No.00355 La Dame pourpre |
【引用】Dress © 2024 Maryland Center for History and Culture. All rights reserved. |
小さくても深い色彩を持つアメジストの一文字リング!♪ |
角度によって湧き上がる赤い色彩!♪ |
アーリー・ヴィクトリアンならではの見事な粒金装飾♪♪ |
『La Dame pourpre』 ありそうでない、アメジストの一文字リングです。リング用サイズでこれほど深い紫色を呈する石は珍しく、当時の最高級品としての作りは溜息が出るほど見事です。ブラジルからの供給でアメジストが暴落する以前、ルビーに並ぶ価値があった時代ならではの宝物です。 |
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この宝物のポイント
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1. アメジストが特別だった時代の宝物
1-1. ルビーに匹敵する高級宝石だったアメジスト
前回買付した際、Genと1歳しか違わないベテランのイギリス人ディーラーから、「日本人はあまりアメジストが好きじゃないのかな。」と言われて驚きました。 私自身はそんなことありませんし、お客様からもそのような印象を受けたことが一度もなかったからです。 |
【参考】現代の天然アメジストの装飾品 | ||
高級ブランド・ジュエリー | アクセサリー | |
ティファニー リング(¥363,000- 2021.7現在)【引用】TIFFANY & CO / パロマ スタジオ ヘキサゴン リング ©T&CO | ||
宝石やその価値の判定は、石の種類だけが基準ではありません。質が特に重要なのですが、ジュエリー文化がなかった日本人は、戦後に作られた宝飾業界にとって都合の良いルールで洗脳されている人が多いです。ダイヤモンドならば質を問わず宝石で高級と考えていたり、ただ大きければ良いと思い込んでいる人がいるほどです。 アメジストは今でも宝石扱いされます。今でも、1粒リングで36万円以上の値段が付くような宝石です。しかし、パワーストーンやアクセサリー市場であまりにもアメジストが多く出回っている結果、アメジストにアクセサリー用の安い石という印象がついてしまったようです。 |
【参考】現代のアメジスト製品 | |
詳細の記載なし | 合成アメジスト |
【参考】ティファニー リング(¥363,000- 2021.7現在) 【引用】TIFFANY & CO / パロマ スタジオ ヘキサゴン リング ©T&CO |
【参考】合成アメジスト・ルース(¥11,035- 2024.5.2現在)【引用】isiya / 合成アメジスト 44.14ct No90872宝石ルースいしや © 2019 ISIYA Co., Ltd. All rights reserved. |
ちなみに現代でも大きくて上質な天然アメジストは稀少なので、それなりの値段で出回っています。無駄が出ないよう、なるべく大きくカットされます。だから1つ1つ違った形と大きさ、価格で販売されるのが通常です。均質なものを大量に入手しようとした場合は合成アメジストが選択肢となりますが、アモルファスの溶融の色ガラスと違い、結晶を成長させるのに専用設備や時間が必要となるため、合成水晶でもそこまで安くはありません。 世界中でインターネットも駆使して量産の高価格ジュエリーを売りまくる高級ブランドのどれもが、宝石主体のジュエリーであっても、天然か処理石なのかなど説明すらしないのが当たり前になっているのが気になっています。天然石を使って同じ規格で制作しようとすると、大きな原石でも多めに削って無駄にする必要が出てきます。また、削った後に色味や透明感が同じレベルなのか品質検査も必要で、人件費的にもコスト高になります。品質管理や価格の面でも、合成宝石の方が利点があります。 色石はどんなに高く買っても買取してもらえないと言われる理由は、そこにあるのかもしれません。 |
低品質のアメジストを使ったアクセサリー | ||
いずれにせよ、人気がなければアクセサリーに使用されたり、わざわざ合成されることもありません。日本人は、アメジストの紫色自体は好きな人が多い証です。 |
アンティークのアメジストの宝物 | ||
『古の王妃』 アメジスト・インタリオ 古代ローマ 紀元前2〜紀元前1世紀頃 SOLD |
ジョージアン アメジスト ペンダント イギリス 1830年頃 SOLD |
『慈愛の心』 アメジスト ペンダント イギリス 1880〜1900年 SOLD |
Genも私もアメジストに偏見なくご紹介していますし、お客様も分かっていらっしゃる方、ご自身の感覚で選べる方ばかりです。それは過去の宝物が証明しています♪ イギリス人ディーラーにはそのことを説明し、HERITAGEのお客様を自慢して来ました。理解できる方に支持していただけるのは、誇らしいことですからね!♪ |
アメジストがハイジュエリー用の宝石になり得ることは、ご説明する必要もないと思います。 しかし、アメジストはアンティークの時代に価値が大きく変遷し、時代ごとの作行に大きな影響を与えています。どうしてこの宝物が生み出されたのか理解するために、その辺りをご説明しておきます。 |
1-1-1. 稀少性に比例する宝石の価値
物の値段は、需要と供給のバランスで決まります。稀少で供給量が少ないと、必然的に高価になります。どれだけ高品質で無欠でも、合成石のように無尽蔵に供給ができる場合には稀少価値は付きません。材料や製造、流通コストで適正価格が決まります。 |
1-1-1-1. 古代のアメジストの宝物
アメジストの結晶 "Amethyst. Magaliesburg, South Africa" ©JJ Harrison(18 July 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
『アレキサンダー大王』 アメジスト・インタリオ 古代ギリシャ 紀元前2〜紀元前1世紀頃 ¥4,400,000-(税込10%) |
『アポロに扮装した人物の肖像』 アメジスト・インタリオ アウグストゥス帝時代 紀元前27〜紀元後14年頃 SOLD |
『無限の飲酒を可能にする壷』 アメジスト・インタリオ 古代ローマ 1世紀頃 SOLD |
石自体が稀少ではない場合は、インクリュージョンが全くない部分だけを使おうとする傾向になります。しかし、古代はアメジスト自体が極めて稀少でした。だから均質ではないアメジストも使用されていますし、よほど高貴な身分の人のためにしか使用されなかった石です。 そうは言っても、それぞれのアメジストが描き出す自然の景色と、古代の職人の彫刻がコラボレーションすることで、雰囲気のある芸術作品として昇華しています。必ずしも、完全無欠の石が最高とは限らないのが面白いですね。アメジストの紫色は唯一無二です。古代から高貴な人々の心を魅了し、憧れの宝石として存在しました♪ |
1-1-1-2. 長く高貴な宝石だったアメジスト
アンシャンレジームを風刺した絵(1789年) | 近代は王侯貴族の方が目立ちますが、長年キリスト教に支配されていたヨーロッパは、聖職者こそが特に権力ある身分でした。 革命前のフランスも、第三身分者の市民や農民に対し、第一身分が聖職者、第二身分が貴族でした。 政教分離の方策が取られている現代の日本ではイメージしにくいですが、『司教君主』と呼ばれる、君主として国を統治した司教も存在しました。 |
枢機卿の宝石 "Cardinal Gems" ©Mario Sarto, Robert M. Lavinsky, Humanfeather, JJ Harrison, GeeJo(11 April 2010, 21:36)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
司教のリング(18世紀) |
キリスト教では伝統的に、司教クラスが身に着けるリングにはアメジストが選ばれていました。つまり一国の王を象徴するような高貴な宝石と見做されてきたわけです。画家が描く肖像画は、写真より遥かにお金も時間もかかりますから、高貴な身分の人がステータスを象徴する構図で制作されます。 18世紀の司教の肖像画に、アメジスト・リングがそれと分かるように描かれていることからも、宝石としての特別な立ち位置がご想像いただけるでしょう。18世紀までは、アメジストはダイヤモンドやルビー、サファイア、エメラルドと並ぶほど稀少で価値の高い宝石だったのです。 |
1-1-1-3. 19世紀に供給量が大きく変化したアメジスト
サイベリアン・アメジスト ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
ロシア産のサイベリアン・アメジストは、光の元で深紅色に見える傾向があり、その美しさが人々の心を捕らえてきました。 |
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今回の宝物も特に端の小さな石に、サイベリアン・アメジスト独特の深紅色を強く感じることができます。 このアメジストは小さい分、インクリュージョンが少ない部分を選べたようです。このため、他の石より深紅色が出やすいようです。 これは撮影用に強いライトを当ていますが、通常光だと他の石と均一の深紫色に見えます。撮影して初めて気づきました。 サイベリアン・アメジストは、真夜中に石の中から赤い炎が湧き上がるという伝説を持つ宝石です。このアメジストを見ると納得ですね♪ このような美しさもあって稀少価値の高い宝石として存在したアメジストでしたが、19世紀に鉱山発見が相次いだことで稀少性が低下していきました。 |
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19世紀初頭に南部リオグランデ・ド・スール州に広大な産地が発見され、その後も次々にブラジル各地で産地が発見されました。1830年代までには、ブラジルはアメジストの主要産地の1つとして知られるようになりました。 1840年にはウルグアイで、リオグランデ・ド・スル州と連続する同一の玄武岩溶岩地帯からもアメジスト鉱山が発見されました。 |
ブラジルのリオグランデ・ド・スル州のアメティスタ・ド・スル市 | ||
"Locator map of Ametista do Sul in Rio Grande do Suk" ©Raphael Lorenzeto de Abreu(6 December 2006)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | アメティスタ・ド・スル市の旗 | 市章 |
このようにしてブラジルやウルグアイから莫大なアメジストがもたらされるようになったことで、19世紀後半にはアメジストの価値が暴落しました。 リオグランデ・ド・スル州のアメティスタ・ド・スル市も、現代でも主要産地の1つです。アメジスト・カラーの市旗や、アメジストがデザインされた市章が印象的ですね。ブラックオパールのライトニングリッジのように、鉱山の発見によって街ができたのかもしれません。宝石パワーは凄いですね! |
現代のアメジスト産地(2013年) "Quartz gisements" ©Aurelienreys(5 December 2012, 15:16:14)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
現代では世界各地でアメジストが産出されますが、今でもブラジルが世界を圧倒しており、毎年数百トンものアメジストが産出され続けています。ブラジルに次ぐアメジスト産地のウルグアイでも、毎年80トン程度が産出されています。パワーストーンやアクセサリーでも身近なわけですね。 |
1-1-2. 宝石の稀少性とジュエリーの関係
宝石の稀少性は、ジュエリーのデザインに密接に関連します。アメジストの稀少性の変化が分かったところで、時代ごとのハイジュエリーの傾向を見てみましょう。 |
1-1-2-1. 稀少性がまだ高かった時期
英国王室所有のアメジスト・リング | |
【出典】Royal Collection Trust / Ring © His Majesty King Charles III 2024 | |
これは英国王室所有のスネーク・リングです。メインストーンがアメジストで、内部に編んだ髪の毛がセットされた、さすがの作りです。詳細は記載されていませんでしたが、ジョージアンからアーリー・ヴィクトリアン頃のものと推定できます。1840年にヴィクトリア女王が結婚した際の婚約指輪が蛇のデザインだったとされていますが、女王の誕生石のエメラルドがセットされ、瞳はルビーで口はダイヤモンドだったそうなので、別の王族のものだったようです。内部に髪の毛まで入っていて、凄いですね! |
19世紀前半の王侯貴族のアメジスト・リング | |
【出典】Royal Collection Trust / Ring © His Majesty King Charles III 2024 | |
少し後の時代と違って、アメジスト自体が稀少でした。英国王室所蔵品であっても、この程度のインクリュージョンは色彩が良ければ高品質と見做されていた証です。どちらも濃い紫色です。 |
サイベリアン・アメジスト ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
大きくて美しいアメジストも存在はしましたが、例えば左のアメジストをリング用サイズにカットすると、ここまでの濃い色彩にはなりません。 厚みによっても色彩が変化する、色石ならではの難しさです。 小さくても濃く発色できるアメジストは極めて貴重で、王族の結婚指輪のメインストーンに選ばれるほどの地位にあったという事実があるのです。 今回の宝物は僅かに後の年代のものですが、どれだけ高級品として作られたかご想像いただけると思います。 |
アメジスト リング フランス 19世紀初期 SOLD |
アメジスト & ガーネット リング イギリス 1840年頃 SOLD |
そこまで濃くない場合は、インクリュージョンのなさが求められたようです。小さければ、濃くてインクリュージョンの少ない石を手に入れることもできたのでしょう。産出量自体が少ないと、石を選べる幅も少ないです。その範囲内で、品質と価値が決まります。 |
1-1-2-2. 稀少性が低下した時代
稀少性がなくなってくると、ただ『アメジスト』というだけでは価値を持たなくなっていきます。これはダイヤモンドと同様です。 産出される総量自体は増えても、大きさと質を兼ね備えた石は稀少なので、相応の稀少価値が付きます。稀少性が低下した時代の王侯貴族のハイジュエリーには、大きさがある石ならではのデザインだったり、大胆にカットした贅沢なものが見られるようになります。そして、低品質のアメジストが庶民用に使用されるようになりました。 |
大きさがあるアメジストのハイ・ジュエリー
シャンルヴェエナメル&アメジスト&天然真珠 ペンダント イギリス 1870年頃 SOLD |
『アメジストの楽園』 ヘキサゴンカット・アメジスト ゴールド・ブレスレット イギリス 1880〜1890年頃 SOLD |
アメジストの原石は、ご覧になったことがある方も多いと思います。このようなクリーンで大きさのある結晶は、一体どれくらいの確率で得られるでしょうね。アメジスト自体が珍しいものではなくなっても、これだけの大きさある綺麗な石ならば、その美しさに誰もが魅了され憧れたことでしょう。特に3石もの天然アメジストをこのクオリティで揃えた『アメジストの楽園』は、この時代ならではの宝物と言えます。 |
贅沢にカットしたアメジストのジュエリー
『美しき魂の化身』 蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
『慈愛の心』 アメジスト ペンダント 英国 1880〜1900年 SOLD |
『慈愛の泪』 ブリオレットカット・アメジスト ネックレス アメリカ 1900年頃 SOLD |
『フェズを被った男』 アメジスト彫刻ピン イタリア? 1870年頃 SOLD |
稀少すぎて大胆なカットができなかった時代から、変化が訪れたのも19世紀後期頃です。 続々とアーティスティックなカットが施され、王侯貴族の美意識とセンスを競うように、個性豊かなアメジスト・ジュエリーが制作されました。
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低品質アメジストを使った庶民用の安物ジュエリー
1900年頃には、庶民用の安物ジュエリーにもアメジストが使用できるほどになりました。インリュージョンが多かったり、色が良くなかったりなど、上流階級のハイジュエリーには使用されない低品質の石ではあるものの、庶民にとってはただアメジストというだけで心踊る憧れの宝石でした。 |
1-1-2-3. 王侯貴族のステータスの象徴としてのアメジスト
歴史的にはこのような流れとなっています。 ところで、王族は憧れのファッションリーダーとして、身につけるものが注目されてきました。王族のアメジストの装いも少しご紹介しておきましょう。 |
スウェーデン王室のアメジスト・パリュール
スウェーデン王妃シルビア(1943年-)1983年、39歳 【出典】THE SWEDISH ROYAL FAMILY$S REGAL AMETHYST TIARA © 2024 THE COURT JEWELLER LLC / Roger Tllberg/Alamy |
スウェーデン王太子ヴィクトリア王女(1977年-)2002年、24歳 【出典】THE SWEDISH ROYAL FAMILY$S REGAL AMETHYST TIARA © 2024 THE COURT JEWELLER LLC / Sion Tojhig/Getty images |
スウェーデン王室は、『ナポレオンのアメジスト・パリュール』を所有しています。オリジナルは19世紀初期にフランス皇帝ナポレオンの妻、皇后ジョゼフィーヌのために作られたとされています。現代でもスウェーデン王室の女性がコーディネートした姿を見ることができます。 右のヴィクトリア王女は王太子なので、未来の女王です。アメジストはそのような人物が身につけるのに相応しい宝石であると、今でも認識されています。 |
英国王室のアメジスト・ジュエリー
王太子妃アレクサンドラ(1844-1925年)1889年、44歳頃 | カラーではないのが残念ですが、イギリス王太子妃アレクサンドラが写真で着用しているのはアメジストのティアラです。 アレクサンドラ妃はアメジスト好きだったそうです。ヨーロッパの王族らしい気品と美しさで知られており、紫色の宝石はいかにもお似合いになりそうです。 義兄であるロシア皇帝アレクサンドル3世から贈られたティアラで、子孫に引き継がれたものの、曾孫となる第3代ファイフ公爵が売却したそうです。 今時、主要王族でもなければ、ティアラなんて使い道がないですしね。無用の長物です。センス良く使うことができるジュエリーの方が、ある意味価値があるのです。 |
アメジストのティアラ 【引用】GEM VOYAGER ©Christies |
別のティアラですが、雰囲気としてはこのような感じだったかもしれません。アメジストはステータスを示す、富と権力と美しさの象徴として見なされていたことがはっきりと分かります。 |
英国王ジョージ5世妃メアリー(1867-1953年)のアメジスト・パリュール 【引用】Tiara Mania ©Tiara Mania |
アレクサンドラ王妃の義娘で、宝石好きで有名なメアリー王妃もアメジストのパリュールを所有していました。当時の大英帝国の威信を思えば、宝石としてのアメジストに安っぽいイメージなど皆無どころか、依然として富と権力の象徴たる宝石と見なされていたことは明らかです。 |
アメジスト・ジュエリーを着けたエリザベス女王(1926-2022年)【出典】TOWN&COUNRY© 2024 Hearst Magazine Media, Inc. / TIM GRAHAM/GETTY IMAGES | それは、上流階級にとっては現代も変わりません。 エリザベス女王も様々なシーンで、様々なアメジスト・ジュエリーを着用しています。 |
アメジスト・ジュエリーを着けたカミラ王妃(1947年-) 【出典】TOWN&COUNRY© 2024 Hearst Magazine Media, Inc. / TIM GRAHAM/GETTY IMAGES |
イギリスでも庶民だと宝石やジュエリーは良く分からない人は多いですが、カミラ王妃は上流階級の出自なので、アメジストにおかしな印象は持っていません。 ハート型アメジストのネックレスはエリザベス女王の母、クイーン・マザーへのウェディング・ギフトとして、1923年にアメジスト好きのアレクサンドラ妃が贈ったものです。 |
アメジスト・ジュエリーを着けたカミラ王妃(1947年-)【出典】THE COURT JEWELLER © 2024 THE COURT JEWELLER LLC/ KIRSTY WIGGLESWORTH/AFP via Getty Images | カミラ王妃のアメジスト・ネックレス 【出典】THE COURT JEWELLER © 2024 THE COURT JEWELLER LLC/ KIRSTY WIGGLESWORTH/AFP via Getty Images |
これはガラなど、複数のイベントで着用が目撃されているアメジスト・ネックレスです。 HERITAGEの宝物を見慣れていると、「あれ?」と感じた方もいらっしゃるでしょうか。そうでもない方が多いでしょうか(笑) |
HERITAGEがご紹介しているのは、間違いなく上流階級のために作られたアンティークジュエリーです。詳細はお話できませんが、仕入先のディーラーは普通に王族や貴族と取引があります。そのような人物だからこそ、普通の日本人ディーラーがアメジスト・ジュエリーを買わないことを不思議に感じたようです。アクセサリー用の安い石という印象を全く持っていないからです。 綺麗なアメジストの美しいジュエリーは、今でも王侯貴族が愛用する高級品というイメージしかないからこそ、紫色が好まれないのか、なぜなのかと理由がよく分からなかったようです。 私も驚きました。そして、全く分かっていない人たちがディーラーとして売っているのだと思うと、嫌だなぁとも感じました。美的感覚がない上に、この程度の勉強もしていないということです。安いアクセサリーならまだしも、買ってくださる方に失礼です。 ちなみに、参考までにどのようなシーンでアメジスト・ネックレスが使用されたのかご紹介しておきましょう。 |
アメジスト・ジュエリーを着けたカミラ王妃(1947年-)2008年、60歳 【出典】THE COURT JEWELLER © 2024 THE COURT JEWELLER LLC/ Chris Jackson/Getty Images | カミラ王妃のアメジスト・ネックレス 【出典】THE COURT JEWELLER © 2024 THE COURT JEWELLER LLC/ SHAUN CURRY/AFP via Getty Images |
これは2008年のロイヤル・フィルム・プレミアに出席した際の装いです。カクテルドレスの正装に合わせています。 "有名セレブ"も参加ということで、最正装のティアラや巨大な宝石がジャラジャラのコーディネートをイメージする人もいそうですが、この場だと適度に華やかさのある品の良いジュエリーが相応しいです。 |
セレブと上流階級は違います。成金セレブは代々伝わるジュエリーや、ステータスを象徴するためのビジネス用ジュエリーは持っていません。凄そうなものを着けている場合も、通常はレンタル品です。超高額ジュエリーをいくつも持つのは不可能です。1つくらいは頑張って買えるお金があっても、同じものを何度も着けていると雑誌などで非難されるのが現代の消費社会です。 たとえカミラ夫人がもっと派手なジュエリーを持っていても、このような場に、主役が恐縮してしまうようなジュエリーを着けていくのは人として美しくありません。 |
アメジスト・ジュエリーを着けたカミラ王妃(1947年-) 【出典】THE COURT JEWELLER © 2024 THE COURT JEWELLER LLC/ KIRSTY WIGGLESWORTH/AFP via Getty Images |
王族として地味すぎるのも貧相だったり、嫌味になるので、ピアスだけは目立たないながらも大きなアメジストですね。 ティアラや宝石ジャラジャラのジュエリーが必要になるのは、王族が国家的な式典に出席したり、各国の王族同士が集まる外交の特別な席だけです。 意味がないので、HERITAGEでは基本的にお取り扱いしません。買ってご着用いただいても、ほぼ場違いとなるからです。 HERITAGEの宝物は少しだけ華やかな場所はもちろん、自信を持ってパーティ等でもご着用いただければと思います♪ |
1-1-2-4. 稀少性に基づく価値の違い
さて、様々なアメジスト・ジュエリーをご紹介しました。時代が異なると、宝石の稀少価値が大きく変化していることがあります。時代背景を知らないまま、現代の基準で一方的に宝石の価値を判断するのは誤りなのです。 |
英国王室所有のリング | 庶民用の安物 |
イギリス 1840年頃 【出典】Royal Collection Trust / Ring © His Majesty King Charles III 2024 |
後期アーツ&クラフツ 1900年頃 |
宝石の正確な鑑定には、プロとしての知識と経験値が必要です。若きGenがアンティークジュエリーの仕事を始めたばかりの頃、宝石鑑定士に鑑定士レベルの知識を勉強すべきか相談したことがあります。 それまでは目利きに自信を持てる細工物をメインに選んでいましたが、このコメントをきっかけに、宝石を使ったジュエリーも自信を持って選べるようになったそうです。 ゴールドとシルバーの違い。デザインと細工の質。作りを見れば、左はかなりの高級品で、右は庶民用の安物だと容易に判断できます。アメジストだけ見て、現代の基準で測ろうとすると混乱するでしょう。 |
アンティークのアメジスト・ジュエリーはこのような意味でもとても面白いのですが、稀少性が高かったため、少し古い時代の上質なアメジスト・ジュエリーを手に入れる機会は限られるのです。 |
1-2. 濃く美しい紫色の一文字リング
アメジストの一文字リングは、ありそうでない宝物と言えるかもしれません。 |
1-2-1. 人気が高い一文字リング
宝石を一列に並べた一文字リングは定番人気があり、様々な宝石で作られています。 |
ルビー 一文字リング イギリス 1870年頃 SOLD |
『心の焔(ほむら)』 ルビー 一文字リング イギリス 19世紀後期 SOLD |
ADORE メッセージ・リング バーミンガム 1890年 SOLD |
同じ種類の宝石で揃えたり、宝石を組み合わせたり、メッセージを作るなど、目的や好みに合わせて多種多様です。天然石を使うからこそ、1つとして同じものがなく、個性があるのもアンティークジュエリーの魅力ですね♪ |
1-2-2. 天然宝石による単色カラーの一文字リング
同じ種類の宝石を使った上質な一文字リングは、市場でも滅多に見ることがありません。人気そうなのに何故なのかと言えば、それだけの宝石を揃えるのは現代人が想像する以上に困難だからです。 人工的に均質にできる合成石ならば容易ですが、一文字リングにできる大きさがあって、しかも色味が揃った天然石を揃えるのは並大抵のことではありません。だから滅多にご紹介できませんし、40年以上の年月をかけてこれだけの種類の逸品をご紹介できたのは自慢です!♪ |
オレンジ・ガーネット リング イギリス 1900年頃 SOLD |
コロンビア産エメラルド リング ヨーロッパ 1870年頃 SOLD |
一文字 天然真珠 リング イギリス 1880年頃 SOLD |
『目眩ましのダイヤモンド』 ダイヤモンド 一文字リング イギリス 1860年頃 SOLD |
サファイア 一文字リング イギリス 1870年頃 SOLD |
ペルジャン ターコイズ リング イギリス 1870年頃 SOLD |
今回の宝物 イギリス 1840〜1850年頃 |
オパール 一文字リング イギリス 1880年頃 SOLD |
ルビー 一文字リング イギリス 1870年頃 SOLD |
人間の眼は高性能です。色石にはダイヤモンドを組み合わせるなど、真横に並べなければ多少は誤魔化すことができても、このように隣同士で並べると、僅かな色味の違いでも気になってしまうほどシビアです。 このデザインの場合、全ての石にある程度の大きさが必要です。メインストーンになれる大きさの石を、質が揃った状態で複数あつめます。いかに贅沢なリングであるかが、ご想像いただけるでしょう。 |
アメジストの一文字リングのご紹介は初めてです。存在するとは思いませんでした! 他の宝石の一文字リングと比べて、少し時代が古いです。アメジストが特別視されていて、かつ一定数が手に入るようになった時期ならではの宝物と言えます。 |
アメジストの結晶 "Amethyst. Magaliesburg, South Africa" ©JJ Harrison(18 July 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
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左の結晶は現代の標本なので、それなりに質が良いものが選ばれています。それでも、均質で色の濃い部分はごく僅かです。天然石から濃く鮮やかな色彩を持つ均質なアメジストを手に入れることが、いかに困難なことかがご想像いただけるでしょう。 当時の王侯貴族にとって特別な宝石だったからこそ、ゴールドを贅沢に使った素晴らしい粒金細工で一文字リングに仕立てられているのです♪ |
2. 驚異的にこだわった粒金細工
この宝物は、粒金が主役と言っても過言ではないほど粒金細工も凄いです! |
2-1. 粒金が主役の1つであるデザインのリング
2-1-1. 時代ごとの個性がある一文字リングのデザイン
色石は質を揃えるのが特に難しいです。色味に加えて、色の濃さも天然石ならではの個性が出ます。 その点ではダイヤモンドの方が質を揃えやすく、古い一文字リングも存在します。 |
時代が異なるダイヤモンドの一文字リング
ステップカット イギリス 1830年頃 SOLD |
『目眩ましのダイヤモンド』 クッションシェイプ イギリス 1860年頃 SOLD |
ダイヤモンド 一文字リング イギリス 1890年頃 オールドヨーロピアンカット SOLD |
ダイヤモンドを一列に並べるだけと言っても、時代ごとにデザインが異なります。ダイヤモンドの場合はカットにも時代ごとの特徴が反映されるので、時代を推定することが可能です。 デザインが異なると言っても、左のジョージアン以外は正面からだと分かりにくいですね。中央の目眩ましのダイヤモンドのサイドには、当時の第一級の彫金でデザインが施されています。 |
優美さと威厳を感じる、深い彫りが見事です。 ヴィクトリアン中後期以降の一文字リングは、この派生系デザインが主です。 |
【参考】現代のダイヤモンドの一文字リング
現代のダイヤモンドの一文字リングは、芸術的要素ゼロですね。鋳造による量産の工業製品と化しており、本来はジュエリーと呼ぶべきではありません。こんなのに大金を出し、身につけて何が楽しいのか分かりません・・。 |
時代ごとの細工やデザインの個性
ステップカット イギリス 1830年頃 SOLD |
今回の宝物 イギリス 1840〜1850年頃 |
『目眩ましのダイヤモンド』 クッションシェイプ イギリス 1860年頃 SOLD |
一文字リングは、通常は宝石が主役なので、正面から見た時に他の要素が目立つことはありません。だから、今回の宝物の華やかな粒金デザインを見た時には驚きました! 上質なアメジストのパワフルな紫色に負けぬよう、イエロー・ゴールドも鮮やかに発色するよう調合されています。産業革命と植民地政策などの成功によって、イギリスが『パクス・ブリタニカ』と呼ばれる大英帝国の最盛期が1850〜1870年頃とされます。成熟期よりも、頂点に向かって勢いに乗っている時の方が、エネルギーがあるものです。まさに、そのような時代を感じる宝物です!♪ |
2-1-2. 粒金を主役にデザインする特異性
2-1-2-1. 名脇役が多い粒金細工
ピエトラドュラ ピアス イタリア 1830〜1840年 HERITAGEコレクション |
ピエトラドュラ バングル イタリア 1860年頃 HERITAGEコレクション |
粒金はアンティークのハイジュエリーではよく見られる、基本中の基本と言える細工です。私が最初に手に入れ、この世界にいざなわれるきっかけとなった宝物にももちろん施されています。 主役ではなく、名脇役としてデザインされることが殆どです。粒径の大きさが異なるだけで、雰囲気が驚くほど変化するのも特徴です。大きすぎると成金臭が強く出ますが、程よく大きさがあると、格調高い雰囲気になります。小さければ繊細な美しさが出てきます。 |
堕落したブランドの走りと言える有名ブランド・ジュエリー
ゴールド・ペンダント&ブローチ(カステラーニ 1870-1880年頃)ボストン美術館 【引用】Museum of Fine Arts Boston ©Museum of Fine Arts Boston/Adapted | ゴールド・ピアス(カステラーニ 1870-1880年頃)ボストン美術館 【引用】Museum of Fine Arts Boston ©Museum of Fine Arts Boston/Adapted |
【参考】エトラスカン・スタイル ゴールド・ブレスレット(ロバート・フィリップス 1870年頃) |
台頭した中産階級、すなわち新興成金がジュエリーを買い始めた19世紀後半は、知名度に胡座をかいて、楽して儲けに走る有名ブランドも出始めました。顧客層が上流階級のみだった時代は、そのような店は淘汰される運命にありましたが、成金の時代はむしろその方が儲けられる傾向にあったようです。 1870年頃でも、既にこのような成金ジュエリーは存在しました。素材は同じで、玉の大きさが違うだけなのに、これほどまでに受ける印象が変わってくるのが興味深いです。 |
知性と美意識を感じる王侯貴族のハイジュエリー
『古代アンフォラ』 ターコイズ&ゴールド ピアス イギリス 1860-1870年頃 SOLD |
『ルンペルシュティルツヒェン』 ゴールド・アート ブローチ イギリス 1870年頃 SOLD |
意識すると、想像以上にアンティークのハイジュエリーでは粒金が重視されていたことが分かります。お金と技術、センスが必要なので、もちろん美意識の高い作品だけです。HERITAGEでは、そのような特別な宝物だけを厳選して集めているので、様々な作品でご覧いただけるはずです。 『古代のアンフォラ』も、大小の粒金が至る所に配置されています。撚り線の先端にまで、小さな粒金がデザインされていることに心躍ります。高度な技術と、美意識の高さに惚れ惚れします♪ 超絶技巧の芸術『ルンペルシュティルツヒェン』は驚異的な撚り線細工や、魅力的に揺れる天然真珠などの華やかな部分に目が行きがちですが、意識すると相当な数の粒金を使っていることが分かります。 |
『エトルリアに想いを馳せて』 エトラスカン・スタイル ブレスレット イギリス 1870年頃 SOLD |
デザインの要と言えるくらい、多数の粒金を使っていても、なぜか粒金としては意識されなかったり、気づかれないのが名脇役たる所以でしょうか。 |
『エトルリアの知性』 エトラスカンスタイル アクアマリン ネックレス オーストリア? 1870年代 SOLD |
この宝物も相当な数の粒金を使っています。 一定のサイズがある黄金の粒の輝きは、繊細な輝きを放つ撚り線やミルグレインなどとはまた別の魅力があります。 格調高い雰囲気や、力強い神々しさは、粒金でなければ出せません!♪ 技術的には相当に高度な腕と、手間も必要とします。それだけお金もかかります。それでもなお、名脇役として美意識の高い王貴族に愛されてきたのは、それだけの価値、すなわち美しさがあるからです♪ |
2-1-2-2. 粒金を主役にした宝物
『バッカスのワイン樽』 リージェンシー ゴールドスライダー・ペンダント イギリス 摂政王太子時代(1811〜1820年) SOLD |
『古代の太陽』 エトラスカン・スタイル ブローチ イタリア(FASORI) 1850〜1870年代 SOLD |
これらはデザインが主役とも言えるのですが、粒金が主役と言うべき作品でもあります。どちらも神技の粒金細工が施してありますし、粒金による表現のバリエーションもあります。特に『古代の太陽』は古代エトルリアの粒金細工に触発されて制作された宝物なので、随一と言える粒金被覆など、粒金細工研究への並々ならぬプライドと情熱が伝わってきます。 このような宝物はいくつでもご紹介したいですが、アンティークのハイジュエリーでも滅多に見ることはありません。粒金を主役にすること自体が異例と言えますが、そうする人が存在するほど、粒金は強い魅力を持っているとも言えます。 |
この宝物のオーダー主も、粒金への並々ならぬ想い入れがあったことは間違いありません。 粒金は本当に強い魅力があるのです♪ |
2-1-3. リングに粒金を多用する特異性
【参考】粒金が一部脱落したジャンク | 粒金は接触面積が小さいため、他の細工より脱落しやすいです。 王侯貴族にとって資産としての側面も意識して作られていたアンティークジュエリーは、100年以上の使用に耐える耐久性も想定して制作されます。 |
粒金で装飾した宝物
『愛の錠前』 パドルロック ペンダント イギリス 1850年頃 SOLD |
『古代ギリシャへ想いを馳せて』 ペンダント & ブローチ イギリス 1890〜1900年頃 ¥1,700,000-(税込10%) |
『Étoiles brillante』 ベルエポック 天然真珠ピアス フランス 1900年頃 SOLD |
170年ほど経過しても脱落しない技術は驚異的ですが、なるべくリスクを回避できるよう、基本的には粒金は力が加わらないアイテムや位置にセットされます。 ふとした拍子にぶつけやすかったり、力が加わりやすいリングでは、粒金を施したものは殆どありません。 |
粒金で装飾したリング
天然真珠クラスター・リング イギリス 1860年頃 SOLD |
天然真珠&エメラルド・リング イギリス 1860年頃 SOLD |
『PERFECTION』 完璧なエメラルドのリング イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
粒金は非常に人を惹きつけるので、3点見つけることができました。いずれも特別な宝物です。 右の2つは名脇役としてデザインされており、あくまでも主役は宝石です。どちらも宝石が極上です。中央のリングのハーフパールの質の良さは一目瞭然ですが、エメラルドもこの大きさでこれだけ美しく鮮やかな発色ができるなんて驚きです。『PERFECTION』は異例と言える無欠のエメラルドで、脇石のダイヤモンドも見事な宝物です。 通常ならばあり得ない宝石を選ぶような持ち主だからこそ、粒金で装飾したのも納得です!♪ 左の宝物はとても面白いです。ショルダーの粒金が、明らかにハーフパールと同じサイズでデザインされています。明確な強いこだわりがなければ、リングに粒金は施されないのです。 |
2-2. 170年ほど経っても脱落しない粒金の秘密
今回の宝物 イギリス 1840〜1850年頃 |
天然真珠クラスター・リング イギリス 1860年頃 SOLD |
『PERFECTION』 完璧なエメラルドのリング イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
粒金は脱落しやすいため、100年以上も使用されたアンティークジュエリーでは、目立たない部分の多少の脱落は許容範囲です。 今回の宝物はリングであるにも関わらず、脱落しやすい、リスクのあるデザインで粒金が施されています。170年以上も未使用だったということはなく、石の摩耗からもきちんと使用されています。それにも関わらず、1粒も脱落していないことが不思議でした。これにはきちんと理由がありました。 |
2-2-1. 工夫を必要とするリングへの粒金細工
リングに粒金装飾を施すには、特別な工夫が必要です。それぞれ作者が違うので、工夫内容も異なります。技術に加えて、どれだけ頭を使っているのか感じていただこうと思います♪ |
事例 1
何かに引っかかって極端な力がかからぬよう、球体ではなく少し平坦な粒金になっています。また、通常の粒金は接着箇所が1点しかありませんが、このリングでは4点で蝋付する設計になっています。Y字の上下のフレームと、隣合う粒金で蝋付します。蝋付に使用している蝋材も、通常より多めです。 |
事例 2
この宝物は正面からは粒金に見えますが、実際は彫金による造形です。粒を蝋付しているのではなく、叩いて鍛えたゴールドを削り出しているので、脱落の心配がありません。キリッとした彫金が、当時の第一級の職人の技術を伝えてくれます。 それにしても、わざわざ彫金で粒金を表現してもらうなんて、持ち主は粒金細工の美しさがよほど好きだったのでしょうね♪ |
事例 3
この宝物は若干フラットな粒金を使い、上下のフレームと密集によって接地面積と接点数を稼いでいます。そうは言っても、先の2つの宝物と比較して、かなりチャレンジングな印象です。大きい粒金に加えて、微小な粒金まで使っています! |
サイズ変更の跡があるものの、後ろ側まで粒金で埋め尽くしています。デザインと作りからして、粒金に強いこだわりを持つオーダー主と、これができる職人がいたということが分かります。2つとない、驚きの宝物です!♪ |
2-2-2. 出っ張った粒金装飾の秘密
等間隔にサイズ感のある粒金を並べると、格調高い高級感が出せます。時折、見ることのできる細工ですが、力が加わらない箇所にデザインされるのが通常です。 今回の宝物はこの雰囲気を出したかったと考えられますが、170年ほど経過しているリングなのに1粒も脱落していないのが不思議なのです。 |
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かなり飛び出た形状です。数も多いです。 |
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拡大してみると、球形ではなく独特の形状をしているものもあります。 |
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裏側を拡大して見て、驚きました。蝋付ではなく、土台はつながっていました。叩いて鍛えた鍛造のリングの土台を丹念に削りだして、この形状にしていたのです。だから多少の力が加わっても、びくともしなかったわけです! |
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粒金状の細工を全てを削り出しで作っているのかと言えば、そうでもありません。それぞれ、形状に個性があります。 |
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様々な角度から見た結果、削り出した土台の上に粒金を蝋付したようです。接合部分は弱くなりがちなため、たっぷりのゴールドに入念に火を入れて、完全に融合させています。 |
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粒金ならではの立体感と、170年以上の使用でもビクともしない耐久性を実現させたのは、驚きのアイデアとそれを実現させた神技です!♪ |
粒金装飾に対して、アメジストはかなり高さを出してセッティングされています。同じ高さだと、主張が激しすぎてガチャガチャして見えたはずです。 構造デザインした、作者のセンスの良さが分かります♪ |
2-3. 見えない箇所までデザインされた粒金
この宝物は、正面からは見えない後ろ側の方までサイズ・グラデーションの粒金が施されています。 並のこだわりではありません! |
粒金装飾が全周でないのは、サイズ変更も考慮してのことでしょう。170年ほども経過しているため、最低でも1度はサイズ変更をした痕跡があります。愛用されたこと、そしてアンティークジュエリーの証の1つでもあります。サイズ変更後も溝が彫ってあり、見えない部分にまで美意識を行き渡らせることのできる持ち主に、代々大切にされてきたことが分かります。 |
サイドの粒金装飾は正面からは見えませんが、流れるように美しいです。正面も横側も、粒金装飾で埋め尽くされています♪ |
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サイドの粒金は大きなものは丸みを帯びており、後部に向けて小さくなるほど扁平に作ってあります。リングとして使用する際の耐久性や、着け心地などを考慮してのことでしょう。 |
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この宝物も上下のフレームと、連結する粒金同士を蝋付することで接着面積と数を稼いでいます。しっかり蝋材を使用し、現代までコンディションを保っています。当時の第一級の職人の技術に惚れ惚れします♪ |
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一番大きな粒金は、アメジストの覆輪の端にもピッタリと蝋付されています。他の粒金も精緻に蝋付されています。拡大しても誤魔化しがないことが分かる、素晴らしい仕事です!♪ |
3. 細部までの徹底した作り
3-1. こだわり抜いたY字ショルダーのデザイン
3-1-1. 技法が異なるY字の作り
『PERFECTION』 完璧なエメラルドのリング イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
『Full Bloom』 ルビー&ダイヤモンド フラワー・リング イギリス(バーミンガム) 1907年 SOLD |
どちらもショルダーがY字デザインですが、技法が異なります。 |
蝋付 | 削り出し |
左の宝物は、2本の黄金線を蝋付してY字を作っています。シャンクの全周に蝋付の跡を確認することができます。精度よく接合すること、リングとして100年以上の使用に耐えられる耐久性という観点から、相当腕に自信のある職人でなければできない技術です。このような作りのリングは、滅多に出逢う機会がありません。 |
3-1-2. 4本の黄金線を蝋付したシャンク
サイズ変更によって一部の痕跡が失われていますが、このリングは上下2本ずつ、計4本の黄金線を蝋付してY字状のシャンクが作られています。 |
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Y字の取ってに注目すると、外側は滑らかですが、内側は横線で模様が彫金されています。 |
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横線が施された内側の黄金線の方が太さがあり、その中央に外周のシンプルな黄金線が正確に蝋付されています。 |
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彫金模様はリングの裏側からもみることができます。磨き上げられた黄金の粒状の輝きは、驚くと共に感激するほど美しいです♪ |
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これくらい拡大しても、目を凝らさないと分からないような細工です。作者は特に蝋付について、神技を誇っていたのでしょう。何となく良いものを作るということではなく、この宝物に持てる技術の全てを込めたかのようです。 |
時代が違えば、コンテスト・ジュエリーと判断できるレベルの宝物です。 ここまでやって、理解してもらえるというオーダー主への信頼あってこその作りです。持ち主も本当に素晴らしい女性だったのでしょうね♪ |
3-2. 宝石の稀少価値が分かるセッティング
3-2-1. 爪の数の多さ
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このアメジストは大きい石は8つ、脇石でも6つの爪で留めてあります。 |
爪の違いから分かる宝石の価値と美意識の高さ | |
エメラルド・リング(ティファニー 現代)合成や処理については記載なし 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Ring ©T&CO |
『エメラルドの深淵』 珠玉のエメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
現代ジュエリーは、特に色石は買取に持っていっても値段を付けてもらえないと言われています。ブランド品の場合はブランド価格が付くかもしれませんが、宝石自体の価値は怪しいものです。現代の宝石は処理石や合成石が殆どで、市場関係者でも正確な把握は困難とされているほどです。宝石の種類によっては9割以上、ほぼ全てが処理石と見られているのが現状です。技術も日進月歩なので、価値の有無の100%正確な見極めは不可能です。敢えてリスクを取りたくないというのも、買取業者の本音でしょう。 そのような専門知識がなくても、作りで価値を推測できます。現代ジュエリーの大きめの宝石は、4つの無骨な爪で留めるのが一番多いです。落としてもいくらでも替えがきく程度の価値しかなく、爪が目立っても気にしないという作りです。 『エメラルドの深淵』のエメラルドはアンティークジュエリーでも類を見ないほど上質なので、10つもの爪でセッティングされています。1つ1つの爪は小さいので、意識の中に感じ取れないほど存在感がありません。絶対に落とさないための10点留めであり、爪ではなく宝石にだけ意識が向くための美意識の高さが感じ取れます。 |
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アメジストのために多くの爪を使い、その爪は滑らかに磨き上げられ、強い黄金光沢を放ちます。このような細部からも高級感が伝わってきます。 |
3-2-2. 古い時代の特殊な覆輪留め
爪の数の多さもあって、一見すると通常の爪留だけのセッティングに見えますが、実は覆輪留めと組み合わせた留め方です。通常はどちらかですし、6〜8つずつも爪があったので、爪留だけだと思っていました。気づいた時は驚きました!このアメジストに、とてつもない価値があった証です。 |
19世紀前半の王侯貴族のアメジスト・リング | |
【出典】Royal Collection Trust / Ring © His Majesty King Charles III 2024 | |
英国王室所蔵のアメジスト・リングは覆輪留めです。今回のリングも覆輪留めだけで十分に固定できたはずですが、この爪によってアメジストの高級感を高めたり、粒金装飾との調和の意図もあったのかもしれません。小さくても発色の良いアメジストが、この時代にいかに貴重で高価だったかを感じさせてくれます♪♪ |
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覆輪は、ギザギザ形状を滑らかに磨いて整えられています。ここからも、黄金の美しい輝きが感じられます。実物で見ると繊細な輝きです。 |
一般的な覆輪留め | |
『芸術には自由を』 -DER KUNST IHRE FREIHEIT- セセッション カボション・サファイア&ダイヤモンド ブローチ オーストリア(ウィーン) 1900年頃 ¥770,000-(税込10%) |
『ゴールド・オーガンジー』 ペリドット&ホワイト・エナメル ネックレス イギリス 1900年頃 ¥1,000,000-(税込10%) |
ハイジュエリーでよく見る覆輪留めは、シンプルな覆輪であったり、ミルグレインを施したものです。 |
『愛のメロディ』 ジョージアン 竪琴 ブローチ イギリス 1826年 SOLD |
今回の宝物のような覆輪は、少し古い時代の宝物で見るデザインです。 ギザギザの全てが、爪という風にも言えます。 |
『セント・ジョージ男爵から娘ルイーザへのクリスマスプレゼント』 ピンクトパーズ ゴールド ブレスレット イギリス 1829年 SOLD |
上のライアの宝物は1826年、このブレスレットは1829年に制作された宝物です。 上質なピンクトパーズはもちろん、鮮やかな色彩のエメラルドや、8つのハーフパールも極上品です。 |
故に、脇石のエメラルドやハーフパールもギザギザの覆輪留めで完璧に固定されています。特にメインストーンのピンクトパーズは今回のアメジストと同様に、爪留めと併用しています。絶対に落としてはならない、唯一無二の稀少価値を象徴した留め方なのです。 |
全ての宝石が極上の、このジョージアンのフラワー・ブローチも覆輪と爪を組み合わせたセッティングです。 |
このジョージアンの宝物も同様です。 高級宝石を使用した、ジョージアン・ジュエリーの定番の留め方とも言えるのです。 |
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この宝物は使用してるゴールドの分量から、ジョージアンまでは古くありませんが、ゴールドラッシュで金価格が暴落する以前、ジョージアンの高度な金細工技術が残っていた時代に制作されたものと推測します。 |
期間的には短いため、ゴールドを贅沢に使いながら、ジョージアン・レベルの金細工が施されている宝物はジョージアン・ジュエリー以上に数が少ないです。 だから滅多にご紹介できる機会がありません。 |
3-2-3. 爪のための彫金
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それぞれの爪は、彫金によって、高さのある覆輪から持ち上げられているような表現になっています。 |
『ミラー・ダイヤモンド』 |
ゴールドだと全く別物に見えますが、シルバーを使ったダイヤモンドの古いセッティングでは定番です。 『ミラー・ダイヤモンド』は上質なダイヤモンド・ジュエリーの中でも特に光り輝くので、ちょっと分かりにくいでしょうか・・(笑) |
1.5ctのオールドヨーロピアンカット ・ダイヤモンド リング イギリス 1870-1880年頃 SOLD |
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こちらだと分かりやすいでしょうか。 シルバーだと、摩耗して無垢の色が出る出っ張った部分と、経年による黒ずみによる陰影がつくので、視認しやすいです。 |
変色しないゴールドだと、同じ表現でも印象が全く違いますね。古い時代ならではの細工が楽しめる上に、この宝物ならではの特徴も多く詰まっている、見どころ満載の一文字リングです♪ |
着用イメージ
大きさのあるアメジストの一文字リングです。紫色のラインは想像以上に美しく、思わずハッとします。 あらゆる角度から、アンティークジュエリーならではの金細工を眺めて堪能できるのも良いですね♪ |