強い煌めきやファイアは、同じ色に調合しただけのガラスや他の宝石では出せない魅力です。 |
アンティークの本物の宝石に出逢い、本来宝石とはいかに魅力あふれる美しいものなのかを知りました。 ガラスや樹脂では代替できませんし、それぞれの宝石が唯一無二の魅力を持っており、他の宝石では代わりがききません。 このネグリジェネックレスに使われているペリドットもそうです。 |
鉱物の分類学もなく、人々が自分の感性で宝石を評価していた古の時代。人々はペリドットをどのように語っていたでしょうか。 ペリドットは夜間照明の下でも昼間と変わらない、鮮やかなグリーンの色彩を放ちました。このため、古代ローマでは『夜会のエメラルド』と呼ばれていました。 実物を見ると、すご〜くよく分かります!♪ |
さらに古い時代の古代エジプト人は、ペリドットは星の爆発によって地球に持たらされると語っていました。 そして昼だけでなく夜でもイエロー系のグリーンの色彩と、美しい輝きを放つこの石は黄金の太陽を象徴する『太陽の石』とされ、身を守るためのお守りとしても珍重されてきました。 太陽の光が閉じ込められたペリドットは暗闇を吹き呼ばし、神々しい光となって世界を照らし、悪を退散させてくれると考えられたのです。 |
1-2. ペリドットの起源
ペリドットは知的好奇心の高い方ならば、ワクワクする特徴をいくつも持っている石です。 ペリドットはカンラン石の中で、宝石品質の美しさを持つものを言います。 |
苦土カンラン石 | 鉄カンラン石 |
Mg2SiO4 "Forsterite-37005" ©Rob Lavinsky, iRocks.com(before March 2010)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
Fe2SiO4 "Fayalite between Sanidine - Ochtendung, Eifel, Germany" ©Fred Kruijen/Adapted/CC BY-SA 3.0 NL |
カンラン石はMg2SiO4(苦土カンラン石)とFe2SiO4(鉄カンラン石)との間の連続固溶体で、一般式は(Mg,Fe)2SiO4となり、Ma,Ni,Tiを少量含みます。要するにペリドットは、マグネシウムを含む苦土カンラン石と、鉄を含む鉄カンラン石が適当な割合で混ざり合ったものです。 苦土カンラン石の割合が多い、つまりマグネシウムが多いと黄緑色になります。鉄カンラン石の割合が多い、つまり鉄の割合が多いと褐色や黒色になります。 |
ペリドットの原石 "Peridot2" ©S kitahashi(29 July 2006)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 宝石として使用される黄緑色のもの、つまりペリドットは苦土カンラン石が90%近くを占めます。 理系科目が苦手な人には頭が痛くなる話でしょうか・・。 でも、面白いのです!! |
図1. 地球内部の構造と上部マントルの主要鉱物のカンラン石 【引用】国立研究開発法人 海洋研究開発機構HPより |
実はこのカンラン石は、地球の内部にあるマントル層上部の主成分なのです。地球内部とは言っても、地球全体で見ると、割と地表に近いですね。 |
地球内部 【引用】国立研究開発法人 海洋研究開発機構HP | この上部マントル層が地表まで押し上げられてくると、人間がペリドットとして得ることができるのです。 「だったら掘れば幾られでも手に入れられるのでは?ペリドット取り放題♪」と一瞬思いますが、そこまで掘ってサンプルを得るのは現代でも残念ながら不可能です。 |
玄武岩中のカンラン岩ゼノリス(捕獲岩) "Peridot in basalt" ©Vsmth(28 July 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
火山活動などによって地表にもたらされるペリドットですが、急激な圧力や温度の変化によって割れてしまったり、劣化したり、不純物を取り込むことが多く、宝石品質で大きさのあるペリドットは稀少です。 |
ザバルガド島(セント・ジョンズ島) |
ペリドットが最初に採掘されたのは紅海にあるエジプトの島ザバルガド島で、紀元前300年前後から採掘が行われているとみられています。この島はマントルが隆起してできた、地質学的に面白い島で、宝石品質のペリドットが豊富に採れたそうです。 |
古代エジプトファラオのプトレマイオス1世(紀元前367-紀元前282年) | 『博物誌』で有名な古代ローマの博物学者プリニウスによると、ザバルガド島で得られた大きなペリドットはエジプトのアレキサンドリアまで運ばれ、プトレマイオス朝のファラオ、プトレマイオス1世の妻ベレニス1世に献上されたそうです。 プトレマイオス1世は古代エジプトを征服した古代ギリシャのアレキサンダー大王が亡くなった後、後継者としてエジプトのファラオとなった人物でした。 |
プトレマイオス1世とベレニス1世の金貨 "Ptolemy I and Berenike" ©CNG Coins(19 June 2017)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
エジプトのファラオ妃ベレニス1世(紀元前340年頃-紀元前279〜紀元前268年頃) |
プトレマイオス1世もベレニス1世もマケドニア王国の貴族で、元々は古代ギリシャ人です。アレキサンダー大王が征服した各地で、土地の文化と古代ギリシャの文化を融合する政策が行われてきました(ヘレニズム文化へと発展)。古代エジプトで『太陽の石』と珍重され、お守りとして身に着けられたペリドットは、古代ギリシャ出身の新しいファラオ妃を一体どのように彩ったのでしょうね。 |
『グリロス』 クレオパトラのエメラルド鉱山で採れたエメラルドのインタリオ インタリオ :古代ローマ 2世紀頃 シャンク :ヴィンテージ |
プトレマイオス朝最後のファラオ、クレオパトラ7世はエメラルドをこよなく愛したことでも有名です。 |
1-3. 1900年前後に話題の宝石だったペリドット
枢機卿の宝石 "Cardinal Gems" ©Mario Sarto, Robert M. Lavinsky, Humanfeather, JJ Harrison, GeeJo(11 April 2010, 21:36)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 古代から存在する宝石ペリドットですが、あまり古い時代のアンティークのハイジュエリーでは見かけません。 定かな理由分かりませんが、日本人と違ってはっきりとした色合いを好む人が多い傾向にあるヨーロッパでは、どちらかと言えば枢機卿の宝石にみられるような濃い色合いの宝石が好まれたのではないかと推測します。 |
白 | 紫 | 赤 | 緑 | 青 |
ダイヤモンド |
アメジスト | ルビー |
エメラルド | サファイア |
この通り濃い色が一般的に好まれるヨーロッパのジュエリー市場ですが、突如、ペリドットのハイジュエリーが多く出てくるようになった時期があります。 |
1-3-1. アメリカの鉱物&宝石学者クンツ博士の誕生
クリストファー・コロンブス(1451頃-1506年) | ヨーロッパにとってアメリカ大陸は未開の地でした。 そこは何もない無価値の土地ではなく、様々な土地の恵みが存在する『宝庫』とも言える土地でした。 |
帆船 | その豊かな恵みを、最初は船で荒波を超え、命と莫大なお金を懸けてヨーロッパへと運んでいましたが、徐々にヨーロッパ人の入植が始まります。 |
アメリカの擬人化(マイセン工房 1760年頃) | これは新しい国『アメリカ』を擬人化したポーセレン像です。 アリゲーター、オウム、コルヌコピアは、それぞれが新しい国のシンボルです。 アメリカは見たこともない、様々な珍しい生き物に溢れ、無限に食べ物をもたらしてくれるコルヌコピアのように土地は豊かです。 |
『グレンジャーへの贈り物』グレンジ(農民共済組合)の宣伝ポスター(アメリカ 1873年頃) | 実際、アメリカの大地は豊かな食の恵みを提供しました。 16世紀後半から始まったヨーロッパ人による植民地化から1776年の独立宣言までの、アメリカ合衆国の植民地時代は、農業が人口の90%が農業で生計を立てていました。 今でもアメリカは農業大国ですね。 |
バインダー(自動刈り取り結束機)による収穫(アメリカ 1884年) |
広大で肥沃な土壌を生かした大規模農業はアメリカならではで、山間部の隙間に開墾した狭い畑で細々と作るしかない山国日本では、規模とコストパフォーマンスの面では全く勝てる気がしません。 |
馬力脱穀機で小麦の籾殻を取る作業(アメリカ 1881年) |
実はイギリスもこれに負けました。イギリスはもともと農業国で、領地を治めるイギリス貴族は大地主とも言え、自領の農業による税収が莫大な財力の大きな源泉でもありました。 |
鉄道王ら資本家たちを運ぶ労働者(雑誌パック 1883.2.7号掲載の風刺画) |
しかしながらアメリカの農業生産力が増し、自家消費のみならず輸出できるほどとなり、さらにアメリカに鉄道輸送網が配備されると、イギリスの農業は甚大な影響を受けました。これにより、農業による収入が主だったイギリス貴族は、次第に力を落としていくことになったのです。 一方でアメリカの鉄道王などが力をつけ、新興富裕層となっていきました。1865年の南北戦争終結から1893年恐慌までの28年間、特に1870年代と1880年代はアメリカ合衆国で資本主義が急速に発展を遂げ、『金ぴか時代』或いは『金めっき時代』と呼ばれています。 |
上流階級の社交場でもあったウォルトの店(1894年頃) | 政治腐敗や資本家の台頭、経済格差の拡大が起きた、"拝金主義に染まった成金趣味の時代"として認識される時代で、この新興成金たちが各地で豪遊し、大金を落としています。 当時のアメリカ人の憧れの対象はヨーロッパの上流階級なので、ヨーロッパの上流階級が買い物に訪れるパリなども、アメリカの成金で大いに賑わったそうです。 |
オートクチュールの父シャルル・フレデリック・ウォルト(1825-1895年)1895年、69歳頃 | フランスに店を構えるオートクチュールの父、シャルル・フレデリック・ウォルトも、アメリカの成金女性は3Fを持っているので、アメリカ人の仕事をするのは大好きでした。 3Fとは信頼(Faith)、容姿(Figure)、フラン(Francs)なのだそうですが、口うるさいことを言わず、ウォルトを信頼していくらでも気前良くお金を支払ってくれるので大好きということです。 |
『ハッピー・エンジェル』 ストーンカメオ&フェザーパール ブローチ フランス? 1870〜1880年代 ¥1,200,000-(税込10%) |
ヨーロッパの上流階級の女性も容姿やお金は持っていますが、口うるさいことを言わず、職人が提案したものをそのまま満足して受け入れることは滅多にないという点が異なります。 ヨーロッパの上流階級は幼少期から、教養や美意識を高めるために相当な教育が施されます。 自分が理想とするものを思い描き、伝える能力があるため、美意識が高い人ほど職人に事細かくオーダーするのです。 |
『美しき魂の化身』 蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
そういうのを「面倒くさいな。」、「うるさいな。」と思うのか、「面白いアイデアをありがとう。」、「トライさせてくれてありがとう。」と考えるのかは職人の才能次第でしょう。 |
フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793年) | ローズ・ベルタン(1747-1813年) |
稀代のファッションリーダー、マリー・アントワネットは、ジュエリー職人と共に宝石で秘密のメッセージを表現したアクロスティック・ジュエリーを生み出しています。 |
マリー・アントワネットの舞踏会用ドレス(ローズ・ベルタン 1780年代)ロイヤルオンタリオ博物館 【引用】The Metropolitan Museum of Ar / Formal Ball Gown (robe parée) ©ROM, The Royal Ontario Museum/Adapted |
職人が提案したデザインをそのまま鵜呑みにするだけならば、こんなに時間はかかりません。 手を動かすのは職人ですが、こうした作品は職人とオーダーした人物との『合作』と言っても良いでしょう。 |
デジタルファブリケータの種類 【引用】総務省HP/ 第2部 ICTが拓く未来社会 図表5-4-2-3 (出典)総務省情報通政策研究所『「ファブ」社会の展望に関する検討会報告書」(平成26年) | 少し前にデジタルファブリケーションという言葉が流行り、いろいろなものを自分で好きにデザインして作れる自由なカスタムメイドが安くて可能ということでも持て囃されました。 今はそんな話を殆ど聞かないのですが、デザインする才能を舐め過ぎなのです。 いざ自分で何か欲しいものを作ろうとしてもデザインできない人が殆どで、無理にやってもろくなものができません。 |
鉄道王ヴァンダービルト家の仮装舞踏会で『電気照明』に扮したアリス・ヴァンダービルト(1845-1934年)1883年、38歳頃 | しかしながら金ピカ時代のアメリカ人は間違いなくヨーロッパの上流階級に勝とも劣らぬ財力を持ち、ヨーロッパの上流階級以上に旺盛な消費意欲で洋服やジュエリーを買い漁りました。 しかしながら、衣食住が十分に満ち足りると、その他の欲望に手を出し始めるのが人間です。 それは自己顕示欲を満足させたり、綺麗な物を見たい、所有したいというための贅沢品であったり、知識欲を満足させるための学びや研究活動であったりします。 |
チャールズ・ルイス・ティファニー(1812-1902年) | 生活に必須ではない、贅沢品と言える高級な文房具や装飾品などを扱う店を。ジョン・B・ヤングと共にNYのブロードウェイ259番地にオープンしたのがティファニーの創業者チャールズ・ルイス・ティファニーでした。 1837年のことでした。 経営者としての優れた才能があったティファニーは1848年のフランス2月革命を契機に宝飾事業にも参入し、金ピカ時代へと突入するほどの景気に沸くアメリカの潮流に乗り、アメリカ第一の宝石商へと駆け上がりました。 |
ジョージ・フレデリック・クンツ(1856-1932年)1900年、44歳頃 | フランス2月革命の8年後の1856年、アメリカにジョージ・フレデリック・クンツが誕生しました。 後に鉱物学と宝石学の権威となり、ティファニーの副社長にまで登り詰める人物です。 アメリカが既に豊かになった時代、クンツ少年が興味を持ったのが鉱物でした。 10代にして貴重な鉱物コレクションは4000点を超え、ミネソタ大学が結構な金額を出して購入するほど価値あるものだったそうです。 クンツは私立大学クーパー・ユニオンには通っていたものの卒業しておらず、本とフィールドワークによる独学でその分野のエキスパートとなりました。 |
1-3-2. 19世紀末にアメリカの隕石から発見されたペリドット
『クンツ・アックス』半人半獣のジャガー神信仰における典型的な奉納用の儀式斧(オルメカ文明 紀元前1000-紀元前400年頃) "Kunz Axe" ©Madman2001(29 March 2007)/Adapted/CC BY-SA 2.5 | クンツは入社後、ティファニーの支援を受けて世界中で活躍しました。 創業者が亡くなり、創業者一族からも手を離れ、創業時のスピリットは消え失せて、ブランドの名前に胡座をかいてボロ儲けするためだけの存在に成り果てた現代のティファニーはクンツ博士の権威の都合の良い部分だけしかPRしませんが、実際には鉱物・宝石学者として多岐にわたる実績を残しています。 これは典型的なオルメカ(アメリカ大陸で最も初期に生まれた文明)の、ジャガー神がモチーフの儀式用の斧です。 このピースはクンツ博士が1890年に初めて紹介したものなので、『クンツ・アックス(クンツの斧)』という名前が付いています。 |
クンツァイトとみられる鉱物を調査するクンツ(1903年、47歳頃) | アメリカ第一の宝石商である、あのティファニー社所属。 クンツ博士が自身で面白い鉱物を探しに行くのみならず、クンツ博士の元には各地から様々なお声がかかるようになっていきました。 実績を積み重ね、名声が高まると共に、より様々な面白い資料が集まってくるという、まさに好循環です。 |
ジョージ・パウルディング・ファーナムのアイリスのデザイン(1900年頃)ウォルターズ美術館 【引用】THE WALTERS ART MUSEUM / Iris Corsage Ornament ©The Walters Art Museum /Adapted. |
パリ万博でグランプリ受賞のモンタナサファイアの『アイリス』(1900年頃)ウォルターズ美術館 "Tiffany and Company - Iris Corsage Ornament - Walters 57939" ©Walters Art Museum/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
アメリカの宝石『モンタナサファイア』も、金鉱脈に夢を求めてたまたま得た小石を、鉱夫の1人が鑑別のためにニューヨークのティファニーに送ったのが発見のきっかけでした。 クンツ博士の分析によって、小石は特別に透明度の高いサファイアと判明しました。1895年に発見された、ヨーゴ峡谷のサファイアは特に美しく、近隣のサファイアにはない素晴らしいブルーを持っていました。『モンタナサファイア』と命名されたこの宝石は、全盛期のティファニーの神技と言える技術によって美しい芸術作品にされ、1900年のパリ万博に出展されたモンタナサファイアの『アイリス』は見事ティファニーに最高賞グランプリをもたらしたのでした。 |
さて、なぜモンタナサファイアの話をしたのかと言うと、ペリドットにも類似のいきさつがあるからです。 |
イーグル駅の隕石の断面 "Eagle Station pallasite, Mineralogisches Museum, Bonn " ©Elke Wetzig Elya(19:41, 16 March 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
1884年、アメリカのニューメキシコ州、サンタフェ近くの山で隕石が発見されました。大小の無数の破片になっており、今でも拾って販売する人がいるようです。 1886年に、クンツ博士がこのグロリエタ山の隕石について初めて言及しています。隕石のいくつかはカンラン石を含んでおり、中には黄緑色で透明度の高い、宝石品質を持つ1ct程のペリドットもあったそうです。 さらにケンタッキー州キャロル郡のイーグル駅近くで1880年に発見された隕石からも、ペリドットが見つかったことが、1887年にクンツ博士によって報告されています。 隕石は、宇宙空間に存在する固体物質が地球などの惑星表面に落下してきたものです。小惑星や、宇宙を漂う浮遊物質であったり、天体が壊れた破片などが起源です。地球にやってくる隕石の多くは小惑星が起源です。かつては小惑星同士が、宇宙空間で衝突を繰り返していました。衝突の速度が秒速数キロメートルにも達すると、局所的に短時間ながらもマントル層に匹敵する高温高圧状態が発生します。 |
ペリドットを含む隕石の断面 "Esquel" ©Doug Bowman(25 December 2004, 07:46:04)/Adapted/CC BY-2.0 |
この時にペリドットが形成されるのです。 そうして奇跡的な確率でペリドットが形成された塊が、偶然地球にやってくると、ペリドットを含む隕石として発見されるのです。 |
イーグル駅の隕石ペリドットのルース(0.52ct) 【引用】GEMS & GEMOLOGY Spring 1992 「PERIDOT AS AN INTERPRANETARY GEMSTONE」 By John Sinkankas, John I. Koivula, and Gerhard Becker ©Rino Hammid |
イーグル駅の隕石から得られたペリドットは0.52ctのルースにカットされ、1900年のパリ万博で紹介されました。 この万博のためにティファニーが出版した、クンツ博士による『アメリカと外国のカットした宝石、および原石のコレクション』というカタログでも、隕石ペリドットが紹介されています。 教養ある王侯貴族の中でも、特に知的好奇心があふれる知識階層は天文学も大好きです。 |
天文学に由来するジュエリー | |
1835年のハレー彗星 | 1859年の太陽嵐と太陽フレアの初観測 |
『ハレー彗星』 ダイヤモンド ブローチ ドイツ or オーストリア 1835年 SOLD 『ハレー彗星の回帰を発見したエドモンド・ハレー』 コーネリアン インタリオ イギリス 1835年 SOLD |
『古代の太陽』 エトラスカン・スタイル ブローチ イタリア(FASORI) 1850〜1870年代 SOLD 『太陽の沈まぬ帝国』 バンデッドアゲート ブローチ イギリス 1860年頃 SOLD |
1835年のハレー彗星の到来や、1859年の太陽嵐と太陽フレアの初観測など、当時ホットな話題だったであろう天文学的事象をモチーフにして作られたとみられるジュエリーがいくつか存在します。 |
科学の功績でイギリス貴族になった人物 | |
1892年に男爵位を叙爵 | 1931年に男爵位を叙爵 |
初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン(1824-1907年) | 初代ネルソンのラザフォード男爵アーネスト・ラザフォード(1871-1937年) |
本当に古い時代は、戦いで功績を上げる者が国にとって価値ある人物であり、そのような人たちが貴族として取り立てられました。しかしながら時代が下り、19〜20世紀の科学の時代に突入すると、科学の功績が高い評価を得るようになりました。初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソンや、初代ネルソンのラザフォード男爵アーネスト・ラザフォードも科学の功績で男爵位を叙爵しています。 |
ピエール・キュリーからケルヴィン男爵への贈り物(圧電バランス装置)(1893年) "Piezoelectric balance presented by Pierre Curie to Lord Kelvin, Hunterian Museum, Glasgow " ©Stephencdickson(16 March 2018, 15:39:10)/Adapted/CC BY-SA 4.0 | そういうわけで、男爵への贈り物が、こんな『圧電バランス装置』だったりすることもあったわけです。 すごく価値あるものですが、科学なんて全く分からないし興味ない的な現代女子がこれをプレゼントされたら、喜ぶどころかメチャクチャ怒りそうですね(笑) 「オタク!」とバカにされたりもするかもしれません。 |
レイト・ヴィクトリアン | エドワーディアン | |
1880年頃 | 1900年頃 | 1910年頃 |
ブローチ&ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
ペリドット&シードパール ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
エドワーディアン ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
地球の外からやってくる隕石にも含まれる、ペリドットという宝石・・。 そんな知的な面白さのある宝石が、上流階級の知的階層の心をとらえないわけがありません。だからクンツ博士が隕石ペリドットを報告した1880年頃から、上流階級のハイジュエリーの中にペリドットを使ったものが見られ始め、1900年にパリ万博で報告されて知名度を増した後、エドワーディアンくらいまでハイジュエリーの中に見ることができるのです。 |
1-3-3. ペリドットの大流行
玄武岩上のカンラン石群(35mmのエリアを拡大) "Peridot olivine on basalt" ©Pyrope(22 April 2008)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
地表で産出されるペリドットは、マントルが急激に地表に押し出されることに伴う劣化や、圧力変化による内部亀裂、細分化が激しく、大きくて宝石品質の石は大変貴重です。 隕石ペリドットは、確率的にもっとレアですね。 |
イーグル駅の隕石の断面 "Eagle Station pallasite, Mineralogisches Museum, Bonn " ©Elke Wetzig Elya(19:41, 16 March 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | ところで先ほどはサラッと流しましたが、ここまで知識を得た状態になると、「古代エジプト人は、ペリドットは星の爆発によって地球に持たらされると語っていました。」という話が気になってしょうがありあせん。 英語に翻訳された記録なので、正確に検討するには古代エジプト語の原本の記述を確認する必要がありますが、古代エジプト人は星が"単なる光の点"ではなく、"鉱物などから成る、地球や太陽のように大きなもの"と分かっていたと考えなければ辻褄が合いません。 |
古代人には、現代人の想像を超える叡智があったのか・・?宇宙人起源説や、古代の神々の正体は文明の高い星からやってきた宇宙人だったなどの説が正しいのか・・? 何だか超古代文明ミステリーにアタックできそうで、それは私にとって興味津々の領域でもありますが、ここでは関係ないので深追いは止めておきましょう(笑) |
ペリドット&シードパール ネックレス イギリス 1890-1900年頃 SOLD |
さて、確率が低すぎる隕石ペリドットは除き、19世紀までのペリドットは、古代から採掘が行われてきたエジプトのザルバガド島や、ビルマからもたらされたものとみられます。 |
現代はアメリカのアリゾナ州が世界最大の産地で、世界の総流通量の80%を占めています。 アメリカのアリゾナ州サン・カルロスに住んでいたアパッチ族インディアンは、何百年もの間、居住区で採れる緑色の石を装飾品に使っていました。 ティファニーのクンツ博士の調査により、この緑色の石がペリドットと分かり、1904年に公式に報告されたことで、ロマンあふれる広大な地に眠っていた"アメリカの宝石"として、一般大衆も含めてより人気になったのです。 インディアンの時代は細々と人の手で採取されるだけでしたが、爆発的に人気が出たことで大々的に採掘されるようになりました。人力に加えてブルドーザーなどの重機も続々と投入され、一気に産業化されました。年間産出量は100万カラットを超えるほどでした。 |
エドワーディアン ペリドット リング ヨーロッパ 1910年頃 SOLD |
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これにより、高級品はたくさんのペリドットからより上質なペリドットを選んでジュエリーにすることが可能となりました。 4大宝石には入っておらず、現代ではあまり高級なイメージがない宝石ですが、エドワーディアンの時代には最高級の宝石にしかやらないような作りの、美しいペリドット・ジュエリーもいくつか作られています。 |
1-3-4. 大流行後のペリドット
ミドルクラス以下のジュエリーは専門外なので分かりませんが、ハイジュエリーでペリドットを使ったものが見られるのは、基本的にはエドワーディアンまでです。アールデコの時代になると、またさっぱりと見なくなります。 |
【参考】エドワーディアンに作られたペリドットの中級ジュエリー | |
これらはエドワーディアンに作られたと推定されるペリドットジュエリーです。ヘリテイジが扱うようなハイジュエリーではないため、プラチナもダイヤモンドも使われておらず、デザインや作りも良くありません。それでも高級素材ゴールドを使ってあるので、庶民にとっては高級品と言えるでしょう。 案の定と言いますか、例に漏れず、ペリドットも過剰供給によって稀少性がなくなり、飽きられて価値もイメージも低下した宝石の1つです。これらの中級品も、宝石の価値だけで売ろうと無闇矢鱈にあまり価値の高くない品質のペリドットを使っており、いかにも美意識や教養のない庶民向けのジュエリーです。 |
エドワーディアンのペリドットのハイジュエリー | ||
ペリドット リング ヨーロッパ 1910年頃 SOLD |
ネックレス イギリス 1910年頃 SOLD |
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この通り、ヘリテイジで扱うクラスのエドワーディアンのハイジュエリーはプラチナにゴールドバックで、ペリドット以外のダイヤモンドなどの宝石も使われています。ペリドットに関しても、希少価値のある上質なものだけが使われています。 |
ルネサンスでお取り扱いしたものも調べてみたのですが出てこず、今回の宝物でようやく3点目のようです。 ヘリテイジがオープンして2年5ヶ月、ヘリテイジでご紹介するのは初です。 |
【参考】20世紀初期の安物ジュエリー | ||
市場の大半は、多数存在する庶民のために大量に作られた安物です。安物とは言っても、庶民にとっては高いお金を出して頑張って買うクラスのジュエリーです。このようなジュエリーは質の悪いペリドットと、質の悪い天然真珠の組み合わせによるゴールド・ジュエリーであることが多いようです。 19世紀後期から20世紀初期は天然真珠が史上最も高く評価された時代となり、海から相当な数が採取されました。その中で上質な物は大小問わずハイジュエリーに使用されますが、ハイジュエリーには使えない、どうしようもないものも存在しました。そういうものが、天然真珠というだけで喜ぶ当時の庶民向けジュエリーに使われたというわけです。所詮、庶民は現代人も100年前の人たちでも大して変わりはしないのです。 |
【参考】20世紀初期の安物のペリドット・ペンダント | デザインも使い回しで、どこかで見たことがあるようなものばかりです。 庶民にまで大流行すると、同じようなデザインで作りの酷い安物が大量に溢れかえります。こうなると陳腐化するのも早く、一気に熱が冷めます。1900年前後に世界的に大流行したアールヌーヴォーもそうでした。 ペリドットもアリゾナで産業的に採掘され、過剰供給によって価格が暴落し、同じようなデザインの安物が大量に出回った結果、飽きられて誰にも見向きされなくなってしまったのです。 |
【参考】ヴィンテージのペリドット・ジュエリー | ||
ペリドットにマイナスイメージを持つ世代がジュエリー購買層ではなくなり、ほとぼりが冷めた1960年代に、再びペリドットの需要と安定した採掘が復活しました。 でも、小さかったり質の悪いペリドットに関しては特に稀少価値はなくなっており、シルバー・アクセサリーにすら使われることもあるような石となっています。ペリドットに高級なイメージを持たない人が多いのはこのせいです。残念ながらヴィンテージ以降はつまらないデザイン、ちゃちな作りのペリドット・ジュエリーしかありません。 |
2. スタイリッシュなデザイン
2-1. エドワーディアンだからこそのスタイリッシュなデザイン
2-1-1. 1904年前後で異なる状況となったペリドット
ここまでで、ペリドットの素晴らしいハイジュエリーを見つけるならば、19世紀後期のレイトヴィクトリアンから20世紀初期のエドワーディアンにかけてまでということがお分かりいただけたと思います。 しかしながら、アリゾナ州のペリドットが1904年に報告されて市場に大量に出回り始めるより前と後では、ハイジュエリーにとっても状況がかなり異なると言えます。 |
この宝物は『ネグリジェネックレス』というスタイルです。ネグリジェと聞くとワンピースの寝間着が思い浮かびますが、ここで言うネグリジェとは普段着や略装を意味します。この時代の上流階級の女性が、普段着に合わせて着けるジュエリーとして作られたのがネグリジェネックレスです。 普段庶民が見る王侯貴族のジュエリーは、先のコメディアンの女王が着けていたような宝石物の派手なジュエリーなので、これを見ても王侯貴族のジュエリーとは思わないかもしれません。王侯貴族が毎日、いつでもあのような派手なジュエリーを着けていたわけはありません。このクラスが普段着用だったと考えれば、やはりまだまだ当時の上流階級は現代とは比べ物にならぬほど凄かったということを感じていただけるのではないでしょうか。 |
2-1-2. 1904年以前のペリドットのハイジュエリーの特徴
プラチナが使われ始めるとデザイン的にも、雰囲気的にも現代に近い感覚で使えるジュエリーが出てきます。 しかしながら成金的なものを除く、エドワーディアンのハイジュエリーはとても少ないのです。 |
日本人にとっては色が強すぎることもある4大宝石と違い、ペリドットの優しい色合いは日本人好みです。 それに加えてペリドットならではの黄緑色の色合いは日本人の肌にも相性が良く、似合う人が多いです。 そういうわけで、エドワーディアンの素晴らしいペリドット・ジュエリーがあればいくつでもご紹介したいのですが、歴史的に理由があり、残念ながらあまり数は作られていません。 人気がありながらも、手に入れるのが難しいジュエリーの1つです。 |
2-2. 珍しいカラーストーンのネグリジェネックレス
これまでの45年間で様々なタイプのハイクラスのネグリジェネックレスをご紹介していますが、今回のようなカラーストーンをメインにしたものは意外にもとても珍しいです。 |
2-2-1. ダイヤモンドのネグリジェネックレス
最も一般的なのは、ダイヤモンドのネグリジェネックレスです。ネグリジェネックレスは優雅に揺れる構造が特徴です。煌めきが最大の魅力とも言えるダイヤモンドとは、非常に相性が良いです。白い宝石『ダイヤモンド』と白い金属『プラチナ』は全ての色の洋服と相性が良く、日常使いしやすいことも理由の1つでしょう。 |
2-2-2. 天然真珠を使ったネグリジェネックレス
2-2-3. カラーストーンを使ったネグリジェネックレス
『PURE LOVE』 ピンクトルマリン ネックレス イギリス 1900年頃 SOLD |
美しい色と質感、ネグリジェネックレスに必要な大きさの全てが揃ったカラーストーンを無処理の天然石で得るのは、石の種類にも依りますが、通常は非常に困難なことです。 だから、そのような3石のカラーストーンを使った美しいアンティークジュエリーは数が少ないです。 『PURE LOVE』も時代から言って、ネグリジェネックレスにしても良さそうなものですが、持ち主の強いこだわりがあって、センスの良さを感じるこのような珍しいデザインにしたのでしょうね。 |
【参考】ヘリテイジでは扱わないクラスのネグリジェネックレス(サファイア、ペリドット、ピンクトルマリン) | 3石を揃えるのは難しく、無理に合わせて違和感を感じさせるくらいならば全部違う色の宝石を使った方が良いということで、いくつかの色を組み合わせたネグリジェネックレスは市場でも見ることがあります。 「え、これ?組み合わせたの?」と思うような、日本人の色彩感覚からするとヘンテコな色の組み合わせな場合も少なくありません。 そういう物はそもそも作りも良くありません。 妥協して組み合わせた物は、所詮ハイクラスの物としては作られておらず、そういうものは作りもヘリテイジ基準には満たないのです。 |
この正方形のフレームにセットした天然真珠を、一番上のシトリンには正方形の向きで左右上下にセットし、下がった雫型のアクアマリンとガーネットには上部に菱形となる角度でセットしています。 全体の作りももちろん丁寧で美しく、1つ1つの石もとても上質なものが使われていることから、妥協ではなく明らかに意図してデザインされた特別オーダーのハイジュエリーであることが分かります。 |
異なる種類のカラーストーンを使っていても、色の組み合わせとしてうるさくならない、むしろ気品とセンスの良さを感じる素晴らしいネグリジェネックレスです。 こういう宝物は唯一無二と言えます。 |
しかしながら、もっとたくさん作られていても良さそうなカラーストーンがメインのネグリジェネックレスも驚くほど市場には出てきません。それは同じ色と質感で、ネグリジェネックレスとして十分な大きさのある天然の宝石を揃えるのがいかに難しいことかの現れなのです。 |
3. 高級品らしい精緻なデザインと作り
3-1. 超繊細なプラチナにゴールドバックのナイフエッジ
正面から見たときに、極限まで存在感をなくしたナイフエッジの技法を生かした洗練された雰囲気のネックレスは、19世紀後期からアールデコまでのハイジュエリーの魅力の1つでもあります。 美しさと耐久性を両立させる、手間と技術を必要とする技法で、アンティークのハイジュエリーではよく見かける技法ですが、ここまで長さのあるエドワーディアンのナイフエッジは滅多に見る物ではありません。 |
エドワーディアンのハイジュエリーの最大の特徴は、プラチナにゴールドバックの作りです。この時代は十分な量のプラチナをジュエリーに使うことができない事情があったため、ゴールドバックになっています。このゴールドバックは、貴重な金属プラチナの節約にはなりますが、技術的に難しく、手間の観点からも通常ならばやりたくない手法です。 |
【参考】樹脂を石膏の中で蒸発させて型を作り、鋳金を流し込んでジュエリーを制作する工程 | ||
現代ジュエリーはどんなに高価な高級ブランドの物でもほぼ量産品で、それらはほぼ間違いなく鋳造で作ります。鋳造は『キャスト』とも呼ばれ、安く早く簡単に量産が可能ですが、鍛造ではそれができません。 |
【参考】設計支援ソフトCADでジュエリーをデザインするイメージ | 【参考】鋳造ジュエリー用の樹脂の型 |
1億円以上の現代ジュエリーの制作もやっていた、現代のトップクラスの腕を持つ職人X師ですら、1点物のハンドメイド・ジュエリーを制作する場合はワックスの型を使った鋳造でした。Genも私もそれを見せてもらったことがありますが、「X師が作ったものでもアンティークのハイジュエリーと比べると全然スッキリしておらず、シャープな美しさが感じられない。ワックスを使った鋳造は所詮この程度が限界なのか。」と、非常にガッカリしていました。 |
【参考】ダイヤモンドをセットした青い樹脂の型と出来上がった量産リング |
鋳造は金属の強度自体が低いため、耐久性を出すために金属の量が多く必要となります。鍛造のジュエリーでやるような、磨いて仕上げるという作業もろくに施されないため、シャープさはなく、ボテっと、ヌルっとした雰囲気にしかならないのです。 アンティークの時代でも、鋳造でしか不可能な"特別な形状"を作るために鋳造の技術を使うということはありました。しかしながら基本的に鋳造のメリットと言えば、そこそこの品質のものを安く早く簡単に量産できるということです。大衆向けの安物に最適なテクノロジーと言えるでしょう。 |
【参考】アールヌーヴォーの鋳造の安物ジュエリー | |
故に鋳造による安物ジュエリー作りは今に始まったことではなく、鍛造で優れたジュエリーを作れる技術があったアンティークの時代でも、量産の安物には鋳造の技術が使われていました。庶民の若い女性たちの旺盛な消費意欲に湧くベルエポックのパリでも、大衆向けの安物の鋳造ジュエリーが大量生産されています。 一応18ctゴールドなので、庶民にとっては高級品だったはずです。私は庶民ですが、100年以上昔の庶民向け量産ジュエリーは正直言って、着けて楽しい気分にはなれませんし、皆様にも自身を持って良い物とはご紹介できないので扱いません。 |
ハイクラスのジュエリーは職人が金属を叩いて鍛え、強度を強くしてから作る鍛造が基本です。それはゴールドでもプラチナでも、シルバーでも一緒なのですが、プラチナにゴールドバックにする場合、ゴールドの板とプラチナの板を貼り合わせるという別のテクニックも必要となります。 |
貼り合わせた界面の剥離の種類 【引用】The TRC News,201604ー03(April 2016)「樹脂が剥がれてしまったら・・」東京営業第2部・電子材料分科会 牛久 朗 |
大企業の研究所で分析をしていたサラリーマン時代は、貼り合わせた界面が剥離する原因調査なども結構やった経験があります。樹脂や金属、無機物など扱う素材は多岐に渡りましたが、異素材を貼り合わせた場合に一番多いのが界面剥離です。金属同士の貼り合わせは、特に界面で剥がれやすいです。 |
この経験がある私にとっては、100年以上のジュエリーとしての使用にも耐え、プラチナとゴールドを貼り合わせた界面が剥離せずきちんと残っていることにまず驚きます。それはエドワーディアンのハイジュエリー全てに言えます。 |
さらにこの宝物で驚くべきなのは、プラチナにゴールドバックの作りでこれだけ細く、長さもあるナイフエッジを実現していることです。 |
ナイフエッジは正面から見たときに極限まで存在感を消しつつ、十分な耐久性を持たせるために、正面は限界まで細く、裏側はある程度の厚みが残されています。鑢(ヤスリ)で鋭角三角形の形状を整え、さらに磨き上げて仕上げます。整える作業も手間のかかる困難なものですが、これだけの細い面積に、それだけ物理的な力が繰り返し加わってもゴールドとプラチナが剥離せず仕上がっていることに驚きます。いかに高度な技術で、プラチナとゴールドが完璧に貼り付けられているのかが分かります。 |
不可能を可能にしたかのような神技の技術だからこそ、真似したいほど美しくても、他にはこれだけ細くて長さのある、プラチナにゴールドバックのナイフエッジのジュエリーがないのだと言えます。 |
同じプラチナを使ったジュエリーでも、直線や幾何学デザインをメインにしたアールデコはスタイリッシュな印象が強い一方で、エドワーディアンはヴィクトリアンからの流れを汲んだ、ヨーロッパの王侯貴族の香りも漂う意匠や曲線を組み合わせたエレガントな雰囲気が特徴です。 他のエドワーディアンのネグリジェネックレスも上流階級のアイテムらしい、どことなくエレガントな雰囲気が漂ってくるデザインなのですが、今回の宝物は特別なナイフエッジを使っている故に、時代を先取りしたアールデコのようなスタイリッシュさを感じます。 |
エドワーディアンからアールデコにかけては、時代が移り変わる過渡期にのみ生み出される傑出したデザインの『トランジション・ジュエリー』が作られています。 |
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『Quadrangle』 オーストリア? 1910年頃 SOLD |
『The Beginning』 エドワーディアン ダイヤモンド&エメラルド リング イギリス 1910年頃 SOLD |
ハイクラスの特別なジュエリーだけを厳選してお取り扱いしていると、その中でもトランジション・ジュエリーの域をも超えた、アールデコそのものとしか思えないデザインのジュエリーが、奇跡的な確率で出現することがあります。 |
既にアールデコを知っている現代人にとっては、このデザインを見ても先進的な印象は湧かないかもしれません。 でも、アールデコ・デザインがまだ存在せず、誰も見たことのなかったエドワーディアンの時代。 見た人たちが衝撃を受け、素晴らしいと感じ、浸透し、アールデコへとつながっていく・・。 こういう特別な宝物が波紋の小石となり、次の大きな時代を作っていたのだと確信しています。 |
3-2. 手の込んだ爪留
【参考】ペリドットの現代ジュエリー | ||
私がサラリーマン時代に、現代ジュエリーを買う気分にならなかったのはデザインが変だからです。シンプルなデザイン自体は嫌いではないのですが、ボテっとした雰囲気やアクセサリーとの違いが分からない捻りのないデザイン、そして宝石以上に目立つゴツい爪が気になってしょうがありませんでした。 ヘリテイジで宝物をお求めくださるお客様も、現代ジュエリーは買ったことがないという方が結構いらっしゃるのですが、やはりこの爪が気になる方が多いようです。 |
私がアンティークジュエリーを好きなのは、宝石を留める石留めにも高い美意識と高度な技術が感じられるからです。 本来、宝石は美しさと稀少価値を併せ持つ、財産性の高い存在でした。 美しさを邪魔せぬよう、爪の存在感は極限まで消されます。 しかしながら稀少価値が高い石は、落ちてはなりません。 お金持ちには、「高くてもまた買えば良い。」という考え方もありそうですが、天然の美しい宝石はそれぞれが唯一無二であり、どんなにお金を出しても同じものや似たものは手に入らないからこそ『稀少価値のある宝石』なのです。 また買えば良いというのは稀少性がないからこそできることであって、稀少性がない石は、本来の意味では『価値ある宝石』と言えません。 |
存在感を消すこと、100年以上ジュエリーとしても大切な宝石が落ちない耐久性があること。 それを両立する手法として、八角形にカットされたトップのペリドットは、4箇所を二股の細い爪で留めてあります。 つまり1つの石を留めるために、8つの爪が使われているということです。 |
正面から見ると一見頼りなさそうに見える細い爪ですが、8箇所でしっかり石を包み込んでいるのでしっかり固定されています。存在感を消すための細い爪は、鍛造の作りだからこそ可能なものです。 |
【参考】スイスブルー・トパーズ・ペンダント(現代) | 二股にした爪を使い、8箇所で固定するやり方は現代ジュエリーでも割と見かけますが、1つ1つの爪が太くて目立ちます。 鋳造の金属は強度がないため、これだけ太くしないと十分な強度が出せないのです。 |
【参考】8つの爪でメインストーンをセットした現代ジュエリー | |
それでももう少しくらいは細くできそうなものですが、それには技術のある職人による手作業が必要です。現代ジュエリーを欲しがる人たちは、大抵が美しさよりも安さを強く求めるため、美しくするための技術料や人件費はかけられないのです。 一見、アンティークのハイジュエリーの爪より太くて固定力がありそうですが、見た目だけで、強度が高いとは言えません。お金や手間をかけない作りのジュエリーは見た目が悪く、しかも耐久性もないのです。 |
ドロップシェイプのペリドットは、それぞれが10個の爪で固定されています。 これならば価値ある宝石も安心です。 |
横から見るとお分かりいただける通り、爪にはかなり高さがあります。だからこそペリドットはオープンセッティングになった裏側からのみならず、横からも存分に光を取り込むことができます。 |
極限まで爪の存在感をなくし、できる限りたくさんの光を取り込める設計にしてあるからこそ、大きさと質を合わせ持つペリドット本来の美しさを存分に楽しむことができます。 光を取り込んで輝くペリドットは、まさに太陽の光が石の中に取り込まれているかのようです。 高度な技術で複雑にファセットカットされた、極上のドロップシェイプカット・ペリドットならではの荘厳な美しさと言えるでしょう♪♪ |
この構造は、ミッドナイト・エメラルドとも言われるペリドットのポテンシャルを見事に引き出すものです。 暗い場所でも、色彩の美しさと印象的な輝きを放つペリドットは存在感が抜群で、同じく特に夜に活躍する宝石『ダイヤモンド』とは全く別の、特別な魅力を持っています。 まさに、人の心をとらえて離さない色彩と輝きを持つ宝石です。 |
『海の煌めき』 アーツ&クラフツ アクアマリン ネックレス イギリス 1890年頃 SOLD |
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このような二股の特殊な爪留は、アンティークのハイジュエリーでも滅多に見ることはありません。細いたくさんの爪で均等にセッティングするのが通常です。 ヘリテイジでお取り扱いした中では『海の煌めき』だけが、同様の留め方をしていました。これも他には見たことのない特殊なナイフエッジの技術が使われており、相当デザインにこだわって作られた特別なオーダー品と考えられます。 |
この留め方は通常よりも高度な技術を必要とする上に、手間もかかるからこそ、ハイジュエリーでもあまり見ないのです。 でも、均一な留め方だったら今と比べてスタイリッシュさが激減しますし、"品行方正な良い子ちゃん"のように、ちょっとつまらない感じになっていたと想像します。 鋭い美的センスを持ち、並々ならぬこだわりを持つ女性がオーダーして作られたことは間違いないでしょう。 それは爪留1つ見ても分かることなのです。 |
3-3. 上質なダイヤモンドと完璧なミルグレイン
この宝物は、"シンプル・イズ・ベスト"を体現したかのようなデザインが見事です。最上質のペリドットだけでも十分に魅力がありますが、センス良く配置された4つのダイヤモンドが魅力を何百倍にも高めています。 |
あえて4つとも全て全く同じ大きさにしているところがポイントですね。 ネグリジェネックレスは左右で長さの違うフリンジが特徴です。 ナイフエッジの線の始点と終点に、存在感のあるダイヤモンドがあることで、左右の線の長さの違いが強調されています。 線の長さの違いを強調したいので、点の役目をするダイヤモンドには存在感が必要ですが、4つのダイヤモンドがそれぞれ違う大きさや形だと、見た人の目が行って欲しいポイントがブレてしまいます。 視覚効果を緻密に計算した、アンティークの特別なハイジュエリーらしい見事なデザインと言えるでしょう。 |
視覚効果として重要な要素なので、ダイヤモンドはいずれも輝きと色の美しい極上の石が使われています。 |
ネグリジェネックレスは揺れる構造も大きな特徴の1つです。特に、下がったフリンジは美しく揺れるように設計されます。 ご覧の通り、様々な角度で見事に輝きます。大きな石ではありませんが、上質なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドならではのダイナミックなシンチレーションが抜群の存在感を放ちます。覆輪のプラチナのミルグレインの白い輝きと相まって、実に美しいです。 |
ダイヤモンドは厚みのあるオールドヨーロピアンカットなので、見事なシンチレーションだけでなくファイアも出やすいです。この画像だと、右側の石に虹色のファイアが出ています。 ミルグレインも非常に素晴らしく、半球状に整った均一で美しい形状に加えて、相当丁寧に磨き上げられておりピカピカです。故に極上のオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの輝きに負けない、見事な輝きを放つことができるのです。 |
【参考】現代ジュエリーのミルグレイン | 【参考】現代ジュエリーの鋳造ミルグレイン |
現代の鋳造ジュエリーでもミルを見かけることはありますが、とりあえずボコボコしたものが付いていれば良かろうくらいにしか思っていないと感じます。 |
グレイン1粒1粒の形状が知覚できるか否かは重要ではありません。 プラチナならではの白く硬質で繊細な輝きを放ち、ダイヤモンドの輝きより魅力的に感じさせることが重要です。 形状を認識させるのではなく輝き、つまり光を知覚させることがミルグレイン本来の役割です。 現代ジュエリー業界はそれすらも分かっていないことが、デザインからもよく分かるのです。 |
3-4. 美しく揺れる構造
裏側から見ると分かりやすいのですが、このネグリジェネックレスはペンダント・トップとチェーンを連結する部分、そして左右のナイフエッジの始点と終点で揺れる構造になっています。 |
左右だけでなく、少し前後にも揺れることができるよう遊びを持たせた構造になっています。 実際に着用した際の女性の動きを計算した、アンティークのハイジュエリーらしい細かい心遣いです。 どんな動きをしても、違和感なくしなやかにフィットしてくれるでしょう♪ |
裏側
裏側も丁寧で美しい作りです。 宝石を生かすために、フレームを極限まで細く仕上げた見事な職人芸です♪ |
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現代はもちろん、アンティークでもありそうでない、ペリドットを使ったスタイリッシュな極上のジュエリー・・。 Simple is best. アンティークでも類を見ない、シンプルイズベストを体現したかのようなネグリジェネックレス。華美な装飾を好む傾向のある欧米人と異なり、日本人は本来シンプルイズベストを一番理解している民族です。この宝物が日本人に似合い、日本人から好まれる色のペリドットで作られているのは何か特別なことのようにも感じます。次はどのような方の元へ旅立つのか、とても楽しみです♪♪ |