No.00348 ウロボロス

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

 

尾を飲む蛇『ウロボロス』
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
知的でスタイリッシュなジョージアンの宝物!!♪

 

 

ジョージアンのウロボロスの尾の彫金
ジョージアンの第一級の彫金で表現された躍動感!!♪

 

ジョージアンの極上クッションシェイプ・ダイヤモンド

透明度 / ダイナミックなシンチレーション / カラフルなファイア

ポテンシャルが最大限に発揮されたダイヤモンドの魅力!!♪

 

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

ジョージアンの極上クッションシェイプ・ダイヤモンド

 

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

『ウロボロス』
ジョージアン クッションシェイプ・ダイヤモンド ウロボロス・リング

イギリス 19世紀初期
クッションシェイプ・ダイヤモンド、18ctゴールド、シルバー
サイズ:17号
重量:1.9g
SOLD

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

 ヨーロッパ知的階級のメジャーかつ普遍のモチーフである、尾を飲む蛇『ウロボロス』を表現したリングです。約200年も前とは思えぬほど、モダンなデザインに魅了されます。それを実現しているのが極上のクッションシェイプ・ダイヤモンドと、ジョージアンの第一級の職人の技術です。
 ダイヤモンドはオープン・セッティングなので、煌めきやファイアに加えて抜群の透明感が際立っています。視覚デザイン設計も素晴らしく、蛇の立体感や躍動感が上手く表現されています。一見シンプルですが、高度な彫金技術や鍛造、造形技術があってこそです。

 現存するジョージアン・ジュエリー自体が貴重で、市場には滅多に出てきませんが、これだけコンディションが良いリングというのもかなり幸運です。ステータス・アイテム色の強いリングは宝石主体が多く、これだけデザインにも魅力があるリングはそもそも制作数自体が少ないです。ジョージアン・ジュエリーが欲しかった方、デザインの良いリングが欲しかった方、古い時代のダイヤモンドが欲しかった方、全ての方に自信をもってお勧めできる宝物です♪♪

 

 

この宝物のポイント

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
  1. ジョージアンの知的な蛇モチーフ
    1. 普遍の人気を誇る蛇モチーフ
    2. ヴィクトリアンに大流行した蛇リングとの違い
    3. ウロボロスに秘められた持ち主の知性
  2. 極上のダイヤモンドの瑞々しい煌めき
    1. 稀少価値の高い極上のダイヤモンド
    2. 古い時代のカットならではの魅力
    3. オープンセッティングだからこそのクリアな美しさ
  3. 時代を超越した傑出したデザイン
    1. 技術と手間あってこそのシンプルイズベスト
    2. ジョージアンらしい細部の作り込み
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

 

 

1. ジョージアンの知的な蛇モチーフ

ジョージアン・ジュエリーは稀少です。特に、上質な宝石を使ったジュエリーはデザインが古くなると、リメイクされるのが常でした。合成石や人工処理石などの稀少価値のない石が『宝石』と呼ばれる現代ではイメージしにくいですが、本来は稀少価値がある美しい石だけが宝石としてハイジュエリーに使用され、財産性を持ちました。

古い時代のジュエリーほど稀少になるのは、単純に制作数が少ないからだけではありません。時代に合った新しいデザインのジュエリーを制作するために、宝石を取り外してリメイクされたからです。

ジョージアンの細工物のハイジュエリー
グランドツアー由来のイギリス貴族のロッククリスタルのアルプス山脈フォブシール『アルプスの溶けない氷』
アルプス産ロッククリスタル 回転式3面フォブシール
イギリス 18世紀後半
¥1,400,000-(税込10%)
リージェンシー フォーカラー・ゴールド 回転式フォブシール アンティークジュエリー『大切な想い人』
フォーカラー・ゴールド 回転式フォブシール
イギリス 1811〜1820年頃(リージェンシー)
¥1,200,000-(税込10%)

その点で、取り外してリメイクできる宝石が付いていない、"細工物のジュエリー"の方が後世まで残りやすいメリットがありました。ジョージアンも細工物ジュエリーばかりだったわけではなく、華やかな場所で使う宝石物のジュエリーも作られていました。ヨーロッパ社交界では、TPOによって使い分けする必要があったからです。

稀少な宝石を使ったジョージアン・ジュエリー
アイルランド貴族セント・ジョージの娘へのクリスマスプレゼント ジョージアンのピンクトパーズのブレスレット『セント・ジョージ男爵から娘ルイーザへのクリスマスプレゼント』
ジョージアン ピンクトパーズ ブレスレット
イギリス 1829年
SOLD
19世紀初期の天然シトリンのカンティーユ・ネックレスシトリン ネックレス&イヤクリップ
イギリス or フランス 19世紀初期 
SOLD

稀少価値が極めて高い、極上の宝石が使われているにも関わらず現代まで残っているジョージアン・ジュエリーには、以下のような理由があります。
・リメイクが必要ないほどの、王侯貴族の中でも桁違いの財力を持っていた
・デザインが傑出しており、時代を超越した魅力を持っていたため、リメイクする必要がなくいつの時代でもそのまま使えた

どれだけお金を出しても、手に入らない宝石はあります。枯渇していたり、稀少すぎて手放す人がおらず、タイミングよく市場に出回らないなどの理由です。だから基本的には後者です。

ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移 【出典】2017年の鉱山資源局の資料

ダイヤモンドも今でこそ、よほど大きくて上質な石を除いて稀少価値はゼロです。稀少ではないからこそ、全世界の庶民でも手に入るほど大量かつ安価(但し割高な価格設定)に供給されます。

しかしながら、南アフリカで1870年頃からダイヤモンド・ラッシュが起きる以前は、ダイヤモンドは稀少価値の高い宝石でした。だからこそダイヤモンドが至高の宝石として、王侯貴族に珍重されていたのです。

現代の量産ジュエリー
カルティエ(税込¥3,628,800- 2019.2現在)【引用】Cartier HP / PLUIE DE CARTIER BROOCH ©Cartier ブシュロン(税込¥9,306,000- 2021.5現在)
【引用】BOUCHERON HP / WOLF BROOCH ©Boucheron

現代は稀少性が全くないからこそ、量産の下品なジュエリーにも、ケバケバしいほどのダイヤモンドが使われています。このような工業生産ジュエリーを量産できるのは、それだけダイヤモンドが大量にあるという証です。

ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移に見る1860年代の供給空白期ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移 【出典】2017年の鉱山資源局の資料

南アフリカでダイヤモンド・ラッシュが始まる直前となる1860年代、当時世界最大のダイヤモンド供給地だったブラジル鉱山が急速に枯渇しました。すっかり枯渇した結果、ヨーロッパのダイヤモンド産業は倒産や縮小に追い詰められたほどでした。

ブラジル産ダッチローズカット・ダイヤモンドの1860年代の最高級ピアス アンティーク・ジュエリー『ミラーボール』
魅惑のローズカット・ダイヤモンド ピアス
ヨーロッパ 1860〜1870年頃
SOLD

供給がストップすれば、稀少価値は跳ね上がります。

元々ダイヤモンドの稀少価値は高かったですが、この時代は特に至高の宝石として、富と権力の象徴となりました。

このタイミングで石を取り外された、古いダイヤモンド・ジュエリーはかなり多かったはずです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

そのような歴史を乗り越え、現代まで残ったこのジョージアンのダイヤモンド・リングは極めて貴重です。時代を超越したデザイン的な魅力が、200年の時を経て現代まで生き残れた理由とも言えるでしょう!♪

1-1. 普遍の人気を誇る蛇モチーフ

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

蛇モチーフは好みが分かれると思いますが、時代を問わず定番人気を誇ります。

リングとしてデザインされたものも多いです。

様々な時代や地域の蛇リング

グレコエジプトのゴールドのスネーク・リンググレコ・エジプト
ゴールド・リング
古代ギリシャ 紀元前4〜紀元前3世紀
SOLD
古代エジプトのゴールドのスネークリングヘレニスティック・スネークリング
古代エジプト 紀元前2世紀頃
SOLD
18世紀ジャワのスネーク(ナガ)のダイヤモンド&ゴールド・リング『聖なる蛇クラトン』
ダイヤモンド ゴールド・リング
ジャワ 18世紀
SOLD
ジョージアンのガーネットのスネーク・リングガーネット スネーク・リング
ヨーロッパ 1830年頃
SOLD
ジョージアンのコロンビア産エメラルドのスネーク・リングエメラルド スネーク・リング
イギリス 1830年頃
SOLD
スウェーデンのアンティークの非加熱ルビー・スネーク・リング秘密のロケット付き ルビー スネーク・リング
スウェーデン 1848年
SOLD
非加熱ルビー&オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの蛇の婚約指輪スネーク・リング
フランス? 1900〜1910年頃
SOLD

どれも、唯一無二の個性に満ちていますね。

HERITAGEで蛇リングをご紹介するのは今回が初めてで、これらは全て過去46年の間にGenが選んだものです。

蛇のアンティーク・リングも、一般的には同じようなつまらないデザインの安物が多いです。制作数が多く、たくさんある中から選べたからこそ、これだけの数がお取り扱いできたというわけです。

そうは言っても、私たちの基準に合うものは滅多にないので、決して多いとは言えない数ですね。数年に一度出会えればラッキーという感じです。

1-2. ヴィクトリアンに大流行した蛇リングとの違い

1-2-1. ヴィクトリア女王の蛇モチーフの婚約指輪

ザクセン=コーブルク=ゴータ公子アルバート(1819-1861年)21歳頃、1840年頃

1840年、ヴィクトリア女王が20歳の時にザクセン=コーブルク=ゴータのアルバート公子と結婚しました。

アルバート公子は、他の王侯貴族から高く評価されるほど、貴族としての教養やセンスに秀でた人物でした。

アルバート王配がヴィクトリア女王のためにデザインしたサファイアのティアラ(1842年)
V&A美術館 【引用】V&A museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted

これはアルバート王配が、ヴィクトリア女王のためにデザインしたティアラです。当時23歳くらいですが、新妻のために、このようなジュエリーをオーダーできる才能を持つ人物だったわけですね。

ヴィクトリア女王の結婚式(1840年2月10日)

アルバート王配がヴィクトリア女王のためにオーダーした婚約指輪は、蛇のデザインだったそうです。蛇には様々な意味がありますが、『知恵と献身の象徴』としてデザインされました。

1-2-2. 現代の婚約指輪との違い

【参考】現代の婚約指輪

日本の場合、庶民がジュエリーを買うようになったのは高度経済成長以降でした。

楽して儲けたい、現代宝飾業界の宣伝文句を鵜呑みにしている人が多いです。戦後に作られた、業界にとって都合の良いルールを常識であると思い込んだ、いわば洗脳された状態とすら言えます。

婚約指輪の宝石としてダイヤモンドが推奨されるのは、ダイヤモンド産業を牛耳る層が宝飾業界を支配しているからです。庶民には1千万円、1億円クラスのジュエリーには手が出せませんが、全員が給料の3ヶ月分なり、数十万円から数百万円でもお金を出せば、規模としては物凄い市場となります。

楽して儲けるという点では、デザインはシンプルなほど製造コストがかかりません。個性のないデザインならば、店員が販売する際も楽ですし、選ぶ顧客の方も楽です。誰にでも同じものを売れるというのは、在庫リスクという点でもメリットです。デザインが古びず、売れ残っても商品を回転させるためにセールする必要もありません。いつでも誰にでも売れる、そのようなつまらないものと成り果てたのが現代の婚約指輪です。

1-2-3. 経済活動を回す役割も持つ君主

日本では聞きませんが、王室が存続するイギリスでは、今でもロイヤル・ファミリーのファッションが衆目を集めますね。特に女性の場合、衣服や小物がすぐに特定され、完売となります。プロモーション効果や、経済を回す効果は大きいです。

昔は、今の比ではありませんでした。流行を作るのが王族の役割の1つでもありました。新しい流行を作ることで新規の需要が生まれ、国内経済が回って国民全体が潤い、文化も発展します。とても重要な役割なのです。

帝政から共和政に移行したことによるファッションリーダーの変化
王侯貴族 女優や歌手などの大衆のスター
フランス皇后ウジェニー・ド・モンティジョ(1826-1920年) 1854年、28歳頃 フランスの舞台女優サラ・ベルナール(1844-1923年)1876年、32歳頃

君主がいなくなると、女優や歌手などの大衆のスターがその役割を担うようになりました。しかしながら君主が存在した時代は、ファッションの隅々に至るまで、皇族・王族は憧れの存在として注目の的でした。

イギリス王太子妃&ロシア皇太子妃の姉妹
マリア・フョードロヴナ&アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1873年頃) マリア・フョードロヴナ&アレクサンドラ・オブ・デンマーク(1875年頃)

ブロマイドや、雑誌やチラシに掲載するための写真が多く存在するのもこのためです。このような写真を見て憧れ、国民が真似をすることで流行が生まれ、経済が回っていました。

イギリス女王ヴィクトリア(1819-1901年)とフランス皇后ウジェニー(1826-1920年)1855年

写真が一般的でなかった時代も絵や文章でファッションが伝わり、国民たちは想像して憧れ、参考にしていました。

ヴィクトリア女王(1819-1901年)

歴代の英国君主の中でも、ヴィクトリア女王夫妻は群を抜いて生真面目でした。

王室財政を破綻させかけるほど好き放題に散財した伯父ジョージ4世と異なり、自身の贅沢ではなくイギリス経済を回すことを最優先しました。

当時、高級レースと言えばフランス製で、財力のある王侯貴族はフランスのメーカーにオーダーするのが普通でした。しかしながら国内の産業新興のため、イギリス国内のメーカーにオーダーしたそうです。

それほど影響力があるのです。

1-2-4. ヴィクトリア女王の婚約指輪の特徴

ジョージアンのガーネットのスネーク・リングガーネット スネーク・リング
ヨーロッパ 1830年頃
SOLD
スウェーデンのアンティークのスネーク・ルビー・リング秘密のロケット付き ルビー スネーク・リング
スウェーデン 1848年
SOLD

ヴィクトリア女王が結婚したのは、即位して間もない1840年でした。カリフォルニアのゴールドラッシュも起きていない時期で、婚約指輪はジョージアンからアーリー・ヴィクトリアンの様式と作りだったはずです。

蛇の頭頂には、ヴィクトリア女王の誕生石であるエメラルドがセットされ、瞳はルビー、口はダイヤモンドで表現されたそうです。古い時代なので鮮明な写真がなく、詳細は分からないようです。特徴から、単独の蛇のデザインだったと想像します。このような感じだったでしょうか・・。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この宝物のような、ウロボロスではなかったと思います。

特徴あるデザインなので、ウロボロスだったそう記録されたはずです。また、ウロボロスだと口にダイヤモンドをセットできません。

1-2-5. 君主を真似ることで生まれる"流行"

チャールズ王太子の出産記念に両親から贈られたフラワーバスケット・ブローチを着用したエリザベス女王(1948年)  【引用】MailOnline / Published by Associated Newspapers Ltd © Royal Collection Trust / Her Majesty Queen Elizabeth II 2020

現代は高級ジュエリーでも既製品が当たり前です。

オーダーでの制作はオーダー経験を積み重ねたり、よほどのセンスと財力がなければ無理です。

憧れの女王陛下と同じようなジュエリーを身につけたいと思う女性は、いつの時代にも一定数存在します。

写真のエリザベス女王は、襟元にフラワーバスケットのジュエリーを着けています。

ヴィンテージの王室ジュエリー 現代のアクセサリー
チャールズ王太子の出産記念に両親から贈られたフラワーバスケット・ブローチ(1948年)  【引用】MailOnline / Published by Associated Newspapers Ltd © Royal Collection Trust / Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 【英国王室の公式店舗の販売品】
クリスタルガラス、ホワイトゴールド・メッキの模造品
【引用】Royal Collection Trust / BROOCHES ©Royal Collection Enterprises Limited

エリザベス女王のブローチは、宝石と貴金属で制作されたジュエリーです。デザインがつまらないので、私が市場でこれを見ても買い付けしませんが、1948年の最高の職人が作った物なので作り自体は悪くなさそうです。

右は、イギリス王室の公式ギフト・ショップで販売されていた模造品です。クリスタルガラスとメッキを使ったチャチな作りで、大人が着けるものとは思えません。安っぽさが酷く、着けない方がマシと思えるレベルです。

デザインも全く捻りがなく、ただ安い素材で、コストや技術をかけずに同じようなものを作っただけです。 何にせよ、全く同じものを着けるなんて本来は全く楽しいことではありませんし、センスも魅力も新鮮な驚きも感じられない行為です。

【参考】ミッド・ヴィクトリアンに大流行したフリンジ・ジュエリー

これらはヴィクトリア女王のジュエリーの影響で大流行した、ミッド・ヴィクトリアンのフリンジ・ジュエリーです。大英帝国最盛期に当たり、台頭した中産階級が幅を利かせ始めたばかりの時代でもあったことから、自己顕示欲が丸出しの成金ジュエリーが社交界でも流行しました。「ドヤらないと負け!!」、みたいな時代だったようです。

これはGenが「イカとかタコの足みたい。」と嫌う、ミッド・ヴィクトリアンに大流行したフリンジ・ジュエリーです。SFに出てくる火星人にも見える、悪趣味なセンスです。私たちは嫌いなのでお取り扱いしませんが、一見すると高そうに見えるヴィクトリアン・ジュエリーならば楽して高く売れるということで、他の日本の業者が好んで扱いました。雑誌などでも取り上げられ、成金嗜好の人には「類は友を呼ぶ」感じでかなり売れたようです。

ヴィクトリア女王のフリンジ・ジュエリー
ヴィクトリア女王(1819-1901年)1859年、40歳頃 ヴィクトリア女王のフリンジ・ダイヤモンド・ブローチ(R&S ガラード 1856年)
【引用】Royal Collection Trust / Queen Victoria's Diamond Fringe Broosh 1856 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020

実は、大流行したイカタコ・ジュエリーの元となったヴィクトリア女王のフリンジ・ジュエリーは、バブル期の成金趣味に洗脳された日本人に流行した"安っぽい代物"とは全く違いました。

右はリメイク後です。豪華すぎて、流石に王族でも使い勝手が悪く、リメイクされたそうです。ダイヤモンドで制作されたフリンジ・ジュエリーはとても豪華で、ハリボテ感もなく、実際にいかにも高級という感じです。

【参考】ミッド・ヴィクトリアンに大流行したフリンジ・ジュエリー

【引用】Royal Collection Trust / Queen Victoria's Diamond Fringe Broosh 1856 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020

現代人の感覚だと、同じものを作れば良いと発想される方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、南アフリカのダイヤモンド・ラッシュ以前は今では想像できないほど、ダイヤモンドは希少価値の高い宝石でした。

いかにお金持ちといえども、並大抵の財力ではこれだけのダイヤモンドは手に入りません。それもあって、ゴールドのフリンジ・ジュエリーが代替品的に流行ったのかもしれません。ただ、ゴールド自体もまだまだ高価でしたから、作りはハリボテです。見た目よりかなり軽いです。中身のない、典型的な成金ジュエリーと言えます。

【参考】ミッド・ヴィクトリアンに大流行したフリンジ・ジュエリー

【引用】Royal Collection Trust / Queen Victoria's Diamond Fringe Broosh 1856 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020

一応、ダイヤモンドでフリンジ部分を作ったジュエリーも存在します。ただ、これも成金臭が酷いです。ヴィクトリア女王のブローチは、フリンジのダイヤモンドが2粒ずつフレームにセットされ、連結してあります。繊細かつ複雑に揺れる構造です。宝石だけでなく、しっかり作りにもお金をかけた、王族らしいジュエリーです。

隣のジュエリーは一応、揺れる構造にはなっているものの、フリンジのフレームは長い状態で作ってあり、長い棒の状態で揺れるのみです。静止した状態で見ると、違いが分からないかもしれません。しかし、実際に誰かが着用した状態だと、揺れ動いた時の美しさがまるで違います。宝石にはお金をかけたけれど、そのような細かい作りには美意識を持っていないことが如実に伝わってきます。パッと見だけを気にし、作りはケチる。分かる人には、どうしても安っぽさを感じる理由です。

様々なフリンジ・ジュエリー

【引用】Royal Collection Trust / Queen Victoria's Diamond Fringe Broosh 1856 © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020
非加熱ルビー&サファイア&天然真珠の金細工が美しいフリンジ・ブローチ『ルンペルシュティルツヒェン』
SOLD

ガーネットを使った3番目のピアスのように、フリンジを複雑なチェーンで表現したものもあります。個性がありますが、それが必ずしもセンスが良いとは限りません。下部の爪みたいな簡素なパーツが、やはり安っぽさとセンスの悪さを感じさせます。

以前ご紹介した『ルンペルシュティルツヒェン』もフリンジ・ジュエリーの一種ですが、完璧に別物へと昇華しています。宝石は大きければ良いという成金ジュエリーとは一線を画す、小さいけれど極上の天然真珠、ルビー&サファイアを選んだセンス。さらに、神技を贅沢に詰め込んだ作り。

アンティークジュエリーの中でも、本当にごく僅かなものだけが芸術作品であり、宝物と言えるのです。それでも、センスの良し悪しやお金のかけ方はそれぞれあっても、同じものではなく、個性や想いを反映して作られていたことがお分かりいただけたと思います。

エリザベス女王のブローチ(1948年)  【引用】MailOnline / Published by Associated Newspapers Ltd © Royal Collection Trust / Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 【英国王室の公式店舗の販売品】
イミテーション・アクセサリー 【引用】Royal Collection Trust ©Royal Collection Enterprises Limited

同じものを着けて喜ぶというのは、戦後、大量生産の既製品が当たり前になってからの概念だと感じます。

本来、オシャレとはそのようなものではありませんでした。とても不自然なことなのです。

1-2-6. ヴィクトリアンに大流行した蛇リング

【参考】ヴィクトリア女王の婚約指輪を想像して作られた蛇リング(ヴィンテージ)

これはヴィクトリア女王の婚約指輪を想像して作られた、ヴィンテージの蛇リングです。

作りが簡素な上に稚拙ですが、「蛇の頭頂にエメラルド、瞳はルビー、口はダイヤモンドで表現」という仕様書の通りではあります。

牙ではなく、普通に歯を表現すると、ちょっと違和感がありますね。実際はどのような感じだったでしょうね。

ヴィクトリア女王一家(1846年)ロイヤル・コレクション

ヴィクトリアン中期頃から、産業革命によって台頭した中産階級が経済活動の牽引役として力を持つようになりました。後期以降は経済活動の中心と言っても良いほど、大きく力を持つようになりました。だからこそヴィクトリア女王一家は、中産階級の手本になることを意識して振る舞いました。限られた上流階級のみが市場の牽引役だった時代とは大きく異なる点です。

ヴィクトリア女王の婚約指輪は蛇モチーフでした。そう宣伝するだけで、大きな流行が生まれました。自分らしい、オリジナリティに溢れるジュエリーのオーダーに慣れている上流階級と異なり、ジュエリーを買った経験のない中産階級は、お金はあっても何を買ったら良いのか分からない状態になりました。だからこそ、取り敢えず女王陛下と同じようなものを持っていれば間違いないと考えるわけです。

【参考】 安物の9ctガーネット・リング(19世紀後期)

市場で見るアンティークジュエリーの殆どは、ヴィクトリアン中後期以降の庶民用に作られたジュエリーです。

本場イギリスと異なり、ジュエリーの歴史がなかった日本はディーラー自身が無知なことも多く、庶民のジュエリーをヨーロッパの上流階級のジュエリーだと謳って販売することも多いようです。

1850年頃に世界の工場として大英帝国最盛期『パクス・ブリタニカ』を迎えたイギリスは、この頃から庶民もジュエリーを持てるようになっていました。高度経済成長期やバブル期の日本人のジュエリーを、貴族の高級ジュエリーだと称して販売しているのと同様です。こんなものを教養ある社交界の女性が着けていたわけはないのですが、アンティークジュエリーは全てヨーロッパの高貴な女性が着けていたという思い込みがある人は、騙されてしまうようです。

婚約指輪のスタイル
スネーク ダブルハート トワエモア
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングスネーク・リング
フランス? 1900〜1910年頃
SOLD
ダブルハート リング(エンゲージメント・リング) アンティーク・ジュエリー『愛の誓い』
ダブルハート リング
イギリス 1870年頃
SOLD
天然真珠&ダイヤモンドのトワエモア『貴方と私』のアンティークの婚約指輪『Toi et Moi』
トワエモア リング
フランス or イギリス 1910年頃
SOLD

女性が君主だったこと、国民全員が小金持ちのような時代だったこともあり、ヴィクトリアン中期以降は婚約指輪の需要が激増しました。その結果、様々なスタイルやバリエーションができました。愛し合う2人が1つになることを象徴し、ダブルハートやトワエモアのように宝石を2つ使うスタイルも好まれました。その影響もあったのか、蛇の婚約指輪も2匹でデザインするのが主流となっていったようです。

【参考】大流行した安物の蛇の婚約指輪

陰陽魚太極図

市場の大半は、『陰陽魚太極図』のように蛇をデザインしたものです。

同じようなものばかりでつまらないです。しかも、このような単純な作りの場合、現代でも同じように作ることができます。Genの真似をして「アンティークジュエリーは現代では作ることができない。」と謳うディーラーもいますが、高度な技術を駆使して作られた高級品に限った話です。

例えば中央のリングは、偽物の可能性が高いです。


【参考】 フェイクの可能性が高い蛇リング

これはヴィクトリアンのスネーク・リングと説明されていましたが、120年以上も経過した婚約指輪がここまで使用感ゼロなのがまずあり得ません。デッドストック品の可能性がゼロではないにしても、このタイプのリングは定番で人気が高いため、120年以上もデッドストックの状態で放置されること自体が考え難いです。

宝石のカットも、ダイヤモンドソウが発明されるカットの近代化以前のものにしては、あまりにも均一過ぎます。リプロとして販売する分には存在しても良いと思いますが、アンティークと言った方が高く売れるため、このようなあからさまなものまでアンティークと称して売るディーラーがいるのです。一般顧客はまさかディーラーが意図的に偽物を得るなんて思いもしませんから、平気で販売するディーラーが存在するのでしょう。


【参考】 HERITAGEでは扱わないクラスの蛇リング

これはゴールド表面に、それなりの時代を経た雰囲気があります。おそらくきちんとしたアンティークだと思いますが、この程度のデザインと作りならば、現代の腕の良い職人でも再現できるレベルです。わざと表面にダメージを与えて時代感を出した、念の入ったフェイクも存在します。タバコの灰を押し付けるなど、様々な方法が考案されているそうです。変な所に頭や労力を使わないで欲しいですよね。

結局、真贋についても、宝物としての価値についても、作りで判断すべきなのです。

【参考】安物の9ctのスネーク・リング(イギリス 19世紀後期)

これは9ctゴールドの作りですが、確実に本物のアンティークジュエリーと言えます。ハンドメイドのアンティークジュエリーらしく、丁寧に彫金されていた痕跡があります。完璧な安物として9ctだったのではなく、婚約指輪としての耐久性を考えて、堅牢な9ctで作ったのでしょう。それでもかなり摩耗しています。

オーダーした最初の持ち主がここまで酷い使い方をしたとは考え難く、途中の持ち主が不適切な使い方をしたのだろうと思います。上質な上に、コンディションの良い本物のアンティークジュエリーを手に入れるというのは本当に難しいことなのです。

2匹の蛇の婚約指輪
最高級品 【参考】安物
非加熱ルビー&オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの蛇の婚約指輪スネーク・リング
フランス? 1900〜1910年頃
SOLD

王侯貴族のために作られた最高級品は、デザインとそれに伴う作りの良さが別次元です。

黄金を使った蛇の複雑な造形、質感を感じさせる見事な彫金・・。

陰陽魚太極図のような通り一辺倒のデザインではなく、しっかりと持ち主の個性や独創性も感じられます。やはりアンティークジュエリーの真の魅力は、現代では不可能な作りの良さと、それに伴うデザインの魅力ですね♪♪

1-3. ウロボロスに秘められた持ち主の知性

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

万人向けのつまらないジュエリーはGenも私も好みではないため、私たちのラインナップでは必然的にジョージアン以前の蛇ジュエリーが多くなっています。

市場の構造を考えると、通常はあり得ないことです。

グレコエジプトのゴールドのスネーク・リンググレコ・エジプト
ゴールド・リング
古代ギリシャ 紀元前4〜紀元前3世紀
SOLD
古代エジプトのゴールドのスネークリングヘレニスティック・スネークリング
古代エジプト 紀元前2世紀頃
SOLD
18世紀ジャワのスネーク(ナガ)のダイヤモンド&ゴールド・リング『聖なる蛇クラトン』
ダイヤモンド ゴールド・リング
ジャワ 18世紀
SOLD
ジョージアンのガーネットのスネーク・リングガーネット スネーク・リング
ヨーロッパ 1830年頃
SOLD
ジョージアンのコロンビア産エメラルドのスネーク・リングエメラルド スネーク・リング
イギリス 1830年頃
SOLD
スウェーデンのアンティークの非加熱ルビー・スネーク・リング秘密のロケット付き ルビー スネーク・リング
スウェーデン 1848年
SOLD
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

古い時代の蛇モチーフは、ヴィクトリアン以降のような男女を表現した2匹の蛇ではなく、1匹での表現が多いことが分かります。

それぞれ個性がありますが、ウロボロス・リングは今回が初めてです。
ありそうでない、非常に珍しい宝物です!♪

1-3-1. 非常に古くから存在するウロボロス

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

自身の尾を咥えた蛇。

頭が始まり。尾が終わり。始まりと終わりが繋がれば、終わりなき永遠の循環となります。

ウロボロスのシンボル(エジプト第18王朝 紀元前14世紀)
" Ägyptisches Museum Kairo 2016-03-29 Tutanchamun Grabschatz 09 " ©Djehouty(29 March 2016)/Adapted/CC BY-SA 4.0

ウロボロスのモチーフは古くから存在します。最初期のものとして、古代エジプトの紀元前14世紀のツタンカーメンの墓にも見られます。古代エジプトには、死後の復活という概念がありました。

脱皮を繰り返す蛇は『生まれ変わり』、すなわち魂の転生を象徴する存在とみなされてきました。

手足のない蛇は、それだけでも不思議な魅力があります。しかしそれだけに止まりません。

自分を食べている蛇  【引用】MailOnline / Published by Associated Newspapers Ltd ©JILL REILLY

自然界でも、自分自身を尾から食べようとするウロボロス状態の蛇が見つかるそうです。

約3分の2ほど飲み込んでいたこともあるそうで、まさに輪っかのような形状だったでしょうね。突然見つけたら、ビックリしそうです。

それもあって、古今東西でウロボロスはシンボル化されたようです。

1-3-2. 様々な意味を持つウロボロス

1-3-2-1. 始まりと終わりのない永遠性

始まりと終わりを1つにすることで、永遠かつ普遍の存在を表すシンボルとして『アルファオメガ(AΩ)』があります。

ギリシャ文字では最初の文字がA(アルファ)、最後の文字がΩ(オメガ)です。新約聖書の『ヨハネの黙示録』にて、主の言葉として「私はアルファであり、オメガである」とあり、「最初であり、最後である」続きます。AΩは万物の最初と最後を意味し、永遠の存在者である神とイエス・キリストを表します。キリスト教世界では、意識すれば様々な場所でAΩのシンボルを見ることができます。

アルファオメガ(AΩ)ジュエリー
カステラーニ 聖パスカル ブローチ ローマンモザイク アンティークジュエリー『聖パスカル』
ローマンモザイク ブローチ
イタリア 1860年頃(推定カステラーニ作)
SOLD
精霊の鳩をモチーフにしたローマンモザイクのデミ・パリュール(アンティークジュエリー)『平和のしるし』
ローマンモザイク デミパリュール
イタリア 1860年頃
¥2,030,000-(税込10%)

もちろん、王侯貴族のために作られたハイジュエリーでもAΩのモチーフを見ることができます。持ち主の、高い身分ならではの深い教養が感じられますね。

安物の鋳造の量産メダイ
【参考】量産の14Kの聖セシリアのメダイ・ペンダント(現代) 【参考】量産の金メッキの聖セシリアのメダイ・ペンダント(現代)

教養がないと、分かりやすい表現でなければなりません。キリストや聖母マリアはまだ分かりやすいですが、少し難易度の高いマニアックなモチーフの場合、それが何だか分かるように"そのものの名称"を書いてしまうことすらあります。こういう表現は、教養やセンスがある人にとっては興醒めでしょう。

でも、教養やセンスがない人には必要なのです。むしろ、このくらい単純で分かりやすくないと理解できない人の方が多いのでしょう。だからこそ庶民用の安物はアンティークも含め、作りのみならずデザインも稚拙なもので溢れています。

始まりと終わりを一体化して『永遠』を表現したモチーフ
ウロボロス アルファオメガ
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング キリスト教 スタロウグラム ローマンモザイクペンダント&ブローチ ピアス セット

象徴で表現する宝物は、見る者によって、その意味や受け取る取れる内容の深さが変化します。まさに見る者次第で、最高に知的な宝物にもなりますし、ただ見た目が良いだけのジュエリーにもなります。人生をも変える力を秘めています。単純な表現には、それ以上を見出すことができません。

キリストの永遠性を示す、アルファオメガはキリストに限定されます。ウロボロスの場合は同様の意味も含みますが、さらに含蓄の幅が広いです。

1-3-2-2. 古代エジプトの守護神メヘンとしての蛇
太陽神ラーの守護神メヘン
ウロボロスのシンボル(エジプト第18王朝 紀元前14世紀)KV62 ツタンカーメンの墓 " Ägyptisches Museum Kairo 2016-03-29 Tutanchamun Grabschatz 09 " ©Djehouty(29 March 2016)/Adapted/CC BY-SA 4.0 太陽神ラーを取り囲み守護するメヘン神(古代エジプト第19王朝 紀元前13世紀)KV16 ラムセス1世の墓の死者の書の模写

古代エジプトではメヘン神が太陽神ラーに巻きつき、守護するとされています。メヘン(メヘネト)にはトグロを巻くなどの意味がありますが、ウロボロスの事とも言われています。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングジョージアン
ウロボロス・リング
イギリス 19世紀初期
グレコエジプトのゴールドのスネーク・リンググレコ・エジプト
ゴールド・リング
古代ギリシャ 紀元前4〜紀元前3世紀
SOLD
古代エジプトのゴールドのスネークリングヘレニスティック・スネークリング
古代エジプト 紀元前2世紀頃
SOLD

古代ヨーロッパは、先進するエジプト文明から強い文化的影響を受けていました。以前お取り使いした古代エジプトの蛇リングは、まさに守護神メヘンとして身につけられていたものでしょう。

今回のウロボロス・リングの持ち主が、古代エジプトに興味を持つ知的な人物だった場合、守護神としての意味を持たせてオーダーした可能性も十分に考えられます。

カイロのナポレオン・ボナパルト(1769-1821年)
エジプト遠征(1798-1801年)

19世紀初期と言えば、ナポレオンのエジプト遠征によって、古代エジプトにも知的階層の注目が集まった時期でした。

19世紀初期のスネークリング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングクッションシェイプ・ダイヤモンド
ウロボロス・リング
イギリス 19世紀初期
ジョージアンのガーネットのスネーク・リングガーネット スネーク・リング
ヨーロッパ 1830年頃
SOLD

紀元前14世紀にまで遡ることができる、古代エジプトの蛇の守護神メヘン。当時の王侯貴族にとっても、3千年以上も昔の人々に想いを馳せることができます。知的な宝物は想像力を掻き立て、ロマン溢れる思考の旅へ連れ出してくれますね♪

1-3-2-3. 壮大なスケールの北欧の世界蛇ヨルムンガンド
【北欧神話】ラグナロクに於ける世界蛇ヨルムンガンド(ルイ・モー 1898年)
" Ragnarok - Louis Moe (17006) - cropped (cropped) " ©AU Library, Campus Emdrup(1898)/Adapted/CC BY-SA 4.0

北欧神話にも、巨大な蛇のウロボロスが登場します。世界蛇ヨルムンガンドは、世界を取り囲んで尾を噛むことができるほど大きいです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この世界は、巨大な蛇のウロボロスの中・・。

蛇のスケールの大きさに心躍るかもしれません。
またある人は、ちっぽけな存在としての人間に想いを馳せるのかもしれません。

ロニエット ペンダント型眼鏡 アンティーク
『Celebration』
スウェーデンの彫金が美しいロニエット
スウェーデン 1900年頃
SOLD
北欧には、西欧とはまた違った文化やデザイン的な魅力があります。西欧に住む人々の中にも、その魅力に魅せられる人は多いです。
ヴァイキング 指輪 ゴールドスパイラルリング 貨幣
ヴァイキング ゴールド リング
800AD〜850AD
22ctゴールド
SOLD

北欧は北極圏に入る地域があり、白夜が存在します。だからこそ太陽信仰が強いです。

長い夜、短い夏。必然的に、死と再生への意識は強くなるでしょう。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

世界蛇ヨルムンガンドの閉じた世界を意識しながら、死と再生について考える。

ウロボロス・リングは、そのような知的な宝物としても楽しむことができます。持ち主次第ですね♪

1-3-2-4. 錬金術のモチーフ
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ヨーロッパと言えば『錬金術』の歴史は欠かせません。

ウロボロスは錬金術のシンボルでもあります。

古代の錬金術師クレオパトラ
錬金術師クレオパトラ(3〜4世紀頃)
『哲学者の封印』(1618年)の想像図
錬金術師クレオパトラの書『クリソポエイア』(3〜4世紀頃)の10〜11世紀頃の写本に描かれたウロボロス

錬金術に於けるウロボロスの歴史は古いです。古代ヨーロッパでは、エジプトのアレキサンドリアが学術の殿堂として機能し、世界中の叡智が集まっていました。

3〜4世紀頃のアレキサンドリアに、ギリシャ人の錬金術師クレオパトラがいました。哲学者でもあります。有名なファラオのクレオパトラ7世とは別人です。『賢者の石』を製造できた4人の女性・錬金術師の1人とされる、錬金術界の著名人です。クレオパトラの著書『クリソポエイア』の10〜11世紀頃の写本の中に、ウロボロスがあります。

『錬金術師』賢者の石を求めて(ジョセフ・ライト 1771年)

優れた錬金術師=天才科学者です。

現代では胡散臭く聞こえたりする『錬金術』ですが、ヨーロッパの科学の発展は錬金術の発展と同義であり、科学者イコール錬金術師でした。

哲学者も、まるで重箱の隅をつつくように無駄なことを偉そうに思考する無意味な存在でなく、あらゆる分野に精通する博学者のような存在でした。

まず幾何学を修めないと話にならないというスタンスでもあり、理系のイメージが強いです。

長年、錬金術師たちは『賢者の石』の叡智に到達すべく人生を捧げてきました。

錬金術の論文『オーロラ・コンサージェンス』(スウェーデン 15世紀)

賢者の石を成し遂げた錬金術師クレオパトラは憧れの存在であり、その書に描かれたウロボロスは至高の道へのヒントであり、叡智の象徴でもあったわけです。

物理的な意味でのウロボロスではなく、物質世界の成り立ちに思考を広げるものだったと想像します。物質とは何か。物質とはどのように成り立っているのか。物質をコントロールするために、"物質(マテリアル)"を知ることは重要です。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

循環。物事の完全性。閉じた世界。すべては1つ・・・。
ウロボロスがいざなう世界は、無限に広がる知の領域でもあるのです。

視界を広げれば、古今東西のウロボロスが意味するもの、人々に思考させた領域は無限に広がっていきます。

確定できないもの。
無限の想像を掻き立てるシンプルなウロボロス・リングだからこそ、この宝物は知的な意味で、とても強い魅力を感じさせるのです。

2. 極上のダイヤモンドの瑞々しい煌めき

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この宝物にセットされたダイヤモンドは1粒ですが、この1粒が驚異的な魅力を放ちます。

まさに特別な1粒です!♪

2-1. 稀少価値の高い極上のダイヤモンド

ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移に見る1860年代の供給空白期ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移 【出典】2017年の鉱山資源局の資料

南アフリカでダイヤモンド・ラッシュが始まる前は、ブラジル鉱山から10万カラットが平均的に産出されるのみでした。10万カラットと聞くと多く感じるかもしれませんが、全てを使えるわけではありません。

【参考】美しさは微塵もない工業用ダイヤモンド

「ダイヤモンド=宝石」ではありません。

極めて硬い素材として、その多くは工業用途に使用されます。外観も、そこら辺の石ころと変わりありません。低品質だとインクリュージョンが多くて透明度がありませんが、表面の金剛光沢だけはダイヤモンドらしく一丁前ですね。このような無価値なダイヤモンドも含めて、産出量10万カラットということです。

ダイヤモンドのグレードと稀少性

現代の割合ですが、昔も似たような割合だったと推測します。質の良い、一部のダイヤモンドのみが宝石として利用できます。

他の宝石も同様ではあるのですが、ダイヤモンドの場合はさらに特殊事情があります。極めて硬く、加工が困難です。カットは劈開性を利用するしかありませんでした。劈開を見極める職人技が必要だった上に、結晶系の整っていない不定形の原石の場合、そもそも劈開を利用してカットすることもできません。このため、1900年にダイヤモンド・ソウが発明される以前は結晶系が整った6%程度の原石しか利用できませんでした。

10万カラットの6%は、6,000カラットです。その中で、さらに品質の差があります。さらに大きさまで兼ね備えたものとなると、その稀少価値は指数関数的に高くなります。

ブルー ギロッシュエナメル ペンダント『忘れな草』

『忘れな草』
ブルー・ギロッシュエナメル ペンダント
フランス? 18世紀後期
(1780〜1800年頃)
¥1,400,000-(税込10%)

ブラジル鉱山が世界のダイヤモンド供給地だった時代。
ダイヤモンドは毎年、世界全体で約6,000カラットというごく限られた量しか得られない宝石でした。カットだけでも、とんでもない人件費がかかりました。

だから『忘れな草』も、とんでもないお金をかけて作られた王侯貴族のための最高級品であると言えるのです。知識や感覚がない人にはそれほど高価に見えないため、このような古い宝物は、実際の価値よりかなり割安で手に入るのが面白いです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

6,000カラットしか宝石品質のダイヤモンドが産出されなかった時代。

1粒でリングとして様になる大きさがあり、美しさも兼ね備えたダイヤモンドはどれだけ高価だったでしょうね。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

2021年の世界全体のダイヤモンド産出量は、約1億2,000万カラットでした。

年間10万カラットの時代と比べると、何と1,200倍の産出量です。同じ割合でしか同等品質のダイヤモンドは産出しないと仮定するなら、当時のダイヤモンドは材料としての価値だけでも1,200倍あります。実際にはカットの技術や手間にもお金がかかりますから、加工費も桁違いでした。

いかにステータス・ジュエリーとしても価値ある宝物だったか、ダイヤモンドからもご想像いただけると思います。当時の1,200分の1以下の価値しかない、現代の1粒石のダイヤモンド・リングと単純比較してしまうような人の元には送り出したくない宝物です。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

カットと言う点でも、現代のダイヤモンドなど比較に値せぬほどクオリティが高いです。

こんなにダイナミックに煌めきを放つダイヤモンドは、現代ジュエリーには存在し得ません。ファイアも実に魅力的です。

【参考】工業用ダイヤモンドを使ったリング(現代)

現代では、ダイヤモンドでありさえすれば良いという価値観の人もいるようです。さすがにここまで汚いと、魅力を感じる人は殆どいないと思いますが、こちらの石が方が大きくて、しかも3粒使っているので価値があると考える人もいるのかもしれませんね。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ダイヤモンドに限らず宝石全般に言えることですが、質がとても重要であり、それによって美しさは全く別次元なのです。

2-2. 古い時代のカットならではの魅力

今回の宝物は、アンティークジュエリーの中でも少し古い時代に属します。ダイヤモンドは時代ごとにそれぞれカットに特徴があり、外観や煌めき方に違いがあります。

カットに関する変化点として、今回注目すべきは以下の2点です。

【南アフリカのダイヤモンド・ラッシュ】ダイヤモンドの大衆化
 膨大な産出量により加工技術に革新が起こる。高度な職人技と地道な手作業から、機械による量産へ移行。

【戦後】庶民向けの量産ジュエリー
 美しさではなく、金儲けを追求した機械による量産アイデアルカットに移行

先に、後者よる変化をご説明いたします。

2-2-1. アイデアルカットに移行したことによる変化

19世紀初期のオールドヨーロピアンカット 【参考】現代の量産アイデアルカット
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

現代ジュエリーのダイヤモンドをご覧になって、心から美しいと感じたことはありますか?

私は「ダイヤモンドは美しい輝きと聞いていたけれど、全然魅力的に感じない。何が美しいのかさっぱり分からない。」と、至極がっかりした記憶があります。

『裸の王様』現象が起きている方だと、実際に美しいと思い込むことはできるようです。しかしながら、そのような刷り込みがない場合、業界による謳い文句とは違ってチラチラと弱い輝きと、白っちゃけた印象にしか見えないのは論理的に説明が可能です。

アンティークのダイヤモンドとブリリアンカット・ダイヤモンドの違い

トルコフスキーが考案したアイデアルカットは、あくまでも業界が『数学者』の威光を借りて楽して儲けるために都合が良かったから採用したに過ぎません。

実際には美しくないにも関わらず尤もらしい説明ができること、コストカットが可能なことが背景にありました。厚みの薄いカットであることが、1つの特徴です。

正面からだと、同じ大きさに見えるのが詐欺的ですよね。

【参考】エメラルド&ダイヤモンドの量産高級リング(ピアジェ 現代)

「侵入した光が底面で漏れず、全て反射するので輝きが最も強い」というのがアイデアルカットの謳い文句です。

数学的にはそうなのに、なぜチラチラとした弱い輝きだけで、強く魅力的な輝きを感じることがないのでしょうか。

オールドヨーロピアンカットとトルコフスキーカットと現代のブリリアンカットの違い

現代のカットは底面を偏重しています。底面から光が漏れなければ良いということで、上部クラウンのファセットの反射は無頓着です。つまり、現代のダイヤモンドの輝きのメインは下部ファセットからの反射ということです。

トルコフスキー考案のアイデアルカット

上部クラウンのファセットに比べて、下部パビリオンのファセットは面積が小さく細長いです。

【参考】ブリリアンカット・ダイヤモンドの単調な輝き

面積が小さな下部ファセットから放たれる輝きは、1つ1つが弱いです。これがチラチラとした弱い輝きの理由です。

条件によっては、面積の広い上面のテーブルが全反射します。これが白っちゃけた輝きの原因です。

天然真珠 バーブローチ アンティークジュエリー『キラキラ・クロス』
天然真珠 バーブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

『キラキラ・クロス』はハイクラスのアンティークジュエリーの中でも、特にダイヤモンドへの拘りが強い作品でした。

他では見たことがないほどダイヤモンドに厚みがあり、その分、上面のテーブルの面積が狭いです。

透明度が強い上に、上部クラウン、下部パビリオン、どのファセットが反射しても強く魅力的な輝きを感じることができます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

色彩が魅力である色石と異なり、クリアなダイヤモンドは透明感と輝きこそが重要です。

この絶妙なバランスがあってこそ、ダイヤモンドは最高に美しく見えるのです。ケチなカットをしていては、ポテンシャルを最大限に惹き出すことなんてできません!!

現代のダイヤモンド・リング
イエローダイヤモンド・リング(ティファニー)【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Cushion-cut Yellow Diamond Halo Engagement Ring in Platinum ©T&CO ダイヤモンド・リング(現代)

モサモサとしか輝かない上に、規格に忠実に機械で量産した工業製品でしかないため、大きさは違っても相似形です。その寄せ集めは、人間の眼には違和感しか感じさせません。手仕事ならではの揺らぎこそが、心地よさや芸術的な美しさを感じさせるのです。

こんなただの工業製品を着けて、真の心の満足感を得られるのか疑問ですが、信ずる者は救われるという一種のカルトのような世界でしょうか。ティファニーというお墨付きがあるだけで喜べる人もいるようですからね・・。
私は断言します。全然美しくありません!(笑)

2-2-2. カットの近代化による変化

カリナンに第一刀を振り下ろすアイザック・ジョセフ・アッシャー(1908年)

ダイヤモンドの原石を、宝石として完成させるためには、2段階の作業があります。

1つ目はラフカットです。

1900年にダイヤモンドソウ(現代はレーザーも使用)が発明される以前は、高度な技術と経験を持つ熟練の職人が劈開の方向を見極めてカットしていました。

最も大きな9つのラフカットされたカリナン

時間としては、劈開の見極めに要する時間と、割れる一瞬です。短いですが、職人の高度な勘と経験が必要です。

劈開の性質が知られていなかった時代は、適当にハンマーで叩いて、たまたま粉々に割れるという感じだったようです。もちろん宝石としては利用できません。

宝石として仕上げられた9つのカリナン

ラフカット後、硬いダイヤモンドを硬いダイヤモンドで少しずつ削って磨き上げるという作業が、時間としては最もかかります。

1908年にカットされたカリナンの場合、ラフカットされた9石は3人で1日14時間、8ヶ月作業してようやく宝石のルースの形に完成しました。人件費を考えると、それだけで途方も無い額になりますね。1日8時間労働として、残業手当もつけて、特別な技術を持つ職人としての技術料の上乗せも考えると、カットだけでも一体どれだけの費用がかかるでしょう。とても庶民が手にできる金額ではありません。

上記の磨き作業にかかった時間は、ダイヤモンドのカットが近代化されてからの話です。

1870年代初めに蒸気機関を使った研磨機、
1891年に電動の研磨機が発明されました。

それまでは1人が人力で研磨用の回転板を回し、もう1人が研磨盤にダイヤモンドを押し当てて削っていました。

2人組で作業する必要があり、それだけでも人件費は2倍です。忍耐力も必要で、気が遠くなりますね。カットできる量や、加工できる範囲に限界があったのは、このような作業上の理由からです。

【参考】ダイヤモンドの切削加工場(1710年頃)

人力に頼らない機械研磨機、職人の勘と劈開の方向に左右されないダイヤモンドソウ。

前者は人件費の面でコストカットに大きく貢献したとみられますが、特に外観に大きな変化を与えたのはダイヤモンドソウの発明でした。

劈開の方向を無視したカットが可能となったのは、画期的なことでした。

【参考】ダイヤモンド・ソウ(1903年頃)
ラフカットされたダイヤモンド原石 劈開性を利用する場合、劈開の方向通りにしか形を整えることができませんでした。
時代ごとの最高級ダイヤモンド・ジュエリー
職人の勘と熟練の技術の時代 ダイヤモンドソウの時代
オールドカット・ダイヤモンド ブローチ アンティーク・ジュエリー『幸せのメロディ』
ダイヤモンド ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD
初期アールデコのガーランドスタイルのトロフィー・ダイヤモンド・ネックレス『勝利の女神』
アールデコ初期 ガーランドスタイル ダイヤモンド ネックレス
イギリス or フランス 1920年頃
¥6,500,000-(税込10%)

"不完全の美"を至高の美とする日本人に対し、西洋は"完全無欠の状態"を理想の美とした美意識が長年育まれてきました。このため、ダイヤモンドソウで好きに形状をコントロールできるようになると、ダイヤモンドの形状から急速に個性が失われていきました。20世紀に入るとダイヤモンドは対称性が高く、大きさも整ったものとなり、現代ジュエリーと変わらない印象となっていきます。

高度な手仕事と、職人の美的センスが込められた芸術的な要素強いダイヤモンド・ジュエリーを探そうとすると、基本的にはカットが近代化される前の19世紀以前となります。

個性の有無で全く異なるダイヤモンドの表情
個性がある職人のハンドカット 現代の無個性な工業生産カット
透明度の高い天然エメラルドのアンティーク・リング『エメラルドの深淵』
珠玉のエメラルド&ダイヤモンド リング
イギリス 1880年頃
¥3,700,000-(税込10%)

光を当てた際、工業生産された無個性なダイヤモンドは同じようにしか輝きません。だから微塵も魅力が感じられず、全く心が動かないのです。

そもそもが、心がこもっていないものに心動かされる訳がないのです。動いたと感じたならば、それは思い込みです。あり得ないことですから。

並べて比較すると、"底から光が漏れない"のは必ずしも良い事ではないとお分かりいただけるでしょう。"透明な美"は、光が透過することで生じます。

現代のダイヤモンド・リング

Genが昔からこよなく愛する『アール・クレール(透明な芸術)』。

ダイヤモンドの魅力は強烈な輝きに加えて、透明な美しさです。この2つの要素が組み合わさることで、瑞々しい輝きが生まれます。光が抜けない現代のアイデアルカットには、この美しさが出せません。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

透明感ある、瑞々しい輝き。

厚みのあるクラウンから放たれる、ダイナミックなシンチレーション。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

インクリュージョンが少ない極上ダイヤモンドだからこその、カラフルで美しいファイア。

内部反射が何度も繰り返されることで、ファイアが発生します。内包物が多いと光は拡散してしまい、内部反射は止まってしまいます。

【参考】厚みが薄い現代のダイヤモンド
【参考】1ctオーバーのダイヤモンド・リング(ハリーウィンストン 現代) 婚約指輪に推奨されていたダイヤモンド・リング(現代)

また、底面で反射した光が上部から抜けてしまっても、複雑な内部反射は起きません。現代の厚みが薄いカットは、複雑な内部反射が起こりにくい構造でもあります。

現代のダイヤモンドジュエリーから印象的なファイアを感じられないのは、構造的にファイアが発生しにくいということもあります。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのファイアとシンチレーション

透明感、ダイナミックなシンチレーション、カラフルなファイア。

人工的な対称性の高さによるバランスとは異なる、人の手によってのみ生み出される"調和した美しさ"がここにあります。
1つ1つの天然ダイヤモンドの個性を生かしながらカットしますが、それにはカットする職人自身の美的センスが大きく効いていきます。同じ原石だったとしても、誰がカットするかで仕上がりが変わります。どの角度でファセットを整えるか、どこまで削るのか、どの程度で完成したと見なすのか。

この1粒をカットした職人の高度な技術と、卓越した美的センスの絶妙なバランスによって、このダイヤモンドには心地よい調和が生まれているのです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのファイアとシンチレーション

不自然さを感じる、人工的で緊張感を感じるバランスとは一線を画します。1つ1つは対称ではないファセットが、全体として心地よく調和した状態です。このような状態にこそ人は心地よさや美しさ、芸術性を感じ、心で楽しむことができるのです。

「対象では無いけれど、バランスが取れて調和している。」
1/fの揺らぎにも通じる、揺らぎある美。次はどのような表情を魅せてくれるのだろう・・。目が離せなくなる美、いつまで見ていても飽きることのない美。

感性と真心を込めてカットされたハイエンドのダイヤモンドは、たった1粒であってもこれほどまでにアーティスティックで美しいものなのです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この美に関しては、ダイヤモンドのカットの近代化によって、戦後を待たずに廃れてしまいました。高度な技術と、恐ろしいまでの忍耐力を要してカットされていた、19世紀までのダイヤモンド・ジュエリーにだけ見ることができる、儚く貴重な美でもあるのです・・。

ジョージアンの極上クッションシェイプ・ダイヤモンド
ジョージアンの極上クッションシェイプ・ダイヤモンド
ジョージアンの極上クッションシェイプ・ダイヤモンド

2-3. オープンセッティングだからこそのクリアな美しさ

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ダイヤモンドはオープンセッティングです。

ジョージアンのクローズドセッティング・ダイヤモンド
コルヌコピアの18世紀のオールドカット・ダイヤモンドのブローチ
 アンティーク・ジュエリー『コルヌコピア』
コルヌコピア ダイヤモンド ブローチ
イギリス 18世紀後期
SOLD
裏
ジョージアンのダイヤモンド・ジュエリーは、オープンセッティングとクローズドセッティングの両方があります。

箔を敷き、そこから光を反射させるクローズドセッティングの場合、ダイヤモンドの透明感ではなく、金属反射によって煌めきを強化する方向性になります。

最も大きなステップカットの輝きの違い
ダイヤモンド表面ファセットの反射 下の金属箔の反射
コルヌコピア ブローチ  アンティーク・ジュエリー コルヌコピア ブローチ  アンティーク・ジュエリー コルヌコピア ブローチ  アンティーク・ジュエリー

ステップカット・ダイヤモンドは透明感が魅力です。その一方で、ローズカットやオールドヨーロピアンカットほど、輝きの印象は強くありません。

箔を敷くことで、底から光が返って来るようになります。『コルヌコピア』の一番大きなダイヤモンドに注目すると、ダイヤモンドの表面ファセットから反射する場合と、底に敷いた金属箔の反射ではまた印象が異なることにお気づきいただけると思います。

クローズドセッティングの場合、このように輝きが強化される一方で、透明感は感じにくくなります。

18世紀の美しいブルー・ギロッシュエナメルが印象的な勿忘草のペンダント『忘れな草』
ブルー・ギロッシュエナメル ペンダント
フランス? 18世紀後期(1780〜1800年頃)
¥1,400,000-(税込10%)
裏のロケットと髪の毛

その違いは、『忘れな草』が分かりやすいかもしれません。

この宝物のダイヤモンドは、全てオールドヨーロピアンカットです。トップの一番大きなダイヤモンドのみ、オープンセッティングです。

箔がほぼ変色していない、風防の中のダイヤモンドと比べても、オープンセッティングの石ははっきり違いが分かるほど透明感とクリアカラーの印象が強いです。

もちろん、最上質の石を使っていてこそです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

1粒で王侯貴族のハイクラスのリングとして成立するだけあって、ダイヤモンドは大きさと存在感があります。透明感も十分に楽しめるサイズです♪

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←↑等倍

ダイヤモンドのインクリュージョンの鑑別は、10倍の拡大鏡で行います。通常はここまで拡大しませんし、超拡大に耐えられるのは上質中の最上質の石だけです。

クローズドセッティングの裏側まで透けて見えるほど、クリアな石です。そのような透明な石から放たれる煌めきと色とりどりのファイアは、見る者に不思議な感覚も与えます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

暗い場所だと、透明感よりもダイヤモンド光沢の方が強く感じます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

明るい場所だと透明感を感じやすいです。厚みのあるダイヤモンドが活きていますね♪

青色だけでなく、虹色のファイアも薄っすらと浮かび上がっています。同じ角度で覗き込んだとしても、光の当たる環境によって全く異なる輝きを魅せてくれます。見るたびに表情が変わるからこそ、飽きることがありません。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ダイヤモンド本来のポテンシャルが最大限に惹き出された、本当に見事な石です!!♪

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この角度でも、薄っすらと虹色のファイアが浮かび上がっています。肉眼ではっきり分かるものではありませんが、このような輝きの1つ1つが無意識にも作用し、美しいと感じさせているのでしょう♪♪

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

小さいと、感じるのは主に煌めきとなるのですが、大きさのあるダイヤモンドだからこそ透明感ある美を楽しむことができます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

透明感、煌めき、色とりどりのファイア。
極上だからこそ、ダイヤモンド本来の魅力を存分に堪能できます♪♪

この魅力を知ると、現代ジュエリーには全く魅力を感じなくなるんです!!♪

3. 時代を超越した傑出したデザイン

様々な蛇モチーフの宝物
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングジョージアン
ウロボロス・リング
イギリス 19世紀初期
18世紀ジャワのスネーク(ナガ)のダイヤモンド&ゴールド・リングウロボロス ブローチ
イギリス 1850〜1860年頃
SOLD
古代エジプトのゴールドのスネークリングブローチ&ポージー・ホルダー
イギリス 1860年頃
SOLD

Genもスタイリッシュなデザインが好みなので、ご紹介した蛇ジュエリーもセンスの良いもの揃いです。ただ、その中でも今回の宝物のデザインは傑出しています。

後のヴィクトリアンの宝物が、良い意味でどこかクラシックさも感じさせる一方で、今回の宝物は時代を超越した普遍的な魅力を持っています。だからこそ、後の時代のリメイクを免れました。いつの時代の人にとってもリメイクの必要がない、普遍性を持つデザインなのです。

3-1. 技術と手間あってこそのシンプルイズベスト

リージェンシー フォーカラー・ゴールド 回転式フォブシール アンティークジュエリー『大切な想い人』
リージェンシー フォーカラー・ゴールド
回転式フォブシール
イギリス 1811〜1820年頃
¥1,200,000-(税込10%)

ジョージアン・ジュエリーは、アンティークジュエリー市場でも別格視されます。

産業革命によって台頭した中産階級がジュエリーを買い漁り始めるヴィクトリアン中期以降と異なり、それ以前の古いジュエリーは上流階級のためだけに作られました。

作られた絶対数がそもそも少ないですし、いずれもお金のことはまるで考えていないような贅沢な作りになっています。

オーダー主のありったけのセンスと教養と情熱、そしてそれに応えた職人の技術と真心が詰まっています。

ジョージアン〜アーリー・ヴィクトリアンの蛇リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングダイヤモンド
ウロボロス・リング
イギリス 19世紀初期
ジョージアンのガーネットのスネーク・リングガーネット スネーク・リング
ヨーロッパ 1830年頃
SOLD
スウェーデンのアンティークのスネーク・ルビー・リング秘密のロケット付き ルビー スネーク・リング
スウェーデン 1848年
SOLD

一般的には、職人の手間が見た目に分かりやすいものが多いです。忍耐力を要する彫金や、細密さを追求した細工です。そのような中で、今回の宝物は異彩を放っています。デザイン的には現代ジュエリーかと思えるほど、スタイリッシュでシンプルです。

選んだ宝石がクリアなダイヤモンドだったのも、モダンな印象の原因です。カラーストーンは時に、クラシックな雰囲気も与えます。特にガーネットはヴィクトリアン中後期に大流行したため、アンティークの印象を強く感じさせます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

あまりにも異質だったので、買付の際には本物のジョージアン・ジュエリーなのか念入りに見極めました。

この特殊なデザインを実現するには、やはり高度なジョージアンの技術あってこそでした!♪

3-1-1. 強度のある鍛造だからこそ可能なデザイン

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←↑等倍

自身の尾をパクッと咥えたウロボロスのデザイン。

頭部に対して細い尻尾は、強度が大丈夫なのか不安を感じるほどですよね。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

頭と尾の接続部が蝋付だったら、強度的に弱点となったかもしれません。しかしながら、1つの一体化した環状構造で作られています。蛇の顔に当たる部分は後で乗せることで高さを出し、実際に尾を飲み込んでいるように見せる視覚デザインになっているのです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

接合されているのではなく、鍛造で1つの塊としてリング状にしたゴールドを削り出して、ウロボロスの形状に整えています。強度は高いですが、高度な技術と共に、非常に手間もかかる方法です。コスト削減を追い求めた安物ではなく、真の高級品の証でもあります。

ジョージアンの貴族の女性のミニアチュール・リング『愛しきひと』
ミニアチュール・ポートレート リング
イギリス 18世紀後期
SOLD
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

蛇の頭部と比べると不安を感じる細さかもしれませんが、もっと細くても、しっかりとしたアンティークの作りならば200年以上を経ても強度を保っています。

特にゴールドが高かった時代だからこそ、より高度な技術を込めて作られたと言えます。

鋳造の量産リング(グッチ 現代)18K

この現代のウロボロス・リングは高級ブランド品ですが、アクセサリーと区別がつかないほど酷い作りです。

模様も彫金ではなく鋳造によるものなので、繊細さが微塵もなくヌルッとした気持ち悪い印象です。

鋳造の量産ジュエリーは、石のセットも人件費や技術費がかかるようなことはしません。

【参考】鋳造の量産ジュエリーの石のセッティング

融解した金属を型に流して冷やし固める鋳造(キャスト法)の場合、石膏型を作るための樹脂に埋め込むやり方で宝石が楽にセットできます。職人による高度な技術も不要で、工場の作業員で十分です。

【参考】グッチのウロボロス・リング(現代)

ただでさえ魅力のない低品質のメレダイヤが鋳造のゴールドに埋め込まれている様は、タイヤに大量の小石が挟まっているかのようにも見えます。尾に向かって少しずつ細くなるデザインですが、鋳造の金属は強度がないため、あまり細くすることができません。

成金思考に染まっていると、「ゴールドがたっぷり使ってあって贅沢!」と思考しますが、実際は技術料や人件費をケチった安い作りだから太いだけです。私にはどうしてもタイヤに見えます。

アンティークの最高級品 現代の量産品
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

同じダイヤモンドのウロボロス・リングでも、並べると全く雰囲気が異なりますね。

価値のないメレダイヤを数だけはたくさん使って、手間も材料費もかけることなく、見た目だけは尤もらしく見せて高く売ろうとする現代ジュエリーのみみっちさが際立ちます。

今回の宝物は、極上のダイヤモンドを1粒だけ使っている潔さが素晴らしいですね。シングル・ストーンだからこそ、ウロボロスのデザインそのものに意識が行きます。蛇らしい、ニョロニョロと畝った細い尾を咥えた蛇。単純なことに見えますが、ジョージアンならではの高度な技術と驚くほどの手間が込められているのです。

3-1-2. 超絶技巧の彫金を駆使した尾の躍動感

ジョージアンの最高級品 【参考】ヴィンテージの安物
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

さりげないので意識しないと凄いことに思えませんが、今回の宝物の尾の畝りからもジョージアン貴族ならではの美意識の高さが伺えます。畝りなど付けず、単純な直線にすれば作るのは容易です。付けなくてもウロボロスとしては成立します。

古代の貴重なスネーク・リング
グレコエジプトのゴールドのスネーク・リンググレコ・エジプト
ゴールド・リング
古代ギリシャ 紀元前4〜紀元前3世紀
SOLD
古代エジプトのゴールドのスネークリングヘレニスティック・スネークリング
古代エジプト 紀元前2世紀頃
SOLD

しかし、やはり蛇と言えばニョロニョロと畝る姿が特徴です。

手足がないからこその姿であり、他にはない特徴が見る者を魅了するわけです。畝りを表現すると、躍動感が生まれます。畝る表現によって生命が宿り、生き生きとし始めます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この宝物は畝りがわざとらし過ぎず、絶妙な加減で表現されているのが素晴らしいです。

日本と違い、ヨーロッパは分かりやすい美を求めがちです。だから表現が極端で、デフォルメされている方が多いです。

日本人の美意識に通じる、絶妙かつさりげない表現であることに驚きます。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

形状自体は、緩やかな畝りです。

しかしながら、実際の畝り以上に躍動感を感じます。これには、きちんと視覚的な理由があります。尾の彫金にご注目ください。

草木染めの生糸生糸の束 ジョージアンの蛇の尾の彫金

まるでロープや縄をなったようなデザインで彫金されていいます。

日本でも藁をなって作る藁縄の結界や注連縄は、蛇を表すとも言いますね。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

深い彫金による、立体的な造形です。発想も見事ですし、まさに技術の高かった古い時代ならではの職人芸を感じます♪♪

このような立体造形的な彫金は、ハイクラスのアンティークジュエリーでも多くはありません。

第一級の職人による手彫りの彫金
立体造形的な深い彫金 模様状の浅い彫金
エンジンターンを使ったゴールドのロケット・ペンダント アンティーク『Geometric Art』
ゴールド ロケット・ペンダント
イギリス 1840年頃
SOLD
ヴィクトリアンのキャッツアイ&ローズカット・ダイヤモンドのハート型パドルロック・ペンダント『愛の錠前』
パドルロック ペンダント
イギリス 19世紀中期
SOLD

多いのは右のような、模様状の浅い彫金です。これも高度な技術とセンスが必要ですから、感覚的に「美しい!」と感じることのできるものは、一部の高級品のみです。

左の『Geometoric Art』は機械を使ったエンジンターンと、高度な職人技による彫金のコラボレーションが美しい宝物ですが、今回は外周とバチカンの手彫りの彫金にご注目ください。

ゴールド ロケット・ペンダント アンティーク

縁に施された、深く力感溢れる彫金は本当に見事です。このような彫金はタガネで彫ってヤスリで磨いて仕上げるのですが、ここまでのハイレベルの物は滅多に出会うことがありません。Genも認める、滅多に見ることのない19世紀の第一級の彫金です。

ジョージアンのウロボロスの尾の彫金
ジョージアンの蛇の尾の彫金
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←↑等倍

ジョージアンの第一級の職人の高度な技術が分かる、見事な表現力です!!
まるで本当にゴールドを捻って作ったかのような造形です。この彫金がなければ、単調でつまらないウロボロスになっていたはずです。

彫金を駆使した蛇の表現
浅い彫金
-<静> 模様を表現-
深い彫金
-<動> 躍動感を表現-
古代エジプトのゴールドのスネークリングヘレニスティック・スネークリング
古代エジプト 紀元前2世紀頃
SOLD
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングダイヤモンド ウロボロス・クリング
イギリス 19世紀初期
今回の宝物

浅い彫金だと、蛇の鱗や模様の表現となります。左の古代エジプトの蛇リングの場合、躍動感については尾の形状そのもので表現しています。

今回の宝物の場合、尾の形状そのものはカーブが緩やかです。しかしながら、そこへ渦巻き状の深い彫金を重ねることで、蛇の尾が実際の形状より遥かに畝っているように見えるのです。視覚効果を巧みに利用した、極めて知的でセンスの良いウロボロスと言えます♪♪

アンティークのゴールド・ジュエリー
成金向けの安物 王侯貴族のハイジュエリー
手抜きしたハリボテの作り 高度な技術と手間が分かり難い 見た目で分かり易い
【参考】ミッド・ヴィクトリアンの典型的な成金ジュエリー ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リングウロボロス・クリング
イギリス 19世紀初期
今回の宝物
眼光鋭い鷲のローズカット・ダイヤモンドのゴールド・クラバットピン『EAGLE EYE』
¥1,500,000-(税込10%)

頑張った感が分かりやすい"細密で密集した彫金"と異なり、一見するとシンプルに見えるこのような宝物は、アンティークジュエリーがお好きな方でも価値が分かりにくいです。

技術も手間もない、手抜きしたハリボテ・ジュエリーと一見違いが分かりにくからです。だから玄人向けとも言えます。今回の宝物は万人受けするであろう魅力的なデザインではありますが、より玄人を強く惹き付ける『特別な宝物』とも言えます♪♪

3-2. ジョージアンらしい細部の作り込み

3-2-1. 頭部の精緻な作り

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

頭部のパーツは、リング本体とは別で作って蝋付しています。

特殊なデザインを具現化するために工夫を凝らした、特別な作りです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

高さが出ることで、蛇の生き生きとした表現となっています。フォルムも可愛らしさがあって、全体のバランスが絶妙です♪

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

リアルを追求した、おどろおどろしい蛇ではなく、幼稚さとはまた別の可愛らしい顔立ちが良いですね♪

瞳は敢えてダイヤモンドにせず、頭部の最上級のダイヤモンドだけに意識が集中できる、デザイン的な配慮も素晴らしいです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←↑等倍

蛇の頭部のセンス抜群のフォルムだけでも圧巻ですが、別々に作ったリング本体とカーブをピッタリ合わせて、完璧に蝋付した神技の技術に惚れ惚れします♪♪
200年ほど経過しているとはとても思えない、本当に精緻な作りです。昔の職人さんは凄いですね。

3-2-2. 高さのあるダイヤモンドのセッティング

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

立体デザインの妙と言うのでしょう。蛇の頭部は連続した緩やかな立体となっているように見えますが、実はダイヤモンドにかなりの高さがあります。

だから実物は、ダイヤモンドがとても印象的です。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ダイヤモンドが黄ばんで見えぬよう、シルバーでセッティングされています。覆輪留めと爪留めを組み合わせたようなセッティングは、古い時代ならではです。爪となる立体造形は、丹念に磨き上げて作っています。

18世紀 ステップカット・ダイヤモンド クロス ペンダント アンティークジュエリー『古のモダン・クロス』
ステップカット・ダイヤモンド クロス
フランス 18世紀初期(1700〜1750年頃)
SOLD

爪の数は、好みによる所が大きいです。

固定は主に覆輪部分が担います。

爪の数によって、雰囲気が変わります。

この宝物も、全てのダイヤモンドにたくさんの爪があったら冗長な印象だったでしょう。

中央のダイヤモンドのみ多めに爪をデザインすることで、このダイヤモンドの特別感を強調しつつ、緩急に伴う動きへと繋がっています。

古の価値あるアンティークジュエリーは、本当に驚くほど細部まで気を遣ってデザインされています。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

この宝物の場合、特別な1粒だけを使っているので、それを強調するように多くの爪がデザインされています。

しかも、覆輪のフチより爪が僅かに飛び出しており、爪もダイヤモンドの固定に寄与しています

この1粒がいかに価値があるのかの証明です。

紛失したら替えがきかない、特別な1粒であることを語っています。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←↑等倍

爪は12あります。これだけ拡大しても粗の見えない、見事な作りです。実際のサイズでは、爪はかなり密集しています。爪と爪の間は、幅1mmもありません。1mm未満の極細ヤスリを使わないと、作れないデザインです。もちろん、専用の道具から制作していたはずです。

シングル・ストーンの固定
ジョージアンの最高級品 【参考】現代の量産品
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ぶつけたりしやすいリングの場合、ダイヤモンドに高さを出すには大変です。他のアイテムより、遥かに耐久性が要求されます。現代ジュエリーの場合、爪を太くすることで高さは出せていますが、美しさが微塵もありません。ただ強度的なスペックを満たしているだけの工業製品です。

素材が異なるだけで、現代ジュエリーは他の工業製品と作り方は同じです。

当然、見た目の違いもありません。

それなのに高級ブランドのお墨付きや、ジュエリーと名前が付いているだけで何十万、何百万円の値段で買う人がいるのが不思議です。

何か、その人にとっては違いや価値があるのかもしれません。私には分かりません(笑)

ジョージアンの花と蝶のトレンブラン・ブローチダイヤモンド&ルビー トレンブラン・ブローチ
フランス 1820年頃
SOLD
ジョージアンの花と蝶のトレンブラン・ブローチ

ウロボロス・リングと同時代の宝物には、爪留でセッティングされたダイヤモンドもあります。技術的には可能ですが、リングとしての耐久性を考えると覆輪留めの方が安全と判断したのでしょう。

スウェーデンの最高級ダッチローズカット・ダイヤモンド・リングダッチローズカット・ダイヤモンド リング
スウェーデン 18世紀後期
SOLD
アーリー・ヴィクトリアン ダイヤモンド・リング『ミラー・ダイヤモンド』
アーリー・ヴィクトリアン オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド リング
イギリス 1840年頃
¥3,700,000-(税込10%)

今回と同じ覆輪留めのダイヤモンド・リングを見ると、通常は高さを出さない設計であることが分かります。やはり、不意にぶつけてしまうことを気にする人が多かったのでしょう。

同時代のダイヤモンド・リング
高さあり×オープンセッティング 高さなし×クローズドセッティング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング ジョージアンのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

正面の画像だと違いが分かりにくいですが、立体構造が異なると、見た時の印象もかなり違います。今回の宝物はデザインを最重要としており、石の大きさや全体の立体デザインが細部まで気を遣って設計されています。右の宝物は、オーソドックスな高級ダイヤモンド・リングです。使いやすいよう、石に高さは出さないデザインです。

爪の数が違う上に、セッティングの高さが異なるので、かなり雰囲気は違います。また、オープン・セッティングとクローズド・セッティングによる違いも分かりやすいですね。今回の宝物は透明感が美しいです。右の宝物は特にダイヤモンドが大きく、箔を使うクローズド・セッティングによって強調された煌めきで、その価値を存分に楽しむことができます。

同時代の異なるセッティング法のリング
全体のデザイン重視 宝石を重視
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング ジョージアンのオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド・リング

右のようなリングは稀でも見つかりますが、ウロボロス・リングは唯一無二ですね♪

Gen曰く、リングはデザインできる余地が少なく、表現の幅に制約があるため、面白いデザインの宝物が滅多に出て来ないそうです。成金思考の人は「石が大きければ大きいほど是!」と考えますが、宝石が大きいとその分だけデザインできる余地も少なくなります。"ちょうどバランス"というものがあるのです。

ただ、そのような境地に到達できるのは限られた人たちだけです。有り余る財力を持ち、大きいものでも好きに選ぶことができる。そのような人だからこそ成金のように大きさを追い求めることなく、敢えてデザイン重視でオーダーすることができるわけです。言うなれば、右のような何にでも合わせやすい定番リングは既に持っているから、次のリングはちょっと個性的なものが欲しいと思えるような人物というわけです。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

爪の形状も高さがあって美しいです。

よく磨き上げられており、ダイヤモンドに負けないくらい強く輝き、ダイヤモンドを惹き立てています。

デザイン、作り共に見事です!!♪

3-2-3. 見えない部分へのデザイン的なこだわり

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

裏側を見た時、頭部のパーツの裏側に波型の蛇のような模様がデザインされていることに気づいて感激しました♪

これこそ、王侯貴族のために作られた最高級品の証でもあります。

古い時代の王侯貴族の最高級リング
ジャルデネッティ・リング アンティーク・ジュエリー『南国の風』
ジャルデネッティ・リング
フランス 1800〜1820年頃
SOLD
最高級ジャルデネッティ・リングの裏側

本当に良いものは、見えない部分への美意識が行き届いているものです。手間やお金を惜しみません!!

ローズカット・ダイヤモンドのフルーツバスケットのジャルディネッティ・リング『南国の果実』
ジャルディネッティ ダイヤモンド リング
フランス? 18世紀後期
SOLD
ジャルデネッティ・リングのフルーツバスケットの裏側の彫金

オランジェリーでの社交用に作られた、南国の果実のフルーツ・バスケットも見えない裏側にも彫金でバスケットが表現されています。
ただの宝石頼りの成金ジュエリーと比べれば、美意識の差は歴然ですね。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
←↑等倍

左と端と、上部内側の変形している箇所は刻印です。スペースが狭すぎて途切れていることもあり、解読には至りませんでした。

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

それにしても、ウロボロス・リングの見えない裏側に蛇行模様だなんて、見ているだけで嬉しくなりますね。

持ち主は本当に美意識が高い、センスの良い人物だったのでしょう♪

サイド

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング

ジョージアンの高度なジュエリー制作技術が分かる、上質な作りです。

裏側

ジョージアンのクッションシェイプ・ダイヤモンドのウロボロス・リング
裏側もキリッとした良い作りです。

着用イメージ

ジョージアンのダイヤモンドのウロボロス・リングの着用イメージ

シングル・ストーンで、これだけ魅力的なデザインのダイヤモンド・リングは現代ジュエリーはおろか、アンティークのハイジュエリーでも見つけるのは難しいです。

HERITAGE基準のジョージアン・ジュエリー自体が市場には滅多に出てこない中、現代の感覚でコーディネートもしやすいこの宝物が、よくぞHERITAGEに来てくれたものだと嬉しくなります♪

ジュエリーとして身を飾るだけでなく、眺めて楽しむこともできる知的な宝物です♪♪