No.00379 コスモス

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

 

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

極上のクッションシェイプ・ダイヤモンドを組み合わせた
特別なシードパール・ジュエリーです♪

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

贅沢に原石をカットした極厚のダイヤモンド!♪

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

飛び出すほど厚みのある上質なシードパール♪

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

立体感ある複雑な形状の花びらのフレーム♪

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス ←等倍↑

1枚1枚の花びらの境界のシャープな作り!
磨き上げられた黄金のフレームの神々しい輝き!
実物の大きさを考えるとまさに神技です!♪

 

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアスクッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

角度可変の前代未聞の金具は、持ち主の美意識と莫大な財力の証♪

 

 

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

『コスモス』
ダイヤモンド&天然真珠 フラワー・ピアス

イギリス 1870年頃
クッションシェイプ・ダイヤモンド、天然真珠、ハイキャラット・ゴールド(15~18ct)
サイズ:本体直径1.2cm
重量:2.2g
¥1,440,000-(税込10%)

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

 南アフリカのダイヤモンド・ラッシュが始まったばかりだったこその、贅沢なクッションシェイプ・ダイヤモンドが魅力的な美しいシードパール・フラワーピアスです。最高級品だからこそ天然真珠も照り艶が美しく、厚みもあって華やかです。宝石に見合う、第一級の職人による作りも目を見張るもので、黄金の花びらの複雑で立体的な形状とその精緻さはまさに神技です。オリジナルの金具は蝶番によって可動する構造で、お花の角度を微調整できます。持ち主の高い美意識と、お金を気にする必要がないほどの莫大な財力の現れです。
 モチーフはコスモスで、持ち主の特別な身分と教養を考えると、同時に宇宙のコスモスも暗示している可能性が高いです。古代から特別な人々にのみ受け継がれてきた秘密の叡智として、調和と秩序あるシステムとしての宇宙(コスモス)の概念があります。それを表現するのが神聖幾何学フラワーオブライフで、お花のコスモスと特別なダイヤモンドにその意味を込めたとみられます。そうでなければ、ここまでのものは作らないはずです。ただ美しいだけでなく、王侯貴族の特別な教養が込められた、知的にもとっても魅力的なピアスです♪

 

 

この宝物のポイント

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
  1. 秋桜のような美しいお花のデザイン
    1. 個性豊かな高級品の花びらの形状&枚数
    2. 古代ギリシャのピタゴラスに遡るコスモスの語源
    3. 秘密の教養『宇宙観』としてのコスモス
  2. 時代背景を感じる魅力的な宝石の組み合わせ
    1. ダイヤを使うシードパールジュエリーは特別の証
    2. 1870年代ならではの贅沢なダイヤモンド
    3. 照り艶の美しい存在感のある天然真珠
  3. 高級品ならではのこだわりが分かる作り
    1. 完成度の高い黄金の花びらの美しいフォルム
    2. 角度が調整できるオリジナルの上質な金具
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

※作りだけ知りたい方は項目2からご覧ください

 

 

1. 秋桜のような美しいお花のデザイン

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

 ハーフパールをふんだんに使ったゴールド・ジュエリーは、レイト・ヴィクトリアンの上流階級の正装用デイ・ジュエリーとして流行しました。

『ホランド・ハウスのガーデン・パーティ』(1872年)

これは『ミリオネア・ロウ』と呼ばれるイギリス屈指の高級住宅地の1つホランド・パークに存在した、ホランド・ハウスでのガーデン・パーティです。ガーデニングやピクニックが流行し、その延長的にガーデンパーティが大いに流行しました。開放感ある空の下、太陽の陽射しを感じながら緑に囲まれ、自然の風に吹かれ、思い思いの時間を過ごす社交は支持を得ないわけがありません♪

上流階級の社交ですから、屋外とは言っても身なりはしっかり整えます。男性はシルクハットを着用しています。シルクハットは欧米では正礼装の必須アイテムとして歴史があり、昼間の正装であるモーニング・ドレス(モーニング・コート)ではシルクハットは必須とされました。

正装用のジュエリー
デイ・ジュエリー ナイト・ジュエリー
レイトヴィクトリアンのGUBSON社のハーフパールのお花のブローチシードパール フラワー ブローチ
イギリス(GUBSON社) 1880~1900年頃
SOLD
ヴィクトリアンのフラワーモチーフのトレンブランダイヤモンド トレンブラン ブローチ
イギリス 1870~1880年頃
SOLD

当然ながら女性も正装で参加します。現代の成金セレブを含む庶民と異なり、古の王侯貴族社会には厳密なTPOがありました。ダイヤモンドなどの輝きの華やかなジュエリーは夜用とされ、天然真珠や芸術系(金細工/カメオ/モザイク等)のジュエリーは日中用とされました。この2つは同格で、日中用か夜用かの違いです。

一部の現代人にありがちな「真珠よりダイヤモンドが高級!」という発想は、ダイヤモンドを高く売りたい現代宝飾業界の宣伝文句を鵜呑みにした間抜けなものです。映画や雑誌、有名セレブを使って繰り返し洗脳していますし、現代市場で目にするのは本物の宝石として稀少価値のある天然真珠ではなく、ドブ貝の核に薄く真珠層をメッキしただけの模造品(本真珠/養殖真珠)なので安っぽく、しょうがないと言えばしょうがなくもあります。

アイテム豊富な正装用シードパール・ジュエリー
レイト・ヴィクトリアンのシードパールのフラワー・ネックレスシードパール ネックレス
イギリス 1880-1900年頃
SOLD
レイト・ヴィクトリアンのシードパールのフラワー・ブローチシードパール フラワー ブローチ
イギリス 1890年頃
SOLD
レイトヴィクトリアンのハーフパールのお花のバングルシードパール バングル
イギリス 1880年頃
SOLD

正装用だからこそ、アイテムも種類が豊富です。

ネックレスやブローチ、バングルもあります。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

もちろんピアスも必須です。単品だと現代の日本人には分かりにくいですが、これは上流階級の正装用のデイ・ジュエリーとして制作された最高級品なのです♪

1-1. 個性豊かな高級品の花びらの形状&枚数

1-1-1. 植物の姿に特に意識が高まった時代

ガーデニング(19世紀後期)

 上流階級にガーデニングが流行し、様々な種類の花々に意識が向く時代でした。

日本美術の影響により、身近にある自然界のありのままの姿に美しさとデザインを求めるようになった『アーツ&クラフツ運動』が流行した時代とも重なります。

天然真珠のフランボワーズのアールヌーヴォー・ゴールド・ネックレス着用イメージ

『フランボワーズ』
アールヌーヴォー 天然真珠ネックレス
フランス 1890~1900年頃
¥2,200,000-(税込10%)

日本美術の影響以前、ヨーロッパでは王道で定番の植物以外に意識が向くことは殆どありませんでした。豊かな感性と、類い稀なる美意識とセンスを持つごく一部のヨーロッパ上流階級が、それまでにはあり得なかった種類の植物をモチーフに選び、驚くほどの洞察力で美しくアーティスティックなジュエリーを創った時代です。

1-1-2. 自分らしい個性を追求する成熟した王侯貴族のジュエリー

 現代ジュエリーは美しさではなく安さを求める大多数の顧客に応え、コストカットが最優先されたデザインです。だから大体どのブランドでも似たようなデザインに収束します。1つのデザインを量産する上に、バリエーション違いも展開することでデザインを使い回し、コストを抑えます。自身に芯なるものを形成できておらず、自分の好みが分からない或いは好みがない未成熟な人が、人と同じものを持つことで安心感を得るためのものです。
現代の高級ダイヤモンド・ピアス
ハリー・ウィンストン ティファニー
サンフラワー・コレクション ビクトリアTM シリーズ
【引用】HARRY WINSTON / Sunflower ©Harry Winston, Inc. 2025 中古市場で550万円(2025.11.10現在)【引用】HARRY WINSTON / Sunflower ©Harry Winston, Inc. 2025 ¥803,000-(2025.11.10現在)【引用】TIFFANY&CO./ ティファニー ビクトリア ©T&CO.. 2025 ¥4,510,000-(2025.11.10現在)【引用】TIFFANY&CO./ ティファニー ビクトリア ©T&CO.. 2025

現代宝飾業界はダイヤモンドの価値だけで売ろうとし、そのために購買層となる庶民に洗脳教育を施してきました。実際の上質なジュエリー制作に於いて、デザイン費や高度な技術を持つ職人の人件費の方が高いです。モノづくりの費用計算にも携わっていたり、経営者や会計を担当する人ならば、人件費が最もコストがかかることは共通認識だと思います。戦後の一定期間、『専業主婦』の名の下に女性は買うだけの立場となったことで、作る側の裏側を知る機会がなくなり、目には見えない"人件費"が想像できなくなりました。また、主婦の仕事をタダ働きとして扱うことで「人件費=タダ」、「人が動く類のサービス=タダ」という無意識下の意識も醸成されました。

デザインする作業はタダ、作る手間もタダ。モノだけに価値があるという意識に誘導されました。これが物質主義的な戦後の経済活動の元凶です。モノにしか価値がない、つまりダイヤモンドにしか価値がないと洗脳され、それが思考の大原則となることで、このような製品が成立しています。デザイン自体はプロではなく、才能がないそこら辺の人でも発想できるレベルです。購入した際のブランドの箱付、保証書付でなければ中古市場での価値は激減します。モノそのものに価値がなく、ブランドの威光によるただの虚飾に過ぎない証です。価格の大半は購入する際のチヤホヤ代など、虚栄心や承認欲を満たす代金と見ておきましょう。結局はサービス費やブランディング費を含む人件費です(笑)

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

古のヨーロッパ社交界を形成していたのは、現代ではビリオネアに相当するごく少数の人々です。2024年時点で史上最多、2,781人が世界に存在します。その家族も含めて想像するよ良いでしょう。現代の日本では1億円がさも凄いように言われたりもしますが、平均的な庶民でも稼げる額ですし、たとえ10億円程度でも使い方次第ですぐなくなる額です。好きなように使うとすぐなくなりますから、お金の使い方もケチになるのは想像に難くありません。

資産10億ドル(日本円で1,542億円相当、2025年10月時点)の人にとっての100万円は、資産1億円の人にとっての650円相当です。資産1億円があったとして、社交界に参加するためのジュエリーをオーダーする際、「650円だとありきたりなデザインになりますが、倍の1,300円を出していただけるならば唯一無二の特別なデザインでお作りできます。」と言われれば、普通は後者を選ぶでしょう。納得できる素晴らしいものを実現させてくれるならば、資産1億円の人にとって10倍の額6,500円でも全く惜しくないと思います。

個性豊かなシードパールのお花
シードパールの神技の透かし細工のアンティークのサンフラワー・ピアス レイトヴィクトリアンのハーフパールのお花のバングル アンティークの天然真珠のウェディング・ネックレス レイト・ヴィクトリアンのシードパールのフラワー・ブローチ レイトヴィクトリアンのGUBSON社のハーフパールのお花のブローチ

資産1億や10億程度だと住居費や生活費の占める割合が高く、ジュエリーの価格は大いに気にします。しかし資産1,542億円を超える世界では、価格は物差しになりません。『持ち主の人間力』を表す指標として美しさや芸術性、知性が重要となります。誰かと同じ、つまり誰か他の人でも代わりがきく存在に高い価値は見出されません。人と同じものを持つことで安心を得ようとする未熟な人々とは対極で、成熟した存在は自分らしい優れた個性を求めます。だから同じ『シードパールのお花のジュエリー』と一言で表現しても、そのデザインは驚くほど多様性に富みます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

花びらの枚数、形状。宝石を組み合わせる場合は、その種類でも雰囲気は大きく変化します。この宝物も、持ち主の明確な意図があってデザインされたのは確実です。

1-2. 古代ギリシャのピタゴラスに遡るコスモスの語源

 アンティークジュエリーのお花モチーフは、種類を明確に特定するのは難しいことも多いです。教養を必須とする世界なので、花言葉や新種、神話に因むなど共有されている教養に基づく場合、推定が可能な場合もあります。持ち主にとっての超個人的な理由に因む場合、推定はほぼ不可能です。

古代ギリシャ(ローマ属州)の医者/薬理学者/植物学者ペダニウス・ディオスコリデス(40年頃-90年) 『薬物誌(ギリシャ本草)』(ペダニウス・ディオスコリデス 1世紀)
が原本のウィーン写本(6世紀初期)
『ヨモギ』 ウ『ウーリーブラックベリー』

アンティーク着物もそうですが、想像上の理想の花をデフォルメしてデザインすることもあります。ただ、啓蒙時代に標本採集と分類学が知的な上流階級に大流行し、著しく発展しました。さらに『雑草』をもこよなく愛する、むしろ雑草にこそ美の極地を見出す日本美術の高尚な心象世界の影響で、ヨーロッパ王侯貴族はそれまで意識してこなかった身近な動植物に眼を向けるようになりました。

カーブドアイボリーのフクシアのアンティーク・ブローチ『フクシア』
カーブドアイボリー ブローチ
フランス 1870年頃
SOLD
ライラックのローズカット・ダイヤモンドのフランスのアンティーク・ブローチ『ライラック』
ローズカット・ダヤモンド ブローチ
フランス 1870年頃
SOLD

だからこそこの時代の特に優れたハイジュエリーは、具体的な草花をモチーフにしている場合が多いです。

神技の細工で実現したお花の耳飾り
マーガレット 白バラ サンフラワー
天然真珠、ローズカット・ダイヤモンド ピアス アンティークジュエリー天然真珠、ローズカット・ダイヤモンド ピアス アンティークジュエリー
『マーガレット』
宝石&エナメル ピアス
イギリス 1880年頃
SOLD
神技のカーブドアイボリーの白バラのイヤリング『薔薇』
カーブドアイボリー・イヤリング
フランス 19世紀後期
SOLD
天然真珠&ゴールドのアンティーク・ピアス『Sunflower』
天然真珠ゴールド・ピアス
イギリス 1880年頃
SOLD

葉や蕾、枝ぶりなどが分からない、お花を単独でデザインしたピアスやイヤリングの場合、お花の種類を特定できるのはかなり稀です。しかし、このように具体的なお花をイメージし、持ち主にとっての何らかの意味を持たせているのは上流階級のジュエリーとしては常識と言えます。

青森の下北駅のコスモスコスモス(青森の下北駅 2022.10.16) クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

今回の宝物を眺めていて、直感的に『コスモス』を想像しました。

思い込みやデッチ上げと感じる方もいらっしゃると思いますし、実際にコスモスと断定するのは不可能です。

しかし当時のヨーロッパ王侯貴族が持っていた知識や、秘密の教養を踏まえると、かなり可能性は高いと思うことができます。

1-2-1. 外来種のコスモス

北村製茶のブラックキューブ入りの秋桜の和紅茶(べにふうき)秋桜の和紅茶

 これは花の名を響きに持つお客様から頂いた和紅茶で、『秋桜』の名前がついています。

秋桜(アキザクラ)とも呼ばれる『コスモス』は、日本のイメージが強いです。

青森の下北駅のコスモスコスモス(青森の下北駅 2022.10.16)

全国でもコスモスをシンボルとする自治体は多数あり、多くの場所で見ることができます。すっかり日本人の目に馴染んでいるコスモスですが、やってきたのは明治20年(1887年)頃とされ、全国に広まったのは明治末期頃のようです。ハラリと舞い落ちる花びらは、まさに秋の桜です。か弱く見える葉や茎の佇まいも日本人好みで、だからこそ全国に普及し、定番として愛され続けているのでしょう。それほど日本人が感覚的に好きなお花ですが、外来種なので江戸時代の絵画などには描かれないわけですね。

1-2-2. お花の『コスモス』の語源

 コスモスはメキシコ原産とされます。メキシコにいたスペイン出身の聖職者が、花の姿を見て『コスモス』と名付けました。ギリシャ語で『宇宙』やその『秩序』、『調和』を意味する『コスモス』に因みます。

メキシコ高原地帯オアハカ州の野生のコスモス(2013年)
"Cosmos bipinnatus, a wild Cosmos(97612272733)" ©Dick Culbert from Gibsons, B.C., Canada(7 August 2013, 20:40)/Adapted/CC BY 2.0

花びらが整然と秩序のとれた状態で開花する姿を見て、宇宙(世界)そのものを比喩的に想像したわけですね。ラテン語では『星座の世界』を意味し、"秩序を持つ完結した世界体系"としての宇宙を言います。無秩序でただ何となく存在するボヤけた宇宙はなく、完全なる秩序の元に美しく調和した宇宙を想定しています。実は物凄い命名なのです!♪

1-2-3. 『宇宙』を示す3種類の英単語

 『宇宙』を意味する英単語は主に3種類あり、それぞれ微妙に異なります。

1. Space(スペース)
 大気圏外の空間領域。スペース・シャトルで行く場所とも考えることができ、宇宙全体と言うよりも、惑星間や恒星、銀河間など特定の領域を捉えた言葉です。

2. Universe(ユニバース)
 宇宙全体。Origin of the universe(宇宙の起源)、end of the universe(宇宙の果て)などに使用します。

3. Cosmos(コスモス)
 宇宙全体。完璧な秩序と調和に基づく体系的な存在としての宇宙を想定し、宇宙全体を1つの統合されたシステムとして機能する世界として捉え、特にその意図を強調する際に使用します。

1-2-4. 古代ギリシャに遡る宇宙観『コスモス』の語源

 『コスモス』はスペースやユニバースと比べてマイナーですが、より高尚かつ壮大な印象を備えます。科学的な文脈だけでなく哲学的、詩的な文脈では特に好んで使用されます。

カクテル『コスモポリタン』
 "Cosmopolitan(507690532" ©TheCulinaryGeek from Chicago, USA(5 October 2010, 12:27)/Adapted/CC BY 2.0

コズミック(宇宙の)、コスモロジー(宇宙論)、コズミシズム(宇宙主義/宇宙冷酷主義)、コスモポリタン(国際人/世界を股にかけた人/国境や民族の区別を超越して活躍する世界市民/地球市民)などの派生語もあります。

『コスモポリタン』はカクテルにも命名されています。発祥ははっきり分からないそうですが、1930年代のカクテルブックにもたびたび掲載されており、歴史のあるカクテルです。

古代ギリシャの数学者・哲学者ピタゴラス(紀元前582-紀元前496年)
"Kapitolinischer Pythagoras adjusted" ©Galilea at German Wikipedia(7 May 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0

ヨーロッパの上流階級にとって高尚で憧れのある響きを持つ『コスモス』を、宇宙を示す言葉として最初に用いた哲学者は古代ギリシャのピタゴラスとされます。

紀元前6世紀に『地球球体説』を最初に提唱したことでも知られます。そこから古代ギリシャ天文学で地球球体説が発展しました。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

お花のコスモスと、宇宙観としてのコスモス(宇宙)の関連は古代ギリシャにまで遡らなくては紐解くことができません。

王侯貴族がヨーロッパ美術/文化の原点を古代ギリシャと看做し、特別視してきたのは明確な理由があるのです。

1-3. 秘密の教養『宇宙観』としてのコスモス

1-3-1. ピタゴラスのコネクティング・ザ・ドッツ

ピタゴラスの定理(三平方の定理)
 "Pythagorean" ©Wapcaplet(12 July 2005, 12:27)/Adapted/CC BY-SA 3.0

 ピタゴラスと言えば、一般的な日本人には初等幾何学の『ピタゴラスの定理』が最も身近かもしれません。中学三年生の三学期頃に習い、『三平方の定理』とも呼ばれます。

 c2=a2+b2

直角三角形に於いて、2辺の長さが分かっていれば、残りの1辺の長さも計算できるという定理です。

バビロニア数学について記された粘土板『プリンプトン322』(紀元前1800年頃)

ピタゴラスが思いついたという伝承も存在しますが、実際はピタゴラスより遥かに前から広く知られていました。判明している最初期のものは、バビロン第一王朝時代頃(紀元前20世紀から紀元前16世紀)とされ、バビロニアの粘土板『プリンプトン322』にはピタゴラスの定理に関わる要素が数多く含まれています。双璧を成す『YBC 7289』の裏面にはそれらしき記述もあり、どちらの粘土板も原始ピタゴラス数と関連します。

原始ピタゴラス数の三分木に第4層まで
 "Berggrens's tree with reordered path keys" ©no bias — ???? ??????????? ???????????? — keyn umvisndik preferentsn(18 July 2019)/Adapted/CC BY-SA 4.0

ピタゴラスの時代は、中学三年生で習うような初歩的な定理をようやく発見し、議論していたようなレベルではありません。

『ピタゴラスの定理』を既に議論していた時代から1,000年以上も後です。

現代の日本は、多くの大学が哲学科を文学部に設置していることもあり、あまり理系のイメージがないかもしれません。分断とカテゴライズによって、狭い分野の専門性だけを高めるのが日本の傾向です。全体像を俯瞰し、個々を戦略的に最適化するマネジメント人材が育ちにくい一因とも言えます。

『哲学』は本来、人間や宇宙、知識、道徳などの根本原理や存在そのものについて深く思考し追求する学問です。分断とは真逆で、あらゆる分野に精通した上で、それを統合して解釈していく必要があります。見え方や発現の仕方が異なるだけで、全ての根源は同一と捉える姿勢がそこに在ります。

古代のサモス島と植民地
"Colonies of Samos" ©Hans van Deukeren(20 November 2022)/Adapted/CC BY-SA 4.0

『サモスの賢人』、ピタゴラスはサモス島で宝石細工師の息子として誕生しました。父はレバノンのティルス出身との説があり、フェニキア系の可能性も示唆されます。サモス島は現在のトルコ沿岸、イオニア地方にあります。伝記によれば若くして知識を求めて島を発ち、古代オリエント世界各地を旅したそうです。

後期バビロニアの神へ捧げ物をするアメジストのインタリオ『神への捧げ物』
アメジスト・インタリオ
後期バビロニア 紀元前6世紀頃
SOLD

エジプトでは幾何学と宗教の密議を学び、フェニキアでは算術と比率、カルデア人からは天文学を学んだとされます。

新バビロニア(カルデア王国)はジッグラトとも関連します。カルデア人は古代世界に於いて、天文学・占星術を発達させていたことで名高く、『カルデアの知恵』と言えば天文学・占星術のことでした。占星術を司るバビロニアの知識階層や祭司階級をさして『カルデア人』と呼ぶようになったほどです。

左の宝物はピタゴラスと時代が重なります。古代世界でアメジストは稀少価値が高く高貴な宝石で、天文学モチーフも高位のカルデア人祭司身分を示します。持ち主はピタゴラスとも関わり合いはあったのか、ロマン溢れますね~♪♪

ペルセポリスに残されたフラワシの彫刻(アケメネス朝)
"Persepolis - carved Faravahar" ©Napishtim(January 2009)/Adapted/CC BY-SA 3.0

その他、ピタゴラスはゾロアスター教の司祭の元でも学んだと伝えられます。イギリスやインドにまで旅したという伝説もあります。古代のギリシャ人と聞くとギリシャの地に一生張り付いていたようにも感じますが、想像以上にアクティブに世界を周り、様々なことを深く学んでいたようですね。知的好奇心が高い人々の行動力は、いつの時代も規格外です(笑)

【世界遺産】ペルセポリス宮殿群(アケメネス朝ペルシャ 紀元前520年着工)
"Persepolis, Iran, 2016-09-24, DD 64-68 PAN" ©Diego Delso(24 September 2016, 11:25:31)/Adapted/CC BY-SA 4.0

ちなみにアケメネス朝ペルシャのダレイオス1世が紀元前520年に建築に着手し、最終的にはアレキサンダー大王に破壊されたペルセポリス宮殿群は天文学を駆使して設計されていることも有名です。シリウス暦を採用し、シリウスを強く意識した配置になっています。

太陽の使い 鶏 ゾロアスター教 ササン朝 ペルシャ ニコロ インタリオ 古代 アンティークジュエリーフランス シャンルベエナメル
『太陽の使い』
ニコロ・インタリオ リング
ササン朝ペルシャ 7世紀頃(
シャンクはフランス 1830年頃)
¥1,880,000-(税込10%)
以前ご紹介した通り、夜明けを告げる鶏は、ゾロアスター教に於ける太陽神の使いとして信仰の対象でした。アフラ・マズダーは光明神であり、太陽はアフラ・マズダーそのものとされます。ペルセポリスのシリウス信仰と噛み合わなく感じる方もいらっしゃると思います。

ここでは詳細な背景は割愛しますが、ゾロアスター教で言う太陽は恒星シリウスのことであり、太陽信仰はシリウス信仰と同義です。このような『置き換え』は世界中の宗教や文化に散らばっています。その秘密と法則を知識として認識できるようになると、今までチグハグに見えていたものが繋がりをもち始め、綿密に描かれた一枚の絵画のように見えてきます。

北米マツダ本社ビル(カリフォルニア州アーバイン)
"20140726-0037 Irvine" ©Nandaro(26 July 2014, 16:16:07)/Adapted/CC BY-SA 4.0

自動車メーカー『マツダ』の社名が、ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダに因むことは有名です。これは陰謀論でもデッチ上げによる噂でもなく、公式に説明されているものです。翼を広げて飛翔する鳥のエンブレムや青色のロゴは、単にオシャレさや明快さを求めたのではなく、"分かっている人"が意味を込めてデザインしたのだと、同じく特定知識を持つ者には伝わります。

スタジオジブリ風の谷のナウシカ(映画公開 1984年) ゾロアスター教を象徴するフラワシ

だからこそ分かる人には分かるようで、『風の谷のナウシカ』でナウシカがメーヴェで飛ぶ姿が、ゾロアスター教のシンボルを象徴していることが界隈で噂されています。

スタジオジブリ風の谷のナウシカ(映画公開 1984年)

ガンシップに乗ったナウシカが、操縦するミトに「シリウスに向かって飛べ!」と命令したシーンも象徴的です。ゾロアスター教の隠されたシリウス信仰を知っていると、単に方位を知るための星以上のことが分かります。シリウスは日本で『青星(あおぼし)』、英語で『Dog Star』と呼ばれ、英語でもアナグラム的に『God(神、DOG=GOD)』の意味が込めてあります。『シリウス』自体はギリシャ語のセイリオスに由来し、『光り輝く者』や『焼き焦がす者』を意味します。青き衣を纏い、金色の野で光り輝く『復活した救世主』というのは、分かる人にとってはかなり確信的です。

火寺院/ファイア・テンプル(イランのヤズド)
 "Zoroastrian Fire Temple in Yazd" ©Zenith210/Adapted/CC BY-SA 3.0

これはヤズドのゾロアスター教の寺院です。寺院中央に掲げられたフラワシの色にご注目ください。

火寺院のフラワシ(イランのヤズド)
 "Faravahar on Fire Temple, Yazd" ©Bernard Gagnon(23 October 2016)/Adapted/CC BY-SA 4.0
スタジオジブリ風の谷のナウシカ(映画公開 1984年)

「その者あおき衣を纏いて金色の野に降り立つべし。失われし大地との絆を結び遂に人々を青き清浄の地へ導かん。」

約束の地へ導く救世主の予言です。古今東西の『青い鳥』もキーワード、キービジュアルです。実は同じものをバリエーション違いで表現しているだけです。

アテナイのクセノポン(紀元前457年?~紀元前355年?)グレコ・ローマン120年頃の胸像
"Bust of Xenophon" ©Carole Raddato(15 February 2020)/Adapted/CC BY-SA 2.0

さて、アレキサンダー大王がペルシャ帝国に憧れ、初代君主キュロス大王に尊敬と憧れを抱くきっかけとなった『キュロスの教育』の著者アテナイの哲学者/軍人クセノポンによると、アケメネス朝の王は春の3ヶ月をスサ、夏の2ヶ月をエクバタナ、冬の7ヶ月をバビロンで過ごしたそうです。

ペルセポリスは創建当初は行政活動も行われていましたが、主に儀式用の都市として使われたとみられています。

半年以上もペルシャ君主はバビロンで過ごしていたということで、いかに古代世界で重要都市だったかが伝わってきますね。

古代ギリシャの数学者・哲学者ピタゴラス(紀元前582-紀元前496年)
"Kapitolinischer Pythagoras adjusted" ©Galilea at German Wikipedia(7 May 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0

新バビロニア帝国の首都だったバビロン(カルデア)は、紀元前539年にアケメネス朝ペルシャの初代王キュロス2世に征服されるとその支配下となりました。

カルデア人司祭から天文学を学んだピタゴラスが、そのまま天文学を高度に扱うゾロアスター教の司祭に学びに行ったのは、わりと自然な流れに見えます。

鍛冶屋のハンマーの音を研究するピタゴラス(1628年)

数学や天文学と共に有名なのが、ピタゴラスの音楽の研究です。あるとき鍛冶屋がハンマーを打つ共鳴を聞き、音符を数学の式に変換できることを発見したとされます。快い協和音と、不協和音となる条件を研究し、数学的な法則性を見出しました。『ピタゴラスのハンマー』として知られます。

様々な手法で音程を研究するピタゴラス

打楽器だけでなく弦楽器や笛なども研究し、様々な法則性の発見や調律道具も発明したとされます。

ピタゴラス音律の五度圏
 "Circulo-quintas" ©Pacovila(17 May 2013)/Adapted/CC BY-SA 3.0
Dを起点としたピタゴラス音律の各音程の周波数比率 "Interval rations in D-based symmetric Pythagorean tuning(powers for large numbers)" ©Paolo.dL/Adapted/CC BY-SA 3.0

ピタゴラスは音階の主要な音程に対応する数比も発見したとされ、オクターヴを2:1、完全五度を3:2、完全四度を4:3、完全五度と完全四度の差としての全音を9:8と定義しました。完全五度に基づいて導出する音律は『ピタゴラス音律』と呼ばれ、初期ルネサンスまでの西洋音楽の標準的な音律として使用されました。中国や日本の伝統音楽の音律(三分損益法)も同じ原理で音階を得ます。大もとは同じだった可能性も考えられますね。

義務教育レベルの音楽や、通常のピアノの個人レッスンなどでは習うことはありませんが、他にも『ピタゴラスコンマ』など実は音楽とピタゴラスは切り離せません。

ライアを持つアポロン(古代ギリシャ 紀元前480-470年)デルフィ考古学博物館 "Greece-0895 - Wide-bowled Drinking Cup" ©Dennis Jarvis(October 5, 2005)/Adapted/CC BY-SA 2.0

このような音楽に関する研究はピタゴラスの数学、天文学の洞察とも結びつき、宇宙の調和についての知識の根本としての学問『天球の音楽(Musica universalis)』として深化していきました。

どのようにして弦が空気を震わせるのか、どのようにして倍音が奏でられるのか、倍音と他の倍音の数学的関係はどのようなものかなど、深淵の追求には終わりがありません。

音楽の神アポロとミューズたち、惑星球体と旋法(1496年)

ピタゴラスとその弟子たちは天体の動きが数学的調和を生み出していると看做し、その数学的比率を音楽の調和に見立てました。

各惑星がある楽音に対応し、それらがハーモニー(調和)を形成していると考えました。

但し注意したいのは、これらの音楽的な研究は実際に楽器で演奏するためのものが主ではなく、どのように宇宙が構成され、その宇宙を私たちがどのように知覚できるかを数学的、哲学的に理解するためのものでした。

物理的な音や音楽ではなく、天体の運行が持つ数学的な調和、つまり『宇宙の響き』として捉えます。そして、それを感じるのは耳ではなく『魂』です。

電磁波と可視光領域
 "EM spectrum updated" ©Zedh and Gringer(3 February 2024)/Adapted/CC BY-SA 3.0

私たちが知覚するのは振動です。周波数の異なる領域を、各器官で捉えます。個人差がありますが、可視光は380~780nm付近とされます。周波数としては405~790THz(テラヘルツ)に対応します。それ以外は目には見えません。

ヒトの可聴域
 "Frequentiae-J001" ©音理捜査(22 February 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0

人間の可聴域も個人差はありますが、大体20~15,000Hzとされます。それ以外は耳には聴こえません。見えるもの、聞こえるもので全く違うように感じますが、結局は振動です。

『天球の音楽』では、宇宙の周波数を捉える感覚器官が『魂』という見方というわけですね。ピタゴラスは魂や輪廻転生に関しても深く洞察しており、一見するとバラバラに見える学問内容も、実は全ては1つの集約したものとして捉えていたことが想像できます。

Jossifrescoピタゴラス考案とされるテトラクテュス/テトラド

スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式でのスピーチ『Connecting the dots(点と点をつなげる)』のエピソードを聞き、私と同じように考え行動している人がいるのかと思いつつ、『伝説』とされるほど反響があることに少し驚いた記憶があります。

私にとっては当たり前の行動原理だったからです。HERITAGEのHPの仕様からもご想像いただけると思います。外注や特定の型を使うHPと違い、白紙状態から制作した自作HPだからこそ作者の思考構造やパターンがまるまる反映されます(笑)

古代ギリシャの数学者・哲学者ピタゴラス(紀元前582-紀元前496年)
"Kapitolinischer Pythagoras adjusted" ©Galilea at German Wikipedia(7 May 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0

行動パターンから、ピタゴラスも点と点をつなげたんだなぁと興味深く感じます。

全体像をみたピタゴラスの『万物は数なり』の表現は、想像を絶する奥深さがあります。

ピタゴラスはあらゆる事象には数が内在すること、宇宙の全ては人間の主観ではなく数の法則に従い、数字と計算によって解明できるとしました。

和音の構成から惑星の軌道まで、あらゆる現象に数の裏付けがあることに気づきました。

オウムガイの殻は綺麗な対数螺旋である
"NautilusCutawayLogarithmicSpiral" ©Chris 73 / Wikimedia Commons(12:40. 5 May 2004)/Adapted/CC BY-SA 3.0

黄金比を最初に研究したのも古代ギリシャとされます。

黄金比の対数螺旋、黄金螺旋も自然界のあらゆる場所に存在します。

アイスランド南西沖の寒冷低気圧(2003年9月4日) 歴史上、初めて渦巻銀河と確認された銀河M51 "Messier51" ©NASA, ESA, S. Beckwith (STScI), and The Hubble Heritage Team STScI/AURA)(January 2005)/Adapted/CC BY 3.0

ミクロコスモス、マクロコスモス・・。
探求を深めたピタゴラスはついに、「宇宙の全ては数から成り立つ。」と宣言しました。これが『万物は数なり』です。そして、この秩序と調和のとれた美しい全体システムとしての宇宙を、無秩序で混沌としたカオスに対し『コスモス』と命名したのです。

1-3-2. 秘密主義のピタゴラス教団

 20年かけて世界に存在した全ての数学知識を身につけて故郷に戻ったピタゴラスでしたが、当時のサモスの政治支配体制が学問研究に合わなかったため、イタリア半島の植民市に移住して活動することにしました。

古代のサモス島と植民地
"Colonies of Samos" ©Hans van Deukeren(20 November 2022)/Adapted/CC BY-SA 4.0

各地にサモスの植民市がありますね。都市は沿岸部に集中しており、海洋交易が中心だったことも伝わってきます。現代人は陸路で地図を見てしまいがちですが、特にこの時代の地中海地域は地中海を中心に地図を見る必要があります。ピタゴラスはその思想に共鳴する弟子たちと共に、クロトンでピタゴラス教団(ピタゴラス学派)を立ち上げました。

古代オリンピックの英雄クロトンのミロをモチーフとした古代ローマのアメジスト・インタリオ『古代オリンピックの英雄クロトンのミロ像』
アメジスト・インタリオ
古代ローマ 紀元前1世紀
SOLD
ネスレ・ミロ
 "Canned Mili In Store" ©Leadehua at English Wikiperia(10 July 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0

イタリアの湾岸都市クロトンは、古代オリンピックなどで活躍する選手を輩出したことでも有名です。15年前にGenがご紹介したオリンピックの英雄ミロもクロトン出身です。レスリング覇者として6度の優勝を誇り、24年間も王座を維持し続けました。単純な体力競技ではなく、頭脳戦の占める割合が大きい競技だからこそですね。アテナイ王家の末裔プラトンもレスリングの活躍で知られます。弟子たちが多少盛った可能性も示唆されますが、当時の上流階級が学者的な頭の良さだけでなく、いかに文武両道を重視していたか伝わってきますね。

ちなみにネスレの『ミロ』も、クロトンのミロが製品名の由来です。世界恐慌の影響で栄養が不足していた1930年代の子供達のために、ネスレ・オーストラリアのトーマス・マインが考案しました。英雄ミロのように健康で強い子にという想いが伝わってきます。教養も感じる良いネーミングですね。

古代オリンピックの英雄クロトンのミロをモチーフとした古代ローマのアメジスト・インタリオ『古代オリンピックの英雄クロトンのミロ像』
アメジスト・インタリオ
古代ローマ 紀元前1世紀
SOLD
Bidgeeミロ缶(ネスレ 1940年代)

現代のW杯も国同士の武器は使用しない代理戦争と看做すことができますが、古い時代はより顕著でした。競技会でのミロの華々しい勝利が国家の英雄として看做された理由でもありますが、実際の戦場でも無数の敵兵を薙ぎ倒し、紀元前510年の隣国シュバリスとの戦争でもクロトン軍の勝利に貢献したとされます。

そんなミロは。肩に牛を乗せて運ぶことで鍛えたとされます。その際、額に巻いていたねじり鉢巻が血管の膨張で引きちぎれたというエピソードが残っています。Genがご紹介したインタリオにも、その雰囲気が見事に描写されています。1940年代のネスレのミロ缶も、牛がデザインされている理由が分かってきますね。オリンピックの英雄の名を冠したミロは1934年に発売され、1936年にオリンピックの公式スポンサーとなっています。

古代ギリシャの数学者・哲学者ピタゴラス(紀元前582-紀元前496年)
"Kapitolinischer Pythagoras adjusted" ©Galilea at German Wikipedia(7 May 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0

英雄ミロは紀元前6世紀の人物で、実はピタゴラスとの逸話も残っています。

クロトンに住んでいたピタゴラスですが、あるとき宴会場の屋根が崩れかかり、危うく下敷きになりかけました。その時、ピタゴラスを救ったのがミロです。

落下してきた屋根を強靭な腕力で支え、命を救いました。感謝したピタゴラスは、娘ミラを結婚相手としてミロに与えたのだそうです。

まさかの義理の親子関係です。点と点を集めて、ふいに繋がっていくのは本当に面白いですね♪

夜明けを祝うピタゴラスと弟子たち(フィドル・ブロニコフ 1869年)

ピタゴラスは地域の有力者の保護も得て、大きな力を持つようになりました。ピタゴラス教団は数百人の弟子を集め、ピタゴラスはその弟子の一人だった女性テアノと結婚しました。

女性の弟子たちに教えるピタゴラス(1913年)

男尊女卑だったとされる古代ギリシャ・ローマ世界ですが、ピタゴラス教団では女性にも平等に学ぶ機会が与えられ、ピタゴラスの母や妻、娘もそのメンバーだったとされます。但し、数学的な適性を計るための加入テストは超難関だったようです。これは当然と言えば当然です。『三人寄れば文殊の知恵』は、三人それぞれに個性を持った上で同等レベルでなければ成立しません。不適切者が混ざると切磋琢磨どころか、足を引っ張ることにしかなりません。適材適所であるべきで、ピタゴラス教団ブランドを手に入れることは目的になるべきではありません。

しかしある時、教団のパトロンが政争で失脚しました。加入テストで落とされて逆恨みしていた人物がこれに乗じて民衆を扇動し、教団は暴徒化した市民に焼き討ちにされ壊滅しました。ピタゴラスも殺害されたと言われています。人間心理は普遍であって、ありそうな話でもあります。

ピタゴラスの妻テアノは著名な哲学者として知られており、ピタゴラス教団の重要人物として夫亡き後、主導する立場を引き継いだとも言われています。

古代ローマのパンテオン内装(ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ 1734年)

破壊的な終わり方もあって、ピタゴラス教団の詳細は公には分かっていません。

秘密主義で内部情報が漏れることを許さなかったとも言われ、胡散臭いような言い方をされることもありますが、当時のこの類の団体の秘密主義は一般的なことでした。

しかし後のギリシャの学術や文化の基礎となって大きな影響を与えたことは確実で、そこからさらにローマ帝国や世界各地に、はっきりとは見えない形で浸透していきました。

ローマ皇帝ハドリアヌス帝が118年から128年にかけて再建したパンテオンも、実はピタゴラスの思想に従ってデザインされているのです。

1-3-3. 世界の上流階級の教養に秘されたピタゴラスの叡智

ローマ皇帝第14代皇帝ハドリアヌス(在位:117-138年)

 五賢帝の一人、ハドリアヌス帝もギリシャ愛で有名です。

帝国内のギリシャには熱心に訪れていたそうです。

古代ローマの120年頃の領土
"Roman Empire 120" ©Andrei nacu(5 May 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0

古代ローマが最大領土を持ち、特に栄えた時代のローマ皇帝です。1つの国家の王どころか、世界君主とも言える立場なので、知識を蓄えるのみならず様々な形で具現化できる立場にありました。ハドリアヌス帝のギリシャ文化への愛は、世界遺産にも登録されているティボリの別荘ヴィラ・アドリアーナからも窺い知ることができます。

真下から見上げたパンテオンのドーム内装(ハドリアヌス帝 118-128年)
"Rome-Pantheon" ©Mohammad Reza Domiri Ganji(19 October 2017, 14:5:02)/Adapted/CC BY-SA 4.0

そのハドリアヌス帝が再建したパンテオンのドーム内部の、真下から見上げた幾何学模様です。アカデミアを開設したプラトンも、学園入口の門に「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」と掲載していました。プラトンやその弟子たちにもピタゴラス学派の思想や学術は大きく影響しており、さらにローマ帝国にも受け継がれていきました。

横から見たパンテオンのドーム形状(ハドリアヌス帝 118-128年)
"Rome(Italy, October 2019)-275(505589571796)" ©Bruno Rijsman(10 October 2019, 16:00)/Adapted/CC BY-SA 2.0
パンテオン断面と球体
"Pantheon section sphere" ©Cmglee(6 July 2012, 21:29)/Adapted/CC BY-SA 3.0

パンテオンのドームは43.3mの球体がフィットすることが分かっています。

パンテオンのドーム内側の構造(ハドリアヌス帝 118-128年)
"Pantheon 0918 2013" ©Bengt Nyman(22 February 2013, 15:39:15)/Adapted/CC BY 2.0

幾何学模様は美しいですが、それが最大の目的ではなく、これは機能を持った『空洞共振器』という説もあります。ピタゴラスの思想に従って設計したということならば、耳には聴こえないながらも、何らかの波長領域で共振するようになっていてもおかしくないですね。私はまだ行ったことがありませんが、魂で『天球の音楽』を感じ取ることができるでしょうか♪

エピダウロスの劇場(古代ギリシャ 紀元前4世紀末)
"Epidairos" ©Hansueli Krapf(10 May 2007, 09:51:44)/Adapted/CC BY-SA 3.0

以前ご紹介した通り、古代ギリシャの各地に建造されたギリシャ劇場は、音響に対する高度な理解を元に建設されています。当時の役者の発声も凄そうですが、後方座席は本当に聞こえたのかと思うほど距離があります。ピタゴラス以降、空気の振動を通した音の伝わりなどもさらに研究が進み、その成果の1つとしてこのようなギリシャ劇場が具現化されたと言えるでしょう。

古代ローマ ヒッポカンポス ニコロ インタリオ リング『ヒッポカンポス』
古代ローマ ニコロ・インタリオ リング
古代ローマ 1世紀頃
(リングの作りはヴィンテージ)
¥3,000,000-(税込10%)

ギリシャはヨーロッパ文化の原点として優れた学術や芸術が存在し、ローマにはそれを具現化する優れた土木建築技術が存在しました。それは現代を以ってしても全容が理解できず、再現も不可能なほどです。

想像以上に高度な学術的理解やテクノロジーがあった世界であり、後の時代のヨーロッパ王侯貴族が大いなる憧れを抱き、熱心に理解や研究に励んだこともご納得いただけると思います。

PD PD
『アンティノウスのディオニュソス』古代ローマ
オリジナルはブリアキス作(紀元前4世紀後期)バチカン美術館所蔵(Inv.No.251)

ハドリアヌス帝は、18歳くらいで死亡した青年アンティノウスという愛人の話も有名で、ゴシップ好きはその話にしか興味がいきません。しかしローマ皇帝をそのレベル、すなわち自身と同じレベルで理解しようとするのは頓珍漢です。

パンテオンのフロアの設計

ハドリアヌス帝だけでなく当時の設計者、建築技術者など、関わった重要人物たちは高度にピタゴラスの思想『天球の音楽』を理解していたはずです。

ピタゴラス教団は壊滅しましたが、その叡智はローマ上流階級に確実に引き継がれています。

そこから後の時代のヨーロッパ上流階級や、その他の国々の上流階級に継承されていないと考える方が違和感があります。

衆目に晒されぬ場所に隠された感はありますが、上流階級だけの秘密の知識として脈々と継承されているのです。

1-3-4. 隠されながら世界中に継承されてきたピタゴラスの叡智

 隠されし秘密の知識は、隠すための様々な工夫がなされています。鍵を持たない者、読み解き方を知らざる者にはその扉は硬く閉ざされています。そもそもそのような叡智の存在を知らない場合、そのような世界が存在することを発想することは困難です。意識すること自体ができないため、たとえ視界に入っていても、認識することができません。しかし、鍵を持つ者には意味が伝わります。さながら同時に存在する二重世界です。

テトラクテュス/テトラド
ピタゴラス主義の重要かつ神聖なシンボル キリスト教神秘主義者ヤコブ・ベーメによるシンボル(17世紀初頭) テトラグラマトンのテトラクテュスとゲマトリア

たとえばピタゴラスが考案したとされ、ピタゴラス主義の重要かつ神聖なシンボルとされるテトラクテュスもこのようなアレンジがあります。ヘブライ語で『神』を示す4文字、テトラグラマトンで構成されます。ヘブライ文字をヘブライ数字の法則に従って数値変換し、単語や文章を数値として扱うのがゲマトリアです。数字によって、隠された意味を読み解いたりします。日本語では数秘術と訳されたりします。

ヨハン・ヘニングのカバラの書(1683年)

数秘術の創始者はピタゴラスとされ、『数秘術の父』とも呼ばれていますが、実際はより古い時代、世界各地にこの思想と実践は存在しました。

当時から知ることを許された者にのみ、口伝で継承されてきた知識です。それほど重要視されてきた知識とも言えますが、それ故に一般には知られざる知識であり、文書化もされず門外不出の叡智として厳密に管理されてきました。

王たちが祭司や天文学者、占星術師を重用してきた背景はここにあります。詳細を知らない一般人には迷信やオカルトにはまっているだけに見えるかもしれませんが、そう思わせるよう仕向けるのも気づかせないための戦略だったりします。

ビザンティン帝国の哲学者ミカエル・プセルロス(1018年頃~1078年頃)と
その教え子で皇帝ミカエル7世ドゥーカス

当時の世界中の数学知識を集めたピタゴラスが、集大成的に理解していたのは確かでしょう。この数秘術の思想はプラトンに引き継がれ、数学の発展と共に成熟していきました。ビザンティン帝国の歴代皇帝に強い影響力を持った政治家/哲学者/歴史家ミカエル・プセルロスはプラトンがピタゴラスの秘密の知識の継承者であると主張し、神学に関する論文でピタゴラスの数秘術を普及させました。12世紀までにピタゴラスの数秘術の概念は中世ヨーロッパに普及し、もはや"ピタゴラスの数秘術"ではなく『数秘術』として認識され、一般化しました。

イギリスの詩人/画家/銅版画職人ウィリアム・ブレイク(1757-1827年)1807年、50歳頃 『The Ancient of Days』(ウィリアム・ブレイク 1794年)創造主デミウルゴス

以前、『ヤコブの夢』でウィリアム・ブレイクをご紹介しました。今もなお多くの思想家や芸術家たちに多大なるインスピレーションを与え続けているブレイクの作品は、秘密の知識がふんだんに盛り込まれています。

ピタゴラスの著書は残っていないこともあり、後世の知識人たちはピタゴラス哲学の源としてプラトンの著書『ティマイオス』を拠り所としました。中世にはその研究により、宇宙の在り方として、数学的に裏付けができる比率や調和の存在が確実視されるようになりました。

「宇宙はランダムなカオスではなく、明確な設計図を元に完璧なシステムとして創造されている。」

その創造主は『ティマイオス』にデミウルゴスとして紹介されています。『The Ancient of Days』と題された右の作品は、ウィリアム・ブレイク本人に依ればウリゼンです。これは世界の創造者デミウルゴスです。ギリシャ語で職人や工匠などの意味があり、コンパスで世界を設計する姿です。

コンパスと定規で創造主を示す図像
中国神話の女?と伏犠(唐 8世紀) アンドロギュノスの図像(1617年)

コンパスと定規のシンボルはフリーメイソンが有名です。何を示しているのかと言えば、創造主によって完璧に設計・構築された調和したシステム、コスモス(宇宙)そのものを暗示しているのです。

この思想は"世界中"の特別な人々にのみ、秘密の知識として継承されてきました。

1-3-5. 身近に存在するピタゴラスの叡智

 人間もコスモスの一部です。知識人たちは、創造主が設計した幾何学的なシステムが、生命にどう関わっているかを熱心に研究しました。それらは西洋占星術やタロットなどにも結びつき、ユダヤ教のカバラの書物によって補強され、ルネサンス期のヨーロッパで隆盛を極めました。

ルネサンスの万能人でドイツの魔術師/人文主義者/神学者/法律家/軍人/医師ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ(1486-1535年) 神聖ローマ皇帝・ブルゴーニュ公・オーストリア大公マクシミリアン1世(1459-1519年)

アグリッパも有名な研究者の一人です。一般には『魔術師』などいかにも胡散臭そうな雰囲気で紹介されますが、貴族の家柄です。『フォン・ネテスハイム』を自称したと伝えられており、ネテスハイム家の血筋が示唆されています。生家は裕福で、アグリッパ自身も神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の軍で大尉を務め、リッター(騎士)の称号を授かっています。ケルン大学で法律、医学、哲学、各種の外国語を学び、カバラやルネサンス・ネオプラトニズムなども研究しました。それらの成果として、1531年から1533年にかけてカバラ、ネオプラトニズム、ヘルメス主義を反映した『オカルト哲学三書』も出版しました。

『オカルト哲学三書』より(アグリッパ 初版1531-1533年)

数秘術は様々な計算法があります。シュメールの最高権力者とされる神エンリルは50、エンキは40の数字が割り当てられています。これらは他人事に感じるかもしれませんが、日本でも漢字の画数を使った姓名判断はメジャーな存在です。怪しげなオカルトと言うより、文化のレベルで浸透していると言っても良いレベルかもしれません。4を死、9を苦として忌み嫌ったり、4649をヨロシクと読ませたり、意識してみると文化に浸透していることが分かってきます。

1-3-6. 奥が深い土木建築技術

 『黄金比』を初めて使ったのは古代ギリシャ人で、より厳密にはペイディアス(紀元前490年頃-紀元前430年頃)とされます。紀元前5世紀のアテナイ黄金時代の彫刻家です。

『ペイディアスの工房を訪れたペリクレスと愛妾アスパシア』
(エクトール・ルルー 1898年)

最高権力者だった政治家ペリクレスと親交があり、パルテノン神殿の建設で総監督を務め、彫刻装飾の制作や指揮も担当しました。御本尊『アテナ・パルテノス立像』も制作しています。議論は分かれていますが、パルテノン神殿もいくつかの黄金比がみられるという説が提唱されています。

『建築論』をアウグストゥスに献上する
ウィトルウィウス(紀元前80/70年頃-紀元前15年以降)1684年の絵画

現存する最古の建築理論書は、古代ローマで紀元前30から紀元前23年の間に書かれたとされるウィトルウィウスの著書『建築論』です。ウィトルウィウスは共和政ローマ末期から帝政ローマ初期に活躍した建築家/建築理論家ですが、人物の詳細は不明です。『建築論』には建築以外にも土木技術や機械制作などに関する諸技術が記載され、皇帝アウグストゥスに献上しました。

【世界遺産】南フランスのガール橋(古代ローマ 50年頃)
"Pont du Gard BLS" ©Benh LIEU SONG(Flickr)(11 June 2014, 20:05:15)/Adapted/CC BY-SA 3.0

『建築論』に記された知識と、現存する古代ローマの遺物の考古学的な研究を照らし合わせることで、当時の土木建築技術についての多くを知ることができます。ローマ水道は紀元前312年から3世紀にかけて、都市や工場地に水を供給するために多数建設されました。その多くは現代でも多くの都市で使用され、2000年以上も水を供給し続けています。

バルブガル水道と水車群跡(古代ローマ 1世紀末-3世紀末頃)
"Barbegal mill 05" ©maarjaara(10 August 2008,16:56:38)/Adapted/CC BY 2.0

ローヌ川を水源とするこの場所は、製粉工場として1世紀末頃から3世紀末頃まで稼働していました。これは急な斜面を下から見上げた画像です。水道の終点を頂上に設置し、傾斜に配置した複数の水車を回して小麦を製粉しました。

古代ローマのバルブガル製粉所の模型(アルル考古学博物館)
"Model of the Barbegal mill, Musee de l'Arles antique(15022060149)" ©Carole Raddato from FRANKFURT, Germany/Adapted/CC BY-SA 2.0

このような感じです。2世紀後半頃には幅約70cm、直径約220cmの水車を合計16基配置し、最大で1日に約4,500kgの小麦粉を生産していたと見積もられています。これは1万個のパンを作るのに十分な量で、当時付近に住んでいた3万人から4万人の住民が必要とする量を賄えたとみられます。

石臼を手で挽くどころか、動物や自然の風まかせの風車では到底不可能な規模です。動力もクリーンで余分なコストがかかりません。機械を動かすために電気を必要とし、そのために石油や石炭、原子力が必要な現代とは比較にならぬほどシンプルでエレガントなシステムですね。

アルキメデスの螺旋

『建築論』には『アルキメデスのスクリュー』も構造が説明されており、農業に於ける灌漑システムや鉱山の排水などで広く使用されました。

古代ローマの鉱山の排水システム
リオ・ティント鉱山の排水ホイール リオ・ティント鉱山の排水ホイールのシーケンス

スペインのリオ・ティント鉱山から当時の排水システムの跡も見つかっており、当時の技術を理解するために『建築論』は非常に重要でした。水の活用も大得意ということで、生活を便利にするどころか、豊かな生活をするためのセントラル・ヒーティング・システムまで備えたローマ浴場も各地に建設されました。気合いと根性による力づくではなく、高度な知性に基づく洗練された技術が背景にあるのです。

1-3-7. 人体と建築技術とピタゴラスの叡智

『ウィトルウィウス的人体図』(レオナルド・ダ・ヴィンチ 1492年)

 再生や復活を意味する『ルネサンス』は、古代の叡智がイスラム社会からヨーロッパに逆輸入されたことで発生しました。

科学と芸術を統合させたとされるレオナルド・ダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』は、『建築論』の内容を元に制作された作品です。「古代ローマの土木建築技術と人体に何の関連が?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

『人間工学』という分野があります。建築や道具の設計と、人体の理解は密接です。ドア1つを見ても高さや幅、取手の位置や動作機構、開き具合などで使い心地は大きく変わります。台所も高さが少し違うだけで使い勝手は激変します。女性用に設計されていると男性には使いにくかったりします。

『建築論』の第3巻第1章は「On Symmetry: In Temples And In The Human Body」の題目で、ウィトルウィウスが研究した人間の体の比率の原則に関して記載されています。『Temple』は神殿や寺などの意味がありますが、聖なるものが内に存在するという意味を込めて『人間の体』を意味する場合もあります。ここでは後者の意味も含み、調和のとれたシステムとしての宇宙を『コスモス』と呼ぶのと同様と捉えて良いでしょう。この記述を元に描かれたのが『ウィトルウィウス的人体図』というわけです。

ウィトルウィウスの『建築論』(イタリア語版 1521年)
"De architecture" ©Mark Pellegrini(December 2008)/Adapted/CC BY-SA 2.5

ウィトルウィウスは建築の三箇条として『用・強・美』を挙げました。外観の優雅さや美しさ、すなわち『美』は正しい比率を持つ場合に保たれるとしました。

現代の日本の教育システムでは専門以外はさっぱりな、いわゆる『専門バカ』と言われる応用ができない人を量産する建て付けです。1つの専門を極めることが是と思い込んだこのような人々だと、建築には全く無関係に見えて無駄に思えるような内容も『建築論』は網羅していました。数学や気象学はもちろん、天文学や占星術、医学など様々です。第二巻ではソクラテス以前の物質論をよく理解し、材料がどのように振る舞うか建築家は理解しておくべきと記しています。

ローマ浴場の鉛の水道管(イギリス・バース 古代ローマ) "Lead pipe - Bath Roman Bathss" ©Andrew Dunn(15 September 2005)/Adapted/CC BY-SA 2.0

古代に於ける銀の精錬プロセスの副産物として、鉛はピーク時には推定年8万トンが生産されていました。

この鉛はローマ帝国の広大な水道網に使用されました。左はイギリス唯一の温泉地バースの、古代ローマの水道管です。

但し鉛中毒は当時も知られており、ウィトルウィウスは飲料水を通すには鉛菅より陶管が好ましいと記述しています。

鉛中毒による神経学的損傷を理由に、アメリカ連邦政府が新規配管および配管修理に鉛管やハンダ器具の使用を禁止したのは1986年です。いかに古代世界が優れていたか分かりますし、現代より技術や知識レベルは確実に上だったと感じます。

『ウィトルウィウス的人体図』チェザレ・チェザリアーノによるイラスト(1521年版の建築論) 『オカルト哲学三書』五芒星に組み込まれた男(アグリッパ 1531-1533年)

人間も自然、つまり宇宙の一部です。コスモスを構成するミクロコスモスとして、体にも数学的に調和したシステムがあります。古代の哲学者は多岐に渡る教養に精通し、ルネサンスの万能人(万能の天才)も同様でした。全てはつながっているからこそ、単独でみては全体の理解は不可能です。それどころか単独の正確な理解すら不可能です。現代では胡散臭くみられがちな『オカルト』という言葉ですが、当時は真面目な学問の1つと言えました。アグリッパの『オカルト哲学三書』の五芒星の男のイラストも、惑星記号が配置されています。コスモスという宇宙システムの中で、天文学と人間を切り離して考えるのは不可能です。それが古代から継承されてきた叡智にアクセスできた者の共通認識なのです。

1-3-8. 黄金比と宇宙法則

黄金比を秘めた五芒星

 単純に見えるものほど奥が深いものです。五芒星も多くの意味を秘めています。

五芒星が特別である理由の1つとして、黄金比があります。

これは全て黄金比となります。
 赤:緑
 緑:青
 青:マゼンタ

合同な正方形を活用して黄金比の線分が作り出せることを示した図
"RRSQ GOLDENRATIO TOMOYUKI MOGI" ©TOMOYUKI MOGI(9 September 2020)/Adapted/CC BY-SA 4.0

これは日本人のTOMOYUKI MOGI氏が制作した、合同な正方形を活用して黄金比の線分が作り出せることを示した図です。この中には正三角形、正五角形のほか、五芒星も現れています。

円の半径と同じ長さの正方形を活用した内接正五角形(五芒星)の描き方の一例
(周囲の赤色の円は描き上げ後の検証のためのもの)
"PentaStar Tomoyuki Mogo Circle 2 1" ©TOMOYUKI MOGI(28 January 2022)/Adapted/CC BY-SA 4.0

5つの円が重なったこの図にも、五芒星が現れています。詳細を探求されたい方はご自身で調べていただいたら良いですが、ここでは難しく理解しようとする必要はなく、感覚的に捉えていただければ十分です。まさにコンパスと定規で描かれる世界です。日本語は言霊が宿るとされますが、「ご縁(五円)がつながる。」という言葉も意味があります。表意文字としての漢字も重要ですし、和歌の『掛け言葉』にもあるよう響きもとても重要です。

「半径2の円(緑)」と「辺が1とφの黄金長方形(橙)」を活用すると
その円の円周を20等分する点を求められる
"CircleDiv20WithGoldenRectangle Tomoyuki Mogo Circle 2 1" ©TOMOYUKI MOGI(20 November 2020)/Adapted/CC BY-SA 4.0

コンパスで円を描き、定規で線を引いていくと必然的に黄金比が現れます。1:φ(黄金比)の比率を持つ黄金長方形を活用することで、このように円周を20等分する点を求めることもできます。

オウムガイの殻は綺麗な対数螺旋である
"NautilusCutawayLogarithmicSpiral" ©Chris 73 / Wikimedia Commons/Adapted/CC BY-SA 3.0
黄金長方形と黄金螺旋
"FakeRealLogSpiral" ©Cyp, Silverhammermba & Jahobr(29 August 2009, 17:15)/Adapted/CC BY-SA 3.0

黄金長方形は自己相似性を持ち、正方形を差し引くと相似の黄金長方形が無限に現れます。その繰り返しで出現する黄金螺旋はミクロコスモスからマクロコスモスまで、自然界のあらゆる形状に現れます。

螺旋状に配列する向日葵の種
"Helianthus whorll" ©L. Shymal(2006)/Adapted/CC BY-SA 2.5
フィボナッチ数列の螺旋
"Fibonacci Spiral" ©Romain(18 January 2022)/Adapted/CC BY-SA 4.0

フィボナッチ数列は、数が大きくなると黄金比に近づいていきます。フィボナッチ数は自然界の現象に数多く出現することが知られており、フィボナッチ数列が生み出す螺旋は『世界で最も美しい螺旋』とも言われます。花びらの枚数はフィボナッチ数であることが多いとされ、影にならず効率的に太陽光を得るための葉序(植物の葉のつき方)はフィボナッチ数と関連していることが分かっています(シンパー=ブラウンの法則)。向日葵の種の螺旋とフィボナッチ数の関連も有名です。

フィボナッチ数の螺旋を示すイエロー・カモミールの種 "FibonacciChamomile" ©Alvesgaspar/RDBury(28 April 2011, 00:07)/Adapted/CC BY 2.5 向日葵の種を模したボーゲルのモデル(n=1...500)
"SunflowerModel" ©Doron,cmglee(12 September 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0

形状にも数にも、共通する宇宙的な法則が存在します。それに調和していれば、共振して自然な心地よさが生まれます。乱れていれば美しく感じられず、それでも無理にその状態を続ければ自滅していきます。

1-3-9. フラワー・オブ・ライフという概念

 宇宙の実態については、仏教に表現されていると言われます。仏教の根本教理は『色即是空』というシンプルな言葉で表現されます。最先端の『量子力学』や『ホログラフィック宇宙論』などとの相関が改めて注目されており、興味がある方はぜひ調べてみてください。

ドミノ倒しで表現される仏教の因果性(縁起/円起/演技...)
"Dominoeffect" ©Pokipsy76~commonswiki/Adapted/CC BY-SA 3.0

仏教の根本的な考え方として、具体的には『因果性(縁起)』があります。全ての現象は原因となるものがあり、他との相互作用が縁となって生起し、無限に広がっていくとされます。独立して存在するものはありません。

フラワー・オブ・ライフの創成(1~7つの円まで)
"Flower-constructuoion" ©Tomruen(27 September 2015)/Adapted/CC BY-SA 4.0

言語学的な詳細は割愛しますが、言霊学的に縁は円と看做すこともできます。円を起こし、円が重なり広がっていく姿は最終的には『フラワー・オブ・ライフ』と呼ばれる幾何学模様に集結します。

フラワー・オブ・ライフ
 "Flower-of-Life-small" ©Life of Riley(29 November 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0

フラワー・オブ・ライフは宇宙の根源や生命の創造パターンを表すとされる神聖幾何学模様で、自然界のサイクルや宇宙・地球・生命の構造の根源や本質を示すシンボルとされます。

目に見えるものだけでなく、見えないものまであらゆる物事が同じ構造(法則)で成り立ってることを示し、生命の誕生、細胞分裂、植物が種から花を咲かせて結実する無限の繰り返しも内包します。

受精後の哺乳ど動物卵子の卵割の最初の段階

フラワー・オブ・ライフは円を用いて2次元の平面で表現されますが、実際は球を用いて3次元の立体で捉えるのが現実世界ではより正確です。

フラワー・オブ・ライフの創成(1~7つの円まで)
"Flower-constructuoion" ©Tomruen(27 September 2015)/Adapted/CC BY-SA 4.0

2つの円の重なりは『ヴェシカ・パイシス』、一番右の7つの円の重なりは『シード・オブ・ライフ』と呼ばれます。『生命の種』、まさにその通りですね。

生命の樹(ツリー・オブ・ライフ)を内包するフラワー・オブ・ライフ "Tree-of-Life Flower-of-Life Stage" ©Fred the Oyster(2014)/CC BY-SA 4.0 陰陽魚太極図を内包するフラワー・オブ・ライフ

この図は円の重なり方を変えたり、直線を応用するなどして様々な図像を描くことができ、あらゆる幾何学模様が内包されています。基本のヴェシカ・パイシスはもちろん、六芒星やカバラを象徴する『生命の樹(ツリー・オブ)』、陰陽魚太極図も含んでいます。

1-3-10. 芸術に秘められしフラワー・オブ・ライフの概念

 『フラワー・オブ・ライフ』の概念と、コンパスと定規で描く幾何学、黄金比の関連が理解できると、古今東西の芸術作品に秘められたそのパターンと『コスモス』的な意味に気づくことが可能となります。

ペルシャ・イスラム世界
定規とコンパスで描けるギリー模様
"Girih compass straightedge example" ©infoCan(20 Desemberl 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0
皇太子居所の窓(オスマン帝国 1453-1853年)
"Window Apartment of the Crown Prince" ©Serhinho/CC BY-SA 3.0

派生パターンは無限に存在します。「そんな模様まで?!」と思うほど、多様な世界を描き出します。これはギリー模様です。イスラム幾何学模様として知られます。『ギリー』はペルシャ語で『結び目』を意味し、タイルを装飾する線(紐模様)を指します。紐と結び目による装飾は、透かし細工としての美しさがありますね。

ギリー・タイル
ギリー・タイル
"Girih tiles" ©Cronholm144/CC BY-SA 3.0
ギリー・タイルの模様
"Girih tiles2" ©Cronholm144/CC BY-SA 3.0
左:タイル輪郭 / 右:内部の模様
タイル輪郭線は通常意識されない
"Girih tiles3" ©Cronholm144/CC BY-SA 3.0

『ギリー・タイル』はイスラム幾何学模様の作成に用いる5種類のタイルで、1200年頃から使用されるようになり、1453年に建設されたイランのイスファハンにあるダルべ・イマーム廟を皮切りに配列が多様化しました。イスラム建築は以前いくつかご紹介しました。ここまでの知識を元に眺めてみると、また違う世界が見えてくるかもしれません。

イマーム・モスク(イランのイスファハン 1630年)
"Masjed-e Imam (Umam Mosque), Isfahan (5113691065)" ©Fulvio Spada(12 August 2007, 16:56)/Adapted/CC BY-SA 2.0

幾何学の装飾もさることながら、建築構造そのものも古代ローマのパンテオンに通ずる幾何学と振動を意識した設計が見て取れます。古代ローマのキリスト教化に伴い、古代ギリシャの秘密の叡智は"人材ごと"ペルシャ世界に移動しました。これらはその生き証人でもあるのです。これらの一致や関連を偶然やこじつけと判断する人は、知識が不十分でまだ表面的にしか物事を見ていないからです。深層の世界なので簡単に見えてはきませんが、データ(知識)を増やすほどに、疑いようもない確信に変わっていくはずです。

ルネサンスのヨーロッパ
アトランティコ手稿のスケッチ(レオナルド・ダ・ヴィンチ 1478-1519年)

 ヨーロッパのルネサンスは、ペルシャやスラム世界に逃れた古代ギリシャの叡智が逆輸入されたことで発生しました。

レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチやアイデアをメモした『アトランティコ手稿(Codex Atlanticus)』にもフラワー・オブ・ライフの幾何学模様があります。

ちなみにアトランティスを言及したのもプラトで、先にご紹介した著書『ティマイオス』、続く『クリティアス』に記されています。

フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会のファサード(1470年完成)
"Santa Maria Novella(Florence)-Facade" ©Suicasmo(11 August 2015, 19:53:17)/Adapted/CC BY-SA 4.0

レオナルド・ダ・ヴィンチが影響を受けた古代ローマの建築家ウィトルウィウスの『建築論』は、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のファサードを手がけたアルベルティを始め、ルネサンス期の建築家らに大きな影響を与えています。やはり幾何学の構造や装飾が特徴です。

バラ窓
『ノートルダム大聖堂』南のバラ窓
"Notre-Dane Sul 1" ©Lusitana(April 2004)/Adapted/CC BY-SA 3.0
『ノートルダム大聖堂』西のバラ窓
"Detail portail NdP" ©Eric Pouhier(November 2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0

聖堂のバラ窓を連想された方も正解です。

オクルス(眼)
パンテオンのドーム天井のオクルス(ハドリアヌス帝 118-128年)
"Rome-Pantheon" ©Mohammad Reza Domiri Ganji(19 October 2017, 14:5:02)/Adapted/CC BY-SA 4.0
ハシュト・ベヘシュト宮殿のドーム天井のオクルス(イスファハン 1669年)
"Plafond hasht behesht esfahan" ©Fabien Dany - www.fabiendany.com/Adapted/CC BY-SA 2.5

バラ窓の起源は、ローマ建築の『オクルス』の一部に見ることができます。オクルスはラテン語で『眼』を意味し、パンテオンのドーム頂上の円形の天窓の名前として使われ、類似の丸窓や開口部を際にも使用されます。『眼窓』とも呼ばれ、イスラム建築にも見られます。

16世紀以降はフランス語の『oeil de boeuf(牛の目)』という名称で呼ばれることが多くなりました。ちょっとマニアックなので古今東西の宗教学や言語学についての知識がないとピンとこないと思いますが、牛はバアルで、ベル(鐘=振動)でもあり、バラにも通じます。「牛の目→牛の窓→バアルの窓→バラ窓」という関連になっており、天の眼を意味します。フリーメイソンはコンパスと定規と共に、『天の眼』も象徴的に表現されます。秘密の叡智を受け継ぐ者に国境はなく、読み解く場合はそれに合わせた解読術が必要です。全てはつながっているのです。分量が多すぎるので詳細は割愛しますが、気になる方は調べてみてください。

アニメ『北斗の拳2』天蓋のシーン(1987-1988年)
©武論尊/原哲夫/フジテレビ/東映

ちなみにこれはアニメ『北斗の拳2』で、登場人物が天蓋の下で会話するシーンです。映像では暗い上に一瞬なので分かりにくいですが、画像処理すると天頂部に、眼が意味深に描かれていることが分かります。まさに天の眼、オクルスですね。北斗の拳は天文学、人体構造学も扱う内容で、『死兆星』のように星と人間の関連性も当然のように出てきます。もちろん『秘密の叡智』を知る人々による作品です。随所に要素が散りばめられているので、そのような視点で改めてご覧になっても面白い気づきがあるかもしれません。

曼荼羅

 『曼荼羅』は一般の日本人にとって意味不明ながらも、馴染み深い図像です。曼荼羅は「宇宙の真理の事実を象徴的に表現した図」で、宇宙の構造、仏の悟りの世界、個人の内なる意識の流れを表しているとされ、密教に於いて重要な教義を視覚的に示したものです。そう言われても、背景となる知識が揃っていないと、見てもさっぱり意味は分かりません。・・・私の個人の感想です(笑)

ビシュヌ神の曼荼羅(ネパール 1420年) Adrian Pingstoneブリストル大聖堂のバラ窓(イギリス)

『曼荼羅』の漢字は、音に対する当て字です。『マンダラ』はサンスクリット語で「丸い(円い)」という意味があり、『円』は完全や円満などの意味があることから語源とされます。中国では『円満具足』とも言われます。円が満る、まさにフラワー・オブ・ライフとしてのコスモス(宇宙)ですね。曼荼羅に於ける特徴的な円形の図は『完全かつ無限の宇宙』を示し、中心から外側へと広がる構造は、個人の意識が現実世界へと顕現していく様子を示します。東洋と西洋で雰囲気は違いますが、根っこは同じと認識できると、同じものを表現していると気づけるようになります。

現代まで繋がるピタゴラスの叡智 カール・ユングの例

 古い時代の話だと他人事に感じられるかもしれませんが、秘密の知識は一般人が知らないだけで、現代までこれらの叡智は特定の人々の中で受け継がれています。

スイスの心理学者カール・グスタフ・ユング(1875-1961年)1935年、60歳頃 『黄金の華の秘密』(カール・グング 1929年)

『ユング心理学』で有名なユングは曼荼羅も熱心に研究し、1929年には華で表現した曼荼羅を発表しています。

「宇宙=フラワー=曼荼羅」という理解と表現が興味深いですね。

ユングは精神的不調の回復期に、曼荼羅に描かれるような幾何学模様を描くことが多くなり、その際にチベット仏僧が描く曼荼羅と自身が描く幾何学との偶然の一致に感嘆し、意味を見出したとされます。

現代まで繋がるピタゴラスの叡智 ロジャー・ペンローズの例
【2020年ノーベル物理学賞受賞】サー・ロジャー・ペンローズ(1931年-)2011年、80歳頃
 "Roger Penrose at Festival della Scienza Oct 29 2011" ©Cirone-Musi, Festival della Sicienza/Adapted/CC BY-SA 2.0

 イギリスの数理物理学者/数学者/科学哲学者のサー・ロジャー・ペンローズも高度な幾何学を扱っています。一般相対性理論と宇宙論の数理物理学に貢献し、数々の業績があります。

『ブラックホール』の研究が一般には有名でしょうか。1988年に特異点定理でスティーブン・ホーキングと共にウルフ賞物理学部門を受賞、2020年には「ブラックホールの形成が一般相対性理論の強力な裏付けであることの発見」でノーベル物理学賞を受賞しています。

『ペンローズ過程』という言葉は、耳にした方もいらっしゃると思います。

ペンローズ・タイル
Inducticeload

ノーベル賞を受賞するほどの業績なので、背景には殆どの人は理解できないクラスの数式や図式などに基づいています。見ただけで拒絶反応を起こす人もいると思いますが、視覚的に理解しやすいものだと『ペンローズ・タイル』があります。ペンローズが1970年代に研究した平面充填形で、並進対称性は持ちませんが、鏡映対称性と5回回転対称性を持ち得るなどの特徴があります。

ペンローズ・タイリングの床に立つロジャー・ペンローズ(テキサスA&M大学ミッチェル基礎物理学・天文学研究所のホワイエ 2010年)"RogerPenroseTileTAMU2010" ©Solarflare100/Adapted/CC BY 3.0 Inductiveload五角形ペンローズ・タイリング

普通に綺麗なので建築や装飾にも用いられますが、ペンローズは建築やデザイナーではないので明確な研究目的があります。

ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーの、五角形や五芒星に関する研究の1つを完成させるものでした。

ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラー(1571-1630年)

天体の運行法則に関する『ケプラーの法則』は有名です。理論的に天体の運行を解明した功績で、天体物理学者の先駆的存在とされます。

数学者、自然哲学者、占星術師でもありました。この意味は今ならお解りいただけると思います。左手にコンパスを持つ肖像画も意味深ですね。

ケプラーの1619年の著作『世界の調和』に記された内容の一部をさらに深め、完成形としたのがペンローズ・タイルです。

双方が天文学者でもあり、調和や幾何学、五芒星などのキーワードも共通します。

Sakuramboペンローズの階段 Tobias R. - Metocペンローズの三角形

ロジャー・ペンローズの父ライオネル・ペンローズも数学者であり、精神医学者、医科遺伝学者、小児科学者、チェスの定跡研究家でもありました。親子で考案した『ペンローズの階段』や『ペンローズの三角形』も非常に有名で、『上昇と下降』などトロンプルイユで有名なマウリッツ・エッシャーの様々な作品の元になっていることでも知られます。

3Dプリンタで再現した立方体構成のペンローズの三角形
"Penrosetrianglelemodel" ©Chylld(19 February 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0

『ペンローズの三角形』は不可能図形の一種で、3次元空間での実現は不可能ですが、特定の角度から見た時にだけ"それらしく見えるもの"を作ることはできます。これは立方体でペンローズの三角形を表現しています。中心に六芒星が現れるのも面白いです。

ブラックホールのシミュレーション図
"Black Hole Milkyway" ©Ute Kraus, Physics education group Kraus, Universitat Hildesheim, Space Time Travel(19 February 2011)/Adapted/CC BY-SA 2.0 DE

ブラックホールの研究でノーベル物理学賞を受賞したペンローズですが、ブラックホールも『天の眼』と表現されることがあります。光が抜け出せない境界『事象の地平面』や、重力レンズを再現した理論計算に基づくシミュレーション図を見ると、まさしく天の眼ですね。

1-3-11. 可視化や音符化して理解が進む『天球の音楽』

 知ることを許された特別な人々は宇宙、振動、幾何学の関連性を確信し、秘密の叡智としてピタゴラス以前の時代から脈々と受け継がれてきたことは、ここまで見てくれば全否定される方はいらっしゃらないでしょう。ただ、見えないものは理解しにくいものです。実は可視化する方法もいくつも考案されています。

サイマティクス

 『サイマティクス』をご存じでしょうか。物体は固有振動数があります。音叉やその共鳴(共振)も固有振動数の存在の現れです。共振現象で吊橋が崩壊したり、声でグラスを割るのもそうです。砂や水などを媒質として、物体が持つ固有振動や音を可視化する現象やその研究をサイマティクスと言います。

水の容器を振動させて得られる定常波(ファラデー波)を型として
直径0.2mmのビーズが幾何学的に凝集した様子
"Assembly of microscale materials on Faraday waces" ©Faraday Telsa(1 July 2014, 19:01:37)/Adapted/CC BY-SA 3.0

これは水を入れた容器を振動させ、各振動数に応じて波のパターンが変化する様子を微小なビーズの凝集で可視化したものです。振動数の違いによる幾何学的な変化が、視覚的に理解できます。人智学思想を信奉していたスイス人ハンス・ジェニー(1904-1972年)が考案したとされます。こう聞くと胡散臭かったり、比較的最近の発見のようにも感じられますが、実際には古くから存在し確立されている手法です。

イギリスの自然哲学者/建築家/博物学者/生物学者ロバート・フック(1635-1703年)

左手のコンパスが芳しいこの肖像画は、イギリス王立協会フェローのロバート・フックとされています。

『イングランドのレオナルド(ダ・ヴィンチ)』を評され、バネ弾性の『フックの法則』や、生体の最小単位を『cell(細胞)』と名付けたことで有名です。

フックは1680年、ガラス板を振動させると振動モードによって節が特有のパターンを形成することを見出しました。

ガラス板に小麦粉をまぶし、端を弓で弾いてパターンを作り出したそうです。

ドイツの物理学者/天文学者エルンスト・クラドニ(1756-1827年) クラドニ図形の1種

"Chladni plate 26" ©Matemateca(IME UP)(9 December 2016)/CC BY-SA 4.0

"Chladni plate 17" ©Matemateca(IME UP)(9 December 2016)/CC BY-SA 4.0

この種の研究を完成させたのがドイツの物理学者で天文学者のエルンスト・クラドニです。私は中学生までは数学の道も考えるほど数学好きでしたが、中学生半ば頃からは素粒子物理学や宇宙物理学の道も強い興味を抱くようになりました。食べていくには化学の方が融通がききそうと考え、これらは趣味として自分自身で好きなだけ追求すれば良いと考えて化学を専攻し、物理化学の分野で修士号をとりました。大学時代も興味をもった地学部の天文学系の講義にお邪魔し、他学部生なのに図々しく質問しに行って教授に気に入られ、転学して研究室に来ないか誘われたことがあります。やはり物理学と天文学、宇宙学は密接だと感じます。結局このように今の仕事にもつながってきて感無量です。楽しくてしょうがありません!!♪

クラドニは平面の振動を可視化する方法を開発し、1787年に著書『音響理論に関する発見』として発表しました。可視化する装置クラドニ・プレートや、可視化された模様は『クラドニ図形』として知られます。

クラドニ・プレートに現れた周波数に対応する幾何学模様
"Chladni plate 17" ©Matemateca(IME UP)(9 December 2016)/CC BY-SA 4.0

クラドニ・プレートを利用したサイマティクスのデモンストレーションはWikipediaで動画も観ることができますが、Youtubeに分かりやすく説明された動画もあるので、気になる方はぜひ調べてみてください。想像以上にパターンは多様です。それぞれの振動が独自の幾何学模様を持っているなんて、可視化して実感できると感激ですね。目には見えなくても、コスモスの振動と調和は確実に存在するのです。

伝統的な鐘
シンギング・ボウル

 これはお椀とスリコギではありません。チベット仏教などで使用するシンギング・ボウルです。

日本でもお馴染みの仏壇の鐘に似ていますが、撥(バチ)で打ち鳴らすのではなく、縁を棒で擦って音を出します。

水を張って使用すると、噴水のように水が湧き上がる様子が見えます。

使用中の噴水ボウル
"WasserKlangshale 2013-09" ©Tobias Fink(29 September 2013. 11:34:38)/CC BY-SA 3.0

中国はより古く、魚洗鍋(龍洗鍋)と呼ばれる青銅製の鍋に水を張り、取手を摩擦すると鍋の振動で水が噴き上がります。1700年前、晋王朝(265-420年)にまで遡ります。三国時代の次の時代ですね。『サイマティクス』と言うと仰々しいですが、メカニズムそのものは単純なので必ずしも複雑な機械などは不要です。

コーンスターチ水溶液をサイン波で振動させた様子
"CornstarchCymatics cc" ©Collin Cunningham(CollnMel)(29 July 2009)/CC BY-SA 3.0

サイマティクスの動画を調べると、水など液体表面に幾何学模様が浮かび上がる様子も観たりできます。振動数によって劇的に変化する幾何学模様に驚きますが、見えないだけで身近に存在します。可視化すると認識しやすくなりますね。古代から可視化の手法はありました。だから『天球の音楽』の概念は個人の妄想に基づくものではなく、裏付けが可能な叡智として、一部の人のみに確固たるものとして継承されていたのです。

DNAの幾何学と音楽の研究
イギリスの自然哲学者/建築家/博物学者/生物学者ロバート・フック(1635-1703年)

 人間もコスモス(宇宙)の一部です。

古代の賢者ヘルメス・トリスメギストスの言葉として、『エメラルド・タブレット』の一節に以下の言葉があります。

「As above, so below.」

上なるものは下にもあり、下なるものは上にもあるという意味で、マクロコスモスとミクロコスモスは同じ法則/秩序で成り立っていることを示します。

トリスメギストスは神秘思想や錬金術の文脈に登場する神もしくは神人で、神話的かつ伝説的な錬金術師とされます。一般人にはいかにも胡散臭く聞こえますが、全ての学芸・技術・魔術・秘術などの始祖とされる神と位置付けられ、その実在と教えは古代よりキリスト教教父からも信じられていました。

ホワイト博士のDNAと幾何学の研究
【引用】Cosmic Core / Article 170: Genetics - The Geometry of DNA - Part 3 - Dr. Mark White ©Mark White

ミクロコスモスである人間のDNAの幾何学を研究したマーク・ホワイト博士の研究によると、DNAは正十二面体がDNA二重螺旋に沿って螺旋状に積み重なっていることが見えてきました。正十二面体は五角形で構成されます。黄金比も現れます。

A-, B-, Z-DNAの構造
 "Dnaconformations" ©Mauroesguerroto(5 October 2014, 17:09:40)/Adapted/CC BY-SA 4.0

真上から見ると、DNAは美しい幾何学を描いています。

これらの幾何学が振動に対応すると解釈するならば、各人が持つ独自のDNAには固有の振動数が存在すると考えることができます。

「あの人とは波長が合う。あの人とは波長が合わない。」

波の重ね合わせでは調和によって増幅したり打ち消し合うこともあれば、乱れてよく分からないことになったりもします。

波長が合う合わないの表現は、ただの偶然と片付けることも可能です。しかし、この言語表現は作った日本人は感覚的に分かっていた、もしくは知識的に理解していたことを示すとも見ることができます。

音楽家スーザン・アレキサンダー(2011年)
"Susan Alexjander FF2011-02-04 crop" ©Science History Institute(4 February 2011)/CC BY-SA 3.0
BBCニュース 科学/技術記事『あなたのDNAに耳を傾けよう』(BBCニュースオンライン科学編集者デヴィッド・ホワイトハウス博士 1998年)
【引用】BBC ONLINE NETWORK / Sci/Tech Listen your DNA ©BBC 1998

アメリカの有名な音楽家スーザン・アレキサンダーは生物学者との共同研究により、人間のDNAの周波数に基づく楽曲を制作しています。胡散臭いオカルトやスピリチュアルの分野ではなく、ニューヨーク・タイムズやBBCなども記事として紹介していますし、映画に楽曲を提供したり、他分野のアーティストとも多くコラボレーションしたりしている真面目な研究者です。

音楽家スーザン・アレキサンダー&生物学者デヴィッド・ディーマーの共同論文(1999年)【引用】MICROSTICJ.NET / The Infrared Frequencies of DNA Bases: Science and Art by Susan Alexjander and Dr. David W Deamer ©1999 IEEE / 2019 Neil Haverstick. DAB Johnカリフォルニア大学の生物学者デヴィッド・W・ディーマー教授(1939年-)2024年、85歳

DNAを楽曲化する手法は、カリフォルニア大学の生物学者デヴィッド・W・ディーマー教授との共同論文などで確認できます。

インターネット上でメロディを聞くことも可能なので、興味がある方は調べてみてください。

ディーマー教授は、膜生物物理学の分野の貢献で知られます。DNAシーケンシング(DNA塩基配列決定)の画期的な手法を開発し、生命の起源に於ける膜の役割の、より完全な理解につながったとされます。オーストラリア唯一の国立大学で1946年の設立以降、6名ものノーベル賞受賞者など各界の著名な研究者を数多く輩出しているオーストラリア国立大学で行われた、マーチソン隕石中の有機化合物を調査する研究も支援しています。この分野の権威というわけですね。2013年から2014年までは、生命の起源に関する国際学会の会長も務めた研究者です。

電磁波と可視光領域
 "EM spectrum updated" ©Zedh and Gringer(3 February 2024)/Adapted/CC BY-SA 3.0

DNA塩基配列決定の専門家と共に、音楽家スーザン・アレキサンダーはDNAを構成する原子や分子の配列と挙動に基づいて音楽を制作しました。赤外線分光光度計を用いてDNAの断片が吸収する赤外線光の波長を測定し、各DNA分子の周波数を識別して、それを人間が知覚可能な周波数に変換することでメロディにしました。『赤外線(IR: Infrared)』も目には見えず、耳にも聞こえない光(電磁波)であり振動です。但し、「暖かい。」と皮膚で感じることはできますね。確かに存在します。

目に見えない『赤外線』の発見の背景
理論を基に存在を予言 実験データで実際に発見
女性科学者の先駆けエミリー・デュ・シャトレ(1706-1749年) ドイツ出身のイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェル(1738-1722年)1785年、46歳頃

その"目には見えない電磁波(光)"の存在を最初に予言したのは、女性科学者の先駆けとされるフランスのシャトレ夫人です。熱と光の関係を研究し、光の本質を議論した『自然および火の伝播に関する論考』という論文を1737年に発表しました。

予言の70年後、天文学者ハーシェルが実際に実験データとして発見しました。太陽光をプリズムに透過させ、可視光スペクトルの赤色光を超えた位置に温度計を設置し、温度上昇が確認されたことで目には見えない赤外線の存在を結論づけました。

目には見えないけれど確かに存在する振動。天文学との関連。シャトレ夫人の右手に持つコンパス、そして背景にはアーミラリ天球儀(渾天儀)の意味深な様子に気づかれた方もいらっしゃることでしょう・・♪

スーザン・アレキサンダーのDNAの楽曲
【引用】Suzan Alexjander our Sound Universe / MUSIC ©2025 Susan Alexjander, aka: Susan Alexander

スーザン・アレキサンダーは微視的なもの(要素、DNA)、つまりミクロコスモスから巨視的なもの(身体のリズム、水、星、時間)、つまりマクロコスモスまで自然現象の振動周波数という視点で着目し、個人の感覚だけでなく科学的な裏づけを伴って芸術活動を行っています。

表面的には同じように見えても、個人の妄想(エセ・スピリチュアル)と、共通して認識したり正確な理解を構築するための裏付けある活動は似て非なるものです。前者のせいで胡散臭く見えることもありますが、少し話せば中身が空っぽなハリボテや詐欺師、思い込みによる偽物などかは本物の知識があればすぐ分かります。1人1人が異なるDNA。そこには1人1人、異なる振動周波数が存在します。人間はコスモスの1つであり、1部でもあり、それが個人的な感覚だけでなく、皆で共通認識しやすい『科学』によっても裏付けられてきたのは興味深いですね。

日本人と幾何学
『富嶽百景』「鳥越の不二」(葛飾北斎 1830~1840年代)浅草天文台の簡天儀

 上流階級に国境や民族の違いはなく、日本も例に漏れません。庶民文化や町人文化だけ見ても、上流階級や知的階級の文化や教養、知識を理解したことにはなりません。

調べれば日本にも深淵なる叡智が存在し、それを受け継いだ人々がいることは確信できますが、意識して周りに目を向ければ、随所にそれらが反映されていることに気づきます。

日本人の『紋』
【引用】紀伊國屋書店HP/誰でもできるコンパスと定規で描く「紋」UWAEMON © KINOKUNIYA COMPANY LTD./波戸場 承龍/波戸場 耀次【著・デザイン】

 以前ご紹介した通り、日本文化は伝統的に幾何学模様が身近に当たり前のように存在します。

日本人は『不完全の美』をこよなく愛する一方で、高度な幾何学に基づく様々な対称デザインが意識に浸透している特殊な存在です。

開国後、驚きを以ってヨーロッパの上流階級や知的階層に受け入れられた『紋』は、コンパスと定規で描かれる高度な幾何学模様です。

柴田剛中(着席)他、天正遣欧使節一行(1862年)

衣服や調度品などに記される家紋は武家のイメージがありますが、室町時代(1336-1573年)には商人が店の看板に紋を入れ、それが家紋となった例があります。庶民も江戸時代(1603-1868年)には家紋を使うようになりました。江戸時代は厳格な身分制度の中で、庶民が苗字を持つことは許されなかった一方、家紋の使用は許されました。商家や農民、町人などが自身の『家』を識別する目印として、家紋を広く使用するようになったのです。確かに苗字がなく名前だけだと、どこの誰だか判別するのがややこしくて不便そうですね。

『関ヶ原合戦屏風』(江戸後期)様々な家紋の幟が入り乱れる戦場

上流階級は人数が限られますが、大衆は膨大な数が存在します。需要が激増した江戸時代は、家紋を専門に描く『紋上絵師』と呼ばれる職人も現れました。明治に入り1870年の『平民苗字許可令』、続く1875年の『平民苗字必称義務令』によって国民全員が苗字を持つようになったことを機に、自分の家系に合った家紋を新たに作ったり、本家の家紋をアレンジして使用する例が増えました。

菱形を意匠化した家紋 【引用】播磨屋.com / World of KAMON / 家紋の数と姓氏の数/Adapted

この頃には殆どの国民が家紋を持つようになりました。『家』という概念の希薄化と共に最近は身近でなくなっていますが、皆様も家紋はあると思います。家紋があることを自慢する人がいたら、自ら無知をさらけ出す行為なので、今後のご健闘を祈りつつ微笑ましく見守ってあげましょう。

日本人の趣味としても栄えた『算術』

 デザインには幾何学的な知識と技術が必須です。江戸時代の算術(和算)やカラクリなどのテクノロジー技術の凄さは、耳にされた方も多いと思います。

東西の同時代の数学者
【算聖】関孝和(1637-1708年) スイスの数学者/科学者ヤコブ・ベルヌーイ(1654-1705年)

『和算』は江戸時代の天才数学者・関孝和が有名で、算聖とも称されます。関氏の養子となった人物で、本姓は藤原氏(結城一族)です。武家階級で甲府藩士、のちに旗本となった武士で数学者です。それまで先進超大国の中国王朝(当時は清)に倣っていた和算が、模倣を超えて独自の発展を始めるにあたり重要な役割を果たしました。『関流』の祖となり、没後も和算はめざましく発展し、有力な数学者はほぼ『関流』に属するようになりました。明治以降、和算が西洋数学に取って代わられた後も日本数学史上、最高の英雄とされています。

関孝和はアイザック・ニュートンと比されることもありますし、『ベルヌーイ数』を歴史上で最初に発見したことでも知られます。スイスの数学者ヤコブ・ベルヌーイが独立かつやや遅れて発見し、ベルヌーイ数の名が付いていますが、稀に『関・ベルヌーイ数』とも呼ばれます。

ベルヌーイ家の家紋

ベルヌーイ家は17世紀以降に活躍した学者一族で、3世代で8人もの傑出した数学者を輩出したことで知られます。

イギリスの人類学者/統計学者/探検家で初期の遺伝学者フランシス・ゴルトンの1869年の著書『遺伝的天才 その法則および帰結』でも取り上げられている家系です。

ヤコブ・ベルヌーイはその名門一族の中でも最も卓越した数学者の一人とされ、微分積分学の発展に寄与しています。

【ナイト】イギリスの人類学者/統計学者/探検家/初期の遺伝学者フランシス・ゴルトン(1822-1911年) クインカンクス(ゴルトン・ボード)の概略図

ちなみに余談ですが、フランシス・ゴルトンは『進化論』で有名なチャールズ・ダーウィンの従兄です。ゴルトンは初期の遺伝学者として天才の遺伝を研究したり、双子の研究によって遺伝と環境の分離を試みるなどし、『行動遺伝学』の先駆けとなっています。近代的な優生学の創始者でもあり、ここから有名なナチス・ドイツの研究につながっていったことは想像に難くありません。

遺伝の研究には高度な数学、より具体的には確率論や統計学、分布の理解が必須です。ゴルトン卿は統計学の相関や回帰の概念を発展させ、1874年にクインカンクス(ゴルトン・ボード)も発明しています。

クインカンクス(ゴルトン・ボード)
ゴルトン・ボード "Galton box" ©Matemateca(IME USP)/Adapted/CC BY-SA 4.0 ゴルトン・ボードの理屈
"Galtonbrett mathe" ©Honina(27 August 2004)/Adapted/CC BY-SA 3.0

ゴルトン・ボードは中央極限定理の実証、特にサンプルサイズと数が十分だった場合、二項分布が正規分布に近似すると実証するために発明しました。現実的な実証装置では、階段状の飛び飛びの棒グラフのようになりますが、サイズをより小さく、数を多くしていけば、なだらかな分布曲線に近づいていくことは感覚的にご想像いただけるでしょう。ちなみに右の理屈図を見て、テトラクテュスを連想された方は正解です。

玉が釘に当たると、跳ね返ったりしながら確率的に経路を変えつつ、必ず重力で下に落ちていくゴルトン・ボードの発想は、パチンコにも応用されています。『選択と運命』に見立てることもできるでしょう。玉が原子のサイズだったら?電子など素粒子のサイズだったら?詳細は割愛しますが、『二重スリット実験』と『多元宇宙理論(マルチバース)理論』にも繋がっていきます。

テトラクテュス/テトラド
ピタゴラス主義の重要かつ神聖なシンボル キリスト教神秘主義者ヤコブ・ベーメによるシンボル(17世紀初頭) テトラグラマトンのテトラクテュスとゲマトリア

ゴルトン卿はゴルトン・ボードの釘で跳ね返る玉の、見かけ状は混沌(カオス)に見える様子から美しいベルカーブ(正規分布/ガウス分布)曲線という秩序(コスモス)が出現することに魅了され、1889年の著書『自然的遺伝』でこのことについて雄弁に語っています。

"見かけ上の混沌から顕現する秩序:周波数の揺らぎの法則によって表現される、宇宙秩序の素晴らしいシステムほど想像力を掻き立て、感動させるものを私は他に知らない。もしギリシャ人がこの法則を知っていたなら、きっと擬人化し、神格化していたことだろう。それは最も混沌した中に於いても、完全に気配を決して静穏のまま支配する。群衆が巨大であるほど、見かけ上の無政府状態(混沌状態)が激しいほど、その支配はより完璧になる。それは不条理や理性を超越した最高法規である。混沌要素として大規模数のサンプルを手に取り、その巨大な秩序の中に再配列させれば、いついかなる時でもその背後には最も美しい形の規則性が隠れていたことが証明されるのである。"

【ナイト】イギリスの人類学者/統計学者/探検家/初期の遺伝学者フランシス・ゴルトン(1822-1911年)

ピタゴラスから継承された『コスモス(秩序と調和に基づく宇宙)』や『天球の音楽』を知っていれば意味が分かりますが、知識がなければ何が言いたいのかさっぱりワケワカメだと思います。

分かる人のためだけの秘密のメッセージは、至る所に忍ばせてあります。分かったフリ、あるいは分かったと思い込む人も少なくありませんが、秘密の知識を持つ人にはバレます。

直感や感覚のみを偏重し、知識をないがしろにするスピ系やお花畑の人は今も昔も一定数が存在します。これはただの怠惰であり傲慢です。なぜ王侯貴族が物心つかぬ時期からスパルタ教育を受けるかと言えば、必須となる知識が膨大だからです。

秘密の叡智を持つ継承者の言葉です。
「知らねば見えぬ何事も。知らぬは見えぬと同義なり。故に必然が偶然となる。」

知識なくして、この世の真の理解は不可能です。『縁起』という言葉の通り、全ては縁によって起こされ、つながっていった帰結として物事が顕現します。本当は必然で起きていることを、知識がなく世の中のつながりと全体像が見えていなければ偶然と片付けます。

フランシス・ゴルトン卿が発明した犬笛(ゴルトン・ホイッスル)

ゴルトン卿は1876年に、人間には聞こえない音を出す犬笛も発明しています。聴覚能力を調査する目的のもので、『ゴルトン・ホイッスル』とも呼ばれます。

秘密の叡智は、その存在自体が秘密です。だから秘密の知識の継承者と自ら名乗ることはありません。しかし耳には聞こえない、目には見えない天球の音楽を重視してきた人々を思えば、ゴルトン卿がその一人であることは疑いようがありません。

ゴルトン卿は科学気象学の創始者としても知られ、天気図を最初に考案したとされます。他にも指紋による人物識別の先駆的研究など多数の分野で業績を残しており、ロイヤル・メダル(1886年)やダーウィン・メダル(1902年)、コプリ・メダル(1910年)など受賞も多数、1909年にはナイトに叙されています。武功ではなく、科学分野の功績で爵位を得るようになった時代を象徴する一人と言えますね。

ベルヌーイ数や二項係数について書かれた『括要算法』(関孝和:遺稿を編纂 1712年) 算木を用いた数の表記

そんなゴルトン卿が、天才一族の一人として研究した数学者ヤコブ・ベルヌーイに引けを取らぬ数学者活動をしていたのが算聖・関孝和です。

和算で用いる道具として算木とそろばんがあります。今では一般には馴染みがない存在となりましたが、暗算などの計算力、記憶力、頭の回転が良くなる効果、イメージ力、発想力や閃きの力に効果があるとしてそろばんは根強い人気を誇ります。

奈良市円満寺に残る算額(当村の源治郎 1844/天保15年)
"Sangaku at Enmanji" ©Dicklyon/Misakubo/Adapted/CC BY-SA 3.0

関孝和の没後、和算はますます発展し、高度化し、新たな展開を見せながら担い手も拡大していきました。数学者のみならず、一般の数学愛好者にまでその裾野は広がっています。これは奈良市の円満寺に奉納された『算額』です。数学の問題が解けたことを神仏に感謝し、ますます勉学に励むことを祈願して奉納された日本独自の文化です。カネやモノではなく、このような奉納御賽前の習慣が成立するのが古の日本人らしいですね。表面的なカネやモノしか見ることができない成金思考は、どれだけ金を持っていても貧相なのです。願主は当村の源治郎で、苗字はないので庶民なのでしょう。江戸時代は寺子屋で庶民すらも、読み書きや手習いを熱心に励んだとされます。心豊かな世界ですね。

やがて人の集まる自社仏閣を数学の発表の場として、難問などの問題だけを書いて回答を付けずに奉納する者も現れ、その問題を見て解答を算額にしてまた奉納するということも行われるようになりました。

プラトン時代のアカデミアを描いたモザイク(古代ローマ 1世紀)

まるでアカデミアのようだとも感じますが、特別な人たちが特別な場でというのではなく、江戸時代の日本は全国各地で一般庶民に至るまで、やりたい人は自由に探求活動していたことが素敵ですね。

渋谷区の金王八幡宮に残る算額(関流 西條藩・山本庸三郎貴隆 1859/安政6年)
"Sangaku at Konnoh Hachiangu 1859" ©Momotarou2012(3 February 2013)/Adapted/CC BY-SA 3.0

「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」と記載した額を学園入口に掲げたアカデミアでしたが、江戸の算額も記された問は殆どがユークリッド幾何学に関する図形問題で、同時期の西洋に劣らぬ問も残っているとされます。

1997年の調査によると、日本全国に975面の算額が現存しているそうです。最も古いのは栃木県佐野市の星宮神社の算額で、1657(明暦3)年です。新しいものは昭和初期がいくつか存在し、洋算化が進んだ明治以降も和算を嗜み続けた人々に想いを馳せることができます。単純に47で割ると、1つの都道府県に21面弱が現存します。見かけたらぜひ、じっくり眺めて想いを重ねてみてください♪

渋谷区の金王八幡宮に残る算額(関流 野口富太郎、貞則 1864/元治元年)
"Sangaku at Konnoh Hachiangu 1864" ©Momotarou2012(3 February 2013)/Adapted/CC BY-SA 3.0

今回ほかに注目しておく人物として、松永良弼とその親友の久留島義太がいます。松永は関孝和や建部賢弘の研究を推し拡め、久留島の影響を受けながら円理、極数術(極大極小論)、整数術(ピタゴラス数など整数を作る問題)、変数術(順列・組合せ数学)、廉術(逐索、帰納的な考えによる公式に導出法)などを確立し、1739年に代表的な著書『方円算経』を出版しています。円や多角形に関する理論がまとめられているほか、円周率は小数点第51位まで算出しています(小数点第49位までは合致)。

1億が10の8乗、1兆が10の12乗、1京が10の16乗です。名前のある最大値が無量大数で10の88乗で、極が10の48乗、恒河沙(ごうがしゃ)が10の56乗です。逆に小数点だと最小値が浄で10の-23乗です。小数点第51位なんて何に使うか分からないレベルですが、ただ突き詰めたかっただけの可能性は、日本人ならば十分にありそうですね。

江戸幕府 第8代将軍 徳川吉宗(1716-1745年)

親友の久留島義太(くるしまよしひろ)はさらに変わり者です。松山藩士の家に生まれましたが主家断絶によって父子共に浪人となり、独学で数学を学びました。親友の松永良弼は関流ですが、久留島は流派に属しません。あるとき数学を指南していた際、中根元圭(げんけい)の道場破りに遭いました。武道でなく数学というのが面白いですね。結局、中根は久留島の非凡な才能を見出し、パトロン(後援)となって惜しみなく支援したそうです。

この中根は江戸中期の和算家・天文家で、漢学や音楽理論にも長けていました。このキーワードだけで、もう分かる方はニヤリですね。京都の白山町に住み『白山先生』と呼ばれていましたが、江戸に招かれ、天文書などの有用な書に限り洋書の輸入を認めるよう将軍・徳川吉宗に進言しました。それにより、1720(享保5)年の『禁書の令』が緩められました。それほどの立場の人物が道場破りに来て、気に入られるなんて凄いですね。

中根は1726(享保11)年に『暦算全書』の訓訳も命じられ、72歳となる1733(享保18)年に完成しています。漢書にも洋書にもアクセスし、誰でもは知り得ない高度な知識を得ていた人物です。『鎖国』や『庶民』のイメージや固定観念を前提にすると、真の江戸時代の姿を見誤ります。

春日権現験記絵巻 第二巻 部分(1309年)宮内庁

中根は音楽理論にも優れ、別々に発展いていた雅楽や俗楽それぞれの音階の関係を研究し、1692年に1オクターブを12乗根に開いた十二平均律を『律原発揮』として著しています。1915(大正4)年、各種の功績により正五位を追贈されています。一般人には功績に凄さが分かりにくかったりしますが、それほど評価された証です。

数学、天文学に加えて音楽のキーワードまで揃っています。『鎖国』という印象操作で分かりにくくされていますが、日本も特別な人々は確実に秘密の叡智を共有し、継承していました。

ヨーロッパの著名な数学者
スイスの数学者/理論物理学者/天文学者レオンハルト・オイラー(1707-1783年) フランスの数学者/物理学者/天文学者ピエール=シモン・ラプラス(1749-1827年)

そんな人物に気に入られた久留島はオイラーより早く『オイラーのφ関数』、ラプラスより早く『余因子展開(ラプラス展開)』を発見しました。極値問題を級数展開の視点から考察し、ピエール・ド・フェルマーの方法に近い『久氏弧背術』も得ています。整数方程式、無限級数、円理の研究も有名で、天才だからこその業績多数です。

独創的な学説でしたが、久留島は人間的にも独創的でした。収入の殆どを酒につぎ込むほどの酒好きで、朝に食べるものがあっても夕の食の蓄えはなく、夏の衣はあっても冬の衣はもっていない生活を送っていました。家の入口に米櫃や銭箱あ置いてあり、門人は時々それに米銭を程よく入れておきましたが、久留島はそれに礼を言うわけでもなく米銭が余ればそれで酒を買っていたそうです。やたらとお酒が大好きな日本人の天才は、ちょくちょくいますね。それにしても同等の功績を遺しても、ヨーロッパの数学者とは身なりが違いすぎですね(笑)

行李 "行李" ©Chiba ryo(28 February 2016, 10:15:18)/Adapted/CC BY-SA 3.0

ほか、延岡で6年過ごして江戸に戻った際、弟子で和算家・暦学者の山路主住(ぬしずみ)が研究成果を尋ねると、「浄書(清書)して書き溜めてあったが、帰る時に行李(こうり)に貼る紙がなかったので全て使ってしまい、1枚もない。」と答えたそうです。研究成果に無頓着だったとされる久留島のエピソードの1つです。

行李は竹や柳、籐などを編んだ葛籠(つづらかご)の一種です。収納や旅行カバンとして使用され、中国語で『行李』は荷物、『行李箱』はスーツケースを意味します。

『舌切り雀』(河鍋暁斎 1831-1889年)

つづらは『舌切り雀』でご存知の方も多いでしょうか。木材や蔓を編んだものなので軽い上に耐久性があり、蓋が盛り上がるほど大量に物を入れることができます。編み物なので通気性が良く、柿渋や漆を塗ることで湿度を適度に保ち、防虫と抗菌の効果もあり、耐用年数は100年以上とも言われます。一生ものどころか、世代を超えて使える道具ですね。しなりのある素材であり、放り投げてもバラバラになりにくく、火事などの緊急時に粗雑に扱われても緩衝材的な機能も発揮して保管品を守る優れた道具でした。しかもエコです!

『新形三十六怪撰』「おもゐつゝら」(月岡芳年 1882年)

魑魅魍魎や蛇、虫が入った重量物も壊れずに持ち帰ることができます。

おばあさん、服が・・・(T T)

 

内張に和紙を貼ることで補強できます。

日本帝国軍の行軍用の柳行李
"March wicker poortmanteau" ©100yen(28 September 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0

大日本帝国陸軍も使用しました。行軍のための携行品はかなりの重量物だらけです。弾薬1つ見ても相当です。現代では見なくなった日常具の1つですが、少し前までは当たり前の日常に存在しました。

この行李の内側を貼るための和紙がないとのことで、久留島は研究成果の浄書を全て使ってしまったというわけです。解けたら満足、それが人生に於ける久留島の幸せということでしょう。他人に褒められなければ満足できない人との大きな違いです。承認欲求が絶えず欠損感を生み出し、自己顕示欲に溺れ、外部に充足を求める者は永遠の餓鬼道の苦しみを味わいます。他者にどれだけ褒められようとも、自己満足がなければ真に満たされることはありません。夕の食がなく、冬の衣がなく、和紙もろくにないほどの貧乏だろうが、幸せは感じることができます。

紀元前399年の『ソクラテスの死』(ジャック=ルイ・ダヴィッド 1787年)

他者に書籍を読むことを勧めておきながら自身は一切著述を残さなかったソクラテスの如く、久留島も自身の知的探求に夢中で殆ど著書を残しませんでした。自己顕示欲ゼロ、承認欲求ゼロで、知的探求にのみ強い関心があるならば、限られた人生の時間の使い方はまあそうなるでしょうね(笑)

そしてソクラテス同様、久留島も弟子たちが業績などを書物に纏めたため、その独創的な学説が今に伝わっています。そんな久留島を道場破りに来た中根元圭ですが、どちらかが敗れたわけではありません。

『改算塵劫記』(オリジナルの塵劫記は吉田光由 1627年)
"Kaisan Jingouki" ©Momotarou2012(14 January 2013)/Adapted/CC BY-SA 3.0

久留島は『塵劫記』の独学のみでした。1627(寛永4)年に吉田光由が著した書物で、算聖:関孝和や儒学者の貝原益軒も若い頃『塵劫記』で独習していたことで知られます。それ故に、中根に会うまで点鼠術(代数学)を知りませんでした。それにも関わらず、道場破りに来た中根が出した問題を、恐らく相当な難問まで含めて代数学を使わずに解いてしまったようです。そのために中根は久留島の才力に感嘆し、パトロンとなったようです。

一方の久留島は、中根が代数を使って解く様子を見て代数の威力に呆然としました。中根の話を即時に理解できたからこそ久留島は恐れ、一言も言わず黙ってしまい、とうとう「看板を下ろして算法指南は辞めることに致します。」と言いました。それに対して中根は「私は関孝和先生以来、あなたのように才力の優れた人を見ていません。今まで通り指南をお続けください。今後は力を合わせて一緒に算法を研究しましょう。」と約束して帰りました。

鞍馬寺の大天狗・僧正房と剣術修行する遮那王(月岡芳年 明治時代)

1690年生まれの久留島に対し、中根は1662年生まれで28歳ほど年上です。知識は知っているかどうかだけで、才能を測る基準としては適切とは言えません。才能があれば、新しく得た知識はすぐに使いこなしていくでしょう。それほどの久留島の才覚を、天才同士だからこそ瞬時に中根も見出したのでしょう。言語化領域の外で、膨大な情報のやりとりがあったはずです。

中根が帰った後、久留島は弟子たちにこう語ったそうです。
「今日、中根と言う人物が来て算術の話をしたが、人間の世界の話とは思えなかった。『天狗』というのはああいうものであろう。」

一方の中根は帰った後、弟子たちにこう語ったそうです。
「今日、久留島というものに会った。関(孝和)先生の算法の大よそを話した所、彼は恐れて黙っていた。しかしその算法の才力の強い所は言葉では言い表せないほどだった。今時このような人物がいることは全く不思議だ。」

江戸時代の日本は広い裾野で算術が切磋琢磨しながら発展し、その深淵は現代の日本人は想像もできないほどのものなのです。発達する素地も、このように間違いなく在りました。

日本人の『折り紙』
折形の一例 "Yamaneorigata" ©折形礼法(3 October 2014, 14:57:59)/Adapted/CC BY-SA 4.0

 『折り紙』も幾何学を駆使した遊びです。元々は遊びではなく、平安時代に真心とセンスを込めるため、御進物を高価な和紙で包んだことが起源です。

室町時代に上級武家の中で『折形(折形礼法)』として洗練され、やがて遊びとしての『折り紙』につながっていきました。

戦国時代頃には存在し、江戸時代には庶民にも広く普及しました。

折り紙で遊ぶ子供たち(宮川春汀 1873-1914年) PD折り鶴

不器用だとイライラしかしないそうですが、これを遊びとして夢中になるのが日本人です。

現代でも居酒屋などで、割り箸を入れた紙でチョチョイと箸置きを作ってしまう人はいますよね。実用的なものもあり、粉薬入れや簡易的な紙コップなど、今でも一定以上の年代の方ならば身近にあった記憶があるでしょうか。

私も子供時代は折り紙の本を見ながら、「こんなものまで作れるの?!」と思うような面白い形を夢中で作った記憶があります。高度な折り紙の本を見ると分かりますが、幾何学的なセンスが必要ですよね。複数のパーツを使ったりもします。子供向けの簡単なものだと『手裏剣』でしょうか。

1枚の正方形で『蟹』も折ることができます。これは部分的にハサミなどでカットします。高校時代、校長先生の話がつまらない時に体育館でよく折っていました。スマホもない時代、顔を上げて聞いているフリをしながら、体育座りの足の下に忍ばせて手元の感触だけで折れるので、暇つぶしに便利でした。この蟹はサラリーマン時代、プレゼンテーション資料の要らなくなった紙で、面白くない会議中にこっそり折ったものです。簡単すぎると暇つぶしになりませんが、程よく時間がつぶせます。今は潰す『暇』がないのでやりません(笑)

それはさておき、模様の出方も幾何学が関係します。組み立て式の場合、同じ色が重ならないようにするためには何色必要か、どの順で組めば良いかを思考もできます。

世界最古の遊戯折り紙本『秘傳千羽鶴折形』(1797年)

世界最古の遊戯折り紙の本が出版されたのは1797(寛政9)年で、連鶴49種を紹介する本でした。初版の出版は京都の吉野屋為八で、連鶴の作者は伊勢国桑名の長円寺11世住職・義道一円(1762-1834年)です。お寺の住職ということで、寺子屋で子供たちに教えるものだったでしょうか。このようにして子供たちが楽しみながら数学や幾何学の面白さに触れ、素養を養い、和算大国の江戸時代に繋がっていったのかもしれませんね。

機能性を備えた折り紙
紙飛行機 『びゅんびゅんバネ』ジェフ・ベイノン作
"Origami spring" ©Jason7825 at English Wikipedia/CC BY-SA 3.0

折り紙は幾何学的な性質から数学の一分野として研究されているほか、機能設計の観点から工学分野でも研究され、ITを用いて折り紙を設計する分野も存在します。『紙飛行機』もシンプルであるが故に、奥が深いですよね。宇宙工学の分野では、人工衛星の太陽電池パネルの折り畳みに応用されている『ミウラ折り』も有名です。

Drummyfishプラトンの立体/正多面体

ところで組み立て式の折り紙でも馴染み深い『正多面体』は5種類のみ存在し、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体です。英語では『プラトンの立体』と呼ばれます。ピタゴラス、プラトンから続く叡智がつながってきますね。

60種類以上の結晶形態が確認される黄鉄鋼
キューブ型 "Pyrite-290488" ©Rob Lavinsky, iRocs.com/Adapted/CC BY-SA 3.0 八面体型 "Pyrite-184712" ©Rob Lavinsky, iRocs.com/Adapted/CC BY-SA 3.0 十二面体型 "Pyrite-250186" ©Rob Lavinsky, iRocs.com/Adapted/CC BY-SA 3.0 混合型 "Pyrite-207317" ©Rob Lavinsky, iRocs.com/Adapted/CC BY-SA 3.0

マクロコスモスとミクロコスモス。もちろん自然界にも、こうして幾何学の立体を見ることができます。コスモス(宇宙の秩序と調和)の1つの現れだと思うと、とても面白いですよね。人間が天然の美しい鉱物や宝石に心惹かれる、理由の1つかもしれません。

幾何学&天文学者
ヨハネス・ケプラー(1571-1630年) ロジャー・ペンローズ(1931年-)"RogerPenroseTileTAMU2010" ©Solarflare100/CC BY 3.0 Inductiveload五角形ペンローズ・タイリング

ところでノーベル物理学賞を受賞したペンローズが、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーの幾何学に関する研究を完成させたことを先にご紹介しました。ケプラーは数学者、自然哲学者、占星術師でもありました。

『宇宙の秘密』太陽系のプラトン立体モデル(ヨハネス・ケプラー 1596-1621年)

ケプラーの著書には秩序と調和のあるシステムとしての宇宙(コスモス)と、幾何学を関連させた研究内容が随所に見られます。

切り離して考えるべき分野ではありませんし、統合せずして真の理解は不可能です。

江戸時代の和算家は天文学者や暦学者、音楽研究家などを兼ねました。楽をするために細分と分断化を受け入れ、多くが"専門バカ"と化した現代の日本人よりよほど物事を統合的かつ本質的に理解していたはずです。

専門バカは専門分野だけは大得意です。それ故に、自分は何もかも知っていると思い込む傾向にあります。

そして、自分が理解できないものは『オカルト』などレッテルを貼って蔑むことで、自身の脆いプライドを全力で保とうとします。井の中の蛙とはこのことであり、タチの悪い時代です。人のふり見て我がふり直せ、たとえ大多数の人はそうだったとしても、自分はそうならぬよう気をつけようと思います。

プラトンの『宇宙の5元素』
地球/土 空気/風 宇宙/エーテル
『宇宙の調和』5つの元素の対応(ヨハネス・ケプラー 1619年)

古代ギリシャからローマ、イスラム世界、18世紀から19世紀頃までヨーロッパで支持された概念として、物質世界を構成する『四元素』があります。古代インドでも同様の思想が存在し、中国の『五行説』とも類比されます。物質を構成する四元素それぞれにプラトンの立体が割り当てられており、宇宙を満たすとされる非物質の第五の要素『エーテル』に、最も神秘的とされる正十二面体が対応しています。

宇宙は近代科学では"何もない真空"として、『エーテル』は非科学的な立ち位置に追いやられました。物質でないものを物質的に捉えようとすると、おかしなことになります。

現代では「真空は実は賑やかだ!」と認識されています。量子論に於ける『真空』は、何もない空間ではありません。「物質はない真空」でも、素粒子レベルの微視的な領域では常に物質と反物質が生まれる対生成と、対消滅が起きています。

『宇宙の調和』(ヨハネス・ケプラー 1619年)

『宇宙の調和』で、ケプラーは天文学や音楽を扱っています。そこに様々な幾何学が登場します。複雑そうな立体もありますが、どれも折り紙で作ることができますね。天賦の才が.あれば、3次元の立体から2次元の平面展開図を思い浮かべることもできるでしょう。折り紙の素地があれば、よりスムーズに対応できるでしょう。鎖国中でも正規貿易として『四つの口』から洋書は手に入りましたし、中国やオランダ、朝鮮、琉球王国、蝦夷(アイヌ)経由で様々な情報や知識も手に入りました。とんでもなく和算が発達した江戸時代、日本人の一部はどこまで本質に迫っていたでしょう・・♪

日本人の美しい『手毬』

 立体的な幾何学と言えば、美しい刺繍模様の手毬も連想します。決まった模様はなく、作者のセンスによってパターンも色彩も無限のバリエーションが存在します。

手毬
"Japanese folk art; Temari;手毬" ©Conveyor belt sushi28(14 February 2009; 01:55:49)/Adapted/CC BY 2.0

私が子供の頃は、祖母の手先が器用な友人が遊びの一貫として、とても美しい刺繍手毬を作っていた記憶があります。戦前の教育を受けた世代です。戦前の学校では、義務教育の中で様々な教養も教わりました。

水引を結ぶ女

以前ご紹介した通り、御進物を送る際の折形と水引も含みます。店員さんに仕事としてやってもらうのではなく、自ら心を込めて正しく結んでいました。

江戸時代は寺子屋で、明治以降は義務教育で、礼儀作法の一環として日本人は必ず折形を学びました。

教科書には20~30種類の折形が必須項目として掲載されていたそうです。

Genの明治生まれの祖母ウメ 兎の鎧(Genの古写真より)

戦前の教育を受けた世代に育てられたGenのような団塊世代くらいまでは、ご家庭による違いはあるものの、それなりに戦前までの教養に触れて育っています。Genの記憶によると、やはりおばあちゃんも水引は自分で作っていたそうです。Genより少し後の世代のお客様も、若い頃はバイト先の女性オーナーはご自身で水引を器用に結んでいた思い出を教えてくださりました。

Genの実家は上杉藩の城下町、米沢で骨董商を営んでいました。当時は上質な骨董品がたくさんあり、甲冑も相当な数を美術館に納めたそうです。Gen自身、お手伝いで鎧の修復のために教わりながら組紐も編んだそうです。

お客様から戴いた林檎をGenから分けてもらう小元太Jr.(2020.12.19)8ヶ月頃

私が仕事だけに時間を使えるようにと、Genが「僕が料理もする!」と言った時は心配でした。料理は全くやったことがないと聞いていましたが、林檎の皮を剥くのもとても上手で、器用さに驚きました。これはお客様から戴いた林檎を、小元太Jr.も食べやすいよう小さくカットして仲良く食べている様子です。 ちなみに小元太Jr.は、ブラックからシルバーに毛が変化していく途中段階です。 弁髪というか、落武者のようでもあります。シルバーのトイプードルは、この面白い期間も楽しめなくてはなりません(笑)

刃物の扱いも手習いの1つですね。鉛筆削りも、団塊世代ならば誰でも器用にこなせます。鉛筆削り機が当たり前となり、シャープペンシルによって木の鉛筆も使わなくなると、刃物を使って木を加工する体験が身近でなくなります。買い与えられるオモチャも良いですが、昔はオモチャも手作りは普通でした。竹トンボ、竹馬、凧。ゴム跳びも、まずは自分でゴムを連結していかなくてはなりません。自分で作る所から楽しい遊びの一貫ですし、自分たちで作るからこそ大切に扱い、壊れたら捨てるのではなく修理が基本です。

『三十六佳撰』「手毬 慶長頃婦人」(水野年方 1892/明治25年) 手毬を刺繍する女性(1985年2月)

手毬の装飾は器用さと共に美的センス、さらには幾何学的な思考も必須です。刺す順番や位置を考えながら、立体的な幾何学模様を無から顕現させていきます。軍国教育に目が行きがちですし、『旧字体』という政策もあって昔の書物を気軽に読む人もいなくなり、在し日の本物の昔ながらの『日本人』の姿を正しく理解できている人はごく少数となっています。理解しているという思い込みの元、現代人の感覚で議論するのは誤りの元です。少し調べるだけでも、現代の日本人とは全く異なる存在だったと分かります。

『獅子と蝶々』綴れ染め刺繍帯(HERITAGEコレクション 大正~昭和初期)

ところで狛犬、あるいは唐獅子と手毬を連想された方もいらっしゃるでしょうか。

紫禁城『至高の調和の門』を守護する獅子の手元(明代に建設、清代1894年に再建)"China-beijing-forbidden-city-P1000157-detail" ©Adamantios(27 January 2013, 07:38:18)/Adapted/CC BY-SA 3.0 神聖幾何学模様フラワー・オブ・ライフ
 "Flower-of-Life-small" ©Life of Riley(29 November 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0

これは北京の紫禁城、『至高の調和の門』を守護する獅子の手元です。手毬のような球体には、まさしくフラワー・オブ・ライフの模様が描かれています。先にお話しした通り、本来は二次元ではなく三次元で認識すべきで、二次元表現は簡易的な手段です。これだけだと偶然ではと仰る方もいると思いますが、『至高の調和の門』というネーミングは、分かる人には調和した宇宙『コスモス』を示すことが伝わります。

『獅子と蝶々』綴れ染め刺繍帯(HERIAGEコレクション 大正~昭和初期)

フラワー・オブ・ライフは基本形であり、振動によって模様は無限にバリエーションがあります。それを日本人は、刺繍手毬に潜ませてきたのでしょう。

『獅子と蝶々』綴れ染め刺繍帯(HERITAGEコレクション 大正~昭和初期)

ちなみに『綴れ』という生地だけで超高級品ですが、そこにこれほどの繊細な刺繍を施すのは超異例です。透け感を表現したリボンの刺繍と言い、モチーフの扱いと言い、帯びのもう1つの面も実はさらに特殊で、これが当時の日本の上流階級の中でも特別な身分の女性のために作られたことは確実です。

日本では時代が降ると、高位の公家や武家の文化が庶民にまで降りてきたという特殊性は確かにあります。ただ、全てがつまびらかになって降りてきたわけではありません。隠された暗号、秘密の叡智に関する詳細には触れられず、表層部分だけが伝えられたとみられます。

お客様から戴いたオモチャを守護する小元太Jr.4歳(2025.3.15) 獅子と手毬(HERITAGEコレクション 大正~昭和初期)

しかし、象徴やシンボルに秘められた意味を知らなければ、演舞を見ても示すところの意味が理解できないこともあります。だから特別な人々にだけは秘密の叡智は伝わっていますし、だからこその表現や組み合わせは、その存在を否定できないほど存在します。美しい幾何学で装飾された手毬は、秩序と調和のあるこの宇宙(コスモス)そのものです。刺繍を施す人は、さながらクリエイター(創造者)と言ったところでしょうか。ちなみに家紋にも円ではなく球を意識したデザインが一定数あるので、調べてみると新たな気づきがあるかもしれません。

ブラック・キューブの秘密

 先にご紹介した和算の天才・久留島は、研究分野としてwikipediaでは数学、魔法陣、詰将棋が挙げられています。ファンタジーではお馴染みの『魔法陣』ですが、リアルな研究での魔法陣と聞くと胡散臭く感じる方もいらっしゃるかもしれません。魔法陣(magic squea)は数学のれっきとした1ジャンルです。

3×3の魔法陣
河図絡書『九星図』   西洋数秘術『サトゥルヌス魔法陣』
4 9 2 6 1 8
3 5 7 7 5 3
8 1 6 2 9 4

魔法陣とは、n×n個の正方形の方陣に数字を配置し、縦・横・対角線の各数字の合計が全て同じになるものを言います。これは意味のある最小の魔法陣とされる3×3の魔法陣で、どのように直線を引いても3つの数字の和は15になります。魔法陣の歴史は古く、中国では紀元前190年頃には存在しました。左は『河図絡書』にある『九星図』です。これは易の『八卦』や『洪範九疇(こうはんきゅうちゅう)』の起源とされます。

右のように、西洋でも魔法陣は研究対象でした。『九星図』を180度回転させると『サトゥルヌス(土星)魔法陣』になります。3×3なので、構成自体は単純ですね。3×3の魔法陣(三方陣)は、対称系を除外すると1種類しか存在しません。

銅版画の傑作/三大銅版画『メランコリアI』(アルブレヒト・デューラー 1514年) 右上の魔法陣の拡大

4×4の魔法陣になると一気に数が増え、総数880通りです。

有名なのはアルブレヒト・デューラーの代表作の1つ『メランコリアI』に描かれたものです。コンパスの他、随所に象徴が散りばめられており、様々な解釈がなされています。

画家/版画家/数学者アルブレヒト・デューラー(1471-1528)1500年の自画像 神聖ローマ皇帝・ブルゴーニュ公・オーストリア大公マクシミリアン1世(1459-1519年)1519年、59歳

デューラーはルネサンスのドイツの画家で、数学者でもありました。右のマクシミリアン大帝の肖像画も描いた人物です。先にご紹介した通り、マクシミリアン大帝の治世下でアグリッパが数秘術を研究した時代です。ハプスブルク家の隆盛の礎を築き、芸術の保護者として成果を残したことで有名な大帝ですが、その中には高度な数学研究も含まれているのです。肖像画も含めて見事に象徴だらけです。

表面的な美醜のみを論評の対象とするのは、成金を含むいわゆる"無知な大衆"です。王侯貴族は美しさももちろん必須ですが、秘められた深淵にこそ美しさと同等以上に価値を見出してきました。それを議論し合うのが、社交界での1つの嗜みだったわけです。秘密の知識を持たぬ者は、共通認識の元で議論することができません。無言で排除されることになりますが、秘密の知識の存在を知らないと、本人はなぜ疎外されるのか分からない仕組みです。ヘヴィーですね。

【世界遺産】サグラダ・ファミリア『受難』のファサード(1882年着工)
"Ms sf 2" ©Utilizator/Adapted/CC BY-SA 3.0

500年も前の話なんて関係ないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、未だ建築中の世界遺産サグラダ・ファミリアにも『サグラダ・ファミリアの魔法陣』と呼ばれる4×4の魔法陣が存在します。1882年に着工し、翌1883年から1926年まで建築家アントニ・ガウディが携わっています。

ガウディで有名ですが、無償で設計を引き受けた初代建築家フランシスコ・ビリャールの既存の計画は踏襲されています。こういうものはパトロンの合意なくしてデザインできません。指示通りに作業するだけの現場作業員クラスは意味を理解していなくても、計画の中枢にいる人物たちは意味を共有しています。魔法陣は重要です。

6×6の魔法陣のアラビア・インド数字の鉄板(元王朝 1271-1368年)
"Yuan dynasty iron magic square" ©BabelStone(2 August 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0
『算法統宗』9×9の魔法陣(程大位 1593年)

4×4の魔法陣は880通りでしたが、5×5の魔法陣は2億7,350万5,224通り(対象形などは除外)あることが1970年代には知られています。6×6の魔法陣は一般的な作り方が分かっていないため、様々な数学者が独自の魔法陣を発表しています。久留島もその一人です。

山梨大学・名誉教授の美濃英俊氏はクラウドサービスげ提供する多数のGPUを利用し、6×6の魔法陣を2回数え上げました。1回目は8万時間かかり、プログラムを改善した2回目は5万4千時間を費やしたそうです。2回の訂正を経て、2024年2月に6×6の魔法陣の総数は1,775京3,889兆1,976億6,063万5,632通り(対象形などは除外)と発表されました。まさにリアルタイムな話ですね!

ちなみに16世紀の中国の数学者・程大位の『算法統宗』には、4から10次までの魔法陣が掲載されています。9次方陣は『九九図』と紹介され、和は369となります。これは数秘術的に特別な数字なので、ご存知なかった方は意識してみると新しい気づきが得られるかもしれません。

Jaksmata3×3×3の立方陣

さて。久留島は6×6の魔法陣も算出していますが、『立方陣』も研究範囲でした。

魔法陣は2次元のn×n、n2です。
立方陣は3次元のn×n×n、n3です。

立方陣を最初に作ったのはフランスの弁護士・数学者ピエール・ド・フェルマーですが、4本の立体対角線が成立する立方陣を最初に完成させたのは久留島でした。ちなみに3次と4次の立方陣は、完全に全てが成立するものは存在しません。数が少ない故の、制約の厳しさが原因です。

【Fukusukeの数学メモ】魔法陣よりもレア?3×3×3の立方陣の定義と例を紹介!
【引用】Fukusukeの数学めも / 中世中国 "© 2016 Fukusukeの数学めも

私立中高一貫校で数学を教えているFukusuke先生が子供でも楽しさを感じやすいよう説明してくれているので、ご興味があればご覧ください。この3次立方陣は10ラインが和42で揃っています。

×5×5と6×6×6の立方陣は存在が長く不明でしたが、2003年にコンピュータを使用して全てが成立する立方陣が発見されました。7×7×7は比較的容易に作れるとされ、1866年には既に発表されています。8×8×8も比較的容易とされます。意外に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。規模が大きくなるほど辻褄合わせできる自由度が高くなるため、難易度は下がるという方向です。

Watchduck4次元の超立方体/テッセラクト/ハイパーキューブ

この分野の研究はホットで、4次元以上の超立方体の魔法陣も研究されています。4×4×4×4と言った感じですね。3次元空間で生きる私たちには想像しにくいですが、数学は数式を用いて理論的に扱うことができます。

超立方体はテッセラクトやハイパーキューブとも言います。

映画『インターステラー』(2014年)製作者
ノーベル物理学賞キップ・ソーン(1970年-)©Christopher Michel/Adapted/CC BY-SA 4.0 監督・脚本クリストファー・ノーラン(1970年-)©Georges Biard/Adapted/CC BY-SA 4.0 脚本ジョナサン・ノーラン(1976年-)©Genevieve719&RanZag/Adapted/CC BY 2.0

『テッセラクト(4次元超立方体)』と言えば、クリストファー・ノーラン監督の2014年の映画『インターステラー』を思い出した方もいらっしゃるでしょうか。ブラックホールやペンローズ過程その他、様々な宇宙物理学を扱った映画でした。素人が適当で無責任な"個人のフィーリング"で作った妄想お花畑映画ではなく、科学コンサルタント/エグゼクティブ・プロデューサーとしてアメリカの理論物理学者キップ・ソーンが参画しています。一般向けに分かりやすくした著書『ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産』で広く知られるようになり、2017年にはノーベル物理学賞を「LIGO検出器への決定的な貢献と重力波の観測」の功績で受賞しています。

脚本はノーラン兄弟が担当し、弟のジョナサン・ノーランは脚本の執筆の傍ら、カリフォルニア工科大学で相対性理論を学んだことでも知られます。

映画としてのビジュアルや分かりやすさにこだわりつつ、物理学的にもかなり本格的な映画とされ、本作の制作過程で成果としてコンピュータ・グラフィックスに関する論文と、天文物理学に関する論文が著されています。

映画『キューブ2: ハイパーキューブ』(カナダ 2002年)

『ハイパーキューブ』に関しては、カナダの映画キューブのシリーズで聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。第一作の『キューブ(Cube)』(1997年)は低予算ながら世界的にヒットし、カルト的な人気を誇っています。

続編は最初の作品の人気にあやかるために金儲け第一主義で作られる場合もあり、全く違う内容になっていたり、整合性がとれない場合も少なくありませんが、続く『キューブ2』(2002年)、『キューブ ゼロ』(2004年)は正式な続編とされます。

第2作目の邦題は『キューブ2』ですが英語だと『CUBE 2: HYPERCUBE』で、時空やパラレルワールドを扱う4次元的な内容となっています。低予算感が満載の一作目と比べるとかなり違う印象となっている上に、ただでさえ難解な設定にも関わらず説明がないため、酷評する一般人も少なくありません。

映画『2001年宇宙の旅』のセットを背景にしたアーサー・C・クラーク(1965年)
"Arthur C. Clarke 1965" ©ITU Pictures(February 1965)/Adapted/CC BY 2.0

イギリスのSF作家アーサー・C・クラークが提唱した3つの格言として『クラークの三法則』があります。

1. 高名だが高齢の科学者が「それは可能である」と言った場合、その主張はほぼ確実に正しい。彼が「それは不可能である」と言った場合、その主張はほぼ確実に間違っている。

2. 物事の可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超えて不可能の領域に踏み込むことである。

3. 十分に高度な科学技術は、魔法と区別できない。

第3法則は特に有名で、頻繁に引用されます。これは様々な場面で応用できますが、1つ、人は理解できないことを軽んじたり、無視する傾向があります。理解できない場合、「分からない。」と素直に言える人は多くありません。実力がプライドに追いついていない人だと、「それは意味がないことだ。どうでも良いことだ。」と言ったり、「オカルトだ!非科学的だ!疑似科学だ!空想だ!」と対象を貶めることをします。自身の不十分さを認めることができず、相手や対象を貶めることで自己のプライドを保とうとします。自身のくだらないプライドを保つためなら、平気で人を貶めます。そうならぬよう気をつけたいものです。その時に理解できなくても、恥でも何でもありません。魔法やオカルトなどと決めつけて思考停止になるのではなく、理解できるよう努めるのが良い気がします。

久留島が発見した6×6の魔法陣
(引用元:「魔法陣」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年8月9日 (土) 12:19 UTC、URL: https://ja.wikipedia.org

ここからは少し難解かもしれません。

久留島も扱った魔法陣はその表記からもご想像いただける通り、正方行列と見ることができます。

『行列』は応用範囲が広く、科学的な分野の大半に応用されるとされます。

私は高校数学で学んだ記憶がありますが、2012年に学習指導要領の改訂で、高校で行列が削除され学ばなくなったということを今知りビックリしました。AIやデータサイエンスの分野でも基礎知識として必須なため、2022年度に高校数学の『数学C』で部分的に復活したものの、あくまでも部分だそうです。かなりヤバいです。

文系でも国立大学を受験された方だと、大学共通第1次学力試験やセンター試験、大学入学共通テストで数学は必須だったりするので、学ばれていると思います。東大も数学Cまで必須です。共通テストは平均60点に設定されており、東大クラスだと100点をとって当たり前、全ての教科で90点以上は取らないと足切りされるなんて話もあります。共通テストは簡単すぎて皆が高得点となり、差がつかないので2次試験が本番という感じです。

歴史などの記憶系は抜け漏れがあり得ますが、数学系は文系でも100点を目指す世界です。数学Cでの行列をバッチリ理解されている方は、ここまで読んでくださっているならば結構いらっしゃると思います。だからもう少しだけ、行列や魔法陣的な話を続けます。分からない方でも、フィーリングで感じ取っていただければ幸いです♪

n次元キューブのペトリー多角形投影図
(引用元:「Hypercube」『フリー百科事典 English wikiperia』30 September 2025, at 09:37 UTC、URL: https://ja.wikipedia.org

n次元の魔法陣のお話をしました。これはn次元キューブを、2次元で視覚的に投影した図です。キューブ(立方体)には見えませんが、全てが各次元に於ける1つの姿です。見事な幾何学模様が現れています。ここでは15次元まで表現されています。

シェルカメオ 『黄金の馬車に載った太陽神アポロン(ヘリオス)』 アンティーク
『黄金馬車を駆る太陽神アポロン』
シェルカメオ ブローチ&ペンダント
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「黄金馬車を駆る太陽神アポロン」を描いたアンティークのシェルカメオの傑作(アンティークジュエリー)にバックライトをあてた所

『超弦理論(超ひも理論)』は聞いたことがある方も多いでしょうか。この理論は10次元時空を必要とします。

物質の基本単位を0次元の『点』ではなく、1次元の広がりを持つ『弦』とする超弦論が基礎です。この極小の弦の振動が宇宙を構成する万物の最小単位とします。仮説段階ながら、『万物の理論』になり得るとして注目されています。

調和と秩序ある宇宙(コスモス)。存在する万物が持つ特定の周波数・・。 太陽神アポロンは音楽の神でもあり、ライアがシンボルです。

音楽の神アポロとミューズたち、惑星球体と旋法(1496年)

勘が良い方は、もうお気づきと思います。

『天球の音楽』を表現したこの絵もアポロンは弦楽器を持っていますし、上部の両脇の人もしくは天使も弦楽器を奏でています。

『超弦理論』や『M理論』として現代では大衆に一部の知識を開示していますが、古代から特別な人々はこの知識を共有し、継承してきました。

シンボルとその意味が理解できると、絵画や、そのような身分の人々のために作られたアンティークジュエリーにその証を見出すことが可能となります。

ここからはさらにマニアックです。私は大学で物理化学や統計力学を学んだので図式の詳細までそれなりに知っていますが、殆どの方は知らない情報も多いと思うので、かなりザックリご説明します。

素粒子のような微視的な事象を考える場合、量子力学が必要となってきます。量子のような小さな世界では、物事は確率で成り立っており、確定した特定の状態にはありません。

ラザフォード原子模型をデザインしたアメリカ原子力委員会の記章

例としては原子の電子状態です。高校まではイオンや化学反応を考える時に分かりやすいため、粒子と捉えます。

『ラザフォードの原子模型』、別名は太陽中心に惑星が周る『惑星モデル』です。これは不正確であることが分かっていますが、想像しやすいという理由で「一般大衆が原子を想像する際の原形」とされます。

アメリカ原子力委員会のロゴ、国際原子力機関(IAEA)の旗もこのモデルを元にデザインされており、この通りだと思い込んでいる方も少なくないでしょう。

PoorLeno水素の波動関数と電子密度

実際は『電子雲』と表現される通り、原子核に束縛された状態で、雲のようにボンヤリとその領域のどこかに確率的に存在します。確率は『波動関数』で計算します。位置とエネルギーを特定するために観測を試みても、その観測自体が量子状態に影響を及ぼすため、位置とエネルギーを正確に特定することはできません。これは『ハイゼンベルクの不確定性原理』と呼ばれます。

ハイゼンベルクの不確定性原理は大学院に内部進学する際の入試で出ました(笑)旧帝大なので高校でトップクラスの成績で入学した人たちが受けているはずですが、落ちて進学できない人がいるほど難関入試でした。私は大学院入試も非開示ながらトップクラスの成績だったことを研究室の教授が仄めかし、実際に学費免除が通ったのでそうなのでしょう。国費が入っているのに研究員を辞めて申し訳なく思っていましたが、この仕事でもこうして役立てることができて良かったです。この辺りが本来は専門領域なのでお任せください♪


(引用元:「シュレーディンガー方程式」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年9月26日 (金) 22:08 UTC、URL: https://ja.wikipedia.org

電子の確率的な挙動や、粒子性と波動性については『二重スリット実験』が有名です。これはYoutubeで様々な分かりやすい動画が出ているので、ご興味があれば調べてみてください。

さて、なぜこのような話をしているのか関係ないように感じた方もいらっしゃるでしょう。

詳細は割愛しますが、一見すると異なるもののように感じられる『波動関数』と『行列力学』は数学的に等価であることが証明されています。

波動関数で量子状態を考えることができ、宇宙(コスモス)を論じることができますが、波動関数ではなく行列でも宇宙を捉えることができるということです。

行列は英語で『MATRIX』と命名されており、もちろんこれは意味があります。映画『MATRIX』(1999年)も意図したネーミングです。

今回は割愛しますが、調和と秩序あるシステムとしてのコスモス=行列で表現できる場=マトリックスであり、ブラックキューブでもあります。

アブラハムの各宗教の重要シンボル
ユダヤ教 キリスト教 イスラム教
額にテフィリンを着用したロシアのユダヤ教徒(ポドリスク 1870~1880年頃) 立方体/正六面体の展開図 メッカのカアバ神殿/偉大な立方体/名誉の立方体(サウジアラビア 1880年)

違うように見える各アブラハムの宗教ですが、崇拝する神は同じです。宗教を作り継承してきた中枢人物は秘密の叡智を共有しています。以前ご紹介した通り、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の全てがキューブをシンボルとします。キリスト教は分かりにくくするためアレンジされていますが、十字架は立方体の展開図です。これは立体と平面の両方で考える重要性を知ると、いかにもだと思えます。調和と秩序ある宇宙(コスモス)のシステム設計者こそが創造主であり、神とされます。

『The Ancient of Days』(ウィリアム・ブレイク 1794年)創造主デミウルゴス

プラトンが『ティマイオス』で言及した物質界世界の創造者デミウルゴスは、実は旧約聖書のヤハウェと同じとされます。

デミウルゴスは職人や工匠などの意味があります。王侯貴族も所属してきたフリーメイソンも、元は友愛団体ではなく職人団体として存在しました。ご想像の通り、フリーメイソンのコンパスと定規も創造者を表しています。

プラトン主義の発展により宇宙の在り方として、数学的に裏付けができる比率や調和の存在が確実視されるようになり、中世にはこう考えられるようになっていたことを思い出してください。
「宇宙はランダムなカオスではなく、明確な設計図を元に完璧なシステムとして創造されている。」

ところでアメリカのSFドラマ『スタートレック』シリーズに『ホロデッキ』と呼ばれる、現実と殆ど変わらないシミュレーテッド・リアリティ世界を作り出す装置が登場します。心身相関であり、仮想現実で死ねば現実でも死んでしまうほどの現実を作ります。触れることも可能です。実際には触れた感覚を脳に知覚させるというのが正しいです。

ハプティクス(触覚技術)というテクノロジーで、既に実用化されています。物理的な振動を与えることで特定の感触を与える方法もありますが、デバイスからユーザーの皮膚表面に弱電流を流す方式も生み出されています。電流を通して発振する電界を生じさせることで、振動する感触が得られ、その周波数や振幅、信号の形状によって触感を制御できます。ザラザラ感やデコボコ感など質感の再現や、硬さや柔らかさなどの手応えや存在感も生み出せます。私も試したことがありますが、脳に届く信号自体は同じなので、本当に柔らかい物体を押し込んだ感覚がありました。既に実用化されているものもありますが、シミュレータやバーチャルリアリティでも実際に研究開発が進む分野です。これが内閣府が推進する、2050年を見据えた『ムーンショット目標』にもつながってきます。

スタートレック・シリーズのホロデッキ
【引用】新スタートレック138話「帰ってきたモリアーティ教授」 ©パラマウント・テレビジョン

ある意味でその完成形と言えるのが『ホロデッキ』です。初出は1987年放送開始の『新スタートレック(TNG)』第一話です。まだワープロの時代(1980年代から1990年代にかけて)です。パソコンの普及はWindows95登場後の1990年代後半から加速し、家庭やオフィスに浸透したのは2000年代です。インターネットが日本で一般的に普及し始めたのもWindows95が契機で、1990年代後半からです。リアルタイムで視聴された方もいらっしゃると思いますが、当時の一般人が正確に理解するのは不可能でしょう。

仮想現実を作るデータは『キューブ』に保存されており、この『エネルギー・マトリックス』は独立システムです。映画『マトリックス』の公開は1999年なのでパクリではありませんし、12年は先行しています。

仮想現実世界では様々な人物が登場し、プログラム通りに動きます。しかしある時、自我を持ち自由に行動し始める人物が現れました。その人物はキューブの中で、"自由になった"と錯覚して人生を謳歌中です。それを意識しながら、左上のコマではキューブの中で生きる人の話をしています。

was a bee水槽の中の脳 / brain in a vat

映画『マトリックス』も、『水槽の中の脳』として議論されます。

「あなたが体験しているこの世界は、実は水槽に浮かんだ脳がみている夢ではないのか」

これは古くから存在する思考です。科学技術が発展していない時代だと突拍子もなく聞こえますが(Ex. クラークの第3法則)、今なら一般人でも具体的に考えることも可能でしょう。

スタートレック・シリーズのホロデッキ
【引用】新スタートレック138話「帰ってきたモリアーティ教授」 ©パラマウント・テレビジョン

『新スタートレック』の第138話にて、仮想現実の世界で自由意志を持った人物は現実世界へ出ることを望み、"現実世界"へ抜け出すことができたと思い込んだまま、キューブの中で本人にとっての"現実"を生きています。キューブの外にある、"本物の現実世界"から物事を見るエンタープライズ号の登場人物たち。考古学を好み古今東西の哲学にも精通するピカード艦長は言います。「この世界だって映像かもしれん。誰かの機械の中で生きているだけかも。」

その様子をSFドラマとして、画面越しに見る私たち。さあ、私たちが思う"現実"は現実だと断言できるでしょうか。その根拠や証明するためのデータはあるでしょうか。これは深淵なるテーマです。

ホロデッキで自我と自由意志に目醒めたモリアーティ教授
【引用】新スタートレック29話「ホログラム・デッキの反逆者」 ©パラマウント・テレビジョン

ホロデッキで自我と自由意志に目醒めたのはモリアーティ教授です。アーサー・コナン・ドイルの推理小説『シャーロック・ホームズ』の最大の敵役として登場しますが、主役のホームズを凌ぐとも言われるほど絶大な人気を誇ります。21歳にして二項定理に関する数学論文を発表し、数学教授をしながら論文『小惑星の力学』も発表した天才です。

その仮想現実世界で、何らかの理由で自我を持ったモリアーティ教授に言わせたセリフがグッときます。
「我思う ゆえに我あり」

単なるプログラムに過ぎない無機質な存在と見るのか、意識と自由意志と自我を持つ尊厳ある1つの生命と見るのか。これはAIが現在進行形で発達している私たちにとっても、現実的な問題となるでしょう。

フランスの哲学者/数学者ルネ・デカルト(1596-1650年) 直交座標系(デカルト座標系)
 "Cartesian coordinates 2D" ©Gustavb/PSTricks/Adapted/CC BY-SA 3.0

このセリフはフランスの哲学者・数学者ルネ・デカルトが初めて哲学書として出版した著書『方法序説』(1637年)から引用されたものです。刊行当時の正式名称は『理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法の話。加えてその試みである屈折光学、気象学、幾何学。』です。

デカルトと言えば、『デカルト座標系』を思い浮かべる方もいらっしゃると思います。この著書で、平面上の座標の概念を確立しました。直交座標系はデカルトの名をとってデカルト座標系と呼ばれたりします。

『方法序説』(ルネ・デカルト 1637年)

「我思う、故に我あり。」と同じ書籍に直交座標系ということで、一体何の内容なのかと、つながりが見えていない人には脈絡なく意味不明に感じられるでしょう。

6部構成の『方法序説』には「神」、「人間の魂」、「動物の魂」、「自然学の諸問題の秩序」などが議論され、自然学の秩序として特に心臓の運動などが言及されています。

心臓の運動、すなわち心拍は心電図で表現できる電磁波であり振動ですね。ミクロコスモスです。

当時、多くの書籍はラテン語で書かれていました。そもそも庶民は文字を読めませんが、上流階級でも女性はラテン語の教育を受ける可能性が低く、女性や子供でも読めるようにとフランス語で書かれました。「我思う、故に我あり」の出典として有名で、きちんと読んだことがない人でもこのフレーズは多くがご存知でしょう。

「Je pense, donc je suis」(フランス語)
「Cogito ergo sum(コギト・エルゴ・スム)」(ラテン語)
「I think, therefore I am」(英語)

初出はフランス語です。ラテン語は第三者が『真理の探求』で翻訳したものです。古の上流階級や知的階級にとってローマ帝国の公用語だったラテン語は重要な教養の1つであり、使いこなせるのはカッコいいという憧れのイメージを持たれていました。それ故にラテン語の「Cogito ergo sum」は有名です。cogito =我思う、ergo = 故に、sum = 我在り、です。

英語だと何だか軽いというか、ダサい感じですね。英語圏の人がこのフレーズを使う場合、これを引用するような人物は知的で高尚なものを好むでしょうから、フランス語かラテン語で発言すると思います。両方を覚えておいて損はないと思います。

我思う、故に我あり
【引用】新スタートレック138話「帰ってきたモリアーティ教授」 ©パラマウント・テレビジョン

実際、モリアーティ教授にも最初にラテン語で言わせた後、英語で再度言わせていました。オリジナルのフランス語を使っても、一般のアメリカ人は「何でフランス語?」と思うでしょう。ラテン語はローマ帝国に通ずる高尚で格調高い響きがあり、柔らかい印象のフランス語よりモリアーティ教授の知性と信念にはフィットします。ラテン語でカッコよさを演出しつつ、分からない一般人にも意味が分かるよう英語で再度「I think, therefore I am.」と言わせたのでしょう。よく設計されたドラマです。

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナ(1626-1689年)1650年、24歳頃 『哲学の原理』(ルネ・デカルト 1644年)1685年版

哲学者で数学者のデカルトの著書は他にも『音楽提要』(1618年)、地動説を事実上認める内容を含む『世界論』(1633年)などもあります。右の『哲学の原理』に天球が描かれていることからもご想像いただける通り、ピタゴラス学派の『天球の音楽』や秘密の叡智を継承していることは確実でしょう。

1649年に22歳のスウェーデン女王クリスティーナから3度も招きの親書を受け、お迎えにはスウェーデン海軍提督が軍艦でやってきたそうです。国賓待遇ですね!

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナ(1626-1689年)14歳頃 スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナ(1626-1689年)1653年、27歳頃

クリスティーナ女王は誕生早々に父王から後継者指名され、古典や神学に加え帝王学を学び、騎馬、剣術、狩猟などまるで王子のような教育で育てられました。クリスティーナ自身、手芸や人形遊びのような一般的な女子が好む遊びには興味がなく、乗馬や射撃を得意としました。父王の死後、6歳でスウェーデン女王/フィンランド大公女に即位しています。父王の聡明さを受け継いだとされ、ラテン語・フランス語・スペイン語に通じ、文学・芸術への造詣の深い才媛として豊かな教養で知られました。

ヴォルテール(1694-1778年) エミリー・デュ・シャトレ(1706-1749年)

そんなクリスティーナ女王をヴォルテールもたびたび自著で扱い、賞賛しています。ヴォルテールはシャトレ夫人の愛人で、シャトレ夫人のことも手離しで賞賛していました。真に賢い女性は心から好きなのでしょうね。「クリスティーナは天才的な女性であった。戦争以外に何もわきまえない国民の上に君臨するよりも学者たちと語り合うことを好み、王位を惜しげもなく捨て去ることによって名を謳われたのである。」

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナに招聘され1650年に講義するデカルト スウェーデン王カール10世(1622-1660年)

クリスティーナ女王は実際、学者との会話を好みました。6歳で即位し、18歳で成人した1644年頃から親政を開始しましたが、20歳で退位の計画を立てていました。その7年後となる1654年には4歳上の従兄カール10世に王位を譲り、退位してローマに拠点にしてフランス、ドイツ、スウェーデンを外遊しました。政治的いざこざを挟んだ後、1668年以降はローマに定住して学問、芸術。文学を研究する日々を送りました。

在位中にデカルトを招聘した際、海軍提督が軍艦で迎えに行ったのは1649年の4月でした。女王は冬を避けるよう伝えていたのですが、デカルトは9月に出発し、10月にストックホルムに到着しました。1650年1月から、女王のために朝5時から講義を行いました。朝寝の習慣があったデカルトには辛い毎日だったそうで、2月に風邪をこじらせ、肺炎を併発して亡くなりました。

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナ(1626-1689年)1650年、23歳頃

高緯度のストックホルムは、冬場の日照時間は6時間しかありません。慣れぬ者にとって、冬は日照時間と気温の観点から危険な環境と言えるでしょう。朝5時と言えばまだまだ真っ暗で、特に寒い時間帯だったはずです。

特に王位に就く者は幼少期から、早朝から遅い時間まで毎日スパルタ教育を受けるのは普通ですが、大人になっても朝5時から自ら望んで本気の講義だなんて凄いです。

特に日本人は、大人になると途端に勉強しなくなる人も少なくありません。このような傲慢怠惰な人が自らをヨーロッパ王侯貴族と同等と思い込み、同じ視点で語ろうとするのは無礼でしかありません。

但し、もしそれを貴族の眼前でやっても直接抗議されることはありません。心の中で処理されるだけです。
「バカ(あるいは無知、もしくはその両方)だからしょうがない。」と・・。

言い方は悪いですが、同じレベルに在ると思われていないので、腹を立てる対象になり得ません。小さな子供やペットなど動物に、同じ目線で腹を立てないのと同じです。しょうがないと許せます。わざわざ無礼を抗議する価値を見出されることはありません。その人に対して、時間や労力を使う価値がないからです。共通言語を解さぬ相手に話しても無意味です。社交界の人々に相手にしてもらえない、無言で立ち去れられるというのは、一般人には理解不可能だったりします。自分本位で相手を慮るのではなく、思考回路を相手に合わせれば、ごく自然な行動と分かるはずです。それが理解できないと「酷い!」と自身を被害者に見立てて相手を批難することになりますが、実際にはそれに値する無礼な行動をしているのです。

『アスパシアの話を注意深く聞くソクラテスとアルキビデアス』
(ニコラ=アンドレ・モンシオー 1801年)

こういう時、「知らなかったからしょうがない。許すべきだ!」と一方的に自己弁護と相手の許容を求める人もいます。知らなければ人を傷つけても構わない、最悪は死に至らしめたとしても知らなかったのだから責任は追わないという思考です。こういう人にとっては"知らない状態"の方が都合が良く、許しても何度も同じことを繰り返します。成長につながらず、停滞あるいは一方的な搾取になるだけで不毛です。

「無知は罪なり、知は空虚なり、叡智を持つ者英雄なり」
これはソクラテスの言葉とされます。知らないこと、つまり無知は結果的に悪いこと(様々な罪)を引き起こすからこそ、知ろう(知識、経験、知見を得よう)と努力すべきである。そしてただ知っているだけ(知識バカ)では意味がない。それを知恵として活かすべきであるという意味です。

このソクラテスの教えもヨーロッパ上流階級の教養として根底にありますから、無知を恥とも思わず権利を一方的に主張する人物、知識だけを自慢し何の実績もなく世の中に貢献できていない人は軽蔑されます。

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナ(1626-1689年)1670年、43歳頃

それにしてもデカルトの価値が分かるからこそ、その死はショックだったでしょう。

6歳で即位し、制約の中で生きてきたクリスティーナ女王は外に出て、広い世界で思う存分に学ぶことで、深淵への到達を加速したかったのでしょう。

デカルトの死から4年後となる1654年、27歳での退位とその後の外遊生活を見事実現させました。

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナ(1626-1689年)1685年、58歳頃

『秘密の叡智』を知ることと、真の理解は別です。

だから専門家に教えを請いますし、朝5時から学びます。天才がそれほどしても到達できないような世界なのです。到達ではなく深淵にどこまで迫れるかという領域だからこそ、時間を惜しみながら人生の全てをかけて探求を続けます。

だからこそ今回だけで語りきることは不可能ですし、少なくとも自分はまだまだ何も知らないと認識しておくべきです。私がこれだけ書いてもです(笑)

スウェーデン女王/フィンランド大公女クリスティーナに招聘され1650年に講義するデカルト was a bee水槽の中の脳 / brain in a vat

『水槽の中の脳』は、実は『我思う、故に我あり』で有名なデカルトの思考と仮説を現代版に分かりやすくしたものです。古い時代から、特別な人々にはこの考え方が共有され、もっと奥深くは秘密の叡智として継承されていたことを御留意ください。

何だか良く分からない方が普通だと思いますので、もう少し具体にしましょう。

私たちが定義する『生命』とは何でしょうか。肉体あっての生命なのか、意識や魂はどう捉えるべきなのか。これは物質本位の『唯物論』や、それと対を成す『唯心論』にも繋がってきます。唯心論ではこう考えます。
「心やその働きである感情などは、あくまでも物質に還元されない特異の性質を持っており、物質的存在がその存在を容認するのは意識によるのである。」

新スタートレックの『我思う、故に我あり』
【引用】新スタートレック29話「ホログラム・デッキの反逆者」、138話「帰ってきたモリアーティ教授」 ©パラマウント・テレビジョン

物質を超えた精神。まさに「思考が現実を創り出す。」という考えです。この後モリアーティ教授は「コギト・エルゴ・スム(我思う、故に我あり)」と発言し、現実世界での意思の力による肉体の物質化に挑みます。新スタートレックの29話と138話です。重厚で深淵なテーマですし、生き生きとして人間以上に人間らしいモリアーティ教授はとても魅力的です。ご興味があればぜひご視聴くださいませ。

DhJ釈迦が悟りを開いて最初に弟子となった5人の修行者『五比丘(ごびく)』

この考え方は仏教にも存在することで知られます。仏教の根本原理は『色即是空』と表現されます。聞いたことはあると思いますが、意味を説明されてもピンとこない方が多いのではないでしょうか。この世の全てのものは恒常な実体ではなく、縁起によって存在するという教義です。

色:目に見える物質的な存在
即是:すなわち、イコール(=)
空:実体がないこと(単純な『無』ではない)

意識が在ってはじめて物質化した現実世界が存在し得ます。物質と空は等価というのはアインシュタインのE=mc2にも通ずるとされ、量子レベルの真空中では物質と反物質が絶えず生まれては消えるということにも通じます。これが現代の言い方では『ホログラフィック宇宙論』や『シミュレーション仮説』とされます。

SF作家アーサー・C・クラーク卿(1917-2008年)1965年、47歳頃
"Arthur C. Clarke 1965" ©ITU Pictures(February 1965)/Adapted/CC BY 2.0

アーサー・C・クラークは1950年代から1970年代にロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフと並んでSF界の大御所『ビッグ・スリー』として活躍しました。他の2人が叙事詩やエンターテイメント志向だったのに対し、クラークは豊富な科学知識に裏打ちされた近未来のリアルなハードSF群と、仏教思想に共鳴した"人類の宇宙的進化"を壮大に描く作品群とに特色があるとされます。

第二次世界大戦ではイギリス空軍で空軍少尉、つまり将校とレーダー(電磁波)技師を務め、1945年に人工衛星による通信システムを提案しました。『英国惑星間協会』の会長も務め、科学解説者としても知られます。女王エリザベス2世から1998年にナイトを授与されており、個人の適当な妄想ではなく『秘密の叡智』を知る者としての作品群だったことが確信できます。そこに綺麗に仏教思想もはまるのです。

アニメ『火の鳥』オープニング抜粋(手塚プロダクション 2004年)
【引用】Youtube / 火の鳥 ©手塚プロダクション公式チャンネル

ところでこれはアニメ『火の鳥』(2004年)のオープニング抜粋です。リンクを貼っているので、気になる方は動画をご覧ください。銀河の中心、あるいは土星の北極を模した六角形に、火の鳥が飛び込みます。六角形(2次元の平面)は、立方体キューブ(三次元)と同義です。

アニメ『火の鳥』オープニング抜粋(手塚プロダクション 2004年)
【引用】Youtube / 火の鳥 ©手塚プロダクション公式チャンネル

飛び込んで降りた先には盧舎那仏が鎮座し、見上げると曼荼羅のような模様が描かれています。キューブの中は曼荼羅で象徴される、秩序と調和のあるシステムとしての宇宙(コスモス)、すなわち私たちの"現実世界"というを示します。手塚治虫氏は1989年に亡くなっているので、要素が見事なまでに詰め込まれたこのオープニングは他の人たちによるものです。『秘密の叡智』を知る人たちが制作に携わっていることが想像できます。

立方体(3次元)/六角形(2次元)

ところでブラック・キューブやシミュレーション仮説と言えば、『クババのシミュレーション仮説』という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうか。

アナトリア半島のイダ山(カズ山)

イダ山(イデ山/カズ山)は大地母神クババ(Kubaba)崇拝の地でした。元はアナトリア半島のフリュギアで崇拝され、名前の意味は『知恵の保護者』でした。さらには古代メソポタミアの伝説的な女王ク・バウに遡るかもしれません。ギリシャ神話に取り入れられてキュベレ(古代ギリシャ:Kybele、英語:Cybele)となり、古代ローマでは紀元前205年に受容され、ラテン語で『イダ山の神々の大いなる母』という意味のマグナ・マーテルとして継承されています。

イダ山にまつわる神話
ガニュメデス王子の誘拐 パリス王子の審判
ガニュメデスとゼウスの鷲を描いたフランスのインタリオの傑作ガニュメデスとゼウスの鷲を描いたフランスのインタリオの傑作『幻想のガニュメデス』
インタリオ ルース
フランス 18世紀後期
SOLD
「パリスの審判」モチーフの古代ローマのブルー・カルセドニーのインタリオとバロック時代のシャンクによるアンティークリング『パリスの審判(ゼウス&ヘルメス)』
インタリオ:古代ローマ 1世紀
シャンク:ヨーロッパ 1670年頃
SOLD

キュベレ(クババ)崇拝の地イダ山はトロイア遺跡の南東にあり、ギリシャ神話でも度々登場する重要な山でした。ゼウスが鷲に化身し、トロイア王子ガニュメデスを誘拐したのはイダ山でした。トロイア戦争の発端となった『パリスの審判』の、トロイア王子パリスも当時イデ山で羊飼いをしていました。ピタゴラス学派が生まれた古代ギリシャ世界で、クババが知恵の保護者(=秘密の叡智)として特別な人々から重要視されていたことは想像に難くありません。

集合意識体のサーバー船ボーグ・キューブ
【引用】新スタートレック / ボーグ ©パラマウント・テレビジョン

知恵を授けたのは宇宙人ともされますが、このクババ(KUBABA)やキュベレ(KYBELE)という名前がキューブ(CUBE)の語源であることは偶然ではありません。ちなみにスター・トレック・シリーズに登場するボーグの船も印象的なブラック・キューブ型です。そして、集合意識的な存在であるボーグはボーグ・クイーンと呼ばれる女王を頂点としています。

ところでキリスト教も『キューブ崇拝』というのは俄かに信じがたい、受け入れがたいという方の方が多いと思います。『ヨハネの黙示録』を読まれたことはあるでしょうか。『新エルサレム』について、こう書かれています。

【Revelation 21:16】
The city was laid out like a square, as long as it was wide. He measured the city with the rod and found it to be 12,000 stadia in length, and as wide and high as it is long.

【ヨハネの黙示録21:16】
その都(新エルサレム)は正方形で、長さと幅が同じであった。天使が都の大きさを測ると、高さも長さも幅も同じ1万2,000スタディオン(約2,200km)でした。

神の都である新エルサレムは地上に建設する類のものではなく、完全で壮大な天の都と解釈されます。底面の縦横と高さが等しいピラミッド型の四角錐を想像することもできますが、端は天井が低く、そこが割り当てられたら嫌です(笑)ユダヤ教の伝統では至聖所は立方体であることから、通常は素直に立方体を想像します。

ノアの方舟(エドワード・ヒックス 1846年)

創世記版の『ノアの方舟』は長さ300キュビト、幅50キュビト、高さ30キュビトです。「長:幅:高=30:5:3」の比率は、現代のタンカーなど大型船舶を造船する際に最も安定しているとされる比率とほぼ同じです。

この『大洪水神話』ですが、メソポタミア神話でその原型とみられる大洪水神話が発見され、宗教の世界で物議、あるいは無視(見なかったことに)される事態が起きています。紀元前18世紀にアッカド語で記された叙事詩『アトラ・ハシス』にノアに相当する人物が登場し、各地の各言語で語り継がれて来ました。

『ギルガメシュ叙事詩』の粘土板

『ギルガメシュ叙事詩』ではウトナピシュティムの名で登場します。大洪水を生き延びるための船の設計は「適当にお任せ!」でなく指定があります。

「全ての生き物の種を舟に運び込め。おまえが造るべき舟は、その寸法を決められた通りにせねばならぬ。その幅と長さとを等しくせねばならぬ。(底面の)表面積は1イクー(60m×60m)、四方の壁の高さは10ガル(60m)、覆い板の幅は各10ガル(60m)。つまり文字通りの箱舟(立方体)であった。」

ただの物語ならば、船の形状が詳細に指定され記述されていること自体が奇妙です。しかもよりによって、通常の海では馴染みのないキューブ型です。日本語は方舟、箱船、箱舟の表記が存在します。方は立方体を連想させますし、箱もやはり立方体がイメージできます。

TTTNISトヨタ・ノア(2001-2004年モデル)

トヨタが発売したミニバン型乗用車『ノア』はCMのキャッチコピーで「夢を、運ぶね」と、箱舟を連想せる音を持たせていました。これも言霊の一種なので、分かる人にはすぐ伝わるメッセージです。ノアの方舟で生き残った人間はノアと3人の息子セム、ハム、ヤフェト(ヤペテ)と、それぞれの妻の合計8人です。そして、古代中国や朝鮮半島では生きている人間を生口と呼び、『魏志倭人伝』に倭の女王・卑弥呼が239年に魏の明帝に生口を奴隷として献上した記録が残っています。

『船』という漢字は舟に八人の人間、つまり八の口が乗ったため、こう記すようになったとも言われます。トヨタ・ノアが8人乗りなのも意図的だとも言われます。そして、ノアの対抗に日産が販売したのが『キューブ』でした。日本人も含め、秘密の叡智は現代まで継承されているのです。データを集めるほどに、それは否定できなくなっていくでしょう。

余談:久留島の詰将棋とミクロコスモス
将棋で遊ぶ子供たち(18世紀)

 立方陣すらも頭の中にあった和算の天才・久留島は指し将棋もかなりの腕前でしたが、特に詰将棋の作図、中でも曲詰が得意で、江戸時代の『3大曲曲詰作家』とされます。

今でも詰将棋の作図に使われる趣向『知恵の輪』と、さらに派生の『金知恵の輪』、『銀知恵の輪』を考え出すなど、論理的な作風で多数の傑作を残したとされます。

神聖幾何学模様フラワー・オブ・ライフ
 "Flower-of-Life-small" ©Life of Riley(29 November 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0

2019年5月時点で詰将棋の最長手数は橋本孝治氏の『ミクロコスモス』(1986年発表)の1525手詰(改良前は1519手詰)で、全国詰将棋連盟が制定した『看寿賞』長編部門を受賞しています。

このミクロコスモスは、久留島の『知恵の輪』を使用しています。知恵の輪は一連の千日手含みの手順を繰り返し、その手順の中で少しずつ盤面を変化させ収束に至るというものです。

『看寿賞』には短編、中編、長編の3部門があります。短編には10手詰未満もあります。長編でも短いものは47、61手詰など100手詰未満もいくつもあり、100手詰代がボリュームゾーンです。そのような中で、1525手詰は圧倒的な長さを誇ります。集中力も思考の深さもとんでもないですね。

ハンガリー王国の作曲家/ピアニスト/民族音楽研究家バルトーク・ベーラ(1881-1945年)1927年、46歳

橋本氏によると、『ミクロコスモス』の命名はハンガリーの作曲家バルトーク・ベーラのピアノ練習曲集『ミクロコスモス』に由来するそうです。

1932年から1939年にかけて作曲した全6巻、153曲の小品で、難度が漸進的に上昇する構成です。

練習曲なので殆どは1分弱から2分程度で、様々な性格の短い曲が集合していることなどを含み『ミクロコスモス』と名付けたそうです。

橋本氏によるネーミングは、将棋という特殊な才能を要する世界であることも含めて、『秘密の叡智』の存在を知る者を想わせます。数学、音楽、調和、宇宙・・。

ポッと出の天才がただ一代で築けるレベルではない、重厚で深淵な世界がそこには存在します。

19世紀末の世界最大の銀行家J. P. モルガン
モルガン財閥創始者/金融王ジョン・ピアポント・モルガン(1837-1913年) モルガンの経済界に於ける権力はアメリカ連邦政府より大きいことを、連邦政府を小さなアンクル・サムに擬人化して描いたイラスト(1881年)

19世紀末の世界最大の銀行家で、経済界での権力はアメリカ連邦政府より大きいとされたJ.P.モルガンの言葉として以下は有名です。

"Millionaires don't use astrology, billionaires do, "

日本語では「億万長者は占星術を信じないが、大富豪は占星術を活用する。」と訳されていましたが、億万長者と大富豪の定義が曖昧で、これだとそもそも何だかよく分からないと思います。当時の貨幣価値基準なのは留意する必要がありますが、ミリオネアは資産100万ドル以上、日本円だと資産1.6億円(2025.12現在の為替レート)以上です。ビリオネアは資産10億ドル以上、日本円だと1,600億円以上です。

2021年の時点で、資産10億ドル(約1,500億円)超えのビリオネアは世界に2,755人います。現代のオートクチュールでは、毎シーズン注文する顧客はせいぜい500人ほどとされ、世界各国の王侯貴族やファーストレディ、有名女優などが主要顧客とされます。占星術を使うとされる特殊な層は、およそこのくらいの規模でしょう。

初期アールデコのガーランドスタイルのトロフィー・ダイヤモンド・ネックレス『勝利の女神』
アールデコ初期 ガーランドスタイル ダイヤモンド ネックレス
イギリス or フランス 1920年頃
¥6,500,000-(税込10%)

デザインからフルオーダーするオーダー・ジュエリーは、衣服などとは比較にならぬほど技術もお金もかかります。オートクチュールも商売としては既に成り立っておらず、既製品プレタポルテの格を上げるための広告宣伝費の位置付けです。

フルオーダーの1点物のジュエリーはとうに作れなくなりました。それこそが、幻と言えるアンティークジュエリーです。

投機マネーの流入やインフレ、枯渇の進行で値上がりしたとは言え、庶民が頑張れば手に入る値段ということがそももそも異常です。それでも高いと言う人は、価値が全く分かっていない証です。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

必ずしも秘密の叡智の継承者がビリオネアとは限りませんが、ヘリテイジがお取り扱いするクラスのアンティークジュエリーをオーダーしていた王侯貴族は該当します。資産1600億円クラスのビリオネアは、予算を心配する必要はありません。安く抑えることではなく、美しいことや教養に満ちていることを第一に望みます。

1億円や10億円レベルは庶民からすればお金持ちに見えても、社交界の世界ではたくさんいる取るに足らない小金持ちに過ぎません。その程度の層は『秘密の叡智』の存在など知らず、占星術は使いません。そして多くは凄そうに見せるために、成金主義の高級ブランドに走ります。しかし中身が空っぽなのです。

音楽の神アポロとミューズたち、惑星球体と旋法(1496年)

ビリオネアは秘密の叡智を共有しており、だからこそ占星術を使います。

これを小耳に挟んで、安直に占星術に飛びつく人たちもいます。一般市場で手に入る占星術や有名占い師にカネと時間を投資し、ビリオネアと同じになった気分を得ているようですが、残念ながら頓珍漢な行為です。

それらは表層だけの薄っぺらいものだったり、肝心な部分は触れていなかったり、当たり前ですが大衆用にカスタイマイズされています。

的外れなので、『秘密の叡智』の継承者に「私も占星術が大好きです!」などとアピールしても、相手にされないでしょう。

夜桜を舞う梟の赤銅ロケット・ペンダント『夜桜を舞う梟』
アングロジャパニーズ・スタイル 両面・赤銅高肉彫り象嵌 ロケット・ペンダント
赤銅:日本 1870年頃
ロケット:イギリス 1870年頃
¥3,800,000-(税込10%)

HERITAGEでお取り扱いしているのは、本物の王侯貴族層のために作られたジュエリーです。

庶民の発想や基準で考えるのではなく、その階層に合わせて発想しましょう。

どんな成金も矮小で取るに足らない存在に見えてくるはずです。

お金など価値基準にはなりません。『秘密の教養』を持った上で、本人の才能と努力の結果としての周辺知識と理解度こそが重要です。それを象徴するツールの1つとしてアンティークジュエリーが在りました。

成金のハリボテ・ジュエリーに対し、王侯貴族のアンティークジュエリーは中身がみっちみちに詰まっています。毎回カタログ作成が大変です!でも学びが多く、最高に楽しいです!(笑)

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

『天球の音楽』、調和と秩序のあるコスモスとしての宇宙。人にも物にも固有の振動数があり、感覚的に当時の持ち主と通じ合うこともできます。

しかし、そのような他者とは共有できない"個人の感覚"だけではありません。象徴を駆使して秘密のメッセージを送受信する世界なので、デザインを見て伝え合うこともできるのです。

和紅茶『こすもす』のパッケージ
和紅茶『コスモス』とブラックキューブ&曼荼羅のパッケージ 和紅茶『コスモス』のフラワーオブライフ的な曼荼羅の紅茶缶

1つ、伏線を回収しましょう。初めの方でご紹介した、お客様からいただいた和紅茶『秋桜 -こすもす-』はブラックキューブに入っており、中の紅茶缶にはフラワーオブライフや曼荼羅を想わせるようデザインされています。ブラックキューブの中の、秩序と調和のとれたシステムとしての宇宙(コスモス)。それを象徴する美しい神聖幾何学模様・・。

商品開発に携わった方はもちろん分かっているはずですし、下さったお客様も『フラワーオブライフ』に言及できる方です。上質な和紅茶はもちろん、かなりお金をかけたパッケージでの高価な贈物に恐縮しましたが、単純に高価だったり有名ブランドだったりではなく、これだけ教養に満ちたものを選べることに「さすが!♪」と感じました。それと共に私のことを、これを贈る価値があると感じてくださったことが光栄で嬉しいです。言語領域を超えた会話に心満たされます♪♪

古代インドの宇宙観、宇宙亀とメルー山(チュノ・デュヴォテネ 1843年)

最後にもう1つ、ブラックキューブとコスモスの関連に触れておきましょう。これは古代インドの宇宙観で、宇宙亀(The cosmic tortoise)が世界を支えます。

象徴で示される宇宙観
立方体(3次元)/六角形(2次元) 六角形のブラックキューブや曼荼羅のようなピケ・ブローチ
六角形のブラックキューブや曼荼羅のようなピケ・ブローチ『Black CUBE』
ピケ・ブローチ
イギリス 1870年頃
SOLD
【世界遺産】サグラダファミリア『生誕のファサード』(スペイン・バルセロナ)
"Sagrada Familia135"©Harmonia Amanda/Adapted/CC BY-SA 2.5

ここまでの知識を元にすると、ピケ・ブローチ『Black CUBE』をご紹介した時に私のテンションの高さもお分かりいただけると思います。ハニカム模様は亀甲を象徴しますし、ピケという素材自体が亀の甲羅です。その上にデザインされているのは、幾何学模様の曼荼羅のような金銀象嵌です。宇宙亀がコスモスを支える構造です。中心の北極星から伸びる6本のシルバーのガイド線を頼りに立体視すれば、まさにブラックキューブの中の曼荼羅の世界が現れます。

このような知識があって初めて、王侯貴族のアンティークジュエリーが読み解けます。また各地を旅する時も、普通の人は気づかないようなことに気づき、時空を超えた出逢いに心踊る瞬間も多くなるでしょう。右はガウディが生前に完成を見た唯一となる、サグラダファミリア『生誕のファサード』の一部です。亀が支えていますね。

【世界遺産】サグラダ・ファミリア 螺旋階段(1882年着工)
"Sagrada familia spiral staircase" ©Bkwilwm(11 December 2005)/Adapted/CC BY-SA 2.5

サグラダ・ファミリアも本当に象徴や要素が多く存在します。この対数螺旋を意識した階段も、ピタゴラスから続く叡智を感じます。『秘密の知識』には段階があり、身分によって知ることを許される情報の範囲も異なります。使いこなせるかどうかは個人次第です。全ては知らなくても、その存在を知るだけでも世界は変わって見え、多くの気づきを得られるようになるはずです。

『ホログラフィック宇宙論』や『シミュレーション仮説』の真偽や正誤は、ここでは関係ありません。各人が自由に探求し、考察し、答えを出していくべきものです。だからこそ私の考えも敢えて述べるつもりはありません。ただ、遥かなる古代から現代までの長い年月、忘却されるどころか骨子として全世界の特別な階層に共有されてきたであろうことは、看過したり軽んじるべきではありません。ぜひ、これからは少し意識してみてください♪

2. 時代背景を感じる魅力的な宝石の組み合わせ

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

 今回のコスモスのピアスは、宝石にも強い魅力があります。シードパール・ジュエリーに分類できますが、特別クラスのダイヤモンドを使っているのが特徴です。

2-1. ダイヤを使うシードパールジュエリーは特別の証

2-1-1. シードパール・ジュエリーの宝石の特徴

正装用のジュエリー
デイ・ジュエリー ナイト・ジュエリー
レイトヴィクトリアンのGUBSON社のハーフパールのお花のブローチシードパール フラワー ブローチ
イギリス(GUBSON社) 1880~1900年頃
SOLD
ヴィクトリアンのフラワーモチーフのトレンブランダイヤモンド トレンブラン ブローチ
イギリス 1870~1880年頃
SOLD

19世紀後期のシードパール・ジュエリーは、デイ用の正装のために作られました。だから天然真珠のみの構成が殆どで、ダイヤモンドと組み合わせたものは滅多にありません。

2-1-2. ダイヤモンドを使ったシードパール・ジュエリー

 過去48年間で、ダイヤモンドを使ったシードパール・ジュエリーは数点のみです。以下の4つが見つかりました。それぞれ特徴があります。

撚り線と粒金細工が美しいダイヤモンド&天然真珠のバングル
ムーンストーンのヴィクトリアン・ブローチ ハートシェイプ ダイヤモンド ペンダント&ブローチ アンティークジュエリー シードパール&ダイヤモンドのスパイラル・ペンダント&ブローチ
例1. ダイヤモンド・ラッシュ最初期

 このバングルは南アフリカのダイヤモンド・ラッシュが始まった、最初期の宝物ならではのデザインと言えます。それまでダイヤモンドの主要産地だったブラジル鉱山が、1860年代に入ると急速に枯渇しました。ダイヤモンド産業が廃業や縮小に追い込まれ、稀少価値の急上昇によってダイヤモンドが至高の宝石に躍り出ました。どの時代も一定してダイヤモンドが至高の宝石と思い込むのは、現代の成金や自己中心的な短絡思考です。基本的には、アンティークの時代は天然真珠が至高の宝石です。

撚り線と粒金細工が美しいダイヤモンド&天然真珠のバングル

ダイヤモンド&天然真珠 バングル
イギリス 1870年頃
SOLD

19世紀後期は高度な金細工を駆使したエトラスカン・スタイルが、知的な上流階級に流行しました。ダイヤモンドが至高の宝石となった一方、南アフリカから上質なダイヤモンドが入ってきた絶妙な時期にデザインされました。

このタイミングでのダイヤモンドは、高級宝石としての意味が強くあります。それに加え、通常のシードパール・ジュエリーは女性ならではの清楚さや優しい雰囲気が魅力ですが、ダイヤモンドが加わることで、考古学風ジュエリーならではの格調高い雰囲気を一層惹き立てています。成金は勘違いしていますが、デザインあっての宝石であり、色々な意味でデザインが最も大変なのです。

例2. ムーンストーンの名脇役
ムーンストーンのヴィクトリアン・ブローチハートシェイプ・ムーンストーン ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD

 この宝物はシードパール・ジュエリーと言うより、当時新鉱山の発見により上流階級に流行していたムーンストーン・ジュエリーとカテゴライズするのが適切です。

存在感のあるムーンストーンなので、脇石をシードパールだけでデザインするとパンチ力に欠けて、ノッペリしたバランスの悪さを感じます。

アクセントとして色石を選んでしまうと、ムーンストーン最大の魅力である繊細な"雰囲気"が台無しです。

控えめながら、上質で無色のダイヤモンドは名脇役としてピッタリですね♪

例3. ダイヤモンドラッシュに伴うカット技術の革新

 一旦は壊滅寸前に追いやられたダイヤモンド産業でしたが、南アフリカ鉱山の膨大な産出量は新たなビジネス・チャンスと見做され、次々にカットの新技術が開発されました。ダイヤモンドの研磨は恐ろしく時間がかかります。山はお金を要求しません。材料自体はタダであり、加工賃の高さこそがダイヤモンドを高価たらしめると言っても過言ではありません。モノの価値ではなく、背景にある手作業の価値です。物質主義の成金は想像力が乏しく、目の前に見えるモノそのものの価値と思い込みます。

ダイヤモンドの切削加工場(1710年頃)

蒸気モーターもない時代、ダイヤモンドの研磨は2人1組みの作業でした。1人が人力で回転盤を回し、もう1人がダイヤモンドを回転板に押し付けて磨きます。これだけで人件費は2倍です。

1852年にアルバート王配がコ・イ・ヌールのリカットのために、世界最高のアムステルダムのカット職人を呼び寄せた際は8,000ポンドを支払っています。

当時の貨幣価値は現代の40分の1とされ、1£=208円(2025.12.14現在)で換算すると6,656万円に相当します。

アルバート王配(1819-1861年)

モノではなく技術料を含めた作業費です。

宝石のカットに7千万円近く出すことを厭わなかったのが王侯貴族です。材料費がタダだったとしても、これだけ加工賃がかかるからこそ、買う時は7千万円の価格になるわけです。

モノにしか価値を見出せないと、職人を安く買い叩こうとします。これは自分さえよければ良いという、視野の狭い自己中心的な考え方です。

ロンドンにも職人はいましたが、なぜアムステルダムから呼び寄せたのかと言えば、その職人しか持たない特別な技術が必要だったからです。買い叩きは奴隷労働を強いる搾取であり、持続可能な構図になりません。

アールデコの躍動感あふれるダイヤモンド・ネックレス『Heaven's Ladder』
アールデコ ダイヤモンド ネックレス
イギリス 1920年頃
¥2,200,000-(税込10%)

20世紀に入り、市場の主要顧客として幅を効かせるようになった成金がそのような奴隷扱いと搾取を行ったからこそ、高度なジュエリー制作は途絶えてしまいました。

「良いものを安く!!」

これはモノづくりや伝統を効果的に破壊します。戦後の日本のモノづくりの栄枯盛衰の末路を見れば、それは実感としてお分かりいただけるでしょう。

潔く廃業して技術が途絶えてしまうか、不可能な安さを表面的に実現すべく、ステルス値上げのような誤魔化しや、質の低下に退路を求めるしかありません。

その時はお得な気分に浸ることができても、最終的には良いものが市場から淘汰され、時間差で低品質のものしか買えなくなります。他者を思い遣ることなく、自分さえ良ければというのは最終的に自身の首が絞まります。人の不幸の上に幸せは成り立ちません。

1870年代初めに蒸気機関を使った研磨機が発明され、1891年には電動の研磨機が発明されたことで、ついに商用のラウンドブリリアンカット・ダイヤモンドの時代が到来したとされます。

モースの会社の加工場
ハートシェイプ ダイヤモンド ペンダント&ブローチ アンティークジュエリー 『硬い愛の心』
ハートシェイプ・ダイヤモンド ペンダント&ブローチ
イギリス 1880~1900年頃
SOLD

この技術革新によってカットのコストが抑えられ、"お安くなること"を王侯貴族が喜ぶかと言えば、そうではありません。新技術に喜び、それまではチャレンジできなかったことに挑みます。

それがハートシェイプのカットです。

よりハート型に近いフォルムの実現は、劈開を無視してカットできるようになる電動ダイヤモンド・ソウの発明を1900年まで待たなければなりません。

ハートカットは無駄が多いです。ダイヤモンドラッシュにより、稀少価値がある程度下がったからこそトライできました。

また、このカットは技術と時間がかかります。電動研磨機を使えるようになったからこそ、現実的にトライできたと言えます。

ハートシェイプ ダイヤモンド ペンダント&ブローチ アンティークジュエリー 裏

シードパールも高価ですが、この宝物はダイヤモンドが主役であることが、セットしたフレームの見えない裏側のフラワー型デザインからも見て取れます。

例4. 個人的な理由

 これは先の『硬い愛の心』と同じ工房の制作で、同じ職人によるものとみられます。ケルトを想わせるスパイラル・デザインが特徴的です。当時流行していたケルティック・リバイバルのジュエリーで、スコットランド貴族のために作られたと想像できます。

シードパール&ダイヤモンドのスパイラル・ペンダント&ブローチハーフパール(天然真珠)&ダイヤモンド ペンダント&ブローチ
イギリス 1880年頃
SOLD
シードパール&ダイヤモンドのスパイラル・ペンダント&ブローチ

先の宝物と異なり、ダイヤモンドは上質ですが王侯貴族のものとしては普通です。しかし、高さを出した荘厳なセッティングからも特別扱いが伝わってきます。

アンティークの時代は宝石に真の稀少価値と財産価値があり、リメイクは通常でした。代々続く貴族の家柄で、受け継いだ持ち主にとって何らかの意味があって、この石を主役にリメイクした可能性が考えられます。

ワルシャワ製クッションシェイプ・ダイヤモンドのアールデコ・ゴールド・クロス『ワルシャワ・クロス』
アールデコ ダイヤモンド クロス・ペンダント
ポーランド(ワルシャワ) 1930年頃
¥750,000-(税込10%)

このクロスも作りは1930年頃のアールデコですが、クッションシェイプ・ダイヤモンドは明らかに19世紀のカットでした。

このような歴史の積み重なりも、王侯貴族のアンティークジュエリーの魅力の1つですね。

秘められているのが"個人的な理由"だった場合、今の私たちが答えを知ることは叶いません。でも、持ち主のその豊かな心を感じ、宝物に心を重ねて想像することも面白さの1つだと思います♪

2-2. 1870年代ならではの贅沢なダイヤモンド

2-2-1. 1860年代と1870年代の違い

ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移ブラジルと南アフリカのダイヤモンド産出量の推移 【出典】2017年の鉱山資源局の資料

先にご説明した通り、1860年代と1870年代はダイヤモンド市場が劇的に変化しました。それまでブラジル鉱山から毎年10万カラットが産出していましたが、急に枯渇して新たに手に入らなくなりました。稀少価値が上がり、ダイヤモンドが至高の宝石になりました。

1860年代のダイヤモンド枯渇の時代の最高級ピアス
ブラジル産ダッチローズカット・ダイヤモンドの1860年代の最高級ピアス アンティーク・ジュエリー『ミラーボール』
魅惑のローズカット・ダイヤモンド ピアス
ヨーロッパ 1860~1870年頃
SOLD
ローズカットダイヤモンド ピアス

これはその時代を象徴する最高級ダイヤモンド・ピアスです。ローズカットは底面がフラットです。オールドヨーロピアンカットのような厚みがなくても正面から見た時に面積があるため、少ないダイヤモンドで最大限に存在感が出せます。

キンバリー鉱山(南アフリカ 1870年代)

ダイヤモンド産出量の推移はこのようになります。

【ブラジル】
1730年後半~1860年頃:年平均10万カラット
1861年:1万6542カラット
1862年~:さらに減少

【南アフリカ】
1867年:最初のダイヤモンド『ユーレカ』が確認される
1869年:『南アフリカの星』が確認される
1870年:10万2,500カラット
1871年:26万9,000カラット
1872年:70万8,500カラット
・・・・
1913年:476万4,759カラット

ブラジル鉱山の時代は年平均10万カラットでした。約10年間の空白の期間を経験したところへ、ようやく1870年代に10万カラット強の新しい南アフリカ産ダイヤモンドが供給されました。数字だけ見ると多く感じるかもしれませんが、到底10年間を穴埋めできる量ではありません。

やがて無尽蔵の埋蔵量が分かってきますが、ダイヤモンド・ラッシュ当初はそんなことは分かりません。またいつ枯渇するか分かりませんから、最高級宝石として丁重に扱われます。

上質なダイヤが入ってきたばかりの1870年代初頭の最高級ピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

それがこのダイヤモンドのボリュームあるカットに如実に現れています。

2-2-2. かなり厚みのあるカット

 アンティークジュエリーに使用される宝石は、古いジュエリーからリメイクする場合と、新たに手に入れた原石をカットして使う場合の主に2種類です。これはようやく手に入った新たな南アフリカ産の原石をカットしています。だからこそカットのフォルムが時代を反映しています。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

アンティークのオールドヨーロピアンカット系のダイヤモンドは、厚みを持たせるのが通常です。透明感と煌めきが強く感じられますし、ファイアも出やすいからです。

【参考】現代のブリリアンカットのテーブルの輝き
左:反射していない場合(チラチラした輝き)
右:反射した場合(白っちゃけた輝き)

ブリリアンカットは言葉巧みに印象操作されていますが、底面から光が抜けないので透明感がありません。

厚みがないためクラウンの直接的な表面反射が少なく、テーブルからの白っちゃけた輝きと、底部からのモサモサした弱い輝きが殆どです。全く美しくないです。

【参考】1ctオーバーのダイヤモンド・リング(ハリーウィンストン 現代) 【参考】ダイヤモンド・リング(現代)

現代ジュエリー業界は、ブリリアンカットは不十分として「より進化させたカット」を売り出したりもしています。それがこの薄っぺらいカットです。同じカラット数でも、厚みがないと横幅が大きくなります。正面からの見た目しか気にしない、2次元でしか物事を見ない人にとっては、「大きさの割にお安い!お得!」という宣伝文句を受け入れやすいカットです。

アンティークのダイヤモンドとブリリアンカット・ダイヤモンドの違い

『進化』というのは美しく見えるようにではなく、業界が効率的に儲けやすく進化させたものです(笑)

同じ原石でも、カットによって得られるルースが変わります。

左の2種のカットで得られるメインストーンは、正面から見た時の面積は同じです。

厚みを持たせたカットだと、副次的に得られるのは極小ローズカットだけです。ペラペラ・カットだとそれなりの価格で売れるルースがもう1つ得られるため、1つ分の原石コストからの儲けを考えると効率が良いです。

厚みのあるカットだと、1人でほぼ原石1つ分のコストを負担する必要があります。右のペラペラ・カットだと2人で分担することができ、1人あたりの負担は安くなります。だから少し割高に価格設定しやすいのです。それにより業界が効率的に儲けやすくなる仕組みです。

魅力的に見えてしかも安いならば良いですが、ペラくて安っぽくなったものを割高でお勧めされても、本質を感じ取れる方ならば選ばらないでしょう。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

1つの原石をほぼ丸ごと使った、極めて贅沢なダイヤモンドです。この時代の最高級品に相応しいダイヤモンドと言えます。

ダイヤモンドのグレードと稀少性

南アフリカからダイヤモンドは得られるようになりましたが、その全てが宝石として使えるわけではありません。電動ダイヤモンド・ソウが1900年に発明される以前は、劈開性を利用したカットしかできませんでした。高度な職人の勘と技術が必要な上に、結晶系が整っている原石でなければ使えない技です。つまり、産出量の上位6%程度しか使えない、超貴重な原石を贅沢に使ったというわけです。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス ←等倍↑

安さではなく美しさを選ぶ。まさに王侯貴族の最高級ダイヤモンドです。

2-2-3. クッションシェイプ・ダイヤモンド

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

 今回のダイヤモンドはクッションシェイプで、長方形に近いフォルムが特徴です。アンティークジュエリー黎明期から古いダイヤモンドを見てきたGenが「好き!」というのが、このカットです。

原石ダイヤモンド・リング(古代ローマ)
【引用】The Metropolitan Museum of Art / Octahedral Diamond Ring ©The Metropolitan Museum of Art.

劈開性を使ってカットできるようになる以前、ダイヤモンドは原石そのままで使うしかありませんでした。ダイヤモンドの結晶系は複数存在しますが、美しいのはやはりプラトン立体の正八面体型です。

【参考】古代ローマのダイヤモンド・リング(古代ローマ 3世紀後半-4世紀初期)メトロポリタン美術館
【引用】The Metropolitan Museum of Art / Octahedral Diamond Ring ©The Metropolitan Museum of Art.
シリアで発見された古代ローマのダイヤモンド・リング(古代ローマ 3世紀頃)大英博物館
【引用】Brirish Museum / finger-ring © British Museum/Adapted

完全な正方形ではなく長方形のものも多いです。このようなリングにする場合は横長の方がデザイン的に収まりが良いため、意図して選ばれたのかもしれません。

【参考】古代ローマのダイヤモンド・リング(古代ローマ 3世紀頃)大英博物館
【引用】Brirish Museum / finger-ring © British Museum/Adapted

これは正方形に近いようです。ダイヤモンド・ソウ登場以前は、このように結晶系が整った原石のみがカットできました。1908年のカリナンのカットでご紹介した通り、ダイヤモンドのカットは劈開やダイヤモンド・ソウを使ったラフカットではなく、磨いて形を整える工程が最大の難所と言えます。

最も大きな9つのラフカットされたカリナン
宝石として仕上げられた9粒のカリナン

磨き上げる工程は3人で1日14時間、8ヶ月作業して完成しました。当時は電動研磨機が既にありましたが、それでこの時間です。

現代日本の労働基準法は、1日の労働時間を原則として8時間以内と定めています。定時上がりの9時5時、あるいは10時6時で昼休み1時間を除外すると、実働7時間です。現代の働き方だと2倍の月日となる16ヶ月、1年4ヶ月もかかります。しかも土日祝の休みはあったでしょうか。人件費もまともに計算すると、現代では到底負担できない金額になりますね。

『聖ジョージの竜退治』(フランス or 南ドイツ 1550-1575年頃)ワデズドン遺贈品、大英博物館
【引用】Brirish Museum / St George and the Dragon © The Trustees of the British Museum/Adapted

これはロスチャイルド家から大英博物館に寄贈された、16世紀の貴重な作品です。16世紀はまだダイヤモンドのカット技術が未熟だったため、ダイヤモンドは宝石としては三流の扱いでした。最も高価だったルビーと比べると、価格は8分の1に過ぎなかったと言われています。

【参考】古代ローマのダイヤモンド・リング(古代ローマ 3世紀後半-4世紀初期)メトロポリタン美術館
【引用】The Metropolitan Museum of Art / Octahedral Diamond Ring ©The Metropolitan Museum of Art.
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

美しくカットできてこそ、ダイヤモンドに宝石としての価値が認められます。今回の宝物が制作されたのは、蒸気モーターの研磨機が発明されたかどうかぐらいの頃と推測します。円形に整えるとそれだけ無駄が出る上に、磨く量が多い分だけ時間がかかります。

これで十分にダイヤモンドとして魅力が惹き出されていますし、ダイヤモンド自体が特に貴重と見做されたタイミングだったので、このクッションシェイプのカットが選択されたのでしょう。

クッションシェイプ ラウンド系(オールドヨーロピアンカット)
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス今回の宝物
イギリス 1870年頃
エドワーディアンのカリブレカット・ルビーが美しいリボン&月桂樹のダイヤモンド・ペンダント&ブローチ アンティークジュエリー『永遠の愛』
エドワーディアン ダイヤモンド ペンダント&ブローチ
フランス? 1910年頃
¥1,220,000-(税込10%)

その後、1891年には電動の研磨機が発明され、ついに商用のラウンドブリリアンカット・ダイヤモンドの時代が到来したとされます。それによってクッションシェイプ・ダイヤモンドは淘汰されていきました。20世紀に入ると、形の整った小綺麗なダイヤモンドが高級品市場を占めるようになりました。当初は目新しく、最先端として社交界でも喜ばれたことでしょう。その時代も超え、今の私たちが1880年代までと、20世紀以降のダイヤモンドを同じ土俵で見比べるようになった時、どちらにより魅力を感じるでしょう。

アンティークジュエリーは全体で価値を見ます。宝石だけが価値ではないことに留意する必要がありますが、ダイヤモンド単独で見た場合、古い時代のラフさが残る個性的なダイヤモンドはやはり魅力が強いと感じます。

キャスト(鋳造)法のワックス・ツリー

無駄が多くなっても、現代のダイヤモンドは全て同じカットにします。

天然の原石にはそれぞれ個性があるにも関わらず、大きさ、形を工業製品のように均一化します。

それは実際に現代ジュエリーが高級ブランド品を含めて量産の工業製品だからです。

【参考】樹脂を石膏の中で蒸発させて型を作り、鋳金を流し込んでジュエリーを制作する工程

宝石の形状に個性があると、1つ1つに合わせてセッティングしなければなりません。それでは量産ができませんし、それだけコストがかかります。製造業に於いて、人件費は最もお金がかかり続ける部分ので、コストカットの対象とされます。

【参考】ダイヤモンドをセットした青い樹脂の型と出来上がった量産リング

全世界に向けてお安く提供するために、製造の大規模化は欠かせません。そのために同じ形のダイヤモンドが必要なのです。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス ←等倍↑

肉眼では十分に揃って見えますが、厳密には正面からの形状も、厚みもそれぞれに原石由来の個性があります。それを確実に、高度な職人技でセッティングします。150年以上の使用にも耐えられるほどの安定性でです。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

非対称で個性あるフォルムだからこそ、輝きやファイアにもそれが反映されて美しく感じられます。ただ、セッティングするのは至難の技です。現代だとダイヤモンドに稀少性はなく、落として無くしたらまた買えば良いと発想できますが、当時はお金あるからと言って必ずしも手に入るものではありませんでした。絶対に落とさぬよう留める必要があります。

【参考】ダイヤモンドリング(現代)

だからと言って、現代ジュエリーのように目立つ爪だと興醒めです。宝石より爪が主役なのではと思うようなジュエリーは多いです。

現代の爪が目立つ宝石主体の量産ジュエリー
エメラルド・リング(ティファニー 現代)¥1,617,000-(2020.5現在)合成や処理については記載なし 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Ring ©T&CO エメラルド・リング(カルティエ 現代)価格はお問合せくださいとのこと 【引用】Cartier / SOLITARIO 1895 ©CARTIER

現代では1億円するようなジュエリーでもキャストで制作するそうです。1億円のジュエリーをいくつも作る環境ならば、職人も技術を磨くことができます。しかし、数年に1度しか作らないようなもののために腕を磨くことはできませんし、作り続けられなければ勘はすぐに鈍ります。技術は維持できません。

キャスト法だと、型離れの観点からどうしても一定以上の精細さを実現することができません。ボテっとした無骨なジュエリーになるのは技術的な問題からです。しかし、それを「たっぷりプラチナ(ゴールド)を使っていて贅沢です!」と誤魔化すのです。材料費より人件費や技術費の方が高いジュエリー制作に於いて、滑稽な話です。

ヴィンテージの稚拙な技術による爪留のジュエリー
【参考】チャザムの合成エメラルド・14Kリング(ヴィンテージ) 【参考】ギルソンの合成エメラルド・リング(ヴィンテージ)

戦後でも過渡期のヴィンテージはハンドメイドの痕跡が見られますが、職人の技術が低いとこうなります。テクノロジーだけは進化した、現代の量産品の方がまだマシに感じられるものも多いです。アンティークのハイジュエリー・レベルの美しいジュエリー制作がいかに大変なのか、ご想像ください。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス ←等倍↑

実際の大きさを考えると、いかに神技を駆使して作られているのかお分かりいただけるでしょう。肉眼では爪の気配はダイヤモンドの輝きに紛れて知覚できず、ひたすらダイヤモンドの美しさに没入できます。フラワーオブライフの見事な御座です。仏教ならば開花した蓮の花と言ったところでしょうか・・♪

2-2-4. ダイヤモンドを組み合わせた秘密の理由

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

 今回の宝物が極上のクッションシェイプ・ダイヤモンドを組み合わせたのは時代背景な理由もありますが、それだけではないと感じます。

シードパールの神技の透かし細工のアンティークのサンフラワー・ピアス レイトヴィクトリアンのハーフパールのお花のバングル アンティークの天然真珠のウェディング・ネックレス レイト・ヴィクトリアンのシードパールのフラワー・ブローチ レイトヴィクトリアンのGUBSON社のハーフパールのお花のブローチ

他のシードパール・ジュエリーと比べると、花芯にダイヤモンドを選ぶのが、いかに特別な意味あってのことか感じていただけるでしょう。私は今回の宝物に、直感的に『コスモス』を感じました。花びらの形状だけ見ると、他にもコスモスらしきものはあります。葉が表現されている場合はそうなのか、コスモス以外か推測もできます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

今回は単独のお花のみなので、どうとでも解釈は可能です。個人の勝手な想像(妄想)を頭の中で展開するのは自由ですが、人様をそれに巻き込むのは好きではありません。

なぜ私が『コスモス』と看做し、コスモス(宇宙)を情熱を込めてご説明したかと言えば、このダイヤモンドこそが一番の根拠です!

1851年ロンドン万博の水晶宮(クリスタル・パレス)

これは記念すべき初の万国博覧会、1851年の第一回ロンドン万博の目玉として大英帝国の威信をかけて建造された水晶宮(クリスタル・パレス)です。鉄骨とガラスで作られた、まさにその名に相応しい宮殿でした。大英帝国最盛期、ヴィクトリア女王がこの中で華々しく開幕を宣言しました。この水晶宮と言霊的に同じで、実際に深い意味があるのが水木しげるの『水晶球』です。

『水晶球の世界』(水木しげる 1964/昭和39年)
【引用】水木しげる 怪奇貸本傑作選 / ホーム社発行, 集英社発売 ©︎水木プロダクション 2008

水木しげる(1922-2015年)も秘密の叡智を知る人物です。

貸本時代の作品『水晶球の世界』に登場する水晶球が、まさに今回のコスモスの花芯にセットされたクッションシェイプ・ダイヤモンドのイメージにピッタリです。

【引用】水木しげる 怪奇貸本傑作選 / ホーム社発行, 集英社発売 ©︎水木プロダクション 2008

覗き見るといろいろな景色がうつって面白いという水晶球を預かり、学者が研究すると、確かに見たことのない景色が見えました。ファセットごとに違う景色が現れます。突如『目』が見えて仰天しますが、これは蝿らしき生物が、別世界に存在する水晶球を覗き見たためです。

ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900年)の言葉も彷彿としますね。
"Wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein."
"深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。"

『水晶球の世界』(水木しげる 1964/昭和39年)
【引用】水木しげる 怪奇貸本傑作選 / ホーム社発行, 集英社発売 ©︎水木プロダクション 2008

勘の良い方はお察しの通り、これは観察者の目であり、『全てを見通す目』です。

蝿なのも意味深ですね。バアル・ゼブル(ベルゼブブ、蝿の王)です。

この水晶球はとても重要なので、『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』でも登場します。隻眼の鬼太郎が『トランジスタテレビ』と称し、様々な世界を見て楽しみます。人ならざる者の持ち物です。

現れる景色は全世界であると共に、多次元宇宙(マルチバース)や平行宇宙も彷彿とさせます。水晶球は宇宙(コスモス)そのものと看做すことができます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス ←等倍↑

まさに宇宙そのものをミクロコスモスとして、このクッションシェイプ・ダイヤモンドで表現しているのです。小さな小さな小人になって覗き込めば、様々な虹色の世界が見えてきそうです♪

アニメ『悪魔くん』OP(1989年)©︎東映動画制作/水木プロダクション

こじつけと感じる方もいらっしゃると思いますが、データを増やしてつながりが見えてくると、骨格の存在が確信できるようになります。もう1つの水木しげるの代表作『悪魔くん』は1963(昭和38年)、41歳で貸本漫画として刊行が始まりました。鬼太郎に出てくるオカリナは、『ソロモンの笛』として登場します。ソロモンと言えば魔法陣ですし、バアル崇拝もあります。『悪魔くん』にはベルゼブブも登場します。

アニメは1989年から1990年にかけて放送されましたが、オープニングは分かりやす過ぎですね。『エロイムエッサイム』のエロイムは、聖書にも登場するエロヒムです。「神よ、父たち(先祖)よ」という意味のヘブライ語由来の言葉で、『グリモワール』にみられます。

グリモワール『ソロモンの鍵』写本の大ペンタクル

グリモワールはフランス語で『魔術書』を意味します。有名なグリモワールとしては『ソロモンの鍵』、『ソロモンの小さな鍵』、『黒い雄鶏』、『大奥義書』があります。

現代は英語、フランス語、イタリア語で『Elohim』表記です。英語はそのまま読むためエロヒムと発音しますが、フランス語はhを発音せずエロイムとなります。フランス語のグリモワールに合わせたと見ることもできますが、古語は『Eloim』表記だったようで、オリジナルを知っている者ならではの発音のように思えます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

秩序と調和のある美しいコスモス(宇宙)を象徴したコスモス(花)。その花芯にセットした水晶球のようなダイヤモンド。この宝物には、それだけの意味が込められていておかしくない上質な宝石が使用され、上質な作りが施されています。むしろそれくらいの意味が込められていないと不可解なほど、お金と技術、手間が込められています。

レイト・ヴィクトリアンのシードパールのフラワー・ネックレスシードパール ネックレス
イギリス 1880-1900年頃
SOLD
レイト・ヴィクトリアンのシードパールのフラワー・ブローチシードパール フラワー ブローチ
イギリス 1890年頃
SOLD
レイトヴィクトリアンのハーフパールのお花のバングルシードパール バングル
イギリス 1880年頃
SOLD

花びらの形状は似ていても、葉の形状を考えるとこれらはコスモスではありません。左上は可能性がありますが少し違うような気もしますし、秋桜だったとしても宇宙的な意味は込めていないと感じます。

これらは通常の、『美しいお花』の高級ジュエリーとして制作されたと推測します。

青森の下北駅のコスモスコスモス(青森の下北駅 2022.10.16) クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

コスモスはそもそも葉の再現がジュエリーでは難しそうですが、宇宙としての意味を込めるなら、やはりお花単独が良さそうです。

そこに無限の世界を魅せてくれるクッションシェイプ・ダイヤモンドが組み合わされば、『コスモス(宇宙)』を表現したとしか思えないのです。

秘密の叡智を持つ者のスペシャル・オーダー品だからこそ余計にです・・♪

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

2-3. 照り艶の美しい存在感のある天然真珠

 この宝物はダイヤモンドに尋常ならざる存在感があります。並の宝石では脇石として力不足になりますが、花びらにセットされた天然真珠はどれも照り艶が美しく、厚みもあって立体的な真珠光沢が美しいです。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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ピアス用なので小さいですが、天然真珠で色、形状、照り艶などの質感を極上品質で全て揃えるのはかなり大変です。

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クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

花びらの枚数が多いと1つ1つの天然真珠は小さくて済みますが、数が必要な分だけ、品質を揃える難度は上がります。安物だと質が揃っていなかったり、質が悪いものも選別せず使いますが、美意識の高い王侯貴族のための高級品は肉眼で違和感を感じないレベルまで揃えます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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ダイヤモンドも高さがありますが、天然真珠もなかなかです。フレームからかなり飛び出しています。この立体感こそが、肉眼で実物を見た時の印象に大きく効いてきます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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片側8粒、合計16粒の天然真珠が見事に揃っています。漂白と染色(一連を調色と呼ぶ)をした上で表面を磨いて質感を人工的に揃える養殖真珠と違い、天然真珠でここまで揃えるには大変手間もお金もかかります。美しいハーフパールは王侯貴族の美意識と贅沢の証です♪

3. 高級品ならではのこだわりが分かる作り

3-1. 完成度の高い黄金の花びらの美しいフォルム

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←実物大
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小比が分かります

 極上の宝石に意識が惹きつけられますが、作りもそれに相応しい第一級の職人によるものです。

コスモスのギザギザの花びらは絶妙な丸みを帯びており、女性らしい優しさや、大宇宙の深い包容力をも感じます。

高度な技術と共に、美的センスあってこそです。技術だけの、秀才どまりの職人には作ることができない宝物です。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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物理的には僅かな形状の違いでも、人間が受ける印象は想像以上に大きく変化します。ギザギザをシャープに仕上げると、全く別物のように印象が変わります。また、隣り合う花びらの連結をどうデザインするかでも、受ける印象は変わります。これはジュエリーとしての優劣が出る部分ではなく、好みや作り上げたい理想によって変わる部分です。だからこそ作る職人の感覚次第です。

"誰が作っても同じ"な現代ジュエリーと違い、アンティークジュエリーは本当に奥が深いです。誰にオーダーするか、古の王侯貴族は厳選して職人を選んでいました。アンティークジュエリーの個性の豊かさは、当時の王侯貴族の人間としての個性の豊かさの現れです。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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正面だけでなく、奥行も考慮して立体デザインされています。実物の大きさからすると微々たるものですが、浅いスープ皿や盃のような緩やかな曲率があります。その曲率の付いた面にハーフパールを正確にセットするのです。実際の大きさを考えると、とんでもない神技です!♪

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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花芯からせり出すように花びらがデザインされています。実際の自然界のお花も、同じように奥行があります。2次元で表現する画像では違いが分かりにくいですが、人間の目は左右の目で立体視するため、実物を見た時にこの立体デザインのお陰で生き生きとした美しさを感じられます。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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黄金のフレームの厚みは均一でなく、花びら先端に向かって絶妙に薄くなるよう仕上げてあります。目視による認識は不可能なレベルであり、ここまで来るともはや職人の勘だよりの領域です。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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1枚1枚の花びらが独立して見えるよう、かなり深く掘り込んでいます。隣り合う花びらの境界はシャープな山型に整えられており、磨き上げられたフレームの黄金の輝きが立体的な形状を伝えてくれます。実物サイズを考えると、信じがたい完成度です!♪

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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ゴールドのフレームが立体的な作りで、しかもしっかり磨き上げられているので、どの角度から見てもその輝きが豊かな表情となって感じられます。黄金なので神々しく華やかですね♪

3-2. 角度が調整できるオリジナルの上質な金具

 今回のピアスは、オリジナルのフック型の金具も素晴らしいです。フック先端にゴールドの球状の溜めがあります。これは耳から抜けにくくするための一工夫で、アンティークの高級ピアスでたまに見ることがあります。

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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驚いたのは、蝶番構造によって可動するよう取り付けられていることです。これは他に見たことがありません!

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス
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金具に対し、本体の角度をこれだけ変えることができます。着用者の耳の厚みや穴の位置によって、ピアスの最適な角度は変わります。それでも普通はここまで気にしないと思いますが、持ち主は完璧を求めるべく、微調整できる金具を欲したのでしょう。

クッションシェイプ・ダイヤモンドの黄金のコスモスのピアスの可動金具
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ゴールドの分量が余分に必要ですし、それ以上に微小で精密さを必要とする可動金具には技術と手間がコストとしてかかります。持ち主は並の美意識ではありません!それにしても、上質なダイヤモンドなので裏側も色とりどりのファイアが出てきます♪

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秘密の叡智としてのコスモス(宇宙)をご説明するのはかなり大変なことでしたが、このあまりにも特別な金具がダメ押しとなりました。全力を注ぎ込むに相応しいと確信できたからこそ、私も覚悟して頑張りました。このような素晴らしい宝物は、間違いなく人を動かす力があるのです!♪

裏側

黄金のコスモスのピアスの裏側

 サイズ感のあるダイヤモンドに合わせて、裏側もしっかり窓を開けてあります。光を十分に取り込むため、透明感や煌めき、ファイアなどのダイヤモンドのポテンシャルが最大限に発揮されるのです。

着用イメージ

クッションシェイプ・ダイヤモンド&天然真珠の黄金のコスモスのピアス

 スマホカメラは人間にピントを合わせるため、ピアス自体の詳細は他の一眼レフの画像をご参照ください。この画像ではサイズ感をお伝えできれば幸いです。

輝きが強いので、花芯のクッションシェイプ・ダイヤモンドは存在感があります。それに負けず劣らず、花びらの天然真珠も抜群の照り艶を放ちます。

ハーフパールのみのジュエリーより華やかさがあり、パーティー・シーンでも高級感があって着け映えすると思います。こんな複雑なお花の造形はアンティークの高級品ならではなので、人目を惹くことでしょう。主役にできるピアスです♪