No.00343 EAGLE EYE |
暗闇でも爛々と光を湛える鋭い瞳!♪
隙のない360度の立体造形!!♪
鷲ジュエリーの最高峰と言える神技の金細工!!!
どこから見ても全く隙のない細工!!♪
まるで生きている鷲のような完璧な造形!!♪
視認不可能レベルのアーティスティックな彫金!!♪
←↑等倍 |
The Art of Gold !! 手のひらの上で楽しむ、小さな小さな『黄金の芸術』です!♪ |
『EAGLE EYE』 |
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クラバットピンなので小さな鷲ですが、神技の立体造形と彫金によって、まるで生きている本物の鷲のような威厳と美しさに満ちています。翼を広げて飛翔する姿など、分かりやすい表現を敢えて避け、静かに止まり木に佇むし方でデザインしていることにも、天才アーティストとしての作者の特別な才能を感じます。 |
この宝物のポイント
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1. カッコいい鳥モチーフ・ジュエリー
Gen曰く、「鳥モチーフのジュエリーは良いものが多い。」そうです。 実は、これは正確ではありません。 Genは、「良くないものを見ると目が腐る。質の悪いものばかり扱っている店で、やたらと変なものは見ない方が良い。」と言います。 実際、市場の大半は見るに耐えない低品質のものばかりです。殆どは『アンティージュジュエリー』と呼ぶには相応しくなく、中古と呼ぶ方が適切と思われるものばかりです。 時を超えた小さな芸術である"優れたアンティークジュエリー"は見る者の心を癒し、心豊かにしてくれます。その一方で、宜しくないものは壮大にエネルギーを奪い取って行きます。 |
故に、買付けは疲れるとGenは言います。良いものが多く買付けできれば疲れも吹っ飛ぶものですが、不漁だと心のエネルギーの消耗が激しく、確かに酷く疲れます。 そういうわけで、Genは宜しくないものが視界に入っても認識しない技を、長年の経験から身につけたようです。汚いものは目が腐るから見ない(笑) 私はGenほど繊細ではなく、頑丈さもあって、宜しくないものも直視するようにしています。確かに汚いものを見ると不快ですし、目が腐りそうですが、HERITAGEの基準を満たすほどの最高級品ばかり見ていると、アンティークジュエリーは全てこれくらい素晴らしいものであると誤認しかねません。私たちが選んだ宝物が間違いなく最高級品であることを納得いただくには、ダメなものもある程度は知っておいていただく必要があると思っているため、私は参照資料としてダメなものもご覧いただくようにしています。 |
そんな私の感覚からすると、「鳥モチーフのジュエリーは良いものが多い。」のではなく、鳥モチーフは人気が高く、作られた総量が多いため、最高級品と呼べるものの数自体は必然的に多くなるようです。 最高級品が千に1つの割合だった場合、ジュエリー全体で1万個しか作られていないと、最高級品は10点のみです。 人気モチーフとして、10倍の10万個作られていれば、最高級品は100点もあることになります。 鳥モチーフは人気が高く制作数が多いため、Genのお眼鏡に適うものが数としては多く存在し、Genの眼には「鳥モチーフのジュエリーは良いものが多い。」と映ったわけですね(笑) |
Genの眼には、本気でダメ・ジュエリーがシャットアウトされていることに笑いつつも、このような繊細すぎる超感覚を持つGenだからこそ見える世界、Genにしか見えない景色があるわけです。レジェンドとして、アンティークジュエリーというジャンルを作ってしまうような人物は、やはり普通の人間ではないのだと実感します。Genは人類の宝です!♪ それにしても、数が多いからこそダメな鳥ジュエリーもかなりの数が存在するわけですが、それはあまり見ないようにしましょう。鳥ジュエリーは最高級品だけでもある程度の数が存在し、バラエティにも富んでいるのでとっても楽しいです♪♪ |
1-1. 多様な鳥モチーフ
『太陽の使い』 ニコロ・インタリオ リング インタリオ:ササン朝ペルシャ 7世紀頃 シャンク:フランス 1830年頃 ¥1,880,000-(税込10%) |
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日本は長い年月、肉食文化が一般的ではありませんでした。 だからお魚料理と言えば種類が豊富ですが、『とり肉』と言うと一般的には鶏のほぼ一択です。 卵もうずらの卵が売ってあったりはしますが、基本的には鶏の卵のほぼ一択ですよね。 |
ワデズドン・マナーの巨大バードケージで飼育されている多様な鳥(2018年5月) フォト日記『ロスチャイルドのお城(4)豪華な南国の鳥の楽園』より |
しかしながら、鳥類は魚類に負けず劣らず種類豊富です。残念ながら私は味のバリエーションはあまり知りませんが、見た目は実にバリエーションに富んでいます。愛らしいもの、美しいもの、カッコいいもの、その雰囲気も多種多様です。 |
赤色野鶏のオスとメスたち "Gallus gallus -Kaziranga National Park, Assam, India-8" ©Lip Kee Yap(15 April 2008, 12:11:11)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
同じ種類でも、雄と雌で全然違う種類に見えるほど外見が違っていたりもしますね。翼や羽根を持つ鳥たちは、人間にとって様々な魅力があります。 |
様々な鳥モチーフの宝物 | |||
アヒル | 鷲(ワシ) | ホロホロ鳥 | |
『アヒルのお守り』 ネオバビロニア or アッシリア 紀元前8世紀〜紀元前6世紀 SOLD |
『イーグル』 アゲート インタリオ 古代ローマ 4〜5世紀頃 SOLD |
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『ホロホロ鳥』 ガーネット インタリオ ササン朝ペルシャ 3〜6世紀 SOLD |
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古代も様々な鳥モチーフがあります。現代より遥かに手間と時間をかけて制作していた時代ですから、選んだモチーフには持ち主にとって大切な意味が込められているでしょう。 |
Mr.エセックス・クリスタルによる様々な鳥モチーフの宝物 | ||
インコ | コマドリ | 雉(キジ) |
『インコ』 エセックスクリスタル ブローチ イギリス 1860年頃 SOLD |
『コマドリ』 エセックスクリスタル ブローチ イギリス 1860年頃 SOLD |
『キジ』 エセックス・クリスタル ブローチ イギリス 1860年頃 SOLD |
鳥のエセックス・クリスタルで有名な謎の作家Mr.エセックスクリスタルの作品も、様々な鳥がモチーフになっています。神技の彫りによる、分岐した枝の表現がMr.エセックスクリスタルのサインです。 当時も人気が高かったのか、稚拙な彫りによる明らかな偽物も多いです。市場でよく目にする偽物は、コマドリのモチーフが殆どという印象です。上のような本物の作品とはまるで彫りのレベルが違いますが、見てもその違いが分からない人が多いのか、本物と偽物が同じような値段で取引されているのが現状です。 コマドリが多い理由は、カワイイ系の方が一般には人気が高いこと、カワイイは稚拙に通じる所があり、カッコいいやキレイ系に比べて偽物を作りやすいということが理由だと想像します。売れ筋でないモチーフを、敢えて偽物で作る理由はないですからね。だから偽物はバラエティが豊かではありません。 |
『小鳥たちの囀り』 エセックス・クリスタル イヤリング イギリス 1860年頃 SOLD |
アーティスティックな才能を持つ職人ほど、同じようなものを作ることは好みません。 だから才能豊かな人物が作った高級品はバラエティ豊かで、見ていて楽しいです♪ |
その他の鳥モチーフの宝物 | ||
オーム | ケツァール | 真鴨(マガモ) |
『ダイヤモンドのオーム』 ダイヤモンド ブローチ イギリス 19世紀後期 SOLD |
『ケツァール』 ダイヤモンド クラバットピン イギリス&フランス以外の西ヨーロッパ 19世紀後期 SOLD |
『紳士の黒い忠犬』 エセックスクリスタル ブローチ イギリス 1890年頃 SOLD |
鳩(ハト) | 燕(ツバメ) | 孔雀(クジャク) |
『プリニウスの鳩』 カーブドアイボリー ブローチ ドイツ 1860年頃 SOLD |
スワロー・ブローチ イギリス 1888〜1900年頃 SOLD |
『孔雀』 プリカジュールエナメル ブローチ オーストリア 1890〜1900年頃 SOLD |
梟(フクロウ) | 鶉(ウズラ)? | 白鳥 |
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『森の賢者』 S.モーダン社 ホイッスル ロンドン 1903年 SOLD |
『WILDLIFES』 ゴールド ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
『白鳥』 ローマンモザイク ペンダント イタリア 1870年頃 SOLD |
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実際に存在する鳥だけでも、15種類ありました。
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現実には存在しない鳥? | |
不死鳥(フェニックス) | フープー or 理想の美しい鳥 |
『アテナと不死鳥』 カメオ&インタリオ ブローチ イタリア 15世紀後期-16世紀(フレームは現代) SOLD |
『情愛の鳥』 卵形天然真珠 ブローチ イギリス 1870年頃 SOLD |
実際には存在しない鳥まで、アンティークのハイジュエリーのモチーフになっています。鳥モチーフと言っても、挙げてみると本当に種類豊富ですね。 実在の鳥の場合、理想化した姿で表現することもありますが、ありのままの姿を表現したり、最大の特徴に注目して表現することもあります。実在しない鳥の場合、作者の想像力やアーティスティックな才能によって、最大限の表現がなされます。実在の鳥と、実在しない鳥とでは表現のアプローチが異なるので、今回は実在の鳥をモチーフにした宝物だけを参照していきましょう。 |
1-2. 定番人気の『鷲』の魅力はカッコよさ
『鳥』と言っても様々な種類があることは先にご紹介した通りですが、その雰囲気も大きく異なることを感じていただけたでしょうか。 可愛い鳥、美しい鳥、カッコいい鳥、面白い鳥、本当に様々です。 私たち、人間の好みも様々です。唯一無二の正解があるわけではないからこそ、人間が創る鳥ジュエリーも多様です。 |
1-2-1. 職人の腕でコントロール可能な"鳥の雰囲気"
1-2-1-1. ヨーロッパの上流階級に一番の定番人気の鳩
数ある鳥の中でも、アンティークジュエリーで最も多いのはおそらく『鳩』です。 鳩は古代から美術作品のモチーフになってきました。 |
古代ギリシャのペルガモンに生きた鳩 | ||
古代ローマの博物学者プリニウス(23-79年) | ヴィッラ・アドリアーナで発見された鳩のモザイク(古代ローマ)ペルガモンのソーサスによる紀元前2世紀の作品の複製 | 『ペルガモンの鳩』 シェルカメオ ブローチ イタリア? 1820〜1830年頃 SOLD |
古代ローマの博物学者プリニウスが言及したヘレニズム期の古代ギリシャのモザイク作家、ペルガモンのソーサスによる『水盤に留まる鳩たちのモザイク』はヨーロッパの上流階級の間で有名です。オリジナルは見つかっておらず、「一羽は水を飲み、その他の鳩たちはそれぞれが日光浴をしている。」と伝えられていた謎の作品でした。 想像する以外になかったこの作品ですが、1737年にヴィッラ・アドリアーナで古代ローマの複製が発見され、上流階級や知的階級から一気に脚光を浴びました。 この構図の鳩は、『プリニウスの鳩』と呼ばれました。プリニウスの『博物誌』はヨーロッパの上流階級の必須教養の1つであり、知性や文化的教養、センスを重んじる上流階級の間で『プリニウスの鳩』をモチーフにしたジュエリーがセンスや知性を競うように作られました。 |
キリスト教に於ける聖霊の鳩 | ||
エナメル装飾(リモージュ 1600年頃)ワデズドンマナー | 『愛と平和』 サンテスプリ ペンダント フランス 1840年頃 ¥693,000-(税込10%) |
『平和のしるし』 ローマンモザイク デミパリュール イタリア 1860年頃 ¥2,030,000-(税込10%) |
実在した鳩のありのままの姿をモチーフにした『プリニウスの鳩』とは異なり、キリスト教に於ける聖霊の姿として『鳩』を表現した作品も、ヨーロッパのアンティークジュエリーには多数存在します。聖霊なので、ほのぼのとした愛らしい姿というよりも、神を象徴するような荘厳な雰囲気であったり、畏怖を表すような美しい姿で表現された作品が多いです。 |
ありのままの美しい鳩 | |
『鳩と戯れる女性』 カーブドアイボリー ペンダント フランス 1860年頃 SOLD |
『噴水と二羽の鳥』 マイクロパール ブローチ イギリス 1800年頃 SOLD |
ありのままの鳩の美しい姿をモチーフにしたとみられる作品も存在します。鳩そのものも、芸術作品のモチーフとして強い魅力がありますからね♪ |
プリニウスの鳩 | 聖霊の鳩 |
『プリニウスの鳩』 カーブドアイボリー ブローチ ドイツ 1860年頃 SOLD |
エナメル ミニアチュール(細密画) ブローチ ヨーロッパ 1880年頃 SOLD |
そうは言っても、外見が魅力的な鳥は他にも様々な種類があります。そのような中で、『鳩』は知的なモチーフであったり、愛と平和の象徴と言う縁起モチーフとしての意味が持たされたことがあり、アンティークジュエリーの中でも屈指の人気誇る鳥となりました。 |
1-2-1-2. 様々な雰囲気の鳩
人間は『顔』から様々な表情を読み取ることができます。 目、鼻、口。 |
真剣な眼差しでオヤツを凝視する小元太1世(2017.2.27)10歳 | 先代の小元太1世もこの通りです(笑) 普段はGenの最強のストーカーとして、Genのことだけを見つめていましたが、大好きな食べ物が絡むとこの通りです。 怖いくらい、真剣な表情です。 なんて言っている私ですが・・・。 |
ちなみにルネサンスのマスコット犬だった小元太1世はとっても優しくて、普段はこんな可愛い顔でした。 犬も人間に負けず劣らず、表情で随分と雰囲気が変わるものですね。 |
さて、親バカ的に話が脱線した感じですが、動物や鳥のモチーフの高価な美術工芸品を欲するほどの人であれば、間違いなく表情や雰囲気の表現を重視するはずなのです! |
『勿忘草をくわえる鳩』 鳩 ゴールド ブローチ イギリス 1830年〜1840年頃 SOLD |
例えば、愛しい人への愛を表現する、勿忘草をくわえたこの鳩の表情は優しさと愛情に満ちています。 但し、これはセンスと技術を兼ね備えた第一級の職人だからこそできる技です。 誰もがこのような作品を欲しいと思いますが、アンティークのハイジュエリーは手作りです。 技術と手間をかけ、心を込めて作られるからこそ美しいですが、その分だけ時間がかかるので量産は不可能です。 |
【参考】出来の悪い高級品 | 【参考】出来の悪い高級品(V&A美術館蔵) © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
アンティークジュエリーだから美しいのではありません。センスと技術を兼ね備えた、特別な職人が心を込めて作ったものだからこそ美しいのです。 残念ながら、才能が十分ではない職人が作った作品は、たとえ一生懸命に作ったものでも美しくありません。 才能ある職人が作った鳩は、金属で作られたとは思えないほど軽やかで飛べそうです。しかしながら、才能が不十分な職人が作った鳩は顔が怖いですし、ボテッと重そうで、とても飛べそうには感じられません。右は一応、ヨーロッパの大美術館クラスのミュージアムピースなんですけどね。 美術館はジュエリーにとっては墓場です。展示されずに死蔵となることもあれば、運良く展示されても、もう誰も使うことはありません。美術館にとってジュエリーは特殊で、本当に美術品として価値あるものではなく、もう誰も使いたいと思う人がいない場合に「寄贈」という形でやってきます。本当に価値あるジュエリーは高価なので、予算が限られている美術館が敢えて買うということはありません。客寄せパンダとして、購入代金以上に人を呼んで稼げれば別ですが、それはほぼ不可能です。その割にセキュリティなど余計な経費はかかるので、美術館が扱いたいと思う展示品ではないのです。 ただ、美術館信仰は一般には根強いです。美術館には素晴らしいものが置いてある、美術館にあるものイコール最高に素晴らしいものという思い込みがある人は多いです。 このような低レベルのアンティークジュエリーを尤もらしく陳列されるのは、私たちにとっては営業妨害に等しいです。美術館で不出来なアンティークジュエリーを見て、「アンティークジュエリーって稚拙だな。」、「アンティークジュエリーって汚い。」と、アンティークジュエリー全般に対して一般の方に良くないイメージを形成しかねないからです。アンティークジュエリーの目利きができる人がやっているわけではないので、しょうがないのですが・・。 |
『平和のしるし』 ローマンモザイク デミパリュール イタリア 1860年頃 ¥2,030,000-(税込10%) |
これは『ノアの箱舟』の、洪水後にオリーブの枝をくわえて戻ってきた鳩です。 洗い流された後の美しい世界。 そのような雰囲気や表情が読み取れます。 ローマンモザイクとして第一級の作品なので、小さなモザイクのピース1つ1つが、鳩の羽根の形になっています。適当な材料を寄せ集めたのではなく、材料もよく考え、手間をかけて作られているからこそ、これだけの表現力を発揮しているわけですね。 この鳩も飛べそうです。 |
【参考】『プリニウスの鳩』を元にしたピエトラデュラ (安物) | |
イタリア 19世紀後期 | イタリア 19世紀後期 |
この鳩たちは飛べなさそうです。ポテっと落ちそうです。コロンと転がりそうでもあります。 可愛い系の高級品は存在しますが、数はとても少ないです。『可愛い』と『稚拙』は表裏一体的な部分があり、技術のない職人がそれを誤魔化すために可愛い系で作ることは多々あります。そういうものはHERITAGEでは絶対にお取り扱いしませんが、稚拙なものを好む女子にウケが良いこともあり、ビジネスとしては悪くないようです。 |
マリー・アントワネットと子供たち(1785年)左:マリーテレーズ王女(6歳頃)、右:ルイ=ジョセフ王太子(3歳頃) | 上流階級、特に身分の高い人ほど、責任ある立場の者として幼少期から厳しく教育されます。 全ての面で稚拙さは許されず、大人としての考え方や振る舞いを要求されます。子供は子供らしくという言葉は存在しません。 現代人が聞くと、「え?そこまで厳しいの?厳しすぎでは?!」と思うレベルかもしれませんが、日本人も昔はそうだったはずです。 むしろ日本人の場合、上流階級のみならず庶民でも、子供は立派な大人になれるよう稚拙な扱いをせず、自覚が持てるような育て方を一般的にしていました。 |
『焼き場で待つ少年』(長崎 1945年)米従軍カメラマン ジョー・オダネル撮影 | 有名な『焼き場で待つ少年』も、それを象徴するような写真ですよね。 亡くなった幼子を背負い、焼き場で順番を待つ幼い少年の表情に、幼さは微塵もありません。 |
戦前の上流階級の子供用の着物の柄 | |
上流階級の奥様や子女のために作られたアンティーク着物を見ても、稚拙さを感じる"可愛いだけ"のものは少なく、良いものほど大人っぽい作品が多い印象です。 これはヨーロッパ文化を取り入れた、アールヌーヴォー・スタイルの作品です。人魚も"カワイイ"ではなく美人で大人っぽいですし、馬に乗った戦士たちや、影絵で異国の動物たちも描かれています。大人が好みそうな作品ですが、実はこれは子供用の着物の柄です。 本人が好んだのかもしれませんし、ご両親が「このようなアーティスティックな着物を着て欲しい。」と願って作ったのかもしれません。 |
大正縮緬の一つ身(大正時代)HERITAGE COLLECTION | 枯葉に雪化粧した夜の景色という、玄人すぎるこの図柄は一つ身に描かれたものです。 一つ身は赤ちゃんから2歳くらいまでの幼児のための着物です。私の一つ身は母の着物を仕立て直して作ったそうで、大正時代のこの一つ身も専用に作ったというよりは、大人の着物の仕立て直しかもしれませんね。 子供が自らの意思で好んで着たものではありませんが、この作品の良さは大人でも理解できる人が少ない気がします。 花がないどころか、葉も枯れていますから。 |
これはまさに日本人の美意識を体現したかのような傑作です。 後は衰退するだけの"ピーク"の姿を表現するなんて野暮です。単純で分かりやすいものを好む、稚拙な人が好むものです(と、兼好法師などが言っています)。想像力を掻き立てる余地がありません。芽吹きや蕾を表現し、青々とした葉や咲き乱れる花々を想像させたり、虫に喰われた完璧ではない葉の姿を表現して、生き物の気配を感じさせたり。日本人が描く理想の美は、見る者の想像力がないと完成しません。 それにしても枯葉と木立に雪化粧と雪飛沫だなんて、玄人すぎます。ちょうど私の祖父や祖母が大正生まれですが、この時代はこのような着物を幼児に着せた人がいたのですね。女性は10代で結婚し、出産するのが普通だった時代ですから、選んだ親も10代だった可能性があります。祖父母の趣味だったとしても、30代くらいだった可能性があります。昔の日本人の精神性が伝わってくる作品です。 『綺麗』、『カッコいい』は大人が好む、大人のためのものです。実年齢は関係がなく、精神が大人であれば大丈夫です。昔の日本の子供たちは大人らしい『綺麗』、『カッコいい』に憧れ、早く立派な大人になりたいと勉学に励み、早々と立派な大人になっていたのでしょうね。 |
黒背景 | バックライト |
『ペルガモンの鳩』 シェルカメオ ブローチ イタリア? 1820〜1830年頃 SOLD |
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本来の美意識の高い日本人も、ヨーロッパの上流階級も、そのような人たちです。そのような人たちが好むのが、このような宝物です。制作できるのは、当時でも随一の才能を持つ職人だけです。 |
【参考】HERITAGEでは扱わないクラスのシェルカメオ・ブレスレット(19世紀初期) |
これは一応、かなり高級品として作られたものです。金細工部分の作りは悪くありませんが、シェルカメオの出来が酷いです。第一級の職人には頼めなかったのでしょう。 身分の高い人がオーダーしたものとみられ、鳩の雰囲気は"カワイイ"ではなく"美しい"系をオーダーしたと推測しますが、羽毛はボワボワで不潔な鳥に見えますし、鳥同士も仲が良さそうには全く見えず、各自がやりたいようにやっているだけのように感じられます。 『美しい』、『カッコいい』を目指すのは、実はとても難しいです。失敗すると怖い、汚い、変テコなどの作品になりがちです。 |
【参考】HERITAGEでは扱わないクラスのシェルカメオ(19世紀後期) |
ここまで酷いと誤魔化しようがありませんが、"カワイイ"系は、実は稚拙な作りを誤魔化しやすいメリットがあります。 |
【参考】"カワイイ"で誤魔化した稚拙な作品 | |
これくらいだと、「鳩さん、カワイイ〜♪」と喜んでお金を出してくれる人はいると思います。 しかしながら、間違いなく表現も彫りも稚拙です。左はラーメンの丼にたかる鳩たちに見えます。風のない水面に、こんな波が現れるのは変です。鳩のクチバシで波ができたとしても、この波形は変です。ラーメンの縮れ麺としか考えられません。 違和感を感じるかどうかは、個人差が大きいようです。このコメントは難癖を付けるために考えて考えて捻り出したものではなく、見て一瞬で感じたものです。買付けの判断が一瞬なのも、それと同じです。 私と同じように、見て一瞬で違和感を感じた方もいらっしゃるでしょう。一方で、よく見ても「何が悪いのか分からない。」という方もいらっしゃるはずです。 カワイイ系の場合、失敗しても怖い感じになりません。稚拙さが好まれるからこそ、作るのも簡単です。腕のない職人ほど、『綺麗』や『カッコいい』に挑戦して失敗するリスクをとるよりも、カワイイ系で誤魔化したいと思うのは無理からぬことです。 鳩の表情を見るだけでも、背景にある様々な思惑が分かるものです。本当に、表情や雰囲気は多様です。 |
1-2-2. とにかくカッコ良さが重要な『鷲』
『カッコいい鳩』というのはあまりないかもしれませんが、愛らしい鳩、美しい鳩というように、鳩はバリエーションがあります。 |
彫金を駆使したフクロウ | ||
神々しい系 | リアル系 | カワイイ系 |
『イタリア考古学風ジュエリー』 Castellani カステラーニ ブローチ イタリア 1860年頃 SOLD |
フクロウ シャープペンシル イギリス 1890年頃 SOLD |
『森の賢者』 S.モーダン社 フクロウ ホイッスル イギリス(ロンドン) 1903年 SOLD |
フクロウだと神々しい感じであったり、リアルな感じで美しくしたり、デフォルメしてポテっと可愛らしくしても、愛嬌があって魅力があります。 |
鷲はどうでしょうか。 鷲の場合、カワイイ系はハイジュエリーではまずあり得ないと思います。 綺麗系はいかがでしょうか。 どんな鳥も美しさがあります。 |
オジロワシ |
美しいですね。 ただ、鷲の場合は美しいだけでなく必ずカッコよさも感じるものであり、鷲を表現するにはカッコよさは不可欠です。 |
キツツキ科のコアカゲラ | 鳥の食性は様々です。 例えばこのキツツキ科のコアカゲラの場合、木をつついて昆虫や幼虫を食べたり、果物やどんぐり、種子などを食べます。 襲ってくるような怖い印象はなく、ほのぼのとした愛らしい感じですよね。 |
オジロワシ "Bielik1" ©Idalia Skalska(August 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 同じ"鳥"でも、鷲は動物食です。 魚類の他、鳥類や哺乳類などの恒温動物もターゲットです。 羊の幼獣や丹頂の雛も、襲って食べることがあるそうです。 |
オジロワシ "Havorn Oyhellesundet 1" ©Zorrolll(2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
鳥類の中でも大型である鷲が翼を広げ、大空を飛ぶ姿は優美です。その一方で、上空から獲物を狙う姿は怖くもあり、カッコよくもあります。 |
オジロワシの幼鳥 "Haliaeetus albicilla juv" ©Scops~commonswiki(24 June 2006)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 肉食ですからね〜。 嘴も肉を食べやすいよう、鋭く尖っています。 雛ですらカワイイと言うより、カッコよく凛々しい佇まいです。 他の鳥にはない、圧倒的なカッコよさが鷲の最大の魅力なのです!! |
2. いかにも王侯貴族の男性らしい『鷲』モチーフ
これはクラバットピンなので、上流階級の男性用のステータス・ジュエリーです。 カッコよさからすぐに男性をイメージできますが、『鷲』モチーフの魅力はカッコよさだけではありません。 教養を重視するヨーロッパ上流階級のアイテムですから、鷲にも意味があります。 鷲の場合、いくつか意味が存在します。 |
2-1. 『鷲』モチーフの様々な意味
2-1-1. 古代の最高神ゼウスを象徴する『鷲』
『セラピスと鷲』 古代ローマ インタリオ フォブシール インタリオ:古代ローマ 1世紀 金具:ヨーロッパ 18世紀 SOLD |
鷲は古代ギリシャの最高神ゼウスの化身、或いは使い鳥として有名です。 世界各地で見られる現象ですが、文化の融合と共に神々の習合が起こります。 ゼウスは下記の通りです。 集合により誕生した神は、元となる神の特徴が受け継がれる傾向があります。 左の古代ローマのインタリオでは、セラピス神と共に象徴となる鷲がデザインされています。 |
これは古代のインタリオを、フォブシールにした宝物です。18世紀のヨーロッパ貴族が特別にオーダーしたもので、いかにも教養を感じるデザインとなっています。 ギリシャ神話の最高神ゼウスは美しい白鳥に変身し、スパルタ王テュンダレオスの妻レダ誘惑したという『レダと白鳥』のエピソードは有名です。通常の白鳥ではないことを示すために、白鳥には歯があります。また、ゼウスの聖樹であるオークの葉もデザインされています。 "象徴"を使った表現技法は、教養や知性を好むヨーロッパ貴族が好むものと言えます。象徴について知らなければモチーフが何か推測・特定できませんし、意味を想像することも不可能です。文化の担い手として知的階層も兼ねた古のヨーロッパ貴族は、知的で高度なやりとりが楽しいと感じるような人々だったのでしょうね。 |
『ゼウス&ヘラ』 シェルカメオ ブローチ&ペンダント イギリス 1860年頃 ¥885,000-(税込10%) |
このシェルカメオだと、鷲は使い鳥として描かれていることが分かります。 ゼウスに並んで妻ヘラがおり、左下に伝令神エルメスを従えています。 |
『幻想のガニュメデス』 インタリオ ルース フランス 18世紀後期 SOLD |
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これはゼウスによるガニュメデス王子の誘拐を表現した作品です。ガニュメデスをさらう大鷲は化身したゼウスとされることもあれば、使い鳥とされることもあります。どちらなのか、はっきりしない場合も多いです。 |
『ヒービーと鷲』 イギリス 19世紀中後期 SOLD |
『ゼウスとヒービー(ヘベ)』 フランス 19世紀後期 SOLD |
ゼウスが誘拐したガニュメデス王子は給仕係とされました。王族クラスの側近や召使いは、平民ではなく上流階級出身です。神の召使いとして、人間の王族が選ばれたというわけですね。 この給仕係は、ガニュメデスの前は女神ヒービー(へべ)が務めていました。ゼウスとヘラの愛娘です。その関係性を考慮すると、この鷲たちは使い鳥かなと感じます。 |
好みの美男子ガニュメデス王子ならば化身したゼウスかなとも思いますが、愛らしいキューピッドの場合も本人ではなく、使い鳥である可能性が高いでしょうか。 |
このような威風堂々とした姿だと、化身したゼウス本人を表現したのかなと感じます。断定はできません。いずれにせよ、石の模様とのコラボレーションも見事で、最高神ゼウスらしい迫力ある作品に仕上がっています。 |
稚拙なものだと、一体何を表現しているのかよく分からないものも少なくありませんが、私たちがお取り扱いするクラスの最高級品であれば、モチーフや意図をしっかりと読み取ることができます。どこまで読み取れるかは、読み取る側の力量次第です。 最高神ゼウスに関連する鷲の場合、独特の神々しさや畏敬、古代ヨーロッパの教養に基づく知的な雰囲気があるように感じます。 |
2-1-2. 狩用の『鷲』
もう1つ、上流階級にとって大切な意味として、"狩りで使用する鷲"があります。 猛禽類を使った狩りと言うと、『鷹狩』という言葉がある通り、鷹の方がイメージが強いでしょうか。 |
鷹狩り用の鷹 "Red-taoled hawk, falconer's bird" ©Peter K Burian(18 May 2016, 18:59:35)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
鷹と鷲の違いがよく分からないという方も多いかもしれません。 分類的には、どちらも同じという理解でも構いません。双方ともタカ目タカ科に属します。比較的大きいものが鷲、小さめのものが鷹と呼ばれていますが、明確な区別はないそうです。なんとなくで鷲であったり、鷹と呼ばれているわけですね。 分かりにくいというより、区別する術はないというのが実際のところです。一応、種類によって『イヌワシ』、『ハクトウワシ』、『オオタカ』、『クマタカ』と名称があり、きちんと覚えていれば分類は可能です。 |
カンムリワシ "Spilornis cheela (Bandipur, 2008)" ©Yathin S Krishnappa(6 May 2008, 18:17:35)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
小さくても『カンムリワシ』と名の付く鳥もおり、具体的にどれくらいの大きさから鷲と言えるのかという基準もありません。 ややこしいですね。 |
鷹狩り用の鷲 | ちなみに、これは鷹狩用の鷲です。 人間と比較すると、かなり大型ですね。 鷹でも大変だと思いますが、ここまで大型だとかなり扱いづらそうに感じられます。 下手して襲われたら、人間なんて一溜まりもなさそうですね。 その分だけカッコいいですが・・。 |
鷹匠の手から飛び立つメンフクロウ "Tyto alba - Cetreria - 01" ©Carlos Delgado(18 October 2014, 12:32:00)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
『鷹狩』の"鷹"は、鷹という特定の鳥を指すものではありません。タカ科のイヌワシ、オオタカ、ハイタカや、ハヤブサ科のハヤブサ、フクロウ目などの猛禽類を調教し、山野に放って行う狩猟を『鷹狩』と言います。 フクロウを使っても鷹狩と呼び、調教する人も鷹匠と呼んでいます。これは英語圏も同様で、『Falcony』と『Falconer』と呼ばれます。 |
放鷹術実演(浜離宮庭園 2010年1月2日) "Hama-rikyu Garden3" ©江戸村のとくぞう(2 January 2010, 15:12:04)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
美しさと扱いやすさの兼ね合いから、鷹が最もメジャーとなったのかもしれませんね。 鷲狩なんて、殆ど聞いたことがありません。より迫力があり、カッコよくはありますが、やはり扱いは相当困難だったのだろうと想像します。 |
2-2. 『鷹狩』が示す莫大な財力
今回の宝物は、明らかに狩用の鷲(鷹)がモチーフです。鎖を使ったリアルな表現が素晴らしいですね♪ ところで『狩猟』と聞くと、どのようなものをイメージされますか? 獲物は多種多様ですし、使う道具も様々です。一人でやるのか、集団で追い込むか、犬などを使役するかも様々です。 |
2-2-1. 生きる糧を得るための狩猟
ヴェルサイユのディアナ(古代ローマ 1〜2世紀)古代ギリシャのレオカレスによる紀元前325年頃の女神アルテミスのブロンズ像の複製 "Diana of Versailles" ©Commonists(23 October 2019, 17:14:01)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
海の幸に恵まれ、主食として米に長年親しんできた日本人にとって、狩猟は身近ではありません。 しかしながらヨーロッパでは、生きる糧を得るための狩猟は大切でした。 古代ギリシャの女神アルテミス(古代ローマではディアナ)は月の女神として有名ですが、それ以外に狩猟の女神でもありました。 この大理石像は、古代ギリシャのレオカレスによって製作された紀元前325年頃のブロンズ像を元に古代ローマで制作されたものです。 女神アルテミスが、弓矢で狩りをする様子が表現されています。 狩猟を加護する女神を必要とするほど、生きる糧を得るための手段として、古代から『狩猟』が重要だったことが伺えますね。 |
狩りをするディアナのフレスコ画(古代ローマ 4世紀) |
狩猟の女神アルテミス(ディアナ)は人気が高く、信仰の対象として、制作された美術作品の数も多いです。 |
鹿狩の絵(スペイン 新石器時代:紀元前1万〜紀元前4,500(西ヨーロッパは紀元前2,200)年) | 弓矢は単純な道具なので、その起源は旧石器時代まで遡るとされます。 性能はさておき、そこらへんの道具で誰でも作ることができる、気軽で安価な狩猟具ですね。 私の場合は海釣りが好きですが、釣り道具がなかった際、落ちていた棒と釣り針を使い、裁縫用の糸で釣り竿を作ったことがあります。 一応、雑魚が釣れました(フグの子供)。 |
投棒(なげぼう) | |
上:投棒による狩猟(古代エジプト 紀元前15世紀) | 古代エジプトのファラオ・ツタンカーメンの墓にあった狩猟用のブーメラン "4 boomerangs du tombeau de Toutankhamon" ©Suaudeau(29 April 2019, 18:38:43)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
さらに単純な道具として、投棒を使った狩猟があります。原始時代以前から行われてきたと考えられています。パワーやコントロールの上手さが必要で、使い手自身の高度な能力が必要ですね。 私はこれを使って獲物を仕留められる気がしませんが、道具としては安価で単純と言えます。誰でもトライはできる、気軽な狩猟法と言えます。 |
2-2-2. 莫大な費用をかける狩猟
元々は生きる糧を得るための狩猟でした。しかしながら時代が下ると、王侯貴族のスポーツとしての狩猟も行われるようになっていきました。 |
磯釣り&アイナメの幼魚&唐揚げ(岡山県玉野市 2014年5月) | 確かに、野生の生き物と対峙するのは楽しいです。 自然環境を読んだり、獲物がどう動くかを予測したり、自分はどのような道具を使い、どのように動くのか、作戦も立てなくてはなりません。頭を使います。 得た獲物は美味しく戴くこともできます。 |
猪狩(14世紀) | 野生動物の場合、相手も命懸けです。 時にはハンターが獲物に殺されたり、深手を負うこともあります。 釣り竿を戦場で使うことはありませんが、棍棒や弓矢、槍や銃などは人間同士の戦場でも使います。 戦いの実践的な訓練としても役立つということで、必然の流れとしてスポーツ・ハンティングが発達していきました。 |
『森の中の狩り』(パオロ・ウッチェロ作 1475年頃) |
まあでも、そのような実践的な目的があったのは本当に古い時代の上流階級だけだったかもしれません。 時代が降ってもガチの狩猟を好む王侯貴族もいたでしょうけれど、次第に娯楽的な要素が強くなっていきました。たくさんのお供を連れ、面倒なことはせず、何不自由することもなく、安全で楽しい部分だけをやるのです。 |
狩猟の合間に食事を楽しむ貴族と従者(15世紀) フォア伯爵ガストン三世の狩猟書のフランス語版より |
休憩タイムもゴージャス化していきました。少なくとも中世の頃から、狩りの合間に優雅な食事を楽しむ"ピクニック"が行われていました。ピクニック文化の発祥は、実は王侯貴族の狩猟なのです。 心地良い自然の中での食事は、室内とは違った美味しさとワクワク感があります。でも、ここまで本格的だと、準備したり運んだりするのも大変です。生きるための糧を得るという目的との費用対効果を考えると、完全に贅沢な娯楽と化しています。 |
狩りの合間のピクニック(フランソワ・ルモワーヌ 1723年) | それに伴い、女性も付いて行ったりするようになりました。 何だか、ピクニックの方が目的になっている人もいそうですよね。 狩猟は男性的なイメージがありますが、ヨーロッパの上流階級の重要な社交の1つとして狩猟が発展したのは、このような背景があるからです。 |
上流階級の狩猟はとにかくお金をかけます。現代の庶民とは発想がまるで違います。そして、人によっては毎日狩猟に行くほどはまっていたそうです。 |
1792年8月10日の戦いを前にし、フランス元帥マイイを伴って整列するスイス衛兵隊の前を通り過ぎるフランス王ルイ16世 | その1人して、フランス王ルイ16世も有名です。 若い頃は細過ぎる体型をルイ15世から心配されたほどだったそうですが、元々身長が192cmもあり、大人になった頃にはガタイの良いヘラクレス体型の力持ちだったそうです。 狩猟の成果だったかもしれませんね。
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狩猟服姿のフランス王妃マリー・アントワネット | |
マリー・アントワネット(1755-1793年)1771年、16歳頃 | マリー・アントワネット(1755-1793年)1783年、28歳頃 |
ほぼ毎日ルイ16世が狩猟に出かけるため、慕っていた王妃マリー・アントワネットは、一緒にいるために付いて行ったりもしていたそうです。 それほど毎日狩猟に出かけて、普段の仕事は大丈夫なのかと思ったのですが、それは庶民の発想でした。 |
英国王室の狩猟場だった王立公園ハイドパーク(手前)とケンジントンガーデン "Aerial view of Hyde Park" ©Ben Leto, BaldBoris(6 August 2011, 14:58)/Adapted/CC BY 2.0 | イギリスの王侯貴族も狩猟にはまる人が多かったようですが、実はハイドパークも元々は狩猟のために造られたものです。 ロンドンは公園が豊かなことで知られていますが、8つの王立公園は元々、王室の狩猟場でした。それが一般公開されているというのが実情です。 ハイドパークはヘンリー8世が1536年にウェストミンスター寺院から土地を奪い、狩猟場にしたのが始まりです。 |
ロンドンの居城に住み、ロンドン内で狩猟するならば、確かに狩猟も仕事も同日にこなすことは可能ですね。狩猟のためにわざわざ遠くまで行くなんて、庶民の発想でした(笑) |
デヴォン伯爵のパウダーハム城 "Powderham Castle, 2009" ©raymond cocks(13 April 2009, 10:26)/Adapted/CC BY 2.0 |
パウダーハム城の鹿公園 "Deer park, Powderham Castle - geograph.org.uk - 1416619 " ©Roger Cornfoot(24 July 2009)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
イギリスのデヴォン伯爵のカントリーハウス、パウダーハム城も狩猟のための鹿公園が併設しています。 夜は獲物を皆で分かち合い、お城で豪華な社交をするのが王侯貴族のスタイルだったわけです。 本当にイギリス貴族は桁違いですね。 |
2-2-3. 莫大な費用がかかる鷹狩
さて、狩猟の中でも特にお金がかかるものの1つが鷹狩でした。 鷹狩りの起源ははっきり分からないほど古く、紀元前の時代から存在しました。ヨーロッパに伝来したのは5世紀頃で、9世紀に入る頃にはイギリスにまで定着しました。当初は食糧を得るための手段の1つでしたが、次第に娯楽やスポーツとして楽しまれるようになっていきました。 |
神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世(1194-1250年) | 中世の神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世は学芸を好む、極めて先進的かつ驚異的な才能を持つ君主でした。 当時も、後の歴史家からも評価が高い人物で、狩猟にも深い造詣を持っていました。 中東の鷹狩の解説書をラテン語に翻訳したり、研究書『De arte venandi cum avibus』も著しています。 上流階級の肖像画はステータスを象徴するものが一緒に描かれますが、鷹(鷲)が一緒に描かれているのが特徴的ですね。それほど皇帝フリードリヒ2世にとって、鷹狩が重要な要素だった証です。 |
神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の鷹狩りの研究書の一部(1240年代) |
『セント・オルバンズの書』(ジュリアナ・バーナーズ 1486年頃)イングランド王室の紋章のページ | 鷹狩は15〜16世紀頃に、貴族のスポーツとして人気がピークに達しました。 イギリスでは鷹狩は上流階級の特権として、規制の対象となったほどです。 1486年の『セント・オルバンズの書』に依れば、階級によっても所有できる鳥が違ったそうです。 皇帝は鷲、ハゲタカ、マーリン、王はシロハヤブサ、王子は雌のハヤブサ、公爵は雄のハヤブサ(※雌の方が体格が良く狩猟能力も高い)などです。 神聖ローマ帝国の場合は国家集合体として、トップに皇帝が君臨していました。王が君主の場合、王が鷲などを所有したようです。 |
君主の肖像画 | |
スコットランド王ジェームズ4世(1473-1513年) | イングランド王/スコットランド王 チャールズ2世(1630-1685年) |
イングランドと陸続きとなるスコットランドでも同様だったようで、同時代のスコットランド王ジェームズ4世の肖像画には、一緒に鷲らしき鳥が描かれています。鷹狩が、上流階級にとって最もメジャーな社交だったことが伺えますね。 少し後の時代になると、王権の象徴としてレガリアのオーブを持つ姿が、チャールズ2世の肖像画には描かれています。鷲はレガリアのオーブと同格と言えるほど、特別視されていたということです。 |
イギリス王室一のインテリとされるヘンリー8世 | |
イングランド王ヘンリー8世(1491-1547年) | ヘンリー8世の鷹狩用のグローブ&目隠し(16世紀)アシュモレアン美術館 ASHMOLEAN IMAGE LIBRARY HP / Glove (Henry VIII's hawking glove) ©Ashmolean Image Library 2022 |
イングランド王ヘンリー8世も鷹狩に興じていたようです。当時のグローブもいくつか残っています。 なぜそこまで鷹狩がステータスの象徴になったかと言えば、時間、お金、空間など、とにかく莫大な財力と権力を必要とする娯楽だったからです。特に鷲など猛禽類の飼育には、時間も労力も技術もかかります。 |
特に過酷だった冬にヴェルサイユの貧民にお金を施すフランス王ルイ16世(1788年) |
狩猟好きのフランス王ルイ16世は、狩猟日誌も熱心だったそうです。 革命当日は何も獲れなかったようで、狩猟日誌にいつものように「何もなし(Rien)。」と記載しました。この事実が部分的に切り取られ、無能な王の象徴として解釈されるよう、意図的に広められたのは気の毒な話です。それはさておき、狩猟に行っても必ず獲物が獲れるとは限りません。フル装備の王様であってもです。 獲れなくても満足できる人もいますが、その分だけ獲れた時の喜びが大きいからです。基本的には、良い獲物が獲れなくては面白くありません。 |
鷹匠(1542年頃) | そういうわけで、鷹匠はとても重要でした。獰猛な鳥を調教する、腕の良い鷹匠が必要です。 まず、優れた猛禽を手に入れなくてはなりません。 鷹匠は、狩りが成功すれば高く賞賛されました。王家のお抱え鷹匠ともなれば大いに尊敬され、王の側近のように扱われることもありました。男爵領を与えられる鷹匠もいたほどです。 |
ただ買って来れば良いだけであれば、本当に楽です。カネで解決というわけです。有り余るほどの財力を持つ王侯貴族であれば、カネで解決というのは楽勝なことです。 調教は手間も時間も技術も必要です。 |
鷹狩 "????? ?? ???? " ©HISHAM BINSUWAIF from Sharjah, UAE(13 January 2012, 20:05)/Adapted/CC BY-SA 2.0 | 苦手な方はすみません。 与えた餌を食べる分には良いですが、相手は本能のある生き物です。 ただ『鷲を飼育しているだけの人』になってしまいます。 そもそも言うことを聞いて、獲物を狙って飛び立たせるのも難しいことです。 野生から捕らえてきた場合、人間に慣れさせる所から始めなくてはなりません。 |
イヌワシの卵と雛 "Steinadler Baby vierzehn Tage alt 12052007 01 " ©Johann Jaritz(12 May 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
このイヌワシも、鷹狩に使用されることのある猛禽類です。鷹匠は、翼が完全に成長しきる前に巣から捕獲します。母鳥も雛を危険から守るため、巣は襲撃困難な場所に作るはずです。巣を探すのも、巣を襲撃するのも大変そうですね。捕獲時に怪我をさせては元も子もありませんから、これがベストな方法なのでしょう。 人馴れさせるため、鷹匠は鷲を連れて町にでかけていました。中世のイングランドでは、町を歩けば必ず鷹を連れて人を見かけることができたそうです。 |
『狐狩り』 イギリス 1850〜1860年頃 SOLD |
止まり木から右手に飛び移らせる初歩的な訓練の後、兎や狐の足や毛皮で実践的な訓練をしました。 狐自体がスポーツ・ハンティングの対象になることもありましたから、本当に手間や費用がかかりますね。 肉を見せて飛び移らせたり、ルアーを使って狐の毛皮を実際の狐に見立てて追わせたりしました。 このような地味で手間で危険なことを王侯貴族がやるわけはなく、本当に贅沢な娯楽だったと言えますね。 |
初代ブルゴーニュ公爵 | オスマン帝国第4代皇帝 |
フィリップ2世(1342-1404年) | バヤズィト1世(1360-1403年) |
鷹狩用の猛禽は、ゴールドより高額で取引されることもありました。 ブルゴーニュ公フィリップ2世が長男ジャン1世を囚われた際、オスマン帝国皇帝バヤズィト1世は身代金の金貨20万枚を断り、12頭のシロハヤブサを要求したそうです。 |
【価値】ブルゴーニュ公の後継 = シロハヤブサ 12頭 | ||||
第2代ブルゴーニュ公ジャン1世(1371-1419年) | ||||
ただの観賞用の鳥だと、「それだけで良いのですか?」と感じそうですが、それだけ狩猟用の猛禽類は捕獲や飼育、調教に莫大なお金や時間、労力がかかっていたということですね。 |
アイスランド・シロハヤブサ(1759年) | 鷹狩は騎乗して行っていたそうです。 馬にもお金がかかりますし、鷹狩用の様々な小物にもお金がかかったことでしょう。 しかしながらそれは、鷹狩ができる猛禽類を所有することに比べてあってないようなものです。 鷹狩という趣味自体が、極めて高いステータスの象徴だったのです。 |
2-2-4. 宝物が制作された時期の鷹狩
これは鷹狩を趣味とし、鷲(鷹)を所有していた、極めて高い身分と莫大な財力を持つ人物の持ち物だったはずです。 鷲を所有していないのにこれを身に付けるのは、馬主ではないのに馬主紀章を付けているくらい、違和感のあることだからです。 これを見ただけで、着用者が凄い人物であることは、当時の人々にとっては一目瞭然だったことでしょう。 |
様々な貴族の銃のコレクション(ウォレス・コレクション) |
18〜19世紀頃になると、銃火器を使った狩猟がメジャーとなり、鷹狩は下火となりました。 |
銃のコレクションの一部(ウォレス・コレクション) |
知的階層も兼ねる王侯貴族は、"新しいもの"が大好きです。銃を使用した狩猟が出てくれば、我先にと実践し、流行となったことでしょう。 鷹狩の方が楽しければ、取り敢えず試してみて満足し、鷹狩に戻ることもあったでしょう。ただ、何しろ鷹狩は信じられないほどお金がかかります。それに比べれば、いかに豪華な装飾をしようとも、銃を使った狩猟は安価で手軽です。 これにより、鷹狩は特に莫大な財力を持つ人だけができる、酔狂でマイナーな趣味へと化していきました。 |
その分、鷹狩が特殊なステータスを表すようになっていたことは言うに及ばないでしょう。 |
3. 手元で眺めて楽しむ最高に贅沢なアート
1890年頃という時代に『鷹狩』を趣味とした時点で、持ち主が強いこだわりのある人物であること、趣味の良さ、上流階級の中でも桁違いの財力が確定します。 そんな持ち主がステータス・ジュエリーとしてオーダーしたものですから、この宝物も眺めているだけで嬉しくなるほど凄いです!♪ 見所も満載です!! |
3-1. 360度の見事な立体造形
3-1-1. 360度の表現はクラバットピンの魅力の1つ♪
例外はあるものの、ブローチやペンダントは360度の立体造形ではデザインしません。 ジュエリーとしては、着用しにくくなってしまうからです。 |
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『ダイヤモンドのオウム』 イギリス 19世紀後期 SOLD |
イギリスのアルバート王配(1819-1861年)1848年、29歳頃 | クラバットピンはタイに刺して使います。 古くはクラバットやアスコットタイの装飾や、布の固定に使用されました。 |
ヨーク公ジョージ王子(エドワード7世の次男、後のイギリス国王ジョージ5世)(1865-1936年)1893年、28歳頃 | 19世紀初期に現れましたが、19世紀後期から20世紀初期にかけて特に流行したようです。 男性の高いステータスや財力の象徴だったようで、この時代の様々なポートレートで見ることができます。 当時を描いた映画を観ていると、きちんとファッションに関して時代考証してある作品だと、クラバットピンを使って着用者が特権階級であることを示したりしています。ぜひ注目してみてください♪ 当時の写真は解像度の問題もあり、小さなピンの細部に関してはあまり分からないことが殆どです。でも、当時は男性でもお花モチーフをセンス良く使いこなしていたようですね。 |
ジョージ王子のクラバットピン(1893年) | マットエナメル フラワー クラバットピン フランス 19世紀後期 SOLD |
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Genがルネサンスでご紹介した右の宝物はジョージ王子(後のイギリス王ジョージ5世)のものではありませんが、こんな感じのものだったと推測します。 |
合同結婚式でフロックコートの礼装姿の新郎たち(1904年) | これは結婚式の新郎新婦たちです。 さすが、新婦さんたちはとても華やかですね。 それに対して、男性はシンプルながらも上質な雰囲気の出で立ちです。 フロックコートに花飾り、タイにクラバットピンを着用しています。 フロックコートは男性用の日中の礼装です。 |
各種大臣を務めたジョゼフ・チェンバレン(1836-1914年)1905-1910年頃 | 前バージニア州知事ラルフ・ノーサム(1959年-)2018年、58歳頃 "Governor Ralph Northam Gives Inaugural Address (39348612584) (cropped) ©Craig from Richmond, Virginia, United States(13 January 2018, 13:36)/Adapted/CC BY-2.0 |
お花の飾りは生花の場合も、造花の場合もあるようです。日本人には馴染みがありませんが、20世紀初頭のファッションは、既に現代とあまり変わりありません。欧米では現代でも、政治家や上流階級の男性がお花でオシャレした姿を見ることができます。カジュアルな場ではなく、華やかさも必要とする正式な場で見られるようです。 ちなみにイギリスの政治家ジョゼフ・チェンバレンは、既に現代と同じタイプのネクタイを着用しています。その結び目にクラバットピンを刺しています。 |
合同結婚式でフロックコートの礼装姿のを着用した新郎たち(1904年) |
生花も造花も、どんなに高価なものでも、ジュエリーであるクラバットピンに比べばたかが知れています。 男性は着用アイテム数が少なく、クラバットピンは小さいとは言っても、首元に着用するので目が行きます。話す時、必ず視界に入ります。男性が最重要アイテムとして、クラバットピンにありったけのお金とセンスを込めるのはご想像に難くないと思います。 リングも男性にとってステータス・ジュエリーの1つではありますが、リングはデザインできる大きさや形に制約があり、教養やセンスなどを詰め込む自由度が低いです。 |
そういうわけで、このような宝物が制作されたわけです。 持ち主の特徴が最も現れるのがクラバットピンと言えます。 この見事な立体造形!!! 黄金の鷲は、持ち主が鷹狩を趣味とすることを象徴します。本当に鷹狩と鷲(鷹)が好きだからこその、圧巻の出来です!どの角度から見てもリアルです。これは実はとても難しいことです。 |
3-1-2. 特別な才能を持つ者だけができるリアルな立体表現
【引用】Brirish Museum © British Museum/Adapted | |
2次元表現である絵画の場合、1つの角度から見て完璧な形になっていればOKです。しかしながら立体で表現する場合、1つの角度からは完璧であっても、他の角度から見て見ると変ということは多々あります。 そもそも1つの角度からでも、リアリティーを感じられる完璧な表現として完成させることは非常に難しいです。先にもご紹介したこの鳩たちはベストな角度から撮影されているはずですが、顔は怖いですし、鳥ならではの軽やかさが感じられず、飛びそうに思えません。 |
『勿忘草をくわえる鳩』 鳩 ゴールド ブローチ イギリス 1830年〜1840年頃 SOLD |
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あらゆる角度から見て、優しく美しい表情。 |
埴輪『腰掛ける巫女』(群馬県大泉町古海・出土 3世紀後半〜6世紀後半) | 小学生時代に皆様が経験されたであろう粘土細工や、彫刻刀を使った木彫りなどをご想像いただければ分かりやすいと思います。 中には得意な方もいらっしゃったと思いますが、私は難しかった記憶があります。 特定の角度では上手く出来たように見えても、少し角度を変えると違和感があったりします。それを修正しようとすると、また別の角度がおかしくなったり・・。 粘土の場合は修正できますが、木彫りの場合は削っってしまった箇所を足すことができないので、どんどん小さくなったり、どうしようもなくなっていきます(笑) 人間の像も難しいですよね。関節の角度がおかしくなったり、頭や手足の比率が変になったり。 |
ボトル・ストッパー(14世紀) "Diosgyor - 2015.02.07(145)" ©Derzsi Elekes Andor(7 February 2015, 13:00:29)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
ボディを違和感ないフォルムで表現するのは極めて難しいですが、一般人にとっては顔だけでも上手に作るのは難しいです。 不可能と言っても良いかもしれません。 こんな顔の人間が本当にいたとは思えません(笑) ただ、得意な人はビックリするほど上手に再現しますよね。 脳内で3次元を認識・処理する特殊な才能と、それを手で精密に再現できる器用さという、複数の才能を併せ持つ人だけが可能です。 |
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564年) | ルネサンスの"万能人"ミケランジェロの代表作とされる作品として、彫刻(立体・3次元)の『ピエタ』や『ダヴィデ像』、フレスコ画(平面・2次元)の『最後の審判』や『アダムの創造』があります。 彫刻と絵画、双方で他者から高評価を得ていますが、本人は彫刻分野が本業と考えており、絵画作品は軽視していたそうです。 そりゃそうですよね。3次元を自在に操る能力を持つ人にとって、その1つの角度を切り取るだけで良い2次元のアートは「簡単すぎて話にもならん!」と感じるのは無理もないことです。 |
3-1-3. 最高に贅沢なプライベートの『立体芸術作品』
美しい立体表現は、そのような天賦の才を持つ特殊な職人兼アーティストによってのみ生み出せるものです。 そして、それが可能な人物は、それができることがいかに凄いことかを認識できるからこそプライドを持って仕事しますし、見る者にもプライドを感じることができる"誇りある作品"となるのです。 ただ、大きな彫刻作品と比較して、このような小さな宝物はより贅沢と言えるでしょう。 |
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本来の位置に設置されたレプリカの『ダヴィデ像』(オリジナルはミケランジェロ・ブオナローティ 1501-1504年) "Firenze.David01" ©Jojan(12 October 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
基本的に、大作は万人で広く楽しむものです。 有象無象に混じりたくない、その1人になりたくないという人もいるでしょう。余程の大金持ちならば、邸宅に設置して個人で楽しむという贅沢もするかもしれません。 ただ、その場合も全ての角度から自由に鑑賞するのは難しいです。 |
『ピエタ』(ミケランジェロ 1498-1500年)23-25歳頃の制作 "Michelangelo's Pietà, St Peter's Basilica (1498–99) " ©Juan M Romero(17 December 2012, 10:53:30/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
美術館などでも、展示方法によってはガラス越しであったり、特定の角度からしか見られないという状況だったりするでしょう。 大作は皆で分かち合うことが可能な一方で、余すことなく全てを十分に堪能できるかと言えば、それができなかったりします。それでも「タダで観られるならば良い。」、「安く見られるのであれば満足。」という人はいるでしょう。 と言うよりも、そういう人たちの方が世間では大半だと思います。 |
このような『小さな芸術』は、それでは満足できない特別な美意識と美的感覚を持ち、さらには十分な財力まで持つ人物がオーダーする、極めて特殊な宝物と言えます。 見せびらかせば、社交界で「おぉ〜!!」と賞賛されるクラスの美術品ではあります。でも、このような宝物は持ち主が手元で眺め、無上の悦びを感じるために作られるものだと思います。見せびらかすのではなく、独占して好きなだけ楽しめることが何よりも楽しいのです。HERITAGEのお客様ならばニヤリとしながら、分かっていただけることと思います♪♪ 着用していれば褒められるシーンは多いと思いますが、それは持ち主にとってオマケでしかありません。 |
小さなクラバットピンだからこそ、真上から眺めることもできます。獲物を狙う鷲の様子であったり、止まり木を掴む力強い足であったり。 これは見上げる大型彫刻ではできないことです。梯子を使ったり、建物の上から眺めたり、何らかの方法を使えば不可能ではありませんが、そんな面倒な方法は、好きな時に十分に楽しむということにはなりません。 |
下からでも、好きなだけ存分に楽しんでくださいという状態ですね♪ 真に芸術を愛する者にとって、これがどれだけ贅沢で楽しいことか・・!♪ だからこそ、とんでもないお金がかかったとしても、持ち主はその幸せのために喜んでお金を出したのです。 そもそも同時代にこの宝物を創れるだけの職人が存在し、しかもオーダーが可能なコネクションがなければ、この宝物を手に入れることはできません。 |
作者がこの世に生まれてきて感謝! 持ち主はそのような気持ちでオーダーしたでしょうし、作者もその心を受け取り、感謝の念を持ちながらプライドを持ってこの宝物を作ったことでしょう。 「ふふふ♪好きなだけご覧ください!♪」 正面からは見えない部分を下から覗き込んでも、隅々まで完璧に細工が施されています。一切の妥協がない作りです。オーダーした人物の情熱と信頼を理解していたからこそ、作者もここまでの仕事をしたのでしょう。「職人としての腕、アーティストとしてのセンス。こんなに信頼してくれるなんて、絶対に喜ばせたい!」、そのような気持ちが伝わってくる、見事な宝物です。 |
3-2. 彫金によるアーティスティックな質感表現
この宝物の彫金は神技と言える技術が駆使されていますが、それ以上に凄いと感激するのが、卓越したセンスを感じるアーティスティックな表現です。 この宝物を見て改めて感じるのが、生き物の表現ならではの難しさです。 技術的にただ上手というだけでは、生き物らしい生き生きとした表現には絶対にならないのです。 |
3-2-1. 彫金による質感のコントロール
3-2-1-1. ゴールドの単純なジュエリー
【参考】ティファニーの大衆をターゲットにした現代ジュエリー | |||
¥302,400-(2018.2現在)【引用】TIFFANY & CO / ©T&CO | 【引用】TIFFANY & CO / ©T&CO | 【引用】TIFFANY & CO / ©T&CO | ¥264,000-(2022.10現在)【引用】TIFFANY & CO / オープンハート ペンダント ©T&CO |
アンティークジュエリーを知らなかった頃、現代ジュエリーのせいで、私はゴールド・ジュエリーに成金的なイメージを感じていました。実際こういうものを好む人は、「これ、ゴールドなのよ!」、「これ、ティファニーなのよ!」と、私にとってはよく分からない理由で自慢する傾向にあります。 美しい、オシャレという要素は自慢になると思うのですが、ゴールドやティファニー製であることがどうして自慢になるのかが、私にはさっぱり分からないのです。 |
【参考】メイカーズ シグネット リング 18Kゴールド(ティファニー 2022年)¥731,500- 【引用】TIFFANY & CO / メイカーズ シグネット リング 18Kゴールド ©T&CO |
「ゴールドだから財産性もあるし、ジュエリーとして身につけることもできるから一石二鳥でしょう?しかもティファニー製よ、ドヤ!」とこれを自慢された場合、「オシャレさを考えるならば、アクセサリーでもっと気が利いたデザインがあるし、財産性を考えるならば通常のインゴット(鋳塊)の状態で買う方が適切では?」と思ってしまいます。 実際、財産としてのゴールドと見た場合、相当ぼったくられた金額になっているはずです。 計算されないようにするためか、グラム数の表示はありません。 |
重めのメンズリングだと10g程度でしょうか。その倍でも20g程度です。2022年10月24日時点で金価格は8,758 円/gです。20gだったとして、 財産性が目的だった場合、よく考えもせずに買って、後で気づいたらショックかもしれませんね。買取業者に持っていって、グラム数を測定して提示されるのはその価格です。差額はブランド代と、製造や流通などその他のコストになるわけですが、ちょっと高すぎる気がします。 それだけの技術費や作業費がかかってもおかしくない、気の利いたデザインと作りだったならば納得できますが、これは鋳造の量産品です。つまり鋳塊(インゴット)同然のジュエリーです。 |
【参考】中古市場で人気の高いカルティエの量産リング | |
【参考】ピンクトルマリン・リング(カルティエ 1999年) | 【参考】ピンクトルマリン・リング(カルティエ 2000年) |
ティファニーだけがダメなわけではなくて、現代の高級ブランドはどこも同じ状況です。 このデザインならば、敢えてブランド価格が乗った高いブランド品を買う意味があるのかと思っていました。こういうものを買う人は、デザインが好きだから買うわけではないようです。高級ブランドで買った(高級ブランド品である)、高かった、そういうことに満足するようです。 もっと安くてほぼ同じデザインのジュエリーなんていくらでもありますしね。それどころかアクセサリーでもこういうものはありますし、見た目の違いが分からないのでアクセサリーで十分という印象です。こんなものは高級品のデザインと作りではありません。当然ながら、高かったとしても高そうにも見えません。 |
3-2-1-2. 極めて表現の幅が広いゴールド
ゴールド・ジュエリー | |
アンティークの最高級品 | 現代の高級ブランドの量産ジュエリー |
『フランスとイスラム文化の融合』 シャンルベエナメル&ルビー フリンジ ブローチ フランス 1860年頃 SOLD |
【参考】ピンクトルマリン ゴールド・リング(カルティエ 1990年代) |
古の王侯貴族はそのようなことには全く満足しません。ブランドや価格のお墨付きが必要な人たちではないこともあります。むしろ、知名度のある王侯貴族の場合は、その人自身がブランドのような存在だったりしますしね。 そのような人たちがジュエリーを選ぶ基準は、いかに美しくセンス良く感じられるかです。 ゴールドであること、カルティエ製であることだけが自慢ポイントである現代ジュエリーのデザインと作りは簡素なものです。それ以外の要素に手を抜き過ぎと言いますか・・。鋳造による最も単純なデザインに、ただ刻印で18K(750)とカルティエ製であることを示すのみです。 左のアンティークの最高級品をご覧いただくと、ゴールド部分だけでも驚くほど表現に幅があることがお分かりいただけると思います。 |
20世紀初頭にジュエリーの一般市場に出てきたプラチナやホワイトゴールドと異なり、ゴールドは最高級金属として桁違いに長い歴史があります。技術を試行錯誤する時間がせいぜい30年程度しかなかったプラチナなどと比較して、ゴールドは千年単位もの試行錯誤の積み重ねがあります。 ゴールドが最高級金属だった時代、この宝物は様々な金細工技術を駆使して制作されています。とても美意識の高い作品なので、彫金も1種類ではなく、様々な模様を使い分けて質感に変化を出していることがお分かりいただけるでしょう。点を1点1点打っていく魚子打ちのような技法もあれば、エレガントな模様であったり、規則性のある模様によって質感を出したりもできます。 |
『豊穣のストライプ』 2カラーゴールド ロケットペンダント フランス 1880年頃 SOLD |
同じ種類の彫金技法であっても、彫金の間隔や幅、深さなどでも質感が変わります。 |
この宝物は、魚子打ちで表面の質感をコントロールしています。イエロー・ゴールド部分は少し粗めで、その結果、豊かな実りを印象付けるような、華やかな黄金の輝きが放たれます。 葡萄の葉を表現した、グリーン・ゴールド部分はより微細な魚子が打たれています。それによって、より葉っぱらしいマットな質感となっています。 |
カラーゴールドも面白い技術ですが、単純に色が違うだけでは、ここまで背景に対して葉が印象的に浮き上がって見えることはありません。 質感のコントロールは本当に重要です。 センスと技術次第で、いかようにもできるのです。 それにしても、この宝物は天然真珠とゴールドだけには見えませんね♪ |
3-2-1-3. 生き物の表現ならではの難しさ
この鷲は、19世紀後期の最高水準の彫金技術を駆使して作られています。 プラチナ以前、様々な美しい金細工ジュエリーが制作されてきました。 ただ、彫金に関しては生き物ならではの難しさがあります。 |
センスを感じるオシャレな彫金が魅力の宝物 | ||
『優雅な羽の小箱』 ロケット・ペンダント イギリス 1820年頃 SOLD |
『OPEN THE DOORS』 マルチロケット ペンダント イギリス 1862年頃 SOLD |
『真心』 ロケット・ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
例えば"美しいデザイン"と言った場合、その範囲はとても広いです。表現の幅は無限と言っても良いかもしれません。持ち主の好みで、いくらでも個性を反映させることが可能です。 |
実在の生き物の場合、それらしく見えなければ元も子もありません。 実際の鷲は柔らかな羽根で覆われていますが、ジュエリーは硬い金属で本物の羽根のような質感を表現しなくてはなりません。 これは本当に難しいことです。 |
【参考】現代人による心を込めた魚子打ち | これは現代人が趣味の一環でトライした魚子打ちです。人件費は考えずに作業できるので、時間を十分にかけて丁寧に施されたものと言えます。 それでも相当乱れがあり、不均一さを強く感じる仕上がりです。 |
規則正しく丁寧に模様を施すのは、地味ながらも極めて困難なことです。同じ作業を繰り返しし続けることができる正確性の高さ、器用さ、集中力、忍耐力が必要です。 |
私には絶対に無理です。当時としても、限られた職人だけができたことだと推測します。それ故に、このような美しい彫金細工の宝物は高級品でしか見ることはありませんし、そのような美意識の高い宝物では、必ず彫金が主役あるいは準主役級としてデザインされています。 当時の社交界では、ゴールドの美しい彫金を見ただけでそれが高級品であること、持ち主が美意識の高い人物であることが伝わったはずです。 |
そのように、精緻な彫金ができる職人自体がそうはいないのですが、このような生き物の表現をしようとする場合、精緻な作業ができる技術のみならず、アーティスティックな才能をも兼ね備える必要があります。 どう表現したら、より鷲らしい生き生きとした雰囲気になるのか・・。 指定された通りに単純作業を行うことだけが得意な職人には、この作品は絶対に創り出すことができません! |
3-2-2. センス抜群のアーティスティックな表現
3-2-2-1. 鷲の表現は難しいことが分かる参考品
卓越したセンスを持たなくては、素晴らしい鷲の作品にはなりません。 他のものを見ると、いかにそれが難しいことかがお分かりいただけると思います。 |
【参考】ゴールド・カラーの鋳造アクセサリー(現代) | これはゴールドですらない、ただ金色に仕上げただけの鋳造アクセサリーです。 最早、ご覧いただく必要すらなかったかもしれません。 形を使用する鋳造では、細い部分が再現できません。 いかにもヌルんとした仕上がりです。それが安っぽい印象にもつながっています。 |
【参考】ゴールド・カラーの鋳造アクセサリー(現代) |
これもアクセサリーですが、先のものよりはマシです。ただ、羽根の模様は浅くて適当な感じです。鷲の表情は全然良くないですし、それ以上に翼のおかしな角度が気になります。迫力を出そうとしたことは伝わってきますが、デザインした人のセンスが良くないのだと思います。 素人が作ったならば「上手ですね。」くらいはコメントできますが、プロの仕事としてこれにお金を出したいとは感じません。 |
【参考】18ctゴールド・ブローチ(サインド・ピース 1970年代) | これは18ctゴールドや宝石を使ったジュエリーで、一応サインドピースです。 年代としては中古です。エステート・ジュエリーと呼ばれる年代でもあります。 この年代はジュエリーの大衆化が進んでおり、価値があると言えるのか疑問ですが、2000年代に入って一層ジュエリーの作りが酷くなっているので、今ではこの程度のものですら作れなくなっているかもしれません。 |
【参考】18ctゴールド・ブローチ(サインドピース 1976年) |
なんだか飛べなさそう、硬そうなんて感じましたが、拡大すると実際にそのような作りです。 一応は作家物なので、細かい部分は手作業で行われています。しかし、アンティークの高級品のような繊細さがありません。ハンドメイドといえども一定数を売らなければビジネスとして成立せず、1点1点に十分な時間と手間がかけられないので、このような粗い彫金にならざるを得ないのでしょう。 ただ、それ以上に気になるのが、規則正しさだけを追い求めた作りです。芸術的な要素が全く感じられません。正確性だけを求めるならば、機械の方が上です。しかしながら、正確すぎる作りは工業製品には適していても、人の心を動かすような美しさは宿りません。正確を追い求め、それが上手ければ上手いほど、不自然さと違和感へとつながっていきます。作者はそれすらも分からぬまま、作家として活動していたということです。 これが生き物をモチーフにしているからこそ、余計に違和感を感じます。作者は芸術家という観点では天才ではなく、秀才系と言えます。ただの機械が作ったような作品は、見ていて全く面白くありません。そもそもの方向性が間違っていると、個人的には思います。 |
一瞬だけ、目の保養をしておきましょう。 あぁ、本当に素晴らしい!!!♪ 見たくないものに向き合った後の疲労が、癒されました。 |
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【参考】18ctゴールド・ブローチ(サインドピース 1970年代) |
これも現代ジュエリーに比べればマシですが、一応は手間をかけて作った作家物でもこの程度かとガッカリする仕上がりです。少し体が重そうなのと、ケバケバしく感じるイエロー・ゴールドの羽根の質感が気になります。 |
【参考】サインドピースの彫金(1970年代) |
これは刃物の先を、ただ規則的に押し当てただけの彫金です。磨いて滑らかに整えるなどの仕上げ加工は一切ないため、粗く感じる仕上がりです。ただ深く溝ができれば良いというような仕事なので、ゴールドの輝き方がケバケバしく、いまいち鳥の羽根らしく感じないのです。 「鷲なんて荒々しい感じなのだから良いのでは?」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ダメです。 |
ハクトウワシ | 参考ジュエリーはどちらもハクトウワシがモチーフです。 アメリカを象徴する鳥で、強く荒々しいイメージは確かにありますが、羽毛はこのように優しい質感です。 ケバケバしていると、どこかで喧嘩して負けた"見窄らしい姿"のようにすら感じます。 イメージだけで物事を判断する人ならば、ケバケバを荒々しくて素敵と思うことができるかもしれませんが、実際の鷲を知っており、しかも高価なジュエリーとしてオーダーするほど鷲を好いている人であれば、あのような不正確な表現は絶対に許容できないはずです! |
そうです。 眼光鋭い、力強い出立ちであっても、羽毛は柔らかで整った、エレガントな質感であるべきなのです! |
【参考】出来の悪いゴールド・ブローチ |
一応アンティークも見ておきましょう。これも頑張った感じは伝わってきます。HERITAGEでご紹介するクラスの宝物だと、完璧過ぎて人の手で作ったと感じにくい場合が多々ありますが、これはいかにもな手作り感があります。「ホッコリする(はぁと)」なんて理由で喜ぶ人もいるかもしれませんが、それが許せるのはこれが物凄〜く安かった場合のみでしょう。 ゴールドで、宝石も使ったジュエリーなので、一応は高級品として作られているはずです。造形が変なので鷲らしいカッコよさが感じられず、彫金も稚拙で酷い出来です。でも、カッコいい鷲を表現するのはとても難しいことなのです。それを感じていただけると思います。 |
【参考】いまいちなアールヌーヴォー・ブローチ(サインドピース 1890〜1900年頃) |
これはアールヌーヴォーの作家物で、そこそこの出来の高級品です。羽根にご注目いただくと、現代ジュエリーのように規則正しさのみを追求した彫金ではなく、実際の生き物の羽根らしく、少し乱れのあるデザインになっています。 規則正しく彫金するのは、上手い下手はあっても単純作業なので何も考えずにできます。しかしながら、このような乱れを意図してデザインする本当に難しいです。センスがなければ「美しい。」、「自然だ。」と感じられる雰囲気にはなりません。 そういうわけで、これはそこそこの出来だと思いますが、首の表現がガッカリです。ブローチなので突出し過ぎず、なるべく平面に近い感じで立体を収めようとしたことは伝わってきますが、迫力を出そうとした結果、首を変に長くし、曲げ過ぎて違和感があります。「蛇じゃないんだし・・。」と突っ込みたくなる造形です。 完璧なものを創造するのは、本当に難しいですね。 |
これはGenが選んだ宝物なので、さすが迫力があります。モチーフは白頭鷲です。アメリカの国鳥として、国章にも描かれるほどの鷲なので、鷲の中でも迫力や力強い雰囲気はピカイチです。 |
翼の羽根をご覧いただくと、雄大さと優美さを保ちながら、生き物らしい乱れが見事に表現されていることが分かります。先の参考品のように、作者がこの"乱れ"の必要性を理論としては理解していても、ここまで違和感なく雄大に表現するのは天才以外に不可能です。 顔まわりも完璧です。先程の、蛇のようになったおかしな鷲と違い、これはゴールドだけで表現しているにも関わらず、見事な彫金によってただの鷲ではなく『白頭鷲』と分かります。 |
アラスカの白頭鷲 "About to Launch (2075320352) ©Andy Morffew(15 March 2016, 18:31)/Adapted/CC BY 2.0 |
頭部から首元にかけては色だけでなく、羽毛の質感も違うんですよね。ただ忠実に再現した写実では、迫力ある芸術作品にはなりません。 |
それが絵画でできるのがロシアの天才芸術家イリヤ・レーピンですが、この宝物もただ忠実に再現するのではなく、作者の卓越したセンスによって、迫力ある雄大な作品として完成しています。羽根の表現、凄いですよね。どこにどう乱れを作るか。凡才どころか、秀才でも絶対に無理です! |
3-2-2-2. 最高難度の表現にチャレンジして成功した作品
私がこの宝物を好きな理由の1つが、最高難度の表現にチャレンジしていることです。 才能豊かなアーティストにとって、"迫力ある姿"など、分かりやすいシーンはある意味表現しやすいものです。 最も難しいと言えるのが、極端なポーズや動きがあるわけでもなくただ佇む様子を、印象的に表現することです。 分かりやすい特徴があれば、取り敢えずそれを強調していれば、作品としては成立します。 この作品のような、ただ佇む姿は一切の誤魔化しができません。よくやったものです!!♪ |
これは右方からのみ、ライトを当てています。 羽根の1枚1枚がデフォルメされ過ぎず、それでいて確実に立体的に造形されていることが陰影で分かります。 段差や角度など、全てが絶妙です! |
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尾羽をご覧ください。所々、深めに彫金しています。浅めの彫金も単純かつ規則的な直線にはなっておらず、作者のセンスによって絶妙なバランスで線が引かれています。彫金した後、きちんと仕上げされているため、滑らかで美しい仕上がりです。 |
そこまでして、ようやくこの独特の黄金の輝きと質感が生み出されているわけです。しかしながら、肉眼でここまで細部を認識するのは不可能です。拡大することで独特の質感に納得しつつ、こんな細工ができてしまうなんて、理解し難いほどの神技です! |
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翼の羽根も、等間隔で規則正しく彫金しているのではなく、僅かに乱れのある彫りになっています。絶妙なバランスが「お見事!!」としか言いようがありません! |
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部位ごとの立体感も見事ですし、部位ごとに彫金のパターンも巧みに使い分けられており、そのどれもが自然でリアルです!! |
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これは同じ画像に見えるかもしれませんが、僅かに角度を変え、さらに頭部にフォーカスした画像です。小さいのと、かなり立体的な作りなので、ここまで拡大すると全てに焦点が合わないのです。 |
『見返り美人図』のような、とても美しい角度ですよね。この通り、背中の中心線に対して、首の角度が右に曲がっています。首の付け根の表現がこれまた見事で、頭部の羽根がきちんと追従した形で表現されています。 頭周り全体の彫金による表現の見事さによって、まるで本物の鷲が眼光鋭く遠くの獲物を狙うような佇まいとして完成しているのです。彫金がなかった場合をご想像いただくと、頭部と体の向きの違いが、ここまではっきりとは伝わってこないことがお分かりいただけると思います。 |
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等間隔に規則正しくとはまるで異なる、天才だけができる見事な彫金です!!♪ こんなに美しい黄金の鷲だなんて、何と贅沢なことでしょう!!!♪ |
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これは体の正面です。羽根の段差、彫金のランダムな表現、全てが見事です。どの角度から見ても、全く隙が見当たりません。拡大画像に見惚れていると、実際の大きさを忘れてしまいそうです! |
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足元まで見事です。こんな小さな隙間にまで、一体どれくらい細かな道具で細工したのだろうと驚いてしまいます。現代の高性能のカメラでも、撮影の限界に近いです。つま先にかけても黄金ならではの輝きが美しい、迫力ある表現です。 |
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止まり木は、魚子打ちの技法で質感が作られています。ガッチリと掴んだ足からは、四つ足の動物すらも捕える鷲に相応しい力強さを感じます。 |
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重なった羽根の段差表現が見事です。 足はグルリと止まり木の外周を掴んでおり、だからこそガッチリと掴んでいると感じます。 |
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下から覗き込まないと、爪先が見えません。そして、影になって隠れてしまう、見えない部分にまで完璧な細工が施されていることに感動します!!♪ 止まり木の下部!尾羽の裏側! |
19世紀初期くらいまでならまだしも、19世紀後期という時代に、見えない部分にまでこれほど徹底した細工を施した宝物は、アンティークのハイジュエリーであっても稀に見るものです。この宝物がいかに特別な作品なのかが伝わってくる、素晴らしい作りです! |
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キリッとしたシャープな作りです。深い部分まで精緻な仕事がなされています。どういう道具で作ったのか、本当に不思議になるほどの作りです。 |
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羽根が重なった影の部分にまで彫金してあります。一切の妥協がない、作者のプライドと魂が伝わってくる見事な芸術作品です。いつまでも眺めていられますね♪ |
3-3. 眼光鋭い鷲の見事な表現
イーグル・アイ(鷲の眼) この言葉には特別な響きがあります。 |
3-3-1. 特別な意味がある『鷲の眼』
3-3-1-1. "様々な眼"と"異なる視点"
ビジネスマンが持つべき視点として、「虫(蟻)の目、鳥の目、魚の目」と言う言葉があります。 様々な視野を使い分け、多角的に物事を見ようという意味があります。 虫(蟻)の目:目の前のものを集中して見る目 しゃがんで視点を落としたり、顔を寄せたりして、虫の目に近づけることはできます。また、人間は泳ぐことができます。しかしながら、鳥のように自由に大空を飛ぶことだけはできません。 |
ブレリオXI クラバットピン フランス 1909年 SOLD |
大空を自由に飛ぶこと。 それは長い年月、人類の夢でした。 様々な道具や技術を駆使すれば、飛ぶことは可能です。 しかしながら今でも人類は、自分の力だけでは自由に飛ぶことはできません。『鳥の目』は別格なのです!! |
3-3-1-2. 上流階級にとって重要な『鳥の目』
「虫(蟻)の目、鳥の目、魚の目」のいずれもビジネスマンに大事であることには間違いありませんが、その中でもどのような立場にいるかによって、重要度は変わるものです。 ヨーロッパの上流階級は政治家や軍人、ビジネスマンなどとして活躍してきました。 鷲のクラバットピンが制作されたのは1890年頃のフランスです。 フランスは1870年に皇帝を廃位し、共和政に移行しました。1890年当時、貴族の末裔を標榜する上級国民的な存在はいたでしょうけれど、建前上も実質上も既に上流階級は存在しません。 |
第三代ソールズベリー侯爵ロバート・ガスコイン=セシル(1830-1903年) | 参考としてイギリスを見てみると、1890年は第三代ソールズベリー侯爵ロバート・ガスコイン=セシルを首相とする内閣によって政治が行われていました。 ソールズベリー侯爵は名門貴族です。 これは肖像画で、クラバットピンも描かれていますが、詳細は残念ながらよく分かりませんね。 |
ソールズベリー侯爵のカントリー・ハウス『ハットフィールド・ハウス』 "Hatfield House" ©Allan Engelhardt(1 January 2002, 00:00)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
高級なクラバットピンを着用するような人物は、このような邸宅に住んでいました。 これはソールズベリー侯爵のカントリー・ハウスである、『ハットフィールド・ハウス』です。中世のカントリー・ハウスで、15世紀末に高位聖職者の邸宅として建造されました。王室の宮殿の1つとして使用された歴史もある大邸宅です。 名門貴族家の邸宅として、多数の有力者が出入りする政界サロンとしても有名です。1903年には、当時日本の侯爵だった伊藤博文も外交目的で招かれたそうです。 この第三代ソールズベリー侯爵の内閣はもちろん、多くの上流階級が政治で重要な役割を担ってきました。 |
ロシア皇室ヨット『スタンダルト』上の イギリス王エドワード7世とロシア皇帝ニコライ2世(1908年) |
軍事面でも、上流階級は重要な地位を担ってきました。君主が軍の一番偉い人です。女王の時代が長く続き、なかなかイメージが湧きにくいですが、今は国王チャールズ3世がイギリス陸海空軍元帥です(2022年12月現在)。 王侯貴族が一兵卒になることはありません。通常は将校となります。 日本人の感覚だと、将校は安全地帯で偉そうに命令を出していれば良いだけのように思う方もいらっしゃるかもしれません。そういう将校もいたかもしれませんが、ヨーロッパは古代ギリシャのアレキサンダー大王が、王侯貴族の憧れにして手本とすべきスーパーヒーローとして存在しました。 |
『アレキサンダー大王』 古代ギリシャ アメジスト・インタリオ 古代ギリシャ(ヘレニズム) 紀元前2-紀元前1世紀 ¥4,400,000-(税込10%) |
最も危険な最前線に出て、率先して武功を上げるのが、皆の手本であるべき高貴な者の在るべき姿であり、男らしくカッコよく高貴な姿である。 そのせいで、第一次世界大戦でもイギリス貴族は指揮官たる将校として、率先して危険な最前線で戦ったそうで、戦死者の比率は庶民の兵士より遥かに高かったそうです。 当主どころか、次期当主の長男まで亡くなる家もあり、イギリス貴族は第一次世界大戦を契機に大きく力を落とすことにもなりました。 さて、個人的な武功はさておき、将校に最も必要なのは司令官としての才能です。 |
グラニコス川の戦いの布陣(紀元前334年5月) 赤:ペルシャ軍(弓騎兵)&ギリシャ人傭兵部隊(歩兵)、青:マケドニア軍 "Battle granicus" ©Frank Martini. Cartographer, Department of History, United States Military Academy/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
アレキサンダー大王は無敗のまま、世界征服を成し遂げました。それまでも、そしてこれからも、まず誰も成し得ないであろう大偉業です。それができたのは個として武力に秀でていたからではなく、トップに立つ司令官として、必要な能力全てが圧倒的に優れていたからです。 軍師としての能力も異次元で、その戦略や戦術は現代でも通用するほどです。2,300年以上も昔のアレキサンダー大王の戦術は、今でも世界中の陸軍士官学校で教えられているほど傑出していました。 物事を俯瞰して見る能力、関連する全ての動きを読み、迅速に動く能力。そのような力が必要です。 |
『ペルシャ侵攻 グラニコス川の戦い(紀元前334年5月)』 (フランス王ルイ14世の宮廷第一画家シャルル・ル・ブラン 1665年) |
簡単そうに思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、戦場を上から眺めるなんてことは不可能です。また、こちらも命懸け、相手も命懸けです。刻々と変化する戦場で、司令官として瞬時に適切な判断を下すというのは極めて難しいことです。 |
各戦場で司令官となる将校には、鷲の眼のような特別な眼が必要とされました。それが味方の生死を分けることにもなり、国で待つ大切な人々の命運をも握るのです。 |
オジロワシ "Havorn Oyhellesundet 1" ©Zorrolll (2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
鷹狩をしていたであろう、鷲のクラバットピンのオーダー主は、飼っていた鷲のこのような姿をきっと見ていたことでしょう。 |
オジロワシ |
大きな翼を広げて飛翔する姿は、実に雄大です。しかし、ただ雄大なだけではありません。大空から俯瞰しながら、視界の広大な範囲の中には、小さな点のようにしか見えないであろう獲物を常に探しています。 |
オジロワシ "オジロワシ" ©Engarutyou (20 February 2013, 20:37:23)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
体全体の大きさからすると、鷲の眼はとても小さいです。でも、その鋭い眼光には人を惹きつける強い魅力があります。 |
アラスカの白頭鷲 "About to Launch (2075320352) ©Andy Morffew(15 March 2016, 18:31)/Adapted/CC BY 2.0 |
飛んでいない時でも、常に眼力があります。 |
ハクトウワシ | 一体、何を見ているのでしょうか。 獲物を探しているのか、具体的な獲物を既に狙っているのか。 眼光の鋭さに、一度ロックオンされたら逃げられる感じがしません!
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この黄金の鷲も、何かを狙っているのでしょうか。 獲物を見つけて大空を飛翔する姿を、頭の中で想像するだけで楽しいです♪ なんと壮麗な姿でしょう!♪ オーダー主はその身分の高さ故に特別な役割があり、彼にとって鷲は美しいだけでなく、特別な意味があったに違いありません。 だからこそ、特別な作りなのです。 |
3-3-2. ローズカット・ダイヤモンドの閃光の瞳
生き物の表現に於いて、瞳は最重要と言えるほど、全体の雰囲気を大きく変える要素です。だからこそ、ハイジュエリーは考え抜かれてデザインされています。 「安く抑えたいから宝石は使わない。」という選択肢は、絶対にあり得ません。「この宝石の方が高級だから。」という選び方も、もちろんしません。「宝石が大きい方が高級だから、とにかく大きな石を使わなければ!」なんてこともありません。バランスがおかしくなりますからね。そんなことを平気するのは成金だけです(笑) |
3-3-2-1. 瞳の表現のバリエーション
例えば卓越した彫金のみで瞳を表現しきるのも、1つの方法です。 |
『Tweet Basket』 小鳥たちとバスケットのブローチ イギリス 1880年頃 SOLD |
『スパイダー』 オールドヨーロピアン・ダイヤモンド ペンダント オーストリア? 1900年頃 SOLD |
宝石を使う方法もあります。石の色だけでなく、どうカットするかでも雰囲気は変わります。 『Tweet Basket』のように、カボションカットだと愛らしい雰囲気が出せます。 『スパイダー』のように、ファセットカットだとファセットが煌めくことで、何かを狙っているような雰囲気を出すこともできます。 |
3-3-2-2. ローズカット・ダイヤモンドの魅力を発揮させた瞳
鷲のような鋭い眼光。 それを小さなジュエリーで表現しようと考えた時、やはり選択肢はローズカット・ダイヤモンドの一択になると思います。 『ダイヤモンド光沢(金剛光沢)』という言葉通り、磨き上げられた上質なダイヤモンドは、どの宝石よりも強い輝きを放ちます。 |
『妖精のささやき』 ダイヤモンド・ピアス イギリス 1880年頃 SOLD |
鷲のような鋭い眼光。 それを小さなジュエリーで表現しようと考えた時、やはり選択肢はローズカット・ダイヤモンドの一択になると思います。 『ダイヤモンド光沢(金剛光沢)』という言葉通り、磨き上げられた上質なダイヤモンドは、どの宝石よりも強い輝きを放ちます。 その輝きは圧倒的です。 |
ダイヤモンドだけが、肉眼では確認ができないような小さなサイズであっても、その一瞬の強烈な輝きによって強い存在感を放つことができます。 | ||
『Shining White』 エドワーディアン ダイヤモンド ネックレス イギリス or オーストリア 1910年頃 SOLD |
素材だけでなく、カットの選択も極めて大事です。 ステップカットやクッションシェイプなどの、四角形のカットは生き物の瞳として不適切なので、ここでは議論を割愛します。 円形の瞳として、オールドヨーロピアンカットとローズカットが候補になります。 『Shining White』が、この2種類のカットを巧みに使い分けた宝物になります。 オールドヨーロピアンカットは何と言っても、華やかさが魅力です。ダイナミックなシンチレーションが絶えず放たれる、ゴージャスな雰囲気が特徴のカットです。 一方でローズカットは透明感と、一瞬だけ放たれる鋭い輝きとの絶妙なバランスが魅力です。清楚さや、芯の強さが感じられるカットです。 |
"美しさ"を重視し、コストは二の次だった美意識の高い王侯貴族がハイジュエリーの主要顧客だったアンティークの時代は、いかに美しく魅せるかを念頭に置いてカットが選択されていました。だから数種類のカットが組み合わさっていることは普通ですし、意図して特定のカットだけが選ばれていることもあります。 成金は高そうに見えること、それでいて安いことしか重視しません。正直、美しさなんてどうでも良いようです。 正確には「どうでも良い。」というより、美的感覚がなくて、一体どういうものが"美しい"のか分からないというのが実際のようです。 だったらジュエリーなんて買わなければ良いと思うのですが、憧れはあるようです。ある意味、ちょっと気の毒な存在です。 そういう人たちは、"権威"や業界の人たちの言うがままです。 自分で判断基準を持たないため、偉そうな人が言っていることを間違いないことと判断し、言うがまま信用するしかないのです。 偉そうな人たちが絶対的な美的感覚を持つ上で、善意の人であったならば問題はありません。しかしながら、残念なことにそういうケースは絶望的に少ないです。そもそも絶対的な美的感覚を持つ人自体が極めて少数なのですが、自分を恥ずかしげもなく権威化する人や、業界人は基本的に金儲けしか考えていません。 |
マーセル・トルコフスキー(1899-1991年) | アイデアルカット |
彼らがとった戦略は、ブリリアンカット・ダイヤモンドを利用して儲けることです。具体的には、ブリリアンカットの権威化を行いました。 ・最高に美しく輝く、数学的な裏付けがある"理想のカット"であるとPR。 19世紀後期から20世紀初期にかけては科学の時代でした。現代では想像できないほど科学者の地位は高く、科学の功績によって爵位貴族になる人も複数いたほどでした。"科学者のお墨付き"は今でも高い信頼を得るかもしれませんが、今とは桁違いにその信頼度は高く、無条件に信じる人は多かったはずです。 私も理系研究者で、大学の研究室では最先端の研究を行っていました。研究テーマを設定する際、どのような条件を定義するのか、何をどう定義するのか、様々な"定義"について頭を悩ませます。研究経験がある方だと、私と同じように、「そもそも"最高に美しく輝く"って、どういう状態を言っているの?」と疑問を持つでしょう。 "美しい"自体が、具体的な定義が不可能なものです。それ故にトルコフスキー博士は「侵入した光が底面から漏れず、全て反射して返ってくる。」と定義しました。数学者らしい、数学的な計算が可能な定義です。但し、人間が見て、感覚的に美しいと感じるか否かの議論は行われていません。あくまでも数学的な研究のための定義です。 しかしながら業界の人たちは、博士としての名前と研究結果は大いに利用できると判断しました。私のように、「美しいの定義は?」なんて気にする人は少数派です。無視して良い数です。主要購買層は権威のお墨付きさえあれば、喜んで大金を出すと判断されました。 |
その結果、「とにかくブリリアンカットさえあれば正義!高級!」という意識が、一気に市場を独占しました。 成金嗜好の人々が主要購買層となった時代に、この戦略は見事なまでにマッチしました。 その結果がブリリアンカット・オンリーのジュエリーですが、大きさが違うだけでカットが同じだと、これほどまでにつまらない印象しかないのかとガッカリするほど、魅力のないジュエリーです。 それが現代まで引き継がれています。 |
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【参考】ダイヤモンド ブローチ(ブシュロン 1940年代) |
【参考】現代ブシュロンのブローチ ホワイトゴールド、ダイヤモンド、オニキス ¥9,306,000-(税込)2019.2現在 【引用】BOUCHERON HP / WOLF BROOCH |
飽きられた結果、ブリリアンカットだけでPRするのが難しくなったため、一応はステップカットなども使用していますが、基本的には大きさが異なるだけのブリリアンカットです。 規格の決まった既製のカット済みダイヤモンドを使う方が、安く済むからです。 デザインのために、わざわざ異なるサイズのローズカット・ダイヤモンドを小ロットで作るのはコストがかかり過ぎます。 930万円では済みません!そんな価格では、実はこの程度のものしか作れないのです。しかも唯一無二ではなく、大量生産によっての、抑えた価格です。 |
『夜のシダ』 夏用の紗の小紋(大正〜昭和初期) HERITAGE COLLECTION |
新品を買わせるために、アンティークのカットを貶める必要がありました。 実は日本の戦前のアンティーク着物でも、同じことが起きているのが興味深いです。 戦後、業界が業界にとって都合の良い、すなわち新品を買うしかないように仕向けるための新ルールを次々に設定し、何も知らない新規の購買層(主に庶民)押し付けました。 その結果、昔の優れたものが"忘れ去られた存在"へと化し、"知られざる良いもの"へとなっていきました。 |
現代ジュエリーを好む人はもちろんのこと、アンティークジュエリー・ディーラーすら、何故かこの戦後のルールでアンティークジュエリーを判断しようとする人が多いです。 「古いカットは輝きは弱いけれど、それが魅力です(←汚らしさ、稚拙な作りを正当化するため)。」 「ローズカットよりオールドヨーロピアンカットの方が高級です(←安物に関してはある程度正しい)。」 よく聞くセリフながらも、これはアンティークジュエリーをまるで理解していない人のセリフです。とは言え、安物には適応できる文言なので、安物を判断するには良いかもしれません。 |
このクラスの最高級品は、デザイン的に最適かどうかでダイヤモンドを選びます。 絶えずギラギラと輝き、強い存在感を放つオールドヨーロピアンカットではダメです。 スナイパーは、目立ってはいけません! 濁りなきクリアな眼を表現するのに、透明感が魅力のローズカット・ダイヤモンドは最適です。 |
そして、光の当たり方や角度によって、閃光やキラキラした眼差しを感じることができます。絶えず華やかな輝きを放つオールドヨーロピアンカットと異なり、驚くほど豊かに表情を変えるのがローズカット・ダイヤモンドの魅力です。 全てを見通すとも称されるイーグル・アイ(ホーク・アイ)。その鷲(鷹)の瞳を表現するのに、ローズカット・ダイヤモンド以上に相応しい宝石はないでしょう。 上の画像では、中央の画像は左右から、右の画像は左からのみライトを当てています。少ない光でも、角度によってはこれほど強烈に瞳が輝きます。 |
←↑等倍 |
角度は僅かしか変わらないのに、これだけ瞳の表情が異なります。扁平ではなく、かなり立体感のあるローズカット・ダイヤモンドを使っているからこそです。また、極小サイズでもこれほど強く輝くのは、表面を完璧に磨き上げているからこそです。 |
ダイヤモンドだからというだけでは、これほど強くは輝きません。粗い仕上げで表面が粗いと、鏡面反射は起きません。出来うる限りの、もっとも滑らかな表面に磨き上げられているからこそ、ここまで強い輝きとなるのです。 |
取るに足らない極小ダイヤモンドがオマケ程度にセットされているのではなく、主役の1つとして、この作品に相応しい最上質の特別なダイヤモンドがセットされているのです!! ところで、360度の作りなのでどの角度でご着用いただいても構わないのですが、皆様はどの角度をお選びになりますか? 実は、この角度が最も瞳は強く輝きます。 |
『白鷲(白鷹)と雀』塩瀬の京袋帯(大正〜昭和初期)HERITAGE COLLECTION | 戦前のアンティークの帯に、このような構図の帯があります。 完全一致というわけではありませんが、美しい尾羽が見える後ろからの角度、そして凛々しい横顔という構図が、人類の美意識に共通する"理想的な角度"のように感じます。 前からの表情も捨て難いですが、やはり美しい尾羽を主役にしたい気がします♪ |
『白鷲(白鷹)と雀』塩瀬の京袋帯(大正〜昭和初期)HERITAGE COLLECTION |
ちなみにちょっと分かりにくいかもしれませんが、鷲(鷹)の瞳には金糸が刺繍されています。この鷲の眼も、キラキラと輝くんです!!♪ 鷲の眼は輝きが重要ということを、美意識の高いヨーロッパの上流階級も、日本の上流階級も分かっていたんだなあと嬉しくなります♪羽毛も刺繍で柔らかさや光沢などの質感と、立体感を出しています。平面であることを強調されがちな着物ですが、高級品だと案外立体デザインまでしっかり計算されて作ってあるんですよね。 |
↑等倍 |
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まあでも、アンティークジュエリーの最高級品はやはり別格です。いずれは朽ち果てる儚き運命の着物と異なり、永遠の芸術作品として何世代にも渡り楽しんでもらうことを前提として制作されていますからね。かけたお金も労力も技術も上回ります。唯一無二性も、美術品としての価値も遥かに上です。 アンティーク着物の全盛期は大正から昭和初期、西暦で言うと1910〜1930年代です。明治期のものだと、今ではほぼ布(ハギレ)の状態でしか出てこないそうです。江戸のものだと稀少なので仰天価格で取引されるものの、とても着用して楽しめる状態にはありません。 この宝物はアンティークジュエリーとしては比較的新しい年代となりますが、1890年頃なので明治中期に相当します。それがまだまだ現役で楽しめますし、ゴールドもダイヤモンドも経年劣化はしませんから、これからもずっとずっと楽しむことができます。 アンティークジュエリーと着物、どちらも知る私がアンティークジュエリーを天職にしているのは、あらゆる意味で最も価値がある宝物と確信していることが大きな理由です。 いかがですか? 細工が良いものに使われている宝石は、作品に相応しいものが選ばれており、間違いなく上質です。細工を見れば、極上の宝石が使用されているのは明らかです。その一方で、この見事な鷲の瞳を見れば、細工の素晴らしさは説明するまでもなく、見て解ろうものとすら言えるものなのです。 |
着用イメージ
一般的なクラバットピンよりモチーフが大きく、存在感があります。 ブローチのような感覚でコーディネートしていただいても楽しそうです♪ ローズカット・ダイヤモンドの瞳が閃光を放つだけでなく、実際に着用するとチェーンがユラユラと魅力的に揺れます。 見るたびに表情を変化させる、これらのアイキャッチ効果は抜群で、存在感のあるジュエリーとしてお使いいただけるはずです。 |
ピンであることが分かりやすい着け方をすると、個性的でマニッシュな雰囲気が増します。 メンズ・ジュエリーだからこその徹底した作りの良さは、何にも代え難い魅力があります。 このような女性用のブローチは探してもありませんから、ブローチのようにしてお使いになれば、これほど楽しいジュエリーはないと思います♪ 18ctゴールドのピンキャッチをご希望の場合は、現代のものを別途ご用意いたします。価格は金相場によって変動いたしますので、お問合せくださいませ。 |
もともとは『クラバット』という、スカーフのような首元のタイのドレープを美しく固定するために生み出されたアイテムです。 このため、ドレープを固定するのは得意です。 これはショールですが、ドレープのある様々なお召し物で楽しんでいただけるはずです。 オシャレ上級者には、とっても楽しいアイテムだと思います♪ |
細工物のゴールドジュエリーの良さの1つが、様々なお召し物に品良く合わせやすいことです。 存在感があっても、決して悪目立ちすることがありません。 無地の衣服に主役としてお使いなっていただける一方で、柄物でも思いのほかマッチすると思います。 通常の小ぶりのクラバットピンだと、ここまでの存在感は出ません。 実は女性にとっても、非常に使い勝手の良い宝物なのです♪ |
余談1. 手元で眺める黄金芸術は最高の贅沢!
黄金の彫像(王侯貴族のオーダー品) | |
金メッキ | 金無垢 |
アルバート記念碑のアルバート黄金像(1872年) "Close-up of Albert Memorial" ©User:Geographer(10 November 2014)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
フランス 1890年頃 |
ヴィクトリア女王にとって、先立たれたアルバート王配は自慢の夫でした。素晴らしさを皆に分かって欲しいという願いを込め、黄金のアルバート像をオーダーしました。より多くの人に見てもらうためなので、巨大です。人々は見上げなければなりませんし、見られる角度も制限があります。近づいて細部の作りを見ることもできません。また、これほどの巨大像を金無垢で作るのは無理で、いかに大英帝国君主のオーダー品とは言っても金メッキ製です。 それと比べると、同じ360度の立体で制作された、この小さな鷲の像はいかがでしょうか?小さいからこそ金無垢です。手元で好きな角度でご覧いただけます。しかも皆で見るのではなく、たった一人でこの楽しみを独占できるのです!♪持ち歩いて、好きな場所で見ることもできます。なんて贅沢なことでしょう♪ しかも身を飾るジュエリーとしても楽しめます。 |
余談2. 自由に楽しんでいただきたいクラバットピン
フランスの画家ルイズ・アベマ(1853-1927年)1885年、32歳頃 | クラバットピンは元々は、男性のステータス・ジュエリーでした。 しかしながら1890年頃までには女性がスポーツ系の社交、例えば自転車やボート、乗馬、テニス、ゴルフなどのファッションでクラバットピンを着用したりするようになり、性別に関係なく着用されるようになっていきました。 アクセサリーレベルのものは別かもしれませんが、基本的にはクラバットピンを着用していたのは上流階級の女性のみと推測します。 |
クラバットピンを着用したこの女性は、フランスの画家です。1885年当時、既にフランスは共和政に移行しており、上流階級的な身分は存在しなくなっていました。しかしながら、共和政に移行したのは1870年です。 ルイズ・アベマが誕生した1853年当時は、皇帝ナポレオン三世による第二帝政が行われていました。帝政下、エミル=レオン・アベマ子爵の娘として誕生しています。アベマ子爵はパリ=オルレアン鉄道会社の社長であり、裕福な家庭で育ちました。その人脈もあり、ルイズ・アベマは社交界の人々を描く女流画家として、共和政に移行した後も活躍しています。 画家もピンキリで、食べていけないような貧乏画家もいれば、このような上流階級出身の人もいました。元々貴族のご令嬢だったからこそ、クラバットピンを身につけているわけですね。 |
『鷹狩』(フィリップス・ワウウェルマン 1660年頃) |
ちなみに、鷹狩は男性だけの社交ではありませんでした。1486年の『セント・オルバンズの書』では身分によって所有できる鳥、好ましいとされる鳥の種類が指定されていることはご紹介しましたが、実はこの書では貴婦人用の鳥も指定されています。 |
『鷹狩』(フィリップス・ワウウェルマン 1660年頃) |
拡大すると、白いドレスの貴婦人の左手にも、鷹狩用の鳥が留まっていることが分かります。ただ付いて行って黄色い声援を送るだけでなく、一緒に鷹狩を楽しんでいたことが想像できます。 趣味を一緒に楽しんでくれる女性を喜ぶ男性は、多いです。 |
庭園で語らうマクシミリアン大帝(1459-1519年)と妻マリー女公 |
マクシミリアン大帝の最愛の妻マリー女公もそのような女性でした。ハプスブルク家の隆盛の礎を築いたマクシミリアン大帝は体躯に恵まれ、武勇に秀で、芸術の保護者でもあったことから『中世最後の騎士』と謳われています。その妻マリー女公も絶世の美女としても知られるほどの美貌を持ちながら、この時代には珍しくスポーツ好きの活動的な女性だったそうです。狩猟や乗馬、スケートも好み、常に夫に同行して一緒に楽しんでいました。 自分に自信が持てないようなつまらない男性だと、才能溢れる妻に嫉妬したり嫌がったりするものですが、優れた男性はそんな妻を大切な宝物のように感じるものです。マクシミリアン大帝もマリー女公が大好きで、妻の自慢を故郷の学友に書き送ったりするほど心酔していました。互いに尊敬し合う、本当に素敵な夫婦だったでしょうね。 |
ブルゴーニュ女公マリー・ド・ブルゴーニュ(1457-1482年) | しかしながらマリー女公は第4子を懐妊中、夫の白鷺猟に同行し、落馬事故に遭いました。 重体となり流産し、マクシミリアン大帝が手を握ったまま25歳の若さで旅立ちました。 マクシミリアン大帝の悲しみは相当なものだったようです。 もちろん、アクティブな趣味を好んだり得意としたりする女性は割合としては少なかったはずですが、昔から存在し、優れた男性を強く魅了してきたことは間違いありません。 |
狩猟服姿のフランス王妃マリー・アントワネット | |
マリー・アントワネット(1755-1793年)1771年、16歳頃 | マリー・アントワネット(1755-1793年)1783年、28歳頃 |
フランス国王ルイ16世は、王妃マリー・アントワネット一筋だったことで知られています。妻が大好きな趣味を理解し、頑張って付いてきてくれたならば、それは「妻が大好き!」となるだろうと想像します。 新婚当初だけでなく、ずっと付いてきてくれたようですね。 |
20歳頃の王太子妃アレクサンドラとバスケットに入った2人の子供たち(1865-1867年) 【出典】Royal Collection Trust / Queen Alexandra when Princess of Wales (1844-1925) with two children in basket saddles © Her Majesty Queen Elizabeth II 2022 |
後にイギリス王妃となるアレクサンドラ・オブ・デンマークも、いかにもヨーロッパの王族らしい高貴な雰囲気とその美貌が評判でしたが、運動神経に優れたアクティブな女性としても知られていました。ダンスやスケートも得意で、特に馬術に関してはエキスパートとも言えるレベルだったそうです。障害レースに参加したり、2頭の馬による2輪馬車を操ったりもしました。 |
ダラムのウィンヤード・パーク(1880年頃) |
狩猟も大好きだったそうです。 ロンドンデリー侯爵のカントリーハウス『ウィンヤード・パーク』は王太子バーティ(後のイギリス王エドワード7世)とアレクサンドラ妃夫妻もお気に入りで、よく遊びに訪れて狩猟などの社交を楽しんでいたそうです。 |
ウィンザー城での女王夫妻と長女ヴィッキー(1840-1843年)ロイヤル・コレクション |
一方のヴィクトリア女王は狩猟が嫌いだったそうで、「女性が行くものではない。」とやめるように言っていたそうです。そんな姑の言うことは聞かず、アレクサンドラ妃は子供が生まれた後も狩猟に出かけていたそうです。本当に得意で好きだったのでしょうね。 ヴィクトリア女王はアクティブな印象がなく、そもそもアクティブなことが苦手だったこともあるかもしれません。『王子様の帰りをお淑やかにお城で待っているお姫様』というキャラクターが、ヴィクトリア女王には合っていたのかもしれません |
デンマークのヴァルデマー王子と姉のイギリス王太子妃アレクサンドラ(1874-1875年頃)29-30歳頃 | 日本の庶民にはどちらがモテるか分かりませんが、社交界では断然、アレクサンドラ妃のような女性がモテます。 アクティブで陽気な性格、しかも稀代の美貌を持つアレクサンドラ妃は『社交界の華』として大人気だったそうです。 狩猟に行く女性と聞くと、少し怖い印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、アレクサンドラ妃は非常に動物好きなことでも知られていました。 |
アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925年) | 犬もたくさん飼っており、散歩では10匹以上も連れていました。 犬はアレクサンドラ妃の命令に非常に従順だったそうです。 上手に躾する一方で、深い愛情も与えていました。 夜になると、夜食のサンドウィッチを運ばせて、こっそりとベッドの中で犬たちに食べさせたりしていたそうです。 |
狩猟服姿のフランス王妃マリー・アントワネット | |
マリー・アントワネット(1755-1793年)1771年、16歳頃 | マリー・アントワネット(1755-1793年)1783年、28歳頃 |
アクティブな趣味を楽しむ際には、それに相応しい格好をするものです。フランス王妃マリー・アントワネットは、男性用のファッションで狩猟に出かけることもあったようです。衣服の場合は、男性から借りるわけにはいきません。そもそもマリー・アントワネットの154cmの身長に対して、ルイ16世は192cmもあったそうですから、絶対に共用は無理ですね。 まあ、新しい流行や文化を生み出すのが王妃の重要な役割の1つでもあるので、当然ながら狩猟服も小物も、専用のオシャレなものを仕立てていたでしょう。ジュエリーも然りだと想像しますが、ジュエリーに関してはちょっと借りて、メンズライクにオシャレに着けるということがあってもおかしくないような気もします。 |
王太子妃アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1844-1925年) | 19世紀後期もそのようなことがあり、女性もクラバットピンを楽しむようになっていったのかなと想像します。 |
こんなカッコ良すぎるピンを、女性が着けられるかしらと思う方もいらっしゃるかもしれません。 |
お太鼓部分(後ろ) | 前幅部分(正面) |
『白鷲(白鷹)と雀』塩瀬の京袋帯(大正〜昭和初期)HERITAGE COLLECTION | |
でも、アンティークの時代の日本の上流階級にも、このような気高い白鷲の帯を好んで着ける女性は存在しました。 しかも前幅には可愛らしい雀が描かれています。 思わず「獲物だよね?白鷲さんに狙われているよね、雀さん。」なんて、笑っちゃいました。 |
『WILDLIFES』 アーツ&クラフツ×モダンスタイル ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
そしてさらに、この宝物を思い出しました。 親鳥から卵を奪う蛇というのは、自然界ではごく当たり前の景色です。 しかしながら、そのようなありのままの自然な営みを表現したジュエリーは稀です。 「こわ〜い!」、「かわいそう!」、「残酷!」とコメントする人もいそうですが、その口で鳥肉や卵製品を食べたりするような人は偽善です。本当に慈愛の心を持つとは思えません。 植物と違い、動物を捕食するのは残酷に見えることもありますが、捕食者もそれを食べなければ生きてはいけません。捕食者が絶滅すれば生態系は壊れ、結局は被捕食者も絶滅します。 |
このようなモチーフを好む人は男性でも女性でも、物事を表面的・近視眼的に見るのではなく鳥のように俯瞰し、各々の立場で慮ることができるように思います。 だからこそ全てを心から愛することができる、深く広い慈愛の心の持ち主だろうと想像します。 そのような心の持ち主であれば、女性であってもこの素晴らしい宝物は、心地よく調和すると信じています♪♪ |