No.00308 黄金に輝くアンフォラ |
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『黄金に輝くアンフォラ』 イギリス 1900年頃 ヨーロッパの上流階級の教養、古代ギリシャ・ローマのアンフォラを表現したペンダントです。モダンスタイルのアンフォラ型ジュエリーは45年間で初めて見るもので、1本の白いラインが特徴の縞瑪瑙と、アンフォラ独特の形状との組み合わせによって、非常にスタイリッシュに仕上がっています。 ゴールドをふんだんに使った贅沢な作りはさすが王侯貴族のための高級品で、糸鋸で挽いた黄金の透かし細工が輝く姿は神々しいまでに格調の高さを感じさせてくれます。 揺れる構造も見事で、オシャレなペンダントとして着け映えする宝物です♪ |
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この宝物のポイント
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1. 古代のアンフォラのモチーフ
1-1. アンフォラの用途
これは、古代のアンフォラをモチーフにしたペンダントです。 |
輸送用アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前2世紀)メトロポリタン美術館 | アンフォラは2つの持ち手と、胴体からすぼまって長く伸びる首を有する容器の一種です。 |
レバノンとシリアの位置 ©google map |
紀元前15世紀頃のレバノンからシリアにかけての海岸地域に出現し、古代世界に広がっていきました。その使用は長く、地中海世界では7世紀頃まで使用されています。 |
オリーブの木の分布 "Olive niche" ©J. Oteros(21 February 2014)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
乾物、液体の両方に使用され、古代ギリシャやローマでは葡萄、オリーブ、穀物、魚、ワイン、オリーブ・オイル、その他の必需品を運搬・保存するための主要な手段として用いられました。 |
『葡萄酒を作るバッカス』 ストーンカメオ ルース 古代ローマ 1世紀 or イタリア 17世紀 SOLD |
その中でも、アンフォラは特にワインの運搬・保存のために使用されました。 |
ジョージアの古代のワイン容器『クヴェヴリ』 "Georgian „Kvevri“ " ©А.Мухранов(27 january 2014, 21:22:20)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ワインは極めて歴史の古いお酒の1つで、新石器時代に醸造が始まったとされています。 現在の所、ジョージアの領土で紀元前6000年〜紀元前5800年頃のワインと葡萄栽培に関する考古学的な証拠が最古のものです。 |
ジョージアの位置 ©google map |
フェニキア人の交易路 "PhoenicianTrade" ©Yom(2006-07-11 07:02)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
フェニキアの時代まで遡るとされるデザインのマルタの漁船 "Malta 13 dhajsa" ©-jkb-(1985)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
ワイン文化はフェニキア人の交易路によって西方に伝わったとみられ、地中海全域に輸出され、旧王国時代のエジプトにも伝わっています。 |
ワイン杯を与えるディオニュソス(古代ギリシャ 紀元前6世紀後期) | 古代ギリシャでは葡萄酒の神様ディオニュソスが誕生しており、嗜好品としてだけでなく、宗教儀式などでもワインが飲まれました。 |
輸送用アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前3世紀後期-紀元前2世紀中期)メトロポリタン美術館 | それもあって、アンフォラはギリシャ時代から産業として量産されており、いかにワインが需要な輸出産業として製造され、広く飲まれていたのかが分かります。 これも輸送用の量産アンフォラで、上部にメーカー名ヘファイスティオンと製造日、当時の行政長官の名前が刻印されています。 |
1-2. スタイリッシュな形状のアンフォラ
1-2-1. 様々なデザインを持つアンフォラ
青銅器時代の難破船で発見された輸送用アンフォラの荷積みイメージ "Amphorae stacking" ©Ad Meskens(July 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 大型アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前725-紀元前700年)ルーブル美術館 |
アンフォラの形状には様々なバリエーションがあります。また、単なる輸送用としてのシンプルなデザインの量産品から、凝った意匠が施された芸術的に面白いものまで、装飾も様々です。 右はアルカイック期よりさらに古い、古代ギリシャのジオメトリック期のアンフォラです。同じ古代ギリシャでもアルカイックやクラシック、ヘレニズム期とは全く異なる雰囲気のデザインが面白いですね。同じ手作りでも、道具として使うだけの大量生産のアンフォラでは不可能な手間のかかった装飾です。 |
1-2-2. 特別な用途のアンフォラ
パナテナイア祭の賞品としての黒絵式アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前530年頃)アテネ国立考古学博物館 "Anforagrega-atenas" ©Ricardo André Frantz(2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | アンフォラには輸送や保存の道具としてだけ使う、機能性重視の簡素な量産品以外に、古代ギリシャでは社会的および儀式的な用途のための、高品質かつ様々な装飾が施されたアンフォラもたくさん作られています。 古代ギリシャの女神アテナが描かれたこのアンフォラは、パナテナイア祭の賞品として制作されました。 |
【世界遺産】アテナイのアクロポリス (パルテノン神殿の着工:紀元前447年、竣工:紀元前438年、装飾等は紀元前431年まで実施) |
パナテナイア祭は古代ギリシャのアテナイで行われていた最大の祭典で、アテナイ市民にとって最も権威ある祭典でした。紀元前566年から3世紀まで、800年以上に渡って4年ごとに行われていました。1896年から始まった近代オリンピックより、遥かに歴史がありますね。 |
アクロポリスの想像図(1846年) |
パナテナイア(Panathenaia)とは『全(pan)アテナイの(athenaia)(祭り)』の意味で、祭典はアクロポリスのエレクテイオンに祀られた女神アテナに捧げられました。アテナイの名称は女神アテナに由来し、都市国家の守護神にして領有者とされるのがアテナでした。 |
アテナイ:オレンジ色の領土 "Map athenian empire 431 BC-en" ©Marsyas, Once in a Blue Moon(24 Sptember 2009, 14:57)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
アッティカ半島にあるアテナイは世界最古の都市の1つで、紀元前11世紀から紀元前7世紀の間に人間の営みが始まったと考えられています。 |
領有権を競ってアテナイ市民に与えたもの |
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アテナ | ポセイドン |
世界最古のオリーブの木の1つとされる『ヴーヴのオリーブの木』(樹齢推定:2000〜4000年)ギリシャのクレタ島 "Olive tree of Vouves" ©Eric Nagle(11 February 2018)/Adapted/CC BY-SA 4.0 | 黒絵式の壺に描かれた馬(古代ギリシャ 紀元前525-紀元前500年頃) |
アテナは最初のオリーブの木を授けました。一方、ポセイドンは三叉の矛トリアイナで地面を打ち、塩水泉を湧き上がらせました。もしくは最初の馬を授けたとも言われています。 |
アテナイを創設し最初の王となった神話上のアテナイ王セクロプス1世 マイヤー百科事典4版(1885-1890年)より | 審判をしたのは神話上の最初のアテナイ王、セクロプス1世です。 セクロプス1世はオリーブを与えたアテナの勝利を宣言し、以後アテナがアテナイの守護神となりました。 そして、都市国家の守護神アテナを讃えるためのパナテナイア祭が開催されるようになったのです。 |
『走者』パナテナイア祭の賞品アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前500年頃)ルーブル美術館 | パナテナイア祭は1週間以上に渡って開催され、宗教的な儀式、競技会、文化的イベント、表彰などを含む式典などが組み込まれています。 参加者は男性で、3つの年齢層で分けられていました。 12-16歳:髭が生えていない少年 |
音楽競技を描いたパナテナイア祭の黒絵式の賞品アンフォラの類似品(古代ギリシャ 紀元前500-紀元前485年頃) "Greek - Black-figure Pseudo-Panathenaic Amphora - Walters 482107 - Side B " ©Walters Art Museum(00:48. 24 March 2012)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
碑文によると、一般的には次のようなプログラムだったようです。 1日目:音楽と叙事詩(ラプソディー)の競技 |
戦車競技の再現(2007年) |
特に、戦車競技は最も人気が高かった花形競技の1つでした。 |
1.6mの障害を越えるバロン西と愛馬ウラヌス(第10回ロサンゼルス・オリンピック 1932年) | 近代オリンピックでも、西男爵が金メダルを獲った『大賞典障害飛越競技』が馬術競技で最も高度、かつ最も華やかな競技として、"五輪の華"と讃えられていました。 |
戦車競技のレリーフ(古代ローマ 2-3世紀) "PalazzoTrinci026" ©Georges Jansoone(JoJan)(2 May 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
古代ギリシャだけでなく、古代ローマでも戦車競技は高い人気がありました。御者や馬が重傷を負ったり、時には命を落とすことさえある危険な競技ですが、人間が走るだけでは到底不可能なスピードや迫力の凄さは、間違いなく人々を熱狂させるものだったはずです。 |
F1アメリカ・グランプリ(2003年) "Formula one" ©Rick Dikeman(2003)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
現代だとモータースポーツのイメージでしょう。 |
キューピッドの戦車競技(古代ローマ)ブルックリン美術館 |
ちょっとこれは、なかなかシュールな光景です。エンジェル的な"愛"の要素はゼロです(笑) |
キューピッドの戦車競技(古代ローマ)ブルックリン美術館 |
めちゃくちゃ密集しています。危険そうです(笑) |
モトクロスで走るGen(1967年頃) |
ところでGenがフォト日記でしつこく(笑)モトクロスをやっていた若かりし頃をアピールしていましたが、本当にやっていたのかと怪しんでいたら証拠が出てきました(笑) マラソンやF1なんかもスタートは密集していますが、モトクロスも50台くらい並んで一斉にスタートするので、ハンドルが接触したりして転倒するなど、かなり激しいレースです。転倒している人も避けようがないので、轢いて進むしかありません。バイクなので、轢かれても致命的な怪我はしないそうです。Genは轢かれたことはないとのことでした。 |
古代ローマの戦車競技のイメージ(1896年) | マラソンやF1などと違うのは、土の上を激しく疾走するので土煙がすごく、出遅れると前が見えなくなってしまう過酷さです。 |
古代ローマの戦車競技の再現(2007年) | 再現とは言っても、決してこんなにスカスカで安全そうな、ただ走るだけの競技ではありません。 |
戦車競技のレリーフ(古代ローマ 2-3世紀) "PalazzzoTrinci026" ©Georges Jansoone(JoJan)(2 May 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
実際は人間のみならず、たくさんの馬が入り乱れるので本当にヤバそうです(笑)Gen曰く、レースが始まるとアドレナリン全開で恐怖も痛みも感じなくなるので、闘争本能に従ってマシンを走らせるのだそうです。命を懸けるからこその尋常ではない集中力が命を守ることにもつながり、真に迫力あるレースとなるのでしょう。 |
F1競技でのピットイン(2006年) "McLaren pit work 2006 Malaysia" ©Kamalsell(16 March 2006, Sepang, Malaysia)/Adapted/CC BY 2.0 |
モータースポーツも、戦車競技もドライバーが花形ですが、1人では完結しません。 若かりし頃のGenも、レーシングチームを組んで参加していました。 |
戦車競技(古代ギリシャ 紀元前510年頃) "Chariot race Met L.1999.10.12" ©Marie-Lan Nguyen(2011)/Adapted/CC BY 2.5 |
優秀な馬を揃えるお金、馬を世話する人、機能性の高い戦車を作る設計士・技師、練習にかかる費用など、戦車競技に参加するには恐ろしくお金がかかります。 |
カドリガ(古代ギリシャ 紀元前540年頃) "Quadriga Staatliche Antikensammlungen 1468" ©MatthiasKabel(2006)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
だからこそ、戦車競技における勝利は勝者の持つ技術ではなく、富がもたらすものとも考えられていました。従って、非常にお金がかかる戦車競争は、古代ギリシャ人にとって富と権力を誇示する場でした。 |
アテナイの喜劇詩人、風刺詩人 アリストパネス(紀元前446頃-紀元前385年頃) "Bust of Aristophanes" ©Alexander Mayatsky(7 October 2018, 12:13:15)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
アテナイの喜劇詩人アリストパネスは、その戯曲『雲』の中で、戦車競争に夢中になり家の金を浪費する貴族趣味の息子に頭を悩ませる父親の姿を描いています。 |
エウリュポン朝のスパルタ王アルキダモス2世(在位:紀元前476-紀元前427年) | 古代ギリシャの戦車競技の優勝者で有名なのは、スパルタ王アルキダモス2世の娘であるキュニスカ王女です。 男尊女卑が激しい古代ギリシャでは古代オリンピックへの女性の参加は認められていませんでしたが、紀元前396年と紀元前392年の2度に渡り、戦車のオーナーとして優勝しています。 古代オリンピックの最初の女性の優勝者としてその名を残しています。 |
『英雄ヘラクレス』 エレクトラム インタリオ・リング 古代ギリシャ 紀元前5世紀 SOLD |
『英雄ヘラクレス』は紀元前5世紀のスパルタの王族のものと推測される古代ギリシャのリングですが、アギス朝のレオニダス王の他、キュニスカ王女の父アルキダモス王や弟のアゲシラオス王のものだった可能性もありますね。 このリングの持ち主も着けて戦車競争を観たり、もしかすると参加したりもしていたでしょうか・・。 |
アテナイとピレウス港をつなぐ城壁 | アテナイは土地が痩せており、穀物は輸入頼りで、食糧自給率が推定約3割から5割しかありませんでした。 一方でオリーブと葡萄には適しており、オリーブオイルやワインが生産されており、重要な輸出品でもありました。 だから、オリーブオイルは現代のイメージより遥かに高い価値を持っていました。 |
英雄アカデモスにちなむ女神アテナの聖林にあったアカデミア跡 "Athens Plato Academy Archaeological Site 2" ©Tomisti(2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
しかもただのオリーブオイルではなく、アテナイの城壁の外にあった女神アテナの聖林から採られたオリーブで作られた神聖なオリーブオイルでした。女神アテナから優勝者に贈られるオリーブオイル。ありがたさ満点ですね。ちなみにこの聖林は、古代ギリシャの哲学者プラトンがアカデミアを開設した場所でもあります。 |
古代ギリシャの哲学者プラトン(紀元前427-紀元前347年)紀元前340年頃に制作された大理石像の複製 "Plato Silanion Musei Capitolini MC1377" ©Marie-Lan Nguyen / Wkimedia Commons(2009)/Adapted/CC BY 2.5 |
ちなみに孫弟子ディカイアルコスの著書によると、プラトンはイストミア大祭にレスリングの選手として出場しています。 イストミア大祭は古代オリンピック、ネメア大祭、ピューティア大祭に並ぶ古代ギリシャ四大競技会の1つです。 プラトンはアテナイ王家の血を引くとされる名家の生まれでした。 当時の名門家では文武両道を善しとし、知的教育に並んで体育も奨励されており、プラトンは体格も良かったためレスリングをやったようです。 |
1-2-3. アンフォラの形状
1-2-3-1. 先端形状
輸送&保存用アンフォラ | 賞品アンフォラ |
青銅器時代の難破船で発見された輸送用アンフォラの荷積みイメージ "Amphorae stacking" ©Ad Meskens(July 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | パナテナイア祭の賞品としての黒絵式アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前530年頃)アテネ国立考古学博物館 "Anforagrega-atenas" ©Ricardo André Frantz(2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
輸送や保存用途のみが目的の簡素な量産アンフォラと、賞品用など特別な目的で作られた装飾アンフォラでは底の形状が異なります。前者は自立できない先端が尖った形状、後者は自立できる形状で作られるのが一般的です。 輸送や保存が目的のアンフォラは、容量が大きいほど良いです。同じ太さで床面積を占有する場合、高さがあるほど容量は大きくなります。故に、アンフォラは細長く高さのある形状となります。 |
ジョージアワインの伝統的なクヴェヴリ | |
ジョージアワイン醸造家とクヴェヴリ(1881年) | マラ二に埋めたクヴェヴリ "Chateau Zegaani Winery" ©Levan Gokadze from Tbilisi, Georgia(10 September 2013)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
ある程度土中に埋めれば倒れませんし、完全に埋めてしまえば温度や湿度も安定するので、保管にも適しています。これは輸送ではなくワインの発酵や貯蔵、熟成に使うクヴェヴリで、その起源は少なくとも紀元前6千年くらいは遡る伝統的な容器です。大きいと約10,000リットル入るものもありますが、800リットルが代表的です。大きいですが、それでもこんな感じで埋めて使ったりします。 長くて高さのあるアンフォラの底が平らだと、フラットな床の上に置いたとしてもバランスが悪く、ちょっとぶつかったり、軽い地震でも倒れてしまいます。地面に挿して安定させるのが適しています。 |
サルコファガスに彫刻されたフェニキア人の交易船(2世紀) "Phoenician ship" ©NMB(25 March 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
船で輸送する海上交易が特に重要だった古代世界では、波による揺れの中でも大量かつ安全に輸送できなければなりませんでした。 |
青銅器時代の難破船で発見された輸送用アンフォラの荷積みイメージ "Amphorae stacking" ©Ad Meskens(July 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
そんな時も、やはり量産アンフォラの形状が最も適していました。 これは当時の荷積みを、難破船から発見されたアンフォラで再現したものです。 格子に挿して安定させ、それぞれをロープで連結し、波の揺れにも耐えられるよう固定していたようです。 量産アンフォラは、当時の難破船から数多く発見されています。 |
輸送&保存用アンフォラ | 特殊用途のアンフォラ |
青銅器時代の難破船で発見された輸送用アンフォラの荷積みイメージ "Amphorae" ©Etimbo(7 September 2004)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | パナテナイア祭の賞品としてのアンフォラ(古代ギリシャ 紀元前530年頃)メトロポリタン美術館 |
装飾が施された特殊用途のアンフォラが、当時の信仰や上流階級などの文化を教えてくれる一方で、量産アンフォラは日常生活や交易といった、もっと暮らしに近い部分を教えてくれる貴重な資料となります。それぞれに、知的好奇心をくすぐる楽しさがあります。 |
この特別な宝物をオーダーした、当時の知的好奇心の強い王侯貴族の女性にとってもそうだったことでしょう。 |
収穫した葡萄のペンダント&ブローチ フランス 1910年頃 SOLD |
ワインは王侯貴族の教養の1つでもありました。 ワインに関する知識、良いワインを見極める嗅覚・味覚、そして入手するためのコネクションや財力など、上流階級の中でも特に優れた能力が必要です。 |
『バッカス』 シェルカメオ ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
良く分かっていない人は教養のなさや嗅覚・味覚の鈍感さを露見させるリスクがある一方で、優れている人は自身をPRする絶好の機会にもなり得ます。 故に、ワインにまつわるアンティークのハイジュエリーも、特別な教養の高さと抜群のセンスを感じる、唯一無二の個性あふれる宝物が出てくる割合が、他のジュエリーより多いのです。 |
古代ギリシャのワイン用の容器 | ||
輸送&保存用アンフォラ | 特殊用途のアンフォラ | クラテール |
輸送用アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前3世紀後期-紀元前2世紀中期)メトロポリタン美術館 | 黒絵式アンフォラ(古代ギリシャ 紀元前525-紀元前500年頃)メトロポリタン美術館 | 渦巻型クラテール(古代ギリシャ 紀元前330-紀元前320年頃)大英博物館 |
古代ギリシャのワインにまつわる容器は様々な種類があります。右のクラテールは混酒器で、ワインを水で割って飲んでいた時代ならではの道具です。他にも様々ありますが、ジュエリーにするならば絶対に量産アンフォラが楽しいと思います。 量産アンフォラ以外は後の時代にも見ることができる形状で、古代ならではの特徴的なデザインとは感じられません。先端が尖っている。そこに知的好奇心の強い上流階級はまず興味を持ち、その理由に面白さを感じつつ、デザイン的にもスタイリッシュで面白いと思ったはずです。 |
だからこそ、アンフォラの中でも特に先端が尖ったものをモチーフにして、このペンダントが作られたのです。 |
1-2-3-2. ボディの形状
同じ先端が尖ったアンフォラでも、ボディの形状はバリエーションに富んでいます。それぞれの形状に、機能的な意味であったり、製造工程における理由だったりがあったはずです。でも、ジュエリーにする場合はアンフォラとしての機能ではなく、形の美しさが重要です。 |
アンフォラがモチーフのハイジュエリー |
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『古代のアンフォラ』 アンフォラ型ゴールドピアス イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
『異色のカメオ』 ラーバ・カメオ デミ・パリュール イタリア 19世紀中期 SOLD |
アンフォラ型 鼈甲イヤリング フランス 1860年頃 SOLD |
面白いことに、人類にはある程度共通する美的感覚があるようです。 小さな子供であっても精神的に大人であること、知的教養の高さを重要視するヨーロッパの上流階級は、こういうシュッとした形状を特に共通して好むようです。 故に、これまでの45年間でお取り扱いした数少ないアンフォラ・モチーフのジュエリーは今回の宝物同様、シュッとした形状でした。アンフォラという知的好奇心の観点からの魅力のみならず、スタイリッシュな美しさを感じる、Genも私も大好きなフォルムです。 |
1-3. 教養が必要な王侯貴族らしいモチーフ
教養を必要とするアンフォラがモチーフのジュエリーは、いかにも王侯貴族らしいです。 教養を持たず、知的なものに興味を持たない庶民のジュエリーでは、まずあり得ないモチーフと言えます。 アンフォラは"古代"と"ワイン"という、上流階級の教養における2つの要素が詰め込まれた魅力あふれるモチーフです。 |
1-3-1. 古代のモチーフ
『ヒッポカンポス』 ニコロ・インタリオ リング 古代ローマ 1世紀頃 ¥3,000,000-(税込10%) |
ヨーロッパの古代世界には優れた哲学者たちが多数存在し、驚くほど高度なテクノロジーを持ち、文化的にも豊かな生活を送っていました。 ヨーロッパでも、今だけを見て生きる庶民たちはそれを知りませんしたが、上流階級や知識階級はそのことを知っていました。 |
古代ローマの博物学者プリニウス(23-79年) | 1669年版『博物誌』表紙(プリニウス著) |
だからこそ古代ローマの1世紀に著された、プリニウスの『博物誌』が1000年以上も後の時代まで、上流階級や知識階級のバイブルとして読まれてきたのです。 |
古代のオリジナル | 古代にインスピレーションを受けて 新たに制作された作品 |
『演奏会』(古代ギリシャ 紀元前460-紀元前450年頃)ウォルターズ美術館 "Niobid Painter - Red-Figure Amphora with Musical Scene - Walters 482712 - SideA©Walters Art Museum(04:08. 26 March 2012)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | ブラックバサルトの壺(ウェッジウッド 1815年頃)バーミンガム・アート美術館 "Vase-BlackBasalt-Wedgwood-BMA" ©Sean Pathasema/Birmingham Nyseyn of Art(19:03, 23 March 2012)/Adapted/CC BY 3.0 |
知識のみならず、古代の芸術作品も珍重されました。特にイギリス貴族はその莫大な富を使い、グランドツアーなどで膨大な数量の古代の遺物を買いまくっています。また、そうして入手した古代のオリジナルにインスピレーションを受けて、当時の優れた芸術家たちの手で様々な新しい作品が作られました。 |
ディレッタンティ協会(1777-1779年頃) | イギリスでは、そうした活動を推進するための『ディレッタンティ協会』まで創設されています。 古代美術の研究、そしてインスピレーションを受けた新しい作品制作のスポンサーとなった、イギリスの貴族・ジェントルマンによる協会です。 学者や芸術家たちも出入りし、活発な議論が行われました。 |
【参考】古代をモチーフにしただけのつまらないジュエリー | ||
ヘリテイジでは扱わないレベルのアンティークのストーン・カメオ リング | ジャスパーウェアのペンダント(ウェッジウッド 1978年) | ジャスパーウェアのジュエリー(ウェッジウッド 現代) |
ただ古代のモチーフを使っただけでデザインにひねりがなく、作りにも上質さがないものは、教養の浅さがすぐ皆にバレます。 |
古代美術を単純に複製しただけの二番煎じ | |
『ポートランドの壺』(古代ローマ 5-25年頃)大英博物館 "Portland Vase BM Gem4036 n5" © Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons(2007)/Adapted/CC BY 2.5 | ポートランドの壺の再現(ウェッジウッド 1790年)V&A美術館 "Portland Vase V&A" ©V&A Museum(11 August 2008)/Adapted/GNU FDL |
古代美術と全く同じデザインの物を作っても、全く新規性が感じられず面白味がありません。しかも古代と同じレベルで作ることはできず、劣化版しかできません。そんなものを作っても大して価値などありません。 |
古代ローマングラスの最高傑作『ポートランドの壺』(古代ローマ 5-25年頃)大英博物館 "Portland Vase BM Gem4036 n4" © Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons(2007)/Adapted/CC BY 2.5 |
ウェッジウッドがジャスパーウェアで再現したオリジナルの『ポートランドの壺は、古代ローマングラスの最高傑作とされる作品です。 19世紀にガラスによる再現が試みられましたが、信じがたいほど骨の折れる大変な作業であることが分かったそうです。 試みから2年もせずに、オリジナルを作った当時の職人たちでないと無理という結論に至りました。 しかも当時の職人でも、1世代ではなく2世代に渡って制作されたと推測されています。 |
『ポートランドの壺の再現』 "PortlandVaseCopy-Wedgwood-BMA" ©Sea Pathasema/Birmingham Museum of Art(16:12, 21 March 2012)/Adapted/CC BY-SA 3.0 (ウェッジウッド 左ブルー:1791年頃、右ブラック:1790年頃)バーミンガム美術館 |
色違いで量産できてしまう複製品などに、芸術作品として価値が生まれるわけがありません。心を揺さぶる感動を生み出せるわけがないのです。雑に扱っても良い、壊れたら買い替えればOKの"日常品"としては価値がありますが、それ以上の価値はありません。 |
そういうわけで、古代をモチーフにしたジュエリーを"価値ある芸術"足らしめるには、独創的なアイデアや知性に基づく気の利いたデザイン、そしてその当時のテクノロジーや材料、その職人だからこそ可能な技を駆使して作られていなければならないのです。 ただの成金庶民では絶対に不可能ですし、王侯貴族の中でもかなり特別な人にしかオーダーできないジュエリー。 それが古代にインスピレーションを受けた、気の利いたデザインのハイジュエリーです。 |
1-3-2. ワインにまつわるジュエリーのモチーフ
イギリスのロスチャイルドの邸宅ワデズドン・マナー | ワインは上流階級の必需品であり、その邸宅では信じられない量が消費されていました。 また、ワインは莫大な富と権力や教養、優れた感性を披露するツールにもなります。 |
ロスチャイルドの邸宅の地下のワインセラー |
シャトーを所有していたり、邸宅の地下にワインセラーや贅を尽くした談話室を持っていたり・・。 |
ロスチャイルドの邸ワデズドン・マナーのワイン関連アイテム | |
古代ローマの葡萄酒の神様バッカス(ジョン・チェア 1740年頃) | ロッククリスタルのゴブレット(ドイツ 17世紀) |
社交の場で飲むものなので、ワインのみならず関連アイテムも、当然ながら古い時代からお金や教養つ詰め込み贅を尽くしたものが様々に作られています。 |
1-3-2-1. 古代のワイン・モチーフのジュエリー
1-3-2-2. ワイン・モチーフのハイジュエリー
1-3-3. ひねりの効いた王侯貴族好みのモチーフ
エドワード・C・ムーアによる銀器(ティファニー 1878年) " Edward c. moore per tiffany & co., brocca in argento, oro e rame, new york 1878 " ©Sailko(28 October 2016, 22:05:06)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | ヨーロッパの上流階級から認めてもらおうと切磋琢磨していたティファニー初期のデザイナー、エドワード・C・ムーアが考古学風とジャポニズムの作品で知られていることからも分かる通り、上流階級にとって"古代"は重要なジャンルでした。 |
故に古代の神話にまつわるモチーフや、古代のオリジナルのアイテムも知識層の上流階級に大変人気が高かったのですが、日用品だったアンフォラがモチーフのジュエリーはあまり多くありません。 定番化していた古代モチーフの中でも意外性があり、しかも"ワイン"の要素も持つアンフォラのペンダントは、オシャレさまで兼ね備えた知識層の上流階級にとって抜群に気の利いたジュエリーだったと言えます。 |
2. 縞瑪瑙のアーティスティックな使い方
2-1. センスが活きる縞瑪瑙の魅力
2-1-1. 石の模様を活かしたジュエリー
ジュエリーに宝石は付き物ですが、このペンダントに使用されている縞瑪瑙はいかにも知識階層の上流階級好みの石です。 |
【参考】ヴィクトリアンの大衆向けガーネットジュエリー | ||
今も昔も同じで、美的感覚がない人たちは一般的に価値が高いとされる宝石が付いているだけで"良いもの"と思い込みます。これは庶民も上流階級も変わりありません。 |
【参考】ひねりのない成金的な(一応)高級ジュエリー | ||
そういう人たちは自身の美的感覚やオシャレセンスでジュエリーを選ぶことができないため、単純に高そうな宝石かどうかという物差しで選ばざるを得ません。だからヘリテイジでお取り扱いしないレベルのジュエリーは、多少お金をかけて作られた高級品であっても、ありきたりのつまらないデザインでしかないのです。教養を持つ真の大金持ちとは言えないため、庶民向けの安物に比べればお金をかかっていると言っても、ヘリテイジでご紹介するハイエンドの宝物と比べるとかけられたお金の観点からも相当見劣りしますが・・。 |
4大宝石だから良い、ガーネットだから良いと言った様な、単純に石の種類で選ぶだけの人たちは絶対に選ぶことがないのが、自然の石に描き出された唯一無二の模様を楽しむ、独創的でアーティスティックなジュエリーです。 |
2-1-2. 模様が面白い石を使ったアーティスティックなジュエリー
ピクチャー・ジャスパー | デンドライト・アゲート | モス・アゲート |
『獅子座』 ピクチャー・ジャスパー インタリオ 古代ローマ 2世紀 ¥2,800,000-(税込10%) |
『大自然のアート』 デンドライト・アゲート プレート イギリス 19世紀後期 ¥387,000-(税込10%) |
『幻想の美』 モス・アゲート リング フランス 1840年頃 SOLD |
2-1-3. ストライプが面白い縞瑪瑙
アールデコ カフリンクス フランス 1920年代 SOLD |
一方で、縞瑪瑙は自然のストライプ模様が面白い石です。 人工的な工業製品に囲まれた現代では、すっきりとしたストライプは当たり前にある模様に感じますが、天然の石でこれだけ整ったストライプ模様が出るのはある意味とても面白いことです。 |
【参考】様々なオニキス |
天然の石なので、色やストライプの幅も様々です。思い通りの完璧な模様を手に入れるのは、想像以上に難しいことです。 |
『キューピッド』 古代ギリシャ 紀元前3世紀頃 SOLD |
『古代ローマの黄金の輝き』 古代ローマ 1世紀頃 SOLD |
故に古代から美しいストライプを持つ縞瑪瑙はその稀少性から珍重され、アーティスティックなハイジュエリーの材料として使用されてきました。 |
『魔除けの瞳』 古代ローマの魔除けのアゲートリング 古代ローマ 2〜3世紀 SOLD |
同じ古代の宝物であってもデザインは様々で、天然の石の模様を使うからこそ1つとして同じものは存在しません。 個性がはっきりと感じられるため、芸術作品としても優れていますし、その人の人となりも伝わってきて知的教養ジュエリーとしても素晴らしいのです。 |
『コロコロ・スネーク』 チェーン式 スネーク カフリンクス イギリス 19世紀後期 SOLD |
『太陽の沈まぬ帝国』 バンデッドアゲート ブローチ(ロケット付き) イギリス 1860年頃 SOLD |
そんな普遍の魅力を持つ石なので、縞瑪瑙はいつの時代も知的階層の上流階級を魅了してきました。一言で縞瑪瑙と言っても、ジュエリーのデザインのみならず石自体も1つ1つ個性に溢れています。 |
バンデッドアゲート 回転式3面シール イギリス 1860年頃 SOLD |
『デンドライトの森と釣り人』 フランス 1850年頃 デンドライトアゲート ブローチ SOLD |
ストライプの縞瑪瑙の大きな特徴は、ランダムな模様の石とは異なるスタイリッシュな雰囲気です。 |
『財宝の守り神』 ダイヤモンド ブローチ フランス 1870年頃 SOLD |
『摩天楼』 アールデコ ロッククリスタル&ダイヤモンド ブローチ イギリス 1930年頃 SOLD |
日本美術に影響を受ける以前のヨーロッパのデザインは、曲線を使った表現がスタンダードでした。確実に意識して"直線の美”がデザインに多用され、一般化したのは、欧米ではアールデコくらいからです。 |
だからこそ、縞瑪瑙が持つ独特の直線模様は、時代を超越したスーパーモダンな印象を与えるのです。 そこに当時のデザインと作りがコラボレーションされるので、縞瑪瑙を使ったアンティークのハイジュエリーは不思議な魅力を放ちます。 |
2-2. 美しい縞瑪瑙を使った見事なフォルム
この宝物に使われた縞瑪瑙は特にスタイリッシュです。 それは白と黒の色彩がはっきりしていること、そして白くはっきりとした細い線が1本だけ入っていることが要因です。 |
【参考】オニキス | なんてことなさそうに見えて、実はそのような石を用意するのは非常に難しいです。 線の幅、境界部分のぼやけ方、各層の色など、理想とする石を天然石の中から選ぼうとすると、相当な労力が必要となります。 |
バンデッドアゲート(縞瑪瑙)ピアス イギリス 1880年頃 SOLD |
これも独特の雰囲気を持つ美しい縞瑪瑙ですが、探す場合はこちらの方が許容範囲が広いので、まだ見つけやすいと言えるでしょう。 |
ここまで人工的なレベルで、白黒はっきりしたまっすぐな細線を目的の石のサイズで完璧に求めようとすると、材料を手に入れる人は相当頑張ったはずです。 やったことがない人は絶対に分からないからこそ、庶民がこれを見てもあまり感動がないかもしれませんが、教養のある上流階級が見ればあっと驚き感心したに違いありません。 |
大小どちらの縞瑪瑙も、360度立体的にカットしてあります。裏から見ても、裏側に見えないですね。こういう宝物はジュエリーとして着けるだけでなく、芸術作品として手元で眺めるだけでも楽しいものです♪ |
3. モダンスタイルの優れた黄金デザイン
『真心』 ロケット・ペンダント イギリス 1880年頃 SOLD |
『黄金の花畑を舞う蝶』 色とりどりの宝石と黄金のブローチ イギリス 1840年頃 SOLD |
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ゴールドを使った優れたハイジュエリーは、高度な技術と手間を惜しまぬ素晴らしい細工が面白いものです。ヘリテイジでお取り扱いしている他の宝物と比べると、アンフォラのペンダントは一見すると細工がとてもシンプルに見えます。 |
【参考】簡素な細工の安物 | |||
簡素な細工のジュエリーの99.9%は安物です。高度な細工ができる職人は限られており、誰でもは作ることができません。しかも細工に凝るほどに手間賃と技術料が上がっていくため高くなります。そのコストを省くために、デザインも簡素になります。誰でも作れるような、簡素なデザインです。 |
しかしながら、このペンダントはそのような安物とは異なり、驚くほどデザインに気を使ってあります。 才能豊かなデザイナーが、高度な計算を重ねて設計した結果、このデザインと作りになっているのです。 この徹底したデザインへのこだわりがモダンスタイルの大きな特徴ですが、その驚きのこだわり具合を見ていきましょう。 |
3-1. アンフォラの注ぎ口のリアルな再現
まず感心するのが、使う道具としてのアンフォラをリアルに再現した注ぎ口です。 安物では絶対にあり得ないほど、贅沢にゴールドを使って作られています。 程よく磨き上げられているため、黄金の輝きも高級感や格調の高さを感じる迫力があります。 |
裏側は扁平に作る方が遥かに簡単で、材料コストも安く済みます。 アンフォラという独特の形状を造形するのは、職人にとっても初めてのトライだったでしょう。 どういう形状が一番美しいのか、デザイン的にも試行錯誤を繰り返しながらこの立体造形を完成させたはずです。 オーダーした人物が、コストではなくとにかくデザイン的な完璧さを最も重要視して作らせたからこそ、この宝物が存在できるのです。 |
腕があっても、かかる費用を払ってもらわないと職人も生活が成り立ちませんから、趣味やサービスでここまでこだわって作ることはできません。 |
小さな縞瑪瑙で蓋ができそうにも見えますが、構造上、蓋はできません。 |
青銅器時代の難破船で発見された輸送用アンフォラの荷積みイメージ "Amphorae stacking" ©Ad Meskens(July 2008)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 賞品用アンフォラ "Anforagrega-atenas" ©Ricardo André Frantz(2005)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
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実際のアンフォラは蓋がないものも多いので、上の縞瑪瑙に関しては蓋ではなく相似デザインとしての面白さを計算したものかもしれません。これについては作者やオーダーした人物に聞いてみないと、確かなことは分かりません。そういう謎の部分の部分も、アンティークジュエリーの面白さの1つかなと思っています。 |
3-2. 格調高いフラットラインの透かし細工
アンフォラの取っ手と、小さな縞瑪瑙を下げたパーツは透かし細工でデザインされています。 クルリと巻いたデザインがエレガントさや拡張高い雰囲気を醸し出しています。 アンフォラの取っ手に関しては、渦巻模様のサイドにトゲのようなものがあるのも、デザインへの並々ならぬこだわりぶりが感じられます。 一見シンプルに見えて、細部への徹底したこだわりが認められるのは、手抜きの安物ではなく特別な意図で作られた高級品の証です。 |
この透かしのデザインは、厚いゴールドの板を糸鋸で挽き、丹念にヤスリで仕上げて作られています。 アンティークのハイジュエリーではたまに見る透かし細工ですが、これだけ厚みがある透かし細工は見たことがありません。 透かし細工は糸鋸で挽く作業よりも、ヤスリで仕上げる作業の方が圧倒的に高い技術と手間がかかります。 金属の厚みが増すほどに、ヤスリをかける手間が指数関数的に増えていきます。 |
よく作ったものだと感心します。これくらいゴールドに厚みがあるからこそ、ヨーロッパの上流階級にとって憧れの古代世界らしい、重厚さや高級感が生まれるのです。 |
透かしの線の表面は程よく磨いて仕上げられており、モダンスタイルで見られるフラットライン独特の"線の輝き"を放ちます。 |
黄金の輝きを放つゴールドのフラットライン | |||
『黄金に輝くアンフォラ』 イギリス 1900年頃 |
『草花のメロディ』 イギリス 1900年頃 SOLD |
『WILDLIFES』 イギリス 1900年頃 SOLD |
『Samurai Art』 イギリス 1900年〜1910年頃 SOLD |
その中でも、今回の宝物のフラットラインは日本美術に通ずる"冴え"を意識したものではなく、古代ギリシャ・古代ローマの偉大な世界を印象付けるためのデザインになっているため、線に太さがあり、黄金の輝きにより強い存在感があります。 |
実際にジュエリーとして着けたとき、角度によってキラリとこの特徴的な透かし細工が黄金の強い輝きを放つ様子には、神々しい美しさがあります♪ |
3-3. 独創的なバチカンのデザイン
3-3-1. お金をかけて作られた高級品の通常のバチカン
3-3-2. モダンスタイルのバチカン
『WILDLIFES』 天然真珠 ゴールド ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
『STYLISH PINK』 ピンクトルマリン&天然真珠 ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
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モダンスタイルが他とは異なるのは、バチカンまでもが脇役と言えないレベルで徹底してデザインされていることです。"これがないと全体のデザインが完成しない"というレベルです。 |
この宝物の場合、小さな縞瑪瑙が下がった渦巻の透かし細工部分がバチカンになっています。 通常ならばこの透かし細工の上部にシンプルなバチカンがセットされるはずですが、これは美しい透かし細工自体をバチカンにしてしまうという、発想の転換と言える、非常に画期的なことを実現しているのです。 |
透かし細工のバチカンは、上部や裏側の通常では見えない部分まで徹底したこだわりで作られています。 たっぷりと贅沢にゴールドが使われており、溝もデザインされています。 |
溝は一番最後まで彫ってあり、綺麗に磨き上げてあるので美しい黄金の輝きを放ちます。感動的なこだわりっぷりです。 |
実はこの溝を彫った部分は、正面から少しだけ見えます。 フラットに仕上げた透かし細工の、一段高い部分にこの溝のパーツがあるため、グッと立体感が出る結果となっています。 ちょっとしたことですが、全体の印象に大きく効いています。 |
3-4. 高級品ならではの優雅に揺れる構造
3-4-1. 複雑に揺れる構造は高級品の証
3-4-2. 揺れるジュエリーの特徴
『天空のオルゴールメリー』 アールデコ 天然真珠&サファイア ネックレス イギリス 1920年頃 ¥1,230,000-(税込10%) |
揺れる構造を持たせるためにはお金も手間もかかります。 故に、明確な意図がないと揺れる細工は施されません。 |
このように、ダイヤモンドもファセットのある宝石も付いていないのに、複雑に揺れる構造をデザインされているのはハイジュエリーといえども例外的なことです。 バチカンに下がった小さな縞瑪瑙、その両脇のゴールドの直線パーツ、そして一番下のアンフォラが揺れる構造になっています。 |
これは宝石ではなく、フラットラインのゴールドを輝かせるためです。 それほどまでに、このアンフォラのペンダントは黄金の輝きを重要視して作られているというわけです。 実に独創的で、お見事としか言いようがありません!! 知性のあるオシャレな女性にピッタリのジュエリーです。 |
裏側
裏側も裏に見えないほど、完璧で美しい作りです。 |
着用イメージ
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宝石ジュエリーのような派手さはありませんが、大き過ぎないながらも形状がはっきりと分かるサイズなので、オシャレなジュエリーとしてお楽しみいただけると思います。撮影に使っているようなシルクコードをご希望の場合はサービス致します。 |
バチカン形状と揺れる構造から、当時はこのようにリボンで首元にピッタリと付けて使っていたと推測します(※左の動画が対応していない方は申し訳ありません。アンフォラの黄金の取っ手がキラキラと輝く動画です)。 使用しているのは8mmのベルベット・リボンで、これ以下の太さのリボンでお使いいただけます。ゴールドチェーンやシルクコードでも素敵ですが、このような着け方もぜひお試しいただきたいです♪ |